IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構の特許一覧

<>
  • 特許-溶液受粉に使用する花粉の除菌方法 図1
  • 特許-溶液受粉に使用する花粉の除菌方法 図2
  • 特許-溶液受粉に使用する花粉の除菌方法 図3
  • 特許-溶液受粉に使用する花粉の除菌方法 図4
  • 特許-溶液受粉に使用する花粉の除菌方法 図5
  • 特許-溶液受粉に使用する花粉の除菌方法 図6
  • 特許-溶液受粉に使用する花粉の除菌方法 図7
  • 特許-溶液受粉に使用する花粉の除菌方法 図8
  • 特許-溶液受粉に使用する花粉の除菌方法 図9
  • 特許-溶液受粉に使用する花粉の除菌方法 図10
  • 特許-溶液受粉に使用する花粉の除菌方法 図11
  • 特許-溶液受粉に使用する花粉の除菌方法 図12
  • 特許-溶液受粉に使用する花粉の除菌方法 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-06
(45)【発行日】2024-06-14
(54)【発明の名称】溶液受粉に使用する花粉の除菌方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 25/00 20060101AFI20240607BHJP
   A01G 22/00 20180101ALI20240607BHJP
   A01N 37/02 20060101ALI20240607BHJP
   A01N 59/00 20060101ALI20240607BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20240607BHJP
【FI】
A01N25/00 102
A01G22/00
A01N37/02
A01N59/00 A
A01P3/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021030730
(22)【出願日】2021-02-26
(65)【公開番号】P2022131669
(43)【公開日】2022-09-07
【審査請求日】2023-09-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100107870
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100098121
【弁理士】
【氏名又は名称】間山 世津子
(72)【発明者】
【氏名】増中 章
(72)【発明者】
【氏名】須崎 浩一
【審査官】早川 裕之
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-072902(JP,A)
【文献】特開2010-275252(JP,A)
【文献】特開平01-156903(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106035060(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111420084(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111514320(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第112293707(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第112294982(CN,A)
【文献】キウイフルーツの新系統かいよう病に対応した診断技術、対処方法の開発 4)菌に汚染された花粉の無毒化技術の検討,愛媛県農林水産研究所果樹研究センター 平成26年度 試験成績書(業務年報),2014年,pp. 109-124
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 25/00
A01N 37/02
A01N 59/00
A01P 3/00
A01G 22/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.1~1.0%(v/v)の濃度の過酸化水素又は0.0008~0.0015%(v/v)の濃度の過酢酸を含む水溶液からなることを特徴とする果樹花粉用除菌剤。
