(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】固形物の回収方法および回収装置
(51)【国際特許分類】
C02F 11/121 20190101AFI20240604BHJP
B01D 33/06 20060101ALI20240604BHJP
B01D 21/00 20060101ALI20240604BHJP
B01D 21/02 20060101ALI20240604BHJP
B01D 21/24 20060101ALI20240604BHJP
B01D 21/30 20060101ALI20240604BHJP
C02F 1/04 20230101ALI20240604BHJP
C22B 3/22 20060101ALI20240604BHJP
C22B 23/00 20060101ALN20240604BHJP
【FI】
C02F11/121
B01D33/06 A ZAB
B01D33/06 B
B01D21/00 C
B01D21/02 N
B01D21/24 D
B01D21/24 F
B01D21/30 F
B01D21/30 H
C02F1/04 Z
C22B3/22
C22B23/00 102
(21)【出願番号】P 2020118024
(22)【出願日】2020-07-08
【審査請求日】2023-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 洋平
(72)【発明者】
【氏名】竹中 和己
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-006302(JP,A)
【文献】特開2014-101546(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 11/00-11/20
B01D 21/00-21/34
B01D 24/00-37/04
C02F 1/02- 1/18
C22B 1/00-61/00
C25C 1/00- 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理液を加熱濃縮して濃縮液を得る濃縮工程と、
前記濃縮液を冷却して固形物を析出させることにより、該固形物を含む第1のスラリーを得る冷却工程と、
第1のスラリーをろ過して、ろ液と前記固形物とに分離し、該固形物を回収するろ過工程と、および、
前記ろ液中に含まれる、ろ過漏れした残留固形物を、前
記濃縮工程よりも上流の工程に返送する返送工程と、
を備え
、
前記返送工程においては、前記ろ液を沈降槽に投入し、該ろ液中の前記残留固形物を前記沈降槽の底部に沈殿させ、該底部に沈殿した前記残留固形物を含む第2のスラリーを、前記濃縮工程よりも上流の工程に返送する、固形物の回収方法。
【請求項2】
前記ろ過工程においては、第1のスラリーのろ過のために、回転ドラム式真空ろ過器を使用する、
請求項
1に記載の固形物の回収方法。
【請求項3】
被処理液を加熱濃縮して濃縮液を得るための濃縮槽と、
前記濃縮槽から送られた前記濃縮液を冷却して固形物を析出させることにより、該固形物を含む第1のスラリーを得るための冷却結晶槽と、
第1のスラリーをろ過して、ろ液と前記固形物とに分離し、該固形物を回収するためのろ過器と、および、
前記ろ液中に含まれる、ろ過漏れした残留固形物を、前記濃縮
槽よりも上流に返送するための返送手段と、
を備え
、
前記返送手段は、
前記ろ液から前記残留固形物を沈殿させるための沈降槽と、
前記沈降槽から沈殿した前記残留固形物を含む第2のスラリーを底抜きして、前記濃縮槽よりも上流に返送するための戻り配管と、
を有する、固形物の回収装置。
【請求項4】
前記ろ過器は、回転ドラム式真空ろ過器により構成される、
請求項
3に記載の固形物の回収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理液から該被処理液に含まれる微細な固形物を回収するための固形物の回収方法および回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
