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特許7501174(メタ)アクリル酸エステルの保存方法、混合液、及び重合体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】(メタ)アクリル酸エステルの保存方法、混合液、及び重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 20/18 20060101AFI20240611BHJP
   C07D 307/93 20060101ALN20240611BHJP
【FI】
C08F20/18
C07D307/93
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020118198
(22)【出願日】2020-07-09
(65)【公開番号】P2022022858
(43)【公開日】2022-02-07
【審査請求日】2023-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】井上 祥来
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 諭
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-159942(JP,A)
【文献】特開2003-246825(JP,A)
【文献】特開2006-008737(JP,A)
【文献】特開2002-234882(JP,A)
【文献】特開2019-043995(JP,A)
【文献】国際公開第2019/009025(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 20/18
C07D 307/93
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表され、単量体として用いられる(メタ)アクリル酸エステルの保存方法であって、
前記(メタ)アクリル酸エステルに重合溶媒の1種以上を加えて、前記(メタ)アクリル酸エステルの含有量が10~75質量%である混合液を得て、前記混合液を保存する、(メタ)アクリル酸エステルの保存方法。
【化1】
ただし、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、メチル基又はエチル基であり、
及びAは共に水素原子であるか、又はAとAとで-O-、-CH-又は-CHCH-を形成しており、
及びXはいずれか一方が水素原子であり、他方が(メタ)アクリロイルオキシ基である。
【請求項2】
前記重合溶媒が、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを含む、請求項1に記載の保存方法。
【請求項3】
前記混合液における前記(メタ)アクリル酸エステルの含有量が30~75質量%である、請求項1又は2に記載の保存方法。
【請求項4】
下記式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステルと、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートとを含み、前記(メタ)アクリル酸エステルの含有量が30質量%以上である混合液。
【化2】
ただし、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、メチル基又はエチル基であり、
及びAは共に水素原子であるか、又はAとAとで-O-、-CH-又は-CHCH-を形成しており、
及びXはいずれか一方が水素原子であり、他方が(メタ)アクリロイルオキシ基である。
【請求項5】
重合禁止剤を含む、請求項4に記載の混合液。
【請求項6】
前記(メタ)アクリル酸エステルと、前記プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートと、前記重合禁止剤との合計の含有量が50~100質量%である、請求項5に記載の混合液。
【請求項7】
請求項4~6のいずれか一項に記載の混合液を用いて、前記式(1)で表される単量体に基づく構成単位を有する重合体を製造する、重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は(メタ)アクリル酸エステルの保存方法、(メタ)アクリル酸エステルを含む混合液、及び前記混合液を用いた重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
γ-ブチロラクトン構造を含む縮合環又は架橋環構造を有する(メタ)アクリル酸エステルは、塗料、接着剤、粘着剤、インキ用レジン、レジスト、成型材料、光学材料等の構成成分樹脂の原料モノマーとして有用である。
特許文献1には、γ-ブチロラクトン構造を含む縮合環又は架橋環構造を有する低級カルボン酸エステルを加水分解し、得られたアルコールを(メタ)アクリルエステル化して上記の(メタ)アクリル酸エステルを得る方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-234882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の方法で製造した(メタ)アクリル酸エステルは、通常、複数の異性体の混合物であり、常圧(1atm)、常温(20℃)において固体であるため、取り扱い性が良くないという問題がある。
