(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】粘着シート、それを用いた積層シート及び画像表示装置
(51)【国際特許分類】
C09J 7/38 20180101AFI20240604BHJP
C09J 133/04 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J133/04
(21)【出願番号】P 2022202034
(22)【出願日】2022-12-19
(62)【分割の表示】P 2019065471の分割
【原出願日】2019-03-29
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田畑 大樹
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/102179(WO,A1)
【文献】特開平07-278502(JP,A)
【文献】特開2017-095654(JP,A)
【文献】特開2018-045213(JP,A)
【文献】特開2016-094606(JP,A)
【文献】特開2016-199714(JP,A)
【文献】国際公開第2018/174085(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/050195(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数9~22のアルキル基をもつ単官能アクリレート(a1)及び多官能(メタ)アクリレート(a2)を、(メタ)アクリル酸エステルモノマー成分として有するアクリル系重合体を70質量%以上含む粘着シートであって、
前記アクリル系重合体は、構成モノマーとして、前記単官能(メタ)アクリレート(a1)を70~95質量%含有し、前記多官能(メタ)アクリレート(a2)を1~30質量%含有し、
ガラス転移温度(Tg)が-15℃以下であり、
20℃において20%の剪断変形を600秒与えた後、荷重を除いて600秒後の残留変形量が4.00%以下である粘着シート。
【請求項2】
前記多官能(メタ)アクリレート(a2)は、多官能ウレタン(メタ)アクリレートである、請求項1に記載の粘着シート。
【請求項3】
周波数1Hzの剪断モードで動的粘弾性測定により得られる80℃の損失正接(tanδ)が0.60以下である、請求項1又は2に記載の粘着シート。
【請求項4】
前記アクリル系重合体は、前記多官能(メタ)アクリレート(a2)を
(6.5/97.4)×100~30質量%含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項5】
前記アクリル系重合体は、前記多官能(メタ)アクリレート(a2)を
(6.5/97.4)×100~(16.0/98.7)×100質量%含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項6】
400nm以上に励起波長域を有する光重合開始剤を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項7】
周波数1Hzの剪断モードで動的粘弾性測定により貯蔵剪断弾性率を測定した際、y軸を貯蔵剪断弾性率(kPa)、x軸を温度(℃)としたグラフ上で、式(1)で示される-20℃~80℃の平均勾配が-9.0~0kPa/℃である請求項1~6のいずれか一項に記載の粘着シート。
式(1)平均勾配=(G’(80℃)-G’(-20℃))/100
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の粘着シートが部材シートと積層されてなる構成を備えた積層シート。
【請求項9】
前記部材シートは、ポリイミドフィルム、ポリカーボネートフィルム、アクリルポリマーフィルム、TACフィルム、ポリエステルフィルム、環状オレフィンフィルム、薄膜ガラスのいずれかであることを特徴とする請求項8に記載の積層シート。
【請求項10】
第1の部材シートと、請求項1~7のいずれか一項に記載の粘着シートと、第2の部材シートとがこの順で積層されてなる構成を備えることを特徴とする請求項8または9に記載の積層シート。
【請求項11】
請求項8~10のいずれか一項に記載の積層シートを備えた画像表示装置。
【請求項12】
請求項1~7のいずれか一項に記載の粘着シートから成る、折り畳み可能なディスプレイ用粘着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着シート、積層シート及びフレキシブル画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機発光ダイオード(OLED)や量子ドット(QD)を用いた、曲面からなる画像表示装置や、折り曲げ可能な画像表示装置が開発され、広く商用化されつつある。
このような表示装置は、カバーレンズ、円偏光板、タッチフィルムセンサー、発光素子等(これらの部材を「部材シート」とも称する)が、透明な粘着シートで貼り合された積層構造をしており、部材シートと粘着シートが積層してなる複数の積層シートによって構成することができる。
【0003】
折り曲げ可能な画像表示装置に用いる積層シートとしては、例えば特許文献1において、光学装置部材に、第1の粘着フィルムと、タッチ機能部材と、第2の粘着フィルムを備えたフレキシブルディスプレイ向けの光学装置部材が開示されており、好適な粘弾性の範囲が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
折り畳み可能な画像表示装置を構成する複層シートに関しては、折り曲げた時の層間応力に起因する様々な課題が生じている。例えば、折り畳んだ際に層間で剥がれ(デラミ)が発生する場合があり、折り畳んでも剥がれない積層シートが求められていた。また、画面を折り畳んだ状態から開いたときに、速やかに平らな状態に復元する積層シートが求められていた。さらに、折り畳み操作を繰り返すうちに、被着体である部材シートに亀裂が生じ、遂には破断する場合があり、特に低温での繰り返しの折り畳み操作で耐久性のある積層シートが求められていた。
【0006】
しかしながら、粘着シートが上記特許文献1に開示されているものであったとしても、折り畳み時の曲率半径によっては、粘着シートの歪量が大きくなり、粘着後に層間が剥離する現象(デラミネーション、「デラミ」と称する)等の不具合が生じることがあった。また、折り畳んだ状態からの復元性が十分でない場合もあった。
