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特許7501143カソード吊り上げ器具およびカソードの補修方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】カソード吊り上げ器具およびカソードの補修方法
(51)【国際特許分類】
   C25C 7/02 20060101AFI20240611BHJP
【FI】
C25C7/02 302F
C25C7/02 303
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020107525
(22)【出願日】2020-06-23
(65)【公開番号】P2022003156
(43)【公開日】2022-01-11
【審査請求日】2023-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134979
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 博
(74)【代理人】
【識別番号】100167427
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】米山 智暁
(72)【発明者】
【氏名】吉田 裕武
(72)【発明者】
【氏名】山口 洋平
【審査官】黒木 花菜子
(56)【参考文献】
【文献】特許第4712008(JP,B2)
【文献】特許第6095597(JP,B2)
【文献】国際公開第2015/022846(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25C 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解槽に浸漬されたカソードのカソード板を吊り上げる器具であって、
カソードビーム上に配置される持ち上げ部と、
該持ち上げ部に連結される吊り上げ棒と、を備えており、
該吊り上げ棒は、
カソード板の下端を載せる支持部と、
前記持ち上げ部に連結される連結部と、
該連結部と前記支持部とを連結する連結軸と、を有しており、
前記持ち上げ部は、
前記連結部を前記持ち上げ部に連結した状態において該連結部を上方に移動させる持ち上げ装置を有している
ことを特徴とするカソード吊り上げ器具。
【請求項2】
前記持ち上げ装置が、
前記持ち上げ部をカソードビーム上に配置した状態で鉛直方向に伸縮するように配置されるジャッキである
ことを特徴とする請求項1記載のカソード吊り上げ器具。
【請求項3】
前記持ち上げ部は、
前記カソードビーム上に配置されるベース部を備えており、
該ベース部は、
その下面にカソードビームを挿入する溝を有する設置部を備えている
ことを特徴とする請求項1または2記載のカソード吊り上げ器具。
【請求項4】
前記支持部は、
前記連結軸の下端側面に立設された、カソード板の下端を載せるカソード受け部材を備えており、
前記連結軸の上部には、
その側面に立設された係合部材を備えており、
該係合部材は、
前記連結軸の軸方向から見ると、前記カソード受け部材に対して交差するように設けられている
ことを特徴とする請求項1、2または3記載のカソード吊り上げ器具。
【請求項5】
前記吊り上げ棒の連結部は、
前記持ち上げ部と連結される連結部材と、
該連結部材と前記連結軸とを連結するオフセット部材と、を備えており、
前記オフセット部材の軸方向は、
前記連結軸の軸方向と交差する方向、かつ、前記カソード受け部材の軸方向に対して所定の角度となるように設けられている
ことを特徴とする請求項4記載のカソード吊り上げ器具。
【請求項6】
前記オフセット部材は、
該オフセット部材の軸方向と前記カソード受け部材の軸方向とがなす角度が90度以下となるように設けられている
ことを特徴とする請求項5記載のカソード吊り上げ器具。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載のカソード吊り上げ器具によってカソード板を吊り上げた状態で、補修部材によってカソード板をカソードビームに吊り下げる
ことを特徴とするカソードの補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カソード吊り上げ器具およびカソードの補修方法に関する。さらに詳しくは、電解槽に浸漬されているカソードを吊り上げるカソード吊り上げ器具およびカソードの補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅の電解精製においては、電解液を満たした電解槽に複数枚の粗銅アノードと純銅カソード(以下単にカソードという場合がある)を交互に挿入し、アノードとカソードとの間に通電して、カソード上に銅を析出させる(特許文献1参照)。そして、カソード上に純銅が所定の厚さに電着すれば、カソードを電解槽から引上げ、カソードビームを抜き取ってカソードは吊手の付いたまま電気銅として出荷され、カソードビームは繰り返し使用される。