例えば、精製した(メタ)アクリル酸エステルをドラム缶や一斗缶等に入れて保存すると、缶内で固体となるため容易には取り出せない。加熱して再溶融させる場合は長時間を要する。
本発明は、γ-ブチロラクトン構造を含む縮合環又は架橋環構造を有する(メタ)アクリル酸エステルの取り扱い性を向上できる保存方法、混合液、及び重合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下の態様を有する。
[1]下記式(1)で表され、単量体として用いられる(メタ)アクリル酸エステルの保存方法であって、
前記(メタ)アクリル酸エステルに重合溶媒の1種以上を加えて、前記(メタ)アクリル酸エステルの含有量が10~75質量%である混合液を得て、前記混合液を保存する、(メタ)アクリル酸エステルの保存方法。
【0006】
【化1】
【0007】
ただし、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、メチル基又はエチル基であり、
及びAは共に水素原子であるか、又はAとAとで-O-、-CH-又は-CHCH-を形成しており、
及びXはいずれか一方が水素原子であり、他方が(メタ)アクリロイルオキシ基である。
[2]前記重合溶媒が、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを含む、[1]の保存方法。
[3]前記式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステルと、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートとを含む混合液。
[4]前記[3]の混合液を用いて、前記式(1)で表される単量体に基づく構成単位を有する重合体を製造する、重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の保存方法によれば、γ-ブチロラクトン構造を含む縮合環又は架橋環構造を有する(メタ)アクリル酸エステルの取り扱い性を向上できる。
本発明の混合液は、γ-ブチロラクトン構造を含む縮合環又は架橋環構造を有する(メタ)アクリル酸エステルの取り扱い性を向上できる。
本発明の重合体の製造方法は、γ-ブチロラクトン構造を含む縮合環又は架橋環構造を有する(メタ)アクリル酸エステルを単量体として用いる重合体の製造方法において、単量体の取り扱い性を向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の用語の定義は、本明細書及び特許請求の範囲にわたって適用される。
「(メタ)アクリル酸エステル」は、アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルを意味する。
「(メタ)アクリロイルオキシ基」は、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基を意味し、CH=CR-C(=O)-O-で表される。Rは水素原子又はメチル基である。
「構成単位」は、単量体の重合反応により形成される原子団を意味する。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0010】
<保存方法>
本発明の一態様に係る(メタ)アクリル酸エステルの保存方法は、下記式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル(以下、化合物(1)ともいう。)を保存する方法である。化合物(1)は単量体として重合体の製造に使用される。例えば、レジスト用重合体の製造に好適に用いられる。
本態様の保存方法は、化合物(1)を製造した後に、又は製造し精製した後に、重合溶媒を添加して所定の濃度範囲の混合液(以下、混合液Qともいう。)を調製する工程を有する。
製造後又は精製後の化合物(1)は、通常、複数の異性体の混合物である。
【0011】
【化2】
【0012】
式(1)において、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、メチル基又はエチル基である。
及びAは共に水素原子であるか、又はAとAとで-O-、-CH-又は-CHCH-を形成している。
及びXはいずれか一方が水素原子であり、他方が(メタ)アクリロイルオキシ基である。
【0013】
化合物(1)の製造方法は特に限定されない。例えば、前記特許文献1に記載されている製造方法(アルコールをエステル化して化合物(1)を得る方法)、下記式(2)で表される化合物(以下、化合物(2)ともいう。)と(メタ)アクリル酸エステルとをエステル交換させて化合物(1)を得る製造方法が例示できる。
【0014】
【化3】
【0015】
式(2)中のR、R、R、R、A及びAはそれぞれ、式(1)中のR、R、R、R、A及びAと同じである。
