IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 古河電気工業株式会社の特許一覧 ▶ 独立行政法人物質・材料研究機構の特許一覧

<>
  • 特許-ナノ結晶複合体 図1
  • 特許-ナノ結晶複合体 図2
  • 特許-ナノ結晶複合体 図3
  • 特許-ナノ結晶複合体 図4
  • 特許-ナノ結晶複合体 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-04
(45)【発行日】2024-06-12
(54)【発明の名称】ナノ結晶複合体
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/50 20240101AFI20240605BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20240605BHJP
   B01J 23/83 20060101ALI20240605BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20240605BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20240605BHJP
【FI】
B01J35/50 ZAB
B01D53/94 222
B01D53/94 245
B01J23/83 A
F01N3/10 A
F01N3/28 301P
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020014377
(22)【出願日】2020-01-31
(65)【公開番号】P2020127936
(43)【公開日】2020-08-27
【審査請求日】2022-11-25
(31)【優先権主張番号】P 2019019657
(32)【優先日】2019-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】都築 秀和
(72)【発明者】
【氏名】若江 真理子
(72)【発明者】
【氏名】青木 智
(72)【発明者】
【氏名】三好 悟朗
(72)【発明者】
【氏名】阿部 英樹
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-059881(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103055859(CN,A)
【文献】国際公開第2017/010492(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/164163(WO,A1)
【文献】特開2013-240756(JP,A)
【文献】ZHANG, Y. et al.,Ag2O loaded NiO ball-flowers for high performance supercapacitors,Mater. Lett.,NL,Elsevier B.V.,2016年04月25日,Vol. 177,pp. 71-75
【文献】FERRAZ, C. P. et al.,Furfural Oxidation on Gold Supported on MnO2: Influence of the Support Structure on the Catalytic Performances,Appl. Sci. (Web),スイス,MDPI,2018年07月27日,Vol. 8, No. 8,pp. 1246-1-1246-12,Abstract, 3.1 Structural properties, Figure 1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
B01D 53/94
F01N 3/00 - 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主表面および端面をもつ複数のナノ結晶片が相互に連結された連結集合体と、前記連結
集合体に担持されたナノ粒子と、を備え、
前記複数のナノ結晶片のそれぞれが薄片状であり、
前記複数のナノ結晶片が前記主表面間に間隙を有し、
前記間隙が前記連結集合体の外側に開口して配置され、
前記ナノ粒子が前記複数のナノ結晶片とは異なる金属元素を有し、
前記複数のナノ結晶片の視野面積に対する前記ナノ粒子の視野面積の割合が2%以上50%以下であり、
前記複数のナノ結晶片が第一種金属酸化物であり、
前記ナノ粒子が前記第一種金属酸化物とは異なる第二種金属酸化物であり、かつ、
