(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】加熱部材、乾燥装置、印刷装置、及び印刷方法
(51)【国際特許分類】
H05B 3/10 20060101AFI20240611BHJP
F26B 13/18 20060101ALI20240611BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
H05B3/10 Z
F26B13/18 A
B41J2/01 125
B41J2/01 305
(21)【出願番号】P 2020091265
(22)【出願日】2020-05-26
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(72)【発明者】
【氏名】水谷 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 元昭
【審査官】川口 聖司
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-015782(JP,A)
【文献】特開2019-163162(JP,A)
【文献】特開2014-038311(JP,A)
【文献】特開2018-066552(JP,A)
【文献】特開平09-197872(JP,A)
【文献】米国特許第05736250(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/10
F26B 13/18
G03G 13/20
G03G 15/20
B41J 1/00-35/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被接触部材に対して接触することで前記被接触部材を加熱する加熱部材であって、
前記加熱部材は、前記被接触部材と接触する表面層を有し、
前記表面層は、複数の凹部を表面に有する支持層と、前記凹部に付着しているフッ素樹脂と、を有し、
前記凹部の深さは、
1.1μm以上
1.4μm以下であり、
前記フッ素樹脂が存在する面積の割合は、前記表面層の面積に対して
26.0%以上30.0%以下であり、
前記支持層は、硫酸アルマイトを含有することを特徴とする加熱部材。
【請求項2】
前記凹部は、前記フッ素樹脂が付着している領域である付着領域と、前記フッ素樹脂が付着していない領域である非付着領域と、をそれぞれ複数有し、
前記非付着領域の少なくとも1つにおける面積は、0.01μm2以上0.03μm2以下である請求項
1に記載の加熱部材。
【請求項3】
前記支持層の厚さは、25.0μm以上35.0μm以下である請求項1
または2に記載の加熱部材。
【請求項4】
前記複数の凹部を有する支持層および前記凹部に付着しているフッ素樹脂と、を有する前記表面層のビッカース硬さは、400Hv以上500Hv以下である請求項1から
3のいずれか一項に記載の加熱部材。
【請求項5】
直径が50mm以上600mm以下のローラ形状である請求項1から
4のいずれか一項に記載の加熱部材。
【請求項6】
前記表面層は、前記凹部と前記凹部以外の領域である非凹部とを表面に有する前記支持層と、前記凹部及び前記非凹部に付着している前記フッ素樹脂と、を有し、
前記凹部の単位面積における前記フッ素樹脂が存在する面積は、前記非凹部の単位面積における前記フッ素樹脂が存在する面積より大きい請求項1から
5のいずれか一項に記載の加熱部材。
【請求項7】
更に、前記表面層を介して前記被接触部材に熱を付与する加熱手段を有する請求項1から
6のいずれか一項に記載の加熱部材。
【請求項8】
前記表面層の温度は、100℃以上である請求項1から
7のいずれか一項に記載の加熱部材。
【請求項9】
前記被接触部材は、記録媒体である請求項1から
8のいずれか一項に記載の加熱部材。
【請求項10】
被接触部材に対して接触することで前記被接触部材を加熱する加熱部材であって、
前記加熱部材は、前記被接触部材と接触する表面層を有し、
前記表面層は、表面に複数の凹部を有する支持層と、前記凹部に付着しているフッ素樹脂と、を有し、
前記凹部の深さは、
1.1μm以上
1.4μm以下であり、
前記フッ素樹脂が存在する面積の割合は、前記表面層の面積に対して
26.0%以上30.0%以下であり、
前記支持層は、酸化アルミニウムを含有し、且つ硫黄成分が検出される層であることを特徴とする加熱部材。
【請求項11】
請求項1から
10のいずれか一項に記載の加熱部材を有し、
液体組成物が付与された前記被接触部材を加熱することで乾燥させる乾燥装置。
【請求項12】
前記被接触部材に液体組成物を付与する液体組成物付与手段と、
請求項1から
10のいずれか一項に記載の加熱部材と、を有し、
前記加熱部材は、前記液体組成物が付与された前記被接触部材を加熱することで乾燥させる印刷装置。
【請求項13】
前記被接触部材を供給する被接触部材供給手段と、
前記被接触部材を回収する被接触部材回収手段と、
前記被接触部材供給手段から供給された前記被接触部材が前記被接触部材回収手段に回収されるまでの間に搬送される経路である搬送経路と、を有し、
前記被接触部材が連続紙である請求項
12に記載の印刷装置。
【請求項14】
前記被接触部材の搬送速度は、50m/分以上である請求項
12又は
13に記載の印刷装置。
【請求項15】
前記被接触部材に液体組成物を付与する液体組成物付与工程と、
請求項1から
10のいずれか一項に記載の加熱部材により前記液体組成物が付与された前記被接触部材を加熱することで乾燥させる乾燥工程と、を有する印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱部材、乾燥装置、印刷装置、及び印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット装置などの印刷装置の内部には、連帳紙およびカット紙等の記録媒体を搬送するための搬送手段が設けられている。この搬送手段は、記録媒体を、インクなどの液体組成物を付与する手段および付与された液体組成物を加熱乾燥させる手段等へと導く。
【0003】
近年、印刷に使用されるインクとして、水性インクおよび揮発性の低い溶媒を用いたインク等の環境に配慮されたインクが用いられることが多くなっている。しかし、これらの水性インク等は乾燥速度が遅いため、記録媒体に付与されたインクを効率良く乾燥させ、印刷速度を高速化させる技術の開発が望まれている。
【0004】
記録媒体に付与されたインクを効率良く乾燥させる技術としては、例えば、アルミ合金製であって円筒状の加熱ローラを用いる方法が知られている。この加熱ローラは、ハロゲンランプヒータ等の加熱手段を内蔵することで外周表面が加熱されており、当該外周表面に、インクが付与された記録媒体を接触させつつ搬送することで、記録媒体に付与されたインクを乾燥させる。
【0005】
特許文献1には、ウェブを巻回させてウェブの印刷裏面から伝導伝熱乾燥を行う加熱ローラと、ウェブの印刷表面に温風を吹き付けて対流伝熱乾燥を行う温風乾燥機構と、を備える乾燥ユニットが開示されている。
【0006】
特許文献2には、波線状の搬送経路に複数の加熱ローラが配置された乾燥装置が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、搬送されている記録媒体などの被接触部材に対して接触することで当該被接触部材を加熱する加熱ローラなどの加熱部材を用いる場合において、搬送中の被接触部材の加熱部材表面に対する接触位置が経時的に変化する搬送不良の課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、被接触部材に対して接触することで前記被接触部材を加熱する加熱部材であって、前記加熱部材は、前記被接触部材と接触する表面層を有し、前記表面層は、複数の凹部を表面に有する支持層と、前記凹部に付着しているフッ素樹脂と、を有し、前記凹部の深さは、1.1μm以上1.4μm以下であり、前記フッ素樹脂が存在する面積の割合は、前記表面層の面積に対して26.0%以上30.0%以下であり、前記支持層は、硫酸アルマイトを含有することを特徴とする加熱部材である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の加熱部材は、搬送されている被接触部材に対して接触することで当該被接触部材を加熱する加熱部材を用いる場合において、搬送中の被接触部材の加熱部材表面に対する接触位置が経時的に変化する搬送不良を抑制する優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、凹部を有する支持層における断面の一例を示す写真である。
