(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】ナトリウムの安定化処理方法及びそのシステム
(51)【国際特許分類】
A62D 3/30 20070101AFI20240604BHJP
B08B 3/08 20060101ALI20240604BHJP
A62D 101/40 20070101ALN20240604BHJP
【FI】
A62D3/30
B08B3/08 Z
A62D101:40
(21)【出願番号】P 2022190080
(22)【出願日】2022-11-29
【審査請求日】2022-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000191319
【氏名又は名称】新菱冷熱工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501241645
【氏名又は名称】学校法人 工学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【氏名又は名称】北村 周彦
(72)【発明者】
【氏名】有坂 宏毅
(72)【発明者】
【氏名】山田 育弘
(72)【発明者】
【氏名】松川 安樹
(72)【発明者】
【氏名】関 志朗
【審査官】山田 陸翠
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-010999(JP,A)
【文献】特開2007-254870(JP,A)
【文献】特開2006-273802(JP,A)
【文献】国際公開第2015/186637(WO,A1)
【文献】特開昭54-146208(JP,A)
【文献】特開2022-089810(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62D 3/00- 3/40
B08B 3/08
B09B 3/00
C01D 1/00-17/00
C07C 31/30
G21F 9/06
G21F 9/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ナトリウムに不活性な有機溶媒から成る第1の溶媒と水に可溶な有機溶媒から成る第2の溶媒と水から成る第3の溶媒とを含む処理液を用いて、処理対象物に付着したナトリウムを水酸化ナトリウムへ変化させて安定化させることを特徴とし、
前記処理液は、前記第1の溶媒と前記第2の溶媒とから成る分離相と、前記第2の溶媒と前記第3の溶媒とから成る抽出相と、を含み、
前記第1の溶媒
として、イソプロピルエーテル
、ジベンジルエーテル、ヘキサン、又はベンゼンを用い、前記第2の溶媒
として、エタノール、メタノール、1-プロパノール、1-ヘキサノール、又は1-ヘプタノールを用い、
攪拌された前記処理液に前記処理対象物を浸漬することでナトリウムの安定化処理を開始する工程と、
前記工程の所定時間経過後に前記処理液の攪拌を停止して静置することで、前記第1の溶媒と前記第2の溶媒とから成る分離相と、前記第2の溶媒と前記第3の溶媒とから成る抽出相と、に分離させる工程と、
前記工程で分離された前記抽出相の密度変化を測定する工程と、
前記工程で測定された密度変化に基づき、前記処理対象物のナトリウムの安定化処理の停止或いは再開を判断する工程と、
を含むことを特徴とするナトリウムの安定化処理方法。
【請求項2】
前記第1の溶媒と前記第2の溶媒と前記第3の溶媒の容量の比率は、49.5:49.5:1から3:3:2の範囲であることを特徴とする請求項1に記載のナトリウムの安定化処理方法。
【請求項3】
前記抽出相の密度変化を計測する工程で測定された密度変化に基づき、前記処理対象物のナトリウムの安定化処理が停止された場合、前記処理液を静置することで前記分離相と前記抽出相とを分離した後、該抽出相を廃棄する工程を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のナトリウムの安定化処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電所の解体により発生する配管等に付着した金属ナトリウム及びその類縁体を安定化処理するための方法及びそのシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、原子力発電所の高速増殖炉等を解体する際に、冷却用の配管やタンク等の機器が大量に発生するが、これらの機器の内面には金属ナトリウムが付着していることがあるため、この金属ナトリウムを安全かつ確実に処理することが求められる。
