IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱レイヨン株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-10
(45)【発行日】2024-06-18
(54)【発明の名称】ポリブチレンテレフタレートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/183 20060101AFI20240611BHJP
   C08G 63/78 20060101ALI20240611BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
C08G63/183
C08G63/78
C08J5/18 CFD
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022012059
(22)【出願日】2022-01-28
(65)【公開番号】P2023110545
(43)【公開日】2023-08-09
【審査請求日】2023-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】岸下 稔
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 將宏
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-105262(JP,A)
【文献】特開平07-291896(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/183
C08G 63/78
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸成分とジオール成分とを反応させてポリブチレンテレフタレートを製造する方法において、該ジカルボン酸成分として、
4-カルボキシベンズアルデヒド含有量が5~25ppmで、p-トルイル酸含有量が105~185ppmのテレフタル酸を用いることにより、
末端ベンズアルデヒド基濃度が0.03~0.07当量/トンであり、
末端メチルフェニル基濃度が0.3~0.8当量/トンであり、
末端アセチル基濃度が0.3当量/トン以下であるポリブチレンテレフタレートを製造することを特徴とするポリブチレンテレフタレートの製造方法
【請求項2】
前記テレフタル酸の酢酸含有量が200ppm以下であることを特徴とする請求項に記載のポリブチレンテレフタレートの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリブチレンテレフタレートの製造方法でポリブチレンテレフタレートを製造し、製造したポリブチレンテレフタレートのペレットを原料の少なくとも一部として使用し、押出機を使用して混練することを特徴とするコンパウンド製品の製造方法。
【請求項4】
前記押出機による混練樹脂温度が320℃以下である、請求項に記載のコンパウンド製品の製造方法。
【請求項5】
請求項3又は4に記載のコンパウンド製品の製造方法でコンパウンド製品を製造し、製造したコンパウンド製品を成形材料の少なくとも一部として使用し、射出成形機を使用して成形することを特徴とする成形品の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のポリブチレンテレフタレートの製造方法でポリブチレンテレフタレートを製造し、製造したポリブチレンテレフタレートのペレットを原料の少なくとも一部として使用し、押出機を使用して成形することを特徴とする成形品の製造方法。
【請求項7】
前記成形時の溶融樹脂温度が280℃以下である、請求項又は請求項に記載の成形品の製造方法。
【請求項8】
原料の少なくとも一部としてリサイクル原料を使用する、請求項、請求項、又は請求項に記載の成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリブチレンテレフタレート(以下「PBT」と略記することがある)に関し、詳しくは、ポリマーの色調が好ましくかつ加熱時の酢酸の発生の少ないPBTとその製造方法に関する。
本発明はまた、このPBTを用いた、電気電子部品、自動車部品などに好適に使用することができるコンパウンド製品及びその製造方法、並びに成形品及びその製造方法に関する。
本発明はまた、このPBTを用いた、フィルム、シート、又はフィラメントである成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ジカルボン酸成分の主成分としてテレフタル酸(以下「TPA」と略記することがある)を用い、ジオール成分の主成分として1,4-ブタンジオール(以下「BDO」と略記することがある)を用いたPBTは、優れた機械特性、耐熱性、成形性及びリサイクル性を有し、機械強度も高く耐薬品性にも優れていることから、自動車や電気・電子機器のコネクター、リレー及びスイッチなどの工業用成形品の材料として広く使用されている。更には、フィルム、シート、繊維(フィラメント)などにも広く利用されており、これに伴い、高品質なPBTとその製造方法が求められている。
【0003】
PBTの製造方法は、ジカルボン酸成分としてジメチルテレフタレートを原料とするエステル交換法と、テレフタル酸を原料とする直接重合法とに大別される。
エステル交換法は、反応の副生物として発生するメタノール(沸点65℃)とテトラヒドロフラン(以下「THF」と略記することがある)(沸点66℃)の沸点が近いために、回収後の蒸留分離が困難であるという欠点を有している。
一方、直接重合法は、メタノールの発生もなく、原料原単位もエステル交換法に比べて良好なことから、注目されつつある。しかして、近年、各種用途の成形品として供するため、特に直接重合法を用いたPBTの色調、とりわけ黄色味(b値)を改善する技術が求められている。
【0004】
この色調問題を解決するために、例えば、PBT製造時の重縮合温度を規定する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
原料のテレフタル酸について述べると、直接重合法由来のテレフタル酸にはしばしば触媒由来のコバルトやマンガンが残存しており、これらが色調を悪化させる。また、テレフタル酸製造工程中で副生する4-カルボキシベンズアルデヒド(以下「4CBA」と略記することがある)も色調を悪化させることが知られている。
【0006】
特許文献2では、黄色味を減少させるために、不純物の少ないテレフタル酸を使用することが検討されているが、この場合 テレフタル酸の精製工程が複雑になる。またPBTとした場合、黄色みが少なくなる一方で、黄色みが少なすぎると青色みが強くなることになり、好ましくない。
