(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】充電式リチウムイオン電池用カソード材料の前駆体
(51)【国際特許分類】
C01G 51/06 20060101AFI20240610BHJP
C01G 51/00 20060101ALI20240610BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240610BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20240610BHJP
【FI】
C01G51/06
C01G51/00 A
H01M4/505
H01M4/525
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021000848
(22)【出願日】2021-01-06
(62)【分割の表示】P 2019203304の分割
【原出願日】2018-02-07
【審査請求日】2021-01-07
【審判番号】
【審判請求日】2023-01-06
(32)【優先日】2017-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2017-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(73)【特許権者】
【識別番号】517107151
【氏名又は名称】ユミコア・コリア・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】テ-ヒョン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ジェンス・ポールセン
(72)【発明者】
【氏名】ジンドゥ・オ
(72)【発明者】
【氏名】マキシム・ブランジェロ
【合議体】
【審判長】原 賢一
【審判官】金 公彦
【審判官】後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】特開昭49-91996(JP,A)
【文献】特表2012-528773(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 51/00,51/06
H01M 4/00- 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
充電式リチウムイオン電池におけるカソード材料の前駆体であるコバルト系炭酸水酸化物化合物を製造する方法であって、
Co源を含む第1の水溶液を準備する工程と、
Na
2CO
3を含む第2の水溶液を準備する工程と、
両溶液を沈殿反応器内にて70℃を超える温度で混合し、それによりコバルト系炭酸水酸化物化合物を沈殿させながら、沈殿反応により形成されたあらゆるCO
2を反応器から排気する工程であって、反応器内の化合物の滞留時間が1~4時間である、工程と、
コバルト系炭酸水酸化物化合物を回収する工程と、
を含み、
前記Co源を含む第1の水溶液
はCoSO
4を含み、かつAl
2(SO
4)
3を更に含み、Alは、Co含有量に対して0.2~5mol%のモル比で存在する、方法。
【請求項2】
前記第2の水溶液が、
少なくとも2NのNa
2CO
3の溶液、又は
0.5~3mol/LのNa
2CO
3及び1~6mol/LのNaOHからなる溶液であって、Na
2CO
3中のNa含有量がNaOH中のNa含有量の2倍以上である、溶液、
のいずれかからなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の水溶液は、Ni、Mn、Mg、及びTiのうちいずれか1つ以上の供給源を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記Co源を含む溶液は、MgSO
4、NiSO
4及びMnSO
4のうちいずれか1つ以上を更に含み、Mg、Ni及びMnのいずれか1つ以上は、Co含有量に対して0.2~5mol%のモル比で存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
充電式リチウムイオン電池におけるカソード材料の前駆体であるコバルト系炭酸水酸化物化合物を製造する方法であって、
Co源を含む第1の水溶液を準備する工程と、
Na
2CO
3を含む第2の水溶液を準備する工程と、
両溶液を沈殿反応器内にて70℃を超える温度で混合し、それによりコバルト系炭酸水酸化物化合物を沈殿させながら、沈殿反応により形成されたあらゆるCO
2を反応器から排気する工程であって、反応器内の化合物の滞留時間が1~4時間である、工程と、
コバルト系炭酸水酸化物化合物を回収する工程と、
を含み、
両溶液を混合する工程中に、TiO
2、MgO及びAl
2O
3のうちいずれか1つ以上からなるナノメートル粉末が添加される、方法。
【請求項6】
前記コバルト系炭酸水酸化物化合物を回収する工程は、沈殿反応器に連結された沈降反応器に化合物を移し、その後、沈降した化合物を前記沈降反応器から前記沈殿反応器に再循環させる副工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の工程群を含む、リチオ化コバルト系酸化物を製造する方法であって、その後、
前記コバルト系炭酸水酸化物化合物をLi源と混合する工程と、
酸素含有雰囲気中で、950℃を超える温度で混合物を焼結する工程と、
を含む、方法。
【請求項8】
沈殿したコバルト系炭酸水酸化物化合物は、0.1~0.3重量%の不純物としてのNaを含み、
前記コバルト系炭酸水酸化物化合物をLi源と混合する工程中、又は
混合物を焼結する工程中のいずれかにて、
硫酸塩化合物を添加し、それによりSO
4のモル量をNaのモル含有量以上とし、その後、リチオ化コバルト系酸化物を水で洗浄する工程、及びリチオ化コバルト系酸化物を乾燥させる工程を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記硫酸塩化合物は、Li
2SO
4、NaHSO
4、CoSO
4及びNa
2S
2O
8のいずれか1つである、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野及び背景技術
本発明は、充電式リチウムイオン電池におけるカソード材料の前駆体として適用可能な粉末コバルト系化合物、及びこの前駆体を使用して充電式リチウムイオン電池用カソード材料を製造するプロセスに関する。より詳細には、前駆体化合物は、炭酸ナトリウムを用いた沈殿プロセスにより製造されるコバルト系炭酸水酸化物系化合物である。一実施形態では、前駆体化合物はその上、Al、Mg、Mn、Niなどといった元素でドープされ、好ましくはこの化合物は球状形態であり、それにより電気化学的性能が向上し、エネルギー密度が高くなるという恩恵がもたらされる。
【背景技術】
【0002】
コバルト酸リチウム(LiCoO2;以後、LCOと称する)-ドープされたもの、又はドープされていないもの-は、エネルギー密度が高く、サイクル寿命が良好であるために、携帯電話、タブレットPC、ラップトップコンピュータ、及びデジタルカメラといったほとんどの市販の携帯用電子機器にて、充電式電池のカソード材料として使用されてきた。LCOは六方晶のα-NaFeO2型構造(空間群R-3m)であり、リチウムイオンの層は、CoO6八面体のスラブ間に位置する。エネルギー密度が高く電気化学的特性が良好な、より小型かつより軽量な電池に対する需要が増加しているため、多くのR&Dグループがカソード材料、特にLCOの開発又は改善に取り組んでいる。
【0003】
リチウムイオン電池の体積エネルギー密度を増加させるには、より薄い集電体及びセパレータを適用する、充填密度がより高いカソード及びアノード材料を使用する、といったいくつかの方策がある。カソード材料の充填密度は、主に2つの要素に依存する。