【請求項2】
果樹花粉が、溶液受粉に使用される果樹花粉であることを特徴とする請求項1に記載の果樹花粉用除菌剤。
【請求項3】
果樹花粉が、キウイフルーツ花粉であることを特徴とする請求項1又は2に記載の果樹花粉用除菌剤。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の果樹花粉用除菌剤に、果樹花粉を懸濁する工程を含むことを特徴とする果樹花粉の除菌方法。
【請求項5】
以下の工程(1)及び(2)を含むことを特徴とする人工受粉方法、
(1)請求項1乃至3のいずれか一項に記載の果樹花粉用除菌剤に、果樹花粉を懸濁し、花粉懸濁液を得る工程、
(2)工程(1)で得られた花粉懸濁液を果樹の花に散布する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果樹花粉用除菌剤、果樹花粉の除菌方法、及び人工受粉方法に関する。本発明の除菌剤を用いることにより、果樹花粉の発芽率を高く維持しつつ、果樹花粉に対して十分な除菌を行うことができる。
【背景技術】
【0002】
近年、キウイフルーツかいよう病菌(Psa3系統=強病原性系統)のパンデミックが起きた。このPsa3系統は花粉に付着して伝搬することから、花粉の輸出入を通して全世界に拡がった。日本もキウイフルーツの人工授粉用花粉の大部分を輸入に頼っていたため、2014年に本病原菌が伝搬し壊滅的な被害を起こした。現在では、日本は輸入花粉の全てに検疫を課し、清浄花粉だけを国内に入れる措置を行っているが、Psa3は世界的に蔓延しているため検疫通過量が激減し、価格は以前の2.5倍以上に跳ね上がっている。その対策として国内生産が強化されつつあるが、清浄であるかどうかわからない果樹園(風評被害を恐れ、日本国内のどこが汚染園で、どこが清浄園であるかは明らかにされていない。)で生産されていること、さらに国産花粉に対する検疫はなく自由な流通が可能のままであるため、国産花粉といえどもPsa3の感染リスクは残ったままである。
【0003】
キウイフルーツは、含まれる種子の数が多いほど(600~1,300個/果実)果実の肥大が良好となること、雌雄異株ということからも、人工受粉が欠かせない作物である。人工受粉に必要な花粉は、開花直前から当日開花した雄木の花を採集し花粉を集めるが、花粉は吸湿すると発芽能を失うため、得られた花粉は直ちに乾燥機で乾燥後、乾燥剤とともに密閉容器に入れ5℃の冷蔵庫で保存する。翌年使用する場合には-20℃の冷凍庫で保存する。人工受粉の方法としては、液体増量剤に乾燥花粉を懸濁し、ハンドスプレーで吹き付ける「溶液受粉」と粉末状の乾燥花粉を梵天やポーレンダスターで直接付けする「粉末受粉」の2通りがあり、キウイフルーツの品種により使い分けられている。
【0004】
正常な結実には60%程度以上の発芽率を有する花粉が必要である。国内では、「ヘイワード(果肉が緑色のキウイフルーツ)」の生産量が多いため、同じ種の雄木品種を植栽してきたが、同時期に開花するため花粉採取と受粉作業が重なってしまう。この作業量削減のために溶液受粉が開発され、普及している。溶液受粉に使用する液体増量剤は、吸湿しても花粉発芽率の低下を防ぐように5%ショ糖が添加されているが、それでも2時間程度しか持たない。一方、果肉が赤色又は黄色のキウイフルーツは、開花時期が雄木品種よりも早いことから、市販花粉又は前年に採取し保存しておいた花粉が人工受粉に使用される。また季節的にも気温が低い時期であり花粉の活性が低いので、花粉の発芽効率の良い粉末受粉が行われる。
【0005】
以上のような背景から、溶液受粉に適用可能な花粉の除菌技術への社会的ニーズは高い。これまでにキウイフルーツの花粉の除菌技術としては、以下のような技術が報告されている。
【0006】
1)アルコール類処理:十分な殺菌効果のある濃度では花粉が死滅してしまう(非特許文献1)。
【0007】
2)農薬(殺菌剤)処理:かいよう病に登録の有る農薬を用いた場合、アグリマイシン-100がかいよう病菌に対する殺菌効果が高く、発芽率も保てたとされている。一方で、実際は結実率が悪くなり、消毒処理後に一度抗生物質を洗浄する過程を経る必要があるため、その分時間と設備が必要になり、現実的ではなく実用化していない(非特許文献1)。
【0008】
