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特許7500060マップ生成装置、マップ生成方法、マップ生成プログラム、学習済みモデルの生成方法および学習済みモデル生成装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】マップ生成装置、マップ生成方法、マップ生成プログラム、学習済みモデルの生成方法および学習済みモデル生成装置
(51)【国際特許分類】
   G06T 7/00 20170101AFI20240610BHJP
【FI】
G06T7/00 350C
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020131851
(22)【出願日】2020-08-03
(65)【公開番号】P2022028451
(43)【公開日】2022-02-16
【審査請求日】2023-06-01
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ウェブサイトのアドレス https://www.knt.co.jp/ec/2019/jssspn/pdf/kouen_youshi.pdf 掲載日 令和1年8月29日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 研究集会名 日本土壌肥料学会 2019年度 静岡大会 開催場所 国立大学法人静岡大学 農学部 開催日 令和1年9月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】清水 裕太
(72)【発明者】
【氏名】森岡 涼子
【審査官】藤原 敬利
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-020395(JP,A)
【文献】特開2008-250185(JP,A)
【文献】国際公開第2020/123402(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/075782(WO,A1)
【文献】特開2019-207674(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 7/00- 7/90
G06V 10/00-20/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の圃場の地理空間情報と、前記特定の圃場における過去の湿害の発生箇所を示す湿害情報と、のデータセットを用いた機械学習により生成された学習済みモデルを用いて、前記特定の圃場を示す対象画像から、前記特定の圃場における湿害の発生が予測される危険箇所を特定する特定部と、
前記対象画像に対して、前記特定部が特定した前記危険箇所を示す湿害予測情報を追加することにより、前記対象画像と前記湿害予測情報とが重畳的に表示された湿害予測マップを生成するマップ生成部と、を備えていることを特徴とする、マップ生成装置。
【請求項2】
前記特定部は、前記対象画像を2つ以上の画像に分割して、分割された各画像から、それぞれ前記危険箇所を特定することを特徴とする、請求項1に記載のマップ生成装置。
【請求項3】
前記地理空間情報は、複数の地理空間特性を含み、
前記特定部は、前記地理空間特性ごとに生成された前記学習済みモデルを用いて、それぞれ前記危険箇所を特定し、
前記マップ生成部は、前記特定部が前記学習済みモデルごとに特定した前記危険箇所を示す、複数の前記湿害予測情報を、各々を識別可能な表示態様により前記対象画像に追加することを特徴とする、請求項1または2に記載のマップ生成装置。
【請求項4】
前記地理空間情報には、前記地理空間特性として、少なくとも地下水流動系を示す情報と、地表面の凹凸を示す情報とが含まれることを特徴とする、請求項3に記載のマップ生成装置。
【請求項5】
前記学習済みモデルは、生成器と判別器とにより構成される敵対的生成ネットワークを、前記機械学習させることにより生成されたものであり、
前記学習済みモデルは、
前記地理空間情報としての前記対象画像を前記生成器に入力して、当該生成器に、前記危険箇所を示した特定画像を生成させ、前記対象画像および前記特定画像からなる生成ペアと、前記対象画像および前記湿害情報を示した正解画像からなる正解ペアとをそれぞれ前記判別器に入力して、前記判別器に、前記生成ペアが、前記生成器が生成した前記特定画像を含むペアか否かを判別させ、当該判別の正誤を前記生成器および前記判別器に入力して学習させた前記生成器であることを特徴とする、請求項1から4の何れか1項に記載のマップ生成装置。
【請求項6】
特定の圃場の地理空間情報と、前記特定の圃場における過去の湿害の発生箇所を示す湿害情報と、のデータセットを用いた機械学習により生成された学習済みモデルを用いて、前記特定の圃場を示す対象画像から、前記特定の圃場における湿害の発生が予測される危険箇所を特定する特定ステップと、
前記対象画像に対して、前記特定ステップが特定した前記危険箇所を示す湿害予測情報を追加することにより、前記対象画像と前記湿害予測情報とが重畳的に表示された湿害予測マップを生成するマップ生成ステップと、を含んでいることを特徴とする、マップ生成方法。
【請求項7】
請求項1に記載のマップ生成装置としてコンピュータを機能させるためのマップ生成プログラムであって、前記特定部および前記マップ生成部としてコンピュータを機能させるためのマップ生成プログラム。
【請求項8】
特定の圃場の地理空間情報と、前記特定の圃場における過去の湿害の発生箇所を示す湿害情報と、を取得するデータ取得ステップと、
前記地理空間情報と前記湿害情報とが含まれたデータセットを教師データとして学習モデルに入力し、当該学習モデルを機械学習させることにより学習済みモデルを生成するモデル生成ステップと、を含むことを特徴とする、学習済みモデルの生成方法。
【請求項9】
前記学習モデルは、生成器と判別器とにより構成される敵対的生成ネットワークであり、
前記モデル生成ステップは、
前記地理空間情報としての、前記特定の圃場を示す対象画像を前記生成器に入力して、当該生成器に、前記特定の圃場における湿害の発生が予測される危険箇所を示した特定画像を生成させる画像生成ステップと、
前記対象画像および前記特定画像からなる生成ペアと、前記対象画像および前記湿害情報を示した正解画像からなる正解ペアとをそれぞれ前記判別器に入力して、前記判別器に、前記生成ペアが、前記生成器が生成した前記特定画像を含むペアか否かを判別させる判別ステップと、
前記判別ステップによる判別の正誤を前記生成器および前記判別器に入力して、前記生成器および前記判別器を機械学習させる学習ステップと、を含むことを特徴とする、請求項8に記載の学習済みモデルの生成方法。
【請求項10】
特定の圃場の地理空間情報と、前記特定の圃場における過去の湿害の発生箇所を示す湿害情報と、を取得するデータ取得部と、
