(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-07
(45)【発行日】2024-06-17
(54)【発明の名称】絶縁性回路基板およびそれを用いた半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 23/13 20060101AFI20240610BHJP
H01L 23/36 20060101ALI20240610BHJP
H05K 1/09 20060101ALI20240610BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
H01L23/12 C
H01L23/36 C
H05K1/09 A
H05K1/03 610E
(21)【出願番号】P 2022571559
(86)(22)【出願日】2021-12-22
(86)【国際出願番号】 JP2021047606
(87)【国際公開番号】W WO2022138732
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-06-19
(31)【優先権主張番号】P 2020214952
(32)【優先日】2020-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】303058328
【氏名又は名称】東芝マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004026
【氏名又は名称】弁理士法人iX
(72)【発明者】
【氏名】森本 一光
(72)【発明者】
【氏名】平林 英明
【審査官】河合 俊英
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-055264(JP,A)
【文献】国際公開第2018/180965(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/13
H01L 23/36
H05K 1/09
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性
のセラミックスからなるセラミックス基板と、
前記
セラミックス基板の少なくとも一方の面に接合され
、銅または銅合金からなる銅部材と、を備えた絶縁性回路基板であって、
前記
銅部材の表面の窒素量をXPS分析したとき、任意の3か所での前記窒素量の平均値が0at%以上50at%以下の範囲内であ
り、かつ前記3か所での酸素量の平均値が3at%以上50at%以下の範囲内であり、
前記セラミックス基板と前記銅部材は、Ag、Cu、およびTiから選ばれる1種以上を含んだ接合層を介して接合されていることを特徴とする絶縁性回路基板。
【請求項2】
前記窒素量の前記平均値は0at%以上30at%以下の範囲内であることを特徴とする、請求項1記載の絶縁性回路基板。
【請求項3】
前記酸素量の
前記平均値
は3at%以上30at%以下の範囲内であることを特徴とする請求項1ないし請求項
2のいずれか1項に記載の絶縁性回路基板。
【請求項4】
前記酸素量の前記平均値に対する前記窒素量の前記平均値の比が、0以上5以下であることを特徴とする請求項
3に記載の絶縁性回路基板。
【請求項5】
前記
セラミックス基板は、窒化珪素または窒化アルミのいずれか1種を主成分として含むことを特徴とする、請求項1ないし請求項
4のいずれか1項に記載の絶縁性回路基板。
【請求項6】
複数の前記
銅部材が、前記
セラミックス基板の両面にそれぞれ接合され、
前記複数の
銅部材のそれぞれの表面の前記窒素量の前記平均値が、0at%以上50at%以下の範囲内であることを特徴とする、請求項1ないし請求項
5のいずれか1項に記載の絶縁性回路基板。
【請求項7】
前記絶縁性回路基板の表面に存在するアンモニウムイオンをイオンクロマトグラフによって測定したとき、前記アンモニウムイオンの量が40cm
2あたり0μg以上3μg以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項
6のいずれか1項に記載の絶縁性回路基板。
【請求項8】
前記絶縁性回路基板の表面に存在する塩素イオンをイオンクロマトグラフによって測定したとき、前記塩素イオンの量が40cm
2あたり0μg以上15μg以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項
7のいずれか1項に記載の絶縁性回路基板。
【請求項9】
前記絶縁性回路基板の表面に存在する硫酸イオンをイオンクロマトグラフによって測定したとき、前記硫酸イオンの量が40cm
2あたり0μg以上5μg以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項
8のいずれか1項に記載の絶縁性回路基板。
【請求項10】
前記絶縁性回路基板の表面に存在するフッ素イオンをイオンクロマトグラフによって測定したとき、前記フッ素イオンの量が40cm
2あたり0μg以上2μg以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項
9のいずれか1項に記載の絶縁性回路基板。
【請求項11】
前記銅部材の最大高さRzは、20μm以下であることを特徴とする、請求項1ないし請求項
10のいずれか1項に記載の絶縁性回路基板。
【請求項12】
前記銅部材の表面粗さRaは、2μm以下であることを特徴とする、請求項1ないし請求項
11のいずれか1項に記載の絶縁性回路基板。
【請求項13】
前記
セラミックス基板は、厚さ0.4mm以下の窒化珪素基板であり、
前記
銅部材の厚さ
は、0.6mm以
上であることを特徴とする、請求項1ないし請求項
12のいずれか1項に記載の絶縁性回路基板。
【請求項14】
請求項1ないし請求項
13のいずれか1項に記載の絶縁性回路基板と、
前記
銅部材の上に半田層または銀を主成分とする層を介して実装された半導体素子と、を備えた半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
後述する実施形態は、おおむね、絶縁性回路基板およびそれを用いた半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁性基板と導体部とを接合した絶縁性回路基板がある。絶縁性回路基板の一種であるセラミックス銅回路基板は、半導体素子などを実装する回路基板に用いられている。国際公開第2017/056360号公報(特許文献1)には、セラミックス基板および銅板を接合層を介して接合した接合体と、その接合体が改良されたセラミックス銅回路基板と、が記載されている。特許文献1では、銅板端部から接合層をはみ出させたはみ出し部が設けられている。このような、接合層のはみ出し部のサイズを制御することにより、温度サイクル試験(TCT)特性を向上させている。
セラミックス銅回路基板に半導体素子を実装すると、半導体装置が得られる。半導体素子の実装には、半田層又は銀ペーストが用いられている。半田層又は銀ペーストがセラミックス銅回路基板と半導体素子の接合を強固にしている。特許文献1のセラミックス銅回路基板に半田層を介して半導体素子を実装したとき、半田層の接合の信頼性が不足する現象がおきていた。この原因を追究したところ、銅板表面の窒素量に原因があることが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2017/056360号公報
【文献】国際公開第2019/054294号公報
【文献】特開2007-81217号公報
【文献】国際公開第2019/054291号公報
【文献】特開2020-59228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