前記第二種金属酸化物が酸化セリウムナノ粒子又は酸化セリウムと酸化ジルコニウムとの混合体のナノ粒子であることを特徴とする、ナノ結晶複合体。
【請求項2】
前記ナノ粒子の粒径が5nm以上100nm以下であり、かつ、
前記ナノ粒子が前記主表面に配置されている、請求項1に記載のナノ結晶複合体。
【請求項3】
前記第一種金属酸化物が酸化銅である、請求項1又は2に記載のナノ結晶複合体。
【請求項4】
酸化還元触媒反応に使用するための請求項1乃至のいずれか1項に記載のナノ結晶複合体。
【請求項5】
排気ガス浄化用触媒として使用するための請求項1乃至のいずれか1項に記載のナノ結晶複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ結晶複合体に関し、特に、自動車の排ガスに含まれるNO、CO等の有害ガスの浄化において高い触媒活性を維持したまま繰り返し使用可能なナノ結晶複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題の観点から、自動車の排ガスに含まれるCO、NO等の有害なガスの毒性を低下させるため、これらの有害なガスをCO、N等の有害ではないガスに効率的に変換可能な触媒が注目されている。
【0003】
このような触媒として、例えば、Pt、Pd、Rh等の貴金属が一般に用いられる。しかしながら、これらの貴金属は高価であるとともに、資源の制約があり、流通量が少ない等の問題がある。そこで、少量で触媒活性を向上させるために、触媒反応を生じさせる表面の面積(表面積)を増大させる微細化(miniaturization)の手法が検討された。すなわち、バルク(bulk)の金属触媒を、粉末(powder)からμ結晶(microcrystal)へ、更にナノ粒子(nanoparticle)へと径を小さくして、単位量当たりの表面積(m/g)を増加させることにより、触媒反応量を高め、触媒活性を向上させることができる。このような技術として、Pt(白金)からなるナノシートやナノ粒子などのナノ材料が報告されている(非特許文献1~4)。
【0004】
しかしながら、ナノ粒子(一次粒子)は互いに凝集して凝集粒子(二次粒子)になりやすいという問題があった。ナノ粒子が凝集粒子になった場合、単位量当たりの表面積がバルクの金属触媒とほぼ同じになり、触媒活性も同程度となるため、触媒活性の向上を機能させることができなくなる。
【0005】
凝集粒子の問題を解決するために、SiO等からなる粒子状基体の表面にPt等の貴金属からなるナノ粒子を分散させた媒体も検討された。しかしながら、粒子状基体の表面にナノ粒子を分散させても、高熱下で使用すると、ナノ粒子が移動拡散し、ナノ粒子が合体して粗大粒となる問題が発生した。ナノ粒子の合体粗大化により、単位量当たりの表面積がバルク体とほぼ同じになり、触媒活性も同程度となるため、凝集粒子の問題と同様、触媒活性の向上を機能させることができなくなる。
【0006】
ナノ粒子の合体粗大化による触媒活性の低下を抑制するため、特定の単結晶の特定な面を一面とするナノ単結晶板材を、隣接するナノ単結晶板材間で触媒活性面同士を接面させることなく集積したナノ単結晶板材集積触媒(ナノフラワー)が提案されている(特許文献1)。また、特許文献1には、ナノ単結晶板材集積触媒を用いることによって、ナノ粒子が合体しても、触媒活性面同士が接面されることがなく、触媒活性面の前にスペース(空隙部)が確保され、ナノ粒子の合体粗大化による触媒活性の低下を抑制でき、触媒活性を高くすることができると記載されている。さらに、特許文献1には、ナノ単結晶板材を、触媒活性面を(001)面とする、遷移金属酸化物であるCuOのナノ単結晶板材とすることによって、上述の有害ガスの浄化における触媒反応を効率的に行えることが記載されている。
【0007】
一方、上述の有害ガスの浄化においてナノ単結晶板材集積触媒(ナノフラワー)を使用する場合、触媒反応を効率的に行うため、高温下に繰り返し曝しても当該触媒は高い触媒活性を維持したまま使用できることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2013-240756号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Joo,S.H.;Choi,S.J.;Oh,I;Kwak,J;Liu,Z;Terasaki,O.;Ryoo,R.;Nature,2001,412,169-172
【文献】Wang,C.;Daimon,H.;Lee,Y.;Kim,J.;Sun,S.;J.Am.Chem.Soc.2007,129,6974-6975
