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特許7498003複数の変数を有するシステムの状態解析診断方法、及び当該方法を用いた情報処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】複数の変数を有するシステムの状態解析診断方法、及び当該方法を用いた情報処理装置
(51)【国際特許分類】
   G06F 17/16 20060101AFI20240604BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20240604BHJP
【FI】
G06F17/16 N
G01M99/00 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020045873
(22)【出願日】2020-03-16
(65)【公開番号】P2021149223
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000141060
【氏名又は名称】株式会社関電工
(74)【代理人】
【識別番号】100075410
【弁理士】
【氏名又は名称】藤沢 則昭
(74)【代理人】
【識別番号】100135541
【弁理士】
【氏名又は名称】藤沢 昭太郎
(72)【発明者】
【氏名】鍛冶 良作
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 匠
(72)【発明者】
【氏名】大川 慶直
(72)【発明者】
【氏名】昆 盛太郎
(72)【発明者】
【氏名】神徳 徹雄
(72)【発明者】
【氏名】河合 洋明
(72)【発明者】
【氏名】泉 敬介
(72)【発明者】
【氏名】中島 栄一
(72)【発明者】
【氏名】関 健一
【審査官】漆原 孝治
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-144111(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 17/16
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の変数を有するシステムにおいて、
前記複数の変数のうち、一方の変数をX軸に、他方の変数をY軸に並べて図示した場合に、両変数が円環の関係性を有する2つの変数を選択し、
各変数のX軸方向の値を実部、各変数のY軸方向の値を虚部とする複素数としてとらえ、
当該複数の変数間の複素相関係数を算出し、
算出された複素相関係数を行列で表し、
当該複素相関係数行列の逆行列を使って、複素マハラノビス距離を算出し、
算出された複素マハラノビス距離の値により、前記システムの正常、異常を診断することを特徴とする、複数の変数を有するシステムの状態解析診断方法。
【請求項2】
前記複素相関係数は以下の数2で算出し、前記複素マハラノビス距離は以下の数3で算出することを特徴とする、請求項1に記載の複数の変数を有するシステムの状態解析診断方法。
【数2】

【数3】
【請求項3】
前記システムの正常、異常の診断は、システムが正常な状態に係る基準空間の複素相関係数行列の逆行列を使って、対象空間の複素マハラノビス距離を算出して行うことを特徴とする、請求項1又は2記載の複数の変数を有するシステムの状態解析診断方法。
【請求項4】
前記基準空間を、所定の条件に基づいて、再設定し、
再設定後の基準空間の複素相関係数行列の逆行列を使って、対象空間の複素マハラノビス距離を再度算出し、前記システムの正常、異常の診断を行うことを特徴とする、請求項3に記載の複数の変数を有するシステムの状態解析診断方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の複数の変数を有するシステムの状態解析診断方法に用いる情報処理装置であって、
当該情報処理装置は、
前記複数の変数間の複素相関係数を算出し、
算出された複素相関係数を行列で表し、
当該複素相関係数行列の逆行列を使って、複素マハラノビス距離を算出し、
算出された複素マハラノビス距離の値により、前記システムの正常、異常を診断する制御手段を有することを特徴とする、情報処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数の変数の相関性を考慮した距離「マハラノビス距離」を用いて、対象の正常状態と異常状態を判別する多変量解析手法「MT法」を使用する、複数の変数を有するシステムの状態解析診断方法、及び当該方法を用いた情報処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
MT法とは、品質工学において対象の品質を的確に確保する方法として、複数の変数の相関性を考慮した距離「マハラノビス距離」(=D)を用い、対象の正常状態と異常状態を判別する多変量解析手法である。
【0003】
ある変数mに関する時系列データがi個あるとする。これを時系列ベクトルxmで表す(数9)。
【0004】
【数9】
【0005】
すると、変数mに関する平均μ_mは、数10で計算される。
【0006】
【数10】
【0007】
同様にして、別の変数nに関する時系列データがi個あるとする。これを時系列ベクトルxnで表す(数11)
【0008】
【数11】
【0009】
すると、変数nに関する平均μ_nは、数12で計算される。
【0010】
【数12】
【0011】
この時、変数m、nの共分散Σmnは、数13で計算される。
【0012】
【数13】
【0013】
