(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】導電性高分子組成物、及びその用途
(51)【国際特許分類】
C08L 65/00 20060101AFI20240611BHJP
C08L 101/12 20060101ALI20240611BHJP
C08K 5/17 20060101ALI20240611BHJP
H01B 1/12 20060101ALI20240611BHJP
H01B 1/20 20060101ALI20240611BHJP
H01B 5/14 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
C08L65/00
C08L101/12
C08K5/17
H01B1/12 F
H01B1/20 A
H01B1/20 B
H01B5/14 A
H01B5/14 Z
(21)【出願番号】P 2020091247
(22)【出願日】2020-05-26
【審査請求日】2023-03-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川上 淳一
(72)【発明者】
【氏名】箭野 裕一
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】特表平06-505038(JP,A)
【文献】特表2017-521857(JP,A)
【文献】特表2011-527513(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
H01B 1/00- 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともポリチオフェン骨格を有するπ共役系導電性高分子(A)、及び窒素原子上に炭素数3~40の分岐鎖状アルキル基を3つ(当該3つの基は、同一であってもよいし、異なっていてもよい)有するアミン化合物(B)を含む組成物。
【請求項2】
上記の窒素原子上に炭素数3~40の分岐鎖状アルキル基を3つ(当該3つの基は、同一であってもよいし、異なっていてもよい)有するアミン化合物(B)が、トリイソブチルアミン、トリイソペンチルアミンおよびトリイソオクチルアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
少なくともポリチオフェン骨格を有するπ共役系導電性高分子(A)が、スルホン酸化合物で外部ドープされたポリチオフェン系化合物からなるπ共役系導電性高分子、又は下記一般式(1)で表される構造単位及び下記一般式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むπ共役系導電性高分子であることを特徴とする請求項1又は2に記載の組成物。
【化1】
[一般式(1)において、Mは、水素イオン、アルカリ金属イオン、又は第4級アンモニウムカチオンを表す。一般式(1)及び(2)において、R
2は、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3~6の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、又はフッ素原子を表し、mは1~10の整数を表し、nは0又は1を表す。]
【請求項4】
上記の
少なくともポリチオフェン骨格を有するπ共役系導電性高分子(A) 100重量部に対して、上記の窒素原子上に炭素数3~40の分岐鎖状アルキル基を3つ(当該3つの基は、同一であってもよいし、異なっていてもよい)有するアミン化合物(B)が 1~10,000重量部(即ち、
少なくともポリチオフェン骨格を有するπ共役系導電性高分子(A) 1重量部に対してアミン化合物(B)が 0.01~100重量部)であることを特徴とする、請求項1乃至
3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
請求項1乃至
4のいずれかに記載の組成物と水を含む水溶液であって、そのpHが、1.5~5.5の範囲であることを特徴とする水溶液。
【請求項6】
請求項1乃至
4のいずれかに記載の組成物を含む導電性高分子膜。
【請求項7】
導電率が50S/cm以上であることを特徴とする請求項