銅の製錬法には、銅精鉱から酸などに銅を浸出する湿式法と、銅精鉱を熔融してアノードを作製し(熔錬工程)、得られたアノードから電解精製により電気銅を作製する(電解精製工程)、乾式法とが存在する。乾式法は、大規模生産が可能であり、コストが低いことから、特に硫化精鉱を中心に、銅製錬の主流となっている。
【0003】
乾式法について、より具体的に説明する。まず、熔錬工程において、銅精鉱を自溶炉で熔解してマットとし、得られたマットを転炉で酸化して粗銅とし、得られた粗銅を精製炉で精製して純度99%程度の精製粗銅を得て、この精製粗銅を鋳型に流し込んで、銅電解精製用のアノード(陽極板)を鋳造する。
【0004】
続く電解精製工程において、複数のアノードと、別に用意した複数のカソード(陰極板)とを、銅電解液が保持されている電解槽内に一定の間隔で交互に配置し、これらのアノードとカソードに通電する。これにより、アノードから電解液中に銅イオンが溶出し、この銅イオンがカソードに電着して、カソード上に銅品位が99.99%以上の電気銅が得られる。
【0005】
電解精製工程において、アノードから銅が、銅イオンとして電解液中に溶出すると同時に、アノードに含有されている、ヒ素、ビスマス、アンチモン、ニッケルなどの不純物も電解液に溶出する。電解液から銅イオンのみがカソードに電着し、高純度な電気銅が得られるが、不純物は電解液に残るため、その結果として、電解液の不純物濃度が上昇する。
【0006】
電解精製の進行に伴って電解液の不純物濃度が高くなると、不純物が銅とともに共析して、電気銅の銅品位を低下させる、電解液の配管にスケールを生じさせて操業を阻害する、および、電解液の電気伝導度を低下させて電力コストを増加させるなどの問題が生じる。
【0007】
このため、電解液の一部を浄液工程に送って、不純物を除去したうえで、電解槽へ再度供給することが行われている。浄液工程では、電解液を真空蒸発して濃縮し、急冷することで過飽和となった銅を粗硫酸銅として析出させて除去する、濃縮および冷却工程、次いで、粗硫酸銅を回収した後のろ液である粗母液から、残留した銅、ヒ素、ビスマス、アンチモンをカソード上に析出させるなどして除去する、脱銅電解工程(脱砒電解工程)、さらに、脱銅後の含ニッケル溶液である脱銅終液から、ニッケルを粗硫酸ニッケルとして分離回収する、脱ニッケル工程などが行われる。
【0008】
脱ニッケル工程では、脱銅終液をニッケル濃縮槽に給液し、このニッケル濃縮槽において脱銅終液に黒鉛電極を浸漬して通電し、この脱銅終液をジュール熱により加熱濃縮する(蒸発させる)。次に、加熱濃縮された濃縮液を、冷却結晶槽に送り、冷却による溶解度の減少により、この濃縮液から粗硫酸ニッケルを析出させる。さらに、析出した粗硫酸ニッケルを含むスラリーを、冷却結晶槽ポンプによりろ過器に送り、ろ過により粗硫酸ニッケルを固形物として回収し、かつ、ろ液を真空ポンプにより吸引して、レシーバタンクに溜め、適宜払い出している。
【0009】
このように、粗硫酸ニッケルの回収工程のみならず、一般的に溶解度の差を用いて固形化して固形物となった対象物を回収する工程では、加熱濃縮された濃縮液を、冷却結晶槽に送り、濃縮とその後の冷却による溶解度の減少により固形物を析出させ、この固形物が析出したスラリーを、ろ過工程に供給する。ろ過工程では、ろ布、ろ紙、メッシュスクリーンなどのろ材によって、スラリーを固形物(析出物)とろ液に分離する。特に、真空ろ過などの吸引ろ過では、ろ材よりろ液側を減圧することによってろ液を吸引することにより、分離を速やかに行うことが可能である。吸引したろ液は、レシーバタンクに溜め、適宜払い出している。
【0010】
払い出されるろ液には、溶解度により溶解状態にある対象物と、ろ過器からろ過漏れした微細な固形物と(脱ニッケル工程においてはそれぞれ、溶液中に溶解した硫酸ニッケルおよび微細な粗硫酸ニッケル)が含有されており、これらは、回収ロスの原因となっている。
【0011】
ろ過漏れを低減するために、ろ材の目を細かくする方法が考えられるが、この方法ではろ過速度が低下するため、ろ過器の能力に余裕がない場合には、ろ液および固形物の生産量が低下するという問題が生ずる。
【0012】