平均値μ_n、μ_mなどが変数順に並んだ平均ベクトルをμとし、変数m、nの共分散Σmnをその成分に持つ共分散行列をΣとすると、ある時刻jにおける多変数ベクトルx= [ x_jm x_jn … ] (前記 xm、xnは時刻に関する集合であるのに対し、このベクトルは変数に関する集合であることに注意せよ)に対するマハラノビス距離Dは、次式で定義される(数1)。
【0014】
【数1】
【0015】
マハラノビス距離Dは、多変数ベクトルxに対して、各要素間の相関を踏まえた多次元空間上の距離として定義される、直感的には、例えば、二次元空間における楕円状の分布に対して、重心から標本点までの距離と、その方向における楕円の幅との比で算出される。物理的には、複数の測定データによって構成されるある対象の状態を、測定データ間の相関関係が大きいものについてはその重みを大きくし、相関関係が小さいものについてはその重みを小さく評価した上で、平均的な状態から、ばらつきが正規分布(ガウス分布)している理想状態に対するずれを、マハラノビス距離Dという一つの値に集約して示したものと考えることが出来る。
【0016】
MT法おいては、基準となる測定データ(基準状態)の平均値と共分散行列を用いて、比較対象となる測定データにおけるマハラノビス距離Dを算出する。これにより、基準状態に対する比較対象の状態変化を把握することが可能である。
【0017】
例えば、特許文献1に示すもののように、このマハラノビス距離Dを用いて監視対象物の異常の有無を判定する方法や装置が多数開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】特開2018-128358号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかしながら、従来のMT法は、変数の値を実数として扱い、それらから算出した共分散(相関係数)の行列を用いてマハラノビス距離Dを算出する手法であるため、例えば二つの変数が円環上の関係性をもって分布している場合など、現象としては何らかの関係性を有するにもかかわらず、計算上の相関関係はゼロに近い値となってしまい、相互の関係性がマハラノビス距離Dに反映されないケースがある。この場合、対象が本来持っているはずの重要な関係性やその関係性の崩れを見落としてしまう恐れがある。
【0020】
以下、変数の値を実数として扱う、従来のMT法を用いると、相関関係がゼロになってしまう事例について説明する。
【0021】
図7はある回路の電圧V1と電流I1と、他の回路の電圧V2と電流I2の時間的な変動を例示したものである。電圧と電流は夫々位相がπ/2(=90度)ずれている。
【0022】
図8は従来のMT法でこれらを解析するために、電流と電圧に係る4つの変数の散布図と、これら4つの変数における、2つの変数間の相関係数を示したものである。求めた相関係数から分かるように、電圧V1と電圧V2の相関が1に近く、また、電流I1と電流I2の相関の相関が1に近い。その他の相関はほぼゼロである。また、図8の散布図を見ると、電圧V1と電圧V2の関係と電流I1と電流I2の関係は直線状に並んでおり、相関が1に近いことが分かる。
【0023】
これに対し、電圧V1と電流I1の関係並びに電圧V2と電流I2の関係は位相がπ/2(=90度)ずれているため、円を描いていることが分かる。この様な特殊な関係性を有するにもかかわらず、従来のMT法を用いて、電圧V1、電流I1の相関分析をするとゼロと出てしまう。
【0024】
そこで、この発明は上述の課題を解決するため、システム(対象)から得られた変数がそれぞれ、二次元的な分布を持つ場合に、これらの変数を複素数として扱い、これら複素数同士の関係性をみることで、当該システム(対象)が正常か異常かを正確に診断できる、複数の変数を有するシステムの状態解析診断方法、及び当該方法を用いた情報処理装置を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
請求項1の発明は、
複数の変数を有するシステムにおいて、
前記複数の変数のうち、一方の変数をX軸に、他方の変数をY軸に並べて図示した場合に、両変数が円環の関係性を有する2つの変数を選択し、
各変数のX軸方向の値を実部、各変数のY軸方向の値を虚部とする複素数としてとらえ、
当該複数の変数間の複素相関係数を算出し、
算出された複素相関係数を行列で表し、
当該複素相関係数行列の逆行列を使って、複素マハラノビス距離を算出し、
算出された複素マハラノビス距離の値により、前記システムの正常、異常を診断する、複数の変数を有するシステムの状態解析診断方法とした。
【0026】
また、請求項2の発明は、
前記複素相関係数は以下の数2で算出し、前記複素マハラノビス距離は以下の数3で算出する、請求項1の複数の変数を有するシステムの状態解析診断方法とした。
【0027】
【数2】
【0028】
【数3】
【0029】
また、請求項3の発明は、
前記システムの正常、異常の診断は、システムが正常な状態に係る基準空間の複素相関係数行列の逆行列を使って、対象空間の複素マハラノビス距離を算出して行う、請求項1又は2記載の複数の変数を有するシステムの状態解析診断方法とした。
【0030】
また、請求項4の発明は、
前記基準空間を、所定の条件に基づいて、再設定し、
再設定後の基準空間の複素相関係数行列の逆行列を使って、対象空間の複素マハラノビス距離を再度算出し、前記システムの正常、異常の診断を行う、請求項3に記載の複数の変数を有するシステムの状態解析診断方法とした。
【0031】
また、請求項5の発明は、
請求項1~4のいずれかに記載の複数の変数を有するシステムの状態解析診断方法に用いる情報処理装置であって、
当該情報処理装置は、
