(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】シリコン単結晶の製造方法およびシリコンウェーハの製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/06 20060101AFI20240611BHJP
C30B 15/20 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
C30B29/06 502E
C30B15/20
(21)【出願番号】P 2021147998
(22)【出願日】2021-09-10
【審査請求日】2023-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂本 英城
(72)【発明者】
【氏名】杉村 渉
(72)【発明者】
【氏名】横山 竜介
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/167989(WO,A1)
【文献】特開2013-220954(JP,A)
【文献】特開2011-054821(JP,A)
【文献】特開2003-277186(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00-35/00
F27B 14/00-14/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱装置を用いて加熱した石英ルツボ内のシリコン融液からシリコン単結晶を引き上げるシリコン単結晶の製造方法であって、
前記加熱装置は、前記石英ルツボの周囲に配置された発熱部と、前記発熱部に電力を供給する電力供給部とを備え、
前記電力供給部は、前記石英ルツボを鉛直上方から見て、前記石英ルツボの中心軸を通る水平磁場の中心磁力線で前記加熱装置を第1の加熱領域および第2の加熱領域に分割した際に、前記第1の加熱領域に配置される第1電力供給部と、前記第2の加熱領域に配置される第2電力供給部とを備え、
前記第1電力供給部の抵抗値である第1抵抗値、および、前記第2電力供給部の抵抗値である第2抵抗値を設定する抵抗値設定工程と、
無磁場状態において、前記石英ルツボ内の前記シリコン融液を加熱するシリコン融液加熱工程と、
前記石英ルツボ内の前記シリコン融液に対して水平磁場を印加する水平磁場印加工程と、
前記シリコン融液からシリコン単結晶を引き上げる引き上げ工程と、を有し、
前記抵抗値設定工程は、
前記第1抵抗値および前記第2抵抗値を測定する測定工程と、
前記第1抵抗値および前記第2抵抗値のバラツキが判定値以下であるか否かを判定する判定工程と、
前記判定工程で前記バラツキが前記判定値より大きいと判定した場合に、前記第1抵抗値および前記第2抵抗値の少なくとも一方を調整する調整工程と、を有し、
前記調整工程、前記測定工程および前記判定工程は、前記判定工程で前記バラツキが前記判定値以下と判定するまで繰り返し実行し、
前記判定工程で前記バラツキが前記判定値以下と判定した場合は、前記抵抗値設定工程を終了する
シリコン単結晶の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のシリコン単結晶の製造方法において、
前記抵抗値設定工程は、前記引き上げ工程を所定回数実行するごとに行う
シリコン単結晶の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載のシリコン単結晶の製造方法において、
前記所定回数は、1回以上、9回以下である
シリコン単結晶の製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載のシリコン単結晶の製造方法において、
前記判定工程は、前記第1抵抗値をR1、前記第2抵抗値をR2、前記バラツキをDとした場合に、前記バラツキDを、D=|R1-R2|/(|R1+R2|/2)で算出し、
前記判定値は、15%以下である
シリコン単結晶の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載のシリコン単結晶の製造方法において、
前記測定工程は、
前記発熱部および前記電力供給部の合成抵抗を測定する第1測定工程と、
前記発熱部の合成抵抗を測定する第2測定工程と、
前記測定された各抵抗値に基づいて前記第1抵抗値と、前記第2抵抗値とを求める抵抗値算出工程と、を備える
シリコン単結晶の製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載のシリコン単結晶の製造方法において、
前記各電力供給部は、前記発熱部と一体に形成される端子と、一端が前記端子と接続され、他端が電源に接続される電極とを有し、
前記調整工程は、前記端子および前記電極間に導電性シートを配置することで、前記抵抗値を調整する
シリコン単結晶の製造方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載のシリコン単結晶の製造方法において、
前記各電力供給部は、前記発熱部と接続される端子と、一端が前記端子と接続され、他端が電源に接続される電極とを有し、
前記調整工程は、前記端子および前記電極の接触面に機械的研磨を施すことで、前記抵抗値を調整する
シリコン単結晶の製造方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載のシリコン単結晶の製造方法において、
前記各電力供給部は、前記発熱部と接続される端子と、一端が前記端子と接続され、他端が電源に接続される電極とを有し、
前記端子および前記電極間には、板状の電気抵抗調整部材が介挿され、
前記調整工程は、前記端子および前記電極間に介挿される前記電気抵抗調整部材の枚数または厚さ寸法を調整することで、前記抵抗値を調整する
シリコン単結晶の製造方法。
【請求項9】
請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載のシリコン単結晶の製造方法において、
前記各電力供給部は、前記発熱部と接続される端子と、一端が前記端子と接続され、他端が電源に接続される電極と、前記電極の一端と前記端子とを接続するナットとを有し、
前記端子と前記電極とは、前記電極の一端に形成された挿通部を前記端子に形成された貫通孔に挿通した状態で、前記挿通部に形成された雄ねじに前記ナットを螺合することで接続され、
前記調整工程は、前記ナットの締め付けトルクを調整することで、前記抵抗値を調整する
シリコン単結晶の製造方法。
【請求項10】
請求項1から請求項9までのいずれか一項に記載のシリコン単結晶の製造方法を用いて引き上げられたシリコン単結晶から切り出してシリコンウェーハを製造するシリコンウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン単結晶の製造方法およびシリコンウェーハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン単結晶の製造には、チョクラルスキー法(Czochralski method、以下「CZ法」と略す。)と呼ばれる製造方法が用いられる。このCZ法を用いた製造方法では、ルツボの周囲に配置されたグラファイトヒーターによってルツボ内のシリコン融液を加熱し、外部から水平磁場を印加した状態で、シリコン単結晶を引き上げている。
ここで、グラファイトヒーターの発熱分布が周方向に不均一の場合、シリコン融液が、磁場印加方向に対して右渦、左渦のどちらになるかによって、融液中の酸素濃度が変化し、シリコン単結晶の酸素濃度が変化する。そのため、結晶の酸素濃度にバッチ間差が生じることがなく、安定した酸素濃度を有するシリコン単結晶を得るためには、ヒーターの発熱分布が周方向で均一になるように制御することが重要となる。