3)次亜塩素酸ナトリウム:殺菌効果はあるが、花粉の発芽率が低下してしまう。
【0009】
4)強酸性次亜塩素酸水:食品添加物の強酸性次亜塩素酸水を処理した試験成績書が報告されている(非特許文献1)。殺菌効果もあり、発芽率への影響も低いと報告されているが、使用した際の有効塩素濃度が不明である。また、コントロール(ショ糖のみの区)の花粉発芽率データが無いため予測にはなるが、実際は発芽率がかなり低下したものと推察できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【文献】キウイフルーツの新系統かいよう病に対応した診断技術,対処方法の開発 4)菌に汚染された花粉の無毒化技術の検討.愛媛県農林水産研究所果樹研究センター試験成績書(業務年報) Vol.2014 Page.121 (2014) Page109-124
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上のように以前から、溶液受粉に適用可能なキウイフルーツ花粉の除菌技術は幾つか報告されている。しかし、これらの技術では、十分な除菌効果と高い発芽率の維持の両立を図ることは困難であった。
【0012】
本発明は、このような背景の下になされたものであり、キウイフルーツ花粉などの果樹花粉の発芽率を高く維持しつつ十分な除菌効果を発揮する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、1)過酸化水素、2)過酢酸、又は3)pH3.0以上の次亜塩素酸水を使用して果樹花粉を処理することにより、高い発芽率を維持しつつ、花粉の除菌、特にキウイフルーツかいよう病菌の除菌を行うことができることを見出した、本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明は、以下の〔1〕~〔5〕を提供するものである。
〔1〕過酸化水素若しくは過酢酸を含む水溶液、又はpH4.0以上の次亜塩素酸水からなることを特徴とする果樹花粉用除菌剤。
【0015】
〔2〕果樹花粉が、溶液受粉に使用される果樹花粉であることを特徴とする〔1〕に記載の果樹花粉用除菌剤。
【0016】
〔3〕果樹花粉が、キウイフルーツ花粉であることを特徴とする〔1〕又は〔2〕に記載の果樹花粉用除菌剤。
【0017】
〔4〕〔1〕乃至〔3〕のいずれかに記載の果樹花粉用除菌剤に、果樹花粉を懸濁する工程を含むことを特徴とする果樹花粉の除菌方法。
【0018】
〔5〕以下の工程(1)及び(2)を含むことを特徴とする人工受粉方法、
(1)〔1〕乃至〔3〕のいずれかに記載の果樹花粉用除菌剤に、果樹花粉を懸濁し、花粉懸濁液を得る工程、
(2)工程(1)で得られた花粉懸濁液を果樹の花に散布する工程。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、新規な果樹花粉用除菌剤を提供する。本発明の除菌剤を用いることにより、果樹花粉の発芽率を高く維持しつつ、果樹花粉に対して十分な除菌を行うことができる。
【0020】
また、除菌剤に使用する過酸化水素、過酢酸、及び次亜塩素酸水は、いずれも強力な酸化力を持っているため、花粉と混和した瞬間にほぼ全て反応しきってしまい、残留することはほぼ無い。このため、除菌後の花粉をそのまま(除菌成分を取り除く作業をすることなく)人工受粉に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】過酸化水素のキウイフルーツかいよう病菌に対する除菌効果を示す図。
図2】過酢酸のキウイフルーツかいよう病菌に対する除菌効果を示す図。
図3】次亜塩素酸水のキウイフルーツかいよう病菌に対する除菌効果を示す図。
図4】過酸化水素の花粉表面の雑菌に対する除菌効果(上)と花粉発芽率への影響(下)を示す図。
図5】過酢酸の花粉表面の雑菌に対する除菌効果(上)と花粉発芽率への影響(下)を示す図。
図6】過酢酸の花粉表面の雑菌に対する除菌効果(右)と花粉発芽率への影響(左)を示す図。
図7】次亜塩素酸水(pHそのまま2.9)の花粉表面の雑菌に対する除菌効果(右)と花粉発芽率への影響(左)を示す図。
図8】次亜塩素酸水(pH4.0)の花粉表面の雑菌に対する除菌効果(右)と花粉発芽率への影響(左)を示す図。
図9】次亜塩素酸水(pH5.0)の花粉表面の雑菌に対する除菌効果(右)と花粉発芽率への影響(左)を示す図。
