IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日立ハイテクノロジーズの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】プラズマ処理方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3065 20060101AFI20240604BHJP
【FI】
H01L21/302 105A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022579714
(86)(22)【出願日】2022-03-02
(86)【国際出願番号】 JP2022008892
(87)【国際公開番号】W WO2023166613
(87)【国際公開日】2023-09-07
【審査請求日】2022-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】松井 都
(72)【発明者】
【氏名】桑原 謙一
【審査官】原島 啓一
(56)【参考文献】
【文献】特表2022-506438(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0135898(US,A1)
【文献】特開2008-060566(JP,A)
【文献】特開平04-240729(JP,A)
【文献】特開2001-351865(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
H01L 21/205
H01L 21/302
H01L 21/31
H01L 21/312-21/32
H01L 21/365
H01L 21/461
H01L 21/469-21/475
H01L 21/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に成膜されたシリコン膜をプラズマエッチングするプラズマ処理方法において、
前記試料の表面を清浄化する清浄化工程と、
所望の材料に対して選択的に保護膜を前記シリコン膜に形成されたパターンに形成する保護膜形成工程と、
前記保護膜形成工程の後、前記保護膜を酸化させる酸化工程と、
前記シリコン膜をプラズマエッチングするエッチング工程と、を有し、
前記保護膜は、シリコン元素を含む保護膜であり、
前記所望の材料は、シリコン元素、酸素元素、窒素元素または炭素元素を含む材料であることを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載のプラズマ処理方法において、
前記酸化された保護膜における酸素元素の組成割合は、前記酸化された保護膜のエッチングレートが前記シリコン膜のエッチングレートより小さくなる組成割合であることを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のプラズマ処理方法において、
前記エッチング工程の後、前記シリコン膜の深さが所定の深さに到達していない場合、前記保護膜形成工程を行うことを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項4】
請求項2に記載のプラズマ処理方法において、
前記保護膜における前記シリコン元素に対する前記酸素元素の組成比は、0.4~0.6の範囲内の値であることを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のプラズマ処理方法において、
前記保護膜形成工程は、SiClガスとHガスClガスの混合ガスを用いることを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項6】
請求項2に記載のプラズマ処理方法において、
前記試料から反射された干渉光のスペクトルをモニタし、
前記酸素元素の組成割合が所望の組成割合の場合における前記干渉光のスペクトルと前記モニタされた干渉光のスペクトルとの比較結果を基に前記酸素元素の組成割合が所望の組成割合範囲内かどうかを判定する判定工程をさらに有することを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項7】
請求項4に記載のプラズマ処理方法において、
前記エッチング工程における前記試料に照射するイオンのエネルギーは、前記保護膜を通過しないエネルギーであることを特徴とするプラズマ処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理方法及びプラズマ処理装置に係り、特にウエハ上のパターンの上面に所望のエッチング保護膜を形成する工程を含むプラズマ処理方法及びプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子等の機能素子製品の微細化、及び、三次元化により、半導体製造におけるドライエッチング工程では、薄膜スペーサやメタル等の各種材料をマスクとした溝やホールの三次元加工技術が重要となっている。半導体デバイスのパターンにおけるマスクやゲート絶縁膜、エッチストッパ等の厚さは薄くなっており、原子層レベルで形状を制御する加工技術が要求されている。さらに、デバイスの三次元化に伴って、複雑な形状を加工する工程が増加している。このようなデバイスをドライエッチング工程で加工する際に、パターンの寸法を制御して加工するために、エッチング装置内でパターン上に保護膜を形成してパターン寸法を均一に調整し、寸法のばらつきを抑制する技術として、特許文献1では、マスクパターンの寸法ばらつきを抑えるために、ドライエッチング前に、マスクパターンの上に、保護膜を形成する手法について開示されている。本技術では、初期のマスクパターンの幅の寸法ばらつきを抑えるように保護膜を形成可能となるように、ウエハ内に温度分布を与えることによって、ウエハ内の寸法ばらつきを抑制している。
【0003】
