(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-31
(45)【発行日】2024-06-10
(54)【発明の名称】置換型ε酸化鉄磁性粒子粉および置換型ε酸化鉄磁性粒子粉の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 49/00 20060101AFI20240603BHJP
C01G 49/06 20060101ALI20240603BHJP
C01G 51/00 20060101ALI20240603BHJP
H01F 1/11 20060101ALI20240603BHJP
【FI】
C01G49/00 A
C01G49/06 Z
C01G51/00 B
H01F1/11
(21)【出願番号】P 2020150563
(22)【出願日】2020-09-08
【審査請求日】2023-07-12
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業、「IoT社会を支えるミリ波センシング用ノイズ対策部材の開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129470
【氏名又は名称】小松 高
(72)【発明者】
【氏名】木村 郁美
(72)【発明者】
【氏名】兒玉 大輔
(72)【発明者】
【氏名】堀 達朗
(72)【発明者】
【氏名】後藤 昌大
【審査官】玉井 一輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-024981(JP,A)
【文献】特開2019-172553(JP,A)
【文献】特開2016-130208(JP,A)
【文献】国際公開第2018/062478(WO,A1)
【文献】特開2014-224027(JP,A)
【文献】OHKOSHI, S. et al.,Nanometer-size hard magnetic ferrite exhibiting high optical-transparency and nonlinear optical-magnetoelectric effect,Scientific Reports,2015年,5, 14414,1-9
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/00-47/00
49/10-99/00
C01G 49/00-49/08
H01F 1/00- 1/117
1/40- 1/42
G11B 5/706
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ε-Fe
2O
3のFeサイトの一部を、CoおよびCo以外の他の金属元素で置換したεタイプの鉄系酸化物を含む置換型ε酸化鉄磁性粒子粉であって、前記置換型ε酸化鉄磁性粒子粉に含まれるFeのモル数をFe、Feサイトを置換したCoのモル数をCo、Feサイトを置換したCoおよびCo以外の他の金属元素のモル数の総和をMeとしたとき、Co/(Fe+Me)で定義されるCoによるFeの置換量が0.001以上0.020以下
、飽和磁化σsが17.3Am
2
/kg以上であり、かつ、X線回折法により測定されるαタイプの鉄系酸化物の含有率が7.5%以下である、置換型ε酸化鉄磁性粒子粉。
【請求項2】
前記のFeサイトを一部置換するCo以外の他の金属元素がTiおよびGaである、請求項1に記載の置換型ε酸化鉄磁性粒子粉。
【請求項3】
前記のαタイプの鉄系酸化物の含有率が7.0%以下である、請求項1に記載の置換型ε酸化鉄磁性粒子粉。
【請求項4】
前記のαタイプの鉄系酸化物の含有率が6.0%以下である、請求項1に記載の置換型ε酸化鉄磁性粒子粉。
【請求項5】
Feサイトの一部がCoおよびCo以外の他の金属元素で置換されたε酸化鉄の粒子を含む鉄系酸化物磁性粉の製造方法であって、
原料溶液として、3価の鉄イオンと前記のFeサイトを一部置換するCoおよび他の金属のイオンを含み、Coと他の金属イオンのモル濃度の総和をMとしたとき、Feイオン濃度と前記のMとの総和に対するCoイオン濃度のモル比Co/(Fe+M)が0.001以上0.020以下である酸性の水溶液を用い、前記の原料溶液にアルカリを添加してpH2.0以上7.0以下まで中和し、置換金属元素を含むオキシ水酸化鉄もしくはオキシ水酸化鉄と置換金属元素の水 酸化物の混合物を含む分散液を得る第一の中和工程と、
前記の置換金属元素を含むオキシ水酸化鉄もしくはオキシ水酸化鉄と置換金属元素の水酸化物の混合物を含む前記の分散液に、加水分解基を持つシリコン化合物を添加するシリコン化合物添加工程と、
前記のシリコン化合物を添加した分散液にアルカリを添加してpH8.0以上10.0以下まで中和する第二の中和工程と、
