IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 太陽ホールディングス株式会社の特許一覧

特許7497143ポリフェニレンエーテル、硬化性組成物、ドライフィルム、プリプレグ、硬化物および電子部品
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-31
(45)【発行日】2024-06-10
(54)【発明の名称】ポリフェニレンエーテル、硬化性組成物、ドライフィルム、プリプレグ、硬化物および電子部品
(51)【国際特許分類】
   C08G 65/48 20060101AFI20240603BHJP
   C08G 65/44 20060101ALI20240603BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20240603BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20240603BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20240603BHJP
   B32B 5/28 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
C08G65/48
C08G65/44
C08F290/06
C08J5/24 CEZ
B32B27/00 103
B32B5/28 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019132323
(22)【出願日】2019-07-17
(65)【公開番号】P2020196853
(43)【公開日】2020-12-10
【審査請求日】2022-07-15
(31)【優先権主張番号】P 2019103234
(32)【優先日】2019-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)公益社団法人 高分子学会 高分子学会予稿集 68巻1号[2019]令和1年5月14日発行 (2)学会の開催日:令和1年5月30日 第68回高分子学会年次大会
(73)【特許権者】
【識別番号】591021305
【氏名又は名称】太陽ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】松村 聡子
(72)【発明者】
【氏名】能坂 麻美
(72)【発明者】
【氏名】石川 信広
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-057079(JP,A)
【文献】特開2006-316091(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G
C08F
C08J
B32B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェニレンエーテルの末端水酸基の一部又は全部を、不飽和炭素結合を有する官能基に変性した末端変性ポリフェニレンエーテルであって、
コンフォメーションプロットで算出された傾きが0.6未満であり、
前記ポリフェニレンエーテルが、少なくとも下記条件1を満たすフェノール類および下記式(4)で示されるフェノール類を含み、下記条件Zを満たすフェノール類を含まない原料フェノール類からなるポリフェニレンエーテルであり、
前記不飽和炭素結合を有する官能基がアルケニル基またはアルキニル基であり、
前記少なくとも下記条件1を満たすフェノール類が下記式(2)で示される原料フェノール類からなり、
前記式(2)で示される原料フェノール類が、o-クレゾール、m-クレゾール、o-エチルフェノール、m-エチルフェノール、2,3-キシレノール、2,5-キシレノール、3,5-キシレノール、o-tert-ブチルフェノール、m-tert-ブチルフェノールおよび2-ドデシルフェノールより選択されるいずれか1種以上である
ことを特徴とする末端変性ポリフェニレンエーテル。
(条件1)
オルト位およびパラ位に水素原子を有する
(条件Z)
不飽和炭素結合を有する官能基を含む
【化1】
(ただし、式(2)中、R~Rは、水素原子、または炭素数1~15のアルキル基である)
【化2】
(ただし、式(4)中、R11およびR14は、不飽和炭素結合を有しない炭素数1~15の炭化水素基であり、R12およびR13は、水素原子、または不飽和炭素結合を有しない炭素数1~15の炭化水素基である)
【請求項2】
請求項1に記載の末端変性ポリフェニレンエーテルを含有する硬化性組成物。
【請求項3】
請求項2に記載の硬化性組成物を基材に塗布又は含浸して得られることを特徴とするドライフィルムまたはプリプレグ。
【請求項4】
請求項2に記載の硬化性組成物を硬化して得られることを特徴とする硬化物。
【請求項5】
請求項4に記載の硬化物を有することを特徴とする電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンエーテルを含む硬化性組成物、ドライフィルム、プリプレグ、硬化物、および電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
第5世代通信システム(5G)に代表される大容量高速通信や自動車のADAS(先進運転システム)向けミリ波レーダー等などの普及により通信機器の信号の高周波化が進んできた。
【0003】
しかし、配線板材料として従来のエポキシ樹脂などの使用では比誘電率(Dk)や誘電正接(Df)が十分に低くないために、周波数が高くなるほど誘電損失に由来する伝送損失の増大が起こり、信号の減衰や発熱などの問題が生じていた。そのため、低誘電特性にすぐれたポリフェニレンエーテルが使用されてきたが、ポリフェニレンエーテルは熱可塑性樹脂であるために耐熱性の問題があった。
