(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】生体物質への適合性を有するポリマーの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 230/02 20060101AFI20240611BHJP
C08F 220/34 20060101ALI20240611BHJP
C09D 143/02 20060101ALI20240611BHJP
C09D 133/14 20060101ALI20240611BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240611BHJP
C08J 7/04 20200101ALI20240611BHJP
B05D 5/00 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
C08F230/02
C08F220/34
C09D143/02
C09D133/14
B32B27/30 A
C08J7/04 U CET
B05D5/00 Z
(21)【出願番号】P 2020572273
(86)(22)【出願日】2020-02-12
(86)【国際出願番号】 JP2020005331
(87)【国際公開番号】W WO2020166605
(87)【国際公開日】2020-08-20
【審査請求日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】P 2019022902
(32)【優先日】2019-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】廣飯 美耶
(72)【発明者】
【氏名】広井 佳臣
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 康平
(72)【発明者】
【氏名】庄子 武明
(72)【発明者】
【氏名】安部 菜月
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 宏之
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0186945(US,A1)
【文献】国際公開第2016/093293(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/196650(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F2/00-301/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)及び式(2):
【化1】
【化2】
(式(1)中、R
1は水素原子又はメチル基を表し、R
2は炭素原子数1~6のアルキレン基を表し、nは1~30の整数を示し、式(2)中、R
11は水素原子又はメチル基を表し、A
1はカチオン性を有する1価の有機基を表す)で表される化合物を含むモノマー混合物を重合用溶媒中、ラジカル重合開始剤存在下で共重合させる工程を含む、共重合体含有ワニスの製造方法であって、
上記モノマー混合物が含むリン含有化合物中の、式(1)で表される化合物の質量%が
85質量%以上である、製造方法。
【請求項2】
上記A
1が、下記式(2-1):
【化3】
(U
b1、U
b2及びU
b3は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、An
-は、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表す)で表される構造を含む、請求項1に記載の共重合体含有ワニスの製造方法。
【請求項3】
上記A
1が、下記式(2-2):
【化4】
(R
21は、リン酸ジエステル結合で中断されていてもよい炭素原子数1~6のアルキレン基を表し、U
b1、U
b2及びU
b3は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、An
-は、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表す)で表される、請求項1に記載の共重合体含有ワニスの製造方法。
【請求項4】
下記式(1)及び式(2):
【化5】
【化6】
(式(1)中、R
1は水素原子又はメチル基を表し、R
2は炭素原子数1~6のアルキレン基を表し、nは1~30の整数を示し、式(2)中、R
11は水素原子又はメチル基を表し、A
1はカチオン性を有する1価の有機基を表す。)で表される化合物を含むモノマー混合物を重合用溶媒中、ラジカル重合開始剤存在下で共重合させる工程、次いで溶媒を添加する工程を含む、コーティング膜形成用組成物の製造方法であって、
上記モノマー混合物が含むリン含有化合物中の、式(1)で表される化合物の質量%が
85質量%以上である、製造方法。
【請求項5】
生体物質への適合性を有する、請求項4に記載のコーティング膜形成用組成物の製造方法。
【請求項6】
上記生体物質への適合性が、生体物質の付着抑制能又は細胞培養促進性である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項4
~6のいずれかに記載のコーティング膜形成用組成物を基板に塗布する工程を含む、コーティング膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル化の問題が起こらない共重合体含有ワニスの製造方法、コーティング膜形成用組成物の製造方法、コーティング膜の製造方法、好ましくは生体物質への適合性を有する(例えば生体物質付着抑制能や細胞培養促進性を有する)コーティング膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人工透析器、人工臓器、医療器具等の医療用器具、器材等の生体物質付着抑制のために様々な生体物質の付着抑制能を有するコーティング材料、又は細胞培養を促進するためのコーティング材料が提案されている。
特許文献1には、生体物質の付着制御能を有するイオンコンプレックス材料及びその製造方法が開示されている。特許文献2には、防汚性等の特性に優れた表面処理剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2014/196650号
【文献】国際公開第2018/008663号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
不飽和結合を有するリン酸エステル系モノマーは、通常の合成方法によると、リン酸ジエステル等の不純物を多く含む。リン酸ジエステル分を多く含む、不飽和結合を有するリン酸エステル系モノマーと、他の異なる不飽和結合を有するモノマーとを共重合反応に用いた場合、リン酸ジエステルが架橋部となる三次元網目構造が生成しゲル化が起こることで、ポリマーが溶媒中に溶解又は分散したワニスとすることができない問題があった。
【0005】
本願発明者らが鋭意検討した結果、一定純度以上の特定の構造式を有するリン酸エステルモノマーと、他の異なる不飽和結合を有するモノマーとを自体公知の方法で共重合させることで、ゲル化すること無く、共重合体含有ワニスを製造できることを見出した。
【0006】
本発明は、ゲル化の問題が起こらない共重合体含有ワニスの製造方法、組成物の製造方法、コーティング膜の製造方法、好ましくは生体物質への適合性を有する(例えば生体物質付着抑制能や細胞培養促進性を有する)コーティング膜の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下を包含する。
【0008】
[1]
下記式(1)及び式(2):
【化1】
【化2】
(式(1)中、R
1は水素原子又はメチル基を表し、R
2は炭素原子数1~6のアルキレン基を表し、nは1~30の整数を示し、式(2)中、R
11は水素原子又はメチル基を表し、A
1はカチオン性を有する1価の有機基を表す)で表される化合物を含むモノマー混合物を重合用溶媒中、ラジカル重合開始剤存在下で共重合させる工程を含む、共重合体含有ワニスの製造方法であって、
上記モノマー混合物が含むリン含有化合物中の、式(1)で表される化合物の質量%が70質量%以上である、製造方法。
【0009】
[2]
上記A
1が、下記式(2-1):
【化3】
(U
b1、U
b2及びU
b3は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、An
-は、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表す)で表される構造を含む、[1]に記載の共重合体含有ワニスの製造方法。
【0010】
[3]
上記A
1が、下記式(2-2):
【化4】
(R
21は、リン酸ジエステル結合で中断されていてもよい炭素原子数1~6のアルキレン基を表し、U
b1、U
b2及びU
b3は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、An
-は、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表す)で表される、[1]に記載の共重合体含有ワニスの製造方法。
【0011】
[4]
下記式(1)及び式(2):
【化5】
【化6】
(式(1)中、R
1は水素原子又はメチル基を表し、R
2は炭素原子数1~6のアルキレン基を表し、nは1~30の整数を示し、式(2)中、R
11は水素原子又はメチル基を表し、A
1はカチオン性を有する1価の有機基を表す。)で表される化合物を含むモノマー混合物を重合用溶媒中、ラジカル重合開始剤存在下で共重合させる工程、次いで溶媒を添加する工程を含む、コーティング膜形成用組成物の製造方法であって、
上記モノマー混合物が含むリン含有化合物中の、式(1)で表される化合物の質量%が70質量%以上である、製造方法。
【0012】
[5]
生体物質への適合性を有する、[4]に記載のコーティング膜形成用組成物の製造方法。
【0013】
[6]
