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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-04
(45)【発行日】2024-06-12
(54)【発明の名称】ミトコンドリア機能改善剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/135 20160101AFI20240605BHJP
   A61K 8/00 20060101ALI20240605BHJP
   A61K 8/99 20170101ALI20240605BHJP
   A61Q 90/00 20090101ALI20240605BHJP
   A61K 35/747 20150101ALI20240605BHJP
   A61K 35/744 20150101ALI20240605BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20240605BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20240605BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240605BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240605BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240605BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20240605BHJP
【FI】
A23L33/135
A61K8/00
A61K8/99
A61Q90/00
A61K35/747
A61K35/744
A61P3/00
A61P21/00
A61P25/00
A61P25/28
A61P43/00
A61P43/00 111
C12N1/20 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020549401
(86)(22)【出願日】2019-09-26
(86)【国際出願番号】 JP2019038014
(87)【国際公開番号】W WO2020067368
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2018180969
(32)【優先日】2018-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-02635
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-02634
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(73)【特許権者】
【識別番号】504300181
【氏名又は名称】国立大学法人浜松医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100152331
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 拓
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 孝
(72)【発明者】
【氏名】瀬藤 光利
(72)【発明者】
【氏名】尾▲崎▼ 悟
(72)【発明者】
【氏名】溝口 智奈弥
(72)【発明者】
【氏名】浅見 幸夫
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-519241(JP,A)
【文献】特表2011-519362(JP,A)
【文献】特表2013-507394(JP,A)
【文献】特開2015-096475(JP,A)
【文献】国際公開第2009/050677(WO,A2)
【文献】特開2008-044945(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0244389(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0246082(US,A1)
【文献】UEDA, Takahiro et al.,Effects of Pediococcus acidilactici R037 on Serum Triglyceride Levels in Mice and Rats after Oral Ad,J. Nutr. Sci. Vitaminol.,2018年02月28日,Vol. 64,pp. 41-47
【文献】CHELLIAH, Ramachandran et al.,In vitro and in vivo defensive effect of probiotic LAB against Pseudomonas aeruginosa using Caenorha,Virulence,2018年09月26日,Vol. 9,pp. 1489-1507
【文献】DA SILVA, Stephanie et al.,Stress disrupts intestinal mucus barrier in rats via mucin O-glycosylation shift: prevention by a pr,Am. J. Physiol. Gastrointest. Liver Physiol.,2014年,Vol. 307,pp. G420-G429