前記地理空間情報と前記湿害情報とが含まれたデータセットを教師データとして学習モデルに入力し、当該学習モデルを機械学習させることにより学習済みモデルを生成するモデル生成部と、を含むことを特徴とする、学習済みモデル生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿害の発生が予測される危険箇所を示すマップの生成装置、生成方法および生成プログラム、ならびに、当該危険箇所を特定するための学習済みモデルの生成方法および生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
野菜および穀物等の農作物を栽培する圃場では、土壌中に含まれる水分量が過多となり農作物が生育不良となる、湿害が問題となっている。そのため、湿害が発生する可能性がある圃場については、適切な排水対策を行うことが要求される。適切な排水対策を行うための前提として、まず、湿害が発生する可能性がある圃場の有無を調査する必要がある。
【0003】
湿害が発生する可能性の有無については、農作物の栽培期間中に、圃場の土壌中における水分状態および地下水位をモニタリングして判断する方法が用いられている。当該モニタリングでは、例えば、圃場への土壌水分センサの設置、および、観測用に掘削された井戸の中への水位センサの設置等、各種センサの設置を行った後に、これらのセンサが取得した値を経時的に記録して解析する。
【0004】
また近年は、圃場の衛星画像または無人航空機(UAV;Unmanned Aerial Vehicle)による圃場の撮影画像等を解析して、当該圃場にて湿害が発生したか否かを評価する方法が提案されている(非特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】丹波勝久ら、衛星リモートセンシングによる2009年の北海道十勝地域のテンサイ湿害実態把握、日本土壌肥料学会講演要旨集、56巻、16-1、2010
【文献】山本修平ら、UAVリモートセンシングに基づく農家圃場におけるダイズ湿害の評価-2017年仙台沿岸部における観測例-(速報)、日本作物学会紀事、88巻1号、p.48-49、2019
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した各種センサを用いて圃場の状態をモニタリングする方法では、圃場におけるセンサの設置箇所しか判断できない。圃場は通常、土壌の状態および地形等が不均一である場合が多いため、センサの設置個所によって判断結果が大きく異なってしまう可能性が高いという問題がある。したがって、圃場の複数個所に各種センサを設置することが好ましいが、この場合には各種センサの設置およびモニタリングに多大な労力を要する。また、圃場全体を網羅的に判断するためには多数のセンサが必要となるが、モニタリングに用いられるセンサ等の機器は一般的に高額であり、コストの観点から現実的ではない。
【0007】
一方で、非特許文献1および2に示されているような従来技術は、湿害が発生したか否かについて、主に葉色等の農作物の生育状態から評価するものである。すなわち、これらの従来技術は、圃場で湿害が発生する可能性の有無を判断するものではない。
【0008】
本発明の一態様は、簡易かつ低コストにより、圃場において湿害の発生が予測される箇所を特定可能なマップ生成装置等を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るマップ生成装置は、特定の圃場の地理空間情報と、前記特定の圃場における過去の湿害の発生箇所を示す湿害情報と、のデータセットを用いた機械学習により生成された学習済みモデルを用いて、前記特定の圃場を示す対象画像から、前記特定の圃場における湿害の発生が予測される危険箇所を特定する特定部と、前記対象画像に対して、前記特定部が特定した前記危険箇所を示す湿害予測情報を追加することにより、前記対象画像と前記湿害予測情報とが重畳的に表示された湿害予測マップを生成するマップ生成部と、を備えている。
【0010】
前記構成によれば、マップ生成装置は、地理空間情報と湿害情報との関係を学習した学習済みモデルから、対象画像における湿害の発生が予測される危険箇所を特定し、当該特定結果を、対象画像に重畳的に表示した湿害予測マップを出力できる。したがって、マップ生成装置は、簡易かつ低コストにより危険箇所を特定できる。また、マップ生成装置は、対象画像と湿害予測情報とを重畳的に表示することで、特定した危険箇所を視覚的に認識しやすい画像として生成できる。
【0011】
本発明の一態様に係るマップ生成装置は、前記特定部は、前記対象画像を2つ以上の画像に分割して、分割された各画像から、それぞれ前記危険箇所を特定してもよい。
【0012】
前記構成によれば、特定部は、対象画像を2つ以上の画像に分割して、湿害の発生が予測される危険箇所の特定を行う。そのため、特定部は、対象画像が広い範囲を含む大きな画像であっても、対象画像を適切な大きさの画像に分割して、分割された各画像について危険箇所の特定を行うことができる。したがって、マップ生成装置は、処理の負荷を低減して効率的に危険箇所を特定できる。
【0013】
また、特定部は、危険箇所の特定を行う画像の大きさを、分割数を変更することで調整できる。したがって、特定部は、対象画像の大きさまたは対象画像に含まれる圃場の大きさに合わせて、分割された画像の縮尺が、処理に最適な縮尺となるように調整した上で、危険箇所の特定を行うことができる。
【0014】
本発明の一態様に係るマップ生成装置は、前記地理空間情報は、複数の地理空間特性を含み、前記特定部は、前記地理空間特性ごとに生成された前記学習済みモデルを用いて、それぞれ前記危険箇所を特定し、前記マップ生成部は、前記特定部が前記学習済みモデルごとに特定した前記危険箇所を示す、複数の前記湿害予測情報を、各々を識別可能な表示態様により前記対象画像に追加してもよい。
【0015】
前記構成によれば、特定部は、複数の地理空間特性から生成された学習済みモデルのそれぞれに基づいて危険箇所を特定する。そして、マップ生成部は、地理空間特性ごとに特定された危険箇所を示す湿害予測情報を、それぞれ識別可能な表示態様により、対象画像に重畳的に追加した画像を生成できる。したがって、マップ生成装置は、危険箇所をその原因となる地理空間特性別にそれぞれ特定し、湿害の原因をそれぞれ視覚的に容易に識別可能な画像を生成できる。
【0016】
本発明の一態様に係るマップ生成装置は、前記地理空間情報には、前記地理空間特性として、少なくとも地下水流動系を示す情報と、地表面の凹凸を示す情報とが含まれていてもよい。
【0017】
前記構成によれば、地理空間情報には地下水流動系を示す情報と、地表面の凹凸を示す情報とが含まれる。したがって、マップ生成装置は、湿害の発生と密接に関連すると考えられる、地下水流動系の情報と、地表面の凹凸の情報とを用いることで、危険箇所をより高い精度で特定できる。
【0018】