【0003】
そこで、従来、このような金属ナトリウムを不活性化させたり、洗浄したりする方法が各種提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、不活性油とアルコールの混合液中において金属ナトリウムをアルコールと反応させてナトリウムアルコキシドに転化させて金属ナトリウムを不活性化する方法が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、不活性油と水の混合液を使用して金属ナトリウムが内面に付着したタンクを洗浄する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2020―10999号公報
【文献】特開2019―122933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記した従来の方法では、アルコールに対するナトリウムの溶解度が低いため、水で反応させる場合と比較して、安定化に必要な溶液量が多いといった問題や、界面活性剤を用いて不活性な油と水を混合するため、容易に分離できず、廃棄物が多くなるといった問題がある。
【0008】
また、水素濃度測定によってナトリウム安定化処理の終了を判断しているため、瞬時的な値しか計測できず、ナトリウムがどの程度処理できたかを確認することができないといった問題がある。
【0009】
本発明は、上記した種々の課題を解決すべくなされたものであり、処理時間の短縮と廃棄物の削減を図ることができると共に、処理に使用する溶液量を削減することのできるナトリウムの安定化処理方法及びそのシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成するため、本発明に係る金属ナトリウム及びその類縁体の安定化処理方法は、ナトリウムに不活性な有機溶媒から成る第1の溶媒と水に可溶な有機溶媒から成る第2の溶媒と水から成る第3の溶媒とを含む処理液を用いて、処理対象物に付着したナトリウムを水酸化ナトリウムへ変化させて安定化させることを特徴とする。
【0011】
本発明に係るナトリウムの安定化処理方法において、前記処理液は、前記第1の溶媒と前記第2の溶媒とから成る分離相と、前記第2の溶媒と前記第3の溶媒とから成る抽出相と、を含んでいても良い。
【0012】
本発明に係るナトリウムの安定化処理方法において、前記第1の溶媒はイソプロピルエーテルから成り、前記第2の溶媒はエタノールから成っていても良い。
【0013】
本発明に係るナトリウムの安定化処理方法において、前記第1の溶媒と前記第2の溶媒と前記第3の溶媒の容量の比率は、49.5:49.5:1から3:3:2の範囲であっても良い。
【0014】
本発明に係るナトリウムの安定化処理方法において、攪拌された前記処理液に前記処理対象物を浸漬することでナトリウムの安定化処理を開始する工程と、前記工程の所定時間経過後に前記処理液の攪拌を停止して静置することで、前記第1の溶媒と前記第2の溶媒とから成る分離相と、前記第2の溶媒と前記第3の溶媒とから成る抽出相と、に分離させる工程と、前記工程で分離された前記抽出相の密度変化を測定する工程と、前記工程で測定された密度変化に基づき、前記処理対象物のナトリウムの安定化処理の停止或いは再開を判断する工程と、を含んでいても良い。
【0015】
本発明に係るナトリウムの安定化処理方法において、前記抽出相の密度変化を計測する工程で測定された密度変化に基づき、前記処理対象物のナトリウムの安定化処理が停止された場合、前記処理液を静置することで前記分離相と前記抽出相とを分離した後、該抽出相を廃棄する工程を含んでいても良い。
【0016】
本発明に係るナトリウムの安定化処理システムは、金属ナトリウム及びその類縁体に不活性な有機溶媒から成る第1の溶媒と水に可溶な有機溶媒から成る第2の溶媒とから成る分離相と、該第2の溶媒と水から成る第3の溶媒とから成る抽出相と、が供給され、処理対象物を浸漬可能に形成される反応槽と、該反応槽と接続され、該反応槽との間で前記分離相と前記抽出相とを循環可能に形成される静置槽と、を備え、前記反応槽及び前記静置槽は、内部の前記分離相及び前記抽出相を攪拌可能に形成されると共に、前記抽出相を外部に排出可能に形成され、前記静置槽内の前記抽出相の密度を測定可能に設けられていることを特徴とする。
【0017】
