IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ディスコの特許一覧

<>
  • 特許-ウエーハの生成方法 図1
  • 特許-ウエーハの生成方法 図2
  • 特許-ウエーハの生成方法 図3
  • 特許-ウエーハの生成方法 図4
  • 特許-ウエーハの生成方法 図5
  • 特許-ウエーハの生成方法 図6
  • 特許-ウエーハの生成方法 図7
  • 特許-ウエーハの生成方法 図8
  • 特許-ウエーハの生成方法 図9
  • 特許-ウエーハの生成方法 図10
  • 特許-ウエーハの生成方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】ウエーハの生成方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20240610BHJP
   B23K 26/53 20140101ALI20240610BHJP
   B28D 5/04 20060101ALI20240610BHJP
   B26F 3/00 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
H01L21/304 611Z
B23K26/53
B28D5/04 B
B26F3/00 E
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020071076
(22)【出願日】2020-04-10
(65)【公開番号】P2021168347
(43)【公開日】2021-10-21
【審査請求日】2023-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100202496
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿角 剛二
(74)【代理人】
【識別番号】100202692
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 吉文
(72)【発明者】
【氏名】能丸 圭司
【審査官】杢 哲次
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/192691(WO,A1)
【文献】特開2012-109341(JP,A)
【文献】特開2006-245498(JP,A)
【文献】国際公開第2007/087354(WO,A2)
【文献】特開2009-295973(JP,A)
【文献】特表2019-516233(JP,A)
【文献】特開平8-39500(JP,A)
【文献】特開2016-215231(JP,A)
【文献】国際公開第2019/044588(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B23K 26/53
B28D 5/04
B26F 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面と、下面と、側面とを備えたインゴットからウエーハを生成するウエーハの生成方法であって、
インゴットに対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を、生成すべきウエーハの厚みに相当する位置の側面から内部に位置付けて照射して改質層を該側面の全周にわたって、又は円弧状に形成する改質層形成工程と、
インゴットの上面から外力を付与して該改質層から内部に延びる亀裂に応力を集中させ該亀裂を側面側から内部に向かって進展させて剥離層を形成する剥離層形成工程と、
該剥離層を起点として生成すべきウエーハをインゴットから剥離してウエーハを生成するウエーハ生成工程と、
を含み構成され
該剥離層形成工程において、インゴットの上面から付与される外力は、レーザー光線であり、該レーザー光線は外周から内側に向かって螺旋状に照射されるか、又は割り出し送りしながら、直線状に照射され、
該剥離層形成工程において照射されるレーザー光線は、インゴットに対して吸収性を有する波長であると共に、インゴットの内部に集光点が位置付けられても改質層が形成されない出力で照射されるものであり、該剥離層形成工程において照射されるレーザー光線の集光点が位置付けられる深さは、上面と改質層形成工程において形成された改質層との間に設定され、生成すべきウエーハを部分的に膨張させて該改質層に沿った亀裂を側面から内部に進展させるウエーハの生成方法。
【請求項2】
該改質層形成工程と、該剥離層形成工程との間に、インゴットの側面から切削ブレードを位置付けて改質層を彫り込んで切込み溝を形成し、該改質層から内部に延びる亀裂を成長させる請求項1に記載のウエーハの生成方法。
【請求項3】
該改質層形成工程において、生成すべき複数のウエーハに対応して改質層を複数形成する請求項1又は2に記載のウエーハの生成方法。
【請求項4】
