(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-05
(45)【発行日】2024-06-13
(54)【発明の名称】シリカエアロゲルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/16 20060101AFI20240606BHJP
【FI】
C01B33/16
(21)【出願番号】P 2023504648
(86)(22)【出願日】2021-07-23
(86)【国際出願番号】 KR2021009533
(87)【国際公開番号】W WO2022019697
(87)【国際公開日】2022-01-27
【審査請求日】2023-01-23
(31)【優先権主張番号】10-2020-0092415
(32)【優先日】2020-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】キム、ヨン-フン
(72)【発明者】
【氏名】カン、テ-キョン
(72)【発明者】
【氏名】シン、チュン-ホ
(72)【発明者】
【氏名】ペク、セ-ウォン
(72)【発明者】
【氏名】オ、キョン-シル
(72)【発明者】
【氏名】パク、サン-ウ
(72)【発明者】
【氏名】ユ、ソン-チン
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2014-0076022(KR,A)
【文献】韓国登録特許第10-0785521(KR,B1)
【文献】国際公開第2019/171543(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)湿潤ゲル複合体を製造するステップと、
(2)前記製造された湿潤ゲル複合体を洗浄溶媒で洗浄するステップと、
(3)前記洗浄された湿潤ゲル複合体を乾燥するステップとを含み、
前記ステップ(2)で湿潤ゲル複合体から不純物が除去され、
前記洗浄溶媒は、エタノールおよび水を含む混合物であり、
前記洗浄溶媒は、沸点(b.p.)以上の温度に加熱されたものであ
り、
前記加熱された洗浄溶媒は、80℃~120℃の温度を有する、シリカエアロゲルの製造方法。
【請求項2】
前記洗浄溶媒は、気相および液相の混合相である、請求項
1に記載のシリカエアロゲルの製造方法。
【請求項3】
前記洗浄溶媒は、85体積%~99体積%のエタノールを含む、請求項
1または2に記載のシリカエアロゲルの製造方法。
【請求項4】
前記不純物は、前記湿潤ゲル複合体を製造するステップで使用された塩基触媒に由来した残留物、表面改質剤に由来した残留物およびシリカ微粒子からなる群から選択される1種以上を含む、請求項1~
3のいずれかに記載のシリカエアロゲルの製造方法。
【請求項5】
前記塩基触媒は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム(NH
4OH)、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAH)、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAH)、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)、メチルアミン、エチルアミン、イソプロピルアミン、モノイソプロピルアミン、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、コリン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、2-アミノエタノール、2-(エチルアミノ)エタノール、2-(メチルアミノ)エタノール、N-メチルジエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、ニトリロトリエタノール、2-(2-アミノエトキシ)エタノール、1-アミノ-2-プロパノール、トリエタノールアミン、モノプロパノールアミン、およびジブタノールアミンからなる群から選択される1種以上である、請求項
4に記載のシリカエアロゲルの製造方法。
【請求項6】
前記表面改質剤は、シラザン系化合物を含む、請求項
4に記載のシリカエアロゲルの製造方法。
【請求項7】
前記シリカ微粒子は、前記湿潤ゲル複合体の製造過程で生成された不純物として、前記ステップ(2)における除去により前記湿潤ゲル複合体から脱落するシリカエアロゲル粒子である、請求項
4に記載のシリカエアロゲルの製造方法。
【請求項8】
前記塩基触媒に由来した残留物および表面改質剤に由来した残留物は、アンモニア(NH
