(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-06
(45)【発行日】2024-06-14
(54)【発明の名称】レアメタルの回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 59/00 20060101AFI20240607BHJP
C22B 3/22 20060101ALI20240607BHJP
【FI】
C22B59/00
C22B3/22
(21)【出願番号】P 2020076332
(22)【出願日】2020-04-22
【審査請求日】2023-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 宏太
【審査官】瀧澤 佳世
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/031699(WO,A1)
【文献】特開2018-150588(JP,A)
【文献】特開2018-159136(JP,A)
【文献】特開平03-115534(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 59/00
C22B 3/22
B09B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Scを回収する方法であって、前記方法は、
塩化残渣を提供する工程と、
ろ過する工程と、
を含み、
前記ろ過する工程の対象は、懸濁液又はスラリーであり、
前記懸濁液又はスラリーは、前記塩化残渣に由来し、ScとZrとを含み、且つpHが3.5以下であり、
前記ろ過する工程が、前記懸濁液又はスラリー中のZr濃度を低下させた状態でろ過することを含む、
方法
であり、
前記方法は、ろ過工程の前に、前記懸濁液又はスラリー中のZrを凝集剤で凝集させる工程を更に含み、
前記凝集剤が、硫酸塩である、
方法。
【請求項2】
請求項1の方法であって、前記Zr濃度を低下させた状態でろ過をすることが、Zr濃度を50mg/L以下に低下させた状態でろ過することを含む、方法。
【請求項3】
請求項
1に記載の方法であって、
前記懸濁液又はスラリーは、Ti及びThのうち少なくとも1種を更に含み、
前記凝集剤で凝集させる工程が、Ti及びThのうち少なくとも1種を凝集させることを含む、
方法。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項の方法であって、前記塩化残渣は、チタン鉱石から四塩化チタンを製造する際に生じる、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レアメタル回収方法に関する。より具体的には、レアメタルの一種であるScの回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チタンはクロール法によりチタン鉱石から精製される。このクロール法では、チタン鉱石とコークスが流動床反応炉に投入され、塩素ガスが流動床反応炉の下部から吹入される。その結果、気体状の四塩化チタンが生成され、これを回収してマグネシウム等で還元し、最終的にはスポンジチタンが生成される。こうした一連の反応を通して、副生成物として、塩化残渣が生じる。塩化残渣には、なおも有用な物質が含まれており、これらの有用な物質を回収するための様々な試みが行われている。
【0003】
特許文献1では、塩化残渣から酸化チタン及び/又はコークスを回収する方法が開示されている。また、特許文献1では、塩化残渣に対して分級を行うこと、そして、分級の手段として液体サイクロン、及び湿式篩を開示している。特許文献2では、塩化残渣からScを回収する方法を開示しており、その際に、前記塩化残渣を分級することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-168448号公報
【文献】国際公開2017/199887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
