(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-31
(45)【発行日】2024-06-10
(54)【発明の名称】廃太陽光パネル熱処理篭と廃太陽光パネル熱処理方法
(51)【国際特許分類】
F27D 3/12 20060101AFI20240603BHJP
B09B 3/40 20220101ALI20240603BHJP
【FI】
F27D3/12 Z
B09B3/40
(21)【出願番号】P 2020159533
(22)【出願日】2020-09-24
【審査請求日】2023-06-21
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「太陽光発電主力電源化推進技術開発/太陽光発電の長期安定電源化技術開発/太陽電池モジュールの分離・マテリアルリサイクル技術開発(太陽電池モジュールの低温熱分解法によるリサイクル技術開発)」共同研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】100086830
【氏名又は名称】塩入 明
(74)【代理人】
【識別番号】100096046
【氏名又は名称】塩入 みか
(72)【発明者】
【氏名】井上 大輔
(72)【発明者】
【氏名】片岡 誠
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/031661(WO,A1)
【文献】特開2016-093804(JP,A)
【文献】特表2002-532840(JP,A)
【文献】特開2000-273527(JP,A)
【文献】実開平05-090298(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27D 3/12
B09B 3/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃太陽光パネルを載置し、加熱炉内で前記パネルを熱処理するための廃太陽光パネルの熱処理篭であって、
四角形の各辺に沿う4個の長尺部材を有する金属フレームと、
前記4個の長尺部材に載置されている金属格子を備え、
前記金属格子は、縦方向部材と横方向部材をそれぞれ複数本備え、
前記縦方向部材と前記横方向部材が互いに固定され、
前記縦方向部材と前記横方向部材の両端部が、前記4個の長尺部材上に溶接されずに載置されていることを特徴とする、廃太陽光パネルの熱処理篭。
【請求項2】
前記縦方向部材と前記横方向部材は、短辺の鉛直方向断面視で上部が弧状であることを特徴とする、請求項1の廃太陽光パネルの熱処理篭。
【請求項3】
前記縦方向部材と前記横方向部材が同じ高さに配置されていることを特徴とする、請求項1または2の廃太陽光パネルの熱処理篭。
【請求項4】
廃太陽光パネルを廃太陽光パネルの熱処理篭上に載置し、加熱炉内で熱処理する廃太陽光パネルの熱処理方法であって、
前記廃太陽光パネルの熱処理篭は、四角形の各辺に沿う4個の長尺部材を有する金属フレームと、前記4個の長尺部材に載置されている金属格子を備え、
前記金属格子は、縦方向部材と横方向部材をそれぞれ複数本備え、
前記縦方向部材と前記横方向部材が互いに固定され、
前記縦方向部材と前記横方向部材の両端部が、前記4個の長尺部材上に溶接されずに載置されていることを特徴とする、廃太陽光パネルの熱処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は廃太陽光パネルの熱処理篭と廃太陽光パネルの熱処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
廃太陽光パネルを熱処理し、ガラス板等の有価物を回収できれば、太陽光発電はより普及しやすくなると考えられる。廃太陽光パネルは、易燃性のEVA(エチレン-酢酸ビニルの共重合体)樹脂等を封止剤として含み、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂をバックシートに用いているものが多い。廃太陽光パネルを熱処理すると、PETから多量のススが発生しガラス板を汚染すると共に、急激な加熱によりガラス板が粒状に割れることがある。
【0003】
