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特許7497009カチオン性高分子と還元性を示す糖類を成分とする材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-31
(45)【発行日】2024-06-10
(54)【発明の名称】カチオン性高分子と還元性を示す糖類を成分とする材料
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/02 20060101AFI20240603BHJP
   C08K 5/053 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
C08L101/02
C08K5/053
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020023601
(22)【出願日】2020-02-14
(65)【公開番号】P2021127409
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】牛丸 和乗
(72)【発明者】
【氏名】福岡 徳馬
(72)【発明者】
【氏名】森田 友岳
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/059368(WO,A1)
【文献】特表2011-528694(JP,A)
【文献】特開2010-090314(JP,A)
【文献】特開2019-112526(JP,A)
【文献】国際公開第2014/086777(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08B 1/00-37/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形性を有することを特徴とする、カチオン性高分子(ただし、ε-ポリリジンは除き、
かつカチオン性多糖類を除く)、その誘導体、またはそれらの塩と、還元性を示す糖類を含む材料であって、
シート状に成形したときに弾性を有することを特徴とする材料であり、
前記還元性を示す糖類が、フルクトース、アラビノース、ラクトース、マルトース、リボース、キシロース、マンノースまたはガラクトースである、材料。
【請求項2】
前記カチオン性高分子が、1級または2級アミノ基のうち少なくとも1種を有する高分子で
ある、請求項1に記載の材料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の材料の製造方法であって、カチオン性高分子(ただし、ε-ポリ
リジンは除き、かつカチオン性多糖類を除く)、その誘導体、またはそれらの塩と、還元性を示す糖類を溶媒中で混合することにより高分子と糖類を反応させる工程と、混合した溶液または懸濁液から溶媒を除去する工程、を含み、
前記還元性を示す糖類が、フルクトース、アラビノース、ラクトース、マルトース、リボース、キシロース、マンノースまたはガラクトースである、方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン性高分子と還元性を示す糖類を組み合わせてなる材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、主鎖もしくは側鎖にカチオン性官能基を有するカチオン性高分子は、微生物、特に細菌に対して抗菌活性を有することが知られており、プールなどの殺菌剤や食品保存料として幅広く利用されている。また、カチオン性高分子は動物細胞の細胞膜と強く相互作用することが知られており、細胞観察用シャーレの表面修飾などに用いられている。これらの機能を生かした用途に用いる場合、例えばカチオン性高分子を水溶液として用いたり、プラスチックまたはゴムなどの成形可能な材料にカチオン性高分子を添加またはコーティングして用いたりしていた(特許文献1)。しかし、カチオン性高分子を、アニオン性高分子と複合化せずに、成形可能な材料として利用する試みはほとんど行われていなかった。これは、多くのカチオン性高分子が単独では水飴状もしくは粉末状の化合物であり、カチオン性高分子単独での成形が困難であることに起因している。