前記の第二の中和工程で得られた反応液をpH8.0以上10.0以下で保持し、置換金属元素を含むオキシ水酸化鉄もしくはオキシ水酸化鉄と置換金属元素の水酸化物の混合物に前記シリコン化合物の化学反応生成物を被覆する熟成工程と、
前記のシリコン化合物の化学反応生成物を被覆した置換金属元素を含むオキシ水酸化鉄もしくはオキシ水酸化鉄と置換金属元素の水酸化物の混合物を
900℃以上1200℃以下で加熱し、シリコン酸化物を被覆したFeサイトの一部が他の金属元素で置換されたε酸化鉄とする工程と、
を含む、ε酸化鉄のFeサイトの一部を他の金属元素で置換した、置換型ε酸化鉄磁性粒子粉の製造方法。
【請求項6】
前記のFeサイトを一部置換するCo以外の他の金属元素がTiおよびGaである、請求項5に記載の置換型ε酸化鉄磁性粒子粉の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高密度磁気記録媒体、電波吸収体等に好適な、Coを含有する置換型ε酸化鉄磁性粒子粉、特に、置換型ε酸化鉄にとっては異相である非磁性のαタイプの鉄系酸化物の含有量が低減された置換型ε酸化鉄磁性粒子粉およびその製造方法に関する。なお、本明細書では、ε-Fe2O3のFeサイトの一部を他の金属元素で置換した酸化物をεタイプの鉄系酸化物、結晶系がα-Fe2O3のそれと同一の置換型α酸化鉄粒子をαタイプの鉄系酸化物とそれぞれ呼ぶことがある。
【背景技術】
【0002】
ε-Fe2O3は酸化鉄の中でも極めて稀な相であるが、室温において、ナノメートルオーダーのサイズの粒子が20kOe(1.59×106A/m)程度の巨大な保磁力(Hc)を示すため、ε-Fe2O3を単相で合成する製造方法の検討が従来よりなされてきている(特許文献1)。しかし、ε-Fe2O3を磁気記録媒体に用いた場合、現時点ではそれに対応する、高レベルの飽和磁束密度を有する磁気ヘッド用の材料が存在しないため、実用的にはε-Fe2O3のFeサイトの一部をAl、Ga、In等の3価の金属で置換し、保磁力を調整する必要があり、電波吸収材料として使用する場合にも、要求される吸収波長に応じてFeサイトの置換量を変化させる必要がある(特許文献2)。
一方、εタイプの鉄系酸化物の磁性粒子は極めて微細であるため、耐環境安定性、熱安定性の向上のために、ε-Fe2O3のFeサイトの一部を、耐熱性に優れた他の金属で置換することも検討されており、一般式ε-AxByFe2-x-yO3またはε-AxByCzFe2-x-y-zO3(ここでAはCo、Ni、Mn、Zn等の2価の金属元素、BはTi等の4価の金属元素、CはIn、Ga、Al等の3価の金属元素)で表される、耐環境安定性、熱安定性にも優れた各種のε-Fe2O3の一部置換体が提案されている(特許文献3)。
ε-Fe2O3およびεタイプの鉄系酸化物は熱力学的な安定相ではないため、その製造には特殊な方法を必要とする。上述の特許文献1~3には、液相法で生成したオキシ水酸化鉄もしくは置換元素を含むオキシ水酸化鉄の微細結晶を前駆体として用い、その前駆体にゾル-ゲル法によりシリコン酸化物を被覆した後に熱処理するε-Fe2O3またはεタイプの鉄系酸化物の製造方法が開示されており、液相法としては反応媒体として有機溶媒を用いる逆ミセル法と、反応媒体として水溶液のみを用いる方法がそれぞれ開示されている。
また、前記のε-Fe2O3およびεタイプの鉄系酸化物は、例えば特許文献4~5において、100GHzを超える高周波域で電波吸収のピークを有することが示されており、電波吸収体としての用途も期待されている。
しかし、特許文献1~3に開示された製造方法により得られる磁性粒子粉は、ε-Fe2O3およびεタイプの鉄系酸化物以外に、不純物として非磁性のαタイプの鉄系酸化物を相当量含むものである。
特許文献6には、置換型ε酸化鉄磁性粒子粉に含まれる、不純物としてのαタイプの鉄系酸化物の量を低減させる技術が開示されている。
特許文献7には、広い範囲のpH領域でゾル-ゲル法によりシリコン酸化物を被覆する、εタイプの鉄系酸化物の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-174405号公報
【文献】国際公開第2008/029861号
【文献】国際公開第2008/149785号
【文献】特開2008-277726号公報
【文献】特開2009-224414号公報
【文献】特開2016-130208号公報
