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特許7499069画像符号化装置、画像復号装置及びこれらのプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-05
(45)【発行日】2024-06-13
(54)【発明の名称】画像符号化装置、画像復号装置及びこれらのプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04N 19/593 20140101AFI20240606BHJP
   H04N 19/126 20140101ALI20240606BHJP
   H04N 19/136 20140101ALI20240606BHJP
   H04N 19/159 20140101ALI20240606BHJP
   H04N 19/176 20140101ALI20240606BHJP
【FI】
H04N19/593
H04N19/126
H04N19/136
H04N19/159
H04N19/176
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020090557
(22)【出願日】2020-05-25
(65)【公開番号】P2021190718
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-04-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100143568
【弁理士】
【氏名又は名称】英 貢
(72)【発明者】
【氏名】松尾 康孝
【審査官】岩井 健二
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-175090(JP,A)
【文献】特開2021-132302(JP,A)
【文献】特開2012-119892(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 19/00 - 19/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
画面内予測を用いて入力動画像のピクチャを符号化する画像符号化装置であって、
前記画面内予測の対象とするピクチャにおける被予測ブロックの信号と、画面内予測による予測ブロックの信号とを差分して差分信号を形成し、その差分信号に対して直交変換処理及び量子化処理を施して符号化信号を生成するブロック符号化手段と、
前記符号化信号に対し前記量子化処理及び前記直交変換処理の逆処理を施し、前記画面内予測による予測ブロックの信号を加算して局部復号ブロックの信号を生成する局部復号ブロック生成手段と、
前記局部復号ブロックから構成される参照ブロックセットを参照して、前記ピクチャの画面内予測を実行し、前記予測ブロックの信号を生成する画面内予測手段と、
前記符号化信号についてエントロピー符号化を施したビットストリームを生成するエントロピー符号化手段と、を備え、
前記画面内予測手段は、
画面内予測として方向性予測を行うときに、画面内予測の被予測ブロックが属するピクチャの量子化パラメータ値を参照し、前記量子化パラメータ値に応じた予め定めた閾値に対し、前記被予測ブロックの方向性予測モードの角度の浅い方に対して直交する方向の辺の長さが短いか否かを判定する空間高周波パワー補償判定手段と、
前記量子化パラメータ値に応じた予め定めた閾値に対し当該辺の長さが短いと判定したときに、当該方向性予測モードとして参照する参照ブロックセットにおける前記被予測ブロックに隣接する隣接ブロックについて、符号化した際と同じ直交変換方式の直交変換処理を施して、その直交変換行列を生成する予測用直交変換手段と、
前記隣接ブロックの直交変換行列に、各直交変換係数を強調する予め定めた空間高周波パワー強調行列を乗算して、空間高周波パワーを強調した隣接ブロックの直交変換行列を生成する空間高周波パワー強調手段と、
前記空間高周波パワー強調後の隣接ブロックの直交変換行列に対し、前記予測用直交変換手段の逆処理となる逆直交変換を施して、空間高周波パワーが強調された画素成分の隣接TUを生成する予測用逆直交変換手段と、
画面内予測のモード番号に応じた隣接ブロックの参照ブロックセットを参照し、画面内予測を実行して、前記予測ブロックの信号を生成する予測ブロック生成手段と、
を有することを特徴とする画像符号化装置。
【請求項2】
前記空間高周波パワー強調手段は、前記空間高周波パワー強調行列として、符号化した際の前記量子化処理で除算に用いる量子化マトリクスを所定倍したものを用いることを特徴とする、請求項1に記載の画像符号化装置。
【請求項3】