このような状況下において、例えばキトサンといった一部のカチオン性高分子は、アニオン性高分子と複合化せずに、成形可能な材料として利用する試みが行われてきた。例えば、特許文献2ではキトサンと酸を基礎とする医用材料が記載されている。このような材料は抗菌性や細胞親和性などのカチオン性高分子の有する機能を生かした成形材料としてその幅広い利用が期待される。
しかしながら、キトサン以外のカチオン性高分子においては、アニオン性高分子と複合化せずに、成形可能な材料として利用することについてはこれまでに明らかになっていなかった。
【0003】
水飴状もしくは粉末状であって成形が困難であるカチオン性高分子を、成形材料として利用するために、架橋剤を用いたカチオン性高分子の架橋が広く行われている。例えば、非特許文献1では、水飴状のカチオン性高分子であるポリ(エチレンイミン)をグルタルアルデヒドで架橋することで、ナノ粒子に成形し、抗菌剤としての利用を可能にしたことが記載されている。また、特許文献3では、ポリ(エチレンイミン)もしくは水飴状のカチオン性高分子であるポリ(アリルアミン)を複数のエポキシ基を含む架橋剤で架橋することで、ゲルに成形し、金属吸着材としての利用を可能にしたことが記載されている。
しかし、これらの例で使われる架橋剤は、アルデヒド基やエポキシ基を含む反応性の高い架橋剤である。そのため、この高い反応性に由来する毒性に起因して、得られた材料を医用材料または衛生材料として利用する際に、用途が制限される可能性がある。また、これらの材料を合成する際に、作業者の健康面や安全面で問題が生じる可能性がある。
【0004】
アルデヒド基やエポキシ基を含む反応性の高い架橋剤を用いない架橋の例として、特許文献4ではポリ(エチレンイミン)と炭水化物をメイラード反応により架橋することで、木粉などの結着に用いるバインダーとして利用する方法が記載されている。しかし、当該材料は粉末や繊維などの微細な固体を結着するためのバインダーとしての利用のみを想定しており、カチオン性高分子と架橋剤の混合物そのものを成形体として利用することは開示されておらず、当該材料の成形性の有無や成形体としての利用に関する知見は示されていない。
【0005】
すなわち、成形が困難なカチオン性高分子に対して、アルデヒド基やエポキシ基を含む反応性の高い架橋剤を用いずに、カチオン性高分子の有する抗菌性や細胞親和性といった機能を生かした材料についてはこれまでに明らかになっていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-171469号公報
【文献】特表2005-512618号公報
【文献】国際公開第2013/121863号公報
【文献】国際公開第2014/086777号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Journal of Medical Microbiology;2014;63;1167-1173
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
多様なカチオン性高分子を反応性の高い架橋剤を用いることなく安全な手法で成形可能な材料として利用することが出来れば、抗菌性や細胞親和性を有する高機能材料として幅広い利用が期待できる。すなわち、本発明は反応性の高い架橋剤を用いること無く、成形困難なカチオン性高分子に成形性を付与すること、またそのような成形性を有する材料の弾性や柔軟性、耐水性を優れたものとすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、アミノ基を有するカチオン性高分子と還元性を示す糖類を水溶媒中で混合することによって、多様な形状に成形でき、かつ弾性に富む材料が生成されることを見出した。
具体的には、本発明者らは、ポリ(エチレンイミン)またはポリ(アリルアミン)等の水飴状のカチオン性高分子とフルクトース、グルコースなどの還元性を示す糖類を混合して得られる溶液をシャーレなどの平板上で乾燥させることによって、シート状の材料が容易に得られること、当該材料が引張試験において良好な弾性を示すこと、および当該材料が柔軟性や耐水性を有することを見出した。
本発明は、本発明者らによるこれらの知見に基づいてなされたものである。
【0010】
すなわち、この出願は、以下の発明を提供するものである。
