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特許7500949アルカリ金属塩化物水溶液の電気分解方法
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  • 特許-アルカリ金属塩化物水溶液の電気分解方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】アルカリ金属塩化物水溶液の電気分解方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 15/02 20210101AFI20240611BHJP
   C25B 1/34 20060101ALI20240611BHJP
   C25B 1/16 20060101ALI20240611BHJP
   C25B 1/26 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
C25B15/02
C25B1/34
C25B1/16
C25B1/26 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019194289
(22)【出願日】2019-10-25
(65)【公開番号】P2021066939
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】坂本 健二
(72)【発明者】
【氏名】藤本 航太朗
(72)【発明者】
【氏名】土井 正治
【審査官】菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-300451(JP,A)
【文献】特開2001-003189(JP,A)
【文献】特開2004-027267(JP,A)
【文献】特開2002-275670(JP,A)
【文献】国際公開第2010/119918(WO,A1)
【文献】特開平05-255883(JP,A)
【文献】特開平10-110283(JP,A)
【文献】特開2012-184507(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 15/02
C25B 1/16
C25B 1/26
C25B 1/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極室に酸素含有ガスを供給し、陰極で酸素を還元しながら行うアルカリ金属塩化物水溶液の電気分解方法であって、陰極室内の平均酸素濃度(入口酸素濃度と出口酸素濃度の平均値を、酸素濃度100%を1とした場合の比率)と陰極室内の圧力(kPa)との積が92以上であることを特徴とするアルカリ金属塩化物水溶液の電気分解方法(但し、陰極室のガス室に純酸素ガスを理論量の15%増しで供給する方法を除く)。
【請求項2】
前記陰極室内の平均酸素濃度(入口酸素濃度と出口酸素濃度)の平均値を、酸素濃度100%を1とした場合の比率)と陰極室内圧力(kPa)の積が92.65以下であることを特徴とする請求項1に記載の電気分解方法。
【請求項3】
前記陰極室内圧力(kPa)が102~105kPaであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアルカリ金属塩化物水溶液の電気分解方法。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれかの項に記載のアルカリ金属塩化物水溶液の電気分解方法を用いることを特徴とする塩素ガスとアルカリ金属水酸化物の製造方法。
【請求項5】
前記平均酸素濃度が0.91以下である、請求項1~3のいずれかの項に記載のアルカリ金属塩化物水溶液の電気分解方法。
【請求項6】