このため、特許文献1に記載されたヒーターでは、円筒状の発熱体においてスリットで区画される発熱スリット部と、通電用の端子部との間の連結領域の最大断面積を、発熱スリット部の断面積の1.1倍以上6.0倍以下に設定し、連結領域における発熱を小さくすることでヒーターの円周方向の発熱分布を均一化しようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1のようなヒーターを使用したとしても、実際にシリコン単結晶を生産する際には、ヒーターの円周方向の発熱分布を必ずしも均一化できないという課題があった。特に、当初はヒーターの発熱分布が均一であっても、シリコン単結晶の引き上げを繰り返し実行している間に、発熱分布のバラツキが大きくなるという課題があった。
このため、安定した酸素濃度を有するシリコン単結晶を製造できなくなり、シリコン単結晶から切り出したシリコンウェーハの品質も低下する可能性があった。
【0005】
本発明は、安定した酸素濃度を有するシリコン単結晶およびシリコンウェーハを製造可能なシリコン単結晶の製造方法およびシリコンウェーハの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、加熱装置を用いて加熱した石英ルツボ内のシリコン融液からシリコン単結晶を引き上げるシリコン単結晶の製造方法であって、前記加熱装置は、前記石英ルツボの周囲に配置された発熱部と、前記発熱部に電力を供給する電力供給部とを備え、前記電力供給部は、前記石英ルツボを鉛直上方から見て、前記石英ルツボの中心軸を通る水平磁場の中心磁力線で前記加熱装置を第1の加熱領域および第2の加熱領域に分割した際に、前記第1の加熱領域に配置される第1電力供給部と、前記第2の加熱領域に配置される第2電力供給部とを備え、前記第1電力供給部の抵抗値である第1抵抗値、および、前記第2電力供給部の抵抗値である第2抵抗値を設定する抵抗値設定工程と、無磁場状態において、前記石英ルツボ内の前記シリコン融液を加熱するシリコン融液加熱工程と、前記石英ルツボ内の前記シリコン融液に対して水平磁場を印加する水平磁場印加工程と、前記シリコン融液からシリコン単結晶を引き上げる引き上げ工程と、を有し、前記抵抗値設定工程は、前記第1抵抗値および前記第2抵抗値を測定する測定工程と、前記第1抵抗値および前記第2抵抗値のバラツキが判定値以下であるか否かを判定する判定工程と、前記判定工程で前記バラツキが前記判定値より大きいと判定した場合に、前記第1抵抗値および前記第2抵抗値の少なくとも一方を調整する調整工程と、を有し、前記調整工程、前記測定工程および前記判定工程は、前記判定工程で前記バラツキが前記判定値以下と判定するまで繰り返し実行し、前記判定工程で前記バラツキが前記判定値以下と判定した場合は、前記抵抗値設定工程を終了することを特徴とする。
【0007】
本発明のシリコン単結晶の製造方法において、前記抵抗値設定工程は、前記引き上げ工程を所定回数実行するごとに行うことが好ましい。
【0008】
本発明のシリコン単結晶の製造方法において、前記所定回数は、1回以上、9回以下であることが好ましい。
【0009】
本発明のシリコン単結晶の製造方法において、前記判定工程は、前記第1抵抗値をR1、前記第2抵抗値をR2、前記バラツキをDとした場合に、前記バラツキDを、D=|R1-R2|/(|R1+R2|/2)で算出し、前記判定値は、15%以下であることが好ましい。
【0010】
本発明のシリコン単結晶の製造方法において、前記測定工程は、前記発熱部および前記電力供給部の合成抵抗を測定する第1測定工程と、前記発熱部の合成抵抗を測定する第2測定工程と、前記測定された各抵抗値に基づいて前記第1抵抗値と、前記第2抵抗値とを求める抵抗値算出工程と、を備えることが好ましい。
【0011】
本発明のシリコン単結晶の製造方法において、前記各電力供給部は、前記発熱部と一体に形成される端子と、一端が前記端子と接続され、他端が電源に接続される電極とを有し、前記調整工程は、前記端子および前記電極間に導電性シートを配置することで、前記抵抗値を調整することが好ましい。
【0012】
本発明のシリコン単結晶の製造方法において、前記各電力供給部は、前記発熱部と接続される端子と、一端が前記端子と接続され、他端が電源に接続される電極とを有し、前記調整工程は、前記端子および前記電極の接触面に機械的研磨を施すことで、前記抵抗値を調整することが好ましい。
【0013】
本発明のシリコン単結晶の製造方法において、前記各電力供給部は、前記発熱部と接続される端子と、一端が前記端子と接続され、他端が電源に接続される電極とを有し、前記端子および前記電極間には、板状の電気抵抗調整部材が介挿され、前記調整工程は、前記端子および前記電極間に介挿される前記電気抵抗調整部材の枚数または厚さ寸法を調整することで、前記抵抗値を調整することが好ましい。
【0014】
本発明のシリコン単結晶の製造方法において、前記各電力供給部は、前記発熱部と接続される端子と、一端が前記端子と接続され、他端が電源に接続される電極と、前記電極の一端と前記端子とを接続するナットとを有し、前記端子と前記電極とは、前記電極の一端に形成された挿通部を前記端子に形成された貫通孔に挿通した状態で、前記挿通部に形成された雄ねじに前記ナットを螺合することで接続され、前記調整工程は、前記ナットの締め付けトルクを調整することで、前記抵抗値を調整することが好ましい。
【0015】
本発明のシリコンウェーハの製造方法は、シリコン単結晶の製造方法を用いて引き上げられたシリコン単結晶から切り出してシリコンウェーハを製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、安定した酸素濃度を有するシリコン単結晶およびシリコンウェーハを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係るシリコン単結晶製造装置の概略構成を示す縦断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る加熱装置の要部を示す斜視図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る加熱装置および磁場印加部を示す平面模式図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る加熱装置の構成および水平磁場の印加状態を示す模式図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る温度計測部の配置状態を示す模式図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る端子と電極との接続構造を説明する概略図であり、(A)は一部を切り欠いた正面図、(B)は導電性シートの平面図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る加熱装置の等価回路図である。
【
図8】本発明の実施形態に係るシリコン単結晶製造装置の制御装置を示すブロック図である。
【
図9】本発明の実施形態に係るシリコン単結晶の製造方法の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図10】
図9における抵抗値設定工程を示すフローチャートである。
【
図11】
図10における測定工程を示すフローチャートである。
【
図12】
図10における調整工程を示すフローチャートである。
【
図13】
図9におけるシリコン融液加熱工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[シリコン単結晶製造装置]
図1は、本発明の実施形態に係るシリコン単結晶の製造方法に適用できるシリコン単結晶製造装置1の概略構成を示す縦断面図である。
シリコン単結晶製造装置1は、CZ法によりシリコン単結晶SMを引き上げる装置であり、外郭を構成するチャンバ2と、チャンバ2の中心部に配置されるルツボ3と、ルツボ3内の周囲に配置される加熱装置4とを備える。
ルツボ3は、外側の黒鉛ルツボ3Aと、内側の石英ルツボ3Bとから構成される二重構造とされ、石英ルツボ3B内にはシリコン融液M(原料融液)が収容される。黒鉛ルツボ3Aおよび石英ルツボ3Bは、有底円筒形状の容器であり、鉛直上方から見る平面視で円形形状とされている。ルツボ3は、回転および昇降が可能な支持軸5の上端部に固定されている。