【0003】
かかる電解精製に使用されるアノードは、銅熔錬炉で精製された精製粗銅を鋳造することで得られる。一方、カソードは、縦横寸法が約1mであり厚さが約1mmの純銅薄板をカソード板とし、短冊状の純銅薄板を二又状に折り曲げたカソード吊手をカソード板の上縁に2本取り付け、それらカソード吊手の輪の中にカソードビームを通すことで形成される。
【0004】
ところで、上述したように、カソードでは、カソード板が2本のカソード吊手によってカソードビームに吊り下げられているが、カソード吊手は厚さが1mm程度の薄板であり、電解中に切れてしまう場合がある。カソード吊手が切れれば、アノードとカソードが接触してしまう可能性がある。かかる接触が生じれば、電流がアノードからカソードに直接流れてしまい電力が空費されてしまうため、カソード吊手の早急な補修が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-71891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
カソード吊手が切れた場合、人がカソード板を持ち上げてその高さを維持したまま、切れたカソード吊手に代えて、新たにカソード吊手を連結する作業が行われている。
【0007】
しかし、電気銅が付着したカソードは重いため、カソード板を持ち上げてその高さを維持する作業は、作業者の労力と時間が大きくかかる。
【0008】
本発明は上記事情に鑑み、カソード吊手が切れた際にカソード板を引き上げることができるカソード吊り上げ器具および、カソード吊手を補修するカソードの補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
<カソード吊り上げ器具>
第1発明のカソード吊り上げ器具は、電解槽に浸漬されたカソードのカソード板を吊り上げる器具であって、カソードビーム上に配置される持ち上げ部と、該持ち上げ部に連結される吊り上げ棒と、を備えており、該吊り上げ棒は、カソード板の下端を載せる支持部と、前記持ち上げ部に連結される連結部と、該連結部と前記支持部とを連結する連結軸と、を有しており、前記持ち上げ部は、前記連結部を前記持ち上げ部に連結した状態において該連結部を上方に移動させる持ち上げ装置を有していることを特徴とする。
第2発明のカソード吊り上げ器具は、第1発明において、前記持ち上げ装置が、前記持ち上げ部をカソードビーム上に配置した状態で鉛直方向に伸縮するように配置されるジャッキであることを特徴とする。
第3発明のカソード吊り上げ器具は、第1または第2発明において、前記持ち上げ部は、前記カソードビーム上に配置されるベース部を備えており、該ベース部は、その下面にカソードビームを挿入する溝を有する設置部を備えていることを特徴とする。
第4発明のカソード吊り上げ器具は、第1、第2または第3発明において、前記支持部は、前記連結軸の下端側面に立設された、カソード板の下端を載せるカソード受け部材を備えており、前記連結軸の上部には、その側面に立設された係合部材を備えており、該係合部材は、前記連結軸をその軸方向から見ると、前記カソード受け部材に対して交差するように設けられていることを特徴とする。
第5発明のカソード吊り上げ器具は、第4発明において、前記吊り上げ棒の連結部は、前記持ち上げ部と連結される連結部材と、該連結部材と前記連結軸とを連結するオフセット部材と、を備えており、前記オフセット部材の軸方向は、前記連結軸の軸方向と交差する方向、かつ、前記カソード受け部材の軸方向に対して所定の角度となるように設けられていることを特徴とする。
第6発明のカソード吊り上げ器具は、第5発明において、前記オフセット部材は、該オフセット部材の軸方向と前記カソード受け部材の軸方向とがなす角度が90度以下となるように設けられていることを特徴とする。
<カソードの補修方法>
第7発明のカソード吊り上げ器具は、第1発明から第6発明のいずれかに記載のカソード吊り上げ器具によってカソード板を吊り上げた状態で、補修部材によってカソード板をカソードビームに吊り下げることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
<カソード吊り上げ器具>
第1、第2発明によれば、カソードとアノードの間の隙間から吊り上げ棒を挿入し、吊り上げ棒の支持部にカソード板の下端を載せた状態で吊り上げ棒の連結部を持ち上げ部の持ち上げ装置に連結すれば、持ち上げ装置によって吊り上げ棒とともにカソード板を上昇させることができる。