前記電気分解方法が2室型電解槽による方法である、請求項1~3、5のいずれかの項に記載のアルカリ金属塩化物水溶液の電気分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は食塩水などのアルカリ金属塩化物水溶液の電気分解方法に関し、より詳しくは、酸素還元用電極を陰極に用いて行うアルカリ金属塩化物水溶液の電気分解の所要電力を削減可能な電気分解方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルカリ金属塩化物水溶液の電解工業は電力多消費型産業であり、省エネルギー化のために様々な技術開発が行われている。その省エネルギー化の手段とは、電解電圧の低減、及び/又は、電流効率の向上により、電解時に発生する電力ロスを削減することである。例えば、食塩水の電解は、陽極に塩素発生用電極を、陰極に水素発生用電極を用い、陽極と陰極との間をフッ素系陽イオン交換膜(以下、イオン交換膜と記載する)で区画した、所謂、イオン交換膜法食塩電解が主流である(非特許文献1、p3)。
【0003】
この食塩電解工業において、電流効率は95%以上で操業されており、向上余地は少ない。それに対し、電解電圧は理論分解電圧の約2.3Vに対し3.0V前後で操業されている。
【0004】
一方、陰極に酸素還元用電極を用い、食塩と水と酸素を原料に、塩素と苛性ソーダとを製造する酸素還元型イオン交換膜法食塩電解が種々提案されている。酸素還元型イオン交換膜法食塩電解の電解電圧は2.0V前後が可能で、既存の水素発生型イオン交換膜法食塩電解の電解電圧3.0V前後に対し、電解電圧を概ね1V下げることが可能とされており(非特許文献1、p283~284)、当該方法は食塩電解工業の消費電力を大幅に削減する手法として注目を集めている。
【0005】
しかし、実際には、酸素還元型イオン交換膜法食塩電解の電解電圧は2.3V前後と高く、既存の水素発生型イオン交換膜法食塩電解に比較した電圧低減は0.7Vに留まり、未だ酸素還元型イオン交換膜法食塩電解は主流となっていない。そのため、従来、酸素還元型イオン交換膜法食塩電解の電解電圧を低減する研究開発が盛んに行われてきた。
【0006】
例えば、特許文献1には「イオン交換膜により陽極を収容する陽極室とガス拡散陰極を収容する陰極室に区画された2室法イオン交換膜型電解槽において、前記ガス拡散陰極の前記イオン交換膜と反対側に透過性の押圧板を設置し、電解槽運転時に前記押圧板をガス室充填材の弾性力によりガス拡散陰極方向に押し付け、この押圧板から均一にガス拡散陰極に応力が作用してイオン交換膜とガス拡散陰極を全面的に密着する状態を維持することを特徴とするガス拡散陰極を用いたイオン交換膜型電解槽」を用いた酸素還元型イオン交換膜法食塩電解が提案されている。
【0007】
さらに、特許文献2には「イオン交換膜により陽極を収容する陽極室と液透過型ガス拡散陰極を収容する陰極室に区画されたイオン交換膜電解槽において、耐食性フレームに金属製コイル体を巻回して構成した弾性クッション材を、ガス拡散陰極と陰極壁面又は陰極集電体間に設置したことを特徴とするイオン交換膜電解槽」を用いた酸素還元型イオン交換膜法食塩電解が提案されている。
【0008】
これらの提案により酸素還元型イオン交換膜法食塩電解の実施に際し、イオン交換膜と酸素還元用電極間の距離が可及的に短縮され、その間で発生する電気抵抗損失が著しく減少した。
【0009】
また、特許文献3には「ガス拡散陰極を備えたイオン交換膜法塩化アルカリ電解槽の陽極室に塩水を導入し、ガス拡散陰極のガス室に酸素含有ガスを導入して、陽極室に塩素と陰極室に苛性アルカリ水溶液を得る電解方法において、前記ガス室から出る排酸素含有ガスの一部を前記ガス室へ戻し循環供給することを特徴とする塩化アルカリの電解方法。」が提案されている。前記排酸素含有ガスの一部を前記ガス室へ戻し循環供給することで酸素含有ガスの有効利用が可能となった。
【0010】
しかし、特許文献3に「PSA装置は、吸着法により空気を分離する装置であり、純酸素は得られないにしても、酸素濃度が90%以上の酸素含有ガスを安価に取得でき、本方法において有効に使用可能である。しかし、このPSA装置からの酸素含有ガスを用いるにしても、その新規に供給する酸素含有ガスをどの程度過剰な量で供給するかによって、ガス拡散陰極の運転コストが大きく変わってくる。」、および、「排酸素含有ガスの循環量を増大することは、コスト低減の上で利点はあるが、その場合ガス室に入る新規酸素含有ガスと排酸素含有ガスとからの混合酸素ガスの酸素濃度が低下し、それに伴いガス拡散電極の性能が低下するので、実用的に言って排酸素含有ガスの循環量の大きさには制約がある。」と記載された通り、酸素ガスの供給、排出方法は未だ課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2004-244676号公報