本発明に係るナトリウムの安定化処理システムにおいて、前記分離相を貯蔵する分離相タンクと、前記抽出相を貯蔵する抽出相タンクと、をさらに備え、前記分離相タンク及び前記抽出相タンクからそれぞれ分離相及び抽出相が前記反応槽に供給可能に設けられていても良い。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、処理時間の短縮と廃棄物の削減を図ることができると共に、処理に使用する溶液量を削減することができる等、種々の優れた効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施の形態に係るナトリウムの安定化処理システムの構成を示す図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係るナトリウムの安定化処理方法の第1の工程を示す図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係るナトリウムの安定化処理方法の第2の工程を示す図である。
【
図4】本発明の実施の形態に係るナトリウムの安定化処理方法の第3の工程を示す図である。
【
図5】本発明の実施の形態に係るナトリウムの安定化処理方法の第4の工程を示す図である。
【
図6】本発明の実施の形態に係るナトリウムの安定化処理方法の第5の工程を示す図である。
【
図7】本発明の実施の形態に係るナトリウムの安定化処理方法の第6の工程を示す図である。
【
図8】本発明の実施の形態に係るナトリウムの安定化処理方法の第7の工程を示す図である。
【
図9】本発明の実施の形態に係るナトリウムの安定化処理方法の第8の工程を示す図である。
【
図10】本発明の実施の形態に係るナトリウムの安定化処理方法の第9の工程を示す図である。
【
図11】本発明の実施の形態に係るナトリウムの安定化処理方法の第10の工程を示す図である。
【
図12】本発明の実施の形態に係るナトリウムの安定化処理方法において、ナトリウムの添加量に対する抽出相と分離相のそれぞれの処理液の密度変化を示す図である。
【
図13】本発明の実施の形態に係るナトリウムの安定化処理方法において、ナトリウムが残留した処理対象物を処理液に浸漬した時の抽出相の処理液の密度変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の説明では、処理対象物である配管1に付着したナトリウムを水酸化ナトリウムへ変化させて安定化させる場合について説明する。
【0021】
本発明の実施の形態に係るナトリウムの安定化処理方法は、金属ナトリウム及びその類縁体に不活性な有機溶媒から成る第1の溶媒と水に可溶な有機溶媒から成る第2の溶媒と水から成る第3の溶媒とを含む処理液を用いて、配管1に付着したナトリウムを水酸化ナトリウムへ変化させて安定化させることを特徴とする。
【0022】
そして、配管1に付着したナトリウムの処理は、以下に示す化学反応式に示すように、水とナトリウムを化学反応(水和反応)により水に溶解させ、水酸化ナトリウムにして、発生した水素は大気に開放させる。
2Na+2H2O→2NaOH+H2
前記処理液は、前記第1の溶媒である溶媒Aと、前記第2の溶媒である溶媒Bと、前記第3の溶媒である水Cと、の混合液である。
【0023】
溶媒Aは、例えば、イソプロピルエーテルから成り、前記処理液におけるナトリウムと反応する溶媒Bと水Cの濃度を低減し、ナトリウムとの接触頻度を制御することで、急激な水素の発生を抑制することができる。
【0024】
なお、溶媒Aとしては、例えば、ジベンジルエーテルなどのエーテル類、ヘキサン、ベンゼンなどのナトリウムの保管に使用される不活性油等、イソプロピルエーテル以外の溶媒を使用することも可能である。
【0025】
溶媒Bは、例えば、エタノールから成り、溶媒Aとの混合相であってナトリウムが溶解しない相としての分離相2と、水Cとの混合相であってナトリウムが溶解する相としての抽出相3と、を形成する。これにより、前記処理液は分離相2と抽出相3によって容易に分離・混合が可能な状態となる。また、抽出相3を形成することにより、水単体と比較して、ナトリウムとの反応による急激な水素の発生を抑制することができる。溶媒Bの体積当たりのナトリウム安定化可能量は、30~60g/Lであることが好ましい。
【0026】
なお、溶媒Bとしては、メタノール、1-プロパノール、1-ヘキサノール、1-ヘプタノールなどの直鎖アルコール等、エタノール以外の溶媒を使用することも可能である。
水Cの体積あたりのナトリウム安定化可能量は、1,000~1,200g/Lであることが好ましい。
