(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】位相差給電アンテナ装置
(51)【国際特許分類】
H01Q 9/16 20060101AFI20240611BHJP
H01Q 19/26 20060101ALI20240611BHJP
H01Q 21/08 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
H01Q9/16
H01Q19/26
H01Q21/08
(21)【出願番号】P 2019131190
(22)【出願日】2019-07-16
【審査請求日】2022-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】518162175
【氏名又は名称】関 智弘
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】福園 隼人
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 正文
(72)【発明者】
【氏名】立田 努
(72)【発明者】
【氏名】中村 宏之
(72)【発明者】
【氏名】関 智弘
【審査官】白井 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-036822(JP,A)
【文献】特開2006-352659(JP,A)
【文献】米国特許第06025811(US,A)
【文献】特開2018-026612(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 9/16
H01Q 19/26
H01Q 21/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1給電素子、第2給電素子、無給電素子の順に配置し、第1給電素子および第2給電素子に所定の位相差で給電する位相差給電アンテナ装置において、
送受信する電磁波の自由空間波長をλとしたときに、前記第1給電素子と前記第2給電素子との間隔をλ/8とし、前記第2給電素子と前記無給電素子との間隔を3λ/40とし、前記第1給電素子、前記第2給電素子、前記無給電素子の各両端に延長コイルを装着し、前記第1給電素子のアンテナ素子長を該延長コイルを含めてλ/2から30%~40%短縮し、前記第2給電素子のアンテナ素子長を前記第1給電素子と同率で短縮し、前記第1給電素子に対する前記第2給電素子の給電位相差を80度~140度に設定し、反射特性および放射指向特性に応じて前記無給電素子の素子長を前記第2給電素子のアンテナ素子長に対して短く設定する構成であ
り、前記第2給電素子のアンテナ素子長が、前記第1給電素子のアンテナ素子長に対して短い構成である
ことを特徴とする位相差給電アンテナ装置。
【請求項2】
請求項
1に記載の位相差給電アンテナ装置において、
比誘電率2~3の誘電体基板上に配置した線路により、前記80度~140度の給電位相差をつけて前記第1給電素子と前記第2給電素子に給電する構成である
ことを特徴とする位相差給電アンテナ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3素子で高利得の位相差給電アンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図5は、従来の位相差給電アンテナ装置の構成例を示す(非特許文献1)。
図5において、位相差給電アンテナ装置は、第1給電素子11-1、第2給電素子11-2、無給電素子12により構成される。2本の給電素子の間隔はλ/8(λ:自由空間波長)であり、2素子に位相差 180度で給電する構成である。給電位相差 180度を実現するには、2対の平行フィーダ13-1,13-2を給電素子に接続する際に線路を交差させることで位相を反転させる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】電子情報通信学会編、「アンテナ工学ハンドブック(第2版)」、10.14.6 位相差給電アンテナ、p.681 (平成20年7月25日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
位相差給電アンテナ装置の給電部は、平行フィーダを用いることにより簡易に実現可能な構成であるが、平行フィーダを用いて線路を交差させる構成は接続部を不安定にさせ、経年劣化に対する耐性が弱い課題がある。また、2本の給電素子の間隔は固定(λ/8)であり、2本の給電素子への給電も一体で行うことから狭帯域特性(比帯域3%以下)になる課題がある。
【0005】
本発明は、小型かつ広帯域で高利得の位相差給電アンテナ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、第1給電素子、第2給電素子、無給電素子の順に配置し、第1給電素子および第2給電素子に所定の位相差で給電する位相差給電アンテナ装置において、送受信する電磁波の自由空間波長をλとしたときに、第1給電素子と第2給電素子との間隔をλ/8とし、第2給電素子と無給電素子との間隔を3λ/40とし、第1給電素子、第2給電素子、無給電素子の各両端に延長コイルを装着し、第1給電素子のアンテナ素子長を該延長コイルを含めてλ/2から30%~40%短縮し、第2給電素子のアンテナ素子長を第1給電素子と同率で短縮し、第1給電素子に対する第2給電素子の給電位相差を80度~140度に設定し、反射特性および放射指向特性に応じて無給電素子の素子長を第2給電素子のアンテナ素子長に対して短く設定する構成であり、前記第2給電素子のアンテナ素子長が、前記第1給電素子のアンテナ素子長に対して短い構成である。
【0008】