前記複数の変数間の複素相関係数を算出し、
算出された複素相関係数を行列で表し、
当該複素相関係数行列の逆行列を使って、複素マハラノビス距離を算出し、
算出された複素マハラノビス距離の値により、前記システムの正常、異常を診断する制御手段を有する、情報処理装置とした。
【発明の効果】
【0032】
請求項1~5の各発明によれば、システムの有する複数の変数が、夫々二次元的な分布を持つ場合に、各変数のX軸方向の値を実部、各変数のY軸方向の値を虚部とする複素数として扱い、当該複数の変数間の複素相関係数を算出し、算出された複素相関係数を行列で表し、当該複素相関係数行列の逆行列を使って、複素マハラノビス距離を算出する。このようにして求められた複素マハラノビス距離は、従来の、各変数を実数として扱って求めるマハラノビス距離では反映されず、相関がないと認識される、変数同士の関係性を数値化して把握できる。そして、把握した関係性を踏まえて、システムの正常、異常状態を判別(診断)することが出来る。更に、システムの正常・異常を示すデータを的確に検出することができる。
【0033】
また従来から、各変数を実数として扱って求めるマハラノビス距離を用いることによって生じていた、システムの正常・異常とは関連性のない、マハラノビス距離の異常値の発生を低減させることができる。
【0034】
請求項1~5の各発明は、特に、電気、電磁波といった複素空間上の分布が「振幅」、「位相」の二つの実数で表現される現象等を扱う体系に対して有効である。また、請求項1~5の各発明は、複素空間上の関係性が、一方の変数の微分が他方の変数に関連するような、電信方程式やマクスウェルの方程式、シュレディンガーの方程式等に代表される物理量を扱う体系に特に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】(a)図は二次元上の平面に円を描くように推移する関係性をもつ2つの変数データの平面図、(b)図は平面内軸を実軸(実部)、虚軸(虚部)とし、縦軸を時間軸として2組の前記変数データが螺旋を描く散布図である。
図2】二次元上の平面に円を描くように推移する関係性をもつ2組の振幅と位相の変数データの説明図であって、(a)図は回転(螺旋)方向が同じで位相が同じ場合の前記変数を実数としてとらえた散布図、(b)図は同じく各変数を複素数としてとらえた散布図、(c)図は回転(螺旋)方向が同じで、位相がπ/2ずれた場合の前記変数を実数としてとらえた散布図、(d)図は同じく各変数を複素数としてとらえた散布図である。
図3】二次元上の平面に円を描くように推移する関係性をもつ2組の振幅と位相の変数データの説明図であって、(a)図は回転(螺旋)方向が反対で位相が同じである場合の前記変数を実数としてとらえた散布図、(b)図は同じく前記各変数を複素数としてとらえた散布図、(c)図は回転(螺旋)方向が反対で、位相がπ/2ずれた場合の変数を実数としてとらえた散布図、(d)図は同じく前記各変数を複素数としてとらえた散布図である。
図4図7の信号V1、I1(V2、I2)を実部虚部とする複素信号Z1(Z2)を、水平面内軸を実軸(実部)、虚軸(虚部)とし、縦軸を時間としてプロットした散布図である。4つ実変数として示されていたものは、実は2つの複素変数であることを示している。
図5】(a)図7の4つの実変数に基づく相関係数行列から算出されたマハラノビス距離であり、横軸を時間、縦軸をMD二乗値とした、(b)図は(a)図のヒストグラムであり、横軸はMD二乗値、縦軸は頻度を表す。
図6】(a)図7の4つ実変数データを図4の2つの複素変数データとして見直し、その2つの複素変数に基づく複素相関係数行列から算出された複素マハラノビス距離であり、横軸を時間、縦軸をCMD二乗値としたグラフ、(b)図は(a)図のヒストグラム図であり、横軸はCMD二乗値、縦軸は頻度を表す。
図7】4つの実変数(V1、I1、V2、I2)の時間推移を示すグラフであり、V、Iは信号Zの実部、虚部である。信号V1には、時刻60から100の間に他の期間の5倍のランダムノイズが重畳されている。
図8図7の4つの実変数データのそれぞれを縦軸、横軸とした時の散布図(4つの中から2つ抜き出す組み合わせ数:4×3÷2=6個)と、それらの相関係数を示したものである。
図9図7の4つの実変数のその後の時間推移を示すグラフ。V、Iは信号Zの実部、虚部である。信号が増幅されて、定常状態になった様子を示している。信号V1には、時刻400から600の間に他の期間の3.5倍のランダムノイズが重畳されている。
図10】(a)図9の4つの変数に基づく相関係数行列から算出されたマハラノビス距離であり、横軸を時間、縦軸をMD二乗値としたグラフ、(b)図は(a)図のヒストグラム図であり、横軸はMD二乗値、縦軸は頻度を表す。
図11図9の信号Z1と信号Z2のそれぞれの実部と虚部を、平面内軸を実軸(実部)、虚軸(虚部)とし、縦軸を時間としてプロットした散布図である。
図12】(a)図11の複素信号Z1とZ2に基づく複素相関係数行列から算出された複素マハラノビス距離であり、横軸を時間、縦軸をCMD二乗値としたグラフ、(b)図は(a)図のヒストグラム図であり、横軸はCMD二乗値、縦軸は頻度を表す。
図13】(a)図10の閾値が5以下の最も長い期間(時刻0から100)を基本空間に再設定した相関係数行列から算出されるマハラノビス距離であり、横軸を時間、縦軸をMD二乗値としたグラフ図、(b)図は(a)図のヒストグラム図であり、横軸はMD二乗値、縦軸は頻度を表す。
図14】(a)図12の閾値が5以下の最も長い期間(時刻200から300)を基本空間とした複素相関係数行列から算出される複素マハラノビス距離であり、横軸を時間、縦軸をCMD二乗値としたグラフ図、(b)図は(a)図のヒストグラム図であり、横軸はCMD二乗値、縦軸は頻度を表す。
