(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】プラズマ処理方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/3065 20060101AFI20240604BHJP
【FI】
H01L21/302 105A
H01L21/302 101D
(21)【出願番号】P 2023534348
(86)(22)【出願日】2022-04-26
(86)【国際出願番号】 JP2022018912
(87)【国際公開番号】W WO2023209812
(87)【国際公開日】2023-11-02
【審査請求日】2023-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 健太
(72)【発明者】
【氏名】伊東 亨
(72)【発明者】
【氏名】尾藤 史好
【審査官】原島 啓一
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-529732(JP,A)
【文献】国際公開第2016/190036(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/217266(WO,A1)
【文献】特開平11-340213(JP,A)
【文献】特開2021-192464(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
H01L 21/28-21/288
H01L 21/302
H01L 21/3205-21/3213
H01L 21/329
H01L 21/44-21/445
H01L 21/461
H01L 21/768
H01L 23/522
H01L 23/532
H01L 29/40-29/49
H01L 29/872
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁膜とタングステン膜が交互に積層された積層膜のタングステン膜をプラズマエッチングするプラズマ処理方法において、
堆積膜を堆積させる第1の堆積ステップと、
前記第1の堆積ステップ後、前記タングステン膜をエッチングする第1のエッチングステップと、
堆積膜を堆積させる第2の堆積ステップと、
前記第2の堆積ステップ後、Cl
2ガスとN
2ガスとCF
4ガスとC
4F
8ガスの混合ガスを用いて前記タングステン膜をエッチングする第2のエッチングステップと、
前記第2のエッチングステップ後、前記タングステン膜をエッチングする第3のエッチングステップと、を有し、
前記第1の堆積ステップと前記第1のエッチングステップを所定回、繰り返した後、前記第2の堆積ステップを行い、
前記第2の堆積ステップと前記第2のエッチングステップと前記第3のエッチングステップを所定回、繰り返すことを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載のプラズマ処理方法において、
前記絶縁膜は、シリコン酸化膜であることを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項3】
請求項1に記載のプラズマ処理方法において、
前記第3のエッチングステップは、Cl
2ガスとN
2ガスとCF
4ガスとC
4F
8ガスの混合ガスを用いて行われることを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項4】
請求項3に記載のプラズマ処理方法において、
前記第2のエッチングステップは、前記積層膜を有する試料が載置される試料台に高周波電力を供給しながら行われ、
前記第3のエッチングステップは、前記試料台に高周波電力を供給せずに行われることを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項5】
請求項4に記載のプラズマ処理方法において、
前記第2の堆積ステップは、C
4F
8ガスを用いて行われることを特徴とするプラズマ処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプラズマ処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、NAND型フラッシュメモリ技術においては、メモリセルを縦方向に積む3次元構造のNAND型フラッシュメモリ(3D-NAND)が主流となっている。
【0003】
3次元構造のNAND型フラッシュメモリの製造工程においては、先ずウエハ面に垂直方向に形成されたトレンチ(エッチング溝)に沿ってシリコン酸化膜(SiO2)などからなる絶縁膜とタングステン膜(W)などからなる金属膜(ゲート電極膜)が各々100層以上交互に重なる積層構造を形成する工程が実行される。
次にプラズマを用いた等方性エッチングにより、トレンチ深さ方向に積層された前記複数のタングステン膜それぞれをウエハ面に平行な方向である横方向へ均一に除去するエッチング工程が実行される。