【0007】
そこで、本発明は、粘着シートを部材シートに貼着して積層シートを形成した際、低温環境下で当該積層シートを折り畳み操作しても、割れやデラミを生じさせない粘着シート及び積層シートを提供せんとするものである。さらには、温度依存性が少なく、当該積層シートを折り畳み時からの復元性を良好にすることができる粘着シート及び積層シートを提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、粘着シートの特性と折曲耐性との関係を詳細に研究したところ、炭素数9~22のアルキル基をもつ単官能アクリレートを(メタ)アクリル酸エステルモノマー成分として有するアクリル系重合体を70質量%以上含み、20℃において20%の剪断変形を600秒与えた後、荷重を除いて600秒後の残留変形量が4.00%以下である粘着シートを提案する。
【0009】
本発明はまた、上記粘着シートと部材シートとが積層されてなる構成を備えた積層シートを提案する。
【発明の効果】
【0010】
本発明が提案する粘着シートは、部材シートに貼着して積層シートを形成した際、当該部材シートにかかるストレスを低減することができ、低温における環境下で折り畳み操作をしても、デラミや割れの発生を防止することができる。さらに、この積層シートは復元性に優れる。
よって、本発明が提案する粘着シート及びこれを用いた積層シートは、折り畳み可能な画像表示装置等の構成部材として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、実施の形態例に基づいて本発明を説明する。但し、本発明が次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0012】
[本粘着シート]
本発明の実施形態の一例に係る粘着シート(以下、「本粘着シート」と称することがある)は、炭素数9~22のアルキル基をもつ単官能アクリレートを(メタ)アクリル酸エステルモノマー成分として有するアクリル系重合体を70質量%以上含む粘着シートである。
【0013】
以下、本粘着シートについて説明する。
【0014】
<残留変形量>
本粘着シートは、20℃において20%の剪断変形を600秒与えた後、荷重を除いて600秒後の残留変形量が4.00%以下であることが好ましい。さらに好ましくは3.00%以下、特に好ましくは2.00%以下である。残留変形量を上記範囲にすることで、例えば本粘着シートを部材シートに貼着して積層シートを形成した際、折り畳んだ状態からの復元性に優れた積層シートとすることができる。
前記残留変形量を小さくするためには、粘着シートが適当な架橋ネットワークを有している必要がある。そして、このような架橋ネットワーク形成には、適切な原料を選択し、多くの架橋成分を用いて十分に架橋反応を進行させることで、ゲル分率を上げる必要がある。ただし、上記残留変形量に調整できればその手段は限定しない。
一方、架橋成分となる多官能モノマー成分を多くし過ぎると、タックや、密着性を向上させるのが難しくなる。そこで、アクリル系重合体に含まれる単官能モノマー成分を一定量以上、例えば70質量%以上とすることで、粘着シートのタックや、密着性を発現させることができる。
この際、折り畳み用の粘着シートとしては、ガラス転移温度(Tg)ができるだけ低いシートが好まれるため、シートを構成するアクリル系重合体に含まれる(メタ)アクリル酸エステルモノマー成分として、炭素数9~22のアルキル基をもつ(メタ)アクリル酸エステルモノマーを有することが好ましい。さらには、モノマーの揮発性やTgを鑑みて、炭素数9~16の分岐アルキル基をもつ(メタ)アクリル酸エステルモノマーを有することが好ましい。
折り畳み可能なディスプレイは、折り畳んだ状態(剪断変形がかかった状態)で長時間保持され、広げて使用するときのみ平面になることになる。剪断変形からの残留変形量が上記の範囲内である場合、変形からの復元力に優れる。
なお、残留変形量は、例えば、後述する実施例に示すように測定することができる。
【0015】
<貯蔵剪断弾性率と損失正接>
本粘着シートは、周波数1Hzの剪断モードで動的粘弾性測定により得られる80℃の貯蔵剪断弾性率(G’(80℃))が、10kPa以上100kPa以下であるのが好ましい。
【0016】
本粘着シートの80℃の貯蔵剪断弾性率(G’(80℃))は、10kPa以上100kPa以下であるのが好ましく、中でも20kPa以上或いは95kPa以下であるのがより好ましく、25kPa以上或いは90kPa以下であるのがさらに好ましい。
本粘着シートの貯蔵剪断弾性率(G’(80℃))を上記範囲とすることで、温度に関わらず、本粘着シートに部材シートを貼着した積層シートの折り曲げ時の層間応力を小さくすることができ、部材シートに貼着させた際のデラミや割れを抑制することができる。
【0017】
本粘着シートの周波数1Hzの剪断測定における80℃の損失正接(tanδ(80℃))は、0.60以下であるのが好ましい。0.50以下であるのがより好ましく、0.40以下であるのがさらに好ましい。
本粘着シートの損失正接(tanδ(80℃))を上記範囲とすることで、流動を抑えることができ、部材シートを貼着した積層シートを折り曲げ状態から開いた際の復元性も良好にすることができる。
【0018】
前記のように貯蔵剪断弾性率(G’(80℃))と損失正接(tanδ(80℃))の両方を小さくするためには、架橋点間分子量を大きくし、ゲル成分を多くすればよい。粘着シートにおいて架橋点間分子量を大きくするには、粘着シートを構成する多官能のモノマー成分の量を減らしたり、高分子量の架橋剤を用いたりするなどするのが好ましい。但し、これらの方法に限定するものではない。
さらに、損失正接(tanδ(80℃))を小さくするには、本粘着シート中の未架橋や未反応の成分を減らすなどするのが好ましい。但し、これらの方法に限定するものではない。
【0019】
本粘着シートの貯蔵剪断弾性率(G’(80℃))が100kPa以下であっても、損失正接(tanδ(80℃))が大きい場合は、本粘着シートが高温屈曲時にクリープ変形することになる。しかしながら、損失正接(tanδ(80℃))を0.60以下とすることで、クリープ変形を抑えることができ、例えば本粘着シートを部材シートに貼着して積層シートを形成した際、当該積層シートを折り曲げ状態から開いた際の復元性も良好にできる。
【0020】
