(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】光発振器
(51)【国際特許分類】
H01S 3/08 20230101AFI20240610BHJP
H01S 3/113 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
H01S3/08
H01S3/113
(21)【出願番号】P 2020546238
(86)(22)【出願日】2019-09-13
(86)【国際出願番号】 JP2019036231
(87)【国際公開番号】W WO2020054869
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2022-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2018173008
(32)【優先日】2018-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)「マイクロチップレーザーの開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504261077
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人自然科学研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100176658
【氏名又は名称】和田 謙一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100223424
【氏名又は名称】和田 雄二
(74)【代理人】
【識別番号】100165526
【氏名又は名称】阿部 寛
(72)【発明者】
【氏名】平等 拓範
(72)【発明者】
【氏名】林 桓弘
【審査官】百瀬 正之
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-192166(JP,A)
【文献】特開2008-112948(JP,A)
【文献】特開平08-056027(JP,A)
【文献】特開平11-261136(JP,A)
【文献】特開平09-214023(JP,A)
【文献】特開平02-002188(JP,A)
【文献】特開2013-093603(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0280392(US,A1)
【文献】特開2017-123429(JP,A)
【文献】特開昭63-265479(JP,A)
【文献】特開2017-220652(JP,A)
【文献】特開2018-082210(JP,A)
【文献】特開2015-084390(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0326667(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00-3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1波長の光を透過するとともに、前記第1波長とは異なる第2波長の光を反射する第1反射部と、
前記第1反射部とともに不安定共振器を形成しており、一方向において、前記第1反射部と離間して配置されており前記第2波長の光を反射する第2反射部と、
前記第1反射部と前記第2反射部との間に配置されており、前記第1波長の光の入射により前記第2波長の光を放出するレーザー媒質と、
前記一方向において前記レーザー媒質からみて前記第1反射部と反対側に配置されており、光の吸収に伴って透過率が増加する可飽和吸収部と、
を備え、
前記第1反射部は、前記レーザー媒質と反対側に前記第1波長の光が入射される入射面を有し、
前記一方向からみて、前記第2反射部の大きさは前記第1反射部の大きさより小さく、
前記可飽和吸収部の前記レーザー媒質と反対側の面の少なくとも一部は、前記レーザー媒質側に向けて湾曲した湾曲領域を有し、
前記第2反射部は、前記湾曲領域の表面に設けられた誘電体多層膜である、
光発振器。
【請求項2】
第1波長の光を透過するとともに、前記第1波長とは異なる第2波長の光を反射する第1反射部と、
前記第1反射部とともに不安定共振器を形成しており、一方向において、前記第1反射部と離間して配置されており前記第2波長の光を反射する第2反射部と、
前記第1反射部と前記第2反射部との間に配置されており、前記第1波長の光の入射により前記第2波長の光を放出するレーザー媒質と、
前記一方向において前記レーザー媒質からみて前記第1反射部と反対側に配置されており、光の吸収に伴って透過率が増加する可飽和吸収部と、
前記第2反射部を支持するとともに、前記第2波長の光を透過する支持体と、
を備え、
前記第1反射部は、前記レーザー媒質と反対側に前記第1波長の光が入射される入射面を有し、
前記一方向からみて、前記第2反射部の大きさは前記第1反射部の大きさより小さく、
前記支持体の前記可飽和吸収部側の面の少なくとも一部は、前記可飽和吸収部側に湾曲した湾曲領域であり、
前記第2反射部は、前記湾曲領域の表面に設けられた誘電体多層膜である、
光発振器。
【請求項3】
前記支持体は、平凸レンズである、
請求項2に記載の光発振器。
【請求項4】
前記一方向からみて、前記可飽和吸収部の大きさは前記レーザー媒質の大きさよりも小さい、
請求項1~3の何れか一項に記載の光発振器。
【請求項5】
前記一方向からみて、前記可飽和吸収部の周囲に、第1波長の光の入射により第2波長の光を放出するレーザー媒質が設けられている、
請求項4に記載の光発振器。
【請求項6】
前記第1反射部は、平面鏡である、
請求項1~5の何れか一項に記載の光発振器。
【請求項7】
前記第1反射部は、湾曲している、
請求項1~5の何れか一項に記載の光発振器。
【請求項8】
前記第1反射部は、前記レーザー媒質と反対側に湾曲している、
請求項7に記載の光発振器。
【請求項9】
前記第1反射部のうち前記一方向からみて前記第2反射部と重なる領域の少なくとも一部に、第2波長を有するレーザー光を通すための開口が形成されている、
請求項1~8の何れか一項に記載の光発振器。
【請求項10】
前記レーザー媒質は、セラミック製または単結晶であり、
前記可飽和吸収部は、セラミック製または単結晶の可飽和吸収体を含み、
前記レーザー媒質及び前記可飽和吸収部は、
表面活性化接合されており、
前記第1反射部は、前記レーザー媒質に設けられている、
請求項1~9の何れか一項に記載の光発振器。
【請求項11】
前記レーザー媒質及び前記可飽和吸収部の接合体における前記レーザー媒質及び前記可飽和吸収部の接合方向の長さは10mmより小さい、
請求項10に記載の光発振器。
【請求項12】
前記レーザー媒質及び前記可飽和吸収部は、
表面活性化接合されており、
前記レーザー媒質及び前記可飽和吸収部の接合体における前記レーザー媒質及び前記可飽和吸収部の接合方向の長さは10mmより小さい、または前記第1反射部と前記第2反射部との間の距離より小さい、
請求項1~9の何れか一項に記載の光発振器。
【請求項13】
前記第2反射部の曲率半径は、10mm~100mmである、
請求項1~12の何れか一項に記載の光発振器。
【請求項14】
前記第2反射部の直径は1mm~3mmである、
請求項1~13の何れか一項に記載の光発振器。
【請求項15】
前記第2反射部からみて前記第1反射部と反対側に配置されており、前記不安定共振器から出力される光を平行化するレンズを備え、
前記レンズの焦点距離は、30mm~200mmである、
請求項1~14の何れか一項に記載の光発振器。
【請求項16】
前記第1反射部と前記第2反射部との間の距離は15mmより小さい、
請求項1~15の何れか一項に記載の光発振器。
【請求項17】
前記第1波長の励起光を出力するレーザダイオードを有しており前記励起光を前記第1反射部に入射する励起光供給部を更に備える、
請求項1~16の何れか一項に記載の光発振器。
【請求項18】
前記励起光供給部は、前記レーザダイオードからの前記励起光を伝播する光ファイバと、前記光ファイバから出力された前記励起光を前記第1反射部に入射するための入射光学系とを有する、
請求項17に記載の光発振器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザー点火、レーザー加工などでは、高出力のレーザー光が求められている。高出力のレーザー光を生成する光発振器として、非特許文献1~3に記載の技術がある。非特許文献1~3に記載の光発振器は、共振器を構成する一対の平面鏡と、一対の平面鏡の間に配置されたセラミック製のレーザー媒質及びセラミック製のQスイッチ素子とを有する、受動Qスイッチ型のマイクロチップレーザーである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】平等拓範、「マイクロドメイン制御によるハイパワーレーザー材料」、応用物理、2016年、第85巻、第10号、p.863-869
【文献】Masaki Tsunekann, et. al.,“High Peak Power, Passively Q-switched Microlaser for IgnitionEngins,”IEEE JOURNAL OF QUANTUM ELCTRONICS, 2010年2月, VOL. 46, NO.2, p. 277-284
【文献】Masaki Tsunekann, et. al.,“High Peak Power, Passively Q-switched Yb:YAG/Cr:YAG Micro-Lasers,”IEEEJOURNAL OF QUANTUM ELCTRONICS, 2013年5月, VOL. 49, NO.5, p. 454-461
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
Qスイッチレーザーの出力は、レーザーモードの面積に比例する。しかしながら、非特許文献1~3に記載の光発振器のように、共振器に平面鏡を用いている場合、励起に伴う発熱による熱レンズ効果のため、自動的にレーザーモード半径は小さくなる。一方、出力を上げるためには、非特許文献1にも記載されているように、励起面積を拡げることも考えられるが、基本モードは大きくできないため励起面積を拡げると高次モードの発振が始まりビーム品質(M2)が急激に劣化する。ここでは、光発振器がQスイッチレーザーである場合を説明したが、光パラメトリック発振器(OPO: optical parametric oscillator)といった非線形光学利得による光発振器においても同様である。