【0004】
このようなトレンチの中のタングステンを横方向に均一にエッチングするための方法として、特許文献1には、異方性のエッチングで溝底のタングステンを一旦除去した後に、等方的に側面のタングステンを除去する2ステップの加工方法が示されている。
具体的には、異方性エッチングステップに関しては、プラズマを生成して、試料に高周波電力を印加することで、イオンを垂直に試料に入射させて、溝底のタングステンを除去する。等方性のエッチングに関しては、プラズマを生成して、試料に高周波バイアスを印加せずに処理する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
次世代技術ではより一層の高集積化が要求され、積層数では200層以上、トレンチ深さでは12um以上になる積層構造を扱う必要が生じる。このような積層構造におけるトレンチでは、従来技術で扱われるトレンチよりも深い位置にタングステン膜が位置している。このため、特許文献1に開示されたエッチング方法では十分に均一なエッチングを実現することが難しい。
【0007】
そこで、本発明では、トレンチの深さが大きくなった場合でも処理対象の膜を横方向へ均一に除去することを可能とするプラズマ処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、絶縁膜とタングステン膜が交互に積層された積層膜のタングステン膜をプラズマエッチングするプラズマ処理方法において、堆積膜を堆積させる第1の堆積ステップと、前記第1の堆積ステップ後、前記タングステン膜をエッチングする第1のエッチングステップと、堆積膜を堆積させる第2の堆積ステップと、前記第2の堆積ステップ後、Cl2ガスとN2ガスとCF4ガスとC4F8ガスの混合ガスを用いて前記タングステン膜をエッチングする第2のエッチングステップと、前記第2のエッチングステップ後、前記タングステン膜をエッチングする第3のエッチングステップと、を有し、前記第1の堆積ステップと前記第1のエッチングステップを所定回、繰り返した後、前記第2の堆積ステップを行い、前記第2の堆積ステップと前記第2のエッチングステップと前記第3のエッチングステップを所定回、繰り返すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、トレンチの深さが大きくなった場合でも処理対象の膜を横方向へ均一に除去することを可能とする。
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施をするための形態における説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本実施形態に係るプラズマ処理装置を示す図である。
【
図2】
図2は、従来のプラズマ処理方法のフローチャート図である。
【
図3】
図3は、第1サイクルによる加工前と加工後の積層構造を示す模式図である。
【
図4】
図4は、従来の第2サイクルを第二積層構造に適用したときの状態を示す模式図である。
【
図5】
図5は、従来のプラズマ処理方法におけるトレンチの深さとエッチング量の関係を示す図である。
【
図6】
図6は、本実施形態に係るプラズマ処理方法のフローチャート図である。
【
図7】
図7は、本実施形態の第2サイクルを第二積層構造に適用したときの状態を示す模式図である。
【
図8】
図8は、本実施形態のプラズマ処理方法におけるトレンチの深さとエッチング量の関係を示す図である。
【
図9】
図9は、高周波電力の出力を0Wから40Wまで変化させた場合のエッチング量差を示す図である。
【
図10】
図10は、高周波電力の印加時間を3sから11sまで変化させた場合のエッチング量差を示す図である。
【
図11】
図11は、高周波電力を時間変調した場合のトレンチの深さとエッチング量の関係を示す図である。
【
図12】
図12は、高周波電力の実効パワーを0Wから60Wまで変化させた場合のエッチング量差を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付して示している。
【0012】
図面において示す各構成要素の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。
【0013】
本開示において、方向を示すために、図面上に表記されたx軸、y軸、z軸に示す方向を用いることがある。「上方」および「下方」については、これらを「z軸プラス方向」、「z軸マイナス方向」ということがあり、水平方向については、「x軸方向」、「y軸方向」、「横方向」ということがある。
【0014】
さらに、z軸方向の長さを「高さ」または「深さ」と称し、x軸方向とy軸方向で規定されるxy平面上の長さを「幅」と称する。
【0015】
<プラズマ処理装置の説明>
以下、