該改質層形成工程において、生成すべき複数のウエーハに対応して改質層を複数形成した場合、該ウエーハ生成工程で生成すべきウエーハをインゴットの上面から剥離した後、次に生成すべきウエーハに対応する改質層から内部に延びる剥離層を形成する剥離層形成工程を実施する、請求項に記載のウエーハの生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インゴットからウエーハを生成するウエーハの生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
IC、LSI、LED等のデバイスは、シリコン、サファイア等を素材としてウエーハの表面に機能層が積層され、分割予定ラインによって区画されて形成される。そして、切削装置やレーザー加工装置によってウエーハの分割予定ラインに加工が施されて個々のデバイスチップに分割され、携帯電話、パソコン等の電気機器に利用される。
【0003】
また、パワーデバイス、LED等は、SiC、GaN等の六方晶単結晶を素材としたウエーハの表面に機能層が積層され分割予定ラインによって区画されて形成される。
【0004】
デバイスが形成されるウエーハは、一般的にインゴットをワイヤーソーでスライスして生成され、スライスされたウエーハの表裏面を研磨して、鏡面に仕上げられる。(例えば、特許文献1を参照)。
【0005】
しかし、インゴットをワイヤーソーで切断し、表裏面を研磨してウエーハを生成すると、インゴットの70%~80%が捨てられることになり、不経済であるという問題がある。特に、SiC、GaN等の六方晶単結晶インゴットは硬度が高く、ワイヤーソーでの切断が困難であることからスライスするのに相当の時間がかかり、生産性が悪いと共に、インゴットの単価が高く、効率よくウエーハを生成することに課題がある。
【0006】
そこで、捨てられる比率を削減すべく、インゴットに対して透過性を有するレーザー光線の集光点をインゴットの上面から内部に位置付けて照射し、切断予定面に改質層を形成し剥離面としてウエーハを分離する技術が提案されている(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2000-094221号公報
【文献】特開2013-049161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記した特許文献2に記載の技術では、改質層を形成するレーザー光線を切断予定面の全域に対して10μm程度の間隔で密に照射しなければならず、時間が掛かり、生産性が悪いという問題がある。
【0009】
本発明は、上記事実に鑑みなされたものであり、その主たる技術課題は、インゴットからウエーハを効率よく生成し、捨てられる量を軽減することができるウエーハの生成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記主たる技術課題を解決するため、本発明によれば、上面と、下面と、側面とを備えたインゴットからウエーハを生成するウエーハの生成方法であって、インゴットに対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を、生成すべきウエーハの厚みに相当する位置の側面から内部に位置付けて照射して改質層を該側面の全周にわたって、又は円弧状に形成する改質層形成工程と、インゴットの上面から外力を付与して該改質層から内部に延びる亀裂に応力を集中させ該亀裂を側面側から内部に向かって進展させて剥離層を形成する剥離層形成工程と、該剥離層を起点として生成すべきウエーハをインゴットから剥離してウエーハを生成するウエーハ生成工程と、を含み構成され、該剥離層形成工程において、インゴットの上面から付与される外力は、レーザー光線であり、該レーザー光線は外周から内側に向かって螺旋状に照射されるか、又は割り出し送りしながら、直線状に照射され、該剥離層形成工程において照射されるレーザー光線は、インゴットに対して吸収性を有する波長であると共に、インゴットの内部に集光点が位置付けられても改質層が形成されない出力で照射されるものであり、該剥離層形成工程において照射されるレーザー光線の集光点が位置付けられる深さは、上面と改質層形成工程において形成された改質層との間に設定され、生成すべきウエーハを部分的に膨張させて該改質層に沿った亀裂を側面から内部に進展させるウエーハの生成方法が提供される。
【0013】
該改質層形成工程と、該剥離層形成工程との間に、インゴットの側面から切削ブレードを位置付けて改質層を彫り込んで切込み溝を形成し、該改質層から内部に延びる亀裂を成長させることが好ましい。
【0014】