6に記載の導電性高分子膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子組成物、及び当該組成物を用いてなる、高い導電性と優れた耐水性を有する導電性高分子膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリアセチレン、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロール等に代表されるπ共役系高分子に、電子受容性化合物を外部ドーパントとしてドープした導電性高分子材料が開発され、例えば、帯電防止剤、コンデンサの固体電解質、導電性塗料、エレクトロクロミック素子、電極材料、熱電変換材料、透明導電膜、化学センサ、アクチュエータ等への応用が検討されている。このような導電性高分子材料及びその用途に関しては、得られる導電膜表面の耐溶剤性、耐水性が低いことが課題となっている。この問題を解決すべく、導電性高分子材料にバインダー成分となる高分子材料を添加する方法や、シランカップリング剤を用いる方法(例えば、特許文献1、2)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-113446号公報
【文献】特開2018-95728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、バインダー成分となる高分子材料やシランカップリング剤の添加については、導電膜の導電率の低下をもたらしてしまうという課題がある。
【0005】
そこで本発明は、導電性高分子材料による導電膜に対して、高い導電性を維持したまま、高い耐水性を付与する組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ところで、導電性高分子は現在一般的に高分子主鎖に二重結合を有する高分子に硫酸やスルホン酸化合物などの強酸を外部ドーパントとして添加し、導電性を発現させている。外部ドーパントとして作用していない強酸は水溶液中に存在するためにその水溶液は強酸性を示す。強酸性水溶液の導電性高分子をそのまま基材の上にキャストし導電性膜の形成を試みると基材の腐食等が発生することが懸念させる。そのため、腐食が懸念される場合は、水溶液にナトリウム塩やアミンもしくはアミン塩の添加を行い水溶液の酸性度を下げる必要がある。この水溶性の酸性度を下げるために添加する化合物に着目することで添加剤を極力減らすことができ、さらに高い導電率を維持できる。
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、水分散性又は水溶性のπ共役系導電性高分子に分岐鎖状アルキル基を有するアミン化合物を添加することで高い導電性を維持したまま高い耐水性を付与できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明はπ共役系導電性高分子、及び分岐鎖状アルキル基を有するアミン化合物を含んだ組成物、及びその用途に関するものである。
[1] π共役系導電性高分子(A)、及び窒素原子上に炭素数3~40の分岐鎖状アルキル基を3つ(当該3つの基は、同一であってもよいし、異なっていてもよい)有するアミン化合物(B)を含む組成物。
[2] 上記の窒素原子上に炭素数3~40の分岐鎖状アルキル基を3つ(当該3つの基は、同一であってもよいし、異なっていてもよい)有するアミン化合物(B)が、トリイソブチルアミン、トリイソペンチルアミンおよびトリイソオクチルアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種である、[1]に記載の組成物。
[3] π共役系導電性高分子(A)が、少なくともポリチオフェン骨格を有するπ共役系導電性高分子であることを特徴とする[1]又は[2]に記載の組成物。
[4] π共役系導電性高分子(A)が、スルホン酸化合物で外部ドープされたポリチオフェン系化合物からなるπ共役系導電性高分子、又は下記一般式(1)で表される構造単位及び下記一般式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むπ共役系導電性高分子であることを特徴とする[1]又は[2]に記載の組成物。
【0009】
【0010】
[一般式(1)において、Mは、水素イオン、アルカリ金属イオン、又は第4級アンモニウムカチオンを表す。一般式(1)及び(2)において、R2は、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3~6の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、又はフッ素原子を表し、mは1~10の整数を表し、nは0又は1を表す。]
[5] 上記のπ共役系導電性高分子(A) 100重量部に対して、上記の窒素原子上に炭素数3~40の分岐鎖状アルキル基を3つ(当該3つの基は、同一であってもよいし、異なっていてもよい)有するアミン化合物(B)が 1~10,000重量部(即ち、π共役系導電性高分子(A) 1重量部に対してアミン化合物(B)が 0.01~100重量部)であることを特徴とする、[1]乃至[4]のいずれかに記載の組成物。
