(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】水質測定装置及び水質測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/18 20060101AFI20240604BHJP
G01N 27/06 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
G01N33/18 106C
G01N27/06 Z
G01N33/18 106E
(21)【出願番号】P 2020130611
(22)【出願日】2020-07-31
【審査請求日】2023-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】長尾 信明
(72)【発明者】
【氏名】平野 雄隆
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-292390(JP,A)
【文献】特開2006-322793(JP,A)
【文献】米国特許第09903793(US,B1)
【文献】特開2008-241400(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/18
G01N 27/00-27/10
27/14-27/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象水と接するセンサ本体を有する水質センサを備えた水質測定装置において、
該センサ本体を囲んでおり、該センサ本体との間にスペースを形成するカバーと、
該スペースをカバー外に連通するように該カバーに設けられた開口と、
該スペースに清水を供給する清水供給手段と、
該スペースに空気を供給する空気供給手段と、
該スペースに洗浄薬液を供給する薬液供給手段と、
該スペース内を大気に連通させるための大気連通手段と
を備えてなる水質測定装置
であって、
前記センサ本体はロッド状であり、その先端側に検出部が設けられており、
前記カバーは筒状であり、
前記センサ本体の先端側に位置するカバー先端側に前記開口が設けられ、
カバー基端側に空気又は液体供給用の基端側ノズルが設けられ、
カバー先端側に空気供給用の先端側ノズルが設けられており、
前記センサはpH計であり、
前記スペースに清水を導入した後、規定pHにまで復帰する時間が所定時間超の場合に薬液供給手段を作動させて薬液洗浄を行う演算制御器を有することを特徴とする水質測定装置。
【請求項2】
前記開口にチューブが接続されていることを特徴とする請求項
1に記載の水質測定装置。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の水質測定装置を用いた水質測定方法であって、前記薬液供給手段によって前記スペースに薬液を供給し、センサ本体を薬液洗浄する工程を有する水質測定方法。
【請求項4】
前記センサ本体による計測を間欠的に行い、計測工程間では前記スペース内を清水で満たしておくことを特徴とする請求項
3に記載の水質測定方法。
【請求項5】
1回の計測毎に、前記スペース内に空気と清水を供給して気液混相流により前記センサ本体をバブリング洗浄することを特徴とする請求項
3又は
4に記載の水質測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、pH計、伝導率計などの水質センサを用いた水質測定装置及び水質測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
凝集制御において、凝集反応槽におけるpHを一定の範囲に制御することは重要であり、一般にはアルカリ性薬品と酸性薬品を投入することで最適範囲に制御を行う。無機凝集剤としては酸性薬品である塩化第二鉄(塩鉄)などを用いることが多く、またpH調整には水酸化ナトリウムを用いることが多い。
【0003】
計測を継続していると、pH電極表面に水中の懸濁物質や微生物、あるいは水酸化鉄や酸化鉄などが付着し、測定精度や応答性が徐々に低下する。そのため、定期的に電極を取り出して電極表面に付着した汚染物を薬品によって除去する洗浄作業が行われる。具体的には、例えば、電極を凝集反応槽から取り出し、一定時間薬品に浸漬した後に電極を清水で洗浄した後、凝集反応槽に再設置する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、水質センサを取り外すことなく洗浄することができる水質測定装置及び水質測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の水質測定装置は、測定対象水と接するセンサ本体を有する水質センサを備えた水質測定装置において、該センサ本体を囲んでおり、該センサ本体との間にスペースを形成するカバーと、該スペースをカバー外に連通するように該カバーに設けられた開口と、該スペースに清水を供給する清水供給手段と、該スペースに空気を供給する空気供給手段と、該スペースに洗浄薬液を供給する薬液供給手段と、該スペース内を大気に連通させるための大気連通手段とを備える。
【0007】
本発明の水質測定装置の一態様では、前記センサ本体はロッド状であり、その先端側に検出部が設けられており、前記カバーは筒状であり、前記センサ本体の先端側に位置するカバー先端側に前記開口が設けられ、カバー基端側に空気又は液体供給用の基端側ノズルが設けられ、カバー先端側に空気供給用の先端側ノズルが設けられている。