特開2020-6302号公報には、ろ過漏れした微細な固形物を含有するろ液を、沈降槽で沈降分離させ、該沈降槽の底部に沈殿している固形物を底抜きし、冷却結晶槽に返送し粒成長させてから、再びろ過することにより、固形物の回収率を向上させる方法が開示されている。特開2020-6302号公報に記載の方法によれば、固形物を回収した後のろ液の一部を、レシーバタンクから冷却結晶槽に直接返送する場合に比べて、冷却結晶槽で処理すべき液体の量を少なく抑えられ、主として微細な固形物を、系内循環により効果的に回収することができて、原料液からの固形物の回収率を飛躍的に向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
沈降槽から底抜きされた微細な固形物を含有するスラリーは、冷却結晶槽に一度供されており、さらに冷却することは難しい。したがって、沈降槽から底抜きされたスラリーを冷却結晶槽に返送して滞留させた場合でも、スラリーに含まれる微細な固形物の結晶粒径の成長や、スラリー中に溶解している固形物の新たな析出は、あまり期待できない。このため、冷却結晶槽から抜き出したスラリーをろ過器によりろ過した場合に、微細な固形物が結晶粒径をほとんど成長させることなく、ほぼそのままの大きさでろ材に供給されてしまい、ろ材の目詰まりが発生しやすくなる。ろ材の目詰まりが発生した場合には、ろ材の洗浄や交換が必要となり、固形物の回収コストが増大してしまう。
【0015】
本発明の目的は、上述のような事情を鑑み、ろ材の目詰まりを防止して、固形物の回収コストを低減することができる、固形物の回収方法および回収装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、前記課題を解決するために種々検討した結果、ろ過漏れした微細な固形物を、冷却結晶槽よりも上流の工程に返送することで、微細な固形物が、結晶粒径をほとんど成長させることなく、ほぼそのままの大きさでろ材に供給されることを防止できて、ろ材の目詰まりを発生しづらくすることができるとの知見を得た。本発明は、このような知見に基づいて完成したものである。
【0017】
本発明の固形物の回収方法は、
被処理液を加熱濃縮して濃縮液を得る濃縮工程と、
前記濃縮液を冷却して固形物を析出させることにより、該固形物を含む第1のスラリーを得る冷却工程と、
第1のスラリーをろ過して、ろ液と前記固形物とに分離し、該固形物を回収するろ過工程と、および、
前記ろ液中に含まれる、ろ過漏れした残留固形物を、前記濃縮工程または該濃縮工程よりも上流の工程に返送する返送工程と、
を備える。
【0018】
前記返送工程では、前記ろ液を沈降槽に投入し、該ろ液中の前記残留固形物を前記沈降槽の底部に沈殿させ、該底部に沈殿した前記残留固形物を含む第2のスラリーを、前記濃縮工程または該濃縮工程よりも上流の工程に返送することができる。
【0019】
前記ろ過工程では、第1のスラリーのろ過のために、ろ材として、円筒形状を有するいわゆるオリバーフィルタを用いる、回転ドラム式真空ろ過器を使用することができる。
【0020】
本発明の固形物の回収装置は、
被処理液を加熱濃縮して濃縮液を得るための濃縮槽と、
前記濃縮槽から送られた前記濃縮液を冷却して固形物を析出させることにより、該固形物を含む第1のスラリーを得るための冷却結晶槽と、
第1のスラリーをろ過して、ろ液と前記固形物とに分離し、該固形物を回収するためのろ過器と、および、
前記ろ液中に含まれる、ろ過漏れした残留固形物を、前記濃縮槽または前記濃縮槽よりも上流に返送するための返送手段と、
を備える。
【0021】
前記返送手段は、
前記ろ液から前記残留固形物を沈殿させるための沈降槽と、
前記沈降槽から沈殿した前記残留固形物を底抜きして、前記濃縮槽または前記濃縮層よりも上流に返送するための戻り配管と、
を有することができる。
【0022】
前記ろ過器として、回転ドラム式真空ろ過器を用いることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の固形物の回収方法および回収装置によれば、ろ材の目詰まりを防止することができて、ろ材の洗浄や交換の頻度を少なく抑えられ、固形物の回収コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、原料液から固形物を回収する装置の全体構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、銅の電解精製のための浄液工程で生じる脱銅終液からニッケルを粗硫酸ニッケルとして分離回収する脱ニッケル工程など、被処理液から固形物を回収する工程に関する。被処理液から固形物を回収するための回収装置は、