また特許文献2では、マスク等の対エッチング材料をできるだけエッチングすることなく、高選択比で所望のパターンを加工するために、エッチング装置内でパターン上に保護膜を形成した後、保護膜をマスクにエッチングする技術が開示されている。特許文献2では、保護膜の膜厚と寸法を均一するために、ドライエッチング前にパターン上に保護膜を形成し、さらに、形成した保護膜の膜厚と寸法がウエハ面内で均一となるように保護膜の一部を除去し、ウエハ面内で均一化された保護膜をマスクにドライエッチングする技術について、開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-212331号公報
【文献】国際公開第2020/121540号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、三次元デバイスでのパターンの微細化と複雑化とともに、微細で複雑な構造のデバイスの加工形状を原子層レベルで制御し、且つ、多種類の膜に対して高選択比で加工する技術が重要となっている。そのような加工を行うために、ドライエッチング装置でパターンを加工する前に、ドライエッチング装置内でパターン上に保護膜を形成した後、エッチングを行う手法が開示されている。
【0006】
まず、特許文献1では、パターンの最小線幅のバラツキを抑制する方法として、エッチング前にマスクパターン表面に膜を堆積する手法が開示されている。このとき、堆積膜の堆積レートがウエハ温度に依存するため、堆積レートと温度との関連、予め測定したパターン寸法のばらつきを補正するようにウエハ温度を各領域で変化させることで、溝幅のばらつきを補正するための薄い膜を形成して、ウエハ面内での溝幅を調整している。パターンの上面のエッチングを抑制するには、プラズマから照射されるイオンのエネルギーが保護膜とパターン表面との界面に供給できない程度の厚さの保護膜を形成することが必要である。特許文献1の手法では、図3に示したように、基板103上に形成されたパターンの底面123、及び、パターンの無い領域124には、側面122と同程度の膜厚の堆積膜120が形成されるため、パターンの寸法ばらつきを低減することはできる。しかし、側面120の堆積膜の厚さと上面122、パターンの底面123、及び、パターンの無い領域124での厚さを独立に調整できないため、被エッチング領域であるパターンの底面123、及び、パターンの無い領域124にも堆積膜120が形成される。このため、エッチングでの選択比を向上することができなかった。
【0007】
特許文献2では、パターンの溝底に膜を堆積させることなくパターン上部にパターン上部の幅よりも大きい幅の保護膜を形成する保護膜堆積工程と、堆積工程で形成した堆積膜のウエハ面内分布におけるウエハ中央部分の過剰な堆積膜を除去し、ウエハ面内均一性、及び、保護膜の幅のウエハ面内ばらつきを制御する保護膜部分除去工程とを有する保護膜形成方法が開示されている。特許文献2に記載されている手法では、例えば、パターンの密度が高い溝パターンに堆積膜を形成すると、パターンの溝内にはプラズマで生成されたラジカル等の堆積性粒子が侵入しにくくなるため、パターン上部のみに堆積膜を形成することができる。
【0008】
しかし、半導体装置製造工程途中のウエハ上のパターンにおいて、図4に示すように、密度の高いパターン102が形成されている領域107とパターン102が無い領域108、あるいは、パターン間のスペース幅が十分に広く、プラズマで生成されたイオン130やラジカル131等の堆積成分がパターン間のスペース内に十分侵入できる領域が混在している場合がある。このようなパターンが存在するウエハを加工する場合、特許文献2に記載されている手法では、例えば、図4に示したように、パターンが密な領域107では、パターンの上面に厚い保護膜101を形成することができるが、同時に、パターンの無い領域108の表面上109にも堆積性粒子が十分照射されるため、厚い保護膜104が形成されてしまう。次のエッチング工程において、厚い保護膜104はパターンの無い領域108の表面109のエッチングを阻害するので、パターンの底106とパターンの無い領域108の表面109を同時にエッチングすることは困難であった。
【0009】
本発明の目的は、エッチング前にウエハ上のパターンの少ない領域やパターンの無い領域に不要なデポ膜を堆積させることなく、パターン内の所望の材料上のみにエッチングを抑制するための保護膜を形成することのできる保護膜形成方法を提供する。本発明の目的は、また、その保護膜形成方法を用いパターンをエッチング処理するプラズマ処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した従来技術の課題を解決するために、本発明のプラズマ処理方法では、パターンを構成する材料に対して選択的に堆積膜を形成することによって、パターンの無い領域や溝幅の大きいパターンの溝内に不要な堆積膜を形成しないで、パターンの所望の表面のみに保護膜を形成できると考えた。まず、試料台に設置した試料上に形成された自然酸化膜や試料が試料台に設置される前の工程で試料上に生じた残留物等を除去して、パターンの表面の清浄化を行うための前処理工程(清浄化工程)を行う手段を設けた。さらに、プラズマを用いて、パターン材料に対して選択的に保護膜を形成するために保護膜形成用ガスを処理室に供給するための手段を設けた。パターン材料に対して選択的に保護膜を形成するための手段として、処理室の内部に保護膜形成用ガスを導入し、プラズマ発生手段でプラズマを発生させて、試料台に載置した試料上に形成されたパターン表面の材料に選択的に保護膜を堆積させる工程(保護膜形成工程)とを行う手段を設けた。さらに、形成した保護膜を改質して次工程でのエッチング耐性を確保する処理工程(酸化工程)を行う手段を設けた。その後、処理室にエッチング処理用ガスを供給してプラズマ発生手段でエッチング処理用ガスのプラズマを発生させて、パターンの表面に保護膜を形成した試料をエッチング処理してパターンの間、及び、パターンの形成されていない領域の被エッチングパターン領域をエッチングして除去する工程(エッチング工程)と、を含んで試料をエッチング処理するようにした。
【0011】
さらに、厚い膜をエッチングしたり、高アスペクト比を持つパターンの底を加工するために、保護膜を選択的に堆積させる工程(保護膜形成工程)と、堆積させた保護膜を改質する工程(酸化工程)と、被エッチング膜をエッチングする工程(エッチング工程)とをサイクリックに繰り返して実施するようにした。