【0008】
本発明の水質測定装置の一態様では、前記開口にチューブが接続されている。
【0009】
本発明の水質の測定方法は、かかる本発明の水質測定装置を用いた水質測定方法であって、前記薬液供給手段によって前記スペースに薬液を供給し、センサ本体を薬液洗浄する工程を有する。
【0010】
本発明の水質測定方法の一態様では、前記センサ本体による計測を間欠的に行い、計測工程間では前記スペース内を清水で満たしておく。
【0011】
本発明の水質測定方法の一態様では、1回の計測毎に、前記スペース内に空気と清水を供給して気液混相流により前記センサ本体をバブリング洗浄する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様では、水質測定時には、まず前記該スペースに空気を供給する。これにより、該スペース内から清水が排出される。その後、空気の供給を停止し、該スペース内を大気に連通させる。そうすると、測定対象水がカバーの開口を通ってスペース内に流入する。そこで、このスペース内の水の水質を測定することにより、測定対象水の水質が測定される。測定終了後は、空気及び清水を供給して気液混相流にてセンサ本体を洗浄する。センサ本体の出力特性が低下した場合には、薬液をスペースに流入させて薬液洗浄を行う。
【0013】
本発明の一態様では、非測定時にはセンサ本体とカバーとの間のスペースを清水で満たしておくことにより、スペース内に汚泥が溜ったりセンサ本体にスライム等が付着することが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施の形態に係る水質測定装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
【0016】
pH計又は電気伝導率計よりなるセンサ1は、
図1の通り、測定対象水と接するロッド状のセンサ本体(この実施の形態ではプローブ)1aと、センサ本体1aの基端側が連なっているセンサベース1cと、該センサ本体1aを囲む筒形状のカバー1bとを有している。カバー1bとセンサ本体1aとの間にはスペースSが存在する。カバー1bの基端側(使用状態では、上端側)は、センサ本体1aよりも大径のセンサベース1cに水密的に固着されている。
【0017】
カバー1bの先端面には、センサ本体1aの先端面と対峙するようにして開口2が設けられている。開口2の開口径は、カバー1bの内径よりも小さい。pH計や伝導率計の場合、開口2の直径は2~12mm特に3~6mm程度が好適である。
【0018】
カバー1bの基端側には、スペースS内に空気又は液体を供給するための基端側ノズル10が設けられている。基端側ノズル10の後端は、カバー1b外に突出しており、該後端に配管11を介して洗浄薬液供給配管12、清水供給配管13、圧縮空気供給配管14及び大気連通配管15が接続されている。各配管11~15は、合成樹脂等の硬質パイプであってもよく、軟質チューブであってもよい。各配管12~15の途中に電磁弁12a~15aが設けられている。配管12に逆止弁が設けられてもよい。
【0019】
カバー1bの先端側の側面部に、カバー1b内に空気を吹き込むための先端側ノズル20が設置されている。先端側ノズル20に圧縮空気供給配管21が接続されている。空気供給配管21の途中に電磁弁21aが設けられている。各電磁弁12a~15a、21aは、演算制御器(図示略)によって制御される。電磁弁の代わりに手動弁が設けられてもよい。
【0020】
センサ1の計測信号は、この演算制御器に入力される。演算制御器は、計測信号に基づいて、計測出力データを演算して出力する演算出力部と、電磁弁12a~15a、21aの開閉を制御する電磁弁制御部等を備えている。演算制御器は、マイクロプロセッサを備えており、プログラムに従って後述の一連の動作を行う。
【0021】
なお、清水としては、水道水、蒸留水、脱イオン水、純水、超純水などが用いられるが、これに限定されない。
【0022】
洗浄薬液としては、センサ本体1aの付着物を除去する性質を有したものが用いられる。付着物が水酸化鉄や酸化鉄を主体としたものである場合、薬液としては塩酸などの酸水溶液(例えば、9%塩酸)が好適であるが、これに限定されない。
【0023】
圧縮空気源としては、コンプレッサ、ブロワ、空気ボンベ等が好適である。大気連通配管15の末端は大気に開放している。
【0024】
このセンサ1は、通常のpH計、伝導率計と同様に、センサ本体1aが槽内や配管内等の測定対象水と接するように設置されて使用される。
【0025】
[計測工程]
このセンサ1を備えた水質測定装置によって測定対象水(この実施の形態では凝集反応槽などの槽内水)の水質測定を行うには、電磁弁14aを開、その他の電磁弁を閉とすることにより基端側ノズル10からスペースS内に圧縮空気を導入し、スペースS内の水を開口2から押し出す。すなわち、電磁弁14aを開、その他の電磁弁を閉としてスペースSに圧縮空気を供給すると、スペースS内の水が開口2から流出し、スペースS内が空気で充満される。
【0026】
その後、電磁弁15aを開、その他の電磁弁を閉としてスペースS内に測定対象水を流入させて計測工程を行う。すなわち、電磁弁15aを開とし、スペースS内を大気に連通させると、開口2から測定対象水がスペースS内に流入し、センサ本体1aにより計測が行われる。
