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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-06
(45)【発行日】2024-06-14
(54)【発明の名称】自動分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 35/10 20060101AFI20240607BHJP
【FI】
G01N35/10 F
G01N35/10 C
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022568082
(86)(22)【出願日】2021-10-15
(86)【国際出願番号】 JP2021038191
(87)【国際公開番号】W WO2022123908
(87)【国際公開日】2022-06-16
【審査請求日】2023-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2020205500
(32)【優先日】2020-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】三宅 由夏
(72)【発明者】
【氏名】濱崎 孝伸
(72)【発明者】
【氏名】高田 英一郎
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-120509(JP,A)
【文献】特開2001-074756(JP,A)
【文献】特開平11-352132(JP,A)
【文献】国際公開第2020/235134(WO,A1)
【文献】特開2019-163991(JP,A)
【文献】国際公開第2020/071163(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/00 - 35/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分注ノズルを備え、検体または試薬を反応容器に分注する分注機構と、
前記分注ノズルを洗浄する洗浄槽と、
第1の分注動作または第2の分注動作により、検体及び試薬を反応容器に分注するよう前記分注機構及び前記洗浄槽を制御する制御部とを有し、
前記第1の分注動作は、前記分注機構が試薬容器に収容された試薬を前記分注ノズルにより吸引する第1の手順と、前記第1の手順の後、前記洗浄槽が前記分注ノズルの外側を洗浄する第2の手順と、前記第2の手順の後、前記分注機構が検体容器に収容された検体を前記分注ノズルにより吸引する第3の手順と、前記第3の手順の後、前記分注機構が前記第1の手順及び前記第3の手順において吸引された試薬及び検体を反応容器に吐出する第4の手順とを含み、
前記第2の分注動作は、前記分注機構が検体容器に収容された検体を前記分注ノズルにより吸引する第1の手順と、前記第1の手順の後、前記分注機構が前記第1の手順において吸引された検体を第1の反応容器に吐出する第2の手順と、前記第2の手順の後、前記洗浄槽が前記分注ノズルの内外を洗浄する第3の手順と、前記第3の手順の後、前記分注機構が試薬容器に収容された試薬を前記分注ノズルにより吸引する第4の手順と、前記第4の手順の後、前記洗浄槽が前記分注ノズルの外側を洗浄する第5の手順と、前記第5の手順の後、前記分注機構が前記第1の反応容器に収容された検体を前記分注ノズルにより吸引する第6の手順と、前記第6の手順の後、前記分注機構が前記第4の手順及び前記第6の手順において吸引された試薬及び検体を第2の反応容器に吐出する第7の手順とを含み、
前記制御部は、前記検体の測定依頼情報データに基づき、前記試薬の前記検体容器への混入が前記検体の測定依頼に含まれる測定項目についての分析に影響を及ぼすか否かによって前記第1の分注動作と前記第2の分注動作のいずれを行うかを決定する自動分析装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1の分注動作における前記第4の手順において、前記分注機構は前記反応容器内の試薬と検体の混合液を吸引し、再吐出する動作を1回以上行い、