【0012】
また、上記した従来技術の課題を解決するために、本発明では、プラズマ処理装置は、パターンが形成された試料を載置する試料台を備えた処理室と、処理室の内部に複数の処理ガスを切替えて供給するガス供給部と、ガス供給部により処理室の内部に供給された処理ガスのプラズマを発生させるプラズマ発生部と、を備えて構成する。さらに、プラズマ処理装置は、試料台に載置された試料に光を照射して試料からの干渉光によるスペクトルを検出する光学系と、ガス供給部とプラズマ発生部と光学系とを制御する制御部とを備えて構成する。制御部は、ガス供給部を制御して処理室の内部に保護膜形成用のガスを供給した状態でプラズマ発生部を制御して試料台に載置された試料の表面の材料に対して選択的に保護膜を形成する。さらに、制御部は、ガス供給部を制御して処理室の内部に供給するガスを保護膜改質用のガスに切替えた状態でプラズマ発生部を制御して試料台に載置された表面に形成された保護膜が所定の酸素濃度となるまで酸化処理を実施する。制御部は、ガス供給部を制御して処理室の内部に供給するガスをエッチング用のガスに切替えた状態でプラズマ発生部を制御して試料台に載置された表面に形成保護膜が形成された試料をエッチング処理するようにした。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、エッチング処理前にパターンの形成されていない被エッチング領域に不要な保護膜を形成することなく、パターンを構成する対エッチング材料上にエッチング耐性の高い保護膜を選択的に形成することが可能となり、微細パターンを高選択に、且つ、高精度に再現性良くエッチング加工できる。例えば、図5に示したように、本発明によれば、パターンが密な領域107では、パターン102の上面にエッチング耐性の高い保護膜101を形成することができる。一方、パターンの無い領域108の表面上109には、図4で示したような保護膜104は形成されない。このため、パターン102の上面をエッチングすることなく、パターンの底106とパターンの無い領域108の表面109を同時にエッチングすることが可能となり、微細パターンを高選択比に、且つ、高精度に再現性良くエッチング加工できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明のプラズマ処理装置の一例を示す図。
図2】実施例の保護膜形成方法のプロセスフローの一例を示す図。
図3】従来方法の課題を説明するための説明図。
図4】他の従来方法の課題を説明するための説明図。
図5】実施例の保護膜形成方法の説明図。
図6】本実施例の保護膜形成方法のプロセスフローの一例を説明するパターン断面図。
図7(a)】SiClとHの混合ガスにClを加えて保護膜を形成したときのSi上、及び、SiO上に形成された保護膜厚のCl流量による変化の一例の説明図。
図7(b)】SiO上にのみ保護膜が形成され、Si上には形成されない一条件における保護膜厚の堆積工程の処理時間依存性の一例の説明図。
図8】本実施例の保護膜改質方法における保護膜のO/Si組成比の酸化時間依存性の一例の説明図。
図9】本実施例の保護膜改質方法における保護膜とSi基板のエッチレートの酸化時間依存性の一例の説明図。
図10】本実施例の保護膜改質方法における保護膜のO/Si組成比と保護膜のエッチレートとの関係を示す説明図。
図11(a)】Siが全く酸化されていない場合の保護膜118のSiの結合状態を示す模式図。
図11(b)】O/Si組成比が0.5の場合の保護膜118のSiの結合状態を示す模式図。
図12】本実施例のサイクル処理方法の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図面を用いて詳細に説明する。なお、全ての図において、同一の機能を有するものは同一の符号を付け、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【実施例
【0016】
本実施例に係るエッチング装置30は、試料であるウエハ100の表面上に形成された微細なパターン102の表面の所望の非エッチング材料上にのみ選択的にエッチング耐性の高い保護膜118を堆積させ、保護膜118を形成したパターンの下層の被エッチング材料をエッチングして除去するものである。
【0017】
図1に、本実施例のプラズマ処理装置の一例の一全体構成を示す。プラズマ処理装置であるエッチング装置30は、処理室31、試料であるウエハ100が載置されるウエハステージ(試料台とも言う)32、ガス供給部33、光学系39、バイアス電源41、高周波印加部42、装置制御部43などを備えている。装置制御部43は、光学系制御部40、ガス制御部44、排気系制御部45、高周波制御部46、バイアス制御部47、堆積工程制御部48、判定部49、記憶部51などの機能ブロックを備えている。これらの装置制御部43を構成する各機能ブロックは、一台のパーソナルコンピュータ(PC)で実現することができる。堆積工程制御部48は判定部49、データベース保存部50、記憶部51を含んでおり、光学系制御部40から送られた信号をデータベース保存部50に保存したデータベース50DBと参照することによって、判定部49で所望の材料上(図5では、パターン102の上)にのみ、保護膜118(図5では、保護膜101)を形成したことを判定することができる。
【0018】
エッチング装置30は、処理室31内に設けられたウエハステージ32と、ガスボンベやバルブを備えたガス供給部33が設けられており、装置制御部43からの制御信号54に基づき、保護膜形成用ガス34、保護膜形成用ガス35、保護膜形成用ガス36、膜質制御用ガス37、エッチング用ガス38、それぞれが、処理ステップに応じて処理室31の内部に供給される。
【0019】
処理室31の内部に供給された処理ガスは、装置制御部43で制御された高周波電源63から高周波印加部42に印加される高周波電力53によって、処理室31内でプラズマに分解される。また、処理室31内の圧力は、処理室31に接続された、図示を省略した可変コンダクタンスバルブと真空ポンプにより、所望の流量の処理ガスを流した状態で、一定に保つことができる。処理室31内でプラズマに分解されて生成したラジカルは処理室31内を拡散してウエハ100の表面に照射される。プラズマで生成されたイオンはバイアス制御部47で制御されたバイアス電源41からウエハステージ32に印加されるバイアス電圧55によって加速されてウエハ100の表面に照射される。