式(2)において、Z及びZはいずれか一方が水素原子であり、他方がR-C(=O)-O-である。式(1)中のXが(メタ)アクリロイルオキシ基である場合はZがR-C(=O)-O-であり、Xが(メタ)アクリロイルオキシ基である場合はZがR-C(=O)-O-である。
は水素原子又はアルキル基である。Rのアルキル基の炭素数は、例えば1~3である。Rとしては、エステル交換反応が進みやすい点から、水素原子又はメチル基が好ましく、水素原子が特に好ましい。
化合物(2)は、前記特許文献1に記載されている製造方法(低級カルボン酸エステルを製造する方法)で得られる。
【0016】
本態様において、製造した化合物(1)をそのまま保存してもよく、さらに精製した後の化合物(1)を保存してもよい。精製により純度を高めることができる。精製方法は公知の方法を用いることができる。例えば、カラム精製、蒸留、薄膜蒸留などが挙げられる。工業的には薄膜蒸留が好適である。
【0017】
本態様の保存方法は、製造後又は精製後の化合物(1)に、重合溶媒を加えて混合液Qを調製する。混合液Qは、例えば、注ぎ口を有する保存容器内で保存することができる。保存容器は金属の混入防止の観点から、樹脂製容器あるいは内面が樹脂等でコーティングされてある容器等が好ましい。保存容器の容量は特に限定されないが、例えば5~200リットルが好ましい。
重合溶媒は、化合物(1)を単量体として重合反応する際に使用できる重合溶媒であればよい。混合液Qは、そのまま重合反応に使用することができる。
常温で固体である化合物(1)を混合液Qの形態とすることで、化合物(1)を保存容器から容易に取り出すことができるなど、取り扱い性が向上する。
混合液Qは、固体が完全に溶解した溶液でもよく、溶液と同様に取り扱いが容易であれば少量の固体が析出していてもよい。
【0018】
重合溶媒の例としては、アセトン、メチル-n-ブチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;トルエン、キシレンなどの炭化水素類;N-N’ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドンなどのアミド類;乳酸メチル、γ-ブチロラクトン(以下、γ-BLともいう。)などのエステル類;1,4-ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのアセテート類が挙げられる。特に、溶解性の観点、重合性の観点からプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(以下、PGMEAともいう。)が好適である。
重合溶媒は1種でもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
重合溶媒は、混合液Qの総質量に対して化合物(1)の含有量が10~75質量%となるように加える。前記化合物(1)の含有量は10~65質量%が好ましく、20~65質量%がより好ましく、20~55質量%がさらに好ましく、30~55質量%が特に好ましい。
前記化合物(1)の含有量が高いほど、同量の化合物(1)を保存するための混合液Qの液量が少なくてすむ点で好ましい。また、混合液Qをそのまま重合反応に使用する場合は、前記化合物(1)の含有量が低すぎると重合性の低下や歩留まりの低下の原因になる場合がある。
一方、前記化合物(1)の含有量が高すぎると、化合物(1)が多量に析出してしまい保存容器から取り出し難くなる。また重合工程に使用する前に長時間の加熱が必要になる。
前記化合物(1)の含有量が上記の範囲内であると、これらの不都合が生じ難く、化合物(1)を使用しやすい形態で、安定して保存することができる。
【0020】
混合液Qに、重合禁止剤を添加してもよい。重合禁止剤は化合物(1)の重合を抑制できるものであれば特に限定されない。例えば、ヒドロキノン、4-メトキシフェノール、2,4-ジメチル-6-t-ブチルフェノール、p-ベンゾキノン、2,5-ジフェニル-p-ベンゾキノン、フェノチアジン、N-ニトロソジフェニルアミン、銅塩、金属銅、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル等が挙げられる。
重合禁止剤は1種でもよく、2種以上を併用してもよい。
混合液Qが重合禁止剤を含む場合、混合液Qの総質量に対する重合禁止剤の含有量は0.001~5質量%が好ましく、0.01~1質量%がより好ましい。
【0021】
混合液Qは、化合物(1)を安定に保存でき、重合に支障のない範囲で、化合物(1)、重合溶媒及び重合禁止剤上以外のその他の成分を含んでもよい。その他の成分としては、例えば着色防止剤、紫外線、可視光線などの光吸収剤等が挙げられる。
混合液Qの総質量に対して、その他の成分の総含有量は1質量%以下が好ましく、0.1質量%以下がより好ましい。ゼロでもよい。
【0022】
混合液Qの保存温度は、化合物(1)が安定である温度範囲であれば特に限定されない。保存のために特別な冷却設備又は加熱設備を設ける必要はなく、既存の環境温度で保存することができる。保存温度は、例えば5~50℃が好ましく、5~35℃がより好ましい。
保存期間は特に限定されない。本態様の保存方法は、例えば化合物(1)を1日以上保存する際に好適であり、7日以上保存してもよい。保存期間の上限は特に限定されない。例えば1年以下が好ましく、90日以下がより好ましく、30日以下がさらに好ましい。