【0004】
その問題を解決するための手段として非特許文献1には、ポリフェニレンエーテルの分子内にアリル基を導入させて、熱硬化性樹脂とすることが提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】J. Nunoshige, H. Akahoshi, Y. Shibasaki, M. Ueda, J. Polym. Sci. Part A: Polym. Chem. 2008, 46, 5278-5282.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ポリフェニレンエーテルは可溶する溶媒が限られており、非特許文献1の手法で得られたポリフェニレンエーテルも、クロロホルムやトルエン等の非常に毒性が高い溶媒にしか溶解しない。そのため、樹脂ワニスの取り扱いや、配線板用途のような塗膜化して硬化させる工程における溶媒暴露の管理が難しいという問題があった。
【0007】
上記課題の元、本発明者らは、特願2018-134338にて、低誘電特性を維持しつつも、種々の溶媒(毒性の高い有機溶媒以外の有機溶媒、例えばシクロヘキサノン)にも可溶なポリフェニレンエーテルを発明した。
【0008】
しかしながら、ポリフェニレンエーテルの性能としては、配線板に対する要求性能の高まりや、より多くのアプリケーション(例えば、車載用やモバイル電子機器用)に適用可能とするために、ポリフェニレンエーテルの誘電特性を更に低減させることや、耐クラック性、耐光性、耐環境性等が求められる場合がある。一方で、既存のポリフェニレンエーテルでは、このような性能を全て満たすことが難しい場合があった。
【0009】
そこで本発明は、種々の溶媒(毒性の高い有機溶媒以外の有機溶媒、例えばシクロヘキサノン)に可溶であり、硬化して得られた膜が、更なる低誘電特性化と、耐クラック性、耐光性、耐環境性等に優れた特性を有する、硬化性組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、分岐構造としたポリフェニレンエーテルが、種々の溶媒に可溶となる一方で分岐構造に起因した水酸基が増加してしまうことや、硬化性を付与するための反応性官能基の導入部位に着目し、上記目的の実現に向け鋭意研究を行なった。その結果、ポリフェニレンエーテルの分岐構造に起因した水酸基を含む末端水酸基を変性することにより、優れた溶媒可溶性を有しつつ、更なる低誘電特性化と、耐クラック性、耐光性、耐環境性等を向上し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
即ち、本発明は、
ポリフェニレンエーテルの末端水酸基の一部又は全部を、不飽和炭素結合を有する官能基に変性した末端変性ポリフェニレンエーテルであって、
コンフォメーションプロットで算出された傾きが0.6未満であり、
前記ポリフェニレンエーテルが、少なくとも条件1を満たすフェノール類を含み、条件Zを満たすフェノール類を含まない原料フェノール類からなるポリフェニレンエーテルであることを特徴とする末端変性ポリフェニレンエーテルを提供する。
(条件1)
オルト位およびパラ位に水素原子を有する
(条件Z)
不飽和炭素結合を有する官能基を含む
【0012】
また、本発明は、前記末端変性ポリフェニレンエーテルを含有する硬化性組成物を提供する。
【0013】
また、本発明は、前記硬化性組成物を基材に塗布して得られることを特徴とするドライフィルムまたはプリプレグを提供する。
【0014】
また、本発明は、前記硬化性組成物を硬化して得られることを特徴とする硬化物を提供する。
【0015】
また、本発明は、前記硬化物を有することを特徴とする電子部品を提供する。
【0016】
また、本発明は、前記硬化物を含むことを特徴とする積層板であってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、種々の溶媒(毒性の高い有機溶媒以外の有機溶媒、例えばシクロヘキサノン)に可溶であり、硬化して得られた膜が、更なる低誘電特性化と、耐クラック性、耐光性、耐環境性等に優れた特性を有する、硬化性組成物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
なお、説明した化合物に異性体が存在する場合、特に断らない限り、存在し得る全ての異性体が本発明において使用可能である。
【0020】
また、本発明において、「不飽和炭素結合」は、特に断らない限り、エチレン性またはアセチレン性の炭素間多重結合(二重結合または三重結合)を示す。
【0021】
本発明において、原料フェノール類の説明を行う際に「オルト位」や「パラ位」等と表現した場合、特に断りがない限り、フェノール性水酸基の位置を基準(イプソ位)とする。
【0022】
本発明において、単に「オルト位」等と表現した場合、「オルト位の少なくとも一方」等を示す。従って、特に矛盾が生じない限り、単に「オルト位」とした場合、オルト位のどちらか一方を示すと解釈してもよいし、オルト位の両方を示すと解釈してもよい。
【0023】
本発明において、ポリフェニレンエーテル(PPE)の原料として用いられ、ポリフェニレンエーテルの構成単位になり得るフェノール類を総称して、「原料フェノール類」とする。
【0024】
ここで、本発明において、炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基などが挙げられる。なお、これらの炭化水素基は、直鎖状であっても、分岐鎖状であってもよい。
【0025】
