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  • 特許-複合酸化物粉末の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-31
(45)【発行日】2024-06-10
(54)【発明の名称】複合酸化物粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/00 20060101AFI20240603BHJP
【FI】
C01B33/00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2023070673
(22)【出願日】2023-04-24
(62)【分割の表示】P 2020506591の分割
【原出願日】2019-03-13
(65)【公開番号】P2023083524
(43)【公開日】2023-06-15
【審査請求日】2023-04-24
(31)【優先権主張番号】P 2018047435
(32)【優先日】2018-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019033177
(32)【優先日】2019-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 宏昌
(72)【発明者】
【氏名】平 浩昭
(72)【発明者】
【氏名】田中 修
【審査官】玉井 一輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-006823(JP,A)
【文献】特開2016-190770(JP,A)
【文献】国際公開第2015/016359(WO,A1)
【文献】特開2007-230789(JP,A)
【文献】特開2012-187563(JP,A)
【文献】特開2003-252616(JP,A)
【文献】特開昭60-42218(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00-33/193
C30B 1/00-35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、チタン及びジルコニウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属とシリコンとの複合酸化物からなり、レーザー回折散乱法による体積基準累積50%径が0.05~2.0μmの範囲にあり、変動係数が40%以下であるシリカ系複合酸化物粉末であって、該粉末の5質量%超音波分散液(出力40W、照射時間10分)において、コールターカウンター法により得られた粒度分布における、粒子径が5μm以上である粒子の含有量が個数基準で10ppm以下であることを特徴とする、シリカ系複合酸化物粉末の製造方法。
(1)シリコンのアルコキシドの部分加水分解物を準備する工程
(2)チタン及びジルコニウムからなる群から選ばれる金属のアルコキシド、または、該金属のアルコキシドと錯化剤との混合物と、前記部分加水分解物とを、全金属に占めるチタン又はジルコニウムの割合が50モル%以下となる割合で混合して複合アルコキシド原料を調製する工程
(3)水を含む分散媒中で前記複合アルコキシド原料を加水分解・縮合させて複合酸化物粒子を得る工程
(4)複合酸化物粒子が前記分散媒中に分散した分散液を、目開き3μm以上5μm以下のろ材により湿式ろ過する工程
(5)湿式ろ過された後の複合酸化物分散液に、二酸化炭素、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム及びカルバミン酸アンモニウムよりなる群から選択される少なくとも1種の化合物からなる化合物を添加し、複合酸化物粒子を凝析させて、複合酸化物が凝析した凝析複合酸化物分散液を得る工程
(6)該凝析複合酸化物分散液から複合酸化物粒子を固液分離する工程
(7)固液分離した複合酸化物粒子を乾燥する工程
【請求項2】
さらに以下の工程を含む請求項1記載のシリカ系複合酸化物粉末の製造方法。
(8)前記乾燥により得られた複合酸化物粒子を600℃~1200℃で焼成する工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤用の充填剤、フィルム用のアンチブロッキング剤、光散乱粒子、ハードコートや歯科材料等として好適に使用できるシリカ系複合酸化物粉末に関する。詳しくは、粗粒量が非常に少ないシリカ系複合酸化物粉末に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学用接着剤やフィルム等の各種樹脂組成物には、充填剤として種々の無機粉末が配合される。中でもゾル-ゲル法により製造したシリカ系複合酸化物粒子は、シリカを主成分にして各種の金属酸化物を複合化することによって、シリカのみでは得られない様々な特徴ある性能を発揮することが可能であることから、様々な用途に応用されている。例えば、シリカとシリカ以外の金属酸化物の配合比率を変えることにより、光学的な透明性を損なうことなく粒子の屈折率を任意に調節できる。樹脂と屈折率の一致した粒子をフィラーとして用いることで、透明性を維持しながら、樹脂の機械的強度、低熱膨張性などの性能を向上させた優れた透明複合樹脂を得ることができる。また、フィルムにコーティングあるいは練り込むことで、透明性を維持してアンチブロッキング効果を得ることができる。
【0003】
これまでにも、シリカ以外の金属酸化物の配合率を変えた物質が知られており、例えば特許文献1には、シリカ以外の金属酸化物の含有率が30~50モル%である複合酸化物が開示されている。ところが、従来知られている方法では、比較的多くの粗大粒子や凝集粒子が含まれるという課題があった。これらの粗粒や凝集粒子は、例えばフィルムに適用した場合、欠陥の原因となり歩留まりの低下を引き起こす。また、光学用接着剤や樹脂組成物に適用した場合、光の透過性等が悪化する等の課題が生じる。
【0004】
ところで、フィルム用途で使用する粉体に粗粒や凝集塊を含む場合、欠陥や傷などの原因となるため含まないのが好ましい。特に、光学用途のフィルムについては、近年、フラットパネルディスプレイの大画面化や高精細化の進行に伴い、高い透明性や実質的に欠陥が無いこと等が求められており、当該フィルム用途においては粗粒や凝集塊の含有量が極めて低レベルであることが非常に重要になってきている。
【0005】
また、接着剤等の樹脂組成物に添加する場合、特に半導体のアンダーフィルのように狭い流路を流動させる場合、粗粒や凝集塊は不均一な流れを生じさせ、ボイドや接着不良の原因となる。従って、光半導体用をはじめ種々の光学用接着剤でも、不良の発生防止のために粗粒や凝集塊の含有量が極めて低レベルであることは非常に重要である。
【0006】
特許文献2では、ゾル-ゲル法により得られたシリカ粒子分散液に、特定の化合物からなる凝析剤を添加することにより、前記後工程では、強固な凝集塊を生じさせることなく、緩やかな凝集体として生成させることができ、これは樹脂に分散させる際の分散機のシェア等により一次粒子まで容易に解砕できることが記載されている。
【0007】
即ち、この方法によれば、前記の如くにゾル-ゲル法を、シリカの単分散性に優れるよう制御して実施すれば、後工程で生成した凝集体は簡単な解砕処理で再び一次粒子に解砕できるため、シリカ粉末に粗粒は実質含まれなくなる。従って、汎用レベルの粒度分布測定法、具体的には、レーザー回折散乱法で測定して、粒子径が5μmを超えるような粗粒が検出されないようなシリカ粉末を得ることも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2003-252616号公報
【文献】特開2012-6823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のようにレーザー回折散乱法での測定結果によれば、粗粒を実質的に含まないシリカ粉末やシリカ-チタニア複合酸化物は得られていた。しかしながら、このような粉末を用いても、欠陥や傷、ボイドや接着不良が未だ生じるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねてきた。その結果、レーザー回折散乱法による粒度分布測定では未検出になるほどに、凝集塊としての粗粒が低減化されたゾル-ゲルシリカ系複合酸化物粉末を得ても、このものには上記レーザー回折散乱法よりも検出感度が高くなるコールターカウンター法で測定すると、5μm以上の粒子が有意量存在する知見を得た。そして、この粗粒が、前記光学材料用途の充填剤に求められるような品質を獲得する上での阻害要因になっている事実を突き止めた。
【0011】
そして、更に検討を深めた結果、この粗粒は、上記乾燥工程等の後工程で生じる凝集塊ではなく、ゾル-ゲル法によるシリカ系複合酸化物の合成時に不可避的に生成する、粗大な独立一次粒子が主であること、及びこの粗大独立一次粒子はゾル-ゲル法によるシリカ合成後、得られるシリカ粒子分散液を湿式ろ過すれば効率的に除去できることを見出し、上記課題が解決された新規なゾルゲルシリカ粉末を提案するに至った。
【0012】
即ち、本願発明は、レーザー回折散乱法による体積基準累積50%径が0.05~2.0μmの範囲にあり、変動係数が40%以下であるシリカ系複合酸化物粉末であって、該粉末の5質量%超音波分散液(出力40W、照射時間10分)において、コールターカウンター法により得られた粒度分布における、粒子径が5μm以上である粒子の含有量が個数基準で10ppm以下であることを特徴とする、シリカ系複合酸化物粉末である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のシリカ系複合酸化物粉末は、粗粒が極めて少ない。従って、これを配合したフィルム等の成形品の製造では欠陥の発生が抑制される。
【0014】
そして、光半導体用をはじめ種々の光学用接着剤の充填剤として使用した場合には、狭ギャップへの隙間浸透性に高度に優れる。この結果、目的とする部材の生産性や歩留まりが改善され、極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】シリカ系複合酸化物の焼成温度と5μm以上の粗粒の量との関係を示した図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のシリカ系複合酸化物粉末は、チタン及びジルコニウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属とシリコンとの複合酸化物からなる。
【0017】
本発明において、チタン及びジルコニウムは、単独でシリカと複合化して、シリカ-チタニア複合酸化物粒子やシリカ-ジルコニア複合酸化物粒子となっていてもよいし、シリカ、チタニア及びジルコニアの全てが酸化物として複合化していてもよい。具体的にはシリカ-チタニア-ジルコニアの3元系のシリカ系複合酸化物粒子であってもよい。
【0018】
本発明のシリカ系複合酸化物粉末において、全金属に占めるチタン及びジルコニウムの割合が50モル%以下であることが好ましい。この範囲にすることにより、後述する製造方法で製造した場合に、球状を保て、十分な球形度が得られ、また粒子同士が癒着し粗粒が増加してしまう可能性が低くなる。より好ましくは40モル%以下、特に25モル%以下である。また、シリカを超える屈折率を得ることを考慮すると、チタン及びジルコニウムの割合は1モル%以上が好ましく、3モル%以上がより好ましく、5モル%以上が特に好ましい。
【0019】
本発明のシリカ系複合酸化物粉末は、通常はそのほとんどが非晶質であるが、非晶質と一部結晶質との混合物であってもよい。後述するゾル-ゲル法で製造すると、焼成前は非晶質のものとなり、これを焼成するに際して焼成温度が低い場合は非晶質のままであるが、焼成温度が高い場合はシリカ以外の金属酸化物の一部が結晶質となる場合がある。一般的にこれらの性質はX線回折等の手段で解析できる。なお、一般的に、本粒子の光学的に透明な性質を利用しようとする場合は非晶質もしくは極一部のみが結晶質に転移した程度が好ましい。
【0020】
本発明のシリカ系複合酸化物粉末は、レーザー回折散乱法による体積基準の累積50%径(以下、「平均粒子径」とする)が0.05~2μmの範囲にある。平均粒子径は0.1~1.5μmであることがより好ましく、0.15~1μmがさらに好ましく、0.25~0.8μmが特に好ましい。平均粒子径が2μmを超えて大きいと、凝集塊を精度良く低減するのが難しくなり、粒子径が5μm以上である粒子が多くなる。また、一般に粒子径が小さく比表面積が大きい粒子は乾燥させた際に凝集しやすい性質があり、よって平均粒子径が0.05μmより小さい場合には、凝集塊の生成を抑えることが難しく、生成した凝集塊を解砕することが困難であり、やはり粒子径が5μm以上である粒子が多くなる。また、斯様な粒径の小さい粒子は、樹脂等に充填した際に粘度が上昇し流動性が低下する。
【0021】
また、本発明のシリカ系複合酸化物粉末は、該シリカ系複合酸化物粉末の5質量%の超音波分散液(出力40W、照射時間10分)において、コールターカウンター法(アパチャー径30μm)を用いて求めた、総測定個数に対する5μm以上の粗粒量の割合(ppm)が10ppm以下である。5ppm以下がより好ましい。なおこの際の分散媒は、表面処理がされていない粉末の場合には蒸留水、表面処理粉末の場合にはエタノールを使用する。
【0022】
なお、以下では特に断らない限り、5μm以上もしくは3μm以上の粗粒に関して記述する場合は、上記したコールターカウンター法により計測される粒径を基準とする。
【0023】
本発明のシリカ系複合酸化物粉末は、仮に凝集塊を有していたとしても、それは弱い力の凝集体であるため、簡単な解砕処理で良好に解すことができる。従って、上記シリカ系複合酸化物粉末の5質量%分散液において、出力40W、照射時間10分の超音波分散で、該弱い凝集体は一次粒子に解砕でき、この条件で解砕できることは、例えば、樹脂や溶剤に分散させる際の分散機のシェアで良好に解せることを意味している。
【0024】
係るシリカ系複合酸化物粉末の5質量%超音波分散液において、5μm以上の粗粒量が上記値を超えて多い場合、これを配合した樹脂組成物の流動性が低下し、半導体用キャピラリーアンダーフィルのように狭い隙間に注入する場合に、粗粒による樹脂組成物の隙間浸透性が悪化し、均質ではなくなる。また、フィルム用途では、傷つきや欠陥の原因となる。
【0025】
更に同様の理由により、3μm以上の粗粒量が50ppm以下が好ましく、30ppm以下がより好ましく、10ppm以下であることがさらに好ましく、5ppm以下であることが特に好ましい。いずれの場合についても、コールターカウンター測定で粗粒量を求める方法は、1試料あたりの測定粒子数を約5万個とし、5試料合わせて約25万個について測定した。そのうち、粒径が5μm以上の粒子数、及び粒径が3μm以上の粒子数をそれぞれ算出し、総測定個数に対するそれぞれの粗粒量(ppm)とする。
【0026】
なお、粗粒の含有量の定量法として、レーザー回折散乱法による粒度分布測定やSEM観察等も挙げられるが、上記SEM観察では、一度の視野に入る粒子の数に限りがあるため、ppmオーダーの粗粒を観察して定量するのは非効率である。またレーザー回折・散乱法による粒度分布測定は、多重散乱を避けるため測定に用いる試料のシリカ系複合酸化物量に限界がある上に、特開2008-19157に記載の通り検出レベルがパーセントの程度で、検出感度が低い。よって、たとえば本発明のようなシリカ系複合酸化物微粒子中における微量の5μm以上の粒子径を有する粒子の量の定量には不適当である。
【0027】
具体的には実施例に示すが、レーザー回折散乱法による粒度分布測定を行って粗粒が検出されない場合であっても、前記コールターカウンター法を用いて定量すると検出される粗粒が存在し、本件発明は、斯様な粗粒の存在が、半導体封止材用途においては樹脂組成物の流動性の低下や、隙間の詰まり等により、フィルム用途では傷つきや欠陥の発生により、歩留まり向上を妨げる要因になっていることを突き止めたものである。
【0028】
本発明のシリカ系複合酸化物粉末は、粒径分布の広がりを示す指標の1つである変動係数が40%以下であり、30%以下であることが好ましく、25%以下であることが特に好ましい。変動係数が上記範囲を超えて大きいと、粒度分布がブロードとなり、同じ平均粒子径を有する粉末で比較すると微細粒子や粗大粒子が増加する可能性がある。ここで、変動係数はレーザー回折散乱法により測定された粒度分布から求めたものである。
【0029】
本発明のシリカ系複合酸化物粉末は、α線量が0.002c/(cm・h)以下であることが好ましい。α線量が大きいと、これを電子材料用樹脂組成物への充填用として用いた場合には、メモリーセルの蓄積電荷の反転などソフトエラーの要因などに繋がることが知られている。半導体パッケージの微細化、高集積化や3D実装化が進む結果、充填剤由来のα線等による影響が大きくなってきており、低α線量の充填剤が求められている。
【0030】
このα線を放出する不純物としてウラン(U)やトリウム(Th)などが挙げられ、本発明のシリカ系複合酸化物粉末において、U含有量及びTh含有量が0.1ppb以下であることが好ましく、0.05ppb以下であることがより好ましく、0.02ppb以下であることが特に好ましい。前記ウランとトリウムの定量方法は、ICP質量分析法により測定した値であり、検出下限値は0.01ppbである。
【0031】
