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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-31
(45)【発行日】2024-06-10
(54)【発明の名称】蓄電素子及び蓄電素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/1395 20100101AFI20240603BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240603BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20240603BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20240603BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20240603BHJP
【FI】
H01M4/1395
H01M4/62 Z
H01M4/38 Z
H01M4/134
H01M4/139
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020189625
(22)【出願日】2020-11-13
(65)【公開番号】P2022078739
(43)【公開日】2022-05-25
【審査請求日】2022-12-06
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、先進・革新蓄電池材料評価技術開発(第2期)の委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(73)【特許権者】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】菊池 彰文
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 勇治
(72)【発明者】
【氏名】竹原 雅裕
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-040709(JP,A)
【文献】特開2017-045593(JP,A)
【文献】特開2017-004910(JP,A)
【文献】特開2017-071804(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子状の硫化物系固体電解質と、活物質とを含む電極を備え、
前記活物質は、金属Sn、又は、Snを主成分とする合金であり、
前記活物質の軟化点は、前記硫化物系固体電解質の融点及び相変化が生じる温度のうちいずれか低い方の温度よりも低く、
前記電極では、前記硫化物系固体電解質の粒子に接する前記活物質が軟化変形されて固化している、蓄電素子。
【請求項2】
前記硫化物系固体電解質はアルジロダイト型である、請求項1に記載の蓄電素子。
【請求項3】
粒子状の硫化物系固体電解質と、活物質とを含む電極を加熱する加熱工程を備え、
前記加熱工程前の前記活物質は、金属Sn箔、又は、Snを主成分とする合金箔であり、
前記加熱工程では、前記硫化物系固体電解質の粒子と前記活物質とが接した状態で、前記活物質の軟化点よりも高い温度で前記電極を加熱する、蓄電素子の製造方法。
【請求項4】
前記加熱工程では、前記電極を加熱した状態でプレスする、請求項に記載の蓄電素子の製造方法。
【請求項5】
前記加熱工程では、前記硫化物系固体電解質の融点及び相変化が生じる温度のうちいずれか低い方の温度よりも低い温度で前記電極を加熱する、請求項3又は4に記載の蓄電素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電素子及び蓄電素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、3.0~5.0t/cmの範囲内の最終成形圧力により、活物質と硫化物系固体電解質材料とを含む電極層を少なくとも有する全固体型リチウム二次電池を電気絶縁性の枠内にてプレス成形して形成する全固体型リチウム二次電池形成工程を有する、全固体型リチウム二次電池の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-252670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、放電時の容量が向上された蓄電素子、及び、該蓄電素子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一側面に係る蓄電素子は、粒子状の固体電解質と、活物質とを含む電極を備え、前記電極では、前記固体電解質の粒子に接する前記活物質が軟化変形されて固化している。
【0006】
本発明の一側面に係る蓄電素子の製造方法は、粒子状の固体電解質と、活物質とを含む電極を加熱する加熱工程を備え、
前記加熱工程では、前記固体電解質の粒子と前記活物質とが接した状態で、前記活物質の軟化点よりも高い温度で前記電極を加熱する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一側面に係る蓄電素子においては、放電時の容量が向上されている。
また、本発明の一側面に係る蓄電素子の製造方法によって、放電時の容量が向上された蓄電素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本実施形態に係る蓄電素子の斜視図である。
図2図2は、図1の蓄電素子に収容される構成単位の斜視図である。
図3図3は、本実施形態に係る蓄電素子を構成する電極体の模式断面図である。
図4図4は、電極体を作製する工程の一例における様子を表す模式図である。
図5A図5Aは、本実施形態の電極体の一例における負極及び固体電解質の厚さ方向断面を模式的に表した模式断面図である。
図5B図5Bは、比較例の電極体の一例における負極及び固体電解質の厚さ方向断面を模式的に表した模式断面図である。
図6図6は、電極体を作製する工程の他例における様子を表す模式図である。
図7図7は、本実施形態に係る蓄電素子を複数備えた蓄電装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
始めに、本明細書によって開示される蓄電素子1、及び、蓄電素子の製造方法の概要について説明する。
【0010】
本発明の一側面に係る蓄電素子1は、粒子状の固体電解質と、活物質とを含む電極を備え、前記電極では、前記固体電解質の粒子に接する前記活物質が軟化変形されて固化している。
【0011】
上記蓄電素子1の電極では、固体電解質の粒子間で粒子に接して存在する活物質が、軟化を経て変形している。活物質が、軟化を経て固体電解質の粒子表面の形状に応じて変形することによって固体電解質粒子と活物質との接触面積が増大している分、固体電解質と活物質との間における界面抵抗が低くなる。これにより、本実施形態の蓄電素子1においては、放電時の容量が向上されている。
【0012】
ここで、前記活物質の融点は、前記固体電解質の融点及び相変化が生じる温度のうちいずれか低い方の温度よりも低くてもよい。これにより、活物質が溶融又は軟化する温度よりも高く且つ固体電解質が溶融又は相変化が生じる温度よりも低い温度を、電極の作製時における加熱温度として採用できる。よって、前記固体電解質の結晶構造が高温によって変化すること、及び、前記固体電解質の粒子径が高温によって変化することを抑制でき、前記固体電解質の物性を所望範囲内に容易に管理できる。また、活物質を十分に軟化させるための加熱温度の選択範囲が広くなるため、加熱温度管理が容易になり、固体電解質と活物質との間における界面抵抗が低くなった電極を比較的簡便に作製できる。従って、放電時の容量が向上した蓄電素子1を比較的簡便に製造できる。また、製造時において、前記固体電解質の結晶構造が高温によって変化すること、及び、前記固体電解質の粒子径が高温によって変化することを抑制できる。この点においても、蓄電素子1の放電時の容量がより向上し得る。
【0013】
また、前記活物質は、Al、Bi、In、Sb、Sn、Zn、Mg、Li、又は、これら金属のうち少なくとも1種を主成分とする合金であってもよい。
これにより、活物質を十分に軟化させるための加熱温度の選択範囲が広くなることから、加熱温度管理が容易となる。また、比較的低い温度において、容易に活物質が軟らかくなり得る。よって、製造時において軟化させた活物質が、固体電解質の粒子表面の形状に応じてより変形しやすくなる。従って、固体電解質と活物質との間における界面抵抗がより低くなり、蓄電素子における放電時の容量がより向上され得る。