図10】次亜塩素酸水(pH6.0)の花粉表面の雑菌に対する除菌効果(右)と花粉発芽率への影響(左)を示す図。
図11】過酸化水素のリファンピシン耐性かいよう病菌に対する除菌効果を示す図。
図12】過酢酸のリファンピシン耐性かいよう病菌に対する除菌効果を示す図。
図13】次亜塩素酸水(左:pHそのまま、右:pH5.0)のリファンピシン耐性かいよう病菌に対する除菌効果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。
(A)果樹花粉用除菌剤
本発明の果樹花粉用除菌剤は、過酸化水素若しくは過酢酸を含む水溶液、又はpH4.0以上の次亜塩素酸水からなることを特徴とするものである。
【0023】
次亜塩素酸水は、塩酸、塩化ナトリウム水溶液、塩化カリウム水溶液などを電気分解して製造され、また、電気分解する装置には、隔膜のあるタイプの装置と隔膜のないタイプの装置があるが、本発明においては、塩化カリウム水溶液を隔膜のあるタイプの装置で電気分解して製造された次亜塩素酸水を使用することが好ましい。過酸化水素及び過酢酸は市販のものを使用することができる。
【0024】
次亜塩素酸水のpHが低い場合、花粉の発芽率を低下させる可能性があるので、pHは、通常、3.0以上とし、好ましくは4.0以上とし、より好ましくは5.0以上とし、更に好ましくは6.0以上とする。
【0025】
過酸化水素若しくは過酢酸を含む水溶液は、過酸化水素や過酢酸以外の成分(例えば、ショ糖)を含んでいてもよい。また、次亜塩素酸水も、次亜塩素酸以外の成分(例えば、ショ糖)を含んでいてもよい。
【0026】
除菌対象とする果樹花粉は、人工受粉が行われている果樹の花粉、例えば、キウイフルーツ、バラ科の果樹(リンゴ、モモ、ナシ、ウメ、サクランボなど)の花粉が好ましい。
【0027】
除菌対象とする植物病原菌としては、キウイフルーツかいよう病菌(Pseudomonas syringae pv. actinidiae)、リンゴ火傷病菌(Erwinia amylovora)、ナシ枝枯細菌病菌(Erwinia amylovora, biovar 4)などを挙げることができる。
【0028】
本発明の除菌剤によって除菌された花粉は、果樹の人工受粉に使用される。果樹の人工受粉には、液体増量剤に乾燥花粉を懸濁し、ハンドスプレーで吹き付ける「溶液受粉」と粉末状の乾燥花粉を梵天やポーレンダスターで直接付ける「粉末受粉」の二通りがあるが、本発明の除菌剤によって除菌された花粉は、「溶液受粉」に使用される。
【0029】
(B)果樹花粉の除菌方法
本発明の果樹花粉の除菌方法は、上記の果樹花粉用除菌剤に、果樹花粉を懸濁する工程を含むことを特徴とするものである。
【0030】
果樹花粉用除菌剤に加える果樹花粉の量は特に限定されないが、果樹花粉用除菌剤1mlに対して、果樹花粉を1~10mg加えるのが好ましく、2~6mg加えるのがより好ましい。
【0031】
果樹花粉用除菌剤が過酸化水素を含む水溶液からなる場合、過酸化水素の濃度は、除菌可能な濃度であって、花粉の発芽率を著しく低下させないような濃度であれば特に限定されないが、0.1~1.0%(v/v)とするのが好ましく、0.2~0.5%(v/v)とするのが好ましい。
【0032】
果樹花粉用除菌剤が過酢酸を含む水溶液からなる場合、過酢酸の濃度は、除菌可能な濃度であって、花粉の発芽率を著しく低下させないような濃度であれば特に限定されないが、0.0006~0.002%(v/v)とするのが好ましく、0.0008~0.0015%(v/v)とするのが好ましい。
【0033】
果樹花粉用除菌剤が次亜塩素酸水からなる場合、次亜塩素酸水中の有効塩素濃度は、除菌可能な濃度であって、花粉の発芽率を著しく低下させないような濃度であれば特に限定されないが、10~60ppmとするのが好ましく、有効塩素濃度が25~50ppmとするのがより好ましい。
【0034】
果樹花粉用除菌剤がショ糖を含む場合、ショ糖の濃度は、除菌可能な濃度であって、花粉の発芽率を著しく低下させないような濃度であれば特に限定されないが、1~50%(w/v)とするのが好ましく、1~20%(w/v)とするのがより好ましい。
【0035】
(C)除菌済み乾燥花粉の作製方法
本発明の除菌済みの乾燥果樹花粉の作製方法は、下記の工程(1)及び(2)を含むことを特徴とするものである。
【0036】