本粘着シートの周波数1Hzの剪断モードで動的粘弾性測定により得られる-20℃の貯蔵剪断弾性率(G’(-20℃))は、10kPa以上1000kPa以下であるのが好ましい。中でも80kPa以上或いは500kPa以下がさらに好ましい。
粘着シートの貯蔵剪断弾性率(G’(-20℃))を1000kPa以下とすることで、低温での折り曲げ時の層間応力を小さくすることができ、例えば本粘着シートを部材シートに貼着して積層シートを形成した際、当該部材シートのデラミや割れを抑制することができる。
一般的に粘着シートは低温から常温間にガラス転移温度(Tg)があり、貯蔵剪断弾性率(G’(-20℃))は貯蔵剪断弾性率(G’(80℃))よりも大きくなる。しかし、貯蔵剪断弾性率(G’(-20℃))が1000kPa以下であれば、低温で折り曲げ操作をしても、例えば本粘着シートを部材シートに貼着して積層シートを形成した際、当該部材シートの割れを防止することができる。近年、部材シートの厚みはますます薄くなっており、貯蔵剪断弾性率(G’(-20℃))が1000kPa以下であれば、部材シートへのストレスを低減することができる。
【0021】
本粘着シートは、周波数1Hzの剪断モードで動的粘弾性測定により貯蔵剪断弾性率を測定した際、y軸を貯蔵剪断弾性率(kPa)、x軸を温度(℃)としたグラフ上で、式(1)で示される-20℃~80℃の平均勾配が-9.0~0kPa/℃であるのが好ましい。
-20℃~80℃の貯蔵弾性率の平均勾配を小さくすることで、例えば本粘着シートを部材シートに貼着して積層シートを形成した際、当該積層シートを低温で折り曲げた際に生じる層間応力を低減でき、結果として部材シートの割れを抑制できる。
ここで、平均勾配は下記式(1)で表される。
式(1) 平均勾配=(G’(80℃)-G’(-20℃))/100
【0022】
また、-20℃~80℃の貯蔵弾性率の平均勾配を小さく、損失正接(tanδ(80℃))が0.60以下を満たす粘着シートであれば、発泡抑制することができる。
【0023】
なお、本粘着シートを貼着する部材シートであって、当該画像表示装置に使用される部材シートとして使用されるものとしては、ポリイミド、ポリエステル、TAC、環状オレフィン等からなるシートを挙げることができる。
中でも環状オレフィンポリマーの25℃の引張強度は100μmで40MPa~60MPaと低く、このような引張強度が低めの部材シートを用いた積層シートの場合は、折り曲げ時に割れが生じやすく、従来技術の範囲では割れを解消することが困難であった。
しかしながら、本発明においては、上記のように、貯蔵剪断弾性率と損失正接を調整することにより、折り曲げ時の割れを解消することが出来る。
【0024】
<損失正接(tanδ)の極大点、ガラス転移温度(Tg)>
本粘着シートの周波数1Hzの剪断モードで動的粘弾性測定により得られる損失正接の極大点は、-15℃以下にあるのが好ましい。
当該損失正接(tanδ)の極大点は、ガラス転移温度(Tg)であると解釈することができ、ガラス転移温度(Tg)が上記範囲にあることで、本粘着シートの貯蔵剪断弾性率(G’(-20℃))を1000kPa以下に調整しやすい。
【0025】
なお、「ガラス転移温度」とは、損失正接(tanδ)の主分散のピークが現れる温度をいう。よって、周波数1Hzの剪断モードで動的粘弾性測定により得られる損失正接(tanδ)の極大点が1点のみ観察される場合、言い換えれば、tanδ曲線が単峰山形状を呈する場合、ガラス転移温度(Tg)が単一であるとみなすことができる。
損失正接(tanδ)の「極大点」とは、tanδ曲線におけるピーク値、すなわち微分した際に正(+)から負(-)に変化する変曲点の中で、所定範囲或いは全体範囲において最大の値を持つ点の意味である。
【0026】
種々の温度における弾性率(貯蔵弾性率)G’、粘性率(損失弾性率)G”及びtanδ=G”/G’は、ひずみレオメーターを用いて測定することができる。
【0027】
<比誘電率>
本粘着シートの比誘電率は5.0以下であるのが好ましい。
本粘着シートの比誘電率が5.0以下であれば、本粘着シートを例えばタッチパネルの下側の部材に使用した際、誤作動などを少なくすることができる。
かかる観点から、本粘着シートは、比誘電率が5.0以下であるのが好ましく、中でも2.0以上或いは4.5以下、その中でも2.5以上或いは4.0以下であるのが好ましい。
本粘着シートの比誘電率を調整する方法としては、例えばポリオレフィン系粘着剤、シリコーン系粘着剤などを混合することで、比誘電率を上記範囲に調整することができる。本粘着シートを構成するアクリル系重合体として、炭素数9~22のアルキル基を有する(メタ)アクリレートを選択することで、比誘電率を低下させることができる。
但し、このような方法に限定するものではない。
【0028】
<全光線透過率、ヘイズ>
本粘着シートの全光線透過率は85%以上であることが好ましく、88%以上であることがさらに好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。
また、本粘着シートは、ヘイズが1.0%以下であることが好ましく、0.8%以下であることがさらに好ましく、特に0.5%以下であることがより好ましい。
本粘着シートのヘイズが1.0%以下であることにより、画像表示装置用の用途に使用することができる。ヘイズを上記範囲にするためには、有機粒子等の粒子を含まないことが好ましい。
【0029】
<本粘着シートの厚み>
本粘着シートの厚みは、特に制限されるものではなく、その厚みが5μm以上であれば、ハンドリング性が良好であり、また、厚みが1000μm以下であれば、積層シートの薄型化に寄与することができる。
よって、本粘着シートの厚みは、5μm以上であるのが好ましく、中でも8μm以上、特に10μm以上であるのがより好ましい。一方、上限に関しては、1000μm以下であるのが好ましく、中でも500μm以下、特に250μm以下であるのがさらに好ましい。
【0030】
[アクリル系重合体]
本粘着シートは、炭素数9~22のアルキル基をもつ単官能アクリレートを(メタ)アクリル酸エステルモノマー成分として有するアクリル系重合体を70質量%以上含むことが好ましく、80質量%含むことがより好ましい。上限は特に定めないが、99質量%以下含むことが好ましい。
アクリル系重合体含有量を上記範囲とすることで、本粘着シートのガラス転移温度を調整し、復元性を向上させることができる。
以下、このアクリル系重合体について詳述する。
【0031】