前記第2の分注動作における前記第7の手順において、前記分注機構は前記第2の反応容器内の試薬と検体の混合液を吸引し、再吐出する動作を1回以上行う自動分析装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記第2の分注動作における前記第6の手順において、前記第2の分注動作における前記第2の手順における検体の吸引量が所定の閾値以上である場合には、前記分注機構は、前記分注ノズルの先端が前記第1の反応容器の液面からあらかじめ定められた深さに達するよう、前記分注ノズルを下降させた後、前記第1の反応容器に収容された検体を前記分注ノズルにより吸引する自動分析装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記第2の分注動作における前記第6の手順において、前記第2の分注動作における前記第2の手順における検体の吸引量が所定の閾値未満である場合には、前記分注機構は、前記分注ノズルの先端が前記第1の反応容器の底面に達するよう下降させた後、あらかじめ定められた高さまで前記分注ノズルを上昇させた後、前記第1の反応容器に収容された検体を前記分注ノズルにより吸引する自動分析装置。
【請求項5】
請求項1において、
前記制御部は、前記第2の分注動作の前記第1~前記第3の手順を一連の第1シーケンスとして実行し、前記第2の分注動作の前記第4~前記第7の手順を前記第1シーケンスの実行後の所定時間後に一連の第2シーケンスとして実行する自動分析装置。
【請求項6】
請求項5において、
駆動機構により回転駆動され、前記第1の分注動作に使用される前記反応容器及び前記第2の分注動作に使用される前記第1の反応容器と前記第2の反応容器とを含む反応容器が円周状に配置されるインキュベータと、
前記インキュベータに配置された反応容器内の検体と試薬との反応液に対して生化学検査を行う分光光度計とを有する自動分析装置。
【請求項7】
請求項1において、
前記制御部は、前記検体の測定依頼情報データにおける前記検体の検体種別情報に基づき、前記第1の分注動作と前記第2の分注動作のいずれを行うかを決定する自動分析装置。
【請求項8】
請求項1において、
前記制御部は、前記検体の測定依頼情報データにおける前記検体の測定項目情報に基づき、前記第1の分注動作と前記第2の分注動作のいずれを行うかを決定する自動分析装置。
【請求項9】
請求項1において、
前記制御部は、前記検体の測定依頼情報データにおける前記検体の検体種別情報と測定項目情報との組み合わせに基づき、前記第1の分注動作と前記第2の分注動作のいずれを行うかを決定する自動分析装置。
【請求項10】
請求項1において、
前記制御部は、自動分析装置の状態に基づき、前記試薬が前記検体容器に混入することが前記検体の分析に影響を与えやすい装置状態であるか否かによって、前記第1の分注動作と前記第2の分注動作のいずれを行うかを決定する自動分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動分析装置として、血液や尿などの検体(試料)に含まれる生体成分を分析する生化学分析装置や、免疫分析装置が知られている。自動分析装置では、試料と各検査項目の分析に用いる混合液との反応によって生じる混合液の濃度や酵素の活性等を光学的に測定する。
【0003】
特許文献1には、反応過程に基づき分注機構を使い分けるとともに、それぞれの分注機構は、同じ分注ノズルで試料と試薬の双方を分注し、ピペッティング動作により試料と試薬とを混合した混合液を攪拌させる自動分析装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2020/217636号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明者らは、特許文献1に開示されるような自動分析装置について、そのスループットを高くできる分注動作のシーケンスを検討した。分注動作のたびに分注ノズルの内外を洗浄していては、スループットの低下、洗浄水の使用量の増大につながるため、できる限り洗浄回数を抑制した分注動作とすることが好ましい。
【0006】
そのため、先に試薬容器から試薬を吸引し、分注ノズルの外側のみを洗浄し、その後、検体容器から検体を吸引し、吸引した試薬と検体とを反応容器に吐出、攪拌するシーケンスを検討したところ、一部の検査項目においては、試薬-検体間のキャリーオーバが生じ得ることが分かった。例えば、比濁測定用試薬にはタンパク質が含まれている。上記のようなシーケンスによって、分注ノズルの内側に付着した比濁測定用試薬が検体容器の検体中に混入すると、混入するタンパク質が微量であるとしても、尿のようにタンパク質濃度の低い検体である場合には、混入した比濁測定用試薬によって偽高値のような誤った測定結果を生じさせるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施の態様である自動分析装置は、分注ノズルを備え、検体または試薬を反応容器に分注する分注機構と、分注ノズルを洗浄する洗浄槽と、第1の分注動作または第2の分注動作により、検体及び試薬を反応容器に分注するよう分注機構及び洗浄槽を制御する制御部とを有し、
