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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-03
(45)【発行日】2024-06-11
(54)【発明の名称】正極活物質
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20240604BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240604BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023552368
(86)(22)【出願日】2023-08-29
(86)【国際出願番号】 JP2023031249
【審査請求日】2023-08-29
(31)【優先権主張番号】P 2022137698
(32)【優先日】2022-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】滝口(竹元) 毬恵
(72)【発明者】
【氏名】島野 哲
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-006229(JP,A)
【文献】特開2021-177460(JP,A)
【文献】国際公開第2019/017055(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M 10/05-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の元素群1から選ばれる1種以上の元素と、元素群2から選ばれる1種以上の元素とを含有する複合酸化物を含み、下記の要件(1)~()を満たす、リチウム二次電池用正極活物質。
元素群1:Ni、Co、Mn、Fe、Al、及び、P
元素群2:Li、Na、K、Ca、Sr、Ba、及び、Mg
要件(1):前記リチウム二次電池用正極活物質がフッ素、硫黄、及びカリウムを含み、フッ素、硫黄、及びカリウムの総量が0.12~10.0質量%である。
要件(2):前記リチウム二次電池用正極活物質中のカリウムの濃度をCK(質量%)とし、硫黄の濃度をCS(質量%)としたときに、CK/CSが0.0001~2.0である。
要件(3):前記リチウム二次電池用正極活物質中のフッ素の濃度をCF(質量%)、硫黄の濃度をCS(質量%)としたときに、CF/CSが0.0001~20.0である。
要件(4):前記リチウム二次電池用正極活物質が、下式のように表される。
Li 1+a 2+d
ただし、M は、Na、K、Ca、Sr、Ba、及び、Mgからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、M はKを必ず含み、
は、Ni、Co、Mn、Fe、Al、及び、Pからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、
は、Ni、Co、Mn、及び、Fe以外の遷移金属元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、
XはO及びPを除く非金属元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、XはF及びSを必ず含み、
-0.4<a<1.5,0≦b<0.5,0≦c<0.5,-0.5<d<1.5,0≦e<0.5を満たす。
要件(5):前記複合酸化物の結晶構造が層状である。
【請求項2】
はNiを含む、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項3】
はNi、Co、及び、Mnを含む、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウム二次電池の正極活物質として、リチウム等の複数の元素を含有する酸化物が知られている。
例えば、特許文献1~4には、種々の元素を添加して特性を高めることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許6209435号公報
【文献】特開2014-216245号公報
【文献】特表2020-525998号公報
【文献】特許6209435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者らは、電池の特性の1つとして、内部電気抵抗の充電深度依存性に着目した。正極活物質として複合酸化物を用いたリチウム二次電池において、放電が進んだ充電深度が浅い領域で、充電深度の変動に伴って内部抵抗が大きく変動する傾向がある。
電池の使用時には、充電深度の浅い領域で充放電が繰り返されることが多い。充電深度の変化に応じて内部抵抗が大きく変動することは、電池の特性として好ましくない。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、充電深度の浅い領域において、充電深度に応じた内部抵抗の変動を低減できる正極活物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]下記の元素群1から選ばれる1種以上の元素と、元素群2から選ばれる1種以上の元素とを含有する複合酸化物を含み、下記の要件(1)~(3)を満たす、リチウム二次電池用正極活物質。
元素群1:Ni、Co、Mn、Fe、Al、及び、P
元素群2:Li、Na、K、Ca、Sr、Ba、及び、Mg
要件(1):前記リチウム二次電池用正極活物質がフッ素、硫黄、及びカリウムを含み、フッ素、硫黄、及びカリウムの総量が0.12~10.0質量%である。
要件(2):前記リチウム二次電池用正極活物質中のカリウムの濃度をCK(質量%)とし、硫黄の濃度をCS(質量%)としたときに、CK/CSが0.0001~2.0である。
要件(3):前記リチウム二次電池用正極活物質中のフッ素の濃度をCF(質量%)、硫黄の濃度をCS(質量%)としたときに、CF/CSが0.0001~20.0である。
【0007】
[2]前記リチウム二次電池用正極活物質が、下式のように表される[1]に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
Li1+a 2+d
ただし、Mは、Na、K、Ca、Sr、Ba、及び、Mgからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、MはKを必ず含み、
は、Ni、Co、Mn、Fe、Al、及び、Pからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、
は、Ni、Co、Mn、及び、Fe以外の遷移金属元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、
XはO及びPを除く非金属元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、XはF及びSを必ず含み、
-0.4<a<1.5,0≦b<0.5,0≦c<0.5,-0.5<d<1.5,0≦e<0.5を満たす。
【0008】
[3]下記の工程(1)~(3)により得られる、請求項1又は2に記載のリチウム二次電池用正極活物質
工程(1):正極活物質、結着材、及び、電解質を含み、電解質洗浄溶媒との接触により前記電解質の少なくとも一部が除去された電極合材に、カリウム化合物及びナトリウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含有する活性化処理剤を混合する工程
工程(2):得られた混合物を、前記活性化処理剤の溶融開始温度以上の保持温度に加熱して、前記混合物中に含まれる正極活物質を活性化する工程
工程(3):前記加熱後の混合物を、水を含む液体と接触させて固体成分及び液体成分を含むスラリーを得て、その後、前記スラリーを固体成分と液体成分とに分離する工程
【発明の効果】
【0009】
充電深度の浅い領域において、充電深度に応じた内部抵抗の変動を低くすることのできる正極活物質が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<正極活物質>
本発明の実施形態に係る正極活物質について説明する。
本実施形態に係るリチウム二次電池用正極活物質は、下記の元素群1から選ばれる1種以上の元素と、元素群2から選ばれる1種以上の元素とを含有する複合酸化物を含み、下記の要件(1)~(3)を満たす。
元素群1:Ni、Co、Mn、Fe、Al、及び、P