[4]又は[5]に記載のコーティング膜形成用組成物を基板に塗布する工程を含む、コーティング膜の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の方法によれば、ゲル化の問題が起こらない共重合体含有ワニスの製造方法、コーティング膜形成用組成物の製造方法、コーティング膜の製造方法、好ましくは生体物質への適合性を有する(例えば生体物質付着抑制能や細胞培養促進性を有する)コーティング膜の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】試験例1において実施例1のコーティング膜形成用組成物でコーティングしたウェルの細胞付着抑制効果を示す顕微鏡写真である。
【
図2】試験例1において実施例2のコーティング膜形成用組成物でコーティングしたウェルの細胞付着抑制効果を示す顕微鏡写真である。
【
図3】試験例1において実施例3のコーティング膜形成用組成物でコーティングしたウェルの細胞付着抑制効果を示す顕微鏡写真である。
【
図4】試験例1において陽性対照(参考例1)のコーティング膜形成用組成物でコーティングしたウェルの細胞付着抑制効果を示す顕微鏡写真である。
【
図5】試験例1において陰性対照(未コーティング)のウェルの細胞付着抑制効果を示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
≪用語の説明≫
本発明において用いられる用語は、他に特に断りのない限り、以下の定義を有する。
「炭素原子数1~6のアルキレン基」とは、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン(トリメチレン)基、プロピレン基、シクロプロピレン基、n-ブチレン基、イソブチレン基、s-ブチレン基、t-ブチレン基、シクロブチレン基、1-メチル-シクロプロピレン基、2-メチル-シクロプロピレン基、n-ペンチレン基、1-メチル-n-ブチレン基、2-メチル-n-ブチレン基、3-メチル-n-ブチレン基、1,1-ジメチル-n-プロピレン基、1,2-ジメチル-n-プロピレン基、2,2-ジメチル-n-プロピレン基、1-エチル-n-プロピレン基、シクロペンチレン基、1-メチル-シクロブチレン基、2-メチル-シクロブチレン基、3-メチル-シクロブチレン基、1,2-ジメチル-シクロプロピレン基、2,3-ジメチル-シクロプロピレン基、1-エチル-シクロプロピレン基、2-エチル-シクロプロピレン基、n-ヘキシレン基、1-メチル-n-ペンチレン基、2-メチル-n-ペンチレン基、3-メチル-n-ペンチレン基、4-メチル-n-ペンチレン基、1,1-ジメチル-n-ブチレン基、1,2-ジメチル-n-ブチレン基、1,3-ジメチル-n-ブチレン基、2,2-ジメチル-n-ブチレン基、2,3-ジメチル-n-ブチレン基、3,3-ジメチル-n-ブチレン基、1-エチル-n-ブチレン基、2-エチル-n-ブチレン基、1,1,2-トリメチル-n-プロピレン基、1,2,2-トリメチル-n-プロピレン基、1-エチル-1-メチル-n-プロピレン基、1-エチル-2-メチル-n-プロピレン基、シクロヘキシレン基、1-メチル-シクロペンチレン基、2-メチル-シクロペンチレン基、3-メチル-シクロペンチレン基、1-エチル-シクロブチレン基、2-エチル-シクロブチレン基、3-エチル-シクロブチレン基、1,2-ジメチル-シクロブチレン基、1,3-ジメチル-シクロブチレン基、2,2-ジメチル-シクロブチレン基、2,3-ジメチル-シクロブチレン基、2,4-ジメチル-シクロブチレン基、3,3-ジメチル-シクロブチレン基、1-n-プロピル-シクロプロピレン基、2-n-プロピル-シクロプロピレン基、1-イソプロピル-シクロプロピレン基、2-イソプロピル-シクロプロピレン基、1,2,2-トリメチル-シクロプロピレン基、1,2,3-トリメチル-シクロプロピレン基、2,2,3-トリメチル-シクロプロピレン基、1-エチル-2-メチル-シクロプロピレン基、2-エチル-1-メチル-シクロプロピレン基、2-エチル-2-メチル-シクロプロピレン基及び2-エチル-3-メチル-シクロプロピレン基等が挙げられる。
また「リン酸ジエステル結合で中断されていてもよい炭素原子数1~6のアルキレン基」とは、「炭素原子数1~6のアルキレン基」あるいは、「リン酸ジエステル結合で中断されている、炭素原子数1~6のアルキレン基」を意味する。
「炭素原子数1~6のアルキレン基」の例は、上記のとおりである。「リン酸ジエステル結合で中断されている、炭素原子数1~6のアルキレン基」は、上記「炭素原子数1~6のアルキレン基」の少なくとも1つのメチレン(-CH2-)基が、リン酸ジエステル結合で置き換えられた2価の基を意味する。
【0017】
「炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基」とは、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基又は1-エチルプロピル基が挙げられる。
【0018】
「ハロゲン化物イオン」とは、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン又はヨウ化物イオンが挙げられる。
【0019】
「無機酸イオン」とは、炭酸イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、リン酸水素イオン、リン酸二水素イオン、硝酸イオン、過塩素酸イオン又はホウ酸イオンが挙げられる。
【0020】
「重合用溶媒」とは、本発明の2種以上のモノマーの自体公知の共重合反応に使用される溶媒であり、水、リン酸緩衝液又はエタノール等のアルコール又はこれらを組み合わせた混合溶媒でもよいが、水又はエタノールを含むことが望ましい。さらには水又はエタノールを10質量%以上100質量%以下含むことが好ましい。さらには水又はエタノールを50質量%以上100質量%以下含むことが好ましい。さらには水又はエタノールを80質量%以上100質量%以下含むことが好ましい。さらには水又はエタノールを90質量%以上100質量%以下含むことが好ましい。好ましくは水とエタノールの合計が100質量%である。
【0021】
「ラジカル重合開始剤」としては、「熱ラジカル重合開始剤」又は「光ラジカル重合開始剤」であってよい。
【0022】
「熱ラジカル重合開始剤」としては、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(富士フイルム和光純薬(株)製品名;V-65、10時間半減期温度;51℃)、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、1-[(1-シアノ-1-メチルエチル)アゾ]ホルムアミド、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩(富士フイルム和光純薬(株);VA-044、10時間半減期温度;44℃)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン](富士フイルム和光純薬(株);VA-061、10時間半減期温度;61℃)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2’-アゾ(2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド(富士フイルム和光純薬(株)製品名;VA-086、10時間半減期温度;86℃)、過酸化ベンゾイル(BPO)、2,2’-アゾビス(N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン)n-水和物(富士フイルム和光純薬(株)製品名;VA-057、10時間半減期温度;57℃)、4,4’-アゾビス(4-シアノペンタノイックアシド)(富士フイルム和光純薬(株)製品名;VA-501)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジスルファートジヒドレート(富士フイルム和光純薬(株)製品名;VA-046B、10時間半減期温度;46℃)、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジヒドロクロリド(富士フイルム和光純薬(株)製品名;V-50、10時間半減期温度;56℃)、ペルオキソ二硫酸又はt-ブチルヒドロペルオキシド、ジメチル1,1’-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボキシレート)(富士フイルム和光純薬(株)製品名;VE-073)等が用いられる。
【0023】
「光ラジカル重合開始剤」としては、アセトフェノン、クロロアセトフェノン、ヒドロキシアセトフェノン、2-アミノアセトフェノン、ジアルキルアミノアセトフェノン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2′-フェニルアセトフェノン(BASF社製品名;Irgacure651)、2-ヒドロキシ-2-メチル1-フェニルプロパノン(BASF社製品名;Irgacure1173)、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシメチルプロパノン(BASF社製品名;Irgacure2959)、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2一ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル]フェニル}-2-メチル-1-プロパン-1-オン(BASF社製品名;Irgacure127)、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン(BASF社製品名;Irgacure907)、2-ベンジル-2-(ジメチルアミノ)-4-モルホリノブチロフェノン(BASF社製品名;Irgacure369)などのアセトフェノン類;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、1-ヒドロキシシクロへキシルフェニルケトン(BASF社製品名;Irgacure184)などのベンゾイン類;ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、メチル-o-ベンゾイルベンゾエート、4-フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、ヒドロキシプロピルベンゾフェノン、アクリルベンゾフェノン、4,4′-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4′-ジクロロベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類;チオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、ジエチルチオキサントン、ジメチルチオキサントンなどのチオキサントン類;2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルホスフィンオキシド(BASF社製品名;IrgacureTPO)、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド(BASF社製品名;Irgacure819)などの、アシルホスフィンオキサイド類;オキシフェニル酢酸、2-[2-オキソ-2-フェニルアセトキシエトキシ]エチルエステルとオキシフェニル酢酸、2-(2-ヒドロキシエトキシ)エチルエステルの混合物(BASF社製品名;Irgacure754)、ベンゾイルギ酸メチル(BASF社製品名;IrgacureMBF)、α-アシルオキシムエステル、ベンジル-(o-エトキシカルボニル)-α-モノオキシム、グリオキシエステル、2-エチルアンスラキノン、カンファーキノン、テトラメチルチウラムスルフィド、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルペルオキシド、ジアルキルペルオキシド、tert-ブチルペルオキシピバレート等が挙げられる。