第1に、LCOの粒径分布(以後、PSDと称する)は、粒子が限られた体積内にどれだけ近接して充填され得るかを決定するものであるため、体積密度と直接の関係がある。一般的に、D50値(正規分布におけるメジアン粒子の粒径である)が大きいほど、より高い充填密度が可能となる傾向がある。なお、粒子が大きいと結果として電極のコーティング品質が悪化し、集電体が損傷するため、D100(又はD99)値は可能な限り小さくするべきである。(D90-D10)/D50)の値であるスパンは、粒子の径がどの程度類似しているかを特定するための有用な基準であり、大きな粒子の、D50と比較した相対的な粒径を定義するものである。スパンが小さいほど、高密度を得るためにD50が大きい場合であっても、大きな粒子の課題は少なくなると予想される。
第2に、単一粒子の最大密度を得るには、単一粒子の空隙率を可能な限り低くするべきである。
【0004】
LCOは、リチウム(Li)前駆体(一般的にはLi2CO3)及びコバルト(Co)前駆体(典型的にはCo3O4)を使用して合成される。LCOにおける目標のD50値を得るためには、2つが可能である。1つは、焼結温度、焼結時間、及びLi対Co比といった合成条件を調整することである。Li対Co比及び焼結温度が十分に高い場合、粒子間の焼結が起こり、D50が著しく増加する。合成条件を調整することで、成形されていないコバルト前駆体を使用することが可能となる。焼結後の粒子の径は焼結条件により決定されるためである。この手法の欠点は、高い焼結温度が必要であり、それによりプロセスコストが増加すること、及び/又は得られたLCOのLi対Co化学量論比が高く、これは電気化学的性能にとって不都合であるということである。このジレンマは、国際公開第2009-003573号にて詳細に論じられた。
【0005】
代替的な手法は、米国特許公開第2015/0221945号に開示されているように、球状のCo3O4といった、事前に成形されたコバルト前駆体を使用することである。ここで、用語「成形された」は、最終LCOの所望の形状にすでに似ている前駆体を指す。これにより、焼結要件が緩和される。成形されていないコバルト前駆体を使用するとLCOの粒径が不規則になる-スパンがより広くなる-と予想されるため、この手法が好ましい。また、成形されていないコバルト前駆体からLCOを成形するには高温又はLi対Co比が高いことが必須であり、化学量論のLCOを得るには高いエネルギー消費又は追加の熱処理工程が必要となる。好ましい形態のLCOを得る方策は、D50が大きくスパンが狭い、成形されたコバルト前駆体から合成を開始することである。高密度かつ低空隙率であると、最終LCOのパッケージング密度が更に増加し焼結の労力が更に低減されるため、これは利点である。成形されたコバルト前駆体はまた、リチウム前駆体とのブレンドなどの処理中に破壊されないよう、機械的硬度が十分であるべきである。
【0006】
カソード材料は、リチウムイオン電池の電気化学的特性を決定する最も重要な構成材料の1つである。リチウムイオン電池のエネルギー密度を増加させる1つの方策は、より高い充電電圧を印加することにより、その動作電圧を増加させることである。しかし、充電電圧を増加させることにより充電率が増加するにつれて、結晶構造内に残るリチウムイオンが少なくなり、その結果熱力学的に不安定なCoO2となる。従って、脱リチオ化したカソード材料と電解質との反応の結果、コバルトが高電圧にて電解質中にゆっくりと溶出することがある。これはコバルト溶出と呼ばれ、結果として電池の故障につながる。LCOをドープすることにより、コバルト溶出を低減させるための多大な努力がなされてきた。中国特許第102891312(A)号、中国特許第105731551(A)号及び中国特許第102583585(B)号のように、ドーパントは焼結前にコバルト前駆体中にすでに存在し、十分に分布していることが好ましい。これは、成形されたコバルト前駆体をドーパントとブレンドする固体状態の手法(solid state approach)では、大きな粒子へのドーピングを良好なものとすることが難しいためである。成形された粒子であるLCO中にドーパントを完全に拡散させるには、長い焼結時間又は非常に高い焼結温度が必要となる。このことは、粒径が大きい、例えば>10μmである場合には、リチウム及びコバルト前駆体のブレンドの際にドーパントが添加される、合成プロセスにおいて特に当てはまる。
【0007】
LCOのコバルト前駆体は、沈殿プロセスにより製造することができる。例えば、特定濃度のCoSO4を有する溶液及び特定濃度のNaOHを有する溶液を、制御したpH下、インペラが特定のRPMで回転している反応器内で混合する。その結果として、固体の水酸化コバルト(Co(OH)2)が沈殿することになる。これはLCOのコバルト源となり得る。しかし、Co(OH)2を使用する場合には、粒子の成長がある程度に制限されるために、大きなD50の水酸化物を得るのが困難であるという欠点がある。
【0008】
Co(OH)2の沈殿プロセスと比較して、CoCO3の沈殿では、大きく、球状でかつ高密度のコバルト前駆体をより容易に得ることができる。沈殿のため、コバルト塩はCoSO4、CoCl2、Co(NO3)2又は他の水溶性コバルト塩から選択することができる。一方、塩基はNa2CO3、K2CO3、NaHCO3、KHCO3、NH4HCO3又は他の可溶性炭酸塩若しくは重炭酸塩から選択することができる。Na2CO3、NaHCO3及びNH4HCO3は、最も広く使用されている3つのCoCO3用沈殿剤である。
【0009】
今日では、CoCO3は、典型的には重炭酸塩溶液とコバルト塩溶液との共沈により生成される。CoSO4がコバルト塩として選択される場合、典型的な反応式(HQ)は以下である。
CoSO4+2AHCO3→CoCO3+A2SO4+H2CO3[式中、A=H又はNH4] (EQ1)
【0010】
例えばCoCl2がコバルト塩として使用される場合、反応式はそれに合うよう、以下となると考えられる。
CoCl2+2AHCO3→CoCO3+2ACl+H2CO3[式中、A=Na、K又はNH4] (EQ2)
【0011】
その上、H2CO3のH2O+CO2への解離としての、又はA=NH4の場合はNH3の放出による副反応がある。上記のEQ1及び2に従う重炭酸塩プロセスの欠点は、生成物中では利用可能な-CO3のうち50%のみしか利用されないということである。-CO3の50%は、溶液中に残るか、又はCO2として気化する。
【0012】
典型的なNH4HCO3プロセスでは、CoSO4を使用する場合、基本的な反応は以下である。
CoSO4+2NH4HCO3→CoCO3+(NH4)2SO4+CO2+H2O (EQ3)
【0013】
沈殿の際、CO2は反応器から連続的に排出され、(NH4)2SO4が副生成物として発生する。1kgのCoCO3生成物は、1.329kgのNH4HCO3を必要とすると計算できる。硫黄(S)及び窒素(N)は、このプロセスで得られるCoCO3生成物中の主な不純物である。(NH4)2SO4は環境に排出することができないため、廃水を処理してアンモニアを除去する-好ましくは再循環する-必要がある。これらのアンモニア再循環施設には費用がかかり、設備投資が著しく増加すると共に、特にエネルギーの必要性が高いために、廃棄物処理のための運用コストが増加する。
【0014】
NaHCO3を使用するプロセスでは、CoSO4を使用する場合、反応は以下である。
CoSO4+2NaHCO3→CoCO3+Na2SO4+CO2+H2O (EQ4)
【0015】
1kgのCoCO3生成物は、1.413kgのNaHCO3を必要とすると計算できる。NH4HCO3プロセスと比較して、アンモニア回収システムを設置する必要はない。しかし、NaHCO3プロセスのスループットは課題である。NH4HCO3の溶解度の高さ(20℃で216g/L)と比較して、NaHCO3の溶解度は相対的に低い(20℃で96g/L)。従って、沈殿にはより低濃度のNaHCO3がより高流量で必要となり、その結果CoCO3生成のスループットが比較的低くなる。一方で、NaHCO3の溶解は非常に遅いため、大量生産のためには独立した溶解/保管設備が必要である。
【0016】
別の明らかな手法は、沈殿のために炭酸塩を使用することである。典型的な反応式-MSO4が塩として使用される場合-は、以下である。