出願人は、EVAとPETを穏やかに燃焼させることにより、ススによるガラス板の汚染を最小限にし、かつガラス板を割れずに回収できる回収方法を提案した(特許文献1:WO2020/031661)。この技術では、上下2層のセラミックフィルタを用い、下層のセラミックフィルタに遷移金属系の酸化触媒を担持させる。セラミックフィルタ上に廃太陽光パネルを載せ、下部から熱風を吹き込み燃焼させる。熱風により樹脂は溶融し、易燃性のEVAは触媒無担持の上層で燃焼し、PETは触媒を担持した下層で燃焼し、PETから発生するススは上層で燃焼する。2層のセラミックフィルタと廃太陽光パネルは、セラミックあるいは鉄製の棚板に載せ、熱風が棚板を通過できるようにする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明者は、丸棒等の鋼材を十字状に溶接して格子とし、格子を長方形のパネルに溶接して、廃太陽光パネルの熱処理篭とした。格子の上部に2層のセラミックフィルタと廃太陽光パネルを載置し、格子の下部から熱風を吹き込み、廃太陽光パネルを熱処理した。同一の熱処理篭を用いて数回熱処理を繰り返すと、格子は中央部が下向きに撓み、パネルから回収したガラス板も反り、価値が低下した。
【0006】
この発明の課題は、熱処理による廃太陽光パネルの熱処理篭の撓みを小さくし、回収するガラス板の反りも小さくすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の廃太陽光パネルの熱処理篭は、廃太陽光パネルを載置し、加熱炉内でパネルを熱処理するための篭である。篭は、四角形の各辺に沿う4個の長尺部材を有する金属フレームと、金属フレームの4個の長尺部材に載置されている金属格子を備え、金属格子は、縦方向部材と横方向部材をそれぞれ複数本備え、縦方向部材と横方向部材が互いに固定されている。そして縦方向部材と横方向部材の両端部が、金属フレームの4個の長尺部材上に溶接されずに載置されていることを特徴とする。溶接されずに載置されているとは、金属格子が長尺部材に単に載置されていることに限らず、金属格子が長尺部材に設けた溝などに保持されているものも含んでいる。
【0008】
この発明の廃太陽光パネルの熱処理方法では、 廃太陽光パネルを廃太陽光パネルの熱処理篭上に載置し、加熱炉内で熱処理する。用いる廃太陽光パネルの熱処理篭は、四角形の各辺に沿う4個の長尺部材を有する金属フレームと、金属フレームの4個の長尺部材に載置されている金属格子を備え、金属格子は、縦方向部材と横方向部材をそれぞれ複数本備え、縦方向部材と横方向部材が互いに固定されている。そして縦方向部材と横方向部材の両端部が、金属フレームの4個の長尺部材上に溶接されずに載置されていることを特徴とする。
【0009】
廃太陽光パネルを数回熱処理した後の、
・ 格子の端部を金属フレームに溶接せずに載置した、廃太陽光パネルの熱処理篭を
図5に、
・ 格子の端部をフレームに溶接した、廃太陽光パネルの熱処理篭を
図6に示す。
図5は実施例の篭を、
図6は比較例の篭を示し、篭のサイズは2.1m×1.2mで、大形の廃太陽光パネルも熱処理できるサイズである。これらの篭を用い、数回廃太陽光パネルを熱処理すると、格子をフレームに溶接した比較例(
図6)では、格子の中央部が下側に撓み、撓みの深さは最大で約20mmであった。これに対し格子をフレームに溶接せずに載置した実施例(
図5)では、撓みの深さは最大で約8mmであった。熱処理した廃太陽光パネルから回収したガラス板の反りを測定すると、ガラス板の中央部で比較例では6.1mmの反りがあり、実施例では反りは3.0mmであった。なお以下、廃太陽光パネルをパネルと、廃太陽光パネルの熱処理篭を篭と略称することがある。
【0010】
パネルの熱処理により篭が撓む機構として、幾つかのものが考えられるが、正確な機構は不明である。第1の機構として、熱処理時に篭に温度分布が生じ、格子がフレームに対し伸びようとするが、格子がフレームに溶接されているため、水平面内で伸びることができず撓む、ことが考えられる。しかし加熱炉内で、格子が大きく撓む程の温度分布が生じるかどうかは疑わしい。第2の機構として、セラミックフィルタ等の通気性セラミックの重量とパネルの重量(合計で100Kg弱)を、格子が支えることができずに撓む可能性が考えられる。しかしこの機構では、格子をフレームに溶接したか否かにより撓みの程度が変化することを説明しにくい。これ以外に、溶接による金属組織の変化等も考えられるが、溶接個所から離れた格子の中央部で違いが生じることを説明しにくい。