【0020】
光学系39は、ウエハ100上に形成された保護膜の堆積状態を評価するためのものであって、光学系39から発射されてウエハ100で反射した光スペクトルを光学系39で取得することによって、保護膜がウエハ上に形成されたパターンの所望の材料上に選択的に堆積していること、及び、その保護膜の膜質と膜厚を評価することができる。
【0021】
保護膜が所望の材料上にのみ選択的に堆積していることを判定するには、まず、参照データとして、パターンの所望の材料上に選択的に保護膜を堆積させた参照用パターンが形成されたウエハ100を処理室31に導入する。保護膜の形状や膜厚、及び、膜厚、選択性の情報は、予め、ウエハ情報としてデータベース50DBや、堆積工程制御部48の記憶部51などに記憶しておく。
【0022】
次に、光学系39において、光源56から発射した入射光57を、ウエハ100上の参照溝パターン上に照射する。光源56として、例えば、190nmから900nmの間の波長領域の光が用いられる。参照パターンで反射された反射光(干渉光)58は検出器59で検出され、光ファイバーを通って、分光器61で分光されて反射スペクトルとして光学系制御部40に送られる。光学系制御部40に送られた反射スペクトル情報は、堆積工程制御部48に参照データとして送られて予めデータベース50DBとしてデータベース保存部50に保存されている。
【0023】
本実施例のエッチング方法の実施例として、図5図6に示すように、パターンが密な領域(パターンが密集した領域とも言う)107とパターンが無い領域(パターンが疎である領域とも言う)108が混在するパターンに対して、処理室31内でパターンの材料に対して選択的に保護膜(図5の101、図6の118)を形成してから、保護膜(図5の101、図6の118)を改質してエッチング耐性を確保する方法ついて説明する。また、改質した保護膜をマスクとして試料に成膜された被エッチング材料(被エッチング膜とも言う、図5の103、図6の116)を高選択比で加工する手法について説明する。
【0024】
図2を用いて、本実施例にかかるプラズマ処理方法を説明する。図2は本実施例の選択的保護膜形成方法のプロセスフローの一例を示す図である。また、図6は本実施例の保護膜形成方法のプロセスフローを説明するパターン断面図の一例である。本実施例では、図6の(a)に示したように、パターンが密な領域107とパターンが無い領域108が混在するパターンに対して、パターンが無い領域108上に不要な保護膜(例えば、図4の104)を形成することなく密パターン上のSiOマスク117の材料上に選択的にSi系保護膜118を形成して、マスク117のエッチングを抑制して、被エッチングパターン116を高選択比で加工する手法について、図2のフローに基づいて説明する。ここで、被エッチングパターン116は、被エッチング材料または被エッチング膜と言うこともできる。ウエハ100において、被エッチングパターン116は基板115の上に形成されている。本実施例では、一例として、マスク117の材料として二酸化ケイ素(SiO)、被エッチングパターン116の材料としてシリコン(Si)の場合について、シリコン(Si)系保護膜(Si系保護膜と言う)118をマスク117上に形成する方法について述べる。Si系保護膜とは、シリコン元素を含む保護膜である。マスク117の材料はSiO、窒化ケイ素(SiN)、炭化ケイ素(SiC:シリコンカーバイド)等、Si以外に酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)を含む材料についても同様に実施することができる。
【0025】
本実施例では、保護膜堆積の選択性と膜質を判定するために、反射光のスペクトルを取得し、保護膜堆積工程での選択性を判定する手段を用いた。
【0026】
まず、リファレンスとなる初期ウエハを処理室31内に導入し、光源56から発生した入射光57を光透過用の窓62を通して処理室31に導入し、ウエハ100に照射する。そして、反射された反射光(干渉光)58は再び窓62を通過し、検出器59で検出される。検出器59で検出された光は、光ファイバーを通って分光器61で分光される。この分光器61で分光された反射スペクトルは初期反射スペクトルとして記憶部51に保存される(S201:初期反射スペクトル測定)。
【0027】
次に、エッチング用のウエハ100上に形成されたパターンに対して、前処理を実施して、パターン表面に形成された自然酸化膜や、前の工程で生じた残留物等を除去して、パターンに清浄な表面を形成する(S202:前処理)。S202は、試料100の表面を清浄化する清浄化工程と言うこともできる。清浄表面を形成するための前処理(清浄化工程)は、プラズマ処理によって最表面のみをエッチングする方法、プラズマを形成しないでガスのみを処理室31に導入する方法、あるいは、ガス、プラズマ、または薬液処理で生じた反応生成物を熱処理によって揮発させる方法を用いることができる。プラズマ処理による前処理方法として、例えば、六フッ化硫黄(SF6)、または、トリフルオロメタン(CHF3:三フッ化メタン)等のフッ素系のエッチングガスを用いてプラズマ処理する方法、あるいは、塩素(Cl)等のハロゲンを含むガスを用いてプラズマ処理する方法等がある。
【0028】
清浄なパターン表面を形成したら、初期反射スペクトルを取得したパターン上に光源56から発生された入射光57を照射し、反射された反射光58のスペクトルを測定する(S203:反射スペクトル測定)。取得した反射スペクトルは、初期スペクトルと同様に記憶部51に保存される。取得した反射のスペクトルは、データベース50DBに予め保存してある清浄パターンの反射スペクトルと比較し、清浄表面となったことを確認する(S204:清浄表面か?)。
【0029】