[6] [1]乃至[5]のいずれかに記載の組成物と水を含む水溶液であって、そのpHが、1.5~5.5の範囲であることを特徴とする水溶液。
[7] [1]乃至[5]のいずれかに記載の組成物を含む導電性高分子膜。
[8] 導電率が50S/cm以上であることを特徴とする[7]に記載の導電性高分子膜。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高い導電性を維持したまま、高い耐水性を有する、導電性高分子膜を作製できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明の組成物は、π共役系導電性高分子(A)、及び窒素原子上に炭素数3~40の分岐鎖状アルキル基を3つ(当該3つの基は、同一であってもよいし、異なっていてもよい)有するアミン化合物(B)を含むことをその特徴とする。
【0014】
以下、窒素原子上に炭素数3~40の分岐鎖状アルキル基を3つ(当該3つの基は、同一であってもよいし、異なっていてもよい)有するアミン化合物(B)を、単純に、アミン化合物(B)とも記載する。
【0015】
前記のπ共役系導電性高分子(A)としては、特に限定するものではないが、例えば、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリ(p-フェニレンビニレン)系導電性高分子、ポリピロール系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリフルオレン系導電性高分子、ポリチエニレンビニレン系導電性高分子等を挙げることができ、これらのうち、高導電性が得られる点で、ポリチオフェン系導電性高分子、即ち、少なくともポリチオフェン骨格を有するπ共役系導電性高分子が好ましい。
【0016】
また、前記のπ共役系導電性高分子(A)については、高導電性が得られる点で、スルホン酸化合物で外部ドープされたポリチオフェン系化合物からなるπ共役系導電性高分子、又は下記一般式(1)で表される構造単位及び下記一般式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むπ共役系導電性高分子であることが好ましい。
【0017】
【0018】
[一般式(1)において、Mは、水素イオン、アルカリ金属イオン、又は第4級アンモニウムカチオンを表す。一般式(1)及び(2)において、R2は、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3~6の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、又はフッ素原子を表し、mは1~10の整数を表し、nは0又は1を表す。]
前記のスルホン酸化合物(外部ドーパント)としては、特に限定するものではないが、例えば、ポリスチレンスルホン酸若しくはその塩、スチレンスルホン酸の共重合体若しくはその塩、ポリビニルスルホン酸若しくはその塩、ビニルスルホン酸共重合物若しくはその塩、p-トルエンスルホン酸若しくはその塩、カンファースルホン酸若しくはその塩、ドデシルベンゼンスルホン酸若しくはその塩、又はポリビニルアルコール部分ブチラールスルホン酸若しくはその塩等が挙げられる。
【0019】
前記のポリチオフェン系化合物としては、特に限定するものではないが、例えば、ポリチオフェン、チオフェンの共重合物、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、3,4-エチレンジオキシチオフェンの共重合物等を挙げることができる。
【0020】
スルホン酸化合物で外部ドープされたポリチオフェン系化合物からなるπ共役系導電性高分子については、特に限定するものではないが、高導電性が得られる点で、ポリスチレンスルホン酸で外部ドープされたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が好ましい、即ち、所謂PEDOT:PSSが好ましい。
【0021】
なお、ここで示したスルホン酸化合物で外部ドープされたポリチオフェン系化合物については、通常、水分散性であることが知られている。
【0022】
上記一般式(1)又は(2)中、Mは、水素イオン、アルカリ金属イオン、又は第4級アンモニウムカチオンを表す。
【0023】
前記のアルカリ金属イオンとしては、例えば、Liイオン、Naイオン、Kイオンが好ましい。
【0024】
前記の第4級アンモニウムカチオンとしては、特に限定するものではないが、例えば、テトラメチルアンモニウムカチオン、テトラエチルアンモニウムカチオン、テトラノルマルプロピルアンモニウムカチオン、テトラノルマルブチルアンモニウムカチオン、又はテトラノルマルヘキシルアンモニウムカチオンなどが挙げられる。これらのうち、入手の観点から、好ましくは、テトラメチルアンモニウムカチオン、又はテトラエチルアンモニウムカチオンである。