本発明の一態様に係るマップ生成装置は、前記学習済みモデルは、生成器と判別器とにより構成される敵対的生成ネットワークを、前記機械学習させることにより生成されたものであり、前記学習済みモデルは、前記地理空間情報としての前記対象画像を前記生成器に入力して、当該生成器に、前記危険箇所を示した特定画像を生成させ、前記対象画像および前記特定画像からなる生成ペアと、前記対象画像および前記湿害情報を示した正解画像からなる正解ペアとをそれぞれ前記判別器に入力して、前記判別器に、前記生成ペアが、前記生成器が生成した前記特定画像を含むペアか否かを判別させ、当該判別の正誤を前記生成器および前記判別器に入力して学習させた前記生成器であってもよい。
【0019】
前記構成によれば、マップ生成装置は、危険箇所をより高い精度により特定可能な学習済みモデルを用いて、危険箇所の特定を行うことができる。
【0020】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るマップ生成方法は、特定の圃場の地理空間情報と、前記特定の圃場における過去の湿害の発生箇所を示す湿害情報と、のデータセットを用いた機械学習により生成された学習済みモデルを用いて、前記特定の圃場を示す対象画像から、前記特定の圃場における湿害の発生が予測される危険箇所を特定する特定ステップと、前記対象画像に対して、前記特定ステップが特定した前記危険箇所を示す湿害予測情報を追加することにより、前記対象画像と前記湿害予測情報とが重畳的に表示された湿害予測マップを生成するマップ生成ステップと、を含んでいる。
【0021】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る学習済みモデルの生成方法は、特定の圃場の地理空間情報と、前記特定の圃場における過去の湿害の発生箇所を示す湿害情報と、を取得するデータ取得ステップと、前記地理空間情報と前記湿害情報とが含まれたデータセットを教師データとして学習モデルに入力し、当該学習モデルを機械学習させることにより学習済みモデルを生成するモデル生成ステップと、を含む。
【0022】
本発明の一態様に係る学習済みモデルの生成方法は、前記学習モデルは、生成器と判別器とにより構成される敵対的生成ネットワークであり、前記モデル生成ステップは、前記地理空間情報としての、前記特定の圃場を示す対象画像を前記生成器に入力して、当該生成器に、前記特定の圃場における湿害の発生が予測される危険箇所を示した特定画像を生成させる画像生成ステップと、前記対象画像および前記特定画像からなる生成ペアと、前記対象画像および前記湿害情報を示した正解画像からなる正解ペアとをそれぞれ前記判別器に入力して、前記判別器に、前記生成ペアが、前記生成器が生成した前記特定画像を含むペアか否かを判別させる判別ステップと、前記判別ステップによる判別の正誤を前記生成器および前記判別器に入力して、前記生成器および前記判別器を機械学習させる学習ステップと、を含んでいてもよい。
【0023】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る学習済みモデル生成装置は、特定の圃場の地理空間情報と、前記特定の圃場における過去の湿害の発生箇所を示す湿害情報と、を取得するデータ取得部と、前記地理空間情報と前記湿害情報とが含まれたデータセットを教師データとして学習モデルに入力し、当該学習モデルを機械学習させることにより学習済みモデルを生成するモデル生成部と、を含む。
【0024】
本発明の各態様に係るマップ生成装置は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを前記マップ生成装置が備える各部(ソフトウェア要素)として動作させることにより前記マップ生成装置をコンピュータにて実現させるマップ生成装置のマップ生成プログラム、およびそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に含まれる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の一態様によれば、簡易かつ低コストにより、圃場において湿害の発生が予測される箇所を特定可能なマップ生成装置等を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】一実施形態に係る湿害予測装置の機能ブロックを示す図である。
図2】湿害予測装置が備える制御装置の処理の概要を示す図である。
図3】制御装置の処理の概要を示す別の図である。
図4】制御装置の処理の流れを示すフローチャートである。
図5】モデル生成部が、敵対的生成ネットワークを利用して行う処理の概要を示すブロック図である。
図6】モデル生成部による学習済みモデル生成処理の流れを示すフローチャートである。
図7】一実施形態の変形例に係る湿害予測システムの機能ブロックを示す図である。
図8】一実施形態の別の変形例に係る湿害予測システムの機能ブロックを示す図である。
図9】一実施形態の変形例に係る湿害予測マップの一例を示す図である。
図10】実施例1における、湿害予測マップの生成過程を示す図である。
図11】実施例2における、湿害予測マップの生成過程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の一実施形態について、図1から図6を参照して以下に説明する。
【0028】
〔湿害予測装置の構成〕
湿害予測装置100の構成について、図1を用いて説明する。湿害予測装置100は、圃場についての各種情報から機械学習により生成された学習済みモデルを用いて、当該圃場における湿害の発生が予測される危険箇所を特定する。「危険箇所」については、例えば図2中の「危険箇所R」、図3中の「危険箇所R1およびR2」、図9中の「危険箇所R3」を参照されたい。
【0029】
そして、湿害予測装置100は、特定した危険箇所を示した湿害予測マップを生成する。湿害予測マップは、本実施形態では、湿害予測装置100の利用者等が視認することにより、圃場における危険箇所の有無および分布を把握することができる画像である。図1に示すように、湿害予測装置100は、制御装置10と、入力部40と、出力部50と、記憶部60とを備えている。
【0030】
制御装置10は、湿害予測装置100の各部を統括して制御する。制御装置10には、モデル生成装置(学習済みモデル生成装置)20およびマップ生成装置30が含まれている。
【0031】
モデル生成装置20は、湿害予測装置100による危険箇所の特定に用いられる学習済みモデルを生成する。モデル生成装置20は、データ取得部21と、モデル生成部22とを含む。データ取得部21は、入力部40に入力された地理空間情報および湿害情報を取得する。地理空間情報および湿害情報の詳細については、後述する。また、データ取得部21は、入力部40に入力された、地理空間情報および湿害情報以外の各種情報も取得する。
【0032】
なお、データ取得部21は、マップ生成装置30に含まれていてもよい。この場合、データ取得部21は、モデル生成装置20のデータ取得部としての機能を併有する。