【0014】
また、前記固体電解質が硫化物系固体電解質であってもよい。硫化物系固体電解質は、他の固体電解質と比較して、通常、粒子形状がより変形しやすい。従って、硫化物系固体電解質の粒子は、高温時に軟化している活物質と接触したときに、活物質との接触面積がより大きくなり得る。よって、軟化を経て固化した活物質と、硫化物系固体電解質の粒子との接触面積をより大きくすることができ、固体電解質と活物質との間における界面抵抗をより低くできる。また、硫化物系固体電解質は、酸化物系固体電解質等と異なり、加熱に伴って、通常、溶融よりも先に相変化(新たな結晶相が生成又は結晶相の種類もしくは比率の変化)が生じ、イオン伝導性能の低い相が形成される可能性がある。このような性質を有する硫化物系固体電解質を固体電解質として採用する場合、電極の作製時には、固体電解質が相変化するような高温での加熱を避けることとなる。よって、上述のごとく活物質が比較的低い温度で軟化することを利用した、上記のような構成が好適である。即ち、固体電解質の粒子に接する活物質が、比較的低い加熱温度で軟化変形されて固化されている上記のような構成が好適である。このような構成によって、固体電解質の相変化を抑制しつつ固体電解質と活物質との間における界面抵抗を低くすることができる。前記固体電解質が硫化物系固体電解質である場合、イオン伝導性能の低い相が形成されること(相変化が生じること)を抑制するためには、後述する加熱の温度が600℃以下であることが好ましく、300℃以下であることがより好ましい。
【0015】
本発明の一側面に係る蓄電素子の製造方法は、粒子状の固体電解質と、活物質とを含む電極を加熱する加熱工程を備え、
前記加熱工程では、前記固体電解質の粒子と前記活物質とが接した状態で、前記活物質の軟化点よりも高い温度で前記電極を加熱する。
斯かる製造方法によれば、活物質が、軟化することで変形できる。活物質が軟化し、固体電解質の粒子表面の形状に応じて変形できることから、軟化変形した活物質が、固体電解質の粒子間に入り込み、固体電解質と活物質との接触面積が増える。よって、固体電解質と活物質との間における界面抵抗が低くなる。従って、製造された本実施形態の蓄電素子1の放電時の容量を向上させることができる。
【0016】
ここで、上記の蓄電素子の製造方法において、前記加熱工程では、前記電極を加熱した状態でプレスしてもよい。前記電極を加熱しつつプレスすることによって、固体電解質の粒子表面の形状に応じて、活物質がより十分に変形できる。従って、蓄電素子1の放電時の容量がより向上し得る。
【0017】
また、上記の蓄電素子の製造方法では、前記加熱工程前の前記活物質は金属箔又は合金箔であり、
前記加熱工程では、前記金属箔又は前記合金箔と前記固体電解質とが接した状態で前記電極を加熱してもよい。これにより、前記活物質としての金属箔又は合金箔が軟化して変形しつつ、毛細管現象により固体電解質の粒子間に入り込む。よって、固体電解質と活物質との接触面積が増え、固体電解質と活物質との間における界面抵抗が低くなる。従って、製造された本実施形態の蓄電素子1の放電時の容量を向上させることができる。
また、粒子状の活物質を用いなくても金属箔又は合金箔を活物質として用いて上記電極を製造できるため、比較的簡便に上記電極を作製できる。
【0018】
また、上記の蓄電素子の製造方法において、前記加熱工程では、前記固体電解質の融点及び相変化が生じる温度(相変化温度)のうちいずれか低い方の温度よりも低い温度(特定の温度)で前記電極を加熱してもよい。
上記特定の温度で加熱して前記電極を作製することによって、前記固体電解質の結晶構造が高温によって変化すること、及び、前記固体電解質の粒子径が高温によって変化することを抑制できる。よって、前記固体電解質の物性を所望範囲内に容易に管理できる。
【0019】
本発明の一実施形態に係る蓄電素子1の構成、蓄電装置100の構成、及び蓄電素子1の製造方法、並びにその他の実施形態について詳述する。なお、各実施形態に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称は、背景技術に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称と異なる場合がある。
【0020】
<蓄電素子の構成>
本発明の一実施形態に係る蓄電素子1は、図1図3に示すように、正極40、負極50、及び固体電解質層60を有する電極体2と、上記電極体2を収容する容器3と、を備える。本実施形態に係る蓄電素子1は、電解液を実質的に含まないため、以下、「全固体型蓄電素子」と称される場合がある。本実施形態において、電極体2は、正極40と負極50と固体電解質層60とが積層された積層型電極体である。容器3は、2枚のシート状物で電極体2を両側から挟み込むように、電極体2を内部に収容している。換言すると、容器3は、扁平形状のいわゆるパウチ容器である。正極40は、固体電解質と正極活物質とを含む正極活物質層42を有し、負極50は、固体電解質と負極活物質とを含む負極活物質層52を有する。固体電解質層60は、正極40と負極50との間に配置され、主に固体電解質を含む。全固体型蓄電素子の一例として、全固体型リチウムイオン二次電池(以下、単に「二次電池」ともいう。)について説明する。
【0021】
詳しくは、本実施形態の蓄電素子1は、図1図3に示すように、正極40と負極50とが固体電解質層60を介して積層された積層型の電極体2と、電極体2を収容する上記の容器3と、2つの外部端子(正極端子4及び負極端子5)とを備える。正極端子4は、正極40の正極基材41(後述)の一部が外方へ延びたタブ部によって構成されている。同様に、負極端子5は、負極50の負極基材51(後述)の一部が外方へ延びたタブ部によって構成されている。
蓄電素子1は、電極体2と任意の外部機器との間において、正極端子4及び負極端子5を介して充放電時に電気が流れるように構成されている。本実施形態の蓄電素子1では、1つの電極体2が容器3内に収容され、電極体2が充放電反応するように構成される。
また、容器3は、厚さ方向において、外方から内部へ向けて圧縮力を受けた状態であることが好ましい。これにより、正極40及び負極50と、固体電解質層60との間における界面抵抗をより下げることができる。なお、容器3に収容される電極体2は、1つであっても複数であってもよい。
【0022】
電極体2は、矩形シート状の正極40と、矩形シート状の負極50とが固体電解質層60を介して重ねられて積層されている。図3に示すように、固体電解質層60は、正極40及び負極50を電気的に絶縁するように配置されている。固体電解質層60は、正極活物質及び負極活物質のいずれも含まない。本実施形態では、電極体2及び容器3は、いずれも扁平形状を有する。電極体2における電極の積層方向と、容器3の厚さ方向とが同じ方向になるように、電極体2が容器3内に配置されている。
【0023】
(正極)
正極40は、正極基材41と、当該正極基材41に直接又は所定の層などを介して重なる正極活物質層42とを有する。本実施形態では、正極40において正極基材41と正極活物質層42とが直接重なり合っている。また、本実施形態では、正極基材41の一方の面(片面)に正極活物質層42が重ねられている。正極活物質層42と負極活物質層52とは、互いの間で充放電反応を起こす。
【0024】
正極基材41は、導電性を有する。「導電性」を有するか否かは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が10Ω・cmを閾値として判定する。正極基材41の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はこれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ、及びコストの観点からアルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。正極基材41としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、正極基材41としてはアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔が好ましい。アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)に規定されるA1085、A3003等が例示できる。
【0025】
正極基材41の平均厚さは、3μm以上50μm以下が好ましく、5μm以上40μm以下がより好ましく、8μm以上30μm以下がさらに好ましく、10μm以上25μm以下が特に好ましい。正極基材41の平均厚さを上記の範囲とすることで、正極基材41の強度を高めつつ、二次電池の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0026】
