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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-06
(45)【発行日】2024-06-14
(54)【発明の名称】画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20240607BHJP
   B65H 27/00 20060101ALI20240607BHJP
   B65H 5/06 20060101ALI20240607BHJP
【FI】
B41J2/01 123
B41J2/01 305
B41J2/01 125
B65H27/00 B
B65H5/06 C
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022508072
(86)(22)【出願日】2020-12-28
(86)【国際出願番号】 JP2020049206
(87)【国際公開番号】W WO2021186844
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2022-08-10
(31)【優先権主張番号】P 2020050064
(32)【優先日】2020-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】光安 隆
(72)【発明者】
【氏名】河崎 英敏
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-184711(JP,A)
【文献】特開2003-89966(JP,A)
【文献】特開2005-138503(JP,A)
【文献】特開2014-176996(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0224987(US,A1)
【文献】特開2012-171186(JP,A)
【文献】特開2006-91043(JP,A)
【文献】特開2001-328248(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
B65H 27/00
B65H 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送される連続記録媒体の印刷面にプレコート液を塗布する前処理部と、
前記プレコート液が塗布された前記連続記録媒体を乾燥する乾燥部と、
前記乾燥された連続記録媒体に対してインクを吹き付ける印刷部と、
前記連続記録媒体を予め定められた経路に沿って搬送する搬送部とを備え、
前記搬送部が、前記乾燥部と前記印刷部との間に配置され、前記乾燥された連続記録媒体を方向転換しつつ前記印刷部に向けて搬送する、前記連続記録媒体の前記印刷面に接触する少なくとも1つのパスローラを備え、前記パスローラの表面にプレコート液に対する撥水加工が施されてなり、
前記撥水加工が施された前記パスローラの表面粗さRaが0.1~1.6である、
画像形成装置。
【請求項2】
前記パスローラの表面の表面自由エネルギーと前記プレコート液の表面自由エネルギーとの差が、10~35mN/mである請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記撥水加工による前記パスローラの表面のコーティング厚さが、20~400μmである請求項1または2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記撥水加工は、フッ素樹脂によるコーティングである請求項1から3のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記パスローラの直径が、40~200mmである請求項1から4のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記パスローラに対する前記連続記録媒体のラップ角が、45~215度である請求項1から5のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記連続記録媒体の搬送テンションが、200~580N/mである請求項1から6のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項8】
前記印刷部に搬入される前記連続記録媒体における、前記プレコート液に含まれていた水の蒸発率が、25~75質量%である請求項1から7のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項9】
