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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】検体前処理装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 35/02 20060101AFI20240610BHJP
   G01N 1/10 20060101ALI20240610BHJP
   G01N 1/34 20060101ALI20240610BHJP
   G01N 35/00 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
G01N35/02 E
G01N1/10 C
G01N1/34
G01N35/00 A
G01N35/00 E
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022569953
(86)(22)【出願日】2021-12-10
(86)【国際出願番号】 JP2021045656
(87)【国際公開番号】W WO2022131167
(87)【国際公開日】2022-06-23
【審査請求日】2023-05-08
(31)【優先権主張番号】P 2020208195
(32)【優先日】2020-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 晶子
(72)【発明者】
【氏名】松岡 晋弥
(72)【発明者】
【氏名】海老原 大介
(72)【発明者】
【氏名】松尾 純明
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-109520(JP,A)
【文献】国際公開第2016/194825(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/02
G01N 35/00
G01N 1/10
G01N 1/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析で使用する検体の前処理を実施する検体前処理装置と、質量分析装置と、他の自動分析装置とが接続されている検体検査自動化システムの検体前処理装置の制御方法であって、
前記他の自動分析装置による前記検体の測定結果または前回値情報を参照して血清情報に、質量分析においてイオン化抑制を生じる可能性のある検体があるか否かを判断し、
前記血清情報の判断結果に基づいて、検体前処理時に検体に含まれた夾雑物を排除する洗浄プロセスの条件を決定し、
前記検体と試薬を混合する反応容器に、前記条件に基づいて洗浄液を分注する、
検体前処理装置の制御方法。
【請求項2】
請求項に記載の検体前処理装置の制御方法であって、
前記血清情報の判断結果に基づいて、前記洗浄液の種類または前記洗浄液の混合比率を変更する、
検体前処理装置の制御方法。
【請求項3】
請求項に記載の検体前処理装置の制御方法であって、
前記血清情報の判断結果に基づいて、前記洗浄プロセスにおける洗浄回数または洗浄温度を変更する、
検体前処理装置の制御方法。
【請求項4】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の検体前処理装置の制御方法において、
前記反応容器中に磁性粒子を含む試薬を分注し、前記反応容器中の磁性成分と非磁性成分とを分離し、前記洗浄プロセスを実施する、
検体前処理装置の制御方法。
【請求項5】
請求項1に記載の検体前処理装置の制御方法において、
前記血清情報に、中性脂肪、LDLコレステロール、HDLコレステロール、総コレステロール、β-リポ蛋白、リポ蛋白(a)、レムナント様リポ蛋白-コレステロール、アポ蛋白(アポリポ蛋白)A-I、アポ蛋白(アポリポ蛋白)A‐II、アポ蛋白(アポリポ蛋白)B、アポ蛋白(アポリポ蛋白)C-II、アポ蛋白(アポリポ蛋白)C‐III、及び、アポ蛋白(アポリポ蛋白)の検査項目のうち少なくとも1つにおいて測定結果が予め定めた基準範囲を超えている検体がある場合には、質量分析においてイオン化抑制を生じる可能性のある検体がある、と判断する検体前処理装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液や尿等の生体試料(以下、検体と記載する)中の所定成分の濃度を分析することを目的とした検体検査自動化システムにおいて、前処理工程を自動化する検体前処理装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