【0024】
「溶媒」とは、本発明のコーティング膜形成用組成物に使用される溶媒であり、水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、アルコールが挙げられる。アルコールとしては、炭素原子数2~6のアルコール、例えば、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、2,2-ジメチル-1-プロパノール(=ネオペンチルアルコール)、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-1-ブタノール、2-メチル-2-ブタノール(=t-アミルアルコール)、3-メチル-1-ブタノール、3-メチル-3-ペンタノール、シクロペンタノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノール、2,3-ジメチル-2-ブタノール、3,3-ジメチル-1-ブタノール、3,3-ジメチル-2-ブタノール、2-エチル-1-ブタノール、2-メチル-1-ペンタノール、2-メチル-2-ペンタノール、2-メチル-3-ペンタノール、3-メチル-1-ペンタノール、3-メチル-2-ペンタノール、3-メチル-3-ペンタノール、4-メチル-1-ペンタノール、4-メチル-2-ペンタノール、4-メチル-3-ペンタノール及びシクロヘキサノールが挙げられ、単独で又はそれらの組み合わせの混合溶媒を用いてもよいが、共重合体の溶解性の観点から、水、PBS、エタノール及びプロパノールから選ばれるのが好ましい。
【0025】
「生体物質」とは、蛋白質、糖、核酸、細胞又はそれらの組み合わせが挙げられる。例えば蛋白質としてはフィブリノゲン、牛血清アルブミン(BSA)、ヒトアルブミン、各種グロブリン、β-リポ蛋白質、各種抗体(IgG、IgA、IgM)、ペルオキシダーゼ、各種補体、各種レクチン、フィブロネクチン、リゾチーム、フォン・ヴィレブランド因子(vWF)、血清γ-グロブリン、ペプシン、卵白アルブミン、インシュリン、ヒストン、リボヌクレアーゼ、コラーゲン、シトクロームc、例えば糖としてはグルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、ヘパリン、ヒアルロン酸、例えば核酸としてはデオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、例えば細胞としては線維芽細胞、骨髄細胞、Bリンパ球、Tリンパ球、好中球、赤血球、血小板、マクロファージ、単球、骨細胞、周皮細胞、樹枝状細胞、ケラチノサイト、脂肪細胞、間葉細胞、上皮細胞、表皮細胞、内皮細胞、血管内皮細胞、肝実質細胞、軟骨細胞、卵丘細胞、神経系細胞、グリア細胞、ニューロン、オリゴデンドロサイト、マイクログリア、星状膠細胞、心臓細胞、食道細胞、筋肉細胞(例えば、平滑筋細胞又は骨格筋細胞)、膵臓ベータ細胞、メラニン細胞、造血前駆細胞、単核細胞、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性腫瘍細胞、胚性生殖幹細胞、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、肝幹細胞、膵幹細胞、筋幹細胞、生殖幹細胞、腸幹細胞、癌幹細胞、毛包幹細胞、及び各種細胞株(例えば、HCT116、Huh7、HEK293(ヒト胎児腎細胞)、HeLa(ヒト子宮頸癌細胞株)、HepG2(ヒト肝癌細胞株)、UT7/TPO(ヒト白血病細胞株)、CHO(チャイニーズハムスター卵巣細胞株)、MDCK、MDBK、BHK、C-33A、HT-29、AE-1、3D9、Ns0/1、Jurkat、NIH3T3、PC12、S2、Sf9、Sf21、High Five、Vero)等が挙げられる。
【0026】
「生体物質の付着抑制能を有する」とは、例えば、
生体物質が血小板の場合、再表2016/093293の実施例に記載した方法で行う血小板付着試験にて、コーティング膜無しと比較した場合の相対血小板付着数(%)((実施例の血小板付着数(個))/(比較例の血小板付着数(個)))が50%以下、好ましくは30%以下、さらに好ましくは20%以下であることを意味し;
生体物質がタンパク質の場合、実施例に記載した方法で行うQCM-D測定にて、コーティング膜無しと比較した場合の相対単位面積当たりの質量(%)((実施例の単位面積当たりの質量(ng/cm2)/(比較例の単位面積当たりの質量(ng/cm2)))が50%以下、好ましくは30%以下、さらに好ましくは20%以下であることを意味し;
生体物質が細胞の場合、再表2016/093293の実施例に記載した方法で行う蛍光顕微鏡によるコーティング膜無しと比較した場合の相対吸光度(WST O.D.450nm)(%)((実施例の吸光度(WST O.D.450nm))/(比較例の吸光度(WST O.D.450nm)))が50%以下、好ましくは30%以下、さらに好ましくは20%以下であることを意味する。
【0027】
<共重合体含有ワニスの製造方法>
本発明は、下記式(1)及び式(2):
【化7】
【化8】
(式(1)中、R
1は水素原子又はメチル基を表し、R
2は炭素原子数1~6のアルキレン基を表し、nは1~30の整数を示し、式(2)中、R
11は水素原子又はメチル基を表し、A
1はカチオン性を有する1価の有機基を表す)で表される化合物を含むモノマー混合物を重合用溶媒中、ラジカル重合開始剤存在下で共重合させる工程を含む、共重合体含有ワニスの製造方法であって、
上記モノマー混合物が含むリン含有化合物中の、式(1)で表される化合物の質量%(純度)が70質量%以上である、製造方法である。
【0028】
本発明において「モノマー混合物」は、上記式(1)及び式(2)で表される化合物全ての他、共重合反応工程に供されるすべての化合物を含む混合物を指す。すなわち、「モノマー混合物が含むリン含有化合物中の、式(1)で表される化合物の質量%(絶対質量%)」とは、共重合反応工程に供されるモノマー混合物が含むリン含有化合物の総量に対する、式(1)で表される化合物の純度(含有量)が70質量%以上である、と言い換えてよい。
【0029】
上記リン含有化合物とは、化合物一分子中少なくとも1つ以上のリン原子を含む化合物を意味し、式(1)で表される化合物の他、式(1)で表される化合物に由来する不純物(例えば、式(1)で表される化合物の二量体に相当する、リン酸ジエステル化合物等)である。
【0030】
nは1~30の整数を示すが、1~20の整数、1~10の整数、1~7の整数、2~6の整数、3~5の整数であることが好ましい。
【0031】
式(1)で表される化合物は、特開2018-27927号公報に記載のモノマーを使用してもよい。
【0032】
上記共重合体製造に使用されるモノマー混合物が含むリン含有化合物中の、式(1)で表される化合物の質量%(絶対質量%)は、例えば実施例に記載のリン含有化合物の組成分析により求められる。
【0033】
式(1)で表される化合物の、リン含有化合物中の質量%(絶対質量%)が70質量%以上、75質量%以上、80質量%以上、85質量%以上、90質量%以上、95質量%以上であることが好ましい。最も好ましくは、100質量%である。
【0034】
本発明に係る共重合体中における式(1)で表される化合物から誘導される繰り返し単位の割合は、後述する式(2)で表される化合物のR21がリン酸ジエステル結合で中断されている炭素原子数1~6のアルキレン基である場合、5モル%~80モル%であり、好ましくは7モル%~70モル%であり、好ましくは8モル%~65モル%であり、さらに好ましくは10モル%~60モル%である。
【0035】
本発明に係る共重合体中における式(1)で表される化合物から誘導される繰り返し単位の割合は、後述する式(2)で表される化合物のR21がリン酸ジエステル結合で中断されていない(すなわちR21が炭素原子数1~6のアルキレン基である)場合、10モル%~80モル%であり、好ましくは30モル%~70モル%であり、さらに好ましくは40モル%~60モル%である。
【0036】
なお、本発明に係る共重合体は、2種以上の式(1)で表される化合物から誘導される繰り返し単位を含んでいてもよいが、好ましくは1種又は2種であり、好ましくは1種である。
【0037】
本発明に係る共重合体中における式(2)で表される化合物から誘導される繰り返し単位の割合は、全共重合体に対して上記式(1)を差し引いた残部全てでも良いし、上記式(1)と下記に記述する第3成分との合計割合を差し引いた残部であってもよい。なお、本発明に係る共重合体は、2種以上の式(2)で表される化合物から誘導される繰り返し単位を含んでいてもよい。
【0038】
