(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】シミュレーション装置、シミュレーション方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G16C 10/00 20190101AFI20240610BHJP
【FI】
G16C10/00
(21)【出願番号】P 2023016229
(22)【出願日】2023-02-06
【審査請求日】2024-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】吉崎 達
(72)【発明者】
【氏名】水谷 晟吾
(72)【発明者】
【氏名】米田 聡
(72)【発明者】
【氏名】東 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】岸川 洋介
(72)【発明者】
【氏名】匂坂 重仁
(72)【発明者】
【氏名】吉本 勇太
(72)【発明者】
【氏名】塩見 淳一郎
(72)【発明者】
【氏名】北井 孝紀
(72)【発明者】
【氏名】チェ ビョムギュ
【審査官】岡北 有平
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第114970322(CN,A)
【文献】HOU, Wei et al.,Static dielectric constant and dielectric loss of cellulose insulation: Molecular dynamics simulations,High Voltage [online],2021年03月22日,Vol.6, Issue 6,Pages 1051-1060,[検索日:2024年3月1日], Retireved from the Internet: <URL:https://doi.org/10.1049/hve2.12087>
【文献】MISRA, Mayank et al.,Using Time-Temperature Superposition for Determining Dielectric Loss in Functionalized Polyethylenses,ACS Macro Letters [online],2017年02月14日,Vol.6, No.3,Pages 200-204,[検索日:2024年3月1日], Retrieved from the Internet: <URL:htttps://doi.org/10.1021/acsmacrolett.6b00978>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16C 10/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御部を有するシミュレーション装置であって、
前記制御部は、
対象物質の双極子モーメントの時系列データを計算し、
誘電緩和関数の長さに応じた周波数以上の周波数帯の前記時系列データに基づく
前記誘電緩和関数を出力する、
シミュレーション装置。
【請求項2】
前記制御部は、
ハイパスフィルタを用いて前記周波数帯の前記時系列データを抽出する、
請求項1に記載のシミュレーション装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記誘電緩和関数の長さに基づいて前記ハイパスフィルタのカットオフ周波数を決定する、
請求項2に記載のシミュレーション装置。
【請求項4】
前記制御部は、
分子動力学計算により前記時系列データを計算する、
請求項1に記載のシミュレーション装置。
【請求項5】
前記制御部は、
前記誘電緩和関数を周波数分解する、
請求項1から4のいずれかに記載のシミュレーション装置。
【請求項6】
前記制御部は、
周波数ごとの複素誘電率、誘電正接、複素電気伝導率又は抵抗率を出力する、
請求項5に記載のシミュレーション装置。
【請求項7】
シミュレーション装置が有する制御部が、
対象物質の双極子モーメントの時系列データを計算する手順と、
誘電緩和関数の長さに応じた周波数以上の周波数帯の前記時系列データに基づく
前記誘電緩和関数を出力する手順と、
を実行するシミュレーション方法。
【請求項8】
シミュレーション装置が有する制御部に、
対象物質の双極子モーメントの時系列データを計算する手順と、
誘電緩和関数の長さに応じた周波数以上の周波数帯の前記時系列データに基づく
前記誘電緩和関数を出力する手順と、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シミュレーション装置、シミュレーション方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
様々な材料の研究開発において、例えば量子科学計算又は分子動力学計算等により物質の物性値を計算するシミュレーションが活用されている。例えば、特許文献1には、高分子材料の各種物性を計算機シミュレーションにより予測する材料設計システムが開示されている。非特許文献1には、分子動力学シミュレーションを使用して、添加剤を含むポリエチレン系の双極子モーメントから誘電率と損失を計算する技術が開示されている。非特許文献2には、分子動力学シミュレーションを使用して、ポリエチレン共重合体の総双極子モーメントから誘電損失を計算する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Joakim P. M. Jambeck, Mikael Unge and Sari Laihonen, "Determining the Dielectric Losses in Polymers by Using Molecular Dynamics Simulations", 2015 IEEE Conference on Electrical Insulation and Dielectric Phenomena (CEIDP), pp. 146-149, 2015.