図1を参照して、本発明の実施形態に係るプラズマ処理装置について説明する。
図1は、本実施形態に係るプラズマ処理装置を示す図である。本実施形態では、プラズマ処理装置の一例として、ECR(Electron Cyclotron Resonance)マイクロ波プラズマエッチング装置を示す。
【0016】
プラズマ処理装置100において、真空容器101には、真空容器101内に処理ガスを導入するためのシャワープレート105(例えば石英製)、誘電体窓106(例えば石英製)が設置されている。誘電体窓106よりも下方の密封された空間は処理室107を形成する。シャワープレート105には処理ガスを流すための複数の孔が配置されており、ガス供給装置108から供給されたガスは複数の孔を通り処理室107に導入される。また、真空容器101には、真空排気口109を介して真空排気装置(図示せず)が接続されている。
【0017】
導波管110は誘電体窓106の上方に設けられており、プラズマを生成するための電磁波を処理室107に伝送する。導波管110へ伝送される高周波(プラズマ生成用高周波)は、第一の高周波電源104によって制御される発振器103から出力される。また、第一の高周波電源104はパルス発振器を備えており、時間変調された間欠的な高周波または連続的な高周波を出力することができる。高周波の周波数は特に限定されないが、本実施形態では2.45GHzのマイクロ波(プラズマ生成用高周波)を使用する。
【0018】
処理室107の外周部には、磁場を形成する磁場発生用コイル111が設けられている。磁場発生用コイル111によって発生された磁場と導波管110から導入された電磁波の相互作用により、処理室107内にプラズマが生成される。磁場発生用コイル111はコイルケース112によって覆われている。
【0019】
試料台102は、シャワープレート105に対向する位置であって真空容器101の下部に設けられている。試料台102に設けられた電極は表面が溶射膜(図示せず)で被覆されており、高周波フィルタ116を介して直流電源117が接続されている。さらに、試料台102には、マッチング回路(整合器)114を介してバイアス用高周波電源である第二の高周波電源115が接続される。試料台102には、温度調節器(図示せず)が接続されている。搬送手段(図示せず)により、ウエハ113を真空容器101の処理室107に搬送し、試料台102に載置する。
【0020】
処理室107内に搬送されたウエハ113は、直流電源117から印加される直流電圧の静電気力で試料台102上に吸着され、温度調節される。ガス供給装置108によって所望の処理ガスが処理室107へ供給された後、真空容器101内が真空排気装置を介して所定の圧力に制御され、発振器103から供給された高周波に基づいて処理室107内にプラズマが発生する。試料台102に接続された第二の高周波電源115から高周波電力(RF-bias)を印加することにより、プラズマからウエハ113へイオンを引き込み、ウエハ113がプラズマ処理(エッチング)される。また、第二の高周波電源115は、パルス発振器を備えるため、試料台102に時間変調された間欠的な高周波電力または、連続的な高周波電力を供給(印加)することができる。
【0021】
[従来のプラズマ処理方法]
先ず従来のプラズマ処理方法を適用した場合を説明する。
図2は、従来のプラズマ処理方法のフローチャート図である。プラズマ処理方法による一連の加工工程は、所定の加工段階のウエハの積層構造(以下、「第一積層構造」という。)に対して適用される第1サイクル201と、第1サイクル201が行われた段階の積層構造(以下、「第二積層構造」という。)に対して適用される第2サイクル205を含む。以下に各サイクルに関して説明する。
【0022】
表1は、
図2に示されるフローチャートにおける、各処理ステップの条件を示す。表1において、項目「Ar」、「He」、「CF
4」、「CHF
3」、「Cl
2」、「N
2」、「CH
2F
2」、「C
4F
8」は、ガス供給装置108によって供給されるガスの種類と流量を示す。項目「圧力」は、真空容器101内に設定される圧力値を示す。項目「マイクロ波」は、第一の高周波電源104によって出力され導波管110を通じて伝送されるマイクロ波(プラズマ生成用高周波)の電力を示す。項目「RF-bias」は、第二の高周波電源115からウエハへ印加される高周波電力の条件(出力(Power)(W)、周波数(Frequency)(Hz)、デューティ比(Duty)(%)を示す。項目「時間」は、処理ステップが行われる時間(s(秒))を示す。
【0023】
【0024】
<第1サイクル201>
図3は、第1サイクル201による加工前と加工後の積層構造を示す模式図である。