【0005】
そこで、本発明は、ビーム品質の劣化を抑制しながら高出力化を実現可能な光発振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係る光発振器(以下、「第1光発振器」と称す)は、第1波長の光を透過するとともに、上記第1波長とは異なる第2波長の光を反射する第1反射部と、上記第1反射部とともに不安定共振器を形成しており、一方向において、上記第1反射部と離間して配置されており上記第2波長の光を反射する第2反射部と、上記第1反射部と上記第2反射部との間に配置されており、上記第1波長の光の入射により上記第2波長の光を放出するレーザー媒質と、上記一方向において上記レーザー媒質からみて上記第1反射部と反対側に配置されており、光の吸収に伴って透過率が増加する可飽和吸収部と、を備え、上記第1反射部は、上記レーザー媒質と反対側に上記第1波長の光が入射される入射面を有し、上記一方向からみて、上記第2反射部の大きさは上記第1反射部の大きさより小さく、上記可飽和吸収部の上記レーザー媒質と反対側の面の少なくとも一部は、上記レーザー媒質側に向けて湾曲した湾曲領域を有し、上記第2反射部は、上記湾曲領域の表面に設けられた誘電体多層膜である。
【0007】
本発明は、第1波長の光を透過するとともに、上記第1波長とは異なる第2波長の光を反射する第1反射部と、上記第1反射部とともに不安定共振器を形成しており、一方向において、上記第1反射部と離間して配置されており上記第2波長の光を反射する第2反射部と、上記第1反射部と上記第2反射部との間に配置されており、上記第1波長の光の入射により上記第2波長の光を放出するレーザー媒質と、上記一方向において上記レーザー媒質からみて上記第1反射部と反対側に配置されており、光の吸収に伴って透過率が増加する可飽和吸収部と、上記第2反射部を支持するとともに、上記第2波長の光を透過する支持体と、を備え、上記第1反射部は、上記レーザー媒質と反対側に上記第1波長の光が入射される入射面を有し、上記一方向からみて、上記第2反射部の大きさは上記第1反射部の大きさより小さく、上記支持体の上記可飽和吸収部側の面の少なくとも一部は、上記可飽和吸収部側に湾曲した湾曲領域であり、上記第2反射部は、上記湾曲領域の表面に設けられた誘電体多層膜である、光発振器(以下、「第2光発振器」とも称す)にも係る。
【0008】
上記第1光発振器及び第2光発振器では、第1反射部から励起光が入射される端面励起型の光発振器である。第1光発振器及び第2光発振器は、可飽和吸収部を備えていることから、パルス光を出力可能である。第1反射部及び第2反射部は不安定共振器を形成しており、第2反射部は、上記一方向からみて第1反射部より小さく、第1反射部側に湾曲している。第2反射部が、第1反射部側に湾曲していることから、第2反射部で反射された第2波長の光は発散する。そのため、第1反射部及び第2反射部がともに平面鏡である場合に比べて、レーザー媒質のより広い領域を第2波長の光が通過する。その結果、レーザー媒質から多くの誘導放出が生じ易いので、同じ励起面積であれば、第1反射部及び第2反射部がともに平面鏡である場合に比べて、高い出力のパルス光を得ることが可能である。この場合、ビーム品質(M2)の劣化を抑制しながら、パルス光の出力向上を図れる。
【0009】
上記第2光発振器の一実施形態において、支持体の例は平凸レンズである。この場合、例えば、平凸レンズである支持体を利用して、パルス光を平行化可能或いは集光可能である。
【0010】
上記一方向からみて、上記可飽和吸収部の大きさは上記レーザー媒質の大きさよりも小さくてもよい。
【0011】
上記一方向からみて、上記可飽和吸収部の周囲に、第1波長の光の入射により第2波長の光を放出するレーザー媒質が設けられていてもよい。この場合、可飽和吸収部の周囲に設けられたレーザー媒質によって、パルス光が更に増幅され得る。その結果、パルス光の高出力化が更に図れる。
【0012】
上記第1反射部は、平面鏡であってもよい。この場合、第1反射部を形成し易い。例えば、第1反射部が、レーザー媒質の端面に設けられている場合、レーザー媒質の端面も平面でよいため、レーザー媒質の加工も容易である。
【0013】
上記第1反射部は、上記レーザー媒質と反対側に湾曲していてもよい。この場合、第2反射部で反射され第1反射部側に伝搬してきた第2波長の光が、第1反射部で反射する際に発散が抑制される。そのため、第1反射部と第2反射部との間における第2波長の光の閉じ込め効果を向上できる。
【0014】
上記第1反射部のうち上記一方向からみて上記第2反射部と重なる領域の少なくとも一部に、上記第2波長を有するレーザー光を通すための開口が形成されていてもよい。この場合、上記開口を利用して、注入同期用の第2波長を有するレーザー光をレーザー媒質に入射できる。その結果、第1光発振器及び第2光発振器のジッターを制御可能である。
【0015】
上記レーザー媒質は、セラミック製であり、上記可飽和吸収部は、セラミック製の可飽和吸収体を含み、上記レーザー媒質及び上記可飽和吸収部は、接合されており、上記第1反射部は、上記レーザー媒質に設けられていてもよい。ただし、何れもセラミックスには限定しない。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ビーム品質の劣化を抑制しながら高出力を実現可能な光発振器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係るレーザー装置(光発振器)の概略構成を示す図面である。
【
図2】
図2は、
図1に示したレーザー装置から出力されるパルスレーザー光の一例を示す模式図である。
【
図3】
図3は、
図1に示したレーザー装置の第1変形例の概略構成を示す図面である。
【
図4】
図4は、
図1に示したレーザー装置の第2変形例の概略構成を示す図面である。
【
図5】
図5は、
図1に示したレーザー装置の第3変形例の概略構成を示す図面である。
【
図6】
図6は、
図1に示したレーザー装置の第4変形例の概略構成を示す図面である。
【
図7】
図7は、第2実施形態に係るレーザー装置の概略構成を示す図面である。
【
図8】
図8は、実験例1に係るレーザー装置の概略構成を示す図面である。
【
図9】
図9は、実験例1で得られたパルスレーザー光の画像を示す図面である。
【
図10】
図10は、実験例1で使用したレーザー装置からのパルスレーザー光のパルス幅の測定結果を示す図面である。
【
図11】
図11は、実験例1で使用したレーザー装置からのパルスレーザー光のビーム品質を確認するための実験結果を示す図面である。
【
図12】
図12は、実験例1で使用したレーザー装置からのパルスレーザー光の偏光状態を確認するための実験結果を示す図面である。
【
図13】
図13は、実験例1で使用したレーザー装置からのパルスレーザー光の出力安定性を確認するための実験結果を示す図面である。
【
図15】
図15は、励起光の他の例を示すための模式図である。
【
図16】
図16は、実験例2に係るレーザー装置の概略構成を示す図面である。
【
図17】
図17は、実施例2で得られたパルスレーザー光の画像を示す図面である。
【
図18】
図18は、実験例2で使用したレーザー装置からのパルスレーザー光のパルス幅の測定結果を示す図面である。
【
図19】
図19は、実験例2で使用したレーザー装置からのパルスレーザー光のビーム品質を確認するための実験結果を示す図面である。
【
図20】
図20は、実験例2で使用したレーザー装置からのパルスレーザー光の偏光状態を確認するための実験結果を示す図面である。
【
図21】
図21は、実験例2で使用したレーザー装置からのパルスレーザー光の出力安定性を確認するための実験結果を示す図面である。
【
図22】
図22は、励起光のサイズが異なる場合に対する
図16に示したレーザー装置及び比較用レーザー装置から出力されるパルスレーザー光のビームパターンの測定結果を示す図面である。
【
図23】
図23は、
図22に示した各ビームパターンを有するパルスレーザー光のパルス幅の測定結果である。
【
図25】
図25は、ピークパワーの測定結果を示す図面である。
【
図26】
図26は、実験例2aにおいて得られたM
2を示す図面である。
【
図27】
図27は、実験例2aの結果から得られた輝度を示す図面である。
【
図28】
図28は、実験例2bにおけるドーナツビーム及び近ガウシアンビームの集束レンズ上のビームパターンの測定結果を示す図面である。
【
図29】
図29は、実験例2bにおけるドーナツビーム及び近ガウシアンビームのパルス波形を示した図面である。
【
図30】
図30は、ブレークダウンの閾値エネルギーE
thの測定結果を示す図面である。
【
図31】
図31は、M
2の算出のために計測された焦点位置でのドーナツビームのビームパターンを示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。図面の説明において、同一又は同等の要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
【0019】
(第1実施形態)
図1に示したように、第1実施形態に係るレーザー装置(光発振器)1Aは、第1反射部10と、第2反射部12と、レーザー媒質14と、Qスイッチ素子(可飽和吸収部)16とを有する。第1反射部10と、第2反射部12と、レーザー媒質14と、Qスイッチ素子16は、Z軸に沿って、第1反射部10、レーザー媒質14、Qスイッチ素子16及び第2反射部12の順に配置されている。上記Z軸は、レーザー装置1Aの光軸に相当する。レーザー装置1Aは、レーザー点火、レーザー誘起ブレークダウン分光法、アブレーションを目的とした様々なレーザー加工に好適に用いられる。
【0020】
レーザー装置1Aは、励起光供給部18から供給される第1波長(例えば、レーザー媒質14がNd:YAGであれば波長808nmまたは波長885nm、レーザー媒質14がYb:YAGであれば波長940nmまたは波長968nm)の励起光L1が第1反射部10に入射されることによって、第2波長(例えば、レーザー媒質14がNd:YAGであれば波長1064nm、レーザー媒質14がYb:YAGであれば波長1030nm)のパルスレーザー光L2を第2反射部12側(
図1中の右側)から出力する。
【0021】
励起光供給部18は、励起光L1を第1反射部10に供給可能な構成を有すればよい。励起光供給部18は、例えば、光ファイバ18Bにカップリングされており励起光L1を出力するレーザーダイオード(LD)18Aと、光ファイバ18Bから出力される励起光L1を第1反射部10に入射するための入射光学系18Cと、を有する。LD18Aは、連続波発振されてもよいし、準連続波発振されてもよい。