元素群2:Li、Na、K、Ca、Sr、Ba、及び、Mg
要件(1):前記正極活物質がフッ素、硫黄、及びカリウムを含み、フッ素、硫黄、及びカリウムの総量が0.12~10.0質量%である。
要件(2):前記正極活物質中のカリウムの濃度をCK(質量%)とし、硫黄の濃度をCS(質量%)としたときに、CK/CSが0.0001~2.0である。
要件(3):前記正極活物質中のフッ素の濃度をCF(質量%)、硫黄の濃度をCS(質量%)としたときに、CF/CSが0.0001~20.0である。
【0011】
正極活物質における、フッ素、硫黄、及びカリウムの総量は、0.13質量%以上でもよく、0.15質量%以上でもよく、0.2質量%以上でもよく、0.3質量%以上でもよく、7質量%以下でもよく、5質量%以下でもよく、4質量%以下でもよい。
【0012】
正極活物質中のカリウムの濃度をCK(質量%)とし、硫黄の濃度をCS(質量%)としたときに、CK/CSは0.001以上でもよく、0.01以上でもよく、0.03以上でもよく、0.05以上でもよく、0.1以上でもよく、0.2以上でもよく、0.3以上でもよく、1.6以下でもよく、1.4以下でもよく、1.2以下でもよく、1.0以下でもよい。
【0013】
正極活物質中のフッ素の濃度をCF(質量%)、硫黄の濃度をCS(質量%)としたときに、CF/CSは0.001以上でもよく、0.01以上でもでもよく、0.03以上でもよく、0.05以上でもよく、0.1以上でもよく、0.2以上でもよく、0.3以上でもよく、15以下でもよく、10以下でもよく、8以下でもよく、5以下でもよく、4以下でもよく、3以下でもよい。
【0014】
特に、正極活物質がLi1+a 2+d(A式)で表されることが好適である。
ただし、Mは、Na、K、Ca、Sr、Ba及びMgからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、Mは必ずKを含み、MはNi、Co、Mn、Fe、Al、Pからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、MはNi、Co、Mn、及びFe以外の遷移金属元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、XはO及びPを除く非金属元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、XはF及びSを必ず含み、-0.4<a<1.5,0≦b<0.5,0≦c<0.5,-0.5<d<1.5,0≦e<0.5、を満たす。
【0015】
は、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、V、B、Si、Ca、Sr、Ba、Ge、Cr、Sc、Y、La、Ta、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、及びInからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表すことが好ましい。
Xの例は、F及びS以外に、例えば、Cl、Br、I、Se、Te、Nである。
【0016】
の中でも、Niを少なくとも含むことが好ましい。
【0017】
また、MにおけるNiのモル分率は0.3~0.95であることがより好ましい。
【0018】
正極活物質は、複合酸化物の一次粒子の凝集体(二次粒子)であってよい。
正極活物質の粒子径には特に制限はないが、通常、正極活物質の粒子径は0.001~100μm程度である。なお、正極活物質の粒度分布はレーザー回折散乱粒度分布測定装置(例えば、マルバーン社製マスターサイザー2000)を用いて測定できる。得られた粒度分布から、体積基準の累積粒度分布曲線を作成し、微小粒子側から50%累積時の粒子径(D50)の値を粉末の平均粒子径とすることができる。また、正極活物質の一次粒子の粒径は、電子顕微鏡写真において円相当径の算術平均として測定できる。
【0019】
正極活物質における、S,F,Kの存在態様に特に限定はない。S,F,及び、Kは、それぞれ独立に、正極活物質の複合酸化物の一次粒子の内部に均一に存在していてもよいし、一次粒子の表面近傍に偏在していてもよく、二次粒子の表面近傍に偏在していてもよく、一次粒子又は二次粒子の表面を被覆する膜内に存在していてもよい。S,F,及び、Kは、LiとNiとを含む複合酸化物の結晶中に存在してもよい。
【0020】
複合酸化物の結晶構造には、特に制限はないが、層状構造が好ましく、六方晶型または単斜晶型の結晶構造がより好ましい。
【0021】
六方晶型の結晶構造は、P3、P3、P3、R3、P-3、R-3、P312、P321、P312、P321、P312、P321、R32、P3m1、P31m、P3c1、P31c、R3m、R3c、P-31m、P-31c、P-3m1、P-3c1、R-3m、R-3c、P6、P6、P6、P6、P6、P6、P-6、P6/m、P6/m、P622、P622、P622、P622、P622、P622、P6mm、P6cc、P6cm、P6mc、P-6m2、P-6c2、P-62m、P-62c、P6/mmm、P6/mcc、P6/mcmおよびP6/mmcからなる群より選ばれるいずれか一つの空間群に帰属する。
【0022】
単斜晶型の結晶構造は、P2、P2、C2、Pm、Pc、Cm、Cc、P2/m、P2/m、C2/m、P2/c、P2/cおよびC2/cからなる群より選ばれるいずれか一つの空間群に帰属する。
【0023】
さらには、六方晶型の結晶構造に含まれるR-3mまたは単斜晶型の結晶構造に含まれるC2/mの空間群に帰属することが好ましい。
【0024】
なお、正極活物質の結晶構造はCuKα線を線源とする粉末エックス線回折測定により得られる粉末X線回折図形から同定される。
【0025】
本実施形態に係る正極活物質は、電池の正極活物質として使用した場合、充電深度の浅い領域において、充電深度に応じた内部抵抗の変動を低くすることができる。リチウムイオン二次電池においては、正極活物質におけるリチウムイオンの挿入脱離を伴って充電と放電が行われる。この場合、リチウムイオンは正極活物質結晶中でリチウムイオン席と隣り合う酸素Oと強い相互作用を受けることになる。特に充電深度の浅い領域ではリチウムイオン席の占有率が高くことから、リチウムイオンが束縛されやすく、内部抵抗が高くなりやすい。理由は明らかでは無いが、適切な濃度で添加されたK,F,及びSが結晶内部や結晶表面の酸素と相互作用したりすることで酸素とリチウムイオンとの相互作用に影響を及ぼし、リチウムイオンの挿入脱離に伴う内部抵抗を低減できるということが考えられる。
【0026】
(正極活物質の製造方法)
以下、上記の正極活物質の製造方法の一例について説明する。
【0027】
本発明の実施形態に係る正極活物質は、例えば、以下の工程(1)~(3)を含む方法により製造することができる。
工程(1):正極活物質、結着材、及び、電解質を含み、電解質洗浄溶媒との接触により前記電解質の少なくとも一部が除去された電極合材に、カリウム化合物及びナトリウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含有する活性化処理剤を混合する工程
工程(2):得られた混合物を、前記活性化処理剤の溶融開始温度以上の保持温度に加熱して、前記混合物中に含まれる正極活物質を活性化する工程
工程(3):前記加熱後の混合物を、水を含む液体と接触させて固体成分及び液体成分を含むスラリーを得て、その後、前記スラリーを固体成分と液体成分とに分離する工程である。工程(3)で、分離後の液体成分中のカリウム及びナトリウムの合計含有量が2.0質量%以下であり、分離後の固体成分中のカリウム及びナトリウムの合計含有量が1.2質量%以下であることが好適である。
【0028】
以下、本実施形態における各工程について詳細に説明する。
【0029】
工程(1):活性化処理剤混合工程
まず、正極活物質、結着材、及び、電解質を含み、電解質洗浄溶媒との接触により電解質の少なくとも一部が除去された電極合材を準備する。
【0030】
<電解質洗浄溶媒との接触前の電極合材>
接触前の電極合材は、正極活物質、結着材、及び、電解質を含み、正極活物質が結着材により互いに結着されている。電極合材は、さらに、導電材を含んでもよく、その場合、正極活物質及び導電材が互いに結着剤により結着されている。電解質は、電池の電解液に由来して電極合材に含浸される成分である。
【0031】
<正極活物質>