3)、アンモニウムイオン(NH
4
+)またはこれらの混合物を含む、請求項
4に記載のシリカエアロゲルの製造方法。
【請求項9】
前記洗浄溶媒の流量(flowrate)は、10ml/m
2・min~800ml/m
2・minである、請求項1~
8のいずれかに記載のシリカエアロゲルの製造方法。
【請求項10】
前記ステップ(2)において、前記湿潤ゲル複合体と前記洗浄溶媒は、1:1~1:9の体積流量比を有する、請求項1~
9のいずれかに記載のシリカエアロゲルの製造方法。
【請求項11】
前記ステップ(2)は、30分~200分間行われる、請求項1~
10のいずれかに記載のシリカエアロゲルの製造方法。
【請求項12】
前記ステップ(3)は、超臨界乾燥、常圧乾燥、またはこれらの両方により行われる、請求項1~
11のいずれかに記載のシリカエアロゲルの製造方法。
【請求項13】
前記ステップ(2)で回収された廃洗浄溶媒を精製するステップをさらに含む、請求項1~
12のいずれかに記載のシリカエアロゲルの製造方法。
【請求項14】
前記ステップ(2)で回収された廃洗浄溶媒を精製するステップは、
前記回収された廃洗浄溶媒を精製カラムに投入して精製するステップと、前記精製された洗浄溶媒を前記ステップ(2)の洗浄溶媒として再使用するステップとを含む、請求項
13に記載のシリカエアロゲルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年7月24日付けの韓国特許出願第10-2020-0092415号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示されている全ての内容は、本明細書の一部として組み込まれる。
【0002】
本発明は、シリカエアロゲルの製造方法に関し、より詳細には、シリカエアロゲルの製造工程中に効果的にエアロゲル洗浄が行われることができるシリカエアロゲルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
エアロゲル(aerogel)は、ナノ粒子で構成された高多孔性物質として、高い気孔率と比表面積、および低い熱伝導度を有することから、高効率の断熱材、防音材などの用途で注目されている。このようなエアロゲルは、多孔性構造によって非常に低い機械的強度を有するため、既存の断熱繊維である無機繊維または有機繊維などの繊維状ブランケットにエアロゲルを含浸して結合したエアロゲル複合体が開発されている。
【0004】
一例として、シリカエアロゲルを用いたシリカエアロゲル含有ブランケットの場合、シリカゾルの製造ステップ、ゲル化ステップ、熟成(Aging)ステップ、表面改質ステップおよび乾燥ステップを経て製造される。特に、従来の技術は、熟成ステップにおいて少量のNH4OHを使用し、表面改質剤としてヘキサメチルジシラザン(Hexamethyl disilazane;HMDS)を使用するが、この際、HMDSがトリメチルシラノール(Trimethyl Silanol;TMS)またはトリメチルエトキシシラノール(Trimethyl Ethoxy Silanol;TMES)に分解されてNH3が発生する。NH4OHまたはNH3は、超臨界乾燥中に抽出溶媒として使用する二酸化炭素と反応して炭酸アンモニウム塩を形成し、これは、温度低下の時に析出されて固相粉末を形成し、これは、後続工程において、スケール(scale)の形成および配管またはバルブの目詰まりなどの問題の原因として作用する。超臨界乾燥工程の前に洗浄工程により、溶媒に残留するNH4OHおよびNH3を予め除去することで、さらなる除去工程を省略することができ、アンモニア臭の発生による問題を解決することができる。
【0005】
洗浄によりアンモニアを除去する過程は、エアロゲルから洗浄槽への拡散により行われ、拡散速度を高めるために、洗浄槽の温度を上げるか洗浄槽の濃度を下げて、濃度差を大きくする方法が使用されることができる。洗浄槽の濃度を下げるためには、洗浄水の使用量を増加させるか、気相で洗浄水を排出させて排出流れにアンモニア含量を増加させる方法で、少量の洗浄水で洗浄槽のアンモニアが除去されるようにする。しかし、一般的な方法では、常圧で洗浄溶媒の沸点以上には温度を上げることができないため、温度の増加による拡散速度の増加には限界があり、洗浄水使用量の増加により洗浄槽の濃度を下げることも洗浄に使用された溶媒の精製のために使用されるエネルギーの増加を引き起こす問題がある。
【0006】