[1]成形性を有することを特徴とする、カチオン性高分子(ただし、ε-ポリリジンは除く)、その誘導体、またはそれらの塩と、還元性を示す糖類を含む材料。
[2]弾性を有することを特徴とする、[1]に記載の材料。
[3]前記カチオン性高分子が、1級または2級アミノ基のうち少なくとも1種を有する高分子である、[1]または[2]に記載の材料。
[4]前記還元性を示す糖類が、フルクトース、アラビノース、グルコース、ラクトース、マルトース、リボース、キシロース、マンノースまたはガラクトースである、[1]~[3]のいずれかに記載の材料。
[5][1]~[4]のいずれかに記載の材料の製造方法であって、カチオン性高分子(ただし、ε-ポリリジンは除く)、その誘導体、またはそれらの塩と、還元性を示す糖類を溶媒中で混合することにより高分子と糖類を反応させる工程と、混合した溶液または懸濁液から溶媒を除去する工程、を含む方法。
【発明の効果】
【0011】
具体的には、カチオン性高分子と還元性を示す糖類を組み合わせることによって、良好な弾性を有する成形が可能な材料を得ることができ、かつ優れた柔軟性、耐水性を有する材料が得られることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ポリ(エチレンイミン)とフルクトースから成るシート状試料と、同シート状試料を曲げた際の写真図を示す。
図2】ポリ(エチレンイミン)とフルクトースから成るシート状試料と、同シート状試料をダンベル型試験片(8号、JIS K 6251)の形状に打ち抜いた試験片の写真図を示す。
図3】ポリ(アリルアミン)とフルクトースから成るシート状試料と、同シート状試料を曲げた際の写真図を示す。
図4】直鎖型ポリ(エチレンイミン)(アミノ基として2級アミノ基を有するカチオン性高分子)とフルクトースから成るシート状試料と、同シート状試料を曲げた際の写真図を示す。
図5】ポリ(エチレンイミン)とフルクトースから成る試料の弾性試験の写真図を示す。
図6】ポリ(エチレンイミン)とフルクトースから成る試料の耐水性試験の結果の写真図を示す。
図7】ポリ(アリルアミン)とフルクトースから成る試料の耐水性試験の結果の写真図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、カチオン性高分子(ただし、ε-ポリリジンは除く)、その誘導体、またはそれらの塩と、還元性を示す糖類を含む成形性を有することを特徴とする材料である。
【0014】
本発明に用いられるカチオン性高分子としては、ε-ポリリジンを含まないこと以外に特に限定されることはないが、例えば、1級または2級アミノ基の少なくともいずれか1種の官能基を有する高分子を挙げることができる。
具体的なこのようなカチオン性高分子としては、例えば、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(アリルアミン)、キトサン、α-ポリリジン、α-ポリオルニチン、δ-ポリオルニチン、リジン含有タンパク質、または1級もしくは2級アミノ基を含む化合物で修飾された高分子を挙げることができる。カチオン性高分子の重量平均分子量は300~10,000,000であることが好ましい。
また、カチオン性高分子の誘導体とは、例えば、カチオン性高分子同士を架橋や縮合することによって高分子量化したカチオン性高分子が挙げられる。
また、本発明に用いられるカチオン性高分子は、水溶性の観点から、上述のカチオン性高分子の、塩酸塩などの無機酸塩、もしくは、酢酸塩などの有機酸塩でもよい。
【0015】
本発明に用いられるカチオン性高分子は、カチオン性高分子単独では成形性を有さないものであることが好ましい。
【0016】
本発明に用いられる還元性を示す糖類としては、例えば、フルクトース、アラビノース、グルコース、ラクトース、マルトース、リボース、キシロース、マンノース、ガラクトース、ジヒドロキシアセトン、リブロース、プシコース、エリトロースや、これらの糖を含むオリゴ糖や多糖類が挙げられる。好ましくは、フルクトース、アラビノース、グルコース、ラクトース、マルトース、リボース、キシロース、マンノースまたはガラクトースであり、より好ましくはフルクトース、アラビノース、グルコース、キシロース、ガラクトースまたはラクトースであり、特に好ましくはフルクトースまたはアラビノースである。本発明において、オリゴ糖とは、少糖類のことであり、限定されることはないが、2~10個の単糖がグリコシド結合によって結合したものであり、多糖類とは少なくとも2個の単糖がグリコシド結合によって結合したものである。オリゴ糖は多糖類に含まれる。