【文献】Mayank Misra and Sanat K. Kumar, "Using Time-Temperature Superposition for Determining Dielectric Loss in Functionalized Polyethylenes", ACS Macro Letters 2017, 6, 200-204.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、シミュレーションにより導出された誘電緩和関数の精度が低いことがある、という課題がある。誘電緩和関数の精度が低いと、その誘電緩和関数を用いて計算した物性値の精度も低くなる。
【0006】
本開示は、物質の誘電緩和関数を精度よく導出する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1の態様に係るシミュレーション装置は、制御部を有するシミュレーション装置であって、前記制御部は、対象物質の双極子モーメントの時系列データを計算し、所定の周波数帯の前記時系列データに基づく誘電緩和関数を出力する。
【0008】
本開示の第1の態様によれば、物質の誘電緩和関数を精度よく導出することができる。
【0009】
本開示の第2の態様は、第1の態様に係るシミュレーション装置であって、前記制御部は、ハイパスフィルタを用いて前記周波数帯の前記時系列データを抽出する。
【0010】
本開示の第3の態様は、第2の態様に係るシミュレーション装置であって、前記制御部は、前記誘電緩和関数の長さに基づいて前記ハイパスフィルタのカットオフ周波数を決定する。
【0011】
本開示の第4の態様は、第1の態様に係るシミュレーション装置であって、前記制御部は、分子動力学計算により前記双極子モーメントの時系列データを計算する。
【0012】
本開示の第5の態様は、第1の態様から第4の態様のいずれかに係るシミュレーション装置であって、前記制御部は、前記誘電緩和関数を周波数分解する。
【0013】
本開示の第6の態様は、第5の態様に係るシミュレーション装置であって、前記制御部は、周波数ごとの複素誘電率、誘電正接、複素電気伝導率又は抵抗率を出力する。
【0014】
本開示の第7の態様に係るシミュレーション方法は、シミュレーション装置が有する制御部が、対象物質の双極子モーメントの時系列データを計算する手順と、所定の周波数帯の前記時系列データに基づく誘電緩和関数を出力する手順と、を実行する。
【0015】
本開示の第8の態様に係るプログラムは、シミュレーション装置が有する制御部に、対象物質の双極子モーメントの時系列データを計算する手順と、所定の周波数帯の前記時系列データに基づく誘電緩和関数を出力する手順と、を実行させる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】従来技術による誘電緩和関数の第1の例を示す図である。
【
図2】従来技術による誘電緩和関数の第2の例を示す図である。
【
図3】従来技術による誘電緩和関数の第3の例を示す図である。
【
図4】従来技術による誘電緩和関数の第4の例を示す図である。
【
図5】フィルタ前の双極子モーメントの一例を示す図である。
【
図6】シミュレーション装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【
図7】シミュレーション方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図8】フィルタ後の双極子モーメントの一例を示す図である。
【
図9】実施形態による誘電緩和関数の第1の例を示す図である。
【
図10】実施形態による誘電緩和関数の第2の例を示す図である。
【
図11】実施形態による複素誘電率の一例を示す図である。
【
図12】実施形態による誘電正接の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、各実施形態について添付の図面を参照しながら説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省略する。
【0018】
[実施形態]
本開示の一実施形態は、分子動力学計算等によりポリマーの物性値を計算するシミュレーション装置である。本実施形態におけるシミュレーション装置は、計算対象とするポリマー(以下、「対象物質」とも呼ぶ)の誘電緩和関数を導出し、その誘電緩和関数に基づいて対象物質の物性値を計算する。誘電緩和関数に基づいて計算可能な物性値は、例えば、周波数依存の複素誘電率、誘電正接、複素電気伝導率及び抵抗率等の電気特性が挙げられる。
【0019】
従来技術では、以下のように対象物質の物性値を計算する。ここでは、物性値として周波数依存の複素誘電率を計算する例を説明する。
【0020】
第1に、分子動力学計算により双極子モーメントの時系列データM(t)を求める。ただし、tは時間を表す。