図15】この発明の方法を実現するための情報処理装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
(実施の形態例1)
以下、この発明の実施の形態例1の複数の変数を有するシステムの状態解析診断方法、及び当該方法を用いた情報処理装置について説明する。
【0037】
図1(b)は、実軸、虚軸を座標軸に持つ複素平面(XY平面)上を時間進展と共に回転する軌跡を描く二つの複素データdata1(z=x+jy)、data2(w=u+jv)を、Z軸を時間軸として示したものである。ここで、jは虚数単位を示す。このような時間進展に関して螺旋の関係性を内包するデータは、交流電圧・電流や電磁界の反射係数など、多数ある。
【0038】
図2(a)は、同図(b)のdata1の実部x、虚部y、data2の実部u、虚部vを、それぞれ独立したデータとして考えて、散布図として示したものである。図2(a)一段目左から順にxyの散布図、xuの散布図、yuの散布図であり、二段目左から順にuvの散布図、xvの散布図、yvの散布図を示している。ここに、図中のr_xy、r_xu、r_yu、r_uv、r_xv、r_yvはそれぞれの相関係数を示している。
【0039】
データを実数として扱う従来の相関分析法では、一方のデータ(data1)の実部と虚部、他方のデータ(data2)の実部と虚部をそれぞれ、実数の変数としてとらえ、計4つのデータから2つ選んだ時のデータの全組み合わせ(4×3÷2=6組)を考慮する。これらの相関関係を見ると、実部のデータと実部のデータの相関係数r_xuは1、虚部のデータと虚部のデータの相関係数r_yvも1、実部のデータと虚部のデータの相関係数r_xy、r_yu、r_uv、r_xvは0となる。従って、実部のデータと虚部のデータでは相関関係がない。
【0040】
図2の(a)図は、data1とdata2の上記螺旋が同じ方向で、位相も同じ場合を示すが、「data1の実部:data2の実部」の相関係数r_xuが1、「data1の虚部:data2の虚部」の相関係数r_yvが1となっている。また、図2の(c)図は、上記螺旋が同じ方向で、位相はπ/2(=90度)ずれている場合を示すが、「data1の実部:data2の虚部」の相関係数r_xvが1、「data1の虚部:data2の実部」の相関係数r_yuが-1となっている。従来のMT分析では、data1とdata2の関係性を把握するために、6種の組み合わせ(=「data1の実部:data1の虚部」、「data2の実部:data2の虚部」、「data1の実部:data2の実部」、「data1の実部:data2の虚部」、「data1の虚部:data2の実部」、「data1の虚部:data2の虚部」)を調べていた。
【0041】
また、図3の(a)図は、同図(b)で示すように、data1とdata2の上記螺旋の向きが反対で位相が同じ場合の各実部・虚部の散布図を示したものであるが、「data1の実部:data2の実部」の相関係数r_xuは1、「data1の虚部:data2の虚部」の相関係数r_yvが-1である。また、図3の(c)図は、同図(d)のように、data1とdata2の上記螺旋の向きが反対で位相はπ/2(=90度)ずれている場合の各実部・虚部の散布図を示したものであるが、「data1の実部:data2の虚部」の相関係数r_xvは1、「data1の虚部:data2の実部」の相関係数r_yuが1である。従来のMT分析では、data1とdata2の関係性を把握するためには、6種の組み合わせ(=「data1の実部:data1の虚部」、「data2の実部:data2の虚部」、「data1の実部:data2の実部」、「data1の実部:data2の虚部」、「data1の虚部:data2の実部」、「data1の虚部:data2の虚部」)を調べていた。
【0042】
<複素マハラノビス距離の算出>
そこで、この発明では、これらのdata1及びdata2の実部、虚部のデータを個別の変数として扱わず、実部と虚部で一つの複素数として扱い、data1の複素数とdata2の複素数間の複素相関係数を算出し、算出された複素相関係数を行列で表し、当該複素相関係数行列の逆行列を使って、複素マハラノビス距離を算出する。以下、詳しく説明する。
【0043】
data1(「複素数z=x+jy」とする)及びdata2(「複素数w=u+jv」とする)の時系列i(←「i」は筆記体。時系列iは、1~nの時系列)の各数値は、以下の表1の通りである。そして、時系列i(←「i」は筆記体)のdata1及びdata2の各数値から、data1及びdata2の複素平均値μと複素標準偏差σを算出する。詳しくは、複素平均値μは次式で求める。(数14)、
【0044】
【数14】
【0045】
複素標準偏差σは次式で求める(数15)。
【0046】
【数15】
【0047】
【表1】
【0048】
次に、算出されたdata1及びdata2の複素平均値μと複素標準偏差σを用いて、data1及びdata2の時系列i(←「i」は筆記体)の各数値について、規格化(=正規化、標準化)を行う。例えば、data1及びdata2の時系列i(←「i」は筆記体。時系列iは、1~nの時系列)の各数値を規格化する場合には、以下の式となる(数4)。
【0049】
【数4】
【0050】
「規格化」は、統計の分野で一般的に行われており、平均が0、標準偏差が1となるように値を変換することである。「規格化」することで、単位や平均値などが異なる値同士を単純に比較できるようになり、コンピュータ(情報処理装置)で扱いやすくなる。
