(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】物性値推定システムおよび物性値推定方法
(51)【国際特許分類】
G06F 30/10 20200101AFI20240604BHJP
G06F 30/27 20200101ALI20240604BHJP
【FI】
G06F30/10
G06F30/27
(21)【出願番号】P 2020199356
(22)【出願日】2020-12-01
【審査請求日】2023-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河村 知可子
(72)【発明者】
【氏名】社内 大介
(72)【発明者】
【氏名】谷 毅彦
【審査官】合田 幸裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-077257(JP,A)
【文献】特開2020-149423(JP,A)
【文献】特開2014-076701(JP,A)
【文献】特開2018-147460(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108536956(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/10
G06F 30/27
G16C 20/00-60/00
IEEE Xplore
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種類の組成物から構成される材料の配合割合と前記配合割合に対応する物性値とを関係付けた既知データを入力するように構成された既知データ入力部と、
予め設定される複数のレベルの中から前記物性値が属するレベルを前記既知データに付加して前記配合割合と前記物性値と前記レベルとを関係付けたレベルデータを生成するように構成されたレベルデータ生成部と、
前記レベルデータに基づいて、物性値との対応が未知の第1配合割合を入力すると前記第1配合割合に対応する物性値が属するレベルを出力するレベル用近似関数を生成するように構成されたレベル用近似関数生成部と、
前記第1配合割合を入力するように構成された配合割合入力部と、
前記第1配合割合と前記レベル用近似関数とに基づいて、前記第1配合割合に対応するレベルを推定するように構成されたレベル推定部と、
を備える、物性値推定システム。
【請求項2】
請求項1に記載の物性値推定システムにおいて、
前記レベル用近似関数生成部は、前記レベルデータを教師データとして、入力を配合割合とするとともに出力をレベルとするニューラルネットワークを学習させることにより、前記レベル用近似関数を生成するように構成されている、物性値推定システム。
【請求項3】
請求項1に記載の物性値推定システムにおいて、
前記複数のレベルは、しきい値に基づいて設定される、物性値推定システム。
【請求項4】
請求項1に記載の物性値推定システムにおいて、
前記物性値推定システムは、
前記複数のレベルのそれぞれに属するレベルデータに基づいて、前記第1配合割合を入力すると前記第1配合割合に対応する物性値を出力する物性値用近似関数を前記複数のレベルのそれぞれごとに生成するように構成された物性値用近似関数生成部と、
前記レベル推定部で推定されたレベルでの物性値用近似関数に基づいて、前記第1配合割合に対応する物性値を推定するように構成された物性値推定部と、
前記物性値推定部で推定された物性値を出力するように構成された物性値出力部と、
を有する、物性値推定システム。
【請求項5】
請求項4に記載の物性値推定システムにおいて、
前記物性値用近似関数生成部は、前記複数のレベルのそれぞれに属するレベルデータを教師データとして、入力を配合割合とするとともに出力を物性値とするニューラルネットワークを学習させることにより、前記複数のレベルのそれぞれごとに前記物性値用近似関数を生成するように構成されている、物性値推定システム。
【請求項6】
複数種類の組成物から構成される材料の配合割合と前記配合割合に対応する物性値とを関係付けた既知データを入力する既知データ入力工程と、
予め設定される複数のレベルの中から前記物性値が属するレベルを前記既知データに付加して前記配合割合と前記物性値と前記レベルとを関係付けたレベルデータを生成するレベルデータ生成工程と、
前記レベルデータに基づいて、物性値との対応が未知の第1配合割合を入力すると前記第1配合割合に対応する物性値が属するレベルを出力するレベル用近似関数を生成するレベル用近似関数生成工程と、
前記第1配合割合を入力する配合割合入力工程と、
前記第1配合割合と前記レベル用近似関数とに基づいて、前記第1配合割合に対応するレベルを推定するレベル推定工程と、
を備える、物性値推定方法。
【請求項7】
請求項6に記載の物性値推定方法において、
前記物性値推定方法は、
前記複数のレベルのそれぞれに属するレベルデータに基づいて、前記第1配合割合を入力すると前記第1配合割合に対応する物性値を出力する物性値用近似関数を前記複数のレベルのそれぞれごとに生成する物性値用近似関数生成工程と、
前記レベル推定工程で推定されたレベルでの物性値用近似関数に基づいて、前記第1配合割合に対応する物性値を推定する物性値推定工程と、
前記物性値推定工程で推定された物性値を出力する物性値出力工程と、
を有する、物性値推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物性値推定システムおよび物性値推定方法に関し、例えば、樹脂複合材料の配合割合に応じた物性値を推定する技術に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2020-77257号公報(特許文献1)には、人工知能を活用して、設計対象となる材料の物性を推定する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、複数種類の樹脂や配合剤を複合化することにより、樹脂自体の特性に新たな性能を付与した複合材料が開発されている。この点に関し、新規な複合材料の開発には、複合材料が所望の特性を有するまで各組成物の組成比を調整しながら材料開発を行う必要がある。このことから、複合材料の開発には、膨大なコストがかかる。したがって、複合材料開発の効率化を図る観点から、実験計画段階で実験すべき複合材料の物性をある程度推定できることが望ましい。