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特許7499223金属樹脂複合成形品、金属樹脂複合成形品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-05
(45)【発行日】2024-06-13
(54)【発明の名称】金属樹脂複合成形品、金属樹脂複合成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/44 20060101AFI20240606BHJP
   B23K 15/08 20060101ALI20240606BHJP
   B23K 26/352 20140101ALI20240606BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
B29C65/44
B23K15/08
B23K26/352
B32B15/08 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021143669
(22)【出願日】2021-09-03
(65)【公開番号】P2024070864
(43)【公開日】2024-05-24
【審査請求日】2022-08-31
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】見置 高士
(72)【発明者】
【氏名】鄭 祐政
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-071312(JP,A)
【文献】特開2016-132131(JP,A)
【文献】特開2018-080360(JP,A)
【文献】国際公開第2021/230025(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 15/08,26/352
B29C 65/44
B32B 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材と熱可塑性樹脂が接合された金属樹脂複合成形品であって、
金属部材の一面のうち熱可塑性樹脂と接合されている表面部分に対して高エネルギービームを同心円状に照射することで、当該表面部分のうち70%以上の範囲には、球状のクラスタが形成されている、
インサート成形によって接合された金属樹脂複合成形品。
【請求項2】
金属部材と熱可塑性樹脂が接合された金属樹脂複合成形品の製造方法であって、
金属部材の表面に対して高エネルギービームを同心円状に照射することで、前記表面のうち70%以上の範囲に球状のクラスタを形成し、
前記表面に球状のクラスタが形成された金属部材と熱可塑性樹脂をインサート成形により接合させる、
金属樹脂複合成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部材と熱可塑性樹脂を接合させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
金属などの電気伝導性材料と樹脂など電気絶縁性材料など、特性が異なる材料を組み合わせて用いることで、軽量化、高強度化、あるいは、高機能化された部品が様々な分野で使用されている。例えば、金属部材と熱可塑性樹脂を接合させた金属樹脂複合成形品は、インストルメントパネル周りのコンソールボックス等の自動車の内装部材やエンジン周り部品、インテリア部品、デジタルカメラや携帯電話等の電子機器の筐体部、インターフェース接続部、電源端子部等に使用されている。
金属と樹脂等の異なる材料同士の接合方法として、接着やネジ止めなどの工法が一般的に知られているが、工程や部品点数が増えるため好ましくない。そこで、金属材料と樹脂材料を接合させる方法として様々な提案がなされてきた。
【0003】
例えば、特許文献1では、金属材料の表面のある走査方向にレーザ加工を施し、当該走査方向とクロスする別の走査方向にレーザ加工を施し、この表面に異種材料を接合することが記載されている。特許文献2では、金属板の表面に凹凸を形成する際に凹凸のアンダーカット率を所定範囲内にすることで、この表面に樹脂成形品を接合させるときの接合強度を向上させることが記載されている。特許文献3では、レーザ光などにより金属にクレーター状の窪みを形成し、金属表面が溶融飛散した廂状の隆起部に粒状のスパッタを形成させた金属と樹脂の複合成形体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4020957号
【文献】特開2020-116806
【文献】特開2013-71312
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の金属材料と樹脂材料を接合させる方法では、金属材料と樹脂材料の接合部分の気密性を十分に確保することができず、この点を改善することが求められている。
そこで、本発明は、金属部材と樹脂部材を接合させる場合に接合部分の気密性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の観点は、金属部材と熱可塑性樹脂がインサート成形によって接合された金属樹脂複合成形品である。この金属樹脂複合成形品では、金属部材の一面のうち熱可塑性樹脂と接合されている表面部分に対して高エネルギービームを同心円状に照射することで、当該表面部分のうち70%以上の範囲には、球状のクラスタが形成されている。
【0008】