正極活物質の例は、リチウム、酸素、フッ素、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、リン、硫黄、カリウム、カルシウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、イットリウム、ニオブ、モリブデン、銀、インジウム、タングステン、などを構成元素とする複合化合物である。
【0032】
なお、正極活物質は単一の化合物のみからなってもよいし、複数の化合物から構成されていてもよい。
【0033】
好適な正極活物質の例は、下記の元素群1から選ばれる1種以上の元素と、元素群2から選ばれる1種以上の元素とを含有する複合酸化物である。
元素群1:Ni、Co、Mn、Fe、Al、P
元素群2:Li、Na、K、Ca、Sr、Ba、Mg
【0034】
中でも、正極活物質は、以下の化学式で表されることが好適である。
【0035】
Li1+a 2+d
ただし、Mは、Na、K、Ca、Sr、Ba、及び、Mgからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、
は、Ni、Co、Mn、Fe、Al、及び、Pからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、
は、Ni、Co、Mn、及び、Fe以外の遷移金属元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、
Xは、O及びPを除く非金属元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素を表し、
-0.4<a<1.5,0≦b<0.5,0≦c<0.5,-0.5<d<1.5,0≦e<0.5を満たす。
【0036】
は、Cu、Ti、Mg、Al、W、Mo、Nb、Zn、Sn、Zr、Ga、V、B、Si、Ca、Sr、Ba、Ge、Cr、Sc、Y、La、Ta、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、及びInからなる群から選択されることが好ましい。Xの例は、F、S、Cl、Br、I、Se、Te、Nである。
電解質洗浄溶媒との接触前の段階で、電極合材中の正極活物質がF,S,及びKからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。F,S,及びKからなる群から選択される少なくとも1種の元素が接触前に正極活物質に含まれている場合、各元素の一部または全部が最終的に得られる正極活物質に残ることができる。
【0037】
正極活物質は、LiとNiを少なくとも含む複合酸化物であることが好ましい。
【0038】
また、正極活物質において、MにおけるNiのモル分率は0.3~0.95であることがより好ましい。
【0039】
正極活物質としての上記複合酸化物の結晶構造には、特に制限はないが、好ましい結晶構造として、層状構造が挙げられる。さらに好ましくは、六方晶型または単斜晶型の結晶構造が好ましい。
【0040】
六方晶型の結晶構造は、P3、P3、P3、R3、P-3、R-3、P312、P321、P312、P321、P312、P321、R32、P3m1、P31m、P3c1、P31c、R3m、R3c、P-31m、P-31c、P-3m1、P-3c1、R-3m、R-3c、P6、P6、P6、P6、P6、P6、P-6、P6/m、P6/m、P622、P622、P622、P622、P622、P622、P6mm、P6cc、P6cm、P6mc、P-6m2、P-6c2、P-62m、P-62c、P6/mmm、P6/mcc、P6/mcmおよびP6/mmcからなる群より選ばれるいずれか一つの空間群に帰属する。
【0041】
単斜晶型の結晶構造は、P2、P2、C2、Pm、Pc、Cm、Cc、P2/m、P2/m、C2/m、P2/c、P2/cおよびC2/cからなる群より選ばれるいずれか一つの空間群に帰属する。
【0042】
さらには、六方晶型の結晶構造に含まれるR-3mまたは単斜晶型の結晶構造に含まれるC2/mの空間群に帰属することが好ましい。
【0043】
電極合材中の正極活物質の粒子径には特に制限はない。通常、0.001~100μm程度である。
【0044】
<導電材>
導電材の例は、金属粒子等の金属系導電材、及び、炭素材料からなる炭素系導電材である。
【0045】
炭素系導電材の例は、具体的には黒鉛粉末、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック)および繊維状炭素材料(例えば黒鉛化炭素繊維、カーボンナノチューブ)である。
【0046】
炭素系導電材は、単一の炭素材料でもよいし、複数の炭素材料から構成されていてもよい。
【0047】
また、炭素系導電材として用いられる炭素材料の比表面積は、通常0.1~500m/gであることができる。
【0048】
その場合、導電材は30m/g以上の炭素系導電材のみからなることができ、30m/g以上のカーボンブラックであってもよく、30m/g以上のアセチレンブラックであってもよい。
【0049】
なお、後述する酸化力のあるアルカリ金属化合物を含む活性化処理剤を用いる場合、炭素系導電材の酸化処理の速度を高めることができ、比表面積が小さい炭素材料であっても酸化処理することができる場合がある。
【0050】
<結着材>
電極合材に含まれる結着材(加熱前結着材)の例は、熱可塑性樹脂であり、具体的には、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVdFということがある。)、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEということがある。)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体および四フッ化エチレン・パーフルオロビニルエーテル系共重合体などのフッ素樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂;スチレンブタジエン共重合体(以下、SBRということがある。);が挙げられ、これらの二種以上の混合物であってもよい。結着材がFを含む場合、結着剤由来のFの少なくとも一部が最終的に得られる正極活物質に残ることができる。
【0051】
電極合材中の正極活物質、導電材及び結着材の配合量に特段の限定はない。結着材の配合量は、正極活物質100重量部に対し、0.5~30重量部であることができ、1~5重量部であってもよい。導電材の配合量は、0であってもよいが、正極活物質100重量部に対し、0~50重量部であることができ、1~10重量部であってもよい。
【0052】
<電解質>
電解質の例は、LiPF、LiBF、LiClO、LiN(SOCF、LiN(SOF)、LiCFSOである。電解質がFを含有する場合、電解質由来のFの少なくとも一部が最終的に得られる正極活物質に残ることができる。電極合材に含まれる電解質の量に限定はないが0.0005~7質量%であることができる。
【0053】
電極合材は、電解液に由来する溶媒を含んでいてもよい。溶媒の例は、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートである。
【0054】
このような電極合材は、集電体と電極合材層とを有する廃電極から電極合材を分離して回収することにより得ることができる。
【0055】
「廃電極」とは、廃棄された電池から回収された電極、及び、電極及び電池の製造の過程で発生する電極の廃棄物であることができる。廃棄された電池は、使用済みの電池であってもよく、未使用であるが規格外品の電池であってもよい。また、電極の廃棄物は、電池の製造工程で発生する電極の端部、及び、規格外品の電極であることができる。また、電極合材製造工程で生じる、集電体に貼り付けられていない電極合材の廃棄品を用いることもできる。
【0056】
電極は、アルミニウム箔及び銅箔などの金属箔である集電体と、当該集電体上に設けられた電極合材層とを有する。電極合材層は、集電体の片面に設けられてもよく、両面に設けられていてもよい。
【0057】
電極合材層と集電体とを有する電極から電極合材から分離する方法としては、集電体から電極合材層を機械的に剥離する方法(例えば、集電体から電極合材を掻き落とす方法)、電極合材層と集電体との界面に溶剤を浸透させて集電体から電極合材層を剥離する方法、アルカリ性もしくは酸性の水溶液を用いて、集電体を溶解して電極合材層を分離する方法などがある。好ましくは、集電体から電極合材層を機械的に剥離する方法である。
【0058】
(電極合材の洗浄工程)
つづいて、準備した電極合材に対して、電解質洗浄溶媒を接触させて、電極合材から電解質の少なくとも一部を除去する。具体的には、正極活物質、結着材、及び、電解質を含む電極合材を、電解質洗浄溶媒と接触させて固体成分と液体成分とを含むスラリーを得て、その後、得られたスラリーを固体成分と液体成分とに分離する。