【0017】
「カチオン性高分子、その誘導体、またはそれらの塩と、還元性を示す糖類を含む」とは、「カチオン性高分子、その誘導体、またはそれらの塩と、還元性を示す糖類」以外のい
かなる他の構成要素をもさらに包含することが可能である。また、「カチオン性高分子、その誘導体、またはそれらの塩と、還元性を示す糖類」のみからなることも可能である。
【0018】
本材料中における、カチオン性高分子、その誘導体、またはそれらの塩と、還元性を示す糖類との組成割合は、特に限定されることはないが、カチオン性高分子の重量、またはカチオン性高分子の誘導体、カチオン性高分子の塩もしくはカチオン性高分子の誘導体の塩のカチオン性高分子換算値の重量と、還元性を示す糖類の重量の重量比が好ましくは99:1~5:95、さらに好ましくは95:5~50:50である。
【0019】
本材料中の水分含量は、材料全体の3~95重量%、好ましくは5~40重量%、さらに好ましくは10~30重量%である。この水分含量であることによって、本材料は弾性を有することができる。
水分含量の調整は、カチオン性高分子、その誘導体、またはそれらの塩と、還元性を示す糖類を含有する、溶液または懸濁液を、大気中もしくは制御された湿度条件にて保持することで行われる。この際、恒温槽やホットプレートなどを用いて加熱することで水分の気化を促進してもよい。また、前述の溶液または懸濁液を、有機溶媒に滴下することで複合体の沈殿を得た後、得られた複合体を必要に応じて、大気中もしくは制御された湿度条件にて保持することで水分含量を調節してもよい。
【0020】
本発明において、「成形性を有する」または「成形可能な」とは、目視で観察して均一なシート状の試料(厚さ0.5 mm以上)を調製し、当該シート状試料から打ち抜きによりダンベル型試験片(8号、JIS K 6251)を切り出した後に、引張試験を実施して力学物性の評価が可能である性質のことを言う。
【0021】
本発明において、「弾性を有する」とは、材料からダンベル型試験片(8号、JIS K 6251)を切り出し、その試験片に張力を加え、そのダンベル型試験片が破断しない程度の変形を生じさせたのち、その張力を完全に除去して1時間静置した際に、静置後の変形量が張力印加時の最大変形量の50%以下となる性質のことを言う。静置後の変形量が張力印加時の最大変形量の30%以下の変形量となることが好ましい。
【0022】
本発明において、「柔軟性を有する」とは、試験片が破断することなく任意の角度以上折り曲げることができることであり、試験片を45°以上、90°以上、135°以上、または180°折り曲げることができることが好ましい。
【0023】
本発明の材料は、例えばシート状に加工可能である。そのシートの厚さは、特に限定されることはないが、0.5~10mmであることが好ましい。
【0024】
本発明の他の態様は、材料の製造方法である。具体的には、カチオン性高分子、その誘導体、またはそれらの塩と、還元性を示す糖類を溶媒中で混合することにより高分子と糖類を反応させる工程と、混合した溶液または懸濁液から溶媒を除去する工程、を含む方法である。
カチオン性高分子、その誘導体、またはそれらの塩と、還元性を示す糖類を溶媒中で混合することにより高分子と糖類を反応させる工程では、特に限定されることはないが、例えば、カチオン性高分子、その誘導体、またはそれらの塩から成る固体と、還元性を示す糖類の固体を溶媒中で混合することにより高分子と糖類を反応させる工程、またはカチオン性高分子、その誘導体、またはそれらの塩を含む溶液と、還元性を示す糖類を含む溶液を混合することにより高分子と糖類を反応させる工程である。
この工程において、著しく不均一な組成物を形成しない範囲であれば、各組成物を混合する順番や、温度、湿度または時間といった組成物の混合条件については特に限定されない。