第1の分注動作は、分注機構が試薬容器に収容された試薬を分注ノズルにより吸引する第1の手順と、第1の手順の後、洗浄槽が分注ノズルの外側を洗浄する第2の手順と、第2の手順の後、分注機構が検体容器に収容された検体を分注ノズルにより吸引する第3の手順と、第3の手順の後、分注機構が第1の手順及び第3の手順において吸引された試薬及び検体を反応容器に吐出する第4の手順とを含み、
第2の分注動作は、分注機構が検体容器に収容された検体を分注ノズルにより吸引する第1の手順と、第1の手順の後、分注機構が第1の手順において吸引された検体を第1の反応容器に吐出する第2の手順と、第2の手順の後、洗浄槽が分注ノズルの内外を洗浄する第3の手順と、第3の手順の後、分注機構が試薬容器に収容された試薬を分注ノズルにより吸引する第4の手順と、第4の手順の後、洗浄槽が分注ノズルの外側を洗浄する第5の手順と、第5の手順の後、分注機構が第1の反応容器に収容された検体を分注ノズルにより吸引する第6の手順と、第6の手順の後、分注機構が第4の手順及び第6の手順において吸引された試薬及び検体を第2の反応容器に吐出する第7の手順と、を含み、
制御部は、検体の測定依頼情報データに基づき、試薬の検体容器への混入が検体の測定依頼に含まれる測定項目についての分析に影響を及ぼすか否かによって第1の分注動作と第2の分注動作のいずれを行うかを決定する
【発明の効果】
【0008】
試薬のキャリーオーバのリスクを抑えて、スループットの高い分注動作可能な自動分析装置を提供する。
【0009】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】自動分析装置における分注機構に関連する機構の概略図。
図2A】通常分注動作の手順。
図2B】キャリーオーバ回避分注動作の手順。
図3A】標準吸引動作を示す図。
図3B】少量吸引動作を示す図。
図4】測定依頼情報データの例。
図5A】判定テーブルの例。
図5B】判定テーブルの例。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。なお、各図において、共通する構成要素や同様な構成要素については、同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略するものとする。
【0012】
図1に自動分析装置のうち、分注機構に関わる構成を概略的に示す。図1において、インキュベータ(反応ディスク)1の円周状のポジション上には反応容器2が並んでいる。反応容器2は全ての反応で共通のものを使用する。インキュベータ1は、モータなどの駆動機構により回転駆動するよう制御される。
【0013】
試薬・検体共通収納部3には、複数の試薬ボトル4bおよび検体容器5が載置可能とされている。試薬ボトル4bは、複数(ここでは3つ)のそれぞれ試薬を収容する試薬容器4を結合したものである。この例では、試薬ボトル4bが検体容器5の内周に位置しているが、検体容器5が試薬ボトル4bの内周に位置していてもよいし、試薬ボトル4bと検体容器5とが径方向ではなく、周方向に区分けして位置する構成であってもよい。また、ここでは試薬・検体共通収納部3の例を示しているが、試薬と検体の収納部は別々であってもよい。
【0014】
インキュベータ1と試薬・検体共通収納部3との間には、それぞれ円弧(回転)運動及び上下運動可能であって、分注ノズルを備えた分注機構6が設置されている。分注ノズルは回転軸を中心に円弧を描きながら移動して試薬ボトル4bまたは検体容器5から反応容器2への分注を行う。分注ノズルの軌道上には、試薬・検体共通収納部3上の試薬吸引位置及び検体吸引位置と、インキュベータ1上の分注位置と、分注ノズルを洗浄するための洗浄槽7とが存在する。
【0015】
分注ノズルにより検体と試薬とを吸引し、反応容器2内での分注ノズルによる吸引吐出動作により検体と試薬とが攪拌され、混合される。このように、検体と試薬との攪拌を分注ノズルによるピペッティング動作によって行うことにより、検体と試薬との攪拌のための攪拌機構を不要にできる。検体と試薬が混合された反応液を収容した反応容器2は、インキュベータ1により所定温度に管理され、所定の時間、反応を促進される。