【
図2】
図2は、ローラ形状の加熱部材を用いて被接触部材を加熱する場合の一例を示す模式図である。
【
図3】
図3は、連続紙を用いる印刷装置の一例を示す模式図である。
【
図4】
図4は、被接触部材が加熱部材に接していることを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0012】
<<加熱部材>>
本実施形態の加熱部材は、搬送されている被接触部材に対して接触することで被接触部材を加熱する部材であり、搬送されている被接触部材に対して接触することで被接触部材に付与された液体組成物を加熱して乾燥させる部材であることが好ましい。また、加熱部材は、被接触部材と接触する表面層を有する部材であり、基材上に設けられ被接触部材と接触する表面層を有する部材であることが好ましい。また、加熱部材は、表面層を介して被接触部材に熱を付与する加熱手段を有することが好ましい。
【0013】
<表面層>
表面層は、被接触部材に対して接触する層であり、複数の凹部を表面に有する支持層と、凹部に付着しているフッ素樹脂と、を有し、必要に応じてその他構成を有していてもよい。
【0014】
-支持層-
支持層は、構成材料として硫酸アルマイトを含有する層(言い換えると、硫酸アルマイト皮膜)であり、必要に応じてその他の構成材料を含有してもよい。ここで、硫酸アルマイトを含有するとは、硫酸アルマイト処理に由来する材料を含有することを表し、硫酸アルマイト処理とは、硫酸水溶液中でアルミニウムを陽極酸化する処理である。すなわち、硫酸アルマイト処理に由来する材料を含有する層は、酸化アルミニウムを含有し、且つ硫黄成分が検出される層である。ここで、硫黄成分が検出されるとは、例えば、支持層の断面に対して硫黄成分のマッピングを実施したときに、硫黄成分が存在することを示すデータが得られることを表す。硫黄成分をマッピングする方法としては、具体的には、支持層の断面に対してEDS元素分析(Phenom ProX、PhenomWorld社製)を実行する方法が挙げられる。
なお、硫酸アルマイトを含有する層(言い換えると、酸化アルミニウムを含有し、且つ硫黄成分が検出される層)であることを確かめる方法としては、例えば、支持層の断面に対して硫黄成分、アルミニウム成分、及び酸素成分のマッピングをそれぞれ実施したときに、同一の領域において、硫黄成分、アルミニウム成分、及び酸素成分が存在することを示すデータを得る方法が挙げられる。具体的には、支持層の断面に対してEDS元素分析(Phenom ProX、PhenomWorld社製)を実行することで硫黄成分、アルミニウム成分、及び酸素成分をそれぞれマッピングする方法が挙げられる。
【0015】
支持層は、上記の通り、硫酸アルマイトを含有する層であることで、表面に複数の凹部を設けることができる。凹部は、硫酸アルマイト処理に由来する構造であって、凹部を形成するための処理を別途設けていないことが製造上好ましい。ここで、凹部について
図1を用いて説明する。
図1は、凹部を有する支持層における断面の一例を示す写真である。
図1に示すように、凹部とは、支持層の表面に形成された窪んだ構造を表す。また、
図1に示すように、凹部にはフッ素樹脂Fが付着している。
【0016】
ここで、凹部にフッ素樹脂が付着していることが好ましい理由について説明する。
本実施形態のように、搬送されている被接触部材に対して接触することで当該被接触部材を加熱する加熱部材では、搬送中の被接触部材の加熱部材表面に対する接触位置が経時的に変化する搬送不良の課題がある。この搬送不良について
図2を用いて説明する。
図2は、ローラ形状の加熱部材を用いて被接触部材を加熱する場合の一例を示す模式図である。
図2は、搬送されている被接触部材11に対し、接触することで被接触部材11を加熱する加熱部材10を表している。また、被接触部材11の搬送を開始した直後の状態である
図2(A)と、搬送を開始してから一定時間経過後の状態である
図2(B)と、では、搬送中の被接触部材11の加熱部材10表面に対する接触位置が異なる(言い換えると、加熱部材10の回転軸方向に接触位置が変化する)ことが表されており、本願では、この経時的に生じる接触位置の変化を搬送不良の課題と称している。搬送不良の課題が生じると、例えば、搬送中の被接触部材11が加熱部材10から脱落すること、被接触部材11に対して液体組成物を付与する場合において付与位置が経時的に変化すること等の派生課題が生じる。
搬送不良の課題に対しては、加熱部材の表面をフッ素樹脂で構成し、搬送中の被接触部材の加熱部材表面に対する接触位置を経時的に変化させる力(言い換えると、スキュー力)を低減させる方法が効果的である。しかし、加熱部材は、ハロゲンランプヒータなどの加熱手段を内蔵するなどして有するため、使用時において表面の温度が100℃以上となり、表面を構成しているフッ素樹脂が軟化し、被接触部材の搬送に伴い、経時的に加熱部材の表面に筋状の傷が発生し、上記搬送不良の課題が顕在化していた。
一方で、本願のように凹部にフッ素樹脂を付着させた加熱部材を用いた場合、使用時において加熱部材の表面の温度が100℃以上となったとしても、被接触部材の搬送に伴い、経時的に加熱部材の表面に筋状の傷が発生することが抑制され、加熱部材の表面の機能として高い剛性と滑り性とを両立させることができ、結果として、長期間スキュー力を低減させることができる。
【0017】
なお、凹部にフッ素樹脂が付着している限り、支持層の表面における凹部以外の領域(以下、非凹部とも称する)におけるフッ素樹脂の付着有無は問わない。すなわち、非凹部に、フッ素樹脂が付着していてもよいし、付着していなくてもよい。但し、凹部の単位面積におけるフッ素樹脂が存在する面積は、非凹部の単位面積におけるフッ素樹脂が存在する面積より大きいことが好ましい。ここで、フッ素樹脂が存在する面積は、表面層を平面視した画像中におけるフッ素樹脂が存在する面積を表す。また、フッ素樹脂が存在する面積は、例えば、次のようにして求めることができる。まず、加熱部材の表面層において、フッ素成分のマッピングを実施する。フッ素成分をマッピングする方法としては、具体的には、EDS元素分析(Phenom ProX、PhenomWorld社製)を実行する方法が挙げられる。次に、ProSuiteソフトウェアを用い、得られたデータから、凹部の単位面積におけるフッ素樹脂が存在する面積および非凹部の単位面積におけるフッ素樹脂が存在する面積を算出する。同様にして、それぞれ任意の5箇所において、凹部の単位面積におけるフッ素樹脂が存在する面積および非凹部の単位面積におけるフッ素樹脂が存在する面積を算出し、それぞれの平均値を採用する。なお、フッ素成分が存在する領域とは、フッ素原子濃度が1%以上である領域を表す。
【0018】
凹部の深さは、0.2μm以上2.0μm以下であることが好ましく、0.4μm以上1.9μm以下であることがより好ましく、1.1μm以上1.6μm以下であることが更に好ましい。凹部の深さが上記範囲であることで、より長期間スキュー力を低減させることができる。なお、本願において、凹部の深さは、
図1中において矢印で示すように、凹部の端点同士を結ぶ直線から支持層の表面まで引いた垂線のうち、最も長い垂線の長さを表す。
【0019】
凹部は、当該凹部を写真撮影するなどして平面視した場合に、フッ素樹脂が付着している領域である付着領域と、フッ素樹脂が付着していない領域である非付着領域(典型的には、支持層が露出している領域)と、をそれぞれ複数有し、非付着領域の少なくとも1つにおける面積は0.01μm2以上0.03μm2以下であることが好ましく、複数の非付着領域における面積は0.01μm2以上0.03μm2以下であることがより好ましい。凹部において、面積が0.01μm2以上0.03μm2以下である非付着領域を少なくとも1つ有することで、被接触部材とフッ素樹脂とが真空密着する面積を低減することができ、スキュー力をより低減させることができる。