【0027】
このようにスペースS内の水を空気で押し出した後、スペースS内を大気に連通させることにより、スペースS内に測定対象水が速やかに流入し、スペースS内が測定対象水で速やかに満たされ、計測が行われる。
【0028】
[バブリング洗浄工程]
計測終了後、電磁弁13a,21aを開とし、その他の電磁弁を閉とする。これにより、基端側ノズル10からスペースSに清水が連続的に供給されると共に、先端側ノズル20からスペースSに空気が吹き込まれ、センサ本体1aの先端側がバブリング洗浄(気液混相流洗浄)される。洗浄排水は開口2から流出する。
【0029】
規定時間この気液混相流洗浄を行った後、電磁弁13aは開としたまま、電磁弁21aを閉とし、清水のみをスペースSに流通させる。これにより、スペースS内が清水でリンスされるとともに、スペースS内の気泡が清水の流れに伴って開口2から流出し、スペースS内が清水のみとなる。
【0030】
上記の気液混相流洗浄及びその後の清水流通よりなる1セットのバブリング洗浄を必要に応じ複数回、繰り返し行ってもよい。
【0031】
上記1セット又は複数セットのバブリング洗浄を行った後、電磁弁13aも閉とし、次回の計測工程まで待機するか、又は直ちに次回の計測工程を開始する。なお、待機工程を設けると、センサ本体1aが測定対象水と接触する頻度ないし時間が減少し、センサ本体1aの汚染が抑制される。
【0032】
[薬液洗浄]
定期的に、又は汚れ除去不十分現象が生じたときに、センサ本体1aを薬液で洗浄する。
【0033】
なお、この汚れ除去不十分現象は、上記のバブリング洗浄における気液混相流洗浄後の清水流通工程でのセンサ本体1aの出力変化から検知することができる。例えば、センサ本体1aがpH計の場合、清水流通工程を開始すると、センサ本体1aの出力は清水のpH(通常は約7)にまで復帰するが、この復帰に要する時間が規定時間よりも長い場合、あるいは所定時間が経過しても規定pH(例えば6.5)に達しないときには、汚れ除去不十分現象が生じたものと判断し、薬液洗浄を行う。
【0034】
薬液洗浄を行うには、電磁弁12aを開、その他の電磁弁を閉とし、スペースSに薬液を導入してスペースSを薬液で満たした後、電磁弁12aを閉とし、所定時間この状態(センサ本体1aの浸漬洗浄状態)に保つ。
該所定時間が経過した後、スペースSから薬液(洗浄廃薬液)を排出する。
【0035】
スペースSから薬液を排出するには、まず、電磁弁14aを開、その他の電磁弁を閉とし、空気押出によりスペースSから開口2を介して薬液を排出する。次いで、電磁弁15aを開、その他の電磁弁を閉とし、スペースS内に槽内水を開口2から流入させた後、電磁弁13aを開、その他の電磁弁を閉とし、スペースSに清水を流し、スペースS内の水を開口2から押し出し、スペースS内を清水で満たす。その後、電磁弁13aも閉とし、待機工程に移るか、又は、計測時期になっていたときには、計測工程に移る。
【0036】
このように薬液の浸漬洗浄後に薬液を押し出すに際して、まず空気押出しを行い、次いで槽内水を流入させ、その後、清水を流通させるのは、空気により薬液を押出し、残留空気を槽内水で排出し、その後、スペースS内の槽内水を清水に置換するためである。ただし、空気押出し後、直ちに清水を流通させてもよく、空気押出しせずに直ちに清水を流通させてもよい。
【0037】
上記実施の形態では、各電磁弁の開閉をすべて演算制御器が行っているので、センサのメンテナンス作業の労力が著しく軽減される。ただし、一部又はすべての操作を人手によって行ってもよい。この場合でも、センサ1を槽や配管から取り外すことが不要であり、メンテナンス作業が容易である。
【0038】
上記実施の形態では、開口2が槽内(又は配管内)に直接に臨む構成となっているが、本発明では、開口2にチューブを接続してもよい。
【0039】
開口2が槽内に直接に臨んでいると、開口2からスペースS内の清水に槽内水が混入する恐れがある。例えば、スペースSを清水でリンスする際にスペースS内に空気が残り、リンスを停止することで空気が収縮してその分スペースS内に槽内水が入ってくるおそれがある。開口2にチューブを接続することで槽内水がスペースS内にまで入り込んでくることが防止される。スペースSに槽内水が入ったとしても、スペースS内の清水で希釈されるために影響は少ないが、槽内水の濃度が高い場合にはチューブを接続することによるメリットが大きい。pH計又は伝導率計の場合、チューブの内積はSの大きさの50%程度であることが望ましく、チューブの長さは×200~500mm特に300~400mm程度が好適であり、内径は4~12mm特に6~10mm程度が好適である。これは、挿入する計測槽の水深や、他の槽内設備(攪拌羽根 等)との関係により設定することが望ましい。
【0040】
本発明の水質測定装置は、凝集反応槽などの各種排水処理設備や、純水製造装置等に好適に用いることができるが、これら以外の用途にも用いることができる。
【0041】
上記実施の形態は本発明の一例であり、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。本発明は、pHや電気伝導率以外の水質測定にも適用することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 センサ
1a センサ本体
1b カバー
2 開口
10 基端側ノズル
20 先端側ノズル
12a~15a,21a 電磁弁