前処理工程を自動化した検体検査自動化システムの一例として、特許文献1には、分注装置、自動分析装置を有する検体検査自動化システムにおいて、血清中の溶血、乳び、黄疸の有無を測定する溶血、乳び、黄疸測定装置を有し、溶血、乳び、黄疸の測定結果と自動分析装置への検査項目の選択を行うことを特徴とする検体検査自動化システムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平7-280814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前処理工程を自動化した質量分析装置においては、従来目視で確認していた血清情報を自動で処理することで、測定に影響を与える高脂質含有検体等の見過ごしが生じる可能性がある。
【0005】
さらに、前処理工程を自動化した質量分析装置においては、従来用主法で実施していた検体前処理を自動で処理することで、測定に影響を与えるリン脂質の除去が不十分になる可能性も考えられる。
【0006】
血清や血漿などの生体試料に含まれているリン脂質は液体クロマトグラフ質量分析装置(LC/MS)での測定において目的成分のイオン化抑制(以下、イオンサプレッションと記載する)を引き起こし、特にリン脂質を高値で含む高脂質含有検体においては顕著に発生する。また、イオンサプレッションはリン脂質に限り発生するものではなく、エレクトロスプレーイオン化法(ESI法)を用いた分析装置においては、ESI法がイオン化しやすい分子を優先的にイオン化する特徴があるため、測定対象物質と夾雑物が未分離な状態、かつ測定対象物質よりもイオン化しやすい夾雑物が含まれている場合、または測定対象物質分子のイオン蒸発を妨害するような夾雑物が含まれている場合においてもイオンサプレッションは生じる。
【0007】
液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS法)では、目的成分のイオン化の際に生体試料中の夾雑物やリン脂質によってイオンサプレッションが生じ、存在するはずの分析対象成分が全く検出できない、測定結果の偽低値が生じる等、質量分析の定量性が低下するという課題がある。質量分析の定量性が確保されない状態で質量分析装置を使用した場合、例えば免疫抑制剤による治療中の患者検体における血中薬物モニタリング(TDM)の測定を行った場合、正確な病態管理、投薬管理が実施できない恐れがある。
【0008】
また、高脂質含有検体を見過ごした場合、通常を超えた脂質を含む検体が質量分析装置に注入されると、装置の汚染および質量分析装置の検出器の汚染が生じ、装置の不具合や破損、あるいは装置の劣化を早める可能性がある。質量分析装置および検出器の汚染を防止するためにも注入される検体の前処理工程は非常に重要である。
【0009】
質量分析装置および検出器の汚染リスクと同様に、液体クロマトグラフ(LC)で使用されるカラムの汚染を防止するためにも高脂質含有検体の検体前処理工程は重要である。通常を超えた脂質を含む検体の注入により、カラムの性能劣化やカラムの寿命を縮小する可能性がある。
【0010】
脂質を除去するための洗浄法として、疎水性相互作用を利用した洗浄プロセスを利用する等の既知の手法があるが、対象成分の極性が低い場合にはリン脂質とともに測定対象成分も保持され、洗浄プロセスにより共に除去され、質量分析における測定対象物の感度が低下する可能性がある。
【0011】
従来の質量分析法において、検体マトリックスによるイオンサプレッションを防止することと、測定対象物質を高い回収率で回収し定量性を確保することはトレードオフの関係にあった。イオンサプレッションを防止するため、前記疎水性相互作用を利用した洗浄プロセスを実施すると、測定対象物質の回収率が低下し測定感度が低下してしまう。従来、乳び等の通常を超えた脂質が含まれた検体においては、前記イオンサプレッションを防止することと、測定感度を維持することの両立をあきらめ、通常の測定後に再検査を実施するケースもあった。
