(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】泡増強剤、これを含むプレミックス溶液、これらを含むポリウレタン発泡体形成用組成物、および疎水性が改善されたポリウレタン発泡体
(51)【国際特許分類】
C08G 18/00 20060101AFI20240604BHJP
C08G 18/10 20060101ALI20240604BHJP
C08G 18/48 20060101ALI20240604BHJP
C08G 18/76 20060101ALI20240604BHJP
C08G 77/46 20060101ALI20240604BHJP
C08G 101/00 20060101ALN20240604BHJP
【FI】
C08G18/00 G
C08G18/00 H
C08G18/10
C08G18/48
C08G18/76 057
C08G77/46
C08G101:00
(21)【出願番号】P 2020083550
(22)【出願日】2020-05-12
【審査請求日】2023-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】719000328
【氏名又は名称】ダウ・東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田村 誠基
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 裕之
【審査官】前田 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-040263(JP,A)
【文献】特表2017-533307(JP,A)
【文献】特開2018-083928(JP,A)
【文献】特開2007-197499(JP,A)
【文献】特開平11-140156(JP,A)
【文献】特開2009-191966(JP,A)
【文献】特開平05-070544(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)分子内の平均水酸基数が2~4であり、オキシプロピレン基からなる繰り返し単位を有し、数平均分子量が1000~6000の範囲内にある、1種類以上のポリエーテルポリオール、
a´) a)成分であるポリエーテルポリオール以外の、少なくとも1つ以上のポリオール成分
b)ポリイソシアネート、
c)硬化触媒、
d)水である発泡剤 同システム中の成分a)であるポリエーテルポリオールおよびその他のポリオール成分の和 100質量部に対して
15~35質量部の範囲、
e)一般式(1):
【化1】
{式中、Rは各々独立にアルキル、アリール、アラルキル基から選択される炭素原子数1~16の1価の炭化水素基を表し、
Xは、各々独立に式:-C
kH
2kO-(C
2H
4O)
p(C
3H
6O)
q(C
4H
8O)
r-Yで示される1種類または2種類以上のポリエーテル基を表し、
Yは、100モル%がH基であるか、75モル%以上のH基と25モル%以下のC1~C4アルキル又はアセチル基から選ばれるその他の基からなり、
m、n、k、p、q 、r は以下の条件を満たす数である。
12≦(m+n)≦230、
10≦m、
2≦n、
n≦m、
3≦k≦4、
p、q、rは、Xで表されるポリエーテル基部分の式量が1400~4000の範囲内にあり、
{(C
3H
6O)qで表されるオキシプロピレン基部分および(C
4H
8O)rで表されるオキシブチレン基部分の式量の和}/{(C
2H
4O)pで表されるオキシエチレン基部分の式量の和)}である比の値Zが、
(51/49)≦Z≦(95/5)の条件を満たす数である。
ただし、式中のXにおいて、1≦pかつq=r=0である構造を有するポリエーテル基は除く。}
で表されるシリコーンポリエーテル共重合体を含有する泡増強剤、および
f)POE(9~20)ノニルフェニルエーテルおよびPOE(9~20)オクチルフェニルエーテルから選ばれる1種類以上のノニオン性界面活性剤 同システム中の成分a)であるポリエーテルポリオールおよびその他のポリオール成分の和 100質量部に対して5~30質量部の範囲
を含む、
ポリウレタンスプレーフォームシステム用のプレミックス液。
【請求項2】
前記一般式(1)において、
Xが、各々独立に式:-C
3H
6O(C
2H
4O)
p(C
3H
6O)
q-H
で示される1種類または2種類以上のポリエーテル基であり、
Xで表されるポリエーテル基部分の式量が1500~2500の範囲内にあり、かつ、
前記の比Zが(54/46)≦Z≦(80/20)の条件を満たす、
請求項1に記載の
ポリウレタンスプレーフォームシステム用のプレミックス液。
【請求項3】
前記一般式(1)において、Rがメチル基であり、m、nが、40≦m≦90、かつ、2≦n≦8の条件を満たす、
請求項1または請求項2に記載の
ポリウレタンスプレーフォームシステム用のプレミックス液。
【請求項4】
前記のb)ポリイソシアネートが、MDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)、ポリメリックMDI(ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート),クルードMDI,イソシアナート基含有プレポリマー、およびこれらの誘導体から選ばれる成分であり、かつ、
同システムの発泡剤がd)水のみであることを特徴とする、
請求項1~3のいずれか1項に記載の
ポリウレタンスプレーフォームシステム用のプレミックス液。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のポリウレタンスプレーフォームシステム用のプレミックス液を含む、ポリウレタン発泡体形成用組成物。
【請求項6】
g)難燃剤をさらに含む、請求項
5に記載のポリウレタン発泡体形成用組成物。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載のポリウレタン発泡体形成用組成物を硬化させてなる、軟質ポリウレタン発泡体。
【請求項8】
請求項7に記載の軟質ポリウレタン発泡体を有する断熱材又は吸音材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、a)特定のポリエーテルポリオール、b)ポリイソシアネート、c)硬化触媒、およびd)主要発泡剤である水 を含む水発泡型ポリウレタンスプレーフォームシステム用の特定の構造を有するシリコーンポリエーテル共重合体を含有する泡増強剤に関し、当該泡増強剤は、同システムにより得られるポリウレタン発泡体、特に、軟質ポリウレタン発泡体に対して優れた疎水性改善効果を有する。また、本発明は、前記のa)~d)成分および当該シリコーンポリエーテル共重合体を含有する泡増強剤を含むプレミックス溶液に関し、これらの成分、任意でその他の添加剤等を含んでもよい、ポリウレタン発泡体形成用組成物に関する。また、本発明は、当該シリコーンポリエーテル共重合体を含有する泡増強剤を用いる、ポリウレタン発泡体およびその疎水性の改善方法に関するものである。なお、以下の説明において、「フォーム」とは、特に異なる説明がない限り、ポリウレタンの発泡体を意味するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から住宅や冷凍保温倉庫、タンク設備など各種建造物の断熱施工部分に、断熱層を現場発泡により施工する方法が行われている。断熱発泡層の材質としては、ポリイソシアネートとポリオールとを発泡剤存在下に反応させて形成される発泡ポリウレタンがよく用いられる。一般的には、発泡剤を含んだ原料混合液を施工箇所の隙間に注入或いはスプレーすることにより反応硬化させ、発泡ポリウレタンの断熱層を形成する。ここで使用される発泡ポリウレタンのタイプは大きく2つに分けられる。1つは、独立気泡(セル)構造を有しその内部に熱伝導性の低い発泡剤ガスを含む「硬質ウレタンフォーム」と呼ばれる剛直なフォーム構造体であり、もう1つは隣り合うセル間の壁に小さな孔を有する構造により発泡体が通気性を有し、且つ柔軟なフォーム構造を特徴とする「軟質ウレタンフォーム」である。前者は断熱性に優れているが一般に荷重がかかった時の追従性を欠いており、後者に比して高価である。一方、後者は前者に比べ断熱性には劣るが荷重に対する追従性を有し、従って建造物が揺れた場合の耐久力:基材-ポリウレタン接着面の破断の生じ難さには優れると期待される。それ故、前者はビルやブロック等の強固なコンクリート建造物に利用するのに適しており、後者はより低コストが重視される、例えば木造の個別住宅等に利用するのが理に適っている。後者の発泡剤としては、環境面への配慮やコスト面から水を利用するのが好ましい。この場合、水はイソシアナートと反応して二酸化炭素を発生するので、二酸化炭素が真の発泡剤として働く。近年は、更に低コスト化のニーズが強まり、発泡倍率の高い(すなわち水の使用部数の多い)低密度フォーム処方が広がってきた。こうした発泡ポリウレタンシステムの販売者は、cost-in-useの視点から同一使用量でより大きな体積のフォームを形成できる整泡剤を求める傾向にあり、現在、汎用の軟質スラブフォーム向け整泡剤の市販品が、住宅用の断熱スプレーフォームシステムにも適するとして利用されている。
【0003】
このような発泡ポリウレタン断熱層は、通常は住宅等の外壁と室内側の内壁との間に位置する。従って、冬季など寒い時期には、室内側の湿気を含んだ暖かい空気が断熱層の内部に移行した際、外壁側から冷やされて結露を生じる可能性がある。結露はカビ発生の原因となる懸念があることに加えてポリウレタンの劣化にもつながるため、透湿性或いは吸水性のより低い発泡ポリウレタンシステムの開発が望まれていた。なお、このような発泡ポリウレタン断熱層は、住宅の階上床と階下天井部との間に位置させることにより、階上での衝撃音を効果的に吸収する吸音層としても活用できる。これは、当該発泡ポリウレタンが独立気泡タイプではなく開放セル構造に基づく連通タイプであるため、音がセル内に進入し易くなって該セル内で効率良く減衰するため、防音性が高くなることによる。
【0004】
一方、ポリエーテル変性シリコーンは、様々な構造や平均分子量の設計が可能であり、ポリエーテル部のEO wt.%やサイズ、シリコーン主鎖への親油基の導入、シリコーン主鎖構造のバリエーションや変性基の導入部位、異なる2以上のポリエーテル基による変性等によっても、界面活性能や発泡剤への適合性、ウレタンフォームシステムへの親和性等をコントロールする事ができる。従って、ポリエーテル変性シリコーンは、硬質フォーム、半硬質フォーム、HR(高弾性)フォーム(以下、単に「HRフォーム」ということがある)、軟質フォーム、マイクロセルラーフォーム等全てのポリウレタンフォーム処方で、気泡コントロール或いは気泡安定用の界面活性剤(整泡剤)として有用であることが古くから知られており、現在まで数多くの品種が商業的に製造・販売されており、ポリウレタンフォーム産業の発展に大きく貢献している。
【0005】
しかしながら、水の添加部数の多い建造物断熱用の現場発泡スプレーフォームは、ポリウレタンフォーム産業の長い歴史の中では比較的新しい技術分野と考えられる。すなわち、本発明者らの調査した範囲では、ポリエーテル変性シリコーン整泡剤の化学構造、当該スプレーフォーム処方での整泡剤の性能、得られたフォーム特性との相関等について、これまで詳細な報告は為されていなかった。この理由は、当該フォームシステムに既存の軟質スラブフォーム用整泡剤を転用できたことから、ポリエーテル変性シリコーンの製造業者にとって新たな整泡剤を開発する必要性が少なかったためと考えられる。
【0006】
軟質スラブフォームに代表される一般的な軟質ウレタンフォームは、各種のポリウレタンフォームの中で最も歴史の古いものである。1950年代の最初の軟質ウレタンフォームの製造は、ポリエステルポリオールを原料としてプレポリマー法という2段階反応法により行われていた。1956年に有機スズ触媒、シリコーン整泡剤、アミン触媒とスズ触媒との組み合わせが発見された事により、ポリエステルポリオールとTDI(トリレンジイソシアネート)とを主原料としたワンショット軟質ウレタンフォームの商業生産が開始された。1957年には、ユニオンカーバイド社がより安価な原料としてポリエーテルポリオールの商業生産を開始すると共に、翌1958年に同社はその新しいポリオールに適した触媒とポリエーテル変性シリコーン整泡剤、これらを利用するワンショット軟質ポリエーテルウレタンフォームの製造プロセスを発見した(特許文献1)。これをきっかけとして、ウレタンフォーム産業の世界的な成長が始まったと言える。この最初のポリエーテル変性シリコーン整泡剤は、ポリエーテル基とポリシロキサン基がSi-O-C結合により連結した構造を有しており加水分解を受け易い性質であったため、ポリエーテル基とポリシロキサン基がSi-C結合により連結した非加水分解型のポリエーテル変性シリコーン整泡剤が、ダウコーニング社により新たに開発された(特許文献2)。
【0007】
