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特許7497568ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物、成形品、複合成形体及びそれら製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物、成形品、複合成形体及びそれら製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 81/02 20060101AFI20240604BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20240604BHJP
   C08J 5/12 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
C08L81/02
C08L63/00 A
C08J5/12 CEZ
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019208706
(22)【出願日】2019-11-19
(65)【公開番号】P2021080363
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】出口 由希
(72)【発明者】
【氏名】塚越 悠人
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-043772(JP,A)
【文献】特開2020-002208(JP,A)
【文献】特開2020-041019(JP,A)
【文献】特開2009-179757(JP,A)
【文献】特開2018-104534(JP,A)
【文献】特開2016-147960(JP,A)
【文献】特開2016-147959(JP,A)
【文献】国際公開第2009/011335(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K
C08L
C08G
C08J
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と、繰り返し単位中に、脂環式構造(α)と芳香族構造(β)とを有するエポキシ樹脂(B)とを必須成分として配合してなること、
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100質量部に対して、前記エポキシ樹脂(B)が0.01~50質量部の範囲であること、
前記エポキシ樹脂(B)が、下記の一般式(1)
【化1】
(式中、nは0~10の範囲である)で表されるものを含み、かつ、軟化点が83~150℃の範囲であること、を特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項2】
前記エポキシ樹脂(B)のエポキシ当量が100~500g/当量の範囲である、請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の非ニュートン指数が0.90以上から、2.00以下の範囲である請求項1又は2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
溶融混練物である請求項1~3の何れか一項に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項5】
前記請求項1~4の何れか一項に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形してなる成形品。
【請求項6】
前記請求項5に記載の成形品と、エポキシ樹脂を含む硬化性樹脂組成物の硬化物とが接着してなる複合成形品。
【請求項7】
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と、脂環式構造(α)を有するエポキシ樹脂(B)とを必須成分として配合し、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の融点以上で溶融混練すること、
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100質量部に対して、前記エポキシ樹脂(B)が0.01~50質量部の範囲であること、
前記エポキシ樹脂(B)が、下記の一般式(1)
【化2】
(式中、nは0~10の範囲である)で表されるものを含み、かつ、軟化点が83~150℃の範囲であること、を特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
前記エポキシ樹脂(B)のエポキシ当量が100~500g/当量の範囲である、請求項7記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の非ニュートン指数が0.90以上から、2.00以下の範囲である請求項7又は8記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項7~9の何れか一項記載の製造方法で製造されたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を溶融成形する工程を有する成形品の製造方法。
【請求項11】
請求項5に記載の成形品と、エポキシ樹脂を含む硬化性樹脂組成物とを接触させた後、該硬化性樹脂組成物を硬化させることを特徴とする複合成形品の製造方法。
【請求項12】
請求項10に記載の製造方法で製造された成形品と、エポキシ樹脂を含む硬化性樹脂組成物とを接触させた後、該硬化性樹脂組成物を硬化させることを特徴とする複合成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物、成形品、複合成形体およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド(以下PPSと略すことがある)樹脂に代表されるポリアリーレンスルフィド(以下PASと略すことがある)樹脂は、高融点で耐熱性に優れつつ、かつ、機械的強度、耐薬品性、成形加工性、寸法安定性にも優れることが知られている。そこで、一般的には、PAS樹脂に、充填剤やエラストマー等の添加剤を配合し、これらがPAS樹脂からなるマトリックス中に分散されるよう溶融混練してPAS樹脂組成物とした上で、溶融成形して電気・電子機器部品、自動車部品等として使用される成形品に加工される。
【0003】
そして、これら部品はその二次加工としてエポキシ樹脂等からなる部品材料と接着する場合が多々見られる。しかし、PAS樹脂は他の樹脂との接着性、特にエポキシ樹脂との接着性が比較的悪い。そのため、例えば、エポキシ系接着剤によるPAS同士の接合、PAS樹脂と他の材料との接合、あるいはエポキシ樹脂による電気・電子部品の封止等の際に、PAS樹脂とエポキシ樹脂を含む硬化性樹脂組成物との接着性(以下、エポキシ樹脂接着性ということがある)の悪さが問題となっていた。
【0004】