Scを回収する際に、様々な処理が行われる。前記処理の例として、分級、浸出、固液分離、溶媒抽出等が挙げられる。Scを回収するためのフローは多種多様であるが、いくつかのフローは、ろ過工程を含む。生産効率の観点から、ろ過処理をスムーズに実施することが望まれる。しかし、あるロットの塩化残渣に由来する物質は、スムーズにろ過ができるが、一方で、別のロットの塩化残渣に由来する物質は、スムーズにろ過できなかった。具体的には、ろ過速度が低くなることがあった。
【0006】
こうしたろ過の遅延は、生産性の低下をもたらす。そこで、本発明は、スムーズなろ過処理を実現するための方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者が鋭意検討したところ、スムーズにろ過できる物質と、スムーズにろ過できない物質との違いを見出した。より具体的には、スムーズにろ過できないスラリーでは、Zrが多く含まれていることを見出した。そこで、ろ過前に、スラリー中のZr濃度を低下させたところ、ろ過速度が向上した。
【0008】
本発明は、上記知見に基づいて完成され、一側面において、以下の発明を包含する。
(発明1)
Scを回収する方法であって、前記方法は、
塩化残渣を提供する工程と、
ろ過する工程と、
を含み、
前記ろ過する工程の対象は、懸濁液又はスラリーであり、
前記懸濁液又はスラリーは、前記塩化残渣に由来し、ScとZrとを含み、且つpHが3.5以下であり、
前記ろ過する工程が、前記懸濁液又はスラリー中のZr濃度を低下させた状態でろ過することを含む、
方法。
(発明2)
発明1の方法であって、前記Zr濃度を低下させた状態でろ過をすることが、Zr濃度を50mg/L以下に低下させた状態でろ過することを含む、方法。
(発明3)
発明1又は2の方法で、前記方法は、
ろ過工程の前に、前記懸濁液又はスラリー中のZrを凝集剤で凝集させる工程を含み、
前記凝集剤が、硫酸又はこれらの塩である、
方法。
(発明4)
発明3に記載の方法であって、
前記懸濁液又はスラリーは、Ti及びThのうち少なくとも1種を更に含み、
前記凝集剤で凝集させる工程が、Ti及びThのうち少なくとも1種を凝集させることを含む、
方法。
(発明5)
発明1~4のいずれか1項の方法であって、前記塩化残渣は、チタン鉱石から四塩化チタンを製造する際に生じる、方法。
【0009】
一側面において、本発明の方法は、懸濁液又はスラリー中のZr濃度を低下させた状態でろ過することを含む。これにより、ろ過速度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態において、ロットごとに、ろ過速度が変動する例を示す。縦軸は、ろ過するまでにかかる時間を示す(単位は、時間)。横軸は、バッチの回数を示す。点線は、ろ過時間の計画値を示す。実線は、ろ過時間の実測値を示す。
【
図2】一実施形態において、凝集剤の添加量と、Zr等の濃度変化との関係を示す。
【
図3】一実施形態において、Zr濃度と、ろ過時間との関係を示す(凝集剤添加なし)。縦軸は、ろ過するまでにかかる時間を示す(単位は、時間)。横軸は、Zr濃度を示す。
【
図4】一実施形態において、Zr濃度と、ろ過時間との関係を示す(凝集剤添加あり)。縦軸は、ろ過するまでにかかる時間を示す(単位は、時間)。横軸は、Zr濃度を示す。
【
図5】一実施形態において、塩化残渣スラリーのpH及びZr濃度が、ロットごとに変動することを示す。縦軸は、Zr濃度を示す。横軸は、pHを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための具体的な実施形態について説明する。以下の説明は、本発明の理解を促進するためのものである。即ち、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0012】
1.概要
一実施形態において、本発明は、Scの回収方法に関する。前記方法は、少なくとも以下の工程を含む。
・塩化残渣を提供する工程
・ろ過する工程
【0013】