接合体に回路形状を付与することで、絶縁性回路基板(例えばセラミックス回路基板)が得られる。接合体に回路形状を付与するための工程として、エッチング工程または化学研磨工程が用いられている。例えば、国際公開第2019/054294号公報(特許文献2)には、化学研磨工程とエッチング工程を組み合わせた方法が開示されている。特許文献2の化学研磨工程では、過酸化水素水、塩酸、硫酸などの薬液が使われている。また、特開2007-81217号公報(特許文献3)では、銅板表面を化学研磨した後、防錆処理を行っている。特許文献3では、銅板の防錆処理にベンゾトリアゾールなどの薬液が用いられている。国際公開第2019/054291号公報(特許文献4)には、銀、銅、およびチタンを含む活性金属ろう材のエッチングに用いる薬液として、ペルオキソ二硫酸アンモニウムなどが示されている。特開2020-59228号公報(特許文献5)において、アルミニウムの防錆処理にベンゾトリアゾールなどの薬液が用いられている。化学研磨、エッチング工程、防錆処理工程などでは様々な薬液が使われている。薬液を用いた工程を行ったときに、導体部である銅板表面に、窒素の残渣が発生する。この窒素が半田層の接合信頼性を低下する原因となることが判明した。
本発明は、このような問題に対処するためのものであり、導体部表面の窒素量を低減した絶縁性回路基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態に係る絶縁性回路基板は、絶縁性基板と、前記絶縁性基板の少なくとも一方の面に接合された導体部と、を備え、前記導体部の表面の窒素量をXPS分析したとき、任意の3か所での前記窒素量の平均値が0at%以上50at%以下の範囲内であることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】実施形態に係る絶縁性回路基板の一例を示す模式図。
【
図2】実施形態に係る半導体装置の一例を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
実施形態に係る絶縁性回路基板は、絶縁性基板と、前記絶縁性基板の少なくとも一方の面に接合された導体部と、を備え、導体部の表面の窒素量をXPS分析したとき、任意の3か所での前記窒素量の平均値が0at%以上50at%以下の範囲内であることを特徴とする。導体部は、例えば、銅又は銅合金からなる銅部材である。
図1は、実施形態に係る絶縁性回路基板の一例を示す模式図である。
図1において、1は絶縁性回路基板、2は絶縁性基板、3は導体部(表導体部)、4は導体部(裏導体部)、5は接合層である。
図1に例示する絶縁性回路基板1では、絶縁性基板2の両面に接合層5を介して導体部3と導体部4が配置されている。
図1に示す構造では、導体部3に回路形状が付与され、導体部4が放熱板として用いられる。便宜上、導体部3を表導体部、導体部4を裏導体部と呼ぶ。また、2つの表導体部3が配置されている。実施形態に係る絶縁性回路基板は、このような形態に限定されず、1つまたは3つ以上の表導体部が設けられても良い。裏導体部4に、回路形状が付与されてもよい。絶縁性回路基板は、裏導体部4を備えず、表導体部3のみを備えてもよい。実施形態に係る絶縁性回路基板は、セラミックス銅回路基板であることが好ましい。
【0008】
絶縁性基板は、樹脂基板またはセラミックス基板であることが好ましい。樹脂基板は、セラミックス基板に比べると低コストであり、コストが考慮される際に好ましい。樹脂基板として、例えば、紙フェノール基板、紙エポキシ基板、ガラスエポキシ基板、複合基材エポキシ基板、ガラスコンポジット基板、ガラスポリイミド基板、ビスマレイミド-トリアジン(BT)基板、フッ素樹脂基板、ポリフェニレンオキシド(PPO)基板などがある。
セラミックス基板は、樹脂基板に比べると、優れた放熱性および3点曲げ強度を有する。セラミックス基板は、窒化珪素、窒化アルミニウム、サイアロン、アルミナ、およびジルコニアから選択される1種または2種を主成分として含むことが好ましい。主成分とは、50質量%以上含有される成分を指す。さらに、セラミックス基板は、窒化珪素基板、窒化アルミニウム基板、アルジル基板のいずれかであることがより好ましい。アルジルは、アルミナとジルコニアの2種を合計で50質量%以上含む材料である。
絶縁性基板の厚さは、0.1mm以上1mm以下が好ましい。基板厚さが0.1mm未満では、強度の低下を招く可能性がある。基板厚さが1mmより厚いと、絶縁性基板自体が熱抵抗体となり、絶縁性回路基板の放熱性を低下させる可能性がある。
窒化珪素基板の3点曲げ強度は、600MPa以上であることが好ましい。窒化珪素基板の熱伝導率は、80W/m・K以上であることが好ましい。窒化珪素基板の強度を上げることにより、基板厚さを薄くできる。このため、窒化珪素基板の3点曲げ強度は、600MPa以上、さらには700MPa以上が好ましい。窒化珪素基板の厚さを、0.40mm以下、さらには0.30mm以下と薄くできる。また、窒化アルミニウム基板の3点曲げ強度は、300~450MPa程度である。その一方、窒化アルミニウム基板の熱伝導率は、160W/m・K以上である。窒化アルミニウム基板の強度は低いため、基板厚さは0.60mm以上が好ましい。
酸化アルミニウム基板の3点曲げ強度は300~450MPa程度であるが、酸化アルミニウム基板はセラミックス基板の中では安価である。アルジル基板の3点曲げ強度は550MPa程度と高いが、その熱伝導率は30~50W/m・K程度である。アルジル基板とは、酸化アルミニウムと酸化ジルコニウムを混合した焼結体からなる基板である。
【0009】
絶縁性基板2としては、セラミックス基板が好ましい。セラミックス基板の中では、窒化珪素基板、窒化アルミニウム基板のいずれか一方がさらに好ましい。窒化珪素基板と窒化アルミニウム基板は、窒化物系セラミックス基板である。窒化物系セラミックスは、Tiを含有する活性金属ろう材と反応して窒化チタンを形成する。また、酸化物系セラミックスはTiを含有する活性金属ろう材と反応して酸化チタンを形成する。アルミナ基板、ジルコニア基板、アルジル基板は、酸化物系セラミックス基板である。
窒化物系セラミックスおよび酸化物系セラミックスは、活性金属接合法を用いることにより、導体部との接合強度を向上させることができる。これらの窒化チタン又は酸化チタンを形成する反応層を、チタン反応層と呼ぶ。
導体部は、銅部材又はアルミニウム部材であることが好ましい。銅部材は、銅板、銅合金板、銅板に回路形状が付与されて作製された部材、又は銅合金板に回路形状が付与されて作製された部材であり、銅又は銅合金からなる。アルミニウム部材は、アルミニウム板、アルミニウム合金板、アルミニウム板に回路形状が付与されて作製された部材、又はアルミニウム合金板に回路形状が付与されて作製された部材であり、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる。以降では、銅板に回路形状が付与されて作製された部材を、銅回路と呼ぶ。アルミニウム板に回路形状が付与されて作製された部材を、アルミニウム回路と呼ぶ。導体部は、銅部材又はアルミニウム部材以外の、メタライズ層又は導電性薄膜であっても良い。メタライズ層は、金属ペーストの焼成により形成される。アルミニウム部材は、銅部材と比較すると安価である。一方、銅部材は、アルミニウム部材と比較すると、優れた熱伝導性を有するため好ましい。
銅板または銅回路として、無酸素銅からなる銅板または銅回路が挙げられる。一般的に、銅の熱伝導率は、約400W/m・Kと高い。放熱性の向上のために、銅部材は、無酸素銅からなる銅板又は銅回路であることがより好ましい。