該改質層形成工程において、生成すべき複数のウエーハに対応して改質層を複数形成することもでき、該改質層形成工程において、生成すべき複数のウエーハに対応して改質層を複数形成した場合、該ウエーハ生成工程で生成すべきウエーハをインゴットの上面から剥離した後、次に生成すべきウエーハに対応する改質層から内部に延びる剥離層を形成する剥離層形成工程を実施するようにすることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のウエーハの生成方法は、上面と、下面と、側面とを備えたインゴットからウエーハを生成するウエーハの生成方法であって、インゴットに対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を、生成すべきウエーハの厚みに相当する位置の側面から内部に位置付けて照射して改質層を該側面の全周にわたって、又は円弧状に形成する改質層形成工程と、インゴットの上面から外力を付与して該改質層から内部に延びる亀裂に応力を集中させ該亀裂を側面側から内部に向かって進展させて剥離層を形成する剥離層形成工程と、該剥離層を起点として生成すべきウエーハをインゴットから剥離してウエーハを生成するウエーハ生成工程と、を含み構成され、該剥離層形成工程において、インゴットの上面から付与される外力は、レーザー光線であり、該レーザー光線は外周から内側に向かって螺旋状に照射されるか、又は割り出し送りしながら、直線状に照射され、該剥離層形成工程において照射されるレーザー光線は、インゴットに対して吸収性を有する波長であると共に、インゴットの内部に集光点が位置付けられても改質層が形成されない出力で照射されるものであり、該剥離層形成工程において照射されるレーザー光線の集光点が位置付けられる深さは、上面と改質層形成工程において形成された改質層との間に設定され、生成すべきウエーハを部分的に膨張させて該改質層に沿った亀裂を側面から内部に進展させることから、インゴットの側面側から形成された改質層から内部に延びるように形成された亀裂を効率よく内部に進展させて剥離層を形成でき、インゴットからウエーハを生成する際に捨てられる量を軽減することができると共に、効率よくウエーハを生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】加工装置の保持テーブルに載置され保持されたインゴットの斜視図である。
図2】改質層形成工程の実施態様を示す斜視図である。
図3】インゴットの側面から切削ブレードを位置付けて改質層を彫り込む態様を示す斜視図である。
図4】(a)螺旋状にレーザー光線を照射して剥離層を形成する態様を示す斜視図、(b)割り出し送りしながら直線状にレーザー光線を照射して剥離層を形成する態様を示す斜視図、(c)レーザー光線を照射して、インゴットの内部に膨張領域を形成する態様を示す一部拡大断面図である。
図5】ウエーハ生成工程の実施態様を示す斜視図である。
図6】(a)改質層形成工程の別の実施態様を示す斜視図、(b)(a)に示す改質層形成工程を施したインゴットの側面図である。
図7】複数の改質層を形成したインゴットに対してレーザー光線を使用して剥離層形成工程を実施する態様を示す一部拡大断面図である。
図8図7に示す剥離層形成工程を実施した後に実施されるウエーハ生成工程の実施態様を示す斜視図である。
図9図7に示す剥離層形成工程の別の実施態様を示す一部拡大断面図である。
図10図7に示す剥離層形成工程のさらに別の実施態様を示す一部拡大断面図である。
図11】インゴットに対して超音波付与手段を使用して剥離層形成工程を実施する態様を示す一部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に基づいて構成されるウエーハの生成方法に係る実施形態について、添付図面を参照しながら、詳細に説明する。
【0018】
図1には、本実施形態で加工が施されるインゴット20が示されている。インゴット20は、例えば、シリコン(Si)のインゴットであり、研磨加工が施された上面20aと、下面20bと、側面20cとからなる円柱状の部材である。インゴット20は、直径が200mm、高さ(厚み)が100mmである。インゴット20は、加工装置30(一部のみを示している)に搬送され、保持テーブル32の上面であって平坦に形成された保持面32aに載置され、ワックス、接着剤等で固定されている。
【0019】
本実施形態のウエーハの生成方法を実施するに際し、まず、図2に示すように、保持テーブル32に固定されたインゴット20の側面20cと対向する位置に、レーザー光線照射手段34の集光器341を位置付ける。レーザー光線照射手段34は、インゴット20に対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線LB1を照射する手段である。図示は省略するが、レーザー光線照射手段34は、所定のパルスレーザー光線LB1を発振する発振器を含む光学系を備えており、本実施形態では、以下のレーザー加工条件でレーザー光線LB1を照射するように設定されている。
波長 :1064nm
繰り返し周波数 :80kHz
平均出力 :3.2W
パルス幅 :4ns
スポット径 :φ5μm
開口率(NA) :0.45
【0020】