ところが、例えば、電線被覆材料用の複合材料は、配合剤の種類が多く、また、配合組成比によって物性値が大きく変化することがある。このことから、複合材料の物性値を推定することは難しい。以上のことから、複合材料の物性値を高精度に推定できる技術が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施の形態における物性値推定システムは、複数種類の組成物から構成される材料の配合割合と配合割合に対応する物性値とを関係付けた既知データを入力するように構成された既知データ入力部と、予め設定される複数のレベルの中から物性値が属するレベルを既知データに付加して配合割合と物性値とレベルとを関係付けたレベルデータを生成するように構成されたレベルデータ生成部と、レベルデータに基づいて、物性値との対応が未知の第1配合割合を入力すると第1配合割合に対応する物性値が属するレベルを出力するレベル用近似関数を生成するように構成されたレベル用近似関数生成部と、第1配合割合を入力するように構成された配合割合入力部と、第1配合割合とレベル用近似関数とに基づいて、第1配合割合に対応するレベルを推定するように構成されたレベル推定部とを備える。
【0006】
また、一実施の形態における物性値推定方法は、複数種類の組成物から構成される材料の配合割合と配合割合に対応する物性値とを関係付けた既知データを入力する既知データ入力工程と、予め設定される複数のレベルの中から物性値が属するレベルを既知データに付加して配合割合と物性値とレベルとを関係付けたレベルデータを生成するレベルデータ生成工程と、レベルデータに基づいて、物性値との対応が未知の第1配合割合を入力すると第1配合割合に対応する物性値が属するレベルを出力するレベル用近似関数を生成するレベル用近似関数生成工程と、第1配合割合を入力する配合割合入力工程と、第1配合割合とレベル用近似関数とに基づいて、第1配合割合に対応するレベルを推定するレベル推定工程とを備える。
【発明の効果】
【0007】
一実施の形態によれば、複合材料の物性値を高精度に推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】物性値推定装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図2】物性値推定装置の機能を示す機能ブロック図である。
【
図3】レベル用近似関数生成部の構成例を示す図である。
【
図4】物性値用近似関数生成部の構成例を示す図である。
【
図5】レベル用近似関数の生成動作を説明するフローチャートである。
【
図6】物性値用近似関数の生成動作を説明するフローチャートである。
【
図7】配合割合に対応する物性値の推定動作を説明するフローチャートである。
【
図8】物性値推定システムを物性値推定装置と近似関数生成装置から構成する例を示す機能ブロック図である。
【
図9】単一の物性値用近似関数で推定された物性値と実測値との対応関係を示すグラフである。
【
図10】それぞれのレベルごとの物性値用近似関数で推定された物性値と実測値との対応関係を示すグラフである。
【
図11】第1レベルの物性値用近似関数で推定された物性値と実測値との対応関係を示すグラフである。
【
図12】第2レベルの物性値用近似関数で推定された物性値と実測値との対応関係を示すグラフである。
【
図13】レベル推定装置の機能ブロック構成を示す図である。
【
図14】配合割合に対応する物性値の属するレベルの推定動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、図面をわかりやすくするために平面図であってもハッチングを付す場合がある。
【0010】
本実施の形態における技術的思想は、複数種類の樹脂や配合剤を複合化した複合材料での配合割合に対応する物性値を推定する物性値推定システムに関する思想である。
【0011】
ここで、複合材料は、例えば、樹脂や配合剤を含む電線被覆材料を挙げることができ、物性値としては、例えば、材料の伸び特性を挙げることができる。
【0012】
樹脂は、例えば、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、エチレンアクリル酸共重合体などのポリオレフィンや、塩素化ポリエチレンなどのエラストマである。一方、配合剤としては、例えば、タルク、炭酸カルシウム、シリカなどのフィラー、可塑剤、架橋剤および安定剤を挙げることができる。ただし、複合材料を構成する樹脂や配合剤などの組成物の種類や数は、限定されるものではない。
【0013】
<関連技術の説明>
まず、配合割合に対応する物性値を推定する物性値推定システムに関する関連技術について説明する。本明細書でいう「関連技術」とは、公知技術ではないが、本発明者が見出した課題を有する技術であって、本願発明の前提となる技術である。
【0014】
例えば、物性値推定システムとして、以下に示す関連技術が考えられる。すなわち、配合割合とこの配合割合に対応する物性値とが既知のデータを教師データとして、入力を配合割合とするとともに出力を物性値とするニューラルネットワークを学習させることにより、近似関数を生成する関連技術が考えられる。
【0015】
この関連技術では、例えば、物性値との対応が未知の配合割合を近似関数に入力すると、近似関数から物性値が出力される。したがって、推定精度の高い近似関数を取得することができれば、物性値との対応が未知の配合割合で実現される可能性が高い物性値を高精度に推定することができる。
【0016】
この点に関し、本発明者は、配合割合とこの配合割合に対応する物性値とが既知のデータにおいて、物性値の数値範囲が広範囲にわたる場合、これらのデータを教師データとしてニューラルネットワークを学習させることにより生成される近似関数では、物性値との対応が未知の配合割合で実現される可能性が高い物性値を高精度に推定することが困難であることを新規に見出した。すなわち、関連技術では、物性値の数値範囲が広範囲にわたるデータを教師データとして「単一の近似関数」を生成するが、このようにして生成された「単一の近似関数」では、精度良く物性値を推定することが困難であることを本発明者は新規に見出した。つまり、関連技術には、配合割合に対応する物性値を高精度に推定する観点から改善の余地が存在する。
【0017】
そこで、本実施の形態では、関連技術に存在する改善の余地に対する工夫を施している。以下では、この工夫を施した本実施の形態における技術的思想について説明する。
【0018】
<実施の形態における基本思想>
