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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-31
(45)【発行日】2024-06-10
(54)【発明の名称】被加工物の研削方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 7/04 20060101AFI20240603BHJP
   B24B 1/00 20060101ALI20240603BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
B24B7/04 A
B24B1/00 F
H01L21/304 631
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020121899
(22)【出願日】2020-07-16
(65)【公開番号】P2022018650
(43)【公開日】2022-01-27
【審査請求日】2023-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【弁理士】
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 貴之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 佳一
【審査官】山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-016770(JP,A)
【文献】特開2009-246098(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0287363(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 7/04
B24B 1/00
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を保持するチャックテーブルと、
スピンドルを有し、環状に配置された複数の研削砥石を有する研削ホイールを該スピンドルに装着し、該スピンドルを中心として該研削ホイールを回転させた状態で、該チャックテーブルで保持された該被加工物を研削する研削ユニットと、
を備える研削装置を用いて該被加工物を研削する被加工物の研削方法であって、
該被加工物を保持した該チャックテーブルを回転させない状態で、該スピンドルを回転させながら該研削ユニットを研削送りして該被加工物を研削することにより、該被加工物の裏面側に仕上げ厚さに至らない深さを有する円弧状の溝を形成する溝形成ステップと、
該溝形成ステップの後、該スピンドルを回転させたまま該複数の研削砥石が該溝の内部に配置された状態で該チャックテーブルの回転を開始することにより該溝の側壁を研削し、該被加工物から溝を除去する溝除去ステップと、
該溝除去ステップの後、該スピンドルと該チャックテーブルとを回転させながら該研削ユニットを研削送りして、該被加工物が仕上げ厚さとなるまで該被加工物の裏面側の全体を研削する全面研削ステップと、
を備えることを特徴とする被加工物の研削方法。
【請求項2】
該溝除去ステップでは、該研削ユニットを研削送りしながら該チャックテーブルを回転させることを特徴とする請求項1記載の被加工物の研削方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チャックテーブルで保持された被加工物を研削ホイールで研削する被加工物の研削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デバイスチップの製造工程では、互いに交差する複数の分割予定ライン(ストリート)によって区画された領域にそれぞれIC(Integrated Circuit)、LSI(Large Scale Integration)等のデバイスが形成されたウェーハが用いられる。このウェーハを分割予定ラインに沿って分割することにより、デバイスをそれぞれ備える複数のデバイスチップが製造される。デバイスチップは、携帯電話、パーソナルコンピュータ等の様々な電子機器に搭載される。