本発明のシリカ系複合酸化物粉末は、Fe含有量が10ppm以下、Al含有量が10ppm以下、Na含有量が5ppm以下、K含有量が5ppm以下、且つ塩化物イオン含有量が10ppm以下であることが好ましい。更に、Ca含有量が5ppm以下、Cr含有量が5ppm以下、且つNi含有量が5ppm以下であることが好ましい。本発明のシリカ系複合酸化物粉末に含有される不純物量が上記範囲であることは、半導体封止材の充填剤として用いた際の、シリカ系複合酸化物粒子に起因する金属配線などの腐食を低減できる点で好適である。上記不純物の定量方法は、塩化物イオンについては、イオンクロマトグラフ法により測定した値であり、塩化物イオン以外の元素についてはICP発光分析法により測定した値である。
【0032】
上記不純物は、原料に由来するだけでなく、反応容器、配管、解砕器等の摩耗粉に由来するものも含まれる。なお、Na、K、Ca、塩化物イオンは、雰囲気に由来するものであることが多い。
【0033】
さらにまた、本発明のシリカ系複合酸化物粒子の密度や屈折率については、シリカ以外の金属酸化物の種類や含有率、さらには粒子の焼成温度等によって変わるため、一概には規定できない。最も一般的には、粒子密度は1.5~5g/cmの範囲、589nmでの屈折率は1.4~3の範囲である。なお、例えば、シリカ-チタニア複合酸化物粒子に関しては、チタニアの含有率が30~50モル%の範囲のものを1000℃で焼成した場合には、粒子密度が2.6~3.0g/cmの範囲、屈折率は1.65~1.85の範囲であった。
【0034】
本発明において、得られるシリカ系複合酸化物粒子の球形度はシリカ以外の金属の含有率(モル分率)が高いほど低くなる傾向にある。シリカ以外の金属のモル分率が0.25以下の場合には球形度は通常0.9以上であり、0.25以上の場合には球形度は通常0.8以上であり、いずれの場合も実質的に独立球状粒子である。
【0035】
本発明のシリカ系複合酸化物粒子は、吸湿性が小さい方が好ましい。シリカ系複合酸化物粒子は、純粋なシリカ粒子に比べて吸湿しやすい傾向が強いが、該粒子を樹脂の充填剤として用いた場合、吸湿した水分は、加熱を施すと気泡等を発生し収率低下の原因となる。特に、充填率が高い半導体封止材用途などにおいて顕著となる。
【0036】
当該吸湿量は、以下の加熱減量で評価できる。即ち、粒子粉末を25℃湿度80%条件下で24時間保管して吸湿させ、その後、300℃で5時間加熱し、その加熱前後の質量差分を、加熱後の質量で除して、%として評価する。
【0037】
本発明のシリカ系複合酸化物粒子は、後述するゾルゲル方法で製造した場合には、上記方法で評価した加熱減量が0.1~20%であるが、焼成を施すことにより低減できる。焼成温度が高いほど、加熱減量は小さくなる傾向がある。また、次に述べる表面処理を施して疎水化することによっても、加熱減量を低減させることが可能である。焼成及び表面処理の双方を施すことがより好ましい。上記用途を考慮すると加熱減量は5%以下、好ましくは3%以下である。
【0038】
本発明のシリカ系複合酸化物粉末を構成する粒子は、シリル化剤及び/またはシランカップリング剤で表面処理されていてもよい。このような表面処理で処理することにより、得られる表面処理シリカ系複合酸化物粒子の流動性が良好となる。また、吸水性(加熱減量)を小さくできる。該観点からシリル化剤で処理されていることがより好ましい。
【0039】
上記シリル化剤又はシランカップリング剤としては、表面処理に通常用いられている公知のシランカップリング剤を、特に制限なく使用することが可能であり、必要とする表面処理シリカ系複合酸化物粒子の性能等に応じて適宜選択して、使用すればよい。
【0040】
シランカップリング剤の具体例としては、例えばメチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロイルオキシトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N,N-ジメチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N,N-ジエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、4-スチリルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0041】
シリル化剤としては、テトラメチルジシラザン、ヘキサメチルジシラザン、ヘプタメチルジシラザン等を挙げることができる。
【0042】
また異なる複数のシリル化剤及び/またはシランカップリング剤で表面処理されていてもよい。
【0043】
本発明のシリカ系複合酸化物粉末のうち、上記の如くシリル化剤及び/またはシランカップリング剤で表面処理を行って改質を行ったものは、メタノール滴定法による疎水化度(M値)が5~70であることが好ましい。なお、未改質の場合は、M値が0であることが通常である。
【0044】
また、表面改質されたもののカーボン量は単位表面積あたり0.01~0.06質量%・g/mであることが好ましい。なお、当該単位表面積あたりのカーボン量とは、質量あたりのカーボン量を、質量あたりの面積(比表面積)で除した値である。
【0045】
さらに本発明のシリカ系複合酸化物粉末は、窒素一点法による比表面積が1~25m/gであることが好ましい。
【0046】
本発明のシリカ系複合酸化物粉末は粗粒を含まず、樹脂に充填した際の流動性に優れるため、電子材料用樹脂組成物への充填用として、好適に用いることができる。さらに、樹脂組成物の溶融時の流動性が優れ、成形品の透明性を制御でき、表面の凹凸を精密に制御できるため、フィルム用途を初めとした、各種成形品用途にも好適に用いることができる。
【0047】
本発明のシリカ系複合酸化物粉末を配合する樹脂の種類は、特に限定されない。樹脂の種類は所望の用途により適宜選択すればよく、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、やオレフィン系樹脂等を挙げることができる。
【0048】
たとえば、半導体封止材用途であれば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂等が好ましい。フィルム用途であれば、オレフィン系樹脂(ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレンなど)、ポリエステル樹脂が好ましい。
【0049】
樹脂組成物において、シリカ系複合酸化物粉末の充填量は、その用途と目的に応じて適宜調整すればよい。具体的には、半導体封止材用途に用いる場合、樹脂100質量部に対して30~900質量部の範囲、フィルム用途に用いる場合、樹脂100質量部に対して0.01~10質量部の範囲であることが好ましい。また、本発明のシリカ系複合酸化物粉末の他に別の充填剤を含んでいてもよい。
【0050】
さらに、本発明のシリカ系複合酸化物粉末は、帯電量を制御できるためトナー用充填剤としても好適に使用できる。
【0051】
<<シリカ系複合酸化物粉末の製造方法>>
本発明のシリカ系複合酸化物粉末は、いかなる製造方法によって製造しても良いが、好適には以下に述べる手順のゾル-ゲル法により製造できる。
【0052】
ここで、ゾル-ゲル法は、金属アルコキシドを、触媒を含有する水と有機溶媒からなる反応媒体中において加水分解、重縮合させてゾルを生成させ、これをゲル化させて酸化物粒子を形成させる方法を意味する。
【0053】
当該ゾル-ゲル法は、具体的には、以下(1)~(7)の工程を含む。
(1)シリコンのアルコキシドの部分加水分解物を準備する工程(以下、部分加水分解工程ともいう)
(2)チタン及びジルコニウムからなる群から選ばれる金属のアルコキシド、または、該金属のアルコキシドと錯化剤とを混合した混合物と、前記部分加水分解物とを、全金属に占めるチタン及びジルコニウムの割合が50モル%以下となる割合で混合して複合アルコキシド原料を調製する工程(以下、複合化工程ともいう)
(3)水を含む分散媒中で前記複合アルコキシド原料を加水分解・縮合させて複合酸化物粒子を得る工程(以下、縮合工程ともいう)
(4)前記分散液を、目開き5μm以下のろ材により湿式ろ過する工程(以下、ろ過工程ともいう)
(5)湿式ろ過された後の複合酸化物分散液に、二酸化炭素、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム及びカルバミン酸アンモニウムよりなる群から選択される少なくとも1種の化合物からなる化合物を添加し、複合酸化物粒子を凝析させて、複合酸化物が凝析した凝析複合酸化物分散液を得る工程(以下、凝析工程ともいう)
(6)該凝析複合酸化物分散液から複合酸化物粒子を固液分離する工程(以下、固液分離工程ともいう)
(7)固液分離した複合酸化物粒子を乾燥する工程(以下、乾燥工程ともいう)
さらに本発明のシリカ系複合酸化物粉末を得るには、以下の工程を実施することが好ましい。
(8)前記複合酸化物粒子を600℃~1200℃で焼成する工程(以下、焼成工程ともいう)
(9)前記焼成複合酸化物粒子を解砕する工程(以下、解砕工程ともいう)
以下、上記各工程について詳細に説明する。
【0054】
(1)部分加水分解工程
本工程において、シリコンのアルコキシドの部分加水分解物を準備する。当該部分加水分解物は、以下に述べる方法により、シリコンのアルコキシドを水で加水分解することにより容易に入手できる。
【0055】
なおシリコンのアルコキシドの部分加水分解物とは、シリコンのアルコキシドの有するアルコキシ基の一部が加水分解されてシラノール基(Si-OH)となっているものである。ここで、本発明の製造方法においては、加水分解されたアルコキシ基の数が同一である必要はなく、例えば、1つだけ加水分解されたものと2つ以上加水分解されたもの等、異なる化学種を含む混合物として用意してなんらかまわない。また加水分解されたアルコキシ基の数の平均値が部分加水分解と言いうるのであれば、全く加水分解されていない化学種や全て加水分解された化学種が含まれていてもよい。さらには加水分解後、一部縮合してSi-O-Si結合を形成している化学種が含まれていてもよい。
【0056】
当該シリコンのアルコキシドの部分加水分解物は、親水性をもつ有機溶媒の溶液として準備することが好ましい。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類が代表的なものとして挙げられる。
【0057】
また当該シリコンのアルコキシドの部分加水分解物は、少量の酸や塩基を含んでいてもよい。
【0058】
シリコンのアルコキシドを水で加水分解して部分加水分解物を得る方法において用いられるシリコンのアルコキシドとしては、ゾル-ゲル法の反応によるシリカ粒子の製造に用いられる化合物であれば、特に制限されず使用することができる。
【0059】
シリコンのアルコキシド(アルコキシシラン)の具体例としては、例えばメチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等を挙げることができる。中でも、メチルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン及びテトラエトキシシランは、工業的に入手が容易であること及び取扱いが容易であることからより好ましい。これらシリコンのアルコキシドは、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0060】
更に、前述の不純物含有量が少ないシリカ系複合酸化物粉末を得るためには、該シリコンのアルコキシドの純度の高いものを使用することが好ましい。高純度のシリコンのアルコキシドを得るために予め蒸留等により原料を精製することできる。
【0061】
シリコンのアルコキシドが常温常圧で液体である場合には、そのまま使用してもよく、後述する有機溶媒で希釈して使用してもよい。シリコンのアルコキシドが、常温常圧で固体である場合には、有機溶媒中に溶解又は分散して使用することができる。
【0062】
上記したようなシリコンのアルコキシドと水を接触させて部分加水分解物を得る手順は公知であり、種々の制約条件に応じて適宜条件設定すればよいが、代表的には以下のようである。
【0063】
使用する水としては、イオン交換水、蒸留水、純水等が使用できる。接触させる水の量は、加水分解対象であるアルコキシ基一つ当たり水分子0.2個以上、1個未満となる程度の量が一般的である。
【0064】
接触に際しては、シリコンのアルコキシドと水の両方に対して相溶性のあるアルコール等の有機溶媒を併用することが好ましい。アルコール等の有機溶媒を使用しない場合は、シリコンのアルコキシドと水が相分離する傾向があり、部分加水分解が進行しなかったり、非常に反応が遅くなったりする場合がある。
【0065】
使用する有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類が代表的なものとして挙げられる。有機溶媒の使用量は、上記目的を達する範囲であれば特に限定されないが、一般的には、シリコンのアルコキシドが、50~95質量%となる程度である。
【0066】
一般的な手順では、シリコンのアルコキシドの有機溶媒溶液を調製し、そこへ所定量の水を添加する。
【0067】
また、部分加水分解を迅速に進めるために、触媒を使用することが好ましい。当該触媒は、加水分解のために使用される水と混合し水溶液として用いることが好ましい。触媒としては酸が好適で、具体的には、塩酸、硫酸、硝酸、シュウ酸等が挙げられるが、特に制限はない。酸の使用量としては、水溶液のpHが1~4の範囲となるものを使用するのが好ましい。塩基性触媒を用いた場合と異なり酸触媒を用いた場合には、加水分解物の縮合を起こし難いため、粒子の形成を防止することができる。
【0068】
以下、部分加水分解の機構として、本発明者が考えている事項を説明する。シリコンのアルコキシドとして、テトラメチルシリケートを使用した場合について説明する。部分加水分解により、テトラメチルシリケートの有するメトキシドの一部が加水分解され、分子内にシラノール基(SiOH)が生成する(下記の式(1)参照。)。このメトキシドの加水分解反応は逐次的に進行し、使用した水の量に応じて下記式に従ったメトキシヒドロキシシラン(シリコンのアルコキシドの部分加水分解物)が主要生成物として生成するものと考えられるが、実際の反応物は組成に分布を持った混合物(加水分解の程度の異なる化合物の混合物)となっていると考えられる。
【0069】
【化1】
【0070】
(上記式(1)において、「Me」はメチル基を表している(以下、同様)。また、「n」は1~4の整数である。)
本発明の製造方法においては、組成が均一な複合酸化物粒子を得るために、シリコンのアルコキシドを水で部分加水分解する際に使用する水の量を制御するのが好ましい。前記式(1)からわかるように、シリコンのアルコキシドの部分加水分解反応で使用する水の量は生成するシラン化合物に導入されるシラノール基の数を決定する要因であり、珪素アルコキシド部分加水分解物1分子が有するシラノール基の数は、次に述べる複合化工程で調製される複合アルコキシド原料の均一性に影響を与える。
【0071】
即ち、複合化工程においては、シラノール基を有するシリコンのアルコキシドの部分加水分解物をチタン及び/又はジルコニウム(以下、両金属を合わせて「特定異種金属」という)のアルコキシドと混合した際に、当該シラノール基と当該特定異種金属アルコキシドのアルコキシ基とが反応(脱アルコール反応)することによりSi-O-M(但し、Mは特定異種金属原子を表す)結合を形成し、Sia・Mb・(OR)c・(OH)d(但し、a、b、c、およびdは、夫々1分子中に含まれるSi原子、M原子、OR基、およびOH基の数を表す)で示されるような複合アルコキシド原料が形成される。
【0072】
組成が均一な複合酸化物微粒子を製造するという観点からは、複合化工程において、ゲルを形成させることなく、目的物とする複合酸化物微粒子の組成に対応する組成を有する複合アルコキシド原料を調製することが好ましいが、そのためにはシリコンのアルコキシドの部分加水分解物1分子が有するシラノールの数、さらに部分加水分解反応の生成物全体に含まれるシラノール基の量を制御することが重要となる。シラノール基の量を制御するには、使用する水の量を制御すればよい。使用する水としては、イオン交換水、蒸留水、純粋等が使用できる。水の量は、加水分解対象であるアルコキシ基一つ当たり水分子0.2個以上、1個未満となる程度が一般的である。
【0073】
即ち、特定異種金属のアルコキシドの量に比べてシラノール基の量が少ない場合には未反応の特定異種金属のアルコキシドが残ってしまうことになり、反対にシラノール基の量が多すぎる場合にはシラノール基同士、あるいは、シラノール基とSiに結合したアルコキシ基が反応してSi-O-Si結合が形成され、ゲル化や粒子形成が起こってしまう。
【0074】
このようにして各原料を接触させて得られるシリコンのアルコキシドの部分加水分解の存在は、公知の方法で容易に確認できる。
【0075】
(2)複合化工程
複合化工程においては、上記したシリコンのアルコキシドの部分加水分解物と、チタン及びジルコニウムからなる群から選ばれるシリコン以外の金属(特定異種金属)のアルコキシド、または該特定異種金属のアルコキシドと錯化剤との混合物とを、全金属に占める特定異種金属の割合が50モル%未満となる割合で混合して複合アルコキシド原料を調製する。
【0076】
特定異種金属のアルコキシドの加水分解速度はシリコンのアルコキシドの加水分解に比べて非常に速いため、特定異種金属のアルコキシドとシリコンのアルコキシドとの単なる混合物を用いてゾル-ゲル法により複合酸化物粒子を得ようとした場合には、特定異種金属の酸化物の核形成や粒成長が優先してしまう。
【0077】