【0020】
非付着領域の面積は、例えば、次のようにして求めることができる。まず、凹部においてアルミニウム成分のマッピングを実施する。アルミニウム成分をマッピングする方法としては、具体的には、EDS元素分析(Phenom ProX、PhenomWorld社製)を実行する方法が挙げられる。次に、ProSuiteソフトウェアを用い、得られたデータから各非付着領域の面積を算出する。なお、算出時の測定面積は、例えば、10μm×8μmとする。
【0021】
非付着領域の少なくとも1つにおける面積を0.01μm2以上0.03μm2以下にする方法としては、特に限定されないが、例えば、フッ素樹脂粒子を含有する分散液に対し、支持層が形成された部材を浸漬させて支持層にフッ素樹脂を付着させ、その後、部材表面を吸水性が低く柔軟な不織布によって磨くことで製造することができる。上記不織布としては、部材表面に繊維の残りを生じさせないものであることが好ましく、例えば、フッ素樹脂繊維シートなどが挙げられる。なお、非付着領域の上記面積は比較的小さな面積を表す。これは、凹部に付着しているフッ素樹脂が、製造時の形態であるフッ素樹脂粒子の形態を部分的に維持していることで、複数のフッ素樹脂粒子間の隙間領域が形成され、当該隙間領域の面積が上記面積に相当するためである。従って、例えば、フッ素樹脂粒子を、上記のような浸漬の代わりに、フッ素樹脂粒子を含有する分散液の吹付けにより付着させた場合、上記面積を満たす非付着領域は形成されない。これは、浸漬と比べ、吹付け時にフッ素樹脂粒子の分散性が低下するためと推察される。また、支持層に付着したフッ素樹脂粒子同士を一体化させることで均一な層状のフッ素樹脂を形成する後処理が行われた場合も、上記面積を満たす非付着領域は形成されない。
【0022】
支持層の厚さは、25.0μm以上35.0μm以下であることが好ましい。支持層の厚さが25.0μm以上35.0μm以下であることで、加熱部材の剛性と凹部形状の形成とを両立させることができ、より長期間スキュー力を低減させることができる。支持層の厚さは、例えば、次のようにして求めることができる。まず、加熱部材の断面において硫黄成分、アルミニウム成分、及び酸素成分のマッピングをそれぞれ実施する。硫黄成分、アルミニウム成分、及び酸素成分をマッピングする方法としては、具体的には、EDS元素分析(Phenom ProX、PhenomWorld社製)を実行する方法が挙げられる。次に、硫黄成分、アルミニウム成分、及び酸素成分の全てが検出された領域を支持層と判断し、支持層の表面から基材の方向に引いた垂線の支持層中における長さを求める。同様にして、任意の10箇所において支持層中における垂線の長さを求め、これらの平均値を支持層の厚さとする。
【0023】
支持層は、上記の通り、硫酸アルマイトを含有する層であることで、硫酸アルマイト処理以外の処理により製造された酸化アルミニウムを含有する層と比較して硬度を向上させることができるため好ましい。これにより、本支持層を有する加熱部材の硬度を向上させることができる。具体的には、加熱部材のビッカース硬さが、400Hv以上500Hv以下となることが好ましい。加熱部材のビッカース硬さが400Hv以上500Hv以下であることで、加熱部材表面の凹凸形状の摩耗が抑制され、当該凹凸形状により、加熱部材と被接触部材とが接触したときに凹部に付着しているフッ素樹脂が脱離することが抑制されるスペーサー効果が得られ、結果として、より長期間スキュー力を低減させることができる。なお、ビッカース硬さの測定方法は、JISZ2244の試験方法に則って行うことができる。
【0024】
-フッ素樹脂-
フッ素樹脂は、加熱部材と被接触部材との間の潤滑性を向上させることができる。また、フッ素樹脂は、上記の通り、支持層の凹部に付着しているため、結果として、長期間スキュー力を低減させることができる。
【0025】
フッ素樹脂としては、例えば、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA、融点300~310℃)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、融点330℃)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP、融点250~280℃)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE、融点260~270℃)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF、融点160~180℃)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE、融点210℃)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(EPE、融点290~300℃)等、及び、これらのポリマーを含む混合物等を挙げることができ、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が好ましい。
【0026】
フッ素樹脂が存在する面積の割合は、表面層の面積に対して15.0%以上30.0%以下であることが好ましい。フッ素樹脂が存在する面積の割合が15.0%以上であることで、スキュー力をより低減させることができる。また、フッ素樹脂が存在する面積の割合が30.0%以下であることで、加熱部材の長期的な使用によりフッ素樹脂が潰れてタック性が生じ、スキュー力が上昇することを抑制することができる。なお、フッ素樹脂が存在する面積の割合は、例えば、次のようにして求めることができる。まず、加熱部材の表面層において、フッ素成分のマッピングを実施する。フッ素成分をマッピングする方法としては、具体的には、EDS元素分析(Phenom ProX、PhenomWorld社製)を実行する方法が挙げられる。次に、ProSuiteソフトウェアを用い、得られたデータからフッ素成分が存在する領域の面積の割合を算出する。同様にして、任意の5箇所においてフッ素成分が存在する領域の面積の割合を算出し、これらの平均値をフッ素樹脂が存在する面積の割合とする。なお、フッ素成分が存在する領域とは、フッ素原子濃度が1%以上である領域を表す。また、算出時の測定面積は、例えば、100μm×100μmとする。
【0027】
<基材>
基材は、表面層の被接触部材と接触しない側に位置する。また、加熱部材の製造時において、基材が硫酸アルマイト処理されることにより、上記支持層が形成されることが好ましい。そのため、基材を構成する材料は、アルミニウムを含有することが好ましい。また、基材を構成する材料は、アルミニウムに加え、マグネシウムを含有することがより好ましい。アルミニウムを硫酸アルマイト処理すると酸化アルミニウムが柱状に成長するが、マグネシウムを含有させておくことで酸化アルミニウムの成長方向を乱すことができ、酸化アルミニウム内に応力が生じ、形成される支持層の表面をより凹凸に富んだ形状とすることができるためである。更に、基材を構成する材料は、アルミニウムに加え、シリコンを含有することがより好ましい。シリコンを含有させておくことで、マグネシウム同様に、酸化アルミニウムの成長方向を乱すことができ、酸化アルミニウム内に応力が生じ、形成される支持層の表面をより凹凸に富んだ形状とすることができるためである。上記の通り、形成される支持層の表面をより凹凸に富んだ形状とすることで、当該凹凸形状により、加熱部材と被接触部材とが接触したときに凹部に付着しているフッ素樹脂が脱離することが抑制されるスペーサー効果が得られ、結果として、より長期間スキュー力を低減させることができる。
【0028】