【0025】
Mは、導電性高分子溶液の塗布性の観点から、水素イオン、アルカリ金属イオン(例えば、Liイオン、Naイオン、及びKイオン等)、テトラメチルアンモニウムカチオン、又はテトラエチルアンモニウムカチオンであることが好ましく、水素イオン、Liイオン、Naイオン、Kイオン、テトラメチルアンモニウムカチオン、又はテトラエチルアンモニウムカチオンであることがより好ましい。
【0026】
上記一般式(1)及び(2)中、R2は水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3~6の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、又はフッ素原子を表す。
【0027】
炭素数3~6の直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基としては、特に限定するものではないが、例えば、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、シクロペンチル基、n-へキシル基、2-エチルブチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0028】
上記のR2については、成膜性の点で、水素原子、メチル基、エチル基、又はフッ素原子であることが好ましい。
【0029】
上記一般式(1)及び(2)中、mは1~10の整数を表し、成膜性の点で、1~6の整数であることが好ましく、1~4の整数であることがより好ましく、3又は4であることがより好ましい。
【0030】
本発明の組成物におけるπ共役系導電性高分子(A)については、例えば、スルホン酸化合物で外部ドープされたポリチオフェン系化合物からなるπ共役系導電性高分子と下記一般式(1)で表される構造単位及び下記一般式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むπ共役系導電性高分子とを混合してなるものであってもよい。
【0031】
上記のアミン化合物(B)において、炭素数3~40の分岐鎖状アルキル基としては、特に限定するものではないが、例えば、イソプロピル基、イソブチル基、s-ブチル基、ターシャリーブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、イソヘキシル基、シクロヘキシル基、イソオクチル基等が挙げられる。
【0032】
前記の炭素数3~40の分岐鎖状アルキル基については、耐水性の観点から、炭素数3~20の分岐鎖状アルキル基が好ましく、炭素数3~12の分岐鎖状アルキル基がより好ましく、炭素数4~8の分岐鎖状アルキル基がより好ましい。このような分岐鎖状アルキル基としては、特に限定するものではないが、耐水性の観点から、イソプロピル基、イソブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、イソヘキシル基、シクロヘキシル基、又はイソオクチル基が好ましく、イソブチル基、イソペンチル基、又はイソオクチル基が好ましい。
【0033】
上記アミン化合物(B)については、耐水性の観点から、窒素原子上に、イソブチル基、イソペンチル基、及びイソオクチル基からなる群より選ばれる分岐鎖状アルキル基を3つ(当該3つの基は、同一であってもよいし、異なっていてもよい)有するアミン化合物であることが好ましく、トリイソブチルアミン、トリイソペンチルアミン、及びトリイソオクチルアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
【0034】
本発明の組成物において、π共役系導電性高分子(A)とアミン化合物(B)の量比は、特に限定するものではないが、上記のπ共役系導電性高分子(A) 100重量部に対してアミン化合物(B)が 1~10,000重量部(即ち、π共役系導電性高分子(A) 1重量部に対してアミン化合物(B)が 0.01~100重量部)であることが好ましく、上記のπ共役系導電性高分子(A) 100重量部に対してアミン化合物(B)が 10~1,000重量部(即ち、π共役系導電性高分子(A) 1重量部に対してアミン化合物(B)が 0.1~10重量部)であることがより好ましく、上記のπ共役系導電性高分子(A) 100重量部に対してアミン化合物(B)が 10~500重量部(即ち、π共役系導電性高分子(A) 1重量部に対してアミン化合物(B)が 0.1~5重量部)であることがより好ましい。い。なお、当該組成物については、腐食性や耐水性の観点で、当該組成物の1%水溶液におけるpH(室温)が1.5~5.5となる様に前記のπ共役系導電性高分子(A)と前記のアミン化合物(B)が混合されていることが好ましい。