【0007】
また、テレフタル酸中にはその製法によっては不純物として酢酸が含有されている場合がある。例えば、テレフタル酸の代表的な製造方法の一つとしてp-キシレンを酢酸溶媒中、コバルト、マンガン及び臭素化合物よりなる触媒の存在下、分子状酸素により液相酸化する方法があるが、生成したテレフタル酸中には微量の酢酸が残存する場合がある。
【0008】
このようなテレフタル酸を用いると、エステル化反応中に酢酸とBDOとが反応し、BDOの酢酸エステルである1-アセトキシ-4-ヒドロキシブタンが発生する。発生したアセチル基を有する1-アセトキシ-4-ヒドロキシブタンは、PBTにアセチル末端構造を形成する。このアセチル末端は、例えば、混練や成形時の熱により加水分解し、酢酸を発生させる。発生した酢酸は金属製の重合装置や成形機器、真空関連機器などを劣化させる原因となる。
PBTのアセチル末端は更に成形品とした場合も同様に、熱分解、加水分解によって、酢酸を発生させる。発生した酢酸は、例えば、電気電子部品向けに使用した場合、金属接点部分を腐食させ、動作不良の原因となる。
【0009】
また、1-アセトキシ-4-ヒドロキシブタンは、その一部がエステル化反応中に元の酢酸に加水分解され、エステル化反応時に留出液として留出するが、エステル化反応槽に酢酸が存在すると装置が腐食しやすくなるのでより耐久性のある高級材質が必要となる。更に、エステル化反応槽からの留出液からTHFを回収する蒸留工程においても酢酸は腐食を発生させる原因となる。また、THFの蒸留塔の低沸点側(塔頂)にはTHFが得られ、高沸点側(塔底)には酢酸と水が濃縮されるが、ここでも、酢酸による腐食防止のために、高級材質が必要となる。また、酢酸濃度が高い場合には排水処理の中和処理が必要となり、PBT製造コストの高騰につながる。
【0010】
このようなことから、色調に優れると共に、酢酸の発生が抑制されたPBTが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開昭51-47096号公報
【文献】特開2006-152252公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、ポリマーの色調が好ましく、即ち黄色味や青色みが少なく、かつ加熱時に酢酸の発生の少ないPBT及びその製造方法の提供に存する。本発明の目的はまた、シート、フィルム、モノフィラメント、繊維、電気電子部品、自動車部品などに好適に使用することができるPBTコンパウンド製品及びその製造方法並びにPBT成形品及びその製造方法の提供に存する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、末端ベンズアルデヒド基及び末端メチルフェニル基をそれぞれ特定量同時に有するPBTを用いることで、これらの課題を解決することができることを知見し、本発明を完成するに至った。このことは同時に特定量の末端アセチル基を有するPBTを用いることでより高度に達成できる。そして、このことはPBTのジカルボン酸原料としてそれぞれ特定量の4-カルボキシベンズアルデヒド(以下「4CBA」と略記することがある。)及びp-トルイル酸(以下「p-TA」と略記することがある)を含むテレフタル酸を用いることにより達成できることを知見した。また、これらのPBTを用いて適切な条件下でコンパウンドを得て成形品を製造するならば、各種用途に用い得る好適な成形品が得られることを知見した。
本発明はこれらの知見に基づき完成されたもので、その要旨は次の通りである。
【0014】
[1] 末端ベンズアルデヒド基濃度が0.03~0.07当量/トンであり、末端メチルフェニル基濃度が0.3~0.8当量/トンであることを特徴とするポリブチレンテレフタレート。
【0015】
[2] 末端アセチル基濃度が0.3当量/トン以下である、[1]に記載のポリブチレンテレフタレート。
【0016】
[3] ジカルボン酸成分とジオール成分とを反応させてポリブチレンテレフタレートを製造する方法において、該ジカルボン酸成分として、4-カルボキシベンズアルデヒド含有量が5~25ppmで、p-トルイル酸含有量が85~185ppmのテレフタル酸を用いることを特徴とする[1]又は[2]に記載のポリブチレンテレフタレートの製造方法。
【0017】
[4] 前記テレフタル酸の酢酸含有量が200ppm以下であることを特徴とする[3]に記載のポリブチレンテレフタレートの製造方法。
【0018】
[5] 原料の少なくとも一部として、[1]又は[2]に記載のポリブチレンテレフタレートのペレットを使用したことを特徴とするコンパウンド製品。
【0019】
[6] 原料の少なくとも一部として、[1]又は[2]に記載のポリブチレンテレフタレートのペレットを使用し、押出機を使用して混練することを特徴とするコンパウンド製品の製造方法。
【0020】
[7] 前記押出機による混練樹脂温度が320℃以下である、[6]に記載のコンパウンド製品の製造方法。
【0021】
[8] 成形材料の少なくとも一部として、[5]に記載のコンパウンド製品を使用したことを特徴とする成形品。
【0022】
[9] 成形材料の少なくとも一部として、[5]に記載のコンパウンド製品を使用して射出成形機を使用して成形することを特徴とする成形品の製造方法。
【0023】
[10] 原料の少なくとも一部として、[1]又は[2]に記載のポリブチレンテレフタレートのペレットを使用したことを特徴とするフィルム、シート又はフィラメントである成形品。
【0024】
[11] 原料の少なくとも一部として、[1]又は[2]に記載のポリブチレンテレフタレートのペレットを使用し、押出機を使用して成形することを特徴とする成形品の製造方法。
【0025】
[12] 前記成形時の溶融樹脂温度が280℃以下である、[9]又は[11]に記載の成形品の製造方法。
【0026】
[13] 原料の少なくとも一部としてリサイクル原料を使用する、[9]、[11]又は[12]に記載の成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明のPBTは、ポリマーの色調が好ましく、即ち黄色味、青色みが少なく、かつ加熱時に酢酸の発生が少ないので、そのコンパウンド及びそれを用いて得られる成形品は、色調が良好で商品価値が高いと共に、金属を腐食させる酢酸の発生が少ない。従って得られる成形品は各種の用途、例えば電気電子部品、自動車部品、フィルム、シート、フィラメントなどとして好ましく使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の代表例であり、これらの内容に本発明は限定されるものではない。
なお、本発明において、ジカルボン酸成分における「主成分」とは、当該成分中に50モル%以上含まれる成分をいう。また、ジオール成分における「主成分」についても同様である。