図1の入射光学系18Cは、光ファイバ18Bから出力された励起光L1を集光して、第1反射部10に入射させている。励起光L1は、例えば平行光もしくは実質的に平行光に近い緩い集光光として第1反射部10に入射されてもよい。励起光供給部18もレーザー装置1Aの一部であってもよい。
【0022】
[第1反射部]
第1反射部10は、レーザー媒質14の第1端面14aに設けられている。第1反射部10は、第1波長の励起光L1を透過する一方、第2波長の光を反射する誘電体多層膜である。第1波長の励起光L1に対する第1反射部10の透過率は80%以上(望ましくは95%以上)であり、第2波長の光に対する第1反射部10の反射率は90%以上(望ましくは99%以上)である。第1反射部10は、例えば第1波長の励起光L1に対してARコートとして機能し、第2波長の光に対してHRコートとして機能する誘電体多層膜である。第1反射部10は、薄膜形成技術によって第1端面14aに形成され得る。
【0023】
第1反射部10は、励起光L1が入射される第1面(入射面)10aと、第2面10b(光の伝搬するZ軸の方向において第1面10aと反対側の面)とを有する。第1面10a及び第2面10bは、Z軸に直交している平面である。よって、第1反射部10は、上述した透過特性及び反射特性を有する平面鏡である。しかし、第1反射部10は、曲率を有する鏡(湾曲した鏡)でもよく、例えば凹面鏡であってもよい。
【0024】
第2反射部12は、Z軸の方向(一方向)において、第1反射部10と離間して配置されている。第2反射部12は、Qスイッチ素子16の第2端面16bに設けられている。第2反射部12は、第2波長の光を反射する誘電体多層膜である。第2波長の光に対する第2反射部12の反射率は80%以上(望ましくは99%以上)である。第2反射部12は、例えば第2波長の光に対してHRコートとして機能する誘電体多層膜である。第2反射部12は、薄膜形成技術によって第2端面16bに形成され得る。
【0025】
第2反射部12は、第1反射部10とともに、不安定共振器を形成している。
図1に示した実施形態において、第1反射部10及び第2反射部12によって形成される不安定共振器の光軸は、Z軸と一致している。Z軸の方向からみた場合、第2反射部12の大きさは、第1反射部10の大きさより小さい。更に、第2反射部12は、第1反射部10側に向けて湾曲している。第2反射部12が上記のように湾曲していることから、第2反射部12は、第2波長の光を発散させる。よって、第1反射部10及び第2反射部12とは拡大光学系を形成している。
【0026】
第1反射部10及び第2反射部12が上記のような不安定共振器であることから、レーザー装置1Aからは、
図2に示したように、ドーナツ状(ドーナツモード)のパルスレーザー光L2が出力される。パルスレーザー光L2の内径をaとし、パルスレーザー光L2の外径をbとし、拡大率mをb/aで定義した場合、拡大率mは、例えば、2
1/2以上且つ3以下である。拡大率mは、1.2以上3以下でもよい。
【0027】
第2反射部12のうち第1反射部10に最も近い部分(第2反射部12の頂部)と、第1反射部10の第2面10bとの間の距離(以下、「共振器長d」とも称す)の例は、約4~50mmである。共振器長dは、15mmより小さくてもよい。Z軸の方向からみた場合、第2反射部12は円形または多角形であり、その直径または対角の長さの例は、1~20mmである。第2反射部12の直径または対角の長さは、1mm~3mmであってもよい。第2反射部12の曲率半径の例は10mm~2mである。第2反射部12の曲率半径の例は10mm~100mmであってもよい。
【0028】
[レーザー媒質]
レーザー媒質14は、励起状態において増幅が吸収を上回る反転分布を形成し、誘導放出を利用して光を増幅させる物質である。レーザー媒質14は、利得媒質とも称される。レーザー媒質14は、第1波長の励起光L1が供給されることによって、第2波長の光を放出可能であれば、既知の種々のレーザー媒質を利用できる。
【0029】
レーザー媒質14の材料の例は、発光中心となる希土類イオンを添加した酸化物から形成される光利得材料、発光中心となる遷移金属イオンを添加した酸化物から形成される光利得材料、カラーセンターとなる酸化物から形成される光利得材料等を含む。
【0030】
上記希土類イオンの例は、Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Ybを含む。遷移金属イオンの例は、Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cuを含む。母体材料の例は、YAG,YSAG,YGAG,YSGG,GGG,GSGG,LuAGなどのガーネット系、YLF,LiSAF,LiCAF,MgF2,CaF2などのフッ化系、YVO4,GdVO4,LuVO4などのバナデート系、FAP,sFAP,VAP,sVAPなどのアパタイト系、Al2O3、BeAl2O3などのアルミナ系、Y2O3,Sc2O3,Lu2O3などの二三酸化物系、KGW,KYWなどのタングステート系を含む。母体材料は、単結晶であってもよいし多結晶セラミック材料であってもよい。母体材料は、非晶質の各種ガラスでもよい。
【0031】
レーザー媒質14の形状の例は、板状及び柱状を含む。
図1に示した実施形態において、レーザー媒質14の中心軸はZ軸に一致する。レーザー媒質14は、第1端面14aと、第2端面14b(Z軸の方向において第1端面14aと反対側の面)とを有する。第1端面14a及び第2端面14bはZ軸に直交している。Z軸の方向に沿ったレーザー媒質14の長さの例は、0.2~26mmである。
【0032】
Z軸からみたレーザー媒質14の形状(平面視形状)の例は、円形、矩形又は正方形、多角形を含む。上記レーザー媒質14の平面視形状が円形の場合、直径の例は1.4~100mmである。上記レーザー媒質14の平面視形状が矩形又は正方形の場合、およその対角の長さの例は1.9~140mmである。
【0033】
以下では、Z軸からある要素をみた場合のその要素の形状を上記のように「平面視形状」とも称す。
【0034】
Qスイッチ素子16は、Qスイッチ素子16に入射する光の強度が増大すると吸収能力が飽和する特性を有する可飽和吸収体である。Qスイッチ素子16は、第2波長の光の吸収に伴って透過率が増加する。Qスイッチ素子16は、レーザー媒質14と同軸に配置され得る。Qスイッチ素子16は、第2端面14bに接合されてもよい。
【0035】
Z軸の方向からみた場合、Qスイッチ素子16の大きさは、レーザー媒質14より小さい。Qスイッチ素子16の形状の例は、板状及び柱状を含む。Qスイッチ素子16は、レーザー媒質14側の第1端面16aと、第2端面16b(Z軸の方向において第1端面16aと反対側の面)とを有する。第1端面16aはZ軸に直交している。第2端面16bには第2反射部12が設けられている。第2反射部12が第1反射部10側に湾曲していることから、第2端面16bも同様に湾曲している。第2端面16bの曲率半径と第2反射部12の曲率半径は同じである。
【0036】
Z軸の方向に沿ったQスイッチ素子16の長さの例は、0.1~10mmである。
【0037】
レーザー装置1Aのように、第2端面16bの全面に第2反射部12が設けられている場合、Qスイッチ素子16の平面視形状の例は、円形または多角形であり、その等価的直径の例は、1~20mmである。
【0038】
第2反射部12は、第2端面16bの一部に設けられていてもよい。すなわち、第2端面16bに第2反射部12が部分コーティングされていてもよい。この場合、第2端面16bがその一部に第1反射部10側に湾曲した湾曲領域を有し、その湾曲領域に第2反射部12が設けられる。第2反射部12が、第2端面16bの一部に設けられる実施形態では、Qスイッチ素子16の平面視形状の例は、円形、矩形又は正方形、多角形でもよい。Qスイッチ素子16の平面視形状が矩形又は正方形の場合、等価的対角の長さの例は、1~20mmである。
【0039】
Qスイッチ素子16の材料は、入射する第2波長の光の強度が増大すると吸収能力が飽和する特性を有する可飽和吸収体の材料でよい。本実施形態においてQスイッチ素子16の材料はCr:YAGセラミックであるが、単結晶でも良い。
【0040】
Qスイッチ素子16は、第2端面16bの全面またはその一部が湾曲した状態で製造されてもよいし、第2端面16bが平面のQスイッチ素子16を製造した後に、第2端面16bを全面またはその一部が湾曲するように加工することによって製造されてもよい。
【0041】
レーザー媒質14及びQスイッチ素子16がともにセラミック製である場合、通常は焼結接合が行われるが、励起光を反射させることができない。そこで例えば、レーザー媒質14とQスイッチ素子16とは、表面活性化接合されていてもよい。表面活性化接合は、真空中で接合する材料の接合面の酸化膜又は表面付着物をイオンビーム照射又はFAB(中性原子ビーム)照射によって除去し、平坦で構成原子の露出した接合面同士を接合するという手法である。上記接合は、分子間結合を利用した直接接合である。表面活性接合であれば、レーザー媒質をセラミックスに限定すること無く、単結晶同士、またはそれらのハイブリッドが可能なだけでなく、励起光反射コーティングなどを施した上での接合が可能になる。レーザー媒質14とQスイッチ素子16とが接合されることによって接合体を形成している場合、その接合体におけるレーザー媒質14とQスイッチ素子16の接合方向の長さ(Z軸方向の長さに相当)は、例えば、10mmより小さい。
【0042】
レーザー媒質14の第2端面14b及びQスイッチ素子16の第1端面16aの少なくとも一方には、第2端面14b及び第1端面16aにおける反射特性(例えば第2波長の光の反射特性)を調整するコーティング層が設けられてもよい。このようなコーティング層が第2端面14b及び第1端面16aの少なくとも一方に設けられている場合、例えばレーザー媒質14及びQスイッチ素子16は、上記コーティング層を介して上記のように接合され得る。Qスイッチ素子16の第1端面16a及び第2端面16bの少なくとも一方には、第1波長の励起光L1に対してHRコートとして機能し、第2波長の光に対してARコートとして機能するコーティング層が設けられてもよい。このようなコーティング層は、可飽和吸収部の一部であってもよい。すなわち、可飽和吸収部は、可飽和吸収体(
図1のQスイッチ素子16)の他、上記コーティング層を有してもよく、コーティング層が可飽和吸収体の端面に設けられている場合、コーティング層の端面が可飽和吸収部の端面に相当する。
【0043】
