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  • 特許-抗菌膜を有する部材、及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】抗菌膜を有する部材、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 2/232 20060101AFI20240604BHJP
   C01B 32/05 20170101ALI20240604BHJP
   C01B 39/02 20060101ALI20240604BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
A61L2/232
C01B32/05
C01B39/02
B32B9/00 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022198077
(22)【出願日】2022-12-12
(62)【分割の表示】P 2018150326の分割
【原出願日】2018-08-09
(65)【公開番号】P2023029371
(43)【公開日】2023-03-03
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】100099793
【弁理士】
【氏名又は名称】川北 喜十郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154586
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 正広
(72)【発明者】
【氏名】瀧 優介
(72)【発明者】
【氏名】森山 真樹
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-025608(JP,A)
【文献】特開2015-081370(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0091767(US,A1)
【文献】国際公開第2018/021106(WO,A1)
【文献】特開2008-297477(JP,A)
【文献】特開平11-100294(JP,A)
【文献】特開平09-209173(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材上に形成された膜と、を有し、
前記膜は、アモルファスカーボンと、抗菌性を有する金属を内包するゼオライトと、を含み、
前記ゼオライトの骨格中の原子は、前記アモルファスカーボン中の炭素原子と結合を形成せず、
前記ゼオライトは、前記膜内で、前記アモルファスカーボン中に分散する、部材。
【請求項2】
前記膜は、前記アモルファスカーボンを含むことにより、高い硬度と摺動性と高耐久性とを有する、請求項1に記載の部材。
【請求項3】
前記金属は、銀、水銀、白金、銅、カドミウム、金、コバルト、ニッケル、及び鉛からなる群から選択される少なくとも一種を含む、請求項1または2に記載の部材。
【請求項4】
前記膜は、前記基材に接触する第1表面と、前記第1表面の反対面である第2表面を有し、
前記第1表面における前記膜中の前記ゼオライトの含有量は、前記第2表面における前記ゼオライトの含有量よりも多い、請求項1~の何れか1項に記載の部材。
【請求項5】
前記アモルファスカーボンは、sp 混成軌道を用いて結合を形成している炭素原子及びsp 混成軌道を用いて結合を形成している炭素原子を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の部材。
【請求項6】
前記膜中において、前記sp 混成軌道を用いて結合を形成している炭素原子の数と前記sp混成軌道を用いて結合を形成している炭素原子の数の合計に対する前記sp 混成軌道を用いて結合を形成している炭素原子の数の割合は、15~85原子%である、請求項に記載の部材。
【請求項7】
前記膜中において、前記sp 混成軌道を用いて結合を形成している炭素原子の数と前記sp 混成軌道を用いて結合を形成している炭素原子の数の合計に対する前記sp 混成軌道を用いて結合を形成している炭素原子の数の割合は、50原子%未満である、請求項に記載の部材。
【請求項8】
前記膜は、前記基材に接触する第1表面と、前記第1表面の反対面である第2表面を有し、
前記第1表面における前記ゼオライトの含有量は、前記第2表面における前記ゼオライトの含有量よりも多く、