また、「ppm」とは「質量ppm」をさす。
【0029】
<PBT>
(ジカルボン酸成分・ジオール成分・共重合成分)
本発明において、PBTとは、テレフタル酸成分及び1,4-ブタンジオール(BDO)成分がエステル結合した構造を有し、ジカルボン酸成分の50モル%以上がテレフタル酸成分から成り、ジオール成分の50モル%以上がBDOから成るポリマーを言う。全ジカルボン酸成分中のテレフタル酸成分の割合は、好ましくは70モル%以上、更に好ましくは80モル%以上、特に好ましくは95モル%以上であり、全ジオール成分中のBDOの割合は、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、更に好ましくは95モル%以上である。テレフタル酸成分又はBDOが50モル%より少ない場合は、PBTの結晶化速度が低下し、成形性の悪化を招いてしまう。
【0030】
本発明において、テレフタル酸以外のジカルボン酸には特に制限はなく、例えば、フタル酸、イソフタル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’-ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4’-ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸などを挙げることができる。これらのテレフタル酸成分以外のジカルボン酸成分は、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0031】
本発明においては、BDO以外のジオール成分には特に制限はなく、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、ジブチレングリコール等の脂肪族ジオール、1,2-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,1-シクロヘキサンジメチロール、1,4-シクロヘキサンジメチロール等の脂環式ジオール、キシリレングリコール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン等の芳香族ジオール等を挙げることができる。
これらのBDO以外のジオール成分についても、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0032】
本発明においては、更に、乳酸、グリコール酸、m-ヒドロキシ安息香酸、p-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフタレンカルボン酸、p-β-ヒドロキシエトキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸、アルコキシカルボン酸、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、ステアリン酸、安息香酸、t-ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸などの単官能成分、トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール等の三官能以上の多官能成分などの1種又は2種以上を共重合成分として使用することができる。
【0033】
(PBTの末端基)
本発明のPBTは、末端ベンズアルデヒド基と末端メチルフェニル基がそれぞれ特定量存在するPBTであることを特徴の一つとする。
本発明のPBTの末端ベンズアルデヒド基は、その製法から、PBT原料中の4CBA由来の末端アルデヒド基と称することもあるが、後述する測定方法により特定したものであり、4CBA由来に限定されるものではない。同様に、本発明のPBTの末端メチルフェニル基は、その製法から、PBT原料中のp-トルイル酸由来の末端メチル基と称することもあるが、後述する測定方法により特定したものであり、p-トルイル酸由来に限定されるものではない。
【0034】
末端ベンズアルデヒド基、例えば比較的安価なテレフタル酸に起因する4CBA由来の末端アルデヒド基がPBTに存在すると、このPBTの色調が悪化する、即ち黄色味や青色味が強くなるが、末端メチルフェニル基、例えばp-トルイル酸由来の末端メチル基が特定量存在すると、この理由は定かではないが、このような色調の欠点が軽減される。PBTに末端ベンズアルデヒド基及び末端メチルフェニル基の特定量が存在することで、このような黄色味や青色味の発現が抑制される効果は、従来知見されていない効果である。
【0035】
本発明のPBTにおいて、末端ベンズアルデヒド基濃度は、0.03当量/トン以上であり、0.04当量/トン以上が好ましく、0.05当量/トン以上がより好ましい。その上限は、0.07当量/トン以下であり、好ましくは0.06当量/トン以下である。
また、本発明のPBTの末端メチルフェニル基濃度は、0.3~0.8当量/トンであり、0.4~0.7当量/トンが好ましく、0.5~0.6当量/トンがより好ましい。
【0036】
末端ベンズアルデヒド基濃度及び末端メチルフェニル基濃度がこれらの範囲にあるとき、本発明の効果が好ましく発揮される。これらの末端基の値がこれらの範囲を外れた場合は、PBTの黄色味が強くなったり、また青味が強くなったりして好ましくない。
【0037】
また、本発明のPBTは、末端アセチル基濃度が0.3当量/トン以下であることが好ましく、0.2当量/トン以下であることがより好ましい。末端アセチル基濃度が上記上限以下であると、加熱による酢酸の発生を抑制することができる。
末端アセチル基濃度の下限には特に制限はないが通常0.1当量/トン程度である。
【0038】
なお、本発明のPBTには、上記以外の末端基も含まれている。
【0039】
本発明のPBTの末端カルボキシル基濃度は、通常0.1~50当量/トン、好ましくは1~40当量/トン、より好ましくは5~30当量/トン、特に好ましくは7~25当量/トンであり、最も好ましくは10~19当量/トンである。末端カルボキシル基濃度が高すぎる場合は耐加水分解性が悪化することがある。この値を0.1当量/トン未満とするためには、例えば極めて少量の製造規模とするなど、経済的に不利な条件を採用せざるを得ず現実的ではない。
【0040】
また、本発明のPBTの末端ヒドロキシル基濃度は、通常43~120当量/トン、好ましくは50~110当量/トン、より好ましくは55~100当量/トン、特に好ましくは60~90当量/トンである。末端ヒドロキシル基濃度が高すぎる場合は成形などの溶融時に末端ヒドロキシル基の分解によるテトラヒドロフラン(THF)の発生量が多くなる。例えば、成形時にTHFが発生し、成形品にシルバー等の、THFに由来する外観不良が発生し、好ましくない。末端ヒドロキシル基濃度が上記下限以上であれば、PBTの製造が容易である。