【0003】
近年では、電子機器の小型化に伴い、デバイスチップにも薄型化が求められている。そこで、分割前のウェーハに対して研削加工を施し、ウェーハを薄化する手法が用いられている。ウェーハの研削には、ウェーハを吸引保持するチャックテーブルと、ウェーハを研削する研削ユニットと、を備える研削装置が用いられる。研削ユニットには、環状に配列された複数の研削砥石を有する研削ホイールが装着されている。
【0004】
研削砥石は、ダイヤモンド等でなる砥粒を結合材(ボンド材)で固定することによって形成されている。ウェーハを研削する際には、ウェーハをチャックテーブルで吸引保持した状態で、チャックテーブル及び研削ホイールを回転させつつ研削砥石をウェーハに接触させる(特許文献1参照)。
【0005】
研削砥石の結合材から突出している砥粒がウェーハと接触することで、ウェーハは研削されるので、研削中は、結合材から砥粒が適度に突出した状態を維持することが望まれる。研削中に発生する加工屑等により結合材が擦過されると、研削砥石の表面のうちウェーハに対面する作用面に位置する結合材が掘り起こされる。
【0006】
結合材の減少に伴い、砥粒は結合材から脱落するが、砥粒の脱落後も研削を継続すると、結合材の磨耗により新たな砥粒が結合材から露出する(自生発刃)。この自生発刃により、砥粒が結合材から突出した状態が維持され、研削砥石の研削能力の低下が防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2009-90389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ただし、ウェーハの材質やウェーハの被研削面の材質等によっては、砥粒が脱落するタイミングが早まることがある。例えば、被研削面に比較的硬い酸化膜が形成されていると、砥粒の脱落(目こぼれ)が生じやすくなる。このような場合、砥粒が脱落してから自生発刃が完了するまでの期間、すなわち、研削砥石の研削能力が低い状態で被加工物が研削される期間が長くなり、加工不良が生じやすくなる。
【0009】
本発明は係る問題に鑑みてなされたものであり、加工不良の発生を抑制することが可能なウェーハの研削方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によれば、被加工物を保持するチャックテーブルと、スピンドルを有し、環状に配置された複数の研削砥石を有する研削ホイールを該スピンドルに装着し、該スピンドルを中心として該研削ホイールを回転させた状態で、該チャックテーブルで保持された該被加工物を研削する研削ユニットと、を備える研削装置を用いて該被加工物を研削する被加工物の研削方法であって、該被加工物を保持した該チャックテーブルを回転させない状態で、該スピンドルを回転させながら該研削ユニットを研削送りして該被加工物を研削することにより、該被加工物の裏面側に仕上げ厚さに至らない深さを有する円弧状の溝を形成する溝形成ステップと、該溝形成ステップの後、該スピンドルを回転させたまま該複数の研削砥石が該溝の内部に配置された状態で該チャックテーブルの回転を開始することにより該溝の側壁を研削し、該被加工物から溝を除去する溝除去ステップと、該溝除去ステップの後、該スピンドルと該チャックテーブルとを回転させながら該研削ユニットを研削送りして、該被加工物が仕上げ厚さとなるまで該被加工物の裏面側の全体を研削する全面研削ステップと、を備える被加工物の研削方法が提供される。
【0011】
好ましくは、該溝除去ステップでは、該研削ユニットを研削送りしながら該チャックテーブルを回転させる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様に係る被加工物の研削方法は、チャックテーブルを回転させない状態でスピンドルを回転させて、被加工物に円弧状の溝を形成する溝形成ステップと、スピンドルを回転させたままチャックテーブルの回転を開始することにより被加工物の側壁を研削し、溝を除去する溝除去ステップと、被加工物の裏面側の全体を研削する全面研削ステップと、を備える。
【0013】
