(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-05
(45)【発行日】2024-06-13
(54)【発明の名称】立体像奥行き制御装置及びそのプログラム
(51)【国際特許分類】
G06T 19/00 20110101AFI20240606BHJP
H04N 13/128 20180101ALI20240606BHJP
H04N 13/275 20180101ALI20240606BHJP
H04N 13/307 20180101ALI20240606BHJP
【FI】
G06T19/00 F
H04N13/128
H04N13/275
H04N13/307
(21)【出願番号】P 2020103436
(22)【出願日】2020-06-16
【審査請求日】2023-05-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮下 山斗
(72)【発明者】
【氏名】澤畠 康仁
【審査官】鈴木 肇
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-141819(JP,A)
【文献】特開2019-197368(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 19/00
H04N 13/00 - 13/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め設定した解像度を満たす奥行き再現範囲に収まるように被写体の3次元モデルを奥行き圧縮し、奥行き圧縮された後の前記3次元モデルから要素画像を生成する立体像奥行き制御装置であって、
立体像の観視位置の移動を考慮しない静的な奥行き圧縮により、前記3次元モデルを構成する各頂点の座標である静的頂点座標を算出する静的頂点座標算出部と、
前記観視位置の移動を考慮した動的な奥行き圧縮により、前記観視位置に応じた前記3次元モデルを構成する各頂点の座標である動的頂点座標を算出する動的頂点座標算出部と、
前記静的な奥行き圧縮と前記動的な奥行き圧縮との調整割合に基づいて、前記静的頂点座標と前記動的頂点座標との間で前記3次元モデルの頂点座標を調整する頂点座標調整部と、
前記頂点座標を調整後の前記3次元モデルから前記要素画像を生成する要素画像生成部と、
を備え、
前記観視位置の移動を考慮しない静的な奥行き圧縮は、前記3次元モデルの頂点座標
p(x,y,z)を頂点座標p
0´(x
0´,y
0´,z
0´)に変換する式(1)で表され、
【数1】
前記観視位置の移動を考慮した動的な奥行き圧縮は、前記3次元モデルの頂点座標p(x,y,z)を頂点座標p
1´(x
1´,y
1´,z
1´)に変換する式(3)で表され、
【数2】
ることを特徴とする立体像奥行き制御装置。
【請求項2】
前記頂点座標調整部は、以下の式(5)に示すように、
【数3】
前記調整割合sに基づいて、前記静的頂点座標p
0´と前記動的頂点座標p
1´との間で前記3次元モデルの頂点座標p
mod1´を調整することを特徴とする請求項1に記載の立体像奥行き制御装置。
【請求項3】
前記調整割合を前記立体像の奥行き位置と視距離との関係で表した学習モデルを生成する学習モデル生成部と、
前記奥行き位置及び前記視距離を入力し、入力した前記奥行き位置及び前記視距離に対応する前記調整割合を前記学習モデルから取得する調整割合取得部と、を備え、
前記頂点座標調整部は、前記調整割合取得部が取得した調整割合に基づいて、前記3次元モデルの頂点座標を調整することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の立体像奥行き制御装置。
【請求項4】
前記頂点座標調整部は、
調整割合入力装置から入力した前記調整割合に基づいて、前記3次元モデルの頂点座標を調整することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の立体像奥行き制御装置。
【請求項5】