【文献】Wang,C.;Daimon,H.;Onodera,T.;Koda,T.;Sun,S.;Angew.Chem.,Int.Ed.2008,47,3588-3591
【文献】Kijima,T.;Nagatomo,Y.;Takemoto,H.;Uota,M.;Fujikawa,D.;Sekiya,Y.;Kishishita,T.;Shimoda,M.;Yoshimura,T.;Kawasaki,H.;Sakai,G.;Adv.Funct.Mater.2009,19,1055-1058
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、高温下に繰り返し曝しても、高い触媒活性を良好に維持できるナノ結晶複合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記問題に対して鋭意検討を行った結果、主表面および端面をもつ複数のナノ結晶片が相互に連結された連結集合体と、該連結集合体上に担持され、複数のナノ結晶片とは異なる金属元素を有するナノ粒子と、を備えるナノ結晶複合体において、連結集合体に担持されるナノ粒子の量を適切に制御することによって、高温下にナノ結晶複合体を繰り返し曝しても、高い触媒活性を良好に維持し得ることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
[1] 主表面および端面をもつ複数のナノ結晶片が相互に連結された連結集合体と、前記連結集合体に担持されたナノ粒子と、を備え、
前記複数のナノ結晶片のそれぞれが薄片状であり、
前記複数のナノ結晶片が前記主表面間に間隙を有し、
前記間隙が前記連結集合体の外側に開口して配置され、
前記ナノ粒子が前記複数のナノ結晶片とは異なる金属元素を有し、
前記複数のナノ結晶片の視野面積に対する前記ナノ粒子の視野面積の割合が2%以上50%以下であることを特徴とする、ナノ結晶複合体。
[2] 前記ナノ粒子の粒径が5nm以上100nm以下であり、かつ、
前記ナノ粒子が前記主表面に配置されている、上記[1]に記載のナノ結晶複合体。
[3] 前記複数のナノ結晶片が第一種金属酸化物であり、かつ、
前記ナノ粒子が前記第一種金属酸化物とは異なる第二種金属酸化物である、上記[1]又は[2]に記載のナノ結晶複合体。
[4] 前記第一種金属酸化物が酸化銅である、上記[3]に記載のナノ結晶複合体。
[5] 前記第二種金属酸化物が酸化セリウムナノ粒子又は酸化セリウムと酸化ジルコニウムとの混合体のナノ粒子である、上記[3]又は[4]に記載のナノ結晶複合体。
[6] 酸化還元触媒反応に使用するための上記[1]乃至[5]のいずれかに記載のナノ結晶複合体。
[7] 排気ガス浄化用触媒として使用するための上記[1]乃至[5]のいずれかに記載のナノ結晶複合体。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高温下に繰り返し曝しても、高い触媒活性を良好に維持できるナノ結晶複合体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明に従うナノ結晶複合体の一実施態様を示す概略斜視図である。
図2図2(a)は、実施例2における1回目の600℃触媒評価後のナノ結晶複合体を、倍率4000倍で観察した際のSEM画像であり、図2(b)は、70000倍で観察した際のSEM画像である。
図3図3は、実施例2と比較例2における1回目の600℃触媒評価後のナノ結晶複合体のX線結晶構造解析をした結果を示す。
図4図4は、実施例3における1回目の600℃触媒評価後のナノ結晶複合体を、倍率20000倍で観察した際のSEM画像である。
図5図5は、比較例1における1回目の600℃触媒評価後のナノ結晶複合体を、倍率20000倍で観察した際のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態であるナノ結晶複合体について説明する。
【0016】
<ナノ結晶複合体>
本発明に従うナノ結晶複合体は、主表面および端面をもつ複数のナノ結晶片が相互に連結された連結集合体と、該連結集合体上に担持されたナノ粒子とを備える。複数のナノ結晶片のそれぞれは薄片状であり、また、複数のナノ結晶片は主表面間に間隙を有し、間隙は連結集合体の外側に開口して配置されている。連結集合体上に担持されたナノ粒子は複数のナノ結晶片とは異なる元素を有する。また、連結集合体に担持されるナノ粒子の量を適切に制御するため、複数のナノ結晶片の視野面積に対するナノ粒子の視野面積の割合は2%以上50%以下である。