導体部3および導体部4の厚さは、0.3mm以上、さらには0.6mm以上であってもよい。導体部を厚くすることにより、接合体の放熱性を向上させることができる。表導体部3の厚さは、裏導体部4の厚さと同じでも良いし、裏導体部4の厚さとは異なっていてもよい。導体部としては、銅板又は銅回路が特に好ましい。銅板又は銅回路には、無酸素銅が用いられることが好ましい。無酸素銅は、JIS-H-3100に示されたように、99.96質量%以上の銅純度を有する。
【0010】
実施形態に係る絶縁性回路基板は、導体部の表面の窒素量をXPS分析したとき、任意の3か所の平均値が0at%以上50at%以下の範囲内であることを特徴とする。実施形態に係る絶縁性回路基板は、1つのみの導体部を備えてもよいし、複数の導体部を備えてもよい。つまり、設けられる導体部の数は特に限定されない。絶縁性回路基板が複数の導体部を備える場合、いずれかの導体部の表面において、任意の3か所の窒素量の平均値が0at%以上50at%以下の範囲内であればよい。より好ましくは、いずれの導体部の表面においても、任意の3か所の窒素量の平均値が0at%以上50at%以下の範囲内である。
導体部の表面とは、表導体部3または裏導体部4の少なくともいずれかの導体部の表面を指す。導体部の表面の窒素量を、XPS分析する。XPS分析は、X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy:XPS)を用いた分析を指す。XPS分析は、試料表面にX線を照射し、試料表面から放出される光電子の運動エネルギーを測定する方法である。XPS分析は、X線の侵入深さが数μmであるため、試料表面の定性分析および定量分析に用いられる。
XPS分析装置として、SSI社Xプローブまたはそれと同等以上の装置を用いる。分析では、AlKα線(hν=1486.6eV)を用い、X線のスポット径は直径1mmに設定する。XPS分析では、窒素、酸素以外に、導体部に用いた各金属元素の量、炭素の量も併せて測定する。
導体部として銅部材が用いられる場合は、測定された成分から、窒素、酸素、銅、及び炭素を抽出する。これらの合計を100at%として、窒素量を測定する。銅部材が銅合金を含有する場合、測定された成分から、窒素、酸素、銅、その他の合金の金属、及び炭素を抽出し、これらの合計を100at%とする。
導体部としてアルミニウム部材が用いられる場合は、測定された成分から、窒素、酸素、アルミニウム、及び炭素を抽出する。これらの合計を100at%として、窒素量を測定する。アルミニウム部材がアルミニウム合金を含有する場合、測定された成分から、窒素、酸素、アルミニウム、その他の合金の金属、及び炭素を抽出し、これらの合計を100at%とする。
【0011】
以下に示す実施形態では、導体部に銅部材を用い、絶縁性基板にセラミックス基板を用いた例を説明する。以下の説明は、導体部に銅部材以外の部材が用いられる場合にも援用される。導体部としてアルミニウム部材が用いられる場合、以下の説明において、「銅部材」は「アルミニウム部材」に適宜置き換え可能である。同様に、絶縁性基板にセラミックス基板以外の樹脂基板が用いられる場合、以下の説明において、「セラミックス基板」は樹脂基板に適宜置き換え可能である。
実施形態では、XPS分析によって、銅部材の表面の窒素量を測定する。窒素量として、表面の任意の3か所の平均値が用いられる。分析される「表面」は、銅部材の側面を含まない。任意の3か所とは、一つの銅部材の表面から選択される3か所である。測定時には、スポット径の最遠部同士が互いに500μm以上離れた3か所が選択される。測定箇所同士は、重複しないことが好ましい。また、測定箇所は、半導体素子が搭載される箇所であることが好ましい。銅部材表面の窒素量が、0at%以上50at%以下の範囲内であることにより、銅部材表面と接合層との濡れ性を改善できる。接合層として、半田層又は銀を主成分とする層(Agナノ粒子層)が用いられる。半田層は、例えば、JIS-Z-3282に定められた鉛フリー半田である。JIS-Z-3282は、「ISO DIS 9453 2005」に対応している。鉛フリー半田には、主にSn(錫)を含む合金が使われている。CuとSnは、互いに反応し易い成分である。これにより、銅部材と半導体素子との接合を強固にすることができる。それに対し、窒素は、SnとCuの反応を阻害する成分である。このため、導体部である銅部材の表面において、窒素量は0at%以上50at%以下であることが重要である。特に、導体部表面のどこを測定したとしても、窒素量が0at%以上50at%以下の範囲内であることがさらに好ましい。前述のように、任意の3か所の平均値を計算した場合、表面の一部に窒素量が50at%を超える個所が存在することもある。導体部表面のどこを測定したとしても、窒素量が0at%以上50at%以下の範囲内とすることにより、さらに特性を向上させることができる。
【0012】
窒素量が0at%(原子%)とは、XPS分析による検出限界以下であることを示す。また、窒素量が50at%を超えると、銅部材表面と接合層との濡れ性が低下する。従来の絶縁性回路基板、特にセラミックス銅回路基板では、接合層を介して半導体素子と接合される箇所における導体部の表面において、窒素量が60at%以上となる個所があった。任意の3箇所の窒素量の平均値を50at%以下とすることにより、導体部と接合層との濡れ性を改善できる。
このため、銅部材表面の窒素量は、0at%以上50at%以下である。防錆剤を用いない場合には、窒素量は0at%以上30at%以下であることが好ましい。
防錆剤を用いた場合には、銅部材表面の窒素量は10at%以上50at%以下であってもよい。防錆剤を用いた場合のより好ましい窒素量の範囲は、10at%以上30at%以下である。
後述する洗浄工程を用いることで窒素量を制御可能である。このため、防錆処理の有無に応じて、窒素量を制御することが好ましい。
銅部材表面の窒素量は、少ないほど好ましい。一方、後述するように、銅部材表面の酸素量を制御することにより、窒素量は10at%以上であっても不具合が発生する可能性を低減できる。
【0013】
銅部材表面の酸素量をXPS分析したとき、3か所の平均値が3at%以上50at%以下の範囲内であることが好ましい。XPS分析の方法は、窒素量の分析方法と同じである。酸素量を測定するときの3か所は、窒素量を測定するときの3か所と同じである。つまり、一回のXPS分析で、窒素量と酸素量の両方を測定する。言い換えると、同じ測定エリアに存在する窒素と酸素の量を同時に測定する。
【0014】
銅部材表面に窒素が付着していると、銅部材と接合層との接合が阻害される。そのため、窒素量が少ないことが好ましい。一方、銅部材表面に酸素が存在する場合には、銅部材表面に窒素を付着させ難くできる。銅部材表面に存在する酸素が窒素の付着を抑制することにより、窒素が銅部材と接合層の接合を阻害することを抑制できる。そのため、銅部材表面に酸素が存在していることが好ましい。例えば、銅部材表面に対して化学研磨工程またはエッチング工程を行うと、銅部材の銅結晶粒子同士の粒界から、銅結晶粒子の一部が除去されていく。このため、銅部材の粒界部分に、微小な凹部が形成される。粒界部分の微小な凹部に、窒素が付着し易くなる。これは、窒素原子を含む薬液を用いることにより、銅部材表面の凹部に薬液の成分が残りやすくなり、銅部材表面に窒素が付着するためである。例えば、窒素原子を含む薬液とは、アミノ基を有する化合物などである。銅板表面に酸素があることにより、凹部に酸素が存在し、窒素の付着を抑制することができる。また、凹部に存在する窒素を酸素が被覆する効果もある。このため、酸素量は、前述の範囲内であることが好ましい。
【0015】