【文献】特開2018-092691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の特許文献3には、Feサイトの一部を様々な金属元素で置換した置換型ε酸化鉄、すなわちεタイプの鉄系酸化物が開示されている。その中で、置換元素としてCoを含むものは熱安定性が高く、磁気記録材料や電波吸収材料として有望視されている。しかし、2013年に公示された労働安全衛生法施行令及び関連規則の一部改正により、Coが特定化学物質の第2類物質として追加指定されたことから、前記の置換型ε酸化鉄のCo置換量を低減する要求がある。しかし、εタイプの鉄系酸化物は熱力学的に準安定相であり、CoによるFeの置換量を低減させると、特許文献4に開示された製造方法を用いても、ε-Fe2O3と同じ空間群を取ることが困難になり、α酸化鉄もしくはFeサイトの一部が他の金属元素で置換されたα酸化鉄、すなわちαタイプの鉄系酸化物の含有量が増大するという問題があった。
αタイプの鉄系酸化物は非磁性であるため、置換型ε酸化鉄磁性粒子粉を電波吸収材料として使用した場合、電波吸収特性に寄与せず、磁気記録媒体に使用した場合にも、記録密度を高めることに寄与しないので、その含有量を低減する必要がある。
すなわち、本発明において解決すべき技術課題とは、Coの置換量を低減しても、非磁性のαタイプの鉄系酸化物の含有量の増大を抑制することが可能な置換型ε酸化鉄磁性粒子粉および置換型ε酸化鉄磁性粒子粉の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、置換型ε酸化鉄磁性粒子粉を得るためには、シリコン酸化物を被覆した状態で当該磁性粒子粉の前駆体を加熱する必要があることに着目して鋭意研究を行ったところ、被覆に用いる加水分解基を持つシリコン化合物を、pH2.0以上7.0以下の時点で当該前駆体を含む水溶液に添加することにより、αタイプの鉄系酸化物の含有量を低減できることが判明した。
以上の知見を基に、本発明者等は、以下に述べる本発明を完成させた。
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明においては、
ε-Fe2O3のFeサイトの一部を、CoおよびCo以外の他の金属元素で置換したεタイプの鉄系酸化物を含む置換型ε酸化鉄磁性粒子粉であって、前記置換型ε酸化鉄磁性粒子粉に含まれるFeのモル数をFe、Feサイトを置換したCoのモル数をCo、Feサイトを置換したCoおよびCo以外の他の金属元素のモル数の総和をMeとしたとき、Co/(Fe+Me)で定義されるCoによるFeの置換量が0.001以上0.020以下であり、かつ、X線回折法により測定されるαタイプの鉄系酸化物の含有率が7.5%以下である、置換型ε酸化鉄磁性粒子粉が提供される。
前記のFeサイトを一部置換するCo以外の他の金属元素は、TiおよびGaであっても構わない。
前記のαタイプの鉄系酸化物の含有率は、7.0%以下であることが好ましく、6.0%以下であることがさらに好ましい。
本発明においてはまた、
Feサイトの一部がCoおよびCo以外の他の金属元素で置換されたε酸化鉄の粒子を含む鉄系酸化物磁性粉の製造方法であって、
原料溶液として、3価の鉄イオンと前記のFeサイトを一部置換するCoおよび他の金属のイオンを含み、Coと他の金属イオンのモル濃度の総和をMとしたとき、Feイオン濃度と前記のMとの総和に対するCoイオン濃度のモル比Co/(Fe+M)が0.001以上0.020以下である酸性の水溶液を用い、前記の原料溶液にアルカリを添加してpH2.0以上7.0以下まで中和し、置換金属元素を含むオキシ水酸化鉄もしくはオキシ水酸化鉄と置換金属元素の水 酸化物の混合物を含む分散液を得る第一の中和工程と、
前記の置換金属元素を含むオキシ水酸化鉄もしくはオキシ水酸化鉄と置換金属元素の水酸化物の混合物を含む前記の分散液に、加水分解基を持つシリコン化合物を添加するシリコン化合物添加工程と、
前記のシリコン化合物を添加した分散液にアルカリを添加してpH8.0以上10.0以下まで中和する第二の中和工程と、
前記の第二の中和工程で得られた反応液をpH8.0以上10.0以下で保持し、置換金属元素を含むオキシ水酸化鉄もしくはオキシ水酸化鉄と置換金属元素の水酸化物の混合物に前記シリコン化合物の化学反応生成物を被覆する熟成工程と、
前記のシリコン化合物の化学反応生成物を被覆した置換金属元素を含むオキシ水酸化鉄もしくはオキシ水酸化鉄と置換金属元素の水酸化物の混合物を加熱し、シリコン酸化物を被覆したFeサイトの一部が他の金属元素で置換されたε酸化鉄とする工程と、
を含む、ε酸化鉄のFeサイトの一部を他の金属元素で置換した、置換型ε酸化鉄磁性粒子粉の製造方法が提供される。
前記のFeサイトを一部置換するCo以外の他の金属元素は、TiおよびGaであっても構わない。
【発明の効果】
【0007】
以上、本発明の製造方法を用いることにより、Coの置換量を低減しても、αタイプの鉄系酸化物の含有量の増大を抑制した置換型ε酸化鉄磁性粒子粉を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[酸化鉄磁性粒子粉]