溝形成ステップでは、主として研削砥石の底面で研削を行うが、溝除去ステップでは、主として研削砥石の側面で研削を行うことができる。それゆえ、溝除去ステップでは、主として研削砥石の底面で裏面側の全体を研削する場合に比べて、研削砥石の底面のコンディションの悪化(即ち、研削能力の低下)を低減できる。
【0014】
そして、溝除去ステップ後の全面研削ステップでは、溝が除去された被加工物の裏面側の全体を研削する。この全面研削ステップでは、主として研削砥石の底面で研削を行うが、特に、研削砥石の底面のコンディションの悪化が低減された状態で研削を行うことができる。それゆえ、裏面側に比較的硬い酸化膜が形成されている場合であっても、被加工物の加工不良の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】研削装置の斜視図である。
図2図2(A)は溝形成ステップを示す研削ホイール等の側面図であり、図2(B)は溝形成ステップを示す研削ホイール等の上面図である。
図3】溝形成ステップ後の被加工物の上面図である。
図4図4(A)は溝除去ステップを示す研削ホイール等の側面図であり、図4(B)は溝除去ステップを示す研削ホイール等の上面図である。
図5】全面研削ステップを示す研削ホイール等の側面図である。
図6】研削方法を示すフロー図である。
図7】スピンドルを駆動するモータの電流値及びチャックテーブルの回転数の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して本発明の一態様に係る実施形態を説明する。まず、本実施形態に係る被加工物の研削方法を実行可能な研削装置の構成例について説明する。図1は、研削装置2を示す斜視図である。
【0017】
以下の説明において、X軸方向(左右方向)と、Y軸方向(前後方向)と、Z軸方向(研削送り方向、上下方向、高さ方向)は、互いに直交する。また、図面では、研削装置2の構成要素の一部を機能ブロックで示すことがある。
【0018】
研削装置2は、各構成要素を支持又は収容する基台4を備える。基台4の前端部の上面側には矩形状の開口4aが設けられている。開口4aには被加工物11を搬送する水平多関節型のロボットアーム(第1の搬送ユニット)6が設けられている。
【0019】
ロボットアーム6のX軸方向の両側には、カセット配置領域8a,8bが設けられている。カセット配置領域8a,8b上には、被加工物11を収容するカセット10a,10bがそれぞれ配置される。
【0020】
カセット10aには、研削前の複数の被加工物11が収容されている。これに対して、カセット10bには、研削後の複数の被加工物11が収容される。被加工物11は、所定の直径(例えば、直径約200mm)を有する円盤状のシリコンウェーハである。
【0021】
被加工物11は、表面11a及び裏面11bを有する。被加工物11の厚さ(表面11aから裏面11bまでの長さ)は、200μm以上800μm以下の所定値(例えば、725μm)であり、裏面11b側には、2000Åから3000Å程度の厚さの熱酸化膜が形成されている。
【0022】
表面11aには、複数の分割予定ライン(ストリート)が格子状に設定されている。複数の分割予定ラインで区画された矩形状の領域の各々の表面11a側には、IC(Integrated Circuit)、LSI(Large Scale Integration)等のデバイス(不図示)が形成されている。
【0023】
なお、被加工物11の種類、材質、大きさ、形状、構造等に制限はない。被加工物11は、シリコン以外の化合物半導体(GaN、SiC等)、ガラス、セラミックス、樹脂、金属等で形成されたウェーハや基板であってもよい。また、被加工物11に形成されるデバイスの種類、数量、形状、構造、大きさ、配置等に制限はない。被加工物11には、デバイスが形成されていなくてもよい。
【0024】
開口4aのX軸方向の一方側の後方には、位置合わせ機構12が設けられている。カセット10aに収容された被加工物11は、ロボットアーム6によって位置合わせ機構12に搬送され、位置合わせ機構12で所定の位置に位置付けられる。
【0025】
X軸方向の他方側において位置合わせ機構12に隣接する位置には、被加工物11を搬送するローディングアーム(第2の搬送ユニット)14が設けられている。ローディングアーム14は、被加工物11の裏面11b側を吸引して保持する吸引パッドを先端部に備える。
【0026】