銅部材表面の酸素量が3at%以上であると、窒素による不具合を抑制できる。酸素量が3at%未満であると、酸素量不足となる。銅部材表面の酸素量が50at%を超えて多いと、酸素自体が銅部材と反応し、酸化銅が形成される。そのため、銅部材の熱伝導率が低下する可能性がある。よって、銅部材表面の酸素量は、3at%以上50at%以下の範囲内であることが好ましい。さらに、銅部材表面の酸素量が3at%以上30at%以下の範囲内であると、酸素自体が銅部材と接合層の接合を阻害しない。酸素量が30at%を超えて多いと、酸素自体が銅部材と接合層の接合を阻害する要因となる可能性がある。よって、銅部材表面の酸素量は、3at%以上30at%以下の範囲内であることがより好ましい。
また、銅部材表面において、酸素量(AOX)に対する窒素量(AN)の比(AN/AOX)は、0以上5以下であることが好ましい。比の算出に用いられる窒素量および酸素量は、上述した3か所の平均値である。比(AN/AOX)が0は、窒素量が0at%のときである。比(AN/AOX)が5以下であるということは、窒素量が酸素量の5倍以下であることを示す。比(AN/AOX)が5を超えて大きいと、窒素の影響を抑制する効果が不足する可能性がある。また、銅部材表面のどこを測定したとしても、比(AN/AOX)は、0以上5以下であることが好ましい。
防錆処理を行わなかった場合には、銅部材表面における比(AN/AOX)が0以上4以下であることがより好ましい。一方、防錆処理を行った場合には、銅部材表面における比(AN/AOX)が、0.5以上4以下であることがより好ましい。つまり、防錆処理によって銅部材表面の窒素量が0at%でなかったとき、比(AN/AOX)は、0.5以上4以下が好ましい。防錆処理を行ったとき、銅部材表面の窒素量を0at%(検出限界以下)にするのは、製造工程の負荷が増える可能性がある。窒素が残存したとしても、影響を低減できるようにすることが有効である。
また、絶縁性回路基板の表面に存在する塩素イオン量は、絶縁性回路基板の表面積40cm2あたり、0μg以上15μg以下であることが好ましい。塩素イオン量は、絶縁性回路基板の表面積40cm2あたり、0μg以上3μg以下であることがさらに好ましい。
絶縁性回路基板の表面に存在する硫酸イオン(SO4)量は、絶縁性回路基板の表面積40cm2あたり、0μg以上5μg以下であることが好ましい。また、硫酸イオン(SO4)量は、絶縁性回路基板の表面積40cm2あたり、0μg以上0.5μg以下であることがさらに好ましい。
絶縁性回路基板の表面に存在するフッ素イオンは、絶縁性回路基板の表面積40cm2あたり0μg以上2μg以下であることが好ましい。また、フッ素イオンは、絶縁性回路基板の表面積40cm2あたり、0μg以上1μg以下であることがさらに好ましい。
絶縁性回路基板の表面に存在するアンモニウム(NH4)イオンは、絶縁性回路基板表面積40cm2あたり0μg以上3μg以下であることが好ましい。また、アンモニウムイオンは、絶縁性回路基板の表面積40cm2あたり、0μg以上1μg以下であることがさらに好ましい。
上記複数のイオンは、絶縁性基板の表面よりも、金属の表面に付着しやすい傾向にある。上記複数のイオンは、絶縁性基板表面に存在していた場合、銅部材と半導体素子との接合時に揮発し、銅部材表面の汚染を誘発する可能性がある。銅部材表面が汚染されると、銅部材と半導体素子との接合不良を誘発する可能性がある。そのため、銅部材が接合されていない箇所も含む絶縁性回路基板の表面全体に存在する上記イオン量を制御することが好ましい。
絶縁性回路基板1枚当たりの表面積の大きさが40cm2より小さい場合には、複数枚の基板を用いてその絶縁性回路基板の表面積の合計値を40cm2以上にすることが好ましい。表面積の合計値が40cm2未満の場合、つまり絶縁性回路基板表面の面積が極端に小さい場合には、比例関係を用いて換算した際に、外れ値またはノイズの影響が過大になる可能性があるためである。ここで測定している表面積とは、側面の厚さ成分を含まない、平坦面の面積である。平坦面は、絶縁性回路基板を上から見たとき、絶縁性基板の導体部との接合面に略平行な面を指す。例えば、上から見たとき絶縁性基板端部からはみ出ないように導体部を設けた場合、絶縁性基板の表面(上面)及び裏面(下面)を平坦面とみなすことができる。絶縁性回路基板の表裏を表面積の計算対象とすることから、表面積=絶縁性基板の縦寸法×横寸法×2倍となる。また、上から見たとき絶縁性基板端部から導体部がはみ出ている場合は、はみ出た導体部の平坦面も表面積にカウントする。このように、表面積の計算には、絶縁性基板および導体部の厚さ成分は含めない。
ここで、上方向とは、絶縁性基板の端部と端部の点を結んだ直線を考えたとき、この直線に対して垂直の方向で定義される。平坦面の面積とは、この上方向から見たときの面積と下方向から見た面積の和として定義される。したがって、上方向から見たときの面積を2倍した値が、絶縁性回路基板の表面積となる。
また、絶縁性回路基板が少量しかなく、その絶縁性回路基板の表面積の合計値が40cm2より小さい場合には、得られた不純物量をその表面積(cm2)で割った後に40を掛けることで、表面積の大きさを換算してもよい。不純物とは、上述した、塩素イオン、硫酸イオン、フッ素イオン、アンモニウムイオンを指す。絶縁性回路基板1枚当たりの表面積が40cm2でない場合には、絶縁性回路基板の表面積と不純物量に比例関係があるので、この関係を用いて以下の式で換算すれば良い。
「銅部材の40cm2当たりの不純物量」=「測定によって得られた不純物量」×40÷「絶縁性回路基板の表面積の合計値(cm2)」
塩素イオン、硫酸イオン、フッ素イオン、アンモニウムイオンの量はイオンクロマトグラフで測定する。
塩素イオンは、塩化鉄または塩化銅などの薬液を用いて銅板のエッチング工程を行った際に付着し易い。また、洗浄の際に塩酸を用いた場合にも付着しやすい。
硫酸イオンは、チオ硫酸ナトリウムまたは硫酸やペルオキソ二硫酸アンモニウムなどの薬液を用いて、AgまたはCuを主成分とする層へのエッチング工程または化学研磨工程を行った際に付着し易い。
フッ素イオンは、フッ化アンモニウムなどの薬液を用いたTi反応層のエッチング工程を行った際に付着し易い。
アンモニウムイオンは、フッ化アンモニウムまたはペルオキソ二硫酸アンモニウムなどの薬液を用いて、Ti反応層のエッチング工程、AgまたはCuを主成分とする層へのエッチング工程または化学研磨工程などを行った際に付着し易い。
塩素イオン、硫酸イオン、フッ素イオン、アンモニウムイオンといったイオンが絶縁性回路基板の表面(特に銅部材表面)に残存すると、銅部材と半導体素子の接合の信頼性が低下する。また、硫酸イオンは2価の陰イオンであり、塩素イオンとフッ素イオンは1価の陰イオンである。アンモニウムイオンは1価の陽イオンである。
ここでイオンと記載した成分は、測定時にイオンとして検出されていればよく、絶縁性回路基板の表面で化合物として存在していてもよい。
【0016】
セラミックス基板、樹脂基板などの絶縁性基板の両面に銅部材が接合されており、両面の銅部材表面の窒素量が0at%以上50at%以下の範囲内であることが好ましい。前述のように、窒素量の制御は、接合層との接合性を改善させる。そのため、接合層が設けられる銅部材表面の窒素量を制御することが重要である。接合層は、半田層または銀を主成分とする層などである。セラミックス基板の両面に銅部材を設ける場合、表側に銅板又は銅回路を設け、裏側に放熱板として銅板を設けることがある。表側の銅板又は銅回路には、半導体素子が実装される。接合層は、半導体素子を実装する際に用いられる。放熱板は、ヒートシンク等に実装される面として用いられる。ヒートシンクへの実装には、グリースなどが用いられるため、接合層が使用されない場合もある。しかし、両面の銅部材表面の窒素量を制御することにより、表側と裏側のどちらの銅部材も、半導体素子の実装面として用いることができる。言い換えると、使い勝手のよい絶縁性回路基板を提供することができる。
【0017】
