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特許7501521潤滑剤、粉末混合物及び焼結体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】潤滑剤、粉末混合物及び焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C10M 105/68 20060101AFI20240611BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240611BHJP
   B22F 3/02 20060101ALI20240611BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20240611BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20240611BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20240611BHJP
   C10N 40/20 20060101ALN20240611BHJP
【FI】
C10M105/68
B22F1/00 V
B22F3/02 M
C22C33/02 A
C10N20:00 A
C10N30:00 Z
C10N40:20
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021509391
(86)(22)【出願日】2020-03-23
(86)【国際出願番号】 JP2020012708
(87)【国際公開番号】W WO2020196401
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2019/013415
(32)【優先日】2019-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浦島 航介
(72)【発明者】
【氏名】有福 征宏
(72)【発明者】
【氏名】大守 洋
(72)【発明者】
【氏名】山西 祐司
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-025038(JP,A)
【文献】特開2015-124408(JP,A)
【文献】特開平09-327979(JP,A)
【文献】特開2003-105366(JP,A)
【文献】特開2002-240424(JP,A)
【文献】特開2006-264123(JP,A)
【文献】特開平09-143317(JP,A)
【文献】特開2001-288584(JP,A)
【文献】特開2001-288582(JP,A)
【文献】特開2010-285633(JP,A)
【文献】特開2016-124960(JP,A)
【文献】特開2014-118603(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
C22C 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのヒドロキシ基を有する1価の有機基がアミド結合の窒素原子に少なくとも1つ結合した化合物である潤滑剤Aと、
前記潤滑剤Aよりも融点が低い潤滑剤Bと、を含み、
前記潤滑剤Aは、下記の一般式(1)で表される化合物を含み、
前記潤滑剤Bは、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、リシノール酸アミド、N-オレイルオレイン酸アミド、N-ステアリルオレイン酸アミド、N-オレイルステアリン酸アミド、N-ステアリルエルカ酸アミド、N-オレイルパルミチン酸アミド、N-オレイル-ヒドロキシステアリン酸アミド、及びN-オレイルパルミトアミドからなる群より選択される少なくとも1つを含む潤滑剤。
【化1】

(一般式(1)中、R は炭素数1~3のヒドロキシアルキル基であり、R は水素原子であり、R は炭素数10~30の炭化水素基である。)
【請求項2】
前記潤滑剤Aは、メチロールステアリン酸アミド及びメチロールベヘン酸アミドの少なくとも一方を含む請求項1に記載の潤滑剤。
【請求項3】
前記潤滑剤Bは、エルカ酸アミド及びN-オレイルパルミトアミドの少なくとも一方を含む請求項1又は請求項2に記載の潤滑剤。
【請求項4】
前記潤滑剤Aと前記潤滑剤Bとの質量比(潤滑剤A:潤滑剤B)は、1:9~9:1である請求項~請求項のいずれか1項に記載の潤滑剤。
【請求項5】
潤滑剤全量に対する前記潤滑剤A及び前記潤滑剤Bの合計の含有率は、50質量%~100質量%である請求項~請求項のいずれか1項に記載の潤滑剤。
