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  • 特許-豚コレラの治療及び/又は予防剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】豚コレラの治療及び/又は予防剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/197 20060101AFI20240604BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20240604BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240604BHJP
   A61K 33/26 20060101ALI20240604BHJP
   A61K 33/34 20060101ALI20240604BHJP
   A61K 33/30 20060101ALI20240604BHJP
   A61K 33/24 20190101ALI20240604BHJP
   A61K 33/14 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
A61K31/197
A61P31/14
A61P43/00 121
A61K33/26
A61K33/34
A61K33/30
A61K33/24
A61K33/14
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019239164
(22)【出願日】2019-12-27
(65)【公開番号】P2021107352
(43)【公開日】2021-07-29
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(73)【特許権者】
【識別番号】517198735
【氏名又は名称】KIYAN PHARMA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】迫田 義博
(72)【発明者】
【氏名】河田 聡史
(72)【発明者】
【氏名】富岡 基康
(72)【発明者】
【氏名】吉本 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】和田 康史
【審査官】伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-527566(JP,A)
【文献】特表2009-511459(JP,A)
【文献】特表2010-521489(JP,A)
【文献】特表平09-509682(JP,A)
【文献】特表2006-517196(JP,A)
【文献】特表2009-542790(JP,A)
【文献】特開2001-316255(JP,A)
【文献】国際公開第2014/013664(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/163082(WO,A1)
【文献】特表2000-510123(JP,A)
【文献】特開2019-085382(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)
【化7】
(式中、R1は、水素原子又はアシル基を表し、R2は、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。)
で示される化合物又はその塩を含有する豚コレラの治療及び/又は予防剤。
【請求項2】
R1及びR2が水素原子であることを特徴とする、請求項1に記載の豚コレラの治療及び/又は予防剤。
【請求項3】
さらに、一種又は二種以上の金属含有化合物を含有することを特徴とする請求項1又は2記載の豚コレラの治療及び/又は予防剤。
【請求項4】
金属含有化合物が、鉄、マグネシウム、亜鉛、ニッケル、バナジウム、銅、クロム、モリブデン又はコバルトを含有する化合物であることを特徴とする請求項3記載の豚コレラの治療及び/又は予防剤。
【請求項5】
金属含有化合物が、鉄、マグネシウム又は亜鉛を含有する化合物であることを特徴とする請求項3記載の豚コレラの治療及び/又は予防剤。
【請求項6】
金属含有化合物が、鉄を含有する化合物であることを特徴とする請求項3記載の豚コレラの治療及び/又は予防剤。
【請求項7】
下記式(I)
【化8】
(式中、R1は、水素原子又はアシル基を表し、R2は、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。)
で示される化合物又はその塩を含有する豚コレラウイルスのタンパク質発現抑制剤。
【請求項8】
R1及びR2が水素原子であることを特徴とする、請求項に記載の豚コレラウイルスのタンパク質発現抑制剤。
【請求項9】
さらに、一種又は二種以上の金属含有化合物を含有することを特徴とする請求項又は記載の豚コレラウイルスのタンパク質発現抑制剤。