セラミックス基板と銅部材は、Ag、Cu、Tiから選ばれる1種以上を含んだ接合層を介して接合されていることが好ましい。Tiを含有した接合ろう材を用いた接合方法は、活性金属接合法と呼ばれている。活性金属接合法は、セラミックス基板と銅部材を強固に接合できる。活性金属接合法に用いられるろう材は、活性金属ろう材と呼ばれている。活性金属ろう材は、Ag(銀)を0質量%以上70質量%以下、Cu(銅)を15質量%以上85質量%以下、Ti(チタン)またはTiH2(水素化チタン)を1質量%以上15質量%以下、含有することが好ましい。また、活性金属ろう材には、Tiの代わりに、NbまたはZrを用いたり、TiにNb、Zrを添加してもよい。しかし、活性金属ろう材は、Ti(チタン)またはTiH2(水素化チタン)を、1質量%以上15質量%以下含有することが好ましい。
TiとTiH2の両方を用いる場合は、それらの合計が1質量%以上15質量%以下の範囲内とする。AgとCuを両方用いる場合、Agの含有量は20質量%以上70質量%以下、Cuの含有量は15質量%以上65質量%以下であることが好ましい。
ろう材には、必要に応じ、Sn(錫)またはIn(インジウム)の1種または2種を1質量%以上50質量%以下、含有させてもよい。TiまたはTiH2の含有量は、1質量%以上15質量%以下であることが好ましい。また、ろう材には、必要に応じ、C(炭素)を0.1質量%以上2質量%以下、含有させても良い。
活性金属ろう材組成の比率は、混合する固体原料の合計を100質量%で計算する。この固体原料は、粉末状であることが好ましい。例えば、Ag、Cu、Tiの3種で活性金属ろう材を構成する場合、Ag+Cu+Ti=100質量%とする。Ag、Cu、TiH2、Inの4種で活性金属ろう材を構成する場合、Ag+Cu+TiH2+In=100質量%とする。Ag、Cu、Ti、Sn、Cの5種で活性金属ろう材を構成する場合は、Ag+Cu+Ti+Sn+C=100質量%とする。
上記の組成の粉末原料に対し、組成に応じた溶媒を混合することが好ましい。溶媒を混合することで、ろう材をペースト状にすることができる。
【0018】
AgまたはCuは、ろう材の母材となる成分である。SnまたはInは、ろう材の融点を下げる効果を有する。C(炭素)は、ろう材の流動性を制御したり、他の成分と反応して接合層の組織を制御する効果を有する。このため、ろう材の成分としては、Ag-Cu-Ti、Ag-Cu-Sn-Ti、Ag-Cu-Ti-C、Ag-Cu-Sn-Ti-C、Ag-Ti、Cu-Ti、Ag-Sn-Ti、Cu-Sn-Ti、Ag-Ti-C、Cu-Ti-C、Ag-Sn-Ti-C、Cu-Sn-Ti-C、が挙げられる。また、Snの代わりにInを用いてもよい。SnとInを両方用いてもよい。
【0019】
上述した銅部材の側面は、傾斜形状を具備していることが好ましい。すなわち、銅部材の側面は、面内方向及び厚み方向に対して、傾斜していることが好ましい。面内方向は、セラミックス基板の銅部材との接合面に平行な方向である。厚み方向は、セラミックス基板と銅部材とを結ぶ方向であり、面内方向に対して垂直である。
接合層5の厚さは、10μm以上60μm以下の範囲内であることが好ましい。また、絶縁性回路基板は、銅部材の側面から接合層がはみ出した形状を有することが好ましい。はみ出した接合層の一部を、接合層はみだし部と呼ぶ。接合層はみだし部は、厚さTに対する長さLの比(L/T)が、0.5以上3.0以下の範囲内であることが好ましい。接合層はみだし部の厚さは、接合層はみだし部の中で最も厚い箇所の厚さである。接合層はみだし部の長さは、銅部材側面からはみ出た最も長い箇所の長さである。接合層はみだし部の厚さと長さは、セラミックス銅回路基板の任意の断面から測定する。銅部材に傾斜形状を設け、接合層はみだし部を設けることにより、セラミックス銅回路基板のTCT特性を向上させることができる。
銅部材表面の最大高さRzは、20μm以下であることが好ましい。また、銅部材表面の算術平均粗さRaは、5μm以下であることが好ましい。算術平均粗さRaは、2μm以下であることがより好ましい。算術平均粗さRaは、1μm以下であることがさらに好ましい。銅部材表面をより平坦にすることによって、半田層や銀を主成分とする層との接合を強固にすることができる。RaおよびRzは、JIS B 0601:2013に記載されている。JIS B 0601:2013は、ISO 4287:1997/AMENDMENT 1:2009(IDT)に対応している。
セラミックス基板は、厚さ0.4mm以下の窒化珪素基板であり、銅部材の厚さは、0.6mm以上であることが好ましい。厚さ0.4mm以下の薄い窒化珪素基板であると、セラミックス基板の熱抵抗を下げる効果がある。また、厚さ0.6mm以上の厚い銅部材であると、放熱性が向上する。さらに、3点曲げ強度600MPa以上の窒化珪素基板であれば、効果を得やすくなる。
【0020】
以上のようなセラミックス銅回路基板は、接合層を介して半導体素子を実装した半導体装置に好適である。
図2は、実施形態に係る半導体装置の一例を示す模式図である。
図2において、1は絶縁性回路基板、6は半導体素子、7は半田層、10は半導体装置である。
図2では、1個の半導体素子6が実装された例を示した。2個の半導体素子6が実装されても良い。リードフレームやワイヤ・ボンディングなどを設けてもよい。半田層7の代わりに、銀を主成分とする層(Agナノ粒子層)が用いられてもよい。
実施形態に係る半導体装置10では、導体部3表面の窒素量を制御しているため、導体部3と半田層7と半導体素子6の接合を強固にできる。近年、半導体素子の高性能化が進んでいる。これに伴い、半導体素子のジャンクション温度は150℃以上、さらには170℃以上になっている。実施形態に係る半導体装置10によれば、ジャンクション温度の高い半導体素子が実装された場合でも、半田層7の剥離またはクラックの発生などを抑制でき、接合信頼性を高めることができる。
【0021】
実施形態に係るセラミックス銅回路基板の製造方法について説明する。実施形態に係るセラミックス銅回路基板は、上記構成を有していれば、その製造方法は特に限定されない。ここでは、歩留まり良くセラミックス銅回路基板を得るための方法を例示する。
まず、セラミックス基板と銅板の接合体を作製する。セラミックス基板、銅板の具体的な構成は、前述の通りである。
【0022】
接合体は、活性金属接合法を用いて接合される。活性金属接合法は、Tiなどの活性金属を含む活性金属ろう材を用いた接合方法である。活性金属ろう材の成分は、前述の通りである。活性金属ろう材ペーストを調製し、セラミックス基板の表面に塗布する。活性金属ろう材ペーストの塗布厚さは、10μm以上60μm以下の範囲内であることが好ましい。活性金属ろう材ペースト層の上に銅板を配置する。活性金属ろう材ペーストが銅板上に塗布され、セラミックス基板が銅板の上に配置されてもよい。
セラミックス基板の縦横サイズは、銅板の縦横サイズと同じであってもよいし、銅板の縦横サイズとは異なってもよい。銅板の厚さが0.6mm以上の場合は、セラミックス基板の縦横サイズと銅板の縦横サイズは同じであることが好ましい。また、セラミックス基板の両面に銅板を配置することが好ましい。このような配置にすると、接合体の反りを低減し易くなる。銅板には、後述するエッチング工程で、任意の回路形状を形成することができる。予め回路形状に加工した銅部材をセラミックス基板に接合することもできる。しかしながら、予め回路形状に加工した銅部材を用意するには、専用の金型が必要である。回路形状に応じた金型を用意するのはコストアップを招く可能性がある。
【0023】
次に、加熱接合工程を行う。加熱温度は、600℃以上930℃以下が好ましい。加熱雰囲気として、真空中、不活性雰囲気中などが挙げられる。真空とは、圧力が10-3Pa以下の状態を指す。不活性雰囲気とは、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、ヘリウム雰囲気、ネオン雰囲気、キセノン雰囲気などである。特に、コストを考慮すると窒素雰囲気、アルゴン雰囲気がより好ましい。より好ましくは、窒素雰囲気である。加熱接合工程を行うことにより、セラミックス基板と銅板の接合体を製造することができる。必要に応じ、接合体に対して反り直し工程を行ってもよい。