前記空間高周波パワー補償判定手段は、前記量子化パラメータ値が高いほど前記被予測ブロックのサイズの判定に用いる前記閾値も小さくするように予め定めていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の画像符号化装置。
【請求項4】
画像符号化装置によって生成されたビットストリームを入力し、復号処理を行って動画像の画面内予測によるピクチャを復元する画像復号装置であって、
前記ビットストリームに対してエントロピー復号を施して符号化信号及び符号化パラメータを抽出し、抽出した符号化パラメータを基に、前記符号化信号に対し前記画像符号化装置による量子化処理及び直交変換処理の逆処理を施し、画面内予測による予測ブロックの信号を加算して復号ブロックの信号を生成する復号ブロック生成手段と、
前記復号ブロックから構成される参照ブロックセットを参照して、前記ピクチャの画面内予測を実行し、前記予測ブロックの信号を生成する画面内予測手段と、
前記画面内予測による復号ブロックの信号を基に前記ピクチャを復元する出力制御手段と、を備え、
前記画面内予測手段は、
画面内予測として方向性予測を行うときに、画面内予測の被予測ブロックが属するピクチャの量子化パラメータ値を参照し、前記量子化パラメータ値に応じた予め定めた閾値に対し、前記被予測ブロックの方向性予測モードの角度の浅い方に対して直交する方向の辺の長さが短いか否かを判定する空間高周波パワー補償判定手段と、
前記量子化パラメータ値に応じた予め定めた閾値に対し当該辺の長さが短いと判定したときに、当該方向性予測モードとして参照する参照ブロックセットにおける前記被予測ブロックに隣接する隣接ブロックについて、前記画像符号化装置による符号化した際と同じ直交変換方式の直交変換処理を施して、その直交変換行列を生成する予測用直交変換手段と、
前記隣接ブロックの直交変換行列に、各直交変換係数を強調する予め定めた空間高周波パワー強調行列を乗算して、空間高周波パワーを強調した隣接ブロックの直交変換行列を生成する空間高周波パワー強調手段と、
前記空間高周波パワー強調後の隣接ブロックの直交変換行列に対し、前記予測用直交変換手段の逆処理となる逆直交変換を施して、空間高周波パワーが強調された画素成分の隣接TUを生成する予測用逆直交変換手段と、
画面内予測のモード番号に応じた隣接ブロックの参照ブロックセットを参照し、画面内予測を実行して、前記予測ブロックの信号を生成する予測ブロック生成手段と、
を有することを特徴とする画像復号装置。
【請求項5】
コンピュータを、請求項1から3のいずれか一項に記載の画像符号化装置として機能させるためのプログラム。
【請求項6】
コンピュータを、請求項4に記載の画像復号装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画面内予測を用いる画像符号化装置、画像復号装置及びこれらのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の画像符号化装置及び画像復号装置において、例えばHEVC(High Efficiency Video Coding)やVVC(Versatile Video Coding)等のブロックベース符号化における画面内予測を用いた符号化・復号処理がよく知られている。画間内予測は、大別して方向性予測、平面予測、及び水平方向予測がある。また、HEVCでは、符号化処理の基本単位であるブロックをCTU(coding tree unit)とし、このCTUは、画面内予測及び画面間予測の予測処理・変換処理等の符号化ツールを適用する基本単位であるCU(coding unit)の集合により構成される。
【0003】
そして、CUは、PU(prediction unit)及びTU(transform unit)の集合により構成される。PUは、画面内予測及び画面間予測に関する情報を共有する基本単位であり、PU内は同一の予測モードが適用される。そして、PUはCUに対して所定のブロックサイズにブロック分割することが選択可能である。TUは、予測誤差に対する直交変換に関する情報を共有する基本単位であり、PUで規定する予測に用いる分割とは独立に所定のブロックサイズにブロック分割することが選択可能である。即ち、予測処理・変換処理等の符号化ツールを適用する基本単位であるCUに対し、PU(prediction unit)及びTU(transform unit)の集合で再帰的にブロック分割することができる。
【0004】
そして、HEVCにおける画面内予測では、被予測TUについて、PUサイズによって方向性予測の予測モードを規定しており、モード番号で識別される。また、予測誤差を周波数領域へ変換するために、2種類の直交変換(離散コサイン変換(DCT:discrete cosine transform)と離散コサイン変換(DST:discrete sine transform))が用意されており、TUサイズに応じて切り換えられるようになっている。このようなHEVCのブロック構造や予測モードは、VVCでも採用されることが予定されている。