前記アモルファスカーボンは、sp 混成軌道を用いて結合を形成している炭素原子及びsp 混成軌道を用いて結合を形成している炭素原子を含み、
前記膜の前記第2表面において、前記sp 混成軌道を用いて結合を形成している炭素原子の数と前記sp 混成軌道を用いて結合を形成している炭素原子の数の合計に対する前記sp 混成軌道を用いて結合を形成している炭素原子の数の割合は、15~85原子%である、請求項1~の何れか1項に記載の部材。
【請求項9】
前記膜は、医療器具、建材又は日用品に用いられる、請求項1~の何れか1項に記載の部材。
【請求項10】
抗菌性を有する金属を内包するゼオライトをキャリアガスに混合して基材に向けて噴霧することと、
前記ゼオライトが噴霧された位置とは異なる位置から炭素イオンビームを前記基材に向けて照射することとにより前記ゼオライト及びアモルファスカーボンから構成される膜を前記基材上に形成する製造方法であり、
前記膜は、前記ゼオライトの骨格中の原子が、前記アモルファスカーボン中の炭素原子と結合を形成せず、前記アモルファスカーボン中に前記ゼオライトが分散した膜である、部材の製造方法。
【請求項11】
前記ゼオライトを噴霧することでは、前記キャリアガスの流量を変化させ、前記膜中の前記ゼオライトの含有量を調整することを含む、請求項10に記載の部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性を示す膜を有する部材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドライクカーボン(DLC)は、種々の分野において表面被覆材として注目されている。また、銀(Ag)は、抗菌性を有することが知られている。非特許文献1において、Ag粒子とDLCの混合膜(Ag-DLC膜)が抗菌性を示すことが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】F.R.Marciano et al.,“Antibacterial activity of DLC and Ag-DLC films produced by PECVD technique”Diamond and Related Materials Volume 18, Issues 5-8, May-August 2009, Pages 1010-1014
【発明の概要】
【0004】
非特許文献1によると、Ag-DLC膜は、膜形成後3時間は高い抗菌性を示すが、膜形成後24時間経過すると、Agを混合していないDLC膜と同程度の抗菌性となり、長期抗菌性が不十分である。そこで、本発明は、長時間にわたり十分な抗菌性を示す膜を有する部材、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0005】
第1の態様に従えば、
基材と、
前記基材上に形成された膜と、を有し、
前記膜は、アモルファスカーボンと、抗菌性を有する金属を内包するゼオライトと、を含み、
前記膜は、キャリアガスに混合された前記ゼオライトが互いに接触する状態で噴霧され、前記ゼオライトが噴霧された位置とは異なる位置から炭素の荷電粒子ビームが前記基材に向けて照射され、前記基材上に前記ゼオライトが分散された前記アモルファスカーボンの膜が堆積することにより成膜され、
前記ゼオライトは、前記膜内で、前記アモルファスカーボン中の炭素原子と接触する状態で前記アモルファスカーボン中に分散する部材が提供される。
【0006】
第2の態様に従えば、抗菌性を有する金属を内包するゼオライトを互いに接触する状態でキャリアガスに混合して噴霧することと、
前記ゼオライトが噴霧された位置とは異なる位置からカーボンイオンビームを前記基材に向けて照射することと、
前記ゼオライトは、前記アモルファスカーボン中の炭素原子と接触する状態でアモルファスカーボン中に分散した膜を基材上に形成することと、を含む部材の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態に係る部材の概略断面図である。
図2】金属を内包するゼオライトの構造の一例を概念的に示す図である。
図3】成膜装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[膜を有する部材]
以下、図面を参照しながら部材の実施形態を説明する。図1に示すように、部材100は、基材10上に形成された膜30を有する。膜30は、抗菌性を有する膜であり、アモルファスカーボン50と、金属90を内包するゼオライト70(図2参照)を含む。