本発明に係るモノマー混合物は、さらに任意の第3成分として、エチレン性不飽和モノマー、又は多糖類若しくはその誘導体を含んでいてもよい。エチレン性不飽和モノマーの例としては、(メタ)アクリル酸及びそのエステル;酢酸ビニル;ビニルピロリドン;エチレン;ビニルアルコール;並びにそれらの親水性の官能性誘導体からなる群より選択される1種又は2種以上のエチレン性不飽和モノマーを挙げることができる。多糖類又はその誘導体の例としては、ヒドロキシアルキルセルロース(例えば、ヒドロキシエチルセルロース又はヒドロキシプロピルセルロース)等のセルロース系高分子、デンプン、デキストラン、カードランを挙げることができる。
【0039】
親水性の官能性誘導体とは、親水性の官能基又は構造を有するエチレン性不飽和モノマーを指す。親水性の官能性基又は構造の例としては、アミド構造;アルキレングリコール残基;アミノ基;並びにスルフィニル基等が挙げられる。
【0040】
アミド構造は、下記式:
【化9】
[ここで、R
16、R
17及びR
18は、互いに独立して、水素原子又は有機基(例えば、メチル基、ヒドロキシメチル基又はヒドロキシエチル基等)である]
で表される基を意味する。そのような構造を有するエチレン性不飽和モノマーの例としては、(メタ)アクリルアミド、N-(ヒドロキシメチル)(メタ)アクリルアミド等を挙げることができる。さらに、そのような構造を有するモノマー又はポリマーは、例えば、特開2010-169604号公報等に開示されている。
【0041】
アルキレングリコール残基は、アルキレングリコール(HO-Alk-OH;ここでAlkは、炭素原子数1~10のアルキレン基である)の片側端末又は両端末の水酸基が他の化合物と縮合反応した後に残るアルキレンオキシ基(-Alk-O-)を意味し、アルキレンオキシ単位が繰り返されるポリ(アルキレンオキシ)基も包含する。そのような構造を有するエチレン性不飽和モノマーの例としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等を挙げることができる。さらに、そのような構造を有するモノマー又はポリマーは、例えば、特開2008-533489号公報等に開示されている。
【0042】
アミノ基は、式:-NH2、-NHR19又は-NR20R21[ここで、R19、R20及びR21は、互いに独立して、有機基(例えば、炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基等)である]で表される基を意味する。本発明におけるアミノ基には、4級化又は塩化されたアミノ基を包含する。そのような構造を有するエチレン性不飽和モノマーの例としては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2-(t-ブチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、メタクリロイルコリンクロリド等を挙げることができる。
【0043】
スルフィニル基は、下記式:
【化10】
[ここで、R
22は、有機基(例えば、炭素原子数1~10の有機基、好ましくは、1個以上のヒドロキシ基を有する炭素原子数1~10のアルキル基等)である]
で表される基を意味する。そのような構造を有するポリマーとして、特開2014-48278号公報等に開示された共重合体を挙げることができる。
【0044】
(共重合体の重量平均分子量)
本発明に係る共重合体の重量分子量は数千から数百万程度であれば良く、好ましくは5,000~5,000,000である。さらに好ましくは、10,000~2,000,000である。また、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体のいずれでも良く、該共重合体を製造するための共重合反応それ自体には特別の制限はなく、ラジカル重合やイオン重合や光重合、マクロマー、乳化重合を利用した重合等の公知の溶液中で合成される方法を使用できる。これらは目的の用途によって、本発明の共重合体のうちいずれかを単独使用することもできるし、複数の共重合体を混合し、且つその比率は変えて使用することもできる。
【0045】
(共重合反応)
本発明の共重合体含有ワニスは、上記式(1)及び(2)で表される化合物を含むモノマー混合物を、重合用溶媒中で、両化合物の合計濃度0.01質量%~20質量%にて反応(重合)させる工程を含む製造方法により製造することができる。
【0046】
ラジカル重合開始剤の添加量としては、重合に用いられるモノマーの合計重量に対し、0.05質量%~10質量%である。
【0047】
反応条件は反応容器をオイルバス等で50℃~200℃に加熱し、1時間~48時間、より好ましくは80℃~150℃、5時間~30時間攪拌を行うことで、重合反応が進み本発明の共重合体が得られる。反応雰囲気は大気化でもよいが、窒素雰囲気が好ましい。
【0048】
反応手順としては、式(1)及び式(2)で表される化合物、その他必要に応じて第3成分モノマーを室温の重合用溶媒に全て入れてから、上記温度に加熱して重合させてもよいし、あらかじめ加温した重合用溶媒中に、式(1)及び式(2)で表される化合物、その他必要に応じて第3成分モノマーの混合物全部又は一部を少々ずつ滴下してもよい。
【0049】
後者の反応手順によれば、本発明の共重合体含有ワニスは、上記式(1)及び式(2)で表される化合物を含むモノマー混合物、重合用溶媒及び重合開始剤を含む混合物を、重合開始剤の10時間半減期温度より高い温度に保持した溶媒に滴下し、反応(重合)させる工程を含む製造方法により調製することができる。
【0050】
上記A1は、カチオン性を有する1価の有機基は、陽イオン性を有する有機基であり、例えば3級アミンや4級アンモニウム塩を含む基が挙げられる。又、上記A1は、芳香環を含むカチオン性基でもよく、例えばピリジン骨格を含む基等が挙げられる。
【0051】
上記A
1が、下記式(2-1):
【化11】
(U
b1、U
b2及びU
b3は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、An
-は、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表す)で表される構造を含むことが好ましい。
【0052】
上記An-として好ましいのは、ハロゲン化物イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンであり、特に好ましいのはハロゲン化物イオンである。
【0053】
上記A
1が、下記式(2-2):
【化12】
(R
21は、リン酸ジエステル結合で中断されていてもよい炭素原子数1~6のアルキレン基を表し、U
b1、U
b2及びU
b3は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、An
-は、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表す)で表されることが好ましい。
【0054】
上記式(2-2)で表される構造は、ベタイン構造であってよい。ベタイン構造は、第4級アンモニウム型の陽イオン構造と、酸性の陰イオン構造との両性中心を持つ化合物の一価又は二価の基を意味し、例えば、ホスホリルコリン基:
【化13】
を挙げることができる。そのような構造を有する式(2)で表される化合物の例としては、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)等を挙げることができる。
【0055】
<コーティング膜形成用組成物の製造方法>
下記式(1)及び式(2):
【化14】
【化15】
(式(1)中、R
1は水素原子又はメチル基を表し、R
2は炭素原子数1~6のアルキレン基を表し、nは1~30の整数を示し、式(2)中、R
11は水素原子又はメチル基を表し、A
1はカチオン性を有する1価の有機基を表す)で表される化合物を含むモノマー混合物を重合用溶媒中、ラジカル重合開始剤存在下で共重合させる工程、次いで溶媒を添加する工程を含む、コーティング膜形成用組成物の製造方法であって、
上記モノマー混合物が含むリン含有化合物中の、式(1)で表される化合物の質量%(純度)が70質量%以上である製造方法、である。本発明の方法によれば、共重合体のゲル化等が起こらず、共重合体が安定して溶媒中に溶解又は均一に分散しているコーティング膜形成用組成物が製造できる。
【0056】
本発明のコーティング膜形成用組成物は、上記のように各化合物を含むモノマー混合物を共重合させたのち、自体公知の方法で上記溶媒を添加することで製造される。
【0057】
本発明のコーティング膜形成用組成物の製造方法は、好ましくは生体物質への適合性を有するコーティング膜形成用組成物の製造方法である。
【0058】
生体物質への適合性とは、上述の生体物質の付着抑制能の他、細胞培養促進性を有する(例えば特開2014-162865号公報に記載の細胞培養容器被覆用ポリマーや、特願2018-157444号公報記載の細胞培養の下地膜形成用である)ことを意味する。
【0059】
本発明に係るコーティング膜形成用組成物中の固形分の濃度としては、均一にコーティング膜を形成させるために、0.01~50質量%が望ましい。また、コーティング膜形成用組成物中の共重合体の濃度としては、好ましくは0.01~4質量%、より好ましくは0.01~3質量%、特に好ましくは0.01~2質量%、さらに好ましくは0.01~1質量%である。共重合体の濃度が0.01質量%以下であると、得られるコーティング膜形成用組成物の共重合体の濃度が低すぎて十分な膜厚のコーティング膜が形成できず、4質量%以上であると、コーティング膜形成用組成物の保存安定性が悪くなり、溶解物の析出やゲル化が起こる可能性がある。
【0060】
本発明に係るコーティング膜形成用組成物中の共重合体のイオンバランスを調節するために、本発明のコーティング膜を得る際には、さらにコーティング膜形成用組成物中のpHを予め調整する工程を含んでいてもよい。pH調整は、例えば上記共重合体と溶媒を含む組成物にpH調整剤を添加し、該組成物のpHを3.0~13.5、好ましくは3.5~8.5、さらに好ましくは3.5~7.0とするか、あるいは好ましくは8.5~13.5、さらに好ましくは10.0~13.5とすることにより実施してもよい。使用しうるpH調整剤の種類及びその量は、上記共重合体の濃度や、そのアニオンとカチオンの存在比等に応じて適宜選択される。
【0061】