上記方法において、ろ過する工程の対象は、懸濁液又はスラリーである。そして、前記懸濁液又はスラリーは、塩化残渣に由来する。更には、懸濁液又はスラリーは、ScとZrとを含む。そして、懸濁液又はスラリーのpHは、3.5以下である。
【0014】
上記方法において、ろ過する工程は、懸濁液又はスラリー中のZr濃度を低下させた状態でろ過することを含む。
【0015】
以下では、各工程について詳述する。
【0016】
2.塩化残渣を提供する工程
2-1.塩化残渣の由来
塩化残渣は、チタン鉱石から四塩化チタンを製造する際に生じる物に由来する物であってもよい。
【0017】
従来、チタンは、チタン鉱石からクロール法により精製されるのが一般的である。生成フローの一例として、チタン鉱石とコークスを流動床反応炉に投入する。そして、流動床反応炉の下部から塩素ガスを吹入させる。チタン鉱石は塩素ガスと反応し、四塩化チタンを生じる。四塩化チタンは反応炉内の温度では気体状態にある。この気体状態の四塩化チタンが、次の冷却システムに送られ、冷却される。冷却された四塩化チタンは液体状になり、回収される。
【0018】
気体状態の四塩化チタンが次の冷却システムに送られる際に、気流に乗って微粉状の不純物が一緒に冷却システムに送られる。該不純物には、チタン以外の物質(例えば、Sc、Th等)、未反応の鉱石、未反応のコークス等が含まれる。こうした不純物は、冷却システムにおいて、固体の形状で回収される。本明細書では、この回収された物を塩化残渣と呼ぶ。塩化残渣はスラリー化してもよいし、乾燥粒子群の形態であってもよい。典型的には、スラリー化した物を用いて、Scを回収することができる。
【0019】
上記塩化残渣は、Sc以外にも様々な金属元素を含んでもよい。例えば、上記塩化残渣は、Zrを含んでもよい。更には、上記塩化残渣は、Ti及び/又はThを含んでもよい。
【0020】
塩化残渣からScを回収する際には、塩化残渣を懸濁液又はスラリーの形態で提供することができる。
【0021】
3.ろ過する工程
3-1.ろ過対象の物質
Scを回収する一連のプロセスにおいて、Scを含む物質をろ過する工程を含む。ここで、Scを含む物質は、上述した塩化残渣に由来するものである。そして、上記Scを含む物質は、更に、Zrを含む。また、Scを含む物質は、懸濁液の形態、又は、スラリーの形態である。更には、懸濁液又はスラリー中のScは、固体側に存在してもよいし、液体側に存在してもよいし、又は両方に存在してもよい。更に、固体側に存在するScは、沈殿形態で存在してもよいし、液中にコロイドとして浮遊して存在してもよい。
【0022】
Scが固体側に存在するか、及び/又は液体側に存在するかについては、ろ過直前までの処理に依存する可能性がある。
【0023】
例えば、上述したスラリー形態の塩化残渣が、ろ過対象である場合には、Scは主に固体側に存在するであろう。
【0024】
例えば、固体からScを浸出させた後のスラリーがろ過対象である場合には、Scは主に液体側に存在するであろう。
【0025】
例えば、上述したスラリー形態の塩化残渣を分級した後の特定の画分が、ろ過対象である場合には、Scは主に固体側に存在するであろう。
【0026】
いずれにしても、Scが固体側に存在するか及び/又は液体側に存在するかに関わらず、一実施形態における本発明の方法を適用することが可能である。
【0027】
3-2.ろ過対象のpH
上述したように、ろ過対象となるのは、Scを含む物質であり、そして、Scを含む物質は、懸濁液の形態、又は、スラリーの形態である。懸濁液又はスラリーのpHは、3.5以下である。この理由として、pHが3.5超の場合には、Zrが沈殿化し、これにより、ろ過速度への影響が小さいからである。好ましくは、懸濁液又はスラリーのpHは(特に、Zr濃度を下げてからろ過する方法を適用する場合の懸濁液又はスラリーのpH)、2.0以下であり、更に好ましくは、1.5以下である。この理由として、2.0以下又は1.5以下になると、液中におけるTi及びTh量が増加するからである。更なる理由として、2.0以下又は1.5以下になると、Zr濃度が増加する傾向があり、これにより、ろ過速度への影響が大きくなるからである。下限値は特に限定されないが、例えば、浸出処理時などのpHなどを考慮して、典型的には、-1以上である。