そこで、エポキシ樹脂接着性の低下を改善するために、PAS樹脂と、ノボラック型エポキシ樹脂及びビスフェノール型エポキシ樹脂と、ガラス繊維及びガラスフレークとを特定量で含むPAS樹脂組成物により、成形品のエポキシ樹脂接着性と耐冷熱衝撃性とをバランス良く改良する方法が提案されている(特許文献1参照)。しかし、この場合もPAS樹脂成形品のエポキシ樹脂接着性は低く、さらなるエポキシ樹脂接着性の向上が望まれていた。また、該PAS樹脂組成物およびPAS樹脂成形品は、製造時に、PAS樹脂の融点以上の温度で加熱して溶融状態とするが、その際に発生するガス量(以下、溶融時のガス発生量ということがある)が多くなるという傾向があった。このため、臭気問題による作業環境の悪化や、金型汚れによるメンテナンス性の低下を招くことがあり、さらに、金型表面や成型品表面にシミ焼けやヤニ状の物質が付着することもあり、溶融時のガス発生量の低いPAS樹脂組成物の開発が望まれていた。
【0005】
そこで、PAS樹脂と、ナフチルエーテル型エポキシ樹脂を特定量で含むPAS樹脂組成物、成形品、エポキシ樹脂成形品との複合成形体が提案されている(特許文献2参照)。しかしながら、当該エポキシ樹脂接着性の向上効果と、前記溶融時のガス発生量の低減効果は十分とは言えず、当該エポキシ樹脂接着性のさらなる向上と、前記溶融時のガス発生量のさらなる低減が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2013/141363号パンフレット
【文献】特開2018-104534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、溶融時のガス発生量が低く、かつエポキシ樹脂接着性に優れた成形品となるPAS樹脂組成物を提供すること、それを成形して得られる、エポキシ樹脂接着性に優れた成形品を提供すること、さらに該成形品と、エポキシ樹脂を含む硬化性樹脂組成物の硬化物とが接着してなる複合成形品およびその製造方法を提供すること、エポキシ樹脂接着性に優れた成形品となるPAS樹脂組成物のガス発生量を抑制して製造する方法、および、エポキシ樹脂接着性に優れた成形品のガス発生量を抑制して製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意研究した結果、PAS樹脂に、脂環式構造を有するエポキシ樹脂を必須成分として配合することにより、耐熱分解性に優れ、溶融時のガス発生量を低減できること、エポキシ基に由来して優れたエポキシ樹脂接着性を奏することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と、繰り返し単位中に、脂環式構造(α)と芳香族構造(β)とを有するエポキシ樹脂(B)とを必須成分として配合してなること、
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100質量部に対して、前記エポキシ樹脂(B)が0.01~50質量部の範囲であること、を特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に関する。
【0010】
加えて本発明は、前記PAS樹脂組成物を成形してなる成形品、に関する。
【0011】
さらに本発明は前記PAS樹脂組成物を成形してなる成形品と、エポキシ樹脂を含む硬化性樹脂組成物の硬化物とが接着してなる複合成形品、に関する。
【0012】
また、本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と、脂環式構造(α)を有するエポキシ樹脂(B)とを必須成分として配合し、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の融点以上で溶融混練することを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法に関する。
【0013】
加えて本発明は、前記PAS樹脂組成物を溶融成形する成形品の製造方法、に関する。
【0014】
さらに本発明は前記PAS樹脂組成物を成形してなる成形品と、エポキシ樹脂を含む硬化性樹脂組成物の硬化物とを接着する工程を有する複合成形品の製造方法、に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、溶融時のガス発生量が低く、かつエポキシ樹脂接着性に優れた成形品となるPAS樹脂組成物を提供すること、それを成形して得られる、エポキシ樹脂接着性に優れた成形品を提供すること、さらに該成形品と、エポキシ樹脂を含む硬化性樹脂組成物の硬化物とが接着してなる複合成形品およびその製造方法を提供すること、エポキシ樹脂接着性に優れた成形品となるPAS樹脂組成物のガス発生量を抑制して製造する方法、および、エポキシ樹脂接着性に優れた成形品のガス発生量を抑制して製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のPAS樹脂組成物は、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と、繰り返し単位中に、脂環式構造(α)と芳香族構造(β)とを有するエポキシ樹脂(B)とを必須成分として配合してなること、
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100質量部に対して、前記エポキシ樹脂(B)が0.01~50質量部の範囲であること、を特徴とする。
【0017】
本発明のPAS樹脂組成物は、PAS樹脂(A)を必須成分として配合してなる。本発明で用いるPAS樹脂は、芳香族環と硫黄原子とが結合した構造を繰り返し単位とする樹脂構造を有するものであり、具体的には、下記一般式(1)
【0018】
【化1】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して水素原子、炭素原子数1~4の範囲のアルキル基、ニトロ基、アミノ基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基を表す。)で表される構造部位と、必要に応じてさらに下記一般式(2)
【0019】
【化2】
で表される3官能性の構造部位と、を繰り返し単位とする樹脂である。式(2)で表される3官能性の構造部位は、他の構造部位との合計モル数に対して0.001~3モル%の範囲が好ましく、特に0.01~1モル%の範囲であることが好ましい。
【0020】
ここで、前記一般式(1)で表される構造部位は、特に該式中のR及びRは、前記PAS樹脂の機械的強度の点から水素原子であることが好ましく、その場合、下記式(3)で表されるパラ位で結合するもの、及び下記式(4)で表されるメタ位で結合するものが挙げられる。
【0021】
【化3】
これらの中でも、特に繰り返し単位中の芳香族環に対する硫黄原子の結合は前記一般式(3)で表されるパラ位で結合した構造であることが前記PAS樹脂の耐熱性や結晶性の面で好ましい。
【0022】
また、前記PAS樹脂は、前記一般式(1)や(2)で表される構造部位のみならず、下記の構造式(5)~(8)
【0023】
【化4】
で表される構造部位を、前記一般式(1)と一般式(2)で表される構造部位との合計の30モル%以下で含んでいてもよい。特に本発明では上記一般式(5)~(8)で表される構造部位は10モル%以下であることが、PAS樹脂の耐熱性、機械的強度の点から好ましい。前記PAS樹脂中に、上記一般式(5)~(8)で表される構造部位を含む場合、それらの結合様式としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体の何れであってもよい。
【0024】
また、前記PAS樹脂は、その分子構造中に、ナフチルスルフィド結合などを有していてもよいが、他の構造部位との合計モル数に対して、3モル%以下が好ましく、特に1モル%以下であることが好ましい。