本発明の第の観点は、金属部材と熱可塑性樹脂が接合された金属樹脂複合成形品の製造方法である。この方法では、金属部材の表面に対して高エネルギービームを同心円状に照射することで、前記表面のうち70%以上の範囲に球状のクラスタを形成し、前記表面に球状のクラスタが形成された金属部材と熱可塑性樹脂をインサート成形により接合させる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、金属部材と樹脂部材を接合させる場合に接合部分の気密性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態の金属部材の加工方法を模式的に示す図である。
図2】気密性試験に使用される試験片の形状を示す図である。
図3】一実施例の金属部材の表面の走査型電子顕微鏡による観察結果を示す図である。
図4】一実施例の金属部材の表面の走査型電子顕微鏡による観察結果を示す図である。
図5】一比較例の金属部材の表面の走査型電子顕微鏡による観察結果を示す図である。
図6】一比較例の金属部材の表面の走査型電子顕微鏡による観察結果を示す図である。
図7】気密性試験の試験装置の概略的な構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態に係る金属樹脂複合成形品について説明する。
一実施形態の金属樹脂複合成形品は、金属部材と熱可塑性樹脂が接合されたものである。この金属樹脂複合成形品では、金属部材の一面のうち熱可塑性樹脂と接合されている接合面には、実質的に球状のクラスタが形成されている。「実質的に球状」には、クラスタを構成する個々の形状が球に限られず、楕円体、球若しくは楕円体の一部が欠けているもの等も含まれる。
この実質的に球状のクラスタは、金属部材の表面に例えばレーザを照射することで形成することができる。本願の発明者は鋭意研究の結果、金属部材の表面に所定の照射条件でレーザを照射することで金属表面に球状のクラスタを形成することができ、それによって金属樹脂複合成形品の金属と樹脂の接合面の気密性を従来よりも高められることを見出した。
なお、金属樹脂複合成形品の形状も特に限定されず、如何なる形状の金属樹脂複合成形品に対しても本発明を適用することができる。
【0012】
金属樹脂複合成形品に含まれる金属部材は、限定するものではないが、例えば、アルミニウム、銅、銀、金、鉄、チタン、ニッケル、マグネシウム、亜鉛及びその合金である炭素鋼、ステンレス鋼等である。
また、金属材料の表面には、陽極酸化処理等の表面処理や塗装がされていてもよい。軽量、強度の点からアルミニウム、マグネシウム、銅、チタンが好ましく、端子等の導電性が必要とされる用途においてはアルミニウム、銅がより好ましく、銅が特に好ましい。また、薄肉での剛性が要求される用途においてはマグネシウム、チタンが好ましく、チタンが特に好ましい。
【0013】
金属樹脂複合成形品に含まれる樹脂は、射出成形による加工が容易な熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。
好適な熱可塑性樹脂の例として、ポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂等が挙げられる。
【0014】
金属部材と樹脂の接合方法は、限定するものではないが、射出成形により接合させることができる。例えば、金属材料をインサート部材とするインサート成形により接合することができる。
【0015】
図1に、一実施形態の金属部材の加工方法を模式的に示す。
図1に示すように、レーザを金属部材に照射すると、金属部材の表面の金属がレーザによる高エネルギービームにより昇華し、あるいは、飛散した液状の金属粒子が凝固(再凝着)し、堆積することで、球状のクラスタが形成される。ここで、レーザ出力(単位時間当たりのエネルギー)が低い場合には、金属表面の金属の昇華や液状の金属粒子の飛散が生じないため、球状のクラスタを形成するためのレーザ出力については、金属部材に使用される金属材料に応じて適宜決定される。
なお、レーザ出力と照射速度により、単位面積において単位時間当たりに金属表面に与えられるエネルギーが決定されるため、レーザ出力に加え、照射速度についても球状のクラスタを形成する際のファクタとなる。レーザ出力と照射速度によって金属表面において局所的な極短時間での温度上昇が生じ、それによって球状のクラスタが形成される。
【0016】
また、樹脂と接合したときに気密性を十分に.確保する観点から、金属部材の樹脂との接合面の全面に球状のクラスタを形成することが好ましい。そのためには、レーザの走査ピッチをレーザの照射径よりも小さくするとよい。
【0017】
本開示において「高エネルギービーム」とは、金属部材の表面に球状のクラスタが形成できる程度に高い単位時間当たりのエネルギーのビームという意味である。
高エネルギービームは、レーザが典型的ではあるが、その限りではなく、電子銃により発生させるビームであってもよい。
【0018】
一実施形態の金属樹脂複合成形品の製造方法は、金属部材の表面に対してレーザ等の高エネルギービームを照射することで、金属部材の表面に実質的に球状のクラスタを形成し、金属表面に実質的に球状のクラスタが形成された金属部材と熱可塑性樹脂を溶融接合させる方法である。
金属部材の樹脂との接合面に球状のクラスタを形成することで、金属部材と熱可塑性樹脂をインサート成形する際には、球状のクラスタの部分に溶融樹脂が入り込み、成形段階において金属と樹脂との密着性が高くなる。そのため、作製された金属樹脂複合成形品では、金属部材の接合面において従来よりも高い気密性が実現される。
【0019】
金属部材の表面において球状のクラスタを形成する範囲は、金属部材の樹脂との接合面の全面であることが好ましいが、その限りではない。例えば接合面の大部分、例えば接合面のうち70~80%以上の範囲に球状のクラスタを形成すれば、金属部材の接合面において十分に高い気密性が確保される。
例えば、金属部材の樹脂との接合面の全面をレーザの照射対象としたときに、レーザの走査ピッチがレーザの照射径より大きい場合には、接合面にレーザが照射されない領域が生ずる。その場合でも、接合面のうちレーザが照射されない領域が比較的少ない場合には、金属部材の接合面において十分に高い気密性が確保される。