正極活物質層42は、正極活物質と、固体電解質の粒子とを含む。正極活物質層42は、必要に応じて、導電剤、バインダ(結着剤)、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0027】
正極活物質としては、公知の正極活物質の中から適宜選択できる。リチウムイオン二次電池用の正極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。正極活物質としては、例えば、α-NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、ポリアニオン化合物、カルコゲン化合物、硫黄等が挙げられる。α-NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、例えば、Li[LiNi(1-x)]O(0≦x<0.5)、Li[LiNiγCo(1-x-γ)]O(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LiCo(1-x)]O(0≦x<0.5)、Li[LiNiMn(1-x-γ)]O(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LiNiγMnβCo(1-x-γ-β)]O(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)、Li[LiNiγCoβAl(1-x-γ-β)]O(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)等が挙げられる。スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、LiMn、LiNiγMn(2-γ)等が挙げられる。ポリアニオン化合物として、LiFePO、LiMnPO、LiNiPO、LiCoPO,Li(PO、LiMnSiO、LiCoPOF等が挙げられる。カルコゲン化合物として、二硫化チタン、二硫化モリブデン、硫化鉄、硫化コバルト、硫化銅、硫化ニッケル、銅シェブレル等が挙げられる。なお、硫黄、酸化ビスマス、鉛酸ビスマス、酸化銅、酸化バナジウム等を正極活物質として用いることもできる。
これらの材料中の原子又はポリアニオンは、他の元素からなる原子又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。これらの材料は表面が他の材料で被覆されていてもよい。正極活物質層42においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
正極活物質として、リチウムイオン伝導性酸化物等の材料を含有するコート層によって被覆された状態のものを選択することが好ましい。リチウムイオン伝導性酸化物として、LiNbO、LiWO、LiTi12、LiPO等が挙げられる。この中でも、LiNbOを選択することが好ましい。コート層は、正極活物質の表面全体を被覆していてもよく、又は、表面を部分的に被覆していてもよい。
【0028】
正極活物質は、通常、粒子状である。正極活物質の平均粒径は、例えば、0.1μm以上20μm以下であることが好ましい。正極活物質の平均粒径が上記の下限以上であることで、正極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。正極活物質の平均粒径が上記の上限以下であることで、正極活物質層42の電子伝導性が向上する。なお、正極活物質と他の材料との複合体を用いる場合(例えば、正極活物質の表面をコート層によって被覆している場合)、該複合体の平均粒径を正極活物質の平均粒径とする。「平均粒径」とは、JIS-Z-8825(2013年)に準拠し、粒子を溶媒で希釈した希釈液に対しレーザ回折・散乱法により測定した粒径分布に基づき、JIS-Z-8819-2(2001年)に準拠し計算される体積基準積算分布が50%となる値を意味する。
【0029】
正極活物質の粉体を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法として、例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェトミル、旋回気流型ジェットミル又は篩等を用いる方法が挙げられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、篩や風力分級機等が、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0030】
正極活物質層42における正極活物質の含有量は、好ましくは10質量%以上95質量%以下であり、より好ましくは20質量%以上90質量%以下であり、さらに好ましくは30質量%以上70質量%以下である。正極活物質の含有量が上記の範囲であることで、正極活物質層42の高エネルギー密度化と、正極活物質層42の比較的簡便な製造とを両立できる。
【0031】
正極活物質層42の固体電解質は、後に詳述する固体電解質層60の説明において例示される固体電解質の中から適宜選択できる。正極活物質層42に含まれる固体電解質は、固体電解質層60に含まれる固体電解質と同じ種類であることが好ましい。正極活物質層42における固体電解質の含有量は、好ましくは5質量%以上90質量%以下であり、より好ましくは10質量%以上80質量%以下であり、さらに好ましくは30質量%以上70質量%以下である。正極活物質層42における固体電解質の含有量が上記範囲であることによって、当該蓄電素子が比較的大きい電気容量を有することができる。
【0032】
導電剤は、導電性を有する材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、例えば、炭素質材料、金属、導電性セラミックス等が挙げられる。炭素質材料としては、黒鉛化炭素、非黒鉛化炭素、グラフェン系炭素等が挙げられる。非黒鉛化炭素としては、カーボンナノファイバー、ピッチ系炭素繊維、カーボンブラック等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。グラフェン系炭素としては、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレン等が挙げられる。導電剤の形状は、粒状又は繊維状等であってもよい。導電剤のうち1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、上記の材料を複合化して用いてもよい。例えば、カーボンブラックとCNTとを複合化した材料を用いてもよい。上記の導電剤のうち、電子伝導性及び塗工性の観点でカーボンブラックが好ましく、カーボンブラックの中でもアセチレンブラックが好ましい。
【0033】
正極活物質層42が導電剤を含む場合、正極活物質層42における導電剤の含有量は、好ましくは1質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは3質量%以上9質量%以下である。導電剤の含有量が上記の範囲であることで、二次電池のエネルギー密度を高めることができる。
【0034】
バインダとしては、例えば、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)が挙げられる。また、バインダとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。
【0035】
正極活物質層42がバインダを含む場合、正極活物質層42におけるバインダの含有量は、好ましくは1質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは3質量%以上9質量%以下である。バインダの含有量が上記の範囲であることで、活物質を安定して保持することができる。
【0036】
正極活物質層42が増粘剤を含む場合、増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。増粘剤がリチウム等と反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させてもよい。
【0037】
正極活物質層42に含まれ得るフィラーは、特に限定されない。フィラーとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン;二酸化ケイ素、アルミナ、二酸化チタン、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の無機酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物;炭酸カルシウム等の炭酸塩;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウム等の難溶性のイオン結晶;窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物;タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。