ローディングアーム14は、位置合わせ機構12によって位置合わせされた被加工物11を吸着パッドで保持した後、基端部に位置する回転軸を中心に吸着パッドを旋回させて、被加工物11を搬入搬出位置Aへ搬送する。
【0027】
ローディングアーム14の後方には、円盤状のターンテーブル16が設けられている。ターンテーブル16の下部にはモータ等の回転駆動源(不図示)が連結されている。回転駆動源によりターンテーブル16は、Z軸方向に概ね平行な回転軸の周りで回転する。
【0028】
ターンテーブル16上には、被加工物11を保持する3個のチャックテーブル18が、ターンテーブル16の周方向に沿って略等間隔に配置されている。各チャックテーブル18は、ターンテーブル16の回転により、搬入搬出位置A、粗研削位置B、及び、仕上げ研削位置Cに位置付けられる。
【0029】
例えば、搬入搬出位置Aに位置付けられている1つのチャックテーブル18は、ターンテーブル16を上面視で時計回りに略120度回転させることで、粗研削位置Bに位置付けられる。
【0030】
次いで、ターンテーブル16を上面視で時計回りに更に略120度回転させることで、このチャックテーブル18は、仕上げ研削位置Cに位置付けられる。その後、ターンテーブル16を上面視で反時計回りに更に略240度回転させることで、このチャックテーブル18は、仕上げ研削位置Cから搬入搬出位置Aに位置付けられる。
【0031】
各チャックテーブル18の下部には、モータ等の回転駆動源20(図2(A)等参照)の出力軸が連結されている。回転駆動源20は、チャックテーブル18をZ軸方向に概ね平行な回転軸の周りで回転させる。
【0032】
粗研削位置Bの後方には、柱状の支持構造22aが配置され、仕上げ研削位置Cの後方には、柱状の支持構造22bが配置されている。支持構造22aの前面側には、研削送りユニット24aが設けられており、支持構造22bの前面側には、研削送りユニット24bが設けられている。
【0033】
研削送りユニット24a,24bはそれぞれ、Z軸方向に概ね平行に配置された一対のガイドレール26を備える。一対のガイドレール26には、移動プレート28がガイドレール26に沿ってスライド可能な状態で配置されている。
【0034】
移動プレート28の後面側にはナット部(不図示)が設けられており、このナット部には、ガイドレール26と概ね平行に配置されたボールねじ30が回転可能に連結されている。
【0035】
ボールねじ30の上端部には、パルスモータ32が連結されている。パルスモータ32でボールねじ30を回転させると、移動プレート28がZ軸方向に沿って移動する。研削送りユニット24aの移動プレート28の前面側には、被加工物11の粗研削を行う研削ユニット34aが固定されている。
【0036】
これに対して、研削送りユニット24bの移動プレート28の前面側には、被加工物11の仕上げ研削を行う研削ユニット34bが固定されている。研削送りユニット24a,24bは、研削ユニット34a,34bを昇降させる。
【0037】
研削ユニット34a,34bは、それぞれ、円筒状のハウジング36を有する。ハウジング36の内部には、Z軸方向に沿って配置された円柱状のスピンドル38(図2(A)参照)の一部が収容されている。
【0038】
スピンドル38の上端部には、回転駆動源40の出力軸が連結されている。また、図2(A)に示す様に、スピンドル38の下端部は、ハウジング36から露出しており、当該下端部には、円盤状のマウント42の上面の中央部が固定されている。
【0039】
研削ユニット34aのマウント42の下面側には、粗研削用の研削ホイール44aが装着されている。研削ホイール44aは、マウント42と略同径の環状基台46を備える。環状基台46の下面側には、複数の研削砥石48が、環状基台46の周方向に沿って離散的に配列されている。
【0040】
つまり、複数の研削砥石48は、図2(B)に示す様に、環状基台46の下面側において環状に配置されている。研削砥石48は、略直方体形状を有し、ダイヤモンド、cBN(cubic boron nitride)等で形成された砥粒を、金属、樹脂、ビトリファイド等の結合材で固定することにより形成される。
【0041】