本発明の製造方法は、ε-Fe2O3のFeサイトの一部を、CoおよびCo以外の他の金属元素で置換したεタイプの鉄系酸化物を主として含む置換型ε酸化鉄磁性粒子粉を製造するためのものであり、当該磁性粒子粉には、その製造上不可避的な生成物である異相が混在する。異相は主としてαタイプの鉄系酸化物であり、本発明により得られる酸化鉄磁性粒子粉は実質的にεタイプの鉄系酸化物磁性粒子とαタイプの鉄系酸化物からなる。本発明の目的は、異相であるαタイプの鉄系酸化物の含有量の低減である。
ε-Fe2O3のFeサイトの一部を他の金属元素で置換した一部置換体がε構造を有するかどうかについては、X線回折法(XRD)、高速電子回折法(HEED)等を用いて確認することが可能である。本発明においては、εタイプおよびαタイプの鉄系酸化物の同定は、XRDによって行っている。
本発明の製造方法により製造が可能な一部置換体については、以下が挙げられる。
一般式ε-AxByFe2-x-yO3(ここでAはCoおよびNi、好ましくはCo、BはTi、Snから選択される1種以上の4価の金属元素)で表されるもの。
一般式ε-AxCzFe2-x-zO3(ここでAはCoおよびNi、好ましくはCo、CはIn、Ga、Alから選択される1種以上の3価の金属元素)で表されるもの。
一般式ε-AxByCzFe2-x-y-zO3(ここでAはCoおよびNi、好ましくはCo、BはTi、Snから選択される1種以上の4価の金属元素、CはIn、Ga、Alから選択される1種以上の3価の金属元素)で表されるもの。
ここでA、BおよびCの三元素置換タイプは、磁性粒子の保磁力を任意に制御でき、ε-Fe2O3と同じ空間群を得易く、かつ熱的安定性に優れるので、最もバランスの取れた置換型ε酸化鉄磁性粒子である。
【0009】
後述する本発明の製造方法は、前記のFeサイトを置換する金属元素の置換量がいかなる値であっても適用可能であるが、αタイプの鉄系酸化物が生成し易い置換量で適用するのが効果的である。具体的には、前記置換型ε酸化鉄磁性粒子粉に含まれるFeのモル数をFe、Feサイトを置換したCoのモル数をCo、Feサイトを置換したCoおよびCo以外の他の金属元素のモル数の総和をMeとしたとき、Co/(Fe+Me)で定義されるCoによるFeの置換量が0.001以上0.020以下で適用した場合、従来法では得られなかった、XRDにより測定されるαタイプの鉄系酸化物の含有率が7.5%以下の置換型ε酸化鉄磁性粒子粉を得ることができる。
Co/(Fe+Me)を0.001以上とすることにより、置換型ε酸化鉄磁性粒子粉の熱安定性を向上させることができる。また、Co/(Fe+Me)を0.020以下とすることで、当該置換型ε酸化鉄磁性粒子粉は特定化学物質の第2類物質に非該当となり、化学物質管理に必要なコストを抑制することができる。さらにまた、XRDにより測定されるαタイプの鉄系酸化物の含有率を7.5%以下とすることにより、置換型ε酸化鉄磁性粒子粉を電波吸収材料として使用した場合に電波吸収能を向上させることができる。電波吸収能向上の観点から、XRDにより測定されるαタイプの鉄系酸化物の含有率を7.0%以下とすることが好ましく、6.0%以下とすることがより好ましい。
本発明の置換型 ε酸化鉄磁性粒子粉を電波吸収材料として使用した電波吸収体は優れた電波吸収能を発揮することが期待され、本発明の置換型ε酸化鉄磁性粒子粉を磁性材料として使用した磁気記録媒体は優れた電磁変換特性を発揮することが期待される。
【0010】
[平均粒子径]
本発明においては、本発明の製造法により得られる酸化鉄磁性粒子粉の平均粒子径は特に規定するものではないが、各粒子が単磁区構造となる程度に微細であることが好ましい。通常は、透過電子顕微鏡で測定した平均粒子径が10nm以上40nm以下のものが得られる。
【0011】
[出発物質および前駆体]
本発明の製造方法においては、鉄系酸化物磁性粒子粉の出発物質として3価の鉄イオンと、最終的にFeサイトを置換するCoイオンおよびCo以外の他の金属元素のイオンを含む酸性の水溶液(以下、原料溶液と言う。)を用いる。もし、出発物質として3価のFeイオンに替えて2価のFeイオンを用いた場合には、沈殿物として3価の鉄の水和酸化物のほかに2価の鉄の水和酸化物やマグネタイト等をも含む混合物が生成し、最終的に得られる鉄系酸化物粒子の形状にバラつきが生じてしまうため、本発明のようなαタイプの鉄系酸化物の含有量が低減された、置換型ε酸化鉄磁性粒子粉を得ることができない。ここで、酸性とは液のpHが7.0未満であることを指す。これらの鉄イオンもしくは置換元素の金属イオンの供給源としては、入手の容易さおよび価格の面から、硝酸塩、硫酸塩、塩化物のような水溶性の無機酸塩を用いることが好ましい。これらの金属塩を水に溶解すると、金属イオンが解離し、水溶液は酸性を呈する。この金属イオンを含む酸性水溶液にアルカリを添加して中和すると、オキシ水酸化鉄と置換元素の水酸化物の混合物、もしくは、Feサイトの一部を他の金属元素で置換されたオキシ水酸化鉄(本明細書では、以下これらを、置換元素を含むオキシ水酸化鉄と総称する。)の沈殿が得られる。本発明の製造方法においては、これらの置換元素を含むオキシ水酸化鉄を置換型ε酸化鉄磁性粒子粉の前駆体として用いる。
