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特許7499419電気化学セル、電気化学セルを使用した発電方法、及び電気化学セルを使用した水素ガスの製造方法
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  • 特許-電気化学セル、電気化学セルを使用した発電方法、及び電気化学セルを使用した水素ガスの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-05
(45)【発行日】2024-06-13
(54)【発明の名称】電気化学セル、電気化学セルを使用した発電方法、及び電気化学セルを使用した水素ガスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/1246 20160101AFI20240606BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20240606BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20240606BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20240606BHJP
   C25B 1/02 20060101ALI20240606BHJP
   C25B 1/042 20210101ALI20240606BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20240606BHJP
   C25B 9/05 20210101ALI20240606BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20240606BHJP
   C25B 13/04 20210101ALI20240606BHJP
   C25B 13/07 20210101ALI20240606BHJP
   C25B 15/021 20210101ALI20240606BHJP
   C25B 15/08 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
H01M8/1246
H01M8/10
H01M4/86 T
H01M4/92
C25B1/02
C25B1/042
C25B9/00 A
C25B9/00 Z
C25B9/05
C25B9/23
C25B13/04 301
C25B13/07
C25B15/021
C25B15/08 302
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2023541185
(86)(22)【出願日】2021-08-12
(86)【国際出願番号】 JP2021029742
(87)【国際公開番号】W WO2023017601
(87)【国際公開日】2023-02-16
【審査請求日】2023-03-16
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2021年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「NEDO先導研究プログラム/エネルギー・環境新技術先導研究プログラム/メチルシクロヘキサンの直接利用を実現する中温作動燃料電池の開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003285
【氏名又は名称】千代田化工建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 佳巳
(72)【発明者】
【氏名】安西 卓生
(72)【発明者】
【氏名】今川 健一
(72)【発明者】
【氏名】黒崎 大輔
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-060043(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0026409(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第109761598(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/1246
H01M 8/10
H01M 4/86
H01M 4/92
C25B 1/02
C25B 1/042
C25B 9/00
C25B 9/05
C25B 9/23
C25B 13/04
C25B 13/07
C25B 15/021
C25B 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学セルであって、
xが0以上の数であるLi14-2xZn1+x(GeOのリチウムイオンの一部がプロトンに置換された(Li,H)14-2xZn1+x(GeOであり、300℃において0.01S/cm以上の導電率を有するプロトン伝導体と、
前記プロトン伝導体の一側に設けられたアノードと、
前記プロトン伝導体の他側に設けられたカソードと、
前記プロトン伝導体の前記アノード側に設けられ、アノード室を形成する第1セパレータと、
前記プロトン伝導体の前記カソード側に設けられ、カソード室を形成する第2セパレータとを有する電気化学セル。
【請求項2】
前記プロトン伝導体の温度を200℃以上600℃以下に維持する温度調節手段を有する請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
前記xは、0である請求項1又は2に記載の電気化学セル。
【請求項4】
Li14-2xZn1+x(GeOに含まれる可動リチウムイオンの40%以上70%以下がプロトンに置換されている請求項1~3のいずれか1つの項に記載の電気化学セル。
【請求項5】
Li14-2xZn1+x(GeOに含まれる可動リチウムイオンの50%以上60%以下がプロトンに置換されている請求項1~3のいずれか1つの項に記載の電気化学セル。
【請求項6】
前記プロトン伝導体、前記アノード、前記カソード、前記第1セパレータ、及び前記第2セパレータによって形成されるセルを複数有し、
前記セルの1つの前記第1セパレータは、前記セルの他の1つの前記第2セパレータと熱交換可能に接触している請求項1~5のいずれか1つの項に記載の電気化学セル。
【請求項7】
前記アノード室に水素が供給され、
前記カソード室に空気が供給され、
前記アノード及び前記カソード間に起電力が生じ、当該電気化学セルが水素-酸素燃料電池として機能する請求項1~6のいずれか1つの項に記載の電気化学セル。
【請求項8】
前記アノード室に水素を含む水素含有化合物が供給され、
前記カソード室に空気が供給され、
前記アノード室に前記水素含有化合物から水素ガスを発生させる触媒を含む触媒層が設けられ、
前記アノード及び前記カソード間に起電力が生じ、当該電気化学セルが水素-酸素燃料電池として機能する請求項1~6のいずれか1つの項に記載の電気化学セル。
【請求項9】
前記水素含有化合物が、1~3環の芳香族を水素化した有機ハイドライド化合物である請求項8に記載の電気化学セル。
【請求項10】
前記水素含有化合物が、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、デカリン、ベンジルトルエン、及びジベンゾトリオールから構成される群から選択される少なくとも1つを含む請求項8に記載の電気化学セル。
【請求項11】
前記水素含有化合物が、アンモニア、ギ酸、メタノール、ジメチルエーテルから構成される群から選択される少なくとも1つを含む請求項8に記載の電気化学セル。
【請求項12】
前記触媒が、アルミナ担体と、前記アルミナ担体に担持された白金とを含む脱水素触媒であり、
前記白金の平均粒子径が2nm以下である請求項8~11のいずれか1つの項に記載の電気化学セル。
【請求項13】
前記アノード室に水蒸気が供給され、
前記アノード及び前記カソード間に直流電源が接続され、