【請求項10】
金属含有化合物が、鉄、マグネシウム、亜鉛、ニッケル、バナジウム、銅、クロム、モリブデン又はコバルトを含有する化合物であることを特徴とする請求項9記載の豚コレラウイルスのタンパク質発現抑制剤。
【請求項11】
金属含有化合物が、鉄、マグネシウム又は亜鉛を含有する化合物であることを特徴とする請求項9記載の豚コレラウイルスのタンパク質発現抑制剤。
【請求項12】
金属含有化合物が、鉄を含有する化合物であることを特徴とする請求項9記載の豚コレラウイルスのタンパク質発現抑制剤。
【請求項13】
前記豚コレラウイルスのタンパク質が、エンベロープタンパク質である、請求項7~12のいずれか1項に記載の豚コレラウイルスのタンパク質発現抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、豚コレラ(Classical Swine Fever)の治療及び/又は予防剤に関し、さらに詳しくは、5-アミノレブリン酸(5-ALA)若しくはその誘導体又はそれらの塩を含む豚コレラの治療及び/又は予防剤およびこれを用いた豚コレラの治療及び/又は予防に関する。
【背景技術】
【0002】
豚コレラ(Classical Swine Fever)は一本鎖RNAフラビウイルス科ペスチウイルス属のウイルスの感染によって引き起こされるブタおよびイノシシに特有の疾患であり、その感染経路は不明である。豚コレラを発症した動物は、発熱、食欲減退、急性結膜炎といった症状を示し、初期に便秘になった後に下痢に移行する傾向がある。その他症状として、全身リンパ節や各臓器の充出血、点状出血などが認められる。養豚場等で発症動物が発見された場合は、たとえ発症した動物が1頭であっても養豚場全体で殺処分が行われるなど、産業上大きな問題となっている。
【0003】
したがって、豚コレラの治療または予防のために有効な治療薬の開発が必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
非特許文献1:世界保健機関(WHO)ホームページ:「Schistoso
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、新たな豚コレラの治療及び/又は予防剤を提供することである。より詳細には、5-ALA若しくはその誘導体又はそれらの塩を含む豚コレラの治療及び/又は予防剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題解決に向けて鋭意研究を重ねた結果、全く意外にも5-ALAが豚コレラウイルスの増殖および/またはウイルスタンパク質発現を抑制し、豚コレラウイルスを治療または予防することを見いだして本発明を完成した。
【0007】
5-ALAは、細胞内のミトコンドリア内で産生されるヘム系化合物の共通前駆体である。5-ALAは特定の炎症性疾患に対して抗炎症作用を示すことなどが知られていたが、5-ALAおよびその誘導体が豚コレラウイルスの増殖および/またはウイルスタンパク質発現を抑制し、豚コレラを治療または予防し得ることは知られていなかった。本発明は新たに、豚コレラを治療または予防するための、5-ALAおよびその誘導体を含有する医薬およびその使用を提供するものである。
【0008】
さらに、本発明者等は、5-ALAとクエン酸第一鉄ナトリウム(Sodium Ferrous Citrate、SFC)などの金属含有化合物を組み合わせて用いることにより、極めて優れた豚コレラの治療または予防効果が得られることも見出した。
【0009】
すなわち、本発明は以下を提供する。
[項目1]
下記式(I)
【化1】
(式中、R1は、水素原子又はアシル基を表し、R2は、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。)
で示される化合物又はその塩を含有する豚コレラの治療及び/又は予防剤。
[項目2]
R1及びR2が水素原子であることを特徴とする、項目1に記載の豚コレラの治療及び/又は予防剤。
[項目3]
さらに、一種又は二種以上の金属含有化合物を含有することを特徴とする項目1又は2記載の豚コレラの治療及び/又は予防剤。
[項目4]
金属含有化合物が、鉄、マグネシウム、亜鉛、ニッケル、バナジウム、銅、クロム、モリブデン又はコバルトを含有する化合物であることを特徴とする項目3記載の豚コレラの治療及び/又は予防剤。
[項目5]
金属含有化合物が、鉄、マグネシウム又は亜鉛を含有する化合物であることを特徴とする項目3記載の豚コレラの治療及び/又は予防剤。
[項目6]
金属含有化合物が、鉄を含有する化合物であることを特徴とする項目3記載の豚コレラの治療及び/又は予防剤。
[項目7]
(1)下記式(I)
【化2】
(式中、R1は、水素原子又はアシル基を表し、R2は、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。)
で示される化合物又はその塩を含有する豚コレラウイルスのタンパク質発現抑制剤。
[項目8]