【文献】AIT-BELGNAOUI, Afifa et al.,Prevention of gut leakiness by a probiotic treatment leads to attenuated HPA response to an acute ps,Psychoneuroendocrinology,2012年,Vol. 37,pp. 1885-1895
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/135
A61K 8/00
A61K 8/99
A61Q 90/00
A61K 35/747
A61K 35/744
A61P 3/00
A61P 21/00
A61P 25/00
A61P 25/28
A61P 43/00
C12N 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス・ファルシミニス(Lactobacillus farciminis)若しくはペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)に属する乳酸菌、当該乳酸菌の培養物、又は当該乳酸菌の培養上清を含有する、哺乳類に摂取させるための、ミトコンドリア機能改善剤であって、
ラクトバチルス・ファルシミニス(Lactobacillus farciminis)がラクトバチルス・ファルシミニス(Lactobacillus farciminis)OLL204082株(受託番号NITE BP-02635)であり、ペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)がペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)OB7260株(受託番号NITE BP-02634)である、ミトコンドリア機能改善剤
【請求項2】
代謝機能改善用、寿命延長用、老化防止用、運動能力低下改善用、筋力低下抑制用、神経系異常回復用、又は認知機能改善用である、請求項1に記載のミトコンドリア機能改善剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のミトコンドリア機能改善剤を含む、飲食品。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のミトコンドリア機能改善剤を含む、医薬品。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のミトコンドリア機能改善剤を含む、化粧品。
【請求項6】
ミトコンドリアの機能不良又はミトコンドリアの機能不全の対象に投与するための、請求項1又は2に記載のミトコンドリア機能改善剤。
【請求項7】
ラクトバチルス・ファルシミニス(Lactobacillus farciminis)若しくはペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)に属する乳酸菌、当該乳酸菌の培養物、又は当該乳酸菌の培養上清を含有する、哺乳類に摂取させるための、ミトコンドリア機能改善剤(ただし、代謝機能改善用、寿命延長用、老化防止用、運動能力低下改善用、筋力低下抑制用、神経系異常回復用、又は認知機能改善用を除く)であって、
ラクトバチルス・ファルシミニス(Lactobacillus farciminis)がラクトバチルス・ファルシミニス(Lactobacillus farciminis)OLL204082株(受託番号NITE BP-02635)であり、ペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)がペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)OB7260株(受託番号NITE BP-02634)である、ミトコンドリア機能改善剤
【請求項8】
ラクトバチルス・ファルシミニス(Lactobacillus farciminis)OLL204082株(受託番号NITE BP-02635)又はペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)OB7260株(受託番号NITE BP-02634)である乳酸菌。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミトコンドリア機能改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
太古の昔から、不老不死に対する人類の渇望があることは知られている。
不老不死を達成することができないとしても、寿命を延長する方法として、種々の方法が知られている。中でも、乳酸菌等の微生物を有効成分とした寿命延長剤及び老化抑制剤等が知られている。
【0003】
特許文献1には、複数の食経験のある植物を乳酸菌や酵母、麹菌等により発酵させた発酵物が、加齢に伴う様々な老化症状を抑制し、且つ生存率の延長効果を示すことが開示され、また、用いられる発酵物の混合物の一部の発酵物が、乳酸発酵物であってよいことが開示されている。
特許文献2には、リンパ腫浸透度及び炎症介在性遺伝子毒性を修正するための、腸内細菌の使用に関する発明が開示され、特許文献2に開示される組成物及び方法は、ゲノム不安定性に関連する疾患を含む病気の予測、治療及び/又は予防のために、平均余命を延ばすために、及び癌の発症を遅らせるために用いてもよいことも開示されている。
【0004】