前記カソードで水素が生成するように、当該電気化学セルが電解槽として機能する請求項1~6のいずれか1つの項に記載の電気化学セル。
【請求項14】
請求項1~6のいずれか1つに記載された電気化学セルを用いた発電方法であって、
前記アノード室に水素を供給し、
前記カソード室に空気を供給し、
前記プロトン伝導体の温度を200℃以上600℃以下に維持する発電方法。
【請求項15】
請求項1~6のいずれか1つに記載された電気化学セルを用いた発電方法であって、
前記アノード室に水素含有化合物から水素ガスを発生させる触媒層が設けられ、
前記アノード室に前記水素含有化合物を供給し、
前記カソード室に空気を供給し、
前記プロトン伝導体の温度を200℃以上600℃以下に維持する発電方法。
【請求項16】
前記水素含有化合物が、1~3環の芳香族を水素化した有機ハイドライド化合物である請求項15に記載の発電方法。
【請求項17】
前記水素含有化合物が、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、デカリン、ベンジルトルエン、及びジベンゾトリオールから構成される群から選択される少なくとも1つを含む請求項15に記載の発電方法。
【請求項18】
前記水素含有化合物が、アンモニア、ギ酸、メタノール、ジメチルエーテルから構成される群から選択される少なくとも1つを含む請求項15に記載の発電方法。
【請求項19】
前記触媒層が、アルミナ担体と、前記アルミナ担体に担持された白金とを含む脱水素触媒を有し、
前記白金の平均粒子径が2nm以下である請求項15~18のいずれか1つの項に記載の発電方法。
【請求項20】
請求項1~6のいずれか1つに記載された電気化学セルを用いた電気分解による水素ガスの製造方法であって、
前記アノード室に水蒸気を供給し、
前記プロトン伝導体の温度を200℃以上600℃以下に維持し、
前記アノード及び前記カソード間に直流電圧を印加し、前記カソードにおいて水素ガスを生成させる水素ガスの製造方法。
【請求項21】
請求項1~6のいずれか1つに記載された電気化学セルを用いた電気分解による水素ガスの製造方法であって、
前記アノード室に触媒を設け、
前記アノード室にメチルシクロヘキサン、ギ酸、メタノール、ジメチルエーテルを含む群から選択される少なくとも1つの炭化水素、又はアンモニアを供給し、
前記プロトン伝導体の温度を200℃以上600℃以下に維持し、
前記アノード及び前記カソード間に直流電圧を印加し、
前記アノード室において前記触媒によって前記炭化水素又は前記アンモニアから発生したプロトンを、前記プロトン伝導体を介して前記カソードに移動させ、前記カソードにおいて水素ガスを生成させる水素ガスの製造方法。
【請求項22】
請求項1~6のいずれか1つに記載された電気化学セルを用いた電気分解による水素ガスの製造方法であって、電気分解を加圧条件下で行う水素ガスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学セル、電気化学セルを使用した発電方法、及び電気化学セルを使用した水素ガスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に利用されている固体高分子形燃料電池(PEFC)、定置形燃料電池として利用されているリン酸形燃料電池(PAFC)、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)、及び固体酸化物形燃料電池(SOFC)が実用化されている。作動温度は、固体高分子形燃料電池が常温~100℃、リン酸形燃料電池が180~200℃、溶融炭酸塩形燃料電池が600~700℃、固体酸化物形燃料電池が600~900℃である。しかし、200~600℃の中温域で作動する燃料電池は存在していない。
【0003】
200~600℃の中温域で作動する燃料電池は、水素-酸素燃料電池だけではなく、燃料電池の燃料極室内で各種の燃料から水素を発生させ、発生させた水素を使用した燃料電池反応によって発電する直接形燃料電池に適している。また、200~600℃の中温域で作動する燃料電池は、200℃以下の低温域で作動する燃料電池に比べて燃料電池反応を促進することができるため、効率を向上させることができる。
【0004】
200~600℃の中温域で作動する燃料電池が存在しない理由は、この温度域で十分なイオン伝導率を有するイオン伝導体が存在しないためである。これまで、1997年に見出されたリン酸二水素セシウム(CsHPO)が最も高い導電率を有するプロトン伝導体として注目されている。しかし、リン酸二水素セシウムは、270℃以上では相転移が起こるため使用限界温度が270℃とされている。リン酸二水素セシウムは、通常は250℃を作動温度としており、このときの導電率σ(S/cm)は0.008程度である。そのため、中温域で作動する燃料電池の実現は、1990年代から重要な研究課題となっている。
【0005】
特許文献1は、直接形燃料電池を開示している。直接形燃料電池では、メチルシクロヘキサン及びデカリン等の有機ハイドライド化合物を燃料として燃料電池セルに供給し、燃料極の電極に固定された貴金属触媒に接触させて脱水素反応を行う。
【0006】
メチルシクロヘキサンから水素を生成する脱水素反応を促進する脱水素触媒には、千代田化工建設株式会社が開発した特許文献2に示される白金アルミナ触媒が使用される。非特許文献1は、脱水素触媒を用いた有機ケミカルハイドライド法による大規模な水素サプライチェーンの全システムの実証が国際間で完了して商業化段階に移行していることを示している。この脱水素触媒は工業レベルで利用できる高い収率と寿命を有しており、本来はメチルシクロヘキサンに貯蔵された水素を利用場所で脱水素反応によって水素を発生させる目的に利用するものである。この際、脱水素反応が吸熱反応であることから熱源が必要であり、熱源コストが多くかかることと、熱源が化石燃料である場合には、熱源から発生するCOがLCA CO(ライフサイクルアセスメントCO)を低下させる問題がある。
【0007】
特許文献1において、燃料極において発生した水素は、燃料極に電子を渡してプロトンになる。プロトンは、電解質膜中を移動し、対極の空気極で活性化された酸素原子と共に電極から電子を受け取って燃料電池反応を進行させる。電解質膜は、リン酸二水素セシウム(CsHSO)の微結晶とポリテトラフルオロエチレンの混合物からなる膜である。特許文献1の直接形燃料電池は、170~220℃の作動温度で、出力が40mW/cmになる。
【0008】
しかし、有機膜である固体電解質を利用した場合の作動温度は100℃以下が一般的であり、200℃以上では有機膜の耐熱性が十分でない。リン酸二水素セシウムは、200℃以上で利用できる固体電解質として知られている。しかし、リン酸二水素セシウムの使用限界温度は270℃であるため、更に高い温度で使用できる新規なプロトン伝導体が要望されている。
【0009】
以上の要望に対して、非特許文献2は、固体電解質であるLISICONの一種であるLi14Zn(GeOのLiの一部をSrで置換したLi13.9Sr0.1Zn(GeOを開示している。Li13.9Sr0.1Zn(GeOは、600℃で0.039S/cmの導電率を示し、従来のジルコニア系材料又はセリア系材料の固体電解質よりも高い導電率を有する。また、Li13.9Sr0.1Zn(GeOを適用した燃料電池は、600℃の作動温度において、約0.4W/cmの出力を有する。また、Li13.9Sr0.1Zn(GeOにおいて移動可能なリチウムイオンをプロトンに完全に置換すると、600℃の作動温度において導電率は0.048S/cmに向上する。リチウムイオンとプロトンとの交換は、水や希薄な酢酸中で行う。例として、Li13.9Sr0.1Zn(GeOを5mMの酢酸水溶液中で24時間攪拌することによってイオン交換が行われている。
【0010】