【0041】
また、本発明のPBTの末端ビニル基濃度は、通常0.1~13当量/トン、好ましくは0.5~12当量/トン、より好ましくは1~11当量/トンである。末端ビニル基濃度が高すぎると、色調悪化の原因となる。成形時の熱履歴により、末端ビニル基濃度は更に上昇する傾向にあるため、成形温度が高い場合や、リサイクル工程を有する製造方法の場合には、更に色調悪化が顕著となる。末端ビニル基濃度が上記下限以上であれば、PBTの製造が容易である。
【0042】
なお、PBTの末端ベンズアルデヒド基濃度、末端メチルフェニル基濃度、末端アセチル基濃度、末端カルボキシル基濃度、末端ヒドロキシル基濃度、末端ビニル基濃度は、後掲の実施例の項に記載の方法で求めることができる。
【0043】
(コバルト・マンガン含有量)
本発明のPBTにはテレフタル酸の製造時の触媒に由来するコバルトやマンガンが含まれている場合がある。本発明のPBT中のコバルト及びマンガンの量は色調や熱安定性の観点からそれぞれ0.15ppm以下であることが好ましい。この値はそれぞれ0.10ppm以下がより好ましく、0.07ppm以下が更に好ましく、0.05ppm以下が最も好ましい。なお、コバルト及びマンガンはそれぞれ0.01ppm存在しても実質的に障害にはならない。
【0044】
<PBTの製造方法>
本発明のPBTの製造方法は、以下に記載するテレフタル酸をジカルボン酸成分として用いること以外は、常法に従って製造することができる。例えば、PBTは、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、PBTを主成分とするジオール成分とを、所定割合で撹拌下に混合して原料スラリーとする工程、次いで、該原料スラリーを常圧又は減圧下で加熱して、エステル化反応させPBT低重合体(オリゴマー)とする工程、次いで、得られたオリゴマーを漸次減圧するとともに、加熱して、溶融重縮合反応させPBTを得る溶融重縮合工程を経て製造される。
【0045】
オリゴマーとする工程の例としては、単一のエステル化反応槽、又は複数のエステル化反応槽を直列に接続した多段反応装置を用いて、該反応で生成する水と余剰のジオール成分を系外に除去しながら、エステル化反応率(原料ジカルボン酸成分の全カルボキシル基のうちジオール成分と反応してエステル化したものの割合)が、通常90%以上に達するまで行い、触媒を用いて又は用いずに、常圧又は減圧下、エステル化反応を行って、オリゴマーを得る方法が挙げられる。通常、エステル化反応の温度は210~230℃程度、圧力は、10~133kPa程度、滞留時間は1~4時間程度である。
【0046】
溶融重縮合工程の例としては、単一の溶融重縮合槽、又は複数の溶融重縮合槽を直列に接続し、例えば、第1段目が撹拌翼を備えた完全混合型の反応器、第2段及び第3段目が撹拌翼を備えた横型プラグフロー型の反応器からなる多段反応装置を用いて、触媒の存在下、減圧下で加温しながら生成するジオールを系外に留出させる方法が挙げられる。
【0047】
通常、重縮合反応の温度は210~280℃、好ましくは220~250℃程度、圧力は27kPa以下、好ましくは13kPa以下の減圧状態で行う。反応槽は単独でも多段でもよいが、着色や劣化を抑え、ビニル基などの末端基の増加を抑制するため、少なくとも1つの反応槽において、通常1.3kPa以下、好ましくは0.3kPa以下の高真空下で行うのがよい。反応速度を高めるには、例えば減圧度を高める、昇温速度を速める、反応液面の更新速度を上げるなどの条件を採るとよい。
【0048】
重縮合反応で得られたPBTは、通常、重縮合反応槽の底部に設けられた抜き出し口からストランド状又はシート状で抜き出した後、水冷しながら又は水冷後、カッターで切断してペレット状又はチップ状などの粒状体(例えば長さ3~10mm程度)とする。
【0049】
(原料テレフタル酸)
<テレフタル酸共存物>
本発明のPBTを得るためには、原料のジカルボン酸成分として4CBA及びp-トルイル酸をそれぞれ特定量含有するテレフタル酸を用いるとよい。即ち、4CBA含有量が5~25ppm、好ましくは6~20ppmで、p-トルイル酸含有量が85~185ppm、好ましくは105~180ppm、より好ましくは142~175ppmのテレフタル酸を用いる。4CBA及びp-トルイル酸の含有量が上記範囲を外れた場合は、得られるPBTの黄色味が強くなったり、また青味が強くなったりして好ましくない。4CBA及びp-トルイル酸の含有量が上記範囲内であれば、本発明の効果が好ましく発揮される。
【0050】
また原料テレフタル酸は、酢酸の含有量が200ppm以下であることが望ましく、150ppm以下であることがより好ましく、130ppmであることが更に好ましい。酢酸の含有量が上記上限以下であるテレフタル酸を使用してPBTを製造した場合、製造されたPBTから発生する酢酸が少なくなり好ましい。
一方、原料テレフタル酸の酢酸含有量の下限は、通常10ppm未満程度である。
【0051】
4CBA、p-トルイル酸、更には酢酸の含有量が上記範囲のテレフタル酸は、テレフタル酸の製造工程における精製条件を調整することで得ることができる。以下に記載する残存触媒量についても同様である。
【0052】
<残存触媒>
本発明のPBTの製造に使用する原料テレフタル酸には、テレフタル酸製造時の残存触媒であるコバルト及びマンガンがそれぞれ含まれる場合がある。原料テレフタル酸中のこのコバルト及びマンガンの量は、得られるPBTの色調や熱安定性の観点からそれぞれ0.20ppm以下であることが好ましく、0.15ppm以下であることがより好ましく、0.10ppm以下であることが更に好ましく、0.07ppm以下であることが最も好ましい。コバルト及びマンガンは、テレフタル酸中にそれぞれ0.01ppm存在しても実質的に障害にはならない。
【0053】
(重縮合触媒)
ジオール成分とジカルボン酸成分とのエステル化反応で得られたオリゴマーを重縮合する際には、通常、触媒としてチタン化合物と、好ましくは更に周期表2A族金属化合物が使用される。
これらの触媒成分は、エステル化反応に使用して、そのまま重縮合反応を行ってもよいし、エステル化反応では使用せずに、又は、チタン触媒のみを使用し、残りの触媒成分は重縮合段階で追加してもよい。更には、エステル化反応で、最終的に使用する触媒量の一部を使用し、重縮合反応の進行と共に適宜追加することもできる。何れにしても、本発明においては、最終的に得られるPBT中に、必然的にチタン及び好ましくは周期表2A族金属が含有されるが、その量については後述する。
【0054】