【請求項6】
粉末冶金に用いる請求項1~請求項のいずれか1項に記載の潤滑剤。
【請求項7】
融点が140℃以上の潤滑剤を含まないか、前記融点が140℃以上の潤滑剤の含有率が、潤滑剤全量に対し5質量%以下である請求項に記載の潤滑剤。
【請求項8】
原料粉末と、請求項1~請求項のいずれか1項に記載の潤滑剤と、を含む粉末混合物。
【請求項9】
前記原料粉末100質量部に対して、前記潤滑剤の含有量が0.1質量部~2.0質量部である請求項に記載の粉末混合物。
【請求項10】
融点が140℃以上の潤滑剤を含まないか、前記融点が140℃以上の潤滑剤の含有率が、潤滑剤全量に対し5質量%以下である請求項又は請求項に記載の粉末混合物。
【請求項11】
請求項~請求項10のいずれか1項に記載の粉末混合物を焼結することによって焼結体を製造する焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑剤、粉末混合物及び焼結体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、潤滑剤は潤滑のために使用され、例えば、接する固体同士の摩擦を軽減するために用いられる。潤滑剤としては、液体の潤滑油、半固形のグリース、固体の潤滑剤等が挙げられ、例えば、粉末冶金法では、粉末状である固体の潤滑剤(粉末状の潤滑剤)が用いられる。
【0003】
粉末冶金法のうち、特に金型成形法においては、金型壁面と圧粉体との摩擦を軽減するため、通常、粉末状の潤滑剤を混入させた粉末混合物を用いる。粉末混合物は、主原料粉末である鉄基粉末に、例えば、銅粉末、黒鉛粉末、切削性改善用粉末等の副原料粉末と潤滑剤の粉末とを混合したものである。
【0004】
粉末状の潤滑剤を粉末混合物に添加することにより、粉末混合物における流動性、圧密性等の粉末特性が改善され、圧縮成形した圧粉体が金型から抜き出し易くなる。潤滑剤の粉末としては、例えば、ステアリン酸及びその金属塩等の金属石鹸系潤滑剤、有機系潤滑剤(ワックス系潤滑剤)、脂肪酸アミド系潤滑剤、並びに金属石鹸系潤滑剤と脂肪酸アミド系潤滑剤との混合物が挙げられる(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0005】
潤滑剤は、金属粉末との混合性、粉末混合物としたときの粉末特性、圧縮成形後の圧粉体の抜き出し性、圧粉体を焼結する際の潤滑剤の逸散性等の点から選択される。中でも、比較的優れた潤滑特性及びコストの点から、ステアリン酸亜鉛が潤滑剤として広く用いられている。このような潤滑剤は、粉末混合物に予め混入させて用いるのが一般的である。なお、潤滑剤を金型壁面に塗布して用いる方法もあるが、特殊な装置が必要となるため、焼結体の製造コストが割高となる。
【0006】
しかしながら、ステアリン酸亜鉛に代表される金属石鹸系潤滑剤は、圧粉体を焼結する際に製品表面、排気ダクト等を汚染するという問題があり、有機系潤滑剤(ワックス系潤滑剤)への置き換えが望まれている。有機系潤滑剤としては、特許文献1及び2に記載された潤滑剤のほか、長鎖アルキル基を有するアミド系化合物が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平4-136104号公報
【文献】特開平11-193404号公報
【文献】特表2008-513602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
有機系潤滑剤を粉末混合物の添加剤として用いる場合であっても、粉末混合物は高い流動性を有することが好ましく、成形体としたときに高密度となる圧密性を有することが好ましい。さらに成形体を焼結してなる焼結体の外観に優れることが望まれる。
【0009】
本開示は、粉末混合物の流動性及び圧密性を向上させることができ、さらに外観に優れる焼結体を製造可能な潤滑剤、これを含む粉末混合物並びに粉末混合物を用いた焼結体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 少なくとも1つのヒドロキシ基を有する1価の有機基がアミド結合の窒素原子に少なくとも1つ結合した化合物である潤滑剤Aを含む潤滑剤。
<2> 前記潤滑剤Aは、下記の一般式(1)で表される化合物を含む前記<1>に記載の潤滑剤。
【0011】
【化1】


(一般式(1)中、Rは少なくとも1つのヒドロキシ基を有する1価の有機基であり、Rは少なくとも1つのヒドロキシ基を有する1価の有機基又は水素原子であり、Rは1価の有機基である。)
<3> Rは炭素数1~3のヒドロキシアルキル基であり、Rは水素原子である前記<2>に記載の潤滑剤。