MSO4+A2CO3→MCO3+A2SO4[式中、A=Na、K又はNH4] (EQ5)
【0017】
しかし、国際公開第2016-055911号は、-MがNi-Mn-Co-であり、A=Na又はKである場合-アルカリ不純物の含有量が高いMCO3が沈殿することを教示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、カソード材料用の改善されたコバルト系前駆体化合物、及び最終カソード材料中の不純物含有量を低くするための製造方法を提供することを目的とする。この製造方法により、より安価なプロセスコストで電気化学的安定性が向上し、かつカソード材料のエネルギー密度が増加する。
【課題を解決するための手段】
【0019】
第1の態様を鑑みると、本発明では、リチウムイオン電池における正極活物質(active positive electrode material)として使用可能なリチウムコバルト系酸化物の前駆体としての、マラカイト-ローザサイト鉱物構造を有するコバルト系炭酸水酸化物化合物の使用を提供することができる。この化合物の一般式は、[Co1-aAa]2(OH)2CO3[式中、AはNi、Mn、Al、Zr、Ti及びMgのいずれか1つ以上であり、a≦0.05]であってもよい。一実施形態では、AはAl又はMgであり、0.002≦a≦0.020であって、Al又はMgは化合物中に均一にドープされている。この化合物のXRDパターンは、ピーク比P=P1/P2として、P1は32~33度における最大ピーク強度であり、P2は34~35度における最大ピーク強度である、Pの値が<1であってもよい。Pはまた、優れた化合物を得るため、<0.8又は更に<0.2であってもよい。
【0020】
この化合物が炭酸コバルトもまた含む混合物の一部である場合も、Pに関して同じ値に至り得る。炭酸コバルトは、菱面体構造であってもよい。先の実施形態における化合物は、最大0.3重量%の不純物としてのNaを更に含んでもよい。また、この化合物の粒径分布は、D50が15~25μm又は20~25μm、かつスパン<0.80であり得る。PSDに関連する別の特性は、D99/D50<2であってもよい。なお、コバルト系炭酸水酸化物化合物は球状形態であってもよく、かつタップ密度>1.8g/cm3であってもよい。
【0021】
第2の態様を鑑みると、本発明は、本発明の第1の態様におけるコバルト系炭酸水酸化物化合物を製造する方法であって、
Co源を含む第1の水溶液を準備する工程、
Na2CO3を含む第2の水溶液を準備する工程、
両溶液を沈殿反応器内にて70℃を超える温度で混合し、それによりコバルト系炭酸水酸化物化合物を沈殿させながら、沈殿反応により形成されたあらゆるCO2を反応器から排気する工程であって、反応器内の化合物の滞留時間が1~4時間である、工程、及び、
コバルト系炭酸水酸化物化合物を回収する工程、を含む、方法を提供することができる。特定の実施形態では、両溶液を混合する工程は、CO2の排気を促進するために開放された沈殿反応器内で実施することができ、別の実施形態では、開放反応器を空気にさらすことができる。滞留時間は更に1~3時間に制限することができ、温度は更に80~95℃に制限することができる。水分の気化を考慮して、最大反応温度を95℃に制限してもよい。この方法の実施形態では、第2の水溶液は、
少なくとも2NのNa2CO3の溶液、又は
0.5~3mol/LのNa2CO3及び1~6mol/LのNaOHからなる溶液であって、Na2CO3中のNa含有量がNaOH中のNa含有量の2倍以上である、溶液のいずれかからなってもよい。一実施形態では、溶液は1.5~2.5mol/LのNa2CO3及び3~5mol/LのNaOHからなり、Na2CO3中のNa含有量はNaOH中のNa含有量の2倍以上である。一実施形態では、溶液は、2mol/LのNa2CO3溶液が>50体積%、及び4mol/LのNaOH溶液が<50体積%、からなる。また、第1の水溶液は、Ni、Mn、Al、Mg、及びTiのうちいずれか1つ以上の供給源を更に含み得る。更なる実施形態では、Co源を含む溶液はCoSO4を含み、かつMgSO4、Al2(SO4)3、NiSO4及びMnSO4のうちいずれか1つ以上を更に含み、Mg、Al、Ni及びMnのいずれか1つ以上は、Co含有量に対して0.2~5mol%のモル比で存在する。ドーパントAを添加する別の方策は、両溶液を混合する工程中に、TiO2、MgO及びAl2O3のうちいずれか1つ以上からなるナノメートル粉末を添加することであってもよい。特定の方法の実施形態では、コバルト系炭酸水酸化物化合物を回収する工程は、沈殿反応器に連結された沈降反応器(settlement reactor)に化合物を移し、その後、沈降した化合物を沈降反応器から沈殿反応器に再循環させる副工程を含む。
【0022】
本発明はまた、先の方法の実施形態におけるいずれか1つの工程群を含む、リチオ化コバルト系酸化物(lithiated cobalt based oxide)を製造する方法であって、その後、
コバルト系炭酸水酸化物化合物をLi源と混合する工程、及び
酸素含有雰囲気中で、950℃を超える温度で混合物を焼結する工程を含む、方法を提供することができる。この方法では、沈殿したコバルト系炭酸水酸化物化合物は、0.1~0.3重量%の不純物としてのNaを含み得、
コバルト系炭酸水酸化物化合物をLi源と混合する工程中、又は
混合物を焼結する工程中のいずれかにて、
硫酸塩化合物を添加し、それによりSO4のモル量をNaのモル含有量以上とし、その後、リチオ化コバルト系酸化物を水で洗浄する工程、及びリチオ化コバルト系酸化物を乾燥させる工程を含む。ここで、硫酸塩化合物は、Li2SO4、NaHSO4、CoSO4及びNa2S2O8のいずれか1つであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図3】炭酸水酸化コバルト系コバルト前駆体のXRDパターンである。
【
図4】Co
2(OH)
2CO
3相の割合とナトリウム不純物量との関係である。
【
図5a】EX3-P-3のEDSマッピングである。
【
図5b】EX3-P-3のEDSマッピングである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明では、充電式リチウムイオン電池用カソード材料のコバルト前駆体として有用なコバルト化合物を開示する。より具体的には、この前駆体は、ヒドロキシ炭酸コバルト(又は炭酸水酸化コバルト)系化合物である。本発明の実行を可能にするために、図面及び以下の発明を実施するための形態において、好ましい実施形態を詳細に記載する。本発明は、これらの特定の実施形態に関して記載するが、本発明はこれらの好ましい実施形態を限定するものと理解するべきではない。それとは対照的に、本発明は、発明を実施するための形態及び添付図面を考慮することから明らかになるように、多数の代替物、変形物、及び均等物を含む。
【0025】
本発明は、
1)充電式リチウムイオン電池におけるカソード材料用のコバルト前駆体化合物、
2)このコバルト化合物を生成する方法、及び
3)不純物レベルが低いカソード材料を生成する方法であって、電気化学的性能の向上に役立つ、方法、を提供する。
【0026】
充電式リチウム電池用のカソード用前駆体分野では、沈殿が広く適用されている。きわめて一般的には、アンモニアはキレート剤(例えば、M(OH)2を製造するため)として、又は前駆体塩(例えば、CoCO3の場合は重炭酸アンモニウム)の一部として添加される。アンモニア含有溶液は安定ではなく、特に高温及び高pHになると急速に分解し、NH3ガスが発生する。従って、(1)閉鎖反応器を使用し、(2)高温を回避して、アンモニアによるプラント内の空気汚染を回避するのが標準的なやり方である。
【0027】
これらのプロセス条件下では、Na2CO3プロセスによりCoCO3前駆体もまた沈殿させることができ、CoSO4を使用する場合、反応は理論的には以下となると想定される。
CoSO4+Na2CO3→CoCO3↓+Na2SO4 (EQ6)
【0028】