エッチング用のウエハ100の表面が清浄となったら、パターン材料に対して選択的に保護膜を堆積する保護膜形成工程を開始する(S205:選択的保護膜堆積)。保護膜形成工程(S205)では、試料100に形成されたパターンの一部分に保護膜(118)をパターン材料に対して選択的に形成する。つまり、保護膜形成工程(S205)では、被エッチング膜(116)に形成されたパターンにおいて、所望の材料に対して選択的に保護膜(118)を形成する。所望の材料とは、SiOであり、SiO上にのみ保護膜118を形成する。
【0030】
まず、装置制御部43からの制御信号54に基づき、保護膜形成用ガス34、保護膜形成用ガス35、及び、保護膜形成用ガス36が所定の流量で処理室31に供給される。供給された保護膜形成用ガス34、保護膜形成用ガス35、及び、保護膜形成用ガス36は、高周波印加部42に印加される高周波電力53によってプラズマとなり、ラジカル、イオン等に分解される。この時、試料100にバイアス電圧55を印加して10eV以上のエネルギーを持つイオンを照射する。この間の処理室31内の圧力は、可変コンダクタンスバルブと真空ポンプにより、所望の流量の処理ガスを流した状態で、一定に保つことができる。プラズマで生成したラジカルやイオンはウエハ100の表面に到達し、図6の(b)に示した保護膜118を形成する。保護膜形成用ガス34から生成したラジカル、イオンはパターン表面のパターン材料と結合し堆積する性質を持つ。保護膜形成用ガス35から生成したラジカル、イオンは、プラズマ中で保護膜形成用ガス34から生成されたラジカル、イオンの一部とウエハ100の表面の材料と結合し、保護膜118を形成する。保護膜形成用ガス36はプラズマとなったとき、保護膜118がSi表面に付着するのを防ぐ性質を持つラジカル、及び、イオンを生成し、保護膜形成用ガス34から生成したラジカル、イオンと結合してパターンが無い領域108の表面に不要な保護膜(例えば、図4の104)が堆積することを抑制する。つまり、保護膜形成用ガス34は、試料の上への堆積性の高いガスである。保護膜形成用ガス35は堆積性の高いガス(保護膜形成用ガス34)と反応して保護膜118を形成するガスである。保護膜形成用ガス36は、不要な保護膜(図4の104)の堆積成分を除去する効果を持つガスである。保護膜形成工程(S205)では、保護膜形成用ガス34と保護膜形成用ガス35と保護膜形成用ガス36との混合ガスが用いられる。
【0031】
本実施例では一例として、Si上には保護膜118を形成しないが、SiO上にのみ保護膜118を形成する選択的保護膜形成工程(S205)によって、マスク117の材料はSiOであり、保護膜118を形成しない領域108の表面の材料はSiであるパターンに対して、保護膜118をマスク117の上にのみ選択的に形成し、広い領域であるパターンが無い領域108には不要な保護膜(例えば、図4の104)を形成しない場合について説明する。一例として、保護膜形成用ガス34として四塩化ケイ素(SiCl:テトラクロロシラン)、保護膜形成用ガス35として水素(H)を用い、保護膜形成用ガス36として塩素(Cl)を所定の流量で処理室31に供給した。つまり、保護膜形成工程(S205)は、SiClガスとHガスClガスの混合ガスを用いる。
【0032】
図7(a)には、SiClとHの混合ガスにClを加えて保護膜118を形成したときのSi上、及び、SiO上に形成された保護膜厚(nm)のCl流量による変化の一例の説明図を示す。線110がSiO上に形成された保護膜118の膜厚を示し、線111がSi上に形成された保護膜118の膜厚を示す。Cl流量が少ない場合、Si上とSiO上に形成された保護膜118の厚さに違いは無いが、Cl流量を一定値以上に増加させると、SiO上にのみ保護膜が形成され、Si上には形成されない現象があることを我々は見出した。図7(b)には、SiO上にのみ保護膜が形成され、Si上には形成されない一条件における保護膜厚(nm)の堆積工程の処理時間依存性の一例の説明図を示す。線112がSiO上に形成された保護膜118の膜厚と堆積工程の処理時間との関係を示し、線113がSi上に形成された保護膜118の膜厚と堆積工程の処理時間との関係を示す。処理時間がある一定時間以上になると、SiO上にもSi上にも保護膜118が形成されるが、一定時間以下であれば、SiO上にのみ保護膜118が形成され、材料に選択的に保護膜を形成できることが明らかになった。
【0033】
保護膜形成用ガス34は、上記で説明した以外に、例えば、SiO材料上に、例えば、Si(シリコン元素)等のSiを含む膜を保護膜118として堆積させる場合は、SiCl、あるいは、四フッ化ケイ素(SiF)や四水素化ケイ素(SiH:モノシラン)等のSi系ガスが用いられる。保護膜形成用ガス35として、例えば、H,臭化水素(HBr),アンモニア(NH),フルオロメタン(CHF)等のHを含むガスが用いられる。保護膜形成用ガス36として、Siを主成分とする堆積膜を除去する性質を持つガス、例えば、Clが用いられる。
【0034】
保護膜形成用ガス34としてSiCl、保護膜形成用ガス35としてH、保護膜形成用ガス36としてClを用いた場合、高周波電力53によって、処理室31内でプラズマに分解され、SiClx、H、Cl等のラジカル、及び、イオンが生成され、これらのラジカル、及び、イオンがウエハ100の表面に照射される。SiClxラジカルがマスク材料のSiO上に照射されると、SiClxラジカルはSiO表面のOと結合して表面に吸着する。このとき、SiClxのClの大部分はHラジカルと反応して、HClとなって表面から脱離する。SiO上に吸着したSiの未結合手はHラジカルと反応して、HとSiを含む保護膜118を形成する。このとき、Hと反応しなかった少量のClは保護膜118中に残存する。SiO上にHを含むSi系保護膜118が形成され始めると、SiClxラジカルは保護膜118中のSiの未結合手と結合し易いので、Si系保護膜118は処理時間に依存して厚くなっていく。
【0035】
一方、保護膜118を形成しない領域108表面の材料であるSi上にSiClxラジカルが照射されると、SiClxラジカルはSiOよりもSiとは反応しにくく、さらに、プラズマから照射されたClラジカルと反応したり、イオン衝撃を受けることによって、Si表面から脱離する。従って、Si表面に到達したSiClxラジカルが再脱離するのに十分なClラジカルとイオンを照射すれば、SiO上にはSi系保護膜118が形成されるが、Si上には保護膜118が形成されないことを見出した。但し、多量のSiClxラジカルを長時間照射し続けると、少しずつSiが吸着するため、SiO2上に選択的に保護膜118を形成するには、SiClxラジカルとClラジカル、イオンの照射量、及び、照射時間を制御する必要がある。