【0021】
第2に、双極子モーメントの時系列データM(t)から誘電緩和関数Φ(t)を計算する。誘電緩和関数Φ(t)は、式(1)により計算することができる。
【0022】
【0023】
第3に、誘電緩和関数Φ(t)を式(2)でフィッティングする。
【0024】
【0025】
第4に、フィッティング後の誘電緩和関数Φfit(t)を周波数分解する。周波数分解は式(3)のフーリエ変換により行うことができる。これにより、周波数依存の複素誘電率が得られる。
【0026】
【0027】
従来技術では、分子動力学計算により導出される誘電緩和関数の精度が低いことが課題である。例えば、ポリマーの種類によっては、導出された誘電緩和関数の形状が自然法則に反する形状となることがある。また、例えば、同じポリマーであっても計算条件によって誘電緩和関数の形状が異なることがある。
【0028】
従来技術で導出される誘電緩和関数について、
図1乃至
図4を参照しながら説明する。
図1乃至
図4は、従来技術による誘電緩和関数の第1の例乃至第4の例を示す図である。誘電緩和関数の第1の例は、正しく導出された誘電緩和関数の一例である。誘電緩和関数の第2の例乃至第4の例は、正しく導出されなかった誘電緩和関数の一例である。
【0029】
本来、誘電緩和関数は、1から0へ減衰する形状となる。
図1に示した誘電緩和関数は、時間経過に伴い概ね逓減し0に収束する形状となっている。したがって、
図1に示した誘電緩和関数は正しく導出されている。
【0030】
一方、
図2乃至
図4に示した誘電緩和関数は、0近辺に減衰した後に上昇に転じたり(
図2参照)、1以上の値から0以下の値へ急落したり(
図3参照)、0以下の値まで減衰した後に上昇したり(
図4)する形状となっている。したがって、
図2乃至
図4に示した誘電緩和関数は正しく導出できていない。
【0031】
図5は、分子動力学計算により計算した双極子モーメントの時系列データを示す図であり、時間の刻み幅を1フェムト秒で、500ナノ秒の時間長の平衡化計算を実施した結果である。
図5には、シミュレーション空間におけるx軸方向、y軸方向及びz軸方向それぞれの双極子モーメントの時間変化を示している。
図5では、各軸方向の双極子モーメントが重なり合って示されている。x軸方向及びy軸方向の双極子モーメントは、実際には、z軸方向の双極子モーメントと同様に、0近辺を中心とした範囲に分布している。以降では、一例として、z軸方向の双極子モーメントについて説明するが、x軸方向及びy軸方向についても同様である。
【0032】
式(1)では、双極子モーメントの平均値が任意の時間領域において一定であることを前提としている。しかしながら、
図5に示した双極子モーメントの時系列データは、一点鎖線の矢印で示すように、時間軸に対して緩やかな減少傾向を示している。したがって、分子動力学計算により導出した双極子モーメントの時系列データは、式(1)の前提を満たしていない。
【0033】
ポリマーにおいては、様々な緩和モードが存在する。
図5に示した双極子モーメントは、2MHzから1THzの周波数範囲を対象として計算したものである。
図5に示した双極子モーメントの緩やかな揺らぎは、2MHz未満の緩和による影響であることが明らかである。
【0034】
双極子モーメントの計算系は、実材料と比較すると小規模であり、局所的な影響を受けやすい。そのため、構造緩和と共に双極子モーメントがシフトしており、その影響が低周波領域に現れていると考えられる。したがって、双極子モーメントの時系列データから低周波成分を除去すれば、
図5に示されているような緩やかな揺らぎを抑制することができる。
【0035】
本実施形態は、対象物質の誘電緩和関数を精度よく導出することを目的とする。精度の良い誘電緩和関数を導出することができれば、その誘電緩和関数を用いて計算した物性値の精度も向上する。
【0036】
<ハードウェア構成>
図6は、本実施形態におけるシミュレーション装置10のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図6に示されているように、シミュレーション装置10は、プロセッサ101、メモリ102、補助記憶装置103、操作装置104、表示装置105、通信装置106、ドライブ装置107を有する。シミュレーション装置10の各ハードウェアは、バス108を介して相互に接続されている。
【0037】
プロセッサ101は、CPU(Central Processing Unit)等の各種演算デバイスを有する。プロセッサ101は、補助記憶装置103にインストールされている各種プログラムをメモリ102上に読み出して実行する。
【0038】