【0051】
そして、数4を使って、data1及びdata2の時系列の各数値を規格化した結果は、以下の表2の通りである。
【0052】
【表2】
【0053】
次に、複素相関係数行列をRとすると、以下のように数16で表わされる。
【0054】
【数16】
【0055】
【数2】
【0056】
数2において、変数丸マーク(←図形の丸)と△をそれぞれの平均値と標準偏差で数4のように規格化すると、数2は、以下の通り数5に変形される。
【0057】
【数5】
【0058】
そこで、数5を用いて、規格化されたdata1及びdata2の時系列i(←「i」は筆記体)の各数値から各複素相関係数を算出する。そして、算出された各複素相関係数を、複素相関係数行列Rで以下のように表わす(数17)。
【0059】
【数17】
【0060】
次に、複素相関係数行列Rを使って、時刻i(←「i」は筆記体)の、複素マハラノビス距離の二乗値Di2(←「i」は筆記体で下付き。「2」は上付き)を算出する(数3)。
【0061】
【数3】
【0062】
本実施の形態例1では、複素変数の数は、「2個」(z、w)であるため、以下の数18では、複素変数の数を、「2個」(z、w)として、複素マハラノビス距離の二乗値Di2(←「i」は筆記体で下付き。「2」は上付き)を算出する。
【0063】
【数18】
【0064】
次に、data1及びdata2の実部、虚部のデータを個別の変数として扱わず、実部と虚部で一つの複素数として扱い、data1の複素数データzとdata2の複素数データw間の複素相関係数を算出した例を図2(b)及び(d)と図3(b)及び(d)にr_zwとして示す。
【0065】
図2の(b)図は、data1及びdata2の上記螺旋の方向は同じで、位相も同じ場合であるが、複素相関係数r_zwの実部が1となっている。図2の(d)図は、data1及びdata2の上記螺旋の方向は同じで、位相がπ/2(=90度)ずれている場合であるが、複素相関係数r_zwの虚部が-1となっている。
【0066】
また、図3の(b)図は、data1及びdata2の上記螺旋の方向は逆向きで、位相は同じ場合であるが、複素相関係数r_zwは0となっている。図3の(d)図は、data1及びdata2の上記螺旋の方向は逆向きで、位相がπ/2(=90度)ずれている場合であるが、複素相関係数r_zwが0となっている。またこの場合、実部と虚部の値が入れ替わっていることが分かる。
【0067】
このように、複素相関係数r_zwを用いることによって、data1とdata2のように、円環上の関係性を有する(=回転して円を描く)データ間の相関関係を的確に示すことができる。ここでの的確という意味は、複素数として扱えば、複素相関一つで表現できるものを、実数として扱うことで、実相関6つで表現しなければならなくなる副作用の問題を回避できることをいう。
【0068】
円環上の関係性を有するデータ間の相関関係を的確に示すことができることにより、伝送線路の電圧・電流や導波管の電磁波の電界・磁界等、エネルギーが2つの物理量を交互に渡り歩くシステムにおける正常な状態の表現が可能になる。また従来から、各変数を実数として扱って求めるマハラノビス距離を用いることによって生じていた、システムの正常・異常とは関連性のないデータの発生を低減させることができる。
【0069】
<マハラノビス距離と複素マハラノビス距離の比較>
次に、複素信号(二次元的な分布を有する変数の一例)に関して、従来のMT法に係るマハラノビス距離Dを用いるより、この発明に係る複素MT法に係る複素マハラノビス距離DCMを用いる方が、より正確にノイズを検知できる例を示す。
【0070】
従来のMT法を用いて、複素信号を実信号2つに分離して解析すると、信号の振動の幅が、ノイズの変動幅より遥かに大きくなり、本来求めるべきノイズの影響を見逃してしまう、すなわち、ノイズが存在する時のMD値と無い時のMD値に識別できるほどの差異が無くなることが判明している。
【0071】
図4は実軸と虚軸を水平面として、縦軸を時間とした2組の複素信号Z1、Z2を示したものである。信号Z1はV1(実部)、I1(虚部)からなり、信号Z2はV2(実部)とI2(虚部)から成る。それぞれの複素信号は、時間とともに回転半径を増大させるような態様をしている。複素信号の実部、虚部を実信号として分離して示したものが図7である。図4図7のV1の信号には、時刻60から100の間において、重畳されるノイズが他の期間の5倍に設定されているが、生データを見る限りにおいては確認できないレベルである。
【0072】
図5は、図7の4つの実信号を基に算出したマハラノビス距離Dの二乗値(図5中では、「|MD|^2」と記載)を示したものである。図5の(a)図は横軸が時間、縦軸がD二乗値を示し、図5の(b)図は横軸がD二乗値、縦軸がその出現頻度を示しているヒストグラムである。本図(a)から、時間とともに、D二乗値が増大していくことが分かる。また、本図(b)から、D二乗値1.7以上の出現回数が非常に少ないことが分かる。
【0073】
図5の(a)図では、D二乗値1.7以上の場合が、通常ではないと解釈したいところではあるが、重畳されたノイズが小さい、時刻100以上の期間の間においても、1.7以上のD二乗値が見られる。これはV1、I1並びにV2、I2を別個の信号として分析したことによる副作用であることを以下で説明する。
【0074】