【0023】
混合液Qは、取り扱い性を損なわない範囲で、保存中に析出が生じてもよい。析出が生じた場合は、重合工程に使用する前に80℃程度に加熱することで、析出物が再溶解した均一な溶液を得ることができる。
【0024】
<混合液>
本発明の一態様に係る混合液(以下、混合液Q1ともいう。)は、化合物(1)とPGMEAを含む。PGMEA以外に前記重合溶媒の1種以上を含んでもよい。前記重合禁止剤を含んでもよい。前記その他の成分を含んでもよい。
混合液Q1に含まれる化合物(1)は、好ましい態様も含めて前記混合液Qと同じである。化合物(1)の含有量は、好ましい態様も含めて前記混合液Qと同じである。
混合液Q1に含まれる重合溶媒の総質量に対して、PGMEAの含有量は10~100質量%が好ましく、20~100質量%がより好ましく、30~100質量%がさらに好ましい。
混合液Q1は、そのまま重合工程に使用できる。また混合液Q1の状態で保存することにより、化合物(1)を安定に保存できる。
【0025】
混合液Q1の好ましい組成は、混合液の総質量に対して、化合物(1)の含有量が10~75質量%、PGMEAの含有量が25~90質量%、重合禁止剤の含有量が0~1質量%、かつ化合物(1)とPGMEAと重合禁止剤の合計の含有量が50~100質量%である。
より好ましい組成は、混合液の総質量に対して、化合物(1)の含有量が20~65質量%、PGMEAの含有量が35~80質量%、重合禁止剤の含有量が0.01~1質量%、かつ化合物(1)とPGMEAと重合禁止剤の合計の含有量が75~100質量%である。
さらに好ましい組成は、混合液の総質量に対して、化合物(1)の含有量が30~55質量%、PGMEAの含有量が45~70質量%、重合禁止剤の含有量が0.01~1質量%、かつ化合物(1)とPGMEAと重合禁止剤の合計の含有量が75.01~100質量%である。
【0026】
<重合体の製造方法>
本態様の重合体の製造方法は、混合液Q1を用いて、化合物(1)である単量体に基づく構成単位(以下、構成単位(1)ともいう。)を有する重合体(以下、重合体Pともいう)を製造する。
重合体Pは、レジスト組成物の製造に用いられるレジスト用重合体が好ましい。特に、化学増幅型レジスト組成物の製造に好適に用いられる化学増幅型レジスト組成物用重合体が好ましい。
重合体Pは、構成単位(1)以外の構成単位を有する共重合体でもよい。共重合体は、ランダム共重合体であっても、交互共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。
重合体Pの製造方法は、混合液Q1を含む溶液中で重合反応を行う方法であればよく、溶液重合法が好ましい。
【0027】
以下、重合体Pが化学増幅型レジスト組成物用重合体(以下、重合体P1ともいう)でる場合について説明する。
化学増幅型レジスト組成物用重合体には、酸によりアルカリ水溶液に可溶となる性質と、ドライエッチング耐性とが要求される。
構成単位(1)は、酸によりアルカリ水溶液に可溶となる性質、ドライエッチング耐性、有機溶媒に対する溶解性、及び基板に対する密着に寄与する。
重合体P1は、構成単位(1)のほかに、酸の作用で脱離しやすい官能基を有する構造や、高いドライエッチング耐性を有する構造を有する構成単位を含む共重合体であってもよい。
【0028】
酸の作用で脱離しやすい官能基を有する構造としては、例えば、アセチル基、t-ブチル基、テトラヒドロピラニル基、メチルアダマンチル基、エチルアダマンチル基等によりヒドロキシ基やカルボキシ基を保護した構造が挙げられる。
このような構造を有する単量体としては、例えば、化学増幅型レジスト組成物用重合体の原料として公知の単量体が使用できる。
【0029】
重合体P1の合成に用いる単量体は、リソグラフィーに使用される光源によって任意に選択される。
例えば、KrFエキシマレーザーや電子線を光源とする場合は、その高いエッチング耐性を考慮して、化合物(1)である単量体と、p-ヒドロキシスチレンあるいはその誘導体とを含む単量体混合物を、重合反応させて得られる共重合体が好適である。
【0030】
また、ArFエキシマレーザーを光源とする場合は、化合物(1)である単量体と、環状炭化水素基を有する単量体とを含む単量体混合物を、重合反応させて得られる共重合体が好適である。
環状炭化水素基を有する単量体を共重合することにより、高い光線透過率、高いエッチング耐性が得られる。
環状炭化水素基を有する構成単位は、重合体P1に高いドライエッチング耐性を付与する。特に、酸により脱離する保護基(環状炭化水素基が直接保護基になっていてもよい)を含有するものは、波長193nmのArFエキシマレーザーを用いたフォトリソグラフィーにおける高い感度も付与することができる。重合体P1は、環状炭化水素基を有する構成単位を、必要に応じて、1種有してもよく、2種以上有してもよい。
【0031】
環状炭化水素基を有する単量体としては、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエニル(メタ)アクリレート、および、これらの単量体の環状炭化水素基上にアルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシ基等の置換基を有する誘導体が好ましい。