特許文献3には、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)に属する乳酸菌を培養して得られる培養物及び/又は菌体を有効成分とする寿命延長剤が開示されている。
特許文献4には、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)に属する乳酸菌を培養して得られる培養物及び/又は菌体を有効成分とする寿命延長剤が開示されている。
特許文献5には、乳酸菌ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ クレモリス(Lactococcus lactis subsp. cremoris)H-61株の発酵代謝物を有効成分として含有することを特徴とする寿命延長剤又は老化抑制剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6013670号
【文献】特表2016-509998号公報
【文献】特開2015-096555号公報
【文献】特許第5765832号
【文献】特開2015-182954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、寿命延長効果を有する新規な飲食品素材又は医薬品素材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行って、新規乳酸菌及び当該乳酸菌の培養物が、ミトコンドリア機能を改善することにより、寿命延長効果を有する飲食品素材又は医薬品素材となり得ることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
(1)ラクトバチルス・ファルシミニス(Lactobacillus farciminis)若しくはペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)に属する乳酸菌、当該乳酸菌の培養物、又は当該乳酸菌の培養上清を含有する、ミトコンドリア機能改善剤。
(2)代謝機能改善用、寿命延長用、老化防止用、運動能力低下改善用、筋力低下抑制用、神経系異常回復用、又は認知機能改善用である、(1)に記載のミトコンドリア機能改善剤。
(3)(1)又は(2)に記載のミトコンドリア機能改善剤を含む、飲食品、サプリメント、医薬品又は化粧品。
(4)ラクトバチルス・ファルシミニス(Lactobacillus farciminis)OLL204082株(受託番号NITE BP-02635)又はペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)OB7260株(受託番号NITE BP-02634)である乳酸菌。
【0009】
また、本発明は、以下の発明を含む。
(5)ラクトバチルス・ファルシミニス(Lactobacillus farciminis)若しくはペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)に属する乳酸菌、当該乳酸菌の培養物、又は当該乳酸菌の培養上清を対象に摂取させる工程を含む、ミトコンドリアの機能を改善させるための方法。
(6)代謝機能改善、寿命延長、老化防止、運動能力低下改善、筋力低下抑制用、神経系異常回復、又は認知機能改善を目的とした、(5)に記載の方法。
(7)ミトコンドリア機能改善剤の製造における、ラクトバチルス・ファルシミニス(Lactobacillus farciminis)若しくはペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)に属する乳酸菌、当該乳酸菌の培養物、又は当該乳酸菌の培養上清の使用。
(8)代謝機能改善、寿命延長、老化防止、運動能力低下改善、筋力低下抑制用、神経系異常回復、又は認知機能改善を目的としたミトコンドリア機能改善剤の製造における、(7)に記載の使用。
(9)ミトコンドリア機能改善剤の製造に使用するための、ラクトバチルス・ファルシミニス(Lactobacillus farciminis)若しくはペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)に属する乳酸菌、当該乳酸菌の培養物、又は当該乳酸菌の培養上清。
(10)代謝機能改善、寿命延長、老化防止、運動能力低下改善、筋力低下抑制用、神経系異常回復、又は認知機能改善を目的としたミトコンドリア機能改善剤の製造に使用するための、(9)に記載の乳酸菌、当該乳酸菌の培養物、又は当該乳酸菌の培養上清。
(11)ミトコンドリアの機能を改善させるためのラクトバチルス・ファルシミニス(Lactobacillus farciminis)若しくはペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)に属する乳酸菌、当該乳酸菌の培養物、又は当該乳酸菌の培養上清。
(12)代謝機能改善、寿命延長、老化防止、運動能力低下改善、筋力低下抑制用、神経系異常回復、又は認知機能改善を目的とした、(11)に記載の乳酸菌、当該乳酸菌の培養物、又は当該乳酸菌の培養上清。
(13)ミトコンドリアの機能を改善させるためのラクトバチルス・ファルシミニス(Lactobacillus farciminis)若しくはペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)に属する乳酸菌、当該乳酸菌の培養物、又は当該乳酸菌の培養上清の使用。
(14)代謝機能改善、寿命延長、老化防止、運動能力低下改善、筋力低下抑制用、神経系異常回復、又は認知機能改善を目的とした、(13)に記載の使用。