【0011】
この発明では、格子の端部をフレームに溶接せずに載置することにより、パネルの熱処理に伴う格子の撓みを小さくし(
図5,
図6)、またパネル回収したガラス板の反りも小さくする(表1)。
【0012】
好ましくは、縦方向部材と横方向部材は、短辺の鉛直方向断面視で上部が弧状である。これらの部材の上部を鉛直方向断面視で弧状にすると、パネル側へ吹き込む熱風を遮る部分を小さくし、より均一にパネルを熱処理できる。
【0013】
また好ましくは、縦方向部材と横方向部材が同じ高さに配置されている。縦方向部材と横方向部材の高さが異なり、これらの部材が上下2層に配置されていると、載置するパネル等が傾きやすい。実施例ではパネルと篭の間に、セラミックフィルタ等の通気性セラミックを配置する。大面積のセラミックを1枚用いるよりも、小面積のセラミックを複数枚用いる方が低コストなので、実施例では複数枚のセラミックを用いる。すると上下2層の格子では、セラミックが傾きやすい。そこで好ましくは、縦方向部材と横方向部材を同じ高さに配置し、パネルや通気性セラミックの傾斜を防止する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図3】廃太陽光パネルと通気性セラミックを搭載した、廃太陽光パネルの熱処理篭の断面図
【
図4】変形例の廃太陽光パネルの熱処理篭での、金属格子の要部を示す図
【
図5】丸鋼から成る格子を溶接せずにフレーム(Lアングル)に載置した、実施例の廃太陽光パネルの熱処理篭を用い、パネルを数回熱処理した後の篭の写真
【
図6】格子をフレームに溶接した比較例の廃太陽光パネルの熱処理篭を用い、パネルを数回熱処理した後の篭の写真
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明を実施するための実施例を示す。この発明の範囲は、特許請求の範囲の記載に基づき、明細書の記載とこの分野での周知技術とを参酌し、当業者の理解に従って定められるべきである。
【実施例】
【0016】
図1~
図7に実施例を示す。
図1は廃太陽光パネル(以下「パネル」ということがある)の熱処理の概要を示す。廃太陽光パネルの熱処理装置2は、加熱炉4とコンベヤ6を備えている。廃太陽光パネルの熱処理篭12は、コンベヤ6の載置エリア8で廃太陽光パネルを載置され、加熱炉4でパネル内の樹脂を熱処理し、回収エリア9でガラス板、配線材料、太陽光セルの材料などの有価物を回収する。なおガラス板は、強化ガラス等から成り、パネル前面に取り付けられている。またAlフレームは、実施例では熱処理前に取り外しておく。加熱炉4は下部から熱風をパネルに吹き込み、パネル中の樹脂を燃焼させ、熱風温度は例えば500℃程度である。炉の種類、構造等は任意である。有価物を回収した後の廃太陽光パネルの熱処理篭(以下単に「篭」という)12は、待機エリア10で待機する。
【0017】
図2,
図3に篭12を示す。篭12は四角形のフレーム13を備え、フレーム13の4辺について、横方向の長尺部材14を向かい合う2辺に、縦方向の長尺部材15も向かい合う2辺に配置し、これらを互いに溶接して長方形のフレーム13とする。実施例では、フレーム13はSS400(汎用鋼)から成るL字鋼で構成されている。フレーム13の4辺(部材14,15の水平面)に、金属格子16が載置され、金属格子16は部材14,15に溶接されていない。実施例では、金属格子16を水平面に単に載置し、水平面に対して金属格子16が移動可能にしたが、例えば部材14,15の水平面に溝等を設けて、金属格子16の端部を収容しても良い。即ち、金属格子16をフレーム13に溶接しないことが重要である。
【0018】
金属格子(以下単に「格子」という)16は、横方向部材18と縦方向部材19をそれぞれ複数本備え、部材18,19は例えばSS400の丸棒で、直径は9mmとした。部材18,19を丸棒としたのは、
図3に示すセラミックフィルタ21,22への熱風を、なるべく遮断しないようにするためである。なおフレーム13,格子16の材質は任意で、金属製であれば良く、またフレーム13の肉厚,格子16の直径、部材18,19の本数等は任意で有る。格子16は丸棒状に限らず、例えば角棒状、あるいは高さが幅よりも大きい板状等でも良い。
【0019】