R1及びR2が水素原子であることを特徴とする、項目1に記載の豚コレラウイルスのタンパク質発現抑制剤。
[項目9]
さらに、一種又は二種以上の金属含有化合物を含有することを特徴とする項目1又は2記載の豚コレラウイルスのタンパク質発現抑制剤。
[項目10]
金属含有化合物が、鉄、マグネシウム、亜鉛、ニッケル、バナジウム、銅、クロム、モリブデン又はコバルトを含有する化合物であることを特徴とする項目9記載の豚コレラウイルスのタンパク質発現抑制剤。
[項目11]
金属含有化合物が、鉄、マグネシウム又は亜鉛を含有する化合物であることを特徴とする項目9記載の豚コレラウイルスのタンパク質発現抑制剤。
[項目12]
金属含有化合物が、鉄を含有する化合物であることを特徴とする項目9記載の豚コレラウイルスのタンパク質発現抑制剤。
[項目13]
前記豚コレラウイルスのタンパク質が、エンベロープタンパク質である、項目7~12のいずれか1項に記載の豚コレラウイルスのタンパク質発現抑制剤。
[項目14]
下記式(I)
【化3】
(式中、Rは、水素原子又はアシル基を表し、Rは、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。)
で示される化合物又はその塩を、薬学的許容される賦形剤と共に投与することを含む、豚コレラの治療及び/又は予防方法。
[項目15]
下記式(I)
【化4】
(式中、Rは、水素原子又はアシル基を表し、Rは、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。)
で示される化合物又はその塩の、豚コレラの治療及び/又は予防における使用。
[項目16]
下記式(I)
【化5】
(式中、Rは、水素原子又はアシル基を表し、Rは、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。)
で示される化合物又はその塩を、薬学的許容される賦形剤と共に投与することを含む、豚コレラウイルスのタンパク質発現抑制方法。
[項目17]
下記式(I)
【化6】
(式中、Rは、水素原子又はアシル基を表し、Rは、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。)
で示される化合物又はその塩の、豚コレラウイルスのタンパク質発現抑制における使用。
【発明の効果】
【0010】
本発明の豚コレラの治療及び/又は予防剤、並びにウイルスタンパク質発現抑制剤は、特にウイルスエンベロープタンパク質の発現を強力に抑制することにより、感染細胞の増加を抑制し、優れた豚コレラ治療及び/または予防効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、ウイルスの増殖およびタンパク質発現に対する5-ALAまたは5-ALAとSFCの組み合わせの効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(定義)
本明細書において、複数の数値の範囲が示された場合、それら複数の範囲の任意の下限値および上限値の組み合わせからなる範囲も同様に意味する。
【0013】
(本発明の豚コレラの治療及び/又は予防剤、並びにウイルスタンパク質発現抑制剤の有効成分)
本発明の豚コレラの治療及び/又は予防剤、並びにウイルスタンパク質発現抑制剤の有効成分として用いられる化合物は、式(I)で示される化合物又はその塩(以下、これらを総称して「ALA類」ということもある)として例示することができる。δ-アミノレブリン酸とも呼ばれる5-ALAは、式(I)のR及びRが共に水素原子の場合であり、アミノ酸の1種である。5-ALA誘導体としては、式(I)のRが水素原子又はアシル基であり、式(I)のRが水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基である、5-ALA以外の化合物を挙げることができる。
【0014】
式(I)におけるアシル基としては、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、イソバレリル、ピバロイル、ヘキサノイル、オクタノイル、ベンジルカルボニル基等の直鎖又は分岐状の炭素数1~8のアルカノイル基や、ベンゾイル、1-ナフトイル、2-ナフトイル基等の炭素数7~14のアロイル基を挙げることができる。
【0015】
式(I)におけるアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル基等の直鎖又は分岐状の炭素数1~8のアルキル基を挙げることができる。
【0016】
式(I)におけるシクロアルキル基としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロドデシル、1-シクロヘキセニル基等の飽和、又は一部不飽和結合が存在してもよい、炭素数3~8のシクロアルキル基を挙げることができる。
【0017】