コンピュータを、請求項1から請求項4の何れか一項に記載の立体像奥行き制御装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被写体の3次元モデルを奥行き圧縮する立体像奥行き制御装置及びそのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
インテグラル3Dディスプレイは、要素画像を表示したフラットディスプレイにレンズアレイを重ね合わせて配置したものであり、特別な眼鏡なしで、あたかもそこに物体があるかのような表示が可能である。インテグラル方式は、3次元空間中の光線を再現することで、水平・垂直方向の両眼視差および運動視差を眼鏡なしで自然に提示することができる。また、インテグラル方式は、物体から出る光線を再現することから、3Dディスプレイの主な課題である輻輳と調節が不一致となる問題を回避することができる。
【0003】
一方で、インテグラル方式のような空間像再生型の3Dディスプレイでは、奥行きの広いシーンの提示が困難という課題がある。具体的には、レンズアレイ面から奥行き方向に離れるほど空間周波数が低下するため、離れた位置に像を表示すると、その像が大きくぼやけてしまう。
図8に示すように、インテグラル方式で再生される立体像の解像度(空間周波数γ)は、レンズアレイ位置(z=0)近傍の前後一定の奥行き再現範囲で所定解像度(ナイキスト周波数)を維持し、その範囲を超えると急激に低下する特性を有する。この所定解像度は、レンズアレイを構成する要素レンズの間隔(ピッチ)で特定され、この奥行き再現範囲を超えた立体像は、レンズアレイの位置から離れるにつれてぼやけてしまう。これは、インテグラル方式においては、原理的に立体像がぼやけずに表示可能な奥行き再現範囲が存在することを意味する。
【0004】
同一の被写体を撮影した画像などぼやけが生じない領域(奥行き再現範囲)を広げるためには、要素画像の画素ピッチを小さくする必要があり、システム開発の負担となる(非特許文献1)。そこで、
図9に示すように、3Dシーンの奥行きを圧縮し、ぼやけを回避する従来手法が提案されている(非特許文献2)。この従来手法では、以下の式(1)に示すように、シーン中の物体(3次元モデルM)を構成する頂点座標p(x,y,z)を頂点座標p
0´(x
0´,y
0´,z
0´)に変換する。その際、観視者9から見て画面奥から手前方向に移動させ、奥行きの広いシーンをぼやけずに表示可能な狭い範囲に圧縮する。
【0005】
【0006】
なお、式(1)において、f(z)は、
図10に示すように、観視者9から見て、ある頂点座標を奥側の奥行き位置zから手前側の奥行き位置z´に移動させる関数である。また、式(1)において、x
0´,y
0´の変換は、奥行き圧縮の原点から見て、圧縮の前後で物体の見た目の大きさが変わらないように縮小する変換である。
【0007】
なお、pv0(0,0,0)を初期の観視位置(標準観視位置)とする。また、頂点座標がディスプレイに投影された点の水平位置及び垂直位置をそれぞれ(i,j)とする。また、下付きの文字preは圧縮前の頂点の投影を表し、下付きの文字postは圧縮後の頂点の投影を表す。また、下付きの数字0は初期の観視位置の投影を表す。また、下付きの数字1は移動後の観視位置の投影を表す。
【0008】
インテグラル3Dディスプレイの画素間隔および要素レンズの間隔とぼやけが生じずに表示できる奥行き範囲(奥行き再現範囲)とを求め、非線形の奥行き圧縮関数を決定する手法が提案されている(特許文献1)。以後、この従来技術のように、観視位置の移動を考慮せずにシーンの奥行きを静的に圧縮することを「静的な奥行き圧縮」と呼ぶ。
【0009】
この静的な奥行き圧縮では、観視位置を移動した際、物体の形状の歪み (shape distortion)が顕著になる。
図11に示すように、初期の観視位置p
v0(0,0,0)では、奥行き圧縮の前後において、点p
0´(x
0´,y
0´,z
0´),p
1´(x
1´,y
1´,z
1´)は同一位置のままである。その一方、移動後の観視位置p
v1(x
v1,y
v1,z
v1)では、奥行き圧縮の前後でディスプレイ上の投影点(i
pre1,j
pre1),(i