図1に示すように、基本的に、原料液
(被処理液)1を加熱濃縮して濃縮液2を得るための濃縮槽3と、濃縮槽3から送られた濃縮液2を冷却し固形物(粗硫酸ニッケル)4を析出させることにより、固形物4を含む第1のスラリー5aを得るための冷却結晶槽6と、第1のスラリー5aをろ過して固形物4を回収するためのろ過器7と、固形物4を回収した後のろ
液8を沈降分離して、該
ろ液8中に残留する微細な残留固形物4aを沈殿させるための沈降槽9と、沈降槽9から沈殿した残留固形物4aを含む第2のスラリー5bを、濃縮槽3に返送するための戻り配管10とを備える。
【0026】
濃縮槽3には、原料液1の沸点以上の温度で原料液1を加熱可能であれば、任意の濃縮槽を適用することができる。たとえば、電気蒸発槽が適用可能である。電気蒸発槽は、槽内に、通電可能で、かつ、被処理液に浸漬される黒鉛電極棒が挿入配置されており、この黒鉛電極棒を介して、原料液1に通電し、原料液1をジュール熱により加熱して水分を蒸発させて、濃縮液2を得る。加熱温度は、被処理液の種類に応じるが、脱銅終液の場合は、約150℃~200℃の範囲にある温度とすることが好ましい。濃縮槽3としては、その他、重油バーナを用いて、原料液1を直接あるいは槽の周囲から間接的に加熱可能な構造も採り得る。
【0027】
冷却結晶槽6についても、濃縮液2に含まれる溶質の種類に応じて、固形物4が十分に析出する温度、たとえば粗硫酸ニッケルの回収の場合には約50℃まで、濃縮液2を冷却可能な任意の構造を採り得る。たとえば、槽の周囲あるいは槽内にジャケットや蛇管を設置して、これらに冷媒を通す構造が、冷却結晶槽6に適用可能である。
【0028】
本例では、ろ過器7には、脱銅終液中の粗硫酸ニッケルを回収するため、円筒形状を有するいわゆるオリバーフィルタをろ材として用いる、回転ドラム式真空ろ過器が適用されている。ただし、ろ過器7について、自然ろ過、減圧ろ過、加圧ろ過、遠心ろ過などを用いたろ過器を用いても良く、ろ過器7に用いられるろ材として、ろ布、ろ紙、メッシュスクリーンなどを用いても良い。具体的には、ろ過器7としては、たとえば、真空ろ過器、遠心分離機、遠心沈降機などを用いることができる。
【0029】
本例では、回転ドラム式真空ろ過器により構成されるろ過器7において粗硫酸ニッケルなどの固形物4が回収され、固形物4を回収した後のろ液であるろ液8は、真空ポンプにより吸引され、必要に応じてレシーバタンク11を介して、沈降槽9に投入される。沈降槽9では、ろ液8を十分な時間保持することで、微細な残留固形物4aを沈殿させる。そして、残留固形物4aの沈殿により生じた上澄み12のみを系外に一旦払い出し、電解液に添加して酸濃度の調整などに使用し、かつ、沈殿した残留固形物4aを含む第2のスラリー5bを、沈降槽9の底部13から底抜きする。
【0030】
ろ液8中に、比較的結晶粒径が大きい残留固形物4aの粒子が含まれている場合、該粒子が、沈降槽9に到達する前にレシーバタンク11内で沈殿することもある。そこで、残留固形物4aの粒子のほぼ全量を沈降槽9に送ることができるように、レシーバタンク11の出口配管の位置やレシーバタンク11でのろ液8の滞留時間を調整することが好ましい。
【0031】
沈降槽9の全体的な形状および大きさは、基本的には沈降させる対象物の粒子の大きさなどに応じた滞留時間を確保できれば良い。具体的には、沈降槽9の形状および大きさを、ろ過器7のろ材の目開きと同径の粒子の沈降時間以上の滞留時間を確保できる形状および大きさとする。沈降槽9の底部13は、第2のスラリー5bを底抜きするためのアウトレットに向けて下傾しており、下方に向かうほど狭まる形状であることが好ましい。具体的には、沈降槽9の上部の形状が円筒形である場合には、底部13の形状は、コーン型(円錐)もしくは臼状の形状を有することができる。