【0012】
さらに、他のイオンサプレッションを生じる可能性のある夾雑物として可塑剤がある。検体前処理を自動化した質量分析装置においては、様々な性状の分離剤、凝固促進剤、抗凝固剤等を添加された採血管が搬送される。分離剤、凝固促進剤等の種類によっては、質量分析装置のスペクトルに影響を与えるもの、イオンサプレッションを生じる可能性があるものが含まれている可能性がある。
【0013】
特許文献1の検体検査自動化システムでは血清中の溶血、乳び、黄疸が見られる検体においては、測定結果にフラグをつける、あるいはその後の自動分析装置での測定自体を行わないと記載されているが、測定自体を中断してしまうことにより測定結果報告の遅延につながる可能性がある。
【0014】
また、特許文献1の検体検査自動化システムでは、溶血、乳び、黄疸などの検体情報によって測定が中断されていないか常に監視する必要が生じ、検査業務に更に負担を生じることになる。
【0015】
本発明の目的は、新規に構成部品を設置することなく、また、自動分析装置による測定プロセスを大きく変更することなく、質量分析装置での測定精度を保持することが可能な検体前処理装置の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。
【0017】
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば質量分析で使用する検体の前処理を実施する検体前処理装置と、質量分析装置と、他の自動分析装置とが接続されている検体検査自動化システムの検体前処理装置の制御方法であって、前記他の自動分析装置による前記検体の測定結果または前回値情報を参照して血清情報を判断し、前記血清情報に基づいて、検体前処理時に検体に含まれた夾雑物を排除する洗浄プロセスの条件を決定し、前記検体と試薬を混合する反応容器に、前記条件に基づいて洗浄液を分注することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、新規に構成部品を設置することなく、また、自動分析装置による測定プロセスを大きく変更することなく、質量分析装置での測定精度を保持することが可能な検体前処理装置の制御方法を提供することができる。
【0019】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施例の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例に係る検体前処理装置の全体構成を示す図。
図2】実施例に係る検体前処理装置における、磁性粒子を用いた洗浄プロセスを示す図。
図3】実施例に係る検体前処理装置における、検体前処理のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を用いて実施例を説明する。
【0022】
ここで、以下の実施例では、磁性粒子を用いた検体前処理装置を使用する方法を一例として説明する。しかし、本方式を用いた洗浄プロセスは磁性粒子を用いた方法に限られるものではない。
【実施例
【0023】
最初に、本実施例の磁性粒子を用いた検体前処理装置の全体構成について、図1を用いて説明する。図1は、本実施例の検体前処理装置の全体構成を示す図である。
【0024】
図1に示す検体前処理装置1は、検体と試薬を反応させ、この反応溶液を測定するための装置を使用して検体前処理を行う装置であり、搬送ライン100と、検体分注機構101、試薬ディスク102、インキュベータ103、マガジン104、搬送機構105、試薬分注機構106、磁性粒子撹拌機構107、洗浄ユニット110、洗浄液ストレージ111、洗浄液供給機構112、洗浄液ノズル113、チャンバ114、磁気分離器115、ミキサー116、溶出部117、上清分離部118、液性調整部119、演算部130、制御部131、記録装置132、表示装置133、入力装置134、LC移送140を備えている。
【0025】
搬送ライン100は、検体を収容した検体容器100Aを複数載置可能なラック100Bを検体分注位置等へ搬送するためのラインである。
【0026】
検体分注機構101は、検体容器100Aに収容された検体を吸引し、インキュベータ103上の反応容器108に対して吐出するためのノズルである。