【0025】
また、PAS樹脂の物性は、本発明の効果を損ねない限り特に限定されないが、以下の通りである。
【0026】
(溶融粘度)
本発明に用いるPAS樹脂の溶融粘度は特に限定されないが、300℃で測定した溶融粘度(V6)が2~1000〔Pa・s〕の範囲であることが好ましく、さらに流動性および機械的強度のバランスが良好となることから10~500〔Pa・s〕の範囲がより好ましく、特に60~200〔Pa・s〕の範囲であることが特に好ましい。但し、本発明において、溶融粘度(V6)は、PAS樹脂を島津製作所製フローテスター、CFT-500Dを用い、300℃、荷重:1.96×10Pa、L/D=10(mm)/1(mm)にて、6分間保持した後に溶融粘度を測定した値とする。
【0027】
(非ニュートン指数)
本発明に用いるPAS樹脂(A)の非ニュートン指数は、本発明の効果を損ねない限り特に限定されないが、0.90以上から、2.00以下の範囲であることが好ましい。リニア型PAS樹脂を用いる場合には、非ニュートン指数が好ましくは0.90以上、より好ましくは0.95以上から、好ましくは1.50以下、より好ましくは1.20以下の範囲である。このようなPAS樹脂は機械的物性、流動性、耐磨耗性に優れる。ただし、非ニュートン指数(N値)は、キャピログラフを用いて300℃、オリフィス長(L)とオリフィス径(D)の比、L/D=40の条件下で、剪断速度及び剪断応力を測定し、下記式を用いて算出した値である。
【0028】
【数1】
[ただし、SRは剪断速度(秒-1)、SSは剪断応力(ダイン/cm)、そしてKは定数を示す。]N値は1に近いほどPPSは線状に近い構造であり、N値が高いほど分岐が進んだ構造であることを示す。
【0029】
(製造方法)
前記PAS樹脂(A)の製造方法としては、特に限定されないが、例えば1)硫黄と炭酸ソーダの存在下でジハロゲノ芳香族化合物を、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加えて、重合させる方法、2)極性溶媒中でスルフィド化剤等の存在下にジハロゲノ芳香族化合物を、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加えて、重合させる方法、3)p-クロルチオフェノールを、必要ならばその他の共重合成分を加えて、自己縮合させる方法、等が挙げられる。これらの方法のなかでも、2)の方法が汎用的であり好ましい。反応の際に、重合度を調節するためにカルボン酸やスルホン酸のアルカリ金属塩や、水酸化アルカリを添加しても良い。上記2)方法のなかでも、加熱した有機極性溶媒とジハロゲノ芳香族化合物とを含む混合物に含水スルフィド化剤を水が反応混合物から除去され得る速度で導入し、有機極性溶媒中でジハロゲノ芳香族化合物とスルフィド化剤とを、必要に応じてポリハロゲノ芳香族化合物と加え、反応させること、及び反応系内の水分量を該有機極性溶媒1モルに対して0.02~0.5モルの範囲にコントロールすることによりPAS樹脂を製造する方法(特開平07-228699号公報参照。)や、固形のアルカリ金属硫化物及び非プロトン性極性有機溶媒の存在下でジハロゲノ芳香族化合物と必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加え、アルカリ金属水硫化物及び有機酸アルカリ金属塩を、硫黄源1モルに対して0.01~0.9モルの範囲の有機酸アルカリ金属塩および反応系内の水分量を非プロトン性極性有機溶媒1モルに対して0.02モル以下の範囲にコントロールしながら反応させる方法(WO2010/058713号パンフレット参照。)で得られるものが特に好ましい。ジハロゲノ芳香族化合物の具体的な例としては、p-ジハロベンゼン、m-ジハロベンゼン、o-ジハロベンゼン、2,5-ジハロトルエン、1,4-ジハロナフタレン、1-メトキシ-2,5-ジハロベンゼン、4,4’-ジハロビフェニル、3,5-ジハロ安息香酸、2,4-ジハロ安息香酸、2,5-ジハロニトロベンゼン、2,4-ジハロニトロベンゼン、2,4-ジハロアニソール、p,p’-ジハロジフェニルエーテル、4,4’-ジハロベンゾフェノン、4,4’-ジハロジフェニルスルホン、4,4’-ジハロジフェニルスルホキシド、4,4’-ジハロジフェニルスルフィド、及び、上記各化合物の芳香環に炭素原子数1~18の範囲のアルキル基を有する化合物が挙げられ、ポリハロゲノ芳香族化合物としては1,2,3-トリハロベンゼン、1,2,4-トリハロベンゼン、1,3,5-トリハロベンゼン、1,2,3,5-テトラハロベンゼン、1,2,4,5-テトラハロベンゼン、1,4,6-トリハロナフタレンなどが挙げられる。また、上記各化合物中に含まれるハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子であることが望ましい。
【0030】
重合工程により得られたPAS樹脂を含む反応混合物の後処理方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、(1)重合反応終了後、先ず反応混合物をそのまま、あるいは酸または塩基を加えた後、減圧下または常圧下で溶媒を留去し、次いで溶媒留去後の固形物を水、反応溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回または2回以上洗浄し、更に中和、水洗、濾過および乾燥する方法、或いは、(2)重合反応終了後、反応混合物に水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素などの溶媒(使用した重合溶媒に可溶であり、かつ少なくともPASに対しては貧溶媒である溶媒)を沈降剤として添加して、PASや無機塩等の固体状生成物を沈降させ、これらを濾別、洗浄、乾燥する方法、或いは、(3)重合反応終了後、反応混合物に反応溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)を加えて撹拌した後、濾過して低分子量重合体を除いた後、水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回または2回以上洗浄し、その後中和、水洗、濾過および乾燥をする方法、(4)重合反応終了後、反応混合物に水を加えて水洗浄、濾過、必要に応じて水洗浄の時に酸を加えて酸処理し、乾燥をする方法、(5)重合反応終了後、反応混合物を濾過し、必要に応じ、反応溶媒で1回または2回以上洗浄し、更に水洗浄、濾過および乾燥する方法、等が挙げられる。
【0031】
尚、上記(1)~(5)に例示したような後処理方法において、PAS樹脂の乾燥は真空中で行なってもよいし、空気中あるいは窒素のような不活性ガス雰囲気中で行なってもよい。
【0032】
本発明のPAS樹脂組成物は、脂環構造(α)と芳香環構造(β)とを繰り返し単位として有するエポキシ樹脂(B)を必須成分として配合してなる。
前記エポキシ樹脂(B)は、分子中に脂環構造(α)と芳香環構造(β)を有するものであればその具体構造や製造方法等は特に限定されず、種々多様なものを用いることができる。前記分子中に脂環構造(α)と芳香環構造(β)を有するエポキシ樹脂(B)の一例としては、例えば、不飽和脂環式化合物(α1)とフェノール性水酸基含有芳香族化合物(β1)との付加重合物のポリグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0033】