【0020】
【実施例
【0021】
以下、金属樹脂複合成形品の実施例について説明する。
実施例では、試験片として、図2に示す形状の金属樹脂複合成形品10(以下、「試験片10」という。)を作製した。
図2に示すように、試験片10は、中央に内孔を有する円環状の金属部材11と、金属部材11の内孔に配置される樹脂成形品12とからなる。金属部材11は、外径がφ50mm、内孔の径がφ20mm、厚さが1mmである。樹脂成形品12は、外径がφ30mmであり、厚さが3mmである。
【0022】
金属部材11、樹脂成形品12として以下の材料を使用した。
・金属部材11:アルミニウムA1050(実施例1、比較例2),アルミニウムA5052(実施例2、比較例1)、銅C1100(実施例3)
・熱可塑性樹脂12:ポリフェニレンサルファイド(PPS)(ジュラファイド(登録商標)1135MF1(ポリプラスチックス社製)))(実施例、比較例共に共通)
【0023】
樹脂成形品12と接合する前に、レーザ加工機(アマダウエルドテック製ML-7350DL)により、金属部材11の表面のφ20mmからφ26mmの範囲(樹脂成形品12との接合面)に対してレーザ処理を行った。レーザ照射条件については、後記する表1に示すとおりである。
【0024】
表1において、レーザ出力と照射速度により、単位面積において単位時間当たりに金属表面に与えられるエネルギーが決定される。
実施例1~3、比較例1に対しては、同心円状にレーザを走査してレーザ処理を行った。但し、表1に示すように、比較例1に対しては、レーザ出力を実施例1~3よりも低く、ピッチ(30μm)を実施例1~3のピッチ(10μm)よりも大きくした。なお、ピッチについては、レーザを走査する同心円同士の間隔である。実施例1~3、比較例1については、ピッチが照射径よりも小さくなっており、接合面の全面にレーザが照射されたことになる。
他方、比較例2に対しては、格子状にレーザを走査してレーザ処理を行った。その際、格子状に走査するときの間隔としてピッチを100μmとした。比較例2では、ピッチが照射径よりも大きいため、接合面のうちレーザが照射されていない部分があることになる。
【0025】
レーザ処理後の金属部材11の表面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察したところ、実施例1(図3参照)、実施例2(図4参照)については、金属部材11のレーザ処理面の全面に球状のクラスタが生成していることが確認された。実施例3についても同様であった。
しかし、比較例1(図5参照)、比較例2(図6参照)については、レーザ処理面に球状のクラスタが生成されていなかった。比較例2に対応する図6では、レーザ照射部分として格子状にレーザを照射したときの2本の溝が認められるが、溝の底部にもクラスタが確認されなかった。
【0026】
金属部材11に対してレーザ処理を行った後、以下の条件で金属材料11をインサート部材とするインサート成形により接合することで、図2に示す試験片10を成形した。
・射出成形機:ソディック社製TR100EH
・シリンダー温度:330℃
・金型温度:140℃
・射出速度:70mm/s
・保圧力:70MPa
【0027】
次いで、成形された試験片(実施例1~3、比較例1~2)に対して気密性試験を行った。気密性試験(ヘリウムリーク試験、真空法)の試験装置の構成を図7に示す。
図7に示すように、外部から密閉されたチャンバー3内に、治具2と金属樹脂複合成形品10を配置する。治具2は有底直方体状をなしており、上部に試験片10を配置することで治具2内がチャンバー3内の残りの部位から密閉される。弁6を開状態にして治具2内を真空ポンプ5によって真空状態にし、次いで、弁6を閉状態にしてヘリウムボンベ4によりチャンバー3をヘリウムガスで満たす。チャンバー3内において試験片10の接合部分から漏れたヘリウムガスは、ヘリウム検出器7によって検出される。制御装置8は、ヘリウムガスの検出結果を表示する。
なお、ヘリウム検出器7として株式会社コスモ計器製のヘリウムリークテスターG-FINEおよびインフィコン株式会社製L300iを使用した。
【0028】
チャンバー3内のヘリウムの圧力を400kPaとし、治具2内の真空圧を100kPaとした。試験片10の金属部材11と樹脂成形品12の接合部分の気密性が低い場合には、チャンバー3内のヘリウムガスが治具2内に流入し、ヘリウム検出器7によって検出される。この試験では、ヘリウム検出器7で検出されるヘリウムが1.0×10-7Pa・m/s以上の場合は気密性NGと判断し、1.0×10-7Pa・m/s未満の場合は気密性OKと判断した。
【0029】
表1に、実施例1~3、比較例1~2に係る試験片に対する気密性試験の試験結果を示す。

【表1】


【0030】
表1に示すように、金属部材の熱可塑性樹脂との接合面に球状のクラスタが形成された実施例1~3の試験片については、クラスタ形成されなかった比較例1~2の試験片と比較して、金属部材と樹脂との接合部分の気密性が高いことが確認された。
【0031】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されない。また、上記の実施形態は、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更が可能である。
【符号の説明】
【0032】
2…治具
3…チャンバー
4…ヘリウムボンベ
5…真空ポンプ
6…弁
7…ヘリウム検出器
8…制御装置
10…金属樹脂複合成形品
11…金属部材
12…樹脂成形品
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7