原料溶液中の全金属イオン濃度は、本発明では特に規定するものではないが、0.01mol/L以上0.5mol/L以下が好ましい。0.01mol/L未満では1回の反応で得られる置換型ε酸化鉄磁性粒子粉の量が少なく、経済的に好ましくない。全金属イオン濃度が0.5mol/Lを超えると、急速な水酸化物の沈澱発生により、反応溶液がゲル化しやすくなるので好ましくない。
【0012】
[第一の中和工程]
本発明の製造方法においては、第一の中和工程として、前記の原料溶液にアルカリを添加してpH2.0以上7.0以下まで中和し、置換金属元素を含むオキシ水酸化鉄もしくはオキシ水酸化鉄と置換金属元素の水酸化物の混合物を含む分散液を得る。
中和に用いるアルカリとしては、アルカリ金属またはアルカリ土類の水酸化物、アンモニア水、炭酸水素アンモニウムなどのアンモニウム塩のいずれであっても良いが、最終的に熱処理してεタイプの鉄系酸化物としたときに不純物が残りにくいアンモニア水や炭酸水素アンモニウムを用いることが好ましい。これらのアルカリは、出発物質の水溶液に固体で添加しても構わないが、反応の均一性を確保する観点からは、水溶液の状態で添加することが好ましい。
前記のように、原料溶液にアルカリを添加して中和処理を行うと、pHの上昇とともに置換元素を含むオキシ水酸化鉄の沈澱物が析出するので、中和処理中は前記の沈殿物を含む分散液を公知の機械的手段により撹拌する。
【0013】
[シリコン化合物の添加工程]
本発明の製造方法においては、前記の工程で生成した置換型ε酸化鉄磁性粒子粉の前駆体である置換元素を含むオキシ水酸化鉄は、そのままの状態で熱処理を施してもεタイプの鉄系酸化物に相変化しにくいので、熱処理に先立って置換元素を含むオキシ水酸化鉄にシリコン化合物の加水分解反応および縮合反応により得られた化学反応生成物による被覆を施す必要がある。なおここでシリコン化合物の化学反応生成物とは、化学量論組成のシリコン酸化物だけではなく、後述するシラノール誘導体やポリシロキサン構造等の非量論組成のもの、また加熱処理を施してシリコン酸化物に変化したもの等の総称として使用する。
特許文献1~4に記載の製造方法においては、シリコン化合物の化学反応生成物の被覆法としてゾル-ゲル法を用いており、原料溶液の中和処理が完了し、反応溶液のpHがアルカリ側になった後に加水分解基を持つシリコン化合物を反応溶液に添加している。一方、本発明の製造方法においては、シリコン酸化物の被覆法として同じくゾル-ゲル法を用いるが、原料溶液の中和が完了する以前の、反応溶液のpHが酸性側のpH2.0以上7.0以下の範囲にある時点において加水分解基を持つシリコン化合物の添加を開始することを特徴とする。
ゾル-ゲル法の場合、置換元素を含むオキシ水酸化鉄含む分散液に、加水分解基を持つシリコン化合物、例えばテトラエトキシシラン(TEOS)、テトラメトキシシラン(TMOS)等のアルコシキシラン類や、各種のシランカップリング剤等のシラン化合物を添加して撹拌下で加水分解反応を生起させ、生成したシラノール誘導体を縮合してポリシロキサン結合を形成させることにより、置換元素を含むオキシ水酸化鉄の表面を被覆する。
【0014】
本発明者等は、前記の加水分解基を持つシリコン化合物の添加をpH2.0以上7.0以下で開始すると、最終的に得られる置換型ε酸化鉄磁性粒子粉に含まれるαタイプの鉄系酸化物の含有率を低減することが可能であることを見出したが、その理由は以下のように考えられる。
前記の加水分解基を持つシリコン化合物の加水分解反応と、加水分解生成物であるシラノール誘導体の縮合反応の速度は、反応系のpHに依存して変化する。加水分解反応速度は一般に、酸性側の低pH領域で大きく、pHの上昇とともに低下し、アルカリ性側の高pH域で再び増大する。これに対して縮合反応の速度は、酸性側の低pH領域で小さく、pHの上昇とともに増加し、中性からアルカリ性側のpH域で大きくなる。
置換元素を含むオキシ水酸化鉄の沈殿を含む分散液に、酸性側の低pH領域で加水分解基を持つシリコン化合物を添加すると、前記のシリコン化合物の加水分解が急速に進行し、有機成分の少ないシラノール誘導体が生成する一方、生成したシラノール誘導体の縮合反応は進行しない。ここで、シラノール誘導体は親水基であるOH基を有し、水溶液中で均一に分布するため、置換元素を含むオキシ水酸化鉄の沈殿とシラノール誘導体が分散液中で均一に分散して共存する状態になると考えられる。