その後も現在に至るまで、軟質フォーム向け整泡剤の開発は数多く行われてきた。新たな整泡剤技術が必要となる動機は、化学物質管理など法律的な規制・要求やフォーム製造コスト削減のほか、軟質ウレタンフォームの細分化された用途や求められるフォーム物性に応じたフォーム処方変更・改良にある場合が多い。例えば、以下のような事例が挙げられる。I)ある難燃剤や難燃性成分をベースとなるウレタンシステムに新たに処方するにあたり、元の処方に使用していた整泡剤ではシステムへの相溶性や得られるフォーム特性が不十分なため、改良処方向けの新たな整泡剤が必要となった。II)昔の処方には発泡剤としてフロンガスが使用されていたが、オゾン層破壊の原因物質ならびに温室効果ガスであることが明らかとなったため、様々な国際協定・法律により先進国を中心に大幅な使用制限が課せられた事から、それに先立って代替フロンや別の物質を発泡剤として用いる新処方に更新するにあたり、元の処方に使用していた整泡剤ではシステム(又は新しい発泡剤)への相溶性や得られるフォーム特性が不十分なため、新たな整泡剤が必要となった。III)ある物性上の特徴を有する軟質ウレタンフォームを商品化するために、新しい構造のポリオール(又はポリオールの特定の組合せ)を利用する新しいウレタンフォームシステムを開発するにあたり、既存の整泡剤では適合性の良いものが無いため、新たな整泡剤が必要となった。IV)フォーム製造コスト削減に関連する事例として、IV-1) プロセス許容範囲 (Processing Latitude) のより広い:すなわち使用量の変動や大小によりフォーム特性に与える影響のより少ない整泡剤が求められた例(フォーム製品の歩留まり向上目的)、IV-2) 逆に、より少ない使用量で正常なフォームを形成できる整泡剤が求められた例、IV-3) フォーム特性に影響する整泡性能をより安定化或いは改善できる整泡剤が求められた例、IV-4) プレミクス液の化学的/物理的或いは性能的な安定性を改善できる整泡剤が求められた例などである。こうした多様な軟質ウレタンフォーム処方の各々に対し、最適化された構造・組成のポリエーテル変性シリコーン整泡剤が開発され、利用されているのが通常である。
【0008】
しかし、長年にわたるシリコーン整泡剤製造業者とポリウレタンフォーム製造業者双方の検討や経験等により、軟質ウレタンフォームに必要なポリエーテル変性シリコーンの構造要素について明確に理解されている要件が1つある。それは、ポリエーテル鎖末端の水酸基がアルコキシ化やアセトキシ化などにより封鎖された構造のポリエーテル基により変性されたシリコーンでなくてはならないという点である。市販の軟質スラブフォーム用整泡剤も一般にこの要件を満たしている。さもなければ、ウレタン反応・発泡プロセス中に気泡の過剰な安定化が起こり、隣り合うセルの壁に孔が開かず、独立気泡型のフォーム構造となってしまう。軟質ウレタンフォームの樹脂骨格は柔軟なため、独立気泡構造になると、反応熱が収まり室温に戻る段階でセル内部に閉じ込められたガス体積が収縮するのに伴いフォーム全体が収縮し、使い物にならなくなる。従って、ポリエーテル変性シリコーンのうち、末端が水酸基であるポリエーテル鎖がポリエーテル基の主体をなすような構造体は、軟質ウレタンフォームにとって無価値であるということが、業界の技術常識となっている。逆に、EO wt.%が大きく末端が水酸基であるポリエーテル鎖で変性されたシリコーンは、独立気泡型の微細セル構造の必要な一般の硬質ウレタンフォーム(PIR:ポリイソシアヌレートフォームも含む)では、よく利用されている。すなわち、PO wt.%が大きく末端が水酸基であるポリエーテル鎖で変性されたシリコーンについては、ポリウレタン整泡剤分野で商業的実用面から不要なものと認識されている。
【0009】
特許文献3は、i)水、特定構造のポリエーテル変性シリコーン、アミン触媒、水溶性で
曇点を向上できるケイ素原子不含の有機系界面活性剤、を所定の比率で含むポリウレタンフォーム製造のための溶液組成物、ii)当該溶液組成物を使用する軟質ポリウレタンフォームの製造プロセスを開示した。この中で、末端が水酸基であるポリエーテル鎖により側鎖変性されたPDMS(ポリジメチルシロキサン)を「比較用コポリマーI」、これを含む溶液組成物を「比較用プレミクス液K-2」として、軟質モールドフォーム処方で試験した結果、通気性に乏しい緻密すぎるフォームが得られたことが報告された。このフォーム処方ではフロンガスが主要な発泡剤であり、ポリオール100部に対する水の添加部数は5.5部であった。
【0010】
特許文献4は、i)短いポリシロキサン主鎖にEO wt.%の異なる2種類のポリエーテル鎖をグラフト結合した特定構造のポリエーテル変性シリコーンを整泡剤として使用する、コールドキュア・高弾性(HR)ポリウレタンフォーム製造プロセスの改良、及びii)それにより得られるフォームを開示した。この中で、末端が水酸基である2種類の異なるポリエーテル鎖により側鎖変性されたPDMSが「実施例5」において調製され、4種類のHRモールドフォーム処方で試験された。これらのフォーム処方では水が主要な発泡剤であり、ポリオール100部に対する水の添加部数は2.0~3.7部という少量であった。
【0011】
特許文献5は、i)EO wt.%の異なる2種類のポリエーテル鎖を有する特定構造のポリエーテル変性シリコーン整泡剤を使用する、硬質ポリウレタンフォームの製造プロセス、ii)当該ポリエーテル変性シリコーン整泡剤、iii)前記プロセスにより得られたフォームで満たされた物品を開示した。この中で、末端が水酸基であるポリエーテル鎖により側鎖変性されたPDMSを、「比較用整泡剤VI」として2種類の硬質モールドフォーム処方で試験した結果、型枠近傍のエッジゾーンが圧縮された密度勾配の大きなフォームが得られたことが報告された。これらのフォーム処方ではフロンガスが主要な発泡剤であり、ポリオール100部に対する水の添加部数は1.0~2.0部という少量であった。
【0012】
特許文献6は、複合金属シアン化物錯体触媒によりアルキレンオキシドを開環重合して得られたポリエーテル化合物から誘導されたポリエーテル鎖を有する、特定構造のオルガノポリシロキサンからなる整泡剤を用いるポリウレタンフォームの製造方法を開示した。この中で、末端が水酸基であるポリエーテル鎖により側鎖変性されたPDMSが2種類:「整泡剤A(製法1:実施例1向け),整泡剤E(製法5:比較例4向け)」として調製され、ホットキュアモールド軟質フォームの処方で試験された。当該文献中では、このフォーム処方について簡易に軟質ポリウレタンフォームとも表記しているが、処方中にポリマーポリオールが含まれていた事から、一般的な軟質フォームではなくHRフォームの処方であったことが分かる。このフォーム処方では水が主要な発泡剤であり、ポリオール100部に対する水の添加部数は5.5部であった。
【0013】
特許文献7は、EO wt.%と平均分子量の異なる2種類のポリエーテル鎖により変性された、比較的高重合度のPDMSと希釈剤との混合物(但し混合物の粘度は3000cP未満)を用い、水を発泡剤とするポリウレタンフォームの製造方法を開示した。当該技術が主に対象としたフォームタイプは一般的な軟質フォームと考えられ、数多く例示されたポリエーテル変性シリコーンのほとんどが、「ポリエーテル鎖末端の水酸基がアルコキシ化やアセトキシ化などにより封鎖された構造のポリエーテル基により変性されたシリコーン」であった。唯一つ「No.68」として、末端が水酸基であるポリエーテル鎖3種類により変性されたPDMSが調製され、希釈したのちに高含水軟質ウレタンフォーム処方で試験されたが、粗いセルサイズやスプリットにもかかわらず通気性の極めて低いフォームが得られたことが記されていた。この水発泡軟質フォーム処方は「高含水試験」と表現されてはいるものの、ポリオール100部に対する水の添加部数は6.5部にすぎなかった。
【0014】
特許文献8は、i)沸点175℃以上の乾性又は半乾性の液状植物油(又はその誘導体)とオルガノシロキサンコポリマー界面活性剤の存在下に行われた、ポリイソシアネートとポリオールとの反応生成物であるHRポリウレタンフォーム組成物、及びii)当該フォームの製造プロセスを開示した。この中に、末端が水酸基であるポリエーテル鎖により変性されたPDMSと各種溶媒との混合物の調製例が複数報告されていたが、実際のHRモールドフォーム処方(4種類)で試験が行われたコポリマー溶液は、重合度の小さなPDMS主鎖に短鎖ポリエーテルがグラフトした構造体と当該植物油との混合物に限定されていた。これらのフォーム処方では水が主要な発泡剤であり、ポリオール100部に対する水の添加部数は3.8~4.2部という少量であった。
【0015】
特許文献9は、i)末端が水酸基であるポリエーテルを両端に有するABA´型の直鎖状ポリエーテル-ポリシロキサンコポリマーを使用することにより得られる、剛性で安定な開放セル型ポリウレタンフォーム、およびii)その製造プロセスを開示した。この中で、末端が水酸基であるポリエーテル鎖により側鎖変性されたPDMSが、「比較例34、比較例38、比較例41」において、2種類の高密度軟質マイクロセルラーフォーム処方で試験され、片方の処方でフォームの激しい収縮を起こした結果が報告された。当該試験の条件下においては水が主要な発泡剤であったと考えられるが、ポリオール100部に対する水の添加部数は1部とごく少量であった。
【0016】
特許文献10は、i)ポリエーテル変性シリコーンと、分子内に1つの2級水酸基を有し、オキシアルキレン繰り返し数が2~3である特定のモノアルキルグリコールエーテル希釈剤とからなる組成物、ii)それを含む界面活性剤、整泡剤、ポリウレタンフォーム形成性組成物、ポリウレタンフォーム、及びiii)前記のポリエーテル変性シリコーンと希釈剤とからなる組成物の製造方法を開示した。この中で、末端が水酸基であるポリエーテル鎖により側鎖変性されたPDMSと希釈剤とを含む組成物が、「実施例2-1」として調製された。更に、幾つかの実施例組成物を整泡剤として利用可能な、軟質ウレタンフォームの処方例(但し、非実施)が2つ示されている。これらのフォーム処方では塩化メチレンが主要な発泡剤であり、ポリオール100部に対する水の添加部数は5.5部又は3.3部とされる。
【0017】
以上をまとめると、特許文献1~2には、末端が水酸基であるポリエーテル鎖で変性されたシリコーン整泡剤は示されていなかった。特許文献3~10には、PO wt.%が大きく末端が水酸基であるポリエーテル鎖で変性されたシリコーンが幾つか例示され、様々なフォーム処方への適用が試行されていたが、比較例として扱われるなど、性能不良が報告されていた事例が多かった。或いは、当該シリコーンを含む組成物の調製は行われたが、現実の発泡評価による性能確認が行われなかった事例もあった。また、どの先行文献においてもスプレーフォームに関する言及は無く、実施されたフォーム処方や得られたフォームは、スプレー用処方・それにより得られるフォームとは全く異なっていた。例えば、水を主要な発泡剤とする100倍発泡スプレーフォーム処方では、水の使用部数がポリオール100部に対して通常10~40部と極めて多く、低密度フォームが得られるのが特徴であるが、先行文献の各種フォームタイプの処方で用いられた水の添加部数の範囲は1.0~6.5部に留まっており、本願発明とは内容が大きく異なる。また、現在、住宅用の断熱スプレーフォームシステムに転用されている軟質スラブフォーム向け汎用整泡剤は、フォーム体積を稼ぐのには適しているが、フォームの透湿性或いは吸水性を低くするニーズに応えることができていない。更には、これら先行文献において、ウレタンフォーム用整泡剤として利用されるポリエーテル変性シリコーンに関して特定の化学構造を選択することにより、ウレタンフォーム自体の疎水性を向上できるという本発明の知見について、一切の言及も試験も確認もされていない。
【0018】
以上の通り、特許文献1~10ではスプレーフォーム処方についての説明がなく、従って水の添加部数が多く、軟質ウレタンフォーム用ポリオールを利用することを特徴とする、建造物断熱用の現場発泡スプレーフォーム処方での検討も為されていなかった。従って、ポリエーテル変性シリコーン整泡剤の化学構造、当該スプレーフォーム処方での整泡剤の性能、得られたフォーム特性との相関等について何ら記載も示唆もなされていなかった。さらに、当該用途では、1)プレミクス系との相溶性、2)より大きなフォーム体積の付与、3)より微細な開放セル構造の付与、が一般に整泡剤に期待される性能と考えられるが、今般求められている4)フォーム自体の透湿性又は吸水性をより低くする(或いはフォームの疎水性を向上する)手法については、何ら記載も示唆もされていない。このため、当業者が、整泡剤の化学構造の選択によってウレタンフォームの疎水性を改善する有効なアプローチが既存技術には存在せず、その技術的効果も予測が困難であった。
【0019】
このような背景技術の下、上記の技術的課題を解決し、さらに、特定の原料/発泡/硬化システムを使用し、かつ、得られるポリウレタン発泡体が上記の要求事項を満たす技術が必要とされている。また、ポリウレタン発泡体の疎水性を有効に改善する技術が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【文献】米国特許第3817822号明細書