post1,j
post1)がずれてしまい、物体の形状が歪んで見えてしまう。このように、静的な奥行き圧縮では、奥行きの潰された物体を正面から見ても潰れていることには気が付きにくいが、横に回り込んで見ると潰れによる形状の歪みが目立ってしまう。
【0010】
ここで、形状の歪みを、以下の式(2)に示すように、初期の観視位置及び移動後の観視位置のそれぞれにおける、インテグラル3Dディスプレイに投影した点のずれDshape0,Dshape1と定義する。
【0011】
【0012】
このように、静的な奥行き圧縮では、初期の観視位置で形状の歪みが発生せず、Dshape0=0となる。一方、静的な奥行き圧縮では、観視位置が移動すると、Dshape1>0となり、形状の歪みが増加する。
【0013】
そこで、
図12に示すように、観視位置の移動を考慮してシーンの奥行きを動的に圧縮する手法が提案されており、以後、「動的な奥行き圧縮」と呼ぶ(非特許文献3)。この動的な奥行き圧縮では、観視位置をリアルタイムに計測するために、観視者9を赤外線カメラやRGBカメラで撮影して画像処理することが行われている。また、動的な奥行き圧縮では、以下の式(3)に基づいて、物体の頂点座標p(x,y,z)をp
1´(x
1´,y
1´,z
1´)に変換する。
【0014】
【0015】
この動的な奥行き圧縮では、
図12に示すように、奥行き圧縮の前後で投影点(i
pre1,j
pre1),(i
post1,j
post1)が常に一致するため、形状の歪みが発生しない。これと同様、奥行き圧縮の前後で投影点(i
pre0,j
pre0),(i
post0,j
post0)も一致する。従って、D
shape0=0、D
shape1=0となる。
【0016】
一方、この動的な奥行き圧縮では、観視位置を移動した際、本来は空中に静止して見えるはずの物体が、観視位置の移動方向と同じ方向にスライドして見えてしまうことがある。観視位置の移動に応じた空間の歪み(shear distortion)は、2眼立体ディスプレイで撮影カメラ間隔が観視者9の両眼間隔と一致していないときに発生することが知られている(非特許文献4)。ここでは、空間の歪みは、以下の式(4)に示すように定義する。
【0017】
【0018】
前記した空間の歪みと形状の歪みとの間には、トレードオフの関係がある。例えば、静的な奥行き圧縮ではDshear1=0、Dshape1>0であり、動的な奥行き圧縮ではDshear1>0、Dshape1=0となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【非特許文献】
【0020】
【文献】Hoshino H, Okano F, Isono H, Yuyama , Analysis of resolution limitation of integral photography, Opt Soc Am, 1998,15(8),2059-2065
【文献】Sawahata Y, Morita , Estimating Depth Range Required for 3-D Displays to Show Depth-Compressed Scenes Without Inducing Sense of Unnaturalness, IEEE Trans Broadcast, 2018,64(2),488-497
【文献】Miyashita Y, Sawahata Y, Katayama M, Komine , Depth boost: Extended depth reconstruction capability on volumetric display, In: ACM SIGGRAPH 2019 Talks, SIGGRAPH 2019,2019
【文献】Wartell Z, Hodges LF, Ribarsky , Balancing fusion, image depth and distortion in stereoscopic head-tracked displays, Proc 26th Annu Conf Comput Graph Interact Tech SIGGRAPH 1999, 1999,351-358