次に、接合体に対し、化学研磨工程およびエッチング工程を行う。これらの工程は、銅板に回路形状を付与する工程である。これらの工程において、銅板側面に傾斜形状を付与したり、銅板側面から接合層をはみ出させた接合層はみだし部を形成してもよい。
活性金属接合法では、AgまたはCuを主成分とし、Tiを含有した活性金属ろう材が用いられる。活性金属接合法を用いた接合体は、接合層中にTi反応層が形成される。窒化物系セラミックス基板を用いた場合、Ti反応層は窒化チタン(TiN)層となる。酸化物系セラミックス基板を用いた場合、Ti反応層は酸化チタン(TiO2)層となる。活性金属接合法で製造された接合体の接合層には、AgまたはCuを主成分とする層とTi反応層が形成されている。
窒化物系セラミックス基板は、サイアロン、窒化ケイ素、または窒化アルミニウムなどからなる基板である。
酸化物系セラミックス基板は、アルミナ、ジルコニア、またはアルジル(アルミナとジルコニアからなるセラミックス)などからなる基板である。
【0024】
エッチング工程で回路形状を付与するには、銅板のエッチング工程、AgまたはCuを主成分とする層のエッチング工程、およびTi反応層のエッチング工程が必要になる。エッチング効率を考慮すると、3種のエッチング工程においてそれぞれ異なる薬液が必要である。また、エッチングしたくない箇所には、レジストを塗布する必要がある。エッチングしたい個所が変わると、その都度、レジスト除去工程とレジスト塗布工程が必要になる。薬液の異なるエッチング工程を複数回行うことが必要である。例えば、銅板のエッチング工程では、塩化鉄または塩化銅を含む薬液が用いられている。AgまたはCuを主成分とする層のエッチング工程では、過酸化水素水またはペルオキソ二硫化アンモニウムを含む薬液が用いられている。Ti反応層のエッチング工程は、過酸化水素水またはフッ化アンモニウムを含む薬液が用いられている。これら以外にも、様々な薬液が用いられている。
エッチング工程の効率を上げるために、化学研磨工程を用いることが有効である。エッチング工程の薬液により、AgまたはCuを主成分とする層が酸化されることがある。酸化物層を除去するために、化学研磨工程が有効である。化学研磨工程では、硫酸、塩酸、およびチオ硫酸ナトリウムから選ばれる1種または2種以上を含んだ薬液が使われている。また、エッチング工程でも、様々な薬液が用いられている。
必要に応じ、銅板に防錆処理を施す。防錆処理は、ろう材エッチングの後に実施される。防錆処理は、銅板での錆の発生(つまりは酸化)を防ぐための処理である。一般的に、酸化防止のために、メッキ処理が施されている。一方でメッキ処理を必要としない場合には、防錆処理を施すこともある。防錆処理は、ベンゾトリアゾールを含むベンゾトリアゾール系化合物などの薬液が用いられている。ベンゾトリアゾール系化合物とは例えば、カルボキシベンゾトリアゾールなどがある。
これらのベンゾトリアゾール系化合物は、1分子当たり3~8原子程度の窒素原子を含む。このベンゾトリアゾール系化合物が銅部材表面に残っていた場合、XPS分析において窒素原子として検出される。
【0025】
上述した化学研磨工程、エッチング工程などにより、表側の銅板が加工される。例えば、銅板に回路形状が付与され、銅回路が形成される。又は、1つの銅板が分割され、複数の銅板が形成される。これにより、銅部材(銅回路又は銅板)が接合されたセラミックス銅回路基板が得られる。また、上述したように、化学研磨工程、エッチング工程、防錆処理工程などでは、様々な薬液が用いられている。薬液を用いた工程を行うと、銅部材表面に窒素が付着する。銅部材表面の窒素量を制御するには、洗浄工程を行うことが有効である。洗浄工程では、水洗浄、アルカリ洗浄、およびアルコール洗浄から選択される1種または2種が実施される。また、水洗浄のみを行う場合は、浸漬ではない工程である下記の水洗浄工程が少なくとも一回以上実施されることが好ましい。より好ましくは、水洗浄のみを用いる場合の洗浄工程が下記に記載の洗浄工程である回数が多いほど好ましい。また、一回の洗浄工程において複数の洗浄方法を組み合わせても良い。これらの洗浄は、導体部のみではなく、セラミックス銅回路基板全体が洗浄されることが好ましい。
水洗浄では、流量が1.3L(リットル)/分以上であることが好ましい。流量が1.3L/分以上であれば、銅部材表面に付着した窒素を洗い流す効果が十分に得られる。流量が1.3L/分未満では洗い流す効果が不足する可能性がある。例えば、水の溜まった洗浄槽に接合体を浸漬して放置する方法では、流量が不足するため、窒素量を低減する効果が十分得られない。なお、流量の上限は特に限定されないが、10L/分以下であることが好ましい。流量が10L/分を超えて大きいと、水圧が高すぎて銅部材表面が変形する可能性がある。このため、水洗浄の流量は1.3L/分以上10L/分以下が好ましい。より好ましくは、水洗浄の流量は、1.5L/分以上6L/分以下である。
流量の調整方法として、洗浄槽に溜めた水を循環させる制御やノズルを使って制御する方法などが挙げられる。流量の調整はノズルを使って制御する方法が好ましい。ノズルを使った方が流量を制御し易い。洗浄槽に溜めた水を循環させる方法では、水の量が多くなると、流量の制御が困難となる可能性がある。ノズルを使った場合、ノズルから噴射される水の流量が1.3L/分以上となるように設定する。また、この水には、超音波を印加してもよく、炭酸や酸素を溶かしてもよい。
ノズルとセラミックス銅回路基板の距離は、5cm以上40cm以下の範囲内であることが好ましい。5cm以上20cm以下の範囲内であることがさらに好ましい。この範囲内であると、セラミックス銅回路基板に当たる水の量を調整し易くなる。ノズルから噴射された水の着弾形状は、点型、円型、楕円型形、扁平型、四角形型など様々な形状がある。ノズルの型には、コーン型や扇型など様々な形態を適用可能である。ノズルを利用する際は、セラミックス銅回路基板1枚当たり複数のノズルを用いてもよく、表導体部と裏導体部を同時に洗浄してもよい。
セラミックス銅回路基板に着弾する水量は、ノズル1個あたり0.01L/分/cm2以上0.1L/分/cm2以下の範囲内であることが好ましい。セラミックス銅回路基板に着弾する水量のことを着弾水量と呼ぶ。着弾水量は、セラミックス銅回路基板を上から見たとき、1cm2あたりに着弾する水量を示している。セラミックス銅回路基板への着弾水量の調整は、前述のノズルからの水量、ノズル型、ノズルとの距離、などで調整できる。また、ノズルから水を噴射する際に、空気噴射を合わせて行うこともできる。また、洗浄工程では、超音波が付与されてもよい。セラミックス銅回路基板を搬送しながら洗浄工程を行うことも有効である。この際に、洗浄効率(液体の回収効率)や、設置面積効率を上げるために、基板を斜めにしてもよい。斜めとは、基板の少なくとも1つの辺の向きが、重力方向に対して垂直な水平面と平行でないことである。水平面と前記少なくとも1つの辺との間の角度は、10度以上90度未満であることがさらに好ましい。ノズルからの流量を1.3L/分以上とし、セラミックス銅回路基板を搬送しながら、セラミックス銅回路基板への着弾水量をノズル1個あたり0.01L/分/cm2以上0.1L/分/cm2以下の範囲内にする方法が効率的である。
【0026】
水は、JIS-K-0557(1998)の品質を満たすことが好ましい。JIS-K-0557では、A1~A4の品質が示されている。JIS-K-0557については、ISO3696が参照される。
【0027】