第3発明によれば、ベース部の溝部にカソードビームを挿入すれば、器具を安定して設置することができる。
第4発明によれば、連結軸を回転させれば、係合部材を隣接するアノード上に配置できるので、カソードを持ち上げた状態で保持できる。
第5、第6発明によれば、吊り上げ棒を挿入する位置の自由度を高くできる。
<カソードの補修方法>
第7発明によれば、カソード吊り上げ器具によってカソード板を吊り上げた状態に維持できるので、吊り下げ作業が楽になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態のカソード吊り上げ器具1によってカソード吊手shの切れたカソードCを補修した状態の概略説明図である。
図2】本実施形態のカソード吊り上げ器具1の持ち上げ部2の概略説明図であって、(A)は側面図であり、(B)が正面図である。
図3】本実施形態のカソード吊り上げ器具1の吊り上げ棒10の概略説明図であり、(A)は平面図であり、(B)は正面図であり、(C)は側面図である。
図4】本実施形態のカソード吊り上げ器具1によってカソード吊手shの切れたカソードCを持ち上げる作業の概略説明図である。
図5】(A)は図4のVA-VA線断面矢視図であり(B)は図1のVB-VB線断面矢視図である。
図6】(A)は係合部材14を隣接するアノードA上に配置した状態の概略平面図であり、(B)吊り上げ棒10をカソードCとアノードAとの間に配置した状態の概略平面図である。
図7】本実施形態のカソード吊り上げ器具1によってカソード吊手shの切れたカソードCを持ち上げる作業の概略説明斜視図であり、(A)はカソードCを持ち上げる前の状態であり、(B)はカソードCを持ち上げた状態の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態のカソード吊り上げ器具は、電解槽に浸漬された状態のカソード板を吊り上げる器具であり、カソード板を簡単かつ安定して吊り上げることができるようにしたものである。
【0013】
本実施形態のカソード吊り上げ器具は電解精製に使用される種板カソードの吊り上げに使用することができるほか、電解槽に縦長の姿勢で落ち込んだアノードや剥離した電気銅の吊り上げにも使用することができる。
【0014】
また、本実施形態のカソード吊り上げ器具は、カソード吊手が切断等によって損傷した際に、カソードを吊り上げてカソード吊手を補修する際に使用することができるが、その他にもカソードの位置の微調整などに使用することができる。
以下では、カソード吊手が切断等によって損傷した際に、カソード吊手を補修する作業に使用した場合を代表として説明する。
【0015】
<カソード吊り上げ器具1>
図1に示すように、本実施形態のカソード吊り上げ器具1は、電解槽Dに浸漬されたカソードCのカソード板Sを吊り上げる器具であり、カソードCのカソードビームBの上に設置されて使用されるものである。具体的には、カソード吊手shを補修するカソードCのカソードビームBの上に配置されて使用されるものである。
【0016】
本実施形態のカソード吊り上げ器具1は、持ち上げ部2と、吊り上げ棒10と、から構成されている。
【0017】
<持ち上げ部2>
図1および図2に示すように、持ち上げ部2は、カソードビームBの上に設置されるベース部3を備えている。このベース部3は、その下面にカソードビームBに取り付けられる設置部4を有している。この設置部4には、カソードビームBを挿入する溝4gが形成されている。この溝4gは、カソードビームB上に持ち上げ部2を安定して配置でき、かつ、後述するようにカソードCを持ち上げている状態でも、持ち上げ部2が傾いたりしないように形成されている。具体的には、溝4gは、その軸方向の長さ(図1図2(A)の左右方向の長さ)がカソードビームBの幅よりも長く、その幅W(図2(B)参照)がカソードビームBの幅よりも若干広くなるように設けられている。しかも、溝4gは、その深さH(図2(B)参照)がカソードビームBの高さよりも長くなるように設けられている。
【0018】
図1および図2に示すように、ベース部3上には、持ち上げ装置である油圧ジャッキ5が設置されている。この油圧ジャッキ5は、持ち上げ部2のベース部3をカソードビームB上に配置した状態でほぼ鉛直方向に昇降するシリンダ5aを備えている。つまり、油圧ジャッキ5は、持ち上げ部2のベース部3をカソードビームB上に配置した状態でほぼ鉛直方向に伸縮するように設けられている。したがって、油圧ジャッキ5のソケット5bに棒などを差し込んで操作すれば軸5aをほぼ鉛直方向に沿って上昇させることができ、リリーフバルブなどによって油圧を逃がせば軸5aを下降させることができる。