【0059】
固液分離とは、スラリーを液体成分と固体成分とに分離する工程である。固液分離の方法としては、従来公知の方法でよく、例えば、ろ過や遠心分離法が挙げられる。
【0060】
電解質洗浄溶媒に特に限定はない。例えば、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート等の炭酸エステル類;水;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類が挙げられる。
【0061】
電極合材に対して電解質洗浄溶媒を接触させることは、公知の粉体と液体との接触装置、例えば、攪拌槽等で行うことができる。
【0062】
電極合材を電解質洗浄溶媒と接触させる工程において、スラリー濃度、すなわち、スラリーの体積に対する固体成分の濃度が3~2000g/Lであることが好適である。
【0063】
電極合材を電解質洗浄溶媒と接触させる工程において、電極合材と電解質洗浄溶媒とを攪拌してスラリーを得ることが好適である。攪拌翼の先端の周速は0.1~1.0m/sとすることができる。
【0064】
接触方法に特に限定はないが、以下の(4)工程により行うことが好適である。
【0065】
工程(4)
工程(1)の電解質の少なくとも一部が除去された電極合材を得る工程であって、正極活物質、結着材、及び、電解質を含む電極合材を、電解質洗浄溶媒と接触させて固体成分と液体成分とを含むスラリーを得て、その後、得られたスラリーを固体成分と液体成分とに分離する工程であり、分離後の液体成分中のP量が0.0020~2.0質量%、F量が0.01~7.0質量%であり、かつ、分離後の固体成分中に残存するP量が0.7質量%以下である。
【0066】
電極合材の洗浄工程において、固液分離した後、得られた固体成分のリンスを実施してもよい。リンスとは、得られた固体成分に再び電解質洗浄溶媒を接触させてスラリーを得て、その後、スラリーを再び固体成分と液体成分とに分離する操作である。電極合材の洗浄では、リンスを複数回実施してもよい。リンスにおけるスラリー濃度も上記と同様にすることができる。リンスにおいても、上述のようにスラリーの攪拌を行うことができる。
【0067】
電極合材の洗浄工程において、固体成分と液体成分との接触時間が、1分間以上25時間未満であることも好適である。電極合材の洗浄工程における固体成分と液体成分との接触時間とは、電極合材と電解質洗浄溶媒とが接触している時間である。例えば、リンスを行わない場合には、固体成分と液体成分との接触時間は、電解質を含む電極合材(固体成分)と、電解質洗浄溶媒との接触を開始してから、スラリーを固体成分及び液体成分に固液分離する操作が完了するまでに要した時間Aである。リンスを行う場合には、固体成分と液体成分との接触時間は、上記の時間Aと、各リンスの工程において、分離後の固体成分と、電解質洗浄溶媒との接触を開始してから、固体成分と液体成分との固液分離が完了するまでに要した時間Bとの和である。固液分離をろ過で行う場合には、固液分離の完了時刻は、ろ過の終了時刻となる。
【0068】
上記の工程(4)では、固液分離後の液体成分中のP量が0.0020~2.0質量%、F量が0.01~7.0質量%であり、かつ、固液分離後の固体成分中に残存するP量が0.7質量%以下である。
【0069】
固液分離後の液体成分中のPの量及びFの量、及び、固液分離後の固体成分中のPの量が高すぎないことにより、電極合材から電解質を十分に除去できる。例えば、電解質が残っていると以下の反応が起こり、正極活物質の構造が層状岩塩構造からスピネル構造に変化してしまう。
LiPF+16LiMO+2O→6LiF+LiPO+8LiM
また、活性化剤として炭酸リチウムを含む場合、以下の反応によるリチウムの消費も起こる。
LiPF+4LiCO→6LiF+LiPO+4CO
一方、固液分離後の液体成分中のPの量及びFの量が低すぎないことにより、過度な洗浄による正極活物質の劣化が抑制される。
【0070】
なお、1又は複数回のリンス工程を行う場合には、最初の固液分離で得られた液体成分と、その後の1又は複数回のリンスの固液分離で得られた液体成分とを、すべて混合した合計液体成分におけるP及びFの含有量が、順に0.0020~2.0質量%、及び、0.01~7.0質量%を満たす。1又は複数回のリンス工程を行う場合には、最後の固液分離で得られた固体成分におけるPの含有量が0.7質量%以下を満たす。また、洗浄を連続式で行う場合には、装置から連続的に排出される液体成分に対するP及びFの含有量が上記の範囲に入ればよい。
【0071】
また、リンスを行わない場合、及び、1又は複数回のリンスを行う場合のいずれにおいても、電極合材の洗浄において、最後の固液分離で得られた液体成分におけるPの含有量は2.0質量%以下、および、Fの含有量は7.0質量%以下に入ることが好適であり、Pの含有量は0.0020質量%以上、Fの含有量が0.01質量%以上であることも好適である。また、洗浄を連続式で行う場合には、装置から排出される液体成分に対するP量およびF量が順に0.0020~2.0質量%、及び、0.01~7.0質量%の範囲に入ればよい。
【0072】
固液分離後の固体成分中に残存するP量は0.0001質量%以上であってもよい。固液分離後の固体成分中に残存するF量は、3.5質量%以下とすることができ、0.0001質量%以上であってもよい。
【0073】
分離された固体成分は、必要に応じて、減圧及び/または加熱により溶媒の乾燥を行うことができる。加熱温度は、50~200℃とすることができる。
【0074】
(電解質の少なくとも一部が除去された電極合材と活性化処理剤との混合)
次に、準備した電解質の除去後の電極合材に、カリウム化合物及びナトリウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含有する活性化処理剤を混合して混合物を得る。
【0075】
電極合材と活性化処理剤との混合方法は、乾式混合または湿式混合のいずれでもよく、これらの混合方法の組み合わせでもよく、その混合順序も特に制限されない。
【0076】
混合の際には、ボールなどの混合メディアを備えた混合装置を用いて、粉砕混合する工程を経ることが好ましく、これにより混合効率を向上させることができる。
【0077】
混合方法としては、より簡便に混合が行える点で乾式混合が好ましい。乾式混合においては、V型混合機、W型混合機、リボン混合機、ドラムミキサー、攪拌翼を内部に備えた粉体混合機、ボールミル、振動ミルまたはこれらの装置の組み合わせを用いることができる。
【0078】
乾式混合に用いる混合装置としては、攪拌翼を内部に備えた粉体混合機が好ましく、具体的には、レーディゲミキサー(株式会社マツボー製)を挙げることができる。
【0079】
以下、本工程で使用される活性化処理剤について詳細に説明する。
【0080】
<活性化処理剤>
活性化処理剤は、カリウム化合物及びナトリウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含有する。活性化処理剤がカリウムを含む場合、活性化処理剤由来のKが最終的に得られる正極活物質に残ることができる。電極合材中の正極活物質がKを含まない場合には、活性化処理剤はカリウム化合物を含む必要がある。一方、電極合材中の正極活物質がKを含む場合には、活性化処理剤はカリウム化合物を含まなくてもよい。ここで、カリウムおよび/又はナトリウムをアルカリ金属元素Xとよぶことがある。活性化処理剤は、カリウム化合物及びナトリウム化合物以外に、Liなどの他のアルカリ金属を含むアルカリ金属化合物を含有してもよい。
【0081】
活性化処理剤が正極活物質と接触すると、正極活物質を活性化させることができる。活性化処理剤におけるアルカリ金属化合物が特に溶融部分を含む場合には、該溶融部分と正極活物質との接触性が向上することで、正極活物質の活性化がより促進される。
【0082】
また、電極合材は、結着材及び/又は電解液に由来してフッ素を含む化合物を含むことがあるが、該フッ素を含む化合物と活性化処理剤とを接触させることで、フッ素成分がアルカリ金属フッ化物として安定化するため、フッ化水素などの腐食性ガスが発生することを抑制することができる。なお、フッ化水素は正極活物質の活性を落とすことからも発生を防止することが望ましい。
【0083】
活性化処理剤における全アルカリ金属化合物の割合は、アルカリ金属化合物の種類や、対象となる正極活物質の種類等に考慮して適宜設定されるが、活性化処理剤全重量に対して、通常、50重量%以上、好ましくは70重量%以上(100重量%含む)である。