【0033】
モデル生成部22は、データ取得部21が取得した地理空間情報と湿害情報とのデータセットを教師データとして学習モデルに入力し、当該学習モデルを機械学習させることにより学習済みモデルを生成する。学習モデルおよびその機械学習の詳細については、後述する。
【0034】
マップ生成装置30は、特定部31と、マップ生成部32とを含む。特定部31は、モデル生成部22が生成した学習済みモデルを用いて、対象画像から危険箇所を特定する。対象画像とは、特定の圃場を示す画像であって、マップ生成装置30による危険箇所の特定に用いられる画像を示す。当該対象画像は、例えば、特定の圃場を示す衛星写真および無人航空機の撮影画像等が挙げられる。また、対象画像はこのような写真に限られず、特定の圃場を示す地図画像であってもよい。
【0035】
特定部31は、対象画像について、モデル生成装置20に含まれるデータ取得部21を介して取得してよい。また、マップ生成装置30が、データ取得部21とは別に、マップ生成装置30専用のデータ取得部を有していてもよい。
【0036】
マップ生成部32は、特定部31が特定した危険箇所を示す湿害予測情報を対象画像に対して追加して、湿害予測マップを生成する。ここで、マップ生成部32は、湿害予測マップにおいて対象画像と湿害予測情報とが重畳的に表示されるように、湿害予測情報を対象画像に対して追加する。
【0037】
湿害予測情報の対象画像への追加は、例えば、対象画像における危険箇所に対応する画像部分が、当該対象画像上で色付けまたは枠囲み等される態様であってよい。このような湿害予測情報を含む湿害予測マップであれば、危険箇所を視覚的に認識しやすい。また、対象画像に追加される湿害予測情報は、住所、地名または緯度・経度等の座標が、文字列および数字により表される情報であってもよい。このような湿害予測情報を含む湿害予測マップによれば、対象画像が多数の圃場を含む広い範囲を示す画像であった場合に、範囲の狭い危険箇所について、湿害予測マップの利用者が見逃してしまう可能性を低減できる。したがって、このような湿害予測マップの利用者は、例えば、範囲は狭くても湿害対策の必要性が高い危険箇所について、確実に認識できる。
【0038】
入力部40は、地理空間情報および湿害情報等のデータを、湿害予測装置100に入力された地理空間情報、湿害情報および各種情報を受け付ける。入力部40は、湿害予測装置100にこのようなデータの入力を受け付ける装置であれば、特に限定されない。入力部40は、例えば、外部機器から情報を入力する入力ポートであってもよく、カメラであってもよく、画像スキャナであってもよく、キーボードおよびマウスであってもよい。また、入力部40は、外部の通信機器(有線通信および無線通信のいずれでも可)から送信された各種情報を受信可能な通信装置であってもよい。
【0039】
出力部50は、制御装置10が生成した湿害予測マップを、湿害予測装置100の利用者等に対して出力する。また、出力部50は、湿害予測マップの他、制御装置10による処理結果および記憶部60に記憶された各種情報も出力する。出力部50は、例えば、液晶ディスプレイ等の、湿害予測マップを表示するための表示装置であってもよく、紙媒体により湿害予測マップを出力する、プリンタ等の印刷装置であってもよい。また、出力部50は、スマートフォン等の端末に湿害予測マップを送信可能な通信装置であってもよい。つまり、出力部50は、「表示」、「印刷」および「送信」の3つの出力態様の、少なくとも何れかに対応することができる。なお、出力部50は、入力部40としての機能を兼ね備えたタッチパネルとして構成してもよい。
【0040】
記憶部60は、湿害予測装置100に入力された情報および湿害予測装置100が生成した情報等を記憶するための記憶媒体である。記憶部60には、制御装置10の各種機能を実行するためのプログラムが記憶されていてよい。具体的には、記憶部60には、モデル生成部22が学習済みモデルを生成するための機械学習アルゴリズムを実行するためのプログラム、および、このような機械学習により生成された学習済みモデルが記憶されていてよい。
【0041】
〔制御装置の処理〕
(制御装置の処理の概要)
湿害予測装置100が備える制御装置10の処理について、その概要を図2および図3を用いて説明する。なお、本明細書では、制御装置10の処理について、機械学習アルゴリズムとして敵対的生成ネットワーク(GAN;Generative Adversarial Networks)を用いる例について主に説明している。ただし、後述するように、制御装置10の処理に用いられる機械学習アルゴリズムは、敵対的生成ネットワークに限定されるものではない。
【0042】
図2に示すように、湿害予測装置100が取得する情報には、特定の圃場を示す地理空間情報と、当該特定の圃場における湿害情報とが含まれる。地理空間情報とは、空間上の特定の地点または区域の位置を示す情報と、それに関連付けられた様々な事象に関する情報である。地理空間情報は、例えば、地理情報システム(GIS;Geographic Information System)において活用されている。図2では、地理空間情報として対象画像である衛星写真の情報が含まれている場合の処理の概要を示している。
【0043】
湿害情報は、前記特定の圃場における過去の湿害の発生箇所を示す。ここで、湿害情報は、当該特定の圃場の一部における、過去の湿害の発生箇所を示すものであってよい。また、地理空間情報に示される特定の圃場が、複数の圃場を含むものであった場合には、湿害情報は、これら複数の圃場の内の一部の圃場のみにおける、過去の湿害の発生箇所を示すものであってもよい。
【0044】
湿害予測装置100は、取得した衛星写真等を2つ以上の画像に分割する。そして、湿害予測装置100は、分割された画像のうち1つの画像を選択画像として選択する。なお、地理空間情報に衛星写真等の画像情報が含まれていない場合は、地理空間情報に含まれる位置情報等から、地理空間情報を、その範囲毎に2つ以上の情報群として分割してもよい。
【0045】
湿害予測装置100は、選択画像ごとに学習済みモデルの生成および危険箇所Rの特定を行う。このとき、湿害予測装置100は正解ペアを生成して機械学習に用いる。正解ペアは、選択画像と正解画像とからなるデータセットである。正解画像は、選択画像に対応する圃場中の特定領域における湿害発生箇所(湿害情報)Tを示した画像である。
【0046】
湿害予測装置100は、機械学習により学習済みモデルを生成し、当該学習済みモデルを用いて、全ての選択画像に対して危険箇所Rの特定を行う。湿害予測装置100は、各選択画像に危険箇所Rを示す湿害予測情報を重畳的に追加し、これらの選択画像を再結合して湿害予測マップを生成する。
【0047】