前記前処理部と前記印刷部との間のパス長が、1~5mである請求項1から8のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項10】
前記プレコート液が、ラテックスを含む請求項1から9のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項11】
前記連続記録媒体が、コート紙である請求項1から10のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ロール紙等の連続紙に画像を形成する画像形成装置において、搬送部によって搬送される連続紙にインクを吹き付けるインクジェット方式の画像形成装置が知られている(例えば特開2016-002672号公報)。また、このような画像形成装置において、インクの色材成分を凝集させる成分および溶剤等を含有するプレコート液を連続紙に塗布する前処理工程を行い、その後、インクを吹き付ける印刷工程を行うことにより画像を形成することも行われている。
【0003】
一方、連続紙に塗布されたプレコート液が十分に乾燥していない状態でインクを吹き付けると、画質が劣化するという問題がある。また、連続紙に塗布されたプレコート液が十分に乾燥していない状態で連続紙を印刷工程に向けて搬送すると、前処理工程から印刷工程の間において、連続紙の方向を変更等するために配置されたパスローラ、とくに印刷面に接するパスローラにプレコート液が付着して堆積する。そして、堆積したプレコート液が徐々に剥がれて異物が発生し、異物により印刷後の連続紙同士が接着するブロッキングが生じる。ブロッキングが生じると、接着した部分を剥がすときに、紙が破れたりインクが剥がれたりする。このため、プレコート液の組成およびプレコート液の乾燥工程の条件を組み合わせることにより、印刷工程の前にプレコート液が十分に乾燥するように、プレコート液に含まれていた水分および溶剤の蒸発率を、所定の値に設定する手法が記載されている(特開2018-138353号公報参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、プレコート液を十分に乾燥させるために連続紙に大きな熱を加えると、印刷工程までに連続紙が十分に冷却されないために印刷工程においてインクジェットヘッド表面が結露し、スジ状の画質故障が生じてしまう。このため、加熱に代えて、前処理工程から印刷工程までの搬送経路を長くすることが考えられる。しかしながら、搬送経路を長くすると装置が大型化するため、装置のコストが増大する。また、紙損が増えるため、ランニングコストが増大する。また、加熱された連続紙を冷却するための冷却装置を設置することも考えられる。しかしながら、冷却装置を設定するために装置が大型化し、また装置のコストが増大する。また、冷却装置は電力を消費するため、ランニングコストが増大する。その一方で、プレコート液の乾燥が十分でないと、上述したように画質劣化およびブロッキングが生じてしまう。
【0005】
本開示は上記事情に鑑みなされたものであり、画像形成装置において、装置を小型化しつつ、スジ状の画質故障およびブロッキングを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示による画像形成装置は、搬送される連続記録媒体の印刷面にプレコート液を塗布する前処理部と、
プレコート液が塗布された連続記録媒体に対してインクを吹き付ける印刷部と、
連続記録媒体を予め定められた経路に沿って搬送する搬送部とを備え、
搬送部が、前処理部と印刷部との間に配置され、プレコート液が塗布された連続記録媒体を印刷部に向けて搬送する、連続記録媒体の印刷面に接触する少なくとも1つのパスローラを備え、パスローラの表面にプレコート液に対する撥水加工が施されてなる。
【0007】
なお、本開示による画像形成装置においては、前処理部とパスローラとの間に、プレコート液が塗布された連続記録媒体を乾燥する乾燥部をさらに備えるものとしてもよい。
【0008】
また、本開示による画像形成装置においては、パスローラの表面の表面自由エネルギーとプレコート液の表面自由エネルギーとの差が、10~35mN/mであってもよい。
【0009】
なお、本明細書において、「A~B」とはA以上B以下であることを表すものとする。例えば、「10~35mN/m」とは、10mN/m以上35mN/m以下であることを表すものとする。
【0010】
また、本開示による画像形成装置においては、パスローラの表面粗さRaが、0.1~1.6であってもよい。
【0011】
また、本開示による画像形成装置においては、撥水加工によるパスローラの表面のコーティング厚さが、20~400μmであってもよい。
【0012】
また、本開示による画像形成装置においては、撥水加工は、フッ素樹脂によるコーティングであってもよい。
【0013】