このため、粒子の組成や粒子径を制御することは困難である。特に、核形成や粒子成長の初期においては、加水分解化速度の違いによる影響を強く受けるため、均一な組成を有し凝集や粗大粒子の少ない特定異種金属と珪素との複合酸化物粒子であるシリカ系複合酸化物粒子を、以下に述べる方法で得ることは極めて困難である。そこで、本製造方法では、あらかじめシリコンのアルコキシドと特定異種金属アルコキシドを複合化した前駆体を調製し、これを通常のゾル-ゲル法の原料として使用することで、均質で粗粒や凝集が極めて少ないシリカ系複合酸化物粉末を得ることができる。
【0078】
<特定異種金属のアルコキシド>
本発明の製造方法において用いられる特定異種金属のアルコキシドとしては、チタン及びジルコニウムからなる群から選ばれる金属のアルコキシドであって、水の存在下で加水分解、重縮合する化合物であれば、特に制限されず使用することができる。
【0079】
当該特定異種金属アルコキシドとしては、チタンのアルコキシド(Ti(OR))及びジルコニウムのアルコキシド(Zr(OR))を用いることができる。Rはアルキル器であり、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ブチル基等の低級アルキル基であることが好ましい。
【0080】
例えばチタンテトライソプロポキシド、チタンテトラn-ブトキシド、ジルコニウムn-ブトキシド、ジルコニウムt-ブトキシドなどの金属アルコキシドが例示される。
【0081】
上記の特定異種金属アルコキシドの中でも特に、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラn-ブトキシド、ジルコニウムn-ブトキシドが好ましく、チタンテトライソプロポキシド、ジルコニウムn-ブトキシドは、工業的に入手が容易に可能である点、及び取扱いが容易である点から特に好ましい。
【0082】
本発明の製造方法においては、これら特定異種金属アルコキシドは、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0083】
更に、前述の不純物含有量が少ないシリカ系複合酸化物粉末を得るため、該特定異種金属アルコキシドは純度の高いものを使用することが好ましい。高純度の特定異種金属アルコキシドを得るために予め蒸留等により原料を精製することできる。
【0084】
特定異種金属アルコキシドが常温常圧で液体である場合には、そのまま後述する混合に供してもよく、後述する有機溶媒で希釈して供してもよい。特定異種金属アルコキシドが、常温常圧で固体である場合には、有機溶媒中に溶解又は分散して使用することができる。
【0085】
混合に供する際には、酸性または塩基性触媒と水により、アルコキシド基の一部を加水分解して得られる特定異種金属アルコキシドの部分加水分解物を使用することもできる。
【0086】
ところで、特定異種金属の酸化物の含有割合が比較的低い場合、例えば20モル%未満の場合には、珪素のアルコキシドの部分加水分解物と特定異種金属のアルコキシドとを単に混合することにより調製した複合アルコキシド原料(以下、この複合アルコキシド原料を、後述する錯化させるタイプの複合アルコキシド原料と区別するために「通常複合アルコキシド原料」という。)を用いれば、それだけで十分に特定異種金属の酸化物の核形成や粒成長を抑える(緩和効果を得る)ことができる。
【0087】
しかしながら、特定異種金属の酸化物の含有割合が比較的高い場合、例えば20モル%以上の場合には、「シリコンのアルコキシドの部分加水分解物と特定異種金属のアルコキシドとを混合することによる複合化」では、十分な緩和効果を得ることは難しい。
【0088】
そこで、本発明では、特定異種金属の割合が20モル%以上の場合には、特定異種金属のアルコキシドと錯化剤とを混合して混合物と、シリコンのアルコキシドの部分加水分解物とを混合して得た複合アルコキシド原料(以下、この複合アルコキシド原料を、上記の通常複合アルコキシド原料と区別するために「錯化複合アルコキシド原料」という。)を調製するという方法を採用する。特定異種金属のアルコキシドと錯化剤とを混合することにより、錯体が形成され、当該状態であれば、特定異種金属のアルコキシドの加水分解速度が低減されて、珪素アルコキシドの加水分解速度に近づく。よって特定異種金属の含有割合が高い場合でも均一な組成を有する複合酸化物微粒子を得ることが可能となる。
【0089】
なお、上記説明では、特定異種金属の含有割合について20モル%を境界として説明したが、20モル%を境に通常複合アルコキシド原料の反応性が急激に変化するというものではなく、例えば20%を越える通常複合アルコキシド原料を用いても条件を選べば所期のシリカ系複合酸化物粒子を得ることは可能である。また、錯化複合アルコキシド原料を使用する場合についても、20モル%を越える場合に限定されることはなく、20モル%未満の場合(例えば、特定異種金属のモル%が0.1~20モル%の場合)でも何ら問題はなく所期のシリカ系複合酸化物粒子を得ることができる。
【0090】
以下、通常複合アルコキシド原料の調製方法と錯化複合アルコキシド原料の調製方法について詳しく説明する。
【0091】
(通常複合アルコキシド原料の調製方法)
通常複合アルコキシド原料は、チタン及びジルコニウムからなる群から選ばれるシリコン以外の金属のアルコキシドと、珪素アルコキシドの部分加水分解物とを混合することにより調製するができる。
【0092】
特定異種金属のアルコキシドとしては前記の通りである。
【0093】
通常複合アルコキシド原料の調製に際して、シリコンのアルコキシドの部分加水分解物と特定異種金属のアルコキシドとの混合割合は、最終的に得られるシリカ系複合酸化物微粒子においてシリカと、特定異種金属の酸化物とをどのような割合にて製造したいかによって決定する。即ち、使用するシリコンのアルコキシドの部分加水分解物に含まれるSi原子のモル数(グラム原子数)に基づいて、得ようとする複合酸化物微粒子の組成(目的とする特定異種金属のモル%)に応じて必要とされる特定異種金属(M)のモル数(グラム原子数)を決定し、それに見合う量の特定異種金属のアルコキシドを使用すればよい。
【0094】
例えば、シリカ80モル%、チタニア20モル%を含むシリカ系複合酸化物微粒子を製造する場合は、部分加水分解物中のシリコンのモル数をSi、チタンのアルコキシド中のチタンのモル数をTiとして、{Ti/(Si+Ti)}×100=20となるようにして、部分加水分解物とチタンのアルコキシドとを混合する。
【0095】
通常複合アルコキシド原料の調製は、シリコンのアルコキシドの部分加水分解を行った反応液と所定量の特定異種金属のアルコキシドとを撹拌下で混合することにより好適に行うことができる。混合は一度に行っても良いし、時間をかけて連続的あるいは間歇的におこなってもよい。混合時の液温は5~50℃に保つのが好適である。また、撹拌時間は反応温度にもよるが、10分~2時間程度で十分である。
【0096】
例えば、以下の式(4)に示すような部分加水分解反応を行って得た反応液と特定異種金属のアルコキシドであるテトライソプロピルチタネート(テトライソプロポキシチタン)とを混合した場合には、下記式(5)に示すような複合化反応が起こっていると考えられる。
【0097】
【化2】
【0098】
【化3】
【0099】
(錯化複合アルコキシド原料の調製方法)
錯化複合アルコキシド原料は、特定異種金属のアルコキシドと錯化剤とを混合し、次いでこの混合物と前記シリコンのアルコキシドの部分加水分解物とを混合することにより調製でき、特定異種金属のアルコキシドと錯化剤とを混合する工程が増える以外は、上記通常複合アルコキシド原料の調製方法と同様である。この混合により、特定異種金属の錯体が形成されていると考えられる。本発明では便宜上、錯体を形成していても「混合物」と称する。
【0100】
当該錯化剤としては、チタン又はジルコニウムと錯体を形成することが知られている化合物であれば特に限定されないが、(1)アルキレングリコール類(エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセロール等)、(2)グリコールアルキルエーテル類(エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等)、(3)グリコールアリールエーテル類(エチレングリコールモノフェニルエーテル等)、(4)β-ジカルボニル化合物(アセチルアセトン等)、(5)アミン類(エチレンジアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等)、(6)ヒドロキシアセトン、(7)アセタール類(アセトンジメチルアセタール等)、(8)カルボン酸類(酢酸、乳酸、クエン酸等)等が挙げられる。この中でも、トリエタノールアミン等のアミン類、β-ジカルボニル化合物類、ヒドロキシアセトン、カルボン酸類が好ましい。
【0101】
特定異種金属のアルコキシドと錯化剤との混合は、特定異種金属のアルコキシドと錯化剤とを極性溶媒、好ましくはアルコール中で混合することにより行うことができる。アルコールとしては前記したシリコンのアルコキシドの部分加水分解に際して用いるのと同様のものが使用できる。極性溶媒の使用量は特に限定されないが、一般的には、特定異種金属のアルコキシドの濃度が50~99質量%となる程度の量である。
【0102】
混合後には、錯体を形成させるため、シリコンのアルコキシドとの混合前に、ある程度の保持を行う方がよい。
【0103】
保持温度は5℃~溶媒の沸点の温度で行えばよく、室温でも十分に錯化反応は進行する。温度にもよるが、十分な緩和効果を得るために、錯化剤との混合後、通常10分~2時間保持することが好ましい。この保持中に十分な特定金属の錯化が十分に進行すると推定される。
【0104】
混合において、特定異種金属のアルコキシドと錯化剤とのモル比は、特定異種金属のアルコキシドの加水分解速度を制御するという観点から重要である。均一組成の複合酸化物微粒子を得るためには、形成する錯体の加水分解速度をシリコンのアルコキシドの加水分解速度と同程度に調整することが好ましい。特定異種金属のアルコキシドと錯化剤とのモル比を変えることにより錯体の加水分解速度を制御することができるので、使用する特定異種金属のアルコキシドと錯化剤との組み合わせに応じて、上記観点から適宜好適な量比を決定すればよい。このようなモル比の決定は、簡単な実験により容易に行うことができる。好適なモル比は使用する錯化剤の配位原子の種類や数、構造により異なるが、通常、錯化剤/特定異種金属のアルコキシドは0.3~0.8が好ましい。
【0105】
以下に、特定異種金属のアルコキシドとして、テトライソプロピルチタネート(テトライソプロポキシチタンともいう。以下、「TPT」と省略する場合がある。)を使用し、錯化剤として、トリエタノールアミン(以下、「TEA」と省略する場合がある。)を使用した場合における、量比を決定するための実験例を示す。
【0106】
この実験は、TPTとTEAの量比と、得られた錯体の加水分解速度との関係を確認するために行われたものであり、次のような手順により行われた。まず、内容積100mLのガラス製ビーカーに0.3%アンモニア水25gを入れた。該ガラスビーカーにφ8mm、長さ30mmの撹拌子を入れ、スターラー(アズワン製、マグネチックスターラーHS-4DN)にセットした。室温条件下、回転数200rpmで撹拌させ、別途調製した“TPTおよびTEAを種々の割合にて混合した50質量%メタノール溶液”25gを一気に添加し、添加終了直後から溶液がゲル化するまでの時間を測定することにより加水分解速度を評価した。ゲル化時間は、溶液の粘度上昇により撹拌子の動きが停止した時点をゲル化した時点として求めた。そのときの結果を表1に示す。
【0107】
なお、別の実験において、TPTおよびTEAの代わりにシリコンのアルコキシドとして、テトラメチルシリケートを使用し、同一の条件にて実験を行った場合は、ゲル化時間は、14分であった。
【0108】
【表1】
【0109】
上記の結果より、TEA/TPT=0.5とした場合に、テトラメチルシリケートを使用した場合のゲル化時間(14分)に最も近いことがわかった。これより、以下において記載する実施例においては、TEA/TPT=0.5としている。しかし、本発明の思想は、特定異種金属のアルコキシドの加水分解速度と、シリコンのアルコキシドの加水分解速度とを、同程度に揃えることにある。よって、この思想を達成するものであれば、TEAとTPTの配合割合は上記の値に限定されないが、好適な特定異種金属のアルコキシドの加水分解速度は、シリコンのアルコキシドのゲル化時間(秒)±70%以内である。
【0110】
なお、TEA/TPT=0.5として、TEAとTPTとを混合した場合には、以下に示す錯体が形成されていると、本発明者は考えている。
【0111】
【化4】
【0112】
(式(6)において、「iPr」はイソプロピル基を表している(以下、同様である)。)
このようにして調製された錯体と、珪素アルコキシドの部分加水分解物とを混合することにより錯化複合アルコキシド原料が調製される。このとき、錯体と珪素アルコキシドの部分加水分解物との混合は、通常複合アルコキシド原料を調製するときにおける、珪素アルコキシドの部分加水分解物と特定異種金属のアルコキシドとの混合と同様にして行うことができる。
【0113】
(3)縮合工程
本工程では、水を含む分散媒中で前記複合アルコキシド原料を加水分解・縮合させて複合酸化物粒子を得る。
【0114】
<分散媒>
本発明の製造方法において、上記金属アルコキシドの加水分解及び重縮合反応に使用される分溶媒としては、極性溶媒が好ましい。ここで極性溶媒とは、常温・常圧下で100g当たり10g以上の水を溶解する溶媒である。複数の溶媒を複数種混合して使用する場合には、当該混合物が上記要件を満たせばよい。
【0115】
当該分散媒には、アルコキシドの加水分解のために水が必須である。また、アルコキシドは通常は親油性であるため、このようなアルコキシドを均一に溶解させ、反応を速やか且つ安定的に進行させるために水と混合可能な有機溶媒を併用することが好ましい。このような混合溶媒を用いると上記極性溶媒となる。以下、これらについて説明する。
【0116】
<水>
ゾル-ゲル法の反応には水が必須である(そのため前記のような水を溶解する極性溶媒を用いる)。前記の塩基性触媒を水溶液として添加する場合及び溶媒の一部若しくは全部として水を使用する場合は、反応液中に水を別途に添加する必要はない。しかし、これら以外の場合には、ゾル-ゲル反応に必要な水を別途に添加する必要がある。
【0117】
水の使用割合は、製造するシリカ系複合酸化物粒子の粒径に応じて適宜調整して選択される。水の使用割合が少なすぎると反応速度が遅くなり、逆に多すぎると乾燥(溶媒除去)の際に長時間を要するため、水の使用割合はこれらの両要件を勘案して選択される。水の使用割合としては、ゾル-ゲル法の反応により得られるシリカ系複合酸化物分散液の全質量に対して、2~50質量%の範囲とすることが好ましく、5~40質量%の範囲とすることがより好ましい。
【0118】
水は、反応溶媒の一部又は全部として使用してもよく、水以外の反応原料等を全部準備した後に反応液に加えてもよい。ここでいう溶媒としての水とは、塩基性触媒の添加等に伴って添加される場合も含む。
【0119】
<有機溶媒>
前記の通り、原料とするアルコキシドは、通常は水へは溶解しない。そのため、反応場の均一性を得るために、水と混合可能な有機溶媒を併用することが好ましい。
【0120】
上記有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド化合物等を挙げることができる。
【0121】
アルコールはゾル-ゲル法の反応時に副生するものであるから、上記のうちメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコールを使用することが、反応後のシリカ粒子分散液中への不必要な不純物の混入を抑制する点、加熱によって容易に除去可能である点等から特に好ましい。
【0122】
上記有機溶媒及び水は、単独で用いることも、或いは2種以上の溶媒の混合物として用いることも可能である。
【0123】
有機溶媒又は水の使用割合は、目的とするシリカ系複合酸化物粒子の粒径及びゾル-ゲル法の反応後のシリカ系複合酸化物粒子分散液におけるシリカ系複合酸化物粒子の濃度の所望値に応じて適宜決定すればよい。例えば、有機溶媒としてアルコールを使用する場合、ゾル-ゲル法の反応により得られるシリカ系複合酸化物粒子分散液の質量(100質量%)におけるアルコールの割合として、好ましくは10~90質量%、より好ましくは15~80質量%の範囲となるように使用される。
【0124】
<塩基性触媒>
ゾル-ゲル法によるシリカ系複合酸化物粒子の製造においては、通常は、適当な加水分解触媒が使用される。本発明においては、酸性触媒が用いてもよいが、粒子径の揃った球状粒子を得ることが容易であるという点で、本工程では塩基性触媒を使用することが好ましい。
【0125】
本発明において用いられる塩基性触媒としては、ゾル-ゲル法の反応によるシリカ粒子の製造に用いられる公知の塩基性触媒であれば、これを好適に使用することができる。
【0126】
このような塩基性触媒としては、例えば、アミン化合物、水酸化アルカリ金属等を挙げることができる。特に、目的とするシリカ粒子を構成する金属元素以外の金属を含有する不純物量が少なく、高純度のシリカ粒子が得られるという観点から、アミン化合物を用いることが好適である。このようなアミン化合物としては、例えばアンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン等を挙げることができる。これらのうち、揮発性が高く除去し易いこと、ゾル-ゲル法の反応速度が速いこと等から、アンモニアを使用することが特に好ましい。