【0038】
正極活物質層42は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Nb、W等の遷移金属元素を、正極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0039】
なお、固体電解質粒子に接する活物質が軟化変形されて固化している態様を、正極40及び後述する負極50の少なくとも一方の電極が備えていればよい。例えば、正極活物質が、軟化を経て変形した状態で固体電解質の粒子間で粒子に接していてもよい。正極活物質が、軟化を経て固体電解質の粒子表面の形状に応じて変形することによって、固体電解質の粒子と活物質との接触面積が増大している分、固体電解質と正極活物質との間における界面抵抗が低くなる。これにより、本実施形態の蓄電素子1においては、放電時の容量が向上され得る。
また、正極活物質の融点は、固体電解質の融点及び相変化が生じる温度のうちいずれか低い方の温度よりも低くてもよい。なお、複数種の正極活物質を用いている場合、最も高い融点を示す正極活物質の融点を上記のごとき正極活物質の融点とし、最も高い軟化点を示す正極活物質の軟化点を上記のごとき正極活物質の軟化点とする。上記の融点及び軟化点の測定方法は、後述する。
【0040】
(負極)
負極50は、負極基材51と、当該負極基材51に直接又は所定の層などを介して重なる負極活物質層52とを有する。本実施形態では、負極50において負極基材51と負極活物質層52とが直接重なり合っている。また、本実施形態では、負極基材51の片面(一方の面)に負極活物質層52が重ねられている。
【0041】
負極基材51は、導電性を有する。負極基材51の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼、アルミニウム等の金属又はこれらの合金が用いられる。これらの中でもステンレス鋼、ニッケル若しくはニッケル合金又は銅若しくは銅合金が好ましい。負極基材51としては、金属箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの観点から金属箔が好ましい。負極基材51としては、例えば、ステンレス箔、ニッケル箔若しくはニッケル合金箔、又は、銅箔若しくは銅合金箔が挙げられる。銅箔の例としては、圧延銅箔、電解銅箔等が挙げられる。
【0042】
負極基材51の平均厚さは、2μm以上35μm以下が好ましく、3μm以上30μm以下がより好ましく、4μm以上25μm以下がさらに好ましく、5μm以上20μm以下が特に好ましい。負極基材51の平均厚さを上記の範囲とすることで、負極基材51の強度を高めつつ、二次電池の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0043】
負極活物質層52は、負極活物質と、固体電解質の粒子とを含む。負極活物質層52では、固体電解質の粒子間で粒子に接して存在する負極活物質が、軟化を経て変形している。換言すると、負極活物質が、軟化を経て変形した状態で固体電解質の粒子間で粒子に接している。負極活物質は、固体電解質の粒子間の各隙間を埋めるように樹枝状に広がっている。また、負極活物質は、例えば、負極活物質層52の厚さ方向における一方の端(負極基材51側の端)から他方の端(固体電解質層60側の端)まで分散しつつ存在していてもよい。
【0044】
負極活物質の融点は、後に詳述する固体電解質の融点及び相変化が生じる温度のうちいずれか低い方の温度よりも低くてもよい。例えば、負極活物質の融点は、上記の固体電解質の融点及び相変化が生じる温度のうちいずれか低い方の温度よりも5℃以上低くてもよく、10℃以上低くてもよい。なお、負極活物質の融点は、上記の固体電解質の融点及び相変化が生じる温度のうちいずれか低い方の温度よりも30℃以下低くてもよい。
負極活物質の融点が、上記のごとき温度であることによって、負極50の作製時において、活物質が溶融又は軟化する温度よりも高く且つ固体電解質が溶融又は相変化する温度よりも低い温度を、加熱温度として採用できる。これにより、固体電解質の結晶構造が高温によって変化すること、及び、前記固体電解質の粒子径が高温によって変化することを抑制でき、前記固体電解質の物性を所望範囲内に容易に管理できる。また、活物質を十分に軟化させるための加熱温度の選択範囲が広くなるため、加熱温度管理がより容易になり、固体電解質と負極活物質との間における界面抵抗が低くなった負極50を比較的簡便に作製できる。よって、放電時の容量が向上した蓄電素子1を比較的簡便に製造できる。また、製造時において、固体電解質の結晶構造が高温によって変化すること、及び、固体電解質の粒子径が高温によって変化することを抑制できる。この点においても、蓄電素子1の放電時の容量がより向上し得る。
なお、複数種の負極活物質を用いている場合、最も高い融点を示す負極活物質の融点を上記のごとき負極活物質の融点とする。
【0045】
負極活物質の融点は、120℃以上の1温度(所定温度)であってもよく、また、800℃以下の1温度(所定温度)であってもよい。負極活物質の融点は、例えば、120℃以上800℃以下の1温度(所定温度)であってもよい。好ましくは、負極活物質の融点は、150℃以上300℃以下の1温度である。
上記の融点は、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定される。具体的には、室温から10℃/分の昇温速度で昇温し、測定試料が完全溶融するまで加熱する。この加熱条件で測定したときに観察されるピーク温度が融点である。
【0046】
負極活物質の軟化点は、上記の固体電解質の融点及び相変化が生じる温度のうちいずれか低い方の温度よりも低い。例えば、負極活物質の軟化点は、上記の固体電解質の融点及び相変化が生じる温度のうちいずれか低い方の温度よりも10℃以上低くてもよく、30℃以上低くてもよい。なお、負極活物質の軟化点は、上記の固体電解質の融点及び相変化が生じる温度のうちいずれか低い方の温度よりも50℃以下低くてもよい。
負極活物質の軟化点が、上記のごとき温度であることによって、上述した理由と同様の理由により、負極50の作製時に、斯かる軟化点よりも高い特定の加熱温度を採用することで、負極活物質を十分に軟化させて、固体電解質の粒子表面の形状に応じて変形させることができる。
なお、複数種の負極活物質を用いている場合、最も高い軟化点を示す負極活物質の軟化点を上記のごとき負極活物質の軟化点とする。
【0047】
負極活物質の軟化点は、例えば、80℃以上750℃以下の1温度であってもよい。
上記の軟化点は、熱機械分析装置(TMA)を用いて測定される。具体的には、針状プローブにより測定試料に荷重をかけつつ室温から5℃/分の昇温速度で昇温する。この試験条件下で、プローブが測定試料に侵入する方向において、プローブの位置が変化し始める温度(位置変化の開始温度)が軟化点である。
【0048】
なお、一般的に、1気圧25℃で固体状の物質の軟化点は融点よりも低い。換言すると、固体状物質が溶融する温度よりも、軟化する温度の方が低い。従って、負極活物質の融点よりも高い温度環境下であれば、軟化点よりも高い温度環境下であり、その負極活物質は、軟化している。
【0049】
負極活物質としては、公知の負極活物質の中から適宜選択できる。負極活物質は、特定の金属又は合金であってもよい。
負極活物質は、Al、Bi、In、Sb、Sn、Zn、Mg、Li、又は、これら金属のうち少なくとも1種を主成分とする合金であってもよい。なお、主成分とは、モル割合で半分以上を占める成分を意味する。
Al、Bi、In、Sb、Sn、Zn、Mg、Li、又は、これら金属のうち少なくとも1種を主成分とする合金の具体例としては、リチウムアルミニウム(Li-Al)合金、リチウムインジウム(Li-In)合金、インジウムアンチモン(Li-Sb)合金、ビスマススズ(Bi-Sn)合金、マグネシウムビスマス(Mg-Bi)合金、スズコバルト(Sn-Co)合金、スズ亜鉛合金(Sn-Zn)等が挙げられる。
負極活物質層52においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
負極活物質が、上記のごとき金属又は合金であることによって、負極活物質の融点が比較的低い温度となる。よって、負極活物質を十分に軟化させるための加熱温度の選択範囲が広くなることから、加熱温度管理が容易になる。従って、固体電解質と負極活物質との間における界面抵抗が低くなった負極50をより簡便に作製できる。従って、蓄電素子1の放電時の容量が比較的簡便に向上されている。