また、本開示による画像形成装置においては、パスローラの直径が、40~200mmであってもよい。
【0014】
また、本開示による画像形成装置においては、パスローラに対する連続記録媒体のラップ角が、45~215度であってもよい。
【0015】
また、本開示による画像形成装置においては、連続記録媒体の搬送テンションが、200~580N/mであってもよい。
【0016】
また、本開示による画像形成装置においては、印刷部に搬入される連続記録媒体における、プレコート液に含まれていた水の蒸発率が、25~75質量%であってもよい。
【0017】
また、本開示による画像形成装置においては、前処理部と印刷部との間のパス長が、1~5mであってもよい。
【0018】
また、本開示による画像形成装置においては、プレコート液がラテックスを含むものであってもよい。
【0019】
また、本開示による画像形成装置においては、連続記録媒体がコート紙であってもよい。
【発明の効果】
【0020】
本開示によれば、装置を小型化しつつ、スジ状の画質故障およびブロッキングを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本実施形態による画像形成装置の全体構成を示す概略図である。
図2】パスローラの表面に行う各種コーティングの材質の表面自由エネルギーとプレコート液の表面自由エネルギーとの差の評価結果を示す表である。
図3】本実施形態による画像形成装置における各種条件についての評価結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本開示の実施形態について説明する。図1は、本開示の実施形態による画像形成装置の全体構成を示す概略図である。図1に示すように、本実施形態による画像形成装置1は、ロール紙等の連続紙の表面(片面)に画像を形成する装置であり、具体的にはインクジェット方式の印刷機である。なお、図1の下方向は重力方向と一致している。なお、連続紙が本開示の連続記録媒体に対応する。
【0023】
本実施形態の画像形成装置1で使用する連続紙9としては、上質紙または中質紙にコート剤または白土が塗布されたコート紙が用いられる。
【0024】
本実施形態による画像形成装置1は、搬送部2、給紙部3、前処理部4、プレコート乾燥部5、印刷部6、インク乾燥部7および巻取部8を有する。給紙部3、前処理部4、プレコート乾燥部5、印刷部6、インク乾燥部7および巻取部8は、搬送部2による連続紙の搬送経路に沿って、この順に配置されている。
【0025】
搬送部2は、後述するパスローラ21およびその他のローラ22,23を含む複数のローラから構成されている。搬送部2は、給紙部3から巻取部8に向けて、搬送経路に沿って連続紙9を搬送する。
【0026】
給紙部3では、連続紙9が送り出される。給紙部3は、予め連続紙9が巻き付けられた巻出ロール31を有する。巻出ロール31は、モータ等で駆動される駆動ローラであり、駆動されることで連続紙9を送り出す。給紙部3は、巻出ロール31の繰り出し方向とは逆方向の回転や図示しないブレーキ機構等により、後述する巻取ロール81とともに連続紙9に一定のテンションを与えて繰り出す。
【0027】
前処理部4では、連続紙9に対する印刷(インク吹付)前の前処理工程が行われる。具体的には、連続紙9に対する印刷前の下塗りとして、インクの色材成分を凝集させる凝集剤および有機溶剤等を含有するプレコート液を塗布する。前処理部4は、プレコート液保持部41、転写ローラ42、塗布ローラ43およびバックアップローラ44を備える。プレコート液保持部41のプレコート液は、転写ローラ42により塗布ローラ43に転写され、塗布ローラ43およびバックアップローラ44に挟持される連続紙9に、連続的に塗布される。
【0028】
プレコート乾燥部5では、前処理部4において連続紙9に塗布されたプレコート液を乾燥させるプレコート乾燥工程が行われる。このために、プレコート乾燥部5は、連続紙9に熱風を吹きかけるためのノズル51,52を有する。ノズル51,52は、不図示の熱風発生器から供給される熱風を、連続紙9に向けて吹きかける。なお、プレコート乾燥部5は、乾燥効率を向上させるために、ノズル51,52等を収容する乾燥ボックス(図示省略)を有していてもよい。また、プレコート乾燥部5においては、熱風による乾燥に代えて、赤外線を放射することによる乾燥としてもよい。また、プレコート乾燥部5におけるローラを加熱ロールとすることにより乾燥を行うものとしてもよい。加熱ロールとしては、ロール表面を加熱させるため、ロール内部に加熱用ヒータが組み込まれたものが用いられる。
【0029】