本実施の形態における基本思想は、配合割合とこの配合割合に対応する物性値とが既知のデータにおいて、物性値の数値範囲を複数範囲に分割し、分割された複数範囲のそれぞれに属するデータを教師データとして、複数範囲のそれぞれに特有の近似関数を生成する思想である。すなわち、本実施の形態における基本思想は、複数範囲のそれぞれごとに異なる近似関数を生成する思想である。つまり、基本思想によれば、関連技術のように「単一の近似関数」を生成するのではなく、「複数の近似関数」を生成する。
【0019】
この基本思想によれば、複数範囲のそれぞれに属する狭い数値範囲のデータを教師データとして使用することから、これらのデータを教師データとしてニューラルネットワークを学習させることにより生成される近似関数は、物性値との対応が未知の配合割合で実現される可能性が高い物性値を高精度に推定することができる。
【0020】
この基本思想によって、物性値との対応が未知の配合割合で実現される可能性が高い物性値を高精度に推定するためには、物性値との対応が未知の配合割合が複数範囲のどの範囲に属することになるかを正確に推定する必要がある。なぜなら、物性値との対応が未知の配合割合が複数範囲のどの範囲に属することになるかを正確に推定することができなければ、実際とは異なる範囲での近似関数が使用されることになる結果、物性値を高精度に推定することができなくなるからである。
【0021】
したがって、基本思想を具現化するにあたっては、物性値との対応が未知の配合割合が複数範囲のどの範囲に属することになるかを正確に推定することが重要となり、この点も考慮して基本思想を具現化する工夫を施している。
【0022】
以下では、主に、この基本思想を具現化した物性値推定システムを単体のコンピュータから構成する例を取り上げて説明するが、本実施の形態における物性値推定システムは、複数のコンピュータからなる分散システムで実現することも可能である。
【0023】
<物性値推定装置の構成>
<<ハードウェア構成>>
まず、本実施の形態おける物性値推定装置のハードウェア構成について説明する。
【0024】
図1は、本実施の形態における物性値推定装置100のハードウェア構成の一例を示す図である。なお、
図1に示す構成は、あくまでも物性値推定装置100のハードウェア構成の一例を示すものであり、物性値推定装置100のハードウェア構成は、
図1に記載されている構成に限らず、他の構成であってもよい。
【0025】
図1において、物性値推定装置100は、プログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)101を備えている。このCPU101は、バス113を介して、例えば、ROM(Read Only Memory)102、RAM(Random Access Memory)103、および、ハードディスク装置112と電気的に接続されており、これらのハードウェアデバイスを制御するように構成されている。
【0026】
また、CPU101は、バス113を介して入力装置や出力装置とも接続されている。入力装置の一例としては、キーボード105、マウス106、通信ボード107、および、スキャナ111などを挙げることができる。一方、出力装置の一例としては、ディスプレイ104、通信ボード107、および、プリンタ110などを挙げることができる。さらに、CPU101は、例えば、リムーバルディスク装置108やCD/DVD-ROM装置109と接続されていてもよい。
【0027】
物性値推定装置100は、例えば、ネットワークと接続されていてもよい。例えば、物性値推定装置100がネットワークを介して他の外部機器と接続されている場合、物性値推定装置100の一部を構成する通信ボード107は、LAN(ローカルエリアネットワーク)、WAN(ワイドエリアネットワーク)やインターネットに接続されている。
【0028】
RAM103は、揮発性メモリの一例であり、ROM102、リムーバルディスク装置108、CD/DVD-ROM装置109、ハードディスク装置112の記録媒体は、不揮発性メモリの一例である。これらの揮発性メモリや不揮発性メモリによって、物性値推定装置100の記憶装置が構成される。
【0029】
ハードディスク装置112には、例えば、オペレーティングシステム(OS)201、プログラム群202、および、ファイル群203が記憶されている。プログラム群202に含まれるプログラムは、CPU101がオペレーティングシステム201を利用しながら実行する。また、RAM103には、CPU101に実行させるオペレーティングシステム201のプログラムやアプリケーションプログラムの少なくとも一部が一次的に格納されるとともに、CPU101による処理に必要な各種データが格納される。
【0030】
ROM102には、BIOS(Basic Input Output System)プログラムが記憶され、ハードディスク装置112には、ブートプログラムが記憶されている。物性値推定装置100の起動時には、ROM102に記憶されているBIOSプログラムおよびハードディスク装置112に記憶されているブートプログラムが実行され、BIOSプログラムおよびブートプログラムにより、オペレーティングシステム201が起動される。
【0031】
プログラム群202には、物性値推定装置100の機能を実現するプログラムが記憶されており、このプログラムは、CPU101により読み出されて実行される。また、ファイル群203には、CPU101による処理の結果を示す情報、データ、信号値、変数値やパラメータがファイルの各項目として記憶されている。
【0032】
ファイルは、ハードディスク装置112やメモリなどの記録媒体に記録される。ハードディスク装置112やメモリなどの記録媒体に記録された情報、データ、信号値、変数値やパラメータは、CPU101によりメインメモリやキャッシュメモリに読み出され、抽出・検索・参照・比較・演算・処理・編集・出力・印刷・表示に代表されるCPU101の動作に使用される。例えば、上述したCPU101の動作の間、情報、データ、信号値、変数値やパラメータは、メインメモリ、レジスタ、キャッシュメモリ、バッファメモリなどに一次的に記憶される。
【0033】