【文献】米国特許第3398104号明細書
【文献】米国特許第3669913号明細書
【文献】米国特許第4478957号明細書
【文献】米国特許第4529743号明細書
【文献】特許第3135318号明細書(特開平5-117352号公報)
【文献】米国特許第5489617号明細書
【文献】米国特許第6071977号明細書(特許第4366470号明細書)
【文献】米国特許第8436064号明細書(特許第5743544号明細書)
【文献】欧州特許出願公開3530703号公報(国際公開2018-074257号公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであり、水の添加部数が多く、少量の整泡剤(泡増強剤)の使用により、建築現場等で大容積の発泡体を形成可能な、水発泡型ポリウレタンスプレーフォームシステムに特に適合しており、プレミックス系との相溶性に優れ、少量の使用で建造物断熱用途等に適した大容積の発泡体を形成でき、得られる発泡体が微細なセル構造を有し、かつ、得られる発泡体の疎水性を顕著に向上させることができる泡増強剤を提供することを目的とする。本課題において、当該発泡体は、特に、軟質ウレタンフォームであることが好ましい。
【0022】
さらに、本発明は、当該泡増強剤を含み、水発泡型ポリウレタンスプレーフォームシステムに適したプレミックス溶液、当該泡増強剤を含むポリウレタン発泡体形成用組成物、および当該泡増強剤の使用により得られ、特に疎水性が顕著に改善されたポリウレタン発泡体(特に、軟質ポリウレタンフォーム)およびその用途(断熱材/吸音材等)を提供する事を目的とする。
【0023】
さらに、本発明は、シリコーンポリエーテル共重合体の化学構造の選択によってウレタンフォームの疎水性が顕著に向上するという予期せぬ発見に基づき、当該シリコーンポリエーテル共重合体を含有する泡増強剤の使用による、特定のスプレーフォームシステムに限定されない、ポリウレタン発泡体の疎水性の改善方法、疎水性の向上方法を提供することを目的とする。
【0024】
本発明は上記課題を解決するものであるが、さらに、本発明者らは、ポリウレタン発泡体形成組成物、およびこれにより調製されるポリウレタン発泡体について、新たな課題を発見した。すなわち、近年のポリウレタン発泡体(以下、「ウレタンフォーム」または「フォーム」と略称することがある)材料の市場ニーズとして、低排出性、すなわち、「Low Emission特性」の需要が高まっている。これは、ポリウレタン発泡体から発生乃至揮発する化学物質等の成分が量的に少ないことを特徴とする要求特性であり、具体的には、フォームから発生する揮発成分が少ない(=Low VOC(Volatile Organic Compound))、シックハウス・アレルギーなどを予防するため、経時でフォームから外部に放出される化学物質の量が少ない(=Low Emission Of Chemical Compound)、自動車の内部に使用されたフォームから揮発した成分が付着して窓ガラスなどに曇りを生じる現象が起こり難い(=Low Fogging)などの要求として表現されることがあるが、化学物質の種類や性質の相違を除けば、フォームに由来する排出成分が少ないという点において実質的な意味はほぼ同じである。
【0025】
本発明は、このようなLow Emission/Low VOCの要求を充足し、且つ前記ポリウレタンスプレーフォーム形成用組成物から得られる、軟質のポリウレタンフォームを提供することを更なる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
鋭意検討の結果、本発明者らは、一般式(1):
【化1】
{式中、Rは各々独立にアルキル、アリール、アラルキル基から選択される炭素原子数1~16の1価の炭化水素基を表し、
Xは、各々独立に式:-C
kH
2kO-(C
2H
4O)
p(C
3H
6O)
q(C
4H
8O)
r-Yで示される1種類または2種類以上のポリエーテル基を表し、
Yは、100モル%がH基であるか、75モル%以上のH基と25モル%以下のC1~C4アルキル又はアセチル基から選ばれるその他の基からなり、
m、n、k、p、q 、r は以下の条件を満たす数である。
12≦(m+n)≦230、
10≦m、
2≦n、
n≦m、
3≦k≦4、
p、q、rは、Xで表されるポリエーテル基部分の式量が1400~4000の範囲内にあり、
{(C
3H
6O)qで表されるオキシプロピレン基部分および(C
4H
8O)rで表されるオキシブチレン基部分の式量の和}/{(C
2H
4O)pで表されるオキシエチレン基部分の式量の和)}である比の値Zが、
(51/49)≦Z≦(95/5)の条件を満たす数である。
ただし、式中のXにおいて、1≦pかつq=r=0である構造を有するポリエーテル基は除く。}
で表されるシリコーンポリエーテル共重合体を含有する泡増強剤により、上記課題を解決できる事を見出し、本発明に到達した。当該泡増強剤は、特定の構成を有する水発泡型ポリウレタンスプレーフォームシステムにおける使用に、特に適しており、かつ、特定のスプレーフォームシステムに限定されない、ポリウレタン発泡体の疎水性を顕著に改善することができる。
【0027】
さらに、本発明者らは、上記泡増強剤を含む水発泡型ポリウレタンスプレーフォームシステム用のプレミックス液、これらを含むポリウレタン発泡体形成用組成物、およびこれにより調製される疎水性の向上した軟質ポリウレタン発泡体、Low Emission/Low VOC特性を有する軟質ポリウレタンフォーム、あるいは断熱材/吸音材により、上記課題を好適に解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0028】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[5]の泡増強剤に関する。
[1]
一般式(1):
【化2】
{式中、Rは各々独立にアルキル、アリール、アラルキル基から選択される炭素原子数1~16の1価の炭化水素基を表し、
Xは、各々独立に式:-C
kH
2kO-(C
2H
4O)
p(C
3H
6O)
q(C
4H
8O)
r-Yで示される1種類または2種類以上のポリエーテル基を表し、
Yは、100モル%がH基であるか、75モル%以上のH基と25モル%以下のC1~C4アルキル又はアセチル基から選ばれるその他の基からなり、
m、n、k、p、q 、r は以下の条件を満たす数である。
12≦(m+n)≦230、
10≦m、
2≦n、
n≦m、
3≦k≦4、
p、q、rは、Xで表されるポリエーテル基部分の式量が1400~4000の範囲内にあり、
{(C
3H
6O)qで表されるオキシプロピレン基部分および(C
4H
8O)rで表されるオキシブチレン基部分の式量の和}/{(C
2H
4O)pで表されるオキシエチレン基部分の式量の和)}である比の値Zが、
(51/49)≦Z≦(95/5)の条件を満たす数である。
ただし、式中のXにおいて、1≦pかつq=r=0である構造を有するポリエーテル基は除く。}
で表されるシリコーンポリエーテル共重合体を含有する泡増強剤であって、以下のa)~d)を含む水発泡型ポリウレタンスプレーフォームシステムに適用されるもの:
a)分子内の平均水酸基数が2~4であり、オキシプロピレン基からなる繰り返し単位を有し、数平均分子量が1000~6000の範囲内にある、1種類以上のポリエーテルポリオール、
b)ポリイソシアネート、
c)硬化触媒、
d)水である発泡剤 同システム中の成分a)であるポリエーテルポリオールおよびその他のポリオール成分の和 100質量部に対して10~40質量部の範囲。
[2]前記一般式(1)において、
Xが、各々独立に式:-C
3H
6O(C
2H
4O)
p(C
3H
6O)
q-H
で示される1種類または2種類以上のポリエーテル基であり、
Xで表されるポリエーテル基部分の式量が1500~2500の範囲内にあり、かつ、
前記の比Zが(54/46)≦Z≦(80/20)の条件を満たす、
[1]に記載の泡増強剤。
[3]前記一般式(1)において、Rがメチル基であり、m、nが、40≦m≦90、かつ、2≦n≦8の条件を満たす、
[1]または[2]に記載の泡増強剤。
[4]前記の水発泡型ポリウレタンスプレーフォームシステムにおいて、
b)ポリイソシアネートが、MDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)、ポリメリックMDI(ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート),クルードMDI,イソシアナート基含有プレポリマー、およびこれらの誘導体から選ばれる成分であり、かつ、
同システムの発泡剤がd)水のみであることを特徴とする、
[1]~[3]のいずれか1項に記載の泡増強剤。
【0029】
さらに、本発明は、以下のプレミックス液に関する。
[5]前記の成分a)~d)、およびe)[1]~[4]のいずれか1項に記載の泡増強剤を含む、ポリウレタンスプレーフォームシステム用のプレミックス液。
[6]a´) 成分a)であるポリエーテルポリオール以外の、少なくとも1つ以上のポリオール成分 を更に含有する、[5]に記載のポリウレタンスプレーフォームシステム用のプレミックス液。
[7]f) ノニオン性の界面活性剤を更に含有する、[6]に記載のポリウレタンスプレーフォームシステム用のプレミックス液。
【0030】
同様に、本発明は、以下のポリウレタン発泡体形成用組成物、軟質ポリウレタン発泡体およびその用途に関する。
[8]前記の成分a)~d)、およびe)[1]~[4]のいずれか1項に記載の泡増強剤を含み、任意で、前記の成分a´)および成分f)から選ばれる1種類以上をさらに含んでもよい、ポリウレタン発泡体形成用組成物。
[9]g)難燃剤をさらに含み、任意でh)その他の添加剤を含んでもよい、[8]に記載のポリウレタン発泡体形成用組成物。
[10][8]または[9]に記載のポリウレタン発泡体形成用組成物を硬化させてなる、軟質ポリウレタン発泡体。
[11]Low Emission/Low VOC特性を有する、[10]に記載の軟質ポリウレタン発泡体。
[12][10]または[11]に記載の軟質ポリウレタン発泡体を有する断熱材又は吸音材。
【0031】
さらに、本発明は、シリコーンポリエーテル共重合体の化学構造の選択によってウレタンフォームの疎水性が顕著に向上するという予期せぬ発見に基づき、特定のスプレーフォームシステムに限定されない、ポリウレタン発泡体の疎水性を顕著に改善する方法を提供するものである。すなわち、本発明は、
[13]一般式(1):
【化3】
{式中、Rは各々独立にアルキル、アリール、アラルキル基から選択される炭素原子数1~16の1価の炭化水素基を表し、
Xは、各々独立に式:-C
kH
2kO-(C
2H
4O)
p(C
3H
6O)
q(C
4H
8O)
r-Yで示される1種類または2種類以上のポリエーテル基を表し、
Yは、100モル%がH基であるか、75モル%以上のH基と25モル%以下のC1~C4アルキル又はアセチル基から選ばれるその他の基からなり、
m、n、k、p、q 、r は以下の条件を満たす数である。
12≦(m+n)≦230、
10≦m、
2≦n、
n≦m、
3≦k≦4、
p、q、rは、Xで表されるポリエーテル基部分の式量が1400~4000の範囲内にあり、
{(C
3H
6O)qで表されるオキシプロピレン基部分および(C
4H
8O)rで表されるオキシブチレン基部分の式量の和}/{(C
2H
4O)pで表されるオキシエチレン基部分の式量の和)}である比の値Zが、
(51/49)≦Z≦(95/5)の条件を満たす数である。
ただし、式中のXにおいて、1≦pかつq=r=0である構造を有するポリエーテル基は除く。}
で表されるシリコーンポリエーテル共重合体を含有する泡増強剤を使用することを特徴とする、ポリウレタン発泡体の疎水性の改善方法
に関する。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、水の添加部数が多く、軟質ウレタンフォーム用ポリオールを用いる建造物断熱用途等に適した現場発泡スプレーフォーム処方向けの、プレミックス系との相溶性に優れ、少量の使用で建造物断熱用途等に適した大容積の発泡体を形成でき、得られる発泡体が微細なセル構造を有し、かつ、得られる発泡体の疎水性を顕著に向上させることができる泡増強剤を提供することができる。また、当該泡増強剤を含有するポリウレタンスプレーフォームシステム用のプレミクス液、ポリウレタンスプレーフォーム形成用組成物を提供する事ができる。
【0033】
また、本発明により、前記ポリウレタンスプレーフォーム形成用組成物から得られる疎水性の向上した軟質ポリウレタン発泡体およびその用途、特に、Low Emission/Low VOC特性を有する前記軟質ポリウレタン発泡体、これらからなる断熱材又は吸音材を提供する事ができる。