【0017】
図1は、本発明の実施形態であるナノ結晶複合体の一例を示す概略斜視図である。図1に示されるように、本発明に係るナノ結晶複合体1は、主表面22と端面23をもつ複数のナノ結晶片21が相互に連結された連結集合体20を有し、花のような形状を示す。複数のナノ結晶片21の連結状態は、特に限定されず、複数のナノ結晶片21が連結して集合体を形成していればよい。
【0018】
また、ナノ結晶片21は、主表面22の大きさに対し、端面23の厚さが薄い薄片状の形状である。連結集合体20の外面において、隣接する複数のナノ結晶片21の主表面22の間には間隙Gが形成されており、この間隙Gは、連結集合体20の外側に開口して配置されている。
【0019】
ここで、ナノ結晶片21の主表面とは、具体的には、薄片状のナノ結晶片21が有する外面のうち、表面積が広い面のことであって、表面積が狭い端面の上下端縁を区画形成する両表面を意味する。例えば、ナノ結晶複合体1を触媒反応に利用する場合、主表面22が高い触媒活性を示す触媒活性面となる。そのため、主表面22の表面積が大きいほど、触媒反応をより効率的に行うことができる。
【0020】
ナノ結晶片21の主表面22の最小寸法は10nm以上1μm未満であることが好ましく、ナノ結晶片21の厚さtは、主表面22の最小寸法の1/10以下であることが好ましい。これにより、ナノ結晶片21の主表面22の面積を端面23の面積に比べて約10倍以上広くでき、単位量当たりの触媒活性をナノ粒子に比べて高めることができる。主表面22の最小寸法を1μm以上とすると、ナノ結晶片21を高密度で連結させることが困難となり、最小寸法を10nm未満とすると、隣接する複数のナノ結晶片21の主表面22の間で間隙Gを形成することができなくなるおそれがある。また、ナノ結晶片21の厚さ方向の剛性の低下を抑制するため、ナノ結晶片21の厚さtは1nm以上であることが好ましい。なお、ナノ結晶片21の主表面22の寸法は、ナノ結晶片21の形状を損なわないように、連結集合体20から分離したナノ結晶片21を、個別のナノ結晶片として測定することにより求めることができる。測定法の具体例としては、ナノ結晶片21の主表面22に対し、外接する最小面積の長方形Qを描き、長方形Qの短辺L1および長辺L2を、ナノ結晶片21の最小寸法および最大寸法として、それぞれ測定する。
【0021】
ナノ結晶片21は、第一種金属酸化物であることが好ましい。ここで、第一種金属酸化物としては、貴金属、遷移金属またはそれらの合金の酸化物、複合酸化物等が挙げられる。貴金属及びその合金としては、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、白金(Pt)、銀(Ag)及び金(Au)の群から選択される1種の成分からなる金属、又はこれらの群から選択される1種以上の成分を含む合金が挙げられる。また、遷移金属及びその合金としては、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)及び亜鉛(Zn)の群から選択される1種の成分からなる金属またはこれらの群から選択される1種以上の成分を含む合金が挙げられる。
【0022】
特に、第一種金属酸化物は、遷移金属の群から選択される1種または2種以上の金属を含む金属酸化物であることが好ましい。このような金属酸化物は、金属資源として地球上に豊富に存在しており、貴金属に比べて安価であることから、価格を抑える点で好ましい。この中でも、Cu、Ni、CoおよびZnの群から選択される1種または2種以上の金属を含む金属酸化物であることが好ましく、このような金属酸化物は少なくとも銅を含むことがより好ましい。また、銅を含む金属酸化物としては、例えば、酸化銅、Ni-Cu酸化物、Cu-Pd酸化物等が挙げられ、中でも酸化銅(CuO)が好ましい。
【0023】
図1に示されるように、本発明のナノ結晶複合体1は、連結集合体20に担持されたナノ粒子30を有し、ナノ粒子30は分散して担持されていることが好ましい。また、ナノ粒子30は、間隙G内に担持されていてもよく、間隙G外(例えば、ナノ結晶片21の端面23上)に担持されていてもよいが、ナノ粒子30を連結集合体20に保持する観点から、間隙G内に担持されていることが好ましい。ナノ粒子30は、複数のナノ結晶片21とは異なる金属元素を有しており、第一種金属酸化物とは異なる第二種金属酸化物であることが好ましい。このような第二種金属酸化物は、例えば、セリウム(Ce)を含む金属酸化物であることが好ましく、酸化セリウムナノ粒子又は酸化セリウムと酸化ジルコニウムとの混合体のナノ粒子であることがより好ましい。