負極活物質の具体的な融点は、例えばAlであれば660℃、Biであれば271℃、Inであれば157℃、Sbであれば631℃、Snであれば231℃、Znであれば420℃、Mgであれば650℃、Liであれば181℃である。
【0050】
軟化を経た負極活物質の形状は、特に限定されず、不定形であってもよく、定形であってもよい。なお、軟化を経る前の負極活物質は、例えば、箔状、粒子状などであってもよい。
【0051】
負極活物質層52における負極活物質の含有量は、好ましくは10質量%以上95質量%以下であり、より好ましくは20質量%以上90質量%以下であり、さらに好ましくは30質量%以上70質量%以下である。負極活物質の含有量が上記の範囲であることで、負極活物質層52の高エネルギー密度化と、負極活物質層52の比較的簡便な製造とを両立できる。
【0052】
負極活物質層52の固体電解質は、後に詳述する固体電解質層60の説明において例示される固体電解質の中から適宜選択できる。負極活物質層52に含まれる固体電解質は、固体電解質層60に含まれる固体電解質と同じ種類であることが好ましい。負極活物質層52における固体電解質の含有量は、好ましくは5質量%以上90質量%以下であり、より好ましくは10質量%以上80質量%以下であり、さらに好ましくは30質量%以上70質量%以下である。負極活物質層52における固体電解質の含有量が上記範囲であることによって、当該蓄電素子が比較的大きい電気容量を有することができる。
【0053】
負極活物質層52は、必要に応じて導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分をさらに含む。導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分は、上記正極40で例示した材料から選択できる。
【0054】
負極活物質層52は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Na、K、Ca、Ga、Ge、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を、負極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0055】
電極体2では、固体電解質層60を介して正極活物質層42及び負極活物質層52が向き合っている。電極体2を積層方向(厚さ方向)の一方から見たときに、負極活物質層52の面積が、正極活物質層42の面積よりも大きくてもよい。換言すると、負極活物質層52の周縁部の少なくとも一部は、厚さ方向において正極活物質層42と対向していなくてもよい。
【0056】
(固体電解質層)
本実施形態の電極体2において、固体電解質を含み且つ活物質を含まない固体電解質層60が、正極40と負極50との間に配置されている。固体電解質層60の厚さは、5μm以上200μm以下であってもよく、10μm以上100μm以下であってもよい。
【0057】
固体電解質層60は、上記の正極活物質層42の説明で例示したバインダをさらに含んでもよい。換言すると、固体電解質層60は、正極活物質層42に含まれ得るバインダと同様のバインダを含んでもよい。
【0058】
上記の固体電解質は、イオン伝導性を有し且つ1気圧25℃の窒素雰囲気下においても固体状を保つ化合物である。上記の固体電解質としては、例えば、硫化物系固体電解質(後に詳述)、酸化物系固体電解質(後に詳述)などが挙げられる。
【0059】
硫化物系固体電解質の相変化(新たな結晶相が生成又は結晶相の種類もしくは比率の変化)が生じる温度は、例えば、150℃以上600℃以下の1温度(所定温度)であってもよい。硫化物系固体電解質の相変化が生じる温度は、200℃以上の1温度であってもよく、また、400℃以下の1温度であってもよい。
上記の相変化が生じる温度は、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定される。具体的には、室温から10℃/分の昇温速度で昇温して測定試料を加熱する。この加熱条件での測定したときに観察されるピーク温度が、相変化温度(相変化が生じる温度)である。
【0060】
酸化物系固体電解質の融点は、例えば、800℃以上3000℃以下の1温度(所定温度)であってもよい。酸化物系固体電解質の融点は、例えば、1000℃以上の1温度であってもよい。
上記の融点は、上述した負極活物質の融点と同様、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定される。ただし、例えば融点が1000℃を超える場合、DSCによる測定は困難である。この場合、測定試料を入れた炉の加熱温度を種々な温度に設定し、測定試料の溶融を目視で確認できたときの温度を融点とする。
【0061】
上述したように、活物質の融点は、固体電解質の融点及び相変化が生じる温度のうちいずれか低い方の温度よりも低くてもよい。複数種の固体電解質を用いている場合、固体電解質のなかで最も低い融点又は相変化が生じる最も低い温度が、活物質の融点よりも高いときに、活物質の融点の方が低いと判断する。
なお、固体電解質の種類によって、その融点は、相変化が生じる温度よりも高い場合があり、一方、相変化が生じる温度よりも低い場合もある。酸化物系固体電解質では、通常、相変化が生じる温度よりも融点の方が低い。換言すると、酸化物系固体電解質は、通常、昇温時に相変化よりも前に溶融が起こる。一方、硫化物系固体電解質では、通常、融点よりも相変化が生じる温度の方が低い。換言すると、硫化物系固体電解質は、通常、昇温時に溶融よりも前に相変化が生じる。
【0062】
固体電解質は、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等のイオンを伝導するイオン伝導性材料であり、且つ、1気圧25℃の窒素雰囲気下において固体状を保つ化合物である。固体電解質としては、例えば、硫化物系固体電解質、酸化物系固体電解質、及び酸窒化物系固体電解質、ポリマー系固体電解質等が挙げられる。なかでも、固体電解質としては、硫化物系固体電解質が好ましい。
固体電解質が硫化物系固体電解質であることによって、固体電解質層のリチウム等のイオンの伝導度をより高くできるという利点がある。また、硫化物系固体電解質の粒子は、より変形しやすいことから、軟化を経て固化した活物質との接触面積が、より大きくなり得る。よって、固体電解質と活物質との間における界面抵抗をより低くすることができるという利点がある。
【0063】
硫化物系固体電解質は、硫黄を必須成分として含み、1気圧25℃の窒素雰囲気下においても固体状を保つ化合物である。硫化物系固体電解質としては、リチウムイオン二次電池で用いられる場合、例えば、LiS-P、LiS-GeS、LiI-LiS-P、Li10Ge-P12、LiPSX(X=Cl、Br、I)等が挙げられる。ここで、Li10Ge-P12は、LGPS型と称され、LiPSXは、アルジロダイト型と称される。硫化物系固体電解質の相変化が生じる温度は、通常、200℃から600℃である。例えばLiPSXであれば300℃から400℃である。これらの硫化物系固体電解質は、いずれも、相変化が生じる温度のほうが融点よりも低い。
【0064】
酸化物系固体電解質は、酸素を必須成分として含み、1気圧25℃の窒素雰囲気下においても固体状を保つ化合物である。酸化物系固体電解質としては、例えば、ペロブスカイト型酸化物、NASICON型酸化物、LISICON型酸化物、ガーネット型酸化物等が挙げられる。
ペロブスカイト型酸化物としては、例えば、LiLa1-xTiO等で表される酸化物(Li-La-Ti-O系ペロブスカイト型酸化物)等が挙げられる。斯かる酸化物としては、例えば、Li0.29La0.57TiO、Li0.35La0.55TiO等が挙げられる。
NASICON型酸化物としては、例えば、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO等が挙げられる。
LISICON型酸化物としては、例えば、LiSiO-LiPO、LiBO-LiPO等が挙げられる。
ガーネット型酸化物としては、例えば、LiLaZr12等のLi-La-Zr-O系酸化物等が挙げられる。
【0065】
酸窒化物系固体電解質としては、例えば、LiN等が挙げられる。
【0066】
ポリマー系固体電解質としては、イオン導電性ポリマーが挙げられる。斯かるイオン導電性ポリマーとしては、例えば、ポリエーテル系、ポリエステル系、ポリアミン系、又は、ポリスルフィド系の各ポリマーの化学修飾体及び架橋体などが挙げられる。
【0067】