式(I)におけるアリール基としては、フェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリル基等の炭素数6~14のアリール基を挙げることができる。
【0018】
式(I)におけるアラルキル基としては、アリール部分は上記アリール基と同じ例示ができ、アルキル部分は上記アルキル基と同じ例示ができ、具体的には、ベンジル、フェネチル、フェニルプロピル、フェニルブチル、ベンズヒドリル、トリチル、ナフチルメチル、ナフチルエチル基等の炭素数7~15のアラルキル基を挙げることができる。
【0019】
上記5-ALA誘導体としては、Rが、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル基等である化合物や、上記Rが、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル基等である化合物が好ましく、上記RとRの組合せが、ホルミルとメチル、アセチルとメチル、プロピオニルとメチル、ブチリルとメチル、ホルミルとエチル、アセチルとエチル、プロピオニルとエチル、ブチリルとエチルの組合せである化合物などを好ましく挙げることができる。
【0020】
5-ALA類は、生体内で式(I)の5-ALA又はその誘導体の状態で有効成分として作用すればよく、投与する形態に応じて、溶解性を上げるための各種の塩、エステル、または生体内の酵素で分解されるプロドラッグ(前駆体)として投与すればよい。例えば、5-ALA及びその誘導体の塩としては、薬理学的に許容される酸付加塩、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン付加塩等を挙げることができる。酸付加塩としては、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、リン酸塩、硝酸塩、硫酸塩等の各無機酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、トルエンスルホン酸塩、コハク酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、グリコール酸塩、メタンスルホン酸塩、酪酸塩、吉草酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩等の各有機酸付加塩を例示することができる。金属塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等の各アルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等の各アルカリ土類金属塩、アルミニウム、亜鉛等の各金属塩を例示することができる。アンモニウム塩としては、アンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩等のアルキルアンモニウム塩等を例示することができる。有機アミン塩としては、トリエチルアミン塩、ピペリジン塩、モルホリン塩、トルイジン塩等の各塩を例示することができる。なお、これらの塩は使用時において溶液としても用いることができる。
【0021】
以上のALA類のうち、望ましいものは、5-ALA、及び5-ALAメチルエステル、5-ALAエチルエステル、5-ALAプロピルエステル、5-ALAブチルエステル、5-ALAペンチルエステル等の各種エステル類、並びに、これらの塩酸塩、リン酸塩、硫酸塩であり、ALA塩酸塩、5-ALAリン酸塩を特に好適に例示することができる。
【0022】
上記ALA類は、化学合成、微生物による生産、酵素による生産のいずれの公知の方法によって製造することができる。また、上記ALA類は、水和物又は溶媒和物を形成していてもよく、またいずれかを単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0023】
本発明の豚コレラの治療及び/又は予防剤、並びにウイルスタンパク質発現抑制剤は、過剰症を生じない範囲で、さらに金属含有化合物を含有するものが好ましく、かかる金属含有化合物の金属部分としては、鉄、マグネシウム、亜鉛、ニッケル、バナジウム、コバルト、銅、クロム、モリブデンを挙げることができるが、鉄、マグネシウム、亜鉛が好ましく、中でも鉄を好適に例示することができる。
【0024】
上記ALA類と金属含有化合物を併用することで、より低濃度のALA類の使用でも、ウイルスタンパク質発現抑制効果、並びに優れた豚コレラの治療及び/又は予防効果を得ることができる。
【0025】