pH調整剤の例としては、アンモニア、ジエタノールアミン、ピリジン、N-メチル-D-グルカミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン等の有機アミン;水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物;塩化カリウム、塩化ナトリウム等のアルカリ金属ハロゲン化物;硫酸、リン酸、塩酸、炭酸等の無機酸又はそのアルカリ金属塩;コリン等の4級アンモニウムカチオン、あるいはこれらの混合物(例えば、リン酸緩衝生理食塩水等の緩衝液)を挙げることができる。これらの中でも、アンモニア、ジエタノールアミン、水酸化ナトリウム、コリン、N-メチル-D-グルカミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンが好ましく、特にアンモニア、ジエタノールアミン、水酸化ナトリウム及びコリンが好ましい。
【0062】
したがって本発明は、(i)上記式(1)で表される化合物から誘導される繰り返し単位と、上記式(2)で表される化合物から誘導される繰り返し単位とを含む共重合体、(ii)溶媒、及び場合により(iii)pH調整剤を含む、コーティング膜形成用組成物の製造方法に関する。共重合体、溶媒及びpH調整剤の具体例は、上記のとおりである。
【0063】
さらに本発明のコーティング膜形成用組成物は、上記共重合体と溶媒の他に、必要に応じて得られるコーティング膜の性能を損ねない範囲で他の物質を添加することもできる。他の物質としては、防腐剤、界面活性剤、基材との密着性を高めるプライマー、防カビ剤及び糖類等が挙げられる。
【0064】
<コーティング膜の製造方法>
本発明のコーティング膜の製造方法は、上述したコーティング膜形成用組成物を基板に塗布する工程を含むコーティング膜の製造方法、である。
【0065】
本発明に係るコーティング膜形成用組成物を基体に塗布し、乾燥させてコーティング膜を形成する。
【0066】
本発明のコーティング膜を形成するための基体としては、ガラス、金属含有化合物若しくは半金属含有化合物、活性炭又は樹脂を挙げることができる。金属含有化合物若しくは半金属含有化合物は、例えば基本成分が金属酸化物で、高温での熱処理によって焼き固めた焼結体であるセラミックス、シリコンのような半導体、金属酸化物若しくは半金属酸化物(シリコン酸化物、アルミナ等)、金属炭化物若しくは半金属炭化物、金属窒化物若しくは半金属窒化物(シリコン窒化物等)、金属ホウ化物若しくは半金属ホウ化物などの無機化合物の成形体など無機固体材料、アルミニウム、ニッケルチタン、ステンレス(SUS304、SUS316、SUS316L等)が挙げられる。
【0067】
樹脂としては、天然樹脂又は合成樹脂いずれでもよく、天然樹脂としてはセルロース、三酢酸セルロース(CTA)、デキストラン硫酸を固定化したセルロース等、合成樹脂としてはポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエステル系ポリマーアロイ(PEPA)、ポリスチレン(PS)、ポリスルホン(PSF)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリウレタン(PU)、エチレンビニルアルコール(EVAL)、ポリエチレン(PE)、ポリエステル(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、超高分子量ポリエチレン(UHPE)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(ABS)、テフロン(登録商標)、シクロオレフィンポリマー(COP)(例えば、ZEONOR(登録商標)、ZEONEX(登録商標)(日本ゼオン(株)製))又は各種イオン交換樹脂等が好ましく用いられるが、ポリスチレン(PS)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリプロピレン(PP)及びシクロオレフィンポリマー(COP)がより好ましく、ポリスチレン(PS)及びポリエーテルスルホン(PES)が特に好ましい。本発明のコーティング膜は、低温乾燥にて形成できるため、耐熱性が低い樹脂等にも適用可能である。
【0068】
本発明のコーティング膜を形成すべく、上記のコーティング膜形成用組成物を基体の表面の少なくとも一部にコーティングする。塗布方法としては特に制限は無く、通常のスピンコート、ディップコート、溶媒キャスト法等の塗布法が用いられる。
【0069】
本発明に係るコーティング膜の乾燥工程は、大気下又は真空下にて、好ましくは、温度-200℃~200℃の範囲内で行なう。乾燥工程により、上記コーティング膜形成用組成物中の溶媒を取り除くと共に、本発明に係る共重合体の式(1)で表される化合物のリン酸部分と及び式(2)で表される化合物のカチオン性部分がイオン結合を形成して基体へ完全に固着する。
【0070】
コーティング膜は、例えば室温(10℃~35℃、例えば25℃)での乾燥でも形成することができるが、より迅速にコーティング膜を形成させるために、例えば40℃~50℃にて乾燥させてもよい。またフリーズドライ法による極低温~低温(-200℃~-30℃前後)での乾燥工程を用いてもよい。フリーズドライは真空凍結乾燥と呼ばれ、通常乾燥させたいものを冷媒で冷却し、真空状態にて溶媒を昇華により除く方法である。フリーズドライで用いられる一般的な冷媒は、ドライアイスとメタノールの混合媒体(-78℃)、液体窒素(-196℃)等が挙げられる。
【0071】
乾燥温度が-200℃以下であると、一般的ではない冷媒を使用しなければならず汎用性に欠けることと、溶媒昇華のために乾燥に長時間を要し効率が悪い。乾燥温度が200℃以上であると、コーティング膜表面のイオン結合反応が進みすぎて該表面が親水性を失い、生体物質付着抑制能が発揮されない。より好ましい乾燥温度は10℃~190℃、10℃~180℃、10℃~170℃、10℃~160℃、20℃~180℃、20℃~170℃、20℃~160℃、20℃~150℃、25℃~150℃である。
【0072】
乾燥後、該コーティング膜上に残存する不純物、未反応モノマー等を無くすため、さらには膜中の共重合体のイオンバランスを調節するために、水及び電解質を含む水溶液から選ばれる少なくとも1種の溶媒で洗浄する工程を実施してもよい。洗浄は、流水洗浄又は超音波洗浄等が望ましい。上記水及び電解質を含む水溶液は例えば40℃~95℃の範囲で加温されたものでもよい。電解質を含む水溶液は、PBS、生理食塩水(塩化ナトリウムのみを含むもの)、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水、トリス緩衝生理食塩水、HEPES緩衝生理食塩水及びベロナール緩衝生理食塩水が好ましく、PBSが特に好ましい。固着後は水、PBS及びアルコール等で洗浄してもコーティング膜は溶出せずに基体に強固に固着したままである。形成されたコーティング膜は生体物質が付着してもその後水洗等にて容易に除去することができ、本発明のコーティング膜が形成された基体表面は、生体物質の付着抑制能を有する。
【0073】
本発明のコーティング膜の応用事例として例えば人工透析器のフィルター用コーティング膜があるが、本発明のコーティング膜はフィルターへ使用される合成樹脂(例えばPES、PS及びPSF等)へのコーティング膜の固着性、固着後の耐久性も良好である。基体の形態は特に制限されず、基板、繊維、粒子、ゲル形態、多孔質形態等が挙げられ、形状は平板でも曲面でもよい。
【0074】
例えば人工透析器のフィルター用コーティング膜とする場合は、上記素材で作成された例えば直径0.1~500μmの中空糸形状をしたフィルターの内側に本発明に係るコーティング膜形成用組成物を通液し、その後乾燥工程、洗浄工程(熱水(例えば40℃~95℃)洗浄等)を経て作製することができる。
【0075】
必要に応じて、滅菌のためにγ線、エチレンオキサイド、オートクレーブ等の処理がされる場合もある。
【0076】
本発明のコーティング膜の膜厚は、好ましくは10~1000Åであり、さらに好ましくは10~500Åであり、最も好ましくは20~400Åである。
【0077】
本発明のコーティング膜は、生体物質の付着抑制能を有するので、医療用基材用コーティング膜として好適に用いることができる。例えば、白血球除去フィルター、輸血フィルター、ウイルス除去フィルター、微小凝血塊除去フィルター、血液浄化用モジュール、人工心臓、人工肺、血液回路、人工血管、血管バイパスチューブ、医療用チューブ、人工弁、カニューレ、ステント、カテーテル、血管内カルーテル、バルーンカテーテル、ガイドワイヤー、縫合糸、留置針、シャント、人工関節、人工股関節、血液バッグ、血液保存容器、手術用補助器具、癒着防止膜、創傷被覆材などにおいて好適に用いることができる。ここで、血液浄化用モジュールとは、血液を体外に循環させて、血中の老廃物や有害物質を取り除く機能を有したモジュールのことをいい、人工腎臓、毒素吸着フィルターやカラムなどが挙げられる。
【0078】
また、本発明のコーティング膜は、フラスコ、ディッシュ、プレート等の細胞培養容器や、蛋白質の付着を抑えた各種研究用器具のコーティング膜として有用である。
【0079】
また、本発明のコーティング膜形成用組成物は、化粧品用材料、コンタクトレンズケア用品用材料、スキンケア用繊維加工剤、生化学研究用診断薬用材料、臨床診断法で広く用いられている酵素免疫測定(ELISA)法やラテックス凝集法における非特異的吸着を抑制するためのブロッキング剤、酵素や抗体などの蛋白質を安定化するための安定化剤としても有用である。
【0080】
さらに本発明のコーティング膜は、トイレタリー、パーソナルケア用品、洗剤、医薬品、医薬部外品、繊維、防汚材向けのコーティング膜としても有用である。
【実施例】
【0081】
以下に実施例等を参照して本発明を更に詳しく説明するが、本発明は以下の実施例等によってなんら制限を受けるものではない。
【0082】
<モノマーの純度測定方法>
下記合成例に用いたアシッドホスホオキシポリプロピレングリコールモノメタクリレート(プロピレンオキサイドの平均付加モル数5)(製品名;PPM-5P、東邦化学(株)製)の質量%(純度)は、31P-NMR測定を用いたリン含有化合物の組成分析ののち、アシッドホスホオキシポリプロピレングリコールモノメタクリレート(プロピレンオキサイドの平均付加モル数5)の付加モル数を5としたときの分子量を用いた換算により求めた。
(31P-NMR測定条件)
・装置:AVANCE III HD(500MHz)
・溶媒:重アセトン
・測定温度:室温(23℃)
・測定条件:ノンデカップリング法
・測定データポイント:131072(128k)
・パルス幅:90°パルス(14μsec.)