【0034】
さらに、本発明により、水発泡ポリウレタンスプレーフォーム以外のウレタンフォーム製造において、フォームの疎水性向上のために前記泡増強剤を利用し、ポリウレタン発泡体の疎水性を顕著に改善する方法を提供することができる。
【0035】
なお、本発明の泡増強剤は、品質と環境適合性に優れていると共に、現在、水発泡スプレーフォーム向けに転用されている軟質スラブフォーム用整泡剤と比較して、低コストでの製造が可能である。従って、本発明により、整泡剤の製造業者は従来よりも低価格で大量に市場に供給する選択肢を持つことができ、一方でプレミクスやフォームシステムの製造業者はcost-in-useと特性に優れたポリウレタンスプレーフォームシステム用のプレミクス液、ポリウレタンスプレーフォーム形成用組成物とを末端顧客や市場に提供することができ、両者ともに、社会及び産業の健全な発展への貢献と適正な利潤の追求とを両立できる自由度が高まる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
[シリコーンポリエーテル共重合体、およびそれを含む泡増強剤]
まず、本発明にかかる泡増強剤の主要な成分である、シリコーンポリエーテル共重合体について詳細に説明する。前記の通り、本発明は、シリコーンポリエーテル共重合体の化学構造の選択によってウレタンフォームの疎水性が顕著に向上するという予期せぬ発見、および、当該シリコーンポリエーテル共重合体が、特定の構成を有する水発泡型ポリウレタンスプレーフォームシステムにおける使用に、特に適していることを見出したことに基づくものであり、シリコーンポリエーテル共重合体の構造は、本発明の特徴的な構成の一つである。
【0037】
より具体的には、本発明にかかるシリコーンポリエーテル共重合体は、下記の一般式(1)で表される。
一般式(1):
【化4】
【0038】
一般式(1)において、Xは、各々独立に式:-CkH2kO-(C2H4O)p(C3H6O)q(C4H8O)r-Yで示される1種類または2種類以上のポリエーテル基を表し、
Yは、100モル%がH基であるか、75モル%以上のH基と25モル%以下のC1~C4アルキル又はアセチル基から選ばれるその他の基からなり、
m、n、k、p、q 、r は以下の条件を満たす数である。
12≦(m+n)≦230、
10≦m、
2≦n、
n≦m、
3≦k≦4、
p、q、rは、Xで表されるポリエーテル基部分の式量が1400~4000の範囲内にあり、
{(C3H6O)qで表されるオキシプロピレン基部分および(C4H8O)rで表されるオキシブチレン基部分の式量の和}/{(C2H4O)pで表されるオキシエチレン基部分の式量の和)}である比の値Zが、
(51/49)≦Z≦(95/5)の条件を満たす数である。
ただし、式中のXにおいて、1≦pかつq=r=0である構造を有するポリエーテル基は含まない。すなわち、式中のXで表されるポリエーテル基部分は、2以上の異なる平均化学構造のポリエーテル鎖の混合体であってよいが、ポリオキシアルキレン部がポリオキシエチレン基のみから構成される基は含まない。後述する通り、本発明におけるポリエーテル部分のオキシエチレン単位由来の部分の割合が高いと、本発明の技術的効果を発揮できないためである。
【0039】
なお、式量とは化学式や組成式に基づいて原子量と原子数の積の総和を求めた値であるが、ここでは、シリコーンポリエーテル共重合体の反応原料である不飽和基含有ポリエーテル化合物の平均化学構造(主に13Cおよび1Hを核種とする核磁気共鳴分析により同定される構造)に基づいて計算される、Xで表されるポリエーテル基部分、オキシプロピレン基部分、およびオキシエチレン基部分の式量およびそれらの和である。
【0040】
上記の一般式(1)において、Rは好適には、各々独立に炭素原子数1~10のアルキル基、アリール基、アラルキル基から選択され、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、n-ペンチル、i-ペンチル、2-メチルブチル、n-ヘキシル、n-オクチル等の直鎖状又は分岐状のアルキル基;フェニル基;フェネチル基或いはフェニルイソプロピル基などが例示される。工業的に特に好適には、Rはメチル基である。
【0041】
一般式(1)において、Xはケイ素原子に結合したポリオキシアルキレン構造を有するポリエーテル基であり、式:
-CkH2kO-(C2H4O)p(C3H6O)q(C4H8O)r-Y
で定義される。ここで、kはケイ素原子に結合するアルキレン基の炭素原子数であり、工業的実用性の面から3≦k≦4であり、k=3がより好ましい。
【0042】
Yはポリオキシアルキレン構造の末端基であり、100モル%がH基(水素原子)であるか、75モル%以上のH基と25モル%以下のC1~C4アルキル又はアセチル基から選ばれるその他の基からなる。好適には、Yは100モル%が水素原子である。
【0043】
前記のXで表されるポリエーテル基部分において、p、q、rは、ポリオキシアルキレン構造を構成するオキシエチレン単位、オキシプロピレン単位、およびオキシブチレン単位の平均の個数であり、前記X基の式量が1400~4000の範囲内にあり、且つ{(C3H6O)qで表されるオキシプロピレン基部分および(C4H8O)rで表されるオキシブチレン基部分の式量の和}/{(C2H4O)pで表されるオキシエチレン基部分の式量の和)}である比の値Zが、
(51/49)≦Z≦(95/5)の条件を満たす数である。
【0044】
ここで、比の値Zが(95/5)を超える値の場合、(C3H6O)qで表されるオキシプロピレン基部分および(C4H8O)rで表されるオキシブチレン基部分に由来する疎水性が過剰となり、シリコーンポリエーテル共重合体によりポリエーテルポリオールと多量の水とを親和させることが困難となり、プレミクス液の安定性不良やフォーム不良を生じやすい傾向にある。逆に、比の値Zが(51/49)未満、すなわち、オキシエチレン単位数が、オキシプロピレン単位およびオキシブチレン単位の和に対して等しいか、より高い比率となる場合、建造物断熱用の現場発泡スプレーフォーム処方で利用される軟質ウレタンフォーム用ポリオールとの相溶性が不十分となり、安定なプレミクス液を得ることが困難となり易く、望ましい整泡効果も得られない結果となり、本発明の技術的効果が達成できなくなる場合がある。なお、Xで表されるポリエーテル基部分は、2以上の異なる平均化学構造のポリエーテル鎖の混合体であってよいが、末端に水酸基を有し且つオキシエチレン部のみから構成されるポリエーテル基を含有することは無い。このような高極性の親水基は前記ポリオールとの相溶性が更に悪いため、不適である。
【0045】
より好適には、X基はオキシブチレン単位を含まず、式:
-C3H6O(C2H4O)p(C3H6O)q-H
で表され、X基の式量が1500~2500の範囲内にあり、前記の比Zが(54/46)≦Z≦(80/20)の条件を満たすものである。
【0046】
なお、ポリエーテル基Xに含まれるオキシエチレン単位、オキシプロピレン単位、およびオキシブチレン単位は、ブロック型の共重合体構造をとっても良いしランダム型の共重合体構造をとっても良いが、ランダム型の構造がより好適である。
【0047】
なお、ケイ素原子に結合するアルキレン基であって炭素原子数3~4のもの、オキシプロピレン単位またはオキシブチレン単位を構成するアルキレン部分については、直鎖アルキレン基であっても、イソプロピレン基またはイソブチレン基のような、分岐したイソアルキレン基であってもよい。
【0048】
上記の一般式(1)において、m,nは、側鎖(Rake)型シリコーンポリエーテル共重合体の各シロキサン単位の重合度であり、12≦(m+n)≦230、10≦m、2≦n、n≦mの範囲の数である。特に、40≦m≦90,2≦n≦8の範囲の数であることが好ましい。
【0049】
本発明に係るシリコーンポリエーテル共重合体は、上記の構造(特に、好適な構造)の選択により、
i)軟質ウレタンフォーム用ポリオールとの相溶性に優れ、安定したプレミックス溶液を形成できる
ii)発泡性に優れ、建造物の製造現場において、少量の使用であっても大容積の発泡体(=フォーム体積)を形成できるため、建造物用途等におけるコスト面、作業効率に優れる
iii)得られる発泡体が微細なセル構造を有し、断熱材/吸音材等の用途に適合している
iv)従来の泡増強剤に比して、ポリウレタン発泡体(特に、軟質ポリウレタンフォーム)の疎水性を顕著に改善可能である
という、従来技術にはない主要な利点を兼ね備え、かつ、近年、特に建造物用途における重要度が高い、Low Emission/Low VOCの要求を充足できるものである。
【0050】
具体的には、上記の好適なシリコーンポリエーテル共重合体にあっては、ポリエーテル部全体の式量に対して、オキシプロピレン単位或いはオキシブチレン単位由来の親油部分の割合が高いため、建造物断熱用の現場発泡スプレーフォーム処方で利用される軟質ウレタンフォーム用ポリオールとの相溶性に優れる。従って、プレミックス液の安定性向上による利便性拡大、大きなフォーム体積や微細セル構造の付与などの望ましい整泡効果を得る上で有利となる。
【0051】
また、上記の好適なシリコーンポリエーテル共重合体は、ポリエーテル部全体の式量に対して、オキシエチレン単位由来の部分の割合が低いことから、低温下でも固化を起こすことがなく、粘度もあまり高くなり過ぎず、製造後のハンドリング性も改善される。更に、上記の好適なシリコーンポリエーテル共重合体を前記スプレーフォームの整泡剤として使用すると、泡増強効果に加えて得られたウレタンフォームの疎水性を顕著に向上することができる。
【0052】
[シリコーンポリエーテル共重合体の合成]
このようなシリコーンポリエーテル共重合体は、分子鎖の片末端にアルケニル基を有するポリエーテル化合物とオルガノハイドロジェンポリシロキサンを任意の溶媒の存在下または不存在下でヒドロシリル化反応させる公知の方法により合成することができる。
【0053】
好適には、本発明にかかるシリコーンポリエーテル共重合体は、下記一般式(1H):
【化5】
{式中、Rは前記と同様の定義であり、m,nは前記と同様の数である}で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
下記一般式(2):
C
kH
2k-1O-(C
2H
4O)
p(C
3H
6O)
q(C
4H
8O)
r-Y
{式中、k、p、q及びrは前記と同様の数であり、Yは前記と同様の定義であり、C
kH
2k-1は炭素-炭素二重結合を有する直鎖または分岐鎖状のアルケニル基である}で示される分子鎖の片末端にアルケニル基を有するポリエーテル化合物とのヒドロシリル化反応により得られた、シリコーンポリエーテル共重合体である。
【0054】
この際、一般式(2)で表されるポリエーテル化合物に含まれるオキシエチレン単位、オキシプロピレン単位、およびオキシブチレン単位は、ブロック型の共重合体構造をとっても良いしランダム型の共重合体構造をとっても良いが、ランダム型の構造が好適である。また、2種類以上の異なる前記ポリエーテル化合物を、前記オルガノハイドロジェンポリシロキサンと反応させることにより、本発明にかかるシリコーンポリエーテル共重合体を得ることもできるが、1≦p且つq=r=0の構造体:すなわちポリオキシアルキレン部がポリオキシエチレン部のみから構成されるポリエーテル化合物は含まない。この理由としては、末端に水酸基を有し且つオキシエチレン部のみから構成されるポリエーテル基は極性が強過ぎるため、建造物断熱用の現場発泡スプレーフォーム処方で利用される軟質ウレタンフォーム用ポリオールとの相溶性を阻害する結果、安定なプレミクス液を得ることが困難となり易く、望ましい整泡効果も損なわれるためである。
【0055】
上記のヒドロシリル化反応を行う際に、[前記ポリエーテル化合物中の炭素-炭素二重結合の物質量/前記オルガノハイドロジェンポリシロキサン中の珪素結合水素原子の物質量]の比は1.0~2.0となる範囲が例示できる。すなわち、本発明に係るシリコーンポリエーテル共重合体を合成する場合には、ポリエーテル化合物を過剰量使用することが好ましい。より具体的には、上記の比が、1.05~1.75となる範囲が好ましく、1.20~1.60となる範囲がより好ましい。この理由は、前記ポリエーテル化合物の末端アルケニル基は、一般にヒドロシリル化反応中に一部が内部転移を起こし反応に関与しなくなるため、珪素結合水素原子を完全に消費するには、アルケニル基のモル比を過剰としておく必要があるためである。従って、かかるシリコーンポリエーテル共重合体は、一般に、生成物であるシリコーンポリエーテル共重合体と未反応のポリエーテル化合物との混合物として得られ、本発明に係る一般式(1)で表されるシリコーンポリエーテル共重合体を含有する疎水性向上効果を有する泡増強剤を構成する。
【0056】