1kgのCoCO3生成物は、0.892kgのNa2CO3しか必要としないと計算でき、これはNaHCO3及びNH4HCO3を使用する場合よりもはるかに少ない。Na2CO3はNaHCO3及びNH4HCO3よりも安価であるため、Na2CO3沈殿プロセスは、コストの観点からより魅力的である。Na2CO3プロセスの主な問題は、一般的に、最終的に得られるMCO3生成物中のナトリウム不純物の多さである。典型的なNa2CO3プロセスでは、ナトリウムは、最終的に得られるCoCO3前駆体中にて数千ppm、時には10000ppmにも達する。不純物レベルが高いと、結果として、得られるLCOの電気化学的性能が悪くなり、特に可逆容量が低くなる。CoCO3前駆体生成物におけるナトリウム不純物の問題を解決するため、新しい戦略を適用する必要がある。一般的に、不純物以外の具体的な課題は、標準的な沈殿では高品質の沈殿物が得られないことである。典型的には、CoSO4+Na2CO3沈殿の沈殿物は、形態が悪く、非常に低密度である。
【0029】
本発明では、高温で撹拌下に実施するNa2CO3沈殿プロセスを使用し、形成されたあらゆるCO2を反応混合物から確実に排気させることにより、コバルト系炭酸水酸化物化合物を生成することができることを開示する。本発明では、以下の態様を組み合わせる。
1)コスト効率のよいNa2CO3沈殿プロセスに基づき、スパンが狭い球状の高密度なコバルト化合物を製造することができる。沈殿した炭酸水酸化コバルトのメジアン粒径(D50)は、スパン0.8未満で20μmを容易に超えることができる。スパンが狭い球状の高密度なコバルト化合物の特徴により、カソード材料(LCO)もまた、密度が高く、スパンが狭くなり得る。
2)ドーパント(Ni、Mn、Nb、Al、Mg、Ti、Zrなど)は沈殿プロセス中に添加されるため、ドーパントをコバルト前駆体化合物の結晶構造中に原子スケールの分布(atomic scale distribution)で均一に分布させることができる。驚くべきことに、コバルト化合物の構造に3価アルミニウムをドープすることが可能である。その上、他のプロセスとは対照的に、Mgのドーピングもまた可能である。原子スケールでの分布の他、ナノ粒子ドーピングもまた施すことができる(例えば、TiO2に)。アルミニウムにより高電圧での構造変化が抑制されるため、コバルト溶出が最終リチオ化コバルト系酸化物の電気化学的特性に及ぼす影響を緩和させることができる。コバルト前駆体中にマンガンをドープすると、LCOの結晶構造を安定化させることができ、結果として、LCOのサイクル能力と共に出力性能を向上させることができる。ニッケルをドープすると、LCOの容量を増加させることができる。
3)一般的に、炭酸水酸化コバルト化合物ではナトリウム不純物を抑制することができる。しかし条件によっては、沈殿後にNa不純物が残る。この不純物は、硫黄又は塩素化合物を添加後に中間洗浄工程により除去することができ、その後に乾燥工程が続く。
【0030】
驚くべきことに、これらの条件では、高品質の沈殿物はコバルト系炭酸塩ではなく、むしろ炭酸水酸化コバルトであるという驚くべき発見に関連して、高品質の沈殿物を得ることができる。-後で詳細に記載するように-、Na2CO3塩基を供給することで炭酸水酸化コバルトを沈殿させるため、溶液からCO2を連続的に気化させる。沈殿の際の温度が十分に高い場合、及び開放反応器にて作業するなどしてCO2が適切に排気されることが予測される場合にのみ、CO2が気化する。CO2の気化速度が不十分である場合、所望の炭酸水酸化コバルトの代わりに炭酸コバルトが沈殿し、高品質の前駆体は得られない。
【0031】
一般的に、沈殿反応のため、Na2CO3を含む流れ、CoSO4又はCoCl2を含む流れ、及びドーパント源の別の流れが、通常の撹拌ないし強力な撹拌の下で反応器内に供給される。典型的には、撹拌は、回転インペラ又は循環流により実現する。沈殿反応は、バッチプロセスであってもよく、又は越流が循環して反応器内に戻る連続プロセスであってもよい。通常の撹拌下では、沈殿プロセスは主として以下のパラメータにより制御される。
温度
滞留時間
pH
金属濃度
CO3/Co(又は塩基/酸)モル比
【0032】
沈殿後、得られたコバルト含有前駆体は、濾過などの好適な分離技術により液体から分離され、次に脱イオン水により洗浄される。脱イオン水で洗浄すると、得られたコバルトが露出した前駆体から、ナトリウム不純物を一部除去することができるが、大量の脱イオン水で洗浄した後であっても、依然としてきわめて多量の不純物が残る。-まだ水分をいくらか含んでいる-得られたコバルト含有前駆体は、乾燥オーブン内にて高温で乾燥される。
【0033】
沈殿した材料には、上述の沈殿プロセスパラメータに応じて、以下の反応に従い、一般式Co2(OH)2CO3で表すことができる炭酸水酸化コバルトが含まれることが確認される。
2CoSO4+2Na2CO3+H2O→Co2(OH)2CO3↓+2Na2SO4+CO2↑ (EQ7)
【0034】
この炭酸水酸化コバルトの他、沈殿した材料にはまた、前述した理論上の反応(EQ6)に従いCoCO3が含まれ得る。沈殿した粒子の核生成及び成長は、沈殿反応の反応速度論に関連する。このプロセスではスパンが狭い大きな球状粒子を得ることができるため、このことは、沈殿の際、既存の粒子が成長し、新たな粒子が全く又はほんの少数しか作られないことを意味する。従って、主なプロセスは既存のCo2(OH)2CO3上へのCo2(OH)2CO3の沈殿であり、その結果粒子が望ましく成長する。本発明者らは、沈殿反応は2段階で起こると推測する。CoCO3は中間の準安定な化合物として沈殿し得る。次に液体と反応し、イオン交換プロセスにより、結果として以下の反応スキームに従い炭酸水酸化物化合物を生じる。
2CoCO3+2H2O→Co2(OH)2CO3+H2CO3 (EQ8)
H2CO3→H2O+CO2↑ (EQ9)
【0035】
本発明者らは、律速段階はイオン交換反応(EQ8)であると推定する。従って、温度が低すぎるか、又はCO2が効果的に排気されない場合、イオン交換の反応速度が悪影響を受け、残留のCoCO3が残る。残留のCoCO3が50重量%を超えると、ナトリウム不純物レベルが著しく増加し、もはや好ましい形態は得られない。炭酸水酸化コバルト相が支配的な場合に限り、高品質の前駆体が得られる。発生したCO2を系から容易に除去することができるよう、(EQ7)の反応は、好ましくは十分に撹拌された開放型反応器内における、沈殿プロセス中の高温により促進される。従って塩基がNa2CO3である場合には、CO2を放出させるため、好ましくは開放反応器内で、少なくとも70℃、好ましくは約90℃の温度にて沈殿を実施する必要があることが見出されている。
【0036】
沈殿の際、塩基流にはNa2CO3の溶液が含まれる。あるいは、塩基はNa2CO3及びNaOHの混合物とすることができ、Na2CO3中に存在するNaの最大50%をNaOHで置き換えることができる。50%モル溶液(Na2CO3+2NaOH)では、反応後にCO2の放出を必要としない。
2CoSO4+Na2CO3+2NaOH→Co2(OH)2CO3+2Na2SO4 (EQ10)
【0037】
塩基流中のNaOH含有量が増加するにつれ、気化させる必要があるCO2が少なくなり、沈殿温度を低下させることができる。
【0038】
コバルトを完全に沈殿させるため、塩基対酸比が1より大きいことが推奨される。比が低すぎる場合、未反応のコバルトが溶液中に残る。例えば、100%のNa2CO3を使用する場合、CO3対Coモル比は少なくとも1であるべきである。50/50%のNa2CO3/NaOH混合物を使用する場合、(CO3+2OH)対Co比は少なくとも1であるべきである。塩基中のNa2CO3含有量は、50%未満であるべきではない(CO3>2OH)。この場合、多すぎるNaOHが存在し、沈殿物の一部は、望ましくないCo(OH)2となる。
【0039】
塩基及び酸の濃度は、低い核生成速度及び高い反応器スループットを実現するために十分に高くしてもよい。Na2CO3を使用する場合、典型的な濃度は少なくとも2Nであり、これは1molのNa2CO3/Lに相当する。濃度は、好ましくは少なくとも3Nであり、最も好ましくは少なくとも4Nである。酸溶液は、典型的には少なくとも2Nであり、1molのCoSO4/Lに相当する。より好ましくは少なくとも3Nであり、最も好ましくは少なくとも4Nである。