チタン化合物の具体例としては、酸化チタン、四塩化チタン等の無機チタン化合物、テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等のチタンアルコラート、テトラフェニルチタネート等のチタンフェノラート等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
これらの中ではテトラアルキルチタネートが好ましく、その中ではテトラブチルチタネートが好ましい。
【0055】
本発明のPBTにおけるチタン触媒の含有量は、チタン原子としてPBTに対する質量比で5~100ppmであることが好ましい。この量は10ppm以上がより好ましく、20ppm以上が更に好ましく、25ppm以上が最も好ましい。またこの量は90ppm以下がより好ましく、80ppm以下が更に好ましく、60ppm以下が特に好ましく、50ppm以下がとりわけ好ましく、40ppm以下が最も好ましい。
チタンの含有量が多過ぎる場合は、色調、耐加水分解性、溶液ヘイズが悪化、得られる成形品においてフィッシュアイの増加が発生する。少な過ぎる場合は重合性が悪化する。
【0056】
本発明における周期表2A族金属化合物の具体例としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムの各種化合物が挙げられるが、取り扱いや入手の容易さ、触媒効果の点から、マグネシウム化合物及び/又はカルシウム化合物が好ましく、特に、触媒効果に優れるマグネシウム化合物が好ましい。マグネシウム化合物の具体例としては、酢酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、マグネシウムアルコキサイド、燐酸水素マグネシウム等が挙げられる。カルシウム化合物の具体例としては、酢酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、カルシウムアルコキサイド、燐酸水素カルシウム等が挙げられる。これらの周期表2A族金属化合物は、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
これらの中では酢酸マグネシウムが好ましい。
【0057】
本発明のPBTにおける周期表2A族金属の含有量は、特に制限されないが、周期表2A族金属原子としてPBTに対する質量比で3~150ppmであることが好ましい。この量は5ppm以上がより好ましく、10ppm以上が更に好ましい。またこの量は50ppm以下がより好ましく、40pp以下が更に好ましく、30ppm以下が特に好ましく、15ppm以下が最も好ましい。周期表2A族金属の含有量が多過ぎる場合は、色調、耐加水分解性などが悪化し、少な過ぎる場合は重合性が悪化する。周期表2A族金属の酢酸塩を使用する場合、酢酸源が反応系に入るので、PBT中の周期表2A族金属量として、15ppm以下が好ましい。
【0058】
本発明のPBTに含まれるチタン原子と周期表2A族金属原子のモル比(周期表2A族金属/チタン)は、通常0.01~100、好ましくは0.1~10、より好ましくは0.3~3、更に好ましくは0.3~1.5である。
【0059】
PBT中のチタン原子などの金属含有量は、湿式灰化などの方法でポリマー中の金属を回収した後、原子発光、原子吸光、InductivelyCoupledPlasma(ICP)等の方法を使用して測定することができる。
【0060】
本発明のPBTの製造に際しては、前記のチタン化合物や周期表2A族金属化合物とは別に、三酸化アンチモン等のアンチモン化合物、二酸化ゲルマニウム、四酸化ゲルマニウム等のゲルマニウム化合物、マンガン化合物、亜鉛化合物、ジルコニウム化合物、コバルト化合物、正燐酸、亜燐酸、次亜燐酸、ポリ燐酸、それらのエステルや金属塩などの燐化合物、水酸化ナトリウム、安息香酸ナトリウム等の反応助剤を使用してもよい。
【0061】
<PBTの物性>
(固有粘度)
本発明のPBTをコンパウンド、射出成形に使用する場合、PBTの固有粘度は通常0.6~1.3dL/gであることが好ましい。固有粘度が0.6dL/g未満の場合は成形品の機械的強度が不十分となり、1.3dL/gを超える場合は溶融粘度が高くなり、流動性が悪化して、成形性が悪化する傾向にある。本発明のPBTの固有粘度は、より好ましくは0.65~1.26dL/g、更に好ましくは0.7~1.2dL/gである。
【0062】
また、本発明のPBTペレットをフィルム、シート又はフィラメントの押出し用途に使用する場合、PBTの固有粘度は、通常1.00~1.60dL/g、好ましくは1.03~1.50dL/g、更に好ましくは1.05~1.55dL/g、特に好ましくは1.10~1.50dL/g、とりわけ好ましくは1.15~1.35dL/gである。固有粘度が1.00dL/g未満の場合は、押出成形性が悪化し、樹脂のドローダウンや成形損を招き、フィルム等の押出成形品の機械的強度が不十分となったり、溶融粘度が低くなり、流動性が高すぎて、押出成形性が悪化する。一方、固有粘度が1.60dL/gを超える場合は溶融粘度が高くなり、流動性が悪化して、押出成形性が悪化する傾向にある。
【0063】
PBTの固有粘度は、後掲の実施例の項に記載の方法で求めることができる。
【0064】
(降温結晶化温度)
本発明のPBTの降温結晶化温度は、通常160~200℃、好ましくは170~195℃、より好ましくは175~190℃である。
本発明における降温結晶化温度とは、示差走査熱量計を使用して樹脂が溶融した状態から降温速度20℃/minで冷却した際に現れる結晶化による発熱ピークの温度である。降温結晶化温度は、結晶化速度と対応し、降温結晶化温度が高いほど結晶化速度が速いため、射出成形に際して冷却時間を短縮し、生産性を高めることができる。降温結晶化温度が低い場合は、射出成形に際して結晶化に時間が掛かり、射出成形後の冷却時間を長くせざるを得なくなり、成形サイクルが伸びて生産性が低下する傾向にある。
PBTの降温結晶化温度は、後掲の実施例の項に記載の方法で求めることができる。
【0065】
(溶液ヘイズ)
本発明のPBTの溶液ヘイズは、特に制限されないが、通常10%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下、更に好ましくは1%以下である。溶液ヘイズが高い場合は、異物も増加する傾向があるため、商品価値を著しく落とす。溶液ヘイズは、チタン触媒の失活が大きい場合に上昇する傾向がある。
PBTの溶液ヘイズは、後掲の実施例の項に記載の方法で求めることができる。
【0066】
<コンパウンド化>
本発明のPBTは、PBT製造段階又はPBTを製造したのち必要に応じ各種の添加剤ないしは配合材を加えてコンパウンド製品とすることができる。
【0067】