レーザー装置1Aにおいて、レーザー媒質14及びQスイッチ素子16のZ軸の方向の長さ並びに第2反射部12の形状など(特に、第2反射部12の大きさ及び曲率半径など)は、共振器長d、利得などを考慮して、所望のドーナツ形状のパルスレーザー光L2が得られるように設定されていればよい。例えば、上記拡大率mが、21/2以上であり且つ3以下又は1.2以上であり且つ3以下であるように、レーザー媒質14及びQスイッチ素子16のZ軸の方向の長さ並びに第2反射部12の形状が設定されていればよい。
【0044】
次に、レーザー装置1Aの作用効果を説明する。
【0045】
励起光供給部からの励起光L1が第1反射部10の第1面10aに入射されると、励起光L1は、第1反射部10を透過して、レーザー媒質14に供給される。これにより、レーザー媒質14が励起され、第2波長の光が放出される。レーザー媒質14から放出された第2波長の光は、第2反射部12によって、第1反射部10側に反射される。第1反射部10は第2波長の光を反射する。これにより、第2波長の光がレーザー媒質14を複数回通過する。第2波長の光がレーザー媒質14を通過する際の誘導放出によって第2波長の光は増幅され、Qスイッチ素子16の作用によってパルスレーザー光L2として出力される。
【0046】
第2反射部12は、第2波長の光を反射することから、第2波長の光は実質的に第2反射部12を透過しない。第2反射部12は、第1反射部10側に湾曲していることから、第2反射部12で反射された第2波長の光は発散する。そのため、Z軸の方向からみて、第2反射部12の外側からパルスレーザー光L2が出力される。その結果、パルスレーザー光L2の形状(強度分布)は、
図2に示したようなドーナツ形状である。すなわち、レーザー装置1Aは、ドーナツ状のパルスレーザー光L2を出力できる。
【0047】
第2反射部12で反射された第2波長の光は発散する。そのため、第1反射部及び第2反射部がともに平面鏡である場合に比べて、レーザー媒質14のより広い領域を第2波長の光が通過する。これによって、レーザー媒質14から多くの誘導放出が生じ易いので、同じ励起面積であれば、第1反射部及び第2反射部がともに平面鏡である場合に比べて、高い出力のパルスレーザー光L2を得られる。この場合、パルスレーザー光L2の出力を上げているものの、積極的にドーナツ状のビームを選択し、ドーナツモードより高次のモードへの利得移行を無くすことで、ビーム品質(M2)の劣化を抑制しながら、パルスレーザー光L2の出力向上を図る。すなわち、レーザー装置1Aでは、ビーム品質の劣化を抑制しながら出力向上を実現可能である。
【0048】
レーザー装置1Aでは、第1反射部10は平面鏡として機能することから、第2反射部12からの第2波長の光は第1反射部10で反射する際にも発散し易い。しかしながら、レーザー装置1Aのように端面励起の場合、励起に伴う量子欠損に起因した熱レンズ効果が生じる。そのため、第2反射部12で反射され、更に第1反射部10で反射された第2波長の光を、上記熱レンズ効果によって、熱レンズ効果が無い場合より閉じ込め可能である。したがって、第1反射部10が平面鏡であっても、第1反射部10と第2反射部12とで不安定共振器が形成され、レーザー発振が可能である。よって、レーザー装置1Aにおけるレーザー媒質14及びQスイッチ素子16のZ軸の方向の長さ並びに第2反射部12の形状などは、励起光L1によるレーザー媒質14内の熱レンズ効果も考慮して設定され得る。
【0049】
第1反射部10が第1端面14aに設けられており且つ第1反射部10が平面鏡である実施形態では、第1端面14aも平面でよいことから、レーザー媒質14の加工が容易である。更に、上記熱レンズ効果を利用することで、パルスレーザー光L2の発散を抑制可能であり、例えば、平行光として出力可能である。
【0050】
第2反射部12が誘電体多層膜であることから、高強度の第2波長の光が第2反射部12に入射しても第2反射部12の損傷を防止できる。その結果、安定して、高出力のパルスレーザー光L2を出力可能である。
【0051】
第1反射部10はレーザー媒質14の第1端面14aに設けられており、第2反射部12は、Qスイッチ素子16の第2端面16bに設けられている。そのため、共振器長dを短くできるので、レーザー装置1Aの小型化及び短パルス化を図れている。
【0052】
レーザー媒質14及びQスイッチ素子16はセミラック製であり、それらを接合している場合、共振器長dを短くできる。その結果、パルス幅がサブナノ秒であるパルスレーザー光L2を出力可能である。
【0053】
第1反射部10及び第2反射部12が形成する不安定共振器は、拡大光学系であることから、レーザー装置1Aから出力されるパルスレーザー光L2の拡大率mを、
図2に示したように、b/aで定義した場合、拡大率mは、例えば、2
1/2以上である。拡大率mが大きすぎるとレーザー発振閾値が大きくなり、レーザー発振が生じにくい。よって、レーザー装置1Aは、拡大率mが3以下となるように、例えば、第2反射部12の大きさ及び曲率半径などが設定されていることが好ましい。拡大率mが3以下であれば、第1反射部10及び第2反射部12が形成する不安定共振器が拡大光学系であっても、レーザー発振閾値を下げることが可能である。1-m
-2は、共振器における往復損失を示す。例えば、m=2
1/2である場合、往復損失は50%である。
【0054】
励起光L1を出力するLD18Aが準連続波発振され、励起光L1がパルス光である実施形態では、高出力の励起光L1を利用してパルスレーザー光L2の高出力化を図りながら、レーザー媒質14の発熱を抑制できる。
【0055】
次に、レーザー装置1Aの種々の変形例を説明する。
【0056】
(第1変形例)
第1変形例に係るレーザー装置1Bは、
図3に示したように、Qスイッチ素子16の周囲にレーザー媒質20が更に設けられている点で、レーザー装置1Aと主に相違する。上記相違点を中心にして、レーザー装置1Aを説明する。
【0057】
レーザー媒質20は、Z軸の方向からみて、Qスイッチ素子16の周囲を囲んでいる。レーザー媒質20の材料は、レーザー媒質14の材料と同じである。よって、レーザー媒質20は、励起光L1の入射により第2波長の光を放出する。
【0058】
レーザー媒質20は、Qスイッチ素子16と接合されていてもよい。この場合、レーザー媒質14の第2端面14b側に、レーザー媒質14とQスイッチ素子16との複合部品が配置されている実施形態に相当する。或いは、レーザー媒質20がレーザー媒質14と同じ材料であることから、レーザー媒質20とレーザー媒質14とが一つの部材であってもよい。この場合、一つのレーザー媒質において第1反射部10と反対側の端面に凹部が設けられ、その凹部にQスイッチ素子16が収容されている実施形態に相当する。
【0059】
レーザー装置1Bは、レーザー装置1Aと少なくとも同じ作用効果を有する。レーザー装置1Bが有するレーザー媒質20は、Z軸の方向からみて、Qスイッチ素子16の周囲を囲んでいる。そのため、パルスレーザー光L2は、レーザー媒質20を更に通過する。励起光L1を第1反射部10に入射する際に、レーザー媒質20にも励起光L1が入射されるように励起光L1を第1反射部10に入射すれば(例えば、第1面10aのほぼ全面に励起光L1を入射すれば)、レーザー媒質20も励起光L1で励起されている。そのため、パルスレーザー光L2がレーザー媒質20を通過する際に、パルスレーザー光L2は、更に増幅される。その結果、レーザー装置1Bでは、出力が一層向上する。
【0060】
(第2変形例)
第2変形例に係るレーザー装置1Cは、
図4に示したように、第1反射部10が外側(レーザー媒質14と反対側)に向けて湾曲している点で、レーザー装置1Aと相違する。この相違点を中心にして、レーザー装置1Cを説明する。
【0061】
第1反射部10は、外側に向けて湾曲している。第1反射部10の曲率半径は、励起光L1によるレーザー媒質14内の熱レンズ効果、共振器長d、利得、並びに、第2反射部12の大きさ及び曲率半径などを考慮して、所望のドーナツ形状が得られるように設定されればよい。例えば、上記拡大率mが、21/2以上であり且つ3以下であるように、第1反射部10の曲率半径が設定されていればよい。第1反射部10の曲率半径の例は、1.4~9mmである。
【0062】
第1反射部10は、レーザー媒質14の第1端面14aに設けられていることから、レーザー装置1Cでは、第1端面14aも第1反射部10と同様に湾曲している。第1端面14aの曲率半径は、第1反射部10の曲率半径と同様である。
【0063】
レーザー装置1Cは、レーザー装置1Aと少なくとも同じ作用効果を有する。レーザー装置1Cでは、第1反射部10が外側に湾曲しているので、第2反射部12で反射された第2波長の光に対して第1反射部10は凹面鏡として機能する。すなわち、第1反射部10は、第2反射部12で反射された第2波長の光に対して集光機能を有する。よって、第2波長の光を、不安定共振器内に閉じ込めやすい。第1反射部10が上記のように集光機能を有することから、パルスレーザー光L2の発散を抑制し易く、例えば、パルスレーザー光L2を平行光として出力し易い。
【0064】
(第3変形例)
第3変形例に係るレーザー装置1Dは、
図5に示したように、第1反射部10が開口10cを有する点で、レーザー装置1Aと相違する。上記相違点を中心にして、レーザー装置1Dを説明する。
【0065】
第1反射部10は、第2波長を有する注入レーザー光L3をレーザー媒質14に注入するための開口10cを有する。開口10cは、Z軸の方向からみた場合に、第2反射部12と重複する領域の少なくとも一部に形成される。
図5に示したように、開口10cは、Z軸上に配置され得る。
【0066】
注入レーザー光L3は、注入同期するためのレーザー光である。注入レーザー光L3の進行方向に直交する断面の大きさは、例えば、開口10cの大きさ以下であり得る。この場合、注入レーザー光L3は、第1反射部10で反射されずに、開口10cを通過してレーザー媒質14に入射され得る。
【0067】
レーザー装置1Dは、注入レーザー光L3を供給する注入レーザー光供給部24を備えてもよい。注入レーザー光供給部24は、注入レーザー光L3を、注入同期のための注入タイミングで出力可能であればよい。
【0068】
図5に示したように、Z軸に沿って励起光L1を伝搬させた後、第1反射部10に励起光L1を入射させる実施形態では、注入レーザー光L3は、励起光L1の光路上(
図5では、Z軸上)に配置されている反射鏡22によって反射され、開口10cに入射されればよい。反射鏡22は、励起光L1の一部の伝搬を阻害することから、反射鏡22は、小さい方がよい。
【0069】