【0009】
(1)基材10
基材10は、部材100の用途に応じて、種々の形状を有してよく、種々の材料から構成されてよい。例えば、樹脂、シリコン、チタン、ステンレス等から構成されてよい。
【0010】
(2)膜30
膜30は、基材10の表面を被覆している。膜30は、基材10に接触する第1表面32及び第1表面32の反対面である第2表面34を有する。
【0011】
アモルファスカーボン50は、sp混成軌道を用いて結合を形成している炭素原子(sp混成炭素原子、sp-C原子)及びsp混成軌道を用いて結合を形成している炭素原子(sp混成炭素原子、sp-C原子)を含む。このようなアモルファスカーボン50は、PVD法(物理気相成長法)、CVD法(化学気相成長法)等により形成することができる。PVD法としては、イオン化蒸着法、イオンビームスパッタ法、マグネトロンスパッタ法、レーザ蒸着法、アークイオンプレーティング法、フィルタードカソーディックバキュームアーク(FCVA)法等が挙げられる。CVD法としては、炭化水素ガスを原料として用いた、マイクロ波プラズマCVD法、直流プラズマCVD法、高周波プラズマCVD法、有磁場プラズマCVD法等が挙げられる。特に、FCVA法では、室温にて、複雑な形状の表面上に均一に且つ高い付着力でアモルファスカーボン50を形成することができる。
【0012】
アモルファスカーボン50は、水素を含んでよい。それにより膜30の応力を緩和できる。
【0013】
膜30の第2表面34において、アモルファスカーボン50中のsp-C原子の数とsp-C原子の数の合計に対する、sp-C原子の数の割合が15~85原子%であってよい。sp-C原子の数の割合が15原子%未満である場合、すなわち、sp-C原子の数の割合が85原子%を超える場合、膜の圧縮応力が非常に大きく、膜の硬度が高すぎる傾向がある。sp-C原子の数の割合が85原子%を超える場合、すなわち、sp-C原子の数の割合が15at%未満の場合、膜が軟らかいため、傷付いたり剥離したりし易い傾向がある。
【0014】
また、本発明者らはこれまでに、sp-C原子の数とsp-C原子の数の合計に対する、sp-C原子の数の割合が50原子%を超えるとき、特に、sp-C原子の数の割合が23~43原子%のとき、アモルファスカーボンが、タンパク質、細胞、細菌等が特に吸着しにくい特性を有することを見出している。
【0015】
しかし、銀等の抗菌性を有する金属ナノ粒子をアモルファスカーボン中に分散させると、金属ナノ粒子を分散させない場合と比べてアモルファスカーボン中のsp-C原子の数とsp-C原子の数の合計に対するsp-C原子の数の割合が低くなることが知られていた(P.Pisarik et al.,“Antibacterial, mechanical and surface properties of Ag-DLC films prepared by dual PLD for medical
applications”Materials Science and Engineering:C Volume 77, 1 August 2017, Pages 955-962)。
【0016】
この点、実施形態に係る部材100の膜30においては、金属90がゼオライト70に内包されているため、アモルファスカーボン50と金属90が接触しにくい。それにより、sp-C原子の割合が実質的に変化することなく維持されるため、タンパク質、細胞、細菌等が吸着しにくい特性を長時間維持することができる。なお、膜30全体にわたって、アモルファスカーボン50中のsp-C原子の数とsp-C原子の数の合計に対する、sp-C原子の数の割合が15~85原子%であってもよく、sp-C原子の割合が50原子%未満であってもよい。
【0017】
ゼオライト70はアルミノ珪酸塩の一種であり、一般式xM2/nO・Al・ySiO・zHOで表される。ここで、nはイオン交換可能なカチオンMの原子価である。ゼオライト70は、図2に示すように、アルミニウム原子と珪素原子と酸素原子からなる三次元網目状骨格を有する。
【0018】
ゼオライト70は、天然ゼオライト及び合成ゼオライトのいずれでもよい。具体的には、例えば、A-型ゼオライト、X-型ゼオライト、Y-型ゼオライト、T-型ゼオライト、高シリカゼオライト、ソーダライト、モルデナイト、アナルサイム、クリノブチロライト、チャバサイト、エリオナイト等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0019】