例えば、抗酸化剤として、2,6-ジ-t-ブチル-4-オクチルフェノール、ペンタエリスリチル-テトラキス〔3-(3’,5’-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕等のフェノール化合物、ジラウリル-3,3’-チオジプロピオネート、ペンタエリスリチル-テトラキス(3-ラウリルチオジプロピオネート)等のチオエーテル化合物、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト等の燐化合物など、離型剤としてパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、モンタン酸やモンタン酸エステルに代表される長鎖脂肪酸及びそのエステル、シリコーンオイルなどを添加してもよい。
【0068】
また、本発明のPBTには、強化充填材を配合することができる。強化充填材としては、特に制限されないが、例えば、ガラス繊維、カーボン繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、ホウ素繊維、窒化ホウ素繊維、窒化ケイ素チタン酸カリウム繊維、金属繊維などの無機繊維、芳香族ポリアミド繊維、フッ素樹脂繊維などの有機繊維などが挙げられる。これらの強化充填材は、2種以上を組み合わせて使用することもできる。上記の強化充填材の中では、無機充填材、特にガラス繊維が好適に使用される。
【0069】
強化充填材が無機繊維又は有機繊維である場合、その平均繊維径は、特に制限されないが、通常1~100μm、好ましくは2~50μm、更に好ましくは3~30μm、特に好ましくは5~20μmである。また、平均繊維長は、特に制限されないが、通常0.1~20mm、好ましくは1~10mmである。
【0070】
強化充填材は、PBTとの界面密着性を向上させるため、収束剤又は表面処理剤で表面処理して使用することが好ましい。収束剤又は表面処理剤としては、例えば、エポキシ系化合物、アクリル系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物などの官能性化合物が挙げられる。強化充填材は、収束剤又は表面処理剤により予め表面処理しておくことができ、又は、PBT組成物の調製の際に、収束剤又は表面処理剤を添加して表面処理することもできる。強化充填材の添加量は、PBT100質量部に対し、通常150質量部以下、好ましくは5~100質量部である。
【0071】
本発明のPBTには、強化充填材と共に他の充填材を配合することができる。配合する他の充填材としては、例えば、板状無機充填材、セラミックビーズ、アスベスト、ワラストナイト、タルク、クレー、マイカ、ゼオライト、カオリン、チタン酸カリウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。これらは、2種以上を組み合わせて使用することもできる。板状無機充填材を配合することにより、得られる成形品の異方性及びソリを低減することができる。板状無機充填材としては、例えば、ガラスフレーク、雲母、金属箔などを挙げることができる。これらの中ではガラスフレークが好適に使用される。
【0072】
また、本発明のPBTには、難燃性を付与するために難燃剤を配合することができる。難燃剤としては、特に制限されず、例えば、有機ハロゲン化合物、アンチモン化合物、リン化合物、その他の有機難燃剤、無機難燃剤などが挙げられる。有機ハロゲン化合物としては、例えば、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂、臭素化フェノキシ樹脂、臭素化ポリフェニレンエーテル樹脂、臭素化ポリスチレン樹脂、臭素化ビスフェノールA、ポリペンタブロモベンジルアクリレート等が挙げられる。アンチモン化合物としては、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ソーダ等が挙げられる。リン化合物としては、例えば、リン酸エステル、ポリリン酸、ポリリン酸アンモニウム、赤リン等が挙げられる。その他の有機難燃剤としては、例えば、メラミン、シアヌール酸などの窒素化合物などが挙げられる。その他の無機難燃剤としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ケイ素化合物、ホウ素化合物などが挙げられる。これらは、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0073】
本発明のPBTには、必要に応じ、上記以外の慣用の添加剤などを配合することができる。斯かる添加剤としては、特に制限されず、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤などの安定剤の他、滑剤、離型剤、触媒失活剤、結晶核剤、結晶化促進剤などが挙げられる。これらの添加剤は、重合途中又は重合後に添加することができる。更に、PBTに、所望の性能を付与するため、紫外線吸収剤、耐候安定剤などの安定剤、染顔料などの着色剤、帯電防止剤、発泡剤、可塑剤、耐衝撃性改良剤などを配合することができる。
【0074】
本発明のPBTには、必要に応じて、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸エステル、ABS樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、液晶ポリエステル、ポリアセタール、ポリフェニレンオキサイド等の熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を配合することができる。これらの熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂は、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0075】
前記の種々の添加剤や樹脂等の付加成分の配合方法は、特に制限されないが、ベント口から脱揮できる設備を有する1軸又は2軸の押出機を用いてPBTペレットに溶融混練する方法が好ましい。各成分は、付加的成分を含めて、混練機に一括して供給することができ、あるいは、順次供給することもできる。また、付加的成分を含めて、各成分から選ばれた2種以上の成分を予め混合しておくこともできる。
【0076】
本発明のPBTを原料の少なくとも一部として用いて、上記の通り、押出機により溶融混練を行って本発明のコンパウンド製品とする場合、押出機における混練樹脂温度を320℃以下とすることが好ましい。この混練樹脂温度が320℃以下であれば熱分解が抑制される傾向にある。この観点から、押出機における混練樹脂温度は310℃以下であることがより好ましく、300℃以下であることが更に好ましい。一方、均一な溶融性の確保の観点から、押出機における混練樹脂温度は240℃以上、特に250℃以上であることが好ましい。
【0077】