【0027】
溶媒Aのイソプロピルエーテルと溶媒Bのエタノールとの混合液(イソプロピルエーテル:エタノール=1:1)を75~99%、水Cを1~25%の範囲において、反応速度を抑制した処理が可能であることを確認できたことから、前記処理液における溶媒Aと溶媒Bと水Cの体積比率は、49.5:49.5:1から3:3:2の範囲で調整されるのが好ましい。
【0028】
溶媒Aのイソプロピルエーテルと溶媒Bのエタノールとの混合相である分離相2については、イソプロピルエーテル:エタノール=4:1から1:4の範囲で調整されるのが好ましい。
【0029】
また、前記処理液における溶媒Aと溶媒Bと水Cの体積比率が3:3:2の場合、前記処理液の分離相2と抽出相3の構成比率(vol%)は、以下に示す通りとなる。
分離相 65%(溶媒A:溶媒B=15:11)
抽出相 35%(溶媒B:水C=2:5)
【0030】
[本発明の実施の形態に係る安定化処理システム]
次に、
図1を参照しつつ、本発明の実施の形態に係るナトリウムの安定化処理システム10の構成について説明する。
【0031】
図1に示すように、ナトリウムの安定化処理システム10は、分離相2を貯蔵する分離相タンク11と、抽出相3を貯蔵する抽出相タンク12と、分離相タンク11及び抽出相タンク12からそれぞれの供給配管13,14を介して分離相2及び抽出相3が供給される反応槽15と、上下の循環配管16,17を介して反応槽15と接続される静置槽18と、を備えている。
【0032】
分離相2の供給配管13と抽出相3の供給配管14には、それぞれ、供給バルブ20,21が設けられており、これらの供給バルブ20,21を開放することにより、分離相タンク11及び抽出相タンク12から反応槽15に重力で分離相2及び抽出相3がそれぞれ供給されるようになっている。
【0033】
反応槽15は、例えば0.3~3.0m3の容積を有しており、反応槽15の内部には、撹拌装置22が設けられている。また、反応槽15の底部には、排出配管23が接続され、排出配管23に排出バルブ24が設けられている。さらに、反応槽15と静置槽18とを接続する下側の循環配管17には、循環ポンプ25が設けられている。
【0034】
静置槽18は、例えば0.15~1.5m3の容積を有しており、静置槽18の内部には、撹拌装置26が設けられている。また、静置槽18の底部には、排出配管27が接続され、排出配管27に排出バルブ28が設けられている。さらに、静置槽18の側面には、測定用配管30が接続され、測定用配管30には、循環ポンプ31と密度計32が設けられている。密度計32としては、例えば、アントンパール社製のL-Dense7400が使用される。
【0035】
[本発明の実施の形態に係るナトリウムの安定化処理方法]
次に、
図2~
図13を参照しつつ、上記した構成を備えたナトリウムの安定化処理システム10におけるナトリウムの安定化処理方法について説明する。なお、
図2~
図11において、供給バルブ20,21及び排出バルブ24,28は、開放状態を黒色で示し、閉鎖状態を白色で示しており、また、循環ポンプ25,31は、作動時を黒色で示し、停止時を白色で示している。
【0036】
まず、
図2に示すように、供給配管13,14の各供給バルブ20,21を開放して、分離相タンク11内の分離相2及び抽出相タンク12内の抽出相3を、それぞれ、反応槽15に供給すると共に、反応槽15を介して静置槽18に供給する(第1の工程)。
【0037】
次に、
図3に示すように、攪拌装置22により反応槽15内の処理液(分離相2、抽出郎3)を攪拌すると共に攪拌装置26により静置槽18内の処理液(分離相2、抽出郎3)を攪拌しながら、循環ポンプ25を作動させて循環配管17,16を介して処理液を反応槽15と静置槽18と間に循環させる。これにより、反応槽15内及び静置槽18内の
分離相2と抽出相3を混合し、処理液をコロイド状態にする(第2の工程)。
【0038】
次に、
図4に示すように、引き続き攪拌装置22,26により攪拌してコロイド状態の反応槽15内の処理液に、ナトリウムが残留した配管1を浸漬し、残留ナトリウムの安定化処理を開始する(第3の工程)。
【0039】
そして、前記第3工程における残留ナトリウムの安定化処理の開始から1時間経過後、
図5に示すように、循環ポンプ25を停止して処理液の反応槽15と静置槽18との間の循環を停止すると共に、静置槽18の撹拌装置26を停止して静置槽18内の処理液の攪拌を停止する(第4の工程)。
【0040】
これにより、
