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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】プラズマ処理方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3065 20060101AFI20240604BHJP
【FI】
H01L21/302 105A
H01L21/302 104C
H01L21/302 101D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023534360
(86)(22)【出願日】2022-06-15
(86)【国際出願番号】 JP2022023881
(87)【国際公開番号】W WO2023242977
(87)【国際公開日】2023-12-21
【審査請求日】2023-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】今井 雅也
(72)【発明者】
【氏名】松井 都
(72)【発明者】
【氏名】塩田 貴支
(72)【発明者】
【氏名】高崎 晃一
(72)【発明者】
【氏名】桑原 謙一
【審査官】原島 啓一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2022/0068661(US,A1)
【文献】特開2019-169627(JP,A)
【文献】特開2004-259927(JP,A)
【文献】特開2005-314713(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
H01L 21/28-21/288
H01L 21/302
H01L 21/329
H01L 21/44-21/445
H01L 21/461
H01L 29/40-29/49
H01L 29/872
C23F 1/00-4/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマによりルテニウム膜をエッチングするプラズマ処理方法において、
酸素ガスとハロゲンガスの混合ガスを用いて生成されたプラズマにより前記ルテニウム膜をエッチングする第一の工程と、
前記第一の工程後、ハロゲンガスを用いて生成されたプラズマによって生成されたラジカルにより、エッチングされたルテニウム膜の側壁にルテニウム化合物を形成する第二の工程と、
前記第二の工程後、酸素ガスとハロゲンガスの混合ガスを用いて生成されたプラズマによりルテニウム膜をエッチングする第三の工程と、
前記第三の工程後、酸素ガスとハロゲンガスの混合ガスを用いて生成されたプラズマによって生成された酸素ラジカルおよびハロゲンラジカルにより、エッチングされたルテニウム膜の側壁をエッチングする第四の工程と、を有し、
エッチングされたルテニウム膜の深さが所定の深さとなるまで前記第二の工程ないし前記第四の工程を繰り返すことを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載のプラズマ処理方法において、
前記第四の工程後、前記ルテニウム化合物を金属ルテニウムに還元処理する第五の工程をさらに有することを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項3】
請求項1に記載のプラズマ処理方法において、
前記ハロゲンガスは、塩素ガス、臭化水素ガスまたは塩素ガスと臭化水素ガスの混合ガスであることを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項4】
請求項1に記載のプラズマ処理方法において、
前記第三の工程における、前記ルテニウム膜が成膜された試料が載置される試料台に供給される高周波電力は、エッチングされたルテニウムの底面に形成されたルテニウム化合物をエッチングするのに必要な電力値の高周波電力であることを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項5】
請求項1に記載のプラズマ処理方法において、
前記第四の工程により、エッチング形状の寸法が所望の寸法となるようにエッチング条件が調整されることを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項6】
請求項1に記載のプラズマ処理方法において、