・測定範囲:-50~10ppm
・積算回数:256回
【0083】
<共重合体の分子量測定方法>
下記合成例に示す共重合体の重量平均分子量は、Gel Filtration Chromatography(以下、GFCと略称する)による測定結果である。
(測定条件)
・装置:HLC-8320GPC(東ソー(株)製)
・GFCカラム:TSKgel GMPWXL(7.8mmI.D.×30cm)×2~3本
・溶離液:イオン性物質含有水溶液、若しくはEtOH(エタノール)の混合溶液
・カラム温度:40℃
・検出器:RI
・注入濃度:ポリマー固形分0.05~0.5%
・注入量:100μL
・検量線:三次近似曲線
・標準試料:ポリエチレンオキサイド(Agilent社製)×10種
【0084】
<合成例1>
アシッドホスホオキシポリプロピレングリコールモノメタクリレート(プロピレンオキサイドの平均付加モル数5)(製品名;PPM-5P、東邦化学(株)製、質量%(純度)95.6質量%)2.27gにエタノール16.70gを加え、十分に溶解した。次いで、メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル(東京化成工業(株)製)0.80g、純水11.23gを加え、よく撹拌した後、ジメチル1,1′-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボキシレート)(製品名;VE-073、富士フイルム和光純薬(株)製)15.7mgを加えた。十分に撹拌して均一となった上記すべてのものが入った混合溶液が入った100mLフラスコ内を窒素置換し、撹拌しながらリフラックス温度まで昇温した(オイルバス温度:95℃に設定)。24時間上記環境を維持した状態で加熱撹拌することで固形分約10.60質量%の共重合体含有ワニスを得た。得られた透明液体のGFCにおける重量平均分子量は約310,000であった。
【0085】
<合成例2>
純水10.46gとエタノール10.14gの混合溶媒に2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC、東京化成工業(株)製)0.89g及びアシッドホスホオキシポリプロピレングリコールモノメタクリレート(プロピレンオキサイドの平均付加モル数5)(製品名;PPM-5P、東邦化学(株)製、質量%(純度)95.6質量%)1.37gを加え、よく撹拌した。次いで、ジメチル1,1′-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボキシレート)(製品名;VE-073、富士フイルム和光純薬(株)製)6mgを加え、均一になるまで十分に撹拌した。この混合溶液が入った100mLフラスコ内を窒素置換し、70℃に昇温後7時間加熱撹拌することで、固形分約9.93質量%の共重合体含有ワニスを得た。得られた透明液体のGFCにおける重量平均分子量は約750,000であった。
【0086】
<合成例3>
純水8.51gとエタノール8.59gの混合溶媒に2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC、東京化成工業(株)製)1.25g及びアシッドホスホオキシポリプロピレングリコールモノメタクリレート(プロピレンオキサイドの平均付加モル数5)(製品名;PPM-5P、東邦化学(株)製、質量%(純度)95.6質量%)0.84gを加え、よく撹拌した。次いで、ジメチル1,1′-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボキシレート)(製品名;VE-073、富士フイルム和光純薬(株)製)6mgを加え、均一になるまで十分に撹拌した。この混合溶液が入った100mLフラスコ内を窒素置換し、70℃に昇温後7時間加熱撹拌することで、固形分約11.20質量%の共重合体含有ワニスを得た。得られた透明液体のGFCにおける重量平均分子量は約710,000であった。
【0087】
<合成例4>
純水8.60gとエタノール8.52gの混合溶媒に2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC、東京化成工業(株)製)1.62g及びアシッドホスホオキシポリプロピレングリコールモノメタクリレート(プロピレンオキサイドの平均付加モル数5)(製品名;PPM-5P、東邦化学(株)製、質量%(純度)95.6質量%)0.28gを加え、よく撹拌した。次いで、ジメチル1,1′-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボキシレート)(製品名;VE-073、富士フイルム和光純薬(株)製)6mgを加え、均一になるまで十分に撹拌した。この混合溶液が入った100mLフラスコ内を窒素置換し、70℃に昇温後7時間加熱撹拌することで、固形分約10.36質量%の共重合体含有ワニスを得た。得られた透明液体のGFCにおける重量平均分子量は約390,000であった。
【0088】
<合成例5~12>
合成例1に準じ、表に示す単量体及び組成比の単量体組成物を用いてポリマーを得た。得られたポリマーの分子量を合成例1と同様に分析した結果を表1に示す。
【0089】
なお、表1中のPEM5Pはアシッドホスホオキシエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキサイドの平均付加モル数5)(製品名;PEM-5P、東邦化学(株)製、質量%(純度)87.4質量%)、MHPはアシッドホスホオキシヘキシルモノメタクリレート(製品名;MHP、東邦化学(株)製、質量%(純度)94.2質量%)、DMMAはメタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル(東京化成工業(株)製)、DEMAはメタクリル酸2-(ジエチルアミノ)エチル(東京化成工業(株)製)、MACCはメタクロイルコリンクロリド約80%水溶液(東京化成工業(株)製)をそれぞれ示す。
【0090】
また、PEM5P、MHPの質量%(純度)は合成例1~4に記載のPPM5Pと同様の手法により組成分析をした。PEM5Pについては、エチレンオキサイドの付加モル数を5としたときの分子量を用いた換算により求めた。
【0091】
【0092】
<比較合成例1>
下記に記載のアシッドホスホオキシエチルメタクリレートのリン含有化合物の質量%は、再表2016/093293号に記載の、31P-NMR測定により求めた値である。
アシッドホスホオキシエチルメタクリレート(製品名;ホスマーM、ユニケミカル(株)製、乾固法100℃・1時間における不揮発分:91.8%、各成分の質量%:アシッドホスホオキシエチルメタクリレート(44.2質量%)、リン酸ビス[2-(メタクリロイルオキシ)エチル](28.6質量%)、その他の物質(27.2質量%)の混合物)1.06gにエタノール9.22gを加え、十分に溶解した。次いで、メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル(東京化成工業(株)製)0.72g、純水6.00gを加え、よく撹拌した後、ジメチル1,1’-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボキシレート)(製品名;VE-073、富士フイルム和光純薬(株)製)8.6mgを加えた。十分に撹拌して均一となった上記すべてのものが入った混合溶液が入った50mLフラスコ内を窒素置換し、撹拌しながらリフラックス温度まで昇温した(オイルバス温度:95℃に設定)。この状態を維持し加熱撹拌したが、1時間以内に白色沈殿が生じた。
【0093】
<比較合成例2>