【0127】
上記塩基性触媒は、単独で使用することも、或いは2種以上を使用することも可能である。
【0128】
上記塩基性触媒は、工業的に入手可能なものを、そのまま(市販されている形態のまま)使用することもできるし、例えばアンモニア水等のように、水や有機溶媒に希釈して使用することもできる。特に、反応の進行速度を制御しやすい点で、塩基性触媒を水に希釈し、必要に応じて濃度を調整した水溶液として使用することが好ましい。塩基性触媒として水溶液を使用する場合の濃度は、工業的に入手が容易であること、濃度調整が容易であること等から、1~30質量%の範囲とすることが好ましい。
【0129】
塩基性触媒の使用割合は、金属アルコキシドの加水分解及び重縮合反応の反応速度等を勘案して適宜決定すればよい。塩基性触媒の使用割合としては、反応溶液のpH8以上とすることが好ましい。反応溶液中における塩基性触媒の存在量が、使用する珪素アルコキシドの質量に対して、0.1~60質量%とすることが好ましく、0.5~40質量%の範囲で使用することがより好ましい。
【0130】
<反応装置>
本発明の製造方法で使用する反応装置は、攪拌機を有する反応器であれば特に制限無く使用される。上記攪拌機の撹拌翼としても、公知のものが特に制限無く使用されるが、代表的なものを例示すれば、傾斜パドル翼、タービン翼、三枚後退翼、アンカー翼、フルゾーン翼、ツインスター翼、マックスブレンド翼などが挙げられる。
【0131】
また、このような攪拌機を有する反応器としては、半球状、または平底あるは丸底の円筒状の一般的な形状の反応器、更にこれら反応器内に邪魔板を設置したものが特に限定されずに使用できる。また、反応器の材質も特に限定されず、ガラス製、ステンレススチールなどの金属製(ガラスコートあるいは樹脂コートされたものを含む)、または樹脂製のものが使用できる。前述の不純物が低減されたゾルゲルシリカ系複合酸化物粉末を得るため、耐摩耗性に優れる材質であることが好ましい。
【0132】
本発明の製造方法で使用する反応器の攪拌効率は特に制限されるものではないが、反応器の攪拌効率の指標である無次元混合時間nθm(ここで、nは撹拌翼回転数(1/s)、θmは混合時間(s))が、100以下の反応器を使用することが望ましい。無次元混合時間nθmを上記範囲とすることにより反応時の反応液を均一に保つことができ、より粒径の揃った、粒度分布の狭いゾルゲルシリカ系複合酸化物粉末を得ることができる。
【0133】
前記反応器の攪拌効率の範囲は、一般に、後述する工業的な実施において、50L以上反応液を扱う反応器の攪拌効率がこれに該当する場合が多い。
【0134】
上記無次元混合時間nθmは、攪拌翼回転数n(1/s)と混合時間θm(s)の積を意味し、攪拌レイノルズ数が一定であれば、反応器のスケールに因らず一義的に決まり、攪拌効率を示すのに非常に有用な指標である。また、θmは、一般に、トレーサー物質が均一に混合するまでの時間を意味するが、該混合時間θmは、反応器の形状、邪魔板の設置の有無やその配置状況、攪拌翼の種類や回転数、混合される液体の粘弾性特性などにより影響を受ける。
【0135】
無次元混合時間nθmが55より低い場合は、反応器の攪拌効率が高く、反応液の攪拌が十分可能であり、癒着粒子や凝集塊が生成しにくい。nθmが55~100の場合は、反応液中に金属アルコキシド溶液を吐出線速度30mm/s~1500mm/sで供給することで癒着粒子や凝集塊の生成を抑えることができる。一方、無次元混合時間nθmが100を超える場合は、反応器の攪拌効率が極めて低くなり、混合が不十分であり、反応液が不均一となり癒着粒子や凝集塊が多く生成し易くなる。
【0136】
<反応条件>
本発明の製造方法における加水分解及び重縮合反応(ゾル-ゲル法の反応)は、前記したように通常、塩基性触媒の存在下で行われる。反応条件としては公知の条件を採用することができ、通常複合アルコキシド原料または錯化複合アルコキシドと塩基性触媒との接触方法も特に制限されず、反応装置の構成や反応スケールを勘案して、所望の粒径粒度分布を有するシリカ粉末が得られるよう、適宜選択して決定すればよい。
【0137】
ゾル-ゲル法の反応方法の一例を具体的に示すと、例えば以下の如くである。
【0138】
反応容器に水、水以外の極性溶媒(有機溶媒)及び塩基性触媒を仕込み、ここに通常複合アルコキシド原料または錯化複合アルコキシド(又は通常複合アルコキシド原料または錯化複合アルコキシドの有機溶媒溶液)と塩基性触媒の水溶液とを同時に添加する方法を挙げることができる。
【0139】
この方法によれば、反応効率が良好で、粒子径の揃った球状のシリカ粒子を、効率よく、且つ再現性よく製造することができ、好ましい。この場合、例えば、先に通常複合アルコキシド原料または錯化複合アルコキシドの一部を添加した後に、残りの通常複合アルコキシド原料または錯化複合アルコキシドと塩基性触媒とを同時に添加することも可能である。2種以上の通常複合アルコキシド原料または錯化複合アルコキシドを併用する場合、各々を混合して同時に添加してもよく、或いは各々を順次に添加することも可能である。
【0140】
通常複合アルコキシド原料または錯化複合アルコキシド及び塩基性触媒の添加は、反応液に液中滴下することが好ましい。ここで液中滴下とは、上記の原料を反応液中に滴下する際、滴下口の先端が反応液中に浸されていることをいう。さらに、滴下口先端の位置は、攪拌羽根の近傍等の、攪拌が十分に行われ、滴下物が反応液中に速やかに拡散することのできる位置とすることが望ましい。
【0141】
通常複合アルコキシド原料または錯化複合アルコキシドと塩基性触媒の添加時間(添加開始から添加終了までの時間)は、粒径分布の幅の狭い粒子を製造するうえで非常に重要な因子である。この添加時間が短すぎると粒径分布幅が広くなる傾向にあり、逆に長すぎると安定した粒子成長ができない。従って、粒度分布幅が狭く、粒径が揃ったゾルゲルシリカ系複合酸化物粒子を得るには、粒子が成長するのに適した添加時間を選択して採用する必要がある。特に、単分散性の良好なゾルゲルシリカ系複合酸化物粒子を製造するには、通常複合アルコキシド原料または錯化複合アルコキシド等の原料を吐出線速度30mm/s~1000mm/sで供給することが好ましい。このような観点から、上記添加時間としては、所望の粒子直径100nmあたり、0.2~8時間の範囲とすることが好ましい。
【0142】
反応温度は、用いる原料物質の種類に応じて、ゾル-ゲル法の反応が速やかに進行する温度であれば、特に制限されず、目的とするシリカ系複合酸化物粒子の粒径に応じて適宜に選択すればよい。平均粒子径が0.05~2μmのシリカ系複合酸化物粒子を得る場合、反応温度としては、-10~60℃の範囲で適宜選択すればよい。
【0143】
ゾル-ゲル法の反応を確実に進行させるために、通常複合アルコキシド原料または錯化複合アルコキシド及び塩基性触媒の滴下が終了した後、熟成(次の工程を行うまで暫く時間をおくこと)を行ってもよい。この場合、熟成温度としては反応温度と同程度の温度、即ち-10~60℃とすることが好ましく、熟成時間としては0.25~5時間とすることが好ましい。
【0144】
所望の粒径のシリカ系複合酸化物粒子を得るために、熟成後に再度通常複合アルコキシド原料または錯化複合アルコキシド及び塩基性触媒を添加し、シリカ系複合酸化物粒子の粒径を成長させる等の手法を用いてもよい。
【0145】
<シリカ系複合酸化物粒子の分散液>
上述した方法によって、ゾル-ゲル法により製造した、レーザー回折散乱法による平均粒子径0.05~2.0μmのシリカ系複合酸化物粒子分散液が得られる。この分散液中にシリカ系複合酸化物粒子は、水と用いた極性溶媒と、通常複合アルコキシド原料または錯化複合アルコキシドの加水分解により生じたアルコールとから構成される分散媒中に分散した状態として存在する。
【0146】
上記分散液中においてシリカ系複合酸化物粒子は、癒着粒子や凝集塊を実質生じること無く良好に単分散しているが、局所的な過度の反応進行により、粒径が5μmを越える、粗大な独立一次粒子(以下、このものを「粗大独立一次粒子」と略する)が若干量混存している。具体的には、粗大独立一次粒子は、シリカ系複合酸化物粒子に対して15~1000ppm程度含まれており、これらが前記したように最終的なシリカ系複合酸化物粉末にまで残留すると、樹脂組成物の流動性低下などの問題を引き起こす。
【0147】
当該シリカ系複合酸化物分散液中に含まれるシリカ系複合酸化物粒子の割合が多すぎると、分散液の粘度が高くなるため、取り扱いが困難となる。一方、分散液中のシリカ系複合酸化物粒子の割合が少なすぎると、1回の反応で得られるシリカ粒子の量が少なくなり、不経済である。このような観点から、得られるシリカ系複合酸化物粒子分散液中のシリカ系複合酸化物粒子の濃度は、1~40質量%とすることが好ましく、特に2~35質量%とすることが好ましい。従って、シリカ系複合酸化物粒子の濃度が上記の範囲に調整されるよう、極性溶媒、特に水以外の極性溶媒の使用量を調整しておくことが好ましい。ゾル-ゲル法の反応によって得られた分散液中におけるシリカ系複合酸化物粒子の割合が多すぎて取扱い性に難がある場合等には、次に説明する分散液のろ過工程の前に、または必要に応じて行う表面処理工程の前に、極性溶媒を添加して濃度調整を行うことが好ましい。
【0148】
当該シリカ系複合酸化物に含まれるチタニアやジルコニアなどのシリカ以外の金属酸化物に起因して、酸性度や表面処理剤との反応性などがシリカと異なる場合がある。この場合、粒子の成長反応を完了させた後、テトラメトキシシランやテトラエトキシシランなどの珪素アルコキシドを少量添加することで、表面をシリカで被覆することもできる。
【0149】
なお、このようなゾル-ゲル反応により粒子を合成する場合には、変動係数が小さい方が粗大粒子が生成する可能性が低くなるため好ましい。変動係数を小さくするためには、攪拌効率の指標である無次元混合時間nθmを先述の範囲内にすれば良い。
【0150】
(4)ろ過工程
本発明の方法においては、前記ゾル-ゲル反応後に得られたシリカ系複合酸化物粒子分散液を目開き5μm以下のふるいを用いて湿式でろ過し、前記含有される粗大独立一次粒子を除去する。即ち、該シリカ系複合酸化物分散液を前記ろ過することにより、ろ材上に、反応残渣等とともに、上記粗大独立一次粒子、更に癒着粒子や凝集塊が生じていれば、これも分離される。
【0151】
なお、シリコン以外の金属のアルコキシドは珪素アルコキシドよりも反応性が高いため、珪素アルコキシド単体でシリカを合成する場合よりも凝集が生成しやすく、したがって、このろ過工程は、本発明のシリカ系複合酸化物粉末を製造する上で極めて重要である。
【0152】
ろ材としては、湿式ろ過用フィルターにおいて、目開きが5μm以下のものが特に限定されずに使用することができ、好適には目開きが3μm以下のものを使用することができる。あまりに目開きが小さくなると、ろ過性が低下するだけでなく、ろ過されるシリカ系複合酸化物粒子の平均粒径も前記範囲から変動が大きくなるため、目的とする粉末の平均粒子径にもよるが目開きの下限は通常1μmである。
【0153】
フィルターの材質は特に制限されないが、樹脂製(ポリプロピレン、PTFEなど)や金属製が挙げられる。金属不純物の混入を防ぐ観点から、樹脂製のフィルターを用いることが好ましい。
【0154】
ろ過は複数回行っても良いし、複数回行う場合には、目開きその他の異なるフィルターを用いても良い。
【0155】
<表面処理工程(R1)>
本発明のシリカ系複合酸化物粉末を製造するにあたって、後述の凝析工程に供する前の分散液に、シリコーンオイル、シランカップリング剤及びシラザンよりなる群から選択される少なくとも1種の表面処理剤を添加して表面処理を行ってもよい。
【0156】
表面処理を施すことにより、後述する固液分離工程を効率良く行うことが出来る。また、乾燥を行う際、強固な凝集塊の生成を抑えることができるため、得られたシリカ系複合酸化物粒子は特段の解砕処理を行うことなく種々の用途に使用することが可能である。ただし、後述する焼成を行う場合には、該焼成により表面処理剤は燃焼除去されるのが一般的であるため、使用用途によっては、焼成後に再度の表面処理を行う必要がある。
【0157】
該表面処理工程は、ゾル-ゲル反応後の分散液において、凝析工程の前であればよく、分散液ろ過工程の前後どちらでも構わないが、粗大独立一次粒子が精度よく低減される点で分散液ろ過工程の前に実施することが好ましい。そうすることにより、該工程で表面処理時に生成する凝集塊や表面処理剤の残渣も分散液ろ過工程において取り除くことが可能である。
【0158】
上記シリコーンオイルとしては、通常、シリカ粒子等の無機酸化物粒子の表面処理に用いられる公知のシリコーンオイルを、特に制限なく使用することが可能であり、必要とする表面処理シリカ系複合酸化物粒子の性能等に応じて適宜選択して、使用すればよい。
【0159】
シリコーンオイルの具体例としては、例えばジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、カルボキシル変性シリコーンオイル、カルビノール変性シリコーンオイル、メタクリル変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイル等を挙げることができる。
【0160】
シリコーンオイルの使用割合は特に制限はされないが、少なすぎると表面処理が不十分となり、多すぎると後処理が煩雑となるので、使用するシリカ系複合酸化物粒子100質量部に対して、0.05~80質量部とすることが好ましく、0.1~60質量部とすることがより好ましい。
【0161】
シランカップリング剤としては、本発明のシリカ系複合酸化物粉末の項において説明したものと同様であるが、本工程で用いたシランカップリング剤は、後述する焼成工程で除去される。従って、焼成工程を実施する際には、反応性官能基などを有する高価なものを用いる必要性はなく、各種アルキルシランで十分である。
【0162】
シランカップリング剤の使用割合は特に制限されないが、少なすぎると表面処理が不十分となり、多すぎると後処理が煩雑となるので、使用するシリカ系複合酸化物粒子100質量部に対して、0.05~80質量部とすることが好ましく、0.1~40質量部とすることがより好ましい。
【0163】
上記シラザンとしては、本発明のシリカ系複合酸化物粉末の項において説明したシリル化剤が使用できる。
【0164】
シラザンの具体例としては、例えばテトラメチルジシラザン、ヘキサメチルジシラザン、ヘプタメチルジシラザン等を挙げることができる。上記のうち、反応性の良さ、取り扱いの良さ等から、ヘキサメチルジシラザンの使用が好適である。
【0165】
シラザンの使用割合は、特に制限はされないが、少なすぎると表面処理が不十分となり、多すぎると後処理が煩雑となるので、使用するシリカ系複合酸化物粒子100質量部に対して、0.1~150質量部とすることが好ましく、1~120質量部とすることがより好ましい。
【0166】
上記の表面処理剤は、単独で1種のみ使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0167】
上記のような表面処理剤のうち、得られる表面処理シリカ系複合酸化物粒子の流動性がよいことから、シランカップリング剤及びシラザンよりなる群から選択される少なくとも1種を使用することが好ましく、シラザンを使用することがより好ましい。
【0168】
表面処理剤の添加方法は特に制限されない。表面処理剤が常温、常圧で低粘度の液体である場合は、これを分散液中に滴下すればよい。表面処理剤が高粘度液体又は固体である場合には、これを適当な有機溶媒に添加して溶液又は分散液としたうえで、低粘度液体の場合と同様にして添加することができる。ここで使用される有機溶媒としては、前記の極性溶媒と同様のものを挙げることができる。更に、表面処理剤が気体状である場合は、液中に微細な泡状となるように吹き込むことにより添加することができる。
【0169】
表面処理を行う際の処理温度は、使用する表面処理剤の反応性等を勘案して決定すればよいが、処理温度が低すぎると反応の進行が遅く、高すぎると操作が煩雑であるため、10℃~用いた分散媒の沸点以下とすることが好ましく、20~80℃とすることがより好ましい。
【0170】
表面処理を行う際の処理時間は特に制限はされず、使用する表面処理剤の反応性等を勘案して決定すればよい。表面処理反応の十分な進行と、工程時間を短くすることの双方を考慮して、処理時間を0.1~48時間とすることが好ましく、0.5~24時間とすることがより好ましい。
【0171】
(5)凝析工程
本工程においては、上記分散液のろ過を行った後に凝析を行う。
【0172】
該凝析工程は、分散液中に、二酸化炭素、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム及びカルバミン酸アンモニウムよりなる群から選択される少なくとも1種の化合物からなる凝析剤が添加された状態で行われる。分散液中に上記の如き凝析剤を添加することにより、分散液中でシリカ系複合酸化物粒子の弱い凝集体が形成される。この凝集体は、分散液中に存在する凝析剤又はその誘導体の存在により、分散液中で安定に存在することが可能であり、従ってろ過により容易に回収することができることとなる。
【0173】
シリカ系複合酸化物粒子の分散液に金属塩を添加してシリカ系複合酸化物粒子の凝集体を形成する技術は公知であるが、この方法によると、例えばナトリウム塩、カリウム塩等を使用した場合、得られるシリカ系複合酸化物粒子にこれらの塩を構成する金属元素成分が混入してしまう可能性があり、これを除去するための洗浄(精製)操作が必要となり工業的に不利となる。また、凝集性も強くなり、簡単な解砕処理では一次粒子に解せず、得られたシリカ系複合酸化物粉末に粗粒として残留する虞がある。