【0019】
加熱装置4は、
図2に示すように、略円筒状に形成されてルツボ3の周囲に配置されるグラファイトヒーターであり、詳細は後述する。
図1に示すように、加熱装置4の外側には、チャンバ2の内面に沿って断熱材6が設けられている。
【0020】
ルツボ3の上方には、支持軸5と同軸上に引き上げ軸7が配置されている。引き上げ軸7は、ワイヤなどで形成され、支持軸5の回転方向と逆方向または同一方向に所定の速度で回転する。この引き上げ軸7の下端には種結晶SCが取り付けられている。
【0021】
チャンバ2内には、ルツボ3内のシリコン融液Mの上方で育成中のシリコン単結晶SMを囲む筒状の熱遮蔽体8が配置されている。
熱遮蔽体8は、育成中のシリコン単結晶SMに対して、ルツボ3内のシリコン融液Mからの輻射熱や、加熱装置4およびルツボ3の側壁からの輻射熱を遮断するとともに、結晶成長界面である固液界面の近傍に対しては、外部への熱の拡散を抑制し、シリコン単結晶SMの中心部および外周部の引き上げ軸7方向の温度勾配を制御する役割を担う。
【0022】
チャンバ2の上部には、アルゴンガスなどの不活性ガスをチャンバ2内に導入するガス導入口9が設けられている。チャンバ2の下部には、図示しない真空ポンプの駆動により、チャンバ2内の気体を吸引して排出する排気口10が設けられている。
ガス導入口9からチャンバ2内に導入された不活性ガスは、育成中のシリコン単結晶SMと熱遮蔽体8との間を下降し、熱遮蔽体8の下端とシリコン融液Mの液面との隙間を経た後、熱遮蔽体8の外側、さらにルツボ3の外側に向けて流れ、その後にルツボ3の外側を下降し、排気口10から排出される。
【0023】
シリコン単結晶製造装置1は、
図3に示す磁場印加部14と、
図1および
図5に示す温度計測部15とを備える。
磁場印加部14は、それぞれ電磁コイルで構成された第1の磁性体14Aおよび第2の磁性体14Bを備える。第1の磁性体14Aおよび第2の磁性体14Bは、チャンバ2の外側においてルツボ3を挟んで対向するように設けられている。
図3の例では、磁場印加部14は、鉛直方向上方から見た平面視で、コイル中心軸を通る磁場中心線(水平磁場の中心磁力線)が、円筒状の発熱部30およびルツボ3の中心軸CAと交差し、第2の磁性体14Bから第1の磁性体14Aに向かう方向(
図3における矢印MLで示される上方向であり、
図1における紙面手前から奥に向かう方向)となるように、水平磁場を印加している。ただし、磁場中心線はシリコン融液Mの融液面上のルツボ3の中心軸CAの交点CSを通るとは限らない。すなわち、磁場中心線の高さ位置については特に限定されず、シリコン単結晶SMの品質に合わせて、シリコン融液Mの内部にしてもよいし外部にしてもよい。
なお、
図5に示すように、ルツボ3の中心軸をCA、ルツボ3内のシリコン融液Mの表面をS、表面Sの中心をCSと定義する。そして、
図3に示すように、ルツボ3および加熱装置4を鉛直上方から見る平面視で、ルツボ3の中心軸CAと交差する磁場中心線に沿った仮想線をVLと定義する。したがって、仮想線VLは、ルツボ3の中心軸CAを通り、第2の磁性体14Bから第1の磁性体14Aに向かう水平磁場の磁力線すなわち矢印MLに沿った線である。
【0024】
温度計測部15は、
図1、
図4および
図5に示すように、第1の計測点P1および第2の計測点P2の温度を計測する。第1の計測点P1および第2の計測点P2の径方向の位置は、
図1に示すように、育成予定のシリコン単結晶SMの外周面と、熱遮蔽体8の開口内周面との間であり、特にその中間位置が好ましい。なお、本実施形態では、第1の計測点P1および第2の計測点P2は、表面Sの中心CSに対して点対称の位置に設定されている。後述するように、計測点P1、P2の温度を測定することで、シリコン融液Mの対流の向き等を確認できる。例えば、加熱装置4によるシリコン融液Mの加熱によって、シリコン融液Mの対流の向きが
図4において右回り、つまり右渦に固定された場合は、第1の計測点P1の測定温度は第2の計測点P2の測定温度よりも高くなる。また、加熱装置4によるシリコン融液Mの加熱によって、シリコン融液Mの対流の向きが左回り、つまり左渦に固定された場合は、第1の計測点P1の測定温度は第2の計測点P2の測定温度よりも低くなる。なお、
図4は、上昇流がルツボ3の左側に固定され、下降流がルツボ3の右側に固定されて、シリコン融液Mの対流の向きが右回り、つまり右渦に固定された例である。
【0025】
温度計測部15は、
図1,5に示すように、一対の反射部15Aと、一対の放射温度計15Bとを備える。
反射部15Aは、チャンバ2内部に設置されている。反射部15Aは、
図5に示すように、その下端からシリコン融液Mの表面Sまでの距離(高さ)Kが600mm以上5000mm以下となるように設置されていることが好ましい。また、反射部15Aは、反射面15Cと水平面Fとのなす角度θfが40°以上50°以下となるように設置されていることが好ましい。
【0026】
以上説明した構成によって、第1の計測点P1および第2の計測点P2から、鉛直方向の上方向に出射する輻射光Lの反射部15Aに対する入射角θ1および反射角θ2の和が、80°以上100°以下となる。反射部15Aとしては、耐熱性の観点から、一面を鏡面研磨して反射面15Cとしたシリコンミラーを用いることが好ましい。
【0027】
放射温度計15Bは、チャンバ2の外部に設置されている。放射温度計15Bは、チャンバ2に設けられた石英窓2A(
図1参照)を介して入射される輻射光Lを受光して、第1の計測点P1および第2の計測点P2の温度を非接触で計測する。
【0028】
[加熱装置]
加熱装置4は、
図2および
図3に示すように、発熱部30と、前記発熱部30に電力を供給する2n(nは2以上の整数)個、本実施形態では、4個の電力供給部20A、20B、20C、20Dとを備える。
発熱部30は、円筒状に形成されたグラファイトヒーターであり、円周方向の全体に亘って均一な厚さで形成され、上端から下方向へ伸びる上スリット31および下端から上方向へ伸びる下スリット32が円周方向に複数形成されている。各上スリット31および下スリット32は、スリットの幅寸法が互いに等しく、スリットの上下方向に沿った切り込み深さも互いに等しい。また、上スリット31と下スリット32との間隔も発熱部30の全周に亘って等しい。
【0029】
発熱部30は、
図3に示すように、発熱部30の中心軸CAを通る仮想線VLで平面視において仮想的に左右に2分割される。このため、加熱装置4は、
図3において、仮想線VLの左側に位置する第1の加熱領域4Aと、仮想線VLの右側に位置する第2の加熱領域4Bとを備える。
第1の加熱領域4Aおよび第2の加熱領域4Bは、上スリット31および下スリット32の総数が等しい。
図2および
図3の例では、第1の加熱領域4Aには、4本の上スリット31と、6本の下スリット32が形成されており、上スリット31および下スリット32の総数は、10本である。また、第2の加熱領域4Bには、4本の上スリット31と、6本の下スリット32が形成されており、上スリット31および下スリット32の総数は、10本である。なお、仮想線VL上に重なる2本の下スリット32は、第1の加熱領域4A、第2の加熱領域4Bに跨がるため、各加熱領域4A,4Bに含まれる本数としては0.5本とカウントした。そして、加熱領域4A,4Bに跨がる下スリット32は2本あるため、各加熱領域4A,4Bには、加熱領域4A,4Bに跨がる下スリット32が、それぞれ0.5本×2=1本ずつ配置されることになる。
【0030】
電力供給部20A~20Dは、
図2に示すように、4つの端子21A、21B、21C、21Dと、4本の電極22A、22B、22C、22Dと、4つのナット23A~23Dとを備えている。電力供給部20A~20Dは、
図3にも示すように、発熱部30の周方向に沿って90度間隔で配置されており、本実施形態では、第1の加熱領域4Aに配置される電力供給部20A、20Bによって第1電力供給部が構成され、第2の加熱領域4Bに配置される電力供給部20C、20Dによって第2電力供給部が構成される。