純水7.26g、とエタノール7.24gの混合溶媒に2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC、東京化成工業(株)製)0.90g及びアシッドホスホオキシエチルメタクリレート(製品名;ホスマーM、ユニケミカル(株)製、乾固法100℃・1時間における不揮発分:91.8%、各成分の質量%:アシッドホスホオキシエチルメタクリレート(44.2質量%)、リン酸ビス[2-(メタクリロイルオキシ)エチル](28.6質量%)、その他の物質(27.2質量%)の混合物)0.73gを加え、よく撹拌した。次いで、ジメチル1,1′-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボキシレート)(製品名;VE-073、富士フイルム和光純薬(株)製)6mgを加え、均一になるまで十分に撹拌した。この混合溶液が入った50mLフラスコ内を窒素置換し、70℃に昇温後この状態を維持し加熱撹拌したが、3時間以内に白色沈殿が生じた。
【0094】
<実施例1>
上記合成例1で得られた共重合体含有ワニス0.80gに、純水5.05g、エタノール1.94g、0.1mol/L塩酸(1N塩酸(関東化学(株)製)を純水にて10倍希釈し使用)0.20gを加えて十分に撹拌し、コーティング膜形成用組成物を調製した。pHは4.6であった。得られたコーティング膜形成用組成物を1500rpm/60secでHMDS処理済シリコンウェハにスピンコートし、乾燥工程として50℃のオーブンで24時間乾燥した。その後、リン酸緩衝液(以下、PBSと略する)で十分に洗浄を行った後50℃のオーブンで1時間乾燥し、HMDS処理済シリコンウェハ上にコーティング膜を得た。分光エリプソメーターでHMDS処理済シリコンウェハ上のコーティング膜の膜厚を確認したところ、3.9nmであった。
【0095】
<実施例2>
上記合成例1で得られた共重合体含有ワニス0.80gに、純水5.26g、エタノール1.94gを加えて十分に撹拌し、コーティング膜形成用組成物を調製した。pHは5.9であった。得られたコーティング膜形成用組成物を1500rpm/60secでHMDS処理済シリコンウェハにスピンコートし、乾燥工程として50℃のオーブンで24時間乾燥した。その後、リン酸緩衝液(以下、PBSと略する)で十分に洗浄を行った後50℃のオーブンで1時間乾燥し、HMDS処理済シリコンウェハ上にコーティング膜を得た。分光エリプソメーターでHMDS処理済シリコンウェハ上のコーティング膜の膜厚を確認したところ、4.0nmであった。
【0096】
<実施例3>
上記合成例1で得られた共重合体含有ワニス0.80gに、純水4.84g、エタノール1.95gを加えて十分に撹拌し、0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液(1N水酸化ナトリウム(関東化学(株)製)を純水にて10倍希釈し使用)0.26gを加えて十分に撹拌し、コーティング膜形成用組成物を調製した。pHは7.0であった。得られたコーティング膜形成用組成物を1500rpm/60secでHMDS処理済シリコンウェハにスピンコートし、乾燥工程として50℃のオーブンで24時間乾燥した。その後、リン酸緩衝液(以下、PBSと略する)で十分に洗浄を行った後50℃のオーブンで1時間乾燥し、HMDS処理済シリコンウェハ上にコーティング膜を得た。分光エリプソメーターでHMDS処理済シリコンウェハ上のコーティング膜の膜厚を確認したところ、3.9nmであった。
【0097】
<実施例4>
上記合成例2で得られた共重合体含有ワニス2.00gに、純水9.00g、エタノール9.00gを加えて十分に撹拌し、コーティング膜形成用組成物を調製した。pHは2.8であった。得られたコーティング膜形成用組成物を1500rpm/60secでHMDS処理済シリコンウェハにスピンコートし、乾燥工程として50℃のオーブンで24時間乾燥した。その後、PBSで十分に洗浄を行った後50℃のオーブンで1時間乾燥し、HMDS処理済シリコンウェハ上にコーティング膜を得た。分光エリプソメーターでHMDS処理済シリコンウェハ上のコーティング膜の膜厚を確認したところ、3.9nmであった。
【0098】
<実施例5>
上記合成例3で得られた共重合体含有ワニス2.00gに、純水9.00g、エタノール9.00gを加えて十分に撹拌し、コーティング膜形成用組成物を調製した。pHは3.1であった。得られたコーティング膜形成用組成物を1500rpm/60secでHMDS処理済シリコンウェハにスピンコートし、乾燥工程として50℃のオーブンで24時間乾燥した。その後、PBSで十分に洗浄を行った後50℃のオーブンで1時間乾燥し、HMDS処理済シリコンウェハ上にコーティング膜を得た。分光エリプソメーターでHMDS処理済シリコンウェハ上のコーティング膜の膜厚を確認したところ、3.5nmであった。
【0099】
<実施例6>
上記合成例4で得られた共重合体含有ワニス2.00gに、純水9.00g、エタノール9.00gを加えて十分に撹拌し、コーティング膜形成用組成物を調製した。pHは3.3であった。得られたコーティング膜形成用組成物を1500rpm/60secでHMDS処理済シリコンウェハにスピンコートし、乾燥工程として50℃のオーブンで24時間乾燥した。その後、PBSで十分に洗浄を行った後50℃のオーブンで1時間乾燥し、HMDS処理済シリコンウェハ上にコーティング膜を得た。分光エリプソメーターでHMDS処理済シリコンウェハ上のコーティング膜の膜厚を確認したところ、3.1nmであった。
【0100】
<実施例7>
上記合成例5で得られた共重合体含有ワニス1.00gに、純水2.60g、エタノール6.40gを加えて十分に撹拌し、コーティング膜形成用組成物を調製した。pHは3.6であった。得られたコーティング膜形成用組成物を1500rpm/60secでHMDS処理済シリコンウェハにスピンコートし、乾燥工程として50℃のオーブンで24時間乾燥した。その後、PBSで十分に洗浄を行った後50℃のオーブンで1時間乾燥し、HMDS処理済シリコンウェハ上にコーティング膜を得た。分光エリプソメーターでHMDS処理済シリコンウェハ上のコーティング膜の膜厚を確認したところ、3.5nmであった。
【0101】
<実施例8>
上記合成例8で得られた共重合体含有ワニス1.00gに、純水2.60g、エタノール6.40gを加えて十分に撹拌し、コーティング膜形成用組成物を調製した。pHは6.8であった。得られたコーティング膜形成用組成物を1500rpm/60secでHMDS処理済シリコンウェハにスピンコートし、乾燥工程として50℃のオーブンで24時間乾燥した。その後、PBSで十分に洗浄を行った後50℃のオーブンで1時間乾燥し、HMDS処理済シリコンウェハ上にコーティング膜を得た。分光エリプソメーターでHMDS処理済シリコンウェハ上のコーティング膜の膜厚を確認したところ、3.8nmであった。
【0102】
<実施例9>
上記合成例10で得られた共重合体含有ワニス1.00gに、純水2.50g、エタノール6.40gを加えて十分に撹拌し、0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液(1N水酸化ナトリウム(関東化学(株)製)を純水にて10倍希釈し使用)0.11gを加えて十分に撹拌し、コーティング膜形成用組成物を調製した。pHは4.2であった。得られたコーティング膜形成用組成物を1500rpm/60secでHMDS処理済シリコンウェハにスピンコートし、乾燥工程として50℃のオーブンで24時間乾燥した。その後、PBSで十分に洗浄を行った後50℃のオーブンで1時間乾燥し、HMDS処理済シリコンウェハ上にコーティング膜を得た。分光エリプソメーターでHMDS処理済シリコンウェハ上のコーティング膜の膜厚を確認したところ、3.7nmであった。
【0103】
<参考例1>
Lipidure-CM5206(日油(株)製)0.25gにエタノール49.75gを加え十分に撹拌しコーティング膜形成用組成物を調製した。得られたコーティング膜形成用組成物を1500rpm/60secでHMDS処理済シリコンウェハにスピンコートし、乾燥工程として50℃のオーブンで24時間乾燥した。その後、PBSで十分に洗浄を行った後50℃のオーブンで1時間乾燥し、HMDS処理済シリコンウェハ上にコーティング膜を得た。分光エリプソメーターでHMDS処理済シリコンウェハ上のコーティング膜の膜厚を確認したところ、25.4nmであった。
【0104】
<試験例1:細胞付着抑制効果>
(コーティングプレートの調製)