図5に示した実施形態では、反射鏡22が、例えば、励起光L1を透過する一方、注入レーザー光L3を反射する波長選択性を有する場合、反射鏡22の大きさは限定されない。
【0070】
図6に示したように、注入レーザー光L3を、Z軸に沿って伝搬させた後、開口10cに入射させる一方、励起光L1を反射鏡22で反射させた後に、第1反射部10に入射させてもよい。
図6に示した実施形態では、反射鏡22は、励起光L1を反射するとともに、注入レーザー光L3を通すための開口22aを有する。開口22aの大きさの例は、注入レーザー光L3に直交する断面の大きさとほぼ同じか、若干大きい程度である。これにより、励起光L1を有効に利用してレーザー媒質14を励起できる。
図6に示した実施形態において、反射鏡22が、例えば、励起光L1を反射する一方、注入レーザー光L3を透過する波長選択性を有する場合、反射鏡22の大きさは限定されない。
【0071】
レーザー装置1Dは、レーザー装置1Aと少なくとも同様の作用効果を有する。レーザー装置1Dでは、注入レーザー光L3をレーザー媒質14に注入することで注入同期を図れる。その結果、レーザー装置1Dのジッターを制御可能であり、例えば外部機器との同期、複数のQスイッチ型のレーザー装置との同期を図れる。
【0072】
レーザー装置1Dの第2反射部12は、第2波長の光を反射し、実質的に第2波長の光を透過しない。よって、レーザー装置1Dは、
図5及び
図6に示したように、第1反射部10に開口10cを設け、注入レーザー光L3をレーザー媒質14に注入し易い構成である。レーザー装置1Dは、ビーム品質の劣化を抑制しながら、高出力が可能であるとともに、ジッター制御が容易な構成を有する。
【0073】
第3変形例では、反射鏡22もレーザー装置1Dの一部でもよい。
【0074】
(第4変形例)
Z軸の方向からみた場合、Qスイッチ素子16の大きさは、レーザー媒質14の大きさと同じであってもよい。この場合、第2端面16bは、その一部(例えば中央部)に、第1反射部10側に湾曲した湾曲領域を有し、その湾曲領域に第2反射部12が設けられていればよい。すなわち、第2端面16bに第2反射部12が部分コーティングされていてもよい。第4変形例に係るレーザー装置もレーザー装置1Aと少なくとも同様の作用効果を有する。
【0075】
(第2実施形態)
図7を利用して、第2実施形態に係るレーザー装置2Aを説明する。レーザー装置2Aは、第2反射部12が、Qスイッチ素子16の第2端面16bに設けられていない点で、レーザー装置1Aと相違する。この相違点を中心にして、レーザー装置2Aを説明する。
【0076】
レーザー装置2Aは、第2反射部12を支持する支持体26を有する。支持体26は、第2波長の光(パルスレーザー光L2)を透過する。第2波長の光に対する支持体26の透過率は、90%以上である。支持体26の材料の例は、ガラスを含む。
【0077】
支持体26のQスイッチ素子16側の面26aは、Qスイッチ素子16側に湾曲している湾曲領域である。支持体26の面26aの曲率半径は、第2反射部12の曲率半径と同様である。支持体26のQスイッチ素子16と反対側の面26bは平面であり得る。支持体26の例は、平凸レンズである。湾曲した面26aには、第2波長の光に対するARコートが施されていてもよい。このようなARコートも支持体26の一部でもよい。
【0078】
第2反射部12は、支持体26の面26aの頂部(Z軸と面26aとの交点部分)に設けられている。すなわち、面26aに第2反射部12が部分コーティングされている。第2反射部12は、薄膜形成技術によって形成され得る。
【0079】
Qスイッチ素子16は、第2端面16bが平面である点以外は、レーザー装置1Aの場合と同様の構成を有する。第1反射部10及びレーザー媒質14は、レーザー装置1Aの場合と同様の構成を有する。
【0080】
レーザー装置2Aにおいても、第1反射部10及び第2反射部12は、レーザー装置1Aの場合と同様に、不安定共振器を構成する。よって、レーザー装置2Aは、レーザー装置1Aと少なくとも同様の作用効果を有する。
【0081】
第2反射部12が誘電体多層膜であることから、高強度の第2波長の光が第2反射部12に入射しても第2反射部12の損傷を防止できる。その結果、安定して、高出力のパルスレーザー光L2を出力可能である。
【0082】
支持体26が平凸レンズである場合、支持体26は、パルスレーザー光L2に対して集光機能を有する。よって、支持体26に入射するパルスレーザー光L2が発散している場合でも、その発散を抑制でき、例えば、支持体26の作用によってパルスレーザー光L2を平行光として出力できる。
【0083】
第2実施形態に係るレーザー装置2Aに対しても、第1実施形態に係るレーザー装置1Aに対する第1~第3変形例と同様の変形が可能である。すなわち、第1変形例の場合と同様に、Z軸の方向からみた場合、Qスイッチ素子16が、レーザー媒質20(
図3参照)で囲まれていてもよい。第2変形例の場合と同様に、第1反射部10は、Qスイッチ素子16と反対側に湾曲していてもよい(
図4参照)。第3変形例の場合と同様に、第1反射部10は、注入レーザー光L3をレーザー媒質14に入射するための開口10c(
図5及び
図6参照)を有してもよい。第2実施形態に係るレーザー装置2Aに対して、第1実施形態の第1~第3変形例と同様の変形を適用した場合、各変形例が適用されたレーザー装置は、第1~第3変形例の場合と同様に、各変形に伴う作用効果を有する。
【0084】
支持体26は、
図7を利用して説明した形状に限定されない。例えば、支持体26は、第2波長の光を透過可能な平板であり、Qスイッチ素子16側の面の一部にQスイッチ素子16側に湾曲した湾曲領域を有していてもよい。この場合、上記湾曲領域に第2反射部12が設けられる。
【0085】
第2実施形態においても、第1実施形態の第4変形例と同様に、Z軸の方向からみた場合、Qスイッチ素子16の大きさは、レーザー媒質14の大きさと同じでもよい。この場合、例えば、レーザー媒質14とQスイッチ素子16との位置調整が容易である。レーザー媒質14とQスイッチ素子16が接合されることによって一つの部品(以下、説明の便宜のため、「光部品」と称す)を形成している場合、Z軸の方向からみて、Qスイッチ素子16の大きさが、レーザー媒質14の大きさと同じであれば、複数の光部品を容易に製造し易い。例えば、複数の光部品は、次のようにして製造される。各光部品のサイズより大きなサイズのレーザー媒質とQスイッチ素子とを接合することによって、レーザー媒質とQスイッチ素子の積層体を製造する。その後、上記積層体から所望のサイズの光部品を切り出すことによって、複数の光部品が得られる。この場合、上記光部品を大量生産できるので、レーザー装置の製造が容易であるとともに、製造コストの低減を図れる。第2反射部12とQスイッチ素子16とは接していてもよい。
【0086】
次に、レーザー装置の一実施形態を用いた実験例1を説明する。実験例1の説明において、
図1~
図7を利用して説明した実施形態と同一又は同等の要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
【0087】
実験例1では、
図8に示したレーザー装置2Bを使用した。レーザー装置2Bの構成は、Z軸の方向からみた場合、Qスイッチ素子16の大きさが、レーザー媒質14の大きさと同じである点以外は、
図7に示したレーザー装置2Aの構成と同じである。以下、実験に使用した材料、各要素のサイズなどを具体的に示すが、本発明は、例示する材料、各要素のサイズ等を適用したものに限定されない。
【0088】
実験例1では、光ファイバ18BがカップリングされたLD18Aを使用し、入射光学系18Cによって、励起光L1を第1反射部10に入射させた。第1反射部10における励起光L1の照射領域は、直径が約2.5mmの円形領域であった。LD18Aの励起方法、繰り返し周波数、励起光L1の波長及び出力パワーは、次のとおりであった。
・励起方法:準連続波励起
・繰り返し周波数:10Hz
・励起光L1の波長:808nm
・励起光L1の出力パワー:600W
【0089】
レーザー媒質14には、Nd:YAGセラミック(Ndの添加量:1.0at.%)を用いた。Qスイッチ素子16には、Cr:YAGセラミックを用いた。しかし、セラミックスだけで無くどちらか、または両方が単結晶であっても本質的に同じである。Qスイッチ素子16の初期透過率は30%であった。レーザー媒質14及びQスイッチ素子16は接合されていた。レーザー媒質14及びQスイッチ素子16のZ軸の方向の長さは、合わせて7mmであった。しかし、共振器長までの媒質長は許容される。
【0090】
レーザー媒質14の第1端面14aは平面であり、第1端面14aには、第1反射部10として、波長1064nmの光に対してHRコートとして機能し、波長808nmの光に対してARコートとして機能する誘電体多層膜を設けた。Qスイッチ素子16の第2端面16bには、波長1064nmの光に対してARコートを施した。
【0091】
支持体26には、面26aの曲率半径が52mmの平凸レンズを使用した。支持体26の面26aの中央部に、第2反射部12として、波長1064nmの光に対してHRコートとして機能する誘電体多層膜を部分コーティングした。面26aのうち第2反射部12以外の領域には、ARコートを施した。Z軸の方向(一方向)からみた場合、第2反射部12の形状は、直径2mmの円形であった。共振器長dは、10mmであった。
【0092】
レーザー装置2Bの第1反射部10に励起光L1を上記条件で照射し、出力されるパルスレーザー光L2のビームパターン、パルス幅、ビーム品質、偏光状態及び出力安定性を確認した。
【0093】
[ビームパターン]
出力されたパルスレーザー光L2のビームパターンを、CMOSカメラで取得した。得られたビームパターンは、
図9に示したようにドーナツ形状を有していた。
【0094】
[パルス幅]
パルス幅を、パルスレーザー光L2をフォトディテクターで検出することによって測定した。測定結果は、
図10に示したとおりであった。
図10中の横軸は時間(ns)を示しており、横軸の時間0は、パルスレーザー光L2のフォトディテクターへの入射時である。図中の縦軸は、パルスレーザー光L2の1パルスにおける最大強度で、パルスレーザー光L2の強度を規格化した規格化強度を示している。
図10より、半値全幅(FWHM)で570psのパルス幅を実現できていた。
【0095】
[ビーム品質]
ビーム品質をM
2で評価した。具体的には、パルスレーザー光L2を、レンズ(焦点距離:300mm)によって集光し、パルスレーザー光L2の伝搬方向に沿って、ビーム径を、集光位置の前後における複数の位置で測定し、その結果から、M
2を算出した。ビーム径の測定結果は、