<全固体型蓄電素子の製造方法>
本実施形態の蓄電素子の製造方法は、例えば、電極体を作製すること(工程)と、電極体を容器3に収容して蓄電素子を組み立てること(工程)と、を備える。
電極体を作製することでは、正極40、負極50、固体電解質層60を作製する。また、電極体を作製することは、少なくとも正極40及び負極50のいずれか一方を作製するときに、粒子状の固体電解質と、活物質とを含む電極を加熱する加熱工程を備える。
加熱工程では、固体電解質の粒子と活物質とが接した状態で、活物質の軟化点よりも高い温度で電極を加熱する。斯かる加熱工程は、少なくとも正極40及び負極50のいずれか一方を作製するときに実施する。
【0068】
以下、上記の各工程について、詳しく説明する。
【0069】
(電極体を作製する工程)
電極体を作製する工程では、例えば負極50と固体電解質層60とを作製するときに、以下の第1例又は第2例のいずれか一方を実施することができる。
【0070】
・負極及び固体電解質層の作製(第1例)
第1例では、粒子状の固体電解質を用い、加熱工程前の負極活物質として金属箔又は合金箔を用いる。また、負極基材51としても金属箔又は合金箔を用いる。負極活物質と負極基材51とは、通常、異なる金属材料又は合金材料で形成されている。
固体電解質としては、上述したものを用いることができ、また、負極基材51の金属箔としては、上述したものを用いることができる。
【0071】
負極活物質の金属箔としては、Al、Bi、In、Sb、Sn、Zn、Mg、及び、Liからなる群より選択される金属の箔を用いることができる。又は、負極活物質の合金箔としては、上記金属のうち少なくとも1種を主成分とする合金の箔を用いることができる。
【0072】
第1例では、図4に示すように、
(I)負極基材51の金属箔又は合金箔に、金属箔又は合金箔の状態の負極活物質を重ね、さらに、固体電解質の粒子を含む流動体を重ねる(塗布する)。流動体は、例えば、固体電解質の粒子と、上述したバインダと、溶媒とを含むスラリー(SLと表示)である。塗布方法(塗工方法)としては、従来の一般的な方法を採用できる。
(II)塗布されたスラリー(SL)から溶媒を揮発させることで除去し(点線矢印で表示)、固体電解質の粒子とバインダとを含む塗布物の多孔度を例えば40%以上50%以下に調整する。
(III)負極活物質の金属箔又は合金箔と、固体電解質の粒子とが接した状態で負極50を加熱することによって、加熱工程を実施する。図4に示すように、加熱工程では、負極50を加熱した状態でプレスする(加熱された負極50にプレス処理を施す)ことが好ましい(破線矢印で表示)。
負極基材51の金属箔又は合金箔と、固体電解質の粒子とが接した状態で負極50を加熱することによって、固体電解質の粒子と、該粒子間に入り込んだ負極活物質とを含む負極活物質層52を形成する。
(IV)負極活物質層52が形成されることに伴い、固体電解質を含み負極活物質を含まない固体電解質層60が形成される。
なお、負極50を加熱する前に室温でプレス処理を実施してもよく、又は、負極50を加熱した後に室温でプレス処理を実施してもよい。
【0073】
第1例における加熱工程では、固体電解質の粒子と負極活物質とが接した状態で、負極活物質の軟化点(X℃)よりも高い温度で負極50を加熱する。加熱時の温度は、負極活物質の融点(Y℃)よりも高い温度であってもよい。
負極50の周囲環境を、負極活物質の軟化点(X℃)よりも高い温度に加熱することによって、負極活物質が、軟化して変形できる。具体的には、箔の状態であった負極活物質が軟化し、変形できる状態となる。よって、軟化した負極活物質の箔の一部は、負極基材51の金属箔から離れる方向へ移動して、固体電解質の粒子表面の形状に応じて変形できる。軟化変形した負極活物質は、固体電解質の粒子間に入り込み、固体電解質と負極活物質との接触面積が増える。そして、固体電解質の粒子と負極活物質とが混在した負極活物質層52が形成される。固体電解質と負極活物質との間における界面抵抗が低くなるため、製造された本実施形態の蓄電素子1の放電時の容量を向上させることができる。
なお、複数種の負極活物質を用いている場合、最も高い融点を示す負極活物質の軟化点又は融点を上記のごとき負極活物質の軟化点(X℃)又は融点(Y℃)とする。
【0074】
第1例における加熱工程では、固体電解質の融点及び相変化が生じる温度のうちいずれか低い方の温度(Z℃)よりも低い温度(特定の温度 T℃)で負極50を加熱することが好ましい。換言すると、加熱時における温度は、固体電解質の融点及び相変化が生じる温度のうちいずれか低い方の温度(Z℃)よりも低い特定の温度(T℃)であることが好ましい。
斯かる特定の温度(T℃)は、固体電解質の融点及び相変化が生じる温度のうちいずれか低い方の温度(Z℃)よりも低い温度であることから、固体電解質の結晶構造が高温によって変化すること、及び、固体電解質の粒子径が高温によって変化することを抑制できるという利点がある。
なお、複数種の固体電解質を用いている場合、複数種の固体電解質のなかで最も低い融点又は相変化が生じる最も低い温度を、上記のごときZ℃とする。
【0075】
上記の特定の温度(T℃)は、上記X℃(負極活物質の軟化点)よりも10℃以上高い温度であってもよく、30℃以上高い温度であることが好ましい。また、上記の特定の温度(T℃)は、上記Z℃(固体電解質の融点及び相変化が生じる温度のうちいずれか低い方の温度)よりも、10℃以上低い温度であってもよく、30℃以上低い温度であることが好ましい。
なお、上記X℃(負極活物質の軟化点)と、上記Z℃との差は、例えば50℃以上であり、80℃以上であることが好ましい。斯かる差は、500℃以下であってもよく、300℃以下であってもよい。斯かる差が50℃以上であることにより、上記の特定の温度(T℃)の選択範囲が広がって、加熱時の温度を設定しやすくなることから、より簡便に電極体2を製造できる。
【0076】
上記の特定の加熱温度(T℃)は、負極活物質がスズであり、固体電解質が硫化物系固体電解質である場合に、例えば170℃以上300℃以下であってもよい。
【0077】
第1例における加熱工程では、上記(II)で説明したように、特定の温度(T℃)で加熱しつつ負極50をプレスすることが好ましい。プレスすることによって、固体電解質の表面形状に応じて、負極活物質がより十分に変形できる、よって、軟化変形した負極活物質と、固体電解質の粒子との接触面積がより大きくなるため、これらの間の界面抵抗をより低下させることができる。
上記の(II)におけるプレス方法としては、例えば、ロールプレス機によるロールプレス、プレス成型機による平板プレス、等方プレスなどの一般的な方法を採用できる。プレス時の圧力は、特に限定されないが、例えば平板プレスによる圧力は、4.0MPa以上200MPa以下であってもよい。
なお、上記のプレス方法及び条件は、電極体2を作製する工程におけるいずれのプレスにも適用できる。
【0078】
電極体を作製する工程において第1例を採用することによって、比較的簡便に負極活物質層52を形成することができる。詳しくは、粒子状の負極活物質と、粒子状の固体電解質とを混合する操作をしなくても、金属箔又は合金箔の負極活物質を用いることで、比較的簡便に上記のごとき負極活物質層52を形成できる。
【0079】
なお、第1例における加熱工程によって固体電解質の粒子間に入り込まず、箔状のまま残存した負極活物質55は、負極50の一部であり、充放電反応に寄与できる。
【0080】
また、上記の説明において第1例では、負極50と固体電解質層60とが同時に作製されているが、第1例は、このような方法に限られない。例えば、加熱工程によって負極50を作製し、作製した負極50に、あらかじめ作製しておいた固体電解質層60を重ねることができる。続いて、重ねた固体電解質層60と負極活物質層52とが積層された状態でプレス処理することによって、図4の(IV)で表される状態としてもよい。
【0081】
第1例によって作製された負極及び固体電解質層の模式断面図を図5Aに示す。図5Aに示すように、負極活物質層52において、負極活物質は、固体電解質の粒子間の各隙間を埋めるように樹枝状に広がっている。また、負極活物質であるスズ箔の一部55は、負極基材51に隣接して箔状のまま残存した状態になっている。負極活物質層52よりもさらに負極基材51から離れた固体電解質層60では、負極活物質であるスズが固体電解質粒子の間に広がっておらず、負極活物質が含まれていない。
【0082】
第1例に類似する方法であるが加熱工程を行わずに作製された負極及び固体電解質層の断面概略図を図5Bに示す。図5Bに示すように、負極活物質であるスズ箔(tinで示す)は、負極基材51に隣接した位置にのみ配置されており、固体電解質の粒子間に広がっていない。このため、図5Aに示す構成と比較して、負極活物質と固体電解質との接触面積が非常に小さくなっている。