チャックテーブル18は、セラミックスで形成された円盤状の枠体を有する。枠体の上部には、円盤状の凹部が形成されており、この凹部には、多孔質セラミックスで形成された円盤状のポーラス板が固定されている。
【0042】
ポーラス板は、枠体の内部に形成された流路(不図示)を介して、エジェクタ等の吸引源(不図示)に接続されている。ポーラス板の上面と、枠体の上面とは、面一になっており、被加工物11を吸引保持する保持面18aを構成している。
【0043】
保持面18aは、外周から中心に向かって僅かに突出する円錐形状を有する。しかし、保持面18aの突出量は極僅か(例えば、30μm)であるので、図2(A)では、便宜上、保持面18aをX軸方向及びY軸方向と略平行な平坦面としている(後述する図4(A)及び図5でも同様である)。
【0044】
吸引源を動作させて、ポーラス板の上面に負圧を作用させると、保持面18a上に配置された被加工物11等は、保持面18aの形状に倣う様に、保持面18aで吸引保持される。
【0045】
なお、チャックテーブル18の回転軸は、複数の研削砥石48の下面で規定される研削面と、保持面18aの一部と、が略平行になる様に、Z軸方向に対して僅かに傾いている。しかし、チャックテーブル18の回転軸の傾き角度は極僅かであるので、図2(A)では、便宜上、回転軸の傾きをZ軸方向と略平行としている(後述する図4(A)及び図5でも同様である)。
【0046】
研削ホイール44aは、チャックテーブル18の上方に配置されており、研削ホイール44aの一部は、チャックテーブル18の回転中心を通過する様に、チャックテーブル18の上面を部分的に覆っている(図2(B)参照)。
【0047】
図1に示す研削ユニット34bは、研削ユニット34aと同様に構成されている。研削ユニット34bのマウント42の下面側には、仕上げ研削用の研削ホイール44bが装着される。
【0048】
研削ホイール44bの構成は、研削ホイール44aと同様であるが、研削ホイール44bの研削砥石48に含まれる砥粒の平均粒径は、研削ホイール44aの研削砥石48に含まれる砥粒の平均粒径よりも小さい。
【0049】
研削ユニット34a,34bの内部又は外部にはそれぞれ、純水等の液体(研削液)を加工点に供給するための研削水供給ユニット(不図示)が設けられている。粗研削位置B及び仕上げ研削位置Cのそれぞれの近傍には、厚さ測定器50が設けられている。
【0050】
厚さ測定器50は、チャックテーブル18で吸引保持された被加工物11の上面の高さを測定する第1のハイトゲージ52aと、保持面18aの高さを測定する第2のハイトゲージ52bと、を備える。
【0051】
第1のハイトゲージ52a及び第2のハイトゲージ52bによって測定された高さの差分に基づいて、被加工物11の厚さが算出される。ローディングアーム14のX軸方向の他方側には、アンローディングアーム(第3の搬送ユニット)54が設けられている。
【0052】
アンローディングアーム54は、被加工物11の裏面11b側を吸引保持する吸引パッドを備える。アンローディングアーム54は、搬入搬出位置Aに位置する被加工物11を吸着パッドで保持した後、基端部に位置する回転軸を中心に吸引パッドを旋回させて、当該被加工物11を洗浄ユニット56へ搬送する。
【0053】
洗浄ユニット56によって洗浄された被加工物11は、ロボットアーム6によって搬送され、カセット10bに収容される。研削装置2は、各構成要素の動作を制御する制御部58を有する。
【0054】
制御部58は、ロボットアーム6、位置合わせ機構12、ローディングアーム14、ターンテーブル16、チャックテーブル18、回転駆動源20、研削送りユニット24a,24b、研削ユニット34a,34b、厚さ測定器50、アンローディングアーム54、洗浄ユニット56等の動作を制御する。
【0055】
制御部58は、例えば、CPU(Central Processing Unit)に代表されるプロセッサ(処理装置)と、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、SRAM(Static Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等の主記憶装置と、フラッシュメモリ、ハードディスクドライブ、ソリッドステートドライブ等の補助記憶装置と、を含むコンピュータによって構成されている。