また、溶媒を除去する工程とは、例えば、当該溶液または懸濁液から溶媒を揮発させることにより除去する工程、または、当該溶媒が水である場合は、当該水溶液または水懸濁液を有機溶媒中に投入することにより、カチオン性高分子、その誘導体、またはそれらの塩と、還元性を示す糖類の混合物を有機溶媒中で沈殿させ、溶媒を除去する工程であってよい。当該溶媒を揮発させることにより除去する工程は、材料中の溶媒量を所定の含有量まで減少させることができる限り特に限定されないが、例えば、温度は室温で行ってもよく、好ましくは20℃~40℃で行ってもよく;湿度は好ましくは40%~60%で行ってもよく;時間は好ましくは少なくとも1日以上であってよい。
【0025】
本態様に用いられる溶媒としては、カチオン性高分子や糖類を溶解できるものであれば特に限定されないが、水、または、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジオキサンなどの水と混和する有機溶媒、または、水と前述の有機溶媒との混合溶媒が好ましく、特に水が好ましい。
【0026】
得られた材料に対して引張試験を行うことで、最大応力、破断伸び、およびヤング率を測定することができる。
【0027】
得られた材料に対して耐水性試験を行うことで、材料の耐水性のレベルを判断することが出来る。つまり、材料から任意の質量の試験片を切り出し、この試験片を純水に浸漬し、任意の時間、例えば、15分間、30分間、1時間、2時間、6時間、12時間、24時間、2日間、5日間、1週間またはそれ以上の時間振盪させる。任意時間経過後に純水中の試験片が、崩壊または溶解せずに形態を維持している程、純水への材料の溶解が少ないことを表し、すなわち材料の耐水性が高いことがわかる。
【実施例
【0028】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0029】
実施例1 ポリ(エチレンイミン)とフルクトースから成る材料の調製
表1に示す比率で純水にD-(-)-フルクトース(和光純薬工業株式会社、特級)を混合し、D-(-)-フルクトースが完全に溶解するまで撹拌した。この溶液に表1に示す比率でポリ(エチレンイミン)(和光純薬工業株式会社、分子量10,000)の40重量%水溶液を加え、均一に混合した。この混合物をフッ素樹脂製シャーレ(サイズ:6cm×6cm)に移して溶媒を揮発させることで、表1に記載のいずれの組成においても厚さ1mm以上のシート状の試料を得た(サンプル名:PEI-1~PEI-6)。表1においてサンプル名「PEI-2」の組成で調製したシート状試料、および同シート状試料を手で曲げた際の写真を図1に示した。図1に示す通り、試料を手で180度近く曲げても試料に割れは生じず、本材料が柔軟性を有することが分かった。また、表1においてサンプル名「PEI-3」と表記した組成で調製したシート状試料、および同シート状試料をダンベル型試験片(8号、JIS K 6251)の形状に打ち抜いた試験片の写真を図2に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
実施例2 ポリ(エチレンイミン)とアラビノースから成る材料の調製
純水10 mLにD-(-)-アラビノース(東京化成工業株式会社)1.0 gを混合し、D-(-)-アラビノースが完全に溶解するまで撹拌した。この溶液に実施例1で用いたポリ(エチレンイミン)(和光純薬工業株式会社、分子量10,000)の40重量%水溶液10 mLを加え、均一に混合した。この混合物をフッ素樹脂製シャーレ(サイズ:6cm×6cm)に移して溶媒を揮発させることで厚さ1mm以上のシート状の試料を得た。得られた試料の外見は実施例1で得られた試料とほぼ同等であった。また、この得られた試料を手で180度近く曲げても試料に割れは生じず、本材料が柔軟性を有することが分かった。
【0032】
実施例3 ポリ(エチレンイミン)とキシロースから成る材料の調製
純水10 mLにD-(+)-キシロース(和光純薬工業株式会社、特級)1.0 gを混合し、D-(+)-キシロースが完全に溶解するまで撹拌した。この溶液に実施例1で用いたポリ(エチレンイミン)(和光純薬工業株式会社、分子量10,000)の40重量%水溶液10 mLを加え、均一に混合した。この混合物をフッ素樹脂製シャーレ(サイズ:6cm×6cm)に移して溶媒を揮発させることで厚さ1mm以上のシート状の試料を得た。得られた試料の外見は実施例1で得られた試料とほぼ同等であった。また、この得られた試料を手で180度近く曲げても試料に割れは生じず、本材料が柔軟性を有することが分かった。
【0033】