前記第四の工程により、前記ルテニウム膜が成膜された試料の面内におけるエッチングレートおよび前記試料の面内におけるエッチング形状の寸法が均一となるように前記試料の面内における温度分布が調整されることを特徴とするプラズマ処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はプラズマエッチング処理方法係り、特にルテニウムパターン膜のパターン形状を精密に制御する工程を含むプラズマ処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス構造の微細化と三次元化に伴い、配線金属としてルテニウムの応用が検討されている。ルテニウムパターン膜は、酸素ガスとハロゲンガスを含む混合ガスを使用したプラズマエッチングによって作製できる。このとき、垂直方向へのエッチング工程において、図1(a)のようなサイドエッチングによるボーイングが発生し、図1(b)のように側壁が垂直な理想的なパターンを形成できないという問題がある。ここで、図1において、図1(a)はパターンエッチングにより形成されるボーイングの説明図であり、図1(b)は理想的な垂直パターンの説明図である。また、図1(a)および図1(b)において、30はパターンマスク、31はルテニウムパターン膜、32は下地膜、33はイオンを示している。
【0003】
特開2019-169627号公報(特許文献1)では、ルテニウムのエッチングレートの面内ばらつきを抑制することを目的とし、酸素含有ガスを用いたプラズマ処理と塩素含有ガスを用いたプラズマ処理を交互に繰り返すエッチング法について、開示している。
【0004】
また、特開2019-186322号公報(特許文献2)では、図2に示すように、ルテニウムパターン膜31に対してタングステン等のルテニウムとは異なる金属、あるいは酸化物や窒化物に由来する前駆体ガスを照射することで側壁保護膜41を形成する。そして、酸素と塩素の混合ガスでプラズマエッチングを実施することで、サイドエッチングを抑制しながらルテニウムパターン膜31を形成する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-169627号公報
【文献】特開2019-186322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、サイドエッチングを抑制するために、ルテニウムパターンの側壁を保護しながらエッチングする技術が重要となっている。
【0007】
特許文献1では、酸素含有ガスを用いたプラズマ処理と塩素含有ガスを用いたプラズマ処理を交互に繰り返すことで、ルテニウム平坦膜のエッチングレートの面内ばらつきを抑制するエッチング法について、開示されている。この方法では、酸素含有ガスを用いたプラズマをルテニウム表面と反応させて不揮発性の二酸化ルテニウム(RuO)を形成させることによって、ウエハ面内に一様な酸化膜を形成し、次に、塩素含有ガスを二酸化ルテニウム表面と反応させて揮発性のルテニウム酸塩化物を生成してエッチングを行っている。従って、この手法を用いてルテニウムのパターンを加工する場合には、側壁においても、酸化された二酸化ルテニウムに塩素含有ガスを用いたプラズマが反応することによってエッチングが進むため、ルテニウムパターン膜のサイドエッチングは抑制できず、パターン形成工程には適用できない。
【0008】
特許文献2では、特許文献1に記載の方法と前駆体ガスによる保護膜形成工程を併用することで、パターンエッチングを実現する方法について、開示している。特許文献2に記載の方法では、前駆体ガスによる保護膜形成、および、側壁保護膜の除去工程を導入するために、ルテニウムのエッチングに使用する酸素やハロゲンガス以外のガスをルテニウムパターン膜に照射する必要がある。また、側壁保護膜形成後に実施する酸素含有ガスによるプラズマ処理工程では、ルテニウム表面に飽和吸着した塩素とプラズマから照射された酸素とをルテニウムと反応させてルテニウムをエッチングする。そして、塩素含有ガスによるプラズマ処理工程では、ルテニウム表面に飽和吸着した酸素とプラズマから照射した塩素とをルテニウムと反応させてルテニウムをエッチングする。このため、側壁を保護する保護膜として、ルテニウム以外の元素を含む物質をパターン側壁に形成する必要があった。
【0009】
しかし、上記の保護膜除去工程で除去しきれなかった側壁保護膜は、ルテニウムパターンの表面を汚染する要因になる。ルテニウムは微細化された半導体デバイスの配線金属として応用され、その導電性が重要であることを考慮すると、ルテニウムパターン表面の不純物汚染は避ける必要がある。
【0010】