レーザー光線照射手段34の集光器341から照射されるレーザー光線LB1の集光点は、インゴット20の上面20aからみて、生成すべきウエーハの厚みに相当する深さ(例えば、1mm)であって、側面20cから100μm内側の位置に設定される。該集光点の位置を設定したならば、レーザー光線照射手段34を上記したレーザー加工条件で作動して、加工開始点(図中100aで示す)からレーザー光線LB1を照射すると共に、保持テーブル32の回転駆動手段(図示は省略)を作動して、保持テーブル32を矢印R1で示す方向に回転させて、インゴット20の側面20cの全周にわたり改質層100を形成する(改質層形成工程)。なお、改質層100を形成する際の送り速度は、例えば、400mm/秒である。
【0021】
上記した改質層形成工程を実施したならば、本実施形態においては、次工程の剥離層形成工程を実施する前に、図3に示すように、インゴット20の側面20cから切削手段40を使用して改質層100を彫り込み、改質層100から内部に延びる亀裂を成長させる亀裂成長工程を実施する。図3を参照しながら、その手順についてより具体的に説明する。
【0022】
図3に示すように、切削手段40は、電動モータ41と、電動モータ41によって矢印R2で示す方向に回転させられる切削ブレード42と、切削ブレード42をインゴット20の側面20cに向けて水平方向に切込み送りする駆動手段(図示は省略)を備えている。切削ブレード42をインゴット20の側面20cに対向する位置であって、改質層100が形成された深さ位置に位置付け、電動モータ41を作動して側面20cからインゴット20の内部の方向に切込み送りし、これと同時に、保持テーブル32を矢印R1で示す方向に回転させる。切込み送り量は、側面20cから内部に向けて約1mm程度である。このように改質層100を彫り込むことで、改質層100が形成された位置に切込み溝110が形成され、さらに、改質層100と共に形成されていた亀裂を内部方向に成長させることができる。なお、改質層100を形成することで十分な亀裂が生成できている場合は、当該亀裂成長工程は省略してもよい。
【0023】
上記したように、改質層形成工程、及び任意で実施される亀裂成長工程を実施したならば、インゴット20の上面20aから外力を付与してインゴット20の内部に形成された亀裂に応力を集中させ該亀裂を側面20c側から内部方向に進展させて剥離層を形成する剥離層形成工程を実施する。
【0024】
本実施形態の剥離層形成工程において外力の付与を実施する方法は、種々の方法から選択することができ、例えば、インゴット20の上面20aからレーザー光線を照射する方法を選択することができる。さらに、インゴット20の上面20aからレーザー光線を照射する方法についても、複数の方法から選択することが可能である。
【0025】
剥離層形成工程において外力を付与する第一の外力付与手段は、例えば、インゴット20に対して吸収性を有する波長のレーザー光線の集光点を、生成すべきウエーハの内部の位置に位置付けて照射し、生成すべきウエーハの内部を部分的に膨張させて膨張領域を形成する手段を選択することができる。図4を参照しながら、より具体的に説明する。
【0026】
図4には、第一の外力付与手段として使用されるレーザー光線照射手段50(一部のみ示す)の集光器52が示されている。レーザー光線照射手段50から照射されるレーザー光線LB2のレーザー加工条件は、例えば、以下の通りである。なお、レーザー光線LB2は、パルスレーザー光線、連続波のレーザー光線のいずれであってもよい。
波長 :900~1100nm
繰り返し周波数 :80kHz(パルスレーザー光線の場合)
平均出力 :0.5W
パルス幅 :100ns(パルスレーザー光線の場合)
スポット径 :φ10μm
開口率(NA) :0.8
送り速度 :400mm/秒
割り出し送り :1mm
【0027】
図4(a)に示すように、上記した集光器52を、インゴット20の上面20aの外周近傍に位置付け、図4(c)に示すように、レーザー光線LB2の集光点P1を、上面20aと改質層100が形成された深さ位置(点線で示している)との間、すなわち、生成すべきウエーハの内部に位置付ける。レーザー光線LB2は、上記したように、比較的弱い出力(0.5W)に設定されており、集光点P1の位置に改質層が形成されることがない出力であるが、集光点P1の近傍を加熱して膨張領域L1を形成する。集光点P1の位置は、レーザー光線LB2によって形成される膨張領域L1の下端P2が、改質層形成工程、又は亀裂成長工程において形成された亀裂C1の内側先端近傍になるように調整される。これにより、膨張領域L1の直下のインゴット20が上方から下方に向けて押されることになり、結果として、亀裂C1の先端に応力が集中して、新たな亀裂C2が内部に進展させられる。また、これと同時に、保持テーブル32を矢印R1で示す方向に回転させると共に、集光器52を、インゴット20の上面20aの中心に向かう矢印R3で示す方向に移動させる。これにより、レーザー光線LB2の集光点P1は外周から内側に向かって螺旋状に走査され、これと共に膨張領域L1が形成される位置も螺旋状に移動させられる。
【0028】