【0019】
<吊り上げ棒10>
図1および図3に示すように、吊り上げ棒10は、軸方向に長い連結軸11と、この連結軸11の上端に設けられた連結部15と、その下端に設けられた支持部12と、を有している。
【0020】
連結軸11は長尺な部材であり、カソードCの軸方向の長さよりも長くなるように形成されている。具体的には、油圧ジャッキ5を最も収縮させた状態で連結部15を軸5aに連結すると支持部12の下端を補修するカソードCよりも下方に配置でき(図4図5(A)参照)、油圧ジャッキ5を最も伸長させた状態で連結部15を軸5aに連結すると支持部12の受け溝13gの内底面が正常なカソードCにおけるカソード板Sの下端よりも上方に配置できる長さに、連結軸11は形成されている。
【0021】
また、連結軸11は、その太さが電解槽Dに浸漬されたカソードCと隣接するアノードAとの間の距離L(図6(A)参照)よりも短くなるように形成されている。例えば、連結軸11は、断面円形の軸であればその外径が距離Lよりも短くなるように形成されていて、カソードCとアノードAの間に配置することが可能となっている。
【0022】
図3に示すように、連結軸11の下端部には、カソードCの下端部を保持する支持部12が設けられている。
【0023】
この支持部12は、連結軸11の側面に立設されたカソード受け部材13を備えている。このカソード受け部材13の上面には、上面に開口を有する受け溝13gが形成されている。この受け溝13gは、カソード板Sの下端を収容できる大きさに形成されている。つまり、受け溝13gは、その幅がカソード板Sの下端の厚さよりも広くなるように形成されている。
【0024】
このカソード受け部材13の長さ(図3(B)の左右方向の長さ)は、カソードCを図7(B)の位置まで持ち上げた際に、向きにより隣接するアノードとの接触を避けられる程度に短くすることが望ましい。しかも、このカソード受け部材13は、その太さ(図3(C)の左右方向の長さ)がカソードCと隣接するアノードAとの間の距離L(図6(A)参照)よりも短くなるように形成されている。
【0025】
したがって、支持部12のカソード受け部材13の立設方向、つまり、カソード受け部材13の軸方向(図3(A)の線b、以下軸方向bという)とカソードビームBの軸方向がほぼ平行になるようにすれば、吊り上げ棒10をカソードCと隣接するアノードAとの間の隙間から挿入することができる。つまり、吊り上げ棒10をカソードCと隣接するアノードAとの間の隙間から挿入して、支持部12のカソード受け部材13をカソード板Sの下方に配置することができる(図5(A)参照)。
【0026】
図3に示すように、連結軸11の上端部には、油圧ジャッキ5の軸5aに連結される連結部15が設けられている。
【0027】
この連結部15は、油圧ジャッキ5のシリンダ5aの先端に連結される連結部材16を備えている。この連結部材16は、シリンダ5aが上昇する際にシリンダ5aから外れないような構造に形成されている。例えば、シリンダ5aの先端に被せることができる、下端に開口を有する円筒状の部材で連結部材16は形成されている。
【0028】
この連結部材16はオフセット部材17を介して連結軸11の上端部に連結されている。このオフセット部材17は、連結部15が油圧ジャッキ5のシリンダ5aとともに上昇する際に連結軸11を連結部15とともに移動させることができるように、連結軸11と連結部15とを連結している。例えば、連結軸11と連結部15とが金属製であれば、金属製の板や棒などでオフセット部材17を形成し、オフセット部材17を連結軸11および連結部15に溶接などの方法で連結している。なお、オフセット部材17によって連結軸11と連結部15とを連結する方法はとくに限定されない。
【0029】
しかも、オフセット部材17は、連結軸11をその軸方向(図3(B),(C)の上下方向)から見たときに、連結部材16と連結軸11とを連結する線(図3(A)の線a、以下線aという)に対して支持部12のカソード受け部材13の立設方向、つまり、線aと軸方向bとのなす角θが90度以下、好ましくは鋭角になるように形成されている。そのため、支持部12のカソード受け部材13をカソード板Sの下方に配置した状態でも、そのカソード板Sが吊り下げられているカソードビームBに配置された持ち上げ部2の油圧ジャッキ5のシリンダ5aに連結部15の連結部材16を連結することができる。
【0030】
<カソード補修方法>
上述した本実施形態のカソード吊り上げ器具1を使用すれば、カソード吊手shが切れても、簡単にカソード板SをカソードビームBに吊り下げた状態に戻すことができる。以下に、本実施形態のカソード吊り上げ器具1を使用してカソード吊手shを補修する方法を説明する。