本開示では、従来法よりも単純なプロセスで、かつパターン表面の不純物汚染を抑えながら側壁保護膜の形成と除去工程とを実施し、ボーイング形成等を抑制して所望の断面形状にルテニウムパターンを加工することが可能な技術を提供することにある。その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示のうち代表的なものの概要を簡単に説明すれば下記の通りである。
【0012】
本開示に係る一態様によれば、
プラズマによりルテニウム膜をエッチングするプラズマ処理方法において、
酸素ガスとハロゲンガスの混合ガスを用いて生成されたプラズマにより前記ルテニウム膜をエッチングする第一の工程と、
前記第一の工程後、ハロゲンガスを用いて生成されたプラズマによって生成されたラジカルにより、エッチングされたルテニウム膜の側壁にルテニウム化合物を形成する第二の工程と、
前記第二の工程後、酸素ガスとハロゲンガスの混合ガスを用いて生成されたプラズマによりルテニウム膜をエッチングする第三の工程と、
前記第三の工程後、酸素ガスとハロゲンガスの混合ガスを用いて生成されたプラズマによって生成された酸素ラジカルおよびハロゲンラジカルにより、エッチングされたルテニウム膜の側壁をエッチングする第四の工程とを有し、
エッチングされたルテニウム膜の深さが所定の深さとなるまで前記第二の工程ないし前記第四の工程を繰り返す、プラズマ処理方法の技術が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本開示のプラズマ処理方法によれば、単純なプロセスで、かつパターン表面の不純物汚染を抑えながら側壁保護膜の形成と除去工程とを実施し、ボーイング形成等を抑制して所望の断面形状にルテニウムパターンを加工することが可能である。具体的には、ハロゲンガスを用いて不揮発性ルテニウム化合物由来の側壁保護膜の形成(第二の工程)、垂直加工(第三の工程)とパターン形状の制御(第四の工程)をサイクルステップで実施する。その結果、パターン寸法を精密に制御した垂直なルテニウムパターンを、表面の不純物汚染を抑制しながら、高スループットで生産できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】パターンエッチングで形成されるボーイングと理想的な垂直パターンの説明図であり、図1(a)はパターンエッチングにより形成されるボーイングの説明図、図1(b)は理想的な垂直パターンの説明図。
図2】従来方法で形成される保護膜の課題の説明図。
図3】本実施例のルテニウムパターンをエッチング方法のプロセスフロー図。
図4】本実施例のルテニウムエッチングする方法のプロセスフローの一例を説明するパターン断面図。
図5】本実施例のプラズマ処理装置の内部構造の一例の説明図。
図6】本実施例のプラズマ処理装置の内部構造の他の一例の説明図であり、図6(a)はECR面がイオンシールディングプレートに対して下側に位置する場合を示す説明図、図6(b)はECR面がイオンシールディングプレートに対して上側に位置する場合を示す説明図。
図7】酸素と塩素の混合ガスを用いたプラズマでエッチングした場合のルテニウム膜のエッチングレートのガス混合比依存性の説明図。
図8】酸素90%と塩素10%を含む混合ガスを用いたプラズマに含まれるラジカルをルテニウム膜に照射した場合のエッチングレートの温度依存性の説明図。
図9】本実施例のルテニウムパターンをエッチングする他の一例のプロセスフロー図。
図10】ルテニウムエッチングで生成すると予想されるルテニウム化合物の一例と、その融点と沸点を明記した表を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図面を用いて詳細に説明する。なお、全ての図において、同一の機能を有するものは同一の符号を付け、その繰り返しの説明は省略する場合がある。なお、図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本開示の解釈を限定するものではない。
【実施例
【0016】
図3は、本実施例のルテニウムパターンをエッチング方法のプロセスフロー図である。図4は、本実施例のルテニウムエッチングする方法のプロセスフローの一例を説明するパターン断面図である。図3は一実施形態に係る処理方法を示すフローチャートであり、各工程におけるパターンの構造を図4に示す。
【0017】
以下の例では、ハロゲンガスとして塩素を使用した場合のエッチング法について記載する。ルテニウム31はシリコン等の下地膜32の上に製膜されており、パターン溝形成部以外の領域はマスク30で覆われている。マスク30の材料としては、例えば、ルテニウム31に対するエッチング選択比が低い酸化シリコンや窒化シリコン、窒化チタンなどを適用できる。