図3(a)は、第1サイクル201による加工が行われる前の第一積層構造を示す。ウエハ113は、絶縁膜とタングステン膜が交互に積層された積層膜を有する試料である。ウエハ113は、多結晶シリコン301による基板と基板に直立する芯(チャネル)を有する。また多結晶シリコン301の芯に沿って少なくとも200層のシリコン酸化膜302と少なくとも200層のタングステン膜303が交互に積層し、さらにタングステン膜303はシリコン酸化膜302の層の周りを囲むようにウエハ113の表面も覆っている。ウエハ113には溝構造であるトレンチ305が形成されている。なお、積層構造はトレンチに沿って絶縁膜と金属膜が交互に積層した構造であれば、シリコン酸化膜とタングステン膜に限定されない。
【0025】
図3(b)は、第1サイクル201による加工が行われた時点での第二積層構造を示す。第1サイクル201は、堆積膜を堆積させる第1の堆積ステップ202と、第1の堆積ステップ202後、積層膜のタングステン膜をエッチングする第1のエッチングステップ203と、を含み、第1の堆積ステップ202と第1のエッチングステップ203を所定回、繰り返す。タングステン膜303のうち、シリコン酸化膜302の層の周りを囲みウエハ113の表面を覆っていた部分は除去され、積層構造がトレンチ305の側壁に沿って露出している。
本実施形態において、トレンチ305の深さ(積層構造の最上部と最下部までの長さ)をdt、幅をwtとすると、dtが15.2μm以上かつwtが134.5nm以下をとることもできる。また、dtは11.7μm以上かつwtは160nm以下の値をとることができる。アスペクト比をdt/wtとすると、前者のアスペクト比は113であり、後者のアスペクト比は73である。なお、トレンチ305の深さと幅の関係はこれに限定されない。また、
図3に示される積層構造はこれに限定されない。
【0026】
タングステン膜303の全層数を344層としたときに、トレンチ305の最深部のタングステン膜303(以下、「最下層」という。)から1~10層をBottom部(B部)、84~93層をMiddle-Bottom部(MB部)、168~177層をMiddle部(M部)251~260層をTop-Middle部(TM部)、335~344層をTop部(T部)と以下便宜上呼ぶこととする。
【0027】
前記各部の位置関係を、最下層を基準として数えた累積層数の全層数に対する割合で表現すると、B部は0%から3%、MB部は24%から27%、M部は49%から51%、TM部は73%から76%、T部は97%から100%に相当する。このように、トレンチ305の深さに対するタングステン膜303のエッチング量の均一性を評価する際には、最下層を基準として、0%(最下層)を含む所定層(B部)、25%目の層を含む所定層(MB部)、50%目の層を含む所定層(M部)、75%目の層を含む所定層(TM部)、100%目の層を含む所定層(T部)でのエッチング量の値を利用すればよい(所定層の例として10層)。ただし、これに限定されるものではなく、各部の数や位置、所定層の数は、適宜設定することが可能である。
【0028】
第1の堆積ステップ202において、供給されるガスは、表1に示されるようにArガス290ml/min、Heガス290ml/min、CHF3ガス10ml/min、C4F8ガス12ml/minである。真空容器101内の圧力は6Pa、プラズマ生成用のマイクロ波は400W、ウエハへ印加される高周波電力は100W、1000Hz、22%、第1の堆積ステップ202の時間は18sである。
第1の堆積ステップ202は、CHxFyガスを主成分とするフロロカーボンを含む堆積膜をトレンチ305の内面に形成する。第1の堆積ステップ202は、エッチャントであるフッ素ラジカルの量と堆積膜の量のバランスを調整しトレンチ305のT部からB部まで深さ方向に沿って同じ割合でエッチングが進むように調整する機能を有する。また、以下の説明では、フロロカーボンを含む堆積膜を保護膜ということもある。
【0029】
同様に第1のエッチングステップ203において、供給されるガスは、Arガス150ml/min、Heガス162ml/min、CF4ガス100ml/min、Cl2ガス50ml/min、N2ガス30ml/min、C4F8ガス9ml/minである。真空容器101内の圧力は5.9Pa、プラズマ生成用のマイクロ波は700Wである。ウエハへ高周波電力は印加されない。第1のエッチングステップ203の時間は58.5sである。
【0030】
繰り返し判定ステップ204は、第1の堆積ステップ202と第1のエッチングステップ203が所定回、繰り返されたかどうか判定する。所定回まで到達してないと判定された場合、第1の堆積ステップ202に戻る。所定回に到達したと判定された場合、第1サイクル201は終了し、第2サイクル205の第2の堆積ステップ206に進む。
【0031】
<第2サイクル205>
図4は、従来の第2サイクル205を第二積層構造に適用したときの状態を示す模式図である。
図4(a)は、第1サイクル201が終了した時点での第二積層構造を示す(
図3(b)参照)。
【0032】
第2の堆積ステップ206において、供給されるガスは、表1に示されるようにArガス290ml/min、Heガス290ml/min、CHF