なお、本発明において、ある成分を「含まない」とは、技術的な意図をもって当該成分を配合したと判断可能な含有量以下であることを示し、好ましくは当該成分の含有量が不可避的に含有される量以下であることを示す。
【0026】
以下、無変性ポリフェニレンエーテルのことを単にポリフェニレンエーテルと表記する場合がある。
【0027】
以下、本発明の末端変性ポリフェニレンエーテルについて説明する。
【0028】
<<末端変性ポリフェニレンエーテル>>
本発明の末端変性ポリフェニレンエーテルは、下記条件1を満たすフェノール類を必須成分として含み、下記条件Zを満たすフェノール類を含まない原料フェノール類を酸化重合させて得られるポリフェニレンエーテル(所定ポリフェニレンエーテルとする。)の末端水酸基の一部または全部が、不飽和炭素結合を有する官能基に変性されたものである。
(条件1)
オルト位およびパラ位に水素原子を有する。
(条件Z)
不飽和炭素結合を有する官能基を含む。
【0029】
条件1を満たすフェノール類{例えば、後述するフェノール類(B)}は、オルト位に水素原子を有するため、フェノール類と酸化重合される際に、イプソ位、パラ位のみならず、オルト位においてもエーテル結合が形成され得るため、分岐鎖状の構造を形成することが可能となる。
【0030】
一方で、条件1を満たさないフェノール類{例えば、後述するフェノール類(D)}は、酸化重合される際には、イプソ位およびパラ位においてエーテル結合が形成され、直鎖状に重合されていく。
【0031】
このように、所定ポリフェニレンエーテルは、その構造の一部が、少なくともイプソ位、オルト位、パラ位の3か所がエーテル結合されたベンゼン環により分岐することとなる。ポリフェニレンエーテルは、例えば、骨格中に少なくとも式(i)で示されるような分岐構造を有するポリフェニレンエーテルである化合物と考えられる。
【0032】
【化1】
【0033】
式(i)中、R~Rは、水素原子、または炭素数1~15(好ましくは、炭素数1~12)の炭化水素基である。
【0034】
このように、所定ポリフェニレンエーテルは分岐構造を有するポリフェニレンエーテルである。そのため、所定ポリフェニレンエーテルを分岐ポリフェニレンエーテルと表現する場合がある。
【0035】
本発明の末端変性ポリフェニレンエーテルは、上記の分岐構造を有することで、種々の溶媒に優れた可溶性を示す。本発明の末端変性ポリフェニレンエーテルの分岐構造(分岐の度合い)については後述する。
【0036】
本発明の効果を阻害しない範囲内で、原料フェノール類は、条件1を満たさないその他のフェノール類を含んでいてもよい。
【0037】
その他のフェノール類としては、例えば、パラ位に水素原子を有し、オルト位に水素原子を有せず、不飽和炭素結合を含む官能基を有しないフェノール類であるフェノール類(D)、パラ位に水素原子を有せず、不飽和炭素結合を含む官能基を有しないフェノール類等が挙げられる。ポリフェニレンエーテルの高分子量化のために、原料フェノール類として、フェノール類(D)をさらに含むことが好ましい。
【0038】
また、本発明の末端変性ポリフェニレンエーテルは、原料フェノール類として上記条件Zを満たすフェノール類を含まないため、側鎖には不飽和炭素結合が導入されない。このため本発明では、硬化性を付与するために、原料フェノール類の酸化重合によって得られたポリフェニレンエーテルの末端水酸基の一部又は全部を、不飽和炭素結合を有する官能基に変性している。その結果、末端水酸基による低誘電特性、耐光性、耐環境性の悪化が抑制され、かつ、末端部位の不飽和炭素結合が優れた反応性を有することで、後述の架橋型硬化剤との硬化物として、高強度と優れた耐クラック性が得られる。
【0039】
以下、フェノール類(B)および(D)に関してより詳細に説明する。
【0040】
フェノール類(B)は、条件1を満たし条件Zを満たさないフェノール類、即ち、オルト位およびパラ位に水素原子を有し、不飽和炭素結合を含む官能基を有しないフェノール類であり、好ましくは下記式(2)で示されるフェノール類(b)である。
【0041】
【化3】
【0042】
式(2)中、R~Rは、水素原子、または炭素数1~15の炭化水素基である。ただし、R~Rは、不飽和炭素結合を有しない。なお、酸化重合時に高分子化することが容易になるという観点から、炭化水素基は、炭素数1~12であることが好ましい。
【0043】
式(2)で示されるフェノール類(b)としては、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、o-エチルフェノール、m-エチルフェノール、2,3-キシレノール、2,5-キシレノール、3,5-キシレノール、o-tert-ブチルフェノール、m-tert-ブチルフェノール、o-フェニルフェノール、m-フェニルフェノール、2-ドデシルフェノール、等が例示できる。式(2)で示されるフェノール類は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0044】
フェノール類(D)は、パラ位に水素原子を有し、オルト位に水素原子を有せず、不飽和炭素結合を含む官能基を有しないフェノール類であり、好ましくは下記式(4)で示されるフェノール類(d)である。
【0045】
【化5】
【0046】
式(4)中、R11およびR14は、不飽和炭素結合を有しない炭素数1~15の炭化水素基であり、R12およびR13は、水素原子、または不飽和炭素結合を有しない炭素数1~15の炭化水素基である。なお、酸化重合時に高分子化することが容易になるという観点から、炭化水素基は、炭素数1~12であることが好ましい。
【0047】