【文献】特開2004-300554号公報
【文献】特許3421021号公報
【非特許文献】
【0012】
【文献】ソーダ技術ハンドブック2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、酸素還元型イオン交換膜法アルカリ金属塩化物水溶液の電解の酸素ガス供給、排出方法を改善し、電解電圧を低減可能な電解方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明者は上記の課題を解決するために、酸素還元型イオン交換膜法アルカリ金属塩化物水溶液電解の酸素ガス供給、排出方法について、鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至ったものである。すなわち、本発明は、陰極室に酸素含有ガスを供給し、陰極で酸素を還元しながら行うアルカリ金属塩化物水溶液の電気分解方法であって、陰極室内の平均酸素濃度(入口酸素濃度と出口酸素濃度の平均値を、酸素濃度100%を1とした場合の比率)と陰極室内の圧力(kPa)との積が88以上であることを特徴とするアルカリ金属塩化物水溶液の電気分解方法である。
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0016】
本発明は、陰極室に酸素含有ガスを供給し、陰極で酸素を還元しながら行うアルカリ金属塩化物水溶液の電気分解方法である。
【0017】
本発明の電気分解方法では、例えば、陽極室に設置された塩素発生用電極を陽極として使用し、陰極室に設置された酸素還元用電極を陰極として使用し、陽極と陰極とが陽イオン交換膜で区画された酸素還元型イオン交換膜電解槽が使用される。酸素還元型イオン交換膜電解槽としては、2室型電解槽、3室型電解槽があげられるが、2室型電解槽と3室型電解槽の何れも本発明の効果が発揮される。好ましくは、電解電圧がより低い2室型電解槽である。
【0018】
以降、アルカリ金属塩化物水溶液電解の代表例である食塩電解で説明するが、食塩水以外のアルカリ金属塩化物水溶液でも同様であることは当業者らには周知である。
【0019】
2室型電解槽の1例を図1に示した。
【0020】
陰極(5)は弾性集電体(6)の弾性反発力でイオン交換膜(3)と密着される。場合によってはイオン交換膜(3)と陰極(5)との間にカーボンクロスなどの親水層(図示せず)が設置されることもある。
【0021】
陽極室(1)には陽極室供給ノズル(7)から精製塩水が供給され、食塩水の電気分解により製造された塩素ガスと淡塩水は陽極室排出ノズル(8)から排出される。
【0022】
イオン交換膜(3)を透過したナトリウムイオン(Na+)と水、並びに、陰極室供給ノズル(9)から供給される酸素含有ガス中の酸素とが、陰極(5)で反応し、食塩水の電気分解により苛性ソーダ水溶液が製造される。該苛性ソーダ水溶液は陰極室排出ノズル(10)から、排ガスとともに排出される。
【0023】
2室型電解槽に使用される陽極(1)、陰極(5)、イオン交換膜(3)などは、公知のものなどから、適宜、選択すればよい。
【0024】
3室型電解槽の1例を図2に示した。
【0025】
陽極室(1)は前記2室型電解槽と同等で、食塩水の電気分解により塩素ガスが製造される。陰極室(4)は陰極(5)により苛性室(11)とガス室(14)に区画される。
【0026】
苛性室(11)は、苛性室供給ノズル(12)から水又は低濃度苛性ソーダ液を供給し、苛性室排出ノズル(13)から食塩水の電気分解により製造された苛性ソーダ液を排出する。
【0027】
ガス室(14)は、ガス室供給ノズル(15)から酸素含有ガスを供給し、ガス室排出ノズル(16)から排ガスを排出する。
【0028】
本発明の電解方法では、陰極室(4)(3室型電解槽ではガス室(14)、以下、同じ)への酸素含有ガスの供給、及び/又は、排出方法に特徴を有する。
【0029】
すなわち、本発明の電気分解方法では、陰極室内の平均酸素濃度(入口酸素濃度と出口酸素濃度の平均値を、酸素濃度100%を1とした場合の比率)と陰極室内の圧力(kPa)との積(以下「平均酸素濃度と圧力との積」という場合がある)を88以上にすることが必須である。「平均酸素濃度と圧力との積」を88以上にすると、電解電圧を低くでき、酸素還元型イオン交換膜法食塩電解の所要エネルギーを低くすることができる。好ましくは、「平均酸素濃度と圧力との積」が92以上である。「平均酸素濃度と圧力との積」が88未満の場合、電解電圧が高くなり本発明の効果は発揮されない。