物性値推定装置100の機能は、ROM102に記憶されたファームウェアで実現されていてもよいし、あるいは、ソフトウェアのみ、素子・デバイス・基板・配線に代表されるハードウェアのみ、ソフトウェアとハードウェアとの組み合わせ、さらには、ファームウェアとの組み合わせで実現されていてもよい。ファームウェアとソフトウェアは、プログラムとして、ハードディスク装置112、リムーバルディスク、CD-ROM、DVD-ROMなどに代表される記録媒体に記録される。プログラムは、CPU101により読み出されて実行される。すなわち、プログラムは、コンピュータを物性値推定装置100として機能させるものである。
【0034】
このように、物性値推定装置100は、処理装置であるCPU101、記憶装置であるハードディスク装置112やメモリ、入力装置であるキーボード105、マウス106、通信ボード107、出力装置であるディスプレイ104、プリンタ110、通信ボード107を備えるコンピュータである。そして、物性値推定装置100の機能は、処理装置、記憶装置、入力装置、および、出力装置を利用して実現される。
【0035】
<<機能ブロック構成>>
次に、物性値推定装置100の機能ブロック構成について説明する。
【0036】
図2は、物性値推定装置の機能を示す機能ブロック図である。
【0037】
物性値推定装置100は、既知データ入力部301と、レベルデータ生成部302と、レベル用近似関数生成部303と、精度判断部304と、配合割合入力部305と、レベル推定部306と、レベル出力部307と、物性値用近似関数生成部308と、物性値推定部309と、物性値出力部310と、データ記憶部311とを有している。
【0038】
既知データ入力部301は、既知データを入力するように構成されている。
【0039】
ここで、「既知データ」とは、配合割合と物性値が関係付けられたデータであって、配合割合と物性値とがわかっているデータとして定義される。
【0040】
既知データ入力部301に入力された既知データは、データ記憶部311に記憶される。
【0041】
レベルデータ生成部302は、既知データからレベルデータを生成するように構成されている。ここで、「レベルデータ」とは、既知データの物性値がどの数値範囲に属しているかを示すレベルを既知データに付加したデータいう。具体的に、「レベルデータ」とは、予め設定される複数のレベルの中から物性値が属するレベルを既知データに付加して配合割合と物性値とレベルとを関係付けたデータとして定義される。
【0042】
例えば、既知データとして、配合割合が「第1配合割合」で物性値が「100」の第1既知データと、配合割合が「第2配合割合」で物性値が「500」の第2既知データと、配合割合が「第3配合割合」で物性値が「200」の第3既知データが存在するとする。このとき、レベルデータ生成部302では、例えば、物性値のしきい値を「300」として、物性値が「300」以下のデータを第1レベルに対応づけるとともに、物性値が「300」よりも大きいデータを第2レベルに対応づけるようにレベルを決定するとする。
【0043】
この場合、レベルデータ生成部302は、第1既知データの物性値が「100」で「300」以下の第1レベルに属することから、第1既知データと第1レベルとを関係付けて、配合割合が「第1配合割合」、物性値が「100」およびレベルが「第1レベル」である第1レベルデータを生成する。
【0044】
また、レベルデータ生成部302は、第2既知データの物性値が「500」で「300」よりも大きい第2レベルに属することから、第2既知データと第2レベルとを関係付けて、配合割合が「第2配合割合」、物性値が「500」およびレベルが「第2レベル」である第2レベルデータを生成する。
【0045】
さらに、レベルデータ生成部302は、第3既知データの物性値が「200」で「300」以下の第1レベルに属することから、第3既知データと第1レベルとを関係付けて、配合割合が「第3配合割合」、物性値が「200」およびレベルが「第1レベル」である第3レベルデータを生成する。
【0046】
これにより、第1レベルデータと第3レベルデータとが第1レベルに属するデータとなるとともに、第2レベルデータが第2レベルに属するデータとなる。
【0047】
このようにして、レベルデータ生成部302で生成されたレベルデータは、例えば、レベルごとに分類されてデータ記憶部311に記憶される。
【0048】
レベル用近似関数生成部303は、レベルデータ生成部302で生成されたレベルデータに基づいて、レベル用近似関数を生成する機能を有する。つまり、レベル用近似関数生成部303は、配合割合とこの配合割合での材料の物性値が属するレベルとを関係付けるレベル用近似関数を生成する機能を有する。具体的に、
図3に示すように、レベル用近似関数生成部303は、レベルデータを教師データとして、入力を配合割合とするとともに出力をレベルとするニューラルネットワークを学習させることにより、レベル用近似関数を生成するように構成されている。
【0049】
ここで、「レベル用近似関数」とは、配合割合を入力すると、この配合割合に応じた物性値が属するレベルを出力する関数として定義される。すなわち、「レベル用近似関数」とは、物性値との対応関係が未知の配合割合が入力された場合に、この配合割合で実現されると推測される物性値の属するレベルを出力する関数として定義される。このように、レベル用近似関数は、物性値との対応関係が未知の配合割合に対応するレベルを推定することに使用される関数ということができる。
【0050】
精度判断部304は、レベル用近似関数生成部303で生成されたレベル用近似関数の精度が良好であるかを判断する機能を有する。
【0051】
レベル用近似関数は、例えば、物性値との対応関係が未知の配合割合を入力した場合に出力されるレベルが、この配合割合での実際の物性値が属するレベルである確率が高くなるほど良好な精度を有しているということができる。
【0052】
そこで、精度判断部304では、レベルデータを使用してレベル用近似関数の精度が良好であるか否かを判断するように構成されている。例えば、精度判断部304は、レベル用近似関数にレベルデータの配合割合を入力して出力されるレベルが、レベルデータのレベルを再現している確率が90%以上である場合に、レベル用近似関数の精度は良好であると判断する。精度判断部304で精度が良好であると判断されたレベル用近似関数は、データ記憶部311に記憶される。
【0053】
配合割合入力部305は、物性値との対応が未知の評価対象となる配合割合を入力する。
【0054】
レベル推定部306は、配合割合入力部305に入力された配合割合とレベル用近似関数生成部303で生成されたレベル用近似関数とに基づいて、入力された配合割合に対応するレベルを推定する機能を有する。つまり、レベル推定部306は、レベル用近似関数生成部303で生成されたレベル用近似関数を用いて、評価対象となる配合割合に対応するレベルを推定するように構成されている。