【0018】
図5は、本実施例のプラズマ処理装置の内部構造の一例の説明図である。本実施例のエッチングは、例えば、プラズマ処理装置としてのマイクロ波電子サイクロトロン共鳴(M-ECR:Microwave-Electron Cyclotron Resonance Plasma Etcher)装置によって実施することができる。図5には、M-ECR装置(以後、装置Iと呼ぶ)の構成図が示されている。装置Iの筐体105の内部には、プラズマを生成するための電磁コイル101、マイクロ波源103と円形導波管102とが設置されている。エッチャントガスから生成したプラズマ104にはラジカル111およびイオン112が含まれ、試料台である温度調節ステージ114に載置された試料100としての半導体ウエハ(基板ともいう)の主面(表面)上に形成されたルテニウム膜113に照射される。ステージ114にはバイアス電源115が接続されており、印加バイアスを制御することでエッチングに使用するイオン112の入射エネルギーを調整することができる。
【0019】
図6は、本実施例のプラズマ処理装置の内部構造の他の一例の説明図であり、図6(a)はECR面がイオンシールディングプレートに対して下側に位置する場合を示す図でありし、図6(b)は、ECR面がイオンシールディングプレートに対して上側に位置する場合を示す図である。図6には他のプラズマ処理装置(以後、装置IIと呼ぶ)の構成図を示す。装置IIでは、一例として、図5のM-ECR装置Iに加え、筐体105の内部にイオンシールディングプレート106が設置されている。イオンシールディングプレート106は、プラズマ(ECR面)104中のラジカル111を通過させ、イオン112を通過させないという特性をもつ。したがって、ECR面104がイオンシールディングプレート106に対して下側に位置する場合(図6(a))、装置Iと同様に、基板100の主面(表面)上に形成されたルテニウム膜113にはラジカル111とイオン112とを含むプラズマガスが照射される。一方、ECR面104がイオンシールディングプレート106に対して上側に位置する場合(図6(b))、イオンシールディングプレート106を通過したラジカル111を多く含むプラズマが基板100の主面(表面)上に形成されたルテニウム膜113に照射される。つまり、プラズマ104の生成領域の高さを制御することで、プラズマ104中に含まれるラジカル111とイオン112を異方性に照射するモード(第1のエッチングモード:プラズマ照射)と、ラジカル111を等方的に照射するモード(第2のエッチングモード:ラジカル照射)とを、同一チャンバー内で容易に切り替えることができる。
【0020】
本実施例の工程には、異方性エッチングによるパターン形成工程(S1、S3)、パターン表面に対して保護膜を等方的に形成する工程(S2)と、パターン寸法を制御する工程(S4)とが含まれているため、装置IIを用いると、これらの工程を同一チャンバー内で実行できる。
【0021】
図7は、酸素と塩素の混合ガスを用いたプラズマでエッチングした場合のルテニウム膜のエッチングレートのガス混合比依存性の説明図である。縦軸はエッチングレート(nm/min)であり、横軸は酸素と塩素の混合ガスのガス混合比(O2/(Cl2+O2))%である。また、図7において、黒丸はプラズマ照射(第1のエッチングモード)を示し、黒四角はラジカル照射(第2のエッチングモード)を示している。
【0022】
先述した装置IIを使用し、各エッチングモード(第1のエッチングモード、第2のエッチングモード)でルテニウム膜31をエッチングした場合、酸素および塩素の流量比とエッチングレートの関係は図7のようになることを見出した。いずれのエッチングモードにおいても、塩素を微量(10-20%)添加することでルテニウム膜31のエッチングレートが最大になることが確認できる。一般的にドライエッチングは、化学反応によって被エッチング材が低沸点の揮発性化合物に変化することで進行する。
【0023】
図10に示す表1(TAB1)に、酸素と塩素を含むプラズマガスとルテニウムの化学反応で生成するルテニウム化合物の一例と、その融点(℃)および沸点(℃)を示す。
【0024】
二酸化ルテニウム(RuO)は1300℃以上の融点をもち不揮発性であり、エッチング反応の中間体として形成されると予想される。さらに酸化が進んで形成されるRuOは、低沸点で揮発性をもつ。つまり、微量に添加した塩素によってルテニウムの酸化反応速度が上昇し、RuOおよびルテニウム酸塩化物(RuCl)といった揮発性ルテニウム化合物が形成された結果、エッチングが進行すると予想される。またGravesらの研究グループの論文(J. Vac. Sci. Technol. A、2006年、24巻、1-8頁.)によると、10-20%の塩素を含む混合ガスから生成されるプラズマガスには、ClOラジカルやCl 、ClO イオンが多く含まれるため、これらの化学種がルテニウムの酸化反応を促進すると考えられる。