超臨界乾燥装置で洗浄工程を行う時に、装置サイズの増加を防止するために、洗浄時間は所定水準以上に増加させることができず、所望の水準のアンモニア除去率を達成するためには、より効率的な洗浄方法が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、洗浄時にエアロゲルから洗浄槽への拡散速度の増加により、エアロゲルから効果的に不純物を除去することができるシリカエアロゲルの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために、(1)湿潤ゲル複合体を製造するステップと、(2)洗浄溶媒で前記製造された湿潤ゲル複合体を洗浄溶媒で洗浄するステップと、(3)前記洗浄された湿潤ゲル複合体を乾燥するステップとを含み、前記ステップ(2)で湿潤ゲル複合体から不純物が除去され、前記洗浄溶媒は、沸点(b.p.)以上の温度に加熱されたものであるシリカエアロゲルの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のシリカエアロゲルの製造方法は、常圧での沸点以上に加熱された洗浄溶媒を用いて洗浄を行うことで、エアロゲルから洗浄槽への洗浄溶媒の拡散速度を増加させて、効果的に湿潤ゲル複合体から不純物を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1で使用された超臨界乾燥装置の内部のフィルタおよびハウジングを撮影した写真である。
【
図2】比較例1で使用された超臨界乾燥装置の内部のフィルタおよびハウジングを撮影した写真である。
【
図3】比較例3で使用された超臨界乾燥装置の内部のフィルタおよびハウジングを撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に関する理解に資するため、本発明をより詳細に説明する。この際、本明細書および請求の範囲にて使用されている用語や単語は、通常的または辞書的な意味に限定して解釈してはならず、発明者らは、自分の発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適宜定義することができるという原則に則って、本発明の技術的思想に合致する意味と概念に解釈すべきである。
【0013】
建設または産業現場で断熱材として広範に使用されているシリカエアロゲルは、その表面を疎水化させない場合、シリカ表面のシラノール基(Si-OH)の親水性のため空気中の水を吸収し、熱伝導率が徐々に高くなる欠点があり、乾燥工程で気孔崩壊がひどくなってスプリングバック(spring back)現象を期待し難く、メソポア(meso pore)を有する超断熱製品を製造し難い問題がある。
【0014】
したがって、空気中の水分吸収を抑制させて低い熱伝導率を維持するためには、シリカエアロゲルの表面を疎水性に改質するステップが必須である。一般的に、シリカエアロゲルは、シリカゾルの製造ステップ、ゲル化ステップ、熟成ステップ、表面改質ステップおよび乾燥ステップを経て製造される。
【0015】
前記シリカゾルのゲル化ステップ、熟成ステップ、およびこれらのステップのいずれにおいて塩基触媒が使用されることができ、この時に使用された塩基触媒のカチオンは、以降、乾燥ステップで二酸化炭素と反応して炭酸塩を形成することができる。また、前記表面改質ステップに使用される表面改質剤は、シリカエアロゲルの表面の疎水化工程でアンモニウムイオンを(NH4
+)形成し、形成されたアンモニウムイオンは、同様に、以降の乾燥ステップで二酸化炭素と反応して炭酸アンモニウム塩を形成することができる。このように形成されたアンモニウム塩は、乾燥装備の配管を塞ぐことがあり、一部は最終シリカエアロゲルに炭酸塩を形成させる。
【0016】
例えば、前記塩基触媒として水酸化アンモニウムが使用される場合、残留するアンモニウムイオンは、表面改質剤の分解によって形成されたアンモニウムイオンとともに二酸化炭素と反応して炭酸アンモニウム塩を形成する。製造されたシリカエアロゲルを超臨界乾燥によって乾燥させる場合、前記アンモニウムイオンは、超臨界乾燥ステップで二酸化炭素と反応して炭酸アンモニウム塩を形成し、超臨界乾燥装備の配管を塞ぐことがあり、一部は最終シリカエアロゲルに親水性の炭酸アンモニウム塩を生成させて最終シリカエアロゲルの熱伝導度を増加させ、水分吸着を引き起こして熱伝導度の増加および断熱性能をもたらし得る。また、超臨界廃液に残留するアンモニアは、溶媒の再使用または廃水処理時に悪臭を発生させ、高いpHによる問題を引き起こし得る。
【0017】
そのため、シリカエアロゲルの製造コストを下げるとともに、最終製品の断熱性能の低下を防止するためには、例えば、アンモニア(NH3)およびアンモニウムイオン(NH4