ゼオライト70は、抗菌性を有する金属90を内包する。図2に示すように、金属90は、ゼオライト70の三次元骨格中の細孔に取り込まれている。金属90はイオンの状態でゼオライト70に内包されてよい。ゼオライト70中のイオン交換可能なカチオンM、例えば、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、鉄イオン等の少なくとも一部が、抗菌性を有する金属イオンに置換されることにより、ゼオライト70は金属90をイオンの状態で内包できる。あるいは、金属90は、ナノ粒子の状態でゼオライト70に内包されてもよい。
【0020】
抗菌性を有する金属90は、特に限定されないが、例えば、銀、水銀、白金、銅、カドミウム、金、コバルト、ニッケル、及び鉛からなる群から選択される少なくとも一種を含んでよく、特に銀を含んでよい。
【0021】
一般的に、銀等の抗菌性を有する金属のナノ粒子をアモルファスカーボン膜中に分散させた場合、時間経過に伴い金属ナノ粒子がアモルファスカーボン膜の表面に移動して凝集し、アモルファスカーボン膜の表面に粗大化した金属粒子が現れることが知られている。そのため、金属ナノ粒子をアモルファスカーボン膜中に分散させた膜は、金属ナノ粒子による抗菌性を長時間有することができない。また、アモルファスカーボン膜の表面が金属粒子に覆われるため、アモルファスカーボンの特性(例えば、タンパク質等が吸着しにくい性質、高い硬度、摺動性、高耐久性等)も時間の経過に伴い損なわれる。一方、実施形態に係る部材100の膜30においては、金属90はゼオライト70の細孔に保持された状態でアモルファスカーボン50中に分散している。ゼオライト70に保持されている金属90は、ゼオライト70から放出されて膜30内を第2表面34まで移動するのに、より長い時間を要する。そのため、膜30の第2表面34に金属90が過剰に供給されて凝集体を形成することが抑制される。したがって、膜30は長時間にわたり抗菌性を有することができるとともに、アモルファスカーボン50の特性が損なわれることも抑制できる。
【0022】
膜30の第2表面34に適切な量及び速度で金属90を供給するために、膜30の形成時に、膜30の第1表面32におけるゼオライト70の含有量(含有率)を、第2表面34におけるゼオライト70の含有量(含有率)よりも高くしてよい。膜30中のゼオライト70から適量の金属90が放出されて第2表面34へ移動することにより、第2表面34が抗菌性を示す。
【0023】
例えば、膜30の厚み方向にゼオライト70の含有量の勾配をつけて、第1表面32から第2表面34まで、ゼオライト70の含有量が漸減する構成としてもよい。第2表面34はゼオライト70を含有しなくてもよい。別の例として、膜30は、第1表面32側に、金属90を内包するゼオライト70のみを含む層と、該ゼオライト70のみを含む層の
上に形成されたアモルファスカーボンの層とを有してよい。該アモルファスカーボンの層は、金属90を内包するゼオライト70を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。いずれの例においても、膜30中の第2表面34から所定の厚みの領域において、金属90を内包するゼオライト70が含有されていなくてもよい。当該厚みを制御することにより、第2表面34への金属90の供給量及び供給速度を制御できる。
【0024】
なお、部材100において、上述のような膜30が基材10上に複数積層されていてもよい。
【0025】
また、上述のように、銀等の抗菌性を有する金属ナノ粒子をアモルファスカーボン中に分散させると、金属ナノ粒子を分散させない場合と比べてアモルファスカーボン中のsp-C原子の数の割合が低くなることが知られている。一方、実施形態に係る部材100の膜30においては、少なくとも膜30の形成直後は、金属90はゼオライト70の細孔に保持されている。その結果、膜30の形成プロセスにおいて、アモルファスカーボン50と金属90が接触しないため、アモルファスカーボン50中のsp-C原子の数とsp-C原子の数の合計に対するsp-C原子の数の割合を容易に適切な値に制御することができる。特に、sp-C原子の割合を高く維持することができる。なお、アモルファスカーボン50は、ゼオライト70のアルミニウム原子と珪素原子と酸素原子からなる骨格に接触しているが、以下の理由によりゼオライト70の骨格はアモルファスカーボン50の結合に寄与する混成軌道に影響を与えない。ゼオライト70はアルミニウムと珪素の複合酸化物であり、その骨格は、主に、アルミニウムと酸素の化学結合、及び、珪素と酸素の化学結合から構成される。アルミニウムと酸素の化学結合、及び、珪素と酸素の化学結合は、アルミニウムと炭素の化学結合、及び、珪素と炭素の化学結合より熱力学的に安定である。そのため、ゼオライト70の骨格中の原子はアモルファスカーボン50中の炭素原子と結合を形成せず、アモルファスカーボン50中の炭素原子の結合に影響を及ぼさない。