次に、同信号を複素信号として解釈した場合に関して、この発明に係る複素MT法を用いる。図6図4の信号をそのまま、即ち、V1、I1のペアを一つの複素信号Z1(=V1+jI1、jは虚数単位)ととらえ、V2、I2のペアを一つの複素信号Z2(=V2+jI2)ととらえ、この2つの複素変数間の複素マハラノビス距離DCMの二乗値(図6中では「|CMD|^2」と記載)を計算したものである。図6の(a)図は横軸が時間、縦軸がDCMの二乗値を示し、図6の(b)図は横軸がDCMの二乗値、縦軸がその出現頻度を示したヒストグラムである。ここで2つの複素信号の相関係数r_Z1-Z2は図4の右に示した。
【0075】
この図6(a)から、時間とともに、DCMの二乗値が増大していくことが分かる。また、図6(b)では、図5(b)よりも1.7以上のDCMの二乗値が若干大きく出ていることがわかる。図5(a)に比べると、特に時刻100以降についてはDCMの二乗値が小さく出ている。これは、信号V1の時刻60から100までのノイズをその他の期間の5倍の振幅で与えた影響が、通常のMD値よりも複素MD値の方により良く反映されていることを示している。以降では、基準空間の見直しの際に、より顕著な精度向上が可能になることを説明する。
【0076】
<システム(対象)の正常・異常の判別>
次に、複素相関係数rを用いて、複素マハラノビス距離DCMを算出すると、ノイズが載り、正常な動きから外れてしまっているか否か、即ち、システム(対象)が正常状態であるか異常状態であるかを判別(診断)できるという例を示す。システム(対象)が正常状態であるか異常状態であるかを判別(診断)するためには、システム(対象)が正常な状態である「基準空間」の「複素相関係数行列の逆行列」を使って、「対象空間」の複素マハラノビス距離DCMを算出する。「基準空間」の「複素相関係数行列の逆行列」を使って、「対象空間」の複素マハラノビス距離DCMを算出する流れについて、上述した表1の場合を例として、以下、詳しく説明する。
【0077】
なお、ここでは、「基準空間」のdata1及びdata2の複素平均値μと複素標準偏差σ並びに複素相関係数(数2)をその成分に持つ複素相関係数行列の逆行列については、算出されているものとする。
【0078】
対象空間に係る、data1(「z」とする)及びdata2(「w」とする)の時系列i(←「i」は筆記体。時系列iは、1~n’(←nダッシュ)の時系列。基準空間を含んでいても良いし、含んでいなくても良い)の各数値に対して、「基準空間」で算出されたdata1及びdata2の複素平均値μと複素標準偏差σを用いて規格化(=正規化、標準化)を行う。
【0079】
そして、基準空間で算出した「複素相関係数行列の逆行列」を使って、対象空間に係る、複素マハラノビス距離DCMを算出する。対象空間に係る、時刻i(←「i」は筆記体。時刻iは、1~n’(←nダッシュ))の、複素マハラノビス距離の二乗値をDi2(←「i」は筆記体で下付き。「2」は上付き)とすると、以下の数6となる。
【0080】
【数6】
【0081】
次に、上記図7で対象とした、時刻0から128の時間区間を「基準空間」として、全時間区間の複素マハラノビス距離DCMの二乗値を算出することで、対象の正常状態と異常状態を判別(診断)する例を示す。
【0082】
図9は、図7のその後の波形である。複素信号Z1の実部V1と虚部I1と、複素信号Z2の実部V2と虚部I2の時間的な変動を例示したものである。横軸の時間(=time)の目盛りが時刻1000まで伸びている。信号は時刻100くらいまでに増大してその後、定常状態に至る様子を示している。ここで、信号V1については、時刻400から600の間に、振幅を3.5倍にしたノイズを重畳させた。しかし、このような一次データを見ただけでは、ノイズが付加されているか否かの判別はできない。
【0083】
<マハラノビス距離と複素マハラノビス距離の比較>
そこで、図10に示すように、図9の信号について、時刻0から128までを基準空間として、4×4の実相関係数行列の逆行列を計算し、全時間区間(時刻0から約1000)のマハラノビス距離Dの二乗値(図10中では、「|MD|^2」と記載)を計算した。図10の(a)図は横軸が時間、縦軸がDの二乗値を示し、図10の(b)図は横軸がDの二乗値、縦軸がその出現頻度を示したヒストグラムである。図10では、D二乗値にしきい値「5」を設定したが、ノイズのある時間区間を区別することが難しい。
【0084】
図11は、図9に示した二つの複素数データを、平面内軸は実部、虚部とし、縦軸は時間としてプロットしたものである。V1及びI1に係る複素信号Z1と、V2及びI2に係る複素信号Z2が、二つの螺旋線で表示されている。
【0085】
今度は、図12に示すように、図9(すなわち図11でもある)の信号について、時刻0から128までを基準空間として、2×2の複素相関係数行列の逆行列を計算し、全時間区間(時刻0から約1000)の複素マハラノビス距離DCMの二乗値(図12中では、「|CMD|^2」と記載)を計算した。図12の(a)図は横軸が時間、縦軸がDCMの二乗値を示し、図12の(b)図は横軸がDCMの二乗値、縦軸がその出現頻度を示したヒストグラムである。この図12の(a)図では、時刻400から600までのノイズを付加した時間区間で、DCM二乗値が大きくなっていることが分かる。
【0086】
図10のマハラノビス距離Dの計算結果と、図12の複素マハラノビス距離DCMの計算結果を比較する。その結果、複素マハラノビス距離DCMの方が、ノイズを良く反映していることが分かる。マハラノビス距離Dは、複素マハラノビス距離DCMよりも、メリハリのない分布を見せており、しきい値の設定が困難である。例えば、図10の(a)図及び図12の(a)図の水平線で示すように、しきい値を「5」に設定すると、マハラノビス距離Dでは、ほとんどの時刻でしきい値を超えてしまっている。一方、複素マハラノビス距離DCMでは、主として、ノイズのあった時間区間しか、しきい値の「5」を超えていないことが確認できる。