基材の形状は、特に限定されないが、例えば、長尺な金属製の棒状体であることが好ましく、その断面が円形である円柱体又は円筒体などのローラ形状であることがより好ましい。基材がこれら形状であることにより、加熱部材を、被接触部材を搬送させつつ加熱する加熱ローラとして用いることができる。ローラ形状の基材を用いる場合、加熱部材の断面の円の直径は、50mm以上600mm以下であることが好ましい。直径が50mm以上であることにより加熱部材と被接触部材との間に生じる単位面積あたりの圧力が低下し、加熱部材に生じるスキュー力が軽減される。一方で、直径が600mm以下であることにより加熱部材と被接触部材との間で生じる過度な密着が軽減され、これにより加熱部材に生じるスキュー力が軽減される。
【0029】
<加熱手段>
加熱手段は、表面層を介して被接触部材に熱を付与する手段である。このような加熱手段としては、例えば、加熱手段の所定の位置から表面層までの間の最短長さと、当該加熱手段の所定の位置から被接触部材までの間の最短長さと、を比較した場合に、加熱手段の所定の位置から表面層までの間の最短長さの方が短いものを挙げられる。従って、例えば、加熱部材がローラ形状である場合、加熱手段は、ローラ形状の基材の内部に設けられ、基材及び表面層を介して被接触部材に熱を付与する。このように、加熱手段が表面層を介して被接触部材に熱を付与する構成であることで、表面層は高温な状態になる。しかし、本願のように凹部にフッ素樹脂を付着させた加熱部材を用いた場合、使用時において加熱部材の表面の温度が高温になったとしても、被接触部材の搬送に伴い、経時的に加熱部材の表面に筋状の傷が発生することが抑制され、加熱部材の表面の機能として高い剛性と滑り性とを両立させることができ、結果として、長期間スキュー力を低減させることができる。なお、加熱部材において加熱手段が設けられる形態は、特に限定されないが、表面層及び基材等の加熱部材を構成する他の部材と一体として設けられていることが好ましい。
【0030】
加熱手段により加熱される表面層の温度は、100℃以上であることが好ましく、110℃以上であることがより好ましく、120℃以上であることが更に好ましく、130℃以上であることがより更に好ましく、140℃以上であることが特に好ましい。表面層の温度が100℃以上であることで、被接触部材に熱を付与するために要する時間を短縮することができる。また、加熱手段により加熱される表面層の温度は、200℃以下であることが好ましい。
【0031】
加熱手段の具体例としては、特に限定されず、各種公知の手段を用いることができ、例えば、ヒータ及び温風を発生させる手段等を用いることができる。
【0032】
<<乾燥装置、印刷装置>>
本実施形態の乾燥装置は、液体組成物が付与された被接触部材を加熱することで乾燥させる装置であって、上記加熱部材などを有する。
また、本実施形態の印刷装置は、被接触部材に液体組成物を付与する液体組成物付与手段及び上記加熱部材などを有する。
乾燥装置、及び印刷装置について
図3を用いて説明する。
図3は、連続紙を用いる印刷装置の一例を示す模式図である。
図3に示す印刷装置100は、被接触部材供給手段1、液体組成物付与手段2、液体組成物加熱手段3、加熱手段5を有する加熱部材4、及び被接触部材回収手段6を有する。また、印刷装置100は、乾燥装置50を有するが、乾燥装置50は印刷装置100と一体の装置でも、別の独立した装置でもよい。
【0033】
<被接触部材供給手段>
被接触部材供給手段1は、回転駆動することにより、ロール状に巻かれて収納された被接触部材7を印刷装置100内の搬送経路8に供給する。搬送経路8における被接触部材7の搬送方向を矢印Dで示す。
被接触部材供給手段1は回転駆動を調整することによって、被接触部材7を、50m/分以上の高速で搬送する。
【0034】
被接触部材7は、印刷装置100の搬送方向Dに連続するシート状の被搬送物であり、具体的には連続紙などの記録媒体である。連続紙としては、例えば、ロール状に丸められたロール紙、所定の間隔ごとに折り曲げられた連帳紙等が挙げられる。被接触部材7は、被接触部材供給手段1と被接触部材回収手段6の間の搬送経路8に沿って搬送される。また、被接触部材7の搬送方向Dにおける長さは、少なくとも被接触部材供給手段1と被接触部材回収手段6との間に設けられた被接触部材7の搬送経路8の長さより長い。本実施形態の印刷装置100は、このように印刷装置100の搬送方向Dに連続する被接触部材7を用い、且つ高速で被接触部材7を搬送するため、被接触部材7には被接触部材供給手段1と被接触部材回収手段6の間において大きな張力が付加されている。
【0035】
<液体組成物付与手段>
液体組成物付与手段2は、複数のノズルが配列された複数のノズル列を有するインクジェット吐出ヘッドであり、ノズルからのインクの吐出方向が、被接触部材7の搬送経路8を向くように設けられている。これにより、液体組成物付与手段2は、被接触部材7に対し、マゼンタ(M)、シアン(C)、イエロー(Y)、及びブラック(K)の各色のインクを液体組成物として順次吐出する。なお、吐出されるインクの色はこれらに限らず、ホワイト、グレー、シルバー、ゴールド、グリーン、ブルー、オレンジ、バイオレットなどの色であってもよい。
なお、本実施形態では、一例として、液体組成物がインクである場合を説明したが、これら以外の液体組成物であってもよい。例えば、インク、インクに含まれる色材を凝集させるために付与される前処理液、付与されたインクの表面を保護するために付与される後処理液、及び金属などの無機粒子を分散させた電気回路などを形成するための液体などが挙げられ、これらを適宜混合または重ねた液体などであってもよい。
また、本実施形態では、一例として、液体組成物がインクジェット吐出ヘッドで被接触部材7に付与される場合について説明したが、他の手段で付与されてもよい。例えば、スピンコート、スプレーコート、グラビアロールコート、リバースロールコート、バーコート等の各種公知の手段を用いることができる。
【0036】
<液体組成物加熱手段>
液体組成物加熱手段3は、被接触部材7の液体組成物が付与された領域を有する面の背面側から被接触部材7に付与された液体組成物を加熱して乾燥させる。なお、液体組成物を加熱する手段は、特に限定されないが、例えば、温風を吹き付ける手段、被接触部材7の背面をフラットヒータ等に接触させて乾燥させる手段等の各種公知の手段を用いることができる。
【0037】
<加熱部材>
加熱部材4は、加熱手段5を内蔵することで有し、加熱手段5が加熱部材4の表面層を介して被接触部材7に熱を付与することで、液体組成物が付与された被接触部材7を乾燥させる。また、加熱部材4は、被接触部材7を搬送しつつ、被接触部材7の搬送方向Dを変える。なお、加熱部材4は、円柱状又は円筒状のローラである。
【0038】
本実施形態の印刷装置100は、上記の通り、被接触部材供給手段1が、被接触部材7を50m/分以上で搬送する。このように高速で搬送する場合、
図3に示すように、被接触部材7の搬送方向を加熱部材4により変えるとき、加熱部材4と被接触部材7との間には大きな圧力が付加されることになる。これにより、搬送中の被接触部材7の加熱部材4表面に対する接触位置が経時的に変化する搬送不良の課題が生じやすくなる。そのため、スキュー力を低減させることができる本実施形態の加熱部材を用いることが好ましい。
【0039】
本実施形態の印刷装置100は、上記の通り、印刷装置100の搬送方向Dに連続する被接触部材7を搬送するため、被接触部材7には被接触部材供給手段1と被接触部材回収手段6の間において大きな張力が付加されている。このような場合に、
図3に示すように、大きな張力が付加された被接触部材7の搬送方向を加熱部材4により変える場合、加熱部材4と被接触部材7との間には大きな圧力が付加されることになる。これにより、搬送中の被接触部材7の加熱部材4表面に対する接触位置が加熱部材4の軸方向に経時的に変化する搬送不良の課題が生じやすくなる。そのため、スキュー力を低減させることができる本実施形態の加熱部材を用いることが好ましい。
【0040】
また、加熱部材4が加熱ローラである場合、