実施例4 ポリ(エチレンイミン)とガラクトースから成る材料の調製
純水10 mLにD-(+)-ガラクトース(和光純薬工業株式会社、特級)1.0 gを混合し、D-(+)-ガラクトースが完全に溶解するまで撹拌した。この溶液に実施例1で用いたポリ(エチレンイミン)(和光純薬工業株式会社、分子量10,000)の40重量%水溶液10 mLを加え、均一に混合した。この混合物をフッ素樹脂製シャーレ(サイズ:6cm×6cm)に移して溶媒を揮発させることで厚さ1mm以上のシート状の試料を得た。得られた試料の外見は実施例1で得られた試料とほぼ同等であった。また、この得られた試料を手で180度近く曲げても試料に割れは生じず、本材料が柔軟性を有することが分かった。
【0034】
比較例1 ポリ(エチレンイミン)のみから成る材料の調製
実施例1で用いたポリ(エチレンイミン)(和光純薬工業株式会社、分子量10,000)の40重量%水溶液12.5 mLをフッ素樹脂製シャーレ(サイズ:6cm×6cm)に移し、実施例1と同様に溶媒を揮発させたが、乾燥後も水飴状の溶液であり、ポリ(エチレンイミン)のみではシート状の試料は得られなかった。
【0035】
比較例2 ポリ(エチレンイミン)とスクロース(非還元糖)から成る材料の調製
純水10 mLにスクロース(和光純薬工業株式会社、特級)1.0 gを混合し、スクロースが完全に溶解するまで撹拌した。この溶液に実施例1で用いたポリ(エチレンイミン)(和光純薬工業株式会社、分子量10,000)の40重量%水溶液10 mLを加え、均一に混合した。この混合物をフッ素樹脂製シャーレ(サイズ:6cm×6cm)に移し、実施例1と同様に溶媒を揮発させたが、乾燥後も水飴状の溶液であり、シート状の試料は得られなかった。
【0036】
比較例3 ポリ(エチレンイミン)とトレハロース(非還元糖)から成る材料の調製
純水9.89 mLにトレハロース二水和物(和光純薬工業株式会社、特級)1.11 gを混合し、トレハロースが完全に溶解するまで撹拌した。この溶液に実施例1で用いたポリ(エチレンイミン)(和光純薬工業株式会社、分子量10,000)の40重量%水溶液10 mLを加え、均一に混合した。この混合物をフッ素樹脂製シャーレ(サイズ:6cm×6cm)に移し、実施例1と同様に溶媒を揮発させたが、乾燥後も水飴状の溶液であり、シート状の試料は得られなかった。
【0037】
実施例5 ポリ(アリルアミン)とフルクトースから成る材料の調製
ポリ(アリルアミン)(Polysciences社、重量平均分子量15,000)の15重量%水溶液4 mLにD-(-)-フルクトース(和光純薬工業株式会社、特級)60 mgを加え、均一に混合した。この混合物をフッ素樹脂製シャーレ(サイズ:4cm×2cm)に移して溶媒を揮発させることで、厚さ約0.6 mmのシート状の試料を得た。得られた試料の外見は実施例1で得られた試料とほぼ同等であった。調製したシート状試料の写真、および同シート状試料を手で曲げた際の写真を図3に示す。
図3に示すように、試料を手で180度近く曲げても試料に割れは生じず、本材料が柔軟性を有することが分かった。
【0038】
比較例4 ポリ(アリルアミン)のみから成るシート状材料の調製
ポリ(アリルアミン)(Polysciences社、重量平均分子量15,000)の15重量%水溶液4 mLをフッ素樹脂製シャーレ(サイズ:4cm×2cm)に移し、実施例5と同様に溶媒を揮発させたが、乾燥後も水飴状の溶液であり、ポリ(アリルアミン)のみではシート状の試料は得られなかった。
【0039】
実施例6 直鎖型ポリ(エチレンイミン)(アミノ基として2級アミノ基を有するカチオン性高分子)とフルクトースから成る材料の調製
直鎖型ポリ(エチレンイミン)(Polysciences社、分子量250,000)2.0 gを1 mol/Lの塩酸19 mLに溶解した後、1 mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液6 mLを加え、直鎖型ポリ(エチレンイミン)の終濃度が8重量%の水溶液を調製した。この溶液8.33 mLにD-(-)-フルクトース(和光純薬工業株式会社、特級)166.7 mgを加え、均一に混合した。この混合物をフッ素樹脂製容器(半径25 mmの円筒状)に移して溶媒を揮発させることでシート状の試料を得た。得られた試料の外見は実施例1で得られた試料とほぼ同等であった。調製したシート状試料の写真、および同シート状試料を手で曲げた際の写真を図4に示す。