【0030】
陰極室(4)内の圧力(kPa)は絶対圧力であるが、ゲージ圧力(kPa-G)を測定し、大気圧力(101kPa)を加算した値を陰極室内の圧力(kPa)とすればよい。前記陰極室(4)内の圧力(kPa)は用いる電解槽の耐圧未満であることが必須である。電解槽の耐圧は電解槽毎に異なる。
【0031】
陰極室(4)内の圧力は特に限定するものではないが、大気圧力以上の場合、酸素製造にかかるコストを下げることが可能となり、本発明の効果がより一層発揮されるため、好ましくは102kPa(1kPa-G)以上、より好ましくは104kPa(3kPa-G)以上である。陰極室(4)内の圧力の上限は特に限定するものではないが、工業的に安定運転を実施するため、好ましくは105kPa以下に設定する。
【0032】
陰極室内の圧力を調整する方式に制限はなく、公知の方式から選択すればよい。例えば、陰極室出口ノズルの後段に圧力調整弁を設け、弁開度で圧力を調整することが可能である。また、例えば、陰極室出口ノズルの後段に水封器を設け、水封高さで圧力を調整することもできる。
【0033】
運転中に「平均酸素濃度と圧力との積」が88以上となる範囲において、陰極室内の圧力を変動することもできるが、一定圧力で管理することが簡便で好ましい。
【0034】
陰極室(4)内の平均酸素濃度(入口酸素濃度と出口酸素濃度の平均値を、酸素濃度100%を1とした場合の比率)は、陰極室(4)に供給する入口酸素濃度と陰極室から排出される出口酸素濃度の平均値とすればよい。なお、酸素濃度100%は酸素濃度(比率)1、酸素濃度90%は酸素濃度(比率)0.90、すなわち、パーセント表記の酸素濃度を100で除した値が酸素濃度(比率)となる。
【0035】
平均酸素濃度を下げると酸素の廃棄量が減少し、酸素製造コストが低減されるため、好ましくは酸素濃度(比率)を0.91以下、より好ましくは0.90以下に調整する。
【0036】
運転中に「平均酸素濃度と圧力との積」が88以上となる範囲において、陰極室内の酸素濃度を変動することもできるが、一定濃度で管理することが簡便で好ましい。
【0037】
陰極室内の酸素濃度は、供給する酸素含有ガスの酸素濃度と量で調整する。供給する酸素含有ガスの酸素濃度を高くするほど、および、酸素含有ガスの量を多くするほど、陰極室内の酸素濃度は高くなる。
【0038】
供給する酸素含有ガスの酸素濃度は、「平均酸素濃度と圧力との積」が88以上となる限り、特に制限はない。空気を精製し酸素含有ガスを製造することが最も簡便、かつ、安価であり、好ましい。当該酸素含有ガスは、例えば、空気を吸着法により精製することにより得ることができる。空気を吸着法で精製し90~95%の酸素濃度の酸素含有ガスを製造する装置は、一般に、PSA装置として広く知られている。
【0039】
酸素含有ガスを陰極室に供給する方式は従来公知の方法を用いればよい。酸素含有ガスの流量が所望の流量になるよう、供給する酸素含有ガスの圧力を調整すればよい。例えば、PSA装置で空気を精製して酸素含有ガスを製造した場合、製造される酸素含有ガスを、例えば、500kPa-Gの圧力で得ることが可能である。当該、酸素含有ガスを流量調整弁等を介して陰極室に供給すれば、酸素含有ガスを所望の流量で陰極室に供給することができることは当業者らには周知である。
【0040】
酸素含有ガスの供給量は、酸素含有ガスの流量で管理することが可能である。また、酸素含有ガスの酸素濃度と陰極室への供給流量で定まる酸素供給量を、電解電流で定まる酸素消費量で除した、酸素供給倍数で酸素含有ガスの供給量を管理することもできる。
【0041】
前記酸素供給倍数で酸素含有ガスの供給量を管理した場合、廃棄される酸素量の把握が容易となり、また、酸素供給不足を防ぐことが容易になるなど、好ましい。
【0042】
本発明のアルカリ金属塩化物水溶液の電解分解方法を実施するに際し、電解槽は前述の酸素還元型イオン交換膜電解槽を用いる。酸素還元型イオン交換膜電解槽は特に制限はなく、従来公知のものを適宜用いればよいが、前記のとおり、電解電圧がより低い2室型電解槽を用いることが好ましい。