工程(1)では、上記の果樹花粉用除菌剤に、果樹花粉を懸濁し、花粉懸濁液を得る。この工程は、上記の果樹花粉の除菌方法と同様に行うことができる。
【0037】
工程(2)では、工程(1)で得られた花粉懸濁液を果樹の花に散布する。この工程は、一般的な溶液受粉方法と同様に行うことができる。花粉懸濁液の散布量、散布時期などは、果樹の種類などに応じて適宜設定することができる。
【実施例
【0038】
以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(A)材料
過酸化水素(保土谷化学工業、食品添加物、35% 20kg入り CAS.No.7722-84-1)を滅菌蒸留水で希釈して各濃度に調整して実験に供試した。
【0039】
過酢酸(関東化学(株)、商品名:パーサンMP2-J(食品添加物)、CAS.No.49173-05)を滅菌蒸留水で希釈して各濃度に調整して実験に供試した。
【0040】
次亜塩素酸水は、ホシザキの農業用電解水生成装置ROX-30TC-Aを使って生成した特定農薬指定の次亜塩素酸水を使用した(原料は塩化カリウムのみを使用)。推奨設定にて生成した次亜塩素酸水(有効塩素濃度40ppm、pH2.9)を滅菌蒸留水で希釈して各塩素濃度に調整した。pHは生成装置の電圧調整、又はKOH にて調整し、実験に供試した。
【0041】
花粉はJA から購入したキウイフルーツ花粉(輸入品)を使用した。
【0042】
(B)方法
(1)キウイフルーツかいよう病菌に対する除菌効果の検証方法
(1-1)キウイフルーツかいよう病菌の準備
1)花粉を水溶液に懸濁し、雌花にスプレーすることで人工に受粉させる方法を溶液受粉技術というが、この時花粉を懸濁する水溶液を液体増量剤という。蒸留水にショ糖を溶かし、5%(w/v)の水溶液を作り、これを液体増量剤とした。
2)キウイフルーツかいよう病菌を20mlのTSB液体培地(BD(ベクトン・ディッキンソン)社のBacto Tryptic Soy Broth を使用)中で一晩振とう培養した(25℃、200rpm)。
3)培養したキウイフルーツかいよう病菌を遠心分離機にて回収(6000rpm、10 分間)した後、液体増量剤に懸濁した。
4)吸光度を測定し、OD600=1.0 になるように液体増量剤で調整し、その後の実験に供試した。
【0043】
(1-2)各酸化還元剤のキウイフルーツかいよう病菌に対する除菌効果の検証方法
1)酸化還元剤入り液体増量剤の作製:1.5ml エッペンチューブに0.9ml の酸化還元剤入り液体増量剤(最終ショ糖濃度5%、各酸化還元剤(過酸化水素水、過酢酸、次亜塩素酸水)の有効成分が各濃度になるようにした)を入れた。
2)1)の酸化還元剤入り液体増量剤に(1-1)で準備したキウイフルーツかいよう病菌を100μl入れた。
3)3分間Vortex し、100μlを液体増量剤9.9ml が入った15ml 遠沈管に加えて希釈した。
4)3)のうち1.0ml をTSA平板培地(TSB 培地にアガー(最終濃度1.7%)を加えたもの)に塗布し、25℃下で1日培養した後、出現したコロニーをカウントした。
【0044】
(2)花粉表面の雑菌に対する除菌効果と花粉発芽率への影響調査の方法
1)除菌工程:各濃度の酸化還元剤入りの液体増量剤を入れた1.5ml エッペンチューブに花粉を0.004g/mlとなるように入れ、5 分間程度Vortex してよく懸濁した。
2)9.9mlの液体増量剤に1)を100μl 入れて、希釈した。
3)花粉表面の除菌効果の検証:2)を1ml 採り、TSA 平板培地に塗布し、25℃下1 日間培養した後、出現したコロニー数をカウントした。
4)花粉の発芽率の検定:2)にAcid red(0.01g/ml)を10μl 入れた後(Acid red 最終濃度0.0001g/ml)、50μl を採り、スライドグラス上に置いた素寒天培地に滴下した。なお、Acid redは食紅の一つ(食品添加物)で、通称、赤色106 号と呼ばれている。市販の液体増量にも同濃度(0.0001g/ml)添加されており、人工受粉の際、雌しべにスプレーできたか判別しやすくするために入れられている。今回は、酸化還元剤との反応を避けるため、除菌処理後に入れるようにしている。これを入れると花粉が多少赤く染まるため、顕微鏡下で発芽花粉をカウントしやすくなる。
5)室温(22-23℃程度)で、一晩静置した後、光学顕微鏡下で発芽した花粉をカウントした。