その後、分散液のpHを更に上昇させると、シラノール誘導体の縮合反応が優勢になるため、置換元素を含むオキシ水酸化鉄の沈殿がシラノール誘導体またはその縮合反応生成物により均一に被覆されることになる。そのため、最終的に熱処理を施して得られる置換型ε酸化鉄磁性粒子粉に含まれるαタイプの鉄系酸化物の含有率が低減されるものと考えられる。
なお、前記の特許文献5には、広い範囲のpH領域でゾル-ゲル法によりシリコン酸化物を被覆することが開示されているが、その場合、シリコン化合物の添加は中和処理の終了後に一定のpHで行われており、本発明のように、シリコン化合物の加水分解反応速度と縮合反応速度の両方を考慮するとの技術思想は開示されていない。
【0015】
加水分解基を持つシリコン化合物の添加を開始する時点のpHは、2.0以上であることが好ましい。pHが2.0未満では、置換型ε酸化鉄磁性粒子粉の主成分である、原料溶液中に含まれる3価の鉄イオンの水酸化物の沈殿形成が不十分になる可能性がある。添加を開始する時点のpHは、3.0以上であることがより好ましい。また、加水分解基を持つシリコン化合物の添加を開始する時点のpHは、7.0以下であることが好ましい。pHが7.0を超すと加水分解反応が遅くなり、シラノール誘導体の生成が不十分になるため、置換元素を含むオキシ水酸化鉄の沈殿とシラノール誘導体が分散液中で均一に分散して共存する状態が得られなくなり、置換元素を含むオキシ水酸化鉄の沈殿がシラノール誘導体またはその縮合反応生成物により均一に被覆され難くなる。添加を開始する時点のpHは6.0以下が好ましく、4.0以下がさらに好ましい。
加水分解基を持つシリコン化合物の添加は、中和工程において原料溶液のpHが所望の値になった時点で開始する。シリコン化合物の添加は、添加を開始してから終了するまで連続的に行っても良い。ここで連続的とは、分散液に添加するシリコン化合物の全量を、分散液に一度に添加することを含む。また、シリコン化合物の添加を複数回に分け、間歇的に行っても構わない。
【0016】
本発明の製造方法においては、分散液に添加するシリコン化合物の全モル数をSi、原料溶液中に含まれるFeイオンのモル数をF、置換金属元素イオンの全モル数をMとしたとき、Si/(F+M)を0.50以上10.0以下とすることが好ましい。
Siが0.50未満であると、置換元素を含むオキシ水酸化鉄の沈殿の表面に被覆されるシリコン化合物の化学反応生成物の被覆量が少なくなり、その結果αタイプの鉄系酸化物が生成しやすくなるデメリットがあり、好ましくない。またSi/(F+M)が10.0を超えると後述の加熱工程とシリコン酸化物の除去工程の処理量が増大し、製造コストが増大するので、好ましくない。
【0017】
[第二の中和工程]
本発明の製造方法においては、第二の中和工程として、前記のシリコン化合物の添加工程において得られた、シラノール誘導体により被覆された置換元素を含むオキシ水酸化鉄を含む分散液にさらにアルカリを添加し、分散液のpHが8.0以上10.0以下になるまで中和する。ここで第二の中和工程を設けるのは、前述のように、シラノール誘導体の縮合反応の速度を増大させるためである。
中和に用いるアルカリとしては、第一の中和工程同様、アルカリ金属またはアルカリ土類の水酸化物、アンモニア水、炭酸水素アンモニウムなどのアンモニウム塩のいずれであっても良いが、最終的に熱処理してεタイプの鉄系酸化物としたときに不純物が残りにくいアンモニア水や炭酸水素アンモニウムを用いることが好ましい。これらのアルカリは、出発物質の水溶液に固体で添加しても構わないが、反応の均一性を確保する観点からは、水溶液の状態で添加することが好ましい。
【0018】
[熟成工程]
pHを8.0以上にしても、シラノール誘導体の縮合反応は緩やかに進行するので、前記の第一の中和工程、シリコン化合物添加工程、および第二の中和工程を経て得られた、置換元素を含むオキシ水酸化鉄とシリコン化合物の化学反応生成物を含む分散液をpH8.0以上で保持して熟成し、シラノール誘導体の縮合反応を進行させる。その結果として、置換元素を含むオキシ水酸化鉄の沈殿の表面に、シラノール誘導体の縮合反応生成物の均一な被覆層が形成される。この被覆層は、置換元素を含むオキシ水酸化鉄の沈殿物表面のほぼ全面を覆っていると考えられるが、本発明の効果を達成できる範囲において、置換元素を含むオキシ水酸化鉄の沈殿表面における未被覆の部分の存在は許容される。前記の熟成時間は1h以上24h以下であることが好ましい。保持時間が1h未満では、置換元素を含むオキシ水酸化鉄の沈殿のシラノール誘導体の縮合による被覆が完了しておらず、αタイプの鉄系酸化物が生成し易く、24hを超えると熟成の効果が飽和するので好ましくない。なお、前記の熟成時間は、シリコン化合物の添加が中和工程終了後も継続される場合はシリコン化合物添加の終了後、シリコン化合物の添加が中和工程終了前に完了する場合には、アルカリ添加の終了後の時間である。
【0019】