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
しかし、前記した従来技術では、3次元映像の奥行き圧縮表現において、空間の歪み及び形状の歪みを調整できる仕組みがなく、どちらか一方の歪みが最大の状態しか選択することができない。
【0022】
そこで、本発明は、空間の歪みと形状の歪みとの割合を調整できる立体像奥行き制御装置及びそのプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
前記課題を解決するため、本発明に係る立体像奥行き制御装置は、予め設定した解像度を満たす奥行き再現範囲に収まるように被写体の3次元モデルを奥行き圧縮し、奥行き圧縮された後の3次元モデルから要素画像を生成する立体像奥行き制御装置であって、静的頂点座標算出部と、動的頂点座標算出部と、頂点座標調整部と、要素画像生成部と、を備える構成とした。
【0024】
かかる構成によれば、静的頂点座標算出部は、立体像の観視位置の移動を考慮しない静的な奥行き圧縮により、3次元モデルを構成する各頂点の座標である静的頂点座標を算出する。
動的頂点座標算出部は、観視位置の移動を考慮した動的な奥行き圧縮により、観視位置に応じた3次元モデルを構成する各頂点の座標である動的頂点座標を算出する。
頂点座標調整部は、静的な奥行き圧縮と動的な奥行き圧縮との調整割合に基づいて、静的頂点座標と動的頂点座標との間で3次元モデルの頂点座標を調整する。
要素画像生成部は、頂点座標を調整後の3次元モデルから要素画像を生成する。
観視位置の移動を考慮しない静的な奥行き圧縮は、3次元モデルの頂点座標p(x,y,z)を頂点座標p0´(x0´,y0´,z0´)に変換する式(1)で表される。
観視位置の移動を考慮した動的な奥行き圧縮は、3次元モデルの頂点座標p(x,y,z)を頂点座標p1´(x1´,y1´,z1´)に変換する式(3)で表される。
【0025】
すなわち、前記した調整割合は、静的な奥行き圧縮に起因した形状の歪みと、動的な奥行き圧縮に起因した空間の歪みとの割合を表している。従って、立体像奥行き制御装置は、頂点座標調整部において、空間の歪みと形状の歪みとの双方を緩和できるように、これら双方の割合を調整することができる。
【0026】
なお、本発明は、コンピュータを、前記した立体像奥行き制御装置として機能させるためのプログラムで実現することもできる。
【発明の効果】
【0027】
本発明は、空間の歪みと形状の歪みとの割合を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】第1実施形態に係る立体像表示システムの概略構成図である。
【
図2】第1実施形態において、調整割合入力装置の一例を説明する説明図である。
【
図3】第1実施形態に係る立体像奥行き制御装置の構成を示すブロック図である。
【
図4】第1実施形態において、3次元モデルの頂点座標の調整を説明する説明図である。
【
図5】第1実施形態において、調整割合の設定と形状の歪み及び空間の歪みとの関係を説明する説明図である。
【
図6】第1実施形態に係る立体像奥行き制御装置の動作を示すフローチャートである。
【
図7】第2実施形態に係る立体像奥行き制御装置の構成を示すブロック図である。
【
図8】従来のインテグラル3Dディスプレイにおける奥行き再現範囲を説明する説明図である。
【
図9】従来の静的な奥行き圧縮を説明する説明図である。
【
図10】従来の静的な奥行き圧縮において、奥行きを圧縮する関数の一例を示すグラフである。
【
図11】従来の静的な奥行き圧縮における形状の歪みを説明する説明図である。
【
図12】従来の動的な奥行き圧縮を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の各実施形態について図面を参照して説明する。但し、以下に説明する各実施形態は、本発明の技術思想を具体化するためのものであって、特定的な記載がない限り、本発明を以下のものに限定しない。また、各実施形態において、同一の手段には同一の符号を付し、説明を省略することがある。