なお、これらの成分は互いに相溶性に優れるため、前記シリコーンポリエーテル共重合体を含有する疎水性向上効果を有する泡増強剤は、通常、透明乃至ほぼ透明な均一液体として得られる。なお、一般式(2)で表されるポリエーテル化合物は、工業的にはアリルアルコールやアリルグリコール等の不飽和アルコールを出発物質とし、アルカリ触媒存在下にエチレンオキシドとプロピレンオキシド等を付加重合することにより製造されるのが通常であるが、反応系からの水分除去のレベルに応じ、不純物としての両末端ジオール体を含む場合がある。従って、このような両末端ジオール体:例えばPEG/PPG共重合体が、本発明に係る泡増強剤に更に含有されていてもよい。
【0057】
上記のヒドロシリル化反応を行う際に、前記ポリエーテル化合物或いは前記オルガノハイドロジェンポリシロキサンに元々含まれる微量不純物や経時劣化による副生成物、反応装置内の微量汚染物などの影響により、反応の進行が遅くなる場合があり得る。このような場合、触媒の追加、反応温度を通常よりも若干高くする、反応時間を延長する、あるいは原料間の相溶性を向上させる目的で反応溶媒を追加するなどの適切な措置を講じ、反応系の残存Si-H基が検出限界以下となるまで工程を管理することが望ましい。Si-H基の残存は、前記泡増強剤をプレミクス系に配合した際、可燃性水素ガスの発生をもたらす恐れがあること、またある量を超えるSi-H基の残存は、一般にウレタンフォーム用整泡剤として使用されるシリコーンポリエーテル共重合体の整泡性能を劣化させることが知られていることから、Si-H基の残存量は、前記泡増強剤の概ね30wt.ppm以下であることが好ましく、10wt.ppm以下であることが更に好ましく、2.5wt.ppm以下であることが特に好ましい。なお、こうした微量Si-H基を一部に含有するシリコーンポリエーテル共重合体は、文面上は前記一般式(1)によっては表現されていないが、工業上は実質的に同種のものとして、本発明に包含される。
【0058】
ここで、反応溶媒は必要ない場合も多いが、一般的な有機溶媒を使用する場合、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶剤やイソプロピルアルコールなどのアルコール系溶剤;シクロヘキサン、n-ヘプタン、メチルシクロヘキサンなどの脂肪族飽和炭化水素系溶剤から選択することが、工業生産上は好ましい。一般に、これら高揮発性反応溶媒は、ヒドロシリル化反応が終了するなどその役目を終え次第、ストリピング処理によって生成系から除去する必要がある。この中で、トルエンとキシレンは所謂BTX溶媒に属し、かねてより整泡剤として利用されるシリコーンポリエーテル共重合体の製造に広く使用されてきたが、当該BTX溶媒を不含とすることが特に生産機スケールにおいては困難であるため、厳しいBTX管理を要求される現在のポリウレタン産業界のニーズに応えることはできない。そのため、必要な場合にはイソプロピルアルコール又は平均炭素原子数が6~11の範囲にある飽和炭化水素溶媒の中から、コストや安全性、生産時の利便性等を考慮し、適当なものを選択して使用することが望ましい。
【0059】
このような平均炭素原子数が6~11の範囲にある飽和炭化水素溶媒の具体例としては、メチルシクロヘキサン、n-ヘプタン、ヘプタン混合物、ヘプタン(商業用グレード)、イソオクタン、2,2,4-トリメチルペンタン、オクタン混合物、エチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、n-ヘキサン、イソヘキサン、ヘキサン混合物、シクロヘキサン、2-メチルペンタン、2-メチルヘプタン、3-メチルヘプタン、Isopar E(C7-C9飽和炭化水素混合物)、Isopar C(C7-C8飽和炭化水素混合物)、IP solvent 1016(C6-C9飽和炭化水素混合物),Isopar G(C10-C11飽和炭化水素混合物)などが挙げられる。この中では、メチルシクロヘキサン、n-ヘプタン、ヘプタン混合物、ヘプタン(商業用グレード)に代表されるC7飽和炭化水素が好ましい。
【0060】
本発明にかかる泡増強剤は、さらに、任意で希釈剤h´)25℃で液状のポリアルキレングリコールまたはその誘導体を含んでもよい。かかる成分h´)を用いることで、整泡剤または界面活性剤としての機能に悪影響を及ぼすことなく、本発明の泡増強剤の粘度等を調整し、使用時の利便性、取扱作業性(ハンドリング)を改善できる場合がある。また、成分h´)は、ポリウレタン発泡体形成組成物における水酸基価の調整、すなわちポリウレタン発泡体の架橋密度や強度など各種物性コントロールの目的で、前記泡増強剤に追加して使用できる場合がある。
【0061】
ヒドロシリル化反応用の触媒は、ヒドロシリル化反応を促進することができる限り特定のものに限定されない。ヒドロシリル化反応触媒として、これまでに多くの金属及び化合物が知られており、それらの中から適宜選択して本発明にかかる成分e)の製造に用いることができる。ヒドロシリル化反応触媒の例として、具体的には、シリカ微粉末又は炭素粉末担体上に吸着させた微粒子状白金、塩化白金酸、アルコール変性塩化白金酸、スパイヤー触媒、塩化白金酸のオレフィン錯体、塩化白金酸とビニルシロキサンの配位化合物、カールシュタット触媒、白金黒、パラジウム、及びロジウム触媒を挙げることができる。これらの触媒は、定法に従ってトルエン、キシレン、触媒の配位子化合物、アルコール類、他の適当な極性溶媒、反応用原料であるポリエーテルや希釈剤等に溶解或は分散させて反応系に投入することができる。
【0062】
ヒドロシリル化反応用触媒の使用量は、有効量であり、本発明にかかる泡増強剤の主成分であるシリコーンポリエーテル共重合体の合成反応を促進する量であれば特に限定されない。具体的には、前記一般式(1H)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンと前記一般式(2)で表される、分子鎖の片方の末端にアルケニル基を有するポリエーテル化合物の和(全体を100質量%とする)に対して、この触媒中の金属原子が質量単位で0.5~100ppm、好適には白金金属原子が、3~30ppmの範囲内となる量である。ヒドロシリル化反応用触媒の含有量が上記範囲の下限未満であると、付加反応が不十分となる場合があり、上記範囲の上限を超えると、不経済であり、かつ、得られる本発明組成物の着色等、透明性に悪影響を及ぼす場合がある。
【0063】
ヒドロシリル化反応の条件は、原料の種類や及び溶媒の有無に応じ、任意に選択することができる。例えば、トコフェロール(ビタミンE)等の抗酸化剤を少量添加し、窒素等の不活性ガス雰囲気下で室温~120℃、好適には50~100℃で一定時間加熱攪拌することにより反応を完結できる。なお、抗酸化剤はヒドロシリル化の終了後に添加しても良い。反応時間は、反応スケール、触媒の使用量および反応温度に応じて選択可能であり、数分~数時間の範囲であることが一般的である。また、反応は、品質改善や生産性の向上等を目的として減圧下で行ってもよいし、バッチプロセスだけでなく公知の半連続乃至は連続生産プロセスも適用可能である。
【0064】
なお、ヒドロシリル化反応の終点は、赤外線分光法(IR)によるSi-H結合吸収の消失あるいは以下のアルカリ分解ガス発生法により、水素ガス発生がなくなったことで確認することができる。なお反応原料であるオルガノハイドロジェンポリシロキサン中のケイ素原子結合水素原子(Si-H)を、同方法により分析することで、水素ガス発生量を特定することもできる。
【0065】
なお、アルカリ分解ガス発生法とは、試料をトルエン又はIPAに溶解した溶液と、28.5質量%苛性カリのエタノール/水混合溶液を室温で反応させ、発生する水素ガスを捕集管に集めてその体積を測定する方法である。
【0066】
また、本発明にかかる泡増強剤の主成分であるシリコーンポリエーテル共重合体は、末端水酸基を有するポリエーテル基により変性された構造であるため、ヒドロシリル化反応中の副反応:脱水素反応とアセタール形成の抑制が重要である。触媒として塩化白金酸又はその溶液を使用する場合には、主反応の開始前に酢酸カリウム、プロピオン酸カリウム、酢酸ナトリウム等のカルボン酸アルカリ金属塩に代表される緩衝剤を適量、反応系に添加しておくとよい。これらは、固体(粉末)のまま反応系に添加すること、メタノール等の極性溶媒に溶解又は分散させてから反応系に添加すること、予め一般式(2)で表される分子鎖の片方の末端にアルケニル基を有するポリエーテル化合物中に溶解又は分散させておくこと等により効果を発揮させること、何れもが可能である。一般に、これらの副反応が生ずると反応系が増粘し、ひどい場合にはゲル化に至る場合もある。このような事態を軽減する上で、反応溶媒の使用が有効である。緩衝剤の添加タイミングは、ヒドロシリル化反応(主反応)の開始前が望ましいが、主反応終了後の添加であっても、後工程のストリピング中や製造後のアセタール形成反応の抑制に対し、ある程度の効果がある。但し、緩衝剤の添加量が多すぎると主反応の進行が遅くなる、或いはストリピング工程中でシリコーン主鎖切断に始まる別の副反応を誘発し易くなるため、注意が必要である。緩衝剤の最適な添加量は、系内の酸の量を丁度中和できる量か、それよりも若干過剰量である。
【0067】
本発明にかかる泡増強剤は、空気中の酸素により徐々に酸化され、変質する場合がある。これを防止するためフェノール類、ヒドロキノン類、ベンゾキノン類、芳香族アミン類、又はビタミン類等の酸化防止剤を入れ、酸化安定性を増加させることができ、かつ好ましい。このような酸化防止剤として、例えば、前述のビタミンEの他、BHT(2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール)、ビタミンCなどを用いてもよい。但し、ポリウレタンフォームからのEmissionを低減させる観点からは、ビタミンEやその他の高分子量タイプの酸化防止剤を選択することが重要である。このとき、使用する酸化防止剤の添加量は、その質量において成分e)に対し10~1000ppm、好ましくは50~500ppmとなる範囲である。
【0068】
[低分子シロキサンの低減]
本発明にかかる泡増強剤は、ケイ素原子数が20以下の低分子シロキサンの含有量が5000ppm(重量)以下であることが好ましく、2000ppm(重量)以下が特に好ましい。この値が5000ppmを超えると、前記泡増強剤をポリウレタン発泡体用の整泡剤として用いた場合、ポリウレタンフォームが設置された場所の周辺部材を汚染し、電気・電子装置の接点障害を引き起こす可能性がある。かかる低分子シロキサンとしては、環状のものと直鎖状のものがあり、例えば、式、[(CH3)2SiO]n(式中、nは3~10の整数である。)で表される環状ジメチルシロキサン、および式、CH3[(CH3)2SiO]mSi(CH3)3(式中、mは1~10の整数である。)で表される直鎖状ジメチルシロキサンオリゴマーがあり、また、これらのメチル基の一部が他の有機基で置換されたものがある。かかる低分子シロキサンのより具体的な例としては、オクタメチルテトラシロキサン、デカメチルペンタシクロシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサンオリゴマーが例示される。かかる低分子シロキサンの含有量は、例えば、ガスクロマトグラフィ分析装置を用いて、分析することにより測定できる。低分子シロキサンの低減の方法は限定されないが、工業的には通常ストリピング操作によりこれを行うため、本発明にかかるシリコーンポリエーテル共重合体/泡増強剤の原料であるオルガノハイドロジェンポリシロキサンを予め精製し、低分子シロキサンを除去しておくことが望ましい。或は、ヒドロシリル化反応中、乃至は反応終了後に低分子シロキサンを除去してもよい。
【0069】
[水発泡型ポリウレタンスプレーフォームシステム]
本発明の上記のシリコーンポリエーテル共重合体を含有する泡増強剤は、以下のa)~d)を含む水発泡型ポリウレタンスプレーフォームシステムに適用される。
a)分子内の平均水酸基数が2~4であり、オキシプロピレン基からなる繰り返し単位を有し、数平均分子量が1000~6000の範囲内にある、1種類以上のポリエーテルポリオール、
b)ポリイソシアネート、
c)硬化触媒、
d)水である発泡剤 同システム中の成分a)であるポリエーテルポリオールおよびその他のポリオール成分の和 100質量部に対して10~40質量部の範囲
【0070】
さらに、上記の水発泡型ポリウレタンスプレーフォームシステムは、a´) 成分a)であるポリエーテルポリオール以外の、少なくとも1つ以上のポリオール成分 を含有してもよい。なお、この場合、d)水である発泡剤は、前記の成分a)および成分a´)との和(=合計量)100質量部に対して10~40質量部の添加部数である。
【0071】
さらに、上記の水発泡型ポリウレタンスプレーフォームシステムは、その実用上、本発明の技術的効果を損なわない範囲で、任意選択により、f) ノニオン性の界面活性剤(本発明に係るシリコーンポリエーテル共重合体に該当しない、有機系界面活性剤および乳化剤を含む)、g)難燃剤、h)その他の添加剤:例えば、本発明に係る泡増強剤以外のウレタンフォーム用整泡剤、希釈剤、鎖伸長剤、架橋剤、副次的な量の非水発泡剤、セル開放剤、充填剤、強化剤、顔料、染料、着色剤、抗酸化剤、抗オゾン剤、紫外線安定化剤、静電気防止剤、殺菌剤および抗菌剤等を含んでもよい。以下、これらの成分について解説する。