上記鉄化合物としては、有機塩でも無機塩でもよく、無機塩としては、塩化第二鉄、三二酸化鉄、硫酸鉄、ピロリン酸第一鉄を挙げることができ、有機塩としては、カルボン酸塩、例えばヒドロキシカルボン酸塩である、クエン酸第一鉄、クエン酸鉄ナトリウム、クエン酸第一鉄ナトリウム(Sodium Ferrous Citrate、SFC)、クエン酸鉄アンモニウム等のクエン酸塩や、ピロリン酸第二鉄、ヘム鉄、デキストラン鉄、乳酸鉄、グルコン酸第一鉄、ジエチレントリアミン五酢酸鉄ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸鉄アンモニウム、エチレンジアミン四酢酸鉄ナトリウム、エチレンジアミン五酢酸鉄アンモニウム、ジカルボキシメチルグルタミン酸鉄ナトリウム、ジカルボキシメチルグルタミン酸鉄アンモニウム、フマル酸第一鉄、酢酸鉄、シュウ酸鉄、コハク酸第一鉄、コハク酸クエン酸鉄ナトリウム等の有機酸塩や、トリエチレンテトラアミン鉄、ラクトフェリン鉄、トランスフェリン鉄、鉄クロロフィリンナトリウム、フェリチン鉄、含糖酸化鉄、グリシン第一鉄硫酸塩を挙げることができる。
【0026】
上記マグネシウム化合物としては、クエン酸マグネシウム、安息香酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、酸化マグネシウム、塩化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、ジエチレントリアミン五酢酸マグネシウムジアンモニウム、エチレンジアミン四酢酸マグネシウムジナトリウム、マグネシウムプロトポルフィリンを挙げることができる。
【0027】
上記亜鉛化合物としては、塩化亜鉛、酸化亜鉛、硝酸亜鉛、炭酸亜鉛、硫酸亜鉛、ジエチレントリアミン五酢酸亜鉛ジアンモニウム、エチレンジアミン四酢酸亜鉛ジナトリウム、亜鉛プロトポルフィリン、亜鉛含有酵母を挙げることができる。
【0028】
上記金属含有化合物は、それぞれ1種類又は2種類以上を用いることができ、金属含有化合物の投与量としては、5-ALAの投与量に対してモル比で0~100倍であればよく、0.01倍~10倍が望ましく、0.1倍~8倍がより望ましい。
【0029】
本発明の豚コレラの治療及び/又は予防剤、並びにウイルスタンパク質発現抑制剤は、過剰症を生じない範囲で、さらに他の抗ウイルス剤や、他の疾患治療薬と併用することができる。これら他の薬剤の投与量、および5-ALAの投与量との比率は、当業者が適宜調整することができる。
【0030】
(本発明の治療及び/又は予防剤並びにウイルスタンパク質発現抑制剤の投与方法)
本発明の豚コレラの治療及び/又は予防剤に含有されるALA類と金属含有化合物または他の薬剤は、これらのうちのいずれか2つ以上を含む組成物としても、あるいは、それぞれを単独で含む組成物としても投与することできる。ALA類と金属含有化合物または他の薬剤とを、それぞれ単独で含む組成物を用いる場合、これらを同時に投与してもよく、また、別々に投与してもよい。好ましくは、ALA類と金属含有化合物または他の薬剤との投与が相加的効果、好ましくは相乗的効果を奏することができるように組み合わせて投与することができる。ALA類と金属含有化合物または他の薬剤をそれぞれ単独で含む組成物を別々に投与する場合、それらの投与間隔は、5分、10分、15分、20分、30分、45分、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、11時間、12時間等に設定できるが、これらに限定されない。
【0031】
本発明の豚コレラの治療及び/又は予防剤並びにウイルスタンパク質発現抑制剤の投与経路としては特に限定されないが、経口投与、吸入投与、注射、点滴等による静脈内投与、経皮投与、座薬、又は経鼻胃管、経鼻腸管、胃ろうチューブ若しくは腸ろうチューブを用いる強制的経腸栄養法による投与等の非経口投与などを使用することができる。
【0032】
(本発明の治療及び/又は予防剤並びにウイルスタンパク質発現抑制剤の剤型)
本発明の豚コレラの治療及び/又は予防剤並びにウイルスタンパク質発現抑制剤の剤型としては、上記投与経路に応じて適宜決定することができるが、注射剤、点滴剤、錠剤、カプセル剤、細粒剤、散剤、液剤、シロップ等に溶解した水剤、パップ剤、座薬剤等を挙げることができる。
【0033】
本発明の豚コレラの治療及び/又は予防剤並びにウイルスタンパク質発現抑制剤を調製するために、必要に応じて、薬理学的に許容し得る担体、賦形剤、希釈剤、添加剤、崩壊剤、結合剤、被覆剤、潤滑剤、滑走剤、滑沢剤、風味剤、甘味剤、可溶化剤、溶剤、ゲル化剤、栄養剤等を添加することができ、当業者は各具体的な成分を目的に応じて選択することができる。
【0034】
(本発明の治療及び/又は予防剤並びにウイルスタンパク質発現抑制剤の投与量)
本発明の豚コレラの治療及び/又は予防剤並びにウイルスタンパク質発現抑制剤の投与の量・頻度・期間としては、豚コレラを治療又は予防しようとする動物の種類、年齢、体重、症状等により異なるが、例えば豚に投与する場合、ALA類の投与量としては、5-ALAモル換算で、動物1頭当たり、0.01-200mg/体重kg/日、好ましくは0.5-100mg/体重kg/日、より好ましくは1-50mg/体重kg/日、さらに好ましくは5-30mg/体重kg/日を挙げることができ、特に予防剤として用いる場合は、低容量を継続して摂取することが望ましい。例えば予防剤サプリメントとして投与する場合には、0.1-10mg/体重kg/日、好ましくは0.5~1mg/体重kg/日などの投与量で投与することができる。投与頻度としては、一日一回~複数回の投与又は点滴等による連続的投与を例示することができる。治療剤または予防剤としての投与期間は、獣医等当該技術分野の専門家が既知の方法により決定することができる。