【0174】
これに対して本発明で使用される上記の凝析剤は、わずかの加熱により容易に分解・除去されるため、高純度のシリカ系複合酸化物粒子を容易に製造することができる利点がある。本発明の方法によると、得られるシリカ系複合酸化物粒子中における、例えばナトリウム元素の含有割合を100ppm以下とすることができ、通常は10ppm以下とすることが可能である。
【0175】
凝析剤の使用割合及び添加方法は、使用する凝析剤の種類に応じて下記のように設定することができる。凝析剤の使用割合は、分散液中でのシリカ系複合酸化物粒子の弱い凝集体の形成の程度と、不当に多量の原料を使用することの無駄とのバランスを勘案することによって設定される。以下における凝析剤の使用割合の基準としてのシリカ系複合酸化物粒子の質量は、用いた珪素アルコキシドがすべて加水分解及び重縮合してシリカ系複合酸化物粒子となっていると仮定した場合の換算値である。
【0176】
上記凝析剤として二酸化炭素を使用する場合、その使用割合は、分散液中に含有されるシリカ系複合酸化物粒子100質量部に対して、0.005質量部以上とすることが好ましく、0.005~300質量部とすることがより好ましい。シリカ系複合酸化物粒子に対して表面処理を行わない場合における二酸化炭素の更に好ましい使用割合は、シリカ系複合酸化物粒子100質量部に対して、0.05質量部以上であり、0.05~300質量部とすることが特に好ましく、0.25~200質量部とすることがとりわけ好ましい。一方、シリカ系複合酸化物粒子に対して表面処理を行う場合における二酸化炭素の更に好ましい使用割合は、シリカ系複合酸化物粒子100質量部に対して、15質量部以上であり、15~300質量部とすることが特に好ましく、17~200質量部とすることがとりわけ好ましい。
【0177】
二酸化炭素の添加方法としては、気体の状態で分散液中に吹き込む方法、固体の状態(ドライアイス)で添加する方法等を挙げることができるが、固体の状態で添加することが、操作が簡単であることから好ましい。
【0178】
上記凝析剤として炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム又はカルバミン酸アンモニウムを使用する場合、その使用割合は、分散液中に含有されるシリカ系複合酸化物粒子100質量部に対して、0.001質量部以上とすることが好ましく、0.001~80質量部とすることがより好ましい。シリカ系複合酸化物粒子に対して表面処理を行わない場合における炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム又はカルバミン酸アンモニウムの更に好ましい使用割合は、シリカ系複合酸化物粒子100質量部に対して、0.001~80質量部であり、0.001~50質量部とすることが特に好ましい。一方、シリカ系複合酸化物粒子に対して表面処理を行う場合における炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム又はカルバミン酸アンモニウムの更に好ましい使用割合は、シリカ系複合酸化物粒子100質量部に対して、15質量部以上であり、15~80質量部とすることが特に好ましく、17~60質量部とすることがとりわけ好ましく、更には20~50質量部とすることが好ましい。
【0179】
炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム又はカルバミン酸アンモニウムは、固体の状態で添加してもよく、適当な溶媒に溶解した溶液状態で添加してもよい。これらを溶液状態で添加する場合に使用される溶媒としては、これらを溶解するものであれば特に制限されないが、溶解能力が高く、またろ過後の除去が容易であるとの観点から、水を使用することが好ましい。炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム又はカルバミン酸アンモニウム溶液の濃度は、これらが溶解する範囲ならば特に制限されないが、濃度が低すぎると溶液の使用量が多くなり、不経済であるため、2~15質量%とすることが好ましく、特に5~12質量%とすることが好ましい。
【0180】
上記の凝析剤は、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0181】
特に、いわゆる「炭酸アンモニウム」として市販されている、炭酸水素アンモニウムとカルバミン酸アンモニウムとの混合物は、これをそのまま、或いは適当な溶媒に溶解した溶液として使用することができる。この場合における、炭酸水素アンモニウムとカルバミン酸アンモニウムとの合計の使用割合、これを溶液として添加する場合に使用される溶媒の種類及び溶液の濃度は、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム又はカルバミン酸アンモニウムの場合として上記したところと同様である。
【0182】
本発明における凝析剤としては、炭酸水素アンモニウム及びカルバミン酸アンモニウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種を使用することが好ましく、炭酸水素アンモニウムを使用することがより好ましく、特に炭酸水素アンモニウムを水溶液として添加することが好ましい。
【0183】
凝析剤を添加する際のシリカ系複合酸化物粒子分散液のpHとしては、分散液中で凝析剤が好ましくない分解を起こさず、本発明の効果が有効に発揮できるpH領域を選択して設定することが望まれる。このような観点から、分散液のpHはアルカリ性領域とすることが好ましく、pH9以上とすることがより好ましい。前述した縮合工程で塩基性触媒を採用していれば、別途pH調整剤を用いなくてもこのpH範囲となっている場合が多い。
【0184】
凝析剤を添加する際のシリカ系複合酸化物粒子分散液の温度は、凝析剤の添加によって生成するシリカ系複合酸化物粒子の弱い凝集体が安定に存在できる温度を選択して設定することが望まれる。このような観点から、分散液の温度としては、ゾルゲル法の反応の際の反応温度と同じ-10~60℃とすることが好ましく、10~55℃とすることがより好ましい。
【0185】
凝析剤の添加後、熟成を行う、即ち次工程である固液分離工程までに暫く間隔をおくこと、が好ましい。凝析剤添加後に熟成を行うことにより、前記したシリカ系複合酸化物粒子の弱い凝集体の形成が促進されることとなり、好ましい。熟成時間は長いほどよいが、長すぎると不経済である。
【0186】
一方、熟成時間が短すぎると、シリカ系複合酸化物粒子の弱い凝集体の形成が不十分となる。そこで熟成時間としては、0.5~72時間とすることが好ましく、特に1~48時間とすることが好ましい。熟成の際の分散液の温度は特に制限されず、凝析剤添加の際の好ましい温度と同じ温度範囲で実施することができ、凝析剤の添加を行った際と同じ温度で実施すれば足りる。
【0187】
(6)固液分離工程
本発明の方法においては、次いで、上記のようにして凝析剤を添加し、好ましくは熟成した後の分散液から、シリカ系複合酸化物粒子を固液分離により回収する工程である。固液分離の方法は公知の方法が特に限定無く適用できるが、ろ過が最も好ましい。他の方法としては、遠心分離、沈降とデカンテーション、溶媒の揮発除去等が挙げられる。
【0188】
即ち、上記凝析剤の添加によって弱い凝集体を形成したシリカ系複合酸化物粒子は、ろ過によってろ物として容易に回収することができる。ろ過の方法は特に制限はされず、例えば減圧濾過、加圧ろ過、遠心ろ過等の公知の方法を適用することができる。
【0189】
ろ過で使用する、ろ紙やフィルター、ろ布等(以下、これらを包括して「ろ紙等」という。)は、工業的に入手可能なものであれば、特に制限なく使用することができ、分離装置(ろ過器)のスケールに応じて適宜選択すればよい。本発明によれば凝析剤の添加により一次粒子が弱く凝集した凝集体となっているため、ろ紙等の孔径は一次粒子径よりもはるかに大きくてよく、例えば平均粒子径が、0.01~5μmのシリカ系複合酸化物粒子であれば、例えば孔径5μm程度のもので十分である。このようにろ紙等の孔径が大きなものですむため、迅速にろ過することが可能である。
【0190】
ろ過により、シリカ系複合酸化物粒子がケークとして回収される。
【0191】
上記の凝析工程において得られたケークを、適当な溶媒、例えば水、アルコール等、でリンスすることにより、ゾル-ゲル法による反応で使用した溶媒、塩基性触媒、未反応の表面処理剤の分解乃至除去を行うことができる。
【0192】
(7)乾燥工程
次いで、上記ろ過工程によって回収したシリカ系複合酸化物粒子を、本工程において乾燥する。
【0193】
上記のようにして回収されたシリカ系複合酸化物粒子のケークは、35℃以上の温度で乾燥すると、その解砕性が更に向上する。従って本発明の乾燥工程における乾燥温度は、35℃以上の温度とすることが好ましい。この温度における加熱により、上記のろ過、リンス等によっても除去されずにケーク中に残存している凝析剤を、熱分解により容易に除去することができる。このことも本発明の大きな利点の1つである。
【0194】
乾燥の方法は特に制限はされず、送風乾燥や減圧乾燥等の公知の方法を採用することが可能である。
【0195】
乾燥時の温度を高くする方が、凝析剤の分解効率の観点からは有利である。ただし、前記した表面処理を、反応性置換基を有する表面処理剤を用いて行っている場合には、乾燥温度が高すぎると、当該反応性置換基により凝集塊が生成することがある。これらの因子を勘案すると、乾燥の温度は35~200℃とすることが好ましく、50~200℃とすることがより好ましく、70~130℃とすることが特に好ましい。
【0196】
乾燥時間は、特に制限はされないが、2~48時間程度とすることにより、シリカ系複合酸化物粒子を十分に乾燥することができる。
【0197】
なお、本発明においては、前記固液分離と乾燥を加熱や減圧等によって分散媒を揮発させる方法によって行うことも可能である。この方法によれば、シリカ系複合酸化物粒子分散液より分散媒が揮発除去され、濃縮さらに乾燥したシリカ系複合酸化物粒子を分散液から直接得ることができる。この場合、分散媒を加熱により除去する際に、特定凝析剤由来の塩が消失する虞があるため、係る場合には、濃縮、乾燥途中のシリカ系複合酸化物分散液の濃縮物に、特定凝析剤を適宜添加し、濃縮物中に前記塩が消失しないように行えばよい。
【0198】
本発明において、上記方法により得られたシリカ系複合酸化物粒子は、個々の粒子が弱い力で凝集した凝集体の形態を成す乾燥粉体として得られる。そして、係るシリカ系複合酸化物粒子は、解砕処理が困難な凝集塊が生成せず、容易に解砕が可能な、分散性に優れたものである。特段の解砕処理を行うことなく、樹脂や溶剤に分散させる際の分散機のシェアにより、容易に解砕され、該樹脂や溶剤中で均一に分散させることが可能である。前記したコールターカウンターによる異物量の測定においても、シリカ系複合酸化物粉末を5質量%として水又はエタノールに添加し、溶液に出力40W・10分程度の超音波照射による分散処理で容易に解砕され、分散液となる。
【0199】
上記の工程を経ることにより、本発明のシリカ系複合酸化物粒子を得ることができるが、乾燥しただけのシリカ系複合酸化物粒子は、シラノール基等が残存し、また細孔が存在している。また、少量ながら分散媒が残存している場合もある。該粒子中の分散媒を高度に除去し、シラノール基等をつぶして中実のシリカ系複合酸化物を得るために、用途に応じて、更に焼成処理を行うことが好ましい。
【0200】
即ち、該焼成処理されたシリカ系複合酸化物粒子は、粒子中に残存する分散媒が除去され、細孔が少ない均質な粒子とでき、さらにはシラノール基量が少なくなるため好ましい。粒子中に残存する溶媒は、樹脂の充填剤として用いた場合、加熱を施すと気泡等を発生して不良品発生の原因となり、また細孔は透明樹脂の充填剤として使用する際にヘイズの原因となる。また、シラノール基は水分を吸着しやすくする。そのため焼成工程を設け、粒子中に残存する分散媒を除去して焼き固め、また、吸湿量(加熱減量)を減少させる。
【0201】
(8)焼成工程
上記焼成処理時の焼成温度は、低すぎると分散媒成分の除去が困難であり、高すぎるとシリカ系複合酸化物粒子の融着やチタニアの結晶化が生じるため、300~1200℃、更には600~1050℃、特に850~1050℃で行うことが好ましい。高温で焼成するほどシラノール基量を少なくできて、加熱減量も低減できる傾向が強い。ただし、焼成のみでシラノール基量を完全にゼロにすることは事実上できない。
【0202】
ただし、シリカ系複合酸化物粒子は、純粋なシリカ粒子に比べて焼成時に粒子同士の融着が起こりやすく、特に1000℃以上の高温で焼成した場合には、前記した「(4)ろ過工程」を経ることにより粗粒が少なくなっていたものが、上記融着に起因して、ふたたび多量の粗粒を含むものとなってしまう傾向が極めて強い。
【0203】
具体的には、図1に示すように、焼成温度が高くなるほど5μm以上の粗粒量が増える傾向がある。なお図1は、平均粒子径が0.4μm、Ti含有率が7モル%のシリカチタニア複合酸化物を10時間焼成したものについての結果の一例である。ZrなどのTi以外の金属も同様の傾向を示し、粗粒の量と焼成温度の対応関数は図1に示すものとほぼ同じである。
【0204】
従って、本発明のシリカ系複合酸化物を得るためには、(1)焼成温度を1000℃未満、好ましくは950℃以下、特に920℃以下とするか、(2)焼成後に再度溶媒に分散して湿式ろ過を行う必要性が高い。焼成後に湿式ろ過を行う場合には、後述する表面処理後のろ過と同様に実施すればよい。
【0205】
焼成時間については、残存する分散媒が除去され、所望の程度まで細孔がなくなり、あるいはシラノール基量を十分に少なくできれば特に制限されないが、あまり長すぎると生産性が落ちるため、目的とする焼成温度まで昇温した後、0.5~48時間、より好ましくは、2~24時間の範囲で保持し焼成を行えば十分である。このように焼成を行うことにより、加熱減量を3質量%以下、孤立シラノール基量を1.0以下とすることが可能である。
【0206】
焼成時の雰囲気も特に制限はされず、アルゴンや窒素などの不活性ガス下、または大気雰囲気下で行うことができる。
【0207】
該焼成工程より得られるシリカ系複合酸化物粒子も、前述の通り個々の粒子が弱い力で凝集した凝集体の形態を成す乾燥粉体として得られる。これを前記した条件で粒度分布等を測定すれば、本発明のシリカ系複合酸化物粉末であるか否かが確認できる。ここで、1000℃以上の高温で焼成するなどにより凝集粒子が多い場合には、前記したように湿式ろ過を行えば、凝集粒子を減らすことができ、本発明のシリカ系複合酸化物粉末とすることができる。
【0208】
本発明において、乾燥して得られたシリカ系複合酸化物粉末は、そのほとんどが非晶質であり、焼成温度が低い場合は非晶質のままであるが、焼成温度が高い場合はシリカ以外の金属酸化物の一部が結晶質となる場合がある。
【0209】
(9)解砕工程
本発明において、上記各工程を経て得たシリカ系複合酸化物粉末は、特段の解砕処理を行うことなく種々の用途に使用することが可能であるが、目的に応じて、凝集塊を更に低減させるために、公知の解砕手段により解砕処理を行って使用することも可能である。解砕処理を施すことにより、粒子径3μm以上の異物量を5ppm以下とすることも可能である。また後述する表面処理(R2)を行う場合には、当該表面処理の効率を向上させる効果もある。
【0210】
公知の解砕手段としては、例えば、ボールミルやジェットミル等が挙げられる。
【0211】
また、公知の解砕手段を用いずとも、樹脂や溶剤等に分散して使用する場合には、高シェアの分散機を使用することによって、樹脂や溶剤への分散と同時に粒子の解砕を行うことができる。
【0212】
<表面処理工程(R2)>
本発明のシリカ系複合酸化物粉末は、上記焼成したシリカ系複合酸化物粒子が、シリコーンオイル、シランカップリング剤及びシラザンよりなる群から選択される少なくとも1種の表面処理剤で表面処理されて、表面改質されていても良い。
【0213】
表面処理を施すことにより、フィルム原料等として使用する樹脂との親和性(なじみ)が良くなるため、フィルムとした時の粒子の脱落を防止でき、また接着剤などの樹脂組成物とした際には強度の向上や粘度の低下などの効果が得られる。また、孤立シラノール基量を低減でき、前記焼成による効果と合わせれば0.1以下とすることが可能で、0.0とすることもできる。さらに吸水性が低くなるため、加熱減量を1%以下とすることが可能になる。
【0214】
当該シリコーンオイル、シランカップリング剤及びシラザンの種類及び使用量としては、前記本発明のシリカ系複合酸化物粉末の項あるいは製造方法のうちの表面処理工程(R1)の項で具体的に例示したものと同様である。
【0215】
これら表面処理剤は、単独で1種のみ使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0216】
上記のような表面処理剤のうち、得られる表面処理シリカ系複合酸化物粒子の流動性がよいことから、シランカップリング剤及びシラザンよりなる群から選択される少なくとも1種を使用することが好ましく、シラザンを使用することがより好ましい。
【0217】
該表面処理工程(R2)は、湿式法又は乾式法など公知の方法で行なうことができるが、処理後に凝集した粒子ができにくいことから、乾式法を採用するのが好ましい。
【0218】
<表面処理工程(R2)における表面処理装置および表面処理方法>