【0028】
3-3.Zr濃度の制御
ろ過する工程は、懸濁液又はスラリー中のZr濃度を低下させた状態でろ過することを含む。従って、ろ過する工程は、懸濁液又はスラリー中のZr濃度を低下させるための処理を行うことを含むことができる。
【0029】
なお、本明細書で述べる、懸濁液又はスラリー中のZr濃度とは、以下の条件でフィルタープレスを行ったときのろ液、もしくは5C(JIS P 3801〔ろ紙(化学分析用)〕に規定される5種Cに相当)ろ紙にて吸引ろ過したときのろ液に含まれるZrの濃度を意味する。
型式:TFAP-7-14MKII(日立造船株式会社製)
フィルター面積 :10.9m2
ろ過圧力 :0.4Ma
スラリー量 :1.5m3/バッチ
ろ布 :規格;PJ-7 織り方;二重織 組織;マルチ+マルチ 通気度;0.3cc/(sec・cm2・12.7mmAq)
【0030】
ろ液中のZrは、例えば、溶液に溶解してイオン等の形態で存在するZrと、フィルター通過したコロイドとして存在するZrが含まれる。こうしたろ液をサンプリングして、塩酸でコロイドを更に溶解してから、ICP発光分光分析法によって、Zr濃度を測定する。
【0031】
好ましくは、懸濁液又はスラリー中のZr濃度を50mg/L以下に低下させた後で(即ち、上記条件でろ過した後のろ液のZr濃度が50mg/L以下になるように予め処理した後で)、ろ過を実施する。これにより、ろ過速度が向上する。
【0032】
Zr濃度を低下させるための手段は、特に限定されないが、Zrだけを選択的に除去する手段を含んでもよい。例えば、Zrを凝集剤によって凝集させることを含んでもよい。これにより、コロイドとして存在するZrが凝集する。
【0033】
3-3-1.凝集剤によるZr濃度の制御
凝集剤は、無機凝集剤が好ましく、より具体的には、硫酸(H2SO4)又はこれらの塩であってもよい。硫酸塩については、例えば、硫酸ナトリウム、硫酸アルミニウム等が挙げられる。典型的には、硫酸塩は、硫酸ナトリウムであってもよい。
【0034】
凝集剤の添加量については、特に限定されないが、Zrが凝集化してZr濃度が50mg/L以下となるような添加量であることが好ましい。典型的には、凝集剤の添加量は、1.5g/L以上である。
【0035】
以下の説明は、本発明を限定することを意図するものではないが、Zrがろ過速度に影響を与えるメカニズムについては、以下の通りと考えられる。まず、Zrが存在すると、Zrの水酸化物コロイド/微粒子が生成する。そして、これらが、ケーキ表面を覆う。このケーキ表面の被覆物の存在により、ろ過速度の低下が起こると考えられる。
【0036】
3-3-2.凝集剤による他の金属元素への効果
上述した硫酸(H2SO4)又はこれらの塩は、Zr濃度だけでなく、Ti及び/又はThの濃度にも影響を及ぼすことができる。より具体的には、硫酸(H2SO4)又はこれらの塩は、Zrと同様に、Ti及び/又はThの凝集化を促進することができる。一方で、上述した硫酸(H2SO4)又はこれらの塩は、Scの凝集化にはほとんど寄与しない。従って、上述した硫酸(H2SO4)又はこれらの塩は、Scの分離に有用となる可能性がある。例えば、ScとZr等(例えば、Zr、Ti、及び/又はTh)が液中に微細なコロイドとして存在している場合には、凝集剤により、Sc以外の金属元素を凝集させることができ、これにより、Scの純度を向上させることができる。
【0037】
3-4.ろ過方法の種類
ろ過方法の種類については、特に限定されないが、例えば、加圧ろ過(フィルタープレス)、減圧ろ過、遠心ろ過、自然ろ過などが挙げられる。ろ過速度、設備の簡易性等の観点から、フィルタープレスが好ましい。
【0038】
ろ過条件は、特に限定されない。任意の面積、任意のフィルターのポアサイズ、任意のフィルターの材質、任意の圧力等において、一実施形態における本発明の効果を得ることができる。
【0039】
4.その他(適用対象のフロー)
上述した一実施形態における本発明の方法は、Scを回収するための様々なフローに適用することができる。例えば、液体と固体のうち、固体側に主にScが含まれる状態で、ろ過を実施してもよい。別の例では、液体と固体のうち、液体側に主にScが含まれる状態で、ろ過を実施してもよい。