【0043】
陰極室内の「平均酸素濃度と圧力との積」が88以上とする以外の電解条件、例えば、電流密度、温度、食塩水濃度などは、特に制約はなく、従来公知の条件を適宜用いればよい。
【0044】
すなわち、従来公知の酸素還元型イオン交換膜電解槽において、陰極室内の「平均酸素濃度と圧力との積」が88以上とし、その他の電解条件は従来公知の条件を用い、アルカリ金属塩化物水溶液の電気分解を実施すれば、電解電圧を低く維持しつつ、塩素ガスとアルカリ金属水酸化物の製造が操業可能となる。
【発明の効果】
【0045】
本発明によれば、電解電圧を低く維持し、アルカリ金属塩化物水溶液の電気分解が操業可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】2室型イオン交換膜法電解槽の1例を示す模式図である。
図2】3室型イオン交換膜法電解槽の1例を示す模式図である。
図3】実施例と比較例の結果を示す図である。
【実施例
【0047】
以下の実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。
【0048】
実施例1~実施例3、参考例1~3、比較例1~比較例2
図1に示す2室型食塩電解槽(有効電解面積:30cm2)を用いて食塩電解試験を実施した。陽極は塩素発生用電極(DSE(登録商標)、デノラ・ペルメレック製)を用い、イオン交換膜(アシプレックス(登録商標)、旭化成製)を用い、陰極は酸素ガス還元用電極(GDE(登録商標)、デノラ・ペルメレック製)を用いた。
【0049】
陽極室には250g/lの食塩水を供給し、陰極室には酸素発生装置(M SERIES、コフロック製)を用いて、空気から酸素を濃縮した酸素含有ガス(酸素濃度:93%)を供給した。
【0050】
電解電流密度は6kA/m2、陽極室の塩水温度は88℃に調整し、陰極室出口の苛性濃度は33wt%になるように塩水供給量を調整した。
【0051】
陰極室に供給する酸素含有ガスは、酸素供給倍数で1.2~2.0の範囲で調整した。陰極室の苛性及びガス出口に水封器を設置し、水封高さにより陰極室内を0~4kPa-Gに調整した。
【0052】
表1に酸素供給倍数、陰極室内の酸素濃度、陰極室内の圧力、陰極室内圧力と前記陰極室内酸素濃度との積、及び、電解電圧を記載した。
【0053】
この時、陰極室内の酸素濃度は陰極室の入口酸素濃度と陰極室の出口酸素濃度の平均値とし、酸素濃度100%を1とした比率で示した。また、陰極室内圧力はゲージ圧力値(kPa-G)に大気圧力:101kPaを加算した絶対圧力で示した。
【0054】
【表1】
【0055】
本発明の範囲内で電圧が2.20V未満を示し、本発明の範囲を逸脱した場合は電圧が2.20Vを超える。従って、本発明の電解方法を用いることにより、酸素ガス拡散電極型イオン交換膜法食塩電解を低電圧で実施可能であると分かる。
【0056】
本発明の電気分解方法を適用することにより、何故、低電圧を得られるかの原理は必ずしも明確ではないが、陰極室内酸素濃度と陰極室内圧力との積で、酸素還元用電極の反応場における酸素の分圧が定まると推定している。酸素の分圧が高いほど、酸素の電解還元が進行しやすくなると考えられる。
【0057】
結果を図3に示す。図3中、陰極室内の平均酸素濃度(入口酸素濃度と出口酸素濃度の平均値)と陰極室(4)内の圧力(kPa)との積について、〇は88以上92未満、●は92以上であり、本発明の範囲の結果を示し、△は88未満で本発明の結果を逸脱した結果を示す。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の電気分解方法により、酸素還元型イオン交換膜法アルカリ金属塩化物水溶液の電気分解を低電圧で実施可能となり、食塩などのアルカリ金属塩化物水溶液の電気分解の所要エネルギーを低下することが可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 陽極室
2 陽極
3 陽イオン交換膜
4 陰極室
5 陰極
6 弾性集電体
7 陽極室供給ノズル
8 陽極室排出ノズル
9 陰極室供給ノズル
10 陰極室排出ノズル
11 苛性室
12 苛性室供給ノズル
13 苛性室排出ノズル
14 ガス室
15 ガス室供給ノズル
16 ガス室排出ノズル
図1
図2
図3