【0056】
補助記憶装置には、所定のプログラムを含むソフトウェアが記憶されている。このソフトウェアに従い処理装置等を動作させることによって、制御部58の機能が実現される。次に、研削装置2を用いて被加工物11を研削する、被加工物11の研削方法について説明する。
【0057】
まず、被加工物11を収容したカセット10aをカセット配置領域8a上に配置し、ロボットアーム6で1つの被加工物11をカセット10aから位置合わせ機構12へ搬送する。
【0058】
位置合わせ機構12で被加工物11の位置合わせを行った後、ローディングアーム14で位置合わせ機構12から、搬入搬出位置Aに配置されたチャックテーブル18へ被加工物11を搬送する。
【0059】
このとき、被加工物11は、裏面11b側が上方に露出する様に、チャックテーブル18上に配置され、表面11a側が保持面18aで吸引保持される(図2(A)参照)。
【0060】
なお、表面11a側にデバイスが形成されている場合には、デバイスを保護する保護テープを表面11a側に貼り付けてもよい。この場合、表面11a側は、保護テープを介して保持面18aで吸引保持される。
【0061】
次に、上面視で時計回りに略120度だけターンテーブル16を回転させ、被加工物11を保持したチャックテーブル18を粗研削位置Bに配置する。そして、被加工物11を、研削ユニット34aで粗研削する。
【0062】
本実施形態では、チャックテーブル18を回転させない状態で、研削ユニット34aで被加工物11を研削することにより、円弧状の溝11cを面11側に形成する(溝形成ステップS10)。
【0063】
図2(A)は、溝形成ステップS10を示す研削ホイール44a等の側面図である。回転駆動源40を動作させれば、研削ホイール44aは、スピンドル38を中心として回転する。
【0064】
溝形成ステップS10では、スピンドル38を所定の回転数(例えば、3500rpm)とし、研削ユニット34aを所定の研削送り速度(例えば、0.5μm/秒)で研削送りする。
【0065】
スピンドル38を回転させ、且つ、研削砥石48を裏面11b側に接触させながら、研削ユニット34aを研削送りすると、主として研削砥石48の底面48aによって裏面11b側が研削される。図2(B)は、溝形成ステップS10を示す研削ホイール44a等の上面図である。
【0066】
溝形成ステップS10では、チャックテーブル18を回転させないので、回転する研削砥石48の軌道に沿って、裏面11b側が研削され、裏面11b側には、研削砥石48の軌跡に沿う円弧状の溝11cが形成される。
【0067】
溝11cは、裏面11b側に形成されている酸化膜よりも深く、被加工物11の仕上げ厚さに至らない深さを有する。例えば、研削前の厚さが725μmであり、仕上げ厚さが50μmである場合に、研削ユニット34aを、研削面が裏面11bに接するときの高さ位置から下方へ移動させる研削送り量は、20μmに設定される。
【0068】
図3は、溝形成ステップS10後の被加工物11の上面図である。溝11cは、被加工物11の外周の一部から、裏面11bの中心を通って、被加工物11の外周の他の一部に至る、円弧状に形成される。
【0069】
溝形成ステップS10では、研削砥石48の底面48aを主に使用して1本の溝11cを形成するので、研削砥石48の底面48aを主として使用して裏面11b側の全体を研削する場合に比べて、研削砥石48の底面48aのコンディションの悪化(即ち、研削能力の低下)を低減できる。
【0070】
所定の研削送り量だけ研削ユニット34aを研削送りした後、スピンドル38を所定の回転数で回転させたまま、チャックテーブル18の回転を開始する。これにより、主に研削砥石48の内周側面48b及び外周側面48cで、溝11cの側壁11dを研削して、裏面11b側から溝11cを除去する(溝除去ステップS20)。
【0071】
図4(A)は、溝除去ステップS20を示す研削ホイール44a等の側面図であり、図4(B)は、溝除去ステップS20を示す研削ホイール44a等の上面図である。図4(B)において矢印41で示す様に、溝除去ステップS20では、主として研削砥石48の内周側面48b及び外周側面48cで、裏面11b側が研削される。
【0072】