【0031】
まず、カソード吊手shが切れたカソードCにおけるカソードビームBの上に持ち上げ部2を設置する。つまり、持ち上げ部2の設置部4の溝4gにカソードビームBが挿入された状態となるように持ち上げ部2を設置する(図5(A)参照)。
【0032】
ついで、吊り上げ棒10の支持部12をカソードCとアノードAとの間を通して(または、電解槽Dの壁付近の隙間から)電解槽Dに浸漬する。カソードCとアノードAとの間を通して浸漬するとき、吊り上げ棒10は支持部12のカソード受け部材13の軸方向bがカソードビームBの軸方向とほぼ平行となるように保持される。そして、支持部12のカソード受け部材13がカソード板Sの下端よりも下方に達すると、吊り上げ棒10を連結軸11の軸周りに回転させる。すると、支持部12のカソード受け部材13はカソード板Sの下端の下方に配置されるので、その状態で吊り上げ棒10を持ち上げると、カソード板Sの下端をカソード受け部材13の受け溝13gに挿入することができる(図4図5(A)、図7(A)参照)。
【0033】
カソード板Sの下端がカソード受け部材13の受け溝13gに挿入されると(あるいは受け溝13gの上方にカソード板Sの下端が収まる状態で)、連結部15の連結部材16を油圧ジャッキ5の軸5aに連結する。その状態で、油圧ジャッキ5のソケット5bに棒などを差し込んで操作(駆動)して軸5aを上昇させれば、油圧ジャッキ5の軸5aとともに吊り上げ棒10が上昇する。すると、カソード板Sの下端がカソード受け部材13の受け溝13gに挿入されているので、吊り上げ棒10の上昇に伴ってカソード板Sが持ち上がる。
【0034】
カソード吊手shが切れる前の位置までカソード板Sが上昇すると、油圧ジャッキ5の操作を停止する(図1図5(B)、図7(A)参照)。操作を停止しても、油圧ジャッキ5の軸5aは操作を停止した高さに維持されるので、吊り上げ棒10も油圧ジャッキ5の操作を停止したときの高さに維持される。したがって、カソード板Sの下端も油圧ジャッキ5の操作を停止したときの高さ、つまり、カソード吊手shが切れる前の位置に維持される。
【0035】
この状態で、カソード板Sのかしめ孔に銅線を通して、その銅線をカソードビームBに括れば、カソード板Sをカソード吊手shが切れる前の位置を保った状態で吊り下げることができる(図1参照)。
【0036】
最後に、吊り上げ棒10および持ち上げ部2を除去すれば、もとの操業状態に戻すことができる。なお、吊り上げ棒10を除去する手順は、上述とは逆の順序で行う。すなわち、吊り上げ棒10を一旦下方に下げてカソード板Sの下端をカソード受け部材13の受け溝13gから外す。その後、吊り上げ棒10を連結軸11の軸周りに回転させて、支持部12のカソード受け部材13の軸方向bがカソードビームBの軸方向とほぼ平行となるようにする。すると、吊り上げ棒10をカソードCとアノードAとの間から抜くことができる。
【0037】
以上のように、本実施形態のカソード吊り上げ器具1を使用すれば、電解槽Dに浸漬された状態のカソード板Sを簡単に持ち上げることができ、しかも、カソード板Sを持ち上げた状態を維持できる。したがって、カソード吊手shが切れても、元のようにカソードビームBに吊り下げられた状態にカソード板Sを復帰させることができる。しかも、作業者がカソード板Sを持ち上げた状態で保持しなくてもよいので、作業者の負担を軽減できる。
【0038】
なお、損傷したカソード吊手shに代えてカソード板SをカソードビームBに吊り下げる方法は上述した方法(銅線によって吊り下げる方法)に限定されず、種々の方法を採用することができる。例えば、新たなカソード吊手shを取り付けたり、溶接したり、クランプやその他の導電材で把持することも可能である。特に、上述した銅線によって吊り下げる方法であれば、カソード板SをカソードビームBに吊り下げる作業を簡素化できるとともに、不純物が電解液や電気銅に混入する心配もなく電気銅をそのまま出荷することができる。
【0039】
<設置部4について>
持ち上げ部2の設置部4の溝4gは、上述したような形状に限られず、カソードビームBに持ち上げ部2を安定して配置できるサイズに形成されていればよい。
また、持ち上げ部2を安定して設置する方法として、設置部4は、電気的絶縁に配慮したうえで、溝4gに挿入されるカソードビームBと隣接するアノードAを挿入できる溝4fを設けてもよい。
さらに、持ち上げ部2の設置部4は、カソードビームBに持ち上げ部2を安定して配置できればよく、その設置方法はとくに限定されない。例えば、万力などで固定してもよいし、カソードビームBが載置されている電解槽Dの上縁にまたがるように設置する方法(カソードビームBに対して直接設置する態様ではないが、電解槽Dの上縁が仲立ちしている方法)で設置部4をカソードビームBに設置するようにしてもよい。