図3に示すように、被接触部材7が加熱ローラに巻き付くことで、液体組成物が付与された被接触部材7が加熱され、かつ被接触部材7の搬送方向が変更される。このとき、被接触部材7の加熱ローラに対する巻率は、10%以上であることが好ましく、15%以上であることがより好ましく、20%以上であることが更に好ましい。10%以上であることで、加熱ローラと被接触部材7との間に生じる単位面積あたりの圧力が低下し、スキュー力を低減させることができる。また、被接触部材7の加熱ローラに対する巻率は、90%以下であることが好ましく、70%以下であることがより好ましく、50%以下であることが更に好ましい。50%以下であることで、被接触部材7の搬送を好適に行うことができる。
【0041】
なお、本実施形態における「巻率」について
図4を用いて説明する。
図4は、被接触部材が加熱部材に接していることを示す模式図である。
図4に示すように、ローラ形状の加熱部材4に対し、被接触部材7が巻き付くことで接している場合において、「巻率」は、被接触部材が加熱部材から分離する一方の端部を9a、他方の端部を9bとしたとき、被接触部材7及び加熱部材4が接している側における9aと9bの間の加熱部材4の周長Xが、加熱部材4の全周長に対して占める割合を示す。
【0042】
<被接触部材回収手段>
被接触部材回収手段6は、回転駆動することにより、液体組成物を付与することで画像が形成された被接触部材7を巻き取ってロール状に収納する。
【0043】
<<印刷方法>>
本実施形態の印刷方法は、被接触部材に対して液体組成物を付与する液体組成物付与工程と、上記加熱部材を接触させて液体組成物が付与された被接触部材を加熱することで乾燥させる乾燥工程と、を有する。
【0044】
<液体組成物付与工程>
液体組成物付与工程は、被接触部材供給手段1から供給された被接触部材7に、インクなどの液体組成物を付与する工程である。これにより、被接触部材7上に液体組成物が付与された領域が形成される。
【0045】
<乾燥工程>
乾燥工程は、液体組成物付与工程の後、上記加熱部材を被接触部材に接触させ、付与された液体組成物を加熱することで乾燥させる工程である。乾燥は、被接触部材7にベタつきが感じられない程度に行うことが好ましい。
【0046】
<<液体組成物>>
本実施形態における液体組成物は、特に限定されないが、インク、インクに含まれる色材を凝集させるために付与される前処理液、付与されたインクの表面を保護するために付与される後処理液、及び金属などの無機粒子を分散させた電気回路などを形成するための液体などが挙げられる。これらは、適宜公知の組成で用いることができる。以降、一例として、液体組成物としてインクを用いた場合について説明する。
【0047】
<インク>
以下、インクに用いる有機溶剤、水、色材、樹脂、ワックス、添加剤等について説明する。
【0048】
-有機溶剤-
有機溶剤としては特に制限されず、水溶性有機溶剤を用いることができる。例えば、多価アルコール類、多価アルコールアルキルエーテル類や多価アルコールアリールエーテル類などのエーテル類、含窒素複素環化合物、アミド類、アミン類、含硫黄化合物類が挙げられる。
多価アルコール類の具体例としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,3-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、グリセリン、1,2,6-ヘキサントリオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、エチル-1,2,4-ブタントリオール、1,2,3-ブタントリオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、ペトリオール等が挙げられる。
多価アルコールアルキルエーテル類としては、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等が挙げられる。
多価アルコールアリールエーテル類としては、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル等が挙げられる。
含窒素複素環化合物としては、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-ヒドロキシエチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ε-カプロラクタム、γ-ブチロラクトン等が挙げられる。
アミド類としては、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド等が挙げられる。
アミン類としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエチルアミン等が挙げられる。
含硫黄化合物類としては、ジメチルスルホキシド、スルホラン、チオジエタノール等が挙げられる。
その他の有機溶剤としては、プロピレンカーボネート、炭酸エチレン等が挙げられる。
湿潤剤として機能するだけでなく、良好な乾燥性を得られることから、沸点が250℃以下の有機溶剤を用いることが好ましい。
【0049】
有機溶剤として、炭素数8以上のポリオール化合物、及びグリコールエーテル化合物も好適に使用される。炭素数8以上のポリオール化合物の具体例としては、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールなどが挙げられる。
グリコールエーテル化合物の具体例としては、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールアルキルエーテル類;エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル等の多価アルコールアリールエーテル類などが挙げられる。
【0050】
特に、インク組成物として樹脂を用いる場合には、N,N-ジメチル-β-ブトキシプロピオンアミド、N,N-ジメチル-β-エトキシプロピオンアミド、3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン、プロピレングリコールモノメチルエーテルが好ましい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、これらの中でも、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミドなどのアミド溶剤が特に好ましく、樹脂の造膜性が促進され、高い耐摺過性を発現することができる。
【0051】
有機溶剤の沸点としては、180℃以上250℃以下が好ましい。沸点が180℃以上であると、乾燥時の蒸発速度を適切に調節でき、レベリングが十分に行われ、表面凹凸が小さくなり、光沢性を向上できる。逆に、250℃より大きいと乾燥性が低く、長時間の乾燥が必要になることがある。近年の印刷技術の高速化に伴って、インクの乾燥にかかる時間が律速になっており、乾燥時間を短縮する必要があるため、長時間の乾燥は好ましくない。
【0052】
有機溶剤のインク中における含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、インクの乾燥性及び吐出信頼性の点から、10質量%以上60質量%以下が好ましく、20質量%以上60質量%以下がより好ましい。
【0053】
また、上記のアミド溶剤のインク中における含有量としては、0.05質量%以上10質量%以下が好ましく、0.1質量%以上5質量%以下がより好ましい。
【0054】
-水-
インクにおける水の含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、インクの乾燥性及び吐出信頼性の点から、10質量%以上90質量%以下が好ましく、20質量%以上60質量%以下がより好ましい。
【0055】
-色材-
色材としては特に限定されず、顔料、染料を使用可能である。
顔料としては、無機顔料又は有機顔料を使用することができる。これらは、1種単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。また、顔料として、混晶を使用しても良い。
顔料としては、例えば、ブラック顔料、イエロー顔料、マゼンダ顔料、シアン顔料、白色顔料、緑色顔料、橙色顔料、金色や銀色などの光沢色顔料やメタリック顔料などを用いることができる。