式(4)で示されるフェノール類(d)としては、2,6-ジメチルフェノール、2,3,6-トリメチルフェノール、2-メチル-6-エチルフェノール、2-エチル-6-n-プロピルフェノール、2-メチル-6-n-ブチルフェノール、2-メチル-6-フェニルフェノール、2,6-ジフェニルフェノール、2,6-ジトリルフェノール等が例示できる。式(4)で示されるフェノール類は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0048】
さらに、その他のフェノール類として、パラ位に水素原子を有しないフェノール類等を含んでいてもよい。
【0049】
また、各原料フェノール類は、多価フェノール類を含んでいてもよい。
【0050】
原料フェノール類の合計に対する条件1を満たし条件Zを満たさないフェノール類の割合は、例えば、10mol%以上である。
【0051】
以上説明したような原料フェノール類を公知慣用の方法にて酸化重合させて得られるポリフェニレンエーテルは、数平均分子量が2,000~30,000であることが好ましく、5,000~30,000であることがより好ましく、8,000~30,000であることが更に好ましく、8,000~25,000であることが特に好ましい。さらに、ポリフェニレンエーテルは、多分散指数(PDI:重量平均分子量/数平均分子量)が、1.5~20であることが好ましい。なお、数平均分子量および重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定を行い、標準ポリスチレンを用いて作成した検量線により換算したものである。
【0052】
本発明において、数平均分子量および重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定を行い、標準ポリスチレンを用いて作成した検量線により換算したものである。
【0053】
本発明のポリフェニレンエーテル1gは、25℃で、好ましくは100gのシクロヘキサノンに対して(より好ましくは、100gの、シクロヘキサノン、DMFおよびPMAに対して)可溶である。なお、ポリフェニレンエーテル1gが100gの溶剤(例えば、シクロヘキサノン)に対して可溶とは、ポリフェニレンエーテル1gと溶剤100gとを混合したときに、濁りおよび沈殿が目視で確認できないことを示す。ポリフェニレンエーテルは、25℃で、100gのシクロヘキサノンに対して、1g以上可溶であることがより好ましい。
【0054】
次に、本発明のポリフェニレンエーテルにおける一部または全部の末端水酸基の変性方法に関して説明する。
【0055】
このような末端水酸基の変性方法は、不飽和炭素結合を有する官能基を含む変性用化合物を用い、従来公知の方法に従って変性することができる。
【0056】
変性用化合物の種類、反応温度、反応時間、触媒の有無および触媒の種類等については、適宜設計可能である。変性用化合物として2種類以上の化合物を使用してもよい。
【0057】
不飽和炭素結合を有する官能基としては、特に限定されないが、アルケニル基(例えば、ビニル基、アリル基)、アルキニル基(例えば、エチニル基)、又は、(メタ)アクリルロイル基であることが好ましく、硬化性に優れる観点からビニル基、アリル基、(メタ)アクリルロイル基であることがより好ましく、低誘電特性に優れる観点からアリル基であることが更に好ましい。なお、これらの不飽和炭素結合を有する官能基は、炭素数を、例えば15以下、10以下、8以下、5以下、3以下等とすることができる。
【0058】
変性用化合物により末端水酸基を変性する場合、通常、末端水酸基と変性用化合物とでエーテル結合またはエステル結合を形成する。
【0059】
変性用化合物の好適例としては、下記式(A1)で示される有機化合物が挙げられる。
【0060】
【化6】
【0061】
式(A1)中、Rは、ビニル基、アリル基、又は、(メタ)アクリルロイル基であり、Xは、F、Cl、Br、I等のフェノール性水酸基と反応可能な基である。
【0062】
ポリフェニレンエーテルの末端水酸基が変性されたことは、ポリフェニレンエーテルと末端変性ポリフェニレンエーテルとの水酸基価を比較することで確認することができる。
【0063】
なお、末端変性ポリフェニレンエーテルは、一部が未変性の水酸基のままであってもよい。また、本発明の効果を阻害しない範囲で、末端アリル変性ポリフェニレンエーテルは、一部の末端水酸基が、不飽和炭素結合を有する官能基以外で変性されていてもよい。
【0064】
本発明の末端変性ポリフェニレンエーテルは、分岐構造を有することで種々の溶剤への溶解性、組成物の他の成分との相溶性が向上する。このため組成物の各成分が均一に溶解ないし分散し、均一な硬化物を得ることが可能となる。この結果、この硬化物は諸性能が極めて優れている。また、末端の不飽和炭素結合が相互に架橋し、または不飽和炭素結合を含む他の成分と架橋することができるのみならず、不飽和炭素結合を末端の位置に配した結果、反応性が極めて良好となり、得られる硬化物の緒性能はより良好となる。
【0065】
ここで、ポリフェニレンエーテルの分岐構造(分岐の度合い)は、以下の分析手順に基づいて確認することができる。
【0066】
<分析手順>
ポリフェニレンエーテルのクロロホルム溶液を、0.1、0.15、0.2、0.25mg/mLの間隔で調製後、0.5mL/minで送液しながら屈折率差と濃度のグラフを作成し、傾きから屈折率増分dn/dcを計算する。次に、下記装置運転条件にて、絶対分子量を測定する。RI検出器のクロマトグラムとMALS検出器のクロマトグラムを参考に、分子量と回転半径の対数グラフ(コンフォメーションプロット)から、最小二乗法による回帰直線を求め、その傾きを算出する。
【0067】
<測定条件>
装置名 :HLC8320GPC
移動相 :クロロホルム
カラム :TOSOH TSKguardcolumnHHR-H
+TSKgelGMHHR-H(2本)
+TSKgelG2500HHR
流速 :0.6mL/min.