この様に、溝除去ステップS20は、溝形成ステップS10の直後に行われる。溝除去ステップS20では、所定の研削送り速度(例えば、0.5μm/秒)で研削ユニット34aを研削送りしながら、所定の回転数(例えば、100rpm)でチャックテーブル18を回転させる。
【0073】
この様に、溝形成ステップS10で主として使用した研削砥石48の底面48aに代えて、溝除去ステップS20では、コンディションが比較的良好な研削砥石48の内周側面48b及び外周側面48cで、裏面11b側を研削して酸化膜を除去する。
【0074】
溝除去ステップS20では、溝形成ステップS10で主として使用した研削砥石48の底面48aで引き続き裏面11b側の全体を研削する場合に比べて、研削砥石48の底面48aのコンディションの悪化を低減できる。
【0075】
溝除去ステップS20の後、スピンドル38とチャックテーブル18とを回転させながら研削ユニット34aを研削送りして、被加工物11の厚さが仕上げ厚さになるまで被加工物11の裏面11b側全体を研削する(全面研削ステップS30)。
【0076】
図5は、全面研削ステップS30を示す研削ホイール等の側面図である。スピンドル38及びチャックテーブル18の回転数、並びに、研削送り速度は、溝除去ステップS20と同じである。
【0077】
全面研削ステップS30では、厚さ測定器50で被加工物11の厚さを測定しながら、被加工物11が仕上げ厚さよりも厚い所定の厚さとなるまで、主として研削砥石48の底面48aを使用して研削ユニット34aで裏面11b側を研削する(第1の全面研削)。
【0078】
上述の溝除去ステップS20では主として研削砥石48の内周側面48b及び外周側面48cを使用して被加工物11を研削するので、全面研削ステップS30では、研削砥石48の底面48aのコンディションの悪化が低減されている(即ち、比較的良好である)。それゆえ、比較的硬い酸化膜が裏面11b側に形成されている場合であっても、加工不良の発生を抑制できる。
【0079】
研削ユニット34aで所定の厚さまで被加工物11を薄化した後、ターンテーブル16を回転させ、被加工物11を仕上げ研削位置Cに位置付ける。そして、厚さ測定器50で被加工物11の厚さを測定しながら研削ユニット34bで研削を行う(第2の全面研削)。
【0080】
第2の全面研削において、被加工物11が仕上げ厚さとなるまで、被加工物11が薄化されたら、全面研削ステップS30を終了し、ターンテーブル16を回転させ、被加工物11を搬入搬出位置Aに位置付ける。
【0081】
アンローディングアーム54によって被加工物11を洗浄ユニット56に搬送し、洗浄ユニット56で洗浄された被加工物11は、ロボットアーム6によってカセット10bへ搬送される。なお、図6は、本実施形態の研削方法を示すフロー図である。
【0082】
以上の通り、本実施形態に係る被加工物11の研削方法は、円弧状の溝11cを形成する溝形成ステップS10と、スピンドル38を回転させたままチャックテーブル18の回転を開始することにより溝11cの側壁11dを研削し、溝11cを除去する溝除去ステップS20と、全面研削ステップS30と、を備える。
【0083】
溝形成ステップS10では、主として研削砥石48の底面48aで研削を行うが、溝除去ステップS20では、主として研削砥石48の内周側面48b及び外周側面48cで研削を行うことができる。
【0084】
それゆえ、主として研削砥石48の底面48aで裏面11b側の全体を研削する場合に比べて、研削砥石48の底面48aのコンディションの悪化を低減できる。従って、主として研削砥石48の底面48aで研削を行う全面研削ステップS30では、被加工物11の加工不良の発生を抑制できる。
【0085】
次に、図7を用いて、本実施形態の研削方法と、従来の研削方法と、を比較した実験について説明する。本実験では、裏面11b側に2000Åから3000Å程度の厚さの熱酸化膜が形成されたシリコンウェーハ(直径約200mm、厚さ約725μm)を被加工物11として用いた。
【0086】
また、研削ユニットとしては、粒径#3000のダイヤモンド砥粒がビトリファイドボンドで固定された研削砥石48を備える研削ホイール44bが装着された、研削ユニット34bを用いた。
【0087】