【0083】
・負極及び固体電解質層の作製(第2例)
第2例では、第1例と異なり、加熱工程前の負極活物質として金属箔又は合金箔に代えて、粒子状の負極活物質(金属粒子又は合金粒子)を用いる。なお、負極活物質の材質としては、上述したものを採用できる。固体電解質及び負極基材51としては、それぞれ上述したものを用いることができる。
【0084】
第2例では、図6に示すように、
(i)負極活物質層52を作製するために、負極活物質の粒子と固体電解質の粒子との混合粉体を調製する。調製した混合粉体を負極基材51の上に重ね、加熱工程前の負極50を作製する。そして、負極50を加熱して加熱工程を実施する。必要に応じて、負極50を加熱しつつプレス処理(平板プレス 破線矢印で表す)する。加熱工程における加熱温度としては、上記の特定の温度(T℃)を採用できる。
なお、負極50を上記の特定の温度(T℃)で加熱する前に室温でプレス処理を実施してもよく、又は、負極50を上記の特定の温度(T℃)で加熱した後に室温でプレス処理を実施してもよい。
(ii)第1例の方法と同様に、軟化変形した負極活物質が固体電解質の粒子間に入り込み、固体電解質と負極活物質との接触面積が増えた負極活物質層52(固体電解質の粒子と負極活物質とが混在)が形成される。
(iii)作製した負極50に、固体電解質の粒子を含み負極活物質の粒子を含まない固体電解質層60を重ねる。斯かる固体電解質層60は、例えば、固体電解質の粒子と、上述したバインダと、溶媒とを含むスラリーを負極活物質層52の表面に塗布し、塗布後のスラリーから溶媒を揮発させて除去することによって形成されたものであってもよく、また、固体電解質の粒子と、上述したバインダと、溶媒とを含むスラリーから別途形成されたものであってもよい。別途形成された固体電解質層60は、例えば、スラリーを平面上に塗布し、塗布後のスラリーから溶媒を揮発させることで除去し、平板プレス処理を施すことで形成されてもよい。
(iv)必要に応じて、負極活物質層52と固体電解質層60とに対してプレス処理を施して、負極活物質層52と固体電解質層60とを固着させる。
(v)作製された負極50は、第1例で作製された負極50と同様に、負極基材51と、負極基材51に重なった負極活物質層52とを有する。また、負極活物質を含まない固体電解質層60が、負極活物質層52に重なっている。
特に言及しない限り、第2例には、第1例と同様の操作等を適用できる。
【0085】
第2例の加熱工程で負極50を加熱することによって、第1例と同様に、固体電解質と負極活物質との間における界面抵抗が低くなるため、製造された本実施形態の蓄電素子1の放電時の容量を向上させることができる。
【0086】
電極体を作製する工程において第2例を採用することによって、負極活物質層52及び固体電解質層60の厚さを比較的簡便に制御できる。詳しくは、負極50の作製において、加熱条件やプレス圧条件を厳密にコントロールしなくても、所望の厚さをそれぞれ有する上記のごとき負極活物質層52と固体電解質層60とを形成できる。
【0087】
なお、上記の第2例において、加熱工程前の負極50を以下のようにして作製することもできる。詳しくは、負極活物質の粒子及び固体電解質の粒子の混合粉体と、溶媒とを混合したスラリーを負極基材51に塗布し、塗布後のスラリーから溶媒を揮発させて除去することによって、負極活物質の粒子と固体電解質の粒子との混合物を負極基材51の上に重ねてもよい。
【0088】
・正極の作製
正極活物質を軟化変形させる態様とする場合、電極体を作製する工程において、上述したような負極50の作製方法と同様の方法によって正極40を作製してもよい。一方、正極活物質を軟化変形させる態様としない場合、一般的な作製方法で正極40を作製してもよい。
【0089】
なお、電極体を作製する工程では、上記のごとき負極50及び固体電解質層60の積層体を作製した後に、正極活物質層42を構成する合剤を固体電解質層60に重ねて、さらに正極基材41を重ね、厚さ方向の両側からプレス処理を施すことによって、電極体2を作製してもよい。
また、電極体を作製する工程では、正極活物質層42を構成する合剤を正極基材41に重ねてプレス処理することで正極40を作製し、作製した正極40と、上記のごとき負極50及び固体電解質層60の積層体とを重ね合わせ、さらに、厚さ方向の両側からプレス処理を施すことによって、電極体2を作製してもよい。
【0090】
(蓄電素子を組み立てる工程)
斯かる工程では、作製した電極体2を容器3に収容し、電極体2の正極40及び負極50と、蓄電素子1の外部端子とが電気的にそれぞれ接続されるように蓄電素子1を組み立てる。蓄電素子を組み立てる方法としては、一般的な方法を採用できる。
【0091】
以上のようにして、本実施形態の蓄電素子1を製造することができる。
【0092】
<蓄電装置の構成>
本実施形態の蓄電素子1は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器用電源、又は電力貯蔵用電源等に、複数の蓄電素子1を集合して構成した蓄電装置100(バッテリーモジュール)として搭載することができる。この場合、蓄電装置100に含まれる少なくとも一つの蓄電素子1に対して、本発明の技術が適用されていればよい。
図7に、電気的に接続された二以上の蓄電素子1が集合した蓄電ユニット10をさらに集合した蓄電装置100の一例を示す。蓄電装置100は、二以上の蓄電素子1を電気的に接続するバスバ(図示せず)、二以上の蓄電ユニット10を電気的に接続するバスバ(図示せず)等を備えていてもよい。蓄電ユニット10又は蓄電装置100は、一以上の蓄電素子の状態を監視する状態監視装置(図示せず)を備えていてもよい。
【0093】
<その他の実施形態>
尚、本発明の蓄電素子は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもよい。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成又は周知技術に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。また、ある実施形態の構成に対して周知技術を付加することができる。
【0094】
上記実施形態では、蓄電素子1が充放電可能な全固体型二次電池(例えば全固体型リチウムイオン二次電池)として用いられる場合について説明したが、蓄電素子の種類、形状、寸法、容量等は任意である。
【0095】
上記実施形態では、正極基材41の片面に正極活物質層42が重ねられた正極40、及び、負極基材51の片面に負極活物質層52が重ねられた負極50について説明したが、正極では、正極基材41の両面に正極活物質層がそれぞれ重ねられてもよく、また、負極では、負極基材の両面に負極活物質層がそれぞれ重ねられてもよい。
【0096】
上記実施形態の蓄電素子1において、負極活物質は金属又は合金であることが好ましく、負極活物質はSn又はAlを主成分とする合金であることがより好ましい。
従来、リチウムイオン二次電池に代表される非水系電解質二次電池等の蓄電素子では、黒鉛を代表とする炭素材料が負極活物質として用いられることが一般的である。固体電解質を含む蓄電素子においても黒鉛が使用される場合が多い。
これに対して、負極活物質として金属又は合金を用いた場合、負極活物質としての金属又は合金は、リチウム等の動作イオンと合金や化合物を形成する。そのため、負極活物質としての金属又は合金は、電気化学的に可逆性を持って、負極活物質としての炭素材料よりもはるかに多くの動作イオンを吸蔵することができる。ただし、金属又は合金は、炭素材料と比較して、動作イオンの吸蔵放出に伴う体積変化が大きい。そのため、負極活物質として金属又は合金を用いた場合、充放電に伴って、負極活物質と固体電解質粒子との接触面積が低下し得る。
一方、上記実施形態の蓄電素子1では、固体電解質の粒子間で粒子に接して存在する負極活物質が、軟化を経て変形している。負極活物質が、軟化を経て固体電解質の粒子表面の形状に応じて変形することによって固体電解質粒子と活物質との接触面積が増大している分、固体電解質と活物質との間における界面抵抗を低くすることができる。このような効果は、金属又は合金を負極活物質として用いた場合に特に有効である。
【0097】
上記実施形態の蓄電素子1において、負極活物質層52に含まれる固体電解質が硫化物系固体電解質であり、且つ、負極活物質層52に含まれるバインダがフッ素樹脂又はエラストマーであることが好ましい。このとき、負極活物質層52に含まれるバインダは、フッ素樹脂としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)、エラストマーとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)であることがより好ましい。