<単官能(メタ)アクリレート(a1)>
アクリル系重合体を構成するアクリル酸エステルモノマー成分としての単官能(メタ)アクリレート(a1)は、炭素数9~22のアルキル基をもつ(メタ)アクリル酸エステルモノマーであることが好ましく、中でも炭素数9~18のアルキル基をもつ(メタ)アクリル酸エステルモノマーであることがより好ましい。
アルキル(メタ)アクリレートは、そのアルキル基の炭素数、分岐の有無、及び、分岐の構造によって、ホモポリマーのガラス転移温度が異なっており、粘着シートの復元性を発現するためには、できる限りアクリル系重合体が低いガラス転移温度となる組み合わせとすることが好ましく、アルキル炭素数が9~22の範囲内であれば、低いガラス転移温度に調整しやすくなる。分岐構造であるアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートは、炭素数が大きい場合でも結晶性がなく低いガラス転移温度であるので、特に好ましい。
【0032】
炭素数9~22のアルキル基をもつ(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、直鎖又は分岐アルキル(メタ)アクリレートのいずれも採用することができる。例としては、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、t-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、3,5,5-トリメチルシクロヘキサン(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0033】
前記アクリル系重合体は、前記(a1)成分を構成モノマーとして70~95質量%含むことが好ましく、75~90質量%含むことがさらに好ましい。上記の範囲であれば、本積層シートにおいて適当な温度範囲内で部材シートのデラミや割れを抑制することが容易となる。
【0034】
アクリル系重合体の構成モノマーである単官能アクリレートとしては、アルキル(メタ)アクリレート以外に、カルボキシル基含有アクリレート、水酸基含有アクリレート、エポキシ基含有アクリレート、アミノ基含有アクリレート、アミド基含有アクリレート等を挙げることができる。
本発明においては、単官能アクリレートはアクリル系重合体のガラス転移温度を調整する観点からアルキル(メタ)アクリレートであることが好ましい。
【0035】
前記アクリル系重合体の構成モノマーとして、炭素数8以下の単官能アクリレートを含むこともできる。
その例としては、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート、ネオペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリート、イソオクチル(メタ)アクリレート、が挙げられる。
【0036】
<多官能(メタ)アクリレート(a2)>
アクリル系重合体の構成モノマーとして、上記単官能(メタ)アクリレート(a1)の他、多官能(メタ)アクリレート(a2)を含有することが好ましい。
多官能(メタ)アクリレート(a2)をモノマー成分として含有することで、本粘着シートは架橋ネットワークを形成し、貯蔵剪断弾性率が適当な温度範囲内において維持でき粘着特性を発現することができる。
【0037】
多官能(メタ)アクリレート(a2)は、複数の(メタ)アクリレート基を有するアクリレートであれば制限はないが、本粘着シートのG’(80℃)を10kPa以上100kPa以下に調整しやすくする観点から、多官能ウレタン(メタ)アクリレートであることが好ましい。粘着シートを部材シートに貼着し、折り曲げた際に生じる層間応力を低減するために、前記の平均勾配を-9.0~0.0kPa/℃に調整するには、高温側での貯蔵剪断弾性率(G’)が下がらないように架橋ネットワークを形成する必要がある。単官能(メタ)アクリレートとして上記したアルキル(メタ)アクリレートを、多官能アクリレートとして多官能ウレタン(メタ)アクリレートを、モノマー成分としてそれぞれ選択することで、適切なネットワーク形成をしやすくなる。特に架橋密度を上げすぎず貯蔵剪断弾性率(G’(80℃))を100kPa以下にする観点から、2~3個の(メタ)アクリレート基を有する2~3官能のウレタン(メタ)アクリレートがより好ましく、2官能ウレタン(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0038】
多官能ウレタン(メタ)アクリレートの種類は特に制限はないが、好ましくは、分子内に2個以上の水酸基を有するポリオール化合物と、分子内に2個以上のイソシアネート基を有する化合物と、少なくとも分子中に1個以上の水酸基を含有する(メタ)アクリレートとの反応生成物からなる多官能ウレタン(メタ)アクリレートであることが好ましい。
また、多官能ウレタン(メタ)アクリレートの重量平均分子量は、好ましくは、20,000~100,000であり、更に好ましくは25,000~90,000であり、特に好ましくは、30,000~80,000である。重量平均分子量が20,000以上であれば架橋密度が高くなりすぎず、貯蔵剪断弾性率(G’(80℃))を100kPa以下に調整しやすくなる。一方、重量平均分子量が100,000以下であれば、一定以上の架橋密度を維持でき、平均勾配を-9.0~0.0kPa/℃に調整しやすくなる。
なお、本明細書において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算の重量平均分子量をいう。
【0039】
分子内に2個以上の水酸基を有するポリオール化合物は、例として、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、カプロラクトンジオール、ビスフェノールポリオール、ポリイソプレンポリオール、水添ポリイソプレンポリオール、ポリブタジエンポリオール、水添ポリブタジエンポリオール、ひまし油ポリオール、ポリカーボネートジオール等が挙げられる。中でも、透明性に優れ、耐久性に優れることから、ポリカーボネートジオール、ポリブタジエンポリオール、水添ポリブタジエンポリオールが好ましく、特に好ましくは、高温高湿度条件下でも白濁を生じないという観点からポリカーボネートジオール、水添ポリブタジエンポリオールが挙げられる。これらは単独で使用してもよく、複数を組み合わせて使用してもよい。
【0040】