アルカリ洗浄は、pH10以上のアルカリ性水溶液で洗浄する工程を指す。pH10以上のアルカリ性水溶液としては、有機アルカリ、金属水酸化物、金属水酸化物と弱酸の塩などの水溶液があげられる。特に金属水酸化物およびその塩を用いる場合には、その金属の種類としてリチウム、カリウム、ナトリウム、バリウム、カルシウムなどがあげられる。Kb(塩基解離定数)が小さすぎると、必要な溶質量が増加するため、用いる金属水酸化物およびその塩の金属の種類としては、カリウム、ナトリウム、リチウムから選ばれるものが好ましい。特に、コストを考慮すると、水酸化ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウムが好ましく、前記ナトリウム化合物から選ばれる1種または2種以上を含む水溶液が好ましい。これら成分を0.5質量%以上5質量%以下含有する水溶液がさらに好ましい。アルカリ洗浄は、銅部材表面の不純物を除去し、きれいにする効果がある。
これらのアルカリ水溶液の純度は、高いことが好ましい。純度は96質量%以上であることがより好ましい。純度が96質量%より小さいと、その中に含まれる不純物が、セラミックス銅回路基板に付着する可能性がある。純度が高いほど、水溶液に含まれる不純物が少ないことをさす。したがって純度が高いほど、不純物の付着が少ないため好ましい。そのため、純度は98質量%以上であることがさらに好ましい。
【0028】
また、防錆処理に多用されるベンゾトリアゾール系化合物については、その極性が水よりも低く、有機溶媒に溶ける性質がある。そのため、防錆処理後の洗浄工程などにおいてもアルコール洗浄を用いてもよい。アルコール類としては、イソプロパノール、メタノール、ブタノール、ヘキサノール、エタノールなどが挙げられる。
これらのアルコール類については、水や溶媒成分を除いたベンゾトリアゾール系化合物の純度が、99質量%以上であることが好ましい。アルコール洗浄に用いられるアルコール類について、水や溶媒成分を除いた純度が99質量%より小さいと、その中に含まれる不純物がセラミックス銅回路基板に付着する可能性がある。
また、アルコール洗浄では、2種以上のアルコール類を混合して用いても良い。さらに、アルコール類は水と混合していてもよい。アルコール類を水と混合する場合に、用いられる水の品質はJIS-K-0557(1998)を満たすことが好ましい。アルコール類にベンゼンを溶媒として添加してもよい。つまり、アルコール類は、水または溶媒を除いた不純物量が1質量%以下であることが好ましい。ここで、ベンゾトリアゾールの溶解性や揮発性も考慮すると、エタノールまたはイソプロパノールが好ましい。イソプロパノールは、CAS登録番号67-63-0であり、IUPAC名では2-プロパノールである。イソプロパノールは、IPAまたはイソプロピルアルコールと呼ばれることもある。
コストを考慮すると、洗浄方法としては、アルコール洗浄よりもアルカリ洗浄または水洗浄が好ましい。また、アルカリ洗浄ののちに水洗浄を行うなど、複数の洗浄方法を組み合わせてもよい。
【0029】
以上のような洗浄工程を行うことにより、銅部材表面の窒素量を50at%以下に低減できる。また、洗浄工程は、化学研磨工程、エッチング工程、防錆処理工程の後にそれぞれ行うことが好ましい。化学研磨工程、エッチング工程、防錆処理工程の中で最後の工程の洗浄を上記洗浄方法で実行し、その他の工程後の洗浄は通常の水洗浄であってもよい。この場合は、最後の工程後の洗浄工程の時間を、他の洗浄に比べて長めに行うことが好ましい。また、個々の洗浄工程は、バッチ式または連続式のどちらでもよい。バッチ式は、複数の接合体を洗浄かごに収納して洗浄工程を行う方法である。連続式は、複数の接合体をベルトコンベアで搬送しながら洗浄工程を行う方法である。
洗浄方法としては、塩素系洗浄剤を用いる方法もある。塩素系洗浄剤では、銅板表面の塩素量が増加する可能性がある。そのため、塩素系洗浄剤は、上述した洗浄方法に比べると好ましくない。また、水蒸気やオゾン水を使った洗浄工程は、銅板を酸化させる可能性があるため好ましくない。このため、水洗浄、アルカリ洗浄、およびアルコール洗浄から選択される1種または2種以上の洗浄工程が好ましい。
以上の工程により、銅部材表面の窒素量が低減された、実施形態に係るセラミックス銅回路基板を製造することができる。
【0030】
次に乾燥工程について説明する。乾燥工程として、揮発し易い溶液での処理、遠心力処理、送風処理などが挙げられる。複数の乾燥工程を組み合わせてもよい。洗浄後のセラミックス銅回路基板に対して、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類、またはアセトンなどのケトン類など、揮発しやすい溶媒を用いて残った水を洗い流してもよい。これらの溶媒の純度は99質量%以上であることが好ましい。純度が99質量%より小さいと、その中に含まれる不純物がセラミックス銅回路基板に付着する可能性がある。この際、引火性などの安全面を考慮すると、イソプロパノールを用いることが好ましい。また洗浄後のセラミックス銅回路基板を回転させ遠心力を用いて、残った水滴を除去してもよい。
また、セラミックス銅回路基板を斜めにしてもよい。この斜めとは、重力方向に対して垂直な平面上に存在する任意の向きを水平方向としたとき、基板のいずれか1つ以上の辺の向きが、この水平方向に対して平行ではない状態を指す。この際、水平方向と重力方向からなる角度を90度としたとき、水平方向と基板のいずれか1つ以上の辺の向きからなる角度が10度以上90度未満であることがさらに好ましい。この基板の向きについては、基板の対角線が、斜めであることがさらに好ましい。このように基板の向きを斜めにすることにより基板に付着した水滴が重力にしたがって落ちやすくなる。この斜めにする方法としては例えば、基板の対角線が斜めになるようにすることなどがあげられる。
このようにしてある程度の乾燥されたセラミックス銅回路基板に対して、乾燥空気または窒素ガスを送風し、残った水滴を吹き飛ばしてもよい。空気、乾燥空気、または窒素ガスを送風する方法は、エアナイフと呼ばれることもある。このエアナイフは、エアブローの一種である。
このようにして得られたセラミックス銅回路基板をさらに確実に乾燥させるため、10℃以上の温度、70%以下の湿度の風を、20m/s以上150m/s以下の風速でセラミックス銅回路基板に当ててもよい。このようにセラミックス銅回路基板に風にあてる乾燥工程をエアブローという。またこのエアブロー工程での好ましい風の温度は、10℃以上150℃以下であり、より好ましくは15℃以上100℃未満である。この温度を超えると、熱により導体部表面が酸化する可能性がある。また、エアブロー工程での好ましい湿度は、5%以上70%以下である。湿度が70%より大きいと、乾燥工程にかかる時間が長くなる可能性がある。湿度を5%より小さくするには、コストが増加する可能性がある。風速は20m/s以上150m/s以下が好ましい。風速は20m/s以上100m/s以下がさらに好ましい。風速が小さすぎると乾燥に時間がかかる。また、風速が大きすぎると銅板の搬送に悪影響を与える可能性がある。この乾燥工程を行う際には、その他の乾燥工程を組み合わせることで温風での乾燥工程を用いたとき温風を当てる乾燥時間を短くし、温風の熱による導体部である銅板表面の酸化を抑制することができる。このため、複数の乾燥工程を組み合わせてもよい。
【0031】
(実施例)
(実施例1~12、比較例1~2)
絶縁性基板の一例として、セラミックス基板(窒化珪素基板および窒化アルミニウム基板)を用意した。用意した窒化珪素基板のサイズは、縦50mm×横40mm×厚さ0.32mmである。熱伝導率は90W/m・Kであり、3点曲げ強度は650MPaである。また、用意した窒化アルミニウム基板のサイズは、縦50mm×横40mm×厚さ0.635mmである。熱伝導率は170W/m・Kであり、3点曲げ強度は400MPaである。