<成形方法>
本発明のPBT及び本発明のPBTを含む本発明のコンパウンド製品の成形加工方法は、特に制限されず、熱可塑性樹脂について一般に使用されている成形法、すなわち、射出成形、中空成形、押出成形、プレス成形などの成形法を適用することができる。
【0078】
(射出成形)
上記成形法のうち、自動車部品、電気・電子部品に使用する場合には射出成形機を使用することが好ましい。
この射出成形時の溶融樹脂温度は280℃以下であることが好ましい。この溶融樹脂温度が280℃以下であれば熱分解が抑制される点で好ましい。この観点から、射出成形時の溶融樹脂温度は275℃以下であることがより好ましく、270℃以下であることが更に好ましい。一方、均一な溶融性の確保の観点から、射出成形時の溶融樹脂温度は240℃以上、特に250℃以上であることが好ましい。
【0079】
(押出成形)
本発明のPBTは、特に、着色が少なく、薄物の場合には透明性に優れているため、押出成形によるシート、フィルム、モノフィラメント(繊維を含む)などの用途において改良効果が顕著である。
【0080】
本発明のPBTを用いたフィルム、シート、フィラメントの成形温度は、特に制限されないが、成形温度即ち、溶融樹脂温度が高いと色調の悪化や、末端カルボキシル基濃度の上昇、ひいては耐加水分解性の悪化を招くため、通常280℃以下、好ましくは265℃以下、更に好ましくは260℃以下である。本発明の成形品(フィルム、シート、フィラメント)は、原料PBTペレット中にフィッシュアイの原因となる高粘度物が含まれていないため、上記の様な低温で成形しても、フィッシュアイの発生が少なく、これまで困難であったフィッシュアイ低減と成形時の熱劣化防止を両立させることができる。
ただし、均一な溶融性の確保の観点から、この溶融樹脂温度は240℃以上、特に250℃以上であることが好ましい。
【0081】
<リサイクル原料の使用>
本発明のPBT又は本発明のコンパウンド製品の成形に際しては、廃棄物低減、コスト低減、本発明の改良効果の観点から、成形材料の少なくとも一部としてリサイクル原料を使用してもよい。この場合であっても、リサイクル原料の使用割合が所定値以下であれば物性の低下が許容範囲であり、好ましい。
【0082】
ここで、リサイクル原料としては、本発明のPBTペレットを使用して成形した際に生成する成形品以外の部分、フィルム端部またはシート端部に代表される製造時に生成した商品価値のない部分などを原料や材料が挙げられる。この際、ランナーやスプール、フィルム端部やシート端部などをそのままの形状でリサイクルしてもよいし、原料の供給器や成形機のスクリューへの食い込み性に悪影響を及ぼす等、生産に不都合が生じる場合は、造粒、切断、粉砕などの加工を施してもよい。
【0083】
原料または材料に占めるリサイクル原料の比率は、リサイクル原料を含む全原料または全材料の質量をA、リサイクル原料の質量をCとする時、以下の式(1)を満たすことが好ましい。中でも以下の式(2)、特には以下の式(3)を満たすことが推奨される。
0.01 ≦ C/A ≦ 0.5 ・・・・・(1)
0.05 ≦ C/A ≦ 0.4 ・・・・・(2)
0.10 ≦ C/A ≦ 0.3 ・・・・・(3)
【0084】
リサイクル原料の比率が高い場合は、色調の悪化や、異物の増大、末端カルボキシル基濃度の上昇を招き、リサイクル原料の比率が低い場合は、廃棄物低減、コスト低減等において十分な効果が得られない。
【実施例
【0085】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
なお、以下の諸例で採用した物性及び評価項目の測定方法は次の通りである。
【0086】
(1)固有粘度(IV)
ウベローデ型粘度計を使用し次の要領で求めた。すなわち、フェノール/テトラクロロエタン(質量比1/1)の混合溶媒を使用し、30℃において、濃度1.0g/dLのポリマー溶液及び溶媒のみの落下秒数を測定し、以下の式より求めた。
IV=((1+4Kηsp0.5-1)/(2K・C)
(但し、ηsp=η-1であり、ηはポリマー溶液の落下秒数、ηは溶媒の落下秒数、Cはポリマー溶液濃度(g/dL)、Kはハギンスの定数であり、0.33を採用した。)
【0087】
(2)チタン及び周期表2A族金属濃度
電子工業用高純度硫酸及び硝酸でPBTを湿式分解し、高分解能ICP(InductivelyCoupledPlasma)-MS(MassSpectrometer)(サーモクエスト社製)を使用して測定した。
【0088】
(3)末端ベンズアルデヒド基濃度、末端メチルフェニル基濃度、末端アセチル基・末端ビニル基・末端ヒドロキシル基濃度
微量のテトラメチルシランを含む重クロロホルム/重ヘキサフルオロイソプロパノール/重ピリジン(21/9/1体積比)混合溶媒でPBTを溶解し、AVANCE NEO分光計(Bruker社製)を用いてH NMRスペクトルを測定した。化学シフトの基準は、テトラメチルシランのシグナルを0.00ppmとした。
【0089】
(4)末端カルボキシル基濃度
ベンジルアルコール25mLにPBT又はオリゴマー0.5gを溶解し、水酸化ナトリウムの0.01モル/Lベンジルアルコール溶液を使用して滴定して求めた。
【0090】
(5)融点(Tm)・降温結晶化温度
パーキンエルマー社製示差走査熱量計「型式DSC7」を使用し、昇温速度20℃/minで室温から300℃まで昇温した後、降温速度20℃/minで80℃まで降温し、吸熱ピークの温度を融点とし、発熱ピークの温度を降温結晶化温度とした。降温結晶化温度が高いほど結晶化速度が速く、成形サイクルが短くなる。
【0091】
(6)色調
日本電色(株)製色差計「Z-300A型」を使用し、L、a、b表色系で評価した。b値が低いほど黄色味が少なく好ましい。但し、b値が-2.2よりも低くなると黄色みは少ないものの、青みが増して色調が好ましくない。
b値は、-2.2~1.5の範囲が好ましく、より好ましくは-2.1~1.3、更に好ましくは-2.0~1.2である。
【0092】
(7)酢酸発生量
120℃で8時間真空乾燥したPBTペレットを270℃のメルトインデクサーに充填し、10分間溶融した後、押出し、冷却後、すぐに、アルミ防湿袋に入れて、溶融時に発生した成分が揮発して抜けないように密閉した。
事前に、熱脱着管(ゲステル社製、TDU管)と、TDU用トランスポートアダプタを200℃で30分乾燥機で乾燥させたものを使用して、以下の方法で酢酸の測定を行った。