分子内に2個以上のイソシアネート基を有する化合物は、例えば芳香族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネートなどが挙げられ、中でも柔軟性のある硬化物が得られるという観点で、脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネートが好ましい。これらは単独で使用してもよく、複数を組み合わせて使用してもよい。
芳香族ポリイソシアネートの例として、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、1,3-キシリレンジイソシアネート、1,4-キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレン-1,5-ジソシアナート、トリフェニルメタントリイソシアネートなどが挙げられ、脂環式ポリイソシアネートとしては、イソホロンジイソシアネート、ビス(4-イソシアナトシクロヘキシル)メタン、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ノルボルナンジイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネート等が挙げられ、脂肪族ポリイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、1,3,6-ヘキサメチレントリイソシアネート、1,6,11-ウンデカトリイソシアネート等が挙げられる。中でも、高温高湿度下に置いた場合に接着層に白濁が生じない硬化物が得られることから、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等のジイソシアネートが好ましい。
【0041】
少なくとも分子中に1個以上の水酸基を含有する(メタ)アクリレートは、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ポリエチレングリコール等の二価のアルコールのモノ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン等の三価のアルコールのモノ(メタ)アクリレート又はジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、複数を組み合わせて使用してもよい。
【0042】
多官能ウレタン(メタ)アクリレートの合成方法は特に限定されるものではなく、公知の方法を使用することができる。例えば、分子内に2個以上の水酸基を有するポリオール化合物と、分子内に2個以上のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物とを、モル比(ポリオール化合物:イソシアネート化合物)で好ましくは3:1~1:3、より好ましくは2:1~1:2の割合で、希釈剤(例えば、メチルエチルケトン、メトキシフェノール等)中で反応させることによって、ウレタンプレポリマーを得る。得られたウレタンプレポリマー中に残存するイソシアネート基と、これと反応するのに十分な量の少なくとも分子中に1個以上の水酸基を含有する(メタ)アクリレートとを反応させることによって、多官能ウレタン(メタ)アクリレートが得られる。
この時に用いる触媒としては、例えば、オレイン酸鉛、テトラブチルスズ、三塩化アンチモン、トリフェニルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、ジブチル錫ジラウレート、ナフテン酸銅、ナフテン酸亜鉛、オクチル酸亜鉛、オクテン酸亜鉛、ナフテン酸ジルコニウム、ナフテン酸コバルト、テトラ-n-ブチル-1,3-ジアセチルオキシジスタノキサン、トリエチルアミン、1,4-ジアザ[2,2,2]ビシクロオクタン、N-エチルモルホリンなどを挙げることができる。
【0043】
アクリル系重合体の構成モノマーとして含まれる多官能ウレタン(メタ)アクリレート(a2)の含有量は1~30質量%が好ましく、含有量は3~20質量%がより好ましい。上記の範囲であれば、本積層シートにおいて適当な温度範囲内で部材シートのデラミや割れを抑制することが容易となる。
【0044】
(その他モノマー成分)
アクリル系重合体は上記以外のモノマー成分を含有することができる。
例えば、部材シートとの密着性を向上させるために、極性基を有するモノマー成分を含有することが好ましい。この極性基としては、水酸基、チオール基、カルボキシル基、カルボニル基、エステル基、アミノ基、アミド基、グリシジル基、シラノール基などが挙げられ、中でも部材との密着性を向上させ、周辺部材を腐食させにくい極性基として水酸基、アミノ基、アミド基、カルボニル基、エステル基、グリシジル基、シラノール基が好ましく、中でも特に密着性の向上に効果が高いものとして水酸基、アミノ基、アミド基、グリシジル基が好ましい。
このような極性基を含有するモノマー成分としては、例えば4-ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル、4-ヒドロキシブチルアクリレート、ジエチルアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミド、アクリロイルモルフォリン、4-t-ブチルシクロヘキシルアクリレートなどが挙げられる。中でも4-ヒドロキシブチルアクリレート、ジエチルアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミド、アクリロイルモルフォリンが費用や密着性の観点から特に好ましい。
本発明においては、被接着材との接着性の観点から、少なくともアミド基、水酸基、ウレタン基のいずれか1種類以上の官能基を有するモノマー成分を含有するアクリル系重合体であることが好ましい。
また、上記単官能モノマー以外にも2官能以上のアクリレートを含有しても良い。
【0045】
本粘着シートは、重合体以外にも、防錆剤を含有してもよい。
防錆剤の種類としては、トリアゾール類、ベンゾトリアゾール類が特に好ましく、タッチパネル上の透明電極が腐食するのを防止することができる。
好ましい添加量は本粘着シートに対して0.01~5質量%であり、0.1~3質量%がさらに好ましい。
【0046】
(その他、添加材など)
本粘着シートは、重合体以外にも、シランカップリング剤を含有してもよい。