【0032】
ろ液8を十分な時間保持して残留固形物4aを沈殿させるために、沈降槽9は、ろ液8の受け入れ後、あるいは、残留固形物4aの底抜きおよび上澄み12の抜き出しの前に、ろ液8の沈降分離のみを行う待機時間を設ける機能を有する。具体的には、沈降槽9は、ろ液8が投入されてから15分以上、好ましくは20分以上保持する(滞留させる)機能を有する。
【0033】
なお、沈降槽9によりろ液8を保持している(滞留させている)間は、レシーバタンク11からの沈降槽9へのろ液8の供給を停止し、必要に応じて上流の工程を一時停止するか、あるいは、ろ液8を他の槽(レシーバタンク11若しくは別の沈降槽9)に供給する。ろ液8の保持時間は50分以下、好ましくは40分以下とすることが望ましい。
【0034】
沈降槽9は、
ろ液8を十分な時間保持して、残留固形物4aを十分量沈殿させる機能が確保できる限り、沈降槽9は1基設置すれば十分である。ただし、十分な保持時間を確保するには、沈降槽9を2基以上設置することが有効である。たとえば、
図1に示すように沈降槽9を2基設けて、第1の工程として、このうちの1基で
ろ液8の受け入れを行い、別の1基で残留固形物4aの沈殿および底抜き、並びに、上澄み12の抜き出しを行い、第2の工程として、第1の工程において
ろ液8の受け入れを行っていた1基が担当する作業を残留固形物4aの沈殿および底抜き、並びに、上澄み12の抜き出しに切り替えて、これらを行い、第1の工程において残留固形物4aの沈殿および底抜き、並びに、上澄み12の抜き出しを行っていた別の1基では、これらの代わりに
ろ液8の受け入れを行うようにして、第1の工程と第2の工程とをそれぞれ交互に行うことが好ましい。これにより、
ろ液8の受け入れ後、あるいは、残留固形物4aの底抜きおよび上澄み12の抜き出しの前に、
ろ液8の沈降分離のみを行う待機時間を十分に設けることが可能となり、残留固形物4aの沈降および底抜きの時間的な区別が確実になされる。なお、沈降槽9を2基以上設ける場合には、三方弁を沈降槽9の上流に配置することで、沈降槽9のそれぞれに
ろ液8を振り分けることができるが、沈降槽9のそれぞれに
ろ液8を振り分ける機構および方法はこの態様に限らない。
【0035】
戻り配管10は、沈降槽9の底部13から底抜きされた第2のスラリー5bを、濃縮槽3に返送する。本例では、戻り配管10は、ポンプ14を有する。すなわち、ポンプ14の吸入口により、沈降槽9の底部13から第2のスラリー5bを底抜きして吸い込み、かつ、ポンプ14の吐出口から吐出することで、第2のスラリー5bを濃縮槽3に返送する。本例では、沈降槽9と戻り配管10とにより、返送手段が構成される。
【0036】
本例の回収装置を使用して、原料液1から固形物4を回収する方法について説明する。
【0037】
まず、電解精製工程から送られてきた原料液1を濃縮槽3に所定量供給し、加熱濃縮して濃縮液2を得る。次いで、濃縮液2を冷却結晶槽6に供給し、所定温度まで冷却して、固形物4を析出させる。次に、析出した固形物4を含む第1のスラリー5aを、冷却結晶槽6から抜き出してろ過器7に送り、第1のスラリー5aをろ過して、ろ液であるろ液8と固形物4とに分離し、ろ材上に残った固形物4を回収する。
【0038】
ろ過漏れした微細な残留固形物4aを含むろ液8は、レシーバタンク11を介して、沈降槽9に供給される。沈降槽9において、ろ液8を所定時間保持し、残留固形物4aを沈殿させる。残留固形物4aの沈殿により生じた上澄み12は、系外に一旦払い出され、電解液の酸濃度調整などに使用される。一方、沈殿した残留固形物4aを含む第2のスラリー5bは、沈降槽9の底部13から底抜きされ、戻り配管10を通じて濃縮槽3に返送される。
【0039】
濃縮槽3に返送された第2のスラリー5bは、電解精製工程から送られてきた原料液1と混合された後、加熱濃縮され、得られた濃縮液2が冷却結晶槽6に送られる。冷却結晶槽6では、冷却による溶解度の減少などに基づいて、濃縮液2からの固形物4の析出と、固形物4の結晶粒径の成長が起こる。そして、結晶粒径が十分に大きくなった固形物4を含む第1のスラリー5aを、冷却結晶槽6から底抜きし、ろ過器7に供給する。
【0040】