非特許文献3は、Li14-2xZn1+x(GeOを5mM酢酸水溶液中でイオン交換処理し、リチウムイオンとプロトンとを交換したプロトン伝導体について開示している。非特許文献3では、Li/Zn2+比を変化させたLi14Zn(GeO、Li12Zn(GeO、Li10Zn(GeOに対してイオン交換を行い、各試料の同定と昇温時の重量変化測定を行うことによって、リチウム量が多い試料ほどプロトンへのイオン交換量が多いことを確認している。また、非特許文献3は、プロトン伝導体を使用した水素濃淡電池の起電力測定の結果から、非特許文献2に開示されたプロトン伝導体と同様の導電率が得られる可能性を見出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2005-166486号公報
【文献】特許5897811号明細書
【文献】ガスタービン学会誌、Vol.49、No.2、p.1-6(2021)
【文献】Chem.Mater.,2017,29,1490-1495
【文献】公益社団法人電気化学会、2018年秋季大会予稿集,1B02
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、200~600℃の温度域において、より高い導電率を有する新規なプロトン伝導体が望まれている。このようなプロトン伝導体を固体電解質として使用した電気化学セルでは、作動温度を200~600℃に設定することができ、燃料極において有機ハイドライド化合物の脱水素反応を促進することができる。また、このようなプロトン伝導体を固体電解質として使用した電解槽では、作動温度を200~600℃に設定することができ、電解反応の効率を向上させることができる。
【0013】
以上の背景に鑑み、本発明は、200~600℃の温度域での使用に適した電気化学セル、電気化学セルを使用した発電方法、及び電気化学セルを使用した水素ガスの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、電気化学セル(1)であって、xが0以上の数であるLi14-2xZn1+x(GeOのリチウムイオンの一部がプロトンに置換された(Li,H)14-2xZn1+x(GeOであり、300℃において0.01S/cm以上の導電率を有するプロトン伝導体(5)と、前記プロトン伝導体の一側に設けられたアノード(6)と、前記プロトン伝導体の他側に設けられたカソード(7)と、前記プロトン伝導体の前記アノード側に設けられ、アノード室(8)を形成する第1セパレータ(9)と、前記プロトン伝導体の前記カソード側に設けられ、カソード室(11)を形成する第2セパレータ(12)とを有する。xは小数を含んでもよい。また、Li14-2xZn1+x(GeOは、Li2+2yZn1-yGeOと表記することができる。ここで、x=3-4yである。また、Li14-2xZn1+x(GeOのリチウムイオンの一部がプロトンに置換された構造は、(Li,H)14-2xZn1+x(GeO又は(Li,H)2+2yZn1-yGeOと表記することができる。
【0015】
この態様によれば、200~600℃の温度域での使用に適した電気化学セルを提供することができる。電気化学セルは、燃料電池及び電解槽として利用することができる。
【0016】
上記の態様において、前記プロトン伝導体の温度を200℃以上600℃以下に維持する温度調節手段を有してもよい。
【0017】
この態様によれば、プロトン伝導体の導電率を高い状態に維持することができる。
【0018】
上記の態様において、前記xは、0であってもよい。
【0019】
上記の態様において、Li14-2xZn1+x(GeOに含まれる可動リチウムイオンの40%以上70%以下がプロトンに置換されてもよい。また、上記の態様において、Li14-2xZn1+x(GeOに含まれる可動リチウムイオンの50%以上60%以下がプロトンに置換されてもよい。可動リチウムイオンは、Li14-2xZn1+x(GeOに含まれる全リチウムイオンの内で、Li14-2xZn1+x(GeO内を移動することができるリチウムイオンをいう。Li14-2xZn1+x(GeOの全てのリチウムイオンに対する可動リチウムイオンの割合は(3-x)/(14-2x)である。
【0020】
これらの態様によれば、プロトン伝導体の導電率を向上させることができる。
【0021】
上記の態様において、前記プロトン伝導体、前記アノード、前記カソード、前記第1セパレータ、及び前記第2セパレータによって形成されるセル(2)を複数有し、前記セルの1つの前記第1セパレータは、前記セルの他の1つの前記第2セパレータと熱交換可能に接触してもよい。
【0022】
この態様によれば、カソードにおけるプロトンと酸素との反応により発生した熱が第1セパレータ及び第2セパレータを介してアノードに伝達される。これにより、プロトン伝導体の温度が200℃~600℃に維持され易くなる。
【0023】
上記の態様において、前記アノード室に水素が供給され、前記カソード室に空気が供給され、前記アノード及び前記カソード間に起電力が生じ、当該電気化学セルが水素-酸素燃料電池として機能してもよい。
【0024】
この態様によれば、水素-酸素燃料電池を提供することができる。
【0025】
上記の態様において、前記アノード室に水素を含む水素含有化合物が供給され、前記カソード室に空気が供給され、前記アノード室に前記水素含有化合物から水素ガスを発生させる触媒を含む触媒層が設けられ、前記アノード及び前記カソード間に起電力が生じ、当該電気化学セルが水素-酸素燃料電池として機能してもよい。
【0026】
この態様によれば、直接形燃料電池を提供することができる。
【0027】
上記の態様において、前記水素含有化合物が、1~3環の芳香族を水素化した有機ハイドライド化合物であってもよい。また、前記水素含有化合物が、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、デカリン、ベンジルトルエン、及びジベンゾトリオールから構成される群から選択される少なくとも1つを含んでもよい。
【0028】
この態様によれば、アノードに供給される燃料を有機ハイドライド化合物にした直接形燃料電池を提供することができる。また、吸熱反応である燃料からの水素発生反応に必要な反応熱を、水が生成する発熱反応である燃料電池反応の発熱で補うことが可能となる。
【0029】
脱水素触媒による脱水素反応によって発生した水素はアノード室において電子をアノードに渡してプロトンとなり、プロトン伝導体の内部を伝導して対極のカソードに到達する。このとき、カソードで電子を受け取った酸素イオンと水を生成する燃料電池反応が起こる。これにより回路を通じて電子が流れ、発電が行われる。ここで、脱水素反応は化学平衡に規制される平衡反応であり、例えば、メチルシクロヘキサンの脱水素反応の場合、通常の反応器による常圧の反応圧力で、ほぼ100%脱水素反応を進行させるために必要な反応温度は320℃である。電気化学セルではプロトン伝導体によりプロトンが対極側に除去されるため、化学平衡を低温側にシフトする効果がある。これにより、320℃以下でもほぼ100%で脱水素反応を進行させることができると共に、更に作動温度を高温にすることで脱水素反応を促進することができる。
【0030】
上記の態様において、前記水素含有化合物が、アンモニア、ギ酸、メタノール、ジメチルエーテルから構成される群から選択される少なくとも1つを含んでもよい。
【0031】
上記の態様において、前記触媒が、アルミナ担体と、前記アルミナ担体に担持された白金とを含む脱水素触媒であり、前記白金の平均粒子径が2nm以下であってもよい。
【0032】
この態様によれば、アノードにおけるメチルシクロヘキサンの脱水素反応を促進することができる。アノード室で脱水素反応により生成した水素は、アノード電極に電子を渡してプロトンとなり、プロトン伝導体を透過する。これにより、脱水素反応場から生成した水素が除去されるため、化学平衡が低温側にシフトし、脱水素反応が促進される。
【0033】