ナノ粒子30が酸化セリウム又は酸化セリウムと酸化ジルコニウムとの混合体のナノ粒子(以下、これらをまとめて「CeOナノ粒子」ともいう)である場合、CeOナノ粒子は酸素を保持する性質を有するため、例えば、CO、NO等の有害ガスをCO、N等の有害ではないガスに変換させる触媒反応において、高温下(例えば600℃)でCeOナノ粒子が担持されたナノ結晶複合体1を触媒として使用すると、CeOナノ粒子が、有害ガス中に含まれるNOから抜けた酸素原子を一旦保持し、第一種金属酸化物(例えばCuO)から酸素原子が抜ける前にこの酸素原子を第一種金属酸化物に供給できる。すなわち、CeOナノ粒子が酸素原子の受け渡しを行い、第一種金属酸化物から酸素原子が抜けることを緩和するバッファー作用を示す。そのため、ナノ結晶片の触媒活性面を構成する第一種金属酸化物の組織の形態が維持され、これにより、触媒活性面は高い触媒活性を維持することができる。その結果、当該触媒反応を高温下で繰り返し行っても、高い触媒活性を維持したままナノ結晶複合体1を使用することができる。ナノ結晶複合体1を触媒反応に利用する場合、このようなバッファー作用を有効に発揮させるため、ナノ粒子30は、高い触媒活性を示す主表面22に配置されていることが好ましい。
【0024】
ナノ粒子30が連結集合体20に良好に担持されるように、ナノ粒子30の量を適切に制御する必要がある。本発明では、複数のナノ結晶片21(第一種金属酸化物)の視野面積に対するナノ粒子30(第二種金属酸化物)の視野面積の割合(視野面積比率)が2%以上50%以下であり、好ましくは3%以上40%以下であり、さらに好ましくは4%以上30%以下である。ここで、複数のナノ結晶片21の視野面積及びナノ粒子30の視野面積とは、複数のナノ結晶片21及びナノ粒子30を確認できる手段、目視で形状が確認できる倍率を実現する顕微鏡などで観察した場合の視野における面積を意味し、例えば、SEM-EDS(エネルギー分散型X線分析)を用いて、複数のナノ結晶片21(第一種金属酸化物)とナノ粒子30(第二種金属酸化物)の元素マッピングを行うことにより、視野面積比率を算出することができる。このように、視野面積比率に基づき、複数のナノ結晶片21に対するナノ粒子30の割合を特定の範囲内に制御することによって、ナノ粒子30を、連結集合体20に良好に担持させることができる。視野面積比率が2%未満であると、連結集合体20に担持されるナノ粒子30が少な過ぎるため、上記バッファー作用が適切に機能しない。そのため、上記触媒反応を高温下で繰り返し行うと、触媒活性面の組織の形態が崩れ、ナノ結晶複合体1は高い触媒活性を維持することができなくなる。一方、視野面積比率が50%を超えると、ナノ粒子30同士の凝集が著しく、連結集合体20にナノ粒子30を担持させることができない。特に、視野面積比率が80%を超えると、ナノ粒子30の凝集体がナノ結晶片21の触媒活性面である主表面22を塞いでしまい、触媒活性を著しく低下させるため、高温下で上記触媒反応を行っても所望のNO転換を達成することが困難となる。
【0025】
連結集合体20に担持されるナノ粒子30は、好ましくは二次粒子であるが、一次粒子が含まれていてもよい。ナノ粒子30の粒径(二次粒子径)は、当該二次粒子を連結集合体20に担持することができれば、特に限定されるものではないが、5nm以上100nm以下であることが好ましく、20nm以上50nm以下であることがより好ましい。ナノ粒子30の粒径が大き過ぎると、連結集合体20上、さらには間隙G内へのナノ粒子30の担持が困難になり、ナノ粒子30の粒径が小さ過ぎると、連結集合体20、特に間隙G間でのナノ粒子30の保持が困難となる。二次粒子径の測定は、特に限定されるものではないが、例えば電子顕微鏡(SEM:scanning electron microscope)を用いて測定することができる。また、ナノ粒子30は20枚のナノ結晶片21に対して、1~2個の割合で分散して存在することが好ましい。このような分散状態により、例えば、ナノ結晶片がCuOである場合、CuO結晶がCuO、Cuへ分解せずに、ナノ結晶片の形態を安定して維持することができる。
【0026】
第一種金属酸化物の原料及び第二種金属酸化物の原料は、特に限定されるものではないが、下記のナノ結晶複合体の製造方法に記載されているように、これらの原料を所定の水溶液に溶かす工程を含むため、これらの原料は、第一種金属酸化物及び第二種金属酸化物を構成する金属を含む水和物であることが好ましく、第一種金属酸化物及び第二金属酸化物を構成する金属ハロゲン化物の水和物であることがより好ましい。
【0027】