このように、機械学習により生成した学習済みモデルから、対象画像における危険箇所Rを特定する構成によれば、湿害予測装置100は、簡易かつ低コストにより危険箇所Rを特定できる。すなわち、湿害予測装置100の利用者は、センサ等を圃場に設置してモニタリングする労力および費用を要さずに、当該圃場の地理空間情報および湿害情報から、当該圃場における危険箇所Rを特定できる。また、湿害予測装置100は、対象画像と湿害予測情報とを重畳的に表示することで、特定した危険箇所Rを視覚的に認識しやすい画像として生成できる。
【0048】
また、対象画像を分割して処理する構成によれば、湿害予測装置100は、対象画像が広い範囲を含む大きな画像であっても、対象画像を適切な大きさの画像に分割できる。そして、湿害予測装置100は、分割された各画像について学習済みモデルの生成および危険箇所Rの特定を行うことができる。したがって、湿害予測装置100は、処理の負荷を低減して効率的に学習済みモデルの生成および危険箇所Rの特定を行うことができる。
【0049】
また、湿害予測装置100は、学習済みモデルの生成または危険箇所Rの特定を行う各画像の大きさを、分割数を変更することで調整できる。したがって、湿害予測装置100は、対象画像の大きさまたは対象画像に含まれる圃場の大きさに合わせて、分割された画像の縮尺が、処理に最適な縮尺となるように調整した上で、学習済みモデルの生成および危険箇所Rの特定を行うことができる。
【0050】
また、湿害予測装置100に入力される地理空間情報には、複数の地理空間特性が含まれていることが好ましい。このような地理空間特性としては、例えば、地下水流動系を示す情報および地表面の凹凸を示す情報が挙げられるが、これに限定されるものではない。なお、本明細書では、地表面の凹凸を示す情報について、「地形的湿性指標」と称する場合がある。地下水流動系および地形的湿性指標の情報は、圃場の排水性に関連しており、湿害に密接に関連する地理空間特性である。その他、湿害予測装置100に入力される地理空間情報には、湿害に関連するいかなる地理空間特性が含まれていてもよい。
【0051】
地理空間情報に複数の地理空間特性が含まれていれば、モデル生成装置20は、地理空間特性別に複数の学習済みモデルを生成できる。図3に示すように、地理空間情報に地下水流動系および地形的湿性指標の情報が含まれている場合、モデル生成部22は、これらの地理空間特性ごとに個別に独立して機械学習を行い、それぞれ学習済みモデルを生成する。そして、特定部31は、これらの地理空間特性ごとに生成された学習済みモデルを用いて、地下水が原因の危険箇所R1と、地表面の凹凸が原因の危険箇所R2とを特定する。
【0052】
したがって、特定部31は、湿害の発生と密接に関連すると考えられる、地下水流動系の情報と、地形的湿性指標の情報とを用いることで、これらの情報に対応する危険箇所R1および危険箇所R2を、それぞれ別々に特定できる。なお、以降の説明において、危険箇所R1および危険箇所R2等、特定部31により特定される全ての危険箇所をまとめて危険箇所Rと称する場合がある。
【0053】
また、マップ生成部32は、特定部31が学習済みモデルごとに特定した危険箇所R1、R2をそれぞれ示す複数の湿害予測情報について、各々を識別可能な表示態様により対象画像に追加できる。したがって、マップ生成部32は、湿害の原因をそれぞれ視覚的に容易に識別可能な湿害予測マップを生成できる。
【0054】
(制御装置の動作フロー)
制御装置10の処理の一例について、図4から図6を用いて具体的に説明する。制御装置10は、本発明の一実施形態に係る学習済みモデルの生成方法およびマップ生成方法を実行する。
【0055】
図4に示すように、まずモデル生成装置20に含まれるデータ取得部21は、入力部40を介して、特定の圃場を示す地理空間情報と湿害情報とのデータセットを取得する(S1、データ取得ステップ)。ここでは、地理空間情報に、対象画像である衛星写真、地下水流動系および地形的湿性指標の情報が含まれている例を示す。
【0056】
次に、モデル生成部22は、特定の圃場を示す地理空間情報に含まれる衛星写真を、2つ以上の画像に分割する(S2)。分割数は、衛星写真の大きさまたは衛星写真に含まれる圃場の大きさに応じて、適宜最適な数が選択されてよい。そしてモデル生成部22は、分割された画像の1つを選択画像として選択する(S3)。以降、S4からS7までの処理は、モデル生成部22がS3で選択した選択画像に対して行われる。
【0057】
次に、モデル生成部22は、地下水流動系の情報と、地形的湿性指標の情報とついて、個別に学習済みモデル生成処理を実行し、それぞれ学習済みモデルを生成する(S4、モデル生成ステップ)。学習済みモデル生成処理の詳細については、後述する。モデル生成部22が生成した学習済みモデルは、マップ生成装置30に直接入力されてもよいし、記憶部60に記憶されてもよい。
【0058】
次に、マップ生成装置30に含まれる特定部31は、モデル生成装置20から選択画像を取得する。そして、特定部31は、モデル生成部22が生成した学習済みモデルに選択画像を入力して、選択画像中における危険箇所Rを特定する(S5、特定ステップ)。このとき、特定部31は、モデル生成部22が生成した複数の学習済みモデルを用いて、地下水が原因の危険箇所R1と、地表面の凹凸が原因の危険箇所R2とを、それぞれ特定する。
【0059】
次に、マップ生成部32は、特定部31が特定した危険箇所R1および危険箇所R2の範囲を示す湿害予測情報を、それぞれ選択画像にプロットする(S6、S7)。このとき、マップ生成部32は、危険箇所R1と危険箇所R2とが視覚的に識別可能となるように、これらを示す湿害予測情報をそれぞれ選択画像にプロットする。
【0060】
そして、マップ生成部32は、モデル生成部22により分割された全ての画像について、S4からS7までの処理が行われたか否かを判定する(S8)。マップ生成部32は、分割された全ての画像について処理が行われていないと判定した場合(S8でno)、当該結果をモデル生成部22に入力する。この場合、モデル生成部22は、処理が行われていない画像を新たに選択画像として選択し、制御装置10は、当該選択画像に対してS4からS7までの処理を実行する。
【0061】
一方、マップ生成部32は、分割された全ての画像について処理が行われたと判定した場合(S8でyes)、S4からS7までの処理が行われた全ての画像を再結合して、湿害予測マップを生成する(マップ生成ステップ)。そして、マップ生成部32は、生成した湿害予測マップを出力部50に出力させる(S9)。
【0062】
なお、前記は制御装置10が、学習済みモデルの生成処理と、危険箇所Rの特定処理とを続けて行う場合を例示したが、制御装置10の処理はこれに限定されるものではない。例えば、学習済みモデルが既に生成済みである場合には、制御装置10は、S4の学習済みモデル生成処理を省略してもよい。この場合、衛星写真を分割してその1つを選択する処理(S2およびS3の処理)は、モデル生成部22ではなく特定部31が行ってもよい。
【0063】
(学習済みモデル生成処理)
図4のS4に示す学習済みモデル生成処理について、図5および図6を用いて具体的に説明する。本実施形態において、制御装置10は、学習済みモデルを生成するための機械学習および危険箇所Rの特定について、敵対的生成ネットワークを用いて行う。