【0087】
<基準空間の変更・再設定>
信号分析においては、予めノイズが大きい時間区間が、どこにあるか分かっていないため、通常は形式的に、最初の区間が安定している、正常状態であるとして、仮の基準空間とすることが多い。本実施の形態例1で、時刻0から128までを基準空間としたのも、同様の趣旨からである。
【0088】
信号に係るデータが時間の経過と共に蓄積されていくと、形式的に基準空間として採用していた時間区間から、より普通(正常)な状態を示した時間区間に基準空間を変更・再設定する方が望ましい。より普通(正常)な状態を示した時間区間に基準空間を変更・再設定することによって、異常状態の識別をより確実に行うことができる。
【0089】
<マハラノビス距離と複素マハラノビス距離の比較>
図9ではV1の信号について、時刻400から600の間に、ノイズの振幅を3.5倍にして重畳させているが、図10で示したように、マハラノビス距離Dは、特にこの時間帯に集中して大きくなっているわけでもなく、全般的に広がったような分布を見せており、正常状態と異常状態を区別することが難しい。
【0090】
これに対し、図12で示したように、複素マハラノビス距離DCMは、明らかに、ノイズを与えた区間だけに大きくなっており、正常状態の時間区間を識別しやすい。この性質を利用すると、より精度の良い状態識別が可能になる。以下、詳しく説明する。
【0091】
例えば、MD二乗値が5以下の値をより長く連続して出す時間区間を切り出して、基準空間を再設定するという手順(アルゴリズム)を用いると、マハラノビス距離Dに係る図10の例では、最初の時間区間である「時刻0から100まで」が基準空間として再設定される。図10を見る限りにおいては、時間が経過しても、しきい値5以下を連続して出す時間区間が最初の「時刻0から100まで」を超えることはなく、このような単純なアルゴリズムでは、新たな基準空間が採用されることはない。この基準空間(=「時刻0から100まで」の時間区間)を使って、全ての時間区間のマハラノビス距離Dを算出した結果が、図13に示されている。図13の(a)図は横軸が時間、縦軸がDの二乗値を示し、図13の(b)図は横軸がDの二乗値、縦軸がその出現頻度を示したヒストグラムである。図13を見ても、ノイズのある(=異常状態の)時間区間を区別することは難しく、むしろ図10よりも識別が難しくなっている。
【0092】
一方、複素マハラノビス距離DCMに係る図12の例では、5以下の値がより長く連続して存在する時間区間を切り出して、基準空間を再設定するという手順(アルゴリズム)を用いると、「時刻200から300まで」の時間区間が基準空間として再設定される。この基準空間(=「時刻200から300まで」の時間区間)を使って、全ての時間区間の複素マハラノビス距離DCMを算出した結果が、図14に示されている。図14の(a)図は横軸が時間、縦軸がDCMの二乗値を示し、図14の(b)図は横軸がDCMの二乗値、縦軸がその出現頻度を示したヒストグラムである。図14を見ると、ノイズのある(=異常状態の)時間区間(400から600まで)が際立つ。また、最初(時刻60から100)のノイズ(=異常状態)も見えてくる。
【0093】
このように、基準空間を変更・再設定することによって、複素マハラノビス距離DCMは、異常状態の判別(診断)を向上させる上で、更に重要な役割を果たす。
【0094】
<情報処理装置1の構成>
次に、この発明の複数の変数を有するシステムの状態解析診断方法を実現するための情報処理装置1について説明する。
【0095】
この情報処理装置1は、システムの有する(システムから得られた)複数の変数が、夫々二次元的な分布を持つ場合に、各変数のX軸方向の値を実部、各変数のY軸方向の値を虚部とする複素数として扱い、当該複数の変数間の複素相関係数を算出し、算出された複素相関係数を行列で表し、当該複素相関係数行列の逆行列を使って、複素マハラノビス距離を算出する。そして、算出されたマハラノビス距離の値により、システムの正常、異常を診断する。
【0096】
次に、前記情報処理装置1のハードウェア構成について、図15を参照して説明する。図15は情報処理装置1のハードウェアを模式的に示した概念図である。
【0097】
図15において、制御手段11は、例えばCPUで実現され、後述する記憶手段12に含まれるハードディスク(HD)等に格納されているアプリケーションプログラム、オペレーティングシステム(OS)や制御プログラム等を実行し、記憶手段12に含まれるRAMにプログラムの実行に必要な情報、ファイル等を一時的に格納する制御を行う。
【0098】
特に、制御手段11は、入力手段13を通じて、二次元的な分布を有する変数の時系列の各数値について入力を受け付ける。
【0099】
また、制御手段11は、入力された変数の時系列の各複素数値について、複素平均値μと複素標準偏差σを算出する。例えば、変数1の時系列の各数値から、複素変数1の複素平均値μと複素標準偏差σを算出する。また、複素変数2の時系列の各数値から、複素変数2の複素平均値μと複素標準偏差σを算出する。また、制御手段11は、式記憶領域121から数4を呼び出し、算出された変数の複素平均値μと複素標準偏差σを用いて、当該複素変数の時系列の各数値について、規格化を行う。例えば、算出された複素変数1の複素平均値μと複素標準偏差σを用いて、複素変数1の時系列の各数値について、規格化を行う。また、算出された複素変数2の複素平均値μと複素標準偏差σを用いて、複素変数2の時系列の各数値について、規格化を行う。
【0100】
また、制御手段11は、式記憶領域121から数5又は数2を呼び出し、規格化後の各変数の時系列の各数値から、複素相関係数rを算出する。