【0040】
4-1.固体側にScを含む場合
(A01)塩化残渣スラリーを準備する
(A02)塩化残渣スラリーを分級(例えば、液体サイクロン等)して、Scを最も多く含むスラリー状の画分を得る
(A03)前記スラリー状の画分をろ過して、固体状のSc濃縮原料を得る
【0041】
上述した一実施形態に係る本発明の方法は、例えば、(A03)のろ過工程に有用である。また、凝集剤を利用した場合には、コロイド中のScも凝集して、固体側に残存するためScの回収率を向上させることができる。
【0042】
4-2.液体側にScを含む場合
一例として、以下のフローが挙げられる。
(B01)塩化残渣スラリーを準備する
(B02)塩酸を含む浸出液(例えば、浸出開始時でpH0.9以下)を使用して、塩化残渣スラリーからScを浸出させる(この際に、Zr等も浸出される)
(B03)塩化残渣と浸出後液とをろ過する
(B04)ろ液のpHを中性側に調節し(例えば、pH4以上)、Scを沈殿させ、Sc濃縮スラリーを得る
(B05)前記Sc濃縮スラリーをろ過して、固体状のSc濃縮原料を得る
【0043】
上述した一実施形態に係る本発明の方法は、例えば、(B03)のろ過工程に有用である。
【0044】
別の例として、以下のフローが挙げられる。
(C01)(A03)に示される固体状のSc濃縮原料を得る
(C02)塩酸を含む浸出液(例えば、浸出開始時でpH0.9以下)を使用して、固体状のSc濃縮原料からScを浸出させる(この際に、Zr等も浸出される)
(C03)浸出残渣と浸出後液とをろ過する
(C04)ろ液のpHを中性側に調節(例えば、pH1.3~3.5)し、Sc以外の金属元素(例えば、Th等)を沈殿させる
(C05)沈殿物を含むろ液をろ過する
【0045】
上述した一実施形態に係る本発明の方法は、例えば、(C03)のろ過工程に有用である。
【0046】
なお、上記(A03)、及び/若しくは(B05)で得られた固体状のSc濃縮原料から、更に、Scを浸出させた浸出液に対して溶媒抽出を行ってもよく、並びに/又は(C05)で得られたろ液に対して溶媒抽出を行ってもよい。溶媒抽出後は、Sc(OH)3の形態でScを回収することができ、更にか焼して、Sc2O3の形態で回収することができる。もしくは、得られたSc(OH)3を浸出し、シュウ酸等のカルボン酸を用いてスカンジウムをカルボン酸スカンジウムの形で沈殿させ更にか焼して、Sc2O3の形態で回収することができる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の理解を促進するため、更に具体的な実施例を開示する。
【0048】
塩化残渣は、チタン製錬において揮発した四塩化チタンを回収するための炉において、固形物として回収された物質である。該塩化残渣は、東邦チタニウム株式会社から入手した。また、該塩化残渣は、水洗済みのスラリー状態であった。
【0049】
スラリー、固体及び溶液中におけるSc、Zr、Th、及びTiの量の分析については、アルカリ融解-ICP発光分光分析法を用いた(ICP-AES、セイコーインスツル株式会社製、SPS7700)。
【0050】
5.実施例1(ロットによるろ過時間の変化)
上述した塩化残渣スラリーを、塩酸を含む浸出溶液に投入して、Sc等を浸出させた。浸出残渣と浸出後液とをフィルタープレスに供した。
【0051】
フィルタープレスの条件は以下の通りであった。
型式:TFAP-7-14MKII(日立造船株式会社製)
フィルター面積 :10.9m2
ろ過圧力 :0.4Ma
スラリー量 :1.5m3/バッチ
ろ布 :規格;PJ-7 織り方;二重織 組織;マルチ+マルチ 通気度;0.3cc/(sec・cm2・12.7mmAq)
【0052】
ろ過が完了するまでの時間を、バッチ毎に測定した。結果を
図1に示す。
図1に示すように、ロットごとに(バッチごとに)ろ過時間が異なっていることが示された。
【0053】
6.実施例2(凝集剤添加によるZr濃度等の変化)