従来、充放電に伴う硫化物系固体電解質粒子と負極活物質との接触面積の減少を抑制すべく、ポリイミド等の高強度なバインダを用いることが検討されている。しかし、合剤内で重合反応して結着することで高強度を示すことを志向したバインダ(ポリイミド等)を用いた場合、重合前の単量体と硫化物系固体電解質とが反応してしまい、上記の重合反応が起こらない場合がある。そのため、硫化物系固体電解質と反応しにくいバインダを用いつつ、硫化物系固体電解質粒子と負極活物質との接触面積を確保できることが望ましい。
上記実施形態の蓄電素子1では、固体電解質の粒子間で粒子に接して存在する負極活物質が、軟化を経て変形している。また、斯かる負極活物質が、固体電解質の粒子間の各隙間を埋めるように樹枝状に広がった形状を有する。斯かる負極活物質は、固体電解質の粒子間の各隙間において固体電解質との一体的な構造を有する。上記実施形態の蓄電素子1では、このような構造の負極活物質を利用することによって、高強度なバインダを用いなくても、硫化物系固体電解質粒子と負極活物質との接触面積を容易に確保できる。このような効果は、負極活物質層52に含まれる固体電解質が硫化物系固体電解質であり、且つ、負極活物質層52に含まれるバインダがフッ素樹脂又はエラストマーである場合に特に有効である。
【0098】
上記実施形態の蓄電素子1は、全固体型蓄電素子であることが好ましい。すなわち、上記実施形態の蓄電素子1は、正極活物質層42、負極活物質層52、及び固体電解質層60に、電解液を含まないことが好ましい。
蓄電素子が電解液を含む場合、固体電解質粒子と負極活物質との間に隙間が発生した場合であっても、流動性を有する電解液が当該隙間に移動できれば、動作イオンの新たな輸送経路が構築されることとなる。これに対して、電解液を含まない負極活物質層を備える全固体型蓄電素子において、固体電解質粒子と負極活物質との間に隙間が発生すると、隙間が発生した分、動作イオンの輸送経路がなくなるため特に問題となる。
上記実施形態の蓄電素子1では、固体電解質の粒子間で粒子に接して存在する負極活物質が、軟化を経て変形している。負極活物質が、軟化を経て固体電解質の粒子表面の形状に応じて変形している分、固体電解質粒子と活物質との間の隙間を減少させ、接触面積を増大させることができる。このような効果は、蓄電素子が全固体型蓄電素子である場合に特に有効である。
【0099】
なお、上記実施形態では、蓄電素子のうち全固体型蓄電素子について詳しく説明したが、本発明の蓄電素子は、全固体型蓄電素子に限定されない。本発明の蓄電素子を構成する正極活物質層、負極活物質層、及び固体電解質層は、電解液を含んでいてもよい。電解液としては、公知の電解液の中から適宜選択できる。本発明の蓄電素子がリチウムイオン二次電池である場合、例えば、電解液としては、環状カーボネート及び鎖状カーボネートを混合した溶媒にLiPFを電解質塩として溶解させたものを用いることができる。
【実施例
【0100】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明する。本発明は以下の実施例に限定されない。
【0101】
以下に示すようにして、各実施例及び各比較例の蓄電素子(全固体型リチウムイオン二次電池)を製造した。以下、製造した蓄電素子を全固体型二次電池とも称する。
【0102】
<全固体型二次電池の製造>
(実施例1)
厚さ20μmのニッケル箔(負極基材)の片面側に、厚さ2.5μmのスズ箔(負極活物質)を重ねた。次に、スズ箔上に、固体電解質の粒子とバインダと溶媒とを含むスラリーを塗布し、さらに乾燥処理を施すことで、スラリーから溶媒を揮発させて除去し、厚さ60μmの固体電解質層を形成した。なお、スズ及び固体電解質の各物性値は、下記の通りである。
負極活物質(Sn)-融点:231℃、 軟化点:170℃
固体電解質(アルジロダイト型硫化物系固体電解質)-
融点: 昇温に伴って溶融よりも先に相変化が生じる
相変化が生じる温度: 300℃から400℃
負極の作製では、加熱工程において、98MPaの圧力によってプレス処理を実施しつつ負極を加熱温度180℃にて加熱した。これにより、厚さ2.5μmの負極活物質層と、厚さ20μmの固体電解質層とを備える負極と固体電解質層との積層物を形成した。そして、この積層物を直径10mmの大きさに打ち抜いた。
次に、直径10mmのマコール管の一方側から固体電解質を内部に投入し、SUS治具を用いて185MPaでプレスして、厚さ100μmの固体電解質層を形成した。その後、上記の直径10mmの積層物を、マコール管に挿入し、370MPaでプレスした。これにより、積層物の固体電解質層(厚さ20μm)と、固体電解質層(厚さ100μm)とを、マコール管の内部で接合させた。
一方で、直径8mmのリチウム箔を両面側から直径9mmのインジウム箔で挟むことによって、リチウム-インジウム対極を形成した。
続いて、作製したリチウム-インジウム対極をマコール管の他方側から挿入した。これにより、挿入したリチウム-インジウム対極と、マコール管内部の負極とを、固体電解質層を介して対向させた。そして、マコール管の内部において、負極と固体電解質層と上記対極とをSUS治具によって挟み込んだ。その後、両側のSUS治具をボルトで締結し、両側のSUS治具に外部端子としてリードを接続し、ハーフセル(全固体型二次電池)を製造した。
【0103】
(実施例2)
加熱温度を200℃に変更した以外は、実施例1と同様にして全固体型二次電池を製造した。
【0104】
(実施例3)
加熱温度を225℃に変更した以外は、実施例1と同様にして全固体型二次電池を製造した。
【0105】
(実施例4)
加熱温度を250℃に変更した以外は、実施例1と同様にして全固体型二次電池を製造した。
【0106】
(比較例1)
負極活物質として黒鉛(2000℃以下に融点を持たない)を採用した負極活物質層を負極基材の片面に重ねた点、負極活物質層の上に固体電解質の粒子とバインダとを含むスラリーを塗布しなかった点、及び、加熱温度を100℃に変更した点以外は、実施例1と同様にして全固体型二次電池を製造した。なお、負極活物質層の負極活物質と固体電解質とバインダとの質量比を68:29:3とした。また、負極活物質層の単位面積当たりの質量を10mg/cmとした。
【0107】
(比較例2)
固体電解質の粒子とバインダと溶媒とを含むスラリーをスズ箔上に塗布しなかった点、並びに、加熱及びプレス処理のいずれも行わなかった点以外は、実施例1と同様にして全固体型二次電池を製造した。
【0108】
(比較例3)
室温(25℃)でプレス処理を行った点以外は、実施例1と同様にして全固体型二次電池を製造した。
【0109】
実施例1~4、及び、比較例1~3の全固体型二次電池について下記のごとき性能評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0110】
<性能評価>
製造した各全固体二次電池を用いて、以下の測定条件によって、充電時の容量及び放電時の容量を測定した。
25℃でマイナス0.6Vまで0.15mAの電流値で定電流充電を行った後に、マイナス0.6Vで電流値が0.02mAとなるまで定電圧充電をした。このときに充電した電気量を負極活物質の質量で除することで「充電時の容量[mAh/g]」を算出した。次に、充電後に休止時間を30分間設けた後、25℃で0.88Vまで0.15mAの電流値で定電流放電を行った。このときに放電した電気量を負極活物質の質量で除することで「放電時の容量[mAh/g]」を算出した。
【0111】
【表1】
【0112】
表1から把握されるように、比較例1及び比較例2の電池と比較して、実施例1~4の各電池では、放電時の容量が向上されていた。一方、比較例1~3の電池の放電時の容量は、ほとんど向上されていなかった。
【0113】
表1から把握されるように、負極の加熱温度を高くすることによる放電時の容量の向上には、閾値があることが示唆される。加熱温度が異なる実施例1~4を比較すると、加熱温度の上昇に伴って放電時の容量が向上する傾向が認められるものの、負極活物質の融点(スズの場合231℃)を超える加熱温度で加熱工程を実施しても、さらなる放電時の容量の向上が認められない。このため、固体電解質の物性を所望範囲内に容易に管理するという観点では、加熱工程における温度を負極活物質の融点以下に設定することが好ましい。
【符号の説明】
【0114】
1:蓄電素子(全固体型リチウムイオン二次電池)、
2:電極体、
3:容器、
4:正極端子、 5:負極端子、
40:正極、
41:正極基材、 42:正極活物質層、
50:負極、
51:負極基材、 52:負極活物質層、
60:固体電解質層、
10:蓄電ユニット、 100:蓄電装置。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7