【0016】
自動分析装置を生化学検査用とする場合、インキュベータ1の周囲には、分光光度計8が配置されている。分光光度計8は、図示しない光源や検出器を備えており、検体と試薬が混合された反応液に光源を照射して得られる透過光を分光して検出することにより、反応液の吸光度を測定する。なお、自動分析装置の検出原理は、生化学検査用に限定されない。例えば、自動分析装置を免疫検査用とする場合は、分光光度計8は不要であり、免疫用分析部(例えば、電気化学発光や化学発光を原理とし、標識物質の発光反応に由来する発光量を、光電子増倍管を検出器として測定するもの)を備える。また、自動分析装置を生化学検査用と免疫検査用の複合型とする場合は、分光光度計8及び免疫用分析部の双方を備える。
【0017】
自動分析装置の各機構は制御部10に接続されている。制御部10は、インキュベータ1の回転駆動や、試薬・検体共通収納部3内部の回転動作、分注機構6の駆動や分注動作、洗浄槽7の分注ノズルの洗浄などの各種機構の動作を制御する。なお、図1においては、図示の簡単のため、自動分析装置を構成する各機構と制御部10との接続は省略して示している。
【0018】
図2Aに分注機構6が実施する通常分注動作の手順を示す。分注機構6は同じ分注ノズルで連続して検体と試薬とを分注するため、通常分注動作においては、先に試薬を吸引し、検体が試薬容器4に混入しないようにしている。
(A1)分注機構6は、分注ノズル201を試薬・検体共通収納部3の試薬容器4上に移動させ、試薬を所定量吸引する。
(A2)分注機構6は分注ノズル201を洗浄槽7に移動させ、洗浄槽7は分注ノズル201の外側を洗浄(外洗)する。
(A3)分注機構6は、分注ノズル201を試薬・検体共通収納部3の検体容器5上に移動させ、検体を所定量吸引する。
(A4)分注機構6は分注ノズル201をインキュベータ1の反応容器2上に移動させ、吸引した試薬と検体とを反応容器2に吐出させる。この吐出動作によって試薬と検体とが攪拌、混合される。このとき、反応容器2内の試薬と検体との混合液を吸引し、再吐出する動作を1回以上行い、試薬と検体とをより均一に混合することが望ましい。
(A5)分注機構6は分注ノズル201を洗浄槽7に移動させ、洗浄槽7は分注ノズル201の外側及び内側を洗浄(外洗、内洗)する。
【0019】
図2Bに分注機構6が実施するキャリーオーバ回避分注動作の手順を示す。図2Aに示した通常分注動作では、検体吸引時に分注ノズル201の内側に付着した試薬が検体容器5に混入するおそれがある。このため、検体容器5に収容された検体について、試薬が混入されることで、その後の検査項目についての分析に悪影響を及ぼすおそれのある場合には、制御部10は、通常分注動作に代えて、図2Bに示すキャリーオーバ回避分注動作を実施する。キャリーオーバ回避分注動作では分注する検体を検体容器5から一旦別の容器に移し、当該別の容器から分注動作を実施することにより、試薬が検体容器5に混入することを防止する。
(B1)分注機構6は、分注ノズル201を試薬・検体共通収納部3の検体容器5上に移動させ、検体を所定量吸引する。
(B2)分注機構6は、分注ノズル201をインキュベータ1の第1の反応容器2a上に移動させ、吸引した検体を第1の反応容器2aに吐出する。
(B3)分注機構6は分注ノズル201を洗浄槽7に移動させ、洗浄槽7は分注ノズル201の外側及び内側を洗浄(外洗、内洗)する。
(B4)分注機構6は、分注ノズル201を試薬・検体共通収納部3の試薬容器4上に移動させ、試薬を所定量吸引する。
(B5)分注機構6は分注ノズル201を洗浄槽7に移動させ、洗浄槽7は分注ノズル201の外側を洗浄(外洗)する。
(B6)分注機構6は、分注ノズル201をインキュベータ1の第1の反応容器2a上に移動させ、第1の反応容器2aから検体を所定量吸引する。
(B7)分注機構6は分注ノズル201をインキュベータ1の第2の反応容器2b上に移動させ、吸引した試薬と検体とを第2の反応容器2bに吐出する。この吐出動作によって試薬と検体とが攪拌、混合される。このとき、第2の反応容器2b内の試薬と検体との混合液を吸引し、再吐出する動作を1回以上行い、試薬と検体とをより均一に混合することが望ましい。
(B8)分注機構6は分注ノズル201を洗浄槽7に移動させ、洗浄槽7は分注ノズル201の外側及び内側を洗浄(外洗、内洗)する。
【0020】