+)のような残留不純物を除去する必要があり、超臨界乾燥工程の前に、洗浄工程により残留する不純物を先に除去する場合、超臨界乾燥装備内に生成された炭酸アンモニウム塩をまた熱分解するための再生ステップを省略することができ、超臨界乾燥工程時のアンモニア臭の発生問題を解決することができる。
【0018】
本発明のシリカエアロゲルの製造方法は、(1)湿潤ゲル複合体を製造するステップと、(2)前記製造された湿潤ゲル複合体を洗浄溶媒で洗浄するステップと、(3)前記洗浄された湿潤ゲル複合体を乾燥するステップとを含み、前記ステップ(2)で湿潤ゲル複合体から不純物が除去され、前記洗浄溶媒は、沸点(b.p.)以上の温度に加熱されたものである。
【0019】
本発明のシリカエアロゲルの製造方法は、製造された湿潤ゲル複合体の洗浄時に使用される洗浄溶媒を沸点以上の温度に加熱し、これを湿潤ゲル複合体に加えて洗浄が行われるようにすることで、洗浄溶媒のエアロゲルから洗浄槽への拡散速度を増加させ、より効果的に湿潤ゲル複合体からアンモニウムイオン(NH4
+)が除去されるようにすることができる。
【0020】
本発明において、前記湿潤ゲル複合体を製造するステップは、特に限定されず、シリカゾルの製造ステップ、熟成ステップおよび表面改質ステップを含むことができ、本発明の一例において、前記湿潤ゲル複合体は、熟成(aging)されたシリカゲル-繊維複合体であることができ、湿潤ゲル複合体であれば、特に制限されない。
【0021】
前記ステップ(2)の洗浄溶媒で前記製造された湿潤ゲル複合体を洗浄するステップは、洗浄のための空間、例えば、洗浄槽内に前記製造された湿潤ゲル複合体を位置させた後、沸点以上の温度に加熱された洗浄溶媒を洗浄槽に投入して行われることができる。また、本発明の一例において、前記洗浄ステップは、前記洗浄溶媒を前記洗浄槽に流入後、排出させる過程を含むことができ、これにより、湿潤ゲル複合体から不純物を除去することができる。
【0022】
本発明の一例において、洗浄溶媒が沸点(b.p.)以上の温度に加熱されたということは、前記洗浄溶媒を加熱する過程および前記洗浄過程が行われる圧力下での沸点以上の温度に加熱されたことを意味する。
【0023】
本発明の一例において、沸点以上の温度に加熱された前記洗浄溶媒は、80℃~200℃の温度を有することができ、具体的には80℃~150℃、より具体的には80℃~120℃の温度を有することができる。一方、前記洗浄溶媒の加熱のために必要なエネルギーは、液相の洗浄溶媒を昇温させるために必要なエネルギーと洗浄溶媒を気相にするために必要なエネルギーを理論的に求めた後、これを足し算して計算されることができる。このように計算された前記洗浄溶媒の加熱のために必要なエネルギーは、1MJ/m2・hr~50MJ/m2・hrであることができ、具体的には2MJ/m2・hr~30MJ/m2・hrであることができ、より具体的には10MJ/m2・hr~30MJ/m2・hrであることができる。
【0024】
前記洗浄溶媒が前記温度範囲に加熱される場合、前記洗浄溶媒の一部または全部の気化(vaporization)が行われることができ、したがって、前記湿潤ゲル複合体に加えられる洗浄溶媒は、加熱気化した洗浄溶媒を含むことができる。前記洗浄溶媒の温度が過剰に低い場合、洗浄溶媒が適切な程度に気化することができず、前記洗浄溶媒の温度が過剰に高い場合、洗浄溶媒の加熱のために過剰に多いエネルギーが消費され得るため、前記温度範囲を満たす場合、より効果的にシリカ湿潤ゲルの洗浄が行われるようにすることができ、且つエネルギー消費量を適正水準に維持することができる。
【0025】
本発明の一例において、前記湿潤ゲル複合体を洗浄するステップが行われた後、排出される廃洗浄溶媒は、30℃~120℃の温度を有することができ、具体的には50~115℃、より具体的には70~110℃の温度を有することができる。前記排出される廃洗浄溶媒の温度が非常に低い場合、洗浄過程で前記洗浄溶媒の拡散が適切な水準に逹することができず、アンモニウムイオンの除去効率が足りないことがあり、前記排出される廃洗浄溶媒の温度が非常に高い場合、洗浄過程で前記湿潤ゲル複合体が高温に露出し、エアロゲルの物性が変化することがあり、また、洗浄のために過剰なエネルギーが消費され得る。
【0026】
本発明の一例において、前記湿潤ゲル複合体に加えられる洗浄溶媒は、加熱気化した気相で前記湿潤ゲル複合体に加えられることができるが、前記湿潤ゲル複合体に加えられる洗浄溶媒は、加熱温度条件に応じて気相および液相の混合相であることができる。洗浄溶媒が気相および液相の混合相である時に、全洗浄溶媒のうち気相で含まれた洗浄溶媒は、10~90重量%、具体的には10重量%~70重量%、より具体的には20重量%~50重量%であることができる。