図6に示すように、静置槽18内の処理液は静置され、分離相2と抽出相3が分離した状態となる(第5の工程)。なお、この間、反応槽15の攪拌装置22は停止せずに反応槽15内の処理液の攪拌は継続する。
【0041】
ここで
図12及び
図13を参照すると、
図12は本発明の実施の形態に係るナトリウムの安定化処理方法において、ナトリウムの添加量に対する抽出相3と分離相2のそれぞれの処理液の密度変化を示している。より具体的には、溶媒Aをイソプロピルエーテル75ml、溶媒Bをエタノール75ml、水Cを純水50ml、測定温度を15℃とした条件下において、ナトリウムの添加量を、0gから、0.04g、0.18g、0.36gと変化させた時の処理液の密度変化を実測した結果を示している。なお、
図12中、抽出相3の密度を〇印、分離相2の密度を△印で示している。また、
図13は、ナトリウムが残留した配管1を処理液に浸漬した場合の抽出相3の密度の経時変化イメージを示している。
【0042】
図12に示すように、抽出相3の密度は、ナトリウム添加量が増えるにつれて線形に増加するのに対して、分離相2はナトリウムの添加に対してほとんど変化がないこと分かる。このことから、処理液に溶解したナトリウムは全量が抽出相3に移行し、ナトリウムの安定化処理の終了は、抽出相3の密度の経時変化から判断可能であることが分かる。
【0043】
そこで、次の工程において、
図7に示すように、循環ポンプ31を作動して静置槽18内で分離した処理液中の抽出相3の密度を密度計32により測定する(第6の工程)。そして、この密度測定の結果、密度変化が1%以上であった場合は残留ナトリウムありと判定し、
図4に示す前記第3の工程へ戻り、安定化処理を再開する。一方、前記密度測定の結果、密度変化が1%未満であった場合は残留ナトリウムなしと判定し、次の工程へ進む。
【0044】
次の工程では、
図8に示すように、反応槽15の攪拌装置22を停止して処理液の撹拌を停止し、反応槽15から洗浄した配管を取り出す(第7の工程)。そして、抽出相3に溶解したナトリウムが飽和濃度に達していない場合は、前記第3の工程へ戻り、反応槽15内の処理液に新たな配管1を浸漬し、上記したように残留ナトリウムの安定化処理を行う。
【0045】
一方、抽出相に溶解したナトリウムが飽和濃度に近づいた場合は、
図9に示すように、反応槽15と静置槽18を静置し、処理液中の分離相2と抽出相3とを分離させる(第8の工程)。
【0046】
その後、
図10に示すように、反応槽15と静置槽18のそれぞれの排出バルブ24,28を開放して、反応槽15内の抽出相3及び静置槽18内の抽出相3をそれぞれ外部に排出する(第9の工程)。
【0047】
次に、
図11に示すように、供給配管14の供給バルブ21を開放して、抽出相タンク12内の抽出相3をそれぞれ反応槽15及び静置槽18に新たに補充する(第10の工程)。以降、前記第2の工程に戻り、上記したように、新たな配管1を反応槽15内の処理液に浸漬し、残留ナトリウムの安定化処理を開始する。
【0048】
このように、処理液に溶解したナトリウムは、抽出相3に含まれる水に水酸化ナトリウムとして溶解するため、抽出相3に含まれる水の量により処理液に溶解するナトリウム飽和量を算出することができる。また、処理液に溶解するナトリウム飽和量から飽和時の抽出相3の密度を算出することが可能であり、抽出相3の密度をモニタリングすることで処理液中のナトリウムが飽和する前に抽出相3の入替を行うかどうかの判断をすることが可能となる。
【0049】
[試算結果の例]
次に、一例として、以下の試算条件において、ナトリウムが飽和した処理液の抽出相3の密度を算出した試算結果を以下に示す。
【0050】
(試算条件)
・処理液の溶媒の体積比率 イソプロピルエーテル:エタノール:水=3:3:2
・処理液容量 100ml(イソプロピルエーテル37,5ml、エタノール37.5ml、水25ml)
・処理液の抽出相と分離相の体積比率 抽出相:分離相=34.8:65.2(実測値)
・抽出相の内訳 エタノール9.8ml、水25ml(25g)
・分離相の内訳 イソプロピルエーテル37.5ml、エタノール27.7ml
・抽出相の密度 0.921g/ml(実測値)、0.939g/ml(計算値)
・水酸化ナトリウムの溶解度(20℃)
52.2(飽和溶液中の水酸化ナトリウムの重量%:理科年表2000による)
47.8(飽和溶液中の水の重量%:100-52.2)
【0051】
(試算結果)
・抽出相の飽和溶液(水+水酸化ナトリウム)の重量(20℃)
25g÷47.8%=52.3g