【0035】
本発明の組成物は、上記のπ共役系導電性高分子(A)と上記のアミン化合物(B)を混合することによって製造することができる。π共役系導電性高分子(A)とアミン化合物(B)を混合する際の雰囲気は特に限定されないが、大気中、不活性ガス中でもよい。
【0036】
本発明の水溶液については、上記の本発明の組成物と水を含むことを特徴とする。当該水溶液については、そのpHが1.5~5.5の範囲であることが好ましい。また、当該水溶液については、上記のπ共役系導電性高分子(A)の濃度が0.1~10重量%であるものが好ましく、0.2~8重量%であるものがより好ましく、0.3~6重量%であるものがより好ましい。
【0037】
本発明の水溶液のpHを調整する手順としては、例えば、前記のアミン化合物(B)の混合量を調整する方法や、アルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物などの塩基性化合物を添加混合する方法や、後述するアミン化合物(B)を除くアミン化合物を添加混合する方法を挙げることができる。
【0038】
上記の混合を行う方法としては、例えば、スターラーチップや攪拌羽根による一般的な混合溶解操作に加えて、超音波照射、ホモジナイズ処理(例えば、メカニカルホモジナイザー、超音波ホモジナイザ-、高圧ホモジナイザー等の使用)を行う方法を挙げることができる。ホモジナイズ処理する場合には、ポリマーの熱劣化を防ぐため、冷温しながら行うことが好ましい。
【0039】
本願発明の組成物又は水溶液については、上記以外の成分を含んでいてもよい。
【0040】
上記以外の成分としては、特に限定するものではないが、例えば、バインダー、界面活性剤、前記のアミン化合物(B)を除くアミン化合物、溶媒等を挙げることができる。
【0041】
前記のバインダーとしては、特に限定するものではないが、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、セルロース、水溶性ポリエステル樹脂化合物、又は水溶性ポリウレタン樹脂化合物、多価アルコールとカルボキシル基を2つ以上持つ有機酸の混合物等が挙げられる。
【0042】
前記の水溶性ポリエステル樹脂化合物としては、例えば、ポエチレンテレフタラートやポリトリメチレンテレフタラート等を挙げることができる。当該水溶性ポリエステル樹脂化合物については、自己乳化型であってもよいし、強化乳化型であってもよいが、耐水性、耐溶剤性の観点から自己乳化型水溶性ポリエステル樹脂化合物であることが好ましい。
【0043】
前記の水溶性ポリエステル樹脂化合物としては、例えば、東洋紡株式会社製、商品名:バイロナール、や、高松油脂株式会社製、商品名:ペスレジン、互応化学株式会社製、商品名:プラスコート、東亞合成株式会社製、商品名:アロンメルト、高松油脂株式会社製、商品名:ぺスレジンA、DIC株式会社製、商品名:ウォーターゾールなどが商業的に容易に入手することができる。
【0044】
前記の水溶性ポリエステル樹脂化合物は、1種を単独で用いることができるし、2種以上を混合して用いることもできる。
【0045】
前記の水溶性ポリウレタン樹脂化合物は、ウレタン樹脂エマルションとして主に産業用途に用いられており、自己乳化型であってもよいし、強化乳化型であってもよいが、耐水性、耐溶剤性の観点から自己乳化型水溶性ポリウレタン樹脂化合物であることが好ましい。自己乳化型としては、アニオン型、カチオン型、非イオン型特が挙げられるが、いずれであってもよい。また、当該水溶性ポリウレタン樹脂化合物については、特に限定するものではないが、ポリエーテル型、ポリエステル型、ポリカーボネート型等が挙げられる。
【0046】
水溶性ポリウレタン樹脂化合物は、例えば、三洋化成工業株式会社製、商品名:ユーコート、パーマリン、ユープレンや、楠本化成株式会社製、商品名:NeoRez、株式会社ADEKA製、商品名:アデカボンタイター、明成化学工業株式会社製、商品名:パスコール、DIC株式会社製、商品名:ハイドランなどが商業的に容易に入手することができる。
【0047】
前記の水溶性ポリウレタン樹脂化合物は、1種を単独で用いることができるし、2種以上を混合して用いることもできる。
【0048】
前記の多価アルコールとしては、特に限定するものではないが、例えば、エリスリトールやペンタエリトリトール等を挙げることができる。
【0049】
前記のカルボキシル基を2つ以上持つ有機酸としては、特に限定するものではないが、例えば、アジピン酸やフタル酸等を挙げることができる。
【0050】