(15)上記(5)~(14)の発明においては、ミトコンドリア機能改善剤を、飲食品、サプリメント、医薬品又は化粧品として用いてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、寿命延長効果を有する新規な飲食品素材又は医薬品素材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1における、乳酸菌の培養物の投与による、動物の寿命への影響を示す。生存曲線において縦軸は生存率(%)を、横軸は生後日数を示す。図1A図1Dにおいて、MRS液体培地投与群(Cont (MRS medium))をコントロールとして示し、図1Aは、投与無群(Untreated)、図1Bは、L. farciminis OLL204082株投与群(OLL204082)、図1Cは、P. acidilactici OB7260株投与群(OB7260)、図1Dは、比較例としてのL. reuteri MEP201805株投与群(MEP201805)を示す。
図2】実施例1における、乳酸菌の培養物の投与による、claspingが生じるまでの生後日数を示す。
図3】実施例2における、乳酸菌の培養物の投与による、動物の寿命への影響を示す。生存曲線において縦軸は生存率(基準を1.00とした)を、横軸は生後日数を示す。図3Aにおいて、L. farciminisの各乳酸菌株投与群の結果を示し、図3Bにおいて、P. acidilacticiの各乳酸菌株投与群の結果を示す。
図4】実施例2における、乳酸菌の培養物の投与による、claspingが生じるまでの生後日数を示す。
図5】P. acidilactici OB7260株の培養物の投与による、体重あたりの握力への影響を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0013】
本発明のミトコンドリア機能改善剤は、ラクトバチルス・ファルシミニス(Lactobacillus farciminis)若しくはペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)に属する乳酸菌、当該乳酸菌の培養物、又は当該乳酸菌の培養上清を含有する。
【0014】
本明細書において、本発明のミトコンドリア機能改善剤が、ラクトバチルス・ファルシミニス(Lactobacillus farciminis)又はペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)に属する乳酸菌(以下、本明細書において、総称して、「本発明に係る乳酸菌」と記載する場合がある。)を含有するとは、本発明に係る乳酸菌を含んでいれば特に限定されない。
すなわち、本発明に係る乳酸菌を懸濁液の状態で含んでいてもよく、本発明に係る乳酸菌を単離して含んでいてもよい。
また、本発明に係る乳酸菌を培養した際に得られる培養上清を含んでいてもよい。
【0015】
本発明において、ラクトバチルス・ファルシミニス(Lactobacillus farciminis)又はペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)に属する乳酸菌とは、国際細菌命名規約に従って、ラクトバチルス・ファルシミニス(Lactobacillus farciminis)又はペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)と分類される細菌であれば、特に限定されない。
ラクトバチルス・ファルシミニス(Lactobacillus farciminis)としては、特に限定されないが、例えば、ラクトバチルス・ファルシミニス(Lactobacillus farciminis)OLL204082株が挙げられる。
ペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)としては、特に限定されないが、例えば、ペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)OB7260株が挙げられる。
ラクトバチルス・ファルシミニス(Lactobacillus farciminis)OLL204082及びペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)OB7260は、それぞれ、2018年2月14日付(受託日)で独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センター(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に、各々、受託番号NITE BP-02635、NITE BP-02634として、ブタペスト条約に基づき国際寄託されている乳酸菌である。
【0016】
本明細書において、本発明のミトコンドリア機能改善剤が、ラクトバチルス・ファルシミニス(Lactobacillus farciminis)又はペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)に属する乳酸菌の培養物(以下、本明細書において、総称して、「本発明に係る乳酸菌の培養物」と記載する場合がある。)を含有するとは、本発明に係る乳酸菌の培養物を含んでいれば特に限定されない。
本発明に係る乳酸菌の培養物には、本発明に係る乳酸菌を含んでいてもよく、本発明に係る乳酸菌がろ過、透析、沈殿、遠心分離等の公知の方法により除去されていてもよい。
本発明に係る乳酸菌の培養物に、本発明に係る乳酸菌を含む場合、生菌として含まれていてもよいし、死菌として含まれていてもよい。