このときの保持テーブル32の回転速度は、レーザー光線LB2の照射位置の送り速度が400mm/秒になるように設定され、集光器52をR3で示す方向に移動させる際の移動速度は、レーザー光線LB2を螺旋状に照射する際の割り出し送りの間隔が1mm間隔になるように設定される。上記したように、レーザー光線LB2をインゴット20の上面20aから内部に向けて照射することにより、上記した改質層100が形成された深さ位置の全領域に亀裂C2が進展し、螺旋状の照射位置に沿って剥離層120が形成される。なお、図4(a)では、説明の都合上、剥離層120を点線で示しているが、実際は、剥離層120を外部から目視することはできない。
【0029】
上記した実施形態では、剥離層形成工程においてレーザー光線LB2を照射する際に、集光点P1の位置が平面視で螺旋状の軌跡を描くように照射したが、本発明はこれに限定されない。例えば、レーザー光線照射手段50のレーザー加工条件を上記したのと同様に設定し、インゴット20の上面20aの端部側にレーザー光線照射手段50の集光器52を位置付け、改質層形成工程によってインゴット20の内部に形成された改質層100から内部に向けて形成された亀裂C1に集光点P1を位置付ける。そして、図4(b)に示すように、図中矢印Xで示すX軸方向に保持テーブル32を移動させて、レーザー光線LB2を直線状に照射する。次いで、X軸方向と直交する矢印Yで示すY軸方向に、集光器52を1mmの間隔で割り出し送りして、繰り返しレーザー光線LB2を直線状に照射する。これにより、図4(c)で示したのと同様に、亀裂C1から新たな亀裂C2が進展され、インゴット20において改質層100を生成した深さ位置の全領域に剥離層130が形成される。
【0030】
なお、上記した実施形態では、改質層100を、インゴット20の側面20cの全周にわたり形成したが、本発明はこれに限定されず、全周に満たない範囲で円弧を形成するようにしてもよく、例えば、半周にわたり形成するようにしてもよい。ただし、円弧状に改質層100を形成した場合は、剥離層形成工程においてレーザー光線LB2を照射する際に、集光点P1の位置が平面視で螺旋状の軌跡を描くように照射しても、改質層100を形成しなかった領域で新たな亀裂C2が十分に進展せず、全領域に剥離層を形成することが困難である。よって、その場合は、改質層100を円弧状に形成した側から、図4(b)に示すように、レーザー光線LB2を直線状に照射し、X軸方向と直交する矢印Yで示すY軸方向に、順次割り出し送りして、繰り返しレーザー光線LB2を直線状に照射して、剥離層を形成するようにすることが好ましい。また、改質層100を円弧状に形成する場合は、半周以上の範囲で形成することが好ましい。
【0031】
そして、上記したように、改質層100を形成した深さ位置、すなわち、生成すべきウエーハの厚みに相当する深さ位置の全領域に剥離層が形成されたならば、図5に示すように、インゴット20の上面20a側を所定の吸引手段(図示は省略する)等により吸引して、上記した剥離層120、又は130を分割の起点として剥離し、ウエーハWを生成する(ウエーハ生成工程)。
【0032】
上記したように、インゴット20に対して、改質層形成工程、剥離層形成工程、ウエーハ生成工程を実施したならば、必要に応じてインゴット20の新たな上面20a’(剥離面)を研磨して鏡面とする研磨加工を実施して平坦面とし、再び、上記した改質層形成工程、亀裂成長工程、剥離層形成工程、ウエーハ生成工程を実施してウエーハWを生成する。これらを繰り返すことにより、インゴット20からウエーハWを効率よく生成することができる。
【0033】
上記した実施形態では、生成すべきウエーハの厚み(1mm)に相当する深さ位置であって、インゴット20の側面20cの全周にわたり1段の改質層100を形成する改質層形成工程を実施し、それに続き、上記した剥離層形成工程を実施したが、本発明はこれに限定されない。例えば、図6(a)に示すように、改質層形成工程において、生成すべき複数のウエーハに対応して複数段(例えば3段)、インゴット20の側面20cからレーザー光線LB1を照射し、図6(b)に示すように、改質層100A、100B、100Cをまとめて形成しておくようにしてもよい。このように複数段の改質層100A、100B、100Cをまとめて形成しておくことにより、剥離層形成工程、ウエーハ生成工程を連続して実施することができ、より一層の効率化を図ることができる。
【0034】
上記したように、インゴット20に対して複数段の改質層100A、100B、100Cをまとめて形成した場合に、上記した第一の外力付与手段を用いてウエーハを生成する手順について、図6に加え図7も参照しながら、以下に説明する。
【0035】
本実施形態においては、図6に基づいて説明したように、改質層形成工程において、予め改質層100A、100B、100Cがまとめて形成され、また、上記した切削手段40を使用して、インゴット20の側面20c側から改質層100A、100B、100Cを彫り込み、切込み溝110A、110B、110Cが形成され、改質層100A、100B、100Cが形成されていたそれぞれの位置から内部に延びる亀裂C1が進展させられている。なお、図7では、改質層100A、100B、100Cが形成されていた深さ位置を点線で示している。