前記の界面活性剤としては、特に限定するものではないが、例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、両性界面活性剤、フッ素系界面活性剤、又はシリコーン系界面活性剤等が使用できるが、より好ましくは非イオン界面活性剤及び両性界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも一種である。
【0051】
前記のアニオン界面活性剤としては、特に限定するものではないが、例えば、ラウリルアルコール硫酸エステルナトリウムやドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0052】
前記のカチオン界面活性剤としては、特に限定するものではないが、例えば、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド等が挙げられる。
【0053】
前記の非イオン界面活性剤としては、特に限定するものではないが、例えば、ポリエチレングリコール型界面活性剤、アセチレングリコール型界面活性剤、多価アルコール型界面活性剤、高分子型非イオン界面活性剤等が挙げられる。
【0054】
前記のポリエチレングリコール型界面活性剤としては、特に限定するものではないが、例えば、高級アルコールエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エチレンオキサイド付加物、多価アルコール脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンエチレンオキサイド付加物、油脂のエチレンオキサイド付加物、又はポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0055】
前記のアセチレングリコール型界面活性剤としては、特に限定するものではないが、例えば、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、サーフィノール(エアプロダクツ社製)、オルフィン(日信化学工業社製)等が挙げられる。
【0056】
前記の多価アルコール型界面活性剤としては、特に限定するものではないが、例えば、グリセロールの脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールの脂肪酸エステル、ソルビトール及びソルビタンの脂肪酸エステル、ショ糖の脂肪酸エステル、高アルコールのアルキルエーテル、アルカノールアミン類の脂肪酸アミド等が挙げられる。
【0057】
前記の両性界面活性剤としては、特に限定するものではないが、例えば、ベタイン型両性界面活性剤が挙げられる。ベタイン型両性界面活性剤としては、特に限定するものではないが、例えば、アルキルジメチルベタイン、ラウリルジメチルベタイン、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタイン等が挙げられる。
【0058】
前記のフッ素系界面活性剤としては、パーフルオロアルキル基を有するものであれば特に限定されないが、例えば、プラスコート RY-2、パーフルオロアルカン、パーフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルスルホン酸、又はパーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物などが挙げられる。
【0059】
前記のシリコーン系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエーテルエステル変性ポリジメチルシロキサン、ヒドロキシル基含有ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、アクリル基含有ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、アクリル基含有ポリエステル変性ポリジメチルシロキサン、パーフルオロポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、パーフルオロポリエステル変性ポリジメチルシロキサン、又はシリコーン変性アクリル化合物などが挙げられる。
【0060】
なお、フッ素系界面活性剤やシリコーン系界面活性剤はレベリング剤として塗膜の平坦性を改善するのに有効である。
【0061】
前記のアミン化合物(B)を除くアミン化合物としては、特に限定するものではないが、例えば、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、エチルアミン、トリエチルアミン、ノルマル-プロピルアミン、イソプロピルアミン、ノルマルブチルアミン、ヘキシルアミン、アミノエタノール、ジメチルアミノエタノール、メチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、3-アミノ-1,2-プロパンジオール、3-メチルアミノ-1,2-プロパンジオール、3-ジメチルアミノ-1,2-プロパンジオール、1,4-ブタンジアミン、イミダゾール、N-メチルイミダゾール、1、2-ジメチルイミダゾール、ピリジン、ピコリン、又はルチジン等が挙げられる。