【0064】
図5に示すように、敵対的生成ネットワークX1は、生成器X2と判別器X3とを含む。ここで、本発明の一実施形態における「学習モデル」とは、機械学習が行われる前、および機械学習継続中の敵対的生成ネットワークX1を示し、「学習済みモデル」とは、機械学習済みの生成器X2を示す。
【0065】
なお、モデル生成部22により学習済みモデルが生成された後に、より高い精度で危険箇所Rが特定できるように、さらに学習モデルの機械学習が行われてもよい。ここで、さらなる機械学習が行われる対象となる「学習モデル」は、機械学習済みの生成器X2(つまり学習済みモデル)と判別器X3とを含む敵対的生成ネットワークX1である。
【0066】
図5および図6に示すように、学習済みモデル生成処理では、モデル生成部22が生成器X2に選択画像を入力する(S41)。モデル生成部22は、生成器X2に、選択画像に危険箇所Rを示す湿害予測情報を追加した特定画像を生成させる(S42、画像生成ステップ)。
【0067】
次に、モデル生成部22は、生成器X2に入力した選択画像に対応する湿害情報を、データ取得部21が取得しているか否かを判定する(S43)。モデル生成部22は、当該湿害情報をデータ取得部21が取得していると判定した場合(S43でyes)、当該湿害情報を示す正解画像と、選択画像とからなるデータセットである正解ペアを生成し、当該正解ペアを判別器X3に入力する(S44)。これにより、判別器X3は、正解ペアの情報を学習する。
【0068】
一方、モデル生成部22は、前記湿害情報をデータ取得部21が取得していないと判定した場合には(S43でno)、S44をスキップする。そして、モデル生成部22は、選択画像および特定画像からなるデータセットである生成ペアを生成し、当該生成ペアを判別器X3に入力する(S45)。
【0069】
次に、モデル生成部22は、判別器X3に、入力された生成ペアが生成器X2により生成された特定画像を含むペアか、それとも正解画像を含むペアか、を判別させる(S46、判別ステップ)。モデル生成部22は、判別器X3による判別結果の正誤の情報を、生成器X2および判別器X3に入力する(S47、学習ステップ)。
【0070】
これにより、生成器X2は自らが生成した特定画像が、判別器X3を騙せるほどに正解画像に近かったか否かについてフィードバックを受ける。そして、生成器X2は、より正解画像に近い特定画像を生成できるようにパラメータを調整することで、機械学習を行う。また、判別器X3は、入力された画像のペアが生成器X2により生成された特定画像を含むか否かについてフィードバックを受ける。そして、判別器X3は、正解画像と特定画像とをより確実に判別できるようにパラメータを調整することで、機械学習を行う。
【0071】
モデル生成部22は、生成器X2および判別器X3の機械学習を、全ての選択画像に対して繰り返し行うことで、敵対的生成ネットワークX1の機械学習を行う。このようにして、モデル生成部22は、敵対的生成ネットワークX1の機械学習により、学習済みの生成器X2である学習済みモデルを生成する。
【0072】
なお、上述の例では、判別器X3は、選択画像が入力されるたびに、対応する湿害情報が存在するか否かを判定する処理を行っている。ただし、モデル生成装置20の処理はこれに限定されない。モデル生成装置20は、例えば、データ取得部21が取得した対象画像を分割した後に、対応する湿害情報が含まれる選択画像について、他の選択画像よりも先に学習済みモデル生成処理を行ってもよい。このような構成によれば、モデル生成部22は、判別器X3が正解ペアの情報を十分に蓄積した状態で、前記他の選択画像についてS42、S43、S45~S47の処理を行うことができる。したがって、モデル生成部22は、より効率的に敵対的生成ネットワークX1の機械学習を行うことができる。
【0073】
また、モデル生成装置20は、対応する湿害情報が含まれる選択画像のみ、または当該選択画像に加え他の選択画像の一部のみに対して、学習済みモデル生成処理を行ってもよい。このような構成によれば、モデル生成装置20は、処理の高速化および負荷の低減と、必要最小限の精度を有した学習済みモデルの生成とを両立できる。
【0074】
また、生成器X2は、正解画像にノイズを適用することで特定画像を生成してもよい。当該ノイズは、生成器X2がランダムに設定してもよく、予め湿害予測装置100の利用者が適切なノイズパラメータを設定していてもよい。このような構成によれば、モデル生成部22は、正解画像に類似した特定画像を無数に生成できる。したがって、モデル生成部22は、対応する湿害情報が存在する選択画像が少ない場合でも、危険箇所Rを特定する精度を落とすことなく学習済みモデルを生成することができる。
【0075】
また、判別器X3に入力されるのは、生成ペアおよび正解ペアのような、2つの画像のデータセットでなくてもよい。モデル生成部22は、判別器X3に特定画像または正解画像をそのまま入力し、判別器X3は、入力された画像が正解画像か否かを判別してもよい。
【0076】
〔変形例〕
本実施形態に係る湿害予測装置100には、複数の変形例が想定される。このような変形例について、図7から図9を参照して以下に例示して説明する。なお、説明の便宜上、本発明の一実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0077】
(湿害予測システム)
図7に示すように、本実施形態に係る湿害予測装置100の変形例として、湿害予測システム200が挙げられる。湿害予測システム200は、サーバ201と端末202とにより構成されている点において、湿害予測装置100と異なる。
【0078】
サーバ201は、湿害予測マップを生成するための実質的な処理を行う。サーバ201は、サーバ制御装置210と、サーバ記憶部260と、サーバ通信部270とを備えている。サーバ制御装置210は、サーバ201の各部を統括して制御する。サーバ制御装置210は、制御装置10と同様にモデル生成装置20とマップ生成装置30とを備えている。
【0079】
サーバ記憶部260は、サーバ201に入力された情報およびサーバ201が生成した情報等を記憶するための記憶媒体である。また、サーバ記憶部260には、サーバ制御装置210の各種機能を実行するためのプログラムが記憶されていてよい。
【0080】
サーバ通信部270は、端末202が備える端末通信部271とデータを送受信するための通信装置である。サーバ通信部270は、インターネット等のネットワークを介して端末通信部271と送受信を行ってもよく、端末通信部271と直接的に送受信を行ってもよい。
【0081】
端末202は、入力データのサーバ201への送信およびサーバ201から受信したデータの出力を行う。端末202は、入力部40と、出力部50と、端末制御装置211と、端末記憶部261と、端末通信部271と、を備えている。
【0082】