導体部の一例として、銅板(無酸素銅板)を用意した。銅板のサイズは、縦50mm×横40mmである。次に、Tiを含む活性金属ろう材を用いた活性金属接合法で、セラミックス基板と銅板を接合した。セラミックス基板の両面にそれぞれ銅板を接合した。表1に銅板の厚さ、接合層の厚さを示した。この工程により、実施例1~12、比較例1、2に係る接合体を製造した。
【0032】
【0033】
次に、接合体に対し、エッチング工程と化学研磨工程を施し、さらに防錆処理工程を行った。これにより、絶縁性回路基板の一例であるセラミックス銅回路基板を作製した。作製されたセラミックス銅回路基板は、表側に回路形状が付与された銅板(銅回路)を備え、裏側に放熱板としての銅板を備える。表側の銅回路及び裏側の銅板は、それぞれ導体部の一例である。銅回路及び銅板の側面には、傾斜形状を付与した。また、銅板側面から接合層がはみ出た接合層はみだし部を設けた。接合層はみだし部について、厚さに対する長さの比を0.5以上3.0以下の範囲内に設定した。また、エッチング加工後の銅回路表面の表面粗さRaは、1μm以下であった。
エッチング工程と化学研磨工程については、銅板エッチング工程→化学研磨工程(第一の化学研磨工程)→AgまたはCuを主成分とする接合層のエッチング工程→化学研磨工程(第二の化学研磨工程)→窒化チタン層のエッチング工程→防錆処理工程の順で行った。各工程後の洗浄工程を、表2に示した条件で行った。また、洗浄工程については、水洗浄の場合、ノズルから出る水量は1.5L/分以上6L/分以下の範囲内に設定した。セラミックス銅回路基板を搬送しながら洗浄工程を行った。これにより、ノズル1個当たりのセラミックス銅回路基板への着弾水量を表2に示した水量に設定した。また、水洗浄槽に接合体を浸漬させる洗浄工程は、「浸漬」と記載した。アルカリ洗浄を用いた場合には、「アルカリ」と記載した。
乾燥工程については以下の通りである。
セラミックス銅回路基板の乾燥工程について、実施例1~12および比較例1では、エアナイフによる乾燥工程の後にエアブローによる乾燥工程を行った。エアナイフ、エアブローの温度は室温(25℃近傍)であった。乾燥工程におけるその他の条件について、湿度は50%程度、風速は20~60m/s程度であった。比較例2においては、比較例1と同様の条件で洗浄まで行い、その後自然乾燥を行った。防錆処理を行わなかった例については、防錆処理工程後の洗浄の欄に“-(ハイフン)”を記載した。また、比較例2においては、比較例1と比較して乾燥にかかる時間も長かった。このように、乾燥までにかかる時間が長かったため、酸化が進んだと考えられる。
【0034】
【0035】
実施例および比較例について、セラミックス銅回路基板における銅部材表面の窒素量および酸素量を測定した。窒素量および酸素量の測定には、XPS分析を用いた。XPS分析装置として、SSI社Xプローブを用いた。XPS分析では、AlKα線(hν=1486.6eV)を用い、X線のスポット径は、直径1mmに設定した。XPS分析では、窒素、酸素、銅、炭素の量を分析した。各成分の量は、窒素、酸素、銅、および炭素の合計を100at%として計算した。窒素量および酸素量の測定結果を表3に示した。
【0036】
【0037】
実施例および比較例について、セラミックス銅回路基板の表面に存在する塩素イオン、アンモニウムイオン、硫酸イオン、フッ素イオンの量を測定した。塩素イオン、アンモニウムイオン、硫酸イオン、フッ素イオンの各量の測定には、イオンクロマトグラフ分析を用いた。イオンクロマトグラフ分析装置として、(株)日本ダイオネクス社製 DX500を用いた。また、イオン抽出には、洗浄済みフッ素樹脂容器(Φ100mm)に、サンプル2枚と超純水40mlを入れ、フッ素樹脂容器の蓋を閉めて、恒温槽にて80℃で18時間保持し、イオン成分を抽出した。
その後、約1時間放冷して共洗いし、オートサンプリングチューブにサンプリングした。次に陰イオンと陽イオンについてそれぞれの測定方法を示す。
陰イオン(フッ素イオン、塩素イオン、硫酸イオンなど)については、検量線標準サンプルとしてThermo SCIENTIFIC社製Dionex Anion Standard(製品番号:056933)を10倍希釈して用いた。また、カラムについて、分離カラムとしてIonPac AS 4A-SCを用い、ガードカラムとしてIonPac AG 4A-SCを用いた。溶離液には、30mlの水酸化カリウム(KOH)を用いた。
陽イオン(アンモニウムイオンなど)については、検量線標準サンプルとしてThermo SCIENTIFIC社製Dionex Cation-II Standard(製品番号:046070)を100倍希釈して用いた。また、カラムについて、分離カラムとしてIonPac CS 12Aを用い、ガードカラムとしてIonPac CG 12Aを用いた。溶離液には、20mlのメタンスルフォン酸を用いた。
イオンクロマトグラフ分析では、セラミックス銅回路基板2枚を用いて測定した。このため、得られたイオン量を2で割ってセラミックス銅回路基板1枚当たりのイオンの不純物量とした。この時、0と記載したものは検出限界以下であった。セラミックス銅回路基板1枚当たりの表面積は40cm2であった。
実施例および比較例における各イオン量の測定結果を表4に示した。
【0038】
【0039】
表4から分かる通り、実施例1~12では、セラミックス銅回路基板について、銅回路表面の窒素量および酸素量は望ましい範囲内であった。また、裏銅板表面の窒素量、酸素量も同等の値であった。
比較例1のように、水洗浄槽に浸漬する洗浄工程だけでは、窒素量が62at%と多かった。比較例2のように、乾燥工程を工夫せずに自然乾燥を行うと、乾燥に時間がかかりその間に付着する酸素量が増加した。
【0040】
次に、実施例および比較例に係るセラミックス銅回路基板に、接合層の一例である半田層を形成し、その上に半導体素子を実装した。これにより、半導体装置を製造した。半田層は鉛フリー半田とした。半導体装置に対し、半導体素子の接合の信頼性を評価した。
接合の信頼性を調べるために、半導体装置のTCT試験を行った。TCT試験では、-40℃×30分→常温×10分→170℃×30分→常温×10分を1サイクルとし、500サイクルを試験した。試験前の半導体素子の接合強度と試験後の半導体素子の接合強度を測定した。接合強度は、ピール試験により測定した。試験前の接合強度に対し、試験後の接合強度の低下率が10%以下のものを最良品(◎)とした。低下率が10%を超え15%以下の半導体装置を、良品1(〇)とした。低下率が15%を超え20%以下の半導体装置を、良品2(●)とした。低下率が20%を超え25%以下だった半導体装置を、不良品1(×)とした。低下率が25%を超えた半導体装置を、不良品2(××)とした。また、銅板上に半田層を介して半導体素子を2個接合した。1個に対して試験前にピール試験を行い、もう1個に対して試験後にピール試験を行った。これらの結果から、低下率を測定した。その結果を表5に示した。
【0041】
【0042】
表5から分かる通り、実施例に係るセラミックス銅回路基板では、半田層を介した接合の信頼性が改善した。それに対し、比較例1では、銅回路表面の窒素量が多いため、信頼性は低下した。このため、銅回路表面の窒素量や酸素量を制御することが、接合の信頼性改善に有効であることが分かった。特に、鉛フリー半田層を用いて半導体素子が実装される半導体装置に有効であることが分かる。
【0043】
以上、本発明のいくつかの実施形態を例示したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更などを行うことができる。これら実施形態はその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0044】
1…絶縁性回路基板
2…絶縁性基板
3…導体部(表導体部)
4…導体部(裏導体部)
5…接合層
6…半導体素子
7…半田層
10…半導体装置