【0101】
また、制御手段11は、複素相関係数を要素とする複素相関係数行列を作成し、この逆行列を算出し記憶しておく。以上で基準空間の演算が完了する。
【0102】
また、式記憶領域121から数3を呼び出して、複素マハラノビス距離DCMを算出する。制御手段11は、算出された複素マハラノビス距離DCMの値が、所定の範囲に含まれているか否かによって、システム(対象)が正常か異常かを診断する。
【0103】
また、制御手段11は、システム(対象)が正常か異常かを診断するために、システム(対象)が正常な状態である「基準空間」の「複素相関係数行列の逆行列」を使って、「対象空間」の複素マハラノビス距離を算出する構成としても良い。この時、「対象空間」の複素変数は、それぞれの「基準空間」の複素平均(μ1、μ2、μ3、…)、複素標準偏差(σ1、σ2、σ3、…)で規格化したものを使用するものとする。
【0104】
また、制御手段11は、「基準空間」を、例えば、複素マハラノビス距離DCMが、あるしきい値(例えば5)以下の値がより長く連続して存在する時間区間を切り出す等の所定の条件に基づいて、再設定し、再設定後の「基準空間」の複素相関係数行列を成分とする複素相関係数行列の逆数を算出し、式記憶領域121から数6を呼び出して、対象空間の複素マハラノビス距離を再度算出する構成としても良い。この時、「対象空間」の複素変数は、それぞれの「基準空間」の複素平均(μ1、μ2、μ3、…)、複素標準偏差(σ1、σ2、σ3、…)で規格化したものを使用するものとする。
【0105】
記憶手段12は、各種情報を一時記憶するためのものであり、制御手段11の主メモリ、ワークエリア等として機能するRAMや、内部に基本I/Oプログラム等のプログラム、基本処理において使用する各種情報を記憶するROMを有している。また、大容量メモリとして機能するHDを有している。また、記憶手段12内には、式記憶領域121が設けられている。
【0106】
式記憶領域121は、数4、数5及び数3が記憶されている。なお、式記憶領域121に、数5の代わりに数2が記憶されている構成としても良く、数5及び数2の両方が記憶されている構成としても良い。また、数4、数5(又は数2)、及び数3に加えて、数6が記憶されている構成としても良い。
【0107】
入力手段13は、ユーザから情報処理装置1に対する情報や命令の入力を受け付ける。例えば、キーボード、タッチパネル、ボタンである。特に、入力手段13は、ユーザから二次元的な分布を有する変数の時系列の各数値の入力を受け付ける。
【0108】
表示手段14は、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、ドットマトリクス型のディスプレイであり、入力手段13から入力された命令や、それに対する情報処理装置1の応答出力等を表示するものである。特に、表示手段14は、算出された複素マハラノビス距離の値が、所定の範囲に含まれているか否かによって、システムが正常か異常かを判別した診断結果を表示する。
【0109】
バス16は、情報処理装置1内の流れを司るものである。通信手段15はインターフェイス(I/F)であり、情報処理装置1はこの通信手段15を介して外部機器と接続される。
【0110】
なお、以上の各装置と同等の機能を実現させるソフトウェアにより、ハードウェア装置の代替として構成することもできる。
【0111】
また、実施の形態例1では、この実施の形態例1に係るプログラム及び関連データを直接RAM等の記憶手段12にロードして実行させることもできるが、この実施の形態例1に係るプログラムを動作させる度に、既にプログラムがインストールされているHD等の記憶手段12にロードするようにしてもよい。また、この実施の形態例1に係るプログラムをROM等の記憶手段12に記憶しておき、これをメモリマップの一部をなすように構成し、直接CPU等の制御手段11で実行することも可能である。
【0112】
(実施の形態例2)
上記の実施例では、複素変数の数が「2個」(z、w)である場合で説明したが、本発明は、この構成に限定されるわけではない。例えば、複素変数の数が「5個」(x、y、z、u、v)の場合は、時刻i(←「i」は筆記体。時刻iは、1~n)の複素マハラノビス距離の二乗値Di2(←「i」は筆記体で下付き。「2」は上付き)を以下の通り算出する(数19)。ここに、複素変数に´が付いたものは、それぞれの基本空間の複素平均値、複素標準偏差で規格化されたことを示している。
【0113】
【数19】
【0114】
(実施の形態例3)
本発明は、複素変数の数は、上記した「5個」や「2個」の場合に限定されるものではなく、複素変数の数に関わらず、適用できる。そこで、複素変数の数がm個の場合は、以下のように、変数を表現する。
【0115】
【数7】
【0116】
第1の添え字は、「1~i」(←「i」は筆記体)の時系列を表わし、第2の添え字は、「1~m」の複素変数の種類を表わす。
【0117】
そして、数4を使って、複素変数1~複素変数mの時系列の各数値を規格化した結果は、以下の表3の通りである。
【0118】
【表3】
【0119】
規格化後の各変数の時系列の各数値から、数8を使って、複素相関係数rを算出する。
【0120】
【数8】
【0121】
そして、算出された各相関係数rから、複素相関係数行列Rは、以下のように表わされる(数20)。
【0122】
【数20】
【符号の説明】
【0123】
1 情報処理装置 11 制御手段
12 記憶手段 121 式記憶領域
13 入力手段 14 表示手段
15 通信手段 16 バス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15