端末制御装置211は、端末202の各部を統括して制御する。端末記憶部261は、端末202に入力された情報および端末202が生成した情報等を記憶するための記憶媒体である。端末通信部271は、サーバ201が備えるサーバ通信部270とデータを送受信するための通信装置である。
【0083】
湿害予測システム200が備えるサーバ201は1つであってもよく、複数であってもよい。また、湿害予測システム200が備える端末202についても、1つであってもよく、複数であってもよい。
【0084】
このような湿害予測システム200によれば、モデル生成装置20およびマップ生成装置30が実行する負荷の高い処理は、高性能かつ高価なサーバ201に一括して行わせることができる。そして、湿害予測システム200の利用者は、各自の端末202からサーバ201にアクセスして、地理空間情報等をサーバ201に送信し、送信した情報に基づいてサーバ201が生成した湿害予測マップを受信して出力できる。したがって、湿害予測システム200の利用者は、安価かつ手軽に湿害予測システム200を利用できる。
【0085】
また、図8に示すように、本実施形態に係る湿害予測装置100の別の変形例として、湿害予測システム300が挙げられる。湿害予測システム300は、サーバ301と、端末302とにより構成されている。湿害予測システム300は、サーバ301がモデル生成装置320を備えており、端末302がマップ生成装置330を備えている点において、湿害予測システム200と異なる。
【0086】
サーバ301は、サーバ記憶部260と、サーバ通信部270と、モデル生成装置320とを備えている。モデル生成装置320は、上述したモデル生成装置20と同様の機能に加えて、サーバ301の各部を統括して制御する制御装置としても機能する。モデル生成装置320は、サーバデータ取得部321とモデル生成部322とを含む。
【0087】
サーバデータ取得部321は、データ取得部21と同様に機能する。ただし、湿害予測システム300は、データ取得部として、サーバデータ取得部321に加えて、マップ生成装置330にも端末データ取得部333を有している。
【0088】
モデル生成部322は、モデル生成部22と同様に学習済みモデルの生成を行う。ただし、モデル生成部322は、モデル生成部22と異なり、生成した学習済みモデルについてサーバ通信部270を介して端末302に送信する。これは、端末302が備えるマップ生成装置330が処理を行うために、端末302が学習済みモデルを受信する必要があるためである。端末302は、受信した学習済みモデルをマップ生成装置330に直接入力してもよいし、端末記憶部261に記憶させてもよい。
【0089】
端末302は、入力部40と、出力部50と、端末記憶部261と、端末通信部271と、マップ生成装置330とを備えている。マップ生成装置330は、上述したマップ生成装置30と同様の機能に加えて、端末302の各部を統括して制御する制御装置としても機能する。
【0090】
また、マップ生成装置330は、端末データ取得部333を備えている。端末データ取得部333は、入力部40から入力された地理空間情報から、少なくとも対象画像を取得する。特定部331は、端末データ取得部333から対象画像を取得する以外は、上述した特定部31と同様の処理を行う。
【0091】
湿害予測システム300が備えるサーバ301は1つであってもよく、複数であってもよい。また、湿害予測システム300が備える端末302についても、1つであってもよく、複数であってもよい。
【0092】
本発明の一実施形態は、湿害予測システム300のように、モデル生成装置320とマップ生成装置330とが、別々に構成されていてもよい。このような構成によれば、例えば、負荷が高い学習済みモデルの作成処理は、高性能かつ高価なサーバ301によって行い、比較的負荷の低い危険箇所Rの特定処理は、湿害予測システム300の利用者が使用する端末302によって行ってもよい。これにより、例えば、湿害予測システム300の利用が特定の時間に集中する等の場合であっても、サーバ301の負荷の上昇を効果的に低減できる。
【0093】
(対策マップ)
また、湿害予測装置100は、生成する湿害予測マップに、複数の地理空間特性ごとの危険箇所R1、R2を示す湿害予測情報を、各々を識別可能な表示態様により追加する。ここで、湿害予測装置100は、湿害の原因となる地理空間特性に応じて、それぞれ適切な対策方法についての情報を、湿害予測情報に含めてもよい。
【0094】
湿害に対しては、原因となる地理空間特性ごとにそれぞれ異なる、適切な種類の対策を施すことが好ましい。例えば、地下水が原因の湿害に対しては、排水路の形成またはうね立て等の対策が好ましい一方で、地表面の凹凸が原因の湿害に対しては、傾斜の均平化を行うことが好ましい。逆に、地下水が原因の湿害に対して傾斜の均平化を行っても、効果はほとんど望めない。このように、湿害の原因によって適切な種類の対策を行うことが、湿害の防止には非常に重要である。
【0095】
ここで、図9には、湿害予測マップに含まれる圃場ごと、または圃場の区画ごとに、それぞれ異なる地理空間特性に起因する3種類の危険箇所R1、R2、R3が存在する例を示している。この例では、危険箇所R1には対策1、危険箇所R2には対策1および対策2、危険箇所R3には対策3、というように、各危険箇所にそれぞれ異なる種類の対策を施すことが好ましい。このような場合に、図9に示すように、湿害予測装置100は、危険箇所R1、R2、R3のそれぞれに対応する対策の種類の情報を、湿害予測情報に追加してもよい。
【0096】
このような構成によれば、湿害予測マップを見た湿害予測装置100の利用者は、危険箇所ごとに適切な対策を、視覚的に容易に認識できる。
【0097】
(機械学習アルゴリズム)
本発明の一実施形態において、モデル生成部22が学習済みモデルを生成するための機械学習アルゴリズムとして、敵対的生成ネットワークX1を用いる例について説明した。ただし、モデル生成部22による学習済みモデルの生成は、その他の機械学習アルゴリズムを用いて行われてもよい。この場合、特定部31が用いる学習済みモデルは、モデル生成部22が用いた機械学習アルゴリズムに対応した学習済みモデルとなる。
【0098】
例えば、モデル生成部22による学習済みモデルの生成には、以下のような機械学習的手法の何れかまたはそれらの組み合わせを用いることができる。ただし、これらの具体的な手法は、本発明の構成を限定するものではない。
【0099】
・クラスタリング(Clustering)
・主成分分析(PCA;Principal Component Analysis)
・ニューラルネットワーク(NN;Neural Network)
・ベイジアンネットワーク(BN;Bayesian Network)
・ランダムフォレスト(Random Forests)
・サポートベクタマシン(SVM;Support Vector Machine)
・遺伝的アルゴリズム(GP;Genetic Programming)