【0030】
(第1実施形態)
[立体像表示システムの構成]
図1を参照し、第1実施形態に係る立体像表示システム100の構成について説明する。
立体像表示システム100は、被写体の3次元モデルから要素画像を生成し、生成した要素画像を表示するものである。このとき、立体像表示システム100は、後記する立体像奥行き制御装置4において、立体像表示装置1の奥行き再現範囲に収まるように3次元モデルを奥行き圧縮する。
図1に示すようには、立体像表示システム100は、立体像表示装置1と、観視位置計測装置2と、調整割合入力装置3と、立体像奥行き制御装置4とを備える。
【0031】
立体像表示装置1は、インテグラル方式の立体像を表示する一般的なインテグラル3Dディスプレイである。この立体像表示装置1は、立体像奥行き制御装置4から要素画像を入力し、図示を省略したレンズアレイを介して要素画像を表示することで、観視者9に対して立体像Tを視認させる。
【0032】
観視位置計測装置2は、観視者9が立体像Tを観視する位置(観視位置)を計測するものである。この観視位置計測装置2は、赤外線カメラやRGBカメラで構成することができる。具体的には、観視位置計測装置2は、2台のRGBカメラで撮影した観視者9のカメラ画像から、強膜反射法や角膜・瞳孔反射法によって、観視者9の左右の角膜をそれぞれ検出し、三角測量の原理により、3次元の観視位置を求め、立体像表示装置1から観視者9までの視距離を計測してもよい。そして、観視位置計測装置2は、計測した観視位置及び視距離を立体像奥行き制御装置4に入力する。
【0033】
調整割合入力装置3は、調整割合sを観視者9が設定し、この調整割合sを立体像奥行き制御装置4(頂点座標調整部43)に入力するものである。例えば、調整割合入力装置3は、
図2に示すように、0から1までの間で調整割合sを任意に設定できるスライダである(0≦s≦1)。この調整割合sは、静的な奥行き圧縮と動的な奥行き圧縮との割合を表している。すなわち、調整割合sは、静的な奥行き圧縮に起因した形状の歪みと、動的な奥行き圧縮に起因した空間の歪みとの割合を表している。
【0034】
立体像奥行き制御装置4は、予め設定した立体像表示装置1の解像度を満たす奥行き再現範囲に収まるように被写体の3次元モデルを奥行き圧縮し、奥行き圧縮された後の3次元モデルから要素画像を生成するものである。このとき、立体像奥行き制御装置4は、調整割合入力装置3から入力した調整割合に基づいて、空間の歪みと形状の歪みとの双方の割合を調整する。
なお、立体像奥行き制御装置4では、図示を省略した3次元モデル生成装置から3次元モデルを入力することとし、この3次元モデルの種類や生成方法は特に制限されない。
【0035】
[立体像奥行き制御装置の構成]
図3を参照し、立体像奥行き制御装置4の構成について説明する。
図3に示すように、立体像奥行き制御装置4は、奥行き圧縮部40と、要素画像生成部44とを備える。
【0036】
奥行き圧縮部40は、被写体の3次元モデルを入力し、入力した3次元モデルを奥行き圧縮するものである。
図3に示すように、奥行き圧縮部40は、静的頂点座標算出部41と、動的頂点座標算出部42と、頂点座標調整部43とを備える。
【0037】
静的頂点座標算出部41は、観視位置の移動を考慮しない静的な奥行き圧縮により、3次元モデルを構成する各頂点の座標である静的頂点座標を算出するものである。ここで、静的頂点座標算出部41は、従来と同様の静的な奥行き圧縮を行うこととする。例えば、静的頂点座標算出部41は、前記した式(1)を用いて、3次元モデルの頂点座標pを静的頂点座標p0´に変換する。そして、静的頂点座標算出部41は、算出した3次元モデルの静的頂点座標p0´を頂点座標調整部43に出力する。
【0038】
動的頂点座標算出部42は、観視位置の移動を考慮した動的な奥行き圧縮により、観視位置に応じて、3次元モデルを構成する各頂点の座標である動的頂点座標を算出するものである。ここで、動的頂点座標算出部42は、調整割合入力装置3から入力した観視位置に応じて、従来と同様の動的な奥行き圧縮を行うこととする。例えば、動的頂点座標算出部42は、前記した式(3)を用いて、3次元モデルの頂点座標pを動的頂点座標p1´に変換する。そして、動的頂点座標算出部42は、算出した3次元モデルの動的頂点座標p1´を頂点座標調整部43に出力する。