【0005】
従って、HEVCやVVCの画面内予測における方向性予測では、被予測TUの左隣と上隣の隣接TUに属する隣接画素を参照画素として用いる。この参照画素は、方向性予測の角度によっては小数画素位置となる場合がある。この場合は、イントラ補間フィルタを適用して周辺の参照画素から線形補間を行い、生成した画素値を利用する。線形補間に用いる補間フィルタは、HEVCではBilinearフィルタを用い、VVCでは被予測TUのサイズに応じて4タップのCubicフィルタとGaussianフィルタを切り替えて用いる。この切り替えは、比較的大きなサイズの被予測TUではテクスチャ成分があまり含まれないと想定されるため、平滑化の効果を持つGaussianフィルタを用いる。一方、比較的小さなサイズの被予測TUではテクスチャ成分が多く含まれると想定されるため、若干のエイリアシングが発生するが遮断周波数特性の良いCubicフィルタを用いる。実際の切り替えでは、方向性予測モードの角度の浅い方に対して直交する方向の辺の長さが8画素×8画素以下の被予測TUではCubicフィルタ、8画素×8画素を超える被予測TUではGaussianフィルタを適用する。このようなVVCにおける画面内予測の方向性予測について、詳細に説明されている文献も開示されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】J.Chen, Y.Ye, and S.H.Kim,“Algorithm description for Versatile Video Coding and Test Model (VTM 5),” Document of Joint Video Experts Team (VVET) of JTU-T SG 16 WP 3 and ISO/IEC JTC 1/SC 29/WG 11, The 14th meeting: Geneva, CH, Mar.2019
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、VVCの画面内予測における方向性予測では、方向性予測モードの角度の浅い方に対して直交する方向の辺の長さが8画素以下の被予測TUではCubicフィルタ、8画素を超える被予測TUではGaussianフィルタを適用するようになっている。
【0008】
ここで比較的小さなサイズの被予測TU内では多くのテクスチャ成分が含まれて空間高周波パワーも高いと考えられるが、従来技術で用いるBilinearフィルタやCubicフィルタは、特に量子化パラメータqP(quantization parameter)値が大きい場合に、直交変換処理と量子化処理によって大きく低下した隣接TUの空間高周波パワーを補うことができないため、比較的小さなサイズの被予測TUにおける方向性予測の効率を高めることができないという課題があった。
【0009】
そこで、本発明の目的は、上述の問題に鑑みて、HEVCやVVC等のブロックベース符号化に対し親和性の高い態様で、画面内予測において8画素×8画素以下の比較的小さなサイズの被予測ブロック(TU)においても、方向性予測を高精度に行う画像符号化装置、画像復号装置及びそのプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の画像符号化装置は、画面内予測を用いて入力動画像のピクチャを符号化する画像符号化装置であって、前記画面内予測の対象とするピクチャにおける被予測ブロックの信号と、画面内予測による予測ブロックの信号とを差分して差分信号を形成し、その差分信号に対して直交変換処理及び量子化処理を施して符号化信号を生成するブロック符号化手段と、前記符号化信号に対し前記量子化処理及び前記直交変換処理の逆処理を施し、前記画面内予測による予測ブロックの信号を加算して局部復号ブロックの信号を生成する局部復号ブロック生成手段と、前記局部復号ブロックから構成される参照ブロックセットを参照して、前記ピクチャの画面内予測を実行し、前記予測ブロックの信号を生成する画面内予測手段と、前記符号化信号についてエントロピー符号化を施したビットストリームを生成するエントロピー符号化手段と、を備え、前記画面内予測手段は、画面内予測として方向性予測を行うときに、画面内予測の被予測ブロックが属するピクチャの量子化パラメータ値を参照し、前記量子化パラメータ値に応じた予め定めた閾値に対し、前記被予測ブロックの方向性予測モードの角度の浅い方に対して直交する方向の辺の長さが短いか否かを判定する空間高周波パワー補償判定手段と、前記量子化パラメータ値に応じた予め定めた