3ガス10ml/min、CH
2F
2ガス5ml/min、C
4F
8ガス12ml/minである。項目「圧力」、「マイクロ波」、「RF-bias」の条件は、第1サイクル201の第1の堆積ステップ202の条件と同じである。第2の堆積ステップ206の時間は15sである。
図4(b)は、第2サイクル205の第2の堆積ステップ206が適用された時点での状態を示す。第2の堆積ステップ206によって、シリコン酸化膜302とタングステン膜303の表面にCH
xF
yガスを主成分とするフロロカーボンの保護膜304が形成される。第2の堆積ステップ206は第1サイクルの第1の堆積ステップ202に対応する。
【0033】
同様に第2のエッチングステップ(RF-bias OFF)207(以下、単に「第2のエッチングステップ207」ともいう。)において、供給されるガスは、Arガス150ml/min、Heガス162ml/min、CF4ガス75ml/min、Cl2ガス30ml/min、N2ガス30ml/min、C4F8ガス10ml/minである。真空容器101内の圧力は6.1Pa、プラズマ生成用のマイクロ波は700W、ウエハへ高周波電力は印加されない。第2のエッチングステップ207の時間は63.5sである。
【0034】
繰り返し判定ステップ208は第1サイクル201の繰り返し判定ステップと同様である。
図4(c)は、第2の堆積ステップ206と第2のエッチングステップ(RF-bias OFF)207の順番で第2サイクル205を4回実施した時点での積層構造の模式図である。この結果、保護膜304が除去され、タングステン膜303の横方向のエッチングが進行した。ただし後述するように、エッチング量はトレンチ305の深さ方向にばらつきがあり、MB部が最も大きくB部が最も少ない結果となった。
【0035】
<結果と考察>
上述した従来のプラズマ処理方法で積層構造を加工した結果と問題を説明する。
図5は、従来のプラズマ処理方法におけるトレンチ305の深さとエッチング量の関係を示す図である。トレンチ305の深さ方向に対してB部、MB部、M部、TM部、T部の5箇所におけるタングステン膜303のエッチング量は、MB部で最大値20.01nm、B部で最小値の11.03nmとなった。トレンチ深さ方向に対するエッチング量の最大値と最小値の差(以下、特に断りのない限り「エッチング量差」という。)501は8.98nmであり、許容値4nmを上回った。ここに、各部のエッチング量は10層の平均値を用いて表示する。また評価の判断基準として、エッチング量差の許容値を4nm以下とした。なお、4nmは、トレンチ幅wtのおよそ3%に該当する。
【0036】
エッチング量差501の値が大きくなり、エッチング量分布が悪化した要因について考える。トレンチ305の深さが12um以上と深い構造では、エッチングに寄与するエッチャントがMB部までは到達するが、B部には十分な量のエッチャントが到達していない。その結果エッチングがほとんど行われなかったB部のリセス量は、他の箇所に比べて小さな値をとったと考えられる。
【0037】
また、エッチングが進んだときに発生する反応生成物は、トレンチ305内を上方に移動しエッチャントと反応する。かかる反応によりエッチャントが消費されるので、エッチングの進行が抑制されると考えられる。T部からM部では、トレンチ305内の下部方向から発生した反応生成物が供給されるのでエッチングの進行が適度に抑制され得る一方、MB部では、下部のB部においてエッチャントが少ないので反応生成物も少なく、MB部への反応生成物の供給も少ない。したがって反応生成物の供給が少ないMB部ではエッチングが抑制されないまま過度に進行し、MB部とB部のエッチング量差が悪化したと考えられる。
【0038】
[本実施形態のプラズマ処理方法]
次に、本実施形態のプラズマ処理方法を説明する。
図6は、本実施形態に係るプラズマ処理方法のフローチャート図である。本実施形態のプラズマ処理方法は、第2サイクル605において、第2のエッチングステップ(RF-bias ON)607(以下、単に「第2のエッチングステップ」ともいう。)が設けられている点で、上述した従来のプラズマ処理方法と異なる。そのほかの点では、
図2の従来のプラズマ処理方法と同様のステップを有する。すなわち、第1サイクル601の第1の堆積ステップ602、第1のエッチングステップ603、繰り返し判定ステップ604は、
図2に示される従来のプラズマ処理方法の第1サイクル201の第1の堆積ステップ202、第1のエッチングステップ203、繰り返し判定
ステップ204に対応する。また、第2サイクル605の第2の堆積ステップ606、第3のエッチングステップ(RF-bias OFF)608、繰り返し判定ステップ609は、
図2に示される従来のプラズマ処理方法の第2サイクル205の第2の堆積ステップ206、第2のエッチングステップ(RF-bias OFF)207、繰り返し判定ステップ208に対応する。なお、以下の説明において、上述の従来のプラズマ処理方法と同一又は同等の構成要素については同一の符号を付し、その説明を簡略又は省略する。