【0039】
頂点座標調整部43は、調整割合入力装置3から入力した調整割合sに基づいて、静的頂点座標算出部41から入力した静的頂点座標p0´と動的頂点座標算出部42から入力した動的頂点座標p1´との間で3次元モデルの頂点座標を調整するものである。そして、頂点座標調整部43は、頂点座標を調整後の3次元モデルを要素画像生成部44に出力する。
【0040】
<頂点座標の調整>
図4及び
図5を参照し、頂点座標調整部43による頂点座標の調整を詳細に説明する。
具体的には、頂点座標調整部43は、以下の式(5)を用いて、3次元モデルの頂点座標p
mod1´が静的頂点座標p
0´と動的頂点座標p
1´との間に位置するように、この頂点座標p
mod1´を算出する。このとき、頂点座標調整部43は、観視位置の移動方向の逆方向に頂点座標p
mod1´をシフトすればよい。
【0041】
【0042】
図4に示すように、頂点座標p
mod1´は、x軸方向及びy軸方向において、調整割合sに応じて、静的頂点座標p
0´と動的頂点座標p
1´との間でシフトする。具体的には、調整割合sが0に近づくほど、頂点座標p
mod1´が静的頂点座標p
0´に近くなる一方、調整割合sが1に近づくほど、頂点座標p
mod1´が動的頂点座標p
1´に近くなる。なお、
図4において、投影点(i
mod1,j
mod1)は、頂点座標p
mod1´をディスプレイに投影した点である。
【0043】
図5に示すように、調整割合sが0に近づくほど、形状の歪みが大きくなる一方、空間の歪みが小さくなる。
図5の例では、調整割合sが0に近づくほど、被写体Aの右側直線が曲線状に歪んでしまう。そして、調整割合s=0の場合、静的な奥行き圧縮と同義となり、形状の歪みだけが発生し、空間の歪みが発生しなくなる。
その一方、調整割合sが1に近づくほど、空間の歪みが大きくなる一方、形状の歪みが小さくなる。
図5の例では、調整割合sが1に近づくほど、被写体Bが右側にスライドしてしまう。そして、調整割合s=1の場合、動的な奥行き圧縮と同義となり、空間の歪みだけが発生し、形状の歪みが発生しなくなる。
【0044】
ここで、最適な調整割合sの値は、立体像表示装置1の観視環境によって異なると考えられる。例えば、映画館のような大画面の観視環境では、観視者9が頭部を動かしながら観視することが少ない。このため、空間の歪みよりも形状の歪みを緩和したほうがよいので、調整割合sの値を大きくする。一方、タブレットのような小画面の観視環境では、画面を両手で容易に動かせることから、観視者9が頭部とディスプレイと相対的な位置関係が大きく変わりやすくなる。従って、形状の歪みよりも空間の歪みを緩和した方がよいので、調整割合sの値を小さくする。
【0045】
さらに、調整割合sの値は、観視環境だけでなく、コンテンツの特徴によっても異なると考えれる。例えば、カメラモーションの大きいコンテンツでは、運動視差を十分に含んでいるために、観視者9が積極的に頭部を動かさないと考えられる。この場合、形状の歪みを優先的に緩和した方がよいので、調整割合sの値を大きくする。一方、多方面から観視するコンテンツでは、観視者9が積極的に頭部を動かすと考えられる。この場合、空間の歪みを優先的に緩和した方がよいので、調整割合sの値を小さくする。例えば、調整法等を用いた視覚心理実験を実施することで、観視環境やコンテンツの種類に応じた最適な調整割合sの値を求めることができる。
【0046】
図3に戻り、立体像奥行き制御装置4の説明を続ける。
要素画像生成部44は、頂点座標調整部43より入力した3次元モデルから要素画像を生成するものである。ここで、要素画像生成部44は、光線追跡法などの従来手法を用いて、3次元モデルから要素画像を生成できる。
【0047】
光線追跡法とは、立体像表示装置1のレンズアレイを構成する各要素レンズと要素画像の各画素とを結ぶ直線を延長し、延長した直線と3次元モデルの表面との交点の色情報を当該画素の画素値として取得するものである。例えば、光線追跡法は、以下の参考文献1,2に詳細に記載されているため、これ以上の説明を省略する。