閾値に対し当該辺の長さが短いと判定したときに、当該方向性予測モードとして参照する参照ブロックセットにおける前記被予測ブロックに隣接する隣接ブロックについて、符号化した際と同じ直交変換方式の直交変換処理を施して、その直交変換行列を生成する予測用直交変換手段と、前記隣接ブロックの直交変換行列に、各直交変換係数を強調する予め定めた空間高周波パワー強調行列を乗算して、空間高周波パワーを強調した隣接ブロックの直交変換行列を生成する空間高周波パワー強調手段と、前記空間高周波パワー強調後の隣接ブロックの直交変換行列に対し、前記予測用直交変換手段の逆処理となる逆直交変換を施して、空間高周波パワーが強調された画素成分の隣接TUを生成する予測用逆直交変換手段と、画面内予測のモード番号に応じた隣接ブロックの参照ブロックセットを参照し、画面内予測を実行して、前記予測ブロックの信号を生成する予測ブロック生成手段と、を有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の画像符号化装置において、前記空間高周波パワー強調手段は、前記空間高周波パワー強調行列として、符号化した際の前記量子化処理で除算に用いる量子化マトリクスを所定倍したものを用いることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の画像符号化装置において、前記空間高周波パワー補償判定手段は、前記量子化パラメータ値が高いほど前記被予測ブロックのサイズの判定に用いる前記閾値も小さくするように予め定めていることを特徴とする。
【0013】
更に、本発明の画像復号装置は、画像符号化装置によって生成されたビットストリームを入力し、復号処理を行って動画像の画面内予測によるピクチャを復元する画像復号装置であって、前記ビットストリームに対してエントロピー復号を施して符号化信号及び符号化パラメータを抽出し、抽出した符号化パラメータを基に、前記符号化信号に対し前記画像符号化装置による量子化処理及び直交変換処理の逆処理を施し、画面内予測による予測ブロックの信号を加算して復号ブロックの信号を生成する復号ブロック生成手段と、前記復号ブロックから構成される参照ブロックセットを参照して、前記ピクチャの画面内予測を実行し、前記予測ブロックの信号を生成する画面内予測手段と、前記画面内予測による復号ブロックの信号を基に前記ピクチャを復元する出力制御手段と、を備え、前記画面内予測手段は、画面内予測として方向性予測を行うときに、画面内予測の被予測ブロックが属するピクチャの量子化パラメータ値を参照し、前記量子化パラメータ値に応じた予め定めた閾値に対し、前記被予測ブロックの方向性予測モードの角度の浅い方に対して直交する方向の辺の長さが短いか否かを判定する空間高周波パワー補償判定手段と、前記量子化パラメータ値に応じた予め定めた閾値に対し当該辺の長さが短いと判定したときに、当該方向性予測モードとして参照する参照ブロックセットにおける前記被予測ブロックに隣接する隣接ブロックについて、前記画像符号化装置による符号化した際と同じ直交変換方式の直交変換処理を施して、その直交変換行列を生成する予測用直交変換手段と、前記隣接ブロックの直交変換行列に、各直交変換係数を強調する予め定めた空間高周波パワー強調行列を乗算して、空間高周波パワーを強調した隣接ブロックの直交変換行列を生成する空間高周波パワー強調手段と、前記空間高周波パワー強調後の隣接ブロックの直交変換行列に対し、前記予測用直交変換手段の逆処理となる逆直交変換を施して、空間高周波パワーが強調された画素成分の隣接TUを生成する予測用逆直交変換手段と、画面内予測のモード番号に応じた隣接ブロックの参照ブロックセットを参照し、画面内予測を実行して、前記予測ブロックの信号を生成する予測ブロック生成手段と、を有することを特徴とする。
【0014】
更に、本発明のプログラムは、コンピュータを、本発明の画像符号化装置として機能させるためのプログラムとして構成する。
【0015】
更に、本発明のプログラムは、コンピュータを、本発明の画像復号装置として機能させるためのプログラムとして構成する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、画面内予測において8画素×8画素以下の比較的小さなサイズの被予測ブロック(TU)においても、方向性予測を高精度に行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る一実施例の画像符号化装置の概略構成を示すブロック図である。
図2】(a),(b)は、それぞれ本発明に係る一実施例の画像符号化装置における画面内予測処理のブロック分割例及び方向性予測の説明図である。
図3】本発明による一実施例の画面内予測処理を示すフローチャートである。