<4> Rは、炭素数10~30の炭化水素基又は少なくとも1つのヒドロキシ基が置換した炭素数10~30の炭化水素基である前記<2>又は<3>に記載の潤滑剤。
<5> 前記潤滑剤Aは、メチロールステアリン酸アミド及びメチロールベヘン酸アミドの少なくとも一方を含む前記<1>~<4>のいずれか1つに記載の潤滑剤。
<6> 前記潤滑剤Aよりも融点が低い潤滑剤Bを含む前記<1>~<5>のいずれか1つに記載の潤滑剤。
<7> 前記潤滑剤Bの融点が60℃~85℃である前記<6>に記載の潤滑剤。
<8> 前記潤滑剤Bは、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、リシノール酸アミド、N-オレイルオレイン酸アミド、N-ステアリルオレイン酸アミド、N-オレイルステアリン酸アミド、N-ステアリルエルカ酸アミド、N-オレイルパルミチン酸アミド、N-オレイル-ヒドロキシステアリン酸アミド、ステアリン酸、及びN-オレイルパルミトアミドからなる群より選択される少なくとも1つを含む前記<6>に記載の潤滑剤。
<9> 前記潤滑剤Bは、エルカ酸アミド及びN-オレイルパルミトアミドの少なくとも一方を含む前記<6>に記載の潤滑剤。
<10> 前記潤滑剤Aと前記潤滑剤Bとの質量比(潤滑剤A:潤滑剤B)は、1:9~9:1である前記<6>~<9>のいずれか1つに記載の潤滑剤。
<11> 潤滑剤全量に対する前記潤滑剤A及び前記潤滑剤Bの合計の含有率は、50質量%~100質量%である前記<6>~<10>のいずれか1つに記載の潤滑剤。
<12> 粉末冶金に用いる前記<1>~<11>のいずれか1つに記載の潤滑剤。
<13> 融点が140℃以上の潤滑剤を含まないか、前記融点が140℃以上の潤滑剤の含有率が、潤滑剤全量に対し5質量%以下である<12>に記載の潤滑剤。
【0012】
<14> 原料粉末と、前記<1>~<12>のいずれか1つに記載の潤滑剤と、を含む粉末混合物。
<15> 前記原料粉末100質量部に対して、前記潤滑剤の含有量が0.1質量部~2.0質量部である前記<14>に記載の粉末混合物。
<16> 融点が140℃以上の潤滑剤を含まないか、前記融点が140℃以上の潤滑剤の含有率が、潤滑剤全量に対し5質量%以下である<14>又は<15>に記載の粉末混合物。
【0013】
<17> 前記<14>~<16>のいずれか1つに記載の粉末混合物を焼結することによって焼結体を製造する焼結体の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、粉末混合物の流動性及び圧密性を向上させることができ、さらに外観に優れる焼結体を製造可能な潤滑剤、これを含む粉末混合物並びに粉末混合物を用いた焼結体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の潤滑剤、粉末混合物及び焼結体の製造方法の実施形態について説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。
本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、1つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率又は含有量は、特に断らない限り、当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
本開示において各成分に該当する粒子は複数種含んでいてもよい。各成分に該当する粒子が複数種存在する場合、各成分の粒子径は、特に断らない限り、当該複数種の粒子の混合物についての値を意味する。
本開示において、炭化水素基は、飽和炭化水素基であってもよく、不飽和炭化水素基であってもよい。炭化水素基は、直鎖であってもよく、分岐であってもよく、環構造を含むものであってもよい。
【0016】
〔潤滑剤〕
本開示の潤滑剤は、少なくとも1つのヒドロキシ基を有する1価の有機基がアミド結合の窒素原子に少なくとも1つ結合した化合物である潤滑剤Aを含む。本開示の潤滑剤を粉末混合物の添加剤として用いることにより、粉末混合物の流動性及び圧密性を向上させることができる。この理由は、明らかではないが、極性基であるヒドロキシ基を少なくとも1つ有する1価の有機基がアミド結合の窒素原子に結合していることにより、粉末混合物に添加した際に潤滑剤の極性のバランスが良好であり、粉末混合物の流動性及び圧密性が向上すると考えられる。
さらに、本開示の潤滑剤は潤滑剤Aを含むため、外観に優れる焼結体を得ることができる。
【0017】
本開示の潤滑剤は、例えば、粉末冶金用に用いられることが好ましい。また、粉末混合物の潤滑のための、少なくとも1つのヒドロキシ基を有する1価の有機基がアミド結合の窒素原子に少なくとも1つ結合した化合物の使用も本発明の範囲に含まれる。