無機顔料として、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエローに加え、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法などの公知の方法によって製造されたカーボンブラックを使用することができる。
また、有機顔料としては、アゾ顔料、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料など)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラックなどを使用できる。これらの顔料のうち、溶媒と親和性の良いものが好ましく用いられる。その他、樹脂中空粒子、無機中空粒子の使用も可能である。
顔料の具体例として、黒色用としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、または銅、鉄(C.I.ピグメントブラック11)、酸化チタン等の金属類、アニリンブラック(C.I.ピグメントブラック1)等の有機顔料があげられる。
さらに、カラー用としては、C.I.ピグメントイエロー1、3、12、13、14、17、24、34、35、37、42(黄色酸化鉄)、53、55、74、81、83、95、97、98、100、101、104、108、109、110、117、120、138、150、153、155、180、185、213、C.I.ピグメントオレンジ5、13、16、17、36、43、51、C.I.ピグメントレッド1、2、3、5、17、22、23、31、38、48:2、48:2(パーマネントレッド2B(Ca))、48:3、48:4、49:1、52:2、53:1、57:1(ブリリアントカーミン6B)、60:1、63:1、63:2、64:1、81、83、88、101(べんがら)、104、105、106、108(カドミウムレッド)、112、114、122(キナクリドンマゼンタ)、123、146、149、166、168、170、172、177、178、179、184、185、190、193、202、207、208、209、213、219、224、254、264、C.I.ピグメントバイオレット1(ローダミンレーキ)、3、5:1、16、19、23、38、C.I.ピグメントブルー1、2、15(フタロシアニンブルー)、15:1、15:2、15:3、15:4(フタロシアニンブルー)、16、17:1、56、60、63、C.I.ピグメントグリーン1、4、7、8、10、17、18、36、等がある。
染料としては、特に限定されることなく、酸性染料、直接染料、反応性染料、及び塩基性染料が使用可能であり、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
染料として、例えば、C.I.アシッドイエロー17,23,42,44,79,142、C.I.アシッドレッド52,80,82,249,254,289、C.I.アシッドブルー9,45,249、C.I.アシッドブラック1,2,24,94、C.I.フードブラック1,2、C.I.ダイレクトイエロー1,12,24,33,50,55,58,86,132,142,144,173、C.I.ダイレクトレッド1,4,9,80,81,225,227、C.I.ダイレクトブルー1,2,15,71,86,87,98,165,199,202、C.I.ダイレクドブラック19,38,51,71,154,168,171,195、C.I.リアクティブレッド14,32,55,79,249、C.I.リアクティブブラック3,4,35が挙げられる。
【0056】
インク中の色材の含有量は、画像濃度の向上、良好な定着性や吐出安定性の点から、0.1質量%以上15質量%以下が好ましく、より好ましくは1質量%以上10質量%以下である。
【0057】
顔料を分散してインクを得る方法としては、顔料に親水性官能基を導入して自己分散性顔料とする方法、顔料の表面を樹脂で被覆して分散させる方法、分散剤を用いて分散させる方法、などが挙げられる。
顔料に親水性官能基を導入して自己分散性顔料とする方法としては、例えば、顔料(例えばカーボン)にスルホン基やカルボキシル基等の官能基を付加することで、水中に分散可能とする方法が挙げられる。
顔料の表面を樹脂で被覆して分散させる方法としては、顔料をマイクロカプセルに包含させ、水中に分散可能とする方法が挙げられる。これは、樹脂被覆顔料と言い換えることができる。この場合、インクに配合される顔料はすべて樹脂に被覆されている必要はなく、被覆されない顔料や、部分的に被覆された顔料がインク中に分散していてもよい。
分散剤を用いて分散させる方法としては、界面活性剤に代表される、公知の低分子型の分散剤、高分子型の分散剤を用いて分散する方法が挙げられる。
分散剤としては、顔料に応じて例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン界面活性剤等を使用することが可能である。
分散剤として、竹本油脂社製RT-100(ノニオン系界面活性剤)や、ナフタレンスルホン酸Naホルマリン縮合物も、分散剤として好適に使用できる。
分散剤は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0058】
-顔料分散体-
顔料に、水や有機溶剤などの材料を混合してインクを得ることが可能である。また、顔料と、その他水や分散剤などを混合して顔料分散体としたものに、水や有機溶剤などの材料を混合してインクを製造することも可能である。
顔料分散体は、水、顔料、顔料分散剤、必要に応じてその他の成分を混合、分散し、粒径を調整して得られる。分散は分散機を用いると良い。
顔料分散体における顔料の粒径については特に制限はないが、顔料の分散安定性が良好となり、吐出安定性、画像濃度などの画像品質も高くなる点から、最大個数換算で最大頻度が20nm以上500nm以下が好ましく、20nm以上150nm以下がより好ましい。顔料の粒径は、粒度分析装置(ナノトラック Wave-UT151、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定することができる。
顔料分散体における顔料の含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、良好な吐出安定性が得られ、また、画像濃度を高める点から、0.1質量%以上50質量%以下が好ましく、0.1質量%以上30質量%以下がより好ましい。
顔料分散体に対し、必要に応じて、フィルター、遠心分離装置などで粗大粒子をろ過し、脱気することが好ましい。
【0059】
-樹脂-
インク中に含有する樹脂の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン-ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリルスチレン系樹脂、アクリルシリコーン系樹脂などが挙げられる。
これらの樹脂からなる樹脂粒子を用いても良い。樹脂粒子を、水を分散媒として分散した樹脂エマルションの状態で、色材や有機溶剤などの材料と混合してインクを得ることが可能である。樹脂粒子としては、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。また、これらは、1種を単独で用いても、2種類以上の樹脂粒子を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
これらの中でも、ウレタン樹脂粒子は、ウレタン樹脂粒子を用いたインクを付与して形成した画像のタック力が大きく、耐ブロッキング性を悪化させてしまうため、他の樹脂粒子と混合して使用することが好ましいが、ウレタン樹脂粒子のタック力の強さは画像を強固に形成させ、定着性を向上させることができる。また、ガラス転移温度(Tg)が-20℃以上70℃以下のウレタン樹脂粒子は、ウレタン樹脂粒子を用いたインクを付与して形成した画像のタック力がより大きく、定着性をより向上させることができる。
また、上記の樹脂の中でも、アクリル樹脂を用いたアクリル樹脂粒子は吐出安定性に優れ、またコスト面でも低価格であるため、広く使用されている。しかし、耐摺擦性が劣ることから、弾性を持つウレタン樹脂粒子と混合して使用することが好ましい。