検出器 :DAWN HELEOS(MALS検出器)
+Optilab rEX(RI検出器、波長254nm)
試料濃度 :0.5mg/mL
試料溶媒 :移動相と同じ。試料5mgを移動相10mLで溶解
注入量 :200μL
フィルター :0.45μm
STD試薬 :標準ポリスチレン Mw 37,900
STD濃度 :1.5mg/mL
STD溶媒 :移動相と同じ。試料15mgを移動相10mLで溶解
分析時間 :100min
【0068】
絶対分子量が同じ樹脂において、高分子鎖の分岐が進行しているものほど重心から各セグメントまでの距離(回転半径)は小さくなる。そのため、GPC-MALSにより得られる絶対分子量と回転半径の対数プロットの傾きは、分岐の程度を示し、傾きが小さいほど分岐が進行していることを意味する。本発明においては、上記コンフォメーションプロットで算出された傾きが小さいほどポリフェニレンエーテルの分岐が多いことを示し、この傾きが大きいほどポリフェニレンエーテルの分岐が少ないことを示す。
【0069】
本発明の末端変性ポリフェニレンエーテルにおいて、上記傾きは、例えば、0.6未満であり、0.55以下、0.50以下、0.45以下、又は、0.40以下であることが好ましい。上記傾きがこの範囲である場合、ポリフェニレンエーテルが十分な分岐を有していると考えられる。なお、上記傾きの下限としては特に限定されないが、例えば、0.05以上、0.10以上、0.15以上、又は、0.20以上である。
【0070】
なお、コンフォメーションプロットの傾きは、ポリフェニレンエーテルの合成の際の、温度、触媒量、攪拌速度、反応時間、酸素供給量、溶媒量を変更することで調整可能である。より具体的には、温度を高める、触媒量を増やす、攪拌速度を速める、反応時間を長くする、酸素供給量を増やす、及び/又は、溶媒量を少なくすることで、コンフォメーションプロットの傾きが低くなる(ポリフェニレンエーテルがより分岐し易くなる)傾向となる。
【0071】
<<用途>>
本発明の末端変性ポリフェニレンエーテルは、種々の溶媒への溶解性を維持しつつ、低誘電特性を更に低減させたことから、様々な用途に適用することができる。
【0072】
以下、本発明の末端変性ポリフェニレンエーテルの具体的な用途として、硬化性組成物、および該硬化性組成物を硬化して得られる硬化物について説明する。
【0073】
<硬化性組成物>
硬化性組成物は、本発明の末端変性ポリフェニレンエーテルと、過酸化物および/または架橋型硬化剤とを含むことが好ましい。また、硬化性組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲内で、その他の成分を含んでいてもよい。
【0074】
本発明の末端変性ポリフェニレンエーテルは前述の通りのため、過酸化物、架橋型硬化剤およびその他の成分について説明する。
【0075】
過酸化物は、本発明の末端変性ポリフェニレンエーテルに含まれる不飽和炭素結合を開き、架橋反応を促進する作用を有する。
【0076】
過酸化物としては、メチルエチルケトンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイド、アセチルアセトパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン、t-ブチルハイドロパーオキサイド、キュメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)-3-ブテン、アセチルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、m-トルイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、t-ブチレンパーオキシベンゾエート、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、α,α'-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼン、等があげられる。過酸化物は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0077】
過酸化物としては、これらの中でも、取り扱いの容易さと反応性の観点から、1分間半減期温度が130℃から180℃のものが望ましい。このような過酸化物は、反応開始温度が比較的に高いため、乾燥時など硬化が必要でない時点での硬化を促進し難く、ポリフェニレンエーテル樹脂組成物の保存性を貶めず、また、揮発性が低いため乾燥時や保存時に揮発せず、安定性が良好である。
【0078】
過酸化物の添加量は、過酸化物の総量で、硬化性組成物の固形分100質量部に対し、0.01~20質量部とするのが好ましく、0.05~10質量部とするのがより好ましく、0.1~10質量部とするのが特に好ましい。過酸化物の総量をこの範囲とすることで、低温での効果を十分なものとしつつ、塗膜化した際の膜質の劣化を防止することができる。
【0079】
また、必要に応じてアゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリル等のアゾ化合物やジクミル、2,3-ジフェニルブタン等のラジカル開始剤を含有してもよい。
【0080】
架橋型硬化剤は、ポリフェニレンエーテルを3次元架橋し、硬化物としての強度や耐熱性等を付与するものである。
【0081】