本例によれば、特開2020-6302号公報に記載の方法と同様の原理により、原料液1からの固形物4の回収率を向上させることができる。すなわち、本例では、沈降槽9において、ろ液8を所定時間保持し、微細な残留固形物4aを沈殿させてから、該残留固形物4aを含む第2のスラリー5bを上流工程に返送するようにしている。このため、ろ液8の一部を、レシーバタンク11から上流工程に直接返送する場合に比べて、上流工程において処理すべき液体の量を少なく抑えられ、残留固形物4aをより効果的に回収することができる。
【0041】
特に本例では、微細な残留固形物4aを含む第2のスラリー5bの返送先を濃縮槽3にしている。このため、系内循環する微細な残留固形物4aを成長させることができ、ろ過器7のろ材の目詰まりを発生しづらくすることができる。この結果、ろ材の洗浄や交換の頻度を低く抑えることができ、固形物4の回収効率を向上させ、該固形物4の回収コストを低減することができる。
【0042】
なお、本例では、沈降槽9の底部13から底抜きされた第2のスラリー5bを、濃縮槽3に返送しているが、本発明を実施する場合、第2のスラリーを、濃縮槽3よりも上流の工程に返送することもできる。具体的には、例えば、濃縮槽よりも上流に、電解精製工程から送られてきた原料液と第2のスラリーとを混合するための混合槽を設け、該混合槽に第2のスラリーを返送するように構成することもできる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の効果を確認するために行った試験について説明する。なお、下記の実施例では、
図1に示すような装置を使用して、銅の電解精製において生じる脱銅終液から粗硫酸ニッケルを回収した。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例)
銅の電解精製において生じた脱銅終液(銅:0g/L、ニッケル:30g/L~40g/L)を濃縮槽3に供給し、濃縮槽3内の脱銅終液を、黒鉛電極のジュール熱により、150℃~170℃までに加熱して、脱銅終液から水分を蒸発させることで、濃縮液2を得た。
【0045】
濃縮槽3からオーバーフローにより濃縮液2を冷却結晶槽6に払い出し、濃縮液2を、冷却結晶槽6において液温が50℃になるまで冷却した。なお、冷却は、冷却結晶槽6内に設けた蛇管に工業用水を流入させることで行った。
【0046】
生成された粗硫酸ニッケルを含む第1のスラリー5aを、ろ材としてポリプロピレンろ布を装着したオリバーフィルタ(ドラム径:1m、ドラム幅:0.4m)を備えたろ過器7に供給してろ過し、ろ液であるろ液8と固形物4とに分離した。試験操業開始直後のろ過器7の処理液量は、35L/minであった。
【0047】
ろ液8を、沈降槽9において、30分保持することで、残留固形物4aを沈殿させ、沈殿した残留固形物4aを含む第2のスラリー5bを、沈降槽9の底部13から底抜きし、戻り配管10を通じて濃縮槽3に返送した。
【0048】
操業開始から1か月経過した後のろ過器7の処理液量は、30L/minであり、2か月経過した後に、20L/minまで低下したため、ろ材を交換した。
【0049】
(比較例)
残留固形物4aを含む第2のスラリー5bを、冷却結晶槽6に返送したこと以外は、実施例と同様にして、試験操業を行った。ろ過器7の処理液量は、操業開始から1か月で、35L/minから20L/minまで低下したため、ろ材を交換した。
【0050】
実施例と比較例の比較から明らかなとおり、脱ニッケル工程において、ろ過漏れした微細な粗硫酸ニッケルを含むスラリーの返却先を、冷却結晶槽ではなく、その上流に配置された濃縮槽にすることで、ろ材の交換頻度を半分程度まで削減することができる。これにより、ろ材の交換にかかるコストを削減できて、粗硫酸ニッケルの回収コストを低減することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 原料液(脱銅終液)
2 濃縮液
3 濃縮槽
4 固形物(粗硫酸ニッケル)
4a 残留固形物
5a 第1のスラリー
5b 第2のスラリー
6 冷却結晶槽
7 ろ過器
8 ろ液
9 沈降槽
10 戻り配管
11 レシーバタンク
12 上澄み
13 底部
14 ポンプ