【0048】
参考文献1:片山、「3次元モデルからインテグラル立体像への変換手法」、日本放送協会、NHK技研R&D、No.128、2011年7月
参考文献2:「3次元モデルからのインテグラル立体像の生成技術」、日本放送協会、NHK技研R&D、No.123、2010年9月
【0049】
また、要素画像生成部44は、光線追跡法以外で要素画像を生成してもよい。例えば、要素画像生成部44は、アレイ状に配置した仮想カメラで3次元モデルを撮影した多視点画像を生成し、この多視点画像を要素画像に変換してもよい(例えば、参考文献3)。
参考文献3:池谷、「多視点カメラを用いたインテグラル立体像の生成手法」、日本放送協会、NHK技研R&D、No.146、2014年8月
【0050】
その後、要素画像生成部44は、生成した要素画像を立体像表示装置1に出力する。すると、立体像表示装置1は、レンズアレイを介して要素画像を表示し、観視者9に対して立体像Tを視認させる。
【0051】
[立体像奥行き制御装置の動作]
図6を参照し、立体像奥行き制御装置4の動作について説明する。
図6に示すように、ステップS1において、静的頂点座標算出部41は、静的な奥行き圧縮により、3次元モデルの各静的頂点座標を算出する。例えば、静的頂点座標算出部41は、前記した式(1)を用いて、3次元モデルの頂点座標pを静的頂点座標p
0´に変換する。
【0052】
ステップS2において、動的頂点座標算出部42は、動的な奥行き圧縮により、観視位置に応じて、3次元モデルの各動的頂点座標を算出する。例えば、動的頂点座標算出部42は、前記した式(3)を用いて、3次元モデルの頂点座標pを動的頂点座標p1´に変換する。
【0053】
ステップS3において、頂点座標調整部43は、調整割合入力装置3から入力した調整割合sに基づいて、ステップS1で算出した静的頂点座標p0´とステップS2で算出した動的頂点座標p1´との間で3次元モデルの各頂点の座標を調整する。具体的には、頂点座標調整部43は、前記した式(5)を用いて、3次元モデルの頂点座標pmod1´を算出する。
【0054】
ステップS4において、要素画像生成部44は、ステップS3で頂点座標を調整した3次元モデルから要素画像を生成する。例えば、要素画像生成部44は、光線追跡法を用いて、3次元モデルから要素画像を生成する。
【0055】
[作用・効果]
第1実施形態に係る立体像奥行き制御装置4は、観視者9が設定した調整割合sに基づいて、空間の歪みと形状の歪みとの双方を緩和できるように、これら双方の割合を調整することができる。すなわち、立体像奥行き制御装置4は、立体像表示装置1において奥行きの広いシーンを表示した際に生じるぼやけを回避するために、シーンの奥行きを圧縮し、その際に発生する形状の歪み及び空間の歪みを観視者9が任意に調整できる。
【0056】
(第2実施形態)
図7を参照し、第2実施形態に係る立体像表示システム100Bについて、第1実施形態と異なる点を説明する。
図7に示すようには、立体像表示システム100Bは、立体像表示装置1と、観視位置計測装置2と、調整割合入力装置3と、立体像奥行き制御装置4Bとを備える。なお、立体像奥行き制御装置4Bの各手段は、第1実施形態と同様のため、説明を省略する。
【0057】
[立体像奥行き制御装置の構成]
第2実施形態において、立体像奥行き制御装置4Bは、最適な調整割合sを学習する点が第1実施形態と異なる。このため、立体像奥行き制御装置4Bは、奥行き圧縮部40B、要素画像生成部44と、履歴DB記憶部45と、学習モデル生成部46と、調整割合取得部47と、スイッチ48とを備える。また、奥行き圧縮部40Bは、静的頂点座標算出部41と、動的頂点座標算出部42と、頂点座標調整部43Bとを備える。
なお、静的頂点座標算出部41、動的頂点座標算出部42及び要素画像生成部44は、第1実施形態と同様のため、説明を省略する。
【0058】