印刷部6では、連続紙9にインクを吹き付ける印刷工程が行われる。印刷部6は、連続紙9が巻き掛けられる印刷胴61と、印刷胴61に巻き掛けられた連続紙9にインクを吹き付ける吐出部62とを有する。吐出部62は、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色のインク滴を連続紙9の表面に吐出するインクジェットヘッド63Y、63M、63C、63Kを有する。各インクジェットヘッド63Y~63Kは、サーマル方式または圧電方式等の方式でインク滴を吐出する。なお、本実施形態においては、インクジェットヘッド63Y~63Kは、例えば1200dpi程度の高精細な水性インクジェットヘッドを用いることができる。
【0030】
インク乾燥部7では、印刷部6で吹き付けたインクを乾燥するインク乾燥工程が行われる。インク乾燥部7は、連続紙9が巻き掛けられる乾燥胴71、および乾燥胴71に巻き掛けられた連続紙9に熱風を吹きかける複数のノズル72を有する。なお、インク乾燥部7は、乾燥効率を向上させるために、乾燥胴71およびノズル72等を収容する乾燥ボックス(図示省略)を有してもよい。
【0031】
また、熱風による乾燥に代えて、赤外線を放射することによる乾燥としてもよく、乾燥胴71を加熱ロールとすることによる乾燥としてもよい。加熱ロールとしては、ロール表面を加熱させるため、ロール内部に加熱用ヒータが組み込まれたものが用いられる。また、乾燥胴71は、吸着式のロールであってもよい。吸着式のロールとしては、例えば、ロール表面に連続紙を吸着するための吸着孔が設けられ、印刷機外部に設置された負圧発生装置(真空ポンプまたはブロア等)により吸引して搬送中の連続紙9を保持するものが用いられる。
【0032】
巻取部8では、画像が形成された連続紙9が巻き取られる。巻取部8は、ロール形態に巻き取るための巻取ロール81を有する。巻取ロール81は、モータ等で駆動される駆動ローラであり、駆動されることで連続紙9に一定のテンションを与えつつ、連続紙9を巻き取る。
【0033】
次に、搬送部2が有するパスローラ21について説明する。本実施形態においては、プレコート乾燥部5と印刷部6との間に2つのパスローラ21が配置され、2つのパスローラ21の間に1つのローラ22が配置されている。2つのパスローラ21は、連続紙9の印刷面(すなわちプレコート液が塗布された面)に接触して、ローラ22とともにプレコート乾燥部5から搬出された連続紙9を方向転換しつつ、塗布されたプレコート液を乾燥させて、印刷部6に送り出す。
【0034】
本実施形態においては、パスローラ21の材質は、とくに限定されないが、ステンレス、炭素鋼およびアルミニウム等である。パスローラ21の表面が金属素地であると、未乾燥のプレコート液が付着しやすい。このため、本実施形態においては、パスローラ21の表面には、プレコート液に対する撥水加工が施されている。具体的には、パスローラ21の表面の表面自由エネルギーとプレコート液との表面自由エネルギーとの差が、10~35mN/mとなる材質が、パスローラ21の表面にコーティングされている。本実施形態においては、コーティングの厚さは、20~400μmである。
【0035】
本実施形態において使用されるプレコート液としては、とくに限定されるものではないが、溶剤、消泡剤、ポリマー、ラテックス、防錆剤および水を含み、表面自由エネルギーが25~45mN/mである強酸性の溶液が用いられる。
【0036】
本実施形態においては、パスローラ21の表面の表面自由エネルギーとプレコート液の表面自由エネルギーとの差が10~35mN/mであれば、パスローラ21の表面の表面自由エネルギーの方が大きくても、プレコート液の表面自由エネルギーの方が大きくてもよい。プレコート液よりも表面自由エネルギーが小さいコーティングとして、フッ素樹脂コーティングが挙げられる。また、プレコート液よりも表面自由エネルギーが大きいコーティングとして、とくに限定されるものではないが、ポリイミドコーティングまたはPVA(polyvinyl alcohol)コーティング等が挙げられる。
【0037】
ここで、プレコート乾燥部5の乾燥を弱めると、パスローラ21の表面に未乾燥のプレコート液が付着しやすくなる。とくに、連続紙9がコート紙である場合、基材にプレコート液がしみこみにくいため、パスローラ21の表面に未乾燥のプレコート液がより付着しやすくなる。
【0038】
本実施形態によれば、パスローラ21の表面の表面自由エネルギーとプレコート液の表面自由エネルギーとの差を10~35mN/mとすることにより、プレコート乾燥部5の乾燥を弱めても、パスローラ21の表面に未乾燥のプレコート液が付着しにくくなる。このため、プレコート乾燥部5における乾燥を弱めても、ブロッキングが発生しにくい状態を実現できる。とくにブロッキングの原因となる異物が発生しやすいラテックスがプレコート液に含まれている場合、ブロッキングの発生防止の効果が大きい。また、パスローラ21は金属であるため、プレコート液を付着しにくくすることにより、パスローラ21に錆が発生しにくくなるため、パスローラ21の耐久性を高めることができる。また、未乾燥のプレコート液がパスローラ21の表面に接触することにより、未乾燥のプレコート液を平滑化することができる。これにより、プレコート液の塗布ムラに起因する画質故障を抑制することができる。また、プレコート乾燥部5による乾燥を弱めることができるため、印刷部6に搬入される連続紙9の温度を下げることができる。したがって、インクジェットヘッド63Y~63Kの吐出ノズル付近が結露することによるスジ状の画像故障の発生を防止できる。