具体例として、1-イソボルニル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシ-2-メチルアダマンタン、2-(メタ)アクリロイルオキシ-2-エチルアダマンタン、1-(1-(メタ)アクリロイルオキシ-1-メチルエチル)アダマンタン、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0032】
重合体P1は、さらに親水性官能基を有する構成単位を含んでもよい。特に、酸により脱離する保護基を含有するものは、波長193nmのArFエキシマレーザーを用いたフォトリソグラフィーにおける高い感度も付与することができる。
親水性官能基としては、例えば、末端カルボキシ基、末端ヒドロキシ基、アルキル置換エーテル基(好ましくは炭素数4以下のアルキル置換エーテル基)、δ-バレロラクトニル基、γ-ブチロラクトニル基等が挙げられる。なお、上記の親水性官能基には、通常、疎水性に含まれるものもあるが、重合体P1において必要な親水性が得られればよいので、上記のものが含まれる。重合体P1は、親水性官能基を有する構成単位を、必要に応じて、1種有してもよく、2種以上有してもよい。
【0033】
親水性官能基を有する単量体としては、(メタ)アクリル酸、末端ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレート、アルキル置換エーテル基を有する(メタ)アクリレート、δ-バレロラクトニル基を有する(メタ)アクリレート、γ-ブチロラクトニル基を有する(メタ)アクリレート、および、(メタ)アクリル酸を除くこれらの単量体の親水性官能基上にアルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシ基等の置換基を有する誘導体が好ましい。
具体例として、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸-4-ヒドロキシブチル、1-(メタ)アクリロイルオキシ-3-ヒドロキシアダマンタン、(メタ)アクリル酸-2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸-2-エトキシエチル、β-(メタ)アクリロイルオキシ-β-メチル-δ-バレロラクトン、β-(メタ)アクリロイルオキシ-γ-ブチロラクトン、β-(メタ)アクリロイルオキシ-β-メチル-γ-ブチロラクトン、α-(メタ)アクリロイルオキシ-γ-ブチロラクトン、2-(1-(メタ)アクリロイルオキシ)エチル-4-ブタノリド、パントラクトン(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0034】
重合体P1の質量平均分子量は特に限定されないが、例えば1,000~100,000が好ましい。質量平均分子量が大きいほどドライエッチング耐性が向上してレジスト形状が良くなる傾向がある。また、質量平均分子量が小さいほどレジスト溶液に対する溶解性が向上して解像度が向上する傾向がある。
【0035】
重合体P1は公知の重合法により製造できる。簡便に製造できるという点で、あらかじめ単量体および重合開始剤を有機溶剤に溶解させた単量体溶液を調製し、一定温度に保持した有機溶剤中に前記単量体溶液を滴下して重合体溶液を得る、いわゆる滴下重合法が好ましい。
滴下重合法を用いる場合、混合液Q1を用いて前記単量体溶液を調製する。すなわち、混合液Q1に含まれる重合溶媒を、単量体溶液の溶媒の一部または全部として使用する。
単量体溶液の総質量に対して、単量体の総含有量は10~90質量%が好ましく、20~80質量%がより好ましく、30~70質量%がさらに好ましい。
【0036】
単量体溶液の溶媒として用いる有機溶剤は特に限定されないが、アセトン、メチル-n-ブチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;トルエン、キシレンなどの炭化水素類;N-N’ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドンなどのアミド類;乳酸メチルなどのエステル類;1,4-ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類、PGMEAなどのアセテート類が挙げられる。溶解性の観点、重合性の観点からPGMEAが好ましい。
単量体溶液の溶媒は1種でもよく、2種以上の混合溶媒でもよい。
【0037】
滴下重合法に用いられる重合開始剤は特に限定されないが、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物、過酸化ベンゾイル等の有機過酸化物等が挙げられる。また、n-ブチルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン等のメルカプタン類を連鎖移動剤として用いてもよい。なお、重合開始剤および連鎖移動剤の使用量は特に限定されず、適宜決めればよい。
【0038】
滴下重合法における重合温度は特に限定はされないが、通常、50~150℃の範囲でが好ましい。滴下時間は特に限定されないが、通常、6時間以上が好ましい。また、さらに滴下終了後1~3時間程度その温度を保持し、重合を完結させることが好ましい。