前記不飽和脂環式化合物(α1)は、分子構造中に脂環構造を有し、かつ、前記フェノール性水酸基含有芳香族化合物(β1)と反応して付加重合物を生成し得る化合物であれば特に限定されないが、分子構造中に脂環構造を有し、かつ、不飽和結合(炭素-炭素二重結合)を2つ以上有する化合物が挙げられる。具体例としては、シクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエン等の脂環式共役ジエン化合物が挙げられ、また前記脂環式共役ジエン化合物、及び、ブタジエン、イソプレン、ピペリレン等の鎖状共役ジエン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の化合物のディールス・アルダー反応物等が挙げられる。中でも、エポキシ接着性に優れ、溶融時のガス発生量をより低減できる点からジシクロペンタジエンが好ましい。
【0034】
前記フェノール性水酸基含有芳香族化合物(β1)は、例えば、フェノール、クレゾール、ナフトール、アントラセノールの他、これらの芳香環上の水素原子の一つ乃至複数が、脂肪族炭化水素基、芳香環含有炭化水素基、アルコキシ基、ハロゲン原子等で置換された化合物が挙げられ、このうち、エポキシ接着性に優れ、溶融時のガス発生量をより低減できる点からフェノール、クレゾールが好ましい。
【0035】
前記不飽和脂環式化合物(α1)と前記フェノール性水酸基含有芳香族化合物(β1)との付加重合反応は公知慣用の方法にて行うことができる。その一例としては、例えば、酸触媒条件下、70~90℃程度の温度条件下で反応させる方法が挙げられる。両者の反応比率は適宜調整されるが、耐熱性に優れる分子量になることから両者のモル比[(α1)/(β1)]が1/1.5~1/5の範囲となることが好ましい。
【0036】
前記不飽和脂環式化合物(α1)と前記フェノール性水酸基含有芳香族化合物(β1)との付加重合反応によって得られる反応物(以下、当該付加重合反応によって得られる反応物を、単に「付加反応物」ということがある)のポリグリシジルエーテル化反応は、公知慣用の方法にて行うことができる。その一例としては、例えば、前記付加重合物が有するフェノール性水酸基1モルに対し、2~10モルのエピハロヒドリンを用い、フェノール性水酸基1モルに対し0.9~2.0モルの塩基性触媒を一括又は分割添加しながら20~120℃の温度で0.5~10時間反応させる方法が挙げられる。
【0037】
前記エポキシ樹脂(B)のエポキシ当量は特に限定されないが、エポキシ接着性に優れ、溶融時のガス発生量をより低減できる点から、好ましくは100g/当量以上、より好ましくは200g/当量以上、さらに好ましくは270g/当量以上から、好ましくは500g/当量以下、より好ましくは400g/当量以下、さらに好ましくは300g/当量以下の範囲である。なお、エポキシ当量は、JIS K 7236に準拠した方法により測定した値である。
【0038】
前記エポキシ樹脂(B)の軟化点は特に限定されないが、エポキシ接着性に優れ、溶融時のガス発生量をより低減できる点から、好ましくは50℃以上、より好ましくは65℃以上、さらに好ましくは75℃以上から、好ましくは150℃以下、より好ましくは130℃以下、さらに好ましくは110℃以下の範囲である。なお、軟化点は、JIS K7234に準拠した方法による。
【0039】
また、本発明では前記エポキシ樹脂(B)として市販のエポキシ樹脂を用いてもよい。具体的には、DIC株式会社製「EPICLON HP-7200L」、「EPICLON HP-7200」、「EPICLON HP-7200H」、「EPICLON HP-7200HH」、「EPICLON HP-7200HHH」、日本化薬株式会社製「XD-1000」、株式会社ADEKA製「EP-4085」、「EP-4088S」、新日鉄住金化学株式会社製「ZX-1658GS」等が挙げられる。
【0040】
前記エポキシ樹脂(B)の具体的な構造としては、例えば、下記の一般式
【0041】
【化5】
で表される高分子化合物を含む樹脂などが挙げられる。式中、nは繰り返し単位を表し、0以上から、好ましくは10以下、より好ましく5以下の範囲である。
【0042】
PAS樹脂組成物中における前記エポキシ樹脂(B)の配合の割合は、PAS樹脂(A)100質量部に対して、0.01質量部以上、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは1質量部以上から、50質量部以下、好ましくは35質量部以下、より好ましくは10質量部以下の範囲である。上記範囲内であると、PAS樹脂成形品が優れたエポキシ樹脂接着性、機械的強度を有しつつ、かつPAS樹脂組成物の溶融時におけるガス発生量の低減と溶融成形時の増粘を抑えることにより流動性に優れたものとすることができる。
【0043】
本発明のPAS樹脂組成物は、必要に応じて、充填剤を任意成分として含有することができる。これら充填剤としては本発明の効果を損なうものでなければ公知慣用の材料を用いることもでき、例えば、繊維状のものや、粒状や板状などの非繊維状のものなど、さまざまな形状の充填剤等が挙げられる。具体的には、ガラス繊維、炭素繊維、シランガラス繊維、セラミック繊維、アラミド繊維、金属繊維、チタン酸カリウム、炭化珪素、珪酸カルシウム、ワラストナイト等の繊維、天然繊維等の繊維状充填剤が使用でき、またガラスビーズ、ガラスフレーク、硫酸バリウム、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、セリサイト、マイカ、雲母、タルク、アタパルジャイト、フェライト、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ガラスビーズ、ゼオライト、ミルドファイバー、硫酸カルシウム等の非繊維状充填剤も使用できる。
【0044】
本発明において充填剤は必須成分ではなく、配合する場合、その含有量は本発明の効果を損ねなければ特に限定されるものではない。充填剤の配合量としては例えば、PAS樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは10質量部以上から、好ましくは600質量部以下、より好ましくは200質量部以下の範囲である。かかる範囲において、樹脂組成物が良好な機械強度と成形性を示すため好ましい。
【0045】
本発明のPAS樹脂組成物は、必要に応じて、シランカップリング剤を任意成分として配合することができる。シランカップリング剤としては、本発明の効果を損ねなければ特に限定されないが、カルボキシ基と反応する官能基、例えば、エポキシ基、イソシアナト基、アミノ基または水酸基を有するシランカップリング剤が好ましいものとして挙げられる。このようなシランカップリング剤としては、例えば、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ-イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルトリクロロシラン等のイソシアナト基含有アルコキシシラン化合物、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有アルコキシシラン化合物、γ-ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン等の水酸基含有アルコキシシラン化合物が挙げられる。本発明においてシランカップリング剤は必須成分ではないが、配合する場合、その配合量は、本発明の効果を損ねなければその添加量は特に限定されないが、PAS樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上から、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下までの範囲である。かかる範囲において、樹脂組成物が良好な耐コロナ性と成形性、特に離形性を有し、かつ成形品がエポキシ樹脂と優れた接着性を呈しつつ、さらに機械的強度が向上するため好ましい。