図11に示したとおりであった。横軸は、ビーム径の測定位置(mm)を示しており、縦軸は、ビームの半径を示している。ビームの半径は、光電力の86.5%及び光強度がピークの1/e
2に低下する半径とした。ビーム径は、上記Z軸に対して設定する3次元座標系のX軸方向及びY軸方向の長さをそれぞれ取得した。
図11から算出されるM
2は、X軸方向に対して2.3であり、Y軸方向に対して2.0であった。
【0096】
[偏光状態]
フォトディタクターの前に直線偏光子(以下、単に「偏光子」と称す)を配置して、その偏光子を回転させながらパルスレーザー光L2の強度を測定した。測定結果は、
図12に示したとおりであった。
図12の横軸は、偏光子の回転角度(°)を示しており、縦軸は、測定結果を最大強度で規格化した規格化強度を示している。
図12には、測定結果をフィッティングしたフィッティング曲線も示している。
図12に示した結果より、直線偏光のパルスレーザー光L2が出力できていたことが理解され得る。
【0097】
[出力安定性]
パルスレーザー光L2をフォトディテクターで5分間検出した。測定結果は、
図13に示したとおりであった。横軸は、時間(分)を示しており、縦軸は、パルスエネルギーを示している。
図13より、約8.3mJの光出力が得られていることがわかった。更に、二乗平均平方根(RMS)は、1.0%であった。
【0098】
上記実験の結果より、レーザー装置2Bのように、第1反射部10及び第2反射部12で不安定共振器を構成することによって、ビーム品質の低減を抑制しながら、高出力のパルスレーザー光L2を得ることができることが理解され得る。更に、第1反射部10として平面鏡を使用しても、不安定共振器が成立しており、パルスレーザー光L2が得られることが確認された。
【0099】
以上、本発明の実施形態、実験例及び変形例を説明したが、本発明は上記実施形態、実験例及び変形例に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示される範囲が含まれるとともに、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。すなわち、本発明は上記実施形態、実験例及び変形例に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0100】
例えば、レーザー装置は、複数のレーザー媒質を備えてもよい。この場合、レーザー装置は、複数のヒートシンクも備える。レーザー装置が、複数のレーザー媒質及び複数のヒートシンクを備える場合、複数のレーザー媒質及び複数のヒートシンクは、一方向に沿って交互に積層され得る。レーザー媒質及びヒートシンクの積層方向は、
図1におけるZ軸の方向である。ヒートシンクは、第1及び第2波長に対して95%以上、好ましくは97%以上の透過率を有する。ヒートシンクの材料は、レーザー媒質に比較し熱伝導率が同程度か又は高い物質である。ヒートシンクの材料の例は、サファイア、ダイアモンド及び無添加YAGを含む。ヒートシンクは酸化物を含んでいてもよい。レーザー媒質及びヒートシンクは、接合(例えば上記表面活性接合)されていてもよい。レーザー媒質及びヒートシンクの互いに対向する面には、反射特性(例えば第2波長の光の反射特性)を調整するコーティング層が設けられてもよい。レーザー媒質とヒートシンクの積層体において、Qスイッチ素子と反対側の端(Qスイッチ素子から最も離れた位置)にヒートシンクがある場合、第1反射部はヒートシンクの端面に設けられ得る。第1実施形態及び第2実施形態並びにそれらの種々の変形例のように、レーザー媒質が1つの場合においても、レーザー媒質の第1反射部側の端面に上記ヒートシンクが設けられてもよい。
【0101】
励起光自体が、
図14に示したようにドーナツ形状を有してもよい。
図14に示した励起光L4は、強度分布が連続的に円環を形成している場合を示している。このような励起光L4は、例えば、
図1に示したように、光ファイバ18Bを利用して励起光L4を伝搬する際、光ファイバ18Bの中心軸を外して光ファイバ18Bに励起光L4を入射させたり、励起光L4の光軸上に遮蔽板を配置したりすることによって実現され得る。
【0102】
励起光は、
図15に示した励起光L5のように、複数の小励起光L5aを有してもよい。小励起光L5aの数は、
図15に示したように8個に限らない。小励起光L5aの数は、例えば4個以上である。このような励起光L5は、例えば、各小励起光L5aを出力するLDを円環状に配置したり、各小励起光L5aをそれぞれ出力する光ファイバを円環状に配置したりすることで実現され得る。
図15では、複数の小励起光L5aが円環を為すように配置されているが、複数の小励起光L5aの配置関係は、
図15に示したものに限定されない。
図15に示したように、複数の小励起光L5aをそれぞれ別のLDから出力する場合、一つの大きな出力のLDを使用する場合より、コストを低減できる。
【0103】
本発明は、光パラメトリック発振器といった光共振器にも適用できる。この場合、レーザー媒質の材料の例は、非線形光学材料を含む。非線形光学材料の例は、LN,LT,KTP,KTA,RTP,RTA,LBO,CLBO,CBO,BBO,BiBO,KBBF,BABF,水晶,COB,YCOB,GdCOB,GdYCOB,YAB,KDP,KD*P,ZGPなどを含む。
【0104】
次に、上記実施形態で説明したレーザー装置の一実施形態を用いた実験例2を説明する。実験例2の説明において、
図1~
図7を利用して説明した実施形態と同一又は同等の要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
【0105】
実験例2では、
図16に示したレーザー装置2Cを使用した。レーザー装置2Cの構成は、Z軸の方向からみた場合、Qスイッチ素子16の大きさが、レーザー媒質14の大きさと同じである点以外は、
図7に示したレーザー装置2Aの構成と同じである。以下、実験に使用した材料、各要素のサイズなどを具体的に示すが、本発明は、例示する材料、各要素のサイズ等を適用したものに限定されない。
【0106】
実験例2では、光ファイバ18BがカップリングされたLD18A(Dilas diodenlaser GmbH製)を使用し、入射光学系18Cによって、励起光L1を第1反射部10に入射させた。光ファイバ18Bの直径は0.8mmであった。入射光学系18Cは、2枚のレンズを用いたテレスコープであった。LD18Aの励起方法、励起光L1の波長及び出力パワーは、次のとおりであった。
・励起方法:準連続波励起
・励起光L1の波長:808nm
・励起光L1の出力パワー:700W
実験例2で使用したLD18Aの動作可能な最大パルス幅は500μsであった。実験例2では、実験に応じてより短いパルス幅を使用した。
【0107】
レーザー媒質14には、Nd:YAGセラミック(Nd3+の添加量:1.1at.%)を用いた。Qスイッチ素子16には、Cr4+:YAGセラミックを用いた。Qスイッチ素子16の初期透過率は30%であった。レーザー媒質14及びQスイッチ素子16は接合されていた。レーザー媒質14及びQスイッチ素子16の接合体のZ軸方向の長さlは7mmであり、上記接合体の体積は、6×6×7mm3であった。
【0108】
第1反射部10には、波長1064nmの光を反射し、波長808nmの光を透過する平面鏡を用いた。レーザー媒質14及びQスイッチ素子16の接合体の両端面(すなわち、レーザー媒質14の第1端面14a及びQスイッチ素子16の第2端面16b)には、波長1064nm及び波長808それぞれの光に対するARコートを施した。
【0109】
支持体26には、面26aの曲率半径が50mmの平凸レンズを使用した。支持体26の面26aの中央部に、第2反射部12として、波長1064nmの光に対してHRコートとして機能する誘電体多層膜を部分コーティングした。面26aのうち第2反射部12以外の領域には、ARコートを施した。Z軸の方向(一方向)からみた場合、第2反射部12の形状は、直径2mmの円形であった。共振器長dは10mmであった。
【0110】
レーザー装置2Cでは、不安定共振器から出力された光を平行化するために一枚のレンズ28を配置した。レンズ28には、凸レンズを使用した。レンズ28の焦点距離は、100mm~150mmであり、レンズ28の位置に合わせて選択した。
【0111】
レーザー装置2Cの第1反射部10に励起光L1を上記条件で照射し、出力されるパルスレーザー光L2のパルスエネルギー、パルス幅及びビーム品質(M2)を測定した。
【0112】
パルスエネルギーは、集電素子(pyroelectric energy sensor)(Ophir Optronics Solutions Ltd.製)を用いて測定した。パルス幅は、立ち上がり時間(rise time)が30psのフォトディテクター及び13GHzオシロスコープを用いて測定した。2次モーメント又は光電力の86.5%のビームサイズと、M2を決定するために、ISO11146に応じたビーム品質測定器(beam quality M2 tool)(Cinogy technologies製)と解析ソフトウエア(RayCi)を使用した。
【0113】
図17は、出力されたパルスレーザー光L2のビームパターンを示した図面である。出力されたパルスレーザー光L2のビームパターンは、
図17に示したように、ほぼシンメトリックであるドーナツ形状を有していた。ドーナツ形状のパルスレーザー光L2の中心に現れているポアソンの輝点(Poisson Spot)は、出力側の共振器ミラーである第2反射部12の縁による回折の影響と考えられる。
【0114】
図18は、実験例2におけるパルス幅の測定結果を示す図面である。図中の横軸は時間(ns)を示しており、横軸の時間0は、パルスレーザー光L2のフォトディテクターへの入射時である。図中の縦軸は、パルスレーザー光L2の1パルスにおける最大強度で、パルスレーザー光L2の強度を規格化した規格化強度(normalized intensity)を示している。パルス幅は、476psであった。パルス幅は、断らない限り、半値全幅の値である。
【0115】
図19は、5分間のパルスエネルギーの安定性を示す図面である。横軸は、時間(分)を示しており、縦軸は、パルスエネルギーを示している。
図19より、10Hzの繰り返し周波数において、二乗平均平方根(RMS)が1.0%である13.2mJの平均エネルギー(光出力)が得られていた。
【0116】
実験例2では、10Hzの繰り返し周波数におけるパルスレーザー光L2の偏光状態を確認した。具体的には、集電素子の前に直線偏光子(以下、「偏光子」と称す)を配置して、その偏光子を回転させながらパルスレーザー光L2の強度を測定した。測定結果は、