メモリ102は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等の主記憶デバイスを有する。プロセッサ101とメモリ102とは、いわゆるコンピュータ(以下、「制御部」ともいう)を形成し、プロセッサ101が、メモリ102上に読み出した各種プログラムを実行することで、当該コンピュータは各種機能を実現する。
【0039】
補助記憶装置103(以下、「記憶部」ともいう)は、各種プログラムや、各種プログラムがプロセッサ101によって実行される際に用いられる各種データを格納する。
【0040】
操作装置104は、シミュレーション装置10のユーザが各種操作を行うための操作デバイスである。表示装置105は、シミュレーション装置10により実行される各種処理の処理結果を表示する表示デバイスである。
【0041】
通信装置106は、不図示のネットワークを介して外部装置と通信を行うための通信デバイスである。
【0042】
ドライブ装置107は、記憶媒体109をセットするためのデバイスである。ここでいう記憶媒体109には、CD-ROM、フレキシブルディスク、光磁気ディスク等のように情報を光学的、電気的あるいは磁気的に記憶する媒体が含まれる。また、記憶媒体109には、ROM、フラッシュメモリ等のように情報を電気的に記憶する半導体メモリ等が含まれていてもよい。
【0043】
なお、補助記憶装置103にインストールされる各種プログラムは、例えば、配布された記憶媒体109がドライブ装置107にセットされ、記憶媒体109に記憶された各種プログラムがドライブ装置107により読み出されることでインストールされる。あるいは、補助記憶装置103にインストールされる各種プログラムは、通信装置106を介してネットワークからダウンロードされることで、インストールされてもよい。
【0044】
<シミュレーション方法の流れ>
図7は、本実施形態におけるシミュレーション装置10が実行するシミュレーション方法の流れの一例を示すフローチャートである。
【0045】
ステップS1において、シミュレーション装置10の制御部は、計算条件の入力を受け付ける。本実施形態における計算条件は、対象物質を識別する識別情報及び誘電緩和関数の長さを示す情報が含まれる。
【0046】
識別情報は、物質を識別可能な情報であればどのようなものでもよい。物質を識別可能な情報の一例は、化合物名、構造式、SMILES(Simplified Molecular Input Line Entry System)情報等である。
【0047】
誘電緩和関数の長さは、誘電緩和関数の時間軸の長さである。本実施形態における誘電緩和関数の長さは、100ナノ秒とする。
【0048】
ステップS2において、シミュレーション装置10の制御部は、分子動力学計算により、所定の時間間隔で対象物質の双極子モーメントを計算する。これにより、双極子モーメントの時系列データが生成される。
【0049】
双極子モーメントを計算する時間長は、誘電緩和関数を導出するために十分な時間長であればよい。本実施形態では、双極子モーメントを計算する時間長は、500ナノ秒とする。
【0050】
ステップS3において、シミュレーション装置10の制御部は、ステップS1で受け付けた計算条件に基づいて、ハイパスフィルタを設計する。ハイパスフィルタのカットオフ周波数は、誘電緩和関数の長さの逆数とする。本実施形態では、誘電緩和関数の長さを100ナノ秒としたため、カットオフ周波数は10MHzとなる。
【0051】
ステップS4において、シミュレーション装置10の制御部は、ステップS3で設計したハイパスフィルタを用いて、双極子モーメントの時系列データから低周波成分を除去する。言い替えると、シミュレーション装置10の制御部は、双極子モーメントの時系列データからカットオフ周波数以上の周波数帯を抽出する。これにより、フィルタ後の双極子モーメントの時系列データが生成される。本実施形態では、フィルタ後の双極子モーメントの時系列データは、10MHz未満の成分が除去されている。
【0052】
図8は、フィルタ後の双極子モーメントの時系列データを示す図である。
図8に示した双極子モーメントの時系列データは、一点鎖線の矢印で示すように、0を中心に概ね均等となっていることがわかる。したがって、フィルタ後の双極子モーメントの時系列データでは、
図5に示したフィルタ前の双極子モーメントの時系列データに現れていた緩やかなゆらぎが抑制されている。なお、
図8には、z軸方向の双極子モーメントの時間変化のみを示したが、x軸方向及びy軸方向の双極子モーメントにおいても同様となる。
【0053】
図7に戻って説明する。ステップS5において、シミュレーション装置10の制御部は、フィルタ後の双極子モーメントの時系列データをM(t)とし、式(1)により誘電緩和関数Φ(t)を計算する。
【0054】
ステップS6において、シミュレーション装置10の制御部は、ステップS5で計算した誘電緩和関数Φ(t)を式(2)でフィッティングする。
【0055】
本実施形態で導出される誘電緩和関数について、
図9及び
