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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-04
(45)【発行日】2024-06-12
(54)【発明の名称】メタンガス低減剤
(51)【国際特許分類】
   A23K 10/37 20160101AFI20240605BHJP
   A23K 50/10 20160101ALI20240605BHJP
【FI】
A23K10/37
A23K50/10
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023513041
(86)(22)【出願日】2022-04-07
(86)【国際出願番号】 JP2022017226
(87)【国際公開番号】W WO2022215719
(87)【国際公開日】2022-10-13
【審査請求日】2023-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2021065837
(32)【優先日】2021-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(73)【特許権者】
【識別番号】502341546
【氏名又は名称】学校法人麻布獣医学園
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 希恵
(72)【発明者】
【氏名】乾 洋治
(72)【発明者】
【氏名】河合 一洋
(72)【発明者】
【氏名】楜澤 共生
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-179917(JP,A)
【文献】国際公開第2021/038832(WO,A1)
【文献】特開2019-093332(JP,A)
【文献】特開2014-195446(JP,A)
【文献】国際公開第2018/003034(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 10/37
A23K 50/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
家畜用飼料と、未発酵のコーヒー豆かす(但し、ポリフェノールオキシダーゼ処理したコーヒー豆かすを除く)を含む反芻動物用飼料であって、
前記未発酵のコーヒー豆かすの水分量が5~15質量%であると共に、
前記未発酵のコーヒー豆かすをメタンガスの低減剤として2~15質量%含み、
反芻動物の消化時に生成するメタンガスを5%以上20%以下の範囲で低減することを特徴とする反芻動物用飼料。
【請求項2】
家畜用飼料と、未発酵のコーヒー豆かす(但し、ポリフェノールオキシダーゼ処理したコーヒー豆かすを除く)を含む反芻動物用飼料を、反芻動物に給餌することにより、反芻動物の消化時に生成するメタンガスを低減する方法であって、
前記未発酵のコーヒー豆かすの水分量が5~15質量%であると共に、
前記未発酵のコーヒー豆かすをメタンガスの低減剤として2~15質量%含む前記反芻動物用飼料を給餌することにより、
反芻動物の消化時に生成するメタンガスを5%以上20%以下の範囲で低減することを特徴とする方法。
【請求項3】
家畜用飼料と共に反芻動物用飼料に含まれる未発酵のコーヒー豆かす(但し、ポリフェノールオキシダーゼ処理したコーヒー豆かすを除く)の製造方法であって、
前記未発酵のコーヒー豆かすの水分量を5~15質量%とすると共に、
前記反芻動物用飼料が、前記未発酵のコーヒー豆かすをメタンガスの低減剤として2~15質量%含み、
前記反芻動物用飼料を給餌することにより、反芻動物の消化時に生成するメタンガスを5%以上20%以下の範囲で低減する、
前記未発酵のコーヒー豆かすを70℃以下の乾燥温度で乾燥する工程を含むことを特徴とする未発酵のコーヒー豆かすの製造方法。
【請求項4】
前記乾燥温度が50℃以下である請求項に記載製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なメタンガス低減剤に関する。具体的には、反芻動物の消化時に生成するメタンガスを低減するためのメタンガス低減剤に関する。
【背景技術】
【0002】
食品・外食産業からは、大量の食品残渣が廃棄されている。その食品残渣は、焼却又は埋め立て処理されているのが現状である。その食品残渣の中で、世界的なコーヒーの消費拡大に伴い、食品残渣となるコーヒー豆かすの処理が課題となっているが、コーヒー豆かすは、水分及び繊維質の含有量が高いため、そのまま焼却処理をするのが困難であった。