架橋型硬化剤としては、ポリフェニレンエーテルとの相溶性が良好なものが用いられるが、ジビニルベンゼンやジビニルナフタレンやジビニルビフェニルなどの多官能ビニル化合物;フェノールとビニルベンジルクロライドの反応から合成されるビニルベンジルエーテル系化合物;スチレンモノマー,フェノールとアリルクロライドの反応から合成されるアリルエーテル系化合物;さらにトリアルケニルイソシアヌレートなどが良好である。架橋型硬化剤としては、ポリフェニレンエーテルとの相溶性が特に良好なトリアルケニルイソシアヌレートが好ましく、なかでも具体的にはトリアリルイソシアヌレート(以下、TAIC(登録商標))やトリアリルシアヌレート(以下TAC)が好ましい。これらは、低誘電特性を示し、かつ耐熱性を高めることができる。特にTAIC(登録商標)は、ポリフェニレンエーテルとの相溶性に優れるので好ましい。
【0082】
また、架橋型硬化剤としては、(メタ)アクリレート化合物(メタクリレート化合物およびアクリレート化合物)を用いてもよい。特に、3~5官能の(メタ)アクリレート化合物を使用するのが好ましい。3~5官能のメタクリレート化合物としては、トリメチロールプロパントリメタクリレート等を用いることができ、一方、3~5官能のアクリレート化合物としては、トリメチロールプロパントリアクリレート等を用いることができる。これらの架橋剤を用いると耐熱性を高めることができる。架橋型硬化剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0083】
ポリフェニレンエーテルと架橋型硬化剤の配合比率は、質量部で20:80~90:10で含有することが好ましく、30:70~90:10で含有することがより好ましい。ポリフェニレンエーテルの配合量が20質量部以上であると適度な強靭性が得られ、90質量部以下であると耐熱性に優れる。
【0084】
硬化性組成物は、通常、ポリフェニレンエーテルが溶媒(溶剤)に溶解した状態で提供または使用される。本発明のポリフェニレンエーテルは、従来のポリフェニレンエーテルに比べて溶剤に対する溶解性が高いため、硬化性組成物の用途に応じて、使用する溶剤の選択肢を幅広いものとすることができる。
【0085】
本発明の硬化性組成物に使用可能な溶剤の一例としては、クロロホルム、塩化メチレン、トルエン等の従来使用可能な溶媒の他、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、テトラヒドロフラン(THF)、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PMA)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(CA)、メチルエチルケトン、酢酸エチル、等の比較的安全性の高い溶媒等が挙げられる。溶媒は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0086】
硬化性組成物中の溶媒の含有量は特に限定されず、硬化性組成物の用途に応じて適宜調整可能である。
【0087】
硬化性組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲内で、本発明の末端変性ポリフェニレンエーテル以外の樹脂やその他の添加剤等の公知慣用の原料を含んでいてもよい。例えば、末端変性していないポリフェニレンエーテル、シリカなどの無機充填剤、エラストマー、架橋型または非架橋型のリン含有難燃剤を含んでいてもよい。
【0088】
硬化性組成物中の本発明の末端変性ポリフェニレンエーテルの含有量は、他の成分の含有量にも依存するが、典型的には、組成物の固形分全量基準で、5~30質量%または10~20質量%である。
【0089】
なお、組成物の固形分とは、溶媒(特に有機溶媒)以外の組成物を構成する成分、またはその質量や体積を意味する。
【0090】
なお、このような硬化性組成物は、各原料を適宜混合することにより得られる。
【0091】
<硬化物>
硬化物は、上述した硬化性組成物を硬化することで得られる。
【0092】
硬化性組成物から硬化物を得るための方法は、特に限定されるものではなく、硬化性組成物の組成に応じて適宜変更可能である。一例として、上述したような基材上に硬化性組成物の塗工(例えば、アプリケーター等による塗工)を行う工程を実施した後、必要に応じて硬化性組成物を乾燥させる乾燥工程を実施し、加熱(例えば、イナートガスオーブン、ホットプレート、真空オーブン、真空プレス機等による加熱)によりポリフェニレンエーテルを熱架橋させる熱硬化工程を実施すればよい。なお、各工程における実施の条件(例えば、塗工厚、乾燥温度および時間、加熱温度および時間等)は、硬化性組成物の組成や用途等に応じて適宜変更すればよい。
【0093】
<ドライフィルム、プリプレグ>
本発明のドライフィルムまたはプリプレグは、上述した硬化性組成物を基材に塗布または含侵して得られるものである。
【0094】
ここで基材とは、銅箔等の金属箔、ポリイミドフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム等のフィルム、ガラスクロス、アラミド繊維等の繊維が挙げられる。
【0095】
ドライフィルムは、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に硬化性組成物を塗布乾燥させ、必要に応じてポリプロピレンフィルムを積層することにより得られる。
【0096】
プリプレグは、例えば、ガラスクロスに硬化性組成物を含浸乾燥させることにより得られる。
【0097】
<積層板>
本発明においては、上述のプリプレグを用いて積層板を作製することができる。
【0098】
詳しく説明すると、本発明のプリプレグを一枚または複数枚重ね、さらにその上下の両面または片面に銅箔等の金属箔を重ねて、その積層体を加熱加圧成形することにより、積層一体化された両面に金属箔または片面に金属箔を有する積層板を作製することができる。
【0099】
<電子部品>