【0027】
前記洗浄溶媒は、エタノールを含むことができ、具体的にはエタノールおよび水を含む混合物またはエタノールであることができる。前記洗浄溶媒がエタノールおよび水を含む混合物である場合、前記洗浄溶媒は、85体積%~99体積%のエタノールを含む含水エタノールであることができる。前記体積%は、前記洗浄溶媒が液相である時に測定されたものであり、液相である時を基準とした含量である。
【0028】
前記エタノールは、以降の超臨界乾燥工程で超臨界溶媒として使用されるCO2への溶解度(solubility)に優れることから、洗浄溶媒として好ましく使用されることができる。前記エタノールは、炭素数が多い他のアルコール系溶媒に比べてCO2への溶解度がより優れており、超臨界乾燥時により優れた乾燥効率を示すことができる。また、湿潤ゲル複合体内に含まれたアンモニウムイオンは、水でイオン化し、相対的に多い量が存在することができるため、前記湿潤ゲル複合体内に含まれている水に対しても高い溶解度を示すエタノールを洗浄溶媒として用いる場合、湿潤ゲル複合体からアンモニウムイオンをより効果的に除去することができる。その他にも、前記エタノールは、炭素数が多い他のアルコール系溶媒に比べて低い表面張力を有することから、洗浄ステップの後、湿潤ゲル複合体に対する超臨界乾燥時に湿潤ゲル複合体に加えられる収縮などの乾燥時の悪影響を最小化することができる。
【0029】
本発明の一例において、前記洗浄溶媒としてエタノールおよび水を含む混合物が使用される場合、前記洗浄溶媒は、その加熱温度範囲に応じて、気相のエタノールおよび水と液相のエタノールおよび水をともに含む混合物、気相で含まれたエタノールおよび液相で含まれた水を含む混合物、または気相のエタノールおよび水を含む混合物であることができる。
【0030】
本発明の一例において、前記ステップ(2)の洗浄は、常圧で行われることができる。前記洗浄が常圧で行われる場合、前記洗浄溶媒は、常圧での沸点以上の温度に加熱されたものであることができる。
【0031】
本発明の一例において、前記不純物は、前記湿潤ゲル複合体を製造するステップで使用された塩基触媒に由来した残留物、表面改質剤に由来した残留物およびシリカ微粒子からなる群から選択される1種以上を含むものであることができる。
【0032】
前記塩基触媒は、シリカゲルのゲル化過程に使用された触媒、シリカゲルの熟成過程で使用された触媒、または前記シリカゲルのゲル化過程および熟成過程で使用された塩基触媒であることができる。
【0033】
前記塩基触媒は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム(NH4OH)、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAH)、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAH)、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)、メチルアミン、エチルアミン、イソプロピルアミン、モノイソプロピルアミン、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、コリン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、2-アミノエタノール、2-(エチルアミノ)エタノール、2-(メチルアミノ)エタノール、N-メチルジエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、ニトリロトリエタノール、2-(2-アミノエトキシ)エタノール、1-アミノ-2-プロパノール、トリエタノールアミン、モノプロパノールアミン、およびジブタノールアミンからなる群から選択される1種以上であることができ、具体的には、水酸化アンモニウム(NH4OH)であることができる。
【0034】
また、前記表面改質剤は、シラザン系化合物を含むものであることができ、具体的には、前記シラザン系化合物は、ヘキサメチルジシラザンであることができる。前記シラザン系化合物は、アルコールとの反応により2分子のアルコキシシラン化合物およびアンモニアを形成し、形成されたアンモニアが不純物として残留することができる。
【0035】
本発明の一例において、前記塩基触媒に由来した残留物および表面改質剤に由来した残留物は、アンモニア(NH3)、アンモニウムイオン(NH4
+)またはこれらの混合物を含むものであることができる。