【0027】
インキュベータ103は、検体と試薬の反応を恒温で行うためのディスクであり、その温度をヒータ(図示省略)によって所定の温度に保つことで、検体と試薬との反応を促進させている。反応容器108は、インキュベータ103に複数保持されており、検体と試薬を混合して反応させる場となる。
【0028】
マガジン104は、検体の分取・分注を行う際に検体分注機構101により分取された検体および試薬を入れ反応を行う反応容器108を保管する。
【0029】
搬送機構105は、マガジン104に保持された未使用の反応容器108をインキュベータ103へ搬送し、また使用済の反応容器108を反応容器廃棄部(図示省略)に搬送する。
【0030】
試薬ディスク102は、磁性粒子や検体前処理、分析に使用する試薬を収容する試薬容器121を保管するディスクであり、試薬の劣化を抑制するために保冷されている。
【0031】
試薬分注機構106は、試薬ディスク102内の試薬容器121に保管された試薬を吸引し、反応容器108に対して吐出するためのノズルである。
【0032】
磁性粒子撹拌機構107は、試薬ディスク102内の試薬のうち、磁性粒子溶液を撹拌する。
【0033】
演算部130は、他の自動分析装置での検体の測定結果または前回値情報等のいずれか一方、あるいはその両方に基づいた情報を参照し、検体の血清情報をチェックし判断する。記録装置132に保存された情報を参照しても良い。
【0034】
制御部131は、演算部130での検体の血清情報の判断に基づいて、洗浄ユニット110において実施する洗浄プロセスの条件を決定する。なお、制御部131は洗浄プロセスの条件を決定するとともに、各ユニットの様々な動作を制御する。制御部131による各機器の動作の制御は各種プログラムで実行される。このプログラムは記録装置132等に格納されており、CPUによって読み出され、実行される。
【0035】
なお、制御部131で実行される動作の制御処理は、1つのプログラムにまとめられていても、それぞれが複数のプログラムに別れていてもよく、それらの組み合わせでもよい。また、プログラムの一部または全ては専用ハードウェアで実現してもよく、モジュール化されていても良い。
【0036】
記録装置132は、検体前処理装置および質量分析装置等、接続された各機器の動作の制御等を実行するための様々なコンピュータプログラムを記録しており、各種表示機能、質量分析装置による分析結果も記録している。フラッシュメモリ等やHDD等の磁気ディスク等の記録媒体で構成される。
【0037】
記録装置132には、洗浄液の種類、洗浄液の混合比率、洗浄回数、洗浄温度等、洗浄ユニットで実施する洗浄プロセスの各条件が記録されており、それぞれを組み合わせた洗浄パターンも記録されている。
【0038】
表示装置133は、分析結果や分析の進行状況に関係する情報を表示する液晶ディスプレイ等の表示機器である。
【0039】
入力装置134は、データを入力するためのキーボードやマウス等で構成される。
【0040】
洗浄ユニット110は、制御部131により決定された洗浄プロセスに基づいて検体中の夾雑物を除去する検体前処理における洗浄プロセスを実行する。
【0041】
洗浄液ストレージ111は、必要かつ選択可能な洗浄液を保管しておくエリアであり、洗浄液供給機構112と連結している。制御部131に決定された条件に基づいて、洗浄液供給機構112により、必要な洗浄液が必要な分量で、チャンバ114に供給される。
【0042】
洗浄液ノズル113には、図示しない洗浄液吸引ノズルと洗浄液吐出ノズルの2本のノズルが設置されており、洗浄後の排水と洗浄液の供給の両方を実施することが可能である。チャンバ114に供給された洗浄液は、洗浄液吐出ノズルにより、反応容器108に分注される。
【0043】
ミキサー116は、分注された洗浄液と検体を回転動作により撹拌する。反応容器108は、搬送機構105により各ユニットを移送される。
【0044】
磁気分離器115は、磁性粒子溶液と洗浄液が分注された反応容器108の磁気分離処理を行う。磁気分離器115において実施される洗浄工程は、検体と試薬、磁性粒子の混合溶液中に残存している生体試料由来の夾雑物を除去するために実施する。一定時間経過後、磁気分離が終了した後、洗浄液吸引ノズルにより洗浄後の排水が実施される。
【0045】