【0045】
(3)リファンピシン耐性かいよう病菌付着花粉(人工汚染花粉)の作製
1)YP液体培地で約OD600=10 の濃度のリファンピシン耐性菌株の培養液を作った(23℃、一晩培養)。
2)耐性菌培養液を遠心して集菌し、殺菌水で洗浄、元のYPと同じ容量の殺菌水に再懸濁した。
3)0.2g のキウイフルーツ花粉を50ml のコーニングチューブに取った。
4)2)の耐性菌懸濁液0.4ml を花粉に加えてボルテックスで強制的に混和した。このときムラなく混和するために0.2mlずつ2回に分けて花粉に添加、混和した。花粉はべたついた感じになった。
5)密閉可能なタッパーに100g のシリカゲルを入れ、平坦に均した。その上に薬包紙1枚を敷いた。
6)4)で細菌懸濁液を混和した花粉を薬包紙に広げ、タッパーを密閉し23℃で2日間静置し、乾燥させた。
7)タッパーから花粉を取り出し、50ml の遠沈管に移し、密閉して冷凍庫(-20℃)保存した。
8)「(2)花粉表面の雑菌に対する除菌効果と花粉発芽率への影響調査の方法」を用いて、各酸化還元剤の除菌効果検定を行った。
【0046】
(C)結果
(1)キウイフルーツかいよう病菌に対する除菌効果
過酸化水素、過酢酸、及び次亜塩素酸水を使用した場合のキウイフルーツかいよう病菌のコロニー数を、それぞれ図1図2、及び図3に示す。
【0047】
過酸化水素(H2O2)35%水溶液を滅菌蒸留水にて各濃度に希釈し用いた。過酸化水素0.2%処理で完全に除菌することができた(図1)。過酢酸は、パーサンMP2-J(ENVIRO TECH社製)を滅菌蒸留水にて各濃度に希釈し用いた。パーサンMP2-Jは組成成分として過酢酸15%、過酸化水素5%、酢酸45%を含むが、例えば、希釈倍率7000倍では過酸化水素、酢酸の濃度はそれぞれ0.0007%、0.0064%となり、どちらもこの濃度ではキウイフルーツかいよう病菌に対し除菌効果を示さないことを確認している。過酢酸はパーサンMP2-Jを7000倍に希釈した場合でも完全に除菌できた(図2)。次亜塩素酸水は、有効塩素濃度計(柴田化学、水質計アクアアブ)を用いて測定し、滅菌蒸留水にて各濃度に希釈し用いた。次亜塩素酸水では、有効塩素濃度が0.03ppm以上完全に除菌できた(図3)。
【0048】
(2)花粉表面の雑菌に対する除菌効果と花粉発芽率への影響
過酸化水素を使用した場合の花粉表面の雑菌のコロニー数と花粉の発芽率を図4に示す。図4に示すように、0.2%以上の濃度でコロニー数の減少が観察された。また、すべての濃度で高い花粉発芽率が維持されており、特に0.2%及び0.3%では、発芽率が60%を超えていた。
【0049】
過酢酸を使用した場合の花粉表面の雑菌のコロニー数と花粉の発芽率を図5及び6に示す。これらの図に示すように、すべての濃度において高い除菌効果が観察された。また、0.00068~0.0015%では、花粉発芽率も高い状態で維持されていた。
【0050】
次亜塩素酸水を使用した場合の花粉表面の雑菌のコロニー数と花粉の発芽率を図7(pHそのまま)、図8(pH4.0)、図9(pH5.0)、及び図10(pH6.0)に示す。これらの図に示すように、10ppm以上の有効塩素濃度で高い除菌効果が観察された。また、すべての有効塩素濃度で高い花粉発芽率が維持されていた。pHに関しては、pHが高いほど除菌効果が低下する傾向があったが、花粉発芽率は高くなった。
【0051】
(3)リファンピシン耐性かいよう病菌に対する除菌効果
過酸化水素を使用した場合のリファンピシン耐性かいよう病菌のコロニー数を図11に示す。図11に示すように、すべての濃度において高い除菌効果が観察された。
【0052】
過酢酸を使用した場合のリファンピシン耐性かいよう病菌のコロニー数を図12に示す。図12に示すように、すべての濃度において高い除菌効果が観察された。
【0053】
次亜塩素酸水を使用した場合のリファンピシン耐性かいよう病菌のコロニー数を図13に示す。図13に示すように、次亜塩素酸水のpHに関係なく、すべての濃度において高い除菌効果が観察された。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、果樹花粉の除菌技術に関するものであり、農業などの産業分野において利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13