前記脱水素触媒としては、千代田化工建設が開発した白金担持アルミナ触媒を用いることができる。この触媒は、触媒担体として用いる多孔質のγ―アルミナの表面上に白金粒子を高度に分散させた触媒である。白金担持アルミナ触媒は古くから多くの反応に用いられているが、従来の白金担持アルミナ触媒の白金粒子は、そのサイズが大きく、最も小さな白金粒子でも2nm以上であることから、その平均粒子径も2nm以上である。このような従来の白金触媒で有機ハイドライドの脱水素反応を行うと白金粒子上で分解反応が起こり、炭素質が白金粒子の表面を非毒することで活性点を覆ってしまう炭素析出反応が顕著に起こりやすく、白金粒子の活性点が急速に減少するため、触媒寿命は数日程度である。千代田化工建設が開発した触媒では、白金粒子径の多くが1nm程度であり、かつその平均粒子径が2nm以下であり、白金粒子がアルミナ担体の表面に高度に分散されている。そのため、千代田化工建設が開発した触媒は、炭素析出を抑制して連続1年以上工業的に利用できる。千代田化工建設が開発した触媒は、有機ハイドライドの脱水素触媒として世界に先駆けて開発されたものであり、本発明の有機ハイドライドの脱水素反応の脱水素触媒として利用できる。
【0034】
上記の態様において、前記アノード室に水蒸気が供給され、前記アノード及び前記カソード間に直流電源が接続され、前記カソードで水素が生成するように、当該電気化学セルが電解槽として機能してもよい。このとき、カソード室に原料を供給する必要はない。
【0035】
この態様によれば、200~600℃の温度域での使用に適した電解槽を提供することができる。
【0036】
本発明の他の態様は、上記の電気化学セルを用いた発電方法であって、前記アノード室に水素を供給し、前記カソード室に空気を供給し、前記プロトン伝導体の温度を200℃以上600℃以下に維持する。
【0037】
この態様によれば、電気化学セルを使用し、水素を燃料として発電を行うことができる。
【0038】
本発明の他の態様は、上記の電気化学セルを用いた発電方法であって、前記アノード室に水素含有化合物から水素ガスを発生させる触媒層が設けられ、前記アノード室に前記水素含有化合物を供給し、前記カソード室に空気を供給し、前記プロトン伝導体の温度を200℃以上600℃以下に維持する。
【0039】
この態様によれば、電気化学セルを使用し、水素含有化合物を燃料として発電を行うことができる。
【0040】
上記の態様において、前記水素含有化合物が、1~3環の芳香族を水素化した有機ハイドライド化合物であってもよい。また、前記水素含有化合物が、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、デカリン、ベンジルトルエン、及びジベンゾトリオールから構成される群から選択される少なくとも1つを含んでもよい。また、前記水素含有化合物が、アンモニア、ギ酸、メタノール、ジメチルエーテルから構成される群から選択される少なくとも1つを含んでもよい。
【0041】
上記の態様において、前記触媒層が、アルミナ担体と、前記アルミナ担体に担持された白金とを含む脱水素触媒を有し、前記白金の平均粒子径が2nm以下であってもよい。
【0042】
この態様によれば、アノードにおけるメチルシクロヘキサンの脱水素反応を促進することができる。
【0043】
本発明の他の態様は、上記の電気化学セルを用いた電気分解による水素ガスの製造方法であって、前記アノード室に水蒸気を供給し、前記カソード室に水を供給し、前記プロトン伝導体の温度を200℃以上600℃以下に維持し、前記アノード及び前記カソード間に直流電圧を印加し、前記カソードにおいて水素ガスを生成させる。このとき、カソード室に原料を供給する必要はない。また、本発明の他の態様は、電気化学セルを用いた電気分解による水素ガスの製造方法であって、前記アノード室に触媒を設け、前記アノード室にメチルシクロヘキサン、ギ酸、メタノール、ジメチルエーテルを含む群から選択される少なくとも1つの炭化水素、又はアンモニアを供給し、前記プロトン伝導体の温度を200℃以上600℃以下に維持し、前記アノード及び前記カソード間に直流電圧を印加し、前記アノード室において前記触媒によって前記炭化水素又は前記アンモニアから発生したプロトンを、前記プロトン伝導体を介して前記カソードに移動させ、前記カソードにおいて水素ガスを生成させる。このとき、カソード室に原料を供給する必要はない。
【0044】
この態様によれば、電気化学セルを使用して水素を製造することができる。
【0045】
本発明の他の態様は、上記の電気化学セルを用いた電気分解による水素ガスの製造方法であって、前記アノード室に触媒を設け、前記アノード室にメチルシクロヘキサン、ギ酸、メタノール、ジメチルエーテルを含む群から選択される少なくとも1つの炭化水素、又はアンモニアを供給し、前記プロトン伝導体の温度を200℃以上600℃以下に維持し、前記アノード及び前記カソード間に直流電圧を印加し、前記アノード室において前記触媒によって前記炭化水素又は前記アンモニアから発生したプロトンを、前記プロトン伝導体を介して前記カソードに移動させ、前記カソードにおいて水素ガスを発生させる。
【0046】
この態様によれば、電気化学セルを使用して水素を製造することができる。
【0047】
本発明の他の態様は、上記の電気化学セルを用いた電気分解による水素ガスの製造方法であって、電気分解を加圧条件下で行う。
【0048】
この態様によれば、高圧の水素ガスを製造することができる。
【発明の効果】
【0049】
以上の構成によれば、200~600℃の温度域での使用に適した電気化学セル、電気化学セルを使用した発電方法、及び電気化学セルを使用した水素ガスの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1】燃料電池の構成図
図2】発電セルの構成図
図3】固体電解質の導電率を示すグラフ
図4】電解槽の構成図
【発明を実施するための形態】
【0051】
(第1実施形態)
以下に、本発明の電気化学セルの実施形態について説明する。第1実施形態では、本発明の電気化学セルを燃料電池に適用した例について説明する。図1に示すように、燃料電池1は、互いに積層された複数の発電セル2を有する燃料電池スタック3を有する。図1及び図2に示すように、各発電セル2は、プロトン伝導体5と、プロトン伝導体5の一側に設けられたアノード6と、プロトン伝導体5の他側に設けられたカソード7と、プロトン伝導体5のアノード6側に設けられ、アノード室8を形成する第1セパレータ9と、プロトン伝導体5のカソード7側に設けられ、カソード室11を形成する第2セパレータ12とを有する。
【0052】
本実施形態では、アノード室8に水素を含む水素含有化合物が供給され、カソード室11に空気が供給される。水素含有化合物が、1~3環の芳香族を水素化した有機ハイドライド化合物であるとよい。水素含有化合物が、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、デカリン、ベンジルトルエン、及びジベンゾトリオールから構成される群から選択される少なくとも1つを含むとよい。また、水素含有化合物が、アンモニア、ギ酸、メタノール、ジメチルエーテルから構成される群から選択される少なくとも1つを含んでもよい。本実施形態では、燃料としての水素含有化合物はメチルシクロヘキサン(MCH)である。アノード6は燃料極、カソード7は空気極、アノード室8は燃料流路、カソード室11は空気流路と称してもよい。
【0053】
プロトン伝導体5は、膜状に形成されている。プロトン伝導体5は、Li14-2xZn1+x(GeOのLiの一部がプロトンに置換された構造を有する。ここで、xは0以上の数であり、小数を含んでもよい。Li14-2xZn1+x(GeOは、Li2+2yZn1-yGeOと表記することができる。ここで、x=3-4yである。また、Li14-2xZn1+x(GeOのリチウムイオンの一部がプロトンに置換された構造は、(Li,H)14-2xZn1+x(GeO又は(Li,H)2+2yZn1-yGeOと表記することができる。Li14-2xZn1+x(GeOは固体電解質であるLISICON(Lithium super ionic conductor、リチウムスーパーイオン伝導体)の一種である。xは、例えば0、1、2であるとよい。
【0054】
LISICONは、γ-LiPO型のLiO、GeO、SiO、PO、ZnO、VOの四面体とLiOの八面体により形成される骨格構造を有する。Li14Zn(GeOは、LiGeOを母構造にZnが固溶したものであり、高い伝導性を有する。
【0055】