そこで、コーヒー豆かすを細菌で発酵させることにより、有用な資源として再利用する試みが行われている。
たとえば、特許文献1には、コーヒー豆かすをバチルス菌で発酵させることにより、カフェインを低減した家畜用飼料とする技術が開示されている。この飼料は、嗜好性が改善されているので、コーヒー豆かすを家畜用飼料として有効利用できる。
一方、牛等の反芻動物は、胃を4個持っており、食べた植物の消化を、時間をかけて何度も繰り返す。その消化において、まず植物などを胃内細菌が分解(発酵)する過程で水素と二酸化炭素が発生する。この水素と二酸化炭素から、メタン菌という古細菌がメタンガスを生成する。そして、生成したメタンガスは、げっぷとして大気中に放出される。
メタンガスは、二酸化炭素の25倍以上の温室効果を持っているとされ、大気中のメタンガスの20~30%が、反芻動物のげっぷによるものだといわれている。
したがって、温室効果防止のため、反芻動物のげっぷによるメタンガスを低減することが求められている。
そこで、特許文献2には、コーヒー豆かすをバクテリオシン産生乳酸菌で発酵させた家畜用飼料で、メタンガスを低減させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-179917号公報
【文献】国際公開WO2018/003034
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されている家畜用飼料は、細菌による発酵処理を行なうため、処理に手間がかかり、またメタンガスを低減することについて、特許文献1では何ら検討されていない。
また、特許文献2に開示されている家畜用飼料は、メタンガスを低減することについて効果はあるが、特許文献1と同様に細菌による発酵処理を行なうため、処理に手間がかかる。さらに、細菌という微生物を取り扱うため、常に安定的な処理を行なうことが困難であった。また、メタンガスを直接測定をする方法は開示されていないので、どの程度メタンガスの発生が低減されているのか明らかではない。
したがって、複雑な処理を行なわず、簡便な方法で、家畜(反芻動物)の消化時に生成するメタンガスを確実に低減できる手法が求められてきた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明者等は、上記課題について鋭意検討をおこなった。最初に、反芻動物である牛が飼料等を摂取し、消化時におけるルーメン内で生成するメタンガスを直接測定する方法を見出した。この測定法を用いて、食品残渣であるコーヒー豆かすを、発酵処理せずに牛に給餌し、生成するメタンガスの量を測定した結果、驚くべきことに、反芻動物から放出されるメタンガスの低減効果があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明によれば、未発酵のコーヒー豆かすを含有するメタンガス低減剤が提供される。
本発明によれば、また、未発酵のコーヒー豆かすを、メタンガス低減剤として含む反芻動物用飼料が提供される。
【0007】
本発明の反芻動物用飼料においては、
(1)前記メタンガス低減剤を、0.5~30質量%含んでいること、
(2)前記未発酵のコーヒー豆かすの水分量が40質量%以下であること、
【0008】
本発明によれば、さらに、未発酵のコーヒー豆かすを含む飼料を、反芻動物に給餌することにより、反芻動物の消化時に生成するメタンガスを低減する方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、発酵処理を行っていないコーヒー豆かす、即ち、未発酵のコーヒー豆かすを、反芻動物(例えば牛)が摂取することにより、消化に際して生成するメタンガスを低減することができる。
反芻動物は植物等を摂取した際、まず第1胃(ルーメン)で消化を行なう。その際、ルーメン内に存在する細菌が発酵を行ない、前記したとおり、メタンガスが生成する。本発明のメタンガス低減剤(未発酵のコーヒー豆かす)を飼料中に存在させ、この飼料を摂取した場合は、この未発酵のコーヒー豆かすが細菌による発酵に作用し、メタンガスの生成を抑制しているものと考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明で用いるコーヒー豆かすは、特に制限されず、たとえば、入手が容易という点から、インスタントコーヒーやコーヒー飲料を製造している製造会社、コーヒー店等から入手すればよい。
本発明においてコーヒー豆かすは、発酵処理をしなければ、その他の処理を行なってもよい。たとえば、コーヒー豆かすは、水分量が高いため、公知の方法で乾燥処理をおこなってもよい。