これらの中では、敵対的生成ネットワークX1と同様に、少ない教師データから精度よく機械学習が可能な、いわゆる教師なし学習アルゴリズムであるクラスタリングまたは主成分分析を用いることが好ましい。また、湿害情報が豊富に準備できる場合には、モデル生成部22は、教師なし学習アルゴリズム以外の機械学習アルゴリズムを用いてもよい。例えば、地理空間情報と湿害情報とからなるデータセットを教師データとし、多項ロジスティック回帰分析等の公知の機械学習アルゴリズムを用いて学習済みモデルを生成してもよい。
【0100】
また、機械学習に敵対的生成ネットワークX1を用いる場合に、生成器X2および判別器X3の個別の機械学習については、ニューラルネットワークが用いられてもよく、その他の機械学習アルゴリズムが用いられてもよい。ニューラルネットワークが用いられる場合、例えば、畳み込みニューラルネットワーク(CNN;Convolutional Neural Network)または再帰型ニューラルネットワーク(RNN;Recurrent Neural Network)が用いられてもよい。
【0101】
〔ソフトウェアによる実現例〕
マップ生成装置30の制御ブロック(特に特定部31およびマップ生成部32)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0102】
後者の場合、マップ生成装置30は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラム(マップ生成プログラム)の命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば1つ以上のプロセッサを備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などをさらに備えていてもよい。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【実施例
【0103】
本発明の一実施例について、図10および図11を参照して以下に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0104】
実施例1として、傾斜がある土地に形成された棚田群を特定の圃場として、湿害予測装置100による湿害予測マップの生成を試行した。また、実施例2として、比較的平坦な土地に形成された水田を特定の圃場として、湿害予測装置100による湿害予測マップの生成を試行した。いずれの実施例においても、衛星写真、地下水流動系の情報および地形的湿性指標の情報を含む地理空間情報を、湿害予測装置100に入力した。また、これらの圃場の一部における、過去の湿害発生箇所Tを示す湿害情報を、地理空間情報と併せて湿害予測装置100に入力した。
【0105】
図10および図11に示すように、湿害予測装置100は、地下水流動系の情報と、地形的湿性指標の情報とのそれぞれについて学習済みモデルを生成して、それぞれ危険箇所R1、R2を特定した。なお、図10および図11では、衛星写真等を模式的に図面化して示しているが、実際の湿害予測装置100の処理は、衛星写真データそのものを用いて行った。また、図10および図11における地形的湿性指標を示す画像では、地表面の凹凸を灰色の濃淡により表している。濃淡が白に近いほど地表面が凸状となっていることを示し、灰色に近いほど地表面が凹状となっていることを示す。ただし、当該画像に重畳的に表示された湿害予測箇所Tの表示態様は、地表面の凹凸を示すものではない。
【0106】
〔実施例1の結果〕
図10に、実施例1について、湿害予測装置100が危険箇所を特定する過程および湿害予測装置100が生成した湿害予測マップを示している。当該湿害予測マップから、湿害予測装置100による危険箇所Rの特定精度について検討した。
【0107】
湿害予測装置100が、湿害発生箇所Tを正しく危険箇所Rと特定できた「真陽性」の面積は728mであり、湿害発生箇所Tではない箇所を誤って危険箇所Rと特定した「偽陽性」の面積は730mだった。また、湿害予測装置100が、湿害発生箇所Tについて誤って危険箇所Rではないと特定した「偽陰性」の面積は434mであり、湿害発生箇所Tではない箇所について正しく危険箇所Rでもないと特定した「真陰性」の面積は4807mだった。
【0108】
これらの値から、湿害予測装置100による危険箇所Rの特定精度について、正解率(Accuracy)、適合率(Precision)および再現率(Recall)の指標を算出して評価した。正解率は、湿害予測装置100が危険箇所Rである、または危険箇所Rではないと特定した箇所のうち、実際に正解だった箇所の割合を示し、下記(1)式により計算できる。適合率は、湿害予測装置100が危険箇所Rと特定した箇所のうち、実際に湿害発生箇所Tであった箇所の割合を示し、下記(2)式により計算できる。再現率は、実際に湿害発生箇所Tであった箇所のうち、湿害予測装置100が危険箇所Rと特定した箇所の割合を示し、下記(3)式により計算できる。
【0109】
正解率(%)=(真陽性+真陰性)/(真陽性+偽陽性+偽陰性+真陰性)…(1)
適合率(%)=真陽性/(真陽性+偽陽性)…(2)
再現率(%)=真陽性/(真陽性+偽陰性)…(3)
実施例1では、正解率は83%、適合率は50%、再現率は63%であった。
【0110】
〔実施例2の結果〕
図11に、実施例2について、湿害予測装置100が危険箇所を特定する過程および湿害予測装置100が生成した湿害予測マップを示している。実施例2では、湿害予測装置100が特定した危険箇所Rについて、「真陽性」の面積は501m、「偽陽性」の面積は927m、「偽陰性」の面積は199m、「真陰性」の面積は1904mであった。
【0111】
これらの値から、実施例2では、正解率は68%、適合率は35%、再現率は72%であった。
【0112】
〔考察〕
湿害予測装置100は、実際に湿害が起こり得る箇所を正確に危険箇所Rとして特定することが最も求められる。この観点から、上記の指標のうち、再現率が特に重要な指標であるといえる。この点、実施例1、実施例2ともに、従来のセンサ等を用いた方法と同等以上の良好な再現率を示していることから、湿害予測装置100は、実用に耐えうる精度により、危険箇所Rを特定できることが示された。
【0113】
本発明は上述した各実施形態および各実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。異なる実施形態および実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0114】
20 モデル生成装置(学習済みモデル生成装置)
21 データ取得部
22 モデル生成部
30 マップ生成装置
31 特定部
32 マップ生成部
100 湿害予測装置
T 湿害発生箇所(過去の湿害の発生箇所)
R、R1、R2、R3 危険箇所
X1 敵対的生成ネットワーク
X2 生成器
X3 判別器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11