プロトン伝導体5は、300℃において0.01S/cm以上の導電率を有する。プロトン伝導体は、Li14-2xZn1+x(GeOに含まれる可動リチウムイオンの40%以上70%以下がプロトンに置換されている。また、プロトン伝導体は、Li14-2xZn1+x(GeOに含まれる可動リチウムイオンの50%以上60%以下のLiがプロトンに置換されていることが好ましい。プロトン伝導体5は、Li14Zn(GeOに含まれる可動リチウムイオンの40%以上70%以下がプロトンに置換されているとよい。また、プロトン伝導体5は、Li14Zn(GeOに含まれる可動リチウムイオンの50%以上60%以下がプロトンに置換されていることが好ましい。
【0056】
以下に、プロトン伝導体5の製造方法について説明する。最初に、イオン交換前のLi14-2xZn1+x(GeOの調製方法について説明する。Li14-2xZn1+x(GeOの調製方法は、上記の非特許文献3にも開示されている。Li14-2xZn1+x(GeOは、固相法によって調製することができる。Li源、Zn源、及びGe源の試薬の粉末を有機溶媒中で一晩混合し、かつ粉砕した後に有機溶媒を蒸発させ、混合物を得る。Li源は、LiOH、LiO、及びLiNOを含む群から選択される少なくとも1つを含むと良い。Zn源は、Zn(OH)、ZnCO、及びZn(NOを含む群から選択される少なくとも1つを含むと良い。Ge源は、GeO及びGeClを含む群から選択される少なくとも1つを含むと良い。Li源、Zn源、及びGe源の組み合わせは、例えば、LiCO、ZnO、GeOであるとよい。有機溶媒は、エタノール、メタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、及び1-ブタノールを含む群から選択される少なくとも1つであるとよい。この後、混合物を、成形機を用いてペレット状に成形し、成形物を空気中で焼成し、その後に粉砕して粉末化してLi14-2xZn1+x(GeOを得る。
【0057】
成形物の空気焼成温度は、1000~1200℃であることが好ましく、1100~1150℃であることがより好ましい。焼成温度が1000℃より低い場合には固相反応が進行しない問題が生じ、焼成温度が1200℃より高い場合には成形物が融解する問題が生じる。成形物の焼成時間は、3~7時間であることが好ましく、4~6時間であることがより好ましい。成形物は、例えば空気中1150℃で5時間焼成されるとよい。
【0058】
Li14-2xZn1+x(GeOは、例えばLi14Zn(GeO、Li12Zn(GeO、Li10Zn(GeOであるとよい。Li14-2xZn1+x(GeOにおけるLiとZnの比は、混合するLi源、Zn源、及びGe源の比によって変化させることができる。
【0059】
次に、Li14-2xZn1+x(GeOのリチウムの一部をプロトンに交換する方法について説明する。Li14-2xZn1+x(GeOの粉末試料を、酸を含む非水系溶媒中に浸漬し、かつ攪拌することによって、Li14-2xZn1+x(GeOに含まれる可動リチウムイオンの一部をプロトンに置換する。非水系溶媒は、非プロトン性溶媒が好ましい。非水系溶媒は、トルエン、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、N、N-ジメチルホルムアミドを含む群から選択される1つを含むと良い。酸は、安息香酸、m-ニトロフェノール、酢酸、p-トルエンスルホン酸、シュウ酸、及びメタンスルホン酸を含む群から選択される少なくとも1つを含むと良い。例えば、非水系溶媒として脱水剤で水分を除去したトルエンを用い、プロトン源として安息香酸を5mMの濃度となるように溶解させた非水系有機溶液100mL中でLi14-2xZn1+x(GeOを24時間攪拌してイオン交換を行うとよい。
【0060】
Li14-2xZn1+x(GeOに含まれる可動リチウムイオンのプロトンへのイオン交換率は、溶媒に対するLi14-2xZn1+x(GeOの濃度及び酸種を変更することによって調節することができる。溶媒が水系であり、酸種が酢酸である場合、Li14-2xZn1+x(GeOに含まれる可動リチウムイオンのプロトンへのイオン交換率が100%になることが確認されている。
【0061】
イオン交換後のプロトン伝導体の粉末は、溶媒を除去することによって得られる。この際の乾燥温度は用いた溶媒の沸点以上、かつ300℃以下が好ましい。沸点より温度が低いと溶媒が残留する問題が生じ、300℃より高温だと試料中のプロトンが脱離する問題が生じる。これにより、粉末状のプロトン伝導体が得られる。粉末状のプロトン伝導体は、例えば、成形機によって膜状に成形することができる。また、粉末状のプロトン伝導体は、湿式法や蒸着などの乾式法を用いて成形されてもよい。
【0062】
図2に示すように、アノード6はプロトン伝導体5の第1面5Aに積層されたアノード触媒層6Aと、アノード触媒層6Aのプロトン伝導体5と相反する側に積層されたアノードガス拡散層6Bとを有する。カソード7はプロトン伝導体5の第1面5Aと相反する第2面5Bに積層されたカソード触媒層7Aと、カソード触媒層7Aのプロトン伝導体5と相反する側に積層されたカソードガス拡散層7Bとを有する。
【0063】
アノード触媒層6A及びカソード触媒層7Aは、導電性を有する多孔質の支持体と、支持体に支持された電極触媒とを有する。支持体は例えばアイオノマーである。電極触媒は、公知のPEFCに使用されている電極触媒を使用することができ、例えば白金、パラジウム、イリジウム、ルテニウムなどの貴金属触媒であってよい。また、電極触媒は、安価な金属触媒であってもよい。
【0064】
アノードガス拡散層6B及びカソードガス拡散層7Bは、多孔質体によって形成され、反応ガスが内部を拡散する。アノードガス拡散層6B及びカソードガス拡散層7Bは、例えば金属多孔体、又は炭素繊維不織布等によって形成されているとよい。本実施形態では、アノードガス拡散層6B及びカソードガス拡散層7Bは、導電性を有する。
【0065】
アノードガス拡散層6B及びアノード触媒層6Aの少なくとも一方には、脱水素触媒が結合されている。脱水素触媒は、有機ケミカルハイドライド法用に使用される白金担持アルミナ触媒が好適である。白金担持アルミナ触媒は、アルミナ担体と、アルミナ担体に担持された活性金属としての白金とを有する。白金は粒子状に形成され、アルミナ担体に分散して担持されている。白金担持アルミナ触媒は、メチルシクロヘキサン等の水素化された芳香族類の脱水素反応に対して活性を有する。
【0066】
白金粒子の平均粒子径は、2nm以下、より好ましくは0.5nm以上2.0nm以下、更に好ましくは0.8nm以上1.5nm以下である。また、白金の粒子の70%以上が2nm以下、より好ましくは0.5nm以上2.0nm以下、更に好ましくは0.8nm以上1.5nm以下の大きさを有するとよい。白金の平均粒子径及び大きさは、透過型電子顕微鏡によって測定されるとよい。白金の粒子は、白金元素(Pt)として0.1重量%以上1.5重量%以下の範囲でアルミナ担体に担持されているとよい。
【0067】
アルミナ担体は、表面積が200m/g以上、細孔容積が0.50m/g以上、平均細孔径が60Å~150Åの範囲、かつ全細孔容積に対して平均細孔径±30Åの細孔が占める割合が60%以上のγ―アルミナ担体を含むとよい。
【0068】
脱水素触媒としての白金担持アルミナ触媒は、白金粒子と共に第2成分を有するとよい。第2成分は、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、バナジウム、モリブデン、クロム、硫黄、リンからなる群から選択される少なくとも1つであってよい。第2成分は、0.5重量%~1.5重量%の範囲でアルミナ担体に担持されているとよい。例えば、アルミナ担体には、硫黄又は硫黄化合物が硫黄元素(S)として0.5重量%以上1.2重量%以下の範囲で含まれるとよい。また、アルミナ担体には、アルカリ金属が0.5重量%以上1.5重量%以下の範囲で担持されているとよい。第2成分によって、白金担持アルミナ触媒の選択性が向上し、それにより触媒寿命が長くなる。
【0069】