【0018】
(潤滑剤A)
潤滑剤Aは、少なくとも1つのヒドロキシ基を有する1価の有機基がアミド結合の窒素原子に少なくとも1つ結合した化合物であればよい。潤滑剤Aは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
また、少なくとも1つのヒドロキシ基を有する1価の有機基としては、炭素数1~3のヒドロキシアルキル基であることが好ましく、メチロール基又はエチロール基であることがより好ましく、メチロール基であることがさらに好ましい。
【0020】
潤滑剤Aは、アミド結合のカルボニル基を構成する炭素原子に1価の有機基が結合した化合物であることが好ましい。また、アミド結合のカルボニル基を構成する炭素原子に結合する1価の有機基は、炭素数10~30の炭化水素基又は少なくとも1つのヒドロキシ基が置換した炭素数10~30の炭化水素基であることが好ましく、炭素数10~30の炭化水素基であることがより好ましく、炭素数15~25の炭化水素基であることがさらに好ましい。アミド結合のカルボニル基を構成する炭素原子に結合する1価の有機基が、炭素数10~30の炭化水素基であることにより、粉末混合物に添加した際に潤滑剤の極性のバランスがより良好であるため、粉末混合物の流動性及び圧密性がより良好となる傾向にある。
【0021】
潤滑剤Aは、下記の一般式(1)で表される化合物を含むことが好ましい。
【0022】
【化2】
【0023】
一般式(1)中、Rは少なくとも1つのヒドロキシ基を有する1価の有機基であり、Rは少なくとも1つのヒドロキシ基を有する1価の有機基又は水素原子であり、Rは1価の有機基である。
【0024】
一般式(1)中、R及びRにおける少なくとも1つのヒドロキシ基を有する1価の有機基としては、それぞれ独立に、1つのヒドロキシ基を有する1価の有機基であることが好ましく、炭素数1~3のヒドロキシアルキル基であることがより好ましく、メチロール基又はエチロール基であることがさらに好ましく、メチロール基であることが特に好ましい。
【0025】
は水素原子であることが好ましく、Rは炭素数1~3のヒドロキシアルキル基であり、かつRは水素原子であることがより好ましい。
【0026】
は、炭素数10~30の炭化水素基又は少なくとも1つのヒドロキシ基が置換した炭素数10~30の炭化水素基であることが好ましく、炭素数10~30の炭化水素基であることがより好ましく、炭素数15~25の炭化水素基であることがさらに好ましい。
【0027】
における少なくとも1つのヒドロキシ基が置換した炭素数10~30の炭化水素基としては、1つのヒドロキシ基が置換した基であってもよく、2つ以上のヒドロキシ基が置換した基であってもよい。
【0028】
潤滑剤Aとしては、メチロール脂肪酸アミドを含むことが好ましく、アミド結合のカルボニル基を構成する炭素原子に炭素数が11~21の炭化水素基が結合したメチロール脂肪酸アミドを含むことがより好ましく、メチロールパルミチン酸アミド、メチロールステアリン酸アミド及びメチロールベヘン酸アミドの少なくともいずれか1つを含むことがさらに好ましく、メチロールステアリン酸アミド及びメチロールベヘン酸アミドの少なくとも一方を含むことが特に好ましく、メチロールステアリン酸アミドを含むことがより一層好ましい。潤滑剤Aとしては、前述のメチロール脂肪酸アミドであってもよく、前述のメチロール脂肪酸アミドと、メチロール脂肪酸アミド以外の、少なくとも1つのヒドロキシ基を有する1価の有機基がアミド結合の窒素原子に少なくとも1つ結合した化合物との混合物であってもよい。
【0029】
潤滑剤Aの融点は、粉末混合物の流動性を高める点、抜き出し性の点、及び焼結体の外観の観点から、90℃~130℃であることが好ましく、90℃~120℃であることがより好ましい。
本開示において、融点は示差走査熱量測定(DSC)により測定される値である。
【0030】
(潤滑剤B)
本開示の潤滑剤は、潤滑剤Aよりも融点が低い潤滑剤Bを含むことが好ましい。潤滑剤Bを含むことにより、潤滑剤が添加された粉末混合物を金型を用いて圧縮成形した際に、成形体を金型から抜き出しやすくなる、すなわち、成形体の抜き出し性が向上する傾向にある。潤滑剤Bは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
成形体の抜き出し性の点から、潤滑剤Bの融点は60℃~85℃であることが好ましい。
【0032】