【0061】
樹脂粒子の体積平均粒径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、良好な定着性、高い画像硬度を得る点から、10nm以上1,000nm以下が好ましく、10nm以上200nm以下がより好ましく、10nm以上100nm以下が特に好ましい。
体積平均粒径は、例えば、粒度分析装置(ナノトラック Wave-UT151、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定することができる。
【0062】
樹脂の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、定着性、インクの保存安定性の点から、インク全量に対して、1質量%以上30質量%以下が好ましく、5質量%以上20質量%以下がより好ましい。
【0063】
インク中の固形分の粒径については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。吐出安定性、画像濃度などの画像品質を高くする点から、インク中の固形分の粒径の最大頻度が最大個数換算で20nm以上1000nm以下が好ましく、20nm以上150nm以下がより好ましい。固形分は樹脂粒子や顔料の粒子等が含まれる。粒径は、粒度分析装置(ナノトラック Wave-UT151、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定することができる。
【0064】
-ワックス-
インク中にワックスを含有することで、耐摺擦性を向上させることができ、樹脂と併用することにより光沢度の向上させることができる。ワックスとしては、ポリエチレンワックスが好ましい。ポリエチレンワックスとしては、市販品を用いることができ、市販品としては、例えば、AQUACER531(ビックケミージャパン社製)、ポリロンP502(中京油脂社製)、アクアペトロDP2502C(東洋アドレ株式会社製)、アクアペトロDP2401(東洋アドレ株式会社製)などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ポリエチレンワックスの含有量としては、インク全量に対して、0.05質量%以上2質量%以下が好ましく、0.05質量%以上0.5質量%以下がより好ましい。含有量が、0.05質量%以上2質量%以下であると、耐摺擦性と光沢性の向上に十分な効果がある。また、含有量が、0.45質量%以下であると、インクの保存安定性、及び吐出安定性が特に良好になり、インクジェット方式での使用により適する。
【0065】
-添加剤-
インクには、必要に応じて、界面活性剤、消泡剤、防腐防黴剤、防錆剤、pH調整剤等を加えても良い。
【0066】
<<被接触部材>>
被接触部材としては、特に制限なく用いることができ、普通紙、光沢紙、特殊紙、布などの記録媒体を用いることができるが、低浸透性記録媒体(低吸収性記録媒体とも称する)に対して特に好適に用いることができる。
低浸透性記録媒体とは、水透過性、吸収性、又は吸着性が低い表面を有する記録媒体を意味し、内部に多数の空洞があっても外部に開口していない材質も含まれる。低浸透性記録媒体としては、商業印刷に用いられるコート紙や、古紙パルプを中層、裏層に配合して表面にコーティングを施した板紙のような記録媒体等が挙げられる。
低浸透性記録媒体は、普通紙などの記録媒体と比較してグリップ力が強く、上記の搬送不良の課題が生じやすい。そのため、本願の加熱部材を用い、スキュー力を低減させることが好ましい。
【0067】
<低浸透性記録媒体>
低浸透性記録媒体としては、例えば、支持体と、支持体の少なくとも一方の面側に設けられた表面層と、を有し、更に必要に応じてその他の層を有するコート紙などの記録媒体が挙げられる。
【0068】
支持体と表面層を有する記録媒体においては、動的走査吸液計で測定した接触時間100msにおける純水の記録媒体への転移量は、2mL/m2以上35mL/m2以下が好ましく、2mL/m2以上10mL/m2以下がより好ましい。
【0069】
接触時間100msでのインク及び純水の転移量が少なすぎると、ビーディングが発生しやすくなることがあり、多すぎると、画像形成後のインクドット径が所望の径よりも小さくなりすぎることがある。
【0070】
動的走査吸液計にて測定した接触時間400msにおける純水の記録媒体への転移量は、3mL/m2以上40mL/m2以下が好ましく、3mL/m2以上10mL/m2以下がより好ましい。
【0071】
接触時間400msでの転移量が少ないと、乾燥性が不十分となり、多すぎると、乾燥後の画像部の光沢が低くなりやすくなることがある。接触時間100ms及び400msにおける純水の記録媒体への転移量は、いずれも記録媒体の表面層を有する側の面において測定することができる。
【0072】
ここで、動的走査吸収液計(dynamic scanning absorptometer;DSA,紙パ技協誌、第48巻、1994年5月、第88頁~92頁、空閑重則)は、極めて短時間における吸液量を正確に測定できる装置である。動的走査吸液計は、吸液の速度をキャピラリー中のメニスカスの移動から直読する、試料を円盤状とし、この上で吸液ヘッドをらせん状に走査する、予め設定したパターンに従って走査速度を自動的に変化させ、1枚の試料で必要な点の数だけ測定を行う、という方法によって測定を自動化したものである。
【0073】
紙試料への液体供給ヘッドはテフロン(登録商標)管を介してキャピラリーに接続され、キャピラリー中のメニスカスの位置は光学センサで自動的に読み取られる。具体的には、動的走査吸液計(K350シリーズD型、協和精工株式会社製)を用いて、純水又はインクの転移量を測定することができる。
【0074】
接触時間100ms及び接触時間400msにおける転移量としては、それぞれの接触時間の近隣の接触時間における転移量の測定値から補間により求めることができる。
【0075】
-支持体-
支持体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、木材繊維主体の紙、木材繊維及び合成繊維を主体とした不織布のようなシート状物質などが挙げられる。
支持体の厚みは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50μm~300μmが好ましい。 また、支持体の坪量は、45g/m2~290g/m2が好ましい。
【0076】
-表面層-
表面層は、顔料、バインダー(結着剤)を含有し、更に必要に応じて、界面活性剤、その他の成分を含有する。
顔料としては、無機顔料、もしくは無機顔料と有機顔料を併用したものを用いることができる。無機顔料としては、例えば、カオリン、タルク、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、非晶質シリカ、チタンホワイト、炭酸マグネシウム、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、クロライトなどが挙げられる。無機顔料の添加量は、バインダー100質量部に対し50質量部以上が好ましい。
有機顔料としては、例えば、スチレン-アクリル共重合体粒子、スチレン-ブタジエン共重合体粒子、ポリスチレン粒子、ポリエチレン粒子等の水溶性ディスパージョンがある。有機顔料の添加量は、表面層の全顔料100質量部に対し2質量部~20質量部が好ましい。
バインダーとしては、水性樹脂を使用することが好ましい。水性樹脂としては、水溶性樹脂及び水分散性樹脂の少なくともいずれかを好適に用いることができる。水溶性樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリビニルアルコール、カチオン変性ポリビニルアルコール、アセタール変性ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエステルとポリウレタンなどが挙げられる。
表面層に必要に応じて含有される界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、アニオン活性剤、カチオン活性剤、両性活性剤、非イオン活性剤のいずれも使用することができる。
表面層の形成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、支持体上に表面層を構成する液を含浸又は塗布する方法により行うことができる。表面層を構成する液の付着量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、固形分で、0.5g/m2~20g/m2が好ましく、1g/m2~15g/m2がより好ましい。
【実施例】
【0077】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0078】
<ブラック顔料分散体の調製例>
カーボンブラック(NIPEX160、degussa社製、BET比表面積150m2/g、平均一次粒径20nm、pH4.0、DBP吸油量620g/100g)20g、下記構造式(1)で表される化合物20ミリモル、及びイオン交換高純水200mLを、室温環境下、Silversonミキサー(6,000rpm)で混合した。
得られたスラリーのpHが4より高い場合は、硝酸20ミリモルを添加した。30分後に、少量のイオン交換高純水に溶解された亜硝酸ナトリウム(20ミリモル)を上記混合物にゆっくりと添加した。更に、撹拌しながら60℃に加温し、1時間反応した。カーボンブラックに下記構造式(1)で表される化合物を付加した改質顔料が生成できた。
次に、pHをNaOH水溶液により10に調整することにより、30分後に改質顔料分散体が得られた。少なくとも1つのジェミナルビスホスホン酸基又はジェミナルビスホスホン酸ナトリウム塩と結合した顔料を含んだ分散体とイオン交換高純水を用いて透析膜を用いた限外濾過を行い、更に超音波分散を行って顔料固形分濃度16質量%となる親水性官能基としてビスホスホン酸基を有する自己分散型ブラック顔料分散体を得た。
【0079】
【0080】
<液体組成物(インク)の調整例>
50.00質量%のブラック顔料分散体(顔料固形分濃度16%)、2.22質量%のポリエチレンワックスAQUACER531(不揮発分45質量%、ビックケミージャパン社製)、30.00質量%の3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン、10.0質量%のプロピレングリコールモノプロピルエーテル、2.00質量%のシリコーン系界面活性剤(TEGO Wet 270、巴工業株式会社製)、及びイオン交換水を残量となるように混合し、1時間攪拌した後、平均孔径が1.2μmのメンブレンフィルターでろ過して、液体組成物(インク)を得た。
【0081】
<加熱部材の製造例>
(実施例1)
直径が80mmであるアルミニウムの中空ローラ基材(ミスミ社製のA5052)の表面に、硫酸水溶液中でアルミニウムを陽極酸化する処理(硫酸アルマイト処理)を実施した。より具体的には中空ローラ基材端部に電極を取り付け、0℃に調整した15wt%の硫酸水溶液に沈め、金属棒を陽極にして1.0A/dm2の電流密度で0.5時間電解処理を実施し、硫酸アルマイト被膜(酸化アルミニウムを含有し且つ硫黄成分が検出される層)を析出させ、厚み14μmの支持層を形成した。純水で表面をよく洗浄し、PTFEディスパージョン(AGC社製Fluon)を固形分濃度10%以下まで希釈した分散液に浸漬させた後、風乾させる工程を1回実施した。風乾後の中空ローラを10rpmの速度で回転させながら、フッ素樹脂繊維(トミーファイレック 巴川製紙社)を押し当てて拭き取ることによって研磨する工程を1回実施した。このようにして得られた中空ローラをハロゲンランプと一体化させ、実施例1の加熱部材を得た。
【0082】
(実施例2~8)
実施例1において、基材の種類、電解処理の時間、樹脂の付着方法、樹脂の付着回数、及び中空ローラの研磨回数を下記表1に示す内容に変更した以外は、実施例1と同様にして実施例2~8における操作を実施して加熱部材を得た。なお、表1において電解処理に用いた電解液の種類を示す「硫酸」とは、硫酸水溶液のことを表す。また、表1において実施例5~8の樹脂の付着方法として記載されている「吹付け」とは、10rpmの速度で回転させている中空ローラに対し、PTFEディスパージョン(AGC社製Fluon)を固形分濃度10%以下まで希釈した分散液を、2流体ノズルによって吹き付けて塗膜を形成する方法を表す。
【0083】
(比較例1)
実施例1において、基材の種類、電解処理の時間、樹脂の付着方法、樹脂の付着回数、及び中空ローラの研磨回数を下記表2に示す内容に変更し、更に、電解処理に用いた電解液の種類を硫酸水溶液からシュウ酸水溶液に変更した以外は、実施例1と同様にして比較例1における操作を実施して加熱部材を得た。なお、表2において電解処理に用いた電解液の種類を示す「シュウ酸」とは、シュウ酸水溶液のことを表す。
【0084】
(比較例2)
比較例2は、直径が80mmであるアルミニウムの中空ローラ基材(ミスミ社製のA5052)に対して処理を行わずにハロゲンランプと一体化させて加熱部材を得た。
【0085】
(比較例3)
比較例3は、直径が80mmであるアルミニウムの中空ローラ基材(ミスミ社製のA5052)に対し、30μm厚のPFAチューブ(グンゼ社製)を被せ、200℃の加熱処理によってPFAチューブ(グンゼ社製)を収縮させたものをハロゲンランプと一体化させて加熱部材を得た。
【0086】
また、作製した実施例1~8、比較例1~3の加熱部材に関し、支持層から検出される成分、支持層における凹部の深さ、表面層の面積に対するフッ素樹脂が存在する面積の割合、面積が0.01μm2以上0.03μm2以下である非付着領域(凹部においてフッ素樹脂が付着していない領域)の有無、支持層の厚さ、加熱部材のビッカース硬さを下記表1~2に示す。
【0087】
なお、作製した実施例1~8の加熱部材の表面層において、凹部の単位面積におけるフッ素樹脂が存在する面積と非凹部の単位面積におけるフッ素樹脂が存在する面積とを比較した結果、凹部の単位面積におけるフッ素樹脂が存在する面積の方が大きかった。
【0088】
[被接触部材の加熱部材表面に対する接触位置の経時変化量]
インクジェットプリンティングシステム(RICOH Pro VC60000、株式会社リコー製)に作製した加熱部材を組み込んだ印刷装置を作製し、被接触部材である記録媒体に対し、調整した液体組成物(インク)を用いて画像を印刷した。このとき、被接触部材の加熱部材に対する巻率は、20%以上50%以下であった。また、記録媒体としては、Lumi Art Gloss 130gsm(Stora Enso社製、紙幅520.7mm、、低浸透性記録媒体)のロール紙を使用した。なお、本ロール紙の搬送方向における長さは、印刷装置の搬送経路の長さより長かった。
まず、ロール紙を印刷装置にセットし、50m/分の速度でロール紙長さ1km分搬送した後、印刷機の排紙口におけるロール紙の紙端位置を記録した。次に、ロール紙をロール紙長さ10km分搬送した後、印刷機の排紙口におけるロール紙の紙端位置の紙端位置を記録し、ロール紙長さ10km分搬送前後における紙端位置の変化量を求め、下記評価基準により評価した。なお、本評価は加熱部材の表面層における温度が150℃となるように、印刷装置内の吸排気量を調整して行った。表面層の温度は、加熱部材の端部に耐熱性の黒色テープを貼り付け、本テープの温度を放射温度計によって測定することにより求めた。
(評価基準)
A:変化量が0.5mm以下
B:変化量が0.5mm超1.0mm以下
C:変化量が1.0mm超1.5mm以下
D:変化量が1.5mm超
【0089】
【0090】
【符号の説明】
【0091】
1 被接触部材供給手段
2 液体組成物付与手段
3 液体組成物加熱手段
4 加熱部材
5 加熱手段
6 被接触部材回収手段
7 被接触部材
8 搬送経路
9a、9b 被接触部材が加熱部材から分離する端部
10 加熱部材
11 被接触部材
50 乾燥装置
100 印刷装置
【先行技術文献】
【特許文献】
【0092】
【文献】特開2012-76227号公報
【文献】特開2018-66552号公報