【0040】
滞留時間は、反応器を満たすために必要な時間であり、反応器体積を供給流量の合計で除したものである。粒子が所望の形状に成長することができるよう、滞留時間は十分に長くあるべきである。滞留時間が長すぎると、反応器スループットが低下し、所望のヒドロキシ-炭酸塩の代わりにより多くの炭酸塩型前駆体が形成されるため、滞留時間は長すぎるべきではない。
【0041】
均一に分布したドーパントは、カソード材料内にて重要な役割を果たし得る。例えば、アルミニウムにより、高電圧に充電された場合のカソード材料の結晶構造変化が著しく抑制され、その結果、そのような高電圧における安定性がより良好となる。本発明では、硫酸アルミニウム及び硫酸マグネシウムなどの硫酸塩溶液、又はナノサイズ粉末の懸濁液を使用することにより、Na2CO3系プロセス中にドーパントを共沈させることができることを開示する。ドーピングは、沈殿反応中に施すことが好ましい。一実施形態では、ナノ粒子ドーピングを施す。ナノ粒子は、粉末として添加するか、又は別の供給流にて反応器内に分散させることができる。あるいは、ナノ粒子を酸又は塩基供給流内に分散させることができる。好適なナノ粒子は、成長中の沈殿物粒子内に埋め込まれる。ナノ粒子ドーピングの典型例は、TiO2、Al2O3、MgOなどである。ナノ粒子による典型的なドーピングは、少なくとも500mol ppm(金属ドーパント量/遷移金属量)であり、2mol%以下である。別の実施形態では、ドーパント溶液を反応器に添加することによりドーピングを実施する。Ni、Mn、Mg、又はAlの塩は、別の供給流として添加するか、又は酸供給の一部とすることができる。典型的なドーパント塩は、硫酸塩、硝酸塩などである。典型的なドーピング量は、少なくとも0.2mol%(金属ドーパント量/遷移金属量)であり、5mol%以下である。
【0042】
一般的に言えば、3価アルミニウムは2価コバルトのサイトにうまく適合しないというだけでなく、アルミニウムは高pHで溶解し、一般的に沈殿反応には高pHが必要ということもあるため、アルミニウム溶液を炭酸コバルト化合物又は炭酸水酸化コバルト化合物中にドープすることの実現性は、驚くべきものである。驚くべきことにアルミニウムは、Na2CO3系プロセスにより、アルミニウムをほとんど損失させずに炭酸水酸化コバルト系コバルト化合物中にドープさせる、すなわち原子スケールで均一に分布させることができる。その上、低pHではMg2+の溶解度が高いために、重炭酸塩プロセスを使用したMg溶液のドーピングは困難又は不可能であるが、本発明者らは、より高pHにてNa2CO3系沈殿又はNa2CO3+NaOH沈殿のいずれかを使用し、Mgの容易なドーピングを確認している。
【0043】
工業用の沈殿プロセス条件下でNa2CO3系プロセスにより得られたコバルト前駆体化合物には、1000ppm~3000ppmの高レベルのナトリウム不純物が含まれる。このナトリウム不純物は、前駆体から除去することができないものであり、水で度を過ぎて洗浄してもなおできない。コバルト前駆体中の高ナトリウム不純物により、電気化学的に活性ではない望ましくない相が作られる場合があるため、ナトリウム不純物は、最終リチウムイオン電池におけるカソード材料の電気化学的特性が悪化する原因となり得る。リチウムイオン電池におけるカソード材料であるLCO-ドープされたもの、又はドープされていないもの-は、炭酸水酸化コバルト系前駆体のリチオ化プロセスにより合成することができる。最初に、前駆体をリチウム源-炭酸リチウム又は水酸化リチウムなど-及び特定の添加剤と混合し、その後、酸素含有雰囲気中、好適な加熱プロファイルにて高温で加熱する。最後に、焼結した材料を破砕してふるい分けする。-リチウムイオン電池において最も重要な電気化学的特性に含まれる-充電容量及び放電容量は、ナトリウム不純物レベルが増加するにつれて減少することが予想される。本発明では、リチオ化前又はリチオ化中に特定の添加剤を添加し、その後に加熱及び洗浄工程が続くことにより、ナトリウム不純物を効果的に除去することができることを開示する。このような添加剤は、重硫酸ナトリウム、硫酸リチウム、硫酸コバルト、硫酸アンモニウムなどといった硫酸塩であってもよい。実質的に全てのナトリウムがアルカリ硫酸塩の形態で除去されるよう、十分な硫酸塩を添加することが重要である。一例として-1molのNaHSO4は、Na2SO4を洗い流すことで1molのNaを除去することができる。同様に、1molのLi2SO4を添加することにより、1molのNaをLiNaSO4として除去することができる。CoSO4などを添加した場合、2molのNaをNa2SO4として除去することができる。
【0044】
硫酸リチウムナトリウムは熱力学的に安定であるため、これはコバルト化合物に硫酸塩を添加し、その後に熱処理が続く場合に、高温でのリチオ化中に形成される。従って、コバルト前駆体とリチウム源とのブレンド工程中に硫酸塩を添加することができ、焼成後の洗浄工程により硫酸リチウムナトリウムが除去される。リチウム及びコバルトはカソード材料中の主な元素であるため、硫酸リチウム及び硫酸コバルトが好ましいが、添加剤の中にはカソード材料にプラスの効果をもたらすものもあるため、硫酸アルミニウム及び硫酸マグネシウムなどの他の硫酸塩、又は重硫酸塩、ペルオキシ硫酸塩などもまた、良好な選択肢であり得る。あるいは、硫酸ナトリウム化合物が形成される場合、それは水溶性であり、水を用いた簡単な洗浄工程により容易に除去することができる。
【0045】
本発明の技術:Na2CO3系プロセスにより炭酸水酸化コバルト系前駆体を沈殿させること、及びリチオ化工程前又はリチオ化工程中にナトリウム不純物を除去すること、を適用することにより、電気化学的安定性が向上した、エネルギー密度がより高い高品質のカソード材料を得ることができる。
【0046】
本発明を以下の実施例において更に例示する。
【0047】
分析方法の説明
D50、D99及びスパンなどの粒径分布(PSD)(particle size distribution)に関するデータは、好ましくは、レーザーPSD測定法(laser PSD measurement method)により得る。本発明では、水性媒体中に粉末を分散させた後、Hydro 2000MU湿式分散アクセサリを備えたMalvern Mastersizer 2000を用いてレーザーPSDを測定する。水性媒体中の粉末の分散を向上させるために、十分な超音波照射及び撹拌を施し、適切な界面活性剤を投入する。スパンの狭さは粒子の顕著な球形度の指標であるので、実施例では球形度を見積もるためにスパン値を使用することに注目されたい。
【0048】
比表面積は、Micromeritics Tristar 3000を用いてBrunauer-Emmett-Teller(BET)法で測定する。測定前に吸着種を除去するため、3gの粉末試料を、測定前に300℃で1時間真空乾燥させる。
【0049】
誘導結合プラズマ(ICP)(inductively coupled plasma)法を使用し、AgillentのICP 720-ESを使用することで、リチウム、コバルト、ナトリウム、アルミニウム及びマグネシウムなどの元素の含有量を測定する。三角フラスコ中で、2gの粉末試料を10mLの高純度塩酸に溶解させる。前駆体を完全に溶解させるため、フラスコをガラスでカバーし、ホットプレート上で加熱する。室温まで冷却した後、蒸留(DI)(distilled)水で3~4回すすいだ100mLのメスフラスコに溶液を移す。フラスコを溶液で満たした後、メスフラスコに100mLの標線までDI水を満たし、続いて完全に均一化させる。5mLピペットで溶液を5mL取り出し、2回目の希釈のために50mLメスフラスコに移す。メスフラスコの50mLの標線まで10%塩酸を満たした後、均一化させる。最後に、この50mL溶液をICP測定に使用する。
【0050】