シランカップリング剤の種類としては、グリシジル基を含有する物や、(メタ)アクリル基、ビニル基を有するものが特に好ましい。これらを含有することで、粘着シートを積層シートにした際に、部材シートとの密着性が向上し、湿熱環境下での発泡現象を抑制することができる。
好ましい添加量は本粘着シートに対して0.01~3質量%であり、0.1~1質量%がさらに好ましい。被着体によっては、シランカップリング剤は0.01質量%の添加でも効果を発現することができる。一方で、3質量%以下に調整することで脱アルコールによる発泡を抑えることができる。
【0047】
本粘着シートは、その他、重合開始剤、硬化促進剤、充填剤、カップリング剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、酸化防止剤、安定剤、顔料、又はこれらの幾つかの組み合わせを添加してもよい。
これら添加剤の量は、典型的には、粘着シートの硬化に悪影響を与えないように、又は粘着シートの物理的特性に悪影響を与えないように選択するのが好ましい。
【0048】
また本粘着シートは、上記以外のポリマーを含んでいてもかまわない。
【0049】
[積層シート]
本発明の積層シート(以下、「本積層シート」と称することがある)は、本粘着シートと部材シートとが積層されてなる構成を備えた積層シートである。
中でも、第1の部材シートと、本粘着シートと、第2の部材シートとが、この順で積層されてなる構成を備えた積層シートであるのが好ましい。
この場合、第1の部材シートと第2の部材シートは、本粘着シートの両面それぞれに位置するシートという意味であり、第1及び第2には個別の定義はない。
よって、第1の部材シートと第2の部材シートは同じでもよいし、異なるものでもよい。
【0050】
本積層シートの厚みは、特に制限されるものではないが、画像表示装置に使用される場合の一例としては、本積層体はシート状であり、その厚みが0.01mm以上であれば、ハンドリング性が良好であり、また、厚みが1mm以下であれば、積層体の薄型化に寄与することができる。
よって、本積層シートの厚みは、0.01mm以上であるのが好ましく、中でも0.03mm以上、特に0.05mm以上であるのがより好ましい。一方、上限に関しては、1mm以下であるのが好ましく、中でも0.7mm以下、特に0.5mm以下であるのがさらに好ましい。
【0051】
フレキシブル画像表示装置の構成や本粘着シートの位置にも依るが、第1の部材シート及び第2の部材シートとしては、カバーレンズ、偏光板、位相差フィルム、バリアフィルム、タッチセンサーフィルム、発光素子等が挙げられる。
【0052】
第1の部材シート及び第2の部材シートは、例えば、ポリイミドフィルム、ポリカーボネートフィルム、アクリルポリマーフィルム、TACフィルム、ポリエステルフィルム、環状オレフィンフィルム、薄膜ガラス等が挙げられる。
特に、画像表示の構成を考慮すると、第1の部材シートは、タッチ入力機能を有することが好ましい。本粘着シートが前述した第2の部材シートを有する場合、第2の部材シートもタッチ入力機能を有していてもよい。
【0053】
さらに、第1の部材シートのASTM D882に準拠して測定した25℃の引張強度は10MPa~900MPaであることが好ましく、中でも15MPa以上或いは800MPa以下、中でも20MPa以上或いは700MPa以下であることがさらに好ましい。
本粘着シートが前述した第2の部材シートを有する場合、第2の部材シートのASTM D882に準拠して測定した25℃の引張強度は10MPa~900MPaであることが好ましく、中でも15MPa以上或いは800MPa以下、中でも20MPa以上或いは700MPa以下であることがさらに好ましい。
【0054】
引張強度の高い部材シートとしては、ポリイミドフィルムやポリエステルフィルム等を挙げることができ、これらの引張強度としては一般に900MPa以下である。
他方、引張強度がやや低い部材シートとしては、TACフィルム、環状オレフィンポリマー(COP)フィルム等を挙げることができ、これらの引張強度としては10MPa以上である。本積層シートは、このような引張強度がやや低い材料からなる部材シートを用いても、割れなどの不具合を抑制することができる。
【0055】
[本積層シートの製造方法]
次に、本積層シートの製造方法について説明する。但し、以下の説明は、本積層シートを製造する方法の一例であり、本積層シートはかかる製造方法により製造されるものに限定されるものではない。
【0056】
本積層シートの作製においては、例えば、アクリル系重合体、必要に応じて粘着付与剤、重合開始剤、その他ポリマー、添加剤などを含有する本粘着シート用樹脂組成物を調製し、当該樹脂組成物をシート状に成形し、アクリル系重合体を架橋すなわち重合反応させて硬化させ、必要に応じて適宜加工を施すことにより、本粘着シートを作製すればよい。但し、この方法に限定するものではない。
そして、本粘着シートを、第1の部材シート乃至第2の部材シートに貼着することにより、本積層シートを作製することができる。但し、このような製造方法に限定するものではない。
【0057】
本粘着シート用樹脂組成物を調製する際、上記原料を、温度調節可能な混練機(例えば、一軸押出機、二軸押出機、プラネタリーミキサー、二軸ミキサー、加圧ニーダー等)を用いて混練すればよい。
なお、種々の原料を混合する際、シランカップリング剤、酸化防止剤等の各種添加剤は、予め樹脂とともにブレンドしてから混練機に供給してもよいし、予め全ての材料を溶融混合してから供給してもよいし、添加剤のみを予め樹脂に濃縮したマスターバッチを作製し供給してもよい。
【0058】
本粘着シートに硬化性を付与するためには、上述のように、本粘着シート用樹脂組成物を重合、言い換えれば架橋させるのが好ましい。
この際、第1の部材シート乃至第2の部材シートに本粘着シート用樹脂組成物を塗布して重合させてもよいし、本粘着シート用樹脂組成物を重合させて貼着してもよい。
【0059】
本粘着シート用樹脂組成物を重合させるには、本粘着シート用樹脂組成物は重合開始剤を含むのが好ましい。
該重合開始剤としては、重合反応に利用できる重合開始剤であれば特に限定されない。例えば、熱により活性化するもの、活性エネルギー線により活性化するもの、いずれも使用できる。また、ラジカルを発生し、ラジカル反応を引き起こすもの、カチオンやアニオンを発生し、付加反応を引き起こすものいずれも使用することが出来る。
好ましい重合開始剤としては、光重合開始剤であり、一般に光重合開始剤の選択は、硬化性組成物で用いられる具体的な成分、及び所望の硬化速度に少なくとも部分的に依存する。