前記乾燥においては、コーヒー豆かす中の水分量を、40質量%以下とすることが好適であり、30質量%以下とすることがより好適であり、15質量%以下とすることがさらに好適である。最も好適には、5~15質量%である。
乾燥温度に特に制限はないが、コーヒー豆かすの品質劣化を防ぐ観点から、例えば70℃以下が好ましく、さらに好適には50℃以下であり、最も好適には40℃以下である。また、乾燥方法も特に制限されない。
【0011】
本発明のメタンガス低減剤は、未発酵のコーヒー豆かすであるが、嗜好性の点で、それ自体公知の家畜飼料に配合して、反芻動物用飼料として、牛等の反芻動物に与えることが好ましい。未発酵のコーヒー豆かすを家畜用飼料に配合する方法は特に制限されず、公知の配合方法を採用すればよい。
【0012】
公知の家畜用飼料としては、たとえば、青草、稲わら、サイレージ等の粗飼料や、穀類(トウモロコシ、米、こうりゃん、大麦等)、糠類(フスマ、米ヌカ等)、粕類(大豆油粕、ビートパルプ、ビール・豆腐粕等)、動物質飼料(魚粉等)等の濃厚飼料などが挙げられる。
【0013】
上述した反芻動物用飼料において、本発明のメタンガス低減剤(未発酵のコーヒー豆かす)の含有量は、特に制限されないが、一般に、0.5~30質量%、特に1~20質量%、より好ましくは2~20質量%、さらに好ましくは2~15質量%である。反芻動物用飼料中のメタンガス低減剤の量が少ないと、メタンガス低減効果が不十分となり、この量が多すぎると、反芻動物が忌避して給餌が不十分になるおそれがある。
【0014】
本発明のメタンガス低減剤が配合されている反芻動物用飼料には、メタンガスの低減効果を増強する添加剤、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属などの金属を含む化合物を配合することができる。これらの中では、遷移金属化合物が好ましく、さらに好ましくは、鉄や銅の酸化物、水酸化物であり、特に好ましくは酸化鉄である。このような添加剤は、メタンガス低減剤が配合されている反芻動物用飼料100質量部当り、0.1~5質量部の量で添加することが好ましい。
【実施例
【0015】
以下の実験では、牛の消化時における、ルーメン内で生成するメタンガスおよび二酸化炭素を、次の方法で測定した。
フィステルが設置された牛を用い、該フィステルを経由してルーメン内に測定用チューブを挿入し、該測定用チューブからルーメン内の前記ガスを収集して測定した。
【0016】
<実験1>
40℃で乾燥した未発酵のコーヒー豆かす(水分量9%)14.3質量部を、100質量部の家畜用飼料と混合し、未発酵コーヒー豆かす量が12.5質量%のメタンガス低減性反芻動物用飼料を調製した。この反芻動物用飼料を牛に給餌した。
【0017】
前記給餌は、午前(7:50)、午後(15:00)のサイクルで、以下のように給餌し、給餌前および給餌3時間後のルーメン内のメタンガスおよび二酸化炭素を測定し、測定値を表1に示した。
1日目:午前・午後とも通常の家畜用飼料を給餌
2~4日目:午前・午後とも、未発酵のコーヒー豆かすを含む反芻動物用飼料を給餌
5日目:午前・午後とも通常の家畜用飼料を給餌
【0018】
なお、反芻動物用飼料についての測定値(豆かすとして表示)は、2日目から4日目までの測定値を平均した値とした。
一方、未発酵コーヒー豆かすを含んでいない通常の家畜用飼料についての測定値(コントロール)は、1日目での測定値と5日目での測定値の平均値とした。
【0019】
なお、二酸化炭素の影響をキャンセルさせるため、下記式でメタンの比率を算出し、豆かす及びコントロールのそれぞれについて、表1に示した。
メタン比率(%)
=100×メタン(vol%)/[(メタン(vol%)+二酸化炭素(vol%)]
【0020】
また、メタンガスの減少率は、豆かすでの比率とコントロールでの比率から下記式で算出した。結果を表1に示した。
減少率(%)
=100×(Control(%)-豆かす(%))/Control(%)
【0021】
【表1】
【0022】
表1に示すとおり、発酵処理を行っていないコーヒー豆かす(メタンガス低減剤)を含有する反芻動物用飼料は、牛に給餌することにより、約12~19%メタンガスを低減させたことが判る。
【0023】
<実験2>
未発酵のコーヒー豆かすの配合量を4.3質量部(水分含量10%)に変更し、未発酵コーヒー豆かす量が4.1質量%のメタンガス低減性反芻動物用飼料を調製した以外は、実験例1と同様に給餌して、同様の方法でメタンガスおよび二酸化炭素を測定した。結果を表2に示した。
【0024】
【表2】
【0025】
表2に示すとおり、発酵処理を行っていないコーヒー豆かす(メタンガス低減剤)を含有する反芻動物用飼料は、牛に給餌することにより、約7~13%メタンガスを低減させたことが判る。