タップ密度(TD)(tap density)測定は、試料(質量Wが約60~120g)を入れたメスシリンダー(100ml)を機械的にタッピングすることにより行う。最初の粉末体積を確認した後、更なる体積(V、cm3単位)又は質量(W)変化が確認されないよう、メスシリンダーを400回機械的にタッピングする。TDは、TD=W/Vとして計算する。TD測定は、ERWEKA(登録商標)測定器で行う。
【0051】
XRD測定は、CuKαを使用し、リガクのX線回折計(Rigaku X-Ray Diffractometer)(D/max-2200/PC)で実施する。スキャン速度は、毎分1度の連続スキャニングに設定する。ステップサイズは0.02度である。スキャンは15~85度で実施する。相定量分析は、TOPASソフトウェアを使用して行う。本発明の目的のため、ピーク強度P1を、バックグラウンド減算なしの34~35度(Co2(OH)2CO3構造の(021)ピークに対応)における最大強度として定義し、ピーク強度P2を、バックグラウンド減算なしの32~33度(CoCO3構造の(104)ピークに対応)における最大強度として定義する。ピーク比Pは、P1対P2の比である。
【0052】
断面分析は、JEOL(IB-0920CP)である焦点イオンビーム装置により行う。この装置では、ビーム源としてアルゴンガスを使用する。少量の粉末を樹脂及び硬化剤と混合し、次に、混合物をホットプレート上で10分間加熱する。加熱後、これをイオンビーム装置内に置き、電圧を3時間の持続時間にわたり6kVに設定する、標準的な手順にて設定を調整する。走査型電子顕微鏡(SEM)は、JEOL JSM 7100F走査型電子顕微鏡を用いて行われる。電子顕微鏡には、Oxford instrumentsから入手した50mm2 X-MaxN EDS(エネルギー分散型X線分光法、Energy-dispersive X-ray spectroscopy)センサーを取り付ける。
【0053】
フローティング試験にて使用し、かつ一般的な電気化学試験を実施するために使用するコイン電池は、以下の工程により組み立てる。
工程1):正極の調製:固体、つまり重量比90:5:5の電気化学的活物質、コンダクタ(スーパーP、Timcal)、及び結合剤(KF#9305、クレハ)、並びに溶媒(NMP、Sigma-Aldrich)を含むスラリーを、高速ホモジナイザー内で調製する。均一化したスラリーを、ギャップが230μmであるドクターブレードコータを用いて、アルミニウム箔の片面上に塗り広げる。これをオーブン内にて120℃で乾燥させ、カレンダリングツールを用いて圧搾し、真空オーブン内にて再度乾燥させて溶媒を完全に除去する。
工程2):コイン電池の組み立て:不活性ガス(アルゴン)で満たされたグローブボックス内でコイン電池を組み立てる。一般的な電気化学試験の場合、正極と、負極として使用するリチウム箔片との間に、セパレータ(Celgard)を配置する。フローティング試験では、正極物質と黒鉛からなる負極物質との間に2片のセパレータを配置する。EC/DMC(比1:2)中の1MのLiPF6を電解質として使用し、セパレータと電極との間に滴下する。次に、コイン電池を完全に密封して、電解質の漏れを防止する。
【0054】
フローティング試験では、高温での高電圧充電時の、カソード材料の安定性を分析する。製造したコイン電池は、以下の充電プロトコルに従い試験する。最初に、60℃のチャンバ内でコイン電池を定電流モード及びC/20レート(1C=160mAh/g)にて4.5Vまで充電する。次に、コイン電池を定電圧(4.5V)で5日間(120時間)維持する。これは非常に過酷な条件である。最大電流は1mAである。
図1は、典型的なフローティング試験の結果を示す。最初に、カソードを、CC(constant current、定電流)モード下で充電する(データは示していない)。最終電圧に到達したら、電池を定電圧(CV)(constant voltage)モード下で連続的に充電する。グラフは記録された電流を示しており、t=0は、CVモード充電を開始した時間である。一旦副反応又は金属の溶出が起こると、電圧が降下していく。電気化学機器は、電圧を一定に保つため、(失われた)電流を自動的に補う。従って、記録された電流は、進行中の副反応の尺度である。
図1に示すとおり、時間(時間単位)は定電圧充電の開始から始まり、記録された電圧(V-右軸)及び電流(mA/g-左軸)は、それぞれ点線及び実線により表されている。電流の変化から、高電圧及び高温において、試験したコイン電池が劣化することが確認できる。最後に、コイン電池の電流が最大電流(1mA)に到達し、短絡により電圧が降下する。この時間は、高電圧での安定性の尺度及びカソード材料のコバルト溶出度合いである「故障時間」(図にFTと示す)として記録される。フローティング試験の後、このコイン電池を解体する。先行技術では、金属の溶出が起こると、溶出した金属が金属又は金属合金の形態でアノード表面に堆積していくと記載されているため、金属溶出を分析するため、アノード及びアノードに近接したセパレータをICP(誘導結合プラズマ)により分析する。具体的なコバルト溶出値を得ることができるよう、測定したコバルト含有量を、故障時間及び電極内の活物質総量により正規化する。
【0055】
コイン電池の一般的な電気化学試験は、以下のとおり2つのパートからなる(表1も参照)。パートIは、4.3~3.0V/Li金属ウィンドウ範囲での0.1C、0.2C、0.5C、1C、2C及び3Cにおけるレート性能評価である。第1の充電容量及び放電容量(CQ1及びDQ1)は、0.1Cレートでの定電流モードにより測定する。ここで、1Cは160mAh/gとして定義する。第1のサイクルに対して30分間の緩和時間(relaxation time)、及び全後続サイクルに対して10分間の緩和時間を、各充電と放電との間で与える。不可逆容量Qirr.は、%単位で以下のように表される。
【0056】
【0057】
0.2C、0.5C、1C、2C及び3Cにおけるレート性能は、次のように、nC=0.2C、0.5C、1C、2C、及び3Cに対してそれぞれn=2、3、4、5及び6を有する保持放電容量DQn間の比として表される:
【0058】
【0059】
例えば
【0060】
【0061】
パートIIは、サイクル寿命の評価である。充電カットオフ電圧は、4.6V/Li金属として設定する。4.6V/Li金属における放電容量は、サイクル7及び31では0.1Cで、サイクル8及び32では1Cで測定する。0.1C及び1Cにおける容量低下は次のように計算され、100サイクルあたりの%で表される:
【0062】
【0063】
【0064】
本発明を以下の実施例において更に例示する。
【0065】
実施例1
実施例1は説明的なものであり、良好に成形された前駆体における恩恵を論じている。スパンが狭く、大きなコバルト前駆体を使用する利点は、1)リチオ化プロセスの簡略化が可能であること、2)最終カソード材料の充填密度が高くなり得ること、並びに3)電極の破砕及び引っ掻きが少なくなるなど、最終カソード材料を使用して正極を作製する際の問題が少なくなること、である。
【0066】
従来のLCOは一般的に、粒径が小さく-メジアン粒径が約5μm-、スパンが広いコバルト前駆体から作製される。LCOの粒径は電極密度と直接の関係があり、15~20μmのメジアン粒径が、従来のLCOにおいて最も一般的な範囲である。コバルト前駆体の5μmから最終LCOの20μmにまで粒径を成長させるには、1)-非常に高い加熱温度及び/若しくは非常に長い加熱時間を適用することで-入力エネルギーを極度に高くすることが要求されるか、又は2)リチウム対コバルト比(Li/Co)が高いことが必要であるか、のいずれかである。LCOはその化学量論組成近くで電気化学的特性が最良となる。そのため第2の選択肢では、Li/Co比を1に調整するため、追加のコバルト前駆体を使用した更なる高温加熱プロセスが必要となる。結論は、粒径が小さなコバルト前駆体を使用する場合、これら2つの選択肢のいずれも生産コストの点では工業規模で効率的ということはない、ということである。
【0067】