なお、手順(B1)~(B8)は連続して実施される必要はなく、手順(B1)~(B3)の第1シーケンスと手順(B4)~(B8)の第2シーケンスとに分離して実施されてもよい。2つのシーケンスに分離した場合、以下のような動作となる。第2シーケンスを実行するサイクル以前のサイクルにおいて、第1シーケンスを実行して、分注ノズルのアクセスポイントに位置する第1の反応容器2aに検体を分注しておく(手順(B1)~(B3))。所定時間経過後(例えば、数十秒後)、第1の反応容器2aと第2の反応容器2bとの双方が分注ノズルのアクセスポイントに位置するタイミングで第2シーケンスを実行する(手順(B4)~(B8))。
【0021】
このようなキャリーオーバ回避分注動作において、手順(B2)により検体容器5から第1の反応容器2aに移された検体は、手順(B6)後には、試薬が混入しているおそれがあるため、残った検体を後続の検査に利用できるとは限らない。通常、検体容器5内の検体について複数の測定項目にかかる分析が行われるため、検体容器5に収容された検体が最終的に不足することのないよう、手順(B1)~(B2)で検体容器5から第1の反応容器2aに分注する検体の量はできるだけ少なくすることが望ましい。しかしながら、第1の反応容器2aに収容される検体の量が少ないと、手順(B6)における検体の吸引動作に障害が出るおそれがある。
【0022】
図3Aに、分注機構6が反応容器2から検体を吸引する動作(第1動作)を示す。第1動作は分注機構6が反応容器2から液体を吸引するときの標準吸引動作である。状態(S01)は初期状態であり、分注ノズル201の先端は反応容器2の底面から高さh1に位置する。このとき、反応容器2における液面の底面からの高さh2Aは、反応容器2の底面積が既知であるので、手順(B2)で吐出した検体の量に基づき算出できる。状態(S02)は、分注ノズル201を吸引位置まで降下させた状態を示す。標準吸引動作での分注ノズル201の降下量はh1-(h2A-ε)とされる。突入量εはあらかじめ装置で設定されている。分注ノズル201の先端の検体への突入量εが小さすぎると、検体の表面張力や揺れ、あるいは分注ノズルや反応容器の取り付け公差などに起因して、算出された液面の高さと実際の液面の高さにずれが生じた場合に、検体吸引時に空気を巻き込むといったようなトラブルを発生するおそれがある。一方で、突入量εが大きすぎると分注ノズル201の洗浄範囲(外洗)が大きくなるという不利益が生じるため、できるだけ短くしたいという要請はあるものの、突入量εは、吸引動作(状態(S03))が安定的に可能となる程度の長さとして設定される。このため、例えば、手順(B2)において第1の反応容器2aに吐出する検体の量を液面高さがε以下となるような量とすると、手順(B6)において標準吸引動作による検体の吸引は行えない。
【0023】
そこで本実施例では、第1の反応容器2aに分注する検体の量を、液面高さがε以下となるような分注量としても吸引動作が可能な、反応容器2から液体を吸引する第2動作(少量吸引動作)を設定している。第1の反応容器2aに分注する検体の量が所定の閾値未満となる場合には、手順(B6)での吸引動作に図3Bに示す少量吸引動作を適用する。
【0024】
状態(S11)は初期状態であり、分注ノズル201の先端は反応容器2の底面から高さh1に位置し、反応容器2における液面の底面からの高さは高さh2Bである。続いて、分注ノズル201は分注ノズル201の先端が反応容器2の底に達するまで下降し(状態(S12))、その後、一定距離δ(δ<ε)だけ分注ノズル201を上昇させる(状態(S13))。この分注ノズル201の先端が反応容器2の底面からδの高さに位置した状態で検体を吸引する(状態(S14))。
【0025】
標準吸引動作において設定される突入量εは、検体と前処理液が混合された反応液または検体を希釈液で希釈した希釈検体を吸引することを想定し、安定した吸引ができるよう設定されている。これに対して、手順(B6)では反応容器2に収容されているのは検体そのものであるため、手順(B6)において、反応容器2に収容されている液体量、および分注ノズルが吸引する液体量は、ともに標準吸引動作において想定されている量よりも大幅に少ない。このため、標準吸引動作が可能な程度に検体容器5から第1の反応容器2aに検体を分注していては廃棄される検体の量が多くなってしまう。少量吸引動作を設定することにより、反応容器2に少量の検体しか収容されていない場合であっても、安定した吸引動作が行え、廃棄される検体の量を抑制することができる。
【0026】