【0036】
本実施形態においても、上記したレーザー光線LB2を上面20aから照射して、集光点P1を生成すべきウエーハの内部に位置づけ、膨張領域L1の下端P2が切込み溝110Aから延びる亀裂C1の先端位置になるようにしている。これにより、膨張領域L1の直下のインゴット20が、上方から下方に向けて押され、亀裂C1の先端に応力が集中して、新たな亀裂C2が内部に進展させられる。レーザー光線LB2の照射位置は、外周側から中心側へ、図中矢印R4で示す方向に走査、又は割り出し送りされ、インゴット20の内部に形成される膨張領域L1の位置もこれに応じて移動させられる。なお、レーザー光線LB2をインゴット20に対して走査、又は割り出し送りする方法は、上記した図4(a)又は図4(b)に基づいて説明した方法に沿って実施することができる。そして、インゴット20の上面20aから、インゴット20の全域にわたりレーザー光線LB2を照射することにより、生成すべきウエーハの厚みに対応する位置に剥離層が形成される(剥離層形成工程)。このようにして剥離層が形成されたならば、図8に示すように、剥離層が形成された領域の上面20a側を剥離することで、インゴット20からウエーハWが生成される(ウエーハ生成工程)。
【0037】
上記したように、インゴット20からウエーハWが生成された後、必要に応じて、図8に示す新たな上面20a’を研磨して鏡面とする研磨加工を実施する。次いで、次に生成すべきウエーハに対応する位置に形成された切込み溝110Bから延びるように形成された亀裂C1の先端位置に、レーザー光線LB2によって形成される膨張領域L1の先端を位置付ける。そして、インゴット20の新たな上面20a’から、インゴット20の全域に、レーザー光線LB2を照射して、上記したのと同様に剥離層を形成する。該剥離層を形成したならば、上記したウエーハ生成工程を実施して、再びウエーハWをインゴット20から剥離する。これを繰り返すことで、予め改質層を形成しておいた数だけ、剥離層形成工程、ウエーハ生成工程を連続して実施することができ、ウエーハWを効率よく生成することができる。
【0038】
改質層形成工程が施されたインゴット20に対して剥離層形成工程を実施すべくインゴット20の上面から外力を付与する手段として、以下に説明する第二の外力付与手段を実施するものであってもよい。
【0039】
第二の外力付与手段は、第一の外力付与手段と同様に、インゴット20の上面20aからレーザー光線を照射する手段であるが、インゴット20に対して吸収性を有する波長のパルスレーザー光線をインゴット20の上面20aに照射する手段である。図9を参照しながら、より具体的に説明する。
【0040】
本実施形態においても、改質層形成工程において、予め改質層100A、100B、100Cがまとめて形成され、さらに、上記した切削手段40を使用して、図9に示すように、インゴット20の側面20c側から改質層100A、100B、100Cが彫り込まれて、切込み溝110A、110B、110Cが形成されている。そして、改質層100A、100B、100Cが形成されていたそれぞれの位置から内部に延びる亀裂C1が進展させられている。なお、改質層100A、100B、100Cが形成されていた深さ位置を点線で示している。
【0041】
レーザー光線LB3のレーザー加工条件は、例えば、以下の通りである。
波長 :355nm、又は532nm
繰り返し周波数 :100kHz
平均出力 :100W
パルス幅 :100ns
スポット径 :φ1μm
送り速度 :100mm/秒
割り出し送り :2mm
【0042】
第二の外力付与手段によって剥離層形成工程を実施するに際し、まず、上記した第一の外力付与手段と同様に、インゴット20の上面20aの上方に集光器(図示は省略)を位置付ける。そして、該集光器を、インゴット20の上面20aの外周近傍に位置付け、レーザー光線LB3を上面20aに照射する。レーザー光線LB3は、上記したように、比較的強い平均出力(100W)に設定されているが、インゴット20に対して吸収性を有する波長に設定されていると共に、集光点がインゴット20の内部の深い位置になるように設定されていることから、インゴット20の上面20aを損傷させることなく、上面20aを瞬時に加熱して応力波L2を生成する。上面20aにおいて生成された応力波L2は、インゴット20の上面20aから矢印R5で示す方向に伝播する。そして、応力波L2が、インゴット20の内部、より具体的には、生成すべきウエーハの厚みに相当する位置であって、改質層形成工程において形成されていた亀裂C1に至ることで、亀裂C1にて反射する際に生じる応力によって新たな亀裂C2を側面20c側から内部に向かって進展させる。また、これと同時に、図4(a)で示したのと同様に、保持テーブル32を回転させると共に、レーザー光線LB3を照射する該集光器を、インゴット20の上面20aの中心に向かう矢印R6で示す方向に移動させる。これにより、レーザー光線LB3の照射位置はインゴット20の上面20aの外周から内側に向かって螺旋状に走査され、これと共にレーザー光線LB3が照射される位置も螺旋状に移動される。この結果、インゴット20の上面20aから生成すべきウエーハの厚みに相当する深さ位置に剥離層が形成される(剥離層形成工程)。なお、本実施形態においては、レーザー光線LB3を照射する際の送り速度が100mm/秒、割り出し送りが2mmとなるように、保持テーブル32の回転速度、及び該集光器の移動速度が設定される。