【0039】
また、パスローラ21の表面における撥水加工のコーティングの厚さを20~400μmとすることにより、コーティングが断熱材として機能する。このため、プレコート乾燥部5から送り出された連続紙9がパスローラ21に接触しても、パスローラ21の温度の上昇を抑制できる。このため、プレコート乾燥部5から送り出されて印刷部6に搬入されるまでに連続紙9の温度を下げることが容易となり、その結果、インクジェットヘッド63Y~63Kの吐出ノズル付近が結露することによる、スジ状の画像故障の発生を防止できる。
【0040】
また、印刷機の稼働に際しては、通常運転以外のトラブル発生によって塗布したプレコート液が、未乾燥のまま搬送されることがある。この場合、パスローラ21の清掃が必要になるが、パスローラ21の表面にプレコート液に対する撥水加工を施すことにより、パスローラ21が汚れにくくなるため、パスローラ21の清掃頻度を低減できる。また、パスローラ21を清掃する際にも、清掃に要する時間を短縮できる。
【0041】
なお、パスローラ21の表面の表面自由エネルギーとプレコート液の表面自由エネルギーとの差が10mN/m未満となると、未乾燥のプレコート液がパスローラ21の表面に付着しやすくなり、ブロッキングの発生を十分に防止することができない。また、パスローラ21の表面の表面自由エネルギーとプレコート液の表面自由エネルギーとの差が35mN/m以上となると、パスローラ21の表面をコーティングする材質のコストが上昇する。
【0042】
また、パスローラ21の表面における撥水加工のコーティングの厚さが20μm未満であると、コーティングの耐久性が弱くなり、数時間の連続運転あるいはトラブル発生時に、コーティングが破損する可能性が高くなる。パスローラ21の表面における撥水加工のコーティングの厚さが400μmを超えると、コーティングのためのコストが上昇する。
【0043】
また、本実施形態においては、撥水加工されたパスローラ21の表面粗さ(算術表面粗さ)Raが0.1~1.6である。表面粗さRaを0.1~1.6とすることにより、パスローラ21の表面における液滴との接触角を大きくすることができ、これにより、パスローラ21の表面の表面自由エネルギーとプレコート液の表面自由エネルギーとの差が、より顕著なものとなる。このため、上述したブロッキングの発生の抑制、およびスジ状の画質故障の発生防止の効果を高めることができる。
【0044】
なお、表面粗さRaが0.1より小さいと、パスローラ21の表面における液滴との接触角を大きくする効果を十分に得ることができない。また、表面粗さRaが1.6より大きいと、パスローラ21の表面に接触する連続紙9に傷がつき、ブロッキングが発生しやすくなる。また、パスローラ21の表面の凹凸にゴミが詰まり、これが異物となってブロッキングの原因となる。
【0045】
また、本実施形態においてはパスローラ21の直径は40~200mmである。パスローラ21の直径を40~200mmとすることにより、パスローラ21の強度を保ちつつ、装置をコンパクトかつ低コストで構成することができる。パスローラ21の直径が40mm未満であると、パスローラ21の強度を保つことが困難となる。また、パスローラ21の直径が200mmを越えると、パスローラ21が大型化するため、装置をコンパクトかつ低コストで構成することが困難となる。
【0046】
また、本実施形態においては、パスローラ21に対する連続紙9のラップ角が45~215度である。パスローラ21に対する連続紙9のラップ角を45~215度とすることにより、パスローラ21の表面と連続紙9とが接触する時間を減らしつつ、パスローラ21による連続紙9の保持力を確保することができる。また、パスローラ21の表面と連続紙9とが接触する時間が減るため、ブロッキングの原因となる異物がパスローラ21に付着する可能性を低減できる。パスローラ21に対する連続紙9のラップ角が45度未満であると、連続紙9の搬送経路を変更する程度が小さくなるため、装置をコンパクトに構成することが困難となる。また、パスローラ21に対する連続紙9のラップ角が215度を超えると、パスローラ21の表面と連続紙9とが接触する時間が長くなるため、ブロッキングの原因となる異物がパスローラ21に付着する可能性が高くなる。