溶出部117では、有機溶媒を吐出して磁性粒子に吸着されていた測定対象物質の溶出を実施する。
【0046】
上清分離部118では、分離した測定対象物質を搬送機構105によって搬送された新規の反応容器108に分注する。
【0047】
液性調整部119では、検体をLCによる分離に適した液性に調整するために、希釈液等を調整し、撹拌する。
【0048】
LC移送140は、一連の検体前処理が完了した検体をLCに移送する。
【0049】
次に、図1に示す本実施例の検体前処理装置1における全体的な検体前処理の流れについて、図2および図3を用いて概略を説明する。洗浄プロセスの一例として、今回は磁性粒子を使用した洗浄プロセスについて記載する。なお、検体前処理開始前に、ユーザは必要なアッセイ試薬や反応容器108などの消耗品を分析装置内の試薬ディスク102やマガジン104にそれぞれ設置する。
【0050】
まず、ユーザは分析対象の血液や尿等の検体を検体容器100Aに入れた状態で、ラック100Bを質量分析装置および自動分析装置に投入する(S1)。
【0051】
このとき、演算部130において質量分析で使用する検体の前処理を実施する検体前処理装置および質量分析装置の他にサンプルチェッカーモジュールが接続されているかどうかをチェックし(S2)、サンプルチェッカーモジュールが接続されている場合は既存技術で血清情報を検出する(S2A)。
【0052】
また、演算部130において、生化学自動分析装置、免疫自動分析装置、電解質分析装置、サンプルチェッカーモジュール等、他のモジュールが接続されているかをチェックする(S3)。他のモジュールが接続されている場合は、それらの既存技術で血清情報を検出する(S3A)。
【0053】
それらのいずれのモジュールも接続されていない場合は、演算部130において、電子カルテおよび記録装置をチェックし、前回値情報、既往歴などの患者情報をチェックする。
【0054】
S2~S4までの情報あるいは他の接続モジュールの測定結果を演算部130が参照し、検体情報に高脂質検体あるいは他の関連項目においてリン脂質高値が疑われる検体か、あるいはその他の測定に影響を与える血清情報がないか判断する(S5)。
【0055】
演算部130から伝送された血清情報が制御部131に伝送され、制御部131において洗浄条件が決定される(S6)。例として、2種類の洗浄液を順次用いて洗浄を行う。洗浄液Aは水溶液を用い、主に無機塩類などの共存物質を除去する。洗浄液Bは有機溶媒を含む溶液を用い、主に脂質やタンパク質などの共存物質を除去する。通常の脂質範囲、およびその他血清情報に異常な点が見られなかった場合は、例えば洗浄液にアセトニトリル100%、洗浄回数1回を選択し、洗浄ユニットに洗浄条件を伝送する(S7)。
【0056】
この間、検体前処理装置においては検体前処理が継続されている(S8)。以下、検体前処理装置での検体前処理の概略について説明する。搬送機構105により、未使用の反応容器108がインキュベータ103に搬送される。ラック100Bが搬送ライン100を通過して検体分注位置に到達すると、検体分注機構101により検体が反応容器108に分注される。反応容器108に検体分注後、測定対象物の同位体を所定の濃度で含ませた内部標準液を分注する。このとき、反応容器108はインキュベータ103において37℃で恒温保持される。
【0057】
その後、試薬分注機構106が試薬ディスク102内にアクセスすることにより、試薬容器121内に保管された、質量分析に使用されるアッセイ試薬がインキュベータ103上の反応容器108に分注され、検体と試薬の反応が開始される。
【0058】
検体とアッセイ試薬の反応が開始した後に、特定のタイミングで抗体を表面に結合させた磁性粒子を更に反応容器108に添加する。このときも反応容器108はインキュベータ103において37℃で恒温保持される。所定時間だけインキュベータ103に置かれた反応容器108は、搬送機構105によって洗浄ユニット110に搬送される。
【0059】
制御部131にて判断された洗浄プロセスに基づいて洗浄を実施する(S9)。洗浄液供給機構112より洗浄条件に合致した洗浄液がチャンバ114に吐出される。洗浄液吐出後、反応容器108は搬送機構105によりミキサー116に搬送され、洗浄液と検体が撹拌される。
【0060】