【0043】
上記したように剥離層が形成されたならば、図8を参照しながら説明したのと同様にしてウエーハ生成工程を実施して、インゴット20からウエーハWを生成する。そして、上面に形成される新たな上面20a’に対して必要に応じて研磨工程を実施し、さらに、同様にして、上記の第二の外力付与手段を作動して、再び、剥離層形成工程、ウエーハ生成工程を実施して、ウエーハWを生成する。
【0044】
さらに、本発明は、上記した第一の外力付与手段、第二の外力付与手段に限定されず、以下に説明する第三の外力付与手段を使用することにより剥離層形成工程を実施するものであってもよい。以下に、図10を参照しながら、第三の外力付与手段について説明する。
【0045】
第三の外力付与手段は、第一の外力付与手段、第二の外力付与手段と同様に、インゴット20の上面20aからレーザー光線を照射する手段であるが、インゴット20に対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線LB4をインゴット20の上面20aに照射する手段である。本実施形態においても、改質層形成工程において、予め改質層100A、100B、100Cがまとめて形成され、さらに、上記した切削手段40を使用して、図10に示すように、インゴット20の側面20c側から改質層100A、100B、100Cを彫り込み、切込み溝110A、110B、110Cが形成されている。そして、改質層100A、100B、100Cが形成されていたそれぞれの位置から内部に延びる亀裂C1が進展させられている。なお、改質層100A、100B、100Cが形成されていた深さ位置を点線で示している。
【0046】
レーザー光線LB4のレーザー加工条件は、例えば、以下の通りである。なお、レーザー光線LB4は、パルスレーザー光線である。
波長 :1064nm
繰り返し周波数 :80kHz
平均出力 :0.5W
パルス幅 :100ns
スポット径 :φ0.5μm
開口率(NA) :0.45
送り速度 :400mm/秒
割り出し送り :1mm
【0047】
第三の外力付与手段によって剥離層形成工程を実施するに際し、まず、上記した第一の外力付与手段、第二の外力付与手段と同様に、インゴット20の上面20aの上方に集光器(図示は省略)を位置付ける。さらに、該集光器から照射されるレーザー光線LB4の集光点P3の位置が、インゴット20の内部であって、亀裂C1の内側端部の位置になるように設定されている。そして、該集光器を、インゴット20の上面20aの外周近傍に位置付け、レーザー光線LB4を上面20aに照射する。レーザー光線LB4は、上記したように、インゴット20に対して透過性を有する波長に設定されており、集光点P3が形成された位置において、多光子吸収等の非線形吸収による応力が発生させられる。この際、レーザー光線LB4は、比較的弱い平均出力(0.5W)に設定されていることから、改質層等を生じさせることなく、亀裂C1にて生じる応力によって新たな亀裂C2を側面20c側から内部に向かって進展させる。また、これと同時に、図4(a)で示したのと同様に、保持テーブル32を回転させると共に、レーザー光線LB4を照射する該集光器を、インゴット20の上面20aの中心に向かう矢印R7で示す方向に移動させる。これにより、レーザー光線LB4の照射位置はインゴット20の上面20aの外周から内側に向かって螺旋状に走査され、これと共にレーザー光線LB4が照射される位置も螺旋状に移動させられる。この結果、インゴット20の上面20aから生成すべきウエーハの厚みに相当する深さ位置に剥離層が形成される(剥離層形成工程)。なお、本実施形態においては、レーザー光線LB3を照射する際の送り速度が100mm/秒、割り出し送りが2mmとなるように、保持テーブル32の回転速度、及び該集光器の移動速度が設定される。
【0048】
上記したように剥離層が形成されたならば、図8を参照しながら説明したのと同様にしてウエーハ生成工程を実施して、インゴット20からウエーハWを生成する。そして、上面に形成される新たな上面20a’に対して必要に応じて研磨工程を実施し、さらに、同様にして、上記の第三の外力付与手段を作動して、再び、剥離層形成工程、ウエーハ生成工程を実施して、ウエーハWを生成する。
【0049】