【0055】
レベル出力部307は、レベル推定部306で推定されたレベルを出力する。
【0056】
次に、物性値用近似関数生成部308は、複数のレベルのそれぞれごとに配合割合と材料の物性値とを関係付ける物性値用近似関数を生成する機能を有する。すなわち、物性値用近似関数生成部308では、異なるレベルごとに異なる物性値用近似関数を生成するように構成されている。したがって、物性値用近似関数生成部308で生成される物性値用近似関数は、レベルの数だけ存在することになる。
【0057】
具体的に、
図4に示すように、物性値用近似関数生成部308は、レベルデータのうち、レベルが第Nレベルであるレベルデータを教師データとして、入力を配合割合とするとともに出力を物性値とするニューラルネットワークを学習させることにより、第Nレベルでの物性値用近似関数を生成する機能を有する。例えば、物性値用近似関数生成部308は、レベルデータのうち、レベルが第1レベル~第Nレベルのそれぞれであるレベルデータを教師データとして、入力を配合割合とするとともに出力を物性値とするニューラルネットワークを学習させることにより、第1レベル~第Nレベルのそれぞれでの物性値用近似関数を生成するように構成されている。つまり、レベルデータがN個のレベルに分類されている場合、物性値用近似関数生成部308では、N個の異なる物性値用近似関数が生成されることになる。
【0058】
ここで、「物性値用近似関数」とは、配合割合を入力すると、この配合割合に応じた物性値を出力する関数として定義される。すなわち、「物性値用近似関数」とは、物性値との対応関係が未知の配合割合が入力された場合に、この配合割合で実現されると推測される物性値を出力する関数として定義される。このように、物性値用近似関数は、物性値との対応関係が未知の配合割合に対応する物性値を推定することに使用される関数ということができる。
【0059】
なお、物性値用近似関数生成部308で生成された複数の物性値用近似関数のそれぞれは、例えば、上述した精度判断部304によって、精度の良否が判断される。例えば、精度判断部304は、第Nレベルに対応する物性値用近似関数に対し、第Nレベルに分類されたレベルデータの配合割合を入力して出力される物性値が、このレベルデータの物性値を再現している確率が90%以上である場合に、物性値用近似関数の精度は良好であると判断する。精度判断部304で精度が良好であると判断された物性値用近似関数は、データ記憶部311に記憶される。
【0060】
物性値推定部309は、レベル推定部308で推定されたレベルでの物性値用近似関数に基づいて、評価対象の配合割合に対応する物性値を推定する機能を有する。
【0061】
例えば、物性値推定部309は、レベル推定部308で推定されたレベルが第1レベルである場合、物性値用近似関数生成部308で生成された複数の物性値用近似関数のうち、第1レベルの物性値用近似関数を使用して、評価対象の配合割合に対応する物性値を推定することになる。
【0062】
物性値出力部310は、物性値推定部309で推定された物性値を出力する。
【0063】
このようにして、物性値推定装置100が構成されている。
【0064】
<物性値推定装置の動作>
本実施の形態における物性値推定装置100は、上記のように構成されており、以下のその動作について説明する。物性値推定装置100の動作は、「レベル用近似関数の生成動作」と「物性値用近似関数の生成動作」と「評価対象の配合割合に対応する物性値の推定動作」がある。このため、以下では、これらの動作について説明する。
【0065】
<<レベル用近似関数の生成動作>>
図5は、レベル用近似関数の生成動作を説明するフローチャートである。
【0066】
図5において、まず、既知データ入力部301は、既知データを入力する(S101)。そして、既知データ入力部301に入力された既知データは、データ記憶部311に記憶される。次に、レベルデータ生成部302は、データ記憶部311に記憶されている既知データを取得し、予め設定されているレベル分類基準に基づいて、既知データからレベルデータを生成する(S102)。例えば、予め設定されているレベル分類基準とは、物性値が所定のしきい値以下の場合に第1レベルに設定する一方、物性値が所定のしきい値よりも大きい場合に第2レベルに設定するという基準を考えることができる。なお、予め設定されているレベル分類基準は、2種類のレベルに分類する基準だけでなく、2種類以上のレベルに分類する基準であってもよい。
【0067】
その後、レベルデータ生成部302で生成されたレベルデータは、データ記憶部311に記憶される。続いて、レベル用近似関数生成部303は、レベルデータ生成部302で生成されたレベルデータに基づいて、レベル用近似関数を生成する(S103)。具体的に、レベル用近似関数生成部303は、レベルデータを教師データとして、入力を配合割合とするとともに出力をレベルとするニューラルネットワークを学習させることにより、レベル用近似関数を生成する(
図3参照)。
【0068】
次に、精度判断部304は、レベル用近似関数生成部303で生成されたレベル用近似関数の精度が良好であるかを判断する(S104)。そして、精度判断部304がレベル用近似関数の精度が良好であると判断すると(S105)、物性値推定装置100は、レベル用近似関数生成部303で生成されたレベル用近似関数を採用することを決定し(S106)、決定したレベル用近似関数をデータ記憶部311に記憶する。一方、精度判断部304がレベル用近似関数の精度が良好ではないと判断した場合(S105)、物性値推定装置100は、新たな既知データを追加して(S107)、追加した既知データを含む既知データに基づいて、レベル用近似関数を再生成する。この場合、教師データが増加することから、再生成されるレベル用近似関数の精度を向上することができると考えられる。この動作を精度判断部304がレベル用近似関数の精度が良好であると判断するまで繰り返す。
【0069】
このようにして、レベル用近似関数の生成動作が行われる。
【0070】
<<物性値用近似関数の生成動作>>
続いて、物性値用近似関数の生成動作について説明する。
【0071】
図6は、物性値用近似関数の生成動作を説明するフローチャートである。
【0072】