図4に示すように、試料を手で180度近く曲げても試料に割れは生じず、本材料が柔軟性を有することが分かった。
【0040】
実施例7 ポリ(エチレンイミン)とフルクトースから成る材料の引張試験
実施例1で調製したシート状の試料(PEI-1~PEI-6)を30℃、相対湿度50%の恒温恒湿器の中で5日間静置した後、ダンベル型試験片(8号、JIS K 6251)の形状に打ち抜き、評価用の試験片を作成した。これらの試験片を用いて引張試験(大気中、引張速度 50 mm/min)を行った結果を表2に示す(3~5回の試験の平均値)。
表2に示す通り、実施例1のいずれの試験片においてもダンベル型試験片に成形でき、および引張試験が可能な程度の成形性と強度を有していることが分かる。
一方で、比較例1~3においては試料が水飴状の液体であり、ダンベル型試験片を作成することが出来なかった。
このことから、カチオン性高分子と還元性を示す糖類を組み合わせることで、単独では成形が困難なカチオン性高分子に、成形性を付与出来ることが分かった。
【0041】
【表2】
【0042】
実施例8 ポリ(エチレンイミン)とフルクトースから成る材料の弾性試験
実施例7で引張試験を行った後のダンベル型試験片(表2、サンプル名「PEI-5」)と試験前のダンベル型試験片の形状を比較した写真を図5に示す。引張試験において約20%(7 mm)の変形を加えたにもかかわらず、試験後のダンベル型試験片の変形量は2mm以下であった。このことから、張力を完全に除去することで材料の変形が回復する、すなわち本材料が弾性を有することが分かる。
【0043】
実施例9 ポリ(エチレンイミン)とフルクトースから成る材料の耐水性試験
実施例1で作成したシート状の試料から60 mgの試験片を切り出した。この試験片を1.2 mLの純水に浸漬し、24時間室温にて振盪させることにより、耐水性試験を行った。振盪後に純水中の試験片が、崩壊または溶解せずに形態を維持している程、純水への材料の溶解が少ないことを表し、すなわち材料の耐水性が高いことが示される。
表1のサンプル名「PEI-3」を試験片として用いた耐水性試験の結果を図6に示す。試験片を純水に浸漬して24時間振盪を行った場合、試験片の崩壊や上清の着色は見られなかった。一方、比較例1で調製した水飴状のポリ(エチレンイミン)で同様の試験を行ったところ、30分後には試験片が完全に溶解していた。すなわち、ポリ(エチレンイミン)と還元性を示す糖類であるフルクトースを組み合わせることで、その材料は耐水性の点において顕著な効果を示すことがわかった。
【0044】
実施例10 ポリ(アリルアミン)とフルクトースから成る材料の耐水性試験
実施例5で作成したシート状の試料から60 mgの試験片を切り出した。この試験片を1.2 mLの純水に浸漬し、24時間室温にて振盪させることにより、耐水性試験を行った。振盪後に純水中の試験片が、崩壊または溶解せずに形態を維持している程、純水への材料の溶解が少ないことを表し、すなわち材料の耐水性が高いことが示される。
ポリ(アリルアミン)とフルクトースから成る材料の耐水性試験の結果を図7に示す。試験片を純水に浸漬して24時間振盪を行った場合、試験片の崩壊や上清の着色は見られなかった。一方、比較例5で調製した水飴状のポリ(アリルアミン)で同様の試験を行ったところ、30分後には試験片が完全に溶解していた。すなわち、ポリ(アリルアミン)と還元性を示す糖類であるフルクトースを組み合わせることで、その材料は耐水性の点において顕著な効果を示すことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の材料は、反応性の高い架橋剤を用いない安全な調製法で調製が可能であり、多様な形状に成形できる材料である。本材料は、弾性に富み、かつ、優れた耐水性を有すると共に、材料表面および内部に多数のカチオン性官能基を有するので、このような特性が必要とされる各種の用途の成形品の素材として利用可能である。
図1
図2
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図5
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図7