【0039】
表2は、
図6に示されるフローチャートにおける、第2サイクル605の条件を示す。第2サイクル605は、堆積膜を堆積させる第2の堆積ステップ606と、第2の堆積ステップ606後、Cl
2ガスとN
2ガスとCF
4ガスとC
4F
8ガスの混合ガスを用いてタングステン膜をエッチングする第2のエッチングステップ(RF-bias ON)607(以下、単に「第2のエッチングステップ607」ともいう)と、第2のエッチングステップ607後、タングステン膜をエッチングする第3のエッチングステップ(RF-bias OFF)608(以下、単に「第3のエッチングステップ608」ともいう。)と、を有し、第1サイクル601の後、第2の堆積ステップ606を行い、第2の堆積ステップ606と第2のエッチングステップ607と第3のエッチングステップ608を所定回、繰り返す。
第2の堆積ステップ606は、C
4F
8ガスを用いて行われる。第2の堆積ステップ606は、
図2に示される第2サイクル205の第2の堆積ステップ206と同じ条件である。
【0040】
【0041】
図7は、本実施形態の第2サイクル605を第二積層構造に適用したときの状態を示す模式図である。
図7(a)および
図7(b)は、
図4(a)および
図4(b)と同様なので説明は省略する。
図7(c)は、第2の堆積ステップ606と第2のエッチングステップ(RF-bias ON)607と第3のエッチングステップ(RF-bias OFF)608の順番で第2サイクル605を所定回実施した時点での積層構造の模式図である。本実施形態においては、
図7(c)に示されるように、MB部とB部でエッチング量のばらつきが抑えられた。
【0042】
第2のエッチングステップ(RF-bias ON)607は、Cl2ガスとN2ガスとCF4ガスとC4F8ガスの混合ガスを用いてタングステン膜をエッチングするステップである。また第2のエッチングステップ(RF-bias ON)607は、積層膜を有する試料が載置される試料台102に高周波電力を供給しながら行われる。表2に示されるように第2のエッチングステップ(RF-bias ON)607において、供給されるガスは、Arガス150ml/min、Heガス162ml/min、CF4ガス75ml/min、Cl2ガス30ml/min、N2ガス30ml/min、C4F8ガス10ml/minである。真空容器101内の圧力は6.1Pa、プラズマ生成用のマイクロ波は700W、ウエハに印加される高周波電力(RF-bias)は20Wで、印加時間は5sである。
【0043】
第3のエッチングステップ(RF-bias OFF)608は、第2のエッチングステップ(RF-bias ON)607後、タングステン膜をエッチングするステップであり、Cl2ガスとN2ガスとCF4ガスとC4F8ガスの混合ガスを用いて行われる。また第3のエッチングステップ(RF-bias OFF)608は、試料台102に高周波電力を供給せずに行われる。第3のエッチングステップ(RF-bias OFF)608において、ステップ時間が58.5sであることと、ウエハに高周波電力(RF-bias)が印加されない点を除いて、供給されるガス、圧力、マイクロ波の条件は、第2のエッチングステップ(RF-bias ON)607と同じである。
【0044】
なお、第2のエッチングステップ(RF-bias ON)607および第3のエッチングステップ(RF-bias OFF)608に用いられるフッ素を含有するガスとして、表2に示されるガスを含む混合ガスを示したが、本発明はこれに限定されるものではない。フッ素含有ガスとして、NF3ガスまたはSF6のガスの少なくてもいずれかを含む混合ガスであってもよい。また、ArガスおよびHeガスは、希釈ガスの機能を有する。
【0045】
図8は、本実施形態のプラズマ処理方法におけるトレンチの深さとエッチング量の関係を示す図である。エッチング量はMB部で最大値16.52nm、B部で最小値12.63nmとなった。トレンチ深さ方向に対してのエッチング量差801は3.89nmとなり、エッチング量分布が改善した。
【0046】
<作用・効果>
第2のエッチングステップ(RF-bias ON)607を設けて、ウエハにRF-bias(高周波電力)を適度に印加したことにより、トレンチ305内にイオンが引きこまれ、イオンの流れがMB部のエッチャントをB部に引き込んだと考えられる。その結果、MB部の過剰なエッチング量が抑制される一方でB部のエッチング量が増加し、トレンチ深さ方向に対してのエッチング量差は改善したと考えられる。
【0047】
ただし第2のエッチングステップ(RF-bias ON)607で高周波電力を印加することは、第2の堆積ステップ606で試料表面に付着したフロロカーボンの保護膜304のエッチングを過剰に促進し、また積層構造表面に位置するシリコン酸化膜302までエッチングしダメージを与えてしまう可能性がある。そこで好ましい使用可能な高周波電力の出力と印加時間の依存性に関し実験した。