【0047】
また、本実施形態においては、連続紙9の搬送テンションが200~580N/mである。本実施形態においては、2つのパスローラ21のうちの搬送経路上流側にあるパスローラ21に第1のテンションセンサ25が、インク乾燥部7と巻取部8との間にあるローラ23に第2のテンションセンサ26が取り付けられている。そして、第1および第2のテンションセンサ25,26により連続紙9の搬送テンションを検出し、搬送テンションが200~580N/mとなるように、巻出ロール31および巻取ロール81のモータ等を調整して、連続紙9をより強く引っ張ったり、より弱く引っ張ったりする。
【0048】
連続紙9の搬送テンションを200~580N/mとすることにより、印刷胴61と連続紙9との滑りを防止しつつ、連続紙9の搬送経路上にある各種ローラと連続紙9との物理的な密着力を低減することができる。また、密着力を低減することができるため、パスローラ21にブロッキングの原因となる異物が付着する可能性を低減できる。連続紙9の搬送テンションが200N/m未満であると、印刷胴61の上流側と下流側とにおける連続紙9のテンション差を数N以内に収めるのが難しくなるため、印刷胴61と連続紙9との滑りが発生し、画質故障が発生する可能性が高くなる。連続紙9の搬送テンションが580N/mを超えると、連続紙9の搬送経路上にある各種ローラと連続紙9との物理的な密着力が高くなるため、ブロッキングの原因となる異物がパスローラ21に付着する可能性が高くなる。
【0049】
また、本実施形態においては、印刷部6に搬入される連続紙9における、プレコート液に含まれていた水の蒸発率が25~75質量%である。プレコート液に含まれていた水の蒸発率を25~75質量%とすることにより、プレコート乾燥部5による乾燥を弱めることができるため、印刷部6に搬入される連続紙9の温度を下げることができる。したがって、インクジェットヘッドの吐出ノズル付近が結露することによるスジ状の画像故障の発生を防止できる。プレコート液に含まれていた水の蒸発率が25質量%未満であると、連続紙9の表面の未乾燥のプレコート液が多くなるため、インクの塗布ムラに起因する画質故障が発生する可能性が高くなる。また、未乾燥のプレコート液がパスローラ21の表面に付着しやすくなるため、ブロッキングの発生を十分に抑制することができなくなる。また、プレコート液に含まれていた水の蒸発率が75質量%を超えると、印刷部6に搬入される連続紙9が高温となるため、インクジェットヘッドの吐出ノズル付近が結露することによるスジ状の画像故障が発生する可能性が高くなる。
【0050】
また、本実施形態においては、前処理部4と印刷部6との間のパス長が1~5mである。前処理部4と印刷部6との間のパス長を1~5mとすることにより、プレコート乾燥部5により高温となった連続紙9の温度を十分に下げることができるため、インクジェットヘッドの吐出ノズル付近が結露することによる、スジ状の画像故障の発生を防止できる。また、装置をコンパクトに構成することができる。前処理部4と印刷部6との間のパス長が1m未満であると、印刷部6に搬入される連続紙9の温度を十分に下げることができなくなるため、インクジェットヘッドの吐出ノズル付近が結露することによるスジ状の画像故障が発生する可能性が高くなる。前処理部4と印刷部6との間のパス長が5mを超えると、装置をコンパクトに構成することが困難となる。
【0051】
次いで、本開示による評価結果について説明する。図2はパスローラ21の表面に行う各種コーティングの材質の表面自由エネルギーとプレコート液の表面自由エネルギーとの差の評価結果を示す表である。図2に示すように、プレコート液としては表面自由エネルギーが異なる2種類のプレコート液1,2を用いた。パスローラ21表面のコーティングの材質としては、材質A、3種類のフッ素樹脂A~C、3種類のシリコンA~C、および4種類のポリイミドA~Dを用いた。材質Aは、フッ素樹脂を溶媒に溶かしたコーティング剤である。
【0052】
また、図2において、汚れおよびブロッキングの評価、コストの評価および総合評価を示している。評価はA,B,Fの3段階で示し、A,Bを合格、Fを不合格とした。図2に示すように、パスローラ21の表面の表面自由エネルギーとプレコート液との表面自由エネルギーとの差が10~35mN/mとなる材質を用いることにより、汚れおよびブロッキングの評価、コストの評価および総合評価のいずれについてもA,Bの評価であった。なお、プレコート液との表面自由エネルギーの差が10~35mN/mを満たすポリイミドB,C,Dについては、総合評価はFであるものの、汚れおよびブロッキングの評価についてはA,Bであった。このため、ポリイミドB,C,Dについては、コストを考慮しなければ、本開示による画像形成装置のパスローラ21の表面のコーティングに使用可能である。