【0040】
<持ち上げ装置について>
上記例では、持ち上げ部2の持ち上げ装置として油圧ジャッキを使用した例を説明したが、持ち上げ装置は油圧ジャッキに限られない。吊り上げ棒10の支持部12を上方に移動させることができる公知の装置を採用することができる。例えば、ウォームギア等を持ち上げ装置として使用することができる。
【0041】
なお、吊り上げ棒10の支持部12を上方に移動させるだけであれば、設備に設けられているクレーンやチェーンブロックを使用してもよい。
【0042】
<吊り上げ棒10について>
吊り上げ棒10の支持部12は、吊り上げ棒10が油圧ジャッキ5によって上昇する際に、カソード板Sを保持して吊り上げ棒10とともに上昇させることができるのであれば、必ずしも上述したような形状(溝を有する形状)に限られない。例えば、単に板や棒状の部材を連結軸11の側面に立設するように設けて支持部12としてもよい。この場合、上面がその基端(連結軸11と連結した端部)から先端に向かって上傾するように板や棒状の部材を設けていれば、カソード板Sを安定した状態で保持して吊り上げ棒10とともに上昇させることができる。支持部12は、二股など複数にしたりその幅(図3(C)であれば左右方向の長さ)を広くしたりすれば、カソード板Sを上昇する際にカソード板Sが表面に沿った方向に傾くことを抑制することができる。
【0043】
吊り上げ棒10のオフセット部材17の長さ(つまり連結軸11から連結部16までの距離)はとくに限定されない。図6(B)に示すように、支持部12のカソード受け部材13の受け溝13gにカソード板Sの下端を収容した状態で、連結部15を油圧ジャッキ5の軸5aに連結できる長さであればよい。
【0044】
上記例では、連結部材16と連結軸11とを連結する線aに対して支持部12のカソード受け部材13の軸方向bがなす角θが鋭角になる場合を説明したが、線aと軸方向bとのなす角は必ずしも90度や鋭角でなくてもよい。図6(B)に示すように、支持部12のカソード受け部材13の受け溝13gにカソード板Sの下端を収容した状態で、連結部15を油圧ジャッキ5の軸5aに連結できる角度に形成されていればよい。
【0045】
また、連結軸11の上部側面には、吊り上げ棒10を隣接するアノードAに係合して保持しておく係合部材14を設けてもよい(図3参照)。この係合部材14は、連結軸11の軸方向から見たとき、支持部12のカソード受け部材13に対して交差するように設けられている。しかも、係合部材14は、吊り上げ棒10の支持部12のカソード受け部材13にカソード板Sの下端を保持してカソード板Sがほぼ正常な位置に配置されると、アノードAよりも上方に位置するように設けられている。かかる係合部材14を設けておけば、係合部材14を隣接するアノードA上に配置すれば、吊り上げ棒10をアノードAに吊り下げておくことができる。すると、吊り上げ棒10の支持部12にカソード板Sの下端を保持させた後、連結部15を油圧ジャッキ5の軸5aに連結する前等において、一旦、吊り上げ棒10をアノードAに吊り下げた状態で保持できる。したがって、係合部材14を設ければ、吊り上げ棒10の支持部12にカソード板Sの下端を保持させてから一気に連結部15を油圧ジャッキ5の軸5aに連結しなくても良くなるので、作業者の負担を軽減することができる。
【0046】
なお、上記状態とする上では、受け溝13gの幅(図3(B)の左右方向の長さ)が、カソード板Sの下端の厚さよりもある程度長くなっていることが必要である。つまり、受け溝13gが、その軸方向がカソード板Sの表面に沿った方向に対して斜めになった状態でカソード板Sの下端を収容することができる程度の幅に形成されていることが必要である。この場合、吊り上げ棒10の支持部12にカソード板Sの下端を保持させた状態で、吊り上げ棒10をアノードAに吊り下げた状態とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のカソード吊り上げ器具は、電解槽に浸漬されているカソード板等を引き上げる器具として適している。
【符号の説明】
【0048】
1 カソード吊り上げ器具
2 持ち上げ部
3 ベース部
4 設置部
5 油圧ジャッキ
5a 軸
10 吊り上げ棒
11 連結軸
12 支持部
13 カソード受け部材
14 係合部材
15 連結部
16 連結部材
17 オフセット部材
A アノード
C カソード
S カソード板
B カソードビーム
sh カソード吊手
D 電解槽

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7