【0046】
本発明のPAS樹脂組成物は、必要に応じて、熱可塑性エラストマーを任意成分として含有することができる。熱可塑性エラストマーとしては、ポリオレフィン系エラストマー、弗素系エラストマーまたはシリコーン系エラストマーが挙げられ、このうちポリオレフィン系エラストマーが好ましいものとして挙げられる。これらのエラストマーを添加する場合、その配合量は、本発明の効果を損ねなければ特に限定されないが、PAS樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上から、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下までの範囲である。かかる範囲において、得られるPAS樹脂組成物の耐衝撃性が向上するため好ましい。
【0047】
例えば、前記ポリオレフィン系エラストマーは、α-オレフィンの単独重合体、または2以上のα-オレフィンの共重合体、1または2以上のα-オレフィンと、官能基を有するビニル重合性化合物との共重合体が挙げられる。この際、前記α-オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテン等の炭素原子数が2以上から8以下までの範囲のα-オレフィンが挙げられる。また、前記官能基としては、カルボキシ基、酸無水物基(-C(=O)OC(=O)-)、エポキシ基、アミノ基、水酸基、メルカプト基、イソシアネート基、オキサゾリン基等が挙げられる。そして、前記官能基を有するビニル重合性化合物としては、酢酸ビニル;(メタ)アクリル酸等のα,β-不飽和カルボン酸;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のα,β-不飽和カルボン酸のアルキルエステル;アイオノマー等のα,β-不飽和カルボン酸の金属塩(金属としてはナトリウムなどのアルカリ金属、カルシウムなどのアルカリ土類金属、亜鉛等);グリシジルメタクリレート等のα,β-不飽和カルボン酸のグリシジルエステル等;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のα,β-不飽和ジカルボン酸;前記α,β-不飽和ジカルボン酸の誘導体(モノエステル、ジエステル、酸無水物)等の1種または2種以上が挙げられる。
【0048】
上述の熱可塑性エラストマーは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
更に、本発明のPAS樹脂組成物は、上記成分に加えて、さらに用途に応じて、適宜、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリアリーレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ四弗化エチレン樹脂、ポリ二弗化エチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、液晶ポリマー等の合成樹脂(以下、単に合成樹脂という)を任意成分として配合することができる。本発明において前記合成樹脂は必須成分ではないが、配合する場合、その配合の割合は本発明の効果を損ねなければ特に限定されるものではなく、また、それぞれの目的に応じて異なり、一概に規定することはできないが、本発明に係る樹脂組成物中に配合する合成樹脂の割合として、例えばPAS樹脂(A)100質量部に対し5~15質量部の範囲程度が挙げられる。換言すれば、PAS樹脂(A)と合成樹脂との合計に対してPAS樹脂(A)の割合は質量基準で、好ましくは(100/115)以上の範囲であり、より好ましくは(100/105)以上の範囲である。
【0050】
また本発明のPAS樹脂組成物は、その他にも着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、発泡剤、難燃剤、難燃助剤、防錆剤、およびカップリング剤等の公知慣用の添加剤を必要に応じ、任意成分として含有してもよい。これらの添加剤は必須成分ではなく、例えば、PAS樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは0.01~1000質量部の範囲で、本発明の効果を損なわないよう目的や用途に応じて適宜調整して用いればよい。
【0051】
本発明のPAS樹脂組成物の製造方法は、PAS樹脂(A)と、前記エポキシ樹脂(B)と、を必須成分として、PAS樹脂(A)の融点以上で溶融混練する。
【0052】
本発明のPAS樹脂組成物の好ましい製造方法は、上述した含有量となるよう、PAS樹脂(A)と、前記エポキシ樹脂(B)の各必須成分と、必要に応じて、充填剤などの任意成分を、粉末、ペレット、細片など様々な形態でリボンブレンター、ヘンシェルミキサー、Vブレンダーなどに投入してドライブレンドした後、バンバリーミキサー、ミキシングロール、単軸または2軸の押出機およびニーダーなどの公知の溶融混練機に投入し、樹脂温度がPAS樹脂の融点以上となる温度範囲、好ましくは融点+10℃以上となる温度範囲、より好ましくは融点+10℃~融点+100℃となる温度範囲、さらに好ましくは融点+20~融点+50℃となる温度範囲で溶融混練する工程を経て製造することができる。溶融混練機への各成分の添加、混合は同時に行ってもよいし、分割して行っても良い。
【0053】
前記溶融混練機としては分散性や生産性の観点から二軸混練押出機が好ましく、例えば、樹脂成分の吐出量5~500(kg/hr)の範囲と、スクリュー回転数50~500(rpm)の範囲とを適宜調整しながら溶融混練することが好ましく、それらの比率(吐出量/スクリュー回転数)が0.02~5(kg/hr/rpm)の範囲となる条件下に溶融混練することがさらに好ましい。また、前記成分のうち、充填剤や添加剤を添加する場合は、前記二軸混練押出機のサイドフィーダーから該押出機内に投入することが分散性の観点から好ましい。かかるサイドフィーダーの位置は、前記二軸混練押出機のスクリュー全長に対する、該押出機樹脂投入部から該サイドフィーダーまでの距離の比率が、0.1~0.9の範囲であることが好ましい。中でも0.3~0.7の範囲であることが特に好ましい。
【0054】
このように溶融混練して得られる本発明のPAS樹脂組成物は、必須成分であるPAS樹脂(A)と、前記エポキシ樹脂(B)と、必要に応じて加える任意成分およびそれらの由来成分を含む溶融混合物であり、該溶融混練後に、公知の方法でペレット、チップ、顆粒、粉末等の形態に加工してから、必要に応じて100~150℃の温度で予備乾燥を施して、各種成形に供することが好ましい。
【0055】
上記製造方法により製造される本発明のPAS樹脂組成物は、PAS樹脂をマトリックスとし、当該マトリックス中に、必須成分である前記エポキシ樹脂(B)、それらに由来する成分、必要に応じて添加する任意成分が分散したモルフォロジーを形成する。その結果、PAS樹脂成形品が優れたエポキシ樹脂接着性、機械的強度および難燃性を有しつつ、かつPAS樹脂組成物の溶融時におけるガス発生量の低減と溶融成形時の増粘を抑えることにより流動性に優れたものとすることができる。