潤滑剤Bは、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、リシノール酸アミド、N-オレイルオレイン酸アミド、N-ステアリルオレイン酸アミド、N-オレイルステアリン酸アミド、N-ステアリルエルカ酸アミド、N-オレイルパルミチン酸アミド、N-オレイル-ヒドロキシステアリン酸アミド、ステアリン酸、及びN-オレイルパルミトアミドからなる群より選択される少なくとも1つを含むことが好ましく、エルカ酸アミド、リシノール酸アミド、ステアリン酸、オレイン酸アミド及びN-オレイルパルミトアミドからなる群より選択される少なくとも1つを含むことがより好ましい。中でも、粉末混合物の流動性及び圧密性並びに成形体の抜き出し性の点から、エルカ酸アミド及びN-オレイルパルミトアミドの少なくとも一方を含むことがより好ましい。
【0033】
潤滑剤Aと潤滑剤Bとの質量比(潤滑剤A:潤滑剤B)は、粉末混合物の流動性及び圧密性並びに成形体の抜き出し性のバランスの点から、1:9~9:1であることが好ましく、2:8~8:2であることがより好ましく、3:7~7:3であることがさらに好ましい。
【0034】
潤滑剤全量に対する潤滑剤A及び潤滑剤Bの合計の含有率は、50質量%~100質量%であることが好ましい。また、潤滑剤A及び潤滑剤Bの合計の含有率は、60質量%~95質量%であってもよく、80質量%~90質量%であってもよい。
【0035】
本開示の潤滑剤としては、潤滑剤Aはメチロール脂肪酸アミドであり、潤滑剤Bはエルカ酸アミド及びN-オレイルパルミトアミドの少なくとも一方であることが好ましい。これにより、粉末混合物の流動性及び圧密性並びに成形体の抜き出し性のバランスに優れる傾向にある。
【0036】
(その他の潤滑剤)
本開示の潤滑剤は、潤滑剤A及び潤滑剤B以外のその他の潤滑剤を含んでいてもよい。その他の潤滑剤としては、潤滑剤A及び潤滑剤B以外のアミド系潤滑剤が挙げられる。その他の潤滑剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
潤滑剤A及び潤滑剤B以外のアミド系潤滑剤としては、潤滑剤Bよりも融点の高い、脂肪酸アミド、脂肪酸ビスアミド等が挙げられる。
【0038】
脂肪酸アミドとしては、ラウリン酸アミド、パルチミン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、N-ラウリルラウリン酸アミド、N-パルミチルパルミチン酸アミド、N-ステアリルステアリン酸アミド、N-ステアリル-ヒドロキシステアリン酸アミド等が挙げられる。
【0039】
また、脂肪酸ビスアミドとしては、メチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスラウリン酸アミド、メチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビスカプリル酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスイソステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、ブチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、N,N’-ジステアリルアジピン酸アミド、N,N’-ジステアリルセバシン酸アミド、メチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、N,N’-ジオレイルアジピン酸アミド、N,N’-ジオレイルセバシン酸アミド、m-キシリレンビスステアリン酸アミド、N,N’-ジステアリルイソフタル酸アミド等が挙げられる。
【0040】
潤滑剤全量に対するその他の潤滑剤の含有率は、0質量%超50質量%以下であってもよく、5質量%~40質量%であってもよく、10質量%~20質量%であってもよい。
【0041】
本開示の潤滑剤は、外観に優れる焼結体を得る観点から、融点が140℃以上の潤滑剤を含まないか、融点が140℃以上の潤滑剤の含有率が、潤滑剤全量に対し5質量%以下であることが好ましい。
【0042】
〔粉末混合物〕
本開示の粉末混合物は、原料粉末と、前述の本開示の潤滑剤と、を含む。この粉末混合物は、流動性及び圧密性に優れる。
本開示の粉末混合物は、例えば、粉末冶金用に用いられることが好ましい。
【0043】
原料粉末としては、鉄を主成分として含む主原料粉末、焼結体の特性を改善する副原料粉末等が挙げられる。
なお、鉄を主成分として含むとは、原料粉末における鉄の含有率が原料粉末全体の50質量%以上であることを意味する。
【0044】
主原料粉末としては、不可避不純物(酸素、ケイ素、炭素、マンガン等)を含みうる純鉄粉、鉄基合金粉末等の鉄基粉末が挙げられる。主原料粉末は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