図20に示したとおりであった。
図20の横軸は、偏光子の回転角度(angle of polarizer)(°)を示しており、縦軸は、測定結果を最大強度で規格化した規格化強度(normalized intensity)を示している。
図20には、測定結果をフィッティングしたフィッティング曲線も示している。最大透過強度(maximum transmitted intensity)及び最小透過強度(minimum transmitted intensity)をそれぞれImax及びiminとしたとき、{(Imax-Imin)/(Imax+Imin)}で表される偏光比(polarization ratio)は、0.997であった。
【0117】
ビーム品質を、M
2で評価した。具体的には、パルスレーザー光L2を、レンズ(焦点距離:300mm)によって集光した。パルスレーザー光L2の伝搬方向に沿った集光位置の前後における複数の位置でビーム径を測定した。その測定結果から、M
2を算出した。ビーム径の測定結果は、
図21に示したとおりであった。図中の横軸は、ビーム径を測定した位置(position)(mm)を示しており、縦軸は、ビームの半径(beam radius)を示している。
図21では、上記Z軸に対して設定する3次元座標系のX軸方向及びY軸方向のビームの半径を示している。
図21における四角のマークは、X軸方向のビームの半径であり、白丸のマークは、Y軸方向のビームの半径である。
図21には、各測定位置におけるビームパターンも示している。
図21に示したように、焦点位置におけるファーフィールドパターンは、エアリーディスク及びエアリーパターンであった。
【0118】
図21から算出されるM
2は、X軸方向に対して6.8であり、Y軸方向に対して5.3であった。実験例2におけるM
2の数値は、2次モーメントのビーム径に基づいた値である。更に、光電力の86.5%のビーム径に基づいたM
2
PCも算出した。X軸方向及びY軸方向のM
2
PCは、それぞれ6.5及び5.2であった。ここで、下記式(1)でX軸方向及びY軸方向のM
2の平均M
2
aveを定義する。
【数1】
【0119】
この場合、X軸方向及びY軸方向に対して算出されたM2の平均M2
aveは6であった。同様に、X軸方向及びY軸方向に対して算出されたM2
pcの平均M2
aveは、5.8であった。以下、実験例2におけるビーム品質を示すM2は上記平均M2
aveを意味する。M2
PCについても同様である。
【0120】
更に、実験例2では、不安定共振器を有するレーザー装置2Cを、安定共振器を有するレーザー装置(以下、「比較用レーザー装置」と称す)と比較した。この比較のための実験例を、実験例2aと称する。
【0121】
比較用レーザー装置の構成は、レーザー装置2Cにおいて、第2反射部12の代わりに、第1反射部11とともに安定共振器を形成するための平面鏡を配置した点以外の構成は同じであった。平面鏡の反射率は、波長1064nmの光に対して50%であった。
【0122】
実験例2aは、上記装置の構成以外の点は、レーザー装置2C及び比較用レーザー装置を用いた実験を同じ条件で行った。
【0123】
レーザー装置2Cと比較用レーザー装置との比較は、異なるレーザーエネルギーレベルで行った。具体的には、テレスコープである入射光学系18Cに対してレーザー媒質14の位置を数mmの範囲で変化させることによって、3つの異なる励起サイズで、レーザー媒質14を励起した。レーザー媒質14の第1端面14a(
図16参照)における励起光L1の直径は、10%程度の違いで約2.6mmであった。入射光学系18Cとレーザー媒質14とが5mmのように近く、励起光L1のエネルギーが高い場合、励起光L1のイメージングは難しい。そのため、次のようにして上記励起光L1の直径を推定した。
【0124】
0.1mm厚のNd:YAGセラミックを別途用意し、入射光学系18Cを、レーザー装置2Cと比較用レーザー装置とを比較する場合と同じ距離に配置して、励起光L1をNd:YAGセラミックに照射して生じる蛍光を撮像した。その撮像結果から上記励起光L1の直径を推定した。
【0125】
図22は、励起光のサイズが異なる場合に対する
図16に示したレーザー装置2C及び比較用レーザー装置から出力されるパルスレーザー光のビームパターンの測定結果を示す図面である。図中の数値は、出力されたパルスレーザー光のエネルギーを示している。図中の数値のうち、8.8mJ、11.5mJ及び13.2mJのビームパターンは、上述した3つの異なる直径に対する励起光L1に対して(すなわち、3つの異なる励起条件において)レーザー装置2Cから出力されたパルスレーザー光L2のビームパターンである。図中の数値のうち、10.2mJ、14.3mJ及び18mJのビームパターンは、励起光L1の関係において、8.8mJ、11.5mJ及び13.2mJと対をなしている。すなわち、8.8mJのビームパターンを取得した際に使用した励起光L1の条件と、10.2mJのビームパターンを取得した際に使用した励起光L1の条件は同じである。
【0126】
図22に示したように、不安定共振器を有するレーザー装置2Cの場合、上記3つの異なる励起条件でもほぼ同様のパターンが得られた。一方、安定共振器を有する比較用レーザー装置の場合、高次モードの発振により、互いに異なり且つ劣化したパターンであった。その結果、安定共振器による上記高次モードの発振により、
図23に示したように、安定共振器を有する比較用レーザー装置から出力されたパルスレーザー光のパルス幅は、不安定共振器を有するレーザー装置2Cから出力されたパルスレーザー光L2のパルス幅より広がっていた。
図23は、
図22に示した各ビームパターンを有するパルスレーザー光のパルス幅の測定結果である。図中の横軸は、時間(ns)を示しており、縦軸は、規格化強度を示している。図中の“unstable”及び“stable”で示される結果は、それぞれ不安定共振器を有するレーザー装置2C及び安定共振器を有する比較用レーザー装置の結果を意味しており、図中に示されたエネルギー値は、
図22に示されたエネルギー値に対応する。
【0127】
図24は、
図23に示した結果から算出されたパルス幅をプロットした図面である。
図24の横軸は、パルスエネルギー(mJ)を示しており、縦軸は、パルス幅(ns)を示している。
図24に示したように、レーザー装置2Cから出力されたパルスレーザー光L2のパルス幅は約0.5nsであった。一方、比較用レーザー装置から出力されたパルスレーザー光のパルス幅は約1.25nsであり、レーザー装置2Cから出力されたパルスレーザー光L2の約2.5倍であった。
【0128】
すなわち、不安定共振器を有しており均一なドーナツパターンを実現可能なレーザー装置2Cでは、より短いパルス幅の実現によって、高ピークパワーを実現できる。
図25は、ピークパワーの測定結果を示している。
図25の横軸は、パルスエネルギー(mJ)を示しており、縦軸は、ピークパワー(MW)を示している。
図25には、
図22~
図24の場合と同様に、不安定共振器を有するレーザー装置2C及び安定共振器を有する比較用レーザー装置から出力された異なるエネルギーレベルのパルスレーザー光の結果が示されている。安定共振器を用いた場合、パルス幅が広がっているため、最大ピークパワーである27.7MWは、不安定共振器を用いた場合に実現されていた。
【0129】
上記ビームパターンの劣化は、ビーム品質M
2にも影響を与えていた。
図26は、実験例2aにおいて得られたM
2を示す図面である。
図26の横軸は、パルスエネルギー(mJ)を示しており、縦軸は、M
2を示している。
図26には、
図22~
図25の場合と同様に、不安定共振器を有するレーザー装置2C及び安定共振器を有する比較用レーザー装置から出力された異なるエネルギーレベルのパルスレーザー光の結果が示されている。
図26では、M
2
pcの結果も示している。
【0130】
図26より、不安定共振器を用いた場合、M
2(M
2
pc)の値は、5.7(5.2)と6.7(6.1)の間で変動しているが、エネルギーの増加に伴って増加はしなかった。一方、安定共振器を用いた場合のM
2の値は、10mJより大きいエネルギーで、不安定共振器を用いた場合のM
2の値より高く、更に、エネルギーの増加に伴いM
2の値も増加していた。従って、均一なドーナツパターンを実現可能なレーザー装置2Cでは、エネルギーの大きさに対して安定したビーム品質M
2を実現可能である。
【0131】
パルスレーザー光のピークエネルギーをP0とし、波長をλとした場合、輝度(brightness)Bは、P0/(λM2)2で表される。輝度Bの計算式中の「M2」は、ビーム品質を示すM2である。その結果、均一なドーナツパターンを実現可能なレーザー装置2Cでは、高輝度を実現可能である。
【0132】
図27は、実験例2aの結果から得られた輝度を示す図面である。図中の横軸は、パルスエネルギー(mJ)を示しており、縦軸は、輝度(TW・sr
-1・cm
-2)を示している。
【0133】
例えば、レーザー装置2Cから出力されるパルスレーザー光L2のエネルギーが20mJ程度であった場合、安定共振器を用いた場合に対して1桁程度大きい輝度を実現可能である。これは、安定共振器を用いた場合、エネルギーが20mJ程度のパルスレーザー光においては、パルス幅及びM2はともに増加しているからである。
【0134】
更に、実験例2では、レーザー装置2Cから出力されるドーナツ状のパルスレーザー光L2(ドーナツビーム)のレーザー誘起ブレークダウンに対する有効性を、近ガウシアン(near-Gaussian)ビームの場合と比較した。具体的には、ドーナツ状のパルスレーザー光L2(ドーナツビーム)及び近ガウシアンビームそれぞれの場合における空気中でのレーザー誘起ブレークダウンの閾値を測定した。以下、実験例2におけるレーザー誘起ブレークダウンに対する有効性に関する実験を実験例2bと称す。
【0135】
上記近ガウシアンビームは、パルス幅可変レーザー(pulse width tunable laser)
と増幅器を用いて形成した。パルス幅可変レーザーは、下記参考文献1に記載のレーザーを用いた。増幅器には、下記参考文献2,3に記載の増幅器を用いた。
参考文献1:H. H. Lim and T. Taira, “Sub-nanosecond laser induced air-breakdown with giant-pulse duration tuned Nd: YAG ceramic micro-laser by cavity-length control,” Opt. Express 25(6), 6320-6310 (2017).