次に、浸出後液と浸出残渣の混合物に対して、一部をサンプリングした。また、浸出後液と浸出残渣の混合物に対して凝集剤を添加した。凝集剤として、硫酸ナトリウム(Na
2SO
4)を使用した。凝集剤の添加量は、最終濃度が0.5g/L、1.5g/L、及び2.0g/Lになるように添加した。なお、塩化残渣スラリーのpHは1.5であった。そして、凝集剤の添加前及び添加後のスラリーを5Cろ紙にて吸引ろ過してろ液を得て、ろ液のSc、Zr、Ti、Thの濃度(ろ液中に浮遊し、フィルターを通過したコロイド粒子に含まれるSc、Zr、Ti、Thの濃度も含む)を測定した。結果を、
図2に示す。更には、添加量が2.0/L(最終濃度)の場合の結果を、以下の表1に示す。
【表1】
【0054】
図2及び表1に示すように、凝集剤を添加することにより、ろ液のTi、Zr、及びThの濃度が減少することが示された。なお、硫酸ナトリウム(Na
2SO
4)の代わりに塩化ナトリウム(NaCl)を添加したところ、凝集剤としての効果は得られず、有意な濃度変化は見られなかった。従って、上記濃度の変化は、硫酸イオンの存在によって起こったものと考えられる。
【0055】
特筆すべき点として、Scの濃度は、凝集剤の添加による影響を受けていない。従って、凝集剤の添加は、Scの純度向上の観点からも有用である。特に、Scが溶液に溶解している状態で凝集剤を添加することで、Sc以外のTi、Zr、及びThの凝集化及びこれによる分離を促進することができる。
【0056】
7.実施例3(Zr濃度変化と、ろ過速度との関係)
次に、浸出後液と浸出残渣の混合物をフィルタープレスに供した。フィルタープレスの条件は、実施例1と同じにした。ろ過にかかった時間を測定した。次にろ液をサンプリングして、ろ液中のZr濃度を測定した。結果を
図3に示す。
【0057】
次に、浸出後液と浸出残渣の混合物に凝集剤を添加した。その後、浸出後液と浸出残渣の混合物をフィルタープレスに供した。フィルタープレスの条件は、実施例1と同じにした。ろ過にかかった時間を測定した。次にろ液をサンプリングして、ろ液中のZr濃度を測定した。結果を
図4に示す。
【0058】
図3及び
図4に示すように、ろ液のZr濃度が50mg/L以下になると急激にろ過時間が減少することが示された。従って、ろ液のZr濃度を低下させることが、ろ過速度を向上させることに有利であることが示された。
【0059】
また、
図3及び
図4を比較すると、同じZr濃度であっても、凝集剤を添加することで、ろ過速度が向上していることが示された。
【0060】
8.実施例4(ロットごとのZr濃度とpH)
上記の例では、Scを浸出させた浸出後液(及び浸出残渣)に対してろ過を行った実施例である。本実施例では、浸出させる前の塩化残渣スラリー自体におけるZr濃度、及びpHを検証する。塩化残渣スラリーをろ過して、ろ液中のZr濃度及びpHを測定した。結果を
図5に示す。各ロットごとに、Zr濃度及びpHが大きく異なることが示された。特に、Zr濃度が50mg/Lを超えるロットが多く存在することが示された。従って、塩化残渣スラリー、又はこれを分級等行った後の画分中のスラリーをろ過した場合、ろ過時間が遅くなる可能性があることが示された。更には、Zr濃度を低下させる処理を行うことで、ろ過時間が早くなる可能性があることが示された。
【0061】
また、
図5では、pHが低くなると、Zr濃度が高い傾向にあることが示された。従って、pHが低い状態(特にpHが3.5以下の状態)のスラリーに対するろ過では、Zr濃度を低下させることの効果が高いことが示された。
【0062】
以上、本発明の具体的な実施形態について説明してきた。上記実施形態は、本発明の具体例に過ぎず、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、上述の実施形態の1つに開示された技術的特徴は、他の実施形態に適用することができる。また、特記しない限り、特定の方法については、一部の工程を他の工程の順序と入れ替えることも可能であり、特定の2つの工程の間に更なる工程を追加してもよい。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって規定される。