【0062】
前記の溶媒としては、特に限定するものではないが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、メトキシエタノール、エトキシエタノール、ブトキシエタノール、エチレングリコール等を挙げることができる。
【0063】
本発明の組成物又は水溶液から、本発明の組成物を含む導電性高分子膜を形成する方法としては、特に限定するものではないが、例えば、本発明の水溶液を、基材に塗布し乾燥する方法を挙げることができる。
【0064】
塗布及び/又は乾燥の雰囲気は、特に限定するものではないが、例えば、大気中、不活性ガス中、真空中、又は減圧下のいずれであってもよい。導電性高分子膜の劣化抑制の観点からは、窒素、アルゴン等の不活性ガス中が好ましい。
【0065】
上記の基材としては、特に限定するものではないが、例えば、ガラス、プラスチック、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリカーボネート、又はレジスト基板等が挙げられる。
【0066】
上記の塗布する方法としては、特に限定するものではないが、例えば、キャスティング法、ディッピング法、バーコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スプレーコート法、スピンコート法、インクジェット印刷法等が挙げられる。
【0067】
塗膜の乾燥温度は、均一な導電膜が得られる温度であれば特に限定されないが、室温~300℃の範囲が好ましく、より好ましくは室温~250℃の範囲であり、さらにより好ましくは室温~200℃の範囲である。
【0068】
塗膜の膜厚としては特に限定するものではないが、10-2~102μmの範囲が好ましい。得られる塗膜の表面抵抗値としては特に限定するものではないが、1~109Ω/□の範囲のものが好ましい。
【0069】
本発明で得られる導電性高分子膜の導電率としては、特に限定するものではないが、フィルム状態での導電率(電気伝導度)が50S/cm以上であることが好ましい。
【0070】
本発明の導電性高分子膜は、例えば、帯電防止フィルム、透明電導膜、透明電極、固体電解コンデンサ用の固体電解質等として使用することができる。
【実施例】
【0071】
以下、本発明を実施例によって具体的に記述する。しかし、これらによって本発明は何ら限定して解釈されるものではない。
【0072】
なお、本実施例で用いた分析機器及び測定方法を以下に列記する。
【0073】
[導電性高分子膜の作製方法]
具体的には後述する本発明の組成物を含む水溶液0.5mlを25mm角の無アルカリガラス板に塗布し、大気下、ホットプレート上で60℃にて30分加熱し、さらに200℃で60分加熱して導電性高分子膜を得た。
【0074】
[導電性高分子膜の膜厚測定]
装置:BRUKER社製 DEKTAK XT。
【0075】
上記の作成方法で作製した導電性高分子膜をx方向に6.25mm、y方向に6.25mmピッチの間隔で、切れ目を入れガラス部を露出させ、測定箇所9点の膜厚を25℃50%RH雰囲気で測定した。
【0076】
[導電性高分子膜の表面抵抗率測定]
装置:三菱化学社製ロレスタGP MCP-T600。
表面抵抗測定器ロレスタGP MCP-T600を用い、測定プローブをASPとして、x方向に6.25mm、y方向に6.25mmピッチの間隔で、測定箇所9点の表面抵抗を25℃50%RH雰囲気で測定した。
【0077】
[導電性高分子膜の導電率測定]
上記の測定方法で測定した導電性高分子膜の膜厚及び表面抵抗率から、以下の式に基づき導電率を算出した。
【0078】
導電率[S/cm]=104/(表面抵抗率[Ω/□]×膜厚[μm])
[導電性高分子膜の耐水性試験]
ガラス瓶に水を入れ、上記で作製した導電性高分子膜を当該水に浸漬させた後にガラス瓶に蓋をして85℃の恒温槽に1時間放置を行い、前記の導電性高分子膜の溶解又は無アルカリガラス板からの剥離を観察した。導電性高分子膜の溶解又は剥離が観察された場合、耐水性結果を悪とし、いずれも観察されない場合、耐水性結果を良とした。
【0079】
実施例1
公知文献(特開2019-196443)の合成例1及び合成例2に準拠して、ポリ(3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸[下記式(3)で表される構造単位を含む重合物](以下、「PEDOT-MPS」という)の水溶液(導電性高分子水溶液)を作製した。当該水溶液中のポリマー含有量は、2.0重量%であった。前記の導電性高分子水溶液 100gに、トリイソブチルアミンを0.9g添加、混合した、得られた混合物の液性はpH=3.0であった。この得られた混合物について、上記の実験操作を行って導電性高分子膜を得、さらに当該導電性高分子膜の導電率測定及び耐水性試験を実施した。結果を下記の表1に示した。