本発明において、シリカ系複合酸化物粉末と各種表面処理剤類を混合する混合装置の大きさは特に制限されないが、一般に、内容積が10L~4mのものが好適に使用される。本発明において、上記混合装置は混合手段を有するが、該混合手段は混合装置内に設置された混合手段を有するが、該混合手段は駆動部を有する回転体によるものでないことが好ましい。
【0219】
本発明における混合手段は、上記制限を除けば公知の混合手段を特に限定せずに採用することができ、例えば、容器本体の回転や揺動により混合されるVブレンダー、ロッキングミキサーやダブルコーン型の混合装置、または、エアーにより気流混合するエアーブレンダー等が挙げられる。
【0220】
一方、本発明の混合手段として不適切な上記、混合装置内に設置された、駆動部を有する回転体の一例として、攪拌・混合羽根が挙げられる。該羽根が設置された混合装置、例えば、ヘンシェル型混合装置やレーディゲミキサー等を用いた場合、ゾルゲルシリカ系複合酸化物が攪拌・混合羽根に衝突して受ける攪拌エネルギーが通常50J以上と大きいため、凝集粒子が生成しやすくなる。
【0221】
本発明で用いる混合装置には、シリカ系複合酸化物粉末の処理前後の粒径を同等のものとするための手段として少なくとも1枚の解砕羽根を備えることが好ましい。当該解砕羽根は、解砕手段としての回転軸を有する回転体であって、軸が羽根の重心を通る、もしくは軸を羽根の一端とする、軸に対して垂直方向に伸びる少なくとも1枚の羽根である。同軸上に複数枚の解砕羽根を設置する場合は、混合容器の内壁、及び他の解砕羽根との間隙が十分であれば回転軸上の何れの箇所にでも設置することができ、一箇所に複数枚であっても、複数箇所に複数枚であってもよく、混合装置の内容量、ゾルゲルシリカ系複合酸化物粉体の処理量、及び下記に示す解砕エネルギーとを勘案して、1本の回転軸に1~4枚設置することが好ましい。
【0222】
本発明において、上記解砕羽根の解砕エネルギーは0.3~10Jである。0.1J未満では凝集粒子を十分に解砕することができず凝集粒子が残存してしまう。一方、20Jを超えるとゾルゲルシリカ系複合酸化物が再凝集しやすくなるという問題が生じる。ここで、上記解砕エネルギーは、前記混合手段として用いられる攪拌・混合羽根の攪拌エネルギーが50J以上であるのに対して格段に小さく、従って、本発明における解砕羽根は、混合手段としての駆動部を有する回転体、即ち、攪拌・混合羽根とは明確に区別される。
【0223】
上記解砕エネルギーの算出方法の例について以下に具体的に述べる。上記解砕エネルギーは、回転軸1本毎に算出され、まず解砕羽根の慣性モーメントを求める。
【0224】
(軸が羽根の重心を通る場合)
解砕羽根の、回転軸に対して垂直方向となる長辺の長さをa(m)、短辺の長さをb(m)、厚さをt(m)、及び重量をM(kg)とし、同軸上に設置された羽根の枚数をmとすると、軸が羽根の重心を通る羽根の慣性モーメント(Iz)は下記(式1)より算出される。
Iz(kg・m)=(a +b)×M/12×m・・・(式1)
(軸を羽根の一端とする場合)
解砕羽根の、回転軸に対して垂直方向となる長辺の長さをa(m)、短辺の長さをb(m)、厚さをt(m)、及び重量をM(kg)とし、同軸上に設置された羽根の枚数をnとすると、軸を羽根の一端とする羽根の慣性モーメント(Iz)は下記(式2)より算出される。
Iz(kg・m)=(a +b+12(a/2))×M/12×n・・・(式2)
(軸が重心を通る羽根及び軸を一端とする羽根が混在する場合)
解砕羽根の慣性モーメント(Iz)は下記(式3)より算出する。
Iz(kg・m)=Iz1 +Iz・・・(式3)
次に、解砕エネルギーE(J)は、(式1)、(式2)、(式3)より算出された慣性モーメントと解砕羽根の回転数ω(rad/s)を用いて、下記(式4)より算出される。
【0225】
解砕エネルギーE(J)=Iz×ω/2・・・・・(式4)
また上記以外の形状の解砕羽根を有する場合にも、各々、その形状に応じて、公知の数式により解砕エネルギーを求めることができる。
【0226】
本発明の混合装置において、回転軸1本あたりの解砕エネルギーが上記範囲となればよいのであって、解砕羽根のついた回転軸を少なくとも1本設置していればよく、複数本設置することもできその際には、各々の回転軸が有する解砕羽根の解砕エネルギーを、0.3~10Jの範囲とすればよい。
【0227】
上記回転軸、及び解砕羽根の材質は、特に限定されないが、ステンレススチール等の金属、アルミニウム、ポリカーボネート、ポリプロピレン、アクリル等の樹脂類が挙げられ、なかでも金属、特にステンレススチールが、耐摩耗性に優れており好ましい。
【0228】
上記解砕羽根の形状は特に限定されず、公知のものが使用できる。例えば、水平形、L字形、円柱型等が挙げられる。
【0229】
解砕羽根の大きさは装置内に納まる大きさであって、解砕エネルギーが上記範囲となるのであれば特に制限されないが、回転中に内容物より局所的に負荷がかかった場合であっても、壁面や、他の解砕羽根に衝突しないよう十分な間隙を設けられて設置されればよい。
【0230】
該解砕羽根の長辺の長さは、短かすぎると解砕効果が小さくなる(必要な解砕エネルギーを得るために高回転を要する)が、長すぎると回転するための大きな動力を要する。また、解砕羽根の長辺の長さが長いほど、解砕エネルギーが大きくなって前記範囲を超えてしまい、ゾルゲルシリカ系複合酸化物が再凝集しやすくなるため、解砕羽根の長辺の長さは、300mm以下とすることが好ましい。
【0231】
解砕羽根の短辺の長さは特に制限されないが、上記長辺の長さに対して、0.05~0.2倍程度が一般的である。また、解砕羽根の厚さは特に制限されないが、1~5mmであることが好ましい。
【0232】
次に、解砕羽根の回転数も前記式の通り解砕エネルギーと直接関係してくる。上記した解砕羽根の大きさにもよるが、50~300(rad/s)であることが好ましい。回転数が遅すぎると解砕効果が小さくなり、逆に310(rad/s)を超えると解砕エネルギーが10Jを超えやすくなる。また回転数を小さい値とすることにより、機械的負荷が抑制される傾向にある。
【0233】
したがって、上記(式1)~(式4)等より得られる回転軸1本あたりの解砕エネルギーが0.3~10Jとなるよう、解砕羽根の材質、即ち重量を勘案し、長辺の長さ、短辺の長さ、厚さ、解砕羽根の枚数、及び回転数をそれぞれ上記範囲内で、相対的に選択してやればよい。
【0234】
上記解砕羽根の回転軸の設置箇所は、解砕羽根が装置内の接粉部にあれば特に制限されない。たとえば、Vブレンダー、ロッキングミキサー、またはダブルコーン型の混合装置を用いる場合であれば、混合装置内の空間の何れの箇所にあっても粉体と接することが可能なので、胴部の内側面、および両端部の内壁面であれば何れの箇所にも設置することができる。エアーブレンダーを用いる場合は、気流によるゾルゲルシリカ系複合酸化物粉体の流れを考慮し、解砕羽根が効率よく粉体に接触するように設置すればよいのであって、胴部の内側面、および天井部の内壁面の何れの箇所にも設置することができる。
【0235】
以下、表面処理方法(R2)について詳細に説明する。
【0236】
先ず、上記混合装置に、前記シリカ系複合酸化物粉末を供給し、そこへ表面処理剤を供給する。シリカ系複合酸化物粉末の供給量は、供給されたシリカ系複合酸化物粉末が混合可能な範囲であれば特に制限されないが、一般的な処理効率を考慮すれば、混合装置の内容積に対して好ましくは1~6割、更に好ましくは3~5割である。
【0237】
表面処理剤は溶媒で希釈した後にゾルゲルシリカ系複合酸化物と混合することができる。用いる溶媒は、表面処理剤が溶解するものであれば特に限定されない。例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、1-プロピルアルコール等のアルコール類が好適に用いられるが、アルコール類以外の有機溶媒を用いることもできる。溶媒で希釈する際の希釈率は特に限定されないが、一般的に2~5倍程度希釈して用いられる。
【0238】
表面処理剤の供給方法は、一度に供給してもよいし、混合しながら、連続的、あるいは断続的に供給してもよい。処理量が多い場合、若しくは表面処理剤の量が多い場合には、混合しながら連続的、あるいは断続的に供給することが好ましい。上記表面処理剤の供給は、ポンプ等を用いて滴下もしくは噴霧により供給することが好ましい。上記噴霧に際しては公知のスプレーノズル等が好適に使用できる。
【0239】
また、混合装置内の雰囲気は、特に限定されないが、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスが好ましく使用される。そうすることにより、水分による加水分解や酸素による酸化分解を抑制することができる。
【0240】
表面処理剤を連続的、あるいは断続的に供給する場合、表面処理剤の供給速度は特に限定されないが、表面処理剤の供給量等を考慮して決定すればよい。一般的には、シリカ系複合酸化物粉末100gあたり1~20ml/minで供給されることが好ましい。特に表面処理剤の供給量が多い場合は、供給速度が遅いと処理時間が長くなるため生産性に劣り、表面処理剤を一度に供給もしくは、供給速度が速すぎると表面処理剤の液滴が大きくなり、シリカ系複合酸化物粉末中に凝集粒子が生成しやすくなる。
【0241】
上記表面処理剤を供給し、シリカ系複合酸化物粉末と混合する際の温度条件は、特に限定されないが、温度が高すぎると表面処理剤が重合してしまうことや表面処理剤が急激に気化してしまうため、一般には-10~60℃程度である。
【0242】
上記混合は、表面処理剤がシリカ系複合酸化物粉末に均一に混合されればよいのであって、混合にかかる時間は処理するシリカ系複合酸化物粉末の処理量と用いる混合装置の能力に応じて適宜決定すればよい。例えば、内容積340Lのダブルコーン型混合機を用いて、シリカ系複合酸化物粉末を80kg処理する場合、3時間以内で十分に混合される。
【0243】
通常、該シリカ系複合酸化物粉末と表面処理剤との混合時において、表面処理剤の偏在や強い混合エネルギーにより凝集粒子が生成するが、本発明の方法によれば、駆動部を有する回転体を混合手段としないため、シリカ系複合酸化物粉末における凝集粒子の生成が抑制され、更に生成した凝集粒子については、強固な凝集粒子となる前に、混合装置内に設置された解砕羽根により効率よく解砕されるため、凝集粒子が極めて低減されたシリカ系複合酸化物粉末と表面処理剤との混合物が得られる。
【0244】
次に、凝集粒子が低減されたシリカ系複合酸化物粉末と表面処理剤との混合物を加熱処理してシリカ系複合酸化物粒子表面に表面処理剤を被覆させる。上記加熱処理は、加熱手段を有する混合装置を用いる場合、混合しながら熱を加え加熱処理を行うこともできるが、表面処理剤と十分に混合されたシリカ系複合酸化物粉末を取り出し、別の加熱装置にて加熱し、混合手段なしに加熱処理を行うこともできる。
【0245】
後者において、別の加熱装置内の雰囲気ガスは、特に制限されないが、上記混合装置内と同様に窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気とすることが好ましい。
【0246】
上記加熱処理を行う温度は、低すぎると反応の進行が遅くなるため生産効率が低下し、高すぎると表面処理剤の分解を促進してしまう。従って、使用する表面処理剤にもよるが、一般に、40~300℃、好ましくは80~250℃で行うのが良い。さらに好ましくは、この温度条件範囲において混合装置内おける表面処理剤の蒸気圧が1kPa以上であることが好ましく、さらには表面処理剤の蒸気圧が10kPa以上となる温度で加熱処理することが好ましい。このシリカ系複合酸化物粉末の表面処理において、混合装置内の圧力は常圧、加圧、負圧のいずれでもよい。
【0247】
上記加熱処理時間は使用する表面処理剤の反応性に応じて適宜決定すればよい。通常24時間以内で十分な反応率を得ることが可能である。
【0248】
<表面処理シリカ系複合酸化物の湿式ろ過>
前記表面処理シリカ系複合酸化物粉末には、表面処理により癒着粒子や凝集粒子等(以下、粗大粒子と略する)が生じ、粒径5μm以上の粗粒が10ppmをはるかに超えて含まれることが通常である。従って本発明のシリカ系複合酸化物粉末を得るには、これらの粗大粒子を湿式ろ過により除去する必要がある。具体的には、表面処理シリカ系複合酸化物を溶媒に分散させ、該分散液を湿式でろ過するとこにより粗大粒子を除去する。これにより、ろ材上に、表面処理反応残渣等とともに上記粗大粒子が分離され、粗大粒子が除去されたシリカ系分散液をろ液として回収する。
【0249】
まず、表面処理シリカ系複合酸化物粉末を溶媒と混合し、分散液を作製する。
【0250】
上記溶媒は、表面処理シリカ系複合酸化物表面の修飾基に影響を及ぼさない公知の溶媒が使用できる。具体的には、水やアルコール類などが挙げられ、表面処理シリカ系複合酸化物が疎水性を示す場合には、アルコール類が好適に使用できる。
【0251】
当該表面処理シリカ系複合酸化物粒子分散液中に含まれる表面処理シリカ系複合酸化物粒子の割合が多すぎると、分散液の粘度が高くなるため、取り扱いが困難となる。一方、分散液中の表面処理シリカ系複合酸化物粒子の割合が少なすぎると、1回の操作で得られる表面処理シリカ系複合酸化物粒子の量が少なくなり、不経済である。このような観点から、得られる表面処理シリカ系複合酸化物粒子分散液中のシリカ粒子濃度は、1~60質量%とすることが好ましく、特に25~50質量%とすることが好ましい。該分散液中における表面処理シリカ系複合酸化物粒子の割合が多すぎて取扱い性に難がある場合には、次の分散液のろ過工程の前に、溶媒を添加して濃度調整を行うことが好ましい。
【0252】
湿式ろ過に使用するろ材としては、湿式ろ過用フィルターにおいて、目開きが5μm以下のものが特に限定されずに使用することができ、目開きが3μm以下のものが好ましい。目的とする表面処理シリカ系複合酸化物の平均粒子径等を勘案して選択すればよいが、目開きが小さくなるとろ過性が大きく低下するため、目開きの下限は通常1μmとすることが好ましい。
【0253】
フィルターの材質は特に制限されないが、樹脂製(ポリプロピレン、PTFEなど)や金属性が挙げられる。金属不純物の混入を防ぐ観点から、樹脂製のフィルターを用いることが好ましい。
【0254】
なお前記したように、本発明のシリカ系複合酸化物粉末を得るには、高温で焼成して融着粒子が多量に生じてしまった際には、該焼成後にろ過を行う必要があるが、上記表面処理後に湿式ろ過を行う場合には、該表面処理後にまとめて湿式ろ過を行えばよい。すなわち、高温で焼成することにより融着した粗大粒子が多量に生じても、焼成後のろ過を行わず、表面処理を行った後に湿式ろ過を行えば、粗大粒子を十分に除去することができる。
【0255】
<表面処理シリカ系複合酸化物の固液分離>
続いて、粗大粒子が除去されたろ液から表面処理シリカ系複合酸化物粒子を固液分離し回収する。表面処理シリカ系複合酸化物の固液分離の手段は特に制限されないが、ろ過によってろ物として容易に回収することができる。ろ過の方法は特に制限はされず、例えば減圧ろ過、加圧ろ過、遠心ろ過等の公知の方法を適用することができる。
【0256】
上記ろ過で使用する、ろ紙やろ布等(以下、これらを包括して「ろ紙等」という。)は、工業的に入手可能なものであれば、特に制限無く使用することができ、分離装置(ろ過器)のスケールや回収するシリカの平均粒径等に応じて適宜選択すればよい。粒子径が0.05~2μmの表面処理シリカ系複合酸化物粒子の場合、ろ紙であれば保留粒子径が3μm以下、ろ布であれば通気率0.6cm/(cm・s)以下のろ紙等を使用することが好ましい。該固液分離により、表面処理シリカ系複合酸化物がケークとして回収される。
【0257】
<表面処理シリカ系複合酸化物の乾燥>
次いで、回収した表面処理シリカ系複合酸化物を乾燥する。
【0258】
本発明においては、上記のようにして回収された表面処理シリカ系複合酸化物のケークは、35℃以上の温度で乾燥すると、その解砕性が更に向上する。従って本発明の乾燥工程における乾燥温度は35℃以上の温度とすることが好ましい。
【0259】
乾燥の方法は特に制限はされず、送風乾燥や減圧乾燥等の公知の方法を採用することが可能である。しかしながら、本発明者らの検討により、大気圧下で乾燥するよりも減圧下で乾燥する方が、より解砕され易くなる傾向にあることが明らかとなったため、減圧乾燥を採用することが好ましい。
【0260】
乾燥時の温度を高くする方が、凝析剤の分解効率の観点及び解砕され易い表面処理シリカ系複合酸化物とすることの観点からは有利である。しかしながら乾燥温度が高すぎると、表面処理シリカ系複合酸化物粒子表面の反応性置換基により凝集塊が生成することがあり、好ましくない。従って、上記のバランスを取るために、乾燥の温度は35~200℃とすることが好ましく、50~180℃とすることがより好ましく、特に80~150℃とすることが好ましい。
【0261】
乾燥時間は、特に制限はされないが、2~48時間程度とすることにより、表面処理シリカ系複合酸化物を十分に乾燥することができる。
【0262】
また、乾燥後に解砕を行うことも好ましい。この際の解砕も、表面処理前の解砕と同様にジェットミルやボールミルを使用することができる。
【0263】
<濃縮及び乾燥>
本発明の表面処理シリカ系複合酸化物粉末の製造においては、上記のろ過と乾燥に代えて、ろ液からの表面処理シリカ系複合酸化物の回収を、溶媒を揮発除去させることにより行うことも可能である。例えば、前記湿式ろ過によりろ液として回収された表面処理シリカ系複合酸化物粒子分散液を加熱濃縮、あるいは減圧濃縮等によって溶媒を揮発させる方法によって行うことにより、表面処理シリカ系複合酸化物粒子が分散したろ液から溶媒が除去された表面処理シリカ系複合酸化物を直接得ることができる。