【0036】
一方、前記シリカ微粒子は、前記湿潤ゲル複合体の製造過程で生成された不純物として、前記ステップ(2)における除去により前記湿潤ゲル複合体から脱落するシリカエアロゲル粒子であることができる。本発明のシリカエアロゲルの製造方法によると、沸点以上の温度に加熱された洗浄溶媒を用いて前記湿潤ゲル複合体の洗浄が行われ、前記洗浄溶媒は、加熱によって気化した気相、気相および液相の混合相であるため、前記湿潤ゲル複合体に弱く付着して不純物として含まれていたシリカ微粒子は、気相で含まれている洗浄溶媒により、前記湿潤ゲル複合体から効果的に除去されることができる。
【0037】
本発明の一例において、前記洗浄溶媒の流量は、10ml/m2・min~800ml/m2・minであることができ、具体的には30ml/m2・min~750ml/m2・min、より具体的には40ml/m2・min~700ml/m2・minであることができる。前記洗浄溶媒の流量が前記範囲を満たす場合、前記湿潤ゲル複合体から不純物が効果的に除去されることができ、特に、不純物として前記湿潤ゲル複合体に含まれていたシリカ微粒子を前記湿潤ゲル複合体から効果的に除去することができる。前記洗浄溶媒の流量が少なすぎると、洗浄溶媒を用いた洗浄効率が良好でなく、前記洗浄溶媒の流量が多すぎると、過剰なエネルギーが必要となり、不要な溶媒の浪費がひどくなり得る。
【0038】
また、前記洗浄溶媒の使用量は、洗浄しようとする前記湿潤ゲル複合体の量に応じて調節されることができる。具体的には、前記ステップ(2)において、前記湿潤ゲル複合体と前記洗浄溶媒は、1:1~1:9の体積流量比を有することができ、具体的には1:1~1:8.5の体積流量比を有することができ、より具体的には1:1~1:8.3の体積流量比を有することができる。前記体積流量比は、前記湿潤ゲル複合体の洗浄が行われる空間、例えば、洗浄槽内に位置する湿潤ゲル複合体の体積(L)に対して洗浄槽に投入される前記洗浄溶媒の時間当たりの体積(L/h)の比を示す。
【0039】
前記ステップ(2)の洗浄溶媒を用いて前記湿潤ゲル複合体を洗浄するステップは、30分~200分間行われることができ、具体的には60分~200分間行われることができる。本発明のシリカエアロゲルの製造方法は、常圧での沸点(b.p.)以上の温度に加熱された洗浄溶媒を前記湿潤ゲル複合体に加えることで、拡散速度の増加により効果的に洗浄が行われるため、沸点以下の温度に加熱された洗浄溶媒を用いて洗浄が行われる通常の方法に比べて、相対的に短い時間の洗浄時間の消費だけでもより優れたアンモニウムイオン除去効率を示すことができる。
【0040】
前記ステップ(3)の湿潤ゲル複合体を乾燥するステップは、超臨界乾燥、常圧乾燥、またはこれらの両方により行われることができる。前記超臨界乾燥および常圧乾燥が両方とも行われる場合、まず超臨界乾燥を行った後、さらに常圧乾燥を行うことができる。
【0041】
前記超臨界乾燥は、超臨界二酸化炭素を用いて行われることができる。前記超臨界二酸化炭素は、臨界点(supercritical point)と称する所定の温度および高圧の限界を超えると、蒸発過程が行われず、気体と液体の区別がつかない臨界状態にある二酸化炭素を意味する。
【0042】
前記超臨界二酸化炭素は、分子の密度は液体に近いが、粘性度は低くて気体に近い性質を有し、拡散が速く熱伝導度が高くて乾燥効率が高く、乾燥工程時間を短縮することができる。具体的には、前記超臨界乾燥は、超臨界乾燥反応器の中に湿潤ゲル複合体を入れた後、液体状態のCO2を充填し、湿潤ゲル複合体内部の溶媒をCO2で置換した後、所定の昇温速度、具体的には0.1℃/min~1℃/minの速度で、40~50℃に昇温させた後、二酸化炭素が超臨界状態になる圧力以上の圧力、具体的には100bar~150barの圧力を維持して、二酸化炭素の超臨界状態で、所定の時間、具体的には20分~1時間維持する方法により行われることができる。一般的に、二酸化炭素は、31℃の温度、73.8barの圧力で超臨界状態になり、二酸化炭素が超臨界状態になる所定の温度および所定の圧力で2時間~12時間、具体的には2時間~6時間維持した後、徐々に圧力を減圧させる方法により行われることができる。
【0043】
前記常圧乾燥の場合、70~200℃の温度および常圧(1±0.3atm)下で、自然乾燥などの通常の方法により行われることができる。
【0044】
また、本発明の一例において、前記シリカエアロゲルの製造方法は、前記ステップ(2)で湿潤ゲル複合体を洗浄した後、廃洗浄溶媒を回収し、回収された廃洗浄溶媒を精製するステップをさらに含むことができる。