・抽出相に溶解する水酸化ナトリウムの重量(20℃)
52.3g×52.2%=27.3g
・水酸化ナトリウムが飽和した抽出相の重量
0.921g/ml×34.8ml+27.3g=59.9g(実測値)
0.939g/ml×34.8ml+27.3g=59.9g(計算値)
・水酸化ナトリウムが飽和した抽出相の密度
59.3g÷34.8ml=1.70g・ml(実測値)
59.9g÷34.8ml=1.72g/ml(計算値)
【0052】
[本発明の実施の形態に係るナトリウムの安定化処理方法及びそのシステムによる効果]
上記した本発明の実施の形態に係るナトリウムの安定化処理方法及びそのシステム10によれば以下の効果を得ることができる。
【0053】
(1)ナトリウムと水の反応による爆発の危険性を低減し、ナトリウムを水酸化ナトリウムへ安定的に処理することができる。
【0054】
(2)ナトリウムに対して非常に活性な水を使用することで、処理時間の短縮と廃棄物の削減を図ることができる。
【0055】
(3)ナトリウムの反応を抑制するために使用される有機溶媒の廃棄量を削減することができる。例えば、従来の方法では、ナトリウム安定化処理終了の判断は水素濃度により判断しているため、残留したナトリウム量が未知のサンプルを安定化処理する際は、ナトリウム溶解量を把握することが困難である。したがって、ナトリウム溶解量が飽和することを避けるために、水または溶液の定期的な入替えが必要である。しかしながら、本発明の実施の形態に係るナトリウムの安定化処理方法及びそのシステム10によれば、密度によりナトリウム溶解量を把握することができるため、溶液が飽和する直前に入替えすることができるため、従来の手法と比較して廃棄するサイクルを最小限にすることができ、廃棄物量の削減を図ることができる。
【0056】
(4)ナトリウムの安定化処理後にナトリウムが溶解した抽出相3のみ廃棄することにより、分離相2を再利用し、廃棄物を削減することができる。例えば、背景技術で説明した特許文献2による方法は、界面活性剤により溶媒Aと水Cを分離することができないため本発明の実施の形態における処理液より廃棄物量が多くなる。
【0057】
(5)処理液における分離相2と抽出相3を容易に混合・分離可能となる組成とすることで、分離相2を再利用し、廃棄物を削減することができる。例えば、処理液の体積比を、溶媒A:溶媒B:水C=49.5:49,5:1~3:3:2の範囲とすることにより、処理液を容易に分離・混合が可能となる。例えば、処理液の体積比を、溶媒A:溶媒B:水C=3:3:2とした場合、本発明の実施の形態における処理液は、例えば、背景技術で説明した特許文献1に使用される溶液と比べて、体積当たりに安定化できるナトリウム量が1.3倍で、廃棄物量は約2/5とすることができる。
【0058】
(6)抽出相3の密度をモニタリング(測定)することで、ナトリウム溶解量を経時的に確認することができるため、ナトリウムの安定化処理の進捗及び終了を定量的に把握することができる。
【0059】
なお、上記した本発明の実施の形態の説明では、配管に付着したナトリウムを水酸化ナトリウムへ変化させて安定化させる場合について説明したが、本発明は、ポンプ、バルブ、タンク等、配管以外の処理対象物にも適用可能であることは言う迄もない。
【0060】
また、上記した本発明の実施の形態の説明は、本発明に係るナトリウムの安定化処理方法及びそのシステムにおける好適な実施の形態について説明しているため、技術的に好ましい種々の限定を付している場合もあるが、本発明の技術範囲は、特に本発明を限定する記載がない限り、これらの態様に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0061】
1 配管(処理対象物)
2 分離相
3 抽出相
10 ナトリウムの安定化処理システム
11 分離相タンク
12 抽出相タンク
15 反応槽
18 静置槽
【要約】
【課題】ナトリウムの処理時間の短縮と廃棄物の削減を図ると共に、処理に使用する溶液量を削減する。
【解決手段】
本発明に係るナトリウムの安定化処理方法は、金属ナトリウム及びその類縁体に不活性な有機溶媒から成る第1の溶媒と水に可溶な有機溶媒から成る第2の溶媒と水から成る第3の溶媒とを含む処理液を用いて、処理対象物に付着したナトリウムを水酸化ナトリウムへ変化させて安定化させることを特徴とし、前記処理液は、前記第1の溶媒と前記第2の溶媒とから成る分離相と、前記第2の溶媒と前記第3の溶媒とから成る抽出相と、を含んでいる。
【選択図】
図1