ここでは、既にレベルデータがデータ記憶部311に記憶されているものとする。例えば、データ記憶部311には、第1レベルから第Nmaxレベルまでのレベルデータが記憶されているものとする。
【0073】
まず、物性値推定装置100は、レベルを示す「N」をN=1に設定する(S201)。次に、物性値推定装置100は、データ記憶部311に記憶されているレベルデータのうち、第Nレベルに属するレベルデータを取得する(S202)。
【0074】
そして、物性値用近似関数生成部308は、第Nレベルに属するレベルデータに基づいて、第Nレベルの物性値用近似関数を生成する(S203)。具体的に、物性値用近似関数生成部308は、第Nレベルに属するレベルデータを教師データとして、入力を配合割合とするとともに出力を物性値とするニューラルネットワークを学習させることにより、第Nレベルの物性値用近似関数を生成する(
図4参照)。次に、精度判断部304は、物性値用近似関数生成部308で生成された第Nレベルの物性値用近似関数の精度が良好であるかを判断する(S204)。
【0075】
そして、精度判断部304が第Nレベルの物性値用近似関数の精度が良好であると判断すると(S205)、物性値推定装置100は、物性値用近似関数生成部308で生成された第Nレベルの物性値用近似関数を採用することを決定し(S206)、決定した第Nレベルの物性値用近似関数をデータ記憶部311に記憶する。その後、物性値推定装置100は、レベルを示す「N」がNmaxであるか否かを判断する(S208)。このとき、レベルを示す「N」がNmaxである場合、物性値用近似関数の生成動作を終了する。これに対し、レベルを示す「N」がNmaxではない場合、N=N+1を代入して(S209)、第N+1レベルの物性値用近似関数の生成動作を実施する。なお、精度判断部304が第Nレベルの物性値用近似関数の精度が良好ではないと判断した場合(S205)、物性値推定装置100は、第Nレベルに属する新たなレベルデータを追加して(S207)、追加したレベルデータを含む第Nレベルのレベルデータに基づいて、第Nレベルの物性値用近似関数を再生成する。この場合、教師データが増加することから、再生成される第Nレベルの物性値用近似関数の精度を向上することができると考えられる。この動作を精度判断部304が第Nレベルの物性値用近似関数の精度が良好であると判断するまで繰り返す。このようにして、第1レベルから第Nmaxレベルまでの物性値用近似関数を生成することができる。
【0076】
<<評価対象の配合割合に対応する物性値の推定動作>>
次に、評価対象の配合割合に対応する物性値の推定動作について説明する。
【0077】
図7は、評価対象の配合割合に対応する物性値の推定動作を説明するフローチャートである。なお、ここでは、レベル用近似関数と第1レベルから第Nmaxレベルのそれぞれの物性値用近似関数は、既にデータ記憶部311に記憶されているものとする。
【0078】
図7において、まず、配合割合入力部305は、物性値との対応が未知の評価対象となる配合割合を入力する(S301)。次に、レベル推定部306は、配合割合入力部305に入力された配合割合とデータ記憶部311に記憶されているレベル用近似関数とに基づいて、入力された配合割合に対応するレベルを推定する(S302)。
【0079】
続いて、物性値推定部309は、レベル推定部308で推定されたレベルでの物性値用近似関数に基づいて、評価対象の配合割合に対応する物性値を推定する(S303)。
【0080】
その後、物性値出力部310は、物性値推定部309で推定された物性値を出力する(S304)。
【0081】
このようにして、物性値推定装置100によれば、物性値との対応が未知の評価対象となる配合割合に対して実現される可能性が高い物性値を出力することができる。
【0082】
<実施の形態における特徴>
続いて、本実施の形態における特徴点について説明する。
【0083】
本実施の形態における特徴点は、配合割合に対応する物性値を複数のレベルに分割し、分割された複数のレベルのそれぞれに対して互いに異なる物性値用近似関数を生成する点にある。これにより、物性値との対応が未知の配合割合に対する物性値を高精度に推定することができる。以下に、この点について説明する。
【0084】
例えば、配合割合に対応する物性値の数値範囲が「0」~「1000」であるとする。この場合、「0」~「1000」の数値範囲に属する既知データを教師データとして、入力を配合割合とするとともに出力を物性値とするニューラルネットワークを学習させることにより、単一の物性値用近似関数を取得することが考えられる。
【0085】
しかしながら、物性値の数値範囲が広いことから、機械学習によっても、単一の物性値用近似関数ですべての数値範囲で高精度に物性値を推測することは困難である。つまり、単一の物性値用近似関数では、広範囲の数値範囲にわたって高精度に物性値を推定することは、機械学習を使用しても難しいのである。
【0086】
そこで、本実施の形態では、物性値の数値範囲を分割して、分割した狭い数値範囲ごとに最適な物性値用近似関数を設定している。例えば、上述した「0」~「1000」の数値範囲を、「0」~「300」の第1数値範囲と「301」~「1000」の第2数値範囲に分割して、第1数値範囲を第1レベルとし、第2数値範囲を第2レベルとする。これにより、本実施の形態では、配合割合に対する物性値の数値範囲が第1数値範囲である第1レベルのレベルデータと、配合割合に対する物性値の数値範囲が第2数値範囲である第2レベルのレベルデータとが生成される。
【0087】
そして、第1レベルに属するレベルデータを教師データとして、入力を配合割合とするとともに出力を物性値とするニューラルネットワークを学習させることにより、第1レベルの物性値用近似関数を取得する。同様に、第2レベルに属するレベルデータを教師データとして、入力を配合割合とするとともに出力を物性値とするニューラルネットワークを学習させることにより、第2レベルの物性値用近似関数を取得する。
【0088】
このようにして、教師データに使用するレベルデータに含まれる物性値の数値範囲(「0」~「300」)が狭くなるので高精度に物性値を推定できる第1レベルの物性値用近似関数を取得することが可能となる。同様に、教師データに使用するレベルデータに含まれる物性値の数値範囲(「301」~「1000」)が狭くなるので高精度に物性値を推定できる第2レベルの物性値用近似関数を取得することが可能となる。
【0089】