表2は、PSDが様々であるコバルト前駆体の選択に応じたLCOの物理的特性を示す。CEX1-Pは、粒径が小さくスパンが広い従来のコバルト前駆体(Umicoreから入手した電池グレードCo3O4)であり、一方EX1-Pは、スパンが狭く粒径が大きなコバルト前駆体(Yacheng New Materialsから入手したCo3O4)である。EX1-C-1、EX1-C-2、CEX1-C-1、及びCEX1-C-2は、様々なコバルト前駆体を様々なLi/Co比用に炭酸リチウムとブレンドし、空気雰囲気中にて980℃で10時間加熱し、ミリングツールにより破砕し、かつASTM規格270のメッシュふるいによりふるい分けすることによるリチオ化プロセスにて合成する。
【0068】
【0069】
比較可能なPSDを対象とすると、LCOの表面積が小さいことはLCOの内部空隙率がより小さいということを示し得る。LCOの内部空隙率は、LCOの密度を最も高くするために可能な限り小さくするべきである。これは、リチオ化プロセスの焼結時間を長くし、焼結温度を高くすることにより実現される。CEX1-Pを使用する場合、前駆体EX1-Pの使用と同様のD50及び表面積を得るには、EX1-C-1に関する1.015と比較してより高いLi/Co(CEX1-C-2に関しては1.055)が必要であることが確認される。CEX1-C-2の電気化学的特性-より詳細には、サイクル寿命-は、EX1-C-1の電気化学的特性よりもはるかに悪いことが予想されるため、CEX1-C-2では、Li/Coを減少させるため、追加のコバルト前駆体を使用した更なる高温加熱工程が必要となる。
【0070】
スパンが狭い大きな球状のコバルト前駆体を使用する場合、最終生成物のD99がより小さいと共にリチオ化プロセスが簡略化されることは、大きな利点の一部である。D99は、最大粒径を推定するための良好なパラメータである。D99が非常に大きい場合、大きな粒子が電極コーティングプロセス中に電極表面を引っ掻く場合があるため、正極の表面品質に問題があることが予想される。この観点から、電極密度を増加させるにはD50を大きくすることが好ましいものの、D99を小さくするとD50を増加させる必要性が限定され得るため、LCOの比D99/D50は非常に重要である。例えば、CEX1-C-2のD50はEX1-C-1と同様であるにもかかわらず、D99はEX1-C-1よりもはるかに大きい。従って、成形したスパンの狭いコバルト前駆体-そのためD99/D50が小さい-では、D99の絶対値について気にせずにD50を大きくでき、その結果、粒径を増加させることにより電極密度を更に増加させることが可能となる。
【0071】
実施例2
実施例2は、Na
2CO
3系共沈プロセスを示す。プロセスの概略図を
図2に示す。
図2では、以下を示している。
流れ:F1:ドーパント、F2:CoSO
4、F3:Na
2CO
3、F4:スラリー、F5:透明濾液を外へ、F6:増粘スラリー
装置:R1:沈殿反応器、R2:沈降反応器、R3:蠕動ポンプ
【0072】
濃度2mol/LのNa2CO3及びCoSO4溶液を別々に調製する。沈殿は、1000RPMのインペラ撹拌速度で、高温(以後、T1と称する)にて4Lの反応器内で行う。Na2CO3溶液は添加せずに、最初にCoSO4溶液を反応器内に20分間ポンプ圧送する。次により多くのCoSO4溶液を、Na2CO3溶液と共に、2倍の流量で沈殿反応器内に20分間連続的にポンプ圧送する。その(合計40分間)後、CoSO4及びNa2CO3溶液の流量を、CO3/Coモル比1.08で一定に維持する。本発明では、ドーパントを投入するために2つの異なる方法を使用する。1つの方策(以後、DM1と称する)は、ドーパントをCoSO4と共に注入できるよう、硫酸塩-硫酸アルミニウム及び硫酸マグネシウムなど-を特定のモル比でCoSO4溶液中に溶解させることである。もう1つの方策(以後、DM2と称する)は、沈殿の際、ドーパントの懸濁液を反応器内に手で直接注入することであり、特定の量の懸濁液を1時間に1回注入してドーパント対コバルトのモル比を特定のものとする。従来の連続的な沈殿プロセスとは異なり、沈殿した炭酸水酸化コバルト前駆体を含む第1のスラリーは越流を介して沈殿反応器から排出され、第2の3L沈降反応器に進む。沈降反応器では、撹拌速度が穏やか(200RPM未満)であるため、固体沈殿物が底部に沈降し、結果として固液分離が起こる。沈降反応器の底部に沈降した粘稠なスラリーを、ポンプ圧送して沈殿反応器に戻す。反応器内の沈殿物の粒径が目標の粒径に到達するか、又は沈殿物のスパンが増加し始めたら、(どちらが最初であっても)沈殿を停止させる。ここで「沈殿時間」は、任意の溶液を反応器内に注入し始めてから沈殿を停止させるまでの時間として定義する。沈殿反応器及び沈降反応器の両方を空にすることにより、前駆体を収集する。次に、加圧濾過にて得られた前駆体スラリーの固液分離を行い、得られた固体を脱イオン水で数回洗浄する。最後に前駆体を高温で乾燥させ、残ったあらゆる脱イオン水を除去する。
【0073】
実施例3
実施例3では、ドープした炭酸水酸化コバルト前駆体化合物を記載する。表3並びに
図3及び
図4は、EX3-P-6~8、CEX3-P-2及びCEX3-P-3以外は実施例2で記載したように沈殿させた前駆体の、物理的及び化学的特性を示す。粒径に及ぼす影響を示すため、各前駆体を異なる滞留時間及び/又は総沈殿時間で沈殿させる。CEX3-P-3は、対照生成物として、ドーパントなしでNH
4HCO
3プロセスにより沈殿させた純粋な炭酸コバルトであり、1.2mol/LのCoCl
2及び2.5mol/LのNH
4HCO
3を10L反応器内で使用し、濾過した沈殿を75℃で乾燥させる。CEX3-P-2及びCEX3-P-3の沈殿温度T1は60℃であり、一方で他の生成物では90℃である。
【0074】
【0075】
【0076】
EX3-P-2~5、EX3-P-7~8、及びCEX3-P-1の目標とするドーパント含有量は、Al及びMgに関しては1.0mol%、Tiに関しては0.5mol%である。(ICP又はEDS分析から)得られた含有量は目標値に近く、容易に調整できるわずかな偏差を伴う。ドーパントを投入するための両方法-硫酸コバルト溶液中に硫酸アルミニウム又は硫酸マグネシウムを溶解させること(DM1)、及び、ナノサイズのドーパントの懸濁液を沈殿反応器内に周期的に注入すること(DM2)-が、良好に作用することが確かめられる。CEX3-P-2を除く全生成物は、スパンが狭い。EX3-P-6及びEX3-P-7は、2mol/LのNa2CO3溶液90体積%及び4mol/LのNaOH溶液10体積%を塩基として使用し、実施例2に従う他のプロセスパラメータを使用して沈殿させる。EX3-P-8は、2mol/LのNa2CO3溶液60体積%及び4mol/LのNaOH溶液40体積%を塩基として使用し、実施例2に従う他のプロセスパラメータを使用して沈殿させる。塩基溶液としてのNa2CO3及びNaOHの混合物により沈殿させたEX3-P-6~8は、他の生成物と比較してNa含有量が比較的低いことが確認される。
【0077】
EX3-P-1~8の各生成物は、PSD、ドーパント濃度、及びタップ密度といったこれら生成物の特性に応じて、LCOのコバルト前駆体として使用することができる。例えば、粒径がより小さいEX3-P-5を「フィラー前駆体」としてほんのわずか、「粗大前駆体」としての大量のEX3-P-3とブレンドし、LCOの体積粉末密度(volumetric powder density)を増加させることができる。低すぎる温度で沈殿したCEX3-P-2は、結果としてスパン及びNa含有量が高くなりすぎ、タップ密度が低くなりすぎる。これまでの重炭酸アンモニウムプロセスにより作製されたCEX3-P-3は、結果としてNa含有量が非常に低く、スパンが小さく、かつD50が大きくなるが、得られた純粋なCoCO3の形態は良好ではなく、このことは最終LCOに悪影響を及ぼす。
【0078】