溶融熱処理した試料50(±2)mgを精秤してTDU管に挿入した。このTDU管を40℃の加熱脱着装置(ゲステル社製「TDU」)に導入した後、管内をヘリウムで置換し12℃/sec.の速度で250℃まで昇温して10分間熱抽出した。この熱抽出の間、石英ウールを充填したGC注入口(ゲステル社製「CIS4」)を-150℃に冷却することにより、試料より発生した揮発成分を捕集した。ここで、試料を挿入していない空のTDU管を同様に処理しブランクとした。GC注入口で冷却捕集した成分は、捕集部分を250℃まで急速に加熱することにより気化させてGCカラムに導入しGC/MS(アジレント社製「7890GC」/アジレント社製「5977MSD」)測定を行い、酢酸量を確認した。酢酸発生量が少ないほど、好ましいことを示す。
【0093】
(8)蒸留排水中の酢酸濃度
試料1~20gを水に溶解し、0.1N KOH溶液を滴定液とした自動滴定装置にて終点まで滴定を行い、滴定開始から終点までの滴定量から測定液中の酢酸を算出した。
【0094】
(9)溶液ヘイズ
フェノール/テトラクロロエタン=3/2(質量比)の混合溶媒20mLにPBT2.70gを110℃で30分間溶解させた後、30℃の恒温水槽で15分間冷却し、日本電色(株)製濁度計「NDH-300A」を使用し、セル長10mmで測定した。溶液ヘイズの値が低いほど透明性が良好であることを示す。
【0095】
(10)フィッシュアイ数の測定
PBTを窒素雰囲気下、140℃で4時間乾燥し、連続押出フィルム成形装置(OCS社製「ME-20/26V2&CR-7&FS-5」)により、次の条件でフィルム成形を行い、フィッシュアイ(個/m)を測定した。フィッシュアイ数は、フィルムを製膜しつつ装置付属のCCDカメラにより、1mの面積中に存在する長径16μm以上のサイズの個数を自動的にカウントして測定した。この値が小さいほど、成形外観に優れることを示している。中でも1,000個/m以下であることが好ましい。
シリンダー温度(ノズルからホッパー下の間の4か所の温度):250℃-250℃-250℃-250℃
スクリュー回転数:100rpm
樹脂圧:75MPa
チルロール温度:50℃
フィルム厚み:50μm
【0096】
(11)コバルト(Co)及びマンガン(Mn)含有量
白金るつぼ中にテレフタル酸またはPBT試料1.0gを秤量し、電子工業用高純度硫酸を5mL添加後、加熱により炭化物を生成させた。この際、完全に炭化物を生成するまで硫酸の添加を繰り返した。生成した炭化物を800℃で灰化させた後、電子工業用高純度硝酸2mLで希釈した。この溶液中の金属元素をグラファイトファーネス原子吸光光度計(バリアンテクノロジーズジャパンリミテッド製「GF-AAS」)により定量し、テレフタル酸またはPBT当たりの量(ppm)に換算した。
【0097】
(12)テレフタル酸中の4CBA含有量、p-TA含有量
試料を2N-アンモニア水溶液に溶解させ、超純水にて所定濃度に希釈後、ODSカラムを装着した高速液体クロマトグラフィーで測定した。
【0098】
(13)テレフタル酸中の酢酸含有量
試料を2N-水酸化カリウム水溶液に溶解させ、リン酸水溶液で酸析後、濾紙で濾過し、濾液中に含まれる酢酸を、DB-FFAPキャピラリーカラムを装着したガスクロマトグラフィーを使用し定量した。内部標準物質としてはプロピオン酸水溶液を使用した。
【0099】
[テレフタル酸]
以下の実施例及び比較例でPBTの製造原料として使用したテレフタル酸(以下、「TPA」と略記することがある)は、酢酸溶媒中でコバルト及びマンガンを含む触媒の存在下、p-キシレンの酸化を行い、更に水素添加により精製を行う工程を経て製造したものであるが、この過程でコバルトやマンガン、4CBA、p-TA及び酢酸がそれぞれ一定量含まれ得る。これらの含有量は製造条件によって異なるが、本発明においては表1及び表2の数値となるよう、これらのテレフタル酸を単独で又はブレンドして用いた。
ブレンドに用いたテレフタル酸は、水素添加反応未実施のテレフタル酸も含まれる。
【0100】
[実施例1]
次に示す要領でPBTの製造を行った。
【0101】
表1に示すCo、Mn、4CBA、p-TA、及び酢酸含有量のテレフタル酸1.00モルに対して、BDOを1.80モルの割合で混合したスラリーをエステル化率99%のPBTオリゴマーを充填したスクリュー型撹拌機を有するエステル化反応槽に連続的に供給しエステル化反応を行った。エステル化反応槽にはPBTに対しチタンが40ppmとなる量のテトラブチルチタネート触媒を含むBDO溶液を供給した。BDOとテレフタル酸のモル比は3.2になるように追加のBDOをエステル化槽に供給した。反応槽の温度は226℃、圧力は60kPa、平均滞留時間は180分であった。
【0102】
次いでエステル化率96.5%となったPBTオリゴマーを第1重縮合反応槽に連続的に移送した。第1重縮合反応槽では、PBTに対しマグネシウムが10ppmとなる量の酢酸マグネシウム4水塩触媒の存在下、連続的に重縮合反応を行った。反応温度は230℃、圧力は3.9kPa、平均滞留時間は120分であった。次いでこの生成物を第2重縮合反応槽に移送し、連続的に重縮合反応を行った。反応温度は240℃、圧力は130Pa、平均滞留時間は80分であった。
【0103】
得られたポリマーは、抜出用ギヤポンプにより抜出ラインを経由し、フィルターを通してダイスヘッドからストランド状に連続的に抜き出し、回転式カッターでカッティングしてPBTペレット(長径約3mm、短径約2mm、長さ約4mm)を得た。
【0104】
得られたPBTの固有粘度(IV)は0.85dL/gであった。このPBTの色調(b値)を測定したところ-1.1と良好で、また270℃-10分間加熱処理後の酢酸発生量は1ppm未満と少なかった。
また、このPBTの融点は224.5℃、降温結晶化温度は180.0℃であった。
【0105】
なお、エステル化反応槽からの留出液からTHFを回収するため蒸留塔で蒸留操作を行った。蒸留塔の低沸点側(塔頂)には主成分がTHFの組成液が得られ、高沸点側(塔底)には主成分が水の酢酸含有組成液が得られた。この混合液中の酢酸濃度は、蒸留塔の材質の腐食及び廃液の処理コストの観点から低いこと、例えば300ppm以下が好ましいが、10ppm未満であった。
得られたPBTの評価結果を表1にまとめた。
【0106】
[実施例2~4、比較例1~6]
実施例1において、原料テレフタル酸として、表1,2に示すCo、Mn、4CBA、p-TA、及び酢酸含有量のテレフタル酸を用い、表1,2に示す触媒条件とするほかは実施例1と同様にしてPBTを得、同様に評価を行い、結果を表1,2に示した。
【0107】
【表1】
【0108】
【表2】
【0109】
表1に示されるように、本発明の要件を満たす、実施例1~4のPBTは、好ましい色調(b値)を有し、酢酸発生量も少なく、高品質のPBTであった。またTHF回収工程における蒸留塔の高沸点側成分の酢酸濃度も低かった。
これに対して、表2に示されるように、本発明の要件を満たさない比較例1~6のPBTは、色調(b値)が好ましくなく、また加熱時の酢酸発生量が多く、好ましくないPBTであった。更にTHF回収工程における蒸留塔の高沸点側成分の酢酸濃度も高かった。