分注機構6が実施する分注動作を図2Aの通常分注動作とするか、図2Bのキャリーオーバ回避分注動作とするかは制御部10が判定する。制御部10は、検体に対する測定依頼情報に基づき、試薬が混入されることで、その後の測定項目についての分析に悪影響を及ぼすおそれがあるかどうかに基づき判定する。図4に自動分析装置に入力される測定依頼情報データ401を示す。測定依頼情報データ401には、検体種別情報402、測定項目情報403が含まれる。検体種別情報402は、検体の種別、例えば、血清、血しょう、尿などを示す。測定項目情報403は、検体についての測定項目を示し、これにより測定に使用される試薬が特定される。
【0027】
制御部10は、測定依頼情報データ401の検体種別情報402、測定項目情報403、または検体種別情報402と測定項目情報403との組み合わせに基づき、分注動作の選択を行うため、判定テーブル501を有する。図5Aに検体種別情報に基づき分注動作の選択を行う判定テーブル501aの例である。分析に悪影響を及ぼすおそれがある一例として試薬に含まれるタンパク質が考えられ、例えば、元々タンパク質を多量に含む検体であれば、微量の試薬の混入によって分析結果は変動しないといえる。したがって、判定テーブル501aは検体種別とキャリーオーバ回避分注動作の適用有無を対応付けて設定している。同様に、測定項目情報に基づき分注動作の選択を行う場合には、制御部10は、判定テーブル501aの検体種別カラムを測定項目カラムに変更した判定テーブルを保持する。
【0028】
図5Bは、検体種別情報と測定項目情報との組み合わせに基づき分注動作の選択を行う判定テーブル501bの例である。測定項目によっては、混入しても分析結果に影響を及ぼさない試薬しか用いないものもある。判定テーブル501bを用いることにより、測定結果に影響を及ぼす検体種別と測定項目の組み合わせに限ってのみ、キャリーオーバ回避分注動作を実施させるようにできる。
【0029】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。以下、変形例について例示する。
【0030】
(変形例1)
第1の反応容器2aに分注され、残った検体について、測定項目への影響がある場合には廃棄する必要があるが、測定項目への影響が無い場合には、連続して第1の反応容器2aに分注され、残った検体を用いて別の測定を実施することは差し支えない。
【0031】
(変形例2)
実施例では、キャリーオーバ回避分注動作の適用を、検体種別情報、測定項目情報、または検体種別情報と測定項目情報との組み合わせによって判定する例を示したが、その他の情報、例えば自動分析装置の状態に基づき、キャリーオーバ回避分注動作の適用を判定してもよい。
【0032】
例えば、オペレータによる分注ノズルのメンテナンスが実行されておらず、検体種別が試薬によるコンタミネーションの影響を受けやすい装置状態であった場合、キャリーオーバ回避分注動作を適用する。分注ノズルのメンテナンスが実行されていない場合、コンタミネーションリスクが生じやすい状態であるので、分注ノズルの汚れに起因するコンタミネーションが生じないよう、キャリーオーバ回避分注動作を適用するものである。分注ノズルのメンテナンスの実行/未実行は装置の動作ログから判断することができる。
【0033】
あるいは、QC測定結果が基準範囲外であるにもかかわらず、そのまま測定を行っている場合にも、この場合は検体種別にかかわらず、キャリーオーバ回避分注動作を適用する。QC測定結果が基準範囲外となった原因として分注ノズルに汚れが発生している可能性がある。このため、分注ノズルの汚れに起因するコンタミネーションが生じないよう、キャリーオーバ回避分注動作を適用する。
【0034】
以上の実施例あるいは変形例は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。例えば、キャリーオーバ回避分注動作において検体を一旦インキュベータ1上の反応容器2bに分注する例を示したが、分注した検体を一時的に保持する保持部があればそちらに保持させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0035】
1:インキュベータ、2:反応容器、3:試薬・検体共通収納部、4:試薬容器、4b:試薬ボトル、5:検体容器、6:分注機構、7:洗浄槽、8:分光光度計、10:制御部、201:分注ノズル、401:測定依頼情報データ、402:検体種別情報、403:測定項目情報、501:判定テーブル。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5A
図5B