アルカリ金属化合物中に含まれるアルカリ金属のうちカリウム及びナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ金属の濃度は、0~100モル%で任意に調整できるが、好ましくは10モル%以上、より好ましくは20モル%以上であり、好ましくは90モル%以下であり、より好ましくは80モル%以下である。
アルカリ金属化合物中に含まれるアルカリ金属のうちカリウムの濃度は、0~100モル%で任意に調整できるが、好ましくは10モル%以上、より好ましくは20モル%以上であり、好ましくは90モル%以下であり、より好ましくは80モル%以下である。
【0084】
活性化処理剤の成分となるアルカリ金属化合物としては、アルカリ金属の、水酸化物、ホウ酸塩、炭酸塩、酸化物、過酸化物、超酸化物、硝酸塩、リン酸塩、硫酸塩、塩化物、バナジウム酸塩、臭酸塩、モリブデン酸塩、タングステン酸塩が挙げられる。これらは活性化処理剤の成分として、単独でも複数を組み合わせて使用することができる。
【0085】
好適なアルカリ金属化合物の具体例としては、LiOH、NaOH、KOH、RbOH、CsOH等の水酸化物;
LiBO、NaBO、KBO、RbBO、CsBO等のホウ酸化物;
LiCO、NaCO、KCO、RbCO、CsCO等の炭酸塩;
LiO、NaO、KO、RbO、CsO等の酸化物;
Li、Na、K、Rb、Cs等の過酸化物;
LiO、NaO、KO、RbO、CsO等の超酸化物;
LiNO、NaNO、KNO、RbNO、CsNO等の硝酸塩;
LiPO、NaPO、KPO、RbPO、CsPO等のリン酸塩;
LiSO、NaSO、KSO、RbSO、CsSO等の硫酸塩;
LiCl、NaCl、KCl、RbCl、CsCl等の塩化物;
LiBr、NaBr、KBr、RbBr、CsBr等の臭化物;
LiVO、NaVO、KVO、RbVO、CsVO等のバナジウム酸塩;
LiMoO、NaMoO、KMoO、RbMoO、CsMoO等のモリブデン酸塩;
LiWO、NaWO、KWO、RbWO、CsWO等のタングステン酸塩;が挙げられる。
アルカリ金属化合物がLiSO、KSO等のアルカリ金属硫酸塩を含むと、最終的に得られる正極活物質にSを添加することができる。
【0086】
ここで、より正極活物質の活性化効果を高めるため、活性化処理剤は、カリウム化合物及びナトリウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物以外に、電極合材中の正極活物質に含まれるアルカリ金属元素と同一のアルカリ金属元素を含むことができる。
【0087】
すなわち、電極合材中の正極活物質がリチウム複合酸化物の場合には、活性化処理剤は、カリウム化合物及びナトリウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物以外に、リチウム化合物を含むことが好適である。好適なリチウム化合物としては、LiOH、LiBO、LiCO、LiO、Li、LiO、LiNO、LiPO、LiSO、LiCl、LiVO、LiBr、LiMoO、LiWOが挙げられる。
【0088】
活性化処理剤は、必要に応じてアルカリ金属化合物以外の化合物を含んでいてもよい。アルカリ金属化合物以外の化合物として、例えば、マグネシウム、カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属元素を含有するアルカリ土類金属化合物が挙げられる。アルカリ土類金属化合物は、活性化処理剤の溶融開始温度をコントロールする目的で、アルカリ金属化合物と共に活性化処理剤中に含有される。
【0089】
また、活性化処理剤中のアルカリ金属化合物以外の化合物の含有量は、上述の溶融したアルカリ金属化合物に由来する効果を著しく抑制しない範囲で選択され、活性化処理剤全重量の50重量%未満であることができる。
【0090】
電極合材及び活性化処理剤の混合物中における活性化処理剤の添加量は、電極合材が含む正極活物質の重量に対して、0.001~100倍であることが好ましく、より好ましくは、0.05~1倍である。
【0091】
電極合材及び活性化処理剤の混合物における活性化処理剤中のアルカリ金属化合物のモル数は、電極合材が含む正極活物質(例えばA式)のモル数を1としたときに、アルカリ金属元素のモル数が0.001~200倍となるように添加することができる。
【0092】
混合物中の活性化処理剤の割合を適切に制御することで、電極合材からの正極活物質の回収にかかる費用を低減できることができ、炭素系導電材や結着材の酸化分解処理速度を高めることができる。また、加熱工程における腐食性ガスの発生を防止する効果を向上させることができ、さらには得られる正極活物質を用いて製造される電池の放電容量をより高めることができる。
【0093】
また、活性化処理剤に含有されるアルカリ金属化合物の少なくとも1種が、水に溶解させた場合にアルカリ性を示すアルカリ金属化合物であることが好ましい。このようなアルカリ金属化合物を含む活性化処理剤は、純水に溶解した際に、該溶液のpHが7よりも大きくなる。以下、このような活性化処理剤を「アルカリ性の活性化処理剤」と称す場合がある。
【0094】
アルカリ性の活性化処理剤を使用することにより、加熱工程における腐食性ガスの発生をより抑制することができるため、回収される正極活物質を用いて製造される電池の放電容量をより高めることができる。また、アルカリ性の活性化処理剤を使用することにより、炭素系導電材や結着材の処理速度を高めることもできる。
【0095】
アルカリ性の活性化処理剤に含まれる水に溶解させた場合にアルカリ性を示すアルカリ金属化合物としては、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、酸化物、過酸化物、超酸化物が挙げられる。具体的には、LiOH、NaOH、KOH、RbOH、CsOH;LiCO、NaCO、KCO、RbCO、CsCO;LiHCO、NaHCO、KHCO、RbHCO、CsHCO;LiO、NaO、KO、RbO、CsO;Li、Na、K、Rb、Cs;LiO、NaO、KO、RbO、CsO;が挙げられる。これらは、1種又は2種以上を活性化処理剤に含ませてもよい。
【0096】
また、電極合材に含まれる導電材が、炭素系導電材である場合には、活性化処理剤に含有されるアルカリ金属化合物の少なくとも1種が、加熱工程の温度において、炭素系導電材を酸化分解する酸化力を有するアルカリ金属化合物であってもよい。なお、このようなアルカリ金属化合物を含有する活性化処理剤を、以下、「酸化力を有する活性化処理剤」と称す場合がある。
【0097】
このような酸化力を有する活性化処理剤を用いると、炭素材料である導電材の二酸化炭素へ酸化を促進し、炭化水素材料である結着材の二酸化炭素と水蒸気へと酸化を促進することに特に効果を発揮し、得られる正極活物質を用いて製造される電池の放電容量をより高めることができ、さらに加熱工程における腐食性ガスの発生を防止する効果を向上させることができる場合がある。
【0098】
炭素系導電材および炭化水素を二酸化炭素と水蒸気へと酸化するために必要な酸化力を有するアルカリ金属化合物としては、アルカリ金属の過酸化物、超酸化物、硝酸塩、硫酸塩、バナジウム酸塩、モリブデン酸塩を挙げられる。これらは、1種あるいは2種以上を混合して使用してもよい。
【0099】
具体的には、Li、Na、K、Rb、Cs;LiO、NaO、KO、RbO、CsO;LiNO、NaNO、KNO、RbNO、CsNO;LiSO、NaSO、KSO、RbSO、CsSO;LiVO、NaVO、KVO、RbVO、CsVO;LiMoO、NaMoO、KMoO、RbMoO、CsMoO;が挙げられる。
【0100】
これらのアルカリ金属化合物の酸化力の詳細については、特開2012-186150号公報に記載されている。
【0101】
工程(2):加熱工程
加熱工程は、工程(1)にて得られた混合物(以下、「加熱前の混合物」と呼ぶ場合がある。)を、活性化処理剤の溶融開始温度以上の温度に加熱する工程である。本加熱工程で得られた混合物を「加熱後の混合物」と呼ぶことがある。
【0102】
なお、「活性化処理剤の溶融開始温度(Tmp)」は、活性化処理剤の一部が液相を呈する最も低い温度を意味する。
【0103】
活性化処理剤の溶融開始温度(Tmp)は、示差熱測定(DTA)により求めた値である。すなわち、加熱前の混合物5mgを示差熱測定(DTA,測定条件:昇温速度:10℃/min)にて、DTAシグナルが吸熱のピークを示す温度を溶融開始温度(Tmp)とする。
【0104】