参考文献2:V. Yahia and T. Taira, “High brightness energetic pulses delivered by compact microchip-MOPA system,” Opt. Express 26(7), 8609-8618 (2018).
参考文献3:T. Kawasaki, V. Yahia, and T. Taira, “100 Hz operation in 10 PW/sr・cm2 class Nd:YAG micro-MOPA,” Opt. Express 27(14) 19555-19561 (2019).
【0136】
以下の説明では、ドーナツ状のパルスレーザー光L2をドーナツビームと称す。
【0137】
実験例2bのレーザー誘起ブレークダウンの実験は、参考文献1に記載の方法で行った。具体的には、ドーナツビーム及び近ガウシアンビームとして直線偏光のビームを用いた。ドーナツビーム及び近ガウシアンビームそれぞれを、実験室の空気中に、集束レンズ(focusing lens)を用いて集光し、エアブレークダウン(air-breakdown)を観測した。実験は、8~62mmの範囲で焦点距離が異なる7つの集束レンズに対してそれぞれ行った。白い火花(white spark)を、集光レンズ及びシリコン光検出器(Si-photodetector)を用いて、ビームの進行方向に対して90°方向から検出することによって、エアブレークダウンを確認した。散乱されたレーザービームをブロックするためにローパスフィルターを用いた。ブレークダウン閾値は、レーザーパルス列(laser pulse train)に関してブレークダウンが100%成功する際における最小エネルギーと定義した。
【0138】
ドーナツビームの場合と近ガウシアンビームの場合とにおいて、M2以外の実験条件は同じとした。具体的には、集束レンズ上の平行ビームのサイズ(collimated beam size)、波長、M2、及びパルス幅は、フォーカルフルエンス(focal fluence)及び強度を決定するので、ドーナツビームの場合と近ガウシアンビームの場合とにおいて平行ビームのサイズ、波長及びパルス幅を同じとした。近ガウシアンビームを使用する場合のパルス幅及び集束レンズ上の平行ビームのサイズは、共振器長を調整するとともにテレスコープを使用して、ドーナツビームの場合と一致させた。集束レンズ上の平行ビームのサイズは、レーザー装置(具体的には、レーザー装置2C及び近ガウシアンビームを出力するレーザー装置)から集束レンズと同じ距離にカメラを配置して計測した。実験では、M2が6のドーナツビームを使用するとともに、M2が1.3の近ガウシアンビームを使用した。ドーナツビーム及び近ガウシアンビームの集束ビームウエスト(focal beam waist)をそれぞれwd及びwGとし、ドーナツビーム及び近ガウシアンビームのM2をそれぞれM2
d及びM2
Gとしたとき、それらの比(wd/wG)は、(M2
d/M2
G)である。上記のように、M2
dは6であり、M2
Gが1.3であることから、wd/wGは、6/1.3(約4.6)であった。
【0139】
図28は、実験例2bにおけるドーナツビーム及び近ガウシアンビームの集束レンズ上のビームパターンの測定結果を示す図面である。図中の上側がドーナツビームのビームパターンであり、下側が近ガウシアンビームのビームパターンである。
図29は、実験例2bにおけるドーナツビーム及び近ガウシアンビームのパルス波形を示した図面である。図中の横軸は時間(ns)であり、縦軸は、規格化強度を示している。図中の “Doughnut”及び “Gaussian”で示される結果は、それぞれドーナツビーム及び近ガウシアンビームの結果を意味している。
【0140】
ドーナツビーム及び近ガウシアンビームのパルス幅(τ)はそれぞれ570psであった。ドーナツビーム及び近ガウシアンビームの直径は、それぞれ7.5mmであった。
【0141】
ブレークダウンの閾値エネルギーE
thの測定結果は、
図30に示したとおりであった。ドーナツビームの場合及び近ガウシアンビームの場合の閾値エネルギーE
thをそれぞれE
th,d及びE
th,Gと称す。図中の横軸は、焦点距離(mm)を示している。図中の左側の縦軸は、閾値エネルギーE
th(mJ)を示しており、右側の縦軸は、E
th,dとE
th,Gの比(E
th,d/E
th,G)を示している。
【0142】
図30中の“Doughnut”及び“near-Gaussian”で示される結果(すなわち、白丸のマーク及び黒塗りの四角のマークで示される結果)は、それぞれドーナツビーム及び近ガウシアンビームの結果を示している。図中の黒塗りの四角のマークは、比(E
th,d/E
th,G)を示している。
【0143】
焦点距離の変化範囲における比(Eth,d/Eth,G)の平均値は1.08であり、標準偏差は0.22であった。すなわち、ドーナツビームは、焦点位置におけるビームサイズが近ガウシアンビームと4.6倍違う(すなわち、フルエンス又は強度では21倍違う)一方、エアブレークダウン(air-breakdown)に対して、近ガウシアンビームと同等の性能を有していた。
【0144】
これは、焦点位置におけるドーナツビームのエアリーディスクによるものと考えられる。
【0145】
図31は、M
2の算出のために計測された焦点位置でのドーナツビームのビームパターンを示している。
図31において、ビームの中心を原点としてx軸及びy軸を設定する。
図31に示したように、焦点位置において、ドーナツビームは、エアリーディスク及びエアリーパターンを示している。
【0146】
図32は、
図31に示したドーナツビームの断面方向の強度分布を示す図面であり、中心部におけるy軸方向に沿った断面の強度が白丸でプロットされている。図中の横軸はy軸方向における位置を示しており、縦軸は、規格化強度を示している。エアリーディスク及びエアリーパターンの2次モーメントビーム直径(2Wy)は、0.29mmであった。
図32中には、同じビーム直径(0.29mm)を有するガウシアン分布を実線で示すとともに、0.2Wyを直径とするガウシアン分布を破線で示している。一方、エアリーディスクのみのサイズは、全サイズである0.29mmの約0.2倍と推定される。この約0.2倍の小さな有効ビームサイズが、M
2が6であるドーナツビームをM
2が1.3である近ガウシアンビームと同等の性能を実現させていると考えられる。よって、本発明の一実施形態に係るレーザー装置2Cが出力されるドーナツ状のパルスレーザー光L2(ドーナツビーム)を用いたガス(空気)中におけるレーザー誘起ブレークダウンは、M
2が1.3である近ガウシアンビームと同等の性能を有し得ることが理解され得る。
【0147】
本発明は、上述した実施形態、変形例及び実験例に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で更に種々の変形が可能である。
【0148】
レーザー媒質と可飽和吸収部とは接合されていてもよい。この場合、レーザー媒質及び可飽和吸収部の接合体におけるレーザー媒質及び可飽和吸収部の接合方向の長さ(
図16の例では、長さl)は10mmより小さくてもよいし、または第1反射部と第2反射部との間の距離より小さくてもよい。
【0149】
図16に示したように、レーザー装置が、第2反射部からみて第1反射部と反対側に不安定共振器から出力されるレンズをレーザー装置が有する場合、レンズの焦点距離の例は、30mm~200mmであり、100mm~150mmでもよい。
【0150】
不安定共振器を形成する第1反射部及び第2反射部は、例示した形態に限定されない。第2反射部を支持する支持体の形状も例示した形態に限定されない。
【0151】
第1反射部及び第2反射部が曲率を有する場合、第1反射部の曲率半径をRb及び第2反射部の曲率半径をRoとしたとき、一実施形態において、第1反射部及び第2反射部は、例えば、次の式で表され得るRb及びRoを有する反射部であってもよい。
Ro=-2d/(m-1)
Rb=2md/(m-1)
上記Rb及びRoの式において、mは、
図2を利用して説明した拡大率m(=b/a)であり、dは、
図1を利用して説明した共振器長dである。
【0152】
拡大率mにおけるaは、第2反射部の大きさ(直径など)に対応し、bは、出力されるパルスレーザー光(ドーナツビーム)の径に対応する。よって、レーザー装置は、上記Rb及びRoの式を用いて、所望の拡大率mを有するドーナツ状のパルスレーザー光を得るように設計され得る。
【0153】
以上説明した種々の実施形態、変形例などは、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜組み合わされてもよい。
【符号の説明】
【0154】
1A,1B,1C,1D、2A,2B,2C…レーザー装置(光発振器)、10…第1反射部、10a…第1面(入射面)、12…第2反射部、14…レーザー媒質、14a…第1端面、14b…第2端面、16…Qスイッチ素子(可飽和吸収部)、26…支持体、26a…面(湾曲領域)、28…レンズ、L1,L4,L5…励起光、L2…パルスレーザー光、L3…注入レーザー光。