本発明の置換型ε酸化鉄磁性粒子粉の製造方法においては、前記の熟成工程以降の工程は、例えば特許文献1~4に記載されている、従来の製造方法と同じ工程を用いることができる。具体的には、以下のような工程が挙げられる。
[加熱工程]
本発明の製造方法においては、前記のシラノール誘導体の縮合反応生成物で被覆した置換元素を含むオキシ水酸化鉄を、公知の固液分離法を用いて回収した後、加熱処理を施してεタイプの鉄系酸化物を得る。加熱処理前に、洗浄、乾燥の工程を設けても良い。加熱処理は酸化雰囲気中で行われるが、酸化雰囲気としては大気雰囲気で構わない。加熱は概ね700℃以上1300℃以下の範囲で行うことができるが、加熱温度が高いと熱力学安定相であるα-Fe2O3(ε-Fe2O3に対して異相である)が生成し易くなるので、好ましくは900℃以上1200℃以下、より好ましくは950℃以上1150℃以下で加熱処理を行う。
熱処理時間は0.5h以上10h以下程度の範囲で調整可能であるが、2h以上5h以下の範囲で良好な結果が得られやすい。なお、粒子を覆うシリコン含有物質の存在がαタイプの鉄系酸化物への相変化ではなくεタイプの鉄系酸化物への相変化を引き起こす上で有利に作用するものと考えられる。またシリコン酸化物被覆は、置換元素を含むオキシ水酸化鉄結晶同士の加熱処理時の焼結を防止する作用を有する。
εタイプの鉄系酸化物磁性粒子粉がシリコン酸化物による被覆を必要としない場合には、加熱処理後に前記のシリコン酸化物被覆を除去すれば良い。
【0020】
[高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP)による組成分析]
溶解法により、得られた置換型ε酸化鉄磁性粒子粉の組成分析を行った。組成分析にあたっては、アジレントテクノロジー製ICP-720ESを使用し、測定波長(nm)についてはFe;259.940nm、Ga;294.363nm、Co;230.786nm、Ti;336.122nm、Si;288.158nm、にて行った。
【0021】
[磁気ヒステリシス曲線(バルクB-H曲線)の測定]
振動試料型磁力計VSM(東英工業社製VSM-P7)を用い、印加磁場1193kA/m(15kOe)、M測定レンジ0.005A・m2(5emu)、ステップビット140bit、時定数0.03sec、ウエイトタイム0.1secで磁気特性を測定した。B-H曲線により、保磁力Hc、飽和磁化σsについて評価を行った。
【0022】
[X線回折法(XRD)による結晶性の評価]
得られた試料を粉末X線回折(XRD:リガク社製試料水平型多目的X線回折装置 Ultima IV、線源CuKα線、電圧40kV、電流40mA、2θ=10°以上70°以下)に供した。得られた回折パターンについて、統合粉末X線解析ソフトウェア(PDXL2:リガク社製)を用いICSD(無機結晶構造データベース)のNo.173025:Iron(III)Oxide-Epsilon、No.82134:Hematiteをもとにしてリートベルト解析による評価を行い、結晶構造確認とα相の含有率を確認した。
【0023】
[BET比表面積]
BET比表面積は、株式会社マウンテック製のMacsorb model-1210を用いて、BET一点法により求めた。
【0024】
[平均粒径]
本発明の製造法により得られた置換型ε酸化鉄磁性粒子粉のTEM観察は、以下の条件で行った。TEM観察には日本電子株式会社製JEM-1011を使用した。粒子観察については、倍率10,000倍、倍率100,000倍で撮影したTEM写真を用いた。(シリコン酸化物被覆を除去後のものを使用)。
-平均粒子径、粒度分布評価(変動係数(%))の測定-
TEM平均粒子径、粒度分布評価(変動係数(%))にはデジタイズを使用した。画像処理ソフトとして、Mac-View Ver.4.0を使用した。この画像ソフトを使用した場合、ある粒子の粒子径は、その粒子に外接する長方形のうち、面積が最小となる長方形の長辺の長さとして算出される。個数については200個以上を測定した。
透過型電子顕微鏡写真上に映っている粒子のうち、測定する粒子の選定基準は次のとおりとした。
[1] 粒子の一部が写真の視野の外にはみだしている粒子は測定しない。
[2] 輪郭がはっきりしており、孤立して存在している粒子は測定する。
[3] 平均的な粒子形状から外れている場合でも、独立しており単独粒子として測定が可能な粒子は測定する。
[4] 粒子同士に重なりがあるが、両者の境界が明瞭で、粒子全体の形状も判断可能な粒子は、それぞれの粒子を単独粒子として測定する。
[5] 重なり合っている粒子で、境界がはっきりせず、粒子の全形も判らない粒子は、粒子の形状が判断できないものとして測定しない。
以上の基準で選定された粒子の粒子径の個数平均値を算出し、置換型ε酸化鉄磁性粒子粉のTEM観察による平均粒子径とした。
【実施例】
【0025】
[実施例1]