活性化処理剤の溶融開始温度(Tmp)は、700℃以下であることが好ましく、600℃以下であることがより好ましい。活性化処理剤の溶融開始温度(Tmp)に下限はないが、例えば、150℃であってもよい。
【0105】
また、活性化処理剤の融点は、活性化処理剤のみを加熱したときに、活性化処理剤の一部が液相を呈する最も低い温度を意味する。電極合材と活性化処理剤とを混合することで、活性化処理剤の溶融開始温度(Tmp)は、活性化処理剤の融点より低くなる。
【0106】
活性化処理剤の融点は、示差熱測定(DTA)により求めた値である。具体的には、当該活性化処理剤5mgを示差熱測定(DTA,測定条件:昇温速度:10℃/min)にて、DTAシグナルが吸熱のピークを示す温度を活性化処理剤の融点とする。
【0107】
加熱における雰囲気に特に限定はなく、空気などの酸素含有ガス、窒素、アルゴン、二酸化炭素であってよい。雰囲気の圧力に特に限定はないが、大気圧とすることができるが、減圧雰囲気でもよく、加圧雰囲気でもよい。
【0108】
工程(2)では、上述のように加熱前の混合物を活性化処理剤の溶融開始温度(Tmp)以上の温度に加熱することにより、以下の作用が生じる。
【0109】
融解状態の活性化処理剤が正極活物質と接触することにより、正極活物質の結晶構造の劣化を抑制することができる。また、場合によっては、結晶構造の修復作用を得ることもできる。
【0110】
融解状態の活性化処理剤が炭素系導電材や結着材と接触することにより導電材及び結着材の酸化分解の速度が向上し、さらに、融解状態の活性化処理剤が結着材及び電解液に由来するフッ素化合物と接触することにより、フッ素成分がアルカリ金属フッ化物として安定化され、腐食性ガスであるフッ化水素の発生を防止し、正極活物質の結晶構造の劣化が抑制される。
【0111】
さらに、活性化処理剤が、正極活物質と同じアルカリ金属を含有する場合には、正極活物質に対して不足するアルカリ金属を供給することも可能となる。
【0112】
加熱工程の温度及び、当該温度における保持時間は、電極合材を構成する正極活物質、導電材、結着材、および活性化処理剤に含有されるアルカリ金属化合物やその他の化合物におけるそれぞれの種類や組み合わせにより適宜調節することができる。通常、温度は100~1500℃の範囲であり、保持時間は、10分~24時間程度である。
【0113】
加熱工程の温度は、活性化処理剤が含有するアルカリ金属化合物の融点よりも高い温度であることが好ましい。なお、アルカリ金属化合物の融点は複数種の化合物を混合することで、各化合物の単体の融点よりも下がることがある。活性化処理剤が2種以上のアルカリ金属化合物を含む場合には、共晶点をアルカリ金属化合物の融点とする。
【0114】
加熱工程後には、必要に応じて、混合物を、例えば、室温程度など、任意の温度にまで冷却することができる。
【0115】
工程(3):固液分離工程(アルカリ金属除去)
工程(3)は、加熱後の混合物を、水を含む液体と接触させて固体成分及び液体成分を含むスラリーを得て、その後、スラリーを固体成分と液体成分とに分離する工程である。分離後の液体成分中のカリウムおよびナトリウムの合計含有量が2.0質量%以下であり、分離後の固体成分中のカリウムおよびナトリウムの合計含有量が1.2質量%以下であることが好適である。
【0116】
加熱後の混合物には、正極活物質の他、活性化処理剤に由来する成分(アルカリ金属化合物等)、未分解の導電材や結着材、その他の電極合材の未分解物が含まれる。また、電極合材にフッ素成分を含有する電解液が含まれている場合には、電解質に由来するフッ素成分を含む場合もある。
【0117】
加熱後の混合物から正極活物質を分離回収するために、該混合物に水を含む液体を加えてスラリー化させた後に固液分離して、固体成分と液体成分とに分離する。
【0118】
スラリー化工程に用いる液体は、水を含む限り特に制限はない。液体における水の量は50質量%以上であってよい。水溶性成分の溶解度を高めたり、処理速度を高めたりするために液体に水以外の成分を添加して、pHを調整してもよい。
水を含む液体の好適例としては、純水やアルカリ性洗浄液があげられる。アルカリ性洗浄液としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム及び炭酸アンモニウムからなる群より選ばれる1種以上の無水物並びにその水和物の水溶液を挙げることができる。また、アルカリとして、アンモニアを使用することもできる。
【0119】
得られるスラリーは、正極活物質を主として含む固体成分と、正極活物質以外の水溶性成分を含む液体成分とを含む。なお、液体成分には、活性化処理剤に由来するアルカリ金属成分、及び/又は、結着材及び電解液に由来するフッ素成分が含まれる。
【0120】
混合物に添加される液体の量は、混合物に含まれる正極活物質と、正極活物質以外の水溶性成分のそれぞれの量を考慮して適宜決定される。
【0121】
工程(3)において、スラリー濃度、すなわち、スラリーの体積に対する固体成分の濃度が12~1000g/Lとなるように、加熱後の混合物と水を含む液体とを接触させることが好適である。
【0122】
工程(3)において、加熱後の混合物と前記水を含む液体とを攪拌してスラリーを得ることが好適である。これにより、水溶性成分の溶解が促進される。攪拌翼の先端の周速は0.1~0.9m/sとすることが好ましい。
【0123】
スラリー化工程で形成されたスラリーは、次いで、固液分離に供される。固液分離とは、スラリーを液体成分と固体成分とに分離する工程である。固液分離の方法としては、従来公知の方法でよく、例えば、ろ過や遠心分離法が挙げられる。
【0124】
工程(3)において、固液分離した後、得られた固体成分のリンスを実施してもよい。リンスとは、得られた固体成分に再び水を含む液体を接触させてスラリーを得て、その後、スラリーを再び固体成分と液体成分とに分離する操作である。工程(3)では、リンスを複数回実施してもよい。リンスにおけるスラリー濃度も上記と同様にすることができる。リンス倍率は、1~80とすることができる。リンス倍率とは、固体成分の重量に対して添加した水を含む液体の重量の比である。リンスにおいても、上述のようにスラリーの攪拌を行うことができる。
【0125】
工程(3)において、固体成分と液体成分との接触時間が、4分間以上24時間未満であることが好適である。工程(3)における固体成分と液体成分との接触時間とは、正極活物質と水を含む液体とが接触している時間である。例えば、リンスを行わない場合には、固体成分と液体成分との接触時間は、は、加熱後の混合物などの固体成分と、水を含む液体との接触を開始してから、スラリーを固体成分及び液体成分に固液分離する操作が完了するまでに要した時間Cである。リンスを行う場合には、固体成分と液体成分との接触時間は、上記の時間Cと、各リンスの工程において、分離後の固体成分と、水を含む液体との接触を開始してから、固体成分と液体成分との固液分離が完了するまでに要した時間Dとの和である。固液分離をろ過で行う場合には、固液分離の完了時刻は、ろ過の終了時刻となる。
【0126】
本実施形態では、固液分離により得られた液体成分中のカリウム及びナトリウムの合計含有量が2.0質量%以下であり、固液分離により得られた固体成分中のカリウム及びナトリウムの合計含有量が1.2質量%以下であることが好適である。
固液分離後の液体成分中のカリウム及びナトリウムの合計含有量、及び、固体成分中のカリウム及びナトリウムの合計含有量が高すぎないことにより、電極合材からのアルカリ金属成分を十分に除去できる。
【0127】
なお、1又は複数回のリンス工程を行う場合には、最初の固液分離で得られた液体成分と、その後の1又は複数回のリンスの固液分離で得られた液体成分とを、すべて混合した合計液体成分におけるカリウム及びナトリウムの合計含有量が、上記を満たす。1又は複数回のリンス工程を行う場合には、最後の固液分離で得られた固体成分におけるカリウム及びナトリウムの合計含有量が上記を満たす。また、洗浄を連続式で行う場合には、装置から連続的に排出される液体成分に対するカリウム及びナトリウムの合計含有量が上記の範囲に入ればよい。また、リンスを行わない場合、及び、1又は複数回のリンスを行う場合のいずれにおいても、電極合材の洗浄において、最後の固液分離で得られた液体成分におけるカリウム及びナトリウムの合計含有量は2.0質量%以下であることが好適である。
【0128】
分離された固体成分中のカリウム及びナトリウムの合計含有量の下限は0.001質量%であってよい。
【0129】
本発明の実施形態に係る正極活物質は、さらに以下の工程(5)及び/又は工程(6)を含む方法により製造することができる。
【0130】
工程(5):乾燥工程