本発明の位相差給電アンテナ装置において、比誘電率2~3の誘電体基板上に配置した線路により、80度~ 140度の給電位相差をつけて第1給電素子と第2給電素子に給電する構成としてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、第1給電素子および第2給電素子のアンテナ素子長をλ/2の30%~40%短縮し、その間の給電位相差を80度~ 140度に設定することにより、小型かつ広帯域で高利得の位相差給電アンテナ装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の位相差給電アンテナ装置の実施例構成を示す図である。
【
図2】実施例構成における給電素子のアンテナ素子長の短縮率に対する利得特性を示す図である。
【
図3】実施例構成における給電素子の給電位相差に対する利得特性を示す図である。
【
図4】実施例構成における無給電素子のアンテナ素子長の短縮長に対する利得特性を示す図である。
【
図5】従来の位相差給電アンテナ装置の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本発明の位相差給電アンテナ装置の実施例構成を示す。
図1において、本実施例の位相差給電アンテナ装置は、第1給電素子11-1、第2給電素子11-2、無給電素子12、各素子の両端に装着する延長コイル14により構成される。
【0012】
第1給電素子11-1と第2給電素子11-2との間隔をλ/8(λ:自由空間波長)とし、第2給電素子11-2と無給電素子12との間隔を 3λ/40とする。このとき、第1給電素子11-1から無給電素子12までのアンテナ長がλ/5となる。例えば60MHz帯(波長5m)の電磁波を送受信する場合は、アンテナ長が1mとなる。
【0013】
第1給電素子11-1の従来のアンテナ素子長がλ/2とすると、本実施例では各素子の両端に延長コイル14を装着することにより、第1給電素子11-1のアンテナ素子長をλ/2の30%~40%の短縮を実現し、第2給電素子11-2のアンテナ素子長を同率で短縮する。ここで、30%短縮時および40%短縮時の延長コイル14の寸法は次の通りである。
30%短縮時:コイル径20mm、巻数20、コイル長 200mm
40%短縮時:コイル径25mm、巻数18、コイル長 200mm
【0014】
例えば60MHz帯(波長5m)の電磁波を送受信する場合は、第1給電素子11-1の延長コイル14を含むアンテナ素子長は、λ/2=2.5 mに対して、
30%短縮時: 2.5m×70%=1.75m
40%短縮時: 2.5m×60%=1.5 m
となる。
【0015】
このとき、第2給電素子11-2の延長コイル14を含むアンテナ素子長は、
30%短縮時:1.62m
40%短縮時:1.38m
となる。
【0016】
図2は、実施例構成における給電素子のアンテナ素子長の短縮率に対する利得特性を示す。ただし、第1給電素子11-1および第2給電素子11-2からなる2素子構成とする。
図2において、第1給電素子11-1および第2給電素子11-2のアンテナ素子長の短縮率を0%から50%に設定したとき、短縮率40%までは利得の劣化が小さいことが確認できる。
【0017】
図3は、実施例構成における給電素子の給電位相差に対する利得特性を示す。ただし、第1給電素子11-1および第2給電素子11-2からなる2素子構成とする。
図3において、第1給電素子11-1および第2給電素子11-2のアンテナ素子長の短縮率を30%または40%に設定したとき、第1給電素子11-1と第2給電素子11-2の給電位相差を80度~ 140度の範囲に設定することにより、利得として5dBi 前後を確保できる。
【0018】
ここで、アンテナ素子長を短縮した第1給電素子11-1および第2給電素子11-2の2素子構成に対して、
図1に示すように、無給電素子(導波器)12を追加することにより利得の改善は可能であるが、第2給電素子11-2のアンテナ素子長に対する無給電素子12の素子長の最適値について、
図4に示す特性に基づいて説明する。
【0019】
図4(1) は、第1給電素子11-1および第2給電素子11-2のアンテナ素子長の短縮率を30%に設定したときに、無給電素子12の素子短縮長に対する利得の変化を示す。ここでは、無給電素子12の素子長は、第2給電素子11-2のアンテナ素子長に対する短縮0のとき、すなわち第2給電素子11-2のアンテナ素子長1.62mと同一のときに最大の利得6dBi を確保でき、最適となることがわかる。
【0020】
図4(2) は、第1給電素子11-1および第2給電素子11-2のアンテナ素子長の短縮率を40%に設定したときに、無給電素子12の素子短縮長に対する利得の変化を示す。ここでは、無給電素子12の素子長は、第2給電素子11-2のアンテナ素子長に対する短縮0~160mm の範囲で利得の変化はほとんどない。ただし、反射特性や放射指向特性を考慮すると、無給電素子12の素子長は、第2給電素子11-2のアンテナ素子長に対する 120mmの短縮のとき、すなわち1.38mから1.26mに短縮したときに最適という結果が得られている。
【0021】
以上により、本位相差給電アンテナ装置が動作する範囲として、第1給電素子11-1および第2給電素子11-2のアンテナ素子長を30%~40%短縮し、その素子間の給電位相差を80度~ 140度の範囲に設定するとともに、無給電素子12により1dB程度の改善は可能になっている。
【0022】
また、給電部として、比誘電率2~3の誘電体基板上に配置した線路により、80度以上 140度以下の給電位相差をつけて第1給電素子11-1と第2給電素子11-2に給電する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0023】
11 給電素子
12 無給電素子
13 平行フィーダ
14 延長コイル