【0036】
SiO上にはSi系保護膜118が形成されるが、Si上には形成されないための条件として、SiCl流量/Cl流量は1より小さいことが必要であり、ウエハ100にバイアス電圧55をかけてイオンを照射することによって、Si表面上のSiClx成分を効果的に除去することができる。
【0037】
保護膜堆積工程(S205)の後、再度、パターン上に光源56から発生された入射光57を照射し、反射された反射光58のスペクトルを測定する(S206:反射スペクトル測定)。取得した反射のスペクトルは、データベース50に予め保存してある選択的に保護膜118を堆積させた参照用パターンからの反射スペクトルと比較し、選択的に保護膜118を形成しているかどうか判定する(S207:選択的に堆積?)。さらに、判定部49では、データベース50DBに予め保存された参照パターンからの反射スペクトルと保護膜118形成後に取得した反射スペクトルから、選択的に形成された保護膜118の厚さ、及び、パターン幅(寸法)を算出することができる。
【0038】
上記の手法によって、選択的に保護膜118が形成できていないと判定された場合、保護膜除去工程を実施する(S208:保護膜除去)。保護膜除去工程(S208)が開始すると、保護膜除去用ガスが所定の流量で処理室31に供給される。供給された保護膜除去用ガスは高周波印加部42に印加される高周波電力53によってプラズマとなり、イオンやラジカルに分解され、ウエハ100表面に照射される。
【0039】
保護膜除去工程(S208)が終了したら、再び、リファレンスとなる初期スペクトルを取得し(S201)、前処理(S202)を実施後、再び、選択的保護膜堆積工程(S205)を実施する。このとき、再び行う際の選択的保護膜堆積工程(S205)の条件は、記憶部51に保存してある前回実施した場合の保護膜形成工程後の反射スペクトルの測定結果に基づき、判定部49で補正された条件に調整する(S209:保護膜堆積条件の調整)。例えば、前回実施した時の保護膜形成工程後の反射スペクトルから、選択的に保護膜118が形成されていないと判定された場合、例えば、保護膜形成用ガス36であるCl流量を所定の量だけ増加させた条件に保護堆積成条件を決定し、その条件で保護膜堆積工程を実施した(S205)。
【0040】
また、比較的厚い保護膜118を選択的に形成する場合、あるいは、被エッチング材料116を深くエッチングする場合には、選択的保護膜堆積工程(S205)と前処理(S202)を繰り返すことによって、比較的厚い保護膜118を選択的に形成する。これは、図7(b)に示したように、保護膜堆積工程(S205)をある一定時間以上実施すると、材料選択性がなくなるため、選択性が無くならない範囲で処理時間を設定する。保護膜堆積工程(S205)後に形成された保護膜118の厚さが所定の膜厚に達していない場合、再度、前処理(S202)を実施する。これによって、保護膜118を形成しない材料の上は清浄となる。一方、保護膜118が形成された材料上は、前処理を行っても表面が初期状態に戻らない様に、処理時間等の処理条件を設定する必要がある。保護膜118が所定の膜厚となるまで、S202からS210までを繰り返して、選択的に厚い保護膜118を形成することができる。図12には、Si上、及び、SiO上に堆積した保護膜厚の繰り返し回数(サイクル数)による変化を示す。図12において、縦軸は保護膜118の膜厚(保護膜厚)であり、横軸はサイクルの繰り返しの回数(サイクル数)を示す。図12において、線310はSiO上に堆積した保護膜118の膜厚を示し、線311はSi上に堆積した保護膜118の膜厚を示す。
【0041】
本手法により、Si上には保護膜118を形成せず、SiO2上にのみ、厚い保護膜118を形成できることを確認することができた。以上に述べた処理を実施して、選択的に保護膜118が堆積したと判定された場合(S207のYes)、さらに、保護膜118が所定の膜厚に堆積していると判定された場合(S210のYes)、保護膜118の膜質制御工程(保護膜改質工程とも言う)を実施する(S211:膜質制御)。
【0042】
上記の手法の内、例えば、保護膜堆積工程(S205)において、保護膜形成用ガス34としてSiCl、保護膜形成用ガス35としてH、保護膜形成用ガス36としてClを用いてSi系保護膜118を形成した場合、下層の被エッチング層116のSiをエッチングする際に保護膜118のエッチング耐性を確保する必要がある。保護膜118のエッチング耐性を確保するために、保護膜118が所定の組成(所望の酸素濃度)となるように酸化処理を行って保護膜118を改質させる保護膜118の膜質制御工程(S211)を実施する。膜質制御工程(S211)は、保護膜118を酸化させる酸化工程と言い換えることもできる。
【0043】
まず、装置制御部43からの制御信号54に基づき、膜質制御用ガス37を所定の流量で処理室31に供給される。膜質制御用ガス37として、酸素(O)、二酸化炭素(CO)、二酸化硫黄(SO)等のOを含む混合ガスを処理室31に供給する。供給されたガスは、高周波印加部42に印加される高周波電力53によってプラズマとなり、ラジカル、イオン等に分解され、ウエハ100の表面に照射される。
【0044】
図6の(c)に示すように、Si系保護膜118に照射されたOラジカルは保護膜118中のSiと結合してSiOxに酸化される。これにより、Si系保護膜118の膜質を改質させる。
【0045】
図8には、Si系保護膜118をOプラズマによって酸化させた場合のO/Si組成比の酸化時間依存性を示す。図8において、縦軸はO/Si組成比を示し、横軸は酸化時間(秒)を示す。線300が実験結果を示している。O/Si組成比は、シリコン元素(Si)に対する酸素元素Oの割合であり、O/Si組成比はO/Siの濃度比と言うこともできる。図8に示すように、酸化処理を行うと5秒程度でO濃度が急に高くなって酸化が進み、それ以降も酸化時間増加に伴って酸化が進行していくことが分かる。