主原料粉末の平均粒子径は、30μm~150μmであることが好ましく、50μm~100μmであることがより好ましい。
本開示において、平均粒子径は、レーザー回折法により測定される体積基準の粒度分布において小径側からの累積が50%となるときの粒子径(D50)である。
【0046】
鉄基粉末は、例えば、アトマイズ法によって溶融鉄又は溶融鉄合金を微粒子とした後に還元し、次いで粉砕する方法によって製造できる。
【0047】
副原料粉末としては、焼結体の特性を改善することができる原料粉末であれば特に限定されず、焼結体の硬さ、靭性等の機械的特性を向上させる粉末、焼結体の被削性を高める粉末等が挙げられる。
【0048】
副原料粉末としては、例えば、主原料粉末以外の金属粉末及び無機粉末が挙げられる。副原料粉末は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
金属粉末としては、銅、ニッケル、クロム、モリブデン、スズ、バナジウム、マンガン等の粉末が挙げられる。
【0050】
無機粉末としては、硫化マンガン、二硫化マンガン等の硫化物;窒化ホウ素等の窒化物;ホウ酸、酸化マグネシウム、酸化カリウム、酸化ケイ素等の酸化物;天然黒鉛、人造黒鉛等のグラファイト;リン;硫黄などの粉末が挙げられる。
【0051】
副原料粉末の平均粒子径は、2μm~100μmであることが好ましく、5μm~50μmであることがより好ましい。
【0052】
原料粉末100質量部のうち、主原料粉末の含有量は、90質量部~99質量部であることが好ましく、95質量部~98質量部であることがより好ましい。
【0053】
原料粉末100質量部のうち、副原料粉末の含有量は、1質量部~10質量部であることが好ましく、2質量部~5質量部であることがより好ましい。
【0054】
原料粉末100質量部に対して、潤滑剤の含有量は、0.1質量部~2.0質量部であることが好ましく、0.2質量部~1.5質量部であることがより好ましく、0.3質量部~1.0質量部であることがさらに好ましい。
【0055】
本開示の粉末混合物は、外観に優れる焼結体を得る観点から、融点が140℃以上の潤滑剤を含まないか、融点が140℃以上の潤滑剤の含有率が、潤滑剤全量に対し5質量%以下であることが好ましい。
【0056】
(その他の成分)
本開示の粉末混合物は、原料粉末及び本開示の潤滑剤以外のその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、バインダーが挙げられる。粉末混合物がバインダーを含むことにより、原料粉末の偏析、飛散等を抑制できる傾向にある。
【0057】
バインダーとしては、特に限定されず、ポリオレフィン、アクリル樹脂、ポリスチレン、スチレンブタジエンゴム、エチレングリコールジステアレート、エポキシ樹脂、ロジンエステル等が挙げられる。
【0058】
本開示の粉末混合物がバインダーを含む場合、バインダーの含有量は、原料粉末100質量部に対して、0.01質量部~1.0質量部であることが好ましく、0.1質量部~1.0質量部であることがより好ましい。
【0059】
本開示の粉末混合物は、原料粉末と、本開示の潤滑剤と、必要に応じてその他の成分とを混合することにより得られる。原料粉末と、本開示の潤滑剤との混合は、羽根付き混合機、V形混合機、二重円錐形混合機(Wコーン)等の通常使用されている混合機を用いて行うことができる。
【0060】
〔焼結体の製造方法〕
本開示の焼結体の製造方法は、本開示の粉末混合物を焼結することによって焼結体を製造する方法である。
本開示の焼結体の製造方法は、好ましくは、本開示の粉末混合物を金型内に充填すること、金型内に充填された粉末混合物を圧縮成形して成形体とすること、及び、金型内から抜き出した成形体を焼結することを含んでいる。
【0061】
本開示の焼結体の製造方法では、本開示の粉末混合物が流動性に優れるため、本開示の粉末混合物は金型内への充填性に優れ、効率よく焼結体を製造でき、さらに、本開示の粉末混合物は圧密性に優れるため、圧縮成形により得られる成形体の密度を高めることができ、強度等の機械的特性に優れる焼結体を製造できる。
また、本開示の焼結体の製造方法では、本開示の粉末混合物が潤滑剤Bを含む場合に粉末混合物の成形体を金型内から抜き出すときの圧力を低減することができる。
【0062】
本開示の焼結体の製造方法では、金型内に充填された粉末混合物を圧縮成形してもよい。成形温度、成形圧力等は特に限定されず、粉末混合物の組成、添加量、金型内の形状等によって適宜調節してもよい。
【0063】