以上のように本実施の形態における特徴点は、教師データに使用するレベルデータの数値範囲を限定すれば、高精度な物性値用近似関数を取得できるという基本思想に基づいている。この基本思想を具現化するために、本実施の形態では、既知データを複数のレベルに分割している。ここで、重要な点は、物性値との対応が未知の配合割合に対応するレベルを正確に推定することである。なぜなら、物性値との対応が未知の配合割合に対するレベルが実際に属するべきレベルと異なるレベルに推定されると、物性値を高精度に推定するために使用する物性値用近似関数ではない異なるレベルの物性値用近似関数が使用されることになり、この結果、高精度に物性値を推定することができなくなるからである。したがって、物性値との対応が未知の配合割合に対応するレベルを正確に推定するために、本実施の形態では、既知データとレベルとを関係付けるレベルデータを生成している。そして、このレベルデータを教師データとして、入力を配合割合とするとともに出力をレベルとするニューラルネットワークを学習させることにより、レベル用近似関数を取得している。このようにして、レベル用近似関数を使用することにより、物性値との対応が未知の配合割合に対応するレベルを正確に推定することができる。
【0090】
つまり、本実施の形態では、レベルを推定するレベル用近似関数と、レベルごとに生成された物性値用近似関数とを使用することにより、物性値との対応が未知の配合割合に対応する物性値を高精度に推定できるのである。
【0091】
<変形例>
実施の形態では、
図2に示すように、配合割合に応じた物性値を推定する物性値推定システムを単一の物性値推定装置100から構成する例について説明したが、物性値推定システムは、この構成に限らず、例えば、分散システムから構成することもできる。
【0092】
図8は、物性値推定システムを物性値推定装置と近似関数生成装置から構成する例を示す機能ブロック図である。
【0093】
図8に示すように、物性値推定システムは、物性値推定装置400と近似関数生成装置500から構成されており、例えば、物性値推定装置400と近似関数生成装置500は、ネットワーク600で接続されている。
【0094】
物性値推定装置400は、配合割合入力部305と、レベル推定部306と、レベル出力部307と、物性値推定部309と、物性値出力部310と、データ記憶部311と、通信部320を有している。
【0095】
近似関数生成装置500は、既知データ入力部301と、レベルデータ生成部302と、レベル用近似関数生成部303と、精度判断部304と、物性値用近似関数生成部308と、データ記憶部312と、通信部330とを有している。
【0096】
このように構成されている物性値推定装置400と近似関数生成装置500とは、ネットワーク600を介した通信部320と通信部330とによってデータの送受信が可能なように構成されている。そして、近似関数生成装置500では、上述した「レベル用近似関数の生成動作」と「物性値用近似関数の生成動作」とが行われて、レベル用近似関数とレベルごとの物性値用近似関数が生成される。
【0097】
一方、物性値推定装置400では、近似関数生成装置500で生成されたレベル用近似関数とレベルごとの物性値用近似関数を近似関数生成装置500から入力して、データ記憶部311に記憶する。
【0098】
その後、物性値推定装置400では、データ記憶部311に記憶されているレベル用近似関数とレベルごとの物性値用近似関数に基づいて、上述した「評価対象の配合割合に対応する物性値の推定動作」が行われる。
【0099】
このようにして、物性値推定装置400と近似関数生成装置500とを備える分散システムによっても、本実施の形態における物性値推定システムを構築することができる。
【0100】
<効果の検証>
次に、本実施の形態における物性値推定システムによれば、評価対象の配合割合に対応する物性値を高精度に推定できる検証結果について説明する。
【0101】
図9は、物性値の数値範囲「0」~「1000」に含まれる既知データを教師データとして、ニューラルネットワークを学習させることにより取得された単一の物性値用近似関数で推定された物性値と実測値との対応関係を示すグラフである。
【0102】
図9において、横軸は実測値を示している一方、縦軸は推定値を示している。
【0103】
プロットデータが
図9に示す破線の直線に近づくほど推定値が実測値に近いことを示している。したがって、破線の直線からのプロットデータのばらつきが小さいほど高精度に推定できていることになる。この点に関し、
図9に示すプロットデータは、破線の直線からのばらつきが大きいことがわかる。これは、単一の物性値用近似関数で推定された物性値の推定精度が低いことを意味している。
【0104】
続いて、
図10は、物性値の数値範囲「0」~「1000」を数値範囲「0」~「300」の第1レベルと数値範囲「301」~「1000」の第2レベルに分割して、それぞれのレベルごとの物性値用近似関数で推定された物性値と実測値との対応関係を示すグラフである。
【0105】
図10において、灰色のプロットデータは、第1レベルの物性値用近似関数を使用して推定された物性値を示している。一方、黒色のプロットデータは、第2レベルの物性値用近似関数を使用して推定された物性値を示している。
【0106】
なお、参考までに、
図11は、物性値の数値範囲「0」~「300」に含まれるレベルデータを教師データとして、ニューラルネットワークを学習させることにより取得された第1レベルの物性値用近似関数で推定された物性値のプロットデータ(灰色のプロットデータ)を
図10に示すプロットデータから抽出して示すグラフである。
【0107】
一方、
図12は、物性値の数値範囲「301」~「1000」に含まれるレベルデータを教師データとして、ニューラルネットワークを学習させることにより取得された第2レベルの物性値用近似関数で推定された物性値のプロットデータ(黒色のプロットデータ)を
図10に示すプロットデータから抽出して示すグラフである。
【0108】
図10~
図12に示すプロットデータは、破線の直線からのばらつきが小さいことがわかる。これは、物性値の数値範囲を複数のレベルで分割して、レベルごとに生成された物性値用近似関数を使用することにより、物性値の推定精度を向上できることを意味している。すなわち、本実施の形態における物性値推定システムによれば、物性値を高精度に推定できることが裏付けられていることになる。
【0109】
<応用例>