【0039】
滴下重合法によって製造された重合体溶液は、必要に応じてテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等の良溶媒で適当な溶液粘度に希釈した後、ヘプタン、メタノール、水等の多量の貧溶媒中に滴下して重合体を析出させる。その後、その析出物を濾別し、十分に乾燥して重合体P1が得られる。
【0040】
本態様の製造方法は、重合体P1が、常圧、常温で固体である化合物(1)に基づく構成単位(1)を有するにもかかわらず、前記混合液Q1を用いることで、単量体の取り扱い性を向上できる。
【実施例
【0041】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[合成例1]
下記式(2a)で表される化合物(2a)と(メタ)アクリル酸エステルとをエステル交換させる方法で、下記式(1a)で表される化合物(1a)を合成した。
原料として用いた化合物(2a)は、8-ホルミルオキシ-4-オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン-3-オンと9-ホルミルオキシ-4-オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン-3-オンとの混合物である。
得られた化合物(1a)は8-メタクリロイルオキシ-4-オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン-3-オンと、9-メタクリロイルオキシ-4-オキサトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン-3-オンの混合物である。
【0042】
具体的に、撹拌機、温度計、ディーンスターク管、コンデンサーを備えたフラスコに、化合物(2a)の60.2g(0.31mol)、メタクリル酸メチル122.6g(1.22mol)、4-メトキシフェノール62mg(0.50mmol)、トルエン60.1g、チタンテトライソプロポキシド2.6g(0.0092mol)を入れ、メタノールを含む留出液を抜き出しながら8時間還流させた。その後、硫酸10.2g(0.10mol)、トルエン30.4g、水60.1gを加えて洗浄し、続いて5%重曹水、水で順次洗浄した後、溶媒を留去した。これを蒸留精製し、化合物(1a)55.7g(0.24mol、収率77%)を得た。得られた化合物(1a)は60℃において透明な液体であり、常温に放置すると固体に変化した。
【0043】
【化4】
【0044】
(例1~8)
例1~7は実施例、例8は比較例である。
表1に示す配合で、合成例1で得られた化合物(1a)とPGMEAとを混合して混合液を調製し、保存試験を行った。
具体的には、まず、化合物(1a)の100質量部に対して、重合禁止剤としてパラメトキシフェノールを0.1質量部加えたものを、80℃に加熱して溶融させた。得られた溶融物と、PGMEA(25℃)とを、表1に示す配合となるように秤量し、撹拌混合して溶解させ、混合液を得た。調製直後の混合液10mLをガラス製の保存容器(容量20mL)に入れ、保存温度25℃又は5℃の雰囲気中に静置して7日間保存した。
保存開始日の翌日から毎日、混合液を目視で観察し、溶解状態(析出状態)を下記の基準で評価した。結果を表1に示す。
(評価基準)
◎:均一な溶解液。
〇:少量の固体が析出。
×:多量の固体が析出。
【0045】
【表1】
【0046】
表1の結果に示されるように、例1~7の混合液は、25℃保存試験において保存中の析出が抑えられ、取り扱い易い性状を維持できた。さらに過酷な5℃保存試験においても例1~6の混合液は析出が良好に抑えられた。
これに対して例8の混合液は、25℃保存試験において、保存開始日の翌日から溶媒がほとんど目視できない程度に析出物が多く発生し、保存容器を傾けたときに内容物が容易に流れ出なかった。
なお、例6及び例7において、25℃で7日間保存した混合液には少量の固体が析出していたが、80℃の湯浴で加熱すると10分以内には析出物が再溶解して均一な溶解液となった。
【0047】
(例9~12)
例9~12は実施例である。
表2に示す配合で、合成例1で得られた化合物(1a)とPGMEAとγ-BLを混合して混合液を調製し、例1~8と同様にして25℃での保存試験を行った。
具体的には、例1~8と同様にして、化合物(1a)及び重合禁止剤の混合物の溶融物を得て、これとPGMEA(25℃)とγ-BL(25℃)とを、表2に示す配合となるように混合して溶解させ、混合液を得た。保存試験の結果を表2に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
表2の結果に示されるように、例9~12の混合液は、保存中の析出が抑えられ、取り扱い易い性状を維持できた。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の保存方法によれば、固体の析出を抑制して(メタ)アクリル酸エステルを取り扱いしやすい状態で安定に保存することができる。
本発明の混合液は、塗料、接着剤、粘着剤、インキ用レジン、レジスト、成型材料、光学材料等の構成成分樹脂の重合工程に、原料モノマーを含む液として使用できる。