【0048】
[高周波電力の出力依存性]
先ず、高周波電力の出力依存性について実験した。表2の条件のうち、第2のエッチングステップ(RF-bias ON)607の高周波電力の出力を0Wから40Wまで変更しプラズマ処理を行った。
図9は、高周波電力の出力を0Wから40Wまで変化させた場合のエッチング量差を示す図である。ここで、T部からB部でエッチング量の最大値はMB部、最小値はB部に現れるため、
図9において、エッチング量の出力依存性を観察する代表的な場所としてMB部とB部を選択した。高周波電力の出力を0W、10W、20W、30W、40Wに変更してエッチング量分布を計測した。その結果高周波電力が0Wの時トレンチ深さ方向に対してのエッチング量差は最大値8.99nmとなった。高周波電力を0Wから20Wに上げるとエッチング量差は減少し、20Wの時に最小値3.89nmとなった。高周波電力を20Wから40Wに上げるとエッチング量差は増加し、40Wでは4.11nmとなった。以上から高周波電力の出力が10Wから30Wの範囲でトレンチ深さ方向に対してのエッチング量差は4nm以下となり、良いエッチング量分布になることが分かった。また、高周波電力の出力が40Wの場合は積層構造表面にダメージが加わったことが確認された。このことから高周波電力については、40W以上の出力を用いることは望ましくないことが分かった。以上から、高周波電力を5s印加した際は高周波電力の出力を10Wから30Wの範囲とすることが望ましい。なお、高周波電力を電力量で規定する場合、望ましい高周波電力を50W秒から150W秒の範囲であるということも可能である。
【0049】
[高周波電力の印加時間依存性]
次に、高周波電力の印加時間依存性について実験した。表2の条件のうち、第2のエッチングステップ(RF-bias ON)607の高周波電力の印加時間を3sから11sに変更しプラズマ処理を行った。
図10は、高周波電力の印加時間を3sから11sまで変化させた場合のエッチング量差を示す図である。ここでは、第2サイクル605において、第2のエッチングステップ(RF-bias ON)607と第3のエッチングステップ(RF-bias OFF)608の合計時間を一定にしながら高周波電力の印加時間を3s、5s、7s、9s、11sと変化させ実験を行った。例えば、合計時間を63.5sに設定して、ステップ607の印加時間が3sのときステップ608は60.5s、ステップ607が5sのときステップ608は58.5s、ステップ607が7sのときステップ608は56.5s、ステップ607が9sのときステップ608は54.5s、ステップ607が11sのときステップ608は52.5sとなるようにした。ただし合計時間はこの値に限られるものではない。これは第2の堆積ステップ606の時間に対して、高周波電源がON(ステップ607)とOFF(ステップ608)を合わせたエッチングステップの時間割合が変わると、その影響もエッチング量に生じることから、エッチングステップの合計時間は一定にして高周波電源の印加時間の変化の影響をより良好に把握するためである。
【0050】
高周波電力の印加時間を3sから5sに変更するとトレンチ深さ方向に対してのエッチング量差は4.17nmから3.89nmに減少し、最小値を示した。5sから11sと長くするとエッチング量差は増加し、11sの時に最大値5.25nmをとる。高周波電力の印加時間が5sから9sでは、トレンチ深さ方向に対してのエッチング量差が4nm以下を満たした。以上から、高周波電力を20Wで印加した際は、印加時間を5sから9sの範囲とすることが望ましいことが分かった。なお、高周波電力を電力量で表現する場合、望ましい高周波電力を100W秒から180W秒の範囲であるということも可能である。
【0051】
<作用・効果>
高周波電力の出力依存性と印加時間依存性の実験では、高周波電力の適切な範囲を超えて出力を上げまた印加時間を長くすると、トレンチ深さ方向のエッチング量差が悪化した。この原因について考えると、高周波電力の出力や印加時間が適切な範囲である場合はMB部のエッチャントをB部に引き込む作用が生じている。しかし適切な範囲を超えると、T部からM部の間のエッチャントがMB部に引き込まれる現象も発生する。そうするとMB部のエッチャント量が増加し、B部よりもMB部においてエッチングが進行し易くなり、その結果として、エッチング量差が悪化すると考えられる。
【0052】
[高周波電力の時間変調]