その後、反応容器108は搬送機構105により磁気分離器115に搬送され、反応容器108中の磁気分離が行われる。その後、洗浄液ノズル113により不要な洗浄液が排出される。
【0061】
磁気分離のプロセス終了後、搬送機構105により、反応容器108が溶出部117に輸送される。アセトニトリル等の有機溶媒を用いた溶出液を反応容器108に分注し、ミキサー116により撹拌される。37℃で所定の時間溶出させ、磁性粒子と結合していた測定対象物質が溶出液中に溶出される(S10)。
【0062】
溶出部117にて測定対象物質が溶出した反応容器108は、搬送機構105により上清分離部118に搬送される。上清分離部118において、再度残りの磁性粒子を磁気分離にて集約し、その間に上清を回収する(S11)。
【0063】
液性調整部119では、前記上清をLCによる分離に適した液性に調整するための希釈液を分注する(S12)。一連の前処理を実施された検体は、最終的にLC移送140によりLCへ移送される(S13)。LCでの分離後、質量分析(MS)モジュールへ移送され、MSモジュールの検出器にて測定され、検体中の測定対象物質の濃度を求め、結果は表示装置133に表示されてユーザに通知されるとともに、記録装置132に記録される(S14)。
【0064】
全ての測定が完了した後、反応容器108は、LC移送140により反応容器廃棄部(図示省略)に輸送され、廃棄される。
【0065】
次に、検体情報が乳びであると演算部130により判断された高脂質含有検体における本実施例の検体前処理装置1で用いられる洗浄法の概要について説明する。
【0066】
通常血清と同様にS2~S4までの情報あるいは他の接続モジュールの測定結果を演算部130が参照し、検体情報に高脂質検体あるいは他の関連項目においてリン脂質高値が疑われる検体か、あるいはその他の測定に影響を与える血清情報がないか判断する(S5)。判断基準は演算部に格納されており、一例として脂質異常症のガイドラインにより、LDLコレステロール≧140mg/dL、HDLコレステロール<40mg/dL、中性脂肪≧150mg/dLの基準にあてはめて判断し、判断基準から外れる検体であるかどうか判断する。
【0067】
また、前記他の接続モジュールの中性脂肪、LDLコレステロール、HDLコレステロール、総コレステロール、β-リポ蛋白、リポ蛋白(a)、レムナント様リポ蛋白-コレステロール、アポ蛋白(アポリポ蛋白)A-I、アポ蛋白(アポリポ蛋白) A‐II、アポ蛋白(アポリポ蛋白) B、アポ蛋白(アポリポ蛋白) C-II、アポ蛋白(アポリポ蛋白) C‐III、アポ蛋白(アポリポ蛋白) 等の検査項目においても演算部において測定結果が基準範囲を超えているか判断しても良い。
【0068】
あるいは、当該検査時に他の接続モジュールより前記記載の検査項目の測定結果が記録されていなかった場合は、記録装置132またはHIS、LIS、STS等を用いた院内電子カルテ等に接続された患者情報および前記記載の項目の前回値情報を演算部130にて判断しても良い。過去に高脂血症、糖尿病、ネフローゼ症候群、甲状腺機能低下症、急性膵炎、慢性膵炎、肥満、クッシング症候群等の既往歴があるかどうかを演算部にて判断し、該当する既往歴があった場合において、高脂質含有検体の可能性が高い判断することも可能である。
【0069】
前記演算部による判断(S5)により血清情報が高脂質含有検体であると判断された場合、洗浄ユニットにおいて、洗浄プロセスにおける洗浄液を、一例として水5%、アセトニトリル95%、洗浄回数2回の洗浄条件を選択し、洗浄条件を洗浄ユニットに伝送する。洗浄回数が複数回設定されている場合は、別の洗浄ユニットに反応容器を移送し、再度洗浄プロセスを実施する。
【0070】
また、洗浄プロセスは通常室温で実施されるが、37℃以上などの温度を設定する場合は、磁気分離器115において温度調整機構(図示省略)を設置し、指定の温度において洗浄プロセスを実施することができる。
【0071】
この洗浄条件は制御部131にいくつかのパターン化された組み合わせがある。一例として、中性脂肪が150~200mg/dLの検体情報が得られた場合は、パターン1.として、前記“水5%、アセトニトリル95%、洗浄回数2回”を選択する。中性脂肪が200mg/dL以上の場合は疎水性洗浄液の比率をそれ以上に低下したパターン2.“水8%、アセトニトリル92%、洗浄回数2回、温度設定37℃”を選択しても良い。