図4】本発明に係る一実施例の画像復号装置の概略構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明による一実施例の画像符号化装置1、及び画像復号装置5について、順に説明する。
【0019】
〔画像符号化装置〕
(全体構成)
図1は、本発明による一実施例の画像符号化装置1の概略構成を示すブロック図である。画像符号化装置1は、ブロックベース符号化(本例では、HEVC)により、符号化対象ピクチャに対し画面内予測及び画面間予測のモード切替で符号化を行う装置として構成され、減算部10、DCT又はDSTによる直交変換部11、量子化部12、逆量子化部13、逆直交変換部14、加算部15、画面内予測部16、モード切替部17、ループフィルタ18、ピクチャメモリ19、画面間予測部20、及びエントロピー符号化部21を備える。
【0020】
まず、モード切替部17は、画面内予測部16による画面内予測、及び画面間予測部20による画面間予測のモード切替を行う機能部である。本発明は、画面内予測部16による画面内予測時における予測精度の改善を主旨としているので、主として、画像符号化装置1における画面内予測時について各機能部を説明する。
【0021】
減算部10は、入力動画像の符号化対象ピクチャをブロックベース符号化に基づく画面内予測のブロック(本例では、HEVCに基づくCU)単位で入力し、当該符号化対象ピクチャにおける被予測ブロック(CUからブロック分割されたTU)の信号と、後述する画面内予測部16経由でモード切替部17から得られる対応する予測ブロックの信号とを差分して差分信号を形成し、直交変換部11に出力する。
【0022】
直交変換部11は、減算部10から得られる差分信号に対してDCT等の直交変換係数に基づく周波数変換を施し、量子化部12に出力する。
【0023】
量子化部12は、直交変換部11から得られる直交変換係数の信号に対して量子化パラメータqPに基づく量子化処理を施し、逆量子化部13及びエントロピー符号化部21に出力する。これにより、符号化対象ピクチャにおける原信号のブロックに対しモード切替部17から得られる画面内予測の予測ブロックの信号を差分して得られる差分信号について直交変換及び量子化処理を施した符号化信号が生成される。
【0024】
即ち、減算部10、直交変換部11、及び量子化部12は、入力動画像の符号化対象ピクチャにおける被予測ブロックの信号と、後述する画面内予測部16による予測ブロックの信号とを差分して差分信号を形成し、その差分信号に対して直交変換処理及び量子化処理を施して符号化信号を生成するブロック符号化手段として機能する。
【0025】
逆量子化部13は、量子化部12から得られる符号化信号としての直交変換係数の信号の量子化値に対して量子化部12の逆処理を施して、直交変換係数の信号を復元し、逆直交変換部14に出力する。
【0026】
逆直交変換部14は、逆量子化部13から得られる直交変換係数の信号に対して直交変換部11の逆処理を施して差分信号を復元し、加算部15に出力する。
【0027】
加算部15は、逆直交変換部14から得られる差分信号と、後述する画面内予測部16経由でモード切替部17から得られる対応する予測ブロックの信号とを加算して局部復号ブロックの信号を生成し、画面内予測部16に出力する。
【0028】
即ち、逆量子化部13、逆直交変換部14、及び加算部15は、量子化部12から得られる符号化信号に対し量子化部12及び直交変換部11の逆処理を施し、後述する画面内予測部16経由でモード切替部17から得られる対応する予測ブロックの信号を加算して局部復号ブロックの信号を生成する局部復号ブロック生成手段として機能する。
【0029】
尚、本発明とは関係しないが、画面間予測時では、加算部15は、逆直交変換部14から得られる差分信号と、画面間予測部20経由でモード切替部17から得られる対応する予測ブロックの信号とを加算して局部復号ブロックの信号を生成し、ループフィルタ18に出力する。
【0030】
画面間予測時では、ループフィルタ18は、加算部15から得られる局部復号ブロックの信号に対しデブロッキングフィルタ等のループフィルタ処理を施して、ピクチャメモリ19に出力する。
【0031】
画面間予測時では、ピクチャメモリ19は、このループフィルタ処理後の局部復号ブロックから画面間予測に用いる参照ピクチャを構成して、所定の記憶領域内に一時記憶する。即ち、ループフィルタ18及びピクチャメモリ19は、局部復号ブロックにループフィルタ処理を施し、参照ピクチャを構成する。
【0032】
そして、画面間予測部22は、ピクチャメモリ19から得られる復号済みの参照ピクチャを参照して、符号化対象ピクチャの画面間予測をブロック単位で実行し、その画面間予測結果のブロックを画面間予測の予測ブロックとして生成することになる。
【0033】