さらなるエッチング量分布改善を行うためにマイクロ波と高周波電力のTM(Time Modulation)化を試みた。マイクロ波と高周波電力のTM化とは、マイクロ波と高周波電力に時間変調された間欠的な高周波電力を用いることである。時間変調された間欠的な高周波電力のON時間(出力する時間)をTON、OFF時間(出力しない時間)をTOFFとした場合、Duty比=TON/(TON+TOFF)と定義する。マイクロ波と高周波電力のTM化の条件は、第2のエッチングステップ(RF-bias ON)607と第3のエッチングステップ(RF-bias OFF)608のマイクロ波を700W、周波数1000Hz、Duty比90%と設定し、第2のエッチングステップ(RF-bias ON)607の高周波電力は周波数1000Hz、Duty比30%で実効パワーが20Wになるように設定した。なお、実効パワーとは、出力とDuty比の積である。その時の第2サイクル605の詳細な条件を表3に示す。
【0053】
【0054】
図11は、高周波電力を時間変調した場合のトレンチの深さとエッチング量の関係を示す図である。エッチング量はMB部で最大値16.03nm、B部で最小値13.06nmとなり、トレンチ深さ方向に対してのエッチング量差
1101は2.97nmとなり改善した。
【0055】
<作用・効果>
マイクロ波がOFFの時間で、エッチャントを供給するCF4ガスなどがトレンチ305内に分散する。その状態でマイクロ波をONにすると、マイクロ波をTM化しない場合と比較して、エッチャントがトレンチ305内に分散して反応する。その結果、トレンチ深さ方向に対してのエッチング量差が改善したと考えられる。
【0056】
[高周波電力の実効パワー依存性]
次にマイクロ波と高周波電力をTM化した状態で、エッチング量分布の実効パワー依存性について実験した。表3の条件のうち、第2のエッチングステップ(RF-bias ON)607の実効パワーが約0Wから約60Wになるように、高周波電力のDuty比を30%としたうえで、高周波電力の出力を0W(実効パワー0W)、33.3W(実効パワー10W)、66.7W(実効パワー20W)、100W(実効パワー30W)、133.3W(実効パワー40W)、166.7W(実効パワー50W)、200W(実効パワー60W)と変化させてプラズマ処理を行った。
図12は、高周波電力の実効パワーを0Wから60Wまで変化させた場合のエッチング量差を示す図である。実効パワーが0Wの際のトレンチ深さ方向に対してのエッチング量差は7.81nmと最大値を示した。実効パワーを0Wから20Wに上昇させるとエッチング量差は減少し、20Wの際に2.97nmとなった。20Wから60Wに上昇させるとエッチング量差は増加し、60Wの際に4.02nmとなった。また、60Wまで積層構造表面のダメージが確認されなかった。このように、高周波電力の出力依存性の観点では出力が10Wから30Wの範囲で良好なエッチング量差が得られたが、高周波電力の実効パワー依存性の観点では10Wから50Wの範囲に拡大した。
【0057】
<作用・効果>
良好な実効パワー範囲が得られた要因としては、高周波電力の時間変調において述べたように、マイクロ波OFF時のエッチャント供給ガスの分散が考えられる。また積層構造表面にダメージが生じない実効パワーの範囲が広がった要因としては、マイクロ波と高周波電力をOFFにする時間を設けたことで積層構造表面の保護膜304とシリコン酸化膜302の上方からのエッチング量を低減できたことが考えられる。以上から、マイクロ波を出力700W、周波数1000Hz、Duty比90%に設定し、高周波電力を周波数1000Hz、Duty比30%に設定した際に実効パワーを10Wから50Wの範囲に設定することが望ましいと分かった。
【0058】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
例えば高周波電源の出力や印加時間、実効パワーなどの好適な範囲は、トレンチ深さ方向に対しての望ましいエッチング量差に応じて適宜調整し、定めることが可能である。
【符号の説明】
【0059】
100…プラズマ処理装置、101…真空容器、102…試料台、103…発振器
104…第一の高周波電源、105…シャワープレート、106…誘電体窓
107…処理室、108…ガス供給装置、109…真空排気口、110…導波管
111…磁場発生用コイル、112…コイルケース
113…ウエハ、114…マッチング回路、115…第二の高周波電源
116…高周波フィルタ、117…直流電源
201…第1サイクル、202…第1の堆積ステップ、
203…第1のエッチングステップ
204…繰り返し判定ステップ
205…第2サイクル、206…第2の堆積ステップ、
207…第2のエッチングステップ(RF-bias OFF)
208…繰り返し判定ステップ、
301…多結晶シリコン、302…シリコン酸化膜、303…タングステン膜
304…保護膜、305…トレンチ
501、801、1101…エッチング量差
601…第1サイクル、602…第1の堆積ステップ
603…第1のエッチングステップ
604…繰り返し判定ステップ、
605…第2サイクル、606…第2の堆積ステップ
607…第2のエッチングステップ(RF-bias ON)
608…第3のエッチングステップ(RF-bias OFF)
609…繰り返し判定ステップ