脱水素触媒は、公知の様々な形態でアノードガス拡散層6Bに設けられるとよい。例えば、脱水素触媒が粉末状に形成され、ガス拡散層を形成する構造体に脱水素触媒の粉末が固定されるとよい。また、脱水素触媒を微紛化し、微紛化された脱水素触媒を成形することによってガス拡散層を形成してもよい。脱水素触媒は、アノード触媒層6Aに設けられてもよい。
【0070】
第1セパレータ9は、アノードガス拡散層6Bとの間にアノード室8を形成する。第1セパレータ9のアノードガス拡散層6B側には、アノード室8を形成する複数の溝が設けられてもよい。第1セパレータ9とアノードガス拡散層6Bとの間には、アノード室8を拡張するためにスペーサ15が設けられてもよい。他の実施形態ではスペーサ15が省略され、第1セパレータ9とアノードガス拡散層6Bとが直接に接触してもよい。
【0071】
第2セパレータ12は、カソードガス拡散層7Bとの間にカソード室11を形成する。第2セパレータ12のカソードガス拡散層7B側には、カソード室11を形成する複数の溝が設けられてもよい。第2セパレータ12とカソードガス拡散層7Bとの間には、カソード室11を拡張するためにスペーサ16が設けられてもよい。他の実施形態ではスペーサ16が省略され、第2セパレータ12とカソードガス拡散層7Bとが直接に接触してもよい。
【0072】
第1セパレータ9及び第2セパレータ12は、熱伝導体によって形成されている。また、本実施形態では、第1セパレータ9及び第2セパレータ12は、電気伝導体によって形成されている。第1セパレータ9及び第2セパレータ12は、例えばステンレス鋼等の金属、カーボン、又はカーボン樹脂複合体によって形成されるとよい。第1セパレータ9はアノード6と電気的に接続され、第2セパレータ12はカソード7と電気的に接続されている。
【0073】
各発電セル2のアノード室8の入口は、共通の燃料入口21に接続されている。各発電セル2のアノード室8の出口は、共通の燃料出口22に接続されている。各発電セル2のカソード室11の入口は、共通の空気入口23に接続されている。各発電セル2のカソード室11の出口は、共通の空気出口24に接続されている。
【0074】
各発電セル2は、互いに積層されている。複数の発電セル2の内の1つの第1セパレータ9は、複数の発電セル2の内の他の1つの第2セパレータ12と熱交換可能に接触している。隣り合う電池セルの第1セパレータ9と第2セパレータ12とは一体に形成されていても良い。第1セパレータ9と第2セパレータ12とが接触することによって、隣り合う発電セル2は電気的に直列に接続されている。積層された複数の発電セル2の一端に配置された第1セパレータ9は燃料電池スタック3の負極25に接続されている。積層された複数の発電セル2の他端に配置された第2セパレータ12は燃料電池スタック3の正極26に接続されている。負極25及び正極26には外部負荷が接続される。
【0075】
燃料入口21は、加熱器32を介して燃料タンク31に接続されている。加熱器32は、燃料タンク31から供給される液体のメチルシクロヘキサンを加熱して気化させる。加熱器32は、電気によって発熱する電力線を有する電気加熱器や、化石燃料の燃焼熱を熱源とする加熱器であってよい。加熱器32で気化されたメチルシクロヘキサンは、燃料入口21に供給される。
【0076】
燃料出口22は冷却器33及び気液分離装置34を介して使用済み燃料タンク35に接続されている。冷却器33は、燃料出口22から排出される排出ガスを冷却する。排出ガスには、メチルシクロヘキサンから生成されたトルエン及び水素と、未反応のメチルシクロヘキサンとが主に含まれる。冷却器33は、排出ガス中のトルエン及びメチルシクロヘキサンを液化させる。冷却器33は、排出ガスをトルエンの沸点である110.6℃以下に冷却する。冷却器33と加熱器32とは、燃料と排出ガスとを熱交換させる熱交換器を含むとよい。また、冷却器33は、空冷式熱交換器や水冷式熱交換器を含んでもよい。
【0077】
気液分離装置34は、排出ガスから液体であるトルエン及びメチルシクロヘキサンを分離する。分離されたトルエン及びメチルシクロヘキサンは、使用済み燃料タンク35に貯蔵される。液体のトルエン及びメチルシクロヘキサンが分離された排出ガスの気体成分は主に水素である。排出ガスの気体成分は、配管を介して気液分離装置34から燃料電池スタック3の燃料入口21に送られるとよい。
【0078】
カソード室11の入口は空気を取り入れる吸気管に接続されている。カソード室11の出口は、空気及び水を外部に排出する排出管に接続されている。
【0079】
燃料電池1は、プロトン伝導体5の温度を200℃以上600℃以下に維持する温度調節手段を有してもよい。温度調節手段は、プロトン伝導体5の温度を250℃以上600℃以下に維持しても良い。温度調節手段は、アノード室8に供給されるメチルシクロヘキサンの温度を調節する加熱器32であるとよい。また、温度調節手段は、燃料電池スタック3を外気によって冷却する空冷装置又は冷却水によって冷却する水冷装置を含む温度調節装置41であってもよい。また、温度調節手段は、アノード室8に供給するメチルシクロヘキサンの流量を調節する流量制御弁であってもよい。燃料電池1を用いた発電方法は、プロトン伝導体の温度を200℃以上600℃以下に維持する工程を有する。燃料電池1は、温度調節手段によって温度を200℃以上600℃以下に維持するとよい。
【0080】
次に、上記のように構成した燃料電池1の作動について説明する。燃料電池1の各発電セル2のアノード室8には燃料タンク31から燃料入口21を介してメチルシクロヘキサンが供給される。メチルシクロヘキサンは加熱器32において加熱され、気化された後にアノード室8に供給される。燃料電池1の各発電セル2のカソード室11には酸化剤としての酸素を含む空気が空気入口23を介して供給される。
【0081】
アノード室8に供給されたメチルシクロヘキサンはアノードガス拡散層6Bに拡散する。脱水素触媒が設けられたアノードガス拡散層6Bにおいて、次の反応式(1)で表される脱水素反応によって、メチルシクロヘキサンは水素とトルエンに分解する。
【化1】
この反応は、吸熱反応である。アノード室8の温度は、後述するカソード反応(反応式(3))の反応熱を利用して200~600℃に維持されている。
【0082】
脱水素反応によって生成された水素は、アノード触媒層6Aにおいて、電極触媒の存在下で次の反応式(2)で表されるアノード反応により、電子を放出してプロトンを生成する。
【化2】
【0083】
アノード触媒層6Aにおいて生成されたプロトンは、プロトン伝導体5の内部を通過してカソード触媒層7Aに到達する。カソード触媒層7Aでは、電極触媒の存在下で次の反応式(3)で表されるカソード反応により、プロトンと酸素が電子を受け取って水を生成する。カソード反応は、発熱反応である。これにより、アノード6及びカソード7間に起電力が生じる。
【化3】
【0084】
カソード触媒層7Aで発生した熱は、プロトン伝導体5を介してアノード触媒層6A及びアノードガス拡散層6Bに伝達されると共に、カソードガス拡散層7B、第2セパレータ12、及び第1セパレータ9を介してアノード触媒層6A及びアノードガス拡散層6Bに伝達される。これにより、アノード触媒層6A及びアノードガス拡散層6Bが200~600℃に維持され、脱水素反応が促進される。
【0085】
以下に本実施形態に係る燃料電池1(電気化学セル)の効果について説明する。図3は、各種の固体電解質の導電率を示すグラフである。図中の星印は、リン酸二水素セシウム(CsHPO)の250℃における導電率σ(0.008S/cm)(logσ=-2.1)を示している。丸印でプロットした導電率は本実施形態に係るプロトン伝導体((Li,H)14Zn(GeO)の導電率を示している。本実施形態に係るプロトン伝導体の300℃における導電率は、250℃におけるリン酸二水素セシウム(CsHPO)の導電率より高い。また、本実施形態に係るプロトン伝導体の600℃における導電率は、SOFCで利用されている各種の固体電解質より高い。
【0086】