【0026】
上述のように、適切な割合のsp-C原子を有するアモルファスカーボン50は、タンパク質、細胞、細菌等が付着しにくい。そのため、アモルファスカーボン50のsp-C原子の割合を適切な値にすることで、膜30はより高い抗菌性を有することができる。特に、膜30中の金属90の含有量が10原子%以下でも、膜30が十分な抗菌性を有することができる。金属90の含有量を少なくすることで、膜30の製造コストを抑制するとともに、膜30の耐久性を向上させることができる。
【0027】
実施形態に係る部材100は、例えば、医療器具、医用材料、住宅建材、日用品に用いられてよい。膜30は、部材100の用途によって任意に配置されてよい。膜30が基材10の全ての表面を覆うように形成されていてもよいし、基材10の表面に一部にのみ形成されていてもよい。部材100が医療器具に用いられる場合、部材100の細菌に暴露される可能性がある領域に膜30が設けられてよい。膜30は抗菌効果を有するため細菌の増殖を抑制できる。部材100は単独で用いられてもよいし、複数の部材100を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
なお、「医療器具」という語は、一般に医療器具と呼ばれ得るものをすべて含み、具体的には、人工関節、人工骨、人工歯、人工歯根、人工心臓、人工心臓弁、人工血管、人工肛門、人工尿管、人工胸膜、人工補綴物、ステント(血管ステント、気管支ステントを含む)、ガイドワイヤー、カテーテル、留置カテーテル、ペースメーカー電極、ペースメーカーリード線、コンタクトレンズ、人工水晶体、電気メス、注射針、血液バッグ、採血管、メス、内視鏡、血液フィルタなどのフィルタ類、血液回路などの流路類、送血チューブなどのチューブ類、鉗子、人工肺、人工心肺装置、透析装置、整形外科器具、人工内耳、人工鼓膜、人工声帯、カニューレ、脳動脈治療用コイル、人工すい臓、鍼灸治療器具、電
極、縫合糸、創傷被覆材、創傷保護材、廃液チューブ、整形外科インプラント、ペースメーカー等を含む。
【0029】
[部材の製造方法]
部材100の製造方法について説明する。図3は、基材10上に膜30を形成する成膜装置1の構造を概念的に示す図である。
【0030】
成膜装置1は、主に、アークプラズマ生成部110と、フィルタ部120と、成膜チャンバ部130と、アトマイザ150から構成される。アークプラズマ生成部110は、ダクト状のフィルタ部120により成膜チャンバ部130に接続されている。成膜チャンバ部130の圧力は、図示省略する真空装置により10-4~10-6[Torr]程度に設定される。
【0031】
アークプラズマ生成部110には、カソードとしてのグラファイトターゲット111とアノード(ストライカー)(不図示)が設けられている。ターゲット111に直流電圧を印加することによりアーク放電が生じ、それによりアークプラズマが発生される。アークプラズマによりターゲット111から生成された中性粒子及び荷電粒子が、成膜チャンバ部130に向けてフィルタ部120を飛行する。
【0032】
フィルタ部120には、電磁石コイル121が巻かれたダクト123及びイオンスキャン用コイル125が設けられている。ダクト123は、アークプラズマ生成部110と成膜チャンバ部130との間で、直交する二方向に2度曲折されており、その外周に電磁石コイル121が巻き付けられている。ダクト123がこのような屈曲構造(ダブルベンド構造)を有することにより、ダクト123内の中性粒子は内壁面に衝突して堆積することにより除去される。電磁石コイル121に電流を流すことによりダクト123内部の荷電粒子にローレンツ力が作用し、荷電粒子がダクト断面の中心領域に集約されてダクトの屈曲に沿って飛行し、成膜チャンバ部130に導かれる。すなわち、電磁石コイル121とダクト123が、荷電粒子のみを高効率で通過させる狭帯域の電磁気空間的フィルタを構成する。
【0033】