工程(5)は、工程(3)で得られた固体成分を加熱及び/又は減圧環境に曝して固体成分から水を除去する工程である。ここでは、スラリーを固体成分と液体成分とに分離してから24時間以内に、固体成分が存在する環境気圧に対する、固体成分の温度における飽和水蒸気圧の比が80%以上となるように、環境気圧及び/又は固体成分の温度を変更することが好適である。
固体成分が存在する環境気圧に対する、固体成分の温度における飽和水蒸気圧の比が80%以上にすれば、固体成分から十分に水が除去される条件となる。
【0131】
このように、スラリーを液体成分と固体成分とに分離してから、24時間以内にこのような条件に到達させることにより、固体成分が湿潤環境にさらされる時間を短くし、これにより、正極活物質の劣化を抑制できる。
【0132】
具体的には、例えば、湿潤環境下では以下の反応が進行しうる。
2LiMO+HO→2LiOH+M
【0133】
また、空気中など二酸化炭素を含有する湿潤環境下では以下の反応も進行しうる。
2LiMO+CO→LiCO+M
【0134】
具体的には、減圧のみによって固体成分から十分に水が除去される条件に到達させてもよく、加熱のみによって固体成分から十分に水が除去される条件に到達させてもよく、加熱及び減圧によって固体成分から十分に水が除去される条件に到達させてもよい。
【0135】
固体成分が存在する環境気圧に対する、固体成分の温度における飽和水蒸気圧の比が80%以上となるまでの時間は、固体成分が存在する環境圧力と、固体成分の温度とをモニタすることにより測定できる。具体的には、例えば、乾燥器に設けられた圧力計及び湿度計等のセンサを利用すればよい。
【0136】
加熱の温度としては工程(3)で用いた液体に含まれる水を除去するために100℃以上が好ましい。さらに十分に水を除去するために150℃以上とすることが好ましい。特に250℃以上の温度では、得られる正極活物質を用いて製造される電池の放電容量がさらに高まることから好ましい。乾燥工程における温度は、一定でもよく、また段階的もしくは連続的に変化させてもよい。加熱の到達温度範囲は、例えば、10℃以上900℃未満であることができる。
【0137】
減圧の到達圧力範囲は、例えば、1.0×10-10~1.0×10Paであることができる。
【0138】
工程(6):アニール(再焼成)工程
工程(6)は、工程(5)後の固体成分を900℃未満で熱処理する工程である。
【0139】
熱処理の雰囲気に限定はないが、空気などの酸素含有雰囲気下であることが好適である。また、熱処理の温度は、100℃以上であることができる。また、熱処理の保持時間は、1分~24時間とすることができる。特に、350℃以上の保持温度にて、0.1時間以上5時間以下で加熱することが好適である。
【0140】
上記の製造方法によれば、上記の正極活物質を得ることができる。
正極活物質中のK、F又はSの量の調節は、それぞれを含む各材料における濃度、洗浄の程度などの調節により行うことができる。
例えば、Kの量については、電極合材中の正極活物質中のK量、活性化処理剤中のK量、及び、工程(3)の条件の調節により制御できる。
Fの量については、電極合材中の正極活物質及び結着剤におけるFの量、工程(4)の条件の調節により制御できる。
Sの量については、電極合材中の正極活物質におけるSの量、活性化処理剤中のSの量、工程(3)の条件の調節により制御できる。
なお、本発明の実施形態に係る正極活物質は、上記の方法以外の方法よっても製造されうる。
【0141】
最終的に得られる、本発明の実施形態に係る正極活物質の放電容量は、150mAh/g以上であることができる。
【実施例
【0142】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0143】
正極活物質の物性の測定、該正極活物質を正極活物質として用いた電池による充放電試験は、次のようにして行った。
【0144】
(1)元素の含有量
溶液、及び、粉末を溶解させた酸溶液について、ICP発光分析装置(例えばエスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、SPS3000)を用いて該溶液及び該粉末中に含まれるアルカリ金属元素の含有量の分析を行った。
【0145】
(2)充放電試験
1.電極(正極)の製造
正極活物質の放電容量の測定のために、下記の手順に従って電極(正極)を製造した。
【0146】
各正極活物質と、結着材(PVdF#1100(株式会社クレハ社製))と、導電材(アセチレンブラック(電気化学工業株式会社製、品番:デンカブラック HS100)とを、正極活物質:結着材:導電材の重量比がそれぞれ92:3:5となるように混合した。ここで結着材であるPVdFは、予めPVdFをNMPに溶解したバインダー溶液を用いた。正極合材ペースト中の正極活物質と導電材と結着材の重量の合計が50重量%となるようにNMPを添加して調整した。自転・公転方式ミキサー(株式会社シンキー製 ARE-310)で混練して、正極合材ペーストを製造した。
【0147】
なお、バインダー溶液としては、結着材であるPVdFを溶解したNMP溶液を使用し、正極合材ペースト中の正極活物質と導電材とバインダーの重量の合計が50重量%となるようにNMPを添加して調整した。
【0148】
正極合材ペーストを集電体となる厚さ20μmのリチウム二次電池正極集電体用アルミニウム箔1085(日本製箔社製)に、正極活物質量が3.0±0.1mg/cmとなるように塗布した後、150℃で8時間真空乾燥して、正極を得た。この正極の電極面積は1.65cmとした。
【0149】
2.電池の製造
上述の正極と、電解液と、セパレータと、負極とを組み合わせて、非水電解質二次電池(コイン型電池R2032)を製造した。なお、電池の組み立てはアルゴン雰囲気のグローブボックス内で行った。
【0150】
電解液としては、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートの30:35:35(体積比)混合液に、LiPFを1.0mol/Lとなる割合で溶解した溶液を用いた。
【0151】
セパレータとしてポリエチレン製多孔質フィルムの上に、耐熱多孔層を積層した積層フィルムセパレータを使用した。また、負極として金属リチウムを使用した。
【0152】
3.充放電試験
製造したコイン型電池を用いて、25℃保持下で、以下のようにして、初回充放電後、内部抵抗のSOC依存性を測定した。
【0153】
・初回充放電
充電最大電圧:4.3V、充電電流:0.2C、定電流定電圧充電
放電最小電圧:2.5V、放電電流:0.2C、定電流放電
【0154】
・定電流充放電による正極活物質のSOC制御
初回の充放電試験を実施した後に、定電流充電と定電流放電により正極活物質のSOCを制御し、所定の充電深度SOCにおける内部抵抗を交流インピーダンス法で測定した。
SOCの制御は次に説明するように実施した。組成Li1.04Ni0.60Co0.20Mn0.20(分子量97.1g/mol、理論容量276.0mAh/g)の定格容量を160mAh/gとした。初回の充放電試験を実施した後に、所定の充電深度SOCになるように0.2C電流で充電した。
【0155】
・交流インピーダンス法による内部抵抗測定
電気化学測定装置(Biologic社製 VSP-3e電気化学測定システム)を用いて、交流インピーダンス法により所定の充電深度SOCにおける内部抵抗を測定した。
振幅電圧:10mV
周波数範囲:1MHz~0.1Hz
交流インピーダンスで得られたデータより、縦軸に虚数部、横軸に実数部を示すコール-コールプロットを作成した。コール-コールプロットにおいて、周波数10Hz~1Hzに含まれる円弧部分を、インピーダンス解析ソフト(ZView)を用いてフィッティングし、円弧が実数軸と交わる2点の値の差を内部抵抗Rctとした。
【0156】
(内部抵抗のSOC依存性)
充電深度20%(SOC=20%)及び充電深度50%(SOC=50%)における交流インピーダンス法による内部抵抗をそれぞれR(SOC20%)及びR(SOC50%)としたときに、内部抵抗のSOC依存性を以下の式で定義される。
内部抵抗のSOC依存性=R(SOC20%)/R(SOC50%)
内部抵抗のSOC依存性が小さいことは、電池の充放電に伴うSOC変化に対する内部抵抗の変化が小さいことを示し、電池の制御の観点で好ましい。
【0157】
(実施例1)
A.正極Aの製造
正極活物質としては、組成がLi1.04Ni0.60Co0.20Mn0.20であり、結晶構造がR-3mである正極活物質を用いた。この正極活物質の定格容量は160mAh/g、1C電流は160mA/gとした。この正極活物質(未使用活物質)を正極活物質として用いたコイン型電池による充放電試験で測定された0.2C初回放電容量は183mAh/gであった。