XRDによるコバルト含有量及び相定量分析により、Na2CO3系プロセスで得られた全生成物はマラカイト-ローザサイト鉱物群に属する炭酸水酸化コバルト(Co2(OH)2CO3)で構成され、その上、一部には炭酸コバルトが含まれることが示された。XRDピーク比である(104)分の(021)は、異なる結晶構造の相対量を定量化するための基準として使用することができる。「Fleischer’s Glossary of Mineral Species」(J.A.Mandarino,The Mineralogical Record Inc.,Tucson,1999)に記載されているように、マラカイト-ローザサイト鉱物群は、一般式がA2(OH)2CO3又はAB(OH)2CO3である単斜晶系又は三斜晶系の金属炭酸水酸化物であり、A及びBは、コバルト、マグネシウム、銅、ニッケル、又は亜鉛のいずれかである。本発明における炭酸水酸化コバルトの結晶構造解析は、「The malachite-rosasite group:crystal structures of Glaukosphaerite and Pokrovskite」(Perichiazzi.N et al.,European Journal of Mineralogy,2006)に記載されているポクロブスカイト(Pokrovskite)の結晶構造解析との良好な一致を示している。
【0079】
図4は、沈殿物中の炭酸水酸化コバルト相の割合とナトリウム不純物量との間の関係(リートベルトXRD分析により得られた重量%単位のCo
2(OH)
2CO
3含有量に対する、ICPにより得られた重量%単位のNa含有量)を示している。炭酸水酸化コバルト相の割合が増加するにつれて、ナトリウム不純物が減少することが確認される。EX3-P-2及びCEX-P-1は両方とも、滞留時間(RT)及び沈殿時間以外、同じ一般的なプロセスパラメータ(塩基/酸モル比はCO
3/Co比と同じ)で製造する。滞留時間及び沈殿時間を増加させた場合はヒドロキシ-炭酸塩相が炭酸塩相に変換され、得られた前駆体では本発明の目的を実現できないということが確認できる。実施例6では、ナトリウム含有量が高い前駆体の処理について記載する。
【0080】
Alが粒子中にいかに良好に分布しているか検証するため、「分析方法の説明」にて記載した断面法を使用して粒子を切断した後、EDS(エネルギー分散型X線分光法)分析を実施する。
図5aの左上図は、EX3-P-3断面のSEM画像である。右上図は、EX3-P-3のEDSマッピング結果を示し、白色点はAlが均一に存在することを示す。このEDSマップの拡大図を
図5bにて再現する。スペクトル中には明確なAlピークが存在するため、右上図及び
図5bの白色点はノイズにより引き起こされたものではない。
図5aの左上図に示すような3つの異なるゾーン(Z1、Z2及びZ3)をEDS測定により別々に測定し、表4は分析結果を示す。これらのゾーンのAl含有量及びEDSマッピングの結果に基づくと、AlがEX3-P-3粒子中に均一に分布していることは明らかである。
【0081】
【0082】
実施例4
実施例4では、実施例3の前駆体を用いたLCOの合成について記載する。EX3-P-3及びCEX3-P-3をリチオ化してコバルト酸リチウムを形成する。これらのコバルト化合物を、様々なリチウム対金属(Li/M)比で炭酸リチウムとブレンドする。Mはコバルト及びアルミニウムの合計である。各ブレンドを、1000℃にて12時間加熱する。次に、焼結した材料を破砕する。電気化学的特性を向上させるため、得られた材料と酸化チタンをブレンドし、得られた「第2の」ブレンドを750℃で6時間加熱する。表5は、コバルト前駆体のタイプ及びLi/Mモル比に応じたフローティング試験からの、故障時間及び具体的なコバルト溶出を示す。EX3-P-3から作製したLCO生成物の場合、Li/M比が増加するにつれて故障時間が長くなる。これは、より多くのリチウムが存在するためにコバルトの溶出が少なくなり、結果として高電圧での安定性が良好となるためである。この実施例は、アルミニウムをドープした炭酸水酸化コバルト前駆体(EX3-P-3)から作製したLCO生成物は、NH4HCO3プロセスにより生成したドープしていない純粋な炭酸コバルトから作製したLCO生成物よりも、故障時間がはるかに長く、コバルト溶出が少ないということを示している。従って、炭酸水酸化コバルト前駆体を使用して行うことはコストの観点から興味深いというだけではなく、この実施例は、高電圧での安定性を良好とするためにはLCO中のアルミニウムの存在が有益であるということも示す。
【0083】
【0084】
具体的なCo:具体的なコバルト溶出値を得ることができるよう、測定したコバルト含有量を、故障時間及び電極内の活物質総量により正規化する。
【0085】
実施例5
均一にアルミニウムをドープすることの必要性を、コバルト前駆体上へのアルミニウムの表面コーティングと比較して明らかにするため、1)リチオ化前にフィラー材料としての15重量%のEX3-P-5と混合した、アルミニウムをドープした炭酸水酸化コバルト系前駆体(EX3-P-3である)、及び2)リチオ化前にフィラー材料としての15重量%のEX3-P-5と混合した、1mol%の酸化アルミニウムをコーティングしたCo3O4前駆体(Yacheng New Materialsから入手)を使用して、2つのLCO生成物を合成する。これはまた、スパンが狭い大きな球状コバルト前駆体の実用的な使用の1つは、より小さな粒子が-「フィラー」材料として-大きな球状粒子の密充填により生じた空隙を占めることができるように、より小さな粒子とブレンドすることで充填密度を増加させることであるということを示している。次に、炭酸リチウムを、事前にブレンドしたコバルト前駆体とブレンドする。ここで、Li/M比は1.005である。そのブレンドを、1000℃で12時間加熱する。得られた材料を破砕し、270メッシュのふるい上でふるい分けする。表6はLCO生成物のフローティング試験結果を示す。EX5-Cはアルミニウムをドープした炭酸水酸化物系コバルト前駆体から生成し、CEX5-CはアルミナをコーティングしたCo3O4前駆体により生成する。EX5-Cは、CEX5-Cと比較して故障時間がはるかに長く、具体的なコバルト溶出が少ないことが確認される。これは、Alを添加する場合、ドーパントがLCOの構造的安定性に及ぼすプラスの影響から恩恵を受けることができるよう、Alを表面にコーティングする代わりにドーピングによりLCO中に均一に分布させるべきであるということを示している。ドーピング又はコーティングなしでは、両前駆体(ヒドロキシ-炭酸塩対酸化コバルト)のCo溶出問題は類似したものとなるため、Co溶出の差は、前駆体自身の性質の違いによって生じたものではない。
【0086】
【0087】
実施例6
実施例6では、ナトリウム不純物の除去を示す。実施例3では、前駆体のナトリウム含有量が0.10%~0.33%となり得ることが示された。これはLCOの適用に関して害となる場合がある。EX4-C-1及びEX4-C-3は、0.23%のナトリウムを含むEX3-P-3から生成する。表7は、前述したコイン電池の一般的な電気化学試験により測定した、EX4-C-1及び3のナトリウム含有量及び電気化学的特性を示す。LCO生成物のナトリウム含有量はコバルト化合物のそれと同じであることが確認され、これはリチオ化後にナトリウムが残ることを示すものである。ナトリウム含有量が高いため、充電容量及び放電容量(CQ1及びDQ1)は予想よりも低い。
【0088】
ナトリウムは、リチオ化中の以下の手順、及び更なる洗浄プロセスにより効果的に除去することができる。EX3-P-3を炭酸リチウム及び硫酸リチウムとブレンドする。添加する硫酸リチウムの量はナトリウムの量と同じであり、モル比Na:Li2SO4=1:1である。そして炭酸リチウムを添加し、目標のLi/M比(本実施例では、1.00又は1.03)と一致させる。加熱条件及び後処理条件は、実施例4に記載のEX4-C-1及び3の条件と同じである。後処理後、得られたLCO生成物を水で洗浄し、続いて濾過後にオーブン内で高温にて乾燥させる。最終的に、2つのLCO生成物-EX6-CW-1及びEX6-CW-2-が得られる。表7に見ることができるように、EX6-CW-1及び2のナトリウム含有量は著しく低減している。その結果、CQ1、Qirr、DQ1及び3Cレートなどの電気化学的特性が向上し、同じサイクル安定性が維持される。
【0089】