このような硬化物は、優れた誘電特性や耐熱性を有するため、電子部品用等に使用可能である。
【0100】
硬化物を有する電子部品としては、特に限定されないが、好ましくは、第5世代通信システム(5G)に代表される大容量高速通信や自動車のADAS(先進運転システム)向けミリ波レーダー等が挙げられる。
【実施例
【0101】
次に、実施例および比較例により、本発明の末端変性ポリフェニレンエーテルについて詳細に説明するが、本発明はこれらには何ら限定されない。
【0102】
<<<ポリフェニレンエーテルの製造>>>
<<PPE-1の合成>>
3Lの二つ口ナスフラスコに、ジ-μ-ヒドロキソ-ビス[(N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン)銅(II)]クロリド(Cu/TMEDA)2.6gと、テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)3.18mLを加えて十分に溶解させ、10ml/minにて酸素を供給した。原料フェノール類である2,6-ジメチルフェノール105gとオルトクレゾール4.89gとをトルエン1.5Lに溶解させ原料溶液を調製した。この原料溶液をフラスコに滴下し、600rpmの回転速度で攪拌しながら40℃で6時間反応させた。反応終了後、メタノール20L:濃塩酸22mLの混合液で再沈殿させてろ過にて取り出し、80℃で24時間乾燥させPPE‐1を得た。
【0103】
<<PPE-2の合成>>
滴下漏斗を備えた1Lの二つ口ナスフラスコに、50gのPPE‐1、変性用化合物としてアリルブロミド4.8g、NMP300mLを加え、60℃で攪拌した。その溶液に5MのNaOH水溶液5mLを滴下した。その後、さらに60℃で5時間攪拌した。次に、塩酸で反応溶液を中和した後、メタノール5L中に再沈殿させて濾過にて取り出し、メタノールと水との質量比が80:20の混合液で3回洗浄後、80℃で24時間乾燥させ、PPE‐2を得た。
【0104】
<<PPE-3の合成>>
原料フェノール類である2,6-ジメチルフェノール42gをトルエン0.23 Lに溶解させた原料溶液を使用した以外は、PPE-1と同様の合成方法に基づきPPE-3を得た。PPE-3は、シクロヘキサノンに不溶で、クロロホルムにのみ可溶であった。
【0105】
<<PPE-4の合成>>
アリルブロミドを2.4g、相関移動触媒としてベンジルトリブチルアンモニウムブロミド0.7g、溶媒としてトルエン250mL、1MのNaOH水溶液 40 mLを用いた以外は、PPE-2と同様の合成方法に基づきPPE-3を変性させ、PPE-4を得た。
【0106】
<<<ポリフェニレンエーテルの性質>>>
各ポリフェニレンエーテルの、末端水酸基価、分子量(Mn、PDI)、コンフォメーションプロットの傾き等を表1に示す。なお、末端水酸基価およびコンフォメーションプロットの傾きについては、以下の方法に従って測定した。
【0107】
<<末端水酸基数の測定>>
二口フラスコに試料約2.0gを精密に量り取り、ピリジン10mLを加えて完全に溶解させ、さらにアセチル化剤(無水酢酸25gをピリジンで溶解し、容量100mLとした溶液)を正確に5mL加え、60℃で2時間加熱を行い、水酸基のアセチル化を行った。反応終了後、反応母液にピリジン10mLを加えて希釈し、温水200mLにて再沈精製することにより、未反応の無水酢酸を分解した。さらにエタノールを5mL用いて二口フラスコを洗浄した。再沈精製を行った温水にフェノールフタレイン溶液数滴を指示薬として加え、0.5mоl/L水酸化カリウムエタノール溶液で滴定し、指示薬のうすい紅色が30秒間続いたときを終点とした。また、空試験は試料を入れずに同様の操作を行った。水酸基価、水酸基等量、一分子当たりの水酸基数は次式より求めた(単位:mgKOH/g)。
水酸基価(mgKOH/g) =[{(b-a)×F×28.05}/S]+D
但し、
S:試料量(g)
a:0.5mоl/L水酸化カリウムエタノール溶液の消費量(mL)
b:空試験0.5mоl/L水酸化カリウムエタノール溶液の消費量(mL)
F:0.5mоl/L水酸化カリウムエタノール溶液のファクター
D:酸価(mgKOH/g)
水酸基等量(g/eq.)=56.1/水酸基価×1000
一分子あたりの水酸基数(個)=Mn/水酸基等量
【0108】
<<コンフォメーションプロットの傾きの測定>>
コンフォメーションプロットの傾きは、以下の手順に基づいて測定した。
【0109】
(測定条件)
装置名 :HLC8320GPC
移動相 :クロロホルム
カラム :TOSOH TSKguardcolumnHHR-H
+TSKgelGMHHR-H(2本)
+TSKgelG2500HHR
流速 :0.6 mL / min.
検出器 :DAWN HELEOS(MALS検出器I)
+Optilab rEX(RI検出器、波長254nm)
試料濃度 :0.5 mg/mL
試料溶媒 :移動相と同じ。試料5 mgを移動相10 mLで溶解
注入量 :200 μL
フィルター:0.45 μm
STD試薬:標準ポリスチレン Mw 37,900
STD濃度:1.5 mg/mL
STD溶媒:移動相と同じ。試料 15 mgを移動相 10 mLで溶解
分析時間 :100min
【0110】
<分析手順>
PPE-1、2のクロロホルム溶液をおよそ0.1、0.15、0.2、0.25mg/mLの間隔で調製後、 0.5 mL/minで送液しながら屈折率差と濃度のグラフを作成し、傾きから屈折率増分dn/dcを計算した。 次に、上記装置運転条件にて、絶対分子量測定をした。RI検出器のクロマトグラムとMALS検出器のクロマトグラムを参考に分子量と回転半径の対数グラフ(コンフォメーションプロット)から傾きを算出した。
【0111】
【表1】
【0112】