【0056】
本発明のPAS樹脂組成物は、射出成形、圧縮成形、コンポジット、シート、パイプなどの押出成形、引抜成形、ブロー成形、トランスファー成形など各種成形に供することが可能であるが、特に離形性にも優れるため射出成形用途に適している。射出成形にて成形する場合、各種成形条件は特に限定されず、通常一般的な方法にて成形することができる。例えば、射出成形機内で、樹脂温度がPAS樹脂の融点以上の温度範囲、好ましくは該融点+10℃以上の温度範囲、より好ましくは融点+10℃~融点+100℃の温度範囲、さらに好ましくは融点+20~融点+50℃の温度範囲で前記PAS樹脂組成物を溶融する工程を経た後、樹脂吐出口よりを金型内に注入して成形すればよい。その際、金型温度も公知の温度範囲、例えば、室温(23℃)~300℃、好ましくは120~180℃に設定すればよい。
【0057】
本発明のPAS樹脂組成物を成形してなる成形品は、エポキシ樹脂との接着性に優れるだけでなく、機械的強度、特に射出成型時の樹脂の特にTD方向の曲げ強さに優れる。
【0058】
本発明のPAS樹脂成形品は、エポキシ樹脂を含む硬化性樹脂組成物との接着性に優れる。ここで言うエポキシ樹脂を含む硬化性樹脂組成物とは、エポキシ樹脂と硬化剤とを混合して得られる組成物であることが好ましい。
【0059】
本発明において用いる前記エポキシ樹脂としては、本発明の効果を損ねなければ特に限定されず、たとえば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ナフチルエーテル型エポキシ樹脂や前記エポキシ樹脂(B)などが挙げられ、このうち、接着性に優れることからビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましいものとして挙げられる。
【0060】
前記ビスフェノール型エポキシ樹脂のエポキシ樹脂の種類としては、ビスフェノール類のグリシジルエーテルが挙げられ、具体的にはビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、またはテトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0061】
また、前記ノボラック型エポキシ樹脂の種類としてはフェノール類とアルデヒドとの縮合反応により得られたノボラック型フェノール樹脂をエピハロヒドリンと反応させて得られるノボラック型エポキシ樹脂が挙げられ、具体例には、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトール-フェノール共縮ノボラック型エポキシ樹脂、ナフトール-クレゾール共縮ノボラック型エポキシ樹脂、ブロム化フェノールノボラック型エポキシ樹脂が挙げられる。
【0062】
これらのエポキシ樹脂は、硬化剤により硬化反応させ使用されることが好ましい。
【0063】
本発明においてエポキシ樹脂を硬化させるための硬化剤としては、一般にエポキシ樹脂の硬化剤として用いられるものであれば特に制限されるものではないが、例えば、アミン型硬化剤、フェノール樹脂型硬化剤、酸無水物型硬化剤、潜在性硬化剤等が挙げられる。
【0064】
アミン型硬化剤としては、公知のものを用いることができ、脂肪族ポリアミン、芳香族ポリアミン、複素環式ポリアミン等やそれらのエポキシ付加物、マンニッヒ変性化物、ポリアミドの変性物を用いることができる。具体的には、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、テトラエチレンペンタミン、m-キシレンジアミン、トリメチルへキサメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、イソフォロンジアミン、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ノルボルネンジアミン、1,2-ジアミノシクロヘキサン、ジアミノジフェニルメタン、m-フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルスルホン、ジエチルトルエンジアミン、トリメチレンビス(4-アミノベンゾエート)、ポリテトラメチレンオキシド-ジ-p-アミノベンゾエート等が挙げられる。このうち、硬化性に優れることから、m-キシレンジアミン、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサンが特に好ましいものとして挙げられる。
【0065】
フェノール樹脂型硬化剤としては、公知のものを用いることができ、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビフェノール等のビスフェノール類、トリ(ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,1-トリ(ヒドロキシフェニル)エタン等の3官能フェノール化合物、フェノールノボラック、又はクレゾールノボラック等が挙げられる。
【0066】
酸無水物型硬化剤としては、公知のものを用いることができ、例えば、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。
【0067】
潜在性硬化剤としては、ジシアンジアミド、イミダゾール、BF3-アミン錯体、グアニジン誘導体等が挙げられる。
【0068】
これらの硬化剤は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。また、本発明の効果を損なわない範囲において、硬化促進剤を適宜併用して用いることも可能である。前記硬化促進剤としては種々のものが使用できるが、例えば、リン系化合物、第3級アミン、イミダゾール、有機酸金属塩、ルイス酸、アミン錯塩等が挙げられる。
【0069】
本発明に用いるエポキシ樹脂を含む硬化性樹脂組成物は、無溶媒下で硬化反応をさせても良いが、ベンゼン、トルエン、キシレン、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、酢酸メチル、アセトニトリル、クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、テトラクロロエチレン、N-メチルピロリドン、イソプロピルアルコールやイソブタノール、t-ブチルアルコール等の溶媒下で硬化反応をさせてもよい。
【0070】
本発明に用いる硬化性樹脂組成物において、エポキシ樹脂と硬化剤との使用割合は、本発明の効果を損なわない範囲において公知の割合であれば特に限定されるものではないが、硬化性に優れ、硬化物の耐熱性や耐薬品性に優れる硬化物が得られることから、エポキシ樹脂成分中のエポキシ基の合計1当量に対して、硬化剤中の活性基が0.7~1.5当量になる量が好ましい。
【0071】
本発明のPAS樹脂組成物を成形してなる成形品は、エポキシ樹脂との接着性に優れることから、PAS樹脂とエポキシ樹脂を含む硬化性樹脂組成物の硬化物とが接着した複合成形品として好適に用いることができる。
その製造方法としては、本発明の効果を損なわない範囲において公知の方法でよいが、PAS樹脂組成物を成形してなる成形品と、エポキシ樹脂を含む硬化性樹脂組成物とを接触させ、該硬化性樹脂組成物を硬化させる方法が挙げられる。
【0072】