本開示の焼結体の製造方法では、粉末混合物を焼結することによって焼結体を製造し、好ましくは金型内から抜き出した成形体を焼結することによって焼結体を製造する。粉末混合物又は成形体を焼結する条件としては、特に限定されず、通常の焼結方法を採用することができる。
【実施例
【0064】
以下、実施例に基づき本開示をさらに詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0065】
[実施例1~50及び比較例1~120]
主原料粉末として、平均粒子径が75μmの粉末冶金用アトマイズ鉄粉、副原料粉末として平均粒子径が30μmの電解銅粉、及び平均粒子径が10μmの黒鉛粉を用意した。次に、鉄粉97.5質量部、銅粉1.5質量部及び黒鉛粉1.0質量部に対し、表1~表7及び以下に示す潤滑剤A又はその他の潤滑剤、及び潤滑剤Bの潤滑剤混合物を0.8質量部加えた。各実施例及び各比較例にて加えた潤滑剤A又はその他の潤滑剤及び潤滑剤Bの割合は表1~表7に示すとおりである。その後、これらの混合物をV形混合機に投入し、30分混合することで各実施例及び各比較例の粉末混合物を得た。
<潤滑剤A>
メチロールステアリン酸アミド(融点:110℃)
メチロールベヘン酸アミド(融点:113℃)
<潤滑剤B>
N-オレイルパルミトアミド(融点:70℃)
リシノール酸アミド(融点:62℃)
ステアリン酸(融点:69℃)
オレイン酸アミド(融点:75℃)
エルカ酸アミド(融点:78℃~81℃)
<その他の潤滑剤>
ヒドロキシステアリン酸アミド(融点:107℃)
エチレンビスステアリン酸アミド(融点:145℃)
ステアリン酸アミド(融点:101℃)
N-オクタデシル-D-グルコンアミド(融点:150℃)
エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド(融点:180℃)
【0066】
(粉末混合物の流動性)
各実施例及び各比較例で得た粉末混合物の流動性の評価は、JIS Z 2502(2012)に規定された流動度試験方法により行った。評価基準は以下の通りである。
-評価基準-
A 粉末混合物が30秒以内に流れた。
B 粉末混合物が30秒超35秒以内に流れた。
C 粉末混合物が流れない、又は粉末混合物が35秒超で流れた。
結果を表1~表7に示す。評価A又は評価Bであれば、粉末混合物の流動性は良好である。
【0067】
(粉末混合物の圧密性)
各実施例及び各比較例で得た粉末混合物の圧密性の評価は、粉末混合物7gを金型内に供給した後に、成形圧力700MPaで直径11.3mmの円柱成形体を成形し、以下の基準に基づき行った。
-評価基準-
A 円柱成形体の密度が7.10g/cm以上であった。
B 円柱成形体の密度が7.06g/cm以上7.10g/cm未満であった。
C 円柱成形体の密度が7.06g/cm未満であった。
結果を表1~表7に示す。評価A又は評価Bであれば、粉末混合物の圧密性は良好である。
【0068】
(円柱成形体の抜き出し性)
各実施例及び各比較例における円柱成形体の抜き出し性は、前述の粉末混合物の圧密性の評価に用いる円柱成形体を金型から抜き出す際に抜出圧力の測定を行い、以下の基準に基づいて評価した。
-評価基準-
A 抜出圧力は8MPa以下であった。
B 抜出圧力は8MPa超15MPa以下であった。
C 抜出圧力は15MPa超であった。
結果を表1~表7に示す。評価A又は評価Bであれば、円柱成形体の抜き出し性は良好である。
【0069】
(外観の評価)
各実施例及び各比較例における外観の評価は、前述の粉末混合物の圧密性の評価に用いる円柱成形体を窒素中、約1100℃で焼成した焼結体の外観を目視で確認し、以下の基準に基づいて評価した。
-評価基準-
A 焼結体の外観にススが観察されなかった。
C 焼結体の外観にススが観察された。
結果を表1~表7に示す。評価Aであれば、焼結体の外観は良好である。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
【表3】
【0073】
【表4】
【0074】
【表5】
【0075】
【表6】
【0076】
【表7】
【0077】
表1~表7に示すように、実施例1~50の粉末混合物は、比較例1~70の粉末混合物と比較して流動性及び圧密性に優れていた。
さらに、実施例1~50の粉末混合物は、抜き出し性についても良好であった。
また、実施例1~50の粉末混合物を焼結してなる焼結体は、比較例71~120の粉末混合物を焼結してなる焼結体と比較して外観に優れていた。
【0078】
2019年3月27日に出願されたPCT/JP2019/013415の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。