本発明のナノ結晶複合体1を触媒として用いる場合、ナノ結晶片21の主表面22が触媒活性面となるために、ナノ結晶片21の主表面22が特定の結晶方位を有するように構成されることが好ましい。
【0028】
ナノ結晶片21の主表面22が還元性の活性面になるように構成するには、ナノ結晶片21を構成する第一種金属酸化物において、触媒活性を発揮する金属原子の面を、主表面22に位置するように配向させて、主表面22を金属原子面で構成すればよく、具体的には、主表面22に存在する第一種金属酸化物を構成する、金属原子および酸素原子に占める金属原子の個数割合を80%以上とすることが好ましい。
【0029】
一方、ナノ結晶片21の主表面22が酸化性の活性面になるように構成するには、ナノ結晶片を構成する第一種金属酸化物において、触媒活性を発揮する酸素原子の面を、主表面22に位置するように配向させて、主表面22を酸素原子面で構成すればよく、具体的には、主表面22に存在する第一種金属酸化物を構成する、金属原子および酸素原子に占める酸素原子の個数割合を80%以上とすることが好ましい。
【0030】
活性面の役割に応じて、ナノ結晶片21の主表面22に存在する第一種金属酸化物を構成する、金属原子および酸素原子に占める金属原子もしくは酸素原子の個数割合を調整することにより、主表面22の触媒活性機能を高めることができ、ナノ結晶片21、ひいてはナノ結晶複合体1として、十分な触媒活性を発揮できる。
【0031】
また、ナノ結晶片21の主表面22が特定の結晶方位を有するとしたのは、ナノ結晶片21を構成する第一種金属酸化物の種類に応じて、主表面22に多く存在する結晶方位が異なるためである。そのため、主表面22の結晶方位は具体的には記載はしないが、例えば、第一種金属酸化物が酸化銅(CuO)である場合には、主表面を構成する単結晶の主な結晶方位、すなわち活性面は(001)面であることが好ましい。
【0032】
また、主表面22を金属原子面とする構成としては、第一種金属酸化物の結晶構造を、金属原子面と酸素原子面が規則的に交互に積層され、原子の並び方に規則性を有する規則構造として、主表面22に金属原子面が位置するように構成することが好ましい。具体的には、主表面22が、同じ配向をもつ単結晶の集合体で構成された構造の場合だけではなく、異なる結晶構造や異なる配向をもつ単結晶の集合体、又は結晶粒界、多結晶等を含んだ集合体で構成された構造であっても、主表面22に金属原子面が存在する場合が含まれる。
【0033】
本発明に係るナノ結晶複合体は、様々な用途に用いることができ、例えば、酸化還元触媒反応、特に、排気ガス浄化用触媒として好適に使用することができる。
【0034】
<ナノ結晶複合体の製造方法>
次に、本発明に係るナノ結晶複合体の製造方法について説明する。本発明の実施形態であるナノ結晶複合体の製造方法は、混合工程S1と、温度・圧力印加工程S2とを有する。
【0035】
(混合工程S1)
混合工程は、第一種金属酸化物の原料となる、貴金属、遷移金属またはそれらの合金を含む化合物の水和物、特に金属ハロゲン化物の水和物と、第二種金属酸化物の原料となる、Ceを含む化合物の水和物、特にCeハロゲン化物の水和物と、第一種金属酸化物の前駆体である金属錯体の配位子を構成する炭酸ジアミド骨格を有する有機化合物とを、水溶液(水)に溶かす工程である。金属ハロゲン化物の水和物として、例えば塩化銅(II)二水和物、Ceハロゲン化物の水和物として、例えば塩化セリウム(III)七水和物、炭酸ジアミド骨格を有する有機化合物として、例えば尿素が挙げられる。尚、酸化セリウムと酸化ジルコニウムとの混合体を作製する場合、第二種金属酸化物の原料として、塩化セリウム(III)七水和物とオキシ塩化ジルコニウム八水和物が挙げられる。
【0036】
水溶液(水)に有機溶媒を添加してから、上記の各水和物と尿素を混合することが好ましい。有機溶媒としてはエチレングリコール等を用いることができ、水溶液に対して50モル%以下の濃度となるように有機溶媒を添加することが好ましい。これにより、溶質の分散性を高めることができる。
【0037】
(水熱合成工程S2)
水熱合成工程は、得られた混合溶液に所定の熱・圧力を加えて、所定時間、放置する工程である。混用溶液は、100℃以上300℃以下で加熱することが好ましい。加熱温度が100℃未満では、尿素と金属ハロゲン化物との反応を完了させることができず、300℃超では、発生する高蒸気圧に反応容器が耐えられない。加熱時間は、10時間以上であることが好ましい。加熱時間が10時間未満では、未反応の材料が残留する場合がある。所定の圧力は、100℃における水の蒸気圧(1気圧)以上の圧力であることが好ましい。所定の熱・圧力を加えるため、例えば、耐圧容器を用いて加熱・加圧する方法が挙げられる。