実施例1~3、8、9で調製したコーティング膜形成用組成物を、96穴細胞培養プレート(Corning社製、#351172、容積0.37mL、ポリスチレン製)の別々のウェルに200μL/ウェルとなるよう添加し、室温にて1時間静置後、過剰のワニスを除去した。オーブンを用いて50℃で24時間乾燥した。その後、コーティングした各ウェルを250μLの純水で3回ずつ洗浄し、50℃のオーブンを用いて1時間乾燥後、試験に用いた。陽性対照としては、参考例1にて調製したコーティング膜形成用組成物を、上記と同様の手法により96穴細胞培養プレート(Corning社製、#351172、容積0.37mL、ポリスチレン製)のウェルにコーティングしたものを用いた。陰性対照としては、コーティングを施していない96穴細胞培養プレート(Corning社製、#351172、容積0.37mL、ポリスチレン製)を用いた。
【0105】
(細胞の調製)
細胞は、マウス胚線維芽細胞(DSファーマバイオメディカル社製)を用いた。細胞の培養に用いた培地は、10%FBS(Sigma-Aldrich社製)とL-グルタミン-ペニシリン-ストレプトマイシン安定化溶液(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を含むBME培地(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いた。細胞は、37℃/CO2インキュベーター内にて5%二酸化炭素濃度を保った状態で、直径10cmのシャーレ(培地10mL)を用いて2日間以上静置培養した。引き続き、本細胞をPBS5mLで洗浄した後、0.25w/v%トリプシン-1mmol/L EDTA溶液(富士フイルム和光純薬(株)製)1mLを添加して細胞を剥がし、上記の培地10mLにてそれぞれ懸濁した。本懸濁液を遠心分離(株式会社トミー精工製、型番LC-200、1000rpm/3min、室温)後、上清を除き、上記の培地を添加して細胞懸濁液を調製した。
【0106】
(細胞付着実験)
上記にて調製したプレートの各ウェル、陽性対照、陰性対照に対して、それぞれの細胞懸濁液を1×104cells/ウェルになるように各150μL加えた。その後、5%二酸化炭素濃度を保った状態で、37℃で3日間CO2インキュベーター内にて静置した。
【0107】
(細胞付着の観察)
培養3日間後、上記にて調製したプレートの各ウェル、陽性対照及び陰性対照に対する細胞の付着を倒立型顕微鏡(オリンパス社製、CKX31)による観察(倍率:4倍)に基づき比較した。実施例1~3、8、9及び陽性対照のコーティング剤(参考例1)でコーティングしたプレートの各ウェルでは、細胞の付着は見られず、陰性対照のウェルでは細胞の付着が観察された。実施例1~3、陽性対照及び陰性対照の結果をそれぞれ
図1~5に示す。
【0108】
<試験例2:タンパク質吸着抑制効果>
(QCMセンサー(PS)の作成)
Au蒸着された水晶振動子(Q-Sence、QSX301)をソフトエッチング装置(メイワフォーシス(株)製、SEDE-GE)を用いて50mA/3min洗浄し、直後に2-アミンエタンチオール(東京化成工業(株)製)0.0772gをエタノール1000mLに溶解した溶液中に24時間浸漬した。エタノールでセンサー表面を洗浄後自然乾燥し、ポリスチレン(PS)(Sigma-Aldrich社製)1.00gをトルエン99.00gに溶解したワニスをスピンコーターにて3500rpm/30secで膜センサー側にスピンコートし、150℃/1min乾燥することでQCMセンサー(PS)とした。
【0109】
(QCMセンサー(SiO2)の作成)
SiO2蒸着された水晶振動子(Q-Sence、QSX303)をソフトエッチング装置(メイワフォーシス(株)製、SEDE-GE)を用いて50mA/3min洗浄し、そのまま用いた。
【0110】
(表面処理済QCMセンサー(PS)及び表面処理済QCMセンサー(SiO2)の調製)
実施例1~4、7~9、参考例1で得たコーティング膜形成用組成物を3500rpm/30secでQCMセンサー(PS)にスピンコートし、乾燥工程として50℃のオーブンで24時間焼成した。その後、洗浄工程として過剰のコーティング膜形成用組成物をPBSと純水にて各2回ずつ洗浄し、表面処理済QCMセンサー(PS)(基板No.1~5、11~13)を得た。同様に、実施例4~6で得たコーティング膜形成用組成物を3500rpm/30secでQCMセンサー(SiO2)にスピンコートし、乾燥工程として50℃のオーブンで24時間焼成した。その後、洗浄工程として過剰のコーティング膜形成用組成物をPBSと純水にて各2回ずつ洗浄し、表面処理済QCMセンサー(SiO2)(基板No.7~9)を得た。陽性対照としては、参考例1で得たコーティング膜形成用組成物をコーティングした表面処理済QCMセンサー(PS)(基板No.5)を用いた。陰性対照としては、QCMセンサー(PS)(基板No.6)及びQCMセンサー(SiO2)(基板No.10)を用いた。
【0111】
(タンパク質吸着実験)
コーティング膜形成用組成物を用いて上記手法より作成した表面処理済QCMセンサー(PS)(基板No.1~5、11~13)及び表面処理済QCMセンサー(SiO2)(基板No.7~9)を散逸型水晶振動子マイクロバランスQCM-D(E4、Q-Sence)に取り付け、周波数の変化が1時間で1Hz以下となる安定したベースラインを確立するまでPBSを流した。次に、安定したバースラインの周波数を0Hzとして約10分間PBSを流した。引き続き、ヒト血清由来γ-グロブリンの100μg/mL PBS溶液を約30分流し、その後再びPBSを約20分流した後の9次オーバートーンの吸着誘起周波数のシフト(Δf)を読み取った。分析のためにQ-Tools(Q-Sence)を使用して、吸着誘起周波数のシフト(Δf)を、Sauerbrey式で説明される吸着誘起周波数のシフト(Δf)を単位面積当たりの質量(ng/cm2)と換算したものを生体物質の付着量として下記の表2に示す。本発明に係る実施例1~9のコーティング膜形成用組成物をコーティングとして用いた基板No.1~4、基板No.7~9及び基板No.11~13は、コーティングなしの基板No.6、10と比較し、低いタンパク質吸着量を示した。
【0112】
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明によれば、ゲル化の問題が起こらない共重合体含有ワニスの製造方法、組成物の製造方法、コーティング膜の製造方法、好ましくは生体物質への適合性を有する(生体物質付着抑制能や細胞培養促進性を有する)コーティング膜の製造方法を提供できる。
【0114】
本発明のコーティング膜は、生体物質の付着抑制能を有するので、医療用基材用コーティング膜として好適に用いることができる。例えば、白血球除去フィルター、輸血フィルター、ウイルス除去フィルター、微小凝血塊除去フィルター、血液浄化用モジュール、人工心臓、人工肺、血液回路、人工血管、血管バイパスチューブ、医療用チューブ、人工弁、カニューレ、ステント、カテーテル、血管内カルーテル、バルーンカテーテル、ガイドワイヤー、縫合糸、留置針、シャント、人工関節、人工股関節、血液バッグ、血液保存容器、手術用補助器具、癒着防止膜、創傷被覆材などにおいて好適に用いることができる。ここで、血液浄化用モジュールとは、血液を体外に循環させて、血中の老廃物や有害物質を取り除く機能を有したモジュールのことをいい、人工腎臓、毒素吸着フィルターやカラムなどが挙げられる。
【0115】
また、本発明のコーティング膜は、フラスコ、ディッシュ、プレート等の細胞培養容器や、蛋白質の付着を抑えた各種研究用器具のコーティング膜として有用である。
【0116】
また、本発明のコーティング膜は、化粧品用材料、コンタクトレンズケア用品用材料、スキンケア用繊維加工剤、生化学研究用診断薬用材料、臨床診断法で広く用いられている酵素免疫測定(ELISA)法やラテックス凝集法における非特異的吸着を抑制するためのブロッキング剤、酵素や抗体などの蛋白質を安定化するための安定化剤としても有用である。
【0117】
さらに本発明のコーティング膜は、トイレタリー、パーソナルケア用品、洗剤、医薬品、医薬部外品、繊維、防汚材向けのコーティング膜としても有用である。