前記複合成形体の主な用途例としては、各種家電製品、携帯電話、及びPC(Personal Computer)等の電子機器の筐体、箱型の電気・電子部品集積モジュール用保護・支持部材・複数の個別半導体またはモジュール、センサ、LEDランプ、コネクタ、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサ、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナ、スピーカ、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、端子台、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダ、パラボラアンテナ、コンピュータ関連部品等に代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤ、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザディスク・コンパクトディスク・DVDディスク・ブルーレイディスク等の音声・映像機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライタ部品、ワードプロセッサ部品、あるいは給湯機や風呂の湯量、温度センサなどの水回り機器部品等に代表される家庭、事務電気製品部品;オフィスコンピュータ関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライタ、タイプライタなどに代表される機械関連部品:顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計等に代表される光学機器、精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクタ、ブラシホルダー、スリップリング、ICレギュレータ、ライトディヤ用ポテンシオメーターベース、リレーブロック、インヒビタースイッチ、排気ガスバルブ等の各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディ、キャブレタースペーサ、排気ガスセンサ、冷却水センサ、油温センサ、ブレーキパットウェアーセンサ、スロットルポジションセンサ、クランクシャフトポジションセンサ、エアーフローメータ、ブレーキパッド摩耗センサ、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダ、ウォーターポンプインペラ、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビュータ、スタータースイッチ、イグニッションコイルおよびそのボビン、モーターインシュレータ、モーターロータ、モーターコア、スターターリレ、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクタ、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターロータ、ランプソケット、ランプリフレクタ、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルタ、点火装置ケース等の自動車・車両関連部品、その他各種用途にも適用可能である。
【実施例
【0073】
以下に具体的な例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明する。なお、製造例にて製造した樹脂の分析はそれぞれ以下の条件で行った。
【0074】
(測定例1)ポリフェニレンスルフィド樹脂の溶融粘度の測定
参考例で製造したポリフェニレンスルフィド樹脂を島津製作所製フローテスター、CFT-500Dを用い、300℃、荷重:1.96×10Pa、L/D=10(mm)/1(mm)にて、6分間保持した後に測定した。
【0075】
(製造例1) ポリフェニレンスルフィド樹脂(A-1)の製造
圧力計、温度計、コンデンサ、デカンター、精留塔を連結した撹拌翼付き150リットルオートクレーブにp-ジクロロベンゼン(以下、「p-DCB」と略記する。)33.222kg(226モル)、NMP2.280kg(23モル)、47.23質量%NaSH水溶液27.300kg(NaSHとして230モル)、及び49.21質量%NaOH水溶液18.533g(NaOHとして228モル)を仕込み、撹拌しながら窒素雰囲気下で173℃まで5時間掛けて昇温して、水27.300kgを留出させた後、オートクレーブを密閉した。脱水時に共沸により留出したp-DCBはデカンターで分離して、随時オートクレーブ内に戻した。脱水終了後のオートクレーブ内は微粒子状の無水硫化ナトリウム組成物がp-DCB中に分散した状態であった。この組成物中のNMP含有量は0.069kg(0.7モル)であったことから、仕込んだNMPの97モル%(22.3モル)がNMPの開環体(4-(メチルアミノ)酪酸)のナトリウム塩(以下、「SMAB」と略記する。)に加水分解されていることが示された。オートクレーブ内のSMAB量は、オートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.097モルであった。仕込んだNaSHとNaOHが全量、無水NaSに変わる場合の理論脱水量は27.921gであることから、オートクレーブ内の残水量621g(34.5モル)の内、401g(22.3モル)はNMPとNaOHとの加水分解反応に消費されて、水としてオートクレーブ内に存在せず、残りの220g(12.2モル)は水、あるいは結晶水の形でオートクレーブ内に残留していることを示していた。オートクレーブ内の水分量はオートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.053モルであった。
【0076】
上記脱水工程終了後に、内温を160℃に冷却し、NMP47.492kg(479モル)に含む溶液を仕込み、185℃まで昇温した。オートクレーブ内の水分量は、工程2で仕込んだNMP1モル当たり0.025モルであった。ゲージ圧が0.00MPaに到達した時点で、精留塔を連結したバルブを開放し、内温200℃まで1時間掛けて昇温した。この際、精留塔出口温度が110℃以下になる様に冷却とバルブ開度で制御した。留出したp-DCBと水の混合蒸気はコンデンサで凝縮し、デカンターで分離して、p-DCBはオートクレーブへ戻した。留出水量は179g(9.9モル)で、オートクレーブ内水分量は41g(2.3モル)で、脱水後に仕込んだNMP1モル当たり0.005モルで、オートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.010モルであった。オートクレーブ内のSMAB量は脱水時と同じく、オートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.097モルであった。
【0077】
次いで、内温200℃から230℃まで3時間掛けて昇温し、230℃で1時間撹拌した後、250℃まで昇温し、1時間撹拌した。内温200℃時点のゲージ圧は0.03MPaで、最終ゲージ圧は0.30MPaであった。冷却後、得られたスラリーの内、6.5kgを30リットルの80℃温水に注いで1時間撹拌した後、濾過した。このケーキを再び30リットルの温水で1時間撹拌し、洗浄した後、濾過した。次に、得られたケーキに30リットルの水を加え、酢酸でpHを4.5に調整し、常温で1時間撹拌したのち、濾過した。さらに得られたケーキに30リットルの温水を加え、1時間撹拌したのち、ろ過する操作を2回繰返して、熱風循環乾燥機を用い120℃で一晩乾燥して白色粉末上のカルボキシ基含有PPS樹脂(以下、A-1)を得た。得られたポリマーの溶融粘度は98Pa・sであった。