図10を参照しながら説明する。
図9及び
図10は、本実施形態による誘電緩和関数の第1の例及び第2の例を示す図である。
【0056】
図9には、
図2に示した従来技術による誘電緩和関数(破線)と、同じ双極子モーメントの時系列データから導出された本実施形態による誘電緩和関数(実線)とが示されている。
図10には、
図3に示した従来技術による誘電緩和関数(破線)と、同じ双極子モーメントの時系列データから導出された本実施形態による誘電緩和関数(実線)とが示されている。
【0057】
図9及び
図10に示されているように、本実施形態による誘電緩和関数は、いずれも1から0へ減衰する形状となっている。したがって、従来技術では誘電緩和関数を正しく導出できなかった双極子モーメントの時系列データであっても、本実施形態によれば誘電緩和関数を正しく導出できていることがわかる。
【0058】
図7に戻って説明する。ステップS7において、シミュレーション装置10の制御部は、ステップS6でフィッティングした誘電緩和関数Φ
fit(t)に基づいて、所定の物性値を計算する。例えば、シミュレーション装置10の制御部は、誘電緩和関数Φ(t)をフーリエ変換することで、周波数依存の複素誘電率を計算する。また、例えば、シミュレーション装置10の制御部は、誘電緩和関数Φ(t)に基づいて、周波数依存の誘電正接、複素電気伝導率又は抵抗率等を求めてもよい。
【0059】
図11は、本実施形態による複素誘電率(実部)の一例を示す図である。
図12は、実施形態による誘電正接の一例を示す図である。
図11及び
図12に示されているように、本実施形態によれば、周波数依存の複素誘電率及び誘電正接を正しく計算することができる。
【0060】
図7に戻って説明する。ステップS8において、シミュレーション装置10の制御部は、ステップS6で計算した誘電緩和関数を出力する。シミュレーション装置10の制御部は、誘電緩和関数と共に又は誘電緩和関数に代えて、ステップS7で計算した周波数依存の複素誘電率、誘電正接、複素電気伝導率及び抵抗率の少なくとも1つを出力してもよい。
【0061】
<まとめ>
以上、本開示の各実施形態によれば、誘電緩和関数を精度よく導出することができる。例えば、分子動力学計算により生成した双極子モーメントの時系列データは、低周波成分に局所的な影響が現れ、全体として緩やかなゆらぎが生じることがある。本実施形態におけるシミュレーション装置は、対象物質の双極子モーメントの時系列データのうち、所定の周波数帯の時系列データに基づいて誘電緩和関数を出力する。したがって、本実施形態におけるシミュレーション装置によれば、誘電緩和関数を精度よく導出することができる。
【0062】
本実施形態におけるシミュレーション装置は、ハイパスフィルタを用いて所定の周波数帯の時系列データを抽出する。また、ハイパスフィルタのカットオフ周波数は、誘電緩和関数の長さに基づいて決定される。したがって、本実施形態におけるシミュレーション装置によれば、局所的な影響が現れる低周波成分を適切に除去することができる。
【0063】
本実施形態におけるシミュレーション装置は、誘電緩和関数に基づいて、周波数ごとの複素誘電率、誘電正接、複素電気伝導率及び抵抗率の少なくとも1つを出力する。本実施形態におけるシミュレーション装置によれば、誘電緩和関数を精度よく導出することができるため、その誘電緩和関数に基づいて、周波数ごとの複素誘電率、誘電正接、複素電気伝導率及び抵抗率を精度よく計算することができる。
【0064】
[補足]
上記で説明した実施形態の各機能は、一又は複数の処理回路によって実現することが可能である。ここで、本明細書における「処理回路」とは、電子回路により実装されるCPU(Central Processing Unit)又はGPU(Graphics Processing Unit)のようにソフトウェアによって各機能を実行するようプログラミングされたプロセッサや、上記で説明した各機能を実行するよう設計されたASIC(Application Specific Integrated Circuit)、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)や従来の回路モジュール等の機器を含むものとする。
【0065】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【符号の説明】
【0066】
10 シミュレーション装置
101 プロセッサ
102 メモリ
103 補助記憶装置
104 操作装置
105 表示装置
106 通信装置
107 ドライブ装置
108 バス
【要約】
【課題】物質の誘電緩和関数を精度よく導出する。
【解決手段】シミュレーション装置が制御部を有する。制御部は、対象物質の双極子モーメントの時系列データを計算し、所定の周波数帯の前記時系列データに基づく誘電緩和関数を出力する。
【選択図】
図7