【0046】
図9には、保護膜118とSi基板(116:ウエハ100)を酸化処理した後、次のエッチング工程(S214)でエッチングした時の保護膜118とSi基板(116)のエッチレートの酸化時間依存性を示す。図9において、縦軸は酸化処理した後の保護膜118またはSi基板のエッチレート(nm/秒)を示し、横軸は酸化時間(秒)を示す。線301が保護膜118を示し、線302がSi基板を示している。線301に示すように、Si系保護膜118は堆積させただけではエッチレートが高くてエッチング耐性が低いが、酸化処理を行うと、Si系保護膜118のエッチレートが下がり、保護膜118のエッチング耐性が向上していることが分かる。線302に示すように、Si基板のエッチレートも酸化時間を長くするとエッチレートが低くなる。しかし、5秒から20秒程度の酸化時間の場合、つまり、Si系保護膜118のO/Si組成比が0.4~0.6程度となる場合、Si系保護膜118のエッチレートはSi基板(116)より低くなり、Si系保護膜118が残存している間はマスク117の材料をエッチングしないでSi基板(116)をエッチング可能となり、効果的に選択比を向上できることを我々は見出した。
【0047】
図10にはSi系保護膜118のO/Si組成比と酸化した保護膜118のエッチング工程(S214)でのエッチレートとの関係を示す。図10において、縦軸は酸化した保護膜118のエッチング(nm/秒)を示し、横軸はSi系保護膜118のO/Si組成比を示す。線303が実験結果を示している。Si系保護膜118のO/Si組成比が0.4となると急にエッチレートが低くなり、保護膜118のエッチング耐性が向上することが明らかになった。つまり、酸化された保護膜118における酸素元素の組成割合(O/Si)は、酸化された保護膜118のエッチングレートが被エッチング膜116のエッチングレートより小さくなる組成割合である。ここで、シリコン元素を含む保護膜118におけるシリコン元素に対する酸素元素の組成比は、0.4~0.6の範囲内の値であるのが好ましい。
【0048】
次に、Si系保護膜118のO/Si組成比が0.4~0.6程度となる酸化処理を行うと保護膜118のエッチング耐性が飛躍的に向上する理由を図11(a)、図11(b)のモデル図を使用して述べる。図11(a)は、Siが全く酸化されていない場合の保護膜118のSiの結合状態を示す模式図であり、図11(b)は、O/Si組成比が0.5の場合の保護膜118のSiの結合状態を示す模式図である。
【0049】
Siが全く酸化されていない場合(図11(a)参照)には、Si-Siの結合、あるいは、Si-Hの結合、あるいは、いずれの元素とも結合していないSiのダングリングボンドが形成されている。Si-Siの結合を切るために必要なエネルギーは327kJ/mlであり、Si-Siの結合を切るために必要なエネルギーは298kJ/mlである。
【0050】
一方、O/Si組成比が0.5の場合(図11(b)参照)、Siの4つの結合手のうち、平均して少なくとも一つがSi-Oとなる。Si-Oの結合を切るために必要なエネルギーは798kJ/mlであり、Si-Si、及び、Si-Hよりも大きなエネルギーが必要とされる。このため、O/Si組成比が0.5程度になるようにSi系保護膜を酸化させることによって、エッチング耐性を効果的に向上できることが明らかとなった。
【0051】
Si系保護膜118を酸化するために処理室31内で酸素プラズマを生成すると、被エッチング領域であるパターンが無い領域108も酸化される。しかし、図9に示したように、酸化時間が5秒から20秒の間は被エッチング領域108であるSi基板(116)よりもSi系保護膜118のエッチレートの方が小さくなる。これは、Si系保護膜118にはSi-H、Siダングリングボンド、及び、僅かにSi-Clが含有されており、これらの結合はSi-Si結合よりもOと反応して酸化され易いため、Si基板(116)よりも速やかに酸化が進行し、Si系保護膜118の全体が酸化されるためである。一方、Si基板(116)は結晶性が良いため、最表面から深部へとゆっくり酸化が進行する。従って、Si系保護膜118の方が速やかに膜全体が酸化されて、エッチング耐性を確保することができる。
【0052】
膜質が所望の酸化度合いに制御されたことを判定する一例として、膜質制御工程(S211)の後、パターン上に光源56から発生された入射光57を照射し、反射された反射光58のスペクトルを測定する(S212:反射スペクトル測定)。
【0053】
取得した反射スペクトルは、初期スペクトルと同様に記憶部51に保存され、堆積工程制御部48内の判定部49に送られる。取得した反射のスペクトルは、データベース50に予め保存してある所望のO/Si組成比に制御した参照用パターンからの反射スペクトル(参照用スペクトル)と比較し、膜質を判定することができる(S213:判定工程(所定の膜質か?))。つまり、試料100のパターン上に光源56から発生された入射光57を照射し、試料100のから反射された干渉光(反射光58)のスペクトルをモニタする。そして、取得した参照用スペクトルのパターンとモニタ(測定)された干渉光(反射光58)のスペクトルのパターンとの比較結果に基づいて、試料100上に選択的に形成された保護膜118が所望の酸素濃度の範囲に改質されたことを判定する判定工程を実施する。この判定工程では、酸素元素の組成割合が所望の組成割合の場合における干渉光のスペクトル(参照用スペクトル)とモニタされた干渉光(反射光58)のスペクトルとの比較結果を基に酸素元素の組成割合が所望の組成割合範囲(シリコン元素に対する酸素元素の組成比が0.4~0.6の範囲内の値)内かどうかを判定する。
【0054】
保護膜118の膜質制御(S211)が終了したら、形成した保護膜118、及び、パターンに元々形成されていたマスク117をエッチングマスクとして、被エッチング材料116をプラズマエッチングする(S214:エッチング)。
【0055】