上記した第一の外力付与手段、第二の外力付与手段、及び第三の外力付与手段は、いずれも、インゴット20の上面20aからレーザー光線を照射することによって外力を付与する手段であるが、本発明はそれに限定されず、レーザー光線を照射する手段以外の方法によって外力を付与するものであってもよい。以下に、インゴット20の上面20aから超音波を付与して改質層100から内部に延びる亀裂C1に応力を集中させ新たな亀裂を側面20c側から内部に向かって進展させて剥離層を形成する第四の外力付与手段について、図11を参照しながら説明する。
【0050】
本実施形態においても、改質層形成工程において、予め改質層100A、100B、100Cがまとめて形成され、さらに、上記した切削手段40を使用して、図11に示すように、インゴット20の側面20c側から改質層100A、100B、100Cが彫り込まれて、切込み溝110A、110B、110Cが形成されている。そして、改質層100A、100B、100Cが形成されていたそれぞれの位置から内部に延びる亀裂C1が進展させられている。なお、改質層100A、100B、100Cが形成されていた深さ位置を点線で示している。
【0051】
第四の外力付与手段は、インゴット20の上面20a側から、上面20aに対して超音波振動を付与する超音波付与手段として機能する直径が10mmの超音波振動子62を備えている。この第四の外力付与手段によって剥離層形成工程を実施するに際し、まず、インゴット20の上面20aの上方であって、インゴット20の上面20aの外周近傍に超音波振動子62を位置付ける。なお、超音波振動子62によって付与される超音波の付与条件は、例えば、以下のように設定される。
超音波 :24kHz
平均出力 :20W
送り速度 :10mm/秒
超音波付与径 :φ10mm
割り出し送り :10mm
【0052】
本実施形態においては、上記した超音波振動子62を上面20aの外周に位置付けると共に、切削手段40の切削ブレード42をインゴット20の側面20cから位置付けて改質層100Aを彫り込むことで形成された切込み溝100Aに、図11に示すような楔70を位置付けて当接させる。次いで、超音波振動子62を作動して、上面20aに付与された超音波L3が、インゴット20の上面20aから矢印R8で示す方向に伝播する。そして、超音波L3が、インゴット20の内部、より具体的には、生成すべきウエーハの厚みに相当する位置であって、改質層形成工程において形成されていた亀裂C1に至り亀裂C1にて反射する際に生じる応力、及び上記した楔70の作用により、新たな亀裂C2を側面20c側から内部に向かって進展させる。また、これと同時に、図4(a)で示したのと同様に、保持テーブル32を回転させると共に、超音波を付与する超音波振動子62を、インゴット20の上面20aの中心に向かう矢印R9で示す方向に移動させる。これにより、超音波L3を付与する位置は、インゴット20の上面20aの外周から内側に向かって螺旋状に移動させられ、これと共に超音波が付与される位置も螺旋状に移動される。この結果、亀裂C2がインゴット20の中心まで進展させられ、生成すべきウエーハの厚みに相当する深さ位置の全領域に剥離層が形成される(剥離層形成工程)。なお、本実施形態においては、超音波振動子62によって超音波L3を付与する位置の送り速度は10mm/秒、割り出し送りが10mmとなるように、保持テーブル32の回転速度、及び超音波振動子62の移動速度が設定される。また、超音波振動子62を移動させる方法は、上記した螺旋状に限定されず、図4(b)に基づいて説明したように、割り出し送りしながら、X軸方向に直線状に移動させるものであってもよい。
【0053】
上記したように剥離層が形成されたならば、図8を参照しながら説明したのと同様にしてウエーハ生成工程を実施して、インゴット20からウエーハWを生成する。そして、上面に形成される新たな上面20a’に対して必要に応じて研磨工程を実施し、さらに、同様にして、上記の第四の外力付与手段を作動して、再び、剥離層形成工程、ウエーハ生成工程を実施して、ウエーハWを生成する。
【0054】
上記した実施形態によれば、インゴット20の外周を構成する側面20c側から形成された改質層100から内部に延びるように形成された亀裂C1を効率よく進展させて剥離層を形成していることから、インゴット20からウエーハWを生成する際に捨てられる量を軽減することができると共に、効率よくウエーハWを生成することができる。
【符号の説明】
【0055】
20:インゴット
20a、20a’:上面
20b:側面
20c:下面
30:加工装置
32:保持テーブル
34:レーザー光線照射手段
341:集光器
40:切削手段
41:電動モータ
42:切削ブレード
50:レーザー光線照射手段
52:集光器
60:超音波付与手段
62:超音波振動子
100:改質層
100A,100B、100C:改質層
110:切込み溝
110A、110B、110C:切込み溝
120、130:剥離層
C1、C2:亀裂
W:ウエーハ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11