端子21A~21Dは、発熱部30において2本の下スリット32で区画される部分の下端から下方に延長され、発熱部30と一体に形成されている。また、端子21A~21Dは、下端から内側に向かって直角に屈曲された接続部211A~211Dを備えており、接続部211A~211Dには貫通孔212A~212Dが形成されている。
したがって、本実施形態の加熱装置4は、ヒーターエレメントである円筒状の発熱部30と、ヒーター足部である端子21A~21Dとが一体成形されたグラファイトヒーターを用いて構成されている。
【0031】
発熱部30は、上スリット31および下スリット32が形成されることにより、ジグザグ状の第1蛇行部33A~第4蛇行部33Dに区画され、これらの第1蛇行部33A~第4蛇行部33Dによって4つのヒーターエレメントが構成される。
すなわち、端子21Aと端子21Bとの間には、2本の上スリット31と、3本の下スリット32とが交互に形成されて第1蛇行部33Aが形成されている。同様に、端子21Bと端子21Cとの間には、2本の上スリット31と、3本の下スリット32とが交互に形成されて第2蛇行部33Bが形成されている。
端子21Cと端子21Dとの間には、2本の上スリット31と、3本の下スリット32とが交互に形成されて第3蛇行部33Cが形成されている。端子21Dと端子21Aとの間には、2本の上スリット31と、3本の下スリット32とが交互に形成されて第4蛇行部33Dが形成されている。
【0032】
電極22A~22Dは、カーボン製の棒状の電極であり、一端は端子21A~21Dに接続され、他端は電源に接続される。
端子21Aと、電極22Aとの接続構造について、
図6を参照して説明する。
図6(A)に示すように、電極22Aは、本体部221Aと、本体部221Aの上面222Aから上方に突設された挿通部223Aとを備えて構成されている。本体部221Aは、円柱状に形成され、上端側は拡径されている。挿通部223Aは、円柱状に形成され、その直径は本体部221Aよりも小さくされている。挿通部223Aの外周には雄ねじ224Aが形成されている。図示は省略するが、電極22B~22Dも電極22Aと同様に形成されている。
【0033】
電極22Aの挿通部223Aは、端子21Aの接続部211Aに形成された貫通孔212Aに挿通され、接続部211Aの上面213Aから突出した雄ねじ224Aと、カーボン製のナット23Aとを螺合することで、端子21Aと電極22Aの上端とが接続されている。
端子21Aおよび電極22Aを接続した場合の電力供給部20Aの電気抵抗は、端子21Aおよび電極22Aの接触抵抗によって増減する。例えば、電極22Aの上面222Aと接続部211Aの下面214Aとを直接接触させた場合、接触面の面粗さによって接触面積が小さくなると接触抵抗は増加する。一方、
図6(A)に示すように、電極22Aの上面222Aと接続部211Aの下面214Aとの間に導電性シート24を配置すると、導電性シート24が下面214Aおよび上面222Aに密着して接触面積が大きくなるため、導電性シート24を配置しない場合に比べて、端子21Aおよび電極22A間の接触抵抗は低下する。導電性シート24は、
図6(B)に示すように、挿通部223Aが挿入される孔を有する円板状のシート材であり、例えば、炭素系の繊維素材で形成されている。
【0034】
なお、導電性シート24は、接続部211Aの下面214Aおよび電極22Aの上面222A間に加えて、接続部211Aの上面213Aおよびナット23A間にも配置されている。ただし、導電性シート24は、接続部211Aの下面214A側または上面213A側のいずれか一方に配置してもよく、その場合は、接続部211Aの下面214Aと電極22Aの上面222Aとの間の導電性シート24を配置することが好ましい。電源に接続される電極22Aと、発熱部30に一体に形成される端子21Aとの間に導電性シート24を配置したほうが、接触抵抗を効果的に低下できるためである。
図示は省略するが、各電極22B~22Dと対応する端子21B~21Dとの接続構造は、前記電極22Aと端子21Aとの接続構造と同様である。
【0035】
図7は、加熱装置4の等価回路図である。
図7において、Vは加熱装置4に印加される電圧値である。RA、RB、RCおよびRDは、それぞれ第1蛇行部33A~第4蛇行部33Dの抵抗値である。R
αは端子21Aと電極22Aとの接触抵抗値である。同様に、R
βは端子21Bと電極22Bとの接触抵抗値、R
γは端子21Cと電極22Cとの接触抵抗値、R
δは端子21Dと電極22Dとの接触抵抗値である。
図7において、矢印MLは、水平磁場の印加方向を示す。
【0036】
発熱部30、端子21A~21Dおよび電極22A~22Dは、グラファイトから構成されている。一般にグラファイトは延性が小さいため、各端子21A~21Dと対応する電極22A~22Dとの接触部分には接触抵抗が存在する。
図7では各電極22A~22Dの抵抗値は無視している。これは、一般に電極22A~22Dは短く、また各電極22A~22Dと後述する電圧印加部43(
図8参照)との間は抵抗値が極めて小さい通電ケーブルを用いるからである。
【0037】
本実施形態では、第1の加熱領域4Aに配置される電力供給部20A、20Bの接触抵抗と、第2の加熱領域4Bに配置される電力供給部20C、20Dの接触抵抗とのバラツキを抑えることで、第1の加熱領域4Aおよび第2の加熱領域4Bの発熱分布を均一にしている。これにより、磁場印加プロセスのシリコン融液の対流が右渦、左渦のいずれの場合でも、酸素濃度の差が小さくなり、安定した酸素濃度を有する高品質のシリコン単結晶を育成することができる。
すなわち、発熱部30つまりグラファイトヒーターエレメント部の各抵抗はヒーターの加工精度(厚みや長さ)に大きく依存するもので、抵抗ばらつきは1%以下である。そのため、発熱部30の発熱分布は周方向に均一となる。
したがって、加熱装置4の周方向の発熱分布を不均一にする要因は、周方向に90度間隔で配置される電力供給部20A~20Dの抵抗分布、より具体的には、第1の加熱領域4Aに配置される第1電力供給部(電力供給部20A、20B)の接触抵抗Rα、Rβの和である第1抵抗値R1と、第2の加熱領域4Bに配置される第2電力供給部(電力供給部20C、20D)の接触抵抗Rγ、Rδの和である第2抵抗値R2とのバラツキが影響する。すなわち、第1抵抗値R1と第2抵抗値R2とのバラツキが大きくなると、第1電力供給部と第2電力供給部とで発熱の差が大きくなり、加熱装置4の周方向の発熱分布が不均一になる。
一方、第1抵抗値R1と第2抵抗値R2とのバラツキが小さくなると、第1電力供給部と第2電力供給部とで発熱の差も小さくなり、加熱装置4の周方向の発熱分布をより均一に近づけることができる。
【0038】
なお、加熱装置4の周方向の発熱分布がほぼ均一化されると、シリコン融液の対流の向きはランダムに設定される。例えば、第1の加熱領域4Aの発熱量が第2の加熱領域4Bに比べて明らかに大きい場合、
図1においてルツボ3の左側がより加熱され、左側の上昇流が優勢となり、シリコン融液の対流は水平磁場の印加方向に対し時計方向に回ることになり、右渦が形成される。同様に、第2の加熱領域4Bの発熱量が第1の加熱領域4Aに比べて明らかに大きい場合は、
図1においてルツボ3の右側の上昇流が優勢となり、左渦が形成される。
一方で、加熱装置4の周方向の発熱分布がほぼ均一化されると、第1の加熱領域4Aおよび第2の加熱領域4Bの各発熱量に明確な差がなくなり、シリコン融液の対流の向きはランダムに形成される一方で、シリコン単結晶の酸素濃度のバラツキは低減され、安定した酸素濃度を有する高品質のシリコン単結晶を育成することができる。
【0039】
また、チャンバ2内の環境は、使用しているカーボン部材の経時劣化等で変化し、加熱装置4における接触抵抗Rα、Rβ、Rγ、Rδも、端子21A~21D、電極22A~22D間に配置した導電性シート24の経時劣化や、導電性シート24が劣化して厚さが減少したり消滅すること等によるナットの締め付けトルクの低下等によって変化する。接触抵抗Rα、Rβ、Rγ、Rδが変化して第1抵抗値R1および第2抵抗値R2のバラツキが大きくなると、第1の加熱領域4Aおよび第2の加熱領域4Bの発熱分布が不均一となる。その結果、シリコン融液の対流の向きが右渦か左渦のどちらになるかによって、融液中の酸素濃度が変化し、シリコン単結晶の酸素濃度が変化する。このため、バッチ間でシリコン単結晶の酸素濃度に差が生じる。そこで、本実施形態では、後述するように、シリコン単結晶の引き上げを所定回数繰り返すごとに接触抵抗を測定し、接触抵抗のバラツキが大きくなる変化があった場合は、接触抵抗を調整することで周方向の発熱分布の均一化を維持している。