【0045】
前記ステップ(2)で回収された廃洗浄溶媒を精製するステップは、前記回収された廃洗浄溶媒を精製カラムに投入して精製するステップと、前記精製された洗浄溶媒を前記ステップ(2)の洗浄溶媒として再使用するステップとを含むことができる。
【0046】
前記精製カラムにより行われる精製工程は、常圧で行われることができる。前記回収された廃洗浄溶媒は、熱交換器を通過して冷却した状態で精製カラムに投入されることができ、したがって、前記回収された廃洗浄溶媒を前記精製カラムに伝達する前に熱交換器により冷却して温度を下げる過程がさらに行われることができる。具体的には、前記回収された廃洗浄溶媒は、沸点以下の温度、より具体的には、洗浄溶媒の沸点温度までこれを冷却させる過程が行われることができる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者が容易に実施することができるように、本発明の実施例について詳細に説明する。しかし、本発明は、様々な相違する形態に実現されることができ、ここで説明する実施例に限定されない。
【0048】
(実施例1)
シリカ前駆体として水和したテトラエチルオルトシリケート(TEOS)、エタノールおよび蒸留水を1:0.9:0.22の重量比で混合してシリカゾルを製造した。これとは別に、エタノール、NH4OH(30%水溶液)およびテトラメチルエトキシシラン(TMES)を1:0.054:0.154の重量比で混合してゲル化触媒溶液を製造した。前記製造されたシリカゾルとゲル化触媒溶液を1:1の体積比で混合し、触媒化したゾルを製造した。
【0049】
前記触媒化したゾルをガラス繊維(glass fiber)マットに含浸して10分間ゲル化した。ゲル化の完了後、ゲル化した湿潤ゲルブランケットを70℃のチャンバで24時間熟成した。
【0050】
熟成した湿潤ゲルブランケットに90℃に加熱された含水EtOH(91.8%v/v)を50ml/m2・minの流量(flowrate)で連続注入し、排出しながら200分間洗浄を行った。
【0051】
洗浄が完了した後、超臨界抽出装置に湿潤ゲルブランケットを入れて、75℃、150barでCO2を注入し、超臨界乾燥を実施した。その結果として、乾燥したシリカエアロゲルを回収した。
【0052】
(実施例2~6)
洗浄溶媒の温度、流量および洗浄時間を下記表1のように異ならせた以外は、実施例1と同じ方法で洗浄し、超臨界乾燥して、シリカエアロゲルを製造した。
【0053】
(比較例1)
洗浄過程を行っていない以外は、実施例1と同じ方法でシリカエアロゲルを製造した。
【0054】
(比較例2)
熟成された湿潤ゲルブランケットに、70℃に加熱された含水EtOH(91.8%v/v)を50ml/m2・minの流量(flowrate)で連続注入し、排出しながら360分間洗浄を行った以外は、実施例1と同じ方法でシリカエアロゲルを製造した。
【0055】
(比較例3)
熟成された湿潤ゲルブランケットに、70℃に加熱された含水EtOH(91.8%v/v)を670ml/m2・minの流量(flowrate)で連続注入し、排出しながら240分間洗浄を行った以外は、実施例1と同じ方法でシリカエアロゲルを製造した。
【0056】
(実験例)
1)アンモニア除去率
前記実施例1~6と比較例1~3のアンモニア除去率を初期のシリカゲル-繊維複合体に含まれたアンモニアの量と、洗浄後に残留するアンモニアの量を確認した後、以下の数学式1によって計算した。
【0057】
[数学式1]
(初期のシリカゲル-繊維複合体内のアンモニアの量-洗浄後のシリカゲル-繊維複合体内の残留アンモニアの量)/初期のシリカゲル-繊維複合体内のアンモニアの量×100
【0058】
2)加熱熱量
前記実施例1~6と比較例1~3の洗浄過程で洗浄溶媒を昇温するために必要な熱量(duty)は、液相の洗浄溶媒を昇温させるために必要なエネルギーと洗浄溶媒を気相にするために必要なエネルギーを足し算して計算した。
【0059】
3)水分含浸率
前記実施例1~6と比較例1~3のシリカエアロゲルを用いて、それぞれ3個の試験片(125mm×125mm、厚さ10mm未満)を準備した後、試験片の重量(W1)を測定した。
【0060】
21±2℃の蒸留水の上に試験片を浮かべ、試験片の上に6.4mmのメッシュ(mesh)のスクリーン(screen)を乗せて、水面下127mmまで沈めた。
【0061】
15分後、スクリーンを除去し、試験片が浮び上がると、クランプで試験片を取って、垂直に60±5秒間ぶら下げた後、試験片の重量(W2)を再測定した。
【0062】
下記数学式2を用いて、水分含浸率を計算した。
【0063】