【0025】
一方、図7から、塩素の流量比が20%より増加するとルテニウムのエッチングレートが減少し、塩素ガスの流量比が100%の場合にはほとんどエッチングが進行しないことが確認できる。ルテニウム表面に塩素プラズマを照射した場合、500℃以上の融点をもつ不揮発性の塩化ルテニウム(RuCl)が生成すると予想される。つまり、塩素を多く含むプラズマガスをルテニウム表面に照射した場合、ルテニウム表面に不揮発性堆膜が形成され、ルテニウムのエッチング反応が阻害されると考えられる。本実施例では、この不揮発性ルテニウム膜をパターンエッチングの側壁保護膜として利用する。
【0026】
まず、装置IIを使用したルテニウムのパターンエッチング方法の一例を記載する(図3、および図4を参照)。図4において、S0,S1,S2,S3,S4,S11,S5、S6は、図3の各工程(S0,S1,S2,S3,S4,S11,S5、S6)における断面図に対応している。
【0027】
最初の工程(S0)では、パターンマスク30が形成される。つまり、ルテニウム31はシリコン等の下地膜32の上に製膜されており、パターン溝形成部以外の領域はマスク30で覆われている。
【0028】
第一の工程(S1:初期パターン作製)でパターンを形成するプロセスでは、ルテニウムパターン31を垂直方向にエッチングするために、試料台114に供給される高周波電力115の電力値として高バイアスを印加した上でプラズマガスを試料100の基板に照射することが望ましい。また、図5より、ラジカルとイオンを両方含むプラズマを照射するモードでは、混合ガス中の酸素と塩素(ハロゲン)の流量比が80%、20%の場合にエッチングレートが最大となるため、この流量比近傍の混合ガスを使用するとルテニウム膜31の垂直エッチングが可能となる。ここで、第一の工程(S1)によるエッチングは、ボーイングが形成される前に停止する必要がある。第一の工程(S1)におけるエッチング時間や印加バイアス、試料100の基板温度は、系統的な実験によってあらかじめ導出した最適値を使用することが望ましい。つまり、第一の工程(S1)は、酸素ガスとハロゲンガスの混合ガスを用いて生成されたプラズマによりルテニウム膜31をエッチングする工程である。ここで、ハロゲンガスは、塩素ガス、臭化水素ガスまたは塩素ガスと臭化水素ガスの混合ガスである。
【0029】
第二の工程(S2:保護膜形成)では、ルテニウムパターン31の側壁および底部に塩素を主成分とするガスから生成されたプラズマガスに含まれるラジカルを等方的に照射するモードを適用し、ルテニウムパターン31の表面を不揮発性の塩化ルテニウム(RuCl)51を含む膜(保護膜)で保護する。ここで、ルテニウム化合物である塩化ルテニウム51の保護膜は、側壁がエッチングされない程度に厚く形成する必要がある。塩化ルテニウム51の膜厚を制御するために、塩素流量や圧力、基板温度を調整してもよい。つまり、第二の工程(S2)は、第一の工程(S1)後、ハロゲンガスを用いて生成されたプラズマによって生成されたラジカルにより、エッチングされたルテニウム膜31の側壁にルテニウム化合物51を形成する工程である。
【0030】
第三の工程(S3:垂直エッチング)ではルテニウムパターン31に対してラジカルとイオンを両方含むプラズマを異方的に照射するモードを適用し、垂直方向にエッチングする。このとき、試料台114から試料100の基板に印加する高周波電力115のバイアスは、ルテニウムパターン31の底部に堆積する塩化ルテニウム51を通過できる程度に大きく設定し、酸素、塩素の流量比が80%、20%近傍の混合ガスを使用する。つまり、試料台114から試料100の基板に印加する高周波電力115の電力値は、エッチングされたルテニウム31の底面に形成されたルテニウム化合物51をエッチングするのに必要な電力値に設定されている。その結果、ルテニウムパターン31の底部に堆積した塩化ルテニウム51の保護膜を効率的に除去できるため、底部のルテニウムが表面に露出する。つまり、第三の工程(S3)は、第二の工程(S2)後、酸素ガスとハロゲンガスの混合ガスを用いて生成されたプラズマによりルテニウム膜31をエッチングする工程である。ここで、第三の工程(S3)における、ルテニウム膜31が成膜された試料100が載置される試料台114に供給される高周波電力115は、エッチングされたルテニウム31の底面に形成されたルテニウム化合物51をエッチングするのに必要な電力値の高周波電力115である。第三の工程(S3)は、第二の工程で側壁に形成した保護膜が除去されない時間、及び、高周波電力115の範囲内で実施される。