【0053】
図3は、本開示による画像形成装置における各種条件についての評価結果を示す表である。なお、図3において、「表面自由エネルギー」は、パスローラ21の表面の表面自由エネルギーとプレコート液の表面自由エネルギーとの差(単位はmN/m)を表す。「パス長」は、前処理部4と印刷部6との間のパス長(単位はm)を表す。「蒸発率」は、プレコート液に含まれていた水の蒸発率(単位は質量%)を表す。「表面粗さ」は、パスローラ21の表面粗さRaを表す。「テンション」は、連続記録媒体の搬送テンション(単位はN/m)を表す。「直径」は、パスローラ21の直径(単位はmm)を表す。「ラップ角」は、パスローラ21に対する連続記録媒体のラップ角を表す。「コーティング厚さ」は、パスローラ21の表面におけるコーティングの厚さ(単位はμm)を表す。
【0054】
また、図3には17個の実施例1~17と、2つの比較例1,2を示す。実施例1においては、表面自由エネルギー、パス長、蒸発率、表面粗さ、テンション、直径、ラップ角およびコーティング厚さ(以下、パラメータとする)の値はそれぞれ最小値であり、実施例2においては、パラメータの値はそれぞれ中間値であり、実施例17においては、パラメータの値はそれぞれ最大値である。実施例3,4はそれぞれパス長が最小値、最大値であり、実施例5,6はそれぞれ蒸発率が最小値、最大値である。実施例7,8はそれぞれ表面粗さが最小値、最大値であり、実施例9,10はそれぞれテンションが最大値、最小値である。実施例11,12はそれぞれパスローラ21の直径が最大値、最小値であり、実施例13.14はそれぞれラップ角が最小値、最大値である。実施例15,16はそれぞれコーティング厚さが最小値、最大値である。また、実施例3~16において、最大値および最小値とするパラメータ以外のパラメータは中間値である。
【0055】
比較例1においては、表面自由エネルギーの差、パス長、蒸発率、表面粗さ、ラップ角およびコーティング厚さは、本開示において規定する範囲よりも小さい範囲にあり、テンションおよび直径は、本開示において規定する範囲よりも大きい範囲にある。比較例2においては、表面自由エネルギーの差、パス長、蒸発率、表面粗さ、ラップ角およびコーティング厚さは、本開示において規定する範囲よりも大きい範囲にあり、テンションおよび直径は、本開示において規定する範囲よりも小さい範囲にある。
【0056】
また、図3においては、画質故障、装置の小型化および実現の容易さの観点での評価結果を示している。画質故障については、ブロッキングおよびスジ状の画質故障(スジと示す)の観点での評価結果を示している。実現の容易さについては、コストおよび技術の観点での評価結果を示している。評価結果はA,B,Fの3段階で示し、A,Bを合格、Fを不合格とした。
【0057】
図3に示すように、すべての実施例1~17に関していずれの評価もA,Bであった。比較例1に関して、いずれの評価もFであった。比較例2に関して、画質故障およびコストの評価は合格であったが、小型化および技術の評価、並びに総合評価は不合格であった。
【0058】
以上より、本開示による画像形成装置における各種条件を満足することにより、装置を小型化しつつ、スジ状の画質故障およびブロッキングを防止できることが確認された。
【0059】
以上、本開示の実施形態に係る画像形成装置について図面を参照して説明したが、画像形成装置は、図示のものに限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において適宜設計変更可能である。
【0060】
例えば、上記実施形態においては、プレコート乾燥部5と印刷部6との間に配置されるパスローラ21の数は2つに限定されるものではなく、1つであってもよく、3以上であってもよい。
【0061】
また、上記実施形態においては、前処理部4と印刷部6との間にプレコート乾燥部5を設けているが、印刷部6に搬入される直前の連続紙9において、プレコート液に含まれていた水の蒸発率が25~75質量%となるようなパス長を確保できれば、プレコート乾燥部5を設けなくてもよい。
【0062】
また、上記実施形態においては、連続紙9としてコート紙を用いているが、これに限定されるものではなく、普通紙を用いてもよい。
【符号の説明】
【0063】
1 画像形成装置
2 搬送部
3 給紙部
4 前処理部
5 プレコート乾燥部
6 印刷部
7 インク乾燥部
8 巻取部
9 連続紙
21 パスローラ
22,23 ローラ
25,26 テンションセンサ
31 巻出ロール
41 プレコート液保持部
42 転写ローラ
43 塗布ローラ
44 バックアップローラ
51,52 ノズル
61 印刷胴
62 吐出部
63Y、63M、63C、63K インクジェットヘッド
71 乾燥胴
72 ノズル
81 巻取ロール
図1
図2
図3