画面内予測及び画面間予測において、エントロピー符号化部21は、量子化部12から得られる符号化信号についてエントロピー符号化処理(本例では、CABAC(Context-based Adaptive Binary Arithmetic Cording)による算術符号化)を施し、ブロック単位(本例では、CU単位)の符号化信号についてエントロピー符号化を施したビットストリームを生成して、後述する画像復号装置5に向けて伝送する。尚、符号化信号の生成に係る符号化パラメータ(画面内予測に係る参照ピクチャ情報、ブロックサイズ及び参照領域情報等)についても、エントロピー符号化(例えば算術符号化)を施したビットストリームを生成して画像復号装置5に向けて伝送する。
【0034】
ここで、本実施例における画面内予測部16は、HEVCに規定されているように、符号化処理の基本単位であるブロックをCTUとし、画面内予測の予測処理・変換処理等の基本単位である符号化対象のブロックをCUの集合により構成される。そして、CUは、CUに対しTUの集合で再帰的にブロック分割する。また、HEVCにおける画面内予測では、被予測TUについて、PUサイズによって方向性予測の予測モードを規定しており、モード番号で識別される。
【0035】
図2(a),(b)には、それぞれ本発明に係る一実施例の画像符号化装置1における画面内予測部16の画面内予測処理のブロック分割例及び方向性予測の説明図を示している。図2(a)に例示するように、画面内予測部16は、或る被予測TUの予測ブロックの信号を生成するときは、その隣接ブロックである復号済みの隣接TU(図示する例では、隣接TU_A,隣接TU_B,隣接TU_C)を参照ブロックセットとして参照し、方向性予測、平面予測、及び水平方向予測のうちいずれかのモードにより画面内予測処理を実行し、当該被予測TUの予測ブロックの信号を生成する。例えば、図2(b)に例示するように、被予測TUの或る画素を方向性予測により予測するときは、モード番号2~34で規定される方向によって、復号済みの隣接TUの画素を用いて予測した画素値を決定する。尚、モード番号0は平面予測であり、モード番号1は水平方向予測である。
【0036】
ところで、この被予測TUの或る画素を方向性予測により予測するときに、その方向性予測の角度によっては小数画素位置となる場合があり、従来技術では、8画素×8画素以下の比較的小さなサイズの被予測TUの場合ではBilinearフィルタ(HEVC)やCubicフィルタ(VVC)を用いて補償する処理を行うが、量子化パラメータqP値が大きい場合に、直交変換処理と量子化処理によって大きく低下した隣接TUの空間高周波パワーを補うことができない。
【0037】
そこで、本実施例における画面内予測部16は、図3を参照して以下に説明するが、被予測TUの方向性予測モードの角度の浅い方に対して直交する方向の辺の長さと被予測TUが属するビクチャのqP値を調べて、後述する予め定めた条件を満たすときは復号済みの隣接TUの空間高周波パワーを補償することで、方向性予測を高精度に行うようにしている。
【0038】
(画面内予測処理)
図3は、本発明による一実施例の画面内予測部16の画面内予測処理を示すフローチャートである。
【0039】
まず、画面内予測部16は、被予測TUの予測ブロックの信号を生成するために、モード番号に応じて、画面内予測として方向性予測を行うときはステップS2に移行し(ステップS1:Y)、平面予測又は水平方向予測を行うときはステップS8に移行する(ステップS1:N)。
【0040】
方向性予測を行う場合(ステップS1:Y)、画面内予測部16は、被予測TUが属するピクチャ(PU)の量子化パラメータqP値を参照し(ステップS2)、qP値に応じた予め定めた閾値に対し、被予測TUの方向性予測モードの角度の浅い方に対して直交する方向の辺の長さが短いか否かを判定し、その条件を満たすときはステップS4に移行し(ステップS3:Y)、その条件を満たさないときはステップS8に移行する(ステップS3:N)。
【0041】
即ち、qP値に応じた予め定めた閾値に対し、被予測TUの方向性予測モードの角度の浅い方に対して直交する方向の辺の長さが短い場合(ステップS3:Y)、画面内予測部16は、当該方向性予測モードとして参照する被予測TUに隣接する隣接TUについて、空間高周波パワーを補償する旨を示すフラグを設定する(ステップS4)。この隣接TUについて空間高周波パワーを補償するか否かを決定する処理は、空間高周波パワー補償判定手段として構成される。例えば、図2(b)において、方向性予測モード時に、角度が浅い方に対して直交する方向の辺の長さとは、モード番号2~17の予測方向であれば角度が浅い方は水平方向でその直交する方向の辺は被予測TUの左辺(右辺も同じ)である。また、モード番号18の予測方向であれば角度が浅い方は水平方向及び垂直方向でその直交する方向の辺は被予測TUの左辺(右辺も同じ)と上辺(下辺も同じ)のうち予め定めた一方の辺である。また、モード番号19~34の予測方向であれば角度が浅い方は垂直方向でその直交する方向の辺は被予測TUの上辺(下辺も同じ)である。