【0072】
[a)ポリエーテルポリオール]
本発明で使用されるa)成分は、平均の水酸基数が2~4でオキシプロピレン繰り返し単位を有し、数平均分子量が1000~6000のポリエーテルポリオールの1種以上である。このようなポリオールは、軟質スラブフォームなど一般的な軟質ウレタンフォームに利用できるものであり、水や1分子中に平均で2~4の水酸基を有する多価アルコールを出発原料として、それらにアルキレンオキシドを付加重合して製造されている。例えば、水;エチレングリコール;ジエチレングリコール;プロピレングリコール;ジプロピレングリコール;ブチレングリコール;ペンタンジオール;ヘキサンジオール;ネオペンチルグリコール;グリセリン;トリメチロールプロパン;アンモニア;トリエタノールアミン;トリイソプロパノールアミン;ペンタエリスリトール;ジグリセリン;エチレンジアミン;芳香族ジアミンなどのアルキレンオキシド付加物を含むポリオキシアルキレンポリオールが挙げられる。ポリオキシアルキレンポリオールの製造に用いるアルキレンオキシドは、普通炭素数が2~4であり、プロピレンオキシド及びプロピレンオキシドとエチレンオキシドの混合物が好適である。これらのポリオールは、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。例えば、2官能性物質と3~4官能性物質との混合物および(または)分子量の異なるあるいは化学組成の異なる物質が混合使用できる。なお、ポリウレタンフォームにLow Emission特性を付与する観点からは、ポリオールに含まれる添加剤(例えば酸化防止剤や安定剤)は揮発性のない高分子量タイプを選択することが重要である。
【0073】
a)成分として、有用なポリエーテルポリオールの具体例として、Voranol-3010、Voranol 3137、V230-056 Polyol(Dow Chemical Company)、ARCOLポリオール16-56、ARCOL 200 Polyol 16-56(Arco Chimecal Co.)、NIAX Polyol 16-56(A C West Virginia Polyo l Company)、Desmophen PU20WB01、Desmophen 7186、Desmophen VPPU 20 WB 01(BAYER),ポリプロピレングリコール系ポリエーテルポリオー ル No.33(三洋化成工業株式会社)、10%の内部EOを含む3500分子量のEO/POトリオール、グリセリンを出発原料として、EO/PO=16/84(重量比)で付加重合した水酸基価56のポリエーテルポリオール、ポリオキシアルキレントリオール{EO/PO=12/88(重量比),水酸基価48}、グリセリンを出発原料として、EO/PO=14/86(重量比)で付加重合した水酸基価46のポリエーテルポリオール、グリセリンを出発原料として、EO/PO=16/84(重量比)で付加重合した水酸基価46のポリエーテルポリオール、グリセリンのPO/EO付加物(水酸基価33)などが挙げられる。
【0074】
[a´)前記a)以外のポリオール]
本発明で必要に応じて前記a)成分と併用できるポリオールとして好適な例として、難燃性に優れたハロゲン化ポリエーテルポリオール類や臭素化ポリオール類(ジブロモネオペンチルグリコール、臭素化ペンタエリスリトール、エピクロロヒドリンと臭素化ポリオールの重合ポリオールなど)が挙げられる。硬化反応速度の向上やセルサイズ調整などの目的で、比較的低分子量且つ高官能性のポリエーテルポリオール:平均の水酸基数が3~8で数平均分子量が250~1000である、多価アルコールや多価アミンへのアルキレンオキシド付加物も好ましい。例えば、ソルビトール;シュークロース;ラクトーズ;α-メチルグルコシド;α-ヒドロキシアルキルグルコシドなどの糖類やジエチレントリアミン;グリセリン;トリメチロールプロパン;トリエタノールアミン;ペンタエリスリトール;エチレンジアミン;芳香族ジアミンへのプロピレンオキシド及び/またはエチレンオキシドの付加物が挙げられる。
【0075】
この他、本発明の効果を損なわない範囲であれば、アジピン酸やフタル酸などのカルボン酸とエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等の多価アルコールを脱水縮合して製造されるポリエステルポリオールや、HRフォーム用に通常は利用される一級水酸基の含有率が高く平均分子量が5000~7000程度のポリエーテルポリオール、ポリエーテルポリオール中でアクリロニトリルやスチレンなどを共重合させることによりポリマー微粒子を分散させたポリマーポリオール等を適宜、選択し併用してよい。
【0076】
[b)ポリイソシアネート]
ポリイソシアネートとしては、スプレー用途で利用するという前提から作業者や周辺環境の安全性を考慮し、特に現場発泡の場合には、難揮発性あるいは不揮発性の有機ポリイソシアネートを選択するのが好ましい。
【0077】
b)成分として、商業上も有利な材料は、MDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)、4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,2′-ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメリックMDI(ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート),クルードMDIである。この他、イソシアナート基含有プレポリマーとして、MDIとポリオールとの反応より作製されるMDIのプレポリマー、TDIとポリオールの反応より作製されるTDIのプレポリマー、他の芳香族もしくは脂肪族ポリイソシアナートとポリオールとの反応により作製されるプレポリマー、ウレトンイミン修飾ポリイソシアナートとそれらのプレポリマーなども使用できる。なお、b)成分として、前記のポリイソシアネートの誘導体を選択してもよい。
【0078】
ポリウレタンフォームにLow Emission特性を付与する観点からも、前述のような難揮発性あるいは不揮発性の有機ポリイソシアネートを選択するのが好ましい。他方、工場内で断熱パネルなどの型にフォームを自動化作業設備によりスプレー注入~加熱硬化まで行う場合には、局所排気装置など作業環境の安全性を確保したうえで、上記の難揮発性あるいは不揮発性の有機ポリイソシアネートの他、トルエンジイソシアナート(TDI)を使用できる場合もある。TDIには2,4および2,6異性体の2種類があり、通常は2,4体/2,6体=80/20の混合物が流通しているので、これを使用してもよい。処方中における他の材料の量に対するポリイソシアネートの配合量は「イソシアネート指数」によって表される。「イソシアネート指数」とは、ポリイソシアネートの実際の使用量を、反応混合物中の全活性水素との反応に必要とされるポリイソシアネートの化学量論量で除して、100を乗じた値である。
【0079】
本発明に係るポリウレタンスプレーフォームシステムでは水の使用量が多いため、b)成分における、イソシアネート指数の好適な範囲は一般的なポリウレタンフォームにおける範囲とは異なり、概ね30~80の範囲内である。
【0080】
本発明における泡増強剤の使用の見地から、適用される水発泡型ポリウレタンスプレーフォームシステムにおいて、ポリイソシアネートが、MDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)、ポリメリックMDI(ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート),クルードMDI,イソシアナート基含有プレポリマー、およびこれらの誘導体から選ばれる成分であり、かつ、同システムの発泡剤(d))が水を主要な発泡剤とし、より好適には実質的に水のみ、または他の発泡剤を含まず、水のみである組み合わせが特に好ましい。また、その場合、b)成分のイソシアネート指数が20~80、より好適には30~70の範囲にあることがより好ましい。
【0081】
[c)ウレタン触媒]
ポリウレタン樹脂製造用の触媒としては、一般に金属触媒や第3級アミン類が使用されているが、第3級アミン類は、ポリオールと有機ポリイソシアネートからウレタン結合を生成する反応を促進すると同時に、水と有機ポリイソシアネートとの反応を促進し、炭酸ガスを発生させる作用も有しているため、様々なタイプのウレタンフォーム形成に幅広く使用される。一方、スズ触媒に代表される金属触媒は、主にウレタン化反応促進の触媒活性が高く実用性に優れるため、非発泡ウレタン分野で使用されるケースの方が多いが、一般的な軟質スラブフォームの処方でも、スズ系触媒はアミン系触媒と併用して使用される。また、メカニカルフロスフォームの処方では主にニッケル系触媒が使用される。
【0082】
本発明に係るポリウレタンスプレーフォームシステムは、水の使用量が多いことから一般的な軟質フォームに比べ反応熱の発生が多く、従って反応速度も大きい。そのため、通常はアミン系触媒を利用すれば充分である。アミン系触媒は、反応速度や発泡状態の調整の目的等により1種又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。このようなアミン系触媒の例としては、ジメチルエタノールアミン、ジメチルアミノエトキシエタノール、トリエチレンジアミン、ビス(2-ジメチルアミノエチル)エーテル、N,N,N′,N′-テトラメチルヘキサメチレンジアミン、N,N′,N′,N″-ペンタメチルジエチレントリアミン等の第3級アミンウレタン触媒、イミダゾール誘導体、遅効性三級アミン触媒、一般型三級アミン触媒、低エミッション三級アミン触媒、ノンエミッション三級アミン触媒、およびAir ProductsからのDABCO(登録商標)触媒が挙げられる。ポリウレタンフォームにLow Emission特性を付与する観点からは、反応型アミン触媒の活用が好ましい。なお、必要に応じて金属触媒を併用しても構わない。これらの例としては、ニッケルアセトアセトナート、鉄アセトアセトナート、スズ系触媒、ビスマス系触媒、亜鉛系触媒、チタニウム系触媒、アルミニウム錯体、ジルコニウム錯体、オクチル酸カリウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、オクチル酸ナトリウム、表面に固体酸点を有する金属酸化物粒子、カルボン酸四級アンモニウム塩などが挙げられる。c)成分の添加量は、通常ポリオール合計100重量部に対して1~5重量部である。
【0083】
[d)水である発泡剤]
本発明に係るポリウレタンスプレーフォームシステムは、低密度で軽量の断熱用又は吸音用の軟質ウレタンフォームを形成するものであり、典型的には、水を主要な発泡剤とする100倍発泡(発泡前のウレタン混合液の密度を仮に1.0g/cm3としたとき、発泡後のフォームの密度が0.01g/cm3となるような高発泡倍率を指す)処方である。そのため、前記システム中の成分a)であるポリエーテルポリオールおよびその他のポリオール成分の和100部に対する水の添加部数は10~40部の範囲内にある必要があり、好ましくは15~35部の範囲内にあり、特に好ましくは15~25部の範囲内にある。
【0084】
水としては、精製水、純水、蒸留水、イオン交換水、水道水、上水などを好適に使用できる。現場発泡吹付けの場合には、利便性とコスト面から、発泡剤は、実質的に水のみであることが好ましく、特に、水を唯一の発泡剤、すなわち、水のみを発泡剤とすることが特に好ましい。なお、高価な他の発泡剤を併用した場合には、フォームの開放セル構造によりガスが抜けてしまうため、本発明の技術的効果が損なわれ、コスト面で不利になるだけでなく、発明の効果の点でも無駄になってしまう場合がある。このため、d)成分は、その利便性とコスト面から、95質量%以上、より好適には99質量%以上、さらに好適には99~100質量%の範囲で水であることが好ましい。工事現場等で容易かつ安価に調達できる水をそのまま発泡剤として使用できることは、本発明に係る泡増強剤等の商業的および技術的利点の一つである。
【0085】
他方、工場内で断熱パネルなどの型にフォームを自動化作業設備によりスプレー注入~加熱硬化まで行う場合には、難燃性の発泡剤であるHFC-245faおよびHFC-134aのようなハイロドフルオロカーボン類、HFOおよびHCFOのようなハイドロフルオロオレフィン類などを併用しても良い。これらの高価なガスがフォームと共に充填された型から漏れ出ないのであれば、断熱性の向上に役立つ。
【0086】
[f)ノニオン性の界面活性剤]
f)成分は、本発明に係るポリウレタンスプレーフォームシステムの任意の構成のひとつであり、本発明のポリウレタンスプレーフォームシステム用のプレミクス液の安定化を主たる目的とする。f)成分であるノニオン性の界面活性剤は、ノニオン性の有機系界面活性剤又は乳化剤であり、分子構造中にケイ素原子を含有しないものであり、成分f)の範囲からは、上記のシリコーンポリエーテル共重合体およびそれを含有する泡増強剤は除かれ、特に分子構造中にケイ素原子を有しない非シリコーン系(以下、「有機系」と表現する)の界面活性剤または乳化剤が好適である。