【0031】
第四の工程(S4:パターン寸法制御)では、酸素と塩素を含む混合ガスから生成されたプラズマガスに含まれるラジカルを等方的に照射するモードを適用し、塩化ルテニウム51で保護されていないパターン側壁のルテニウム52(図4のS3参照)が垂直となるようにエッチングすることで、パターン寸法を調整する。図7より、ラジカルによるエッチング時は、混合ガス中の酸素と塩素の流量比が90%、10%の場合にエッチングレートが最大となるため、この条件近傍でエッチングすることが望ましい。また、この流量比におけるエッチングレートの温度依存性を図8に示す。図8には、酸素90%と塩素10%を含む混合ガスを用いたプラズマに含まれるラジカルをルテニウム膜に照射した場合のエッチングレートの温度依存性が示されている。縦軸はエッチングレート(nm/min)であり、横軸は基板温度(℃)である。図8からわかるように、ラジカルによるルテニウムエッチングでは、試料100の基板温度が高いほどエッチングレートが上昇する。したがって、ステージ114の面内の温度分布を制御することによって、試料100であるウエハ面内のパターンの寸法のばらつきを無くして均一な寸法のパターンを加工することができる。つまり、第四の工程(S4)は、第三の工程(S3)後、酸素ガスとハロゲンガスの混合ガスを用いて生成されたプラズマによって生成された酸素ラジカルおよびハロゲンラジカルにより、エッチングされたルテニウム膜31の側壁をエッチングする工程である。第四の工程(S4)により、エッチング形状の寸法が所望の寸法となるようにエッチング条件が調整される。また、第四の工程(S4)においては、ルテニウム膜31が成膜された試料100の面内におけるエッチングレートおよび、試料100の面内におけるエッチング形状の寸法が、均一となるように、試料100の面内における温度分布が調整される。
【0032】
第四の工程(S4)後に形成されるルテニウムパターン31の一部には、塩化ルテニウム51で保護されていない領域が存在する。そこで、再び第二の工程(S2)を実施することによって、ルテニウムパターン31の表面を全て塩化ルテニウム51で保護する。このように第二(S2)の工程、第三の工程(S3)および第四(S4)の工程を繰り返して所定の深さに到達したか判断する(S11:所定の深さまで処理を実施したかを判断する)。所定の深さに到達していない場合(No)、第二の工程(S2)へ移行する。所定の深さに到達した場合(Yes)、エッチングを終了して、第五の工程(S5:保護膜の還元除去)へ移行する。
【0033】
ここで、パターン側壁を覆う塩化ルテニウム51は、ルテニウムパターン31の導電性を低下させる可能性がある。そこで第五の工程(S5)では、ルテニウムパターン31表面の塩化ルテニウム51を金属ルテニウムに還元することを目的とし、還元性ラジカルを照射する。例えば、水素ガスを含むガスから生成されたプラズマに含まれる水素ラジカル(H)を塩化ルテニウムに照射すると、
RuCl+3H→Ru+3HCl
の反応が起こるため、パターン表面の塩化ルテニウム51を金属ルテニウムに還元することができる。つまり、第五の工程(S5)は、第四の工程(S4)後、ルテニウム化合物51を金属ルテニウムに還元処理する工程である。第五の工程(S5)が完了すると、ルテニウムのパターンエッチングが終了(S6)となる。
【0034】
本実施例の優位な特徴は、保護膜(51)を形成する第二の工程(S2)にある。図2に示す従来技術では、ルテニウムではない元素(タングステン、シリコン、チタンなど)に由来する保護膜41を形成する。しかし、図2に示す従来技術では、側壁保護膜を形成するための前駆体ガス照射、および保護膜の除去工程を組み込むため、プロセスは複雑化する。また、保護膜41の残渣はパターン表面を汚染する可能性がある。
【0035】
本実施例では、ルテニウムパターン31の表面を不揮発性のルテニウム化合物51に変質することで側壁を保護できる。また、保護膜(51)に水素プラズマなどの還元性ガスを照射することで、容易に金属ルテニウムへ還元できる。本実施例の工程を適用することで、従来技術よりも単純なエッチングプロセスで、かつルテニウム表面の不純物汚染を防ぎながら、断面形状、及び、寸法を精密に制御したルテニウムパターンを作製できる。
【0036】
続いて、装置Iを適用した場合のエッチング法の一例を記載する(図3、および図4を参照)。
【0037】