その結果、バッチ間でシリコン融液の対流の向きがランダムに右渦、左渦となっても、石英ルツボ3Bから結晶の成長界面に供給される酸素量のばらつきが小さくなり、安定した酸素濃度を有するシリコン単結晶が得られる。結晶の成長軸方向に所望の酸素濃度を有する結晶が育成できるため、結晶の歩留まりが向上する。
【0040】
本実施形態では、第1抵抗値R1と第2抵抗値R2とのバラツキDを、D=|R1-R2|/(|R1+R2|/2)で求め、このバラツキDが予め設定した判定値以下、具体的には15%以下となるように、第1抵抗値R1、第2抵抗値R2を調整している。
第1抵抗値R1および第2抵抗値R2の調整、つまり接触抵抗Rα、Rβ、Rγ、Rδの調整方法としては、例えば、以下の3種類の調整方法のいずれか1つ、あるいは複数を同時に行うことで実行できる。
第1の調整方法は、端子21A~21Dと電極22A~22Dやナット23A~23Dとの間に、カーボン粉を焼結させた導電性シート24を配置、交換することで、接触抵抗を調整する方法である。例えば、端子21A~21Dと電極22A~22Dとを直接接触させた際に、接触面の面粗さによって接触面積が低下して接触抵抗が増加する。一方で、端子21A~21Dおよび電極22A~22D間に導電性シート24を配置すれば、各接触面が粗くされていても、導電性シート24が密着して接触面積が増加するため、接触抵抗を低下できる。ただし、導電性シート24は、シリコン単結晶の引き上げを繰り返すと、高熱の影響等によって経時劣化し、シートの厚さが薄くなったり、シートの一部が消滅するため、接触抵抗も徐々に増加する。したがって、劣化した導電性シート24を新品に交換することでも、接触抵抗を低下(調整)できる。
第2の調整方法は、端子21A~21Dと電極22A~22Dやナット23A~23Dの各接触面を機械的研磨で表面粗さを調整することで、接触抵抗を調整する方法である。例えば、機械的研磨で接触面の表面粗さを大きくすれば、接触面積が小さくなって接触抵抗が増加する。一方、機械的研磨で接触面の表面粗さを小さくすれば、接触面積が大きくなって接触抵抗が低下する。したがって、例えば、機械的研磨に使用する研磨紙の番手を選択することで、接触抵抗を増加させたり、低下させることができる。
第3の調整方法は、端子21A~21Dと電極22A~22Dとを接続する際に用いられるナット23A~23Dの締め付けトルクを調整することで、接触抵抗を調整する方法である。すなわち、ナット23A~23Dの締め付けトルクを大きくすると、各接触面がより接触するために接触抵抗が低下し、締め付けトルクを小さくすると、接触抵抗が増加する。
さらに、第1~第3の調整方法は、複数組み合わせて用いることができる。例えば、各接触面の表面粗さを同程度に揃え、導電性シート24を配置してナット23A~23Dの締め付けトルクを同じ値にすれば、各接触抵抗Rα、Rβ、Rγ、Rδがほぼ同じ値となり、第1抵抗値R1および第2抵抗値R2のバラツキDも非常に小さくできる。
【0041】
シリコン単結晶製造装置1は、
図8に示すように、制御装置41と、磁場印加部14と、放射温度計15Bと、記憶部42と、電圧印加部43と、抵抗値測定部44と、表示部45とを備える。
記憶部42は、シリコン単結晶SMの酸素濃度が所望の値となるような引き上げ条件、例えば、不活性ガスの流量、チャンバ2の炉内圧力、ルツボ3の回転数などと、接触抵抗R
α、R
β、R
γ、R
δの調整ルール、例えば、調整対象とする電力供給部20A~20Dの選択や、導電性シート24の配置、接触面の機械的研磨等の調整方法の選択などを、接触抵抗R
α、R
β、R
γ、R
δの測定値に応じて設定するルールなどが記憶される。
電圧印加部43は、制御装置41によって制御され、加熱装置4に所定の電圧を印加する。
抵抗値測定部44は、加熱装置4の各抵抗値を測定するものであり、例えば、四端子法で抵抗を測定する抵抗計によって構成されている。抵抗値測定部44は、作業者がプローブを加熱装置4の測定箇所に接触させることで抵抗値を測定し、その測定データを制御装置41に出力するように構成されている。なお、測定値は、作業者が制御装置41に設けられるキーボードやタッチパネルなどの入力装置を用いて入力してもよい。
表示部45は、液晶ディスプレイ等で構成され、作業者に対して各種情報や作業指示を表示する。
【0042】
制御装置41は、熔融制御部410と、引き上げ制御部420と、抵抗値設定部430とを備える。
熔融制御部410は、電圧印加部43を制御して加熱装置4を用いてルツボ3内の多結晶シリコンを加熱熔融してシリコン融液Mを生成し、磁場印加部14を制御して水平磁場を印加してシリコン融液Mを対流させる制御を行う。
引き上げ制御部420は、熔融制御部410によってシリコン融液Mが対流した後に、シリコン単結晶SMを引き上げる制御を行う。
【0043】
抵抗値設定部430は、抵抗値測定制御部431、抵抗値算出部432、バラツキ判定部433、抵抗値調整部434を備える。
抵抗値測定制御部431は、抵抗値測定部44を用いて加熱装置4の各抵抗値を測定する。
抵抗値算出部432は、各抵抗値の測定データを用いて接触抵抗Rα、Rβ、Rγ、Rδを算出し、これらを用いて第1抵抗値R1、第2抵抗値R2を算出する。
バラツキ判定部433は、第1抵抗値R1と第2抵抗値R2とのバラツキDを算出し、このバラツキDが判定値以下であるかを判定する。
抵抗値調整部434は、バラツキ判定部433でバラツキDが判定値以下と判定した場合は、表示部45に接触抵抗の調整が不要であることを表示する。また、抵抗値調整部434は、バラツキ判定部433でバラツキDが判定値よりも大きいと判定した場合は、抵抗値測定制御部431で算出された接触抵抗Rα、Rβ、Rγ、Rδの値と、記憶部42に記憶している調整ルールとに基づいて、電力供給部20A~20Dの中で接触抵抗を調整する対象の選択や、調整手法を決定し、その調整用の作業指示を表示部45に表示する。
【0044】
[シリコン単結晶の製造方法]
次に、本実施形態に係るシリコン単結晶の製造方法を
図9~
図13に示すフローチャートを参照して説明する。
図9は、1本のシリコン単結晶を製造する1回のバッチ処理を示すフローチャートであり、
図10は、
図9における抵抗値設定工程を示すフローチャートであり、
図11は、
図10における測定工程を示すフローチャートであり、
図12は、
図10における調整工程を示すフローチャートであり、
図13は、
図9におけるシリコン融液加熱工程を示すフローチャートである。
図9のフローチャートを実行する前に、予め、シリコン単結晶SMの酸素濃度が所望の値となるような引き上げ条件(例えば、不活性ガスの流量、チャンバ2の炉内圧力、ルツボ3の回転数など)を事前決定条件として予め把握しておき、記憶部42に記憶させる。なお、事前決定条件の酸素濃度は、シリコン単結晶SMを構成する直胴部の長手方向の複数箇所の酸素濃度の値であってもよいし、前記複数箇所の平均値であってもよい。
また、抵抗値設定工程の実行間隔である所定回数を記憶部42に記憶させる。所定回数は、各電力供給部20A~20Dの接触抵抗の抵抗値を設定する処理を実行するタイミングを設定するものである。この所定回数は、例えば、端子21A~21Dや電極22A~22D等のカーボン部材の経過劣化によって第1抵抗値R1および第2抵抗値R2の抵抗比率が判定値未満に変化する回数を実験で求めることなどで設定でき、本実施形態では1回から9回の範囲で設定されている。
【0045】
制御装置41は、シリコン単結晶の製造工程を開始すると、
図9に示すように、まず、引き上げ工程の実行回数が所定回数であるか否かを判断する(ステップS1)。所定回数が5回である場合、制御装置41は、引き上げ工程を5回実行する毎に、ステップS1でYESと判定する。