【0087】
f)成分は、プレミクス液の温度や経時による保存安定性を確保する上で、系の曇点を向上させることのできるノニオン性有機系界面活性剤の添加が有効である。本発明に係るa)成分:ポリエーテルポリオールとd)成分:水との相溶化剤として働く必要がある点から、高HLB(水溶性)のノニオン乳化剤が好ましく、POEノニルフェニルエーテルやPOEオクチルフェニルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルや、POE脂肪アルコールエーテル、POE合成アルコールエーテル、POE分岐アルコールエーテル、POE2級アルコールエーテル等が利用できる。オキシエチレンの付加モル数は通常2~100の高範囲であり得るが、水溶性の観点からは7モル以上が、入手や取扱いの容易さからは30モル以下が好ましい。特に好適なものは、POE(9~20)ノニルフェニルエーテルやPOE(9~20)オクチルフェニルエーテルである。f)成分の好適な使用量は、ポリオールの合計量100重量部に対して5~30重量部である。5部未満では極性の異なるポリオール同士又はポリオールと水とを相溶性化できず均質なプレミクス液が得られ難く、30部を越えるとポリオール成分の相溶性が高くなり過ぎるために連通化(セルの開放)が起こり難くなり、フォーム収縮が生じ易くなる。
【0088】
[g)難燃剤]
g)成分は、に係るポリウレタンスプレーフォームシステムの任意の構成のひとつであり、本発明で使用する難燃剤は、前記a´)に含まれる難燃性ポリオール以外の難燃性成分であり、例えばトリメチルフォスフェート、トリエチルフォスフェート、トリスクロロエチルフォスフェート、トリスクロロプロピルフォスフェート等のリン酸エステル等が挙げられる。その使用量は、難燃性ポリオールを使用しない処方では、ポリオール合計100重量部に対して40~80重量部が好ましい。40重量部未満では難燃効果が不十分となる場合がある。また80重量部を超えるとポリオール成分の相溶性が高くなり過ぎるために連続気泡にすることが困難となる場合がある。特に好ましい使用量は50~70重量部である。一方、難燃性ポリオールをポリオール全体(100重量部)のうち15~35重量部配合する処方では、g)成分の使用量は20~40重量部が好ましい。尚、当該難燃剤g)はポリイソシアネート成分に混合してウレタンフォーム形成に供することもできる。これらの難燃剤は、ウレタン混合液の粘性を低下させ、スプレーによる均質なフォーム形成を容易にする働きも有すると共に、ポリウレタン樹脂の可塑剤としても働き、基材へのフォームの密着性の向上に寄与する。
【0089】
[h)任意成分]
h)成分は、本発明に係る泡増強剤以外のウレタンフォーム用整泡剤、希釈剤、鎖伸長剤、架橋剤、副次的な量の非水発泡剤、セル開放剤、充填剤、強化剤、顔料、染料、着色剤、抗酸化剤、抗オゾン剤、紫外線安定化剤、静電気防止剤、殺菌剤および抗菌剤などの当分野に公知であり任意のものであり、本発明の技術的効果を損なわない範囲で、それらの通常の含有量の範囲内で含んでよい。Low Emission特性を付与する観点からは、これらの任意成分であっても、フォームからマイグレーションや揮発によるリリースを起こさないような成分のみから構成されている材料であることを確認して、フォーム処方に配合することが、ポリウレタンフォーム形成性組成物の処方設計上重要である。
【0090】
例えば、本発明に係る泡増強剤以外のウレタンフォーム用整泡剤として、本発明の効果を損なわない範囲で、一般的な軟質スラブフォーム用整泡剤を併用しても良い。例えば、ユニオンカーバイド社で最初に商品化されたL-520(Si-O-C型シリコーンポリエーテル共重合体)や、ダウ・ケミカル社より販売中のVORASURF DC198 Additive,DC5950 Additive,DC5943 Additive,DC5160 Additive,DC5900 Additive,DC5933 Additive,DC5982 Additive,DC5986 Additive,DC5987 Additive,DC5990 Additive(Si-C型シリコーンポリエーテル共重合体)及びダウ・東レ社より販売中のSRX 280A,SRX 294A,SRX 298,SH 190(Si-C型シリコーンポリエーテル共重合体)などが挙げられる。この他、前記a´)として比較的低分子量且つ高官能性のポリエーテルポリオールを併用する処方では、より高極性のシステムに適合させる観点から、本発明の効果を損なわない範囲で、適量の硬質フォーム用シリコーン整泡剤を併用することも可能である。更に、一般のHRフォーム用シリコーン整泡剤やマイクロセルラーフォーム用シリコーン整泡剤は、本発明に係るシステムにおいてはセル開放剤として働く場合があるので、必要に応じ、これらを適量併用しても良い。
【0091】
任意のh)成分である架橋剤もしくは鎖伸長剤として、1分子当たり2から8個のヒドロキシル基と62~500の分子量を持つポリヒドロキシル末端化合物を含有し得る。3から8個のヒドロキシル基を持つ架橋剤はグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、マンニトール、ソルビトール等を含む。二個のヒドロキシル基を持つ有用な鎖伸長剤の例は、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、エチレングリコール、2,3-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオールおよびネオペンチルグリコール等を含む。ジエタノールアミンおよびモノエタノールアミンなども使用できる。これらの化合物を、希釈剤として扱っても構わない。その他の好適な希釈剤としては、25℃で液状のポリアルキレングリコールまたはその誘導体が挙げられる。
【0092】
任意のh)成分はまた、たとえば無機充填剤または充填剤の組み合わせのような充填剤を含んでよい。充填剤は、密度改質、機械的性能もしくは音吸収のような物理的性能、難燃性または例えば、炭酸カルシウムのような改善された経済性を含むものを含む他の利点の改善のためのもの、あるいは発泡体製造のコストを減ずる他の充填剤、水酸化アルミニウムもしくは他の難燃性充填剤、音吸収に用いられる硫酸バリウムもしくは他の高密度充填剤、発泡体密度をさらに減ずるガラスもしくはポリマーのような物質のミクロスフェアを含む。発泡体の剛性もしくは屈曲性のモジュールのような機械的性能を改質するために用いられる高いアスペクト比の充填剤ないし強化剤は、粉砕ガラス繊維もしくはグラファイト繊維のような人工繊維;珪灰石のような天然鉱物繊維;羊毛のような天然動物もしくは綿のような植物繊維;粉砕ガラスのような人工プレート状繊維;雲母のような天然鉱物プレート状充填剤を含む。添加する可能性のある顔料、染料、着色剤の任意のものを含む。さらに、本発明は、抗オゾン剤、抗酸化剤;熱もしくは熱-酸素分解阻害剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤もしくは、発泡体形成組成物に添加されるとき、生じる発泡体の熱、光および/もしくは化学的な分解を避けるか阻害する任意の他の添加剤の使用を意図する。ここでの使用をまた意図するものは、任意の公知で従来的な静電気防止剤、殺菌剤、抗菌剤およびガス退色阻害剤である。
【0093】
[プレミックス液]
本発明に係るポリウレタンスプレーフォームシステム用のプレミックス液は、前記a)ポリエーテルポリオール、c)ウレタン触媒、d)水である発泡剤:前記システム中の成分a)であるポリエーテルポリオールおよびその他のポリオール成分の和100質量部に対して10~40質量部の添加部数、e)前記シリコーンポリエーテル共重合体を含有する疎水性向上効果を有する泡増強剤、を少なくとも含有する。
【0094】
更に、本発明に係るポリウレタンスプレーフォームシステム用のプレミクス液は、前記f)ノニオン性の界面活性剤、特に、有機系のノニオン性の界面活性剤を更に含有することが好ましい。本発明に係るポリウレタンスプレーフォームシステム用のプレミックス液は、基材由来の色を有していてよいが、通常は透明均一液体の性状を有する。
【0095】
[ポリウレタンスプレーフォーム形成用組成物]
本発明に係るポリウレタンスプレーフォーム形成用組成物は、前記a)、b),c)、d)、e)成分を含有し、更に任意選択により、前記a´)及びf)から選択される1つ以上を含有することができる。また、同組成物は、g)難燃剤をさらに含み、任意でh)その他の添加剤を含んでもよい。なお、各成分の種類および使用量はポリウレタンスプレーフォームシステムにおいて説明した通りである。
【0096】
本発明に係るポリウレタンスプレーフォーム形成用組成物の処方の一例を以下に示す。ここで、以下の成分a)は、「分子内の平均水酸基数が2~4であり、オキシプロピレン基からなる繰り返し単位を有し、数平均分子量が1000~6000の範囲内にある、1種類以上のポリエーテルポリオール」の要件を満たすものである。また、以下の成分b)のイソシアネート基の濃度は、30.5~32.0 wt.%の範囲にある。
処方1:
a)ポリプロピレングリコール系ポリエーテルポリオール(三洋化成No.33)100重量部
c)DABCO 33LV(トリエチレンジアミン、Sigma Aldrich) 2重量部
e)泡増強剤、又は比較用整泡剤 1重量部
d)水 25重量部
g)トリスクロロプロピルフォスフェート(大八化学、難燃剤TMCPP) 60重量部
b)ミリオネートMR-100(東ソー、ポリメリックMDI) 207重量部
【0097】
本発明に係るポリウレタンスプレーフォーム形成用組成物は、特に軟質ポリウレタン発泡体の形成に好適に利用でき、厳しいVOC(Volatile Organic Compound)管理或いはエミッション管理を要求される現在のポリウレタン産業界のニーズに応えることが可能である。より具体的には、泡増強剤における、前記のケイ素原子数が20以下の低分子シロキサンの含有量が5000ppm(重量)以下、2000ppm(重量)以下、1000(重量)ppm以下に容易に抑制でき、かつ、泡増強剤としての使用量自体も少ないため、最終的に得られるポリウレタンフォームにおいて、これらの揮発性シロキサンに由来するVOCおよびそのエミッションをほぼ完全に抑制することができる。なお、泡増強剤におけるこれらの成分の含有量が5000ppmを超えると、前記泡増強剤をポリウレタン発泡体用の整泡剤として用いた場合、ポリウレタンフォームが設置された場所の周辺部材を汚染し、電気・電子装置の接点障害を引き起こす可能性があり、好ましくない。
【0098】
本発明に係るポリウレタンスプレーフォーム形成用組成物を硬化させてなる軟質ポリウレタン発泡体は、その用途が限定されるものではないが、現場発泡により硬化させてなる建築材料、特に、断熱材又は吸音材として好適に利用可能である。
【0099】
本発明に係る軟質ポリウレタン発泡体は、そのプレミックス液が安定しており、取り扱い作業性に優れ、発泡性に優れ、建造物の製造現場において、少量の使用であっても大容積の発泡体(=フォーム体積)を形成できるため、建造物用途等におけるコスト面、作業効率に優れ、得られる発泡体が微細なセル構造を有し、断熱材/吸音材等の用途に適合しており、かつ、従来の泡増強剤を使用した場合に比べて、ポリウレタン発泡体(特に、軟質ポリウレタンフォーム)の疎水性を顕著に改善可能であるという、従来技術にはない主要な利点を兼ね備え、かつ、近年、特に建造物用途における重要度が高い、Low Emission/Low VOCの要求を充足できるものである。
【実施例】
【0100】
以下、実施例と比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、これらにより限定されるものではない。
【0101】
以下、本発明にかかる泡増強剤の性能評価手順を、A:プレミクス相溶性試験、B:ウレタンフォームの形成、C:ウレタンフォームの体積/セル構造の評価、D:ウレタンフォームの吸水率試験の順に説明する。
【0102】
[A:プレミクス相溶性試験]
本発明の泡増強剤と比較用整泡剤について、プレミクス液中での相溶性試験を以下の手順に従って行った。
A1.50gのa)ポリエーテルポリオール、及び所定の比率のd)水、c)ウレタン触媒、e)泡増強剤又は比較用整泡剤を100mLガラス瓶に仕込む。
A2.鋸刃付きの円盤型ディスパーミキサーを用いて、上記内容物を1分間攪拌して均質化する。
A3.ガラス瓶に栓をして室温で1夜間静置し、泡を消す。
A4.混合液の外観(透明性)を目視確認し、記録する。
【0103】
[B:ウレタンフォームの形成]
B1.前記Aで調製したプレミクス液、g)難燃剤、b)ポリイソシアネートを、合計重量が20gとなるような所定の比率で200mLプラスチックカップに仕込み、即座に、鋸刃付きの円盤型ディスパーミキサーで3500rpm,7秒間攪拌する。