エッチング工程(S214)においては、先ず、装置制御部43でガス供給部33を制御して、エッチング用ガス38を所定の流量で処理室31に供給する。エッチング用ガス38が供給されて処理室31の内部が所定の圧力になった状態で、装置制御部43で高周波電源63を制御して、高周波印加部42に高周波電力53を印加して、処理室31の内部にエッチング用ガス38によるプラズマを発生させる。図6の(d)に示すように、処理室31の内部に発生させたエッチング用ガス38のプラズマにより、保護膜118が形成されたウエハ100のエッチング処理を行う。エッチング用ガス38はプラズマとなって、被エッチング材料116をエッチングするラジカル、及び、イオンを生成する。保護膜118がSi系材料の場合、エッチング用ガス38として、例えば、Clガス等を用いることができる。エッチング用ガス38は、あるいは、Cl2、HBr等のハロゲンガスとO等の混合ガスを用いることができる。エッチング用ガス38から生成されたイオンは、バイアス制御部47で制御されたバイアス電源41からウエハステージ32に印加されるバイアス電圧55によって加速されてウエハ100表面に照射される。イオンがパターンに照射されたとき、Si基板116上に形成された酸化膜は通過するが、保護膜118を通過しないエネルギーのイオンを照射することによって、つまり、イオンの飛程が保護膜118の厚さより小さく、Si基板116の表面上に形成された酸化膜厚より大きいエネルギーのイオンを照射する。つまり、エッチング工程(S214)における試料100に照射するイオンのエネルギーは、保護膜118を通過しないエネルギーである。これによって、被エッチング領域であるSi基板116のエッチングは進行するが、マスク117のエッチングを抑制して、高選択比に精度良くSi基板116のエッチングを行うことが可能となった。
【0056】
ここで、エッチング工程(S214)のエッチング処理を行いながら、光学系39で保護膜の膜厚を測定し(S215:反射スペクトル測定)、ウエハ100上の被エッチングパターン116が所望の深さにエッチングされるまで保護膜118の膜厚を測定し(S216)、所定のエッチングの処理時間または、所望の深さに到達した時点で、エッチングを終了する(S217:終了)。
【0057】
ここで、エッチング工程(S217)において所望のエッチング深さに到達する前に、保護膜118の厚さが規定値以下となる場合がある。そのような場合(S216でNoの場合)、選択的保護膜堆積工程(S205)へ戻り、保護膜118の堆積工程から再度開始し、再び保護膜118の膜厚が所定の膜厚に達するまで選択的に保護膜118の堆積が実施される。つまり、エッチング工程(S217)後、被エッチングパターン(被エッチング膜)116のエッチングの深さが所定の深さに到達していない場合、保護膜形成工程(S205)を行う。前記のように、S205からS216を繰り返して、ウエハ100上の被エッチングパターン116が所定の深さにエッチングされるまで繰り返される。被エッチングパターン116が所定の深さまでにエッチング深さに到達した時点で、被エッチングパターン116のエッチングを終了する。さらに、被エッチングパターン116のエッチング後、パターン表面に堆積させた保護膜118を除去することができる。保護膜118のみを除去することもできるし、マスク117の上に保護膜118が形成されている場合は、マスク117と同時にマスク117の表面上に残った保護膜118を除去しても良い。
【0058】
このようなプラズマ処理をウエハ100に施すことにより、パターンの無い領域108には不要な保護膜を形成することなく、パターンの上のマスク117の上面にのみエッチング耐性を確保した保護膜118を形成することが可能となる。これにより、マスク117の上面、及び、パターン上面119がエッチングされてパターンの深さが浅くなってしまうという従来技術の課題や、下層の被エッチング層116をエッチングする間にマスク117の上面がエッチングされてしまうという従来の課題を解決して、本実施例により所望のパターン形状を得ることができるようになった。
【0059】
なお、上記実施例では被エッチングパターンとして、マスク117、下層の被エッチング層116が形成されており、マスクパターンはパターンが密な領域107とパターンが無い領域108が混在している場合に、パターンが無い領域108の被エッチング材料上に不要な保護膜を形成することなく密パターン上のマスク117の材料上に選択的に保護膜118を形成して、マスク117、及び、パターン上面119のエッチングを抑制して、被エッチングパターン116を高選択比で加工する手法について述べた。
【0060】
以上、本発明者によってなされた発明を実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0061】
30:エッチング装置、31:処理室、32:ウエハステージ、33:ガス供給部、34:保護膜形成用ガス、35:保護膜形成用ガス、36:保護膜形成用ガス、37:膜質制御用ガス、38:エッチング用ガス、39:光学系、40:光学系制御部、41:バイアス電源、42:高周波印加部、43:装置制御部、44:ガス制御部、45:排気系制御部、46:高周波制御部、47:バイアス制御部、48:堆積工程制御部、49:判定部、50:データベース、51:記憶部、53:高周波電力、54:制御信号、56:光源、57:入射光、58:反射光、59:検出器、61:分光器、62:窓、63:高周波電源、100:ウエハ、101:保護膜、102:パターン、103:基板、104:不要な保護膜、106:パターンの底、107:パターンが密な領域、108:パターンの無い領域、109:パターンの無い領域の表面、115:基板、116:被エッチングパターン、117:マスク、118:保護膜、119:パターン上面、110:SiO上の保護膜厚のCl2流量による変化、111:Si上の保護膜厚のCl2流量による変化、112:SiO上の保護膜厚の処理時間変化、113:Si上の保護膜厚の処理時間変化、120:堆積膜、121:パターン上面、122:側面、123:底面、124:パターンの無い領域、130:イオン、131:ラジカル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7(a)】
図7(b)】
図8
図9
図10
図11(a)】
図11(b)】
図12