初期パターンを形成する第一の工程(S1)では、垂直方向にエッチングするためにルテニウムパターン31に対して高周波電力115の電力値として高バイアスを印加する。
【0038】
側壁を保護する第二の工程(S2)では、ルテニウムパターン31の底部だけでなく側壁にも塩化ルテニウム51を形成するために、試料100の基板に対する高周波電力115の電力値である印加電圧を0あるいは低バイアスに設定する。
【0039】
パターンを垂直にエッチングする第三の工程(S3)では、ルテニウムパターン31底部の塩化ルテニウム51を通過できるように、基板に対して高バイアスを印加する。
【0040】
パターン寸法を調整する第四の工程(S4)では、塩化ルテニウムで保護されていないパターン側壁のルテニウム52をエッチングする必要があるため、基板に対する印加電圧を0あるいは低バイアスに設定する。
【0041】
塩化ルテニウム51を金属ルテニウムに還元する第五の工程(S5)は、還元性ラジカルを、側壁を含む全面に対して等方的に照射するため、高周波電力115の電力値である印加電圧を0あるいは低バイアスに設定する。
【0042】
また、上記のエッチング法の例において、ルテニウムパターン31のパターン寸法を測定するために光学式のパターン形状測定装置を設置し、パターンの寸法、膜厚、及び、その他のパターン形状が適正値かどうかを適宜判断する工程(S31:図9を参照)を導入してもよい。図9は、本実施例のルテニウムパターンをエッチングする他の一例のプロセスフロー図である。図9には、この測定法(S31)を適用したプロセスフローの一例が示される。図9において、図7と同一に工程は同一の符号を付しているので、重複する説明は省略する。
【0043】
図7と同様に、最初の工程(S0)、第一の工程(S1)、第二の工程(S2)、第三の工程(S3)を適用した後、インライン分光装置を用いてルテニウムパターン31のパターン寸法を測定する(S31)。パターン寸法が適正値に至らない場合(No)、酸素と塩素を含む混合ガスを用いたエッチングによってパターン寸法を制御する(S4)。インライン分光測定と(S31)とパターン寸法の制御工程(S4)を繰り返し、パターン寸法が適正範囲に至った場合(Yes)、次の工程(S11)に進む。この後は、図7で説明したと同様に、第五の工程(S5)、終了工程(S6)が実施される。
【0044】
以上のプロセスフローを適用することで、パターン寸法を各サイクルエッチング工程で適宜修正できるため、表面平坦性の高いパターン側壁を提供することができる。
【0045】
本実施例では、ハロゲンガスとして、塩素ガスを使用した場合について述べたが、本発明におけるハロゲンガスとして、臭化水素ガス(HBr)、三フッ化窒素ガス(NF)、六フッ化硫黄ガス(SF)、及び、四フッ化メタン(CF)、三フッ化メタン(CHF)等のフロロカーボンガス、ハイドロフロロカーボンガスを用いることもできる。
【0046】
また、本実施例では主に、パターン形状として試料100の基板に対して垂直な形状を加工する場合について記載したが、逆テーパー形状のパターンを形成することも可能である。この場合、第二の工程(S2)において、パターン上部に保護膜を形成し、パターンをエッチングする第三の工程(S3)を実施した後、パターン寸法を調整する第四の工程(S4)において、パターンの横方向へのエッチングを実施することによって、パターンの上部をエッチングすることなく、パターン下部を横方向へエッチングする。
【0047】
なお、本実施例は一例として、ルテニウムパターンをエッチングする場合について述べたが、モリブデン等のメタル材料についても、同様の手法を用いて、パターンの側壁保護を実施してパターンを加工することが可能である。
【0048】
以上、本開示者によってなされた開示を実施例に基づき具体的に説明したが、本開示は前記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0049】
30…パターンマスク、31…ルテニウムパターン膜、32…下地膜、33…イオン、41…前駆体ガスで形成した保護膜、51…不揮発性ルテニウム化合物で形成した保護膜、52…不揮発性ルテニウム化合物で保護されていないパターン側壁のルテニウム、101…電磁コイル、102…円形導波管、103…マイクロ波源、104…ECR面、105…内筒、106…イオンシールディングプレート、111…ラジカル、112…イオン、113…基板、114…温度調節ステージ、115…バイアス電源。
図1
図2
図3
図4
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図6
図7
図8
図9
図10