【0060】
光重合開始剤の例としては、フェニル及びジフェニルホスフィンオキシド、ケトン、及びアクリジン等の、アセトフェノン、ベンゾイン、ベンゾフェノン、ベンゾイル化合物、アントラキノン、チオキサントン、ホスフィンオキシドを挙げることができる。
具体的には、商品名DAROCUR(Ciba Specialty Chemicals)、IRGACURE(Ciba Specialty Chemicals)及びLUCIRIN TPOとして入手可能なエチル-2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィネート等のLUCIRIN(BASF)として入手可能な光重合開始剤を挙げることができる。
【0061】
光重合開始剤としては、400nm以上に励起波長域を有するものを選択して用いることもできる。具体的な光重合開始剤としては、カンファーキノン、1-フェニル-1,2-プロパンジオンなどのα-ジケトン類;2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイドなどのアシルホスフィンオキサイド類;2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オンなどのα-アミノアルキルフェノン類;またはビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)フェニル)チタニウムなどのチタノセン化合物などのチタノセン類などを挙げることができる。これらの中でも、重合活性の良さ、生体への為害性の少なさなどの観点から、α-ジケトン類やアシルホスフィンオキサイド類が好ましく、カンファーキノン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイドがより好ましい。
【0062】
一方、重合には、光重合開始剤以外にも熱重合開始剤を使用することが出来る。
熱重合開始剤の例としては、アゾ化合物、キニーネ、ニトロ化合物、アシルハロゲン化物、ヒドラゾン、メルカプト化合物、ピリリウム化合物、イミダゾール、クロロトリアジン、ベンゾイン、ベンゾインアルキルエーテル、ジケトン、フェノン、並びにジラウロイルペルオキシド及びNOF Co.からPERHEXA TMHとして入手可能な1,1-ジ(t-ヘキシルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン等の有機ペルオキシドを挙げることができる。
【0063】
用いる重合開始剤は、硬化性組成物の総質量に基づいて0.01~10質量%であることが好ましく、0.01~5.0質量%であることがより好ましい。重合開始剤の混合物を用いてもよい。
【0064】
粘着シート用樹脂組成物を成形体状に成形する方法としては、公知の方法、例えばウェットラミネーション、ドライラミネート、Tダイを用いる押出キャスト法、押出ラミネート法、カレンダー法やインフレーション法、射出成型、注液硬化法等を採用することができる。中でも、シートを製造する場合は、ウェットラミネーション法、押出キャスト法、押出ラミネート法が好適である。
【0065】
また、粘着シート用樹脂組成物が重合開始剤を含む場合、熱及び/又は活性エネルギー線を照射し硬化させることにより、硬化物を製造することができる。特に、本粘着シート用樹脂組成物を成形体成形したものに、熱及び/又は活性エネルギー線を照射することにより、本粘着シートを製造することができる。
ここで、照射する活性エネルギー線としては、α線、β線、γ線、中性子線、電子線などの電離性放射線、紫外線、可視光線などが挙げられ、中でも光学装置構成部材へのダメージ抑制や反応制御の観点から紫外線が好適である。
また、活性エネルギー線の照射エネルギー、照射時間、照射方法などに関しては特に限定されず、重合開始剤を活性化させてモノマー成分を重合できればよい。
【0066】
また、本粘着シートの製造方法の別の実施態様として、後述する本粘着シート用樹脂組成物を適切な溶剤に溶解させ、各種コーティング手法を用いて実施することもできる。
コーティング手法を用いた場合、上記の活性エネルギー線照射硬化の他、熱硬化させることにより本粘着シートを得ることもできる。
【0067】
コーティングの場合、粘着シートの厚みは塗工厚みと塗工液の固形分濃度によって調整できる。
【0068】
なお、ブロッキング防止や異物付着防止の観点から、本粘着シートの少なくとも片面に、離型層が積層されてなる保護フィルムを設けることもできる。
また、必要に応じて、エンボス加工や種々の凹凸(円錐や角錐形状や半球形状など)加工を行ってもよい。また、各種部材シートへの接着性を向上させる目的で、表面にコロナ処理、プラズマ処理およびプライマー処理などの各種表面処理を行ってもよい。
【0069】
[画像表示装置]
本積層シートを組み込むことで、例えば本積層シートを他の画像表示装置構成部材に積層することで、本シートを備えた画像表示装置を形成することができる。
特に本積層シートは、適当な温度環境下で折り畳み操作をしても、積層シートのデラミや割れを防止でき、復元性も良好であるから、フレキシブル画像表示装置を形成することができる。
【0070】
上記他の画像表示装置構成部材としては、偏光フィルム、位相差フィルム等の光学フィルム、液晶材料およびバックライトパネルなどを挙げることができる。
【0071】
[語句の説明など]
一般的に「シート」とは、JISにおける定義上、薄く、その厚さが長さと幅のわりには小さく平らな製品をいい、一般的に「フィルム」とは、長さ及び幅に比べて厚さが極めて小さく、最大厚さが任意に限定されている薄い平らな製品で、通常、ロールの形で供給されるものをいう(日本工業規格JISK6900)。しかし、シートとフィルムの境界は定かでなく、本発明において文言上両者を区別する必要がないので、本発明においては、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
また、画像表示パネル、保護パネル等のように「パネル」と表現する場合、板体、シートおよびフィルムを包含するものである。
【0072】
本明細書において、「X~Y」(X,Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