【0035】
(本発明の治療及び/又は予防剤並びにウイルスタンパク質発現抑制剤の適用症状)
本発明の豚コレラの治療及び/又は予防剤並びにウイルスタンパク質発現抑制剤は、豚コレラの感染および/または発症を原因として生じる様々な症状の治療および予防に適用することができる。そのような症状として、発熱、食欲減退、急性結膜炎、便秘、下痢、全身リンパ節や各臓器の充出血、点状出血を例示することができるが、これらに限定されない。
【0036】
(本発明の治療及び/又は予防剤並びにウイルスタンパク質発現抑制剤の適用動物)
本発明の豚コレラの治療及び/又は予防剤並びにウイルスタンパク質発現抑制剤は、豚、イノシシおよびこれらの近縁動物に投与することができる。
【0037】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【実施例1】
【0038】
以下に示すように、既知の報告(Journal of Virology,2019,Vol.93,no.22,e01191-19)に基づいて、HiBitペプチドタグをコードする核酸を、ウイルスエンベロープタンパク質Ernsをコードする核酸の5‘側に挿入・融合させた組み換え豚コレラウイルスを用いて、ウイルス増殖およびウイルスタンパク質発現に対する、5-ALA、または5-ALA+SFCの効果を評価した。
【0039】
1.細胞:
豚腎尿細管上皮細胞由来の株化細胞(SK-L細胞、In Vitro Cell Dev Biol Anim. 1998 Jan;34(1):53-7、農林水産省家畜衛生試験場より入手)を用いた。
【0040】
2.豚コレラウイルス
Journal of Virology, 2019, Vol. 93, no. 22, e01191-19に基づいて、HiBitペプチドタグをコードする核酸を、ウイルスエンベロープタンパク質Ernsをコードする核酸の5‘側に挿入・融合させた豚コレラウイルスGPE株(108.3TCID50/ml)を作成し、これを試験に用いた。
【0041】
3.培地
イーグルMEM培地に0.295%トリプトースフォスフェイトブロス、10mM N, N-bis (2-hydroxyethyl)-2-aminoethanesulfonic acid (BES)、0.292mg/ml L-グルタミン、10%ウマ血清を添加して培養液とした。
【0042】
4.培養:
SK-L細胞を2セットの6穴プレートに、1穴(ウェル)あたり8.8x10個/mlの濃度で2mL分注した。細胞が90%のコンフルエンスに達した時点を試験開始点(0日目)として試験を開始した。
【0043】
5.試験:
試験開始時点でプレートの2mLの培地を含むウェルあたり、moi(Multiplicity of Infection)=0.1となるように希釈したウイルス含有溶液を200μLずつ接種し、15分毎に軽く揺らした後、接種1時間後にウイルスを含む培地を除去し、新たに培地を2mLずつ加えた。
各ウェルから培地400μLを回収し、そのうち50μLをルシフェラーゼ測定に供し、代わりに下記の溶液を培地に加えた。
5-ALAとして、5-ALA塩酸塩を用いた。
培養開始24時間後(第1日目)、各ウェルから培地400μLを回収し、そのうち50μLをルシフェラーゼ測定に供し、代わりに下記の溶液を培地に加えた。
2日目から5日目まで、上記1日目と同様の方法で培地を交換して培養した。
なお、豚コレラウイルスについてはmoi=0.1接種で3日目が増殖のピークであることが判明しており(北海道大学、博士(獣医学)乙第5508号)、実験5日目の時点で試験を終了した。
【0044】
6.結果
試験開始後第0~5日目から得られた培養液について、ルシフェラーゼアッセイを行ったところ、図1に示すとおり、5-ALAを添加した培地で培養した場合、ルシフェラーゼ活性が抑制されることが分かった。5-ALAに加えてSFCを添加した培地で培養した場合、更に強力なルシフェラーゼ活性抑制が得られ、5日目においてその抑制効果は、豚コレラウイルス免疫豚血清を添加した培地で培養した場合よりもさらに強力であった。
なお、細胞変性を目視によって観察したところ、第1群~第6群の間で、細胞変性の程度に差異はなく、いずれの薬剤も細胞障害性を有しないことが確認できた。
当該試験により、5-ALAおよび5-ALA+SFCにより、ウイルスの増殖およびタンパク質発現が抑制されることが判明した。
【0045】
以上示した通り、本発明の5-アミノレブリン酸(ALA)若しくはその誘導体又はそれらの塩を含む組成物により、豚コレラウイルスの増殖およびウイルスタンパク質の発現を抑制し、豚コレラを治療及び/又は予防することができる。
図1