【0072】
洗浄条件は、表示装置133の分析画面のメンテナンス項目欄などに表示され、ユーザが手動でそれぞれの条件を選択し設定することも可能である。
【0073】
また、表示装置133の分析画面のメンテナンス項目欄では、ユーザが現在の洗浄プロセスがどの条件で実施されているかを確認することもできる。あるいはユーザが分析結果を確認する際、その測定結果に実施した洗浄プロセスの条件を付記することも可能である。
【0074】
今回の実施例中には高脂質検体における洗浄条件を記載したが、前記のパターンには、血清情報が溶血、黄疸、あるいは使用している採血管の情報等を演算部で参照し、制御部にてそれぞれに適した洗浄パターンを選択することも可能である。
【0075】
以上説明したごとく、本実施例では、質量分析で使用する検体の前処理を実施する検体前処理装置において、生化学自動分析装置、免疫自動分析装置、電解質分析装置、サンプルチェッカーモジュール等、他の接続モジュールの情報および測定結果を利用して、検体情報によって高脂質検体、リン脂質高値が疑われる検体、または、溶血、黄疸等の乳び以外の血清と判断された検体に対して、検体前処理時に洗浄ユニットにおいて実施する洗浄に使用する洗浄液の種類、比率や、洗浄回数、洗浄温度を変更することを可能とする。
【0076】
次に、本実施例の効果について説明する。
【0077】
上述した本実施例の検体前処理装置1は、従来ユーザによる用手法で実施されていた検体前処理を自動化することによって、見過ごされる可能性の高かった高脂質含有検体の識別をすることが可能となる。他の生化学自動分析装置、免疫自動分析装置、電解質分析装置、サンプルチェッカーモジュール等と接続可能で、他のモジュールの情報を利用することが可能な当該質量分析装置において有効な方法となる。
【0078】
従来の質量分析法における、前記イオンサプレッションの防止と測定対象物質の高い回収率のトレードオフの関係から、一様に同じ洗浄方法を適用せず、通常範囲を超えた高脂質含有検体を的確に識別し本実施例中の洗浄プロセスを実施することで、通常の洗浄条件で十分な検体の測定感度を保持しつつ、イオンサプレッションを防止し測定感度の保持と測定の定量性を確保することが可能となる。
【0079】
上述した特許文献1に開示された検体検査自動化システムにあるように、測定結果にフラグをつけ、測定自体を中断すると測定結果報告の遅延が生じる。そのため、測定中常に血清情報を監視する必要があったが、本実施例中の洗浄プロセスにより、他の接続されたモジュールの情報に基づいて自動で演算部と制御部で洗浄プロセスを判断するので、ユーザによる装置の監視が不要で、複数業務をこなすユーザの負担を減らすことができる。
【0080】
また、本実施例中の洗浄プロセスにより、検体前処理装置、LCの配管、MS本体、MSの検出器等の脂質による汚染を防止することで、装置の劣化や不具合、またはMS検出器の不具合や破損を防止することができる。
【0081】
さらに、本実施例中の洗浄プロセスにより、LCで使用するカラムの汚染も防止されるため、消耗品としての寿命を縮めることなく使用することができる。
【0082】
本実施例中の洗浄プロセスは、新たなユニットや構成部品を設置することなく実施可能であるため、装置の大型化を防止することが可能となる。
【0083】
前記検体前処理装置において、他の接続モジュールは1台でも、それぞれ複数台接続していても良い。また、その順序は指定されない。
【0084】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0085】
1:検体前処理装置、100:搬送ライン、100A:検体容器、100B:ラック、101:検体分注機構、102:試薬ディスク、103:インキュベータ、104:マガジン、105:搬送機構、106:試薬分注機構、107:磁性粒子撹拌機構、108:反応容器、110:洗浄ユニット、111:洗浄液ストレージ、112:洗浄液供給機構、113:洗浄液ノズル、114:チャンバ、115:磁気分離器、116:ミキサー、117:溶出部、118:上清分離部、119:液性調整部、130:演算部、131:制御部、132:記録装置、133:表示装置、134:入力装置、140:LC移送
図1
図2
図3