また、本発明に係る乳酸菌の培養物には、本発明に係る乳酸菌の培養のための培地成分を含んでいても、一部が除去されていてもよい。
本発明に係る乳酸菌の培養物を、そのまま含有していてもよく、濃縮して含んでいてもよく、液体として含んでいてもよく、固体として含んでいてもよい。
本発明に係る乳酸菌の培養物としては、本発明に係る乳酸菌を培養した際に得られる培養上清であってもよい。本発明のミトコンドリア機能改善剤は、本発明に係る乳酸菌を培養した際に得られる培養上清を含んでいてもよい。
【0017】
本発明において、本発明に係る乳酸菌の培養物は、本発明に係る乳酸菌を培養することで得られる。
本発明に係る乳酸菌を培養するために用いる培地は、特に限定されない。また、本発明に係る乳酸菌の培養方法も、特に限定されない。
【0018】
本発明に係るミトコンドリア機能改善剤は、ミトコンドリア機能が低下した細胞において、ミトコンドリアの機能を改善することにより、細胞を賦活化させることができるため、代謝機能改善、寿命延長、老化防止、運動能力低下改善、筋力低下抑制用、神経系異常回復、及び認知機能改善等の用途において用いることができる。
【0019】
本発明に係る乳酸菌、その培養物、及びその培養上清は、ミトコンドリアの機能を改善させるために用いられてもよい。
本発明は、本発明に係る乳酸菌、その培養物、及びその培養上清を、対象に摂取させて、当該対象におけるミトコンドリアの機能を改善させるための方法であってもよい。
本発明においては、本発明に係る乳酸菌、その培養物、及びその培養上清を、対象に摂取させて、当該対象における代謝機能改善、寿命延長、老化防止、運動能力低下改善、筋力低下抑制用、神経系異常回復、又は認知機能改善を目的として用いられてもよい。
本発明は、本発明に係る乳酸菌、その培養物、及びその培養上清を、対象に摂取させて、当該対象における代謝機能改善、寿命延長、老化防止、運動能力低下改善、筋力低下抑制用、神経系異常回復、又は認知機能改善のための方法であってもよい。
【0020】
本発明は、本発明に係る乳酸菌、その培養物、及びその培養上清を、対象に摂取させて、当該対象におけるミトコンドリアの機能に関連する疾患の治療又は予防方法であってもよい。
ミトコンドリアの機能に関連する疾患としては、代謝機能異常、低寿命、老化、運動能力低下、筋力低下抑制用、神経系異常、及び認知機能低下等が挙げられる。
【0021】
本発明に係るミトコンドリア機能改善剤は、飲食品、サプリメント、医薬品又は化粧品として用いることができる。
飲食品、サプリメント、医薬品又は化粧品は、ヒト用であってもよく、ペットや家畜用であってもよい。
本明細書において、医薬品とは、医薬部外品をも含む概念である。また、本明細書において、化粧品は、本発明に係る乳酸菌、その培養物、及びその培養上清を含む薬用化粧品であってもよい。
【0022】
本発明において、ミトコンドリア機能改善剤は、代謝機能改善、寿命延長、老化防止、運動能力低下改善、筋力低下抑制用、神経系異常回復、及び認知機能改善等の用途に用いられる他の成分と併用するために用いてもよい。
他の成分としては、適宜選択することができる。
【0023】
本発明のミトコンドリア機能改善剤は、化粧品として用いられる場合には、その形態は特に限定されず、乳液、クリーム、水溶液、パック等であってよい。
化粧品組成物には、化粧品に用いられる各種成分を含有していてもよく、各種成分としては、特に限定されないが、例えば、油性成分、乳化剤、保湿剤、増粘剤、薬用成分、防腐剤、顔料、粉体、pH調整剤、紫外線吸収剤、抗酸化剤及び香料等が挙げられ、その配合量も特に限定されない。
【0024】
本発明に係るミトコンドリア機能改善剤が医薬品(医薬部外品を含む)として用いられる場合には、薬剤、医薬製剤及び/又は医薬組成物として、経口的又は非経口的に投与することができる。
経口投与には、錠剤、カプセル、コーティング錠、トローチ、溶液又は懸濁液などの液剤といった既知の投与用剤形を用いることができる。
非経口投与は、注射による静脈内、筋肉内若しくは皮下への投与、粉末、滴剤、スプレー若しくはエアロゾル等を用いた経鼻腔や口腔などの経粘膜投与、クリーム若しくは坐薬等を用いた直腸投与、パッチ、リニメント若しくはゲル等を用いた経皮投与などが挙げられる。
投与経路は、好ましくは、経口投与又は注射による静脈内投与である。
【0025】
本発明に係るミトコンドリア機能改善剤を医薬製剤及び/又は医薬組成物として用いる場合、適宜、投与形態などに応じて、当業者によく知られた適切な薬学的に許容される担体を含んでもよい。
薬学的に許容される担体としては、特に限定されないが、例えば、抗酸化剤、安定剤、防腐剤、矯味剤、着色料、溶解剤、可溶化剤、界面活性剤、乳化剤、消泡剤、粘度調整剤、ゲル化剤、吸収促進剤、分散剤、賦形剤及びpH調整剤等が挙げられる。
【0026】
本発明において、本発明に係る乳酸菌、その培養物、及びその培養上清の投与量及び投与計画は、個々の治療対象毎の所要量、治療方法、疾病又は必要性の程度などに依存して調整してよい。
投与量は、具体的には年齢、体重、一般的健康状態、性別、食事、投与時間、投与方法、排泄速度、薬物の組合せ及び患者の病状等に応じて決めることができ、さらに、その他の要因を考慮して決定してもよい。
本発明に係る乳酸菌、その培養物、及びその培養上清は、所望の効果を発揮し得る上で有効な量で含むことが好ましい。
本発明に係る乳酸菌、その培養物、及びその培養上清の1日の投与量は、対象の状態や体重、化合物の種類、投与経路等によって異なるが、非経口投与の場合は、通常、約0.01~1000mg/人/日、好ましくは0.1~500mg/人/日であり、また、経口投与の場合は、通常、約0.01~5000mg/人/日、好ましくは0.1~3000mg/人/日である。