また、図中の右上には、自動車用燃料電池に利用されている有機ポリマーのイオン交換膜の一種であるナフィオンイオン交換膜(Nafion117)の導電率が示されている。本実施形態に係るプロトン伝導体5の500~600℃における導電率は、ナフィオン膜の作動温度90℃程度における導電率と同等である。ナフィオンイオン交換膜が利用されているPEFCは100kW級の燃料電池であり、サイズが小さい。SOFCは、PEFCに比べてサイズが格段に大きい。本実施形態に係るプロトン伝導体5を固体電解質として利用した場合、現在のSOFCの作動温度を低温化できると共に、サイズを小さくすることができる。
【0087】
本実施形態に係るプロトン伝導体5は、200℃~250℃の温度域で作動する固体電解質として、リン酸二水素セシウムの導電率より高い導電率を有している。また、本実施形態に係るプロトン伝導体5は、300~600℃の温度域においても高い導電率を有している。本実施形態に係るプロトン伝導体5は、500℃以上の温度域において、自動車用燃料電池に使用されているナフィオンイオン交換膜と同等の導電率を有している。また、本実施形態に係るプロトン伝導体5は600℃以上の高温でも使用することができ、600℃における導電率は既存のSOFCが600℃以上の作動温度で利用している固体電解質と同等である。本実施形態に係るプロトン伝導体5は、酸化物イオンではなくプロトンを移動させるため導電率が高く、その作動温度を600℃程度に低温化できる。その結果、本実施形態に係るプロトン伝導体5は、既存のSOFCよりも高効率で扱いやすい燃料電池を提供することができる。
【0088】
本実施形態に係るプロトン伝導体の製造方法では、Li14-2xZn1+x(GeOを、酸を含む非水系有機溶液に浸漬・攪拌させることによって、Li14-2xZn1+x(GeOに含まれる可動リチウムイオンのプロトンへのイオン交換率を40%以上70%以下にすることができる。可動リチウムイオンのプロトンへのイオン交換率が40%以上70%以下である場合、プロトン伝導体の構造安定性が向上し、導電率が比較的高くなる。これに対して、Li14-2xZn1+x(GeOを酢酸水溶液に浸漬・攪拌させた場合、Li14-2xZn1+x(GeOに含まれる可動リチウムイオンのプロトンへのイオン交換率が100%になることが確認されている。しかし、この場合のプロトン伝導体は構造安定性が低く、粉末を成型する際に副生相が生成し、それにより導電率が低くなることが確認されている。プロトン伝導体の製造時に非水系溶媒を使用した場合、水系溶媒を使用した場合に比べてイオン交換率が低下するが、構造安定性が向上するために導電率が高くなる。
【0089】
燃料電池1は、200~600℃において比較的高い導電率を有するプロトン伝導体5を使用しているため、効率良く発電を行うことができる。また、カソード7におけるカソード反応によって生じる熱を利用して脱水素反応を行うため、エネルギー効率を向上させることができる。
【0090】
燃料電池1ではプロトン伝導体によりプロトンが対極側に除去されるため、化学平衡を低温側にシフトする効果がある。これにより、320℃以下でもほぼ100%で脱水素反応を進行させることができると共に、更に作動温度を高温にすることで脱水素反応を促進することができる。
【0091】
本願発明者らは、リシコンにおいてリチウムイオンを水素イオン(プロトン)にイオン交換することでプロトンが可動できることを見出し、更に水溶液系でなく非水溶液系でイオン交換することで高い導電率が得られることを見出して実施形態に係る燃料電池1(電気化学セル)を完成させるに至った。実施形態に係る燃料電池1のプロトン伝導体5は、従来のプロトン伝導体に比べて導電率を向上させることができる。上述したように、実施形態に係る燃料電池1のプロトン伝導体5は、これまで最も高い導電率を示す材料として注目されてきたCsHPOが250℃の作動温度で示す導電率σである0.008(S/cm)に比べて飛躍的に高い導電率を有する。実施形態に係る燃料電池1のプロトン伝導体5によれば、これまで実用化されていない200℃~600℃で作動する中温型の電気化学セルを構成できることができ、燃料電池1の他に電解槽等の様々な用途に利用できる。
【0092】
本実施形態に係る燃料電池1(電気化学セル)は、従来の200~600℃で作動するCsHPOを使用した燃料電池に比べて、10倍近くセル性能を向上できることが期待できる。従来の固体電解質形燃料電池や電解槽に利用されている貴金属系を含む電極材料は200~600℃温度域でも使用可能であり、温度が高いほど反応速度は速くなる。直接燃料電池に適用する場合、燃料の種類によって燃料から水素を発生させる分解触媒が必須であるが、これらの分解触媒は既存の工業的な熱化学触媒を利用することができ、その反応速度は十分に大きい。これらから、CsHPOを適用した電気化学セルの性能は、プロトン伝導の速度が律速になっており、プロトン伝導体の導電率に比例した性能を示すと考えられ、本発明のプロトン伝導体を適用することによって約10倍のセル性能を実現できる可能性が極めて高い。
【0093】
(第2実施形態)
第1実施形態に係る燃料電池において、燃料はメチルシクロヘキサンに代えて、アンモニア、ギ酸、メタノール、ジメチルエーテルから構成される群から選択される少なくとも1つを含んでも良い。アンモニアを燃料として使用する場合、第1実施形態に係る燃料電池において、脱水素触媒を公知のアンモニア分解触媒に置換すると良い。アンモニア分解触媒は、アンモニアから水素と窒素とを生成する分解反応を促進する触媒であり、例えばルテニウム系触媒、コバルト系触媒又はニッケル系触媒であると良い。ギ酸を燃料として使用する場合、第1実施形態に係る燃料電池において、脱水素触媒を公知のギ酸改質触媒に置換すると良い。ギ酸改質触媒は、ギ酸から水素と二酸化炭素とを生成する改質反応を促進する触媒であり、例えばイリジウム錯体触媒であると良い。メタノールを燃料として使用する場合、第1実施形態に係る燃料電池において、脱水素触媒を公知のメタノール改質触媒に置換すると良い。メタノール改質触媒は、メタノールと水から水素と二酸化炭素とを生成する改質反応を促進する触媒であり、例えばイリジウム錯体触媒であると良い。ジメチルエーテルを燃料として使用する場合、第1実施形態に係る燃料電池において、脱水素触媒を公知のジメチルエーテル改質触媒に置換すると良い。アンモニア、ギ酸、メタノール、又はジメチルエーテルから水素を生成する反応は、いずれも吸熱反応であるため、カソード反応によって発生する熱を利用して反応を促進することができる。
【0094】
また、他の実施形態では、燃料として水素ガスをアノード室8に供給してもよい。この場合、アノード室8から脱水素触媒は省略するとよい。
【0095】
(第3実施形態)
第1実施形態に係る燃料電池の各発電セル2は、図4に示すように、電解槽50としても使用することができる。この場合、プロトン伝導体5はイオン交換膜として機能し、第1セパレータ9及び第2セパレータ12は容器52として機能する。アノード55は直流電源53の正極に接続され、カソード56は直流電源53の負極に接続されている。これにより、アノード55及びカソード56間に直流電圧が印加される。アノード55及びカソード56は容器54と電気的に絶縁されている。アノード室58及びカソード室59はプロトン伝導体5によって互いに区画されている。アノード室58には酸化されるべき第1物質が供給され、カソード室59には還元されるべき第2物質が供給されるとよい。
【0096】
電解槽50は、200℃以上600℃以下の温度域での電気分解に使用されてもよい。電解槽50は、例えば高温水蒸気電解に使用されるとよい。アノード室58には第1物質としての水蒸気が供給され、カソード室59には何も供給しなくてもよく、第2物質としての水蒸気や窒素等のパージガスが供給されてもよい。この電解槽50では、アノード55において、水分子がアノード55に電子を受け渡して、酸素及びプロトンが生成される(2HO→O+4H+4e)。アノード55において生成されたプロトンは、プロトン伝導体5を通過してカソード56に移動し、カソード56において電子を受け取って水素分子になる(2H+2e→H)。これにより、アノード室58において酸素ガスが生成され、カソード室59において水素ガスが生成される。
【0097】