B2.ミキサーの攪拌を止め、即座に、得られた均質混合されたポリウレタンスプレーフォーム形成用組成物を1Lプラスチックカップに注ぎ込み、自然に発泡させる。注ぎ込み開始から終了までの時間は8秒間で固定する。
B3.得られたフォームを室温で1夜間静置する。
【0104】
[C:ウレタンフォームの体積/セル構造の評価]
C1.前記Bで作成されたプラスチックカップ入りのフォームを、電動カッターを用いて上下半分に切断する。
C2.フォームの高さ(単位mm)とフォーム断面のセル構造の均質さを、記録する。
【0105】
[D:ウレタンフォームの吸水率試験]
D1.前記Cで得られたフォーム片を電動カッターにて更に細断し、縦6.5cm×横6.5cm×高さ4cmの直方体状のテストピースを作成する。ここで、このテストピースは前記Bで作成されたプラスチックカップ入りのフォームの中央部から採取されたものとする。
D2.前記テストピースの重量を測定し、記録する。
D3.水浴を準備する。
D4.前記テストピースの下部半分を水浴に2時間浸した後、取り出して重量を測定し、記録する。
D5.テストピースの吸水率(重量%)を計算し、記録する。
【0106】
第一ラウンドの試験においては、比較用整泡剤として以下の2つのグループ間の比較を行った。これらは、主として市販の整泡剤からなる。なお、これらの整泡剤の主成分であるシリコーンポリエーテル共重合体を表す組成式において、Me3SiO基(又は、Me3Si基)を「M 」、Me2SiO基を「D 」、Me2HSiO基を「MH 」、MeHSiO基を「DH 」と表記し、MおよびD中のメチル基の一つを何らかの置換基(*または**である変性基)によって変性した単位をM*およびD*等と表記する。また、(EO)とはオキシエチレン基を表し、(PO)とはオキシプロピレン基を表し、Me基はメチル基、Ac基はアセチル基を表すものとする。
[比較用整泡剤(第一ラウンド)]
・グループR:硬質ウレタンフォーム用整泡剤9種
・グループF:軟質スラブフォーム用整泡剤3種
【0107】
以下に、グループRに属する比較用整泡剤の識別番号と、主成分の平均組成式を示した。なお、簡易的に(EO)と(PO)がブロック結合しているような形式で表現をしているが、実際にはランダム付加構造である。
比較整泡剤R1:M*D25D*
1M*,*=-C3H6O(EO)15(PO)5-H
比較整泡剤R2:MD43D*
6.8M,*=-C3H6O(EO)26(PO)6-CH3
比較整泡剤R3:MD50D*
7M,*=-C3H6O(EO)11(PO)3.5-H
比較整泡剤R4:M*D18D*
3M*,*=-C3H6O(EO)15(PO)5-CH3
比較整泡剤R5:M*D25D*
1M*,*=-C3H6O(EO)24(PO)6-CH3
比較整泡剤R6:MD34D*
5.7M,*=-C3H6O(EO)12(PO)2-H
比較整泡剤R7:MD34D*
5.7M,*=-C3H6O(EO)11(PO)3.5-H
比較整泡剤R8:M*D42D*
5M*,*=-C3H6O(EO)17(PO)7-CH3
比較整泡剤R9:MD37D*
3.4D**
2.1M,*=-C3H6O(EO)11(PO)3.5-CH3,**=-C3H6O(EO)11(PO)3.5-H
【0108】
以下に、グループFに属する比較用整泡剤の識別番号と、主成分の平均組成式を示した。なお、簡易的に(EO)と(PO)がブロック結合しているような形式で表現をしているが、実際にはランダム付加構造である。
比較整泡剤F1:MD50D*
5.9M,*=-C3H6O(EO)22(PO)22-CH3
比較整泡剤F2:MD33D*
2.8M,*=-C3H6O(EO)22(PO)22-CH3
比較整泡剤F3:MD53D*
3M,*=-C3H6O(EO)22(PO)22-COCH3
【0109】
以下に、前記比較用整泡剤12点の構造要素をまとめた。
[表1]:比較用整泡剤(第一ラウンド)の構造
【表1】
【0110】
以下に、前記比較用整泡剤12点の性能評価結果をまとめた。なお、データの採取をしていないもの又は記録の無いものは「-」と記してある。
[表2]:比較用整泡剤(第一ラウンド)の性能と構造の関係
【表2】
【0111】
以上の結果より、シリコーン整泡剤のポリエーテル末端基YがHを主体とする構造である場合には、プレミクス液との相溶性が不足し、透明な外観が得られにくい傾向にあることが分かった。加えて、フォーム高さ(体積)に優れるものは、全てプレミクス液の外観が透明であったことから、プレミクス相溶性に優れた構造設計がまず重要であることが分かった。次に、フォームの吸水率に関しては、全般的に硬質フォーム用の整泡剤(グループR)よりも軟質スラブ用整泡剤(グループF)を使用した方が低い値が得られていることが分かった。
【0112】
しかしながら、前記軟質スラブ用整泡剤を使用した場合と同レベルのフォーム体積を稼ぎながら、吸水率の低いフォームが求められていることから、従来技術からの改良が必要であった。そこで、構造の異なるシリコーンポリエーテル共重合体を新たに12点合成し、前記R8及びF3と比較する形で、性能の評価を実施した。詳細は以下の通りである。
【0113】
[実施例/比較例用共重合体の合成(第二ラウンド)]
以下に、実施例のシリコーンポリエーテル共重合体(本発明の泡増強剤)1点について、合成手順を参考までに示す。この他の実施例サンプル、比較例サンプル(比較整泡剤)については、主原料であるオルガノハイドロジェンポリシロキサンと片末端アリル基含有ポリエーテルの構造或いは組み合わせが異なるが、本例と概ね同様の手順で合成を行った。なお、これらのシリコーンポリエーテル共重合体を表す組成式において、Me3SiO基(又は、Me3Si基)を「M 」、Me2SiO基を「D 」、Me2HSiO基を「MH 」、MeHSiO基を「DH 」と表記し、MおよびD中のメチル基を何らかの置換基によって変性した単位をM*およびD*等と表記する。また、(EO)とはオキシエチレン基を表し、(PO)とはオキシプロピレン基を表し、Me基はメチル基、Ac基はアセチル基を表すものとする。
【0114】
<実施例1>識別番号SI-1の泡増強剤の製造
平均組成式 MD53DH
3M で表され、ケイ素原子に結合した水素基の濃度分析値が0.072質量%であるオルガノハイドロジェンポリシロキサン原料を139.68g、平均組成式CH2=CH-CH2-O(C2H4O)9(C3H6O)22-Hで表され、不飽和基の濃度分析値が0.45ミリモル/g且つ水酸基価の分析値が28.4mg-KOH/gである片末端アリルポリエーテル原料310.32g、IPA(イソプロピルアルコール)135gを1Lフラスコに仕込み、窒素流通下で攪拌しながら油浴の温度設定を85℃として加温を開始した。なお、この反応系におけるアリル/SiHのモル比は1.4であった。フラスコ内容物の温度45~50℃で、白金-ジビニルジシロキサン錯体(カールシュタット触媒)のIPA溶液(Pt濃度0.4wt%)を244ppm(白金として10ppm相当)添加したところ、18分後に反応液が透明化した。フラスコ内容液の温度を80℃に維持して80分間の反応を行なった。次いで反応液を1g採取し、アルカリ分解ガス発生法により確認したところ反応は完結していた。油浴の温度設定を125℃として、窒素流量を増やし常圧にてIPAの留去を開始した。留出速度が遅くなったところで、レシーバーのIPAを一旦廃棄し、泡立ちや突沸に注意しながら、系内を徐々に30mmHgまで減圧した。その後、フラスコ内容液の温度を110~125℃、圧力を10mmHg以下の条件下で75分間維持し、更に揮発分の除去を行った。その後、加熱を停止してフラスコを95℃以下まで放冷し、復圧した。
【0115】
これにより、平均組成式MD53D*
3M{*=-C3H6O(C2H4O)9(C3H6O)22-H}で表されるシリコーンポリエーテル共重合体を含む、淡黄褐色透明均一液体を得た。なお、簡易的にポリオキシエチレン基とポリオキシプロピレン基がブロック結合しているような形式で表現をしているが、実際にはランダム付加構造である。
泡増強剤SI-1:MD53D*
3M,*=-C3H6O(EO)9(PO)22-H
【0116】
<実施例2~実施例4>識別番号SI-2~SI-4の泡増強剤の構造
以下に、実施例サンプルの識別番号と、主成分の平均組成式を示した。なお、簡易的に(EO)と(PO)がブロック結合しているような形式で表現をしているが、実際にはランダム付加構造である。
泡増強剤SI-2:MD53D*
3M,*=-C3H6O(EO)18(PO)16-H
泡増強剤SI-3:MD54D*
6.5M,*=-C3H6O(EO)18(PO)16-H
泡増強剤SI-4:MD83D*
7.7M,*=-C3H6O(EO)18(PO)16-H
【0117】
<比較例1~比較例8>識別番号SR-1~SR-8
以下に、比較例サンプルの識別番号と、主成分の平均組成式を示した。なお、簡易的に(EO)と(PO)がブロック結合しているような形式で表現をしているが、実際にはランダム付加構造である。
比較整泡剤SR-1:MD53D*
3M,*=-C3H6O(EO)30(PO)10-H
比較整泡剤SR-2:MD54D*
6.5M,*=-C3H6O(EO)15(PO)5-H
比較整泡剤SR-3:MD54D*
6.5M,*=-C3H6O(EO)21(PO)9-H
比較整泡剤SR-4:MD54D*
6.5M,*=-C3H6O(EO)30(PO)10-H
比較整泡剤SR-5:MD83D*
7.7M,*=-C3H6O(EO)21(PO)9-H
比較整泡剤SR-6:MD83D*
7.7M,*=-C3H6O(EO)30(PO)10-H
比較整泡剤SR-7:MD54D*
6.5M,*=-C3H6O(EO)21(PO)9-CH3
比較整泡剤SR-8:MD83D*
7.7M,*=-C3H6O(EO)21(PO)9-CH3
【0118】
以下に、実施例/比較例用共重合体サンプル12点の構造要素をまとめた。なお、比較のため、前記R8及びF3も含めて表示してある。
[表3]:試作サンプル(第二ラウンド)の構造
【表3】
【0119】
以下に、実施例/比較例用共重合体サンプル12点の性能評価結果をまとめた。なお、データの採取をしていないもの又は記録の無いものは「-」と記してある。また、比較のため、前記R8及びF3も含めて表示してある。
[表4]:試作サンプル(第二ラウンド)の性能と構造の関係
【表4】
【0120】
以上の結果より、シリコーン整泡剤のポリエーテル末端基YがHを主体とする構造であったとしても、比Zの値が大きい(ここではPO-リッチな長いポリエーテル鎖を有する)場合には、プレミクスシステムとの相溶性に優れ、体積が大きくセル構造の良好な、しかも吸水率の小さなフォームが得られることが分かった。すなわち、ウレタンフォーム用整泡剤として利用されるシリコーンポリエーテル共重合体に関し、本発明の特定の化学構造を選択することにより、ウレタンフォーム自体の疎水性を向上できることが見出された。一方で、シリコーン整泡剤のポリエーテル末端基YがMe或いはAcなどキャップされた構造の場合には、比Zの値が小さくともプレミクスとの相溶性に優れるという特徴を有するが、得られたフォームの吸水率が大きくマーケットニーズを満たせないことが明らかである。
【0121】
特に、本発明の泡増強剤SI-1~SI-4は、その原料である片末端アリルポリエーテルの水酸基部分をキャップ処理する必要がないため、現在スプレーフォームシステム向けに転用されている軟質スラブフォーム用整泡剤よりも安価に製造できる利点がある。それにもかかわらず、先の表4に示した通り、総合的な性能のバランスにおいてF3を上回っている。従って、本発明の泡増強剤は、社会及び産業の健全な発展への貢献が大である。
【0122】
[Low Emission性の確認]
本発明の泡増強剤SI-1~SI-3について、以下の手順に従ってヘッドスペースGC法により揮発性の環状シロキサン類(D4~D6)の分析を行った。
E1.サンプル約1gを20mLのバイアル瓶に秤量して、密封した。
E2.バイアルを150℃で30分間加熱後、ヘッドスペースサンプラーにて1mLのヘッドスペースをGCへ注入し測定した。
【0123】
上記のGCにおける分析結果を、以下の表5にまとめた。環状シロキサンの各成分は夫々0.10%(1000ppm)を大きく下回っており、Low Emissionの観点から問題のないことを確認できた。
[表5]:本発明の泡増強剤の揮発性シロキサン含有量(単位:wt.ppm)
【表5】
【0124】
以下は、本発明の泡増強剤の使用に適した、水100倍発泡ポリウレタン断熱用スプレーフォーム形成用組成物の処方例である。
[表6]:軟質ポリウレタン断熱用スプレーフォーム形成用組成物(水100倍発泡)
なお、下表の成分a)は、「分子内の平均水酸基数が2~4であり、オキシプロピレン基からなる繰り返し単位を有し、数平均分子量が1000~6000の範囲内にある、1種類以上のポリエーテルポリオール」の要件を満たすものである。また、下表の処方2及び処方3のイソシアナート指数の計算値は約30である。
【表6】