実施の形態では、評価対象となる配合割合に対応する物性値を推定する物性値推定システムについて説明したが、例えば、物性値を推定するのではなく、物性値の属するレベルを推定するレベル推定装置も有用である。
【0110】
そこで、本応用例では、評価対象となる配合割合を入力すると、配合割合に対応した物性値の属するレベルを出力するレベル推定装置について説明する。
【0111】
図13は、レベル推定装置の機能ブロック構成を示す図である。
【0112】
図13において、レベル推定装置700は、既知データ入力部301と、レベルデータ生成部302と、レベル用近似関数生成部303と、精度判断部304と、配合割合入力部305と、レベル推定部306と、レベル出力部307を有している。
【0113】
このように構成されているレベル推定装置700では、実施の形態で説明した物性値推定装置100と同様の「レベル用近似関数の生成動作」によって、レベル用近似関数を生成する(
図5参照)。そして、レベル推定装置700では、以下に示すように、レベル用近似関数に基づいて、評価対象の配合割合に対応するレベルを推定する。
【0114】
図14は、評価対象の配合割合に対応する物性値の属するレベルの推定動作を説明するフローチャートである。
図14において、まず、配合割合入力部305は、物性値との対応が未知の評価対象となる配合割合を入力する(S401)。次に、レベル推定部306は、配合割合入力部305に入力された配合割合とデータ記憶部311に記憶されているレベル用近似関数とに基づいて、入力された配合割合に対応するレベルを推定する(S402)。その後、レベル出力部307は、レベル推定部306で推定されたレベルを出力する。このようにして、レベル推定装置700によれば、物性値との対応が未知の評価対象となる配合割合に対応するレベルを出力することができる。
【0115】
例えば、本応用例におけるレベル推定装置700は、以下の場合に有用である。すなわち、配合割合に対応する物性値を第1レベルと第2レベルに分割する。このとき、第1レベルに属する物性値は、実験評価に値しない低い値とする一方、第2レベルに属する物性値は、実験評価する価値がある高い値とする。
【0116】
このような前提のもと、本応用例におけるレベル推定装置700において、物性値との対応が未知の評価対象となる「第1配合割合」を入力した場合に、「第1レベル」が出力されるとする。これに対し、本応用例におけるレベル推定装置700において、物性値との対応が未知の評価対象となる「第2配合割合」を入力した場合に、「第2レベル」が出力されるとする。これにより、レベル推定装置700の使用者は、「第1配合割合」が実験評価に値しないと判断することができる一方、「第2配合割合」が実験評価する価値があると判断することができる。このように、物性値自体を推定するのではなく、物性値の属するレベルを推定するように構成されたレベル推定装置700でも、物性値との対応が未知の配合割合が実験評価するのにふさわしいか否かを実験する前段階で判断できる点で有用であることがわかる。
【0117】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【0118】
前記実施の形態は、以下の形態を含む。
【0119】
(付記1)
複数種類の組成物から構成される材料の配合割合と前記配合割合に対応する物性値とを関係付けた既知データを入力するように構成された既知データ入力部と、
予め設定される複数のレベルの中から前記物性値が属するレベルを前記既知データに付加して前記配合割合と前記物性値と前記レベルとを関係付けたレベルデータを生成するように構成されたレベルデータ生成部と、
前記レベルデータに基づいて、物性値との対応が未知の第1配合割合を入力すると前記第1配合割合に対応する物性値が属するレベルを出力するレベル用近似関数を生成するように構成されたレベル用近似関数生成部と、
前記第1配合割合を入力するように構成された配合割合入力部と、
前記第1配合割合と前記レベル用近似関数とに基づいて、前記第1配合割合に対応するレベルを推定するように構成されたレベル推定部と、
を備える物性値推定システムの構成要素である物性値推定装置において、
前記物性値推定装置は、少なくとも、
前記レベル用近似関数を記憶するように構成された記憶部と、
前記配合割合入力部と、
前記レベル推定部と、
を有する、物性値推定装置。
【0120】
(付記2)
複数種類の組成物から構成される材料の配合割合と前記配合割合に対応する物性値とを関係付けた既知データを入力するように構成された既知データ入力部と、
予め設定される複数のレベルの中から前記物性値が属するレベルを前記既知データに付加して前記配合割合と前記物性値と前記レベルとを関係付けたレベルデータを生成するように構成されたレベルデータ生成部と、
前記レベルデータに基づいて、物性値との対応が未知の第1配合割合を入力すると前記第1配合割合に対応する物性値が属するレベルを出力するレベル用近似関数を生成するように構成されたレベル用近似関数生成部と、
前記第1配合割合を入力するように構成された配合割合入力部と、
前記第1配合割合と前記レベル用近似関数とに基づいて、前記第1配合割合に対応するレベルを推定するように構成されたレベル推定部と、
を備える物性値推定システムの構成要素である近似関数生成装置において、
前記近似関数生成装置は、少なくとも、前記レベル用近似関数生成部を有し、
前記レベル用近似関数生成部は、前記レベルデータを教師データとして、入力を配合割合とするとともに出力をレベルとするニューラルネットワークを学習させることにより、前記レベル用近似関数を生成するように構成されている、近似関数生成装置。
【符号の説明】
【0121】
100 物性値推定装置
101 CPU
102 ROM
103 RAM
104 ディスプレイ
105 キーボード
106 マウス
107 通信ボード
108 リムーバルディスク装置
109 CD/DVD-ROM装置
110 プリンタ
111 スキャナ
112 ハードディスク装置
113 バス
201 オペレーティングシステム
202 プログラム群
203 ファイル群
301 既知データ入力部
302 レベルデータ生成部
303 レベル用近似関数生成部
304 精度判断部
305 配合割合入力部
306 レベル推定部
307 レベル出力部
308 物性値用近似関数生成部
309 物性値推定部
310 物性値出力部
311 データ記憶部
312 データ記憶部
320 通信部
330 通信部
400 物性値推定装置
500 近似関数生成装置
600 ネットワーク
700 レベル推定装置