【0046】
ステップS1でYESと判定した場合、制御装置41は抵抗値設定工程を実行する(ステップS2)。なお、抵抗値設定工程S2は、シリコン単結晶製造装置1の設置時や、加熱装置4のメンテナンス時などにも実行される。
制御装置41は、抵抗値設定工程S2を開始すると、
図10に示すように、抵抗値設定部430の抵抗値測定制御部431によって、抵抗値を測定する測定工程を実行する(ステップS21)。測定工程S21を実行すると、抵抗値測定制御部431は、
図11に示すように、発熱部30および電力供給部20A~20Dの合成抵抗を測定する第1測定工程を実行する(ステップS211)。第1測定工程では、抵抗値測定部44は、電極22Aおよび電極22B間の合成抵抗を測定する。この際、作業者は、抵抗値測定部44のプローブを、電極22Aおよび電極22B間の合成抵抗を測定可能な位置、例えば、電極22A、22Bを通電ケーブルに接続する金属製の端子部分に接触させることで、電極22Aおよび電極22B間の合成抵抗を測定する。
同様の作業を行うことにより、抵抗値測定部44は、電極22Bおよび電極22C間の合成抵抗、電極22Cおよび電極22D間の合成抵抗、電極22Dおよび電極22A間の合成抵抗を順次測定する。
【0047】
次に、抵抗値測定制御部431は、発熱部30の合成抵抗を測定する第2測定工程を実行する(ステップS212)。第2測定工程では、抵抗値測定部44は、端子21Aおよび端子21B間の合成抵抗を測定する。同様に、端子21Bおよび端子21C間の合成抵抗、端子21Cおよび端子21D間の合成抵抗、端子21Dおよび端子21A間の合成抵抗を順次測定する。この際、作業者は、抵抗値測定部44のプローブを、各端子21A~21Dにおいて、同じ面および同じ高さ位置に接触させて合成抵抗を測定する。プローブを接触させる位置によって、測定される合成抵抗が変化するためである。
以上により、抵抗値測定部44によって、
図7に示す各抵抗値が測定され、その測定データが制御装置41に入力される。
【0048】
次に、抵抗値算出部432は、
図11に示すように、測定した合成抵抗のデータを用いて接触抵抗R
α、R
β、R
γ、R
δを算出し、さらに第1抵抗値R1、第2抵抗値R2を算出する抵抗値算出工程を実行する(ステップS213)。すなわち、抵抗値算出部432は、
図7の回路図に基づいて設定した8元連立方程式と、第1測定工程S211、第2測定工程S212で測定された8個の抵抗値とを用いて、接触抵抗R
α、R
β、R
γ、R
δを算出する。そして、抵抗値算出部432は、第1抵抗値R1=R
α+R
β、第2抵抗値R2=R
γ+R
δを算出する。以上により、測定工程S21が終了する。
【0049】
次に、
図10に示すように、測定工程S21が終了すると、抵抗値設定部430のバラツキ判定部433は、バラツキDが判定値以下であるかを判定する(ステップS22)。本実施形態では、判定値は15%であるため、バラツキ判定部433は、バラツキD=|R1-R2|/(|R1+R2|/2)≦15%であるか否かを判定する。
なお、判定値は、シリコン単結晶製造装置1の記憶部42に記憶されている。判定値は、例えば、シリコン単結晶製造装置1において、異なるバラツキDに設定して引き上げたシリコン単結晶の酸素濃度のバラツキがどの程度になったかを実験し、酸素濃度のバラツキが製品の基準値を満たすバラツキDの値を設定したものである。
【0050】
制御装置41は、ステップS22でNOと判定すると、抵抗値調整部434により抵抗値を調整する調整工程を実行する(ステップS23)。
抵抗値調整部434は、調整工程S23を実行すると、
図12に示すように、4つの電力供給部20A~20Dの各接触抵抗R
α、R
β、R
γ、R
δと、記憶部42に記憶された調整ルールとに基づいて、接触抵抗を調整する対象の電力供給部20A~20Dと、前述した第1~第3の調整方法から1つあるいは複数の調整方法を選択する(ステップS231)。
次に、抵抗値調整部434は、選択した調整対象を選択した調整方法で調整する抵抗値調整工程を実行する(ステップS232)。抵抗値調整工程S232では、抵抗値調整部434は、電力供給部20A~20Dから抵抗値を調整させる対象として選択された電力供給部に対して、第1~3の調整方法から選択した調整方法に基づく作業指示を表示部45に表示する。例えば、抵抗値算出部432は、電力供給部20Aに導電性シート24を配置して接触抵抗を低下させる作業を表示部45に表示する。作業者は、作業指示にしたがって、選択された電力供給部に対して指示された抵抗値調整用の作業を実行する。
抵抗値調整部434は、ステップS232の実行後、他の調整対象の電力供給部が存在するか否かを判定する(ステップS233)。抵抗値調整部434は、ステップS233でYESと判定した場合は、ステップS231に戻り、ステップS231~S233の処理を再度実行する。また、抵抗値調整部434は、ステップS233でNOと判定した場合は、調整工程S23を終了する。
【0051】
なお、抵抗値の調整は調整ルールに基づいて行われるが、一例を挙げれば、以下のように調整される。すなわち、抵抗値を調整する際に、作業が最も簡単なナット23A~23Dの締め付けトルクを調整する第3の調整方法を優先して実施する。また、端子21A~21Dおよび電極22A~22D間に配置された導電性シート24が劣化していると推測できる場合、例えば、導電性シート24を新品に交換してからのバッチ数が予め設定された一定回数以上となって導電性シート24の劣化が推測できる場合には、導電性シート24を新品に交換する第1の調整方法を実施する。さらに、導電性シート24の配置の有無などではバラツキDを判定値以下に調整できない場合には、接触面の機械的研磨を行う第3の調整方法を実施する。
作業者は、表示部45に表示される抵抗値調整部434からの作業指示に基づいて電力供給部20A~20Dの接触抵抗を調整し、調整が終了すれば制御装置41にその旨を入力する。
【0052】
制御装置41は、ステップS23が終了すると、
図10に示すように、再度、測定工程S21、判定工程S22を実行し、バラツキDが判定値以下となったか否かを再度判定する。
ステップS22でNOと判定した場合、制御装置41は、ステップS22の判定工程でYESと判定するまで、調整工程S23、測定工程S21、判定工程S22を繰り返す。
ステップS22でYESと判定した場合、制御装置41は、電力供給部20A~20Dの接触抵抗を適切に調整できたと判断し、ステップS2の抵抗値設定工程を終了し、
図9の処理に戻る。
【0053】
制御装置41は、
図9に示すように、ステップS1でNOと判定した場合、つまり抵抗値を設定するタイミングでは無い場合と、ステップS2の抵抗値設定工程を終了した場合は、熔融制御部410によってシリコン融液の加熱工程を実行する(ステップS3)。
シリコン融液加熱工程S3では、
図13に示すように、熔融制御部410は、無磁場状態でチャンバ2内を減圧下の不活性ガス雰囲気に維持し、ルツボ3を回転させるとともに、電圧印加部43によって加熱装置4を作動し、ルツボ3に充填した多結晶シリコンなどの固形原料を溶融させ、シリコン融液Mを生成する(ステップS31)。
【0054】
このとき、熔融制御部410は、電圧印加部43を用いて第1の加熱領域4Aおよび第2の加熱領域4Bに同じ大きさの電圧を印加する。この際、第1抵抗値R1および第2抵抗値R2のバラツキDが15%以下と小さければ、第1電力供給部(電力供給部20A、20B)と第2電力供給部(電力供給部20C、20D)とで発熱分布もほぼ均一となり、加熱装置4の第1の加熱領域4Aおよび第2の加熱領域4Bの発熱分布も均一にできる。そして、熔融制御部410は、シリコン融液Mの温度が1415℃以上1500℃以下となるように加熱を制御する。
【0055】
ステップS31によって生成されたシリコン融液Mは、熱やルツボ3の回転の影響を受けて対流する。そのため、熔融制御部410は、シリコン融液Mの渦が周期的に回っているかの安定性を判断する。具体的には、熔融制御部410は、温度計測部15における第1の計測点P1または第2の計測点P2での温度の経時変化(温度推移)を確認し、周期的に変動する計測温度の最高値および最低値の変動幅である周期変動幅が所定の温度範囲(所定範囲)内に入っているか否かを判断する(ステップS32)。