1L反応槽にて、純水728.2gに、Fe濃度11.7質量%の硫酸第二鉄(III)溶液100.9g、Ga濃度11.6質量%の硝酸Ga(III)溶液23.1g、硝酸コバルト(II)6水和物0.97g、Ti濃度15.1質量%の硫酸チタン(IV)1.00gを大気雰囲気中、撹拌羽根により機械的に撹拌しながら溶解し、原料溶液とした(手順1)。この原料溶液中の金属イオンのモル比は、Fe:Ga:Co:Ti=1.650:0.300:0.025:0.025であり、Co/(Fe+Ga+Co+Ti)のモル比は0.0125である。この原料溶液のpHは約1であった。なお、元素記号の後の括弧内のローマ数字は、金属元素の価数を表している。
大気雰囲気中、この原料溶液を30℃の条件下で、撹拌羽根により機械的に撹拌しながら、21.2質量%のアンモニア水溶液53.2gを60minかけて連続添加し、その後撹拌を継続して液温を30℃に保ちながら、10min保持した(手順2)。10min保持後の反応液のpHは3.0であった。この後、撹拌羽根による撹拌と30℃での液温保持は、手順4が終了するまで継続した。
次に、加水分解基をもつシリコン化合物としてテトラエトキシシラン(TEOS)を、5minかけて連続添加した(手順3)。ここで、TEOSの添加量は、添加したTEOSに含まれるSi元素の量と、原料溶液中に含まれる鉄、ガリウム、コバルト、チタンイオンの量とのモル比Si/(F+M)が2.84となる量とした。
次に、21.2質量%のアンモニア水溶液27.9gを14minかけて連続添加した後、20h保持し、シリコン化合物の化学反応生成物で置換元素を含むオキシ水酸化鉄の沈殿物を被覆した(手順4)。手順4でアンモニア水溶液の添加を終了した時点の反応液のpHは8.9であった。
手順4で得られたスラリーを濾過し、得られたシリコン化合物の化学反応生成物で被覆した置換元素を含むオキシ水酸化鉄の沈殿物の水分をできるだけ切ってから純水中に再度分散させ、リパルプ洗浄した後に、得られたスラリーを再度濾過し、得られたケーキを大気中110℃で乾燥した(手順5)。
手順5で得られた乾燥品を、箱型焼成炉を用い、大気中1090℃で4h加熱処理し、シリコン酸化物で被覆された鉄系酸化物磁性粉を得た(手順6)。なお、前記のシリコン化合物の化学反応生成物は、大気雰囲気で熱処理した際に、脱水して酸化物に変化する。
本実施例の原料溶液の仕込み条件等の製造条件を、表1に示す。表1には他の実施例および比較例の製造条件も併せて示してある。
【0026】
手順6で得られた、シリコン酸化物で被覆された鉄系酸化物磁性粉を、20質量%NaOH水溶液中で約60℃、24時間撹拌し、粒子表面のシリコン酸化物被覆の除去処理を行った(手順7)。次いで、遠心分離器を用いてスラリーの導電率が500mS/m以下になるまで洗浄し、メンブレンフィルターでろ過した後に乾燥し、得られた鉄系酸化物磁性粉の組成の化学分析、XRD測定および磁気特性の測定等に供した。それらの測定結果を表2に示す。表2には他の実施例および比較例で得られた置換型ε酸化鉄磁性粉の物性値も併せて示してある。
当該実施例1に係る置換型ε酸化鉄磁性粉についてXRD測定を行い、α相の含有率を求めたところ0.8%であった。この値は後述する、アンモニア溶液添加後に中間の熟成工程を設け、その後pH8.7の状態でTEOSを添加した比較例1により得られた置換型ε酸化鉄粉体についてのそれよりも優れたものである。また組成の化学分析および磁気特性の評価を行った。測定結果を表2に併せて示す。表2には他の実施例および比較例について、化学分析および磁気特性の評価を行った結果も併せて示してある。
【0027】
[実施例2~7]
原料溶液の仕込み組成を変化させることにより、Co/(Fe+Ga+Co+Ti)、Ga/(Fe+Ga+Co+Ti)およびTi/(Fe+Ga+Co+Ti)の組合せを種々変化させたことと、Si/(F+M)を2.40に変化させたこと以外は、実施例1と同じ手順で、実施例2~7に係る置換型ε酸化鉄磁性粉を得た。これらの実施例により得られた置換型ε酸化鉄磁性粉のα相の含有率は、いずれも比較例1のそれよりも優れたものであった。
【0028】
[比較例1]
実施例1の手順2において、アンモニア水溶液82.3gを添加した後に30minの熟成工程を設け、その熟成工程後のpHが8.7である反応液にTEOSを10minかけて連続添加した後に20hそのまま撹拌し続けた。ここで、TEOSの添加量は、実施例1と同様に、Si/(F+M)が2.84となる量とした。その後は実施例1の手順5以降と同様の操作を実施することにより、置換型ε酸化鉄磁性粉を得た。当該比較例1に係る置換型ε酸化鉄磁性粉についてXRD測定を行い、α相の含有率を求めたところ7.8%であり、実施例1~7と比較して高い値であった。また組成の化学分析および磁気特性の評価を行った。測定結果を表2に併せて示す。
【0029】
【0030】