[数学式2]
水分含浸率=(W2-W1)/W1×100
【0064】
前記数学式2中、W1は、水分含浸前の試験片の重量であり、W2は、水分含浸後の試験片の重量である。
【0065】
4)ダスト(dust)発生量
前記水分含浸率でのように準備された試験片に下記の条件で所定の振動を加えた後、数学式3を用いてダスト発生量を計算した。
【0066】
試験片:125mm×125mm、厚さ10mm未満
振動:24Hz
振幅:3mm
時間:12時間
【0067】
[数学式3]
振動によるダスト発生率(Pv)=(Wc-Wv)/Wc×100
【0068】
前記数学式3中、Wcは、振動前の試験片の重量、Wvは、振動後の試験片の重量である。
【0069】
5)熱電導度の測定
前記実施例1~6および比較例1~3で製造したシリカエアロゲルブランケットロールに対して、NETZSCH社製のHFM 436装備を用いて、常温(25℃)の熱電導度を測定した。
【0070】
【0071】
実施例1~6は、別の洗浄が行われていない比較例1および70℃の温度の洗浄溶媒を使用した比較例2および3に比べて、短い洗浄時間だけでも著しく優れたアンモニア除去率を示している。シリカエアロゲルブランケットに弱く結合して含まれたシリカ微粒子は、シリカエアロゲルブランケットを用いた作業時およびシリカエアロゲルブランケットが適用された物体などの衝撃および振動により飛散することができる。シリカエアロゲルブランケットに対して振動を加えた後の重量の減少を測定する方法により、シリカエアロゲルブランケットのダスト発生程度を評価することができ、前記表1で確認することができるように、実施例1~6のシリカエアロゲルブランケットは、振動を加えた後の重量の減少が、比較例1~3のシリカエアロゲルに比べて著しく小さくて、振動後、脱落するシリカ微粒子の量およびこれによるダスト発生程度が最も少ないことを確認することができた。別の洗浄が行われていない比較例1のシリカエアロゲルの場合、最もダスト発生率が高く、比較例2および3のシリカエアロゲルは、比較例1のシリカエアロゲルに比べてはダスト発生率が小さい値を示しているが、実施例1~6のシリカエアロゲルに比べてはダスト発生率が著しく高い値を示している。
【0072】
前記ダスト発生率の評価により、洗浄過程でエアロゲルブランケットに弱く結合していたシリカ微粒子が洗浄過程で除去されることができるという点と、本発明による洗浄ステップでは、より効果的にシリカ微粒子の除去が行われることができるという点を確認することができた。したがって、本発明のシリカエアロゲルの製造方法による場合、実施例1~6のシリカエアロゲルのように、小さいダスト発生率の値を有するシリカエアロゲルを製造することができるという点を確認することができた。
【0073】
図1~
図3には、実施例1、比較例1および比較例3で使用された超臨界乾燥装置の内部のフィルタおよびハウジングを撮影した写真がそれぞれ図示されている。
図1~3を参照すると、別の洗浄過程が行われていない比較例1は、超臨界乾燥過程で発生したアンモニウム塩がフィルタおよびハウジングに多量沈積していることを確認することができる。これに比べて、アンモニウムイオンの除去過程が行われた実施例1および比較例3は、フィルタおよびハウジングに沈積したアンモニウム塩の量が著しく少なく、特に、実施例1は、ハウジングに沈積したアンモニウム塩が観察されないなど、比較例3に比べても著しく優れた結果を示すことを確認することができる。
【0074】
また、実施例1~6のシリカエアロゲルは、比較例1および2のシリカエアロゲルに比べて、低い水分含浸率を示すことを確認することができる。シリカエアロゲルの製造過程には、シリカエアロゲルの水分吸収を抑制させて低い熱伝導率を維持するために、シリカエアロゲルの表面を疎水性に改質するステップが必ず行われる。しかし、シリカエアロゲルの表面を疎水性に改質して疎水性を与えたにもかかわらず、シリカエアロゲルの内部に不純物である塩などの親水性物質が含まれている場合、その量に比例して水分含浸率が高くなる。前記水分含浸率は、雨の時または水中でシリカエアロゲルを断熱材として使用した時の耐久性を反映することができる物性の一つであり、水分含浸率が高い場合、水分が簡単に含浸されて、時間の経過につれて熱伝導度の悪化をもたらし得る。そのため、水分含浸率が高い場合、シリカエアロゲルの製造直後には、低い熱伝導度を示すとしても、時間の経過につれて熱伝導度が高くなる。このように、実施例1~6のシリカエアロゲルが低い水分含浸率を示すという点から、本発明のシリカエアロゲルの製造方法により製造されたシリカエアロゲルが高い耐久性を示すことを確認することができた。