このステップS32の処理によって、シリコン融液Mの渦が周期的に回っているかの安定性を判断できる。
【0056】
このステップS32において、熔融制御部410は、周期変動幅が所定範囲内に入っていない、つまり渦が周期的に回っていないと判断した場合、シリコン融液Mの加熱温度を調整し(ステップS33)、所定時間経過後にステップS32の処理を行う。
【0057】
一方、ステップS32において、熔融制御部410は、周期変動幅が所定範囲内に入っており、渦が周期的に安定して回っていると判断した場合、シリコン融液の加熱条件を調整するステップS3の工程を終了する。なお、ステップS3の工程を終了しても、熔融制御部410は電圧印加部43によるシリコン融液の加熱は継続する。
【0058】
制御装置41は、ステップS3の終了後、
図9に示すように、熔融制御部410により磁場印加部14を制御して、シリコン融液Mへの0.2テスラ以上0.6テスラ以下の水平磁場を印加する水平磁場印加工程を実行する(ステップS4)。このステップS4の処理によって、シリコン融液Mの対流方向が右回りあるいは左回りに固定される。
次に、熔融制御部410は、温度計測部15における第1の計測点P1および第2の計測点P2の温度差を確認し、対流方向が右回りであるか左回りであるかを確認する対流方向確認工程を実行する(ステップS5)。
【0059】
その後、引き上げ制御部420は、事前決定条件に基づいて、0.2テスラ以上0.6テスラ以下の水平磁場の印加を継続したままシリコン融液Mに種結晶SCを着液してから、所望の酸素濃度の直胴部を有するシリコン単結晶SMを引き上げる引き上げ工程を実行する(ステップS6)。
なお、ステップS32における周期変動幅の確認処理、ステップS33における加熱温度の調整処理、ステップS4における水平磁場の印加開始処理、ステップS5における温度計測による対流方向確認処理、ステップS6における引き上げ処理は、作業者の操作によって行ってもよい。
【0060】
以上説明したシリコン単結晶の製造方法を用いて引上げられたシリコン単結晶SMを構成する直胴部をワイヤーソー等でシリコンウェーハに切り出す。次に、切り出されたシリコンウェーハにラッピング工程、研磨工程を施すことにより、シリコンウェーハが得られる。この処理が本発明のシリコンウェーハの製造方法に対応する。
【0061】
[実施形態の作用および効果]
本実施形態によれば、引き上げ工程S6を所定回数実行する毎に、ステップS2の抵抗値設定工程を実行し、第1の加熱領域4Aに配置された電力供給部20A、20Bの接触抵抗Rα、Rβの和である第1抵抗値R1と、第2の加熱領域4Bに配置された電力供給部20C、20Dの接触抵抗Rγ、Rδの和である第2抵抗値R2とのバラツキDを、判定値である15%以下に設定しているので、第1の加熱領域4Aの電力供給部20A、20Bの発熱量と、第2の加熱領域4Bの電力供給部20C、20Dの発熱量とを均一にできる。従って、発熱部30の周方向の発熱分布が均一であり、かつ、電力供給部20A、20Bの発熱量と、電力供給部20C、20Dの発熱量とが均一であることによって、第1の加熱領域4Aの発熱量と、第2の加熱領域4Bの発熱量とをほぼ均一にできる。このため、バッチ間でシリコン融液の対流の向きがランダムに右渦、左渦となっても、石英ルツボ3Bから結晶の成長界面に供給される酸素量のばらつきが小さくなり、安定した酸素濃度を有するシリコン単結晶が得られる。これにより、結晶の成長軸方向に所望の酸素濃度を有する結晶が育成できるため、炉間・バッチ間のシリコン単結晶の品質および生産性のばらつきを抑制でき、シリコン単結晶の歩留まりが向上する。
特に、各電力供給部20A~20Dを構成する端子21A~21Dと、電極22A~22Dとの間の接触抵抗を、これらの間に導電性シート24を介在させたり、機械的研磨で接触面の表面粗さを調整したり、ナット23A~23Dの締め付けトルクを調整することで第1抵抗値R1および第2抵抗値R2のバラツキDを判定値以下に設定しており、このような簡便な手段で、シリコン単結晶SMごとの酸素濃度のばらつきを抑制できる。
【0062】
本実施形態によれば、引き上げ工程S6を所定回数実行する毎に、ステップS2の抵抗値設定工程を実行しているので、導電性シート24や、端子21A~21D、電極22A~22Dに経時劣化が発生した場合でも、定期的に各電力供給部20A~20Dの接触抵抗を測定、調整することで発熱分布の均一性を維持することができ、シリコン単結晶の歩留まりを改善することができる。
また、抵抗値設定工程を実施する間隔である所定回数を、1回以上、9回以下に設定したので、シリコン単結晶製造装置1に応じて適切な間隔で接触抵抗を調整することができる。例えば、所定回数を1回とすれば、シリコン単結晶SMを引き上げる毎に接触抵抗を測定し、調整する必要があればその時点で接触抵抗を調整できるので、加熱装置4の発熱分布を均一化でき、シリコン単結晶の歩留まりを改善することができる。また、所定回数を9回以下としているので、例えば、シリコン単結晶製造装置1において導電性シート24が徐々に劣化して抵抗値のバラツキDが大きくなる前に接触抵抗を測定、調整することができるので、各バッチでバラツキDを判定値以下に抑制でき、シリコン単結晶の歩留まりを改善することができる。
【0063】
本実施形態によれば、端子21A~21Dおよび電極22A~22D間の接触抵抗を調整しているので、加熱装置4には特殊な加工が不要であり、市販品を用いることができ、コストを削減できる。また、加熱装置4には、形状が対称で厚みが均一なものを用いることができ、簡単な構造で耐久性も高い。
【0064】
さらに、本実施形態によれば、制御装置41は、ステップS2の抵抗値設定工程において、第1抵抗値R1、第2抵抗値R2を測定し、そのバラツキDが判定値よりも大きい場合、測定した接触抵抗に基づいて抵抗値を調整する対象および調整方法を提案するため、作業者は、容易にかつ短時間で抵抗値を調整することができる。
また、測定工程S21では、第1測定工程S211で発熱部30および電力供給部20A~20Dの合成抵抗を測定し、第2測定工程S212で発熱部30の合成抵抗を測定しているので、加熱装置4を分解することなく、正しい接触抵抗を測定することができる。さらに、抵抗値測定部44は、四端子法の抵抗計で構成されているので、各合成抵抗を精度良く測定でき、その測定値に基づいて算出する接触抵抗も精度良く求めることができる。
【0065】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の種々の改良並びに設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【0066】
例えば、抵抗値設定工程を実行する間隔を設定する引き上げ工程の所定回数は、1回以上、9回以下に限定されない。例えば、シリコン単結晶製造装置1において第1抵抗値R1および第2抵抗値R2のバラツキが判定値よりも大きくなる引き上げ工程の実行回数を実験した際に、例えば、平均15回で判定値よりも大きくなった場合は、所定回数を15回に設定してもよい。すなわち、所定回数は、シリコン単結晶の製造に用いられるシリコン単結晶製造装置1の種類などに応じて実際に実験して設定すればよい。
【0067】
バラツキを判定する判定値は「15%」に限定されず、実験によって求められる値に設定すればよい。例えば、実験した結果、シリコン単結晶の酸素濃度のバラツキが5%以下になる第1抵抗値R1および第2抵抗値R2のバラツキDが「10%」であれば、判定値も「10%」に設定すればよく、酸素濃度のバラツキが5%以下になるバラツキDが「17%」であれば、判定値も「17%」に設定すればよい。すなわち、シリコン単結晶の酸素濃度を基準値以下に抑制できるバラツキDは、シリコン単結晶製造装置1で製造するシリコン単結晶の種類やホットゾーンの形状、発熱部30の構成など、第1の加熱領域4Aおよび第2の加熱領域4Bの発熱分布に影響する他の要素にも左右されるため、各シリコン単結晶製造装置1において実験して求めることが好ましく、その実験結果の値に応じて設定すればよい。また、加熱装置4の発熱分布やシリコン融液Mの対流などをシミュレーションできる場合には実験せずにシミュレーション結果に応じて判定値を設定してもよい。