電解槽50は、200℃以上600℃以下の温度域での炭化水素又はアンモニアの電気分解に使用されてもよい。電解槽50は、例えば、炭化水素から水素を生成するために使用されるとよい。この場合、電解槽50では、アノード55に脱水素触媒に代えて改質触媒が設けられる。アノード室58には、第1物質としての炭化水素ガスと水蒸気とが供給されるとよい。炭化水素は、メチルシクロヘキサン、ギ酸、メタノール、ジメチルエーテル、を含む群から選択される少なくとも1つを含むとよい。また、炭化水素は、例えばメタン、エタン、プロパン、ブタン等の低級炭化水素を含んでもよい。この電解槽50では、アノード55において、炭化水素と水とがアノード55に電子を受け渡して、プロトンと一酸化炭素が生成される。プロトンは、プロトン伝導体5を通過してカソード56に移動し、カソード56において電子を受け取って水素分子になる。これにより、アノード室58において一酸化炭素が生成され、カソード室59において水素分子が生成されることから、炭化水素ガスの電気分解によって合成ガスを製造することができる。カソード室59には、水素のみが生成するため、高純度の水素を製造することができる。また、電気分解は加圧条件下で行ってもよい。この場合、電解槽50のアノード室58及びカソード室59に供給するガスの圧力を増加させるとよい。
【0098】
更に、電解槽50は、200℃以上600℃以下の温度域での炭酸ガスの電解還元に使用されてもよい。電解槽50は、例えば、二酸化炭素からエチレン等の合成ガスの電解製造に使用されるとよい。この場合、電解槽50では、アノード55に脱水素触媒に代えて二酸化炭素還元触媒が設けられる。二酸化炭素還元触媒は、例えば銅等の第11族元素、亜鉛等の第12族元素、ガリウム等の第13族元素、ゲルマニウム等の第14族元素、又はこれらの金属化合物の少なくとも1種を含む。アノード室58には第1物質としての水が供給され、カソード室59には第2物質としての炭酸ガスが供給されるとよい。この電解槽50では、カソード56において、二酸化炭素が還元されてエチレンと水が生成される(2CO+12H+12e→C+4HO)。アノード57では、水が酸化されて酸素が生成される(2HO→O+4H+4e)。これにより、アノード室58において酸素が生成され、カソード室59においてエチレンが生成される。
【0099】
固体電解質として酸化物を用いて600℃以上の高温で水蒸気状の水を電気分解する固体酸化物電解セル(SOEC、SOLID OXIDE ELECROLYSIS CELL)を利用する方法がある。この方法は、水の電解に必要な理論電圧が高温になるほど低くなることから水電解に必要なエネルギーの一部を熱の形態で与えることで電力として与える分を低減できる。しかし、600℃以上の高温の作動温度となることから、SOFCと同様に迅速なスタートアップやシャットダウンが困難であり、操作性に課題がある。また、600℃以上の高温でのシールによる密閉性の確保、及び600℃以上の高温で長期に安定した材料の必要性などSOFCと同様にコストが高い課題がある。本実施形態に係る電解槽50は、200~600℃の中温域において高い導電率を有するプロトン伝導体5をイオン交換膜として利用しているため、600℃より低温において同等の電流密度による電気分解が可能となる。
【0100】
本実施形態に係る電解槽50は、二酸化炭素と水素からエチレン及びギ酸等の軽質炭化水素を電気化学的に製造する方法にも適用することができる。従来、この方法では、高分子膜をイオン交換膜として利用しているため、反応速度が遅いという課題がある。本実施形態に係る電解槽50は、200~600℃において作動するため、電流密度を大きくすることができる。これにより、コンパクトな電解槽を実現することができる。
【0101】
本実施形態に係る電解槽50は、水素ガス含有ガス中の水素を選択的に分離し、圧縮して昇圧する方法にも適用することができる。本実施形態に係る電解槽50は、200~600℃において作動するため、効率的に水素精製や圧縮を行うことができる。
【実施例
【0102】
(Li14Zn(GeOの調製方法)
Li源として炭酸リチウム、Zn源として酸化亜鉛、Ge源として酸化ゲルマニウムを用いた。炭酸リチウム、酸化亜鉛、酸化ゲルマニウムを重量比で25:4:21の比率で加え、密閉容器内でエタノールとジルコニアボールと共に24時間微細化混合したスラリーを130℃で乾燥させて得られた粉末を、プレス機でペレットに成型した。このペレットをアルミナるつぼ内で空気中1150℃、5時間焼成した後に、マグネット乳鉢で2時間粉砕し、ふたたびペレットに成形してアルミナるつぼ内で空気中1150℃、5時間焼成した。焼成後のペレットを再びマグネット乳鉢で2時間粉砕してイオン交換前のLi14Zn(GeO粉末を得た。
【0103】
(実施例1)
イオン交換前のLi14Zn(GeO粉末の試料2.5gを、非水系溶媒として脱水剤で水分を除去したトルエンを用い、ここにプロトン源として安息香酸を5mMの濃度となるように溶解させた非水系有機溶液100ml中で、24時間攪拌してイオン交換を実施した。イオン交換後にろ過して粉末を回収して、トルエンで洗浄後に、130℃で一晩真空乾燥することによって、実施例1のイオン交換粉末を得た。実施例1のプロトン伝導体の可動リチウムイオンのプロトンへのイオン交換率は52%であった。
【0104】
(比較例1)
イオン交換前のLi14Zn(GeO粉末を重量の40倍の5mM酢酸水溶液中、室温下で24時間攪拌してイオン交換を行い、ろ過洗浄後に130℃の真空乾燥機で乾燥を行って比較例1のイオン交換体を得た。比較例1のプロトン伝導体の可動リチウムイオンのプロトンへのイオン交換率は100%であった。
【0105】
(実施例1と比較例1との比較)
実施例1及び比較例1のイオン交換体の導電率を測定した。測定は、電気化学評価装置(Solartron analytical社製、ModuLab)を使用して、10%加湿窒素雰囲気下で、直流四端子法及び交流二端子法で行った。測定結果を以下の表1に示す。
【表1】
【0106】
表1に示すように、実施例1は、比較例1に比べて高い導電率を有することが確認された。
【0107】
(実施例2)
非水系溶媒としてジメチルスルホキシドを用いプロトン源としてm-ニトロフェノール、酢酸、安息香酸、p-トルエンスルホン酸、シュウ酸,メタンスルホン酸を用いて、5~100mMの範囲で濃度を変えて、実施例1と同様の方法でイオン交換操作を行った。その後、イオン交換操作を行ったLi14Zn(GeO粉末の熱重量分析によって、イオン交換量を確認した。結果、各プロトン源に対して、イオン交換率は45~65%であった。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本実施形態に係る燃料電池は、従来の水素を燃料とする燃料電池以外に様々な燃料を利用する直接燃料電池に利用することができる。また、本実施形態に係る燃料電池は、逆反応である電気分解セルにも適用が可能である。本実施形態に係る燃料電池は、200~600℃で作動することができるため、高分子膜を使用した100℃以下で作動する燃料電池に比べて、電気化学反応の速度を向上させることができる。また、本実施形態に係る燃料電池は、200~600℃で作動することができるため、600℃以上の高温で作動するSOFCに比べて、材料の制限を緩和できる。また、本実施形態に係る燃料電池は、プロトンが移動するため、酸素イオンが移動するSOFCに比べて反応速度を向上させることができる。以上より、本実施形態に係る燃料電池及び電解槽は、産業上の利用可能性は極めて高い。
【0109】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。
【符号の説明】
【0110】
1 :燃料電池(電気化学セル)
2 :発電セル(電気化学セル)
3 :燃料電池スタック
5 :プロトン伝導体
6 :アノード
6A :アノード触媒層
6B :アノードガス拡散層
7 :カソード
7A :カソード触媒層
7B :カソードガス拡散層
8 :アノード室
9 :第1セパレータ
11 :カソード室
12 :第2セパレータ
25 :負極
26 :正極
41 :温度調節装置
50 :電解槽(電気化学セル)
52 :容器
53 :直流電源
54 :容器
55 :アノード
56 :カソード
57 :アノード
58 :アノード室
59 :カソード室
図1
図2
図3
図4