また、「X以上」(Xは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはXより大きい」の意を包含し、「Y以下」(Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
【0073】
なお、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及びメタクリルを、「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイル及びメタクリロイルを、「(メタ)アクリレート」とはアクリレート及びメタクリレートをそれぞれ包含する意味である。
【実施例】
【0074】
本発明は、以下の実施例により更に説明する。但し、本発明は下記に示す実施例に限定解釈されるものではない。
【0075】
[粘着シートの作製]
それぞれ表1に示した質量比で下記原料を配合して樹脂組成物を作製し、シリコーン離型処理された厚さ100μmの離形フィルム(三菱ケミカル社製PETフィルム)上に、樹脂組成物の厚みが25μmとなるようにシート状に展開した。
次に、当該シート状の樹脂組成物の上からシリコーン離型処理された厚さ75μmの離形フィルム(三菱ケミカル社製PETフィルム)を積層して積層体を形成し、メタルハライドランプ照射装置(ウシオ電機社、UVC-0516S1、ランプUVL-8001M3-N)を用いて、波長365nmの照射量が積算で2000mJ/cm2となるように光照射を行い、25μmの粘着シート(サンプル)の表裏両側に離形フィルムが積層された粘着シート積層体を得た。
【0076】
[粘着シートの原料]
粘着シートの作製に用いた原料の詳細は次のとおりである。
【0077】
<アクリル系重合体のモノマー成分>
1.単官能アクリレート(a1)
(1)ブレンマーCA;
日油社製セチルアクリレート、アルキル基炭素数16
(2)ビスコートV197;
大阪有機化学工業社製ノニルアクリレート、アルキル基炭素数9
(3)IDAA;
大阪有機化学工業社製イソデシルアクリレート、アルキル基炭素数10(分岐)
(4)コーポニールMN060;
日本合成化学工業社製アルキルアクリレート含有ポリマー
【0078】
2.多官能ウレタン(メタ)アクリレート(a2)
(1)CN8892NS;
サートマー社製水素添加ポリブタジエンの2官能ウレタンアクリレート
(2)NKエステルA-DOD-N;
新中村化学工業社製1,10-デカンジオールジアクリレート
【0079】
3.その他モノマー成分
(1)DEAA;
KJケミカル社製ジエチルアクリルアミド
(2)ビスコート216;
大阪有機化学工業社製アクリル酸-2-ブチルカルバモイルオキシエチルエステル
【0080】
<その他ポリマー>
(1)AS-02X;
三洋化成社製。鎖がアクリルポリマー、側鎖がエチレン及び1-ブテンのグラフトポリマー
(2)パンロンS-2012固形分;
根上工業社製。2‐エチルへキシルアクリレート(C8)とブチルアクリレート(C4)を主成分とする、重量平均分子量(Mw):84万,Mw/Mn:3.3の重合体。(※トルエンで希釈された状態で市販されているが、トルエンを揮発させ、固形分のみを回収した。)
【0081】
<その他成分>
1.光重合開始剤
(1)Omnirad TPO-G;
BASF社製アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤
【0082】
【0083】
[粘着シートの評価]
実施例・比較例で得た粘着シート(サンプル)を次のように評価した。
【0084】
<貯蔵剪断弾性率(G’)及び平均勾配>
貯蔵剪断弾性率G’は、レオメータ(英弘精機株式会社製「MARS」)を用いて、実施例及び比較例において作製した各積層体から離型PETを取り除き、積層することで、厚み約2mmの粘着シート(サンプル)を得た。
得られた粘着シート(サンプル)を、試料(厚み約2mm、直径20mmの円状)として用いて以下の測定条件下で、貯蔵剪断弾性率(G’)を測定した。
得られたデータから、損失正接(tanδ)の極大点があらわれる温度(ガラス転移温度(Tg))、-20℃における貯蔵剪断弾性率G’(-20℃)、80℃における貯蔵剪断弾性率G’(80℃)を求めた。さらに、下式から平均勾配を算出した。測定結果を表2に示す。
平均勾配=((G’(80℃))-(G’(-20℃)))/(80-(-20))
【0085】
(測定条件)
・粘着治具:Φ20mmパラレルプレート、
・歪み:0.1%
・周波数:1Hz
・測定温度:-70~100℃
・昇温速度:3℃/分
【0086】
<残留変形量測定>
実施例・比較例で得た粘着シートを複数枚積層し、厚さ1mmにしたシートとした。このシートに対し、レオメータ(TAインスツルメント社製、DHR-2)にてφ8mmの試料を用いて20℃、パラレルプレートで20%の歪を600秒与え、荷重を除いた後、600秒後の残留変形量を測定した。測定結果を表2に示す。
【0087】
<静的折り畳み評価>
上記工程で得られた厚さ25μmの粘着シートの両面に、厚さ50μmのポリイミドフィルム(ユーピレックス50S、宇部興産社製)を貼着し、積層シートを作製した後、20℃にて曲率半径3mmで折り畳み、72時間後に取り出して、復元した角度を測定し、下記基準で復元性を評価した。評価結果を表2に示す。
○:積層シートの内角が170°以上180°以下
×:積層シートの内角が170°未満
【0088】
<低温での動的折り畳み評価>
上記工程で得られた厚さ25μmの粘着シートの両面に、厚さ50μmのポリイミドフィルム(ユーピレックス50S、宇部興産社製)を貼着し、積層シートを作製した後、得られた積層シートを、恒温恒湿器内耐久システムと面状体無負荷U字伸縮試験機(ユアサシステム機器(株)製)を用いて、R=3mm、60rpm(1Hz)の設定にてU字曲げのサイクル評価を行った。
温度、湿度条件とサイクル数は-30℃、3万回で評価した。なお、下記基準で評価した。評価結果を表2に示す。
○:屈曲部のデラミ、破断、座屈、流動のいずれも発生しなかった。
×:屈曲部のデラミ、破断、座屈、流動のいずれかが発生した。
【0089】
【0090】
炭素数9~22のアルキル基をもつ単官能アクリレートを(メタ)アクリル酸エステルモノマー成分として有するアクリル系重合体を70質量%以上含み、残留変形量が4.00%以下である実施例1と2は、静的折り畳み評価、及び、低温での動的折り畳み評価ともに良好なフォルダブル特性を示した。一方、残留変形量が大きい比較例1、2では、静的折り畳み評価において、良好な特性を示さなかった。