図3に示すように、部材18,19を同じ高さに配置し、格子16の上面の高さを揃えることが好ましい。このようにすると、格子16上に支持する通気性セラミック20等を縦横2方向で支持することができる。例えば実施例では、部材18,19の一方を所定の長さに切断し、交差部で格子18,19を互いに溶接した。なお
図3に示すように、セラミックフィルタ21,22では、縦横2方向に比較的小さな部材を配列してある。このため縦か横の一方向でのみ支持すると、セラミックフィルタ21,22が傾斜しやすくなる。なお溶接に変えて、格子18,19を互いに嵌め合わせるなど、格子18,19間の固定方法は任意である。
【0020】
図4は金属格子の変形例を示す。横方向部材30には切欠部32が、縦方向部材31には切欠部33が設けられ、切欠部32,33を用いることにより、交差部で部材30,31を互いに嵌め合わせる。また部材30,31の短辺方向での、鉛直方向断面上部は半円状等の弧状で、熱風の乱れを最少にし、かつ部材30,31の横幅よりも高さを大きくし、鉛直方向の剛性を高める。
【0021】
図3に戻り、篭12上の通気性セラミック20と廃太陽光パネル24を説明する。通気性セラミック20は上下2層のセラミックフィルタ21,22から成り、これらはハニカムなどに比べ、安価でかつ通気性が高い。大きなサイズのセラミックフィルタは高価なので、篭13に比べ小さなセラミックフィルタ21,22を用い、これらを縦横2方向に配列した。上層のセラミックフィルタ21は例えば触媒を担持せず、下層のセラミックフィルタ22は酸化クロム等の酸化触媒を担持し、PET樹脂を燃焼させる。酸化触媒は例えば遷移金属触媒であるが、種類は任意である。なお1枚の通気性セラミックの下部のみに酸化触媒を担持しても良い。
【0022】
パネル24は、例えばAl製のフレームと、前面の強化ガラスと、太陽光セル、及び配線材料等の有価物(回収する価値が有るもの)を備えている。太陽光セルはEVA等の易燃性樹脂で封止され、背面にPET樹脂等から成るバックシートを備えている。Alフレームを付けたまま熱処理しても良いが、実施例ではAlフレームを外した後に熱処理する。
【0023】
加熱炉4内で、例えば450℃~600℃の酸素含有の熱風を、炉4の底面から通気性セラミック20へ吹き込み、パネル24を加熱する。熱風により樹脂は溶融し、易燃性のEVAは上層のセラミックフィルタ21(触媒無担持)で燃焼する。PETは下層のセラミックフィルタ22で酸化触媒により燃焼し、発生するススは上層のセラミックフィルタ21で燃焼する。
【0024】
試験結果
図2,
図3の篭12を実施例とし、格子16の端部をフレーム13に溶接した他は同様のものを比較例とし、パネル24を複数回熱処理した。篭12は長辺が2.1m、短辺が1.2mで、1.7m×1.0mのパネルを熱処理した。加熱炉4内で吹き込む熱風は約500℃、炉4を篭12が通過する時間は約20分間とした。
【0025】
パネルを数回熱処理した後の、実施例の篭12の写真を
図5に、比較例の篭の写真を
図6に示す。
図6では横方向の格子の影が湾曲し、縦方向でも格子が湾曲していることが見える。比較例では格子の中央部が下向きに大きく撓んでおり、撓みの最大深さを測定すると、実施例で約8mm、比較例で約20mmで、実施例では比較例の40%程度であった。なお
図5,
図6では横方向の格子の本数は何れも4本で、
図5では床面に置かれた影のない金属棒が写っているため5本のように見える。
【0026】
数回のパネルの熱処理での最後の熱処理時に、回収したガラス板の反りを測定した。水平な定盤40上に回収したガラス板42を載せ、これらの隙間を反りとして測定した。測定はガラス板42の長辺方向に沿ってa,b,cの3点で行い、これらの点はガラス板の短辺方向中心線上に配置した。隙間を、実施例と比較例について、表1に示す。実施例では反りは比較例の約1/2であった。実施例では、回収したガラス板等の撓みを小さくできる。
【0027】
表1
ガラス板の反り(mm)
位置 実施例 比較例
a 2.6 4.0
b 2.0 4.8
c 3.0 6.1
【符号の説明】
【0028】
2 廃太陽光パネルの熱処理装置
4 加熱炉
6 コンベヤ
8 載置エリア
9 回収エリア
10 待機エリア
12 廃太陽光パネルの熱処理篭
13 フレーム
14,15 長尺部材
16 金属格子
18 横方向部材
19 縦方向部材
20 通気性セラミック
21,22 セラミックフィルタ
24 廃太陽光パネル
30 横方向部材
31 縦方向部材
32,33 切欠部
40 定盤
42 ガラス板