【0042】
この隣接TUについて空間高周波パワーを補償するか否かを決定するためのqP値と当該辺の長さの閾値は、表1に示すように、実験により予め事前に設定する。表1は、隣接TUについて空間高周波パワーを補償するか否かを決定するための判定に用いるqP値に応じた当該辺の長さの閾値の例示しており、qP値が高いほど被予測TUのサイズの判定に用いる閾値も小さくするように設定している。そして、空間高周波パワー補償判定手段は、被予測TUが属するピクチャ(PU)のqP値に応じて、被予測TUの方向性予測モードの角度の浅い方に対して直交する方向の辺の長さが表1に示す閾値以下であれば、隣接TUについて空間高周波パワーを補償するとして決定する。
【0043】
【表1】
【0044】
続いて、画面内予測部16は、空間高周波パワーを補償する旨を示すフラグが設定されたときは、当該方向性予測モードとして参照する隣接TUに直交変換を施して、その直交変換行列を生成する(ステップS5)。画面内予測部16で用いる直交変換は、直交変換部11により隣接TUを符号化した際と同じ直交変換方式を用いるものとし、例えば、隣接TUをDCTにより符号化していたときは、同じくDCTを用いる。この処理は、予測用直交変換手段として構成される。
【0045】
続いて、画面内予測部16は、その隣接TUの直交変換行列に、各直交変換係数をα倍する予め定めた空間高周波パワー強調行列を乗算して、空間高周波パワーを強調した隣接TUの直交変換行列を生成する(ステップS6)。この処理は、空間高周波パワー強調手段として構成される。
【0046】
この空間高周波パワー強調行列として、量子化部12における量子化処理で除算に用いる量子化マトリクスをα倍したものを用いるのが親和性の観点から好適であり、このα倍した量子化マトリクスを当該隣接TUの直交変換行列に乗算することで、その直交変換行列において量子化により0となった係数以外を強調することができる。ここで、αは通常は1とするが、原画像に雑音成分が大きく重畳されている用途には、その影響を避けるためにαを1未満の値に設定することができる。
【0047】
続いて、画面内予測部16は、空間高周波パワー強調後の隣接TUの直交変換行列に対し、当該予測用直交変換手段の逆処理となる逆直交変換を施して、空間高周波パワーが強調された画素成分の隣接TUを生成する(ステップS7)。この処理は、予測用逆直交変換手段として構成される。
【0048】
最終的に、画面内予測部16は、モード番号に応じた隣接TUを参照し画面内予測を実行して、予測ブロックの信号を生成する。この処理は、予測ブロック生成手段として構成される。
【0049】
これにより、被予測TU内に多くのテクスチャ成分が含まれて空間高周波パワーが高いと想定される場合には、8画素×8画素以下の比較的小さなサイズの被予測TUの場合でも、隣接TUの空間高周波パワーの補償を行うため、方向性予測を高精度に行うことができる。
【0050】
〔画像復号装置〕
(全体構成)
図4は、本発明による一実施例の画像復号装置5の概略構成を示すブロック図である。図4に示す画像復号装置5は、上述した図3に示す画面内予測処理を復号側でも同じく行う点を除き、HEVCやVVCなどのブロックベース符号化方式の既存の装置と同様とすることができる。
【0051】
即ち、画像復号装置5は、エントロピー復号部50、逆量子化部51、逆直交変換部52、加算部53、画面内予測部54、モード切替部55、ループフィルタ56、ピクチャメモリ57、画面内予測部58、及び出力制御部59を備える。
【0052】
まず、モード切替部55は、画面内予測部54による画面内予測、及び画面間予測部58による画面間予測のモード切替を行う機能部である。以下、主として、画像復号装置5における画面内予測時について各機能部を説明する。
【0053】
エントロピー復号部50は、画像符号化装置1から伝送されるビットストリームを入力し、エントロピー復号処理を施すことにより、符号化信号及び符号化パラメータを抽出し、符号化信号については逆量子化部51に、符号化パラメータについては各機能部に出力する。
【0054】
逆量子化部51は、エントロピー復号部50から得られる符号化信号である直交変換の直交変換係数の信号の量子化値に対して画像符号化装置1の量子化部12の逆処理を施して、直交変換係数の信号を復元し、逆直交変換部52に出力する。
【0055】
逆直交変換部52は、逆量子化部51から得られる直交変換係数の信号に対して画像符号化装置1の直交変換部11の逆処理を施して差分信号を復元し、加算部53に出力する。
【0056】