【0264】
<表面処理シリカ系複合酸化物粒子>
上記のようにして製造される本発明の表面処理シリカ系複合酸化物粉末は、個々の粒子が弱い力で凝集した凝集体の形態を成す乾燥粉体として得られる。そして、係る表面処理シリカ系複合酸化物粒子は、解砕処理が困難な凝集塊が生成せず、容易に解砕が可能な、分散性に優れたものである。特段の解砕処理を行うことなく、樹脂や溶媒に分散させる際の分散機のシェアにより、容易に解砕され、該樹脂や溶媒中で均一に分散させることが可能である。例えば、表面処理シリカ系複合酸化物粉末5質量%の超音波分散液(出力40W、照射時間10分)において、コールターカウンター法(アパチャー径30μm)により得られた粒度分布における、粒子径が5μm以上である粒子の含有量が個数基準で10ppm以下である。
【0265】
なお、本発明のシリカ系複合酸化物粉末は、異なる製造方法やバッチで製造されたものが複数混合されていてもよい。例えば、前記の通りゾルゲル反応により粒子を合成する際には変動係数が小さい(粒度分布が狭い)方が粗大粒子が生成する可能性が低くなるため好ましい。一方、実際の使用に際して、例えば樹脂と混合して使用したい場合には、充填率を上げるためにある程度広い粒度分布をもつ(変動係数が大きい)ことが好ましい場合がある。そのような場合、平均粒子径が異なる、複数のロットの複合酸化物粒子を混合することで粒度分布を広げ、充填率を上げることができる場合もある。この場合、それぞれの粗粒量が10ppm以下であれば、混合後の粗粒量も10ppm以下とできる。このように複数のロットを混合することにより目的とする物性を発現させることも可能である。
【0266】
本発明のシリカ系複合酸化物及び表面処理シリカ系複合酸化物は、粗大粒子や凝集粒子が極めて少ない。表面処理シリカ系複合酸化物においては、一様に表面処理されているため、樹脂への分散性が非常に向上し、樹脂組成物添加時の粘度が低く、表面処理シリカ系複合酸化物の高充填化が可能となり、硬化樹脂の強度向上が望め、狭間隙封止用途の半導体封止材料の充填材に特に好適に使用される。また、狭間隙封止用途以外の各種半導体封止材料やフィルム、塗料等の充填材、電子材料用基板や半導体製造装置用高純度シリカガラス及び石英ガラス、光学ガラスの原料用途等に使用することができる。
【実施例
【0267】
以下、本発明の実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。
【0268】
以下実施例、比較例で評価に用いる各物性の評価方法は以下の通りである。
【0269】
(コールターカウンター法における5μm及び3μm以上の粗粒量)
50mLのガラス瓶を5個準備し、それぞれにシリカ系複合酸化物粉末を1gずつ電子天秤ではかりとり、蒸留水もしくはエタノールを19gずつ加え、超音波ホモジナイザー(BRANSON製、Sonifier250)を用いて、40W・10分の条件で分散させて測定試料とした。コールターカウンター(ベックマンコールター社製、MultisizerIII)によりアパチャー径30μmを用いて、各試料中のシリカ系複合酸化物粒子の個々の粒子径を測定した。このとき、1試料あたりの測定粒子数を約5万個とし、5試料合わせて約25万個について測定した。そのうち、粒径が5μm以上の粒子数、及び粒径が3μm以上の粒子数をそれぞれ算出し、総測定個数に対するそれぞれの粗粒量(ppm)とした。
【0270】
(体積基準累積50%径(平均粒子径)、変動係数及びレーザー回折散乱法における5μm以上の粗粒量)
50mLのガラス瓶にシリカ系複合酸化物粉末約0.1gを電子天秤ではかりとり、蒸留水を約40ml加え、超音波ホモジナイザー(BRANSON製、Sonifier250)を用いて、40W・10分の条件で分散させた後、シリカ系複合酸化物粉末の体積基準累積50%径(μm)及び変動係数をレーザー回折散乱法粒度分布測定装置(ベックマンコールター社製、LS-230)により測定した。
【0271】
また、レーザー回折散乱法における5μm以上の粗粒に関し、5μm以上のシグナルの有無を確認した。
【0272】
(加熱減量)
示差熱熱重量同時測定装置(TG-DTA、リガク社製、TG8120)を用い加熱減量を求めた。具体的には、シリカ系複合酸化物粒子粉末約1gをφ50mm×高さ12mmのガラスシャーレに入れ、25℃湿度80%条件下で24時間保管した。24時間後、サンプルを取出し、約10mg電子天秤ではかりとり、試料ホルダーに入れ、空気雰囲気下、昇温速度20℃/minで300℃まで加熱し、300℃で5時間保持した。加熱前後の重量差から加熱減量を算出した。
【0273】
(球形度)
シリカ系複合酸化物粒子の形状をSEM(日本電子データム社製、JSM-6060)で観察し、球形度を求めた。具体的には、1000個以上のシリカ系複合酸化物粒子について観察し、画像処理プログラム(Soft Imaging System GmbH製、AnalySIS)を用いて各々の粒子について球形度を計測し、その平均を求めた。なお、球形度は次式により算出した。
【0274】
球形度=4π×(面積)/(周囲長)
(屈折率)
シリカ系複合酸化物粒子の屈折率は液浸法によって測定した。即ち、異なる屈折率の溶媒(例えば、トルエン、1-ブロモナフタレン、1-クロロナフタレン、ジヨードメタン、イオウ入りジヨードメタンなど)を適当に配合することにより任意の屈折率の混合溶媒を作り、その中に粒子を分散させて25℃において最も透明な粒子分散溶液の屈折率を粒子の屈折率とした。溶媒の屈折率はアッベの屈折率計を用いて25℃で589nmの波長の光を用いて測定した。
【0275】
(カーボン量及び単位表面積あたりのカーボン量)
燃焼酸化法(堀場製作所社製、EMIA-511により表面処理シリカ系複合酸化物粒子のカーボン量(質量%)を測定した。
【0276】
また、別途、柴田科学器械工業製の比表面積測定装置SA-1000を用い、窒素吸着量によるBET一点法により、表面処理シリカ系複合酸化物粒子の比表面積(m/g)を測定した。上記のカーボン量を比表面積で除することで単位表面積あたりカーボン量(質量%・g/m)を算出した。
【0277】
(不純物量)
U及びTh:シリカ系複合酸化物粉末をフッ硝酸(フッ酸:硝酸が5:1の混合液)で加熱溶解させ、ICP質量分析法(アジレント・テクノロジー製、Agilent4500)で測定した。
【0278】
Fe、Al、Na、K、Ca、Cr、Ni:シリカ系複合酸化物粉末をフッ硝酸で加熱溶解させ、残渣をICP発光分析法(サーモサイエンティフィック製、iCAP 6500 DUO)で測定した。
【0279】
Cl:ゾルゲルシリカ系複合酸化物粉末を超純水と混合し、加圧下で熱処理する。処理後の溶液中のCl濃度をイオンクロマトグラフ法(日本ダイオネクス製、ICS-2100)で測定した。
【0280】
(α線量)
低レベルα線測定装置(住化分析センター製、LACS-4000M)を用いてシリカ系複合酸化物粉末のα線量(c/(cm・h))を測定した。測定は試料面積1000cmで実施した。
【0281】
(孤立シラノール基量)
測定試料の調製は、あらかじめ110℃で24時間乾燥させた焼成後のシリカ系複合酸化物粉末0.02gとKBr0.38gを混合、メノウ製乳鉢ですりつぶした。測定試料をフーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR、アジレント・テクノロジー製、FTS-3000)を用い、拡散反射法で吸光度を測定した。吸光度のデータをシリカ骨格のSi-O-Siの振動強度である1874cm-1で規格化後、波数3744cm-1における孤立シラノール基強度(I)と波数1874cm-1におけるシリカ骨格のSi-O-Siの振動強度(I)の強度比を求め、次式より孤立シラノール基量を算出した。
【0282】
孤立シラノール基量=I1/I2
なお、孤立シラノール基は吸着水や隣のシラノールと水素結合していないシラノール基である。そのため、焼成していないシリカ系複合酸化物には実質的に存在しておらず、測定されない。換言すれば、焼成によりシラノール基の量が少なくなって初めて観測されるシラノール基である。
【0283】
(フローマーク)
シリカ系複合酸化物微粉末25gをビスフェノールA+F型混合エポキシ樹脂(新日鉄住金化学製、ZX-1059)25gに加え、手練りした。手練りした樹脂組成物を自転公転式ミキサー(THINKY製、あわとり練太郎 AR-500)により予備混練した(混練:1000rpm、8分、脱泡:2000rpm、2分)。予備混練後の樹脂組成物を三本ロール(アイメックス社製、BR-150HCV ロール径φ63.5)を用いて混練した。混練条件は、混練温度を室温、ロール間距離を20μm、混練回数を5回として行った。
【0284】
予め30μmのギャップになるように2枚のガラスを重ねて、100℃に加熱し、作製した混練樹脂組成物の高温侵入性試験を行った。混練樹脂組成物が20mmに到達するまで、もしくは侵入が止まるまで観察し、外観目視によるフローマークの有無を評価した。
【0285】
実施例1
3Lのガラス製4つ口フラスコに、金属アルコキシドとしてテトラメトキシシラン(多摩化学工業社製、正珪酸メチル、以下、TMOS)475gを仕込み、有機溶媒としてメタノールを238g(無機酸化物粒子分散液の質量に対し、11質量%)と、酸触媒として0.035質量%塩酸56g(金属アルコキシドの質量に対し、塩化水素の含量として、0.003質量%)を加え、室温で10分間攪拌することによって、TMOSを加水分解した。続いて、金属アルコキシドとしてチタンテトライソプロポキシド(日本曹達社製、A-1(以下、TPT))250gをイソプロピルアルコール(以下、IPA)500g(無機酸化物粒子分散液の質量に対し、23質量%)で希釈した液を添加し、透明な複合アルコキシド溶液を得た。
【0286】
5Lのジャケット付きガラス製セパラブルの5つ口フラスコ(直径15cm、円筒状)に、バッフル板、フルゾーン翼(翼径8cm)を設置し、反応液としてIPAを256g(無機酸化物粒子分散液の質量に対し、12質量%、合計で46質量%)、25質量%アンモニア水を64g(金属アルコキシドの質量に対し、アンモニアの含量として2.2質量%)を仕込み、40℃で保持、攪拌した。これに、上記複合アルコキシド溶液と、25質量%アンモニア水344g(金属アルコキシドの質量に対し、アンモニアの含量として3.9質量%、合計で6質量%)を、それぞれ独立に液中滴下した。滴下開始時は、複合アルコキシド溶液は10mm/s、アンモニア水は0.2mm/sの吐出線速度で反応媒体中に供給し、その後は徐々に供給量を増やして最終的に複合アルコキシドは51mm/s、アンモニア水は10mm/sの線速度で供給し、5時間で原料供給を完了し、シリカ-チタニア複合酸化物粒子を成長させた。このときの無次元混合時間nθmは50であった。滴下開始後9分の段階で、反応液が白濁しており、反応が進行している様子が確認された。なお、シリカ-チタニア複合酸化物粒子分散液の質量は、2183gであった。
【0287】
滴下終了後、1.0時間熟成を行い得られたスラリーを、目開き3μmのポリプロピレン製フィルターを通して10Lのポリエチレン製容器に移液した。これにドライアイス(固体状の二酸化炭素)143g(分散液中の無機酸化物粒子に対し、58質量%)を投入後、3時間放置した。3時間放置した段階でシリカ-チタニア複合酸化物粒子が沈降しており、定量ろ紙(保留粒子径5μm)を使用し、減圧濾過を行い、398g(シリカ-チタニア複合酸化物濃度62質量%)の濃縮物を得た。ろ液は透明であり、ろ過漏れは確認されなかった。得られたシリカ-チタニア複合酸化物粒子を100℃で16時間真空乾燥し、260gのシリカ-チタニア複合酸化物を得た。更に、900℃で12時間焼成を行った。焼成雰囲気の調整は特に行わず、空気雰囲気下で実施した。焼成後に焼結している様子はなく、247gのシリカ-チタニア複合酸化物粉末を得た。
【0288】
得られたシリカ-チタニア複合酸化物粉末は、平均粒子径0.42μm、変動係数23%、球形度0.92、屈折率1.62であり、レーザー回折散乱法において5μm以上の粗粒は検出されなかった。また、コールターカウンター法における5μm及び3μm以上の粗粒量は8ppm及び24ppmであった。
【0289】
加熱減量は3%であり、孤立シラノール基量は0.7であった。また、α線量は0.002c/(cm2・h)、不純物量は、Uが0.02ppb、Thが0.02ppb、Feが0.1ppm、Alが0.1ppm、Naが0.1ppm、Kが0.0ppm、Caが0.1ppm、Crが0.0ppm、Niが0.0ppm、Clが0.1ppmであった。また、フローマークは見られなかった。
【0290】
実施例2
実施例1において、焼成以降の工程を実施しなかった。
【0291】
得られたシリカ-チタニア複合酸化物粉末は、平均粒子径0.47μm、変動係数24%、球形度0.92、屈折率1.59であり、レーザー回折散乱法において5μm以上の粗粒は検出されなかった。また、コールターカウンター法における5μm及び3μm以上の粗粒量は4ppm未満及び5ppmであった。
【0292】
加熱減量は18%であった。また、α線量は0.002c/(cm2・h)、不純物量は、Uが0.02ppb、Thが0.01ppb、Feが0.1ppm、Alが0.0ppm、Naが0.2ppm、Kが0.0ppm、Caが0.1ppm、Crが0.0ppm、Niが0.0ppm、Clが0.1ppmであった。また、フローマークは見られなかった。
【0293】
実施例3
実施例1において、TPT250gのかわりに、テトラ-n-ブトキシジルコニウム(日本曹達社製、TBZR(以下、TBZ))180gを用い、塩酸の量を30gとした以外は実施例1と同様の操作でシリカ-ジルコニア複合酸化物粉末を合成し、238gを得た。
【0294】
得られたシリカ-ジルコニア複合酸化物粉末は、平均粒子径0.32μm、変動係数19%、球形度0.95、屈折率1.53であり、レーザー回折散乱法において5μm以上の粗粒は検出されなかった。また、コールターカウンター法における5μm及び3μm以上の粗粒量は9ppm及び32ppmであった。
【0295】
加熱減量は3%であり、孤立シラノール基量は0.6であった。また、α線量は0.002c/(cm2・h)、不純物量は、Uが0.02ppb、Thが0.02ppb、Feが0.1ppm、Alが0.1ppm、Naが0.1ppm、Kが0.1ppm、Caが0.1ppm、Crが0.0ppm、Niが0.0ppm、Clが0.1ppmであった。また、フローマークは見られなかった。
【0296】
実施例4
2Lのガラス製三角フラスコに、TMOS363gを仕込み、撹拌しながら、メタノール181gと0.04質量%の塩酸42gを加え、室温で約20分間撹拌することによってテトラメトキシシランを部分加水分解した(この調製した溶液を「溶液A1」という。)。
【0297】
上記とは別に、TPT410gとIPA500gと錯化剤としてトリエタノールアミン(和光純薬工業製、以下、「TEA」)107gを加え室温で30分間撹拌した後、溶液A1と混合し、30分間撹拌した(この調製した溶液を「溶液B1」という。)。
【0298】
実施例1における複合アルコキシド溶液として溶液B1を用いた以外は実施例1と同様の操作でシリカ-チタニア複合酸化物粉末を合成し、249gを得た。
【0299】
得られたシリカ-チタニア複合酸化物粉末は、平均粒子径0.42μm、変動係数25%、球形度0.88、屈折率1.74であり、レーザー回折散乱法において5μm以上の粗粒は検出されなかった。また、コールターカウンター法における5μm及び3μm以上の粗粒量は9ppm及び31ppmであった。
【0300】
加熱減量は3%であり、孤立シラノール基量は0.9であった。また、α線量は0.002c/(cm2・h)、不純物量は、Uが0.02ppb、Thが0.02ppb、Feが0.1ppm、Alが0.1ppm、Naが0.1ppm、Kが0.0ppm、Caが0.1ppm、Crが0.0ppm、Niが0.0ppm、Clが0.1ppmであった。また、フローマークは見られなかった。
【0301】
実施例5
実施例1において、反応液中のIPA256gを128gとし、メタノールを128g加えた。それ以外は実施例1と同様の操作でシリカ-チタニア複合酸化物粉末を合成し、241gを得た。
【0302】
得られたシリカ-チタニア複合酸化物粉末は、平均粒子径0.28μm、変動係数21%、球形度0.93、屈折率1.62であり、レーザー回折散乱法において5μm以上の粗粒は検出されなかった。また、コールターカウンター法における5μm及び3μm以上の粗粒量は4ppm及び20ppmであった。
【0303】
加熱減量は3%であり、孤立シラノール基量は0.4であった。また、α線量は0.002c/(cm2・h)、不純物量は、Uが0.01ppb、Thが0.02ppb、Feが0.1ppm、Alが0.0ppm、Naが0.1ppm、Kが0.0ppm、Caが0.1ppm、Crが0.0ppm、Niが0.0ppm、Clが0.1ppmであった。また、フローマークは見られなかった。
【0304】
実施例6
実施例1において、複合アルコキシド溶液中のTPTを77gとし、IPAを154gとした。それ以外は実施例1と同様の操作でシリカ-チタニア複合酸化物粉末を合成し、241gを得た。
【0305】
得られたシリカ-チタニア複合酸化物粉末は、平均粒子径0.60μm、変動係数17%、球形度0.96、屈折率1.51であり、レーザー回折散乱法において5μm以上の粗粒は検出されなかった。また、コールターカウンター法における5μm及び3μm以上の粗粒量は4ppm未満及び9ppmであった。
【0306】