【0078】
(実施例1、2及び比較例1~4)PPS樹脂組成物の製造
表1、2に記載する組成成分および配合量(全て質量部)にしたがい、各材料をタンブラーで均一に混合した。その後、東芝機械株式会社製ベント付き2軸押出機「TEM-35B」に前記配合材料を投入し、樹脂成分吐出量25kg/hr、スクリュー回転数250rpm、樹脂成分の吐出量(kg/hr)とスクリュー回転数(rpm)との比率(吐出量/スクリュー回転数)=0.1(kg/hr・rpm)、設定樹脂温度330℃で溶融混練して樹脂組成物のペレットを得た。このペレットを用いて以下の各種評価試験を行った。試験及び評価の結果は、表1、2に示す。
【0079】
(測定例3)PPS樹脂成形品のエポキシ樹脂との接着強度と接着面の状態観察
得られたペレットをシリンダー温度320℃に設定した住友-ネスタール社製射出成形機(SG75-HIPRO・MIII)に供給し、金型温度130℃に温調したASTM1号ダンベル片成形用金型を用いて射出成形を行い、ASTM1号ダンベル片を得た。得られたASTM1号ダンベル片を中央から2等分し、エポキシ樹脂を含む硬化性樹脂組成物との接触面積が50mmとなるように作成したスペーサー(厚さ:1.8~2.2mm、開口部:13mm×25mm)を2等分したASTM1号ダンベル片2枚の間に挟み、クリップを用い固定した後、開口部にエポキシ樹脂を含む硬化性樹脂組成物(ナガセケムテックス株式会社製2液型エポキシ樹脂、主剤:XNR5002、硬化剤:XNH5002、配合比は主剤:硬化剤=100:90)を注入し、135℃に設定した熱風乾燥機中で3時間加熱し硬化・接着させた。23℃下で1日冷却後スペーサーを外し、得られた試験片を用いて引張速度5mm/sec、支点間距離80mm、23℃下で島津社製引張試験機「AG-Xシリーズ」を用い引張破断強さを測定し、接着面積で除した値をエポキシ接着強度とした。また、破断の際、接着していた面の状態を観察した。なお、「凝集破壊」は、接着層自体が破壊されることを意味し、「母材破壊」は基材(ここでは上述のASTM1号ダンベル片)が破壊されることを意味し、「界面剥離」は接着層と基材とが界面ではがれていることを意味する。
【0080】
(測定例4)PPS樹脂組成物の溶融時の重量減少量(ガス発生量)
実施例1、2および比較例1~5で得られたPPS樹脂組成物のペレットを、窒素流通下、150℃で1時間乾燥させた。次に、ペレットを10g計り取り、325℃で1時間加熱を行い、加熱前後の重量減少率を測定した。なお、この重量減少率は加熱時にペレットから発生するガス発生量に相当する。この重量減少率(ガス発生量)は、金型メンテナンス性、表面外観性、機械的物性、成形性の観点からも少ないほど優れている
【0081】
【表1】

【0082】
【表2】

【0083】
【表3】
【0084】
なお、表1、2中の配合樹脂、材料の配合比率は質量部を表し、下記のものを用いた。
エポキシ樹脂
B-1:DIC株式会社製「EPICLON HP-7200H」(エポキシ基当量274g/当量、軟化点83℃)
B-2:「EPICLON HP-7200HHH」(エポキシ基当量285g/当量、軟化点103℃)
b-3:ビスフェノールA型エポキシ樹脂 DIC株式会社製「EPICLON(登録商標)1050」(エポキシ当量450g/当量)
b-4:クレゾールノボラック型エポキシ樹脂 DIC株式会社製「EPICLON(登録商標)N680」(エポキシ当量210g/当量)
ガラス繊維
b-5:ナフチルエーテル型エポキシ樹脂は、下記の製造方法で製造したものを用いた。
【0085】
(製造例2) エポキシ樹脂(b-5)の製造
温度計、滴下ロート、冷却管、分留管、撹拌器を取り付けたフラスコに、2,7-ジヒドロキシナフタレンを160質量部、ベンジルアルコール25質量部、キシレン160質量部、パラトルエンスルホン酸・1水和物2質量部を仕込み、室温下、窒素を吹き込みながら撹拌した。140℃に昇温し、生成する水を系外に留去し、かつ、水と共に留出したキシレンは反応系内に戻しながら4時間攪拌した。次いで150℃に昇温し、生成する水とキシレンとを系外に留去しながら3時間攪拌した。反応終了後、20%水酸化ナトリウム水溶液2質量部を添加して中和した後、減圧条件下で乾燥させてポリアリーレンエーテル樹脂中間体(b-5-1)を178質量部得た。前記中間体(b-5-1)の水酸基当量は169g/当量、軟化点は130℃であった。
【0086】
前記ポリアリーレンエーテル樹脂中間体(b-5-1)のFD-MS(日本電子株式会社製 二重収束型質量分析装置 AX505H(FD505H))、前記ポリアリーレンエーテル樹脂中間体(b-5-1)のトリメチルシリル化体のFD-MSを測定し、下記化合物の生成を確認した。
1.2,7-ジヒドロキシナフタレンにベンジル基が1つ付加したもの(M=250)
2.2,7-ジヒドロキシナフタレンにベンジル基が2つ付加したもの(M=340)
3.下記構造式(a)においてnが1である化合物(M=446)
4.下記構造式(a)においてnが2である化合物(M=588)
5.下記構造式(a)においてnが1である化合物にトリメチルシリルオキシナフチル基が1つ付加した化合物(M=660)
6.下記構造式(a)においてnが3である化合物(M=730)
7.下記構造式(a)においてnが2である化合物にトリメチルシリルオキシナフチル基が1つ付加した化合物(M=802)
8.下記構造式(a)においてnが4である化合物(M=873)
9.下記構造式(a)においてnが3である化合物にトリメチルシリルオキシナフチル基が1つ付加した化合物(M=944)
10.下記構造式(a)においてnが2である化合物にトリメチルシリルオキシナフチル基が2つ付加した化合物(M=1016)
11.前記3~10の各化合物にベンジル基が1つ又は2つ付加した化合物
【0087】
【化6】
(式中nは0又は1以上の整数、TMSはトリメチルシリル基である。)
【0088】
温度計、滴下ロート、冷却管、撹拌機を取り付けたフラスコに、窒素ガスパージを施しながら先で得たポリアリーレンエーテル樹脂中間体(b-5-1)169質量部、エピクロルヒドリン463質量部、n-ブタノール139質量部、テトラエチルベンジルアンモニウムクロライド2質量部を仕込み溶解させた。65℃に昇温した後、共沸する圧力まで減圧して、49%水酸化ナトリウム水溶液90質量部を5時間かけて滴下した。その後、同条件で0.5時間撹拌を続けた。この間、共沸によって留出してきた留出分をディーンスタークトラップで分離して、水層は除去し、有機層は反応系内に戻しながら反応を行った。その後、未反応のエピクロルヒドリンを減圧蒸留によって留去させた。得られた粗エポキシ樹脂にメチルイソブチルケトン432質量部とn-ブタノール130質量部とを加えて溶解した。更に10%水酸化ナトリウム水溶液10質量部を添加して80℃で2時間反応させた。ついで、洗浄水のpHが中性になるまで水150質量部を用いて水洗した。共沸させて系内を脱水し、精密濾過を経た後に、減圧条件下で乾燥させて、エポキシ樹脂(b-5)230質量部を得た。エポキシ樹脂(b-5)の軟化点は100℃、エポキシ当量は277g/当量であった。
【0089】
C-1:チョップドストランド(Eガラス、平均繊維長200μm、平均直径10μm、エポキシ系集束剤による表面処理品)