【0080】
【0081】
実施例2
実施例1において、トリイソブチルアミン 0.9gを用いる代わりに、トリイソペンチルアミン 1.0gを用いた以外は実施例1と同様の実験操作を行い(得られた混合物の液性はpH=2.5であった)、導電性高分子膜を得、当該導電性高分子膜の導電率測定及び耐水性試験を実施した。結果を下記の表1に示した。
【0082】
実施例3
実施例1において、トリイソブチルアミン 0.9gを用いる代わりに、トリイソオクチルアミン 1.0gを用いた以外は実施例1と同様の実験操作を行い(得られた混合物の液性はpH=2.3であった)、導電性高分子膜を得、当該導電性高分子膜の導電率測定及び耐水性試験を実施した。結果を下記の表1に示した。
【0083】
実施例4
実施例1において、PEDOT-MPSの2重量%水溶液 100gの代わりに、市販のPEDOT:PSSであるHeraeus製Clevios PH1000(外部ドーパントにポリスチレンスルホン酸を使用したポリ3,4-エチレンジオキシチオフェン)100gを用いた以外は実施例1と同様の実験操作を行い(得られた混合物の液性はpH=3.4であった)、導電性高分子膜を得、当該導電性高分子膜の導電率測定及び耐水性試験を実施した。結果を下記の表1に示した。
【0084】
参考例1
実施例1において、トリイソブチルアミン 0.9gを用いる代わりに、1mol/L水酸化ナトリウム水溶液を0.4gを用いた以外は実施例1と同様の実験操作を行い(得られた混合物の液性はpH=3.0であった)、導電性高分子膜を得、当該導電性高分子膜の導電率測定及び耐水性試験を実施した。結果を下記の表1に示した。
【0085】
参考例2
実施例1において、トリイソブチルアミン 0.9gを用いる代わりに、tert-ブチルアミン 0.6gを用いた以外は実施例1と同様の実験操作を行い(得られた混合物の液性はpH=3.0であった)、導電性高分子膜を得、当該導電性高分子膜の導電率測定及び耐水性試験を実施した。結果を下記の表1に示した。
【0086】
参考例3
実施例1において、トリイソブチルアミン 0.9gを用いる代わりに、トリブチルアミン 0.6gを用いた以外は実施例1と同様の実験操作を行い(得られた混合物の液性はpH=3.0であった)、導電性高分子膜を得、当該導電性高分子膜の導電率測定及び耐水性試験を実施した。結果を下記の表1に示した。
【0087】
参考例4
実施例1において、トリイソブチルアミン 0.9gを添加する代わりに(トリイソブチルアミン 0.9gを添加せずに)、水溶性バインダーとして用いられるエポクロスWS-500(株式会社日本触媒製) 2gを添加した以外は実施例1と同様の実験操作を行い(得られた混合物の液性はpH=1.7であった)、導電性高分子膜を得、当該導電性高分子膜の導電率測定及び耐水性試験を実施した。結果を下記の表1に示した。
【0088】
比較例1
実施例1において、PEDOT-MPSの2重量%水溶液100gの代わりに、Heraeus製Clevios PH1000(外部ドーパントにポリスチレンスルホン酸を使用したポリ3,4-エチレンジオキシチオフェン)100gを用い、さらにトリイソブチルアミン 0.9gを用いる代わりに、1mol/L水酸化ナトリウム0.2gを用いた以外は実施例1と同様の実験操作を行い(得られた混合物の液性はpH=3.3であった)、導電性高分子膜を得、当該導電性高分子膜の導電率測定及び耐水性試験を実施した。結果を下記の表1に示した。
【0089】
【0090】
表1の結果より、本発明のアミン化合物(B)を含む組成物を使用した実施例1~4は高い導電率を維持したまま耐水性が良好な結果であった。アミン化合物(B)を使用していない参考例1~3、及び比較例1は耐水性試験を実施した際に膜の溶解又は剥離が確認された。また、直鎖アミンであるトリブチルアミンを使用した参考例3から、アミン化合物(B)を使用することで高い耐水性が得られることが確認された。水溶性バインダーを添加した参考例4では高い耐水性が確認出来たが高い導電率を得ることが出来なかった。
【産業上の利用可能性】
【0091】
上記したとおり、本発明の導電性高分子水溶液を使用すれば、高い導電性と耐湿性に優れた導電性高分子膜を提供することができる。
【0092】
この新規な導電性高分子水溶液は、帯電防止剤、コンデンサの固体電解質、導電性塗料、エレクトロクロミック素子、透明電極、透明導電膜、熱電変換材料、化学センサ、アクチュエータ等への応用が期待できる。