さらに、バラツキを判定する判定値は、実験やシミュレーションで求められた値以下に設定してもよい。例えば、実験で求めた値が「15%」であった場合、判定値を「15%以下」のより小さな値に設定してもよい。判定値をより小さい値に設定して判定すれば、つまり判定条件をより厳しくすれば、シリコン単結晶の酸素濃度のバラツキをより小さくできる。
【0068】
前記実施形態では、電力供給部20A~20Dが仮想線VLに対して線対称となる位置に配置されている例を示したが、これに限定されない。すなわち、前記実施形態では、電力供給部20A~20Dと加熱装置4の中心軸CAとを結ぶ線と、仮想線VLとの公差角度は45度に設定されているが、例えば、電力供給部20A、20Cと中心軸CAとを結ぶ線と仮想線VLとの交差角度が30度とされ、電力供給部20B、20Dと中心軸CAとを結ぶ線と仮想線VLとの交差角度が60度とされるように配置してもよい。すなわち、発熱部30の発熱分布を一定にするために、電力供給部20A~20Dは発熱部30の周方向に90度間隔で配置され、さらに、第1電力供給部である電力供給部20A、20Bが第1の加熱領域4Aに配置され、第2電力供給部である電力供給部20C、20Dが第2の加熱領域4Bに配置されていればよい。
【0069】
抵抗値調整工程S232で実行する調整方法は、前記実施形態の第1~第3の調整方法に限定されず、他の方法で抵抗値を調整してもよい。例えば、端子21A~21Dおよび電極22A~22D間に、炭素系の繊維素材等で構成される板状の電気抵抗調整部材を介挿し、その介挿枚数を調整することで抵抗値を調整してもよい。
また、電気抵抗調整部材は、意図的に抵抗を大きくすることができる部材であるポーラス状炭素で形成された厚みのある円板状シートなどを使用してもよく、電力供給部20A、20Bに介挿する円板状シートの厚さ寸法と、電力供給部20C、20Dに介挿する円板状シートの厚さ寸法とを変更することで、第1抵抗値R1、第2抵抗値R2を調整してもよい。
すなわち、第1電力供給部に介挿される電気抵抗調整部材と、第2電力供給部に介挿される電気抵抗調整部材との介挿枚数や、厚さ寸法などを変更して各電気抵抗調整部材の抵抗値を異ならせることで、第1抵抗値R1、第2抵抗値R2を調整してもよい。
【0070】
また、前記実施形態は、4個の電力供給部20A~20Dを設けていたが、電力供給部の数は、6個や8個などでもよく、第1の加熱領域4Aおよび第2の加熱領域4Bに同数の電力供給部を設ければ良い。
【実施例】
【0071】
次に、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0072】
炉内が同じ構造を有する前記実施形態のシリコン単結晶製造装置1を、#1~#7まで7台用意し、各シリコン単結晶製造装置1の電力供給部20A~20Dの接触抵抗を4端子法の原理を用いた抵抗値測定部44により測定した。これら7つの炉における、抵抗測定前までの直近のヒーター使用時間700時間の間に育成したシリコン単結晶の酸素濃度の測定結果から、結晶酸素濃度のバッチ間バラツキを評価した。その結果を表1に示す。
表1において、接触抵抗バラツキは、抵抗値算出工程S213で求められるバラツキDである。
対流方向右回りの確率は、#1~#7の各炉において、シリコン融液の対流の向きが右回り(右渦)となった確率を示す。すなわち、ヒーター使用時間700時間の間にn回の引き上げ工程S5を実行してn本のシリコン単結晶を育成した際に、シリコン融液の対流の向きが右回りとなった回数がm回であれば、対流方向右回りの確率はm/nで求められる。
結晶酸素濃度バラツキは、n本の結晶に対する結晶長500mm、1000mm、1500mmにおける酸素濃度の測定値(3n個)の標準偏差σである。
結晶酸素濃度バラツキ判定は、結晶酸素濃度バラツキが目標値の5%未満であるときにOK、それ以上のときにNGと判定した。
【0073】
【0074】
表1の結果から、接触抵抗バラツキが15%以下である#1~#5は、対流方向右回りの確率が40~60%であり、右回りと左回りとがランダムに発生することが確認できた。
また、接触抵抗バラツキが15%以下である#1~#5においては結晶酸素濃度バラツキがOK判定となり、バラツキが15%より大きい#6、#7においてはNG判定となった。このため、接触抵抗バラツキを判定値である15%以下に抑えることで、シリコン融液の対流の向きがランダムであっても、育成したシリコン単結晶の酸素濃度のバラツキを低く抑えることができることを確認できた。
【0075】
表2は、導電性シート24を新品に交換することによって、電力供給部20A~20Dの接触抵抗を調整する前と後との接触抵抗値と接触抵抗バラツキDの変化を示す。
【0076】
【0077】
表2に示すように、導電性シート24を交換することによって、各接触抵抗を同程度の値に低下させることができ、調整前には判定値である15%以上であった接触抵抗バラツキを、調整後は判定値以下、具体的には判定値である15%の約半分の7.6%に低下することができた。
【0078】
[評価]
以上の結果から、電力供給部20A~20Dの端子21A~21Dおよび電極22A~22D間の接触抵抗を調整し、第1の加熱領域4Aにおける電力供給部20A、20Bの接触抵抗の和である第1抵抗値R1と、第2の加熱領域4Bにおける電力供給部20C、20Dの接触抵抗の和である第2抵抗値R2とのバラツキDを判定値以下となるように設定することで、シリコン単結晶の酸素濃度のバラツキを低下させることができ、シリコン単結晶の歩留まりを改善できることを確認できた。
また、実施例のシリコン単結晶製造装置1では、結晶酸素濃度バラツキを5%以下に抑制できる接触抵抗のバラツキDは15%以下であり、判定値を15%に設定すればよいことが分かった。
また、電力供給部20A~20Dの接触抵抗を制御する手段として、導電性シート24を接触面に挟むことで抵抗を小さくすることが有効であることが分かった。さらに、接触抵抗値を調整する方法は、発熱部30の加工が不要であり、作業現場で調整することができ、利用価値が極めて高いことが分かった。
【符号の説明】
【0079】
1…シリコン単結晶製造装置、2…チャンバ、2A…石英窓、3…ルツボ、3A…黒鉛ルツボ、3B…石英ルツボ、4…加熱装置、4A…第1の加熱領域、4B…第2の加熱領域、5…支持軸、6…断熱材、7…引き上げ軸、8…熱遮蔽体、9…ガス導入口、10…排気口、14…磁場印加部、14A…第1の磁性体、14B…第2の磁性体、15…温度計測部、15A…反射部、15B…放射温度計、15C…反射面、20A…電力供給部、20B…電力供給部、20C…電力供給部、20D…電力供給部、21A…端子、21B…端子、21C…端子、21D…端子、22A…電極、22B…電極、22C…電極、22D…電極、23A…ナット、23B…ナット、23C…ナット、23D…ナット、24…導電性シート、30…発熱部、31…上スリット、32…下スリット、33A…第1蛇行部、33B…第2蛇行部、33C…第3蛇行部、33D…第4蛇行部、41…制御装置、42…記憶部、43…電圧印加部、44…抵抗値測定部、45…表示部、211A…接続部、211B…接続部、211C…接続部、211D…接続部、212A…貫通孔、212B…貫通孔、212C…貫通孔、212D…貫通孔、213A…上面、214A…下面、221A…本体部、222A…上面、223A…挿通部、224A…雄ねじ、410…熔融制御部、420…引き上げ制御部、430…抵抗値設定部、431…抵抗値測定制御部、432…抵抗値算出部、433…バラツキ判定部、434…抵抗値調整部、CA…中心軸、CS…中心、F…水平面、L…輻射光、M…シリコン融液、ML…矢印、P1…第1の計測点、P2…第2の計測点、R1…第1抵抗値、R2…第2抵抗値、Rα…接触抵抗、Rβ…接触抵抗、Rγ…接触抵抗、Rδ…接触抵抗、S…表面、SC…種結晶、SM…シリコン単結晶、VL…仮想線、θ1…入射角、θ2…反射角、θf…角度。