履歴DB記憶部45は、履歴データベースを記憶するものである。この履歴データベースは、調整割合sと立体像Tの奥行き位置と視距離との関係を示すデータベースである。例えば、履歴データベースとしては、リレーショナルデータベースがあげられる。
【0059】
学習モデル生成部46は、履歴データベースを参照し、調整割合sを立体像Tの奥行き位置と視距離との関係で表した学習モデルを生成するものである。ここで、学習モデル生成部46は、図示を省略したメモリに学習モデルを記憶することとする。
【0060】
<学習モデルの生成>
以下、学習モデル生成部46による学習モデルの生成を詳細に説明する。
例えば、学習モデルは、以下の式(6)に示すように、調整割合sを立体像Tの奥行き位置t1と視距離t2との関係で表した線形モデルである。なお、式(6)では、α,β1,β2が所定の係数を表している。
【0061】
【0062】
この場合、学習モデル生成部46は、最適化問題として、式(6)の係数α,β1,β2を求めればよい。具体的には、学習モデル生成部46は、以下の式(7)を最小二乗法で解いて、係数α,β1,β2を求める。なお、式(7)では、s(n),t1(n),t2(n)の添え字nが、履歴データベースに格納されたn番目のレコードを表している(但し、n=0,1,2,…)。
【0063】
【0064】
図7に戻り、立体像奥行き制御装置4Bの説明を続ける。
調整割合取得部47は、奥行き位置及び視距離を入力し、入力した奥行き位置及び視距離に対応する調整割合sを学習モデルから取得するものである。ここで、調整割合取得部47は、観視位置計測装置2から視距離を入力し、映像制作者が予め指定した奥行き位置を観視者9が入力する。このように、調整割合取得部47は、観視者9の観視環境に対応した奥行き位置及び視距離を学習モデルに入力することで、観視者9の観視環境に適した調整割合sを学習モデルから取得できる。
【0065】
スイッチ48は、調整割合入力装置3から入力した調整割合s、又は、調整割合取得部47が取得した調整割合sの何れか一方を選択し、選択した一方の調整割合sを頂点座標調整部43Bに出力するものである。ここでは、観視者9が、スイッチ48が何れの調整割合sを選択するか手動で設定できる。なお、
図7の例では、スイッチ48は、調整割合取得部47が取得した調整割合sを選択している。
【0066】
頂点座標調整部43Bは、スイッチ48から入力した調整割合sに基づいて、3次元モデルの頂点座標を調整するものである。すなわち、頂点座標調整部43Bは、調整割合入力装置3から入力した調整割合s、又は、調整割合取得部47が取得した調整割合sに基づいて、3次元モデルの頂点座標を調整する。なお、頂点座標の調整自体は、第1実施形態と同様のため、これ以上の説明を省略する。
【0067】
[作用・効果]
第2実施形態に係る立体像奥行き制御装置4Bは、観視者9の観視環境に適した調整割合sを取得できるので、観視者9の観視環境に合わせて、空間の歪みと形状の歪みとの割合を自動的に調整することができる。これにより、立体像奥行き制御装置4Bは、利便性を向上させることができる。
【0068】
(変形例)
以上、本発明の各実施形態を詳述してきたが、本発明はこれに限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
前記した実施形態では、学習モデルが線形モデルであることとして説明したが、これに限定されない。例えば、機械学習や深層学習により学習モデルを学習してもよい。
【0069】
前記した実施形態では、立体像奥行き制御装置を独立したハードウェアとして説明したが、これに限定されない。コンピュータが備えるCPU、メモリ、ハードディスク等のハードウェア資源を、前記した立体像奥行き制御装置として動作させるプログラムで実現することもできる。これらのプログラムは、通信回線を介して配布してもよく、CD-ROMやフラッシュメモリ等の記録媒体に書き込んで配布してもよい。
【符号の説明】
【0070】
1 立体像表示装置
2 観視位置計測装置
3 調整割合入力装置
4,4B立体像奥行き制御装置
40 奥行き圧縮部
41 静的頂点座標算出部
42 動的頂点座標算出部
43,43B 頂点座標調整部
44 要素画像生成部
100 立体像表示システム