図7は、スピンドル38を駆動するモータの電流値の時間変化を示すグラフD1(実線)及びD2(点線)、並びに、チャックテーブル18の回転数の時間変化を示すグラフE1(破線)及びE2(一点鎖線)である。
【0088】
従来の研削方法とは、溝11cを形成することなく、主として研削砥石48の底面48aを終始用いて裏面11b側を研削する方法である。従来の研削方法では、グラフE2に示す様に、チャックテーブル18の回転数を時間0秒から時間tまで100rpmで一定とした。
【0089】
これに対して、本実施形態の研削方法では、グラフE1に示す様に、時間0秒から時間tまでチャックテーブル18を回転させず静止させておき(溝形成ステップS10)、時間tにおいてチャックテーブル18の回転を開始した(溝除去ステップS20)。その後、時間150秒過ぎまで回転数を100rpmで維持した(全面研削ステップS30)。
【0090】
本実施形態及び従来の両方の研削方法において、チャックテーブル18の上方に配置された研削ユニット34bの研削送り速度を、0.5μm/秒とした。また、従来及び本実施形態の両方の研削方法において、時間tで研削砥石48の底面48aを裏面11bに接触させ、研削を開始した。
【0091】
従来の研削方法では、電流値が徐々に増加した(グラフD2参照)。時間tで研削送りを止め、研削を終了させた。時間120秒から時間tまでにおける電流値の上昇具合から明らかな様に、従来の研削方法では、研削砥石48の加工負荷が比較的高くなった。
【0092】
これに対して、本実施形態の研削方法では、時間tから時間tまでの間、溝形成ステップS10を行い、溝11cを形成した(溝形成ステップS10)。次いで、スピンドル38を回転させたまま、時間tでチャックテーブル18の回転を開始した(溝除去ステップS20)。
【0093】
グラフD1に示す様に、時間tでは、電流値がスパイク状に立ち上がったが、電流値は、許容上限値に達すること無く、すぐに低下し始めた。この時間tから時間tまでは、溝除去ステップS20に対応する。
【0094】
時間tから時間tまでは約1秒であり、この時間は、チャックテーブル18が略1回転半できる時間である。つまり、溝11cは、チャックテーブル18が略1回転半する間に除去された。
【0095】
時間tから時間tまでは、全面研削ステップS30に対応する。従来の研削方法に比べて、全面研削ステップS30では、研削砥石48の底面48aのコンディションが比較的良好であるので、研削負荷(即ち、電流値)が比較的低くなった。また、全面研削ステップS30では、研削砥石48の自生発刃も効果的に生じたと考えられる。
【0096】
この様に、実験において、本実施形態の研削方法の有効性が確認された。なお、時間tで研削送りを止め、研削を終了させた。時間tから時間tまでは、研削砥石48が裏面11bに接触せず、空回転している状態である。
【0097】
その他、上記実施形態に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。例えば、上記実施形態において、溝除去ステップS20では、研削ユニット34aを研削送りしたが、溝11cが除去できれば、研削送りをしなくてもよい。
【符号の説明】
【0098】
2:研削装置
4:基台、4a:開口
6:ロボットアーム
8a,8b:カセット配置領域
10a,10b:カセット
11:被加工物、11a:表面、11b:裏面、11c:溝、11d:側壁
12:位置合わせ機構
14:ローディングアーム
16:ターンテーブル
18:チャックテーブル、18a:保持面
20:回転駆動源
22a,22b:支持構造
24a,24b:研削送りユニット
26:ガイドレール
28:移動プレート
30:ボールねじ
32:パルスモータ
34a,34b:研削ユニット
36:ハウジング
38:スピンドル
40:回転駆動源
41:矢印
42:マウント
44a,44b:研削ホイール
46:環状基台
48:研削砥石、48a:底面、48b:内周側面、48c:外周側面
50:厚さ測定器、52a:第1のハイトゲージ、52b:第2のハイトゲージ
54:アンローディングアーム
56:洗浄ユニット
58:制御部
A:搬入搬出位置、B:粗研削位置、C:仕上げ研削位置
D1,D2,E1,E2:グラフ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7