加熱減量は3%であり、孤立シラノール基量は0.4であった。また、α線量は0.002c/(cm2・h)、不純物量は、Uが0.02ppb、Thが0.02ppb、Feが0.1ppm、Alが0.1ppm、Naが0.1ppm、Kが0.1ppm、Caが0.1ppm、Crが0.0ppm、Niが0.0ppm、Clが0.1ppmであった。また、フローマークは見られなかった。
【0307】
実施例7
内容積1mのジャケット付きガラスライニング製反応器(内径1200mm)に、マックスブレンド翼(翼径345mm)を設置し、金属アルコキシドとしてTMOS190.0kgを仕込み、有機溶媒としてメタノールを95.2kgと酸触媒として0.035質量%塩酸22.4kgを加え、室温で10分間撹拌することによってTMOSを加水分解した。続いて、金属アルコキシドとしてTPT100.0kgをIPA200.0kgで希釈した液を添加し、透明な複合アルコキシド溶液を得た。
【0308】
内容積1mのジャケット付きガラスライニング製反応器(内径1200mm)に、マックスブレンド翼(翼径345mm)を設置し、反応液としてIPAを102.4kg、25質量%アンモニア水を25.6kg仕込み、40℃で保持、撹拌した。これに、上記複合アルコキシド溶液と、25質量%アンモニア水137.6kgを、SUS製の配管(内径3/8インチ)を用いてそれぞれ独立に液中滴下した。滴下開始時は複合アルコキシド溶液は10mm/s、アンモニア水は0.2mm/sの吐出線速度で反応媒体中に供給し、その後は徐々に供給量を増やして最終的に複合アルコキシドは51mm/s、アンモニア水は10mm/sの線速度で供給し、5時間で原料供給を完了し、シリカ-チタニア複合酸化物粒子を成長させた。このときの無次元混合時間nθmは45であった。滴下開始後7分の段階で、反応液が白濁しており、反応が進行している様子が確認された。なお、シリカ-チタニア複合酸化物粒子分散液の質量は、869.2kgであった。
【0309】
滴下終了後、1.0時間熟成を行い得られたスラリーを、目開き3μmのポリプロピレン製フィルターを通して内容積1mの反応器に移液した。これにドライアイス(固体状の二酸化炭素)57.2kg(分散液中の無機酸化物粒子に対し、58質量%)を投入後、3時間放置した。3時間放置した段階でシリカ-チタニア複合酸化物粒子が沈降しており、定量ろ紙(保留粒子径5μm)を使用し、減圧濾過を行い、158.0kg(シリカ-チタニア複合酸化物濃度60質量%)の濃縮物を得た。ろ液は透明であり、ろ過漏れは確認されなかった。得られたシリカ-チタニア複合酸化物粒子を100℃で16時間真空乾燥し、99.4kgのシリカ-チタニア複合酸化物を得た。更に、900℃で12時間焼成を行った。焼成雰囲気の調整は特に行わず、空気雰囲気下で実施した。焼成後に焼結している様子はなく、94.8kgのシリカ-チタニア複合酸化物粉末を得た。
【0310】
得られたシリカ-チタニア複合酸化物粉末は、平均粒子径0.45μm、変動係数26%、球形度0.93、屈折率1.62であり、レーザー回折散乱法において5μm以上の粗粒は検出されなかった。また、コールターカウンター法における5μm及び3μm以上の粗粒量は9ppm及び36ppmであった。
【0311】
加熱減量は3%であり、孤立シラノール基量は0.8であった。また、α線量は0.002c/(cm2・h)、不純物量は、Uが0.02ppb、Thが0.01ppb、Feが0.0ppm、Alが0.0ppm、Naが0.1ppm、Kが0.1ppm、Caが0.1ppm、Crが0.0ppm、Niが0.0ppm、Clが0.1ppmであった。また、フローマークは見られなかった。
【0312】
実施例8
実施例7で得られたシリカ-チタニア複合酸化物粉末をジェットミルを用いて解砕処理を施した。
【0313】
得られたシリカ-チタニア複合酸化物粉末は、平均粒子径0.45μm、変動係数25%、球形度0.93、屈折率1.62であり、レーザー回折散乱法において5μm以上の粗粒は検出されなかった。また、コールターカウンター法における5μm及び3μm以上の粗粒量は4ppm未満及び5ppmであった。
【0314】
加熱減量は3%であり、孤立シラノール基量は0.6であった。また、α線量は0.002c/(cm2・h)、不純物量は、Uが0.02ppb、Thが0.02ppb、Feが0.4ppm、Alが2.2ppm、Naが0.1ppm、Kが0.0ppm、Caが0.1ppm、Crが0.1ppm、Niが0.1ppm、Clが0.1ppmであった。また、フローマークは見られなかった。
【0315】
実施例9
実施例8で得られたシリカ-チタニア複合酸化物粉末40kgを、端部の内壁面に各々回転軸を1本ずつ設置し、該軸の壁面から2cmの位置に、軸が羽根の重心を通る、ステンレススチール製の解砕羽根(150mm×20mm×2mm)が各1枚付いた、内容積136LのVブレンダー(徳寿工作所製、V-60型)に仕込み、雰囲気を窒素で置換した。次に、表面処理剤としてヘキサメチルジシラザン(信越シリコーン製、SZ-31、以下、HMDS)をペリスタポンプを用いて258g(40μmol/g)滴下した。表面処理剤を全量滴下後、ステンレススチール製の解砕羽根(質量47g)の回転数を157rad/s(1500rpm)(解砕エネルギー=0.7J)とし、混合機の回転数を0.3rpsで運転し常温で3時間混合した。
【0316】
次に、混合された表面処理シリカ-チタニア複合酸化物粉末を装置から取り出し、10kgずつ小分けし、窒素で置換された150℃の乾燥機内で3時間加熱処理した。
【0317】
次に表面処理シリカ-チタニア複合酸化物粉末の湿式ろ過を実施した。
【0318】
内容積40LのSUS製容器にメタノール15kgを入れ、プロペラ式撹拌機にて撹拌速度100rpmでかき混ぜながら該表面処理シリカ-チタニア複合酸化物粉末を5kg加え、60分間撹拌を継続し、スラリー濃度25質量%の分散液を調製した。次いで、該分散液をダイヤフラムポンプにて1L/minの速さで送液し、目開き3μmのポリプロピレン製ろ過フィルターを通過させ、粗大粒子を除去した。ろ過後の分散液は通気率0.6cm/(cm・s)のろ布により加圧ろ過し、表面処理シリカ-チタニア複合酸化物6kgがケークとして回収された。
【0319】
次いで、上記のようにして回収された表面処理シリカ-チタニア複合酸化物のケークを温度120℃で24時間減圧乾燥し、4.8kgの乾燥表面処理シリカ-チタニア複合酸化物粉末を得た。
【0320】
得られた表面処理シリカ-チタニア複合酸化物粉末は、平均粒子径0.45μm、変動係数26%、球形度0.93、屈折率1.62、カーボン量0.09質量%、単位表面積あたりのカーボン量0.01質量%・g/mであり、レーザー回折散乱法において5μm以上の粗粒は検出されなかった。また、コールターカウンター法における5μm及び3μm以上の粗粒量は4ppm未満及び9ppmであった。
【0321】
加熱減量は1%であり、孤立シラノール基量は0.0であった。また、α線量は0.002c/(cm2・h)、不純物量は、Uが0.02ppb、Thが0.02ppb、Feが0.4ppm、Alが2.3ppm、Naが0.1ppm、Kが0.1ppm、Caが0.1ppm、Crが0.1ppm、Niが0.1ppm、Clが0.1ppmであった。また、フローマークは見られなかった。
【0322】
実施例10
実施例9において、表面処理剤をヘキサメチルジシラザンに代えてアクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越シリコーン製、KBM-5103、以下AcPTS)を用い、ペリスタポンプを用いて187g(20μmol/g)滴下した。それ以外は実施例9と同様の操作で表面処理を実施した。
【0323】
得られた表面処理シリカ-チタニア複合酸化物粉末は、平均粒子径0.45μm、変動係数26%、球形度0.93、屈折率1.62、カーボン量0.17質量%、単位表面積あたりのカーボン量0.03質量%・g/mであり、レーザー回折散乱法において5μm以上の粗粒は検出されなかった。また、コールターカウンター法における5μm及び3μm以上の粗粒量は4ppm未満及び8ppmであった。
【0324】
加熱減量は1%であり、孤立シラノール基量は0.0であった。また、α線量は0.002c/(cm2・h)、不純物量は、Uが0.02ppb、Thが0.02ppb、Feが0.3ppm、Alが2.2ppm、Naが0.1ppm、Kが0.0ppm、Caが0.1ppm、Crが0.1ppm、Niが0.1ppm、Clが0.1ppmであった。また、フローマークは見られなかった。
【0325】
実施例11
実施例1において、複合アルコキシド溶液の調製を10Lガラス製4つ口フラスコで行い、TMOSを2930g、メタノールを1460g、0.035質量%塩酸を690g、TPTを470g、IPAを940gとした。反応器を20LのSUS製の5つ口容器(直径25cm、円筒状)とし、反応液としてIPAを3150g、25質量%アンモニア水を790g仕込んだ。これに、上記複合アルコキシド溶液と、25質量%アンモニア水4230gをそれぞれ独立に液中滴下した。それ以外は実施例1と同様の操作でシリカ-チタニア複合酸化物粉末を合成し、880gを得た。
【0326】
得られたシリカ-チタニア複合酸化物粉末は、平均粒子径1.12μm、変動係数34%、球形度0.87、屈折率1.51であり、レーザー回折散乱法において5μm以上の粗粒は検出されなかった。また、コールターカウンター法における5μm及び3μm以上の粗粒量は9ppm及び55ppmであった。加熱減量は3%であり、孤立シラノール基量は0.4であった。また、α線量は0.002c/(cm・h)、不純物量は、Uが0.02ppb、Thが0.02ppb、Feが0.1ppm、Alが0.1ppm、Naが0.1ppm、Kが0.1ppm、Caが0.1ppm、Crが0.0ppm、Niが0.0ppm、Cl-が0.1ppmであった。また、フローマークは見られなかった。
【0327】
実施例12
実施例9において、表面処理剤をヘキサメチルジシラザンに代えて3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越シリコーン製、KBM-403、以下GPTS)を用い、ペリスタポンプを用いて189g(20μmol/g)滴下した。それ以外は実施例10と同様の操作で表面処理を実施した。
【0328】
得られた表面処理シリカ-チタニア複合酸化物粉末は、平均粒子径0.47μm、変動係数28%、球形度0.93、屈折率1.62、カーボン量0.16質量%、単位表面積あたりのカーボン量0.02質量%・g/mであり、レーザー回折散乱法において5μm以上の粗粒は検出されなかった。また、コールターカウンター法における5μm及び3μm以上の粗粒量は4ppm未満及び8ppmであった。加熱減量は1%であり、孤立シラノール基量は0.0であった。また、α線量は0.002c/(cm・h)、不純物量は、Uが0.02ppb、Thが0.02ppb、Feが0.2ppm、Alが2.2ppm、Naが0.1ppm、Kが0.0ppm、Caが0.1ppm、Crが0.1ppm、Niが0.1ppm、Cl-が0.1ppmであった。また、フローマークは見られなかった。
【0329】
比較例1
実施例1において、目開き3μmフィルターによるろ過を実施しなかった。それ以外は実施例1と同様の操作を実施した。
【0330】
得られたシリカ-チタニア複合酸化物粉末は、平均粒子径0.46μm、変動係数34%、球形度0.90、屈折率1.62であり、レーザー回折散乱法において5μm以上の粗粒は検出されなかった。また、コールターカウンター法における5μm及び3μm以上の粗粒量は100ppm及び2400ppmであった。
【0331】
加熱減量は3%であり、孤立シラノール基量は0.6であった。また、α線量は0.002c/(cm2・h)、不純物量は、Uが0.02ppb、Thが0.02ppb、Feが0.1ppm、Alが0.1ppm、Naが0.1ppm、Kが0.0ppm、Caが0.1ppm、Crが0.0ppm、Niが0.0ppm、Clが0.1ppmであった。また、フローマークが観察された。
【0332】
比較例2
実施例4において、錯化剤のTEAを添加せず、また目開き3μmフィルターによるろ過を実施しなかった。それ以外は実施例4と同様の操作を実施した。
【0333】
得られたシリカ-チタニア複合酸化物粉末は、平均粒子径0.61μm、変動係数60%、球形度0.71、屈折率1.74であり、レーザー回折散乱法において5μm以上の粗粒は5体積%であった。レーザー回折散乱法において粗粒が検出されたため、コールターカウンター法での粗粒量は測定しなかった。
【0334】
加熱減量は3%であり、孤立シラノール基量は0.7であった。また、α線量は0.002c/(cm2・h)、不純物量は、Feが0.1ppm、Alが0.1ppm、Naが0.1ppm、Kが0.0ppm、Caが0.1ppm、Crが0.0ppm、Niが0.0ppm、Clが0.1ppmであった。また、フローマークが観察された。
【0335】
比較例3
実施例9において、表面処理シリカ-チタニア複合酸化物粉末の湿式ろ過を実施しなかった。それ以外は実施例9と同様の操作を実施した。
【0336】
得られた表面処理シリカ-チタニア複合酸化物粉末は、平均粒子径0.47μm、変動係数28%、球形度0.93、屈折率1.62、カーボン量0.09質量%、単位表面積あたりのカーボン量0.01質量%・g/mであり、レーザー回折散乱法において5μm以上の粗粒は検出されなかった。また、コールターカウンター法における5μm及び3μm以上の粗粒量は30ppm及び280ppmであった。加熱減量は1%であり、孤立シラノール基量は0.0であった。また、α線量は0.002c/(cm・h)、不純物量は、Uが0.02ppb、Thが0.02ppb、Feが0.3ppm、Alが2.2ppm、Naが0.1ppm、Kが0.1ppm、Caが0.1ppm、Crが0.1ppm、Niが0.1ppm、Clが0.1ppmであった。また、フローマークが観察された。
【0337】
本比較例では、表面処理後の湿式ろ過を行わなかったので、実施例9,10,12に比較すると、コールターカウンター法における5μm及び3μm以上の粗粒量が多くなっている。
【0338】
比較例4
実施例1において、焼成温度を1000℃とした。それ以外は実施例1と同様の操作を実施した。
【0339】
得られたシリカ-チタニア複合酸化物粉末は、平均粒子径0.43μm、変動係数25%、球形度0.91、屈折率1.62であり、レーザー回折散乱法において5μm以上の粗粒は検出されなかった。また、コールターカウンター法における5μm及び3μm以上の粗粒量は50ppm及び680ppmであった。加熱減量は1%であり、孤立シラノール基量は0.2であった。また、α線量は0.002c/(cm・h)、不純物量は、Uが0.02ppb、Thが0.02ppb、Feが0.1ppm、Alが0.1ppm、Naが0.1ppm、Kが0.0ppm、Caが0.1ppm、Crが0.0ppm、Niが0.0ppm、Clが0.1ppmであった。また、フローマークが観察された。
【0340】
比較例5
実施例6において、焼成温度を1000℃とした。それ以外は実施例6と同様の操作を実施した。
【0341】
得られたシリカ-チタニア複合酸化物粉末は、平均粒子径0.64μm、変動係数28%、球形度0.92、屈折率1.51であり、レーザー回折散乱法において5μm以上の粗粒は検出されなかった。また、コールターカウンター法における5μm及び3μm以上の粗粒量は35ppm及び320ppmであった。加熱減量は1%であり、孤立シラノール基量は0.2であった。また、α線量は0.002c/(cm・h)、不純物量は、Uが0.02ppb、Thが0.02ppb、Feが0.1ppm、Alが0.0ppm、Naが0.1ppm、Kが0.0ppm、Caが0.1ppm、Crが0.0ppm、Niが0.0ppm、Clが0.1ppmであった。また、フローマークが観察された。
【0342】
実施例13
焼成温度を1000℃とした以外は実施例1と同じ操作を行い(即ち、比較例4と同じ操作を行い)、245gのシリカ-チタニア複合酸化物粉末を得た。
【0343】
その後、内容積1LのSUS製容器にメタノール600gを入れ、プロペラ式撹拌機にて撹拌速度100rpmでかき混ぜながら上記の1000℃での焼成後のシリカ-チタニア複合酸化物粉末を200g加え、60分間撹拌を継続し、スラリー濃度25質量%の分散液を調製した。次いで、該分散液をダイヤフラムポンプにて1L/minの速さで送液し、目開き3μmのポリプロピレン製ろ過フィルターを通過させ、粗大粒子を除去した。ろ過後の分散液は通気率0.6cm/(cm・s)のろ布により加圧ろ過し、表面処理シリカ-チタニア複合酸化物205gがケークとして回収された。
【0344】
次いで、上記のようにして回収されたシリカ-チタニア複合酸化物のケークを温度120℃で24時間減圧乾燥し、190gの乾燥シリカ-チタニア複合酸化物粉末を得た。
【0345】
得られたシリカ-チタニア複合酸化物粉末は、平均粒子径0.43μm、変動係数24%、球形度0.92、屈折率1.62であり、レーザー回折散乱法において5μm以上の粗粒は検出されなかった。また、コールターカウンター法における5μm及び3μm以上の粗粒量は8ppm及び32ppmであった。
【0346】
加熱減量は1%であり、孤立シラノール基量は0.2であった。また、α線量は0.002c/(cm・h)、金属不純物量は、Uが0.02ppb、Thが0.02ppb、Feが0.1ppm、Alが0.1ppm、Naが0.1ppm、Kが0.1ppm、Caが0.1ppm、Crが0.0ppm、Niが0.0ppm、Clが0.1ppmであった。また、フローマークは見られなかった。
【0347】
【表2】
【0348】
【表3】
【0349】
【表4】
図1