【0027】
本発明に係る乳酸菌、その培養物、及びその培養上清を、それを必要とする対象に摂取させる場合、それを必要とする対象は、特に限定されず、哺乳類(哺乳動物ともいう)か鳥類であり、好ましくは、ヒトであるが、ペットや家畜等であってもよい。
対象は、ミトコンドリアの機能不良又はミトコンドリアの機能不全といった、ミトコンドリア機能に関連する疾患を有していてもよい。
【0028】
本発明のミトコンドリア機能改善剤は、飲食品として用いられる場合には、その形態は特に限定されない。例えば、本発明においては、本発明のミトコンドリア機能改善剤を栄養補助食品やサプリメントとして用いることが好適である。
本発明のミトコンドリア機能改善剤を飲食品として用いる場合、本発明に係る乳酸菌、その培養物、及びその培養上清の1日の投与量は、対象の状態や体重、化合物の種類、投与経路等によって異なるが、通常、約10~1000g/人/日、好ましくは50~200g/人/日である。
飲食品組成物には、飲食品に用いられる各種成分を含有していてもよく、各種成分としては、特に限定されないが、例えば、油性成分、乳化剤、保湿剤、増粘剤、薬効成分、防腐剤、顔料、粉体、pH調整剤、紫外線吸収剤、抗酸化剤及び香料等が挙げられ、その配合量も特に限定されない。
飲食品としては、例えば、発酵茶、発酵乳、ヨーグルト、乳酸菌飲料、発酵ソーセージ、チーズ、味噌、キムチ、ぬか漬け、塩麹といった発酵飲食品として利用可能である。
【0029】
本発明においては、本発明のミトコンドリア機能改善剤をペット用途において用いることができ、ペット化粧品、ペット医薬品、ペットフード、哺乳類や鳥類などの動物用の栄養補助食品・サプリメントといったペット飲食品として用いることが好適である。また、本発明のミトコンドリア機能改善剤を家畜用途において用いることができ、家畜用化粧品、家畜用医薬品、家畜飼料といった家畜用飲食品として用いることもできる。
本発明において、ペットや家畜としては、特に限定されないが、例えば、イヌ、ネコ、鳥、ウサギ、モルモット、ヤギ、牛、ウマ、ブタが挙げられ、爬虫類や両生類であってもよい。
【実施例
【0030】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。また、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0031】
実施例1
(1)乳酸菌の培養物の調製
Lactobacillus farciminis OLL204082株、Pediococcus acidilactici OB7260株、Lactobacillus reuteri MEP201805株を、それぞれ、アネロパック(三菱ガス化学株式会社製「アネロパックケンキ」)による嫌気条件下で、MRS液体培地(Difco Laboratories社製「Lactobacilli MRS Broth」品番:#288130)で18時間培養した。培養温度はOLL204082株及びOB7260株は30℃、MEP201805株は37℃とした。5mLの培養液を2330gで10分間遠心分離した後、上清を4.25mL除去した。残りの上清で沈殿を懸濁し、マウスへの投与物とした。また、対照としてMRS液体培地も投与物とした。
【0032】
(2)動物試験
Cell Metabolism 7, 312-320(2008)に準じて作成したNdufs4(NADH dehydrogenase iron-sulfur protein 4) KOマウスを以下のとおり群分けした。各群におけるn数を併記した。
離乳時(約3週)より生後50日まで4週間、各群で、乳酸菌の培養物又はMRS液体培地の投与を行った。投与量は150μL/body/day、投与頻度は週5-6回、投与方法は胃ゾンデを用いた強制経口投与とした。
1.投与無群(Untreated)(n=11)
2.MRS液体培地投与群(control)(n=6)
3.L. farciminis OLL204082株投与群(n=8)
4.P. acidilactici OB7260株投与群(n=7)
5.L. reuteri MEP201805株投与群(比較例)(n=6)
【0033】
(3)評価項目
マウスが死亡するまでの生後日数、claspingを発生するまでの生後日数を測定した。測定結果をそれぞれ、図1及び図2に示す。claspingは神経異常の進行に伴いマウスがとる特徴的な挙動である(Food Funct., 4, 1776-1793 (2013))。
【0034】
(4)統計解析
統計解析にはオンラインサイトOasis2 (https://sbi.postech.ac.kr/oasis2/)を利用した。
【0035】
結果
L. farciminis OLL204082株の培養物又はP. acidilactici OB7260株の培養物の投与より、MRS液体培地投与群(control)に比べ、Ndufs4 KOマウスの寿命は有意に延長した(図1、P=0.0344, 0.0844 T-TEST)。
またL. farciminis OLL204082株の培養物又はP.acidilactici OB7260株の培養物の投与により、claspingの発生時期はMRS液体培地投与群(control)に比べ有意に遅れた(図2、P=0.03,0.01 T-TEST)。
一方、L. reuteri MEP201805株の培養物の投与により、寿命の延長及びclaspingの発生時期に対して有意な影響はなかった(図1、p=0.247 T-TEST、及び図2、p=0.15 T-TEST)。