【0158】
導電材としては、アセチレンブラックHS100(電気化学工業株式会社製)を使用した。
【0159】
結着材と溶媒としては、結着材であるPVdF#1100を12重量%含むNMP溶液(株式会社クレハ製)にさらにNMP溶媒を追加投入して所定の比率とした。
【0160】
正極合材における正極活物質と、結着剤と、導電材との質量比は、92:3:5とした。溶媒の配合量は、正極合材ペースト全体に対して50質量%とした。
【0161】
正極合材ペーストを厚さ20μmのリチウムイオン2次電池正極集電体用アルミニウム箔1085(日本製箔社製)上に,ドクターブレード方式コーターを用いて塗工し、乾燥し、正極Aを得た。アルミニウム箔上の正極活物質量は20mg/cmであった。
【0162】
B.正極Aからの電極合材の回収
正極Aから、電極合材を集電体から機械的に剥離した。
【0163】
C.電解液浸漬工程
剥離した電極合材を粉砕して粉末化した。電極合材の粉末にスラリー濃度が1500g/Lとなるよう電解液を加えてスラリー化した。ここで電解液としては、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートの30:35:35(体積比)混合液に、電解質としてLiPFを1.0mol/Lとなる割合で溶解した溶液を用いた。電極合材のスラリーを最大流速0.550m/secで1分間攪拌した。その後、該スラリーをろ過することで固相を分離し、さらに固相を24時間減圧乾燥することで、電解質含有電極合材を得た。なお、電解液浸漬工程はアルゴン雰囲気のグローブボックス内で行った
【0164】
D.電解質含有電極合材の洗浄工程(工程(4)に対応)
得られた電解質含有電極合材に、電解質洗浄溶媒として水をスラリー濃度が5g/Lとなるよう加えてスラリー化し、攪拌翼の先端の周速を0.942m/sとして1437分間攪拌した後、該スラリーを3分間かけてろ過することで、固体成分と液体成分とに分離した。すなわち、固体成分と液体成分との接触時間を1440分すなわち24時間とした。分離後の液体成分中のP量が0.0059質量%、F量が0.024質量%であり、かつ、分離後の固体成分中に残存するP量が0.0050質量%未満であった。
得られた固体成分を100℃で1時間減圧乾燥し、洗浄後の電極合材を回収した。
【0165】
E.活性化処理剤混合工程(工程(1)に対応)
洗浄後電極合材に、活性化処理剤としてLiCOとKSOを、電極合材中の正極活物質1モルに対して0.15モルと0.15モルとなるよう混合して混合物(加熱前の混合物)を得た。活性化処理剤の溶融開始温度は550℃であった。
【0166】
F.加熱工程(工程(2)に対応)
得られた加熱前の混合物をアルミナ製焼成容器に入れて電気炉に設置した。大気圧下、該混合物を保持温度700℃、保持時間3時間で活性化処理した。加熱速度は300℃/時間とし、室温までの冷却は自然冷却とした。室温まで冷却された後に、加熱後の混合物を回収した。
【0167】
G.アルカリ金属の除去工程(工程(3)の水洗及び固液分離に対応)
加熱後の混合物を粉砕し、水を加えて1分間攪拌して20g/Lの濃度でスラリー化した。その後、該スラリーを3分間かけてろ過することで、固体成分と液体成分とに分離した。水との接触時間は4分となった。スラリー濃度、水との接触時間、攪拌翼の先端の周速(最大流速)を表1に示す。
【0168】
H.正極活物質の乾燥工程(工程(5)に対応)
得られた固体成分を100℃で1時間減圧乾燥した。スラリーを固体成分と液体成分とに分離してから、固体成分が存在する環境気圧に対する、固体成分の温度における水の飽和水蒸気圧の比が80%に到達するのに要した時間は20分であった。
【0169】
乾燥後の固体成分、及び、液体成分について、ICP元素分析を実施した。アルカリ金属元素Xの種類、固体成分中のアルカリ金属元素Xの量、液体成分のLi量及びアルカリ金属元素X量を表1に示す。
【0170】
I.正極活物質の再焼成工程(工程(6)に対応)
回収した水洗後正極活物質を、アルミナ製焼成容器に入れて電気炉に設置した。大気圧下、該混合物を保持温度700℃、保持時間1時間で加熱した。加熱速度は300℃/時間とし、室温までの冷却は自然冷却とした。室温まで冷却された後に、再活性化正極活物質を回収した。
【0171】
回収された再活性化正極活物質について、ICP元素分析を実施した。再活性化正極活物質中の元素の量を表1に示す。
【0172】
回収された再活性化正極活物質について、コイン型電池を製造し、定電流充放電によるΔLi制御を実施した後に、所定のΔLiで内部抵抗を測定し、内部抵抗のΔLi依存性を取得した。
【0173】
(実施例2、3)
実施例2、3では、Gのアルカリ金属の除去工程においてスラリー濃度を、それぞれ200g/L、333g/Lの濃度に変更する以外は実施例1と同様とした。
【0174】
(実施例4)
実施例4では、Gのアルカリ金属の除去工程において、加熱後の混合物を粉砕し、水を加えて20分間攪拌してスラリー化し、該スラリーを3分間かけてろ過器でろ過し、その後、ろ過器上の固体に対して水で2回のリンスを各回3分かけて行い、水との接触時間を29分に変更した。Gのアルカリ金属の除去工程以外は実施例1と同様とした。リンスとは、ろ過器上でろ過後の固体残渣に対して再度水を供給してろ過することである。
リンス倍率も表1に示す。リンス倍率とは、固体成分の重量に対して添加した水を含む液体の重量の比である。
【0175】
(実施例5)
実施例5では、Gのアルカリ金属の除去工程において、水を加えて5分攪拌してスラリー化し、その後、該スラリーを3分間かけてろ過器でろ過した、その後、ろ過器上の固体に対して水で2回のリンスを各回3分かけて行い、水との接触時間を14分に変更した以外は実施例1と同様とした。
【0176】
(実施例6)
実施例5では、Gのアルカリ金属の除去工程において、スラリー濃度を10g/Lにする以外は実施例1と同様とした。
【0177】
(実施例7)
実施例6では、Gのアルカリ金属の除去工程において、スラリー化での攪拌時間を約24時間とし、及び、攪拌翼先端周速を0.942m/sに変更する以外は実施例5と同様とした。
【0178】
(比較例1)
比較例1では、「A.正極Aの製造」の工程で製造した正極Aに対して、B以降の行程を一切行うことなく電池を製造して内部抵抗のΔLi依存性の測定を行った。
【0179】
(比較例2)
比較例2では、Gのアルカリ金属の除去工程を行わない以外は実施例1と同様とした。
【0180】
(比較例3)
比較例3では、Gのアルカリ金属の除去工程において、加熱後の混合物を粉砕し、0.5分間かけて水を加えて攪拌することなくスラリー化し、その後、該スラリーを3分間かけてろ過することで水との接触時間を3.5分に変更した以外は実施例2と同様とした。
【0181】
(比較例4)
比較例4では、Dの電極合材の洗浄を行わない以外は実施例1と同様とした。
【0182】
(比較例5)
比較例5では、Gのアルカリ金属の除去工程において、スラリー濃度を1250g/Lにする以外は実施例1と同様とした。
【0183】
各実施例及び比較例の正極活物質における、K,F,Sの量、及び、内部抵抗のΔLi依存性を表1及び表2に示す。
【0184】
【表1】
【0185】
【表2】
【0186】
K,F,及びSの量が所定の範囲内の実施例1~7では、比較例1~5に比べて、内部抵抗のSOC依存性が抑えられた。なお、比較例2では、0.2C放電時において所定のSOCに達する前に制御の下限電圧(2.0V)に到達してしまったためにSOCの制御が不可であった。また、比較例4では、0.2C充電時において160mAh/gの充電容量に達する前に上限電圧(4.6V)に到達したことによりSOCの制御が不可であった。

【要約】
リチウム二次電池用正極活物質は、下記の元素群1から選ばれる1種以上の元素と、元素群2から選ばれる1種以上の元素とを含有する複合酸化物を含み、下記の要件(1)~(3)を満たす。
元素群1:Ni、Co、Mn、Fe、Al、及び、P
元素群2:Li、Na、K、Ca、Sr、Ba、及び、Mg
要件(1):活物質がフッ素、硫黄、及びカリウムを含み、フッ素、硫黄、及びカリウムの総量が0.12~10.0質量%である。
要件(2):活物質中のカリウムの濃度をCK(質量%)とし、硫黄の濃度をCS(質量%)としたときに、CK/CSが0.0001~2.0である。
要件(3):活物質中のフッ素の濃度をCF(質量%)、硫黄の濃度をCS(質量%)としたときに、CF/CSが0.0001~20.0である。