【0038】
以上の工程により、ナノ結晶複合体が作製されると共に、ナノ結晶複合体1の連結集合体20上にナノ粒子30が担持された本発明に係るナノ結晶複合体1を製造することができる。
【0039】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例
【0040】
次に、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0041】
(実施例1~4、比較例1~4)
室温で150mlのエチレングリコールと150mlの水とを混合し、1時間攪拌して水溶液を作製した。次いで、表1に示す所定の添加量の塩化セリウム(III)七水和物、塩化銅(II)二水和物、尿素を上記水溶液に添加した。得られた溶液を内容積500mlの耐圧容器に注入し、空気雰囲気中で該容器を密閉した。耐圧容器を恒温槽に設置し、180℃で24時間加熱保持後、室温まで冷却した。室温で1日保持した後、沈殿物を含む溶液を容器から回収した。溶液中の沈殿物をメタノールおよび純水で洗浄した後、真空環境下で70℃10時間乾燥させ、ナノ結晶複合体を作製した。
【0042】
[測定及び評価]
上記のようにして得られた実施例および比較例のナノ結晶複合体を用いて、下記に示す測定及び特性評価を行った。測定及び各特性の評価条件は下記の通りである。結果を表1に示す。
【0043】
[1]視野面積比率
各実施例、比較例で得られたナノ結晶複合体について、EDS(エネルギー分散型X線分光器:株式会社日立ハイテクノロジーズ製「SU-8020」)により、第一種金属酸化物である酸化銅(CuO)と第二種金属酸化物である酸化セリウムナノ粒子(CeOナノ粒子)の元素マッピングを行い、CuOの視野面積に対するCeOナノ粒子の視野面積の割合(視野面積比率)を測定した。具体的には、観察倍率を20,000倍に設定し、3μm×6μmを1視野としてEDSにて検出された元素ピーク情報からセリウム(Ce)元素と銅(Cu)元素と酸素(O)元素のそれぞれの元素分布を色分けする。次いで、2次元画像元素マッピングを行い、Ce元素とCu元素に相当する面積(視野面積)を算出する。算出したCe元素の面積をCu元素の面積で除して、第一種金属酸化物の視野面積に対する第二種金属酸化物の視野面積の割合とする。以上の操作を無作為に10μm以上離れた視野で合計10視野のマッピングを行い、得られた視野面積の割合の平均値を求め、これを視野面積比率とした。
【0044】
[2]触媒性能
触媒性能の評価は、ガス供給ライン、反応管およびガスサンプリング部よりなる装置を用いて行った。具体的には以下の通りである。
【0045】
まず、ガラスフィルタの間に、触媒として各実施例、比較例で得られたナノ結晶複合体を10~20mg充填して反応管に挿入した。次に、触媒を充填した反応管を、恒温槽内の装置にセットした。試料表面に付着している水分の影響を除くために、室温から200℃までヘリウムフロー状態で30分加熱後、評価のために100℃まで降温した。その後、反応ガス(原料ガス)に切り替え、15分間保持した後、600℃まで10℃/minで昇温した時の反応管出口ガスの採取・測定によりNO転換率を算出した。具体的には下記式(1)よりNO転換率を算出した。
【0046】
NO転換率(%)={N(出口)/NO(原料ガス)}×100・・・(1)
【0047】
なお、原料ガスは、1体積%の一酸化炭素(CO)と1体積%の一酸化窒素(NO)との混合ガス(ヘリウムバランス)を用い、流量は20mL/minとした。反応管出口ガスをGC-MASSで測定し、NO転換率から触媒性能を評価した。NO転換率が50%以上である場合を合格「○」とし、50%未満である場合を不合格「×」と評価した。また、ここでいうNO転換率とは、反応ガスに切り替えた100℃でのNOガス濃度を基準として、加熱により触媒が活性化し、NOが還元により低下する値を意味する。
【0048】
また、各実施例、比較例で得られたナノ結晶複合体は、600℃の触媒反応を経ると、酸化銅の構造、組織形態が維持できず、2回目以降の触媒反応において触媒活性の劣化が懸念される。そのため、1回目の触媒反応の後、各実施例、比較例で得られたナノ結晶複合体を100℃まで冷却し、その後、再度600℃に加熱して、触媒性能を再び評価した。
【0049】
[3]組織観察
ナノ結晶の組織観察は、走査型電子顕微鏡(SEM:株式会社日立ハイテクノロジーズ製「SU-8020」)を用いて行った。図2(a)は、実施例2における1回目の600℃触媒評価後のナノ結晶複合体を、倍率4000倍で観察した際のSEM画像であり、図2(b)は、70000倍で観察した際のSEM画像である。