また、Ndufs4 KOマウスは、ミトコンドリアが機能不全を起こしているモデルマウスであり、L. farciminis OLL204082株の培養物又はP.acidilactici OB7260株の培養物の投与により、マウスの寿命を延長したことから、これらの乳酸菌株はミトコンドリア機能の改善効果を有すると考えられる。
【0036】
実施例2
複数の乳酸菌株の投与によるミトコンドリア病モデルマウスの寿命への影響を確認した。
(1)乳酸菌の培養物の調製
各乳酸菌株を、実施例1を参考に、アネロパックによる嫌気条件下で、MRS液体培地で終夜、30℃で培養した。2mLの培養液を2330gで10分間遠心分離した後に上清を1.7mL除去した。残りの上清で沈殿を懸濁し、マウスへの投与物とした。なおOB7260株のみ前述の投与物に加え、培養液の遠心後に上清をすべて除去し、0.3mLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で懸濁した投与物も調製した(以下、OB7260株PBS懸濁液)。
【0037】
(2)動物試験
実施例1を参考に、Ndufs4 KOマウスの離乳時(約3週)より生後65日まで4週間、各群で、乳酸菌の培養物又はMRS液体培地の投与を行った。投与量は300μL/body/day、投与頻度は週5-6回、投与方法は胃ゾンデを用いた強制経口投与とした。
1.投与無群(Untreated)(n=20)
2.MRS液体培地投与群(control)(n=13)
3.L. farciminis OLL204082株投与群(n=12)
4.L. farciminis P1804501株投与群(n=10)
5.L. farciminis P1804502株投与群(n=7)
6.P. acidilactici OB7260株投与群(n=11)
7.P. acidilactici P1804503株投与群(n=9)
8.P. acidilactici P1804504株投与群(n=9)
9.P. acidilactici OB7260株PBS懸濁液投与群(n=8)
なお、L. farciminis P1804501株、L. farciminis P1804502株、P. acidilactici P1804503株及びP. acidilactici P1804504株は、株式会社明治において生乳から単離して取得し、保存している乳酸菌株である。
【0038】
(3)評価項目
マウスが死亡するまでの生後日数、claspingを発生するまでの生後日数を測定した。測定結果をそれぞれ、図3及び図4に示す。
【0039】
(4)結果
各乳酸菌株の培養物あるいはOB7260株PBS懸濁液の投与より、MRS液体培地投与群(control)に比べ、Ndufs4 KO マウスの寿命は有意に延長した(図3)。
また各乳酸菌株の培養物あるいはPBS懸濁液の投与で、claspingの発生時期はMRS液体培地投与群(control)に比べ有意に遅れた(図4、p<0.05(T-TEST))。
L. farciminis OLL204082株及びP. acidilactici OB7260株だけではなく、L. farciminis及びP. acidilacticiの他の乳酸菌株の培養物の投与により、マウスの寿命を延長したことから、L. farciminis及びP. acidilacticiに属する乳酸菌はミトコンドリア機能の改善効果を有すると考えられる。
前述の通り、OB7260株培養物投与群およびOB7260株PBS懸濁液投与群の寿命は、いずれもMRS液体培地投与群(control)よりも有意に延長した。そして培養物投与群の平均寿命は82.6日、PBS懸濁液では72.6日で、これら2群では培養物投与群の方が有意に寿命が延長した(P=0.096 T-TEST)。以上からOB7260は、PBS懸濁液投与群で寿命が延伸することから、培養物を遠心分離した際の沈殿(OB7260の生菌体を主成分とする)にミトコンドリア改善機能があると考えられる。さらに沈殿物と上清の混合物である培養物で、PBS懸濁液よりも有意に寿命が延伸したことから、上清にもミトコンドリア改善機能があると考えられた。
【0040】
実施例3
ミトコンドリア機能不全は、骨格筋の加齢や、骨格筋の異常や、サルコペニアとの関連性が知られていることから、健常老齢マウスにおける加齢による筋力低下への影響を確認した。
(1)乳酸菌の培養物の調製
P. acidilactici OB7260株を、実施例2と同様に、アネロパックによる嫌気条件下で、MRS液体培地で終夜、30℃で培養した。2mLの培養液を2330gで10分間遠心分離した後に上清を1.7mL除去した。残りの上清で沈殿を懸濁し、マウスへの投与物とした。
【0041】
(2)動物試験
22-24か月齢の健常老齢C57BL6Jマウス(雄)に対し、乳酸菌の培養物(n=12)を2カ月投与した。対照として非投与の群を設定した。投与期間終了16日後に握力を測定した。
【0042】
(3)評価項目(握力の測定)
一匹あたり10回、尾を水平方向に引き、その際の握力をラット・マウス握力測定器(室町機械(株)、MK-380CM/F)で測定し、最大値を記録した。握力の最大値を体重で割り、体重当たりの握力(kgf/body weight)を算出した。結果を図5に示す。
【0043】
(4)結果
投与無群(Untreated)に比べ、P. acidilactici OB7260株の培養物を投与した群で、老齢マウスの体重あたりの握力は有意に高かった(p<0.05、T-TEST)。
図1
図2
図3
図4
図5