イオンスキャン用コイル125により、ダクト123を通り成膜チャンバ部130に入る荷電粒子のビームを任意の方向に動かすことができる。成膜チャンバ部130には、ホルダ131が設けられ、このホルダ131の表面に基材10がセットされる。ホルダ131はモータ135により自転運動する。ホルダ131に保持された基材10の表面に、イオンスキャン用コイル125によって方向付けられた荷電粒子のビームが入射する。ホルダ131には電源137によって負のバイアス電圧が印加されており、それにより、基材10に入射する荷電粒子が加速される。加速した荷電粒子は基材10上に堆積する。それにより、基材10上に緻密なアモルファスカーボン膜が一様に形成される。バイアス電圧を調整することによって、アモルファスカーボン中のsp-C原子とsp-C原子の含有量を制御できる。
【0034】
アトマイザ150は、金属を内包するゼオライトの粉末をキャリアガスに混合して成膜チャンバ部130中に噴霧する。それによりゼオライトが成膜チャンバ部130に導入される。例えば、アルゴン又はヘリウムガスをキャリアガスとして用い、当該キャリアガスを0.1~30sccmの範囲内の所定の流量にてアトマイザ150内に導入する。アトマイザ150内にはあらかじめ金属を内包するゼオライト粉末が載置されている。キャリアガスがアトマイザ150を通過することにより、ゼオライト粉末がキャリアガスとともに成膜チャンバ部130へ輸送される。
【0035】
金属を内包するゼオライトの粉末は、金属イオンを含有する水溶液にゼオライトの粉末
を接触させ、ゼオライト中のイオン交換可能なカチオンと水溶液中の金属イオンを置換させることによって得られる。ゼオライトの金属含有(内包)量は、水溶液中の金属イオン濃度を調整することによって制御できる。金属を内包するゼオライトの粉末として市販品を用いてもよい。
【0036】
アークプラズマ生成部110及びフィルタ部120により炭素の荷電粒子を成膜チャンバ部130に導入しながら、アトマイザ150により金属内包ゼオライトを成膜チャンバ部130に導入することにより、荷電粒子(炭素イオン)と金属含有ゼオライトが基材10上に堆積する。それにより、アモルファスカーボン及び該アモルファスカーボン中に分散した金属内包ゼオライトから構成される膜(抗菌膜)が、基材10上に形成される。
【0037】
アトマイザ150から成膜チャンバ部130に導入するキャリアガス流量を調節することにより、膜中の金属内包ゼオライトの含有量を制御できる。成膜中にキャリアガス流量を変えることで、膜の厚み方向に金属内包ゼオライトの濃度勾配をつけることができる。
【0038】
基材10の表面の一部のみに抗菌膜を形成することもできる。この場合、基材10の抗菌膜を形成しない領域をマスクで被覆した後に、基材10をホルダ131にセットして抗菌膜の形成を行ってよい。
【0039】
なお、成膜装置1は、フィルタードカソーディックバキュームアーク(FCVA)法によりアモルファスカーボンを形成する装置であるが、アモルファスカーボンの形成方法はFCVA法に限定されない。アモルファスカーボンは、PVD法(物理気相成長法)又はCVD法(化学気相成長法)により形成できる。PVD法としては、例えば、カーボンターゲットを原料として用いた、イオン化蒸着法、イオンビームスパッタ法、マグネトロンスパッタ法、レーザ蒸着法、アークイオンプレーティング法、FCVA法等が挙げられる。CVD法としては、例えば、炭化水素ガスを原料として用いた、マイクロ波プラズマCVD法、直流プラズマCVD法、高周波プラズマCVD法、有磁場プラズマCVD法等が挙げられる。上述したFCVA法は、複雑な形状の基材を均一にコーティングできる点、及び、室温でも基材との付着力が高い膜を形成できるという点で好ましい。
【0040】
本発明は、次の態様の部材及び製造方法、すなわち、基材と、前記基材上に形成された膜とを有し、前記膜が、アモルファスカーボンと、金属を内包するゼオライトとを含む部材及び、金属を内包するゼオライトをキャリアガスに混合して噴霧しながら、フィルタードカソーディックバキュームアーク法により基材上にアモルファスカーボンを成膜することにより、前記アモルファスカーボン中に前記ゼオライトが分散した膜を前記基材上に形成することを含む部材の製造方法にも関する。
【0041】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0042】
1 成膜装置
10 基材
30 膜
32 第1表面
34 第2表面
50 アモルファスカーボン
70 ゼオライト
90 金属
100 部材
110 アークプラズマ生成部
120 フィルタ部
130 成膜チャンバ部
150 アトマイザ
図1
図2
図3