【0050】
[4]触媒反応における組織安定性
X線回折装置(「D8 DISCOVER」、ブルカー・エイエックスエス株式会社(現ブルカージャパン株式会社)製)による構造解析を行なった。X線結晶構造解析で、触媒反応後の各実施例及び比較例のナノ結晶複合体の組成の同定を行い、酸化銅の結晶構造が維持できているかを確認した。酸化銅の結晶構造が維持できている場合、CuOが存在しているとして「〇」とし、酸化銅の結晶構造が維持できていない場合、CuOの分解が生じているとして「×」と評価した。
【0051】
図3に、実施例2と比較例2における1回目の600℃触媒評価後のナノ結晶複合体のX線結晶構造解析をした結果を示す。また、図4、5に、結晶構造が維持できているナノ結晶複合体と結晶構造が維持できず分解しているナノ結晶複合体の走査型電子顕微鏡による観察結果をそれぞれ示す。図4は、実施例3における1回目の600℃触媒評価後のナノ結晶複合体を20000倍で観察した際のSEM画像であり、図5は、比較例1における1回目の600℃触媒評価後のナノ結晶複合体を20000倍で観察した際のSEM画像である。
【0052】
【表1】
【0053】
表1に示される実施例1~4で得られたナノ結晶複合体において、視野面積比率は2%以上50%以下の範囲であり、CeOナノ粒子が良好に分散されていた。また、表1に示されるように、実施例1~4では、1回目の触媒反応、2回目の触媒反応共にNO転換率が50%以上であり、高い触媒活性を維持していた。そのため、実施例1~4で得られたナノ結晶複合体は、触媒反応に有効なCuOで構成されているナノ結晶片の表面を覆わずに、CeOナノ粒子が良好に分散されていると評価できる。
【0054】
また、実施例1~4では、触媒評価後のナノ結晶複合体のX線結晶構造解析において、いずれもCuOのピークが確認でき、一方でCuのピーク、CuOのピークは観察されなかったため、良好な組織安定性を示していた。より具体的な結果として、図3では、実施例2においてCuOのピークとCeOのピークが観察されているため、CeOナノ粒子によりCuOの分解が抑制されていることがわかる。また、図2に示されるように、実施例2における1回目の600℃触媒評価後のナノ結晶複合体を観察しても、ナノ結晶複合体にCeOナノ粒子が分散して配置されると共に、ナノ結晶複合体の組織の特徴的なナノ結晶片の表面を確認することができた。さらに図4に示されるように、実施例3における1回目の600℃触媒評価後のナノ結晶複合体を観察すると、表面を有する酸化銅(CuO)のナノ結晶片と粒形状の酸化セリウム(CeOナノ粒子)の混在が確認できる。このことから、実施例1~4で得られたナノ結晶複合体では、酸化銅の結晶構造が維持されており、形態の維持が確認できる。
【0055】
一方、表1に示される比較例1~2では、1回目の触媒反応ではNO転換率が50%以上であったものの、2回目の触媒反応ではNO転換率が50%未満であり、高い触媒活性を維持することができなかった。また、触媒評価後のX線結晶構造解析においてCuOのピークが観察されなかったため、CuOの分解により、触媒反応に有効なCuOで構成されているナノ結晶片の表面が失われ、高い触媒活性が維持できなかったことがわかる。より具体的な結果として、図3では、比較例2において、CuOのピークは観察されず、CuOの分解が確認できる。さらに図5に示されるように、比較例1における1回目の600℃触媒評価後のナノ結晶複合体を観察すると、ナノ結晶複合体の組織の特徴的なナノ結晶片の表面が確認できなかった。このことから、比較例1~2で得られたナノ結晶複合体では、酸化銅の分解が生じて酸化銅の結晶構造が維持できず、形態が崩れていることが確認できる。
【0056】
比較例3~4では、視野面積比率が2%以上50%以下に範囲内になく、1回目の触媒反応のNO転換率が50%未満であり、高い触媒性能が得られなかった。そのため、比較例3~4では、2回目の触媒反応の後の触媒性能は評価していない。
【0057】
以上より、実施例1~4に記載されている本発明に係るナノ結晶複合体は、高温下に繰り返し曝しても、触媒活性面の形態、結晶構造、高い触媒活性を良好に維持できると判断できる。そのため、本発明に係るナノ結晶複合体は、特に、自動車の排ガスに含まれる有害ガスの浄化における触媒反応に有用であることがわかる。
【符号の説明】
【0058】
1 ナノ結晶複合体
20 連結集合体
21 ナノ結晶片
22 主表面
23 端面
30 ナノ粒子
G 間隙
図1
図2
図3
図4
図5