加算部53は、逆直交変換部52から得られる差分信号と、画面内予測部54経由でモード切替部55から得られる対応する予測ブロックの信号とを加算して復号ブロックの信号を生成し、画面内予測部54、及び出力制御部59に出力する。
【0057】
即ち、逆量子化部51、逆直交変換部52、及び加算部53は、エントロピー復号部50から得られる符号化信号に対し画像符号化装置1の量子化部12及び直交変換部11の逆処理を施し、画面内予測部54経由でモード切替部55から得られる対応する予測ブロックの信号を加算して復号ブロックの信号を生成する復号ブロック生成手段として機能する。
【0058】
尚、本発明とは関係しないが、画面間予測時では、加算部53は、逆直交変換部52から得られる差分信号と、画面内予測部54から得られる対応する予測ブロックとを加算して復号ブロックの信号を生成し、ループフィルタ56、及び出力制御部59に出力する。
【0059】
画面間予測時では、ループフィルタ56は、加算部53から得られる復号ブロックの信号に対しデブロッキングフィルタ等のループフィルタ処理を施して、ピクチャメモリ57に出力する。
【0060】
画面間予測時では、ピクチャメモリ57は、このループフィルタ処理後の復号ブロックから画面間予測に用いる参照ピクチャを構成して、所定の記憶領域内に一時記憶する。
【0061】
画面間予測部58は、参照ピクチャを用いた画面内予測をブロック単位で実行し、モード切替部55を介してその画面内予測結果である予測ブロックを加算部53に出力する。
【0062】
そして、出力制御部59は、加算部53から得られる復号ブロックの信号を入力して原信号に対応するピクチャを復元し、その画像信号を図示しないディスプレイや記録部に外部出力する。この出力制御部59は、画面内予測による復号ブロックの信号を基にピクチャを復元する出力制御手段として機能する。
【0063】
ここで、画像復号装置5における画面内予測部54は、画像符号化装置1における画面内予測部16と同様に、図3に示す画面内予測処理を実行する。
【0064】
従って、本発明に係る画像符号化装置1及び画像復号装置5における画面内予測部16,54は、被予測TUの方向性予測モードの角度の浅い方に対して直交する方向の辺の長さと被予測TUが属するビクチャのqP値を調べて、後述する予め定めた条件を満たすときは復号済みの隣接TUの空間高周波パワーを補償することで、8画素×8画素以下の比較的小さなサイズの被予測ブロック(TU)においても、方向性予測を高精度に行うことができる。
【0065】
上述した実施例に関して、コンピュータを画像符号化装置1として機能させ、画像符号化装置1の各手段を機能させるためのプログラムを好適に用いることができる。また、コンピュータを画像復号装置5として機能させ、画像復号装置5の各手段を機能させるためのプログラムを好適に用いることができる。具体的には、各手段を制御するための制御部をコンピュータ内の中央演算処理装置(CPU)で構成でき、且つ、各手段を動作させるのに必要となるプログラムを適宜記憶する記憶部を少なくとも1つのメモリで構成させることができる。即ち、そのようなコンピュータに、CPUによって該プログラムを実行させることにより、上述した各手段の有する機能を実現させることができる。また、上述した各手段をハードウェア又はソフトウェアの一部として構成させ、各々を組み合わせて実現させることもできる。
【0066】
上述の実施例については代表的な例として説明したが、本発明の趣旨及び範囲内で、多くの変更及び置換することができることは当業者に明らかである。例えば、上述した実施例では、CABACにより算術符号化するとして説明したが、その他の算術符号化によるエントロピー符号化を用いてもよい。従って、本発明は、上述の実施例によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲によってのみ制限される。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によれば、HEVCやVVCなどの既存のブロックベース符号化処理との親和性の高い態様で、画面内予測精度を高めることができるので、画面内予測を用いる符号化・復号処理の用途に有用である。
【符号の説明】
【0068】
1 画像符号化装置
5 画像復号装置
10 減算部
11 直交変換部
12 量子化部
13 逆量子化部
14 逆直交変換部
15 加算部
16 画面内予測部
17 モード切替部
18 ループフィルタ
19 ピクチャメモリ
20 画面間予測部
21 エントロピー符号化部
50 エントロピー復号部
51 逆量子化部
52 逆直交変換部
53 加算部
54 画面内予測部
55 モード切替部
56 ループフィルタ
57 ピクチャメモリ
58 画面間予測部
59 出力制御部
図1
図2
図3
図4