<<<評価試験>>>
各ポリフェニレンエーテルについて、以下の評価試験を実施した。評価結果を表1または表2に示す。
【0113】
<<溶解性>>
各合成物のクロロホルム、トルエン、シクロヘキサノン、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、テトラヒドロフラン(THF)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PMA)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(CA)、メチルエチルケトン、酢酸エチルに対する溶解性試験を行った。
【0114】
200mLのサンプル瓶に100gの各種溶剤と各種合成物を入れ、攪拌子を入れて10分間攪拌した後、25℃で10分間放置した。溶液を目視にて観察し、溶解性を評価した。
【0115】
<評価基準>
◎:1gの合成物を溶解した溶液が透明である
〇:0.01gの合成物を溶解した溶液が透明である
△:0.01gの合成物を溶解した溶液に濁りがある
×:1gの合成物を溶解した溶液に沈殿物がある
【0116】
<<硬化物(硬化膜)の作製>>
実施例、参考例、比較例に示す種々の成分を表2に示す割合(質量部)にて配合し、攪拌機にて15分間攪拌し予備混合し、次いで3本ロールミルにて混錬し、熱硬化性樹脂組成物を調製した。厚さ18μm銅箔のシャイン面に、得られた樹脂組成物のワニスを、硬化物の厚みが50μmになるようにアプリケーターで塗布した。次に、熱風式循環式乾燥炉で90℃30分乾燥させた。その後、イナートオーブンを用いて窒素を完全に充満させて200℃まで昇温後、60分硬化させた。その後、銅箔を剥離して硬化膜を得た。
【0117】
<<引張強度>>
硬化膜を長さ8cm、幅0.5cm、厚み50μmに切り出し、株式会社島津製作所製 EZ-SXを用いて、チャック間距離50mm、試験速度:1mm/minで測定した。
【0118】
<引張強度>
引張強度に関しては、以下の評価基準により評価した。
【0119】
(評価基準)
◎:引張強度が40MPa以上
○:引張強度が20MPa以上40MPa未満
×:引張強度が20MPa未満
【0120】
<誘電特性>
誘電特性である比誘電率Dkおよび誘電正接Dfは、以下の方法に従って測定した。硬化膜を長さ80mm、幅45mm、厚み50μmに切断したものを試験片としてSPDR(Split Post Dielectric Resonator)共振器法により測定した。測定器には、キーサイトテクノロジー合同会社製のベクトル型ネットワークアナライザE5071C、SPDR共振器、計算プログラムはQWED社製のものを用いた。条件は、周波数10GHz、測定温度25℃とした。
【0121】
(評価基準)
◎:Dkが2.7未満
〇:Dkが2.7以上3.0未満
×:Dkが3.0以上
【0122】
<<耐クラック性(冷熱サイクル試験)>>
厚さ18μm銅箔のマット面に、得られた各樹脂組成物のワニスを、硬化物の厚みが50μmになるようにアプリケーターで塗布し、熱風式循環式乾燥炉で90℃30分乾燥させ、各樹脂組成物からなる銅箔付き樹脂シートを作製した。そして、BT(ビスマレイミドトリアジン)レジンの銅張積層板上に、前記銅箔付き樹脂シートを真空ラミネータ(ニッコー・マテリアルズ(株)製、CVP-600)を用いて、温度90℃にてラミネートした後、イナートオーブンを用いて窒素を完全に充満させて200℃まで昇温後、60分硬化させた。次いで、銅箔部をエッチング処理しての導体回路幅50μm、回路間200μmのくし形回路を形成した。その後、この導体回路上に同じ樹脂組成物からなる銅箔付き樹脂シートを前記と同条件にてラミネートし、硬化させた。そして、最外層の銅箔部をエッチングし、下層の導体回路と垂直に交差する導体回路幅50μm、回路間200μmのくし形回路を形成した。このように作製した冷熱サイクル試験用基板を-65℃と150℃の間で温度サイクルが行われる冷熱サイクル機に入れ、冷熱サイクル試験を行った。そして600サイクル時、800サイクル時及び1000サイクル時の外観を観察した。
【0123】
(評価基準)
◎:1000サイクルで異常なし
〇:800サイクルで異常なし、1000サイクルでクラック発生
△:600サイクルで異常なし、800サイクルでクラック発生
×:600サイクルでクラック発生
【0124】
<<耐光性(耐光試験)>>
PETフィルムに、得られた各樹脂組成物のワニスを、硬化物の厚みが50μmになるようにアプリケーターで塗布し、熱風式循環式乾燥炉で90℃30分乾燥させ、各樹脂組成物からなる銅箔付き樹脂シートを作製した。そして、BT(ビスマレイミドトリアジン)レジンの銅張積層板上に、前記銅箔付き樹脂シートを真空ラミネータ(ニッコー・マテリアルズ(株)製、CVP-600)を用いて、温度90℃にてラミネートした後、PETフィルムを剥離し、イナートオーブンを用いて窒素を完全に充満させて200℃まで昇温後、60分硬化させ試験片を得た。
コンベア型UV照射機QRM-2082-E-01 ((株)オーク製作所製)を用い、メタルハライドランプ、コールドミラー、80W/cm×3灯、コンベアスピード6.5m/分(積算光量1000mJ/cm)の条件で、試験片にUVを100回繰り返して照射した。試験片を目視で観察した。
【0125】
(評価基準)
◎:目視で黄変が確認されない。
×:目視で黄変が確認される。
【0126】
<<耐環境性(高温高湿試験)>>
5cm×5cmの硬化膜を85℃85%下に30日保管した。高温高湿試験前後の誘電特性を測定した。
【0127】
(評価基準)
◎:Dfの増加